説明

非対称芳香族カルボン酸ジエステルの製造方法

【課題】非対称芳香族カルボン酸ジエステルを、より簡易で安全な方法で、かつ高収率で得ることができる製造方法を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1);R(C4−k)(COOR (1)
(式中、Rはハロゲン原子又は炭素数1〜20のアルキル基であり、Rは炭素数1〜20の直鎖状または分岐鎖状アルキル基等であり、kはR置換基の数で、0または1〜4の整数である。)で表される芳香族カルボン酸ジエステルと、
下記一般式(2);Mg(OR (2)
(式中、Rは炭素数1〜4の直鎖アルキル基または分岐鎖アルキル基であり、Rとは異なる基である。)で表されるマグネシウム化合物を、20℃における誘電率が2.2以下の非極性有機溶媒中で接触反応させることで非対称芳香族カルボン酸ジエステルを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種の異なるエステル残基を含有する非対称芳香族カルボン酸ジエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2種の異なるエステル残基を有する芳香族カルボン酸ジエステル(以下、「非対称芳香族カルボン酸ジエステル」とも言う。)は、医薬や農薬などの原料として、また工業化学の分野において非常に有用な物質であることから、安価かつ大量に製造できる方法の確立が求められている。
【0003】
非対称芳香族カルボン酸ジエステルの製造方法としては、例えば、過剰量のアルコールおよびポリオールと、モノまたはポリカルボン酸のメチルまたはエチルエステルを、ジメチル錫触媒の存在下で接触させ、エステル交換反応させた後、該反応生成物をpHが13.2よりも大きいアルカリで洗浄する方法が提案されている(特開平7−82217号公報)。
【0004】
また、ジカルボン酸無水物に特定のアルコール成分を反応させてジカルボン酸モノエステルを合成した後、特定のアルコール成分を水酸化スズの存在下で反応させる方法が提案されている(特開2010−265466号公報)。
【0005】
また、非対称芳香族カルボン酸ジエステルは、オレフィン重合用チーグラーナッタ触媒の電子供与体として有用であり、特開2000−344818号公報には、マグネシウム、チタン、ハロゲン及び非対称芳香族カルボン酸ジエステルを必須成分として含有するオレフィン類重合用固体状チタン触媒成分が開示されている。固体状チタン触媒成分をチーグラーナッタ触媒として使用すれば、重合活性が高く、立体規則性に優れ、分子量分布が広い重合体が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−82217号公報
【特許文献2】特開2010−265466号公報
【特許文献3】特開2000−344818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特開平7−82217号や特開2010−265466号公報記載の方法では、非対称芳香族カルボン酸ジエステルの製造時、多段階の反応工程が必要となる。また、反応の際、耐圧反応槽や蒸留塔などの特殊な設備や、反応用触媒としての強アルカリや有機スズ化合物などの特殊な試薬を用いる必要がある。すなわち、従来の非対称芳香族カルボン酸ジエステルの製造方法は、簡易な方法で高効率とは言えず、また、安全性の点で問題を有している。
【0008】
従って、本発明の目的は、非対称芳香族カルボン酸ジエステルを、より簡易で安全な方法で、かつ高収率で得ることができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる実情において、本発明者らは、鋭意検討を行った結果、芳香族カルボン酸ジエステルと、該芳香族カルボン酸ジエステルのエステル残基とは異なるアルコキシ基を有するジアルコキシマグネシウム化合物を、特定の非極性有機溶媒中で接触させることにより、非対称芳香族カルボン酸ジエステルを、より簡易で安全な方法で、かつ高収率で得ることができる方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記一般式(1);
(C4−k)(COOR (1)
(式中、Rはハロゲン原子又は炭素数1〜20のアルキル基であり、Rは炭素数1〜20の直鎖状または分岐鎖状アルキル基、アルケニル基、または炭素数3〜20のシクロアルキル基、シクロアルケニル基またはフェニル基であり、kはR置換基の数で、0または1〜4の整数である。)で表される芳香族カルボン酸ジエステルと、
下記一般式(2);Mg(OR (2)
(式中、Rは炭素数1〜4の直鎖アルキル基または分岐鎖アルキル基であり、Rとは異なる基である。)で表されるマグネシウム化合物を、20℃における誘電率が2.2以下の非極性有機溶媒中で接触反応させる接触反応工程を有することを特徴とする非対称芳香族カルボン酸ジエステルの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、非対称芳香族カルボン酸ジエステルを、より簡易な方法で、かつ高収率で得ることができる。また、本発明の製造方法は、反応用触媒として強アルカリや有機スズ化合物などの特殊な試薬を用いることがないため、安全性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態における非対称芳香族カルボン酸ジエステルの製造方法について以下に説明する。前記一般式(1)で表される芳香族カルボン酸ジエステル(a)において、Rはフッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子又は炭素数1〜20、好ましくは1〜10、更に好ましくは1〜5、特に好ましくは1〜3のアルキル基である。Rは炭素数1〜20、好ましくは1〜10の直鎖状または分岐鎖状アルキル基;炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルケニル基;または炭素数3〜20、好ましくは3〜10のシクロアルキル基;炭素数4〜20、好ましくは4〜10のシクロアルケニル基または炭素数6〜20、好ましくは6〜10のフェニル基である。kの好ましい置換基数は0、1又は2であり、更に好ましくは0又は1である。
【0013】
すなわち、芳香族カルボン酸ジエステル(a)は、フタル酸ジエステル(ベンゼン−1,2−ジカルボン酸)、アルキル置換フタル酸ジエステル、ハロゲン置換フタル酸ジエステル、ハロゲン化アルキル置換フタル酸ジエステル、イソフタル酸ジエステル(ベンゼン−1,3−ジカルボン酸)、アルキル置換イソフタル酸ジエステル、ハロゲン置換イソフタル酸ジエステル、ハロゲン化アルキル置換イソフタル酸ジエステル、テレフタル酸ジエステル(ベンゼン−1,4−ジカルボン酸)、アルキル置換テレフタル酸ジエステル、ハロゲン置換テレフタル酸ジエステル、ハロゲン化アルキル置換テレフタル酸ジエステルである。
【0014】
これらの中でも、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジ(n−プロピル)、フタル酸ジ(イソプロピル)、フタル酸ジ(n−ブチル)、フタル酸ジ(イソブチル)、フタル酸ジ(n−ペンチル)、フタル酸ジ(n−へキシル)、フタル酸ジ(n−ヘプチル)、フタル酸ジ(n−オクチル)、フタル酸ジ(イソペンチル)、フタル酸ジ(イソへキシル)、フタル酸ジ(イソヘプチル)、フタル酸ジ(イソオクチル)、フタル酸ジ(2−エチル−へキシル)、フタル酸ジフェニル、フタル酸ジ(シクロペンチル)、フタル酸ジ(シクロへキシル)、イソフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジエチル、イソフタル酸ジ(n−プロピル)、イソフタル酸ジ(イソプロピル)、イソフタル酸ジ(n−ブチル)、イソフタル酸ジ(イソブチル)、イソフタル酸ジ(n−ペンチル)、イソフタル酸ジ(n−へキシル)、イソフタル酸ジ(n−ヘプチル)、イソフタル酸ジ(n−オクチル)、イソフタル酸ジ(イソペンチル)、イソフタル酸ジ(イソへキシル)、イソフタル酸ジ(イソヘプチル)、イソフタル酸ジ(イソオクチル)、イソフタル酸ジ(2−エチル−へキシル)、イソフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジ(シクロペンチル)、イソフタル酸ジ(シクロへキシル)、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジ(n−プロピル)、テレフタル酸ジ(イソプロピル)、テレフタル酸ジ(n−ブチル)、テレフタル酸ジ(イソブチル)、テレフタル酸ジ(n−ペンチル)、テレフタル酸ジ(n−へキシル)、テレフタル酸ジ(n−ヘプチル)、テレフタル酸ジ(n−オクチル)、テレフタル酸ジ(イソペンチル)、テレフタル酸ジ(イソへキシル)、テレフタル酸ジ(イソヘプチル)、テレフタル酸ジ(イソオクチル)、テレフタル酸ジ(2−エチル−へキシル)、テレフタル酸ジフェニル、テレフタル酸ジ(シクロペンチル)、テレフタル酸ジ(シクロへキシル)が、入手が容易であり、かつ工業的汎用性が高いなどの面から好ましい。
【0015】
前記一般式(2)で表されるマグネシウム化合物(b)は、具体的にはジアルコキシマグネシウム、アリールオキシマグネシウム等が挙げられ、一般式(2)中、Rは、Rと異なる基であり、且つメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基であるジアルコキシマグネシウムが好ましい。また、ジアルコキシマグネシウムの中でも、ジメトキシマグネシウムおよびジエトキシマグネシウムが、反応性が良好であることから特に好ましい。また、マグネシウム化合物(b)は、顆粒状または粉末状であり、その形状は不定形あるいは球状のものが好ましい。なお、マグネシウム化合物(b)は、2種以上併用することもできる。
【0016】
本発明の製造方法において、芳香族カルボン酸ジエステル(a)中のRと、マグネシウム化合物(b)のRは、同一でない限り特に限定されないが、芳香族カルボン酸ジエステル(a)中のRの炭素数がマグネシウム化合物(b)のRの炭素数より大きいことが、好ましくはRの炭素数がRの炭素数より1〜6、好ましくは1〜4大きいことが、非対称芳香族カルボン酸ジエステルの生成速度をコントロールしやすくなる点から好ましい。
【0017】
とRの具体的な組み合わせとしては、例えば、Rがメチル基である場合、Rとしては、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ビニル基、アリル基又は1−ブテニル基等が好ましく、Rがエチル基である場合、Rとしては、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が好ましい。また、Rがブチル基である場合、Rとしては、n−ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等が好ましい。
【0018】
上記組み合わせの中でも、Rがエチル基であり、Rがn−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基のいずれかであることが、非対称芳香族カルボン酸ジエステル(c)の生成反応を穏やかに進行させ、目的物である非対称エステルを効率的に得ることができ、且つ生成量の制御が容易となることから、特に好ましい。
【0019】
芳香族カルボン酸ジエステル(a)とマグネシウム化合物(b)の使用比率としては、芳香族カルボン酸ジエステル(a)1モルに対し、マグネシウム化合物(b)を0.5モル以上、好ましくは1〜10モル、更に好ましくは2〜10モル、特に好ましくは3〜10モルで接触させることが、非対称芳香族カルボン酸ジエステルを高収率で得られる点で好ましい。
【0020】
本発明の非対称芳香族カルボン酸ジエステルの製造方法において、上述した芳香族カルボン酸ジエステル(a)とマグネシウム化合物(b)との反応は、20℃での誘電率が2.2以下、好ましくは、1以上、2.2以下である非極性有機溶媒の存在下に行う。これにより、両者の接触効率がよくなり、非対称芳香族カルボン酸ジエステル(c)の収率が向上する。
【0021】
非極性有機溶媒は、芳香族カルボン酸ジエステル(a)を溶解し、かつマグネシウム化合物(b)は溶解しない非極性有機溶媒が好ましい。このような非極性有機溶媒の具体例としては、ペンタン(1.8)、ヘキサン(1.9)、ヘプタン(1.9)、ノナン(2.0)、デカン(2.0)などの脂肪族炭化水素化合物;シクロペンタン(2.0)、シクロヘキサン(2.0)、メチルシクロヘキサン(2.0)、エチルシクロヘキサン(2.1)などの脂環式炭化水素化合物等が挙げられる。なお、上記括弧内は、20℃での誘電率である。非極性有機溶媒の誘電率は、公知の方法で求めることができる。また、化学便覧等に記載されている値を使用することができる。
【0022】
これら非極性有機溶媒の中、20℃における誘電率が2.2以下であることに加え、20℃で液体かつ沸点が50〜150℃である脂肪族炭化水素化合物または脂環式炭化水素化合物が、具体的には、ヘキサン(1.9)、ヘプタン(1.9)、メチルシクロヘキサン(2.1)が、安全性や工業的汎用性が高いことから好ましい。非極性有機溶媒として、ヘキサン(1.9)、ヘプタン(1.9)、メチルシクロヘキサン(2.1)などを用いることで、非対称芳香族カルボン酸ジエステルの生成を促進できる。なお、これらの非極性有機溶媒は、1種単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0023】
本発明における非対称芳香族カルボン酸ジエステルの製造方法において、使用する非極性有機溶媒の量は、特に制限されないが、通常はマグネシウム化合物(b)1gに対し、3ml〜100mlの範囲で使用することが好ましい。芳香族カルボン酸ジエステル(a)及びマグネシウム化合物(b)を含んだ非極性有機溶媒を、粘度の低い懸濁液とすることで、原料の攪拌が容易になり、非対称芳香族カルボン酸ジエステルの生成を促進できる。
【0024】
また、本願の製造方法の接触反応工程において、下記一般式(5);
OH (5)
(Rは、炭素数1〜4の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を示す。)で表わされるアルコールを非極性有機溶媒中に共存させることが、非対称芳香族カルボン酸ジエステルの収率を向上させる点で好ましい。
【0025】
前記一般式(5)で表されるアルコールにおいて、Rは、RまたはRと同一でも異なってもよいが、RとRは同一または異なり、かつRとRは異なることが好ましく、RとRは同一であり、かつRとRは異なることが、非対称芳香族ジエステルの生成を促進できる点で特に好ましい。上記アルコールの具体的としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、イソブチルアルコールが挙げられる。
【0026】
本発明の製造方法において、アルコールは、原料となる芳香族カルボン酸ジエステル(a)1モルあたり5モル以下、好ましくは0.2〜5モル、特に好ましくは0.5〜3モルの範囲で共存させる。
【0027】
本発明の非対称芳香族カルボン酸ジエステルの製造方法において、上述した芳香族カルボン酸ジエステル(a)とマグネシウム化合物(b)との接触反応の温度としては、特に限定されないが、通常は非極性有機溶媒の沸点以下で行なうことが、溶媒やアルコールの過剰な蒸発を抑えることができる点で好ましい。また、接触反応を、65℃以下の温度で行うことが、非対称芳香族カルボン酸ジエステルを収率よく、かつ高効率に得ることができる点で好ましい。
【0028】
また、本発明において、接触反応温度は、より好ましくは−20〜65℃の範囲であり、特に好ましくは反応温度−5〜60℃の範囲である。上記のような温度範囲において接触反応を行うと、非対称芳香族カルボン酸ジエステルの生成率が高くなり、非対称芳香族カルボン酸ジエステルを効率よく得ることができる。
【0029】
また、本発明の非対称芳香族カルボン酸ジエステルの製造方法において、非極性有機溶媒中における成分(a)と成分(b)の接触反応は、低温において12時間以上の長時間行うことが、エステル交換反応の進行を制御して非対称芳香族カルボン酸ジエステルの生成率をより高くすることができる点で望ましい。このような接触反応は、具体的には、65℃以下において12時間以上、好ましくは12時間〜36時間の範囲で反応させることが、非対称芳香族カルボン酸ジエステルの生成率および経済的観点から好ましい。
【0030】
また、上記の接触反応は、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下で行うことが、芳香族カルボン酸ジエステル(a)やマグネシウム化合物(b)の加水分解や酸化を抑制し、非対称芳香族カルボン酸ジエステルの収率を向上できる点で好ましい。
【0031】
本発明における非対称芳香族カルボン酸ジエステルの製造方法において、非極性有機溶媒中、芳香族カルボン酸ジエステル(a)とマグネシウム化合物(b)の混合接触反応は、金属ハロゲン化合物の不存在下で行う。上記混合、接触反応の際に金属ハロゲン化合物が存在すると、芳香族カルボン酸ジエステルと金属ハロゲン化合物の錯体が形成され、非対称芳香族カルボン酸ジエステルの収率を高めることができない。
【0032】
前記金属ハロゲン化合物としては、周期表第1族〜13族に属する金属元素、ホウ素又はケイ素と、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲンとからなる金属ハロゲン化合物が挙げられる。具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属とハロゲンとからなるアルカリ金属ハロゲン化合物、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムなどのアルカリ土類金属とハロゲンとからなるアルカリ土類金属ハロゲン化合物、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、銅、亜鉛、カドミウム、水銀などの遷移金属とハロゲンとからなる遷移金属ハロゲン化合物、アルミニウムとハロゲンとからなるハロゲン化アルミニウム化合物、ホウ素とハロゲンとからなるハロゲン化ホウ素化合物、ケイ素とハロゲンとからなるハロゲン化ケイ素化合物などが挙げられる。
【0033】
本発明において、接触反応の生成物は、未反応の一般式(1)の芳香族カルボン酸ジエステル、一般式(1)の芳香族カルボン酸ジエステルのアルコキシ基が前記一般式(2)で表わされるマグネシム化合物のアルコキシ基で全部置換された下記一般式(3);
(C4−k)(COOR (3)
(式中、R、R及びkは前記と同じである。)で表わされる芳香族カルボン酸ジエステル及び下記一般式(4);
(C4−k)(COOR)(COOR) (4)
(式中、R、R、R及びkは前記と同じである。)で表わされる非対称芳香族カルボン酸ジエステルからなる混合物並びに未反応の一般式(2)のマグネシウム化合物及びMg(OR(OR2−t(tは2または1である。)からなる混合物が混ざったものである。
【0034】
すなわち、本発明の製造方法において、接触反応工程後の系内には、非極性有機溶媒、原料の芳香族カルボン酸ジエステル(a)、マグネシウム化合物(b)、アルコキシ基が1置換された前記一般式(4)の非対称芳香族カルボン酸ジエステル(c)、アルコキシ基が全部置換された前記一般式(3)の芳香族カルボン酸ジエステル、アルコキシ基が一部又は全部置換されたマグネシウム化合物の混合物が形成される。
【0035】
本発明において、接触反応工程で得られた混合物は、固相と液相に分離する固液分離工程を行う。すなわち、接触反応工程で得られた混合物は、マグネシウム化合物(b)及びアルコキシ基が一部又は全部置換されたマグネシウム化合物からなる固相と、原料の芳香族カルボン酸ジエステル(a)、前記一般式(3)で表わされる芳香族カルボン酸ジエステル、前記一般式(4)で表わされる非対称芳香族カルボン酸ジエステル、及び非極性有機溶媒からなる液相に分離する。固相と液相に分離する方法としては、ろ過、デカンテーション及び遠心分離などの公知の方法が挙げられる。本発明の固液分離工程では、液相を採取する。液相はそのままでも、あるいは非極性有機溶媒除去後の原料の芳香族カルボン酸ジエステル(a)と前記一般式(3)で表わされる芳香族カルボン酸ジエステルおよび前記一般式(4)で表わされる非対称芳香族カルボン酸ジエステルの混合物であっても、オレフィン重合用触媒調製の際、一原料として使用することができる。
【0036】
本発明において、固液分離工程で得られた液相を、精製処理する精製工程を行う。精製処理方法としては、カラム精製や蒸留などの公知の分離操作を使用することができる。精製処理により、目的とする非対称芳香族カルボン酸ジエステルを高収率で得ることができる。
【0037】
本発明の製造方法により得られる非対称芳香族カルボン酸ジエステルは、前記一般式(4)で表わされる化合物である。これらの化合物としては、例えば、フタル酸メチルエチル、フタル酸メチルプロピル、フタル酸メチルイソプロピル、フタル酸メチル(n−ブチル)、フタル酸メチルイソブチル、フタル酸エチルプロピル、フタル酸エチルイソプロピル、フタル酸エチル(n−ブチル)、フタル酸エチルイソブチル、フタル酸エチル(n−ヘキシル)等の非対称フタル酸ジエステル;3−メチルフタル酸エチル(n−ブチル)、3,6−ジメチルフタル酸エチルイソブチル等の非対称アルキル置換フタル酸ジエステル;4−ブロモフタル酸エチルイソブチル、4−ブロモフタル酸エチル(n−ブチル)等の非対称ハロゲン置換フタル酸ジエステル;3−クロロメチルフタル酸エチルイソブチル、3−クロロメチルフタル酸エチル(n−ブチル)等の非対称ハロゲン化アルキル置換フタル酸ジエステル等が挙げられる。
【0038】
本発明の製造方法により得られる非対称芳香族カルボン酸ジエステルは、医薬品や農薬などの原料、ポリエステルの原料、可塑剤成分、オレフィン重合用触媒の一成分として、好ましく用いることができる。
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0040】
(実施例)
<評価方法>
[非対称芳香族カルボン酸ジエステルの収率]
非対称芳香族カルボン酸ジエステルの収率(%)は、得られた非対称芳香族カルボン酸ジエステルのモル数を、原料芳香族カルボン酸ジエステルのモル数で割ることにより算出した。なお、接触反応工程で得られた混合物中に含まれる非対称芳香族カルボン酸ジエステルの含有量は、ガスクロマトグラフィー(島津(株)社製、GC−14B)を用いて下記の条件にて測定することで求めた。また、各成分のモル数については、ガスクロマトグラフィーの測定結果より、予め既知濃度において測定した検量線を用いて求めた。
【0041】
(測定条件)
カラム:パックドカラム(φ2.6×2.1m, Silicone SE-30 10%,Chromosorb WAW DMCS 80/100、ジーエルサイエンス(株)社製)
検出器:FID(Flame Ionization Detector,水素炎イオン化型検出器)
キャリアガス:ヘリウム、流量40ml/分
測定温度:気化室280℃、カラム225℃、検出器280℃
【0042】
[非対称芳香族カルボン酸ジエステルのエステル残基確認方法]
接触反応工程で得られた芳香族カルボン酸ジエステル混合物から、主生成物である非対称芳香族カルボン酸ジエステルを、減圧蒸留により精製し、得られた生成物が非対称芳香族カルボン酸ジエステルであることを、核磁気共鳴装置(H−およびC13−NMR)を用いて確認した。
【実施例1】
【0043】
(フタル酸(エチル)(n−ブチル)の合成)
攪拌装置を備え、窒素ガスで充分に置換された内容積500mlのフラスコに、ジエトキシマグネシウム40g(350ミリモル)を分取し、20℃での誘電率が1.9のn−ヘプタン280mlを加えて懸濁状態とし、次いで該懸濁液に、フタル酸ジ(n−ブチル)(市販品)11.7g(42.2ミリモル)を添加した後、23℃で24時間、攪拌下に反応させた(接触反応工程)。
【0044】
接触反応工程終了後、懸濁状態の該反応物を窒素雰囲気下でろ過し、固相と液相に分離した(固液分離工程)。次いで、液相の半量から減圧蒸留により溶媒を留去し、液状のフタル酸ジエステル混合物(P−1)を得た。得られた該フタル酸ジエステル混合物(P−1)の一部を減圧蒸留により分留し、目的の生成物である非対称フタル酸ジエステルを得た(精製工程)。
【0045】
得られた分留物が、フタル酸(エチル)(n−ブチル)であることを、核磁気共鳴装置(H−およびC13−NMR)装置を用いて確認した。また、フタル酸ジエステル混合物(P−1)に含まれるフタル酸(エチル)(n−ブチル)の含有量をガスクロマトグラフィーにより求めた。その結果、フタル酸(エチル)(n−ブチル)の全生成量は、4.6g(18.4ミリモル)であり、原料に使用したフタル酸ジ(n−ブチル)に対する収率は、43.6モル%であった。その結果を表1に示す。なお、フタル酸ジエステル混合物(P−1)に含まれる他の化合物は、フタル酸ジ(n−ブチル)及びフタル酸ジエチルであった。
【0046】
一方、分離した固相を常温のn−ヘプタン100mlで洗浄し、減圧乾燥することで粉末状のジアルコキシマグネシウム混合物(M−1)を得た。この(M−1)を希塩酸に溶解し、ガスクロマトグラフィーでアルコキシ基の種類と量を確認したところ、ジアルコキシマグネシウム混合物(M−1)中のエトキシ基1モルに対するブトキシ基のモル比は、0.046であった。
【実施例2】
【0047】
(フタル酸(エチル)(n−ブチル)の合成)
フタル酸ジ(n−ブチル)の添加量11.7g(42.2ミリモル)に代えて、添加量23.4g(84.4ミリモル)と2倍にした以外は、実施例1と同様の方法で、非対称芳香族カルボン酸ジエステルの合成および評価を行なった。その結果を表1に示す。
【実施例3】
【0048】
(フタル酸(エチル)(n−プロピル)の合成)
フタル酸ジ(n−ブチル)に代えて、フタル酸ジ(n−プロピル)(市販品)を同モル用いた以外は、実施例1と同様の方法で、非対称芳香族カルボン酸ジエステルの合成および評価を行なった。すなわち、実施例3は、芳香族カルボン酸ジエステルの種類を変えたものである。得られた分留物は、フタル酸(エチル)(n−プロピル)であった。その結果を表1に示す。なお、接触反応工程後のフタル酸ジエステル混合物に含まれる他の化合物は、フタル酸ジ(n−プロピル)及びフタル酸ジエチルであった。
【実施例4】
【0049】
(フタル酸(エチル)(イソブチル)の合成)
フタル酸ジ(n−ブチル)に代えて、フタル酸ジイソブチル(市販品)を同モル用いた以外は、実施例1と同様の方法で、非対称芳香族カルボン酸ジエステルの合成および評価を行なった。すなわち、実施例4は、芳香族カルボン酸ジエステルの種類を変えたものである。得られた分留物は、フタル酸(エチル)(イソブチル)であった。その結果を表1に示す。その結果を表1に示す。なお、接触反応工程後のフタル酸ジエステル混合物に含まれる他の化合物は、フタル酸ジ(イソブチル)及びフタル酸ジエチルであった。
【実施例5】
【0050】
(4−ブロモフタル酸(エチル)(n−ブチル)の合成)
フタル酸ジ(n−ブチル)に代えて、4−ブロモフタル酸ジ(n−ブチル)(市販品)を同モル用いた以外は、実施例1と同様の方法で、非対称芳香族カルボン酸ジエステルの合成および評価を行なった。すなわち、実施例5は、芳香族カルボン酸ジエステルの種類を変えたものである。得られた分留物は、4−ブロモフタル酸(エチル)(n−ブチル)であった。その結果を表1に示す。なお、接触反応工程後のフタル酸ジエステル混合物に含まれる他の化合物は、4−ブロモフタル酸ジ(n−ブチル)及び4−ブロモフタル酸ジエチルであった。
【実施例6】
【0051】
(フタル酸(エチル)(メチル)の合成)
フタル酸ジ−n−ブチルに代えて、フタル酸ジメチル(市販品)を同モル用いた以外は実施例1と同様の方法で、非対称芳香族カルボン酸ジエステルの合成および評価を行なった。すなわち、実施例6は、芳香族カルボン酸ジエステルの種類を変えたものである。得られた分留物は、フタル酸(エチル)(メチル)であった。その結果を表1に示す。なお、接触反応工程後のフタル酸ジエステル混合物に含まれる他の化合物は、フタル酸ジメチル及びフタル酸ジエチルであった。
【実施例7】
【0052】
(フタル酸(エチル)(n-ブチル)の合成)
接触反応時に使用する有機溶媒n−ヘプタン280mlに代えて、20℃での誘電率が2.0のシクロヘキサン280mlを用いた以外は、実施例1と同様の方法で、非対称芳香族カルボン酸ジエステルの合成および評価を行なった。得られた分留物は、フタル酸(エチル)(n−ブチル)であった。その結果を表1に示す。
【実施例8】
【0053】
(フタル酸(エチル)(n-ブチル)の合成)
接触反応時に無水エタノール3.8g(82ミリモル)を更に添加した以外は、実施例1と同様の方法で、非対称芳香族カルボン酸ジエステルの合成および評価を行なった。得られた分留物は、フタル酸(エチル)(n−ブチル)であった。その結果を表1に示す。
【実施例9】
【0054】
(フタル酸(エチル)(n-ブチル)の合成)
反応温度23℃に代えて、反応温度50℃とした以外は、実施例1と同様の方法で、非対称芳香族カルボン酸ジエステルの合成および評価を行なった。得られた分留物は、フタル酸(エチル)(n−ブチル)であった。その結果を表1に示す。
【実施例10】
【0055】
(フタル酸(エチル)(n-ブチル)の合成)
反応温度23℃に代えて、反応温度0℃とした以外は、実施例1と同様の方法で、非対称芳香族カルボン酸ジエステルの合成および評価を行なった。得られた分留物は、フタル酸(エチル)(n−ブチル)であった。その結果を表1に示す。
【実施例11】
【0056】
(フタル酸(メチル)(n−プロピル)の合成)
フタル酸ジ−n−ブチルに代えて、フタル酸ジ−n−プロピル(市販品)を同モル用いたこと、更にジエトキシマグネシウム40g(350ミリモル)に代えて、ジメトキシマグネシウム30g(350ミリモル)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、非対称芳香族カルボン酸ジエステルの合成および評価を行なった。得られた分留物は、フタル酸(メチル)(n−プロピル)であった。その結果を表1に示す。なお、接触反応工程後のフタル酸ジエステル混合物に含まれる他の化合物は、フタル酸ジ−n−プロピル及びフタル酸ジメチルであった。
(比較例1)
【0057】
反応時に使用する有機溶媒n−ヘプタン280mlに代えて、20℃での誘電率が24.5のエタノール280mlを用いた以外は、実施例1と同様の方法で、非対称芳香族カルボン酸ジエステルの合成および評価を行なった。その結果、ジエトキシマグネシウムの一部が溶解し、ゲル状となったためろ別できず、ガスクロマトグラフィーによる分析は行うことができなかった。
(比較例2)
【0058】
反応時に使用する有機溶媒n−ヘプタン280mlに代えて、20℃での誘電率が2.4のトルエン280mlを用いた以外は、実施例1と同様の方法で、非対称芳香族カルボン酸ジエステルの合成および評価を行なった。得られた分留物は、フタル酸(エチル)(n−ブチル)であった。その結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、非対称芳香族カルボン酸ジエステルを、より簡易で安全な方法で、かつ高収率で得ることができる。また、非対称芳香族カルボン酸ジエステルは、本発明の製造方法の固液分離工程で得られた液相状態として、あるいは該液相から非極性有機溶媒を除去した混合物の状態として、あるいは該混合物から精製して得られた非対称芳香族カルボン酸ジエステルとして、医薬品、農薬などの原料、ポリエステルの原料、可塑剤成分、オレフィン重合用触媒の一成分として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1);R(C4−k)(COOR (1)
(式中、Rはハロゲン原子又は炭素数1〜20のアルキル基であり、Rは炭素数1〜20の直鎖状または分岐鎖状アルキル基、アルケニル基、または炭素数3〜20のシクロアルキル基、シクロアルケニル基またはフェニル基であり、kはR置換基の数で、0または1〜4の整数である。)で表される芳香族カルボン酸ジエステルと、
下記一般式(2);Mg(OR (2)
(式中、Rは炭素数1〜4の直鎖アルキル基または分岐鎖アルキル基であり、Rとは異なる基である。)で表されるマグネシウム化合物を、20℃における誘電率が2.2以下の非極性有機溶媒中で接触反応させる接触反応工程を有することを特徴とする非対称芳香族カルボン酸ジエステルの製造方法。
【請求項2】
該接触反応工程で得られた混合物を、固相と液相に分離する固液分離工程を行うことを特徴とする請求項1記載の非対称芳香族カルボン酸ジエステルの製造方法。
【請求項3】
該液相が、該一般式(1)で表わされる芳香族カルボン酸ジエステル、
下記一般式(3);R(C4−k)(COOR (3)
(式中、R、R及びkは前記と同じである。)で表わされる芳香族カルボン酸ジエステル、
下記一般式(4);R(C4−k)(COOR)(COOR) (4)
(式中、R、R、R及びkは前記と同じである。)で表わされる芳香族カルボン酸ジエステル、及び該非極性有機溶媒の混合物であることを特徴とする請求項2記載の非対称芳香族カルボン酸ジエステルの製造方法。
【請求項4】
該固液分離工程で得られた液相を、精製処理する精製工程を行うことを特徴とする請求項2又は3記載の非対称芳香族カルボン酸ジエステルの製造方法。
【請求項5】
該非対称芳香族カルボン酸ジエステルが、下記一般式(4);
(C4−k)(COOR)(COOR) (4)
(式中、R、R、R及びkは前記と同じである。)で表わされる化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の非対称芳香族カルボン酸ジエステルの製造方法。
【請求項6】
前記接触反応温度は−5〜60℃の範囲において行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の非対称芳香族カルボン酸ジエステルの製造方法。

【公開番号】特開2012−201604(P2012−201604A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65412(P2011−65412)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(390007227)東邦チタニウム株式会社 (191)
【Fターム(参考)】