説明

非導電性粉末試料の走査電子顕微鏡観察用試料前処理方法

【目的】 非導電性粉末試料を走査電子顕微鏡で観察する際の試料前処理方法を提供する。
【構成】 金属製の試料ステージの表面に所定の粗さを付与し、この試料ステージ表面に粉末試料を懸濁させた溶媒を塗布あるいは滴下した後乾燥することにより、均一かつ薄く付着させることが可能となり、これによりチャージアップを防止し高倍率でかつ精度のよい走査電子顕微鏡観察を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、非導電性粉末試料の走査電子顕微鏡観察用試料前処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、粉末材料の研究開発や品質管理には走査電子顕微鏡(以下、SEMと略称する)による形状や寸法の観察が必須の手段となっている。ところで、金属などの良導体(抵抗率:〜10-6Ω・cm) や半導体( 抵抗率:10-2〜109 Ω・cm)の試料の場合は、特別な前処理なしでSEM観察を行うことができるが、電気抵抗が上記した値以上の非導電性材料の場合は、電子線が試料の一部に滞留して電子線の軌道を変化させたり、突然の放電により像が乱れるチャージアップと称する現象が生じることが多い。このようなチャージアップを防止するためには、ブロック状試料の場合は表面に金属あるいはカーボンを蒸着し導電性を付与する試料前処理法が一般に行われている。
【0003】しかし、近年の材料研究開発の高度化にともない、従来以上に高倍率でSEM観察を行いたいという要求が強まっているが、上記した試料前処理法では以下のような問題点がある。すなわち、■高倍率SEM観察では表面の金属あるいはカーボン蒸着膜の粗さが目立ち、試料の形態の正確な評価が不可能である。■さらに粉末試料では導電性が確保できるように表面に均一にカーボンあるいは金属を蒸着することが困難である。
【0004】なお、SEMの加速電圧を通常の20〜30kVよりたとえば5kV以下に低くし、入射電子線量と2次電子発生量をバランスさせるようにして、電子の滞留を防止する手段もあるが、SEMの機種によっては低加速電圧での観察が不可能な場合もある。また、高分解能を有するSEMにおいて加速電圧を低下させるとSEMの分解能が低下し、たとえば1万倍以上の高倍率観察が不可能であるうえ、試料により適当な加速電圧が異なるため、トライアンドエラーで観察条件を決める必要があり、観察に多大の時間を要するという問題がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記のような従来法における課題を解決すべくしてなされたものであって、とくに非導電性の粉末材料の高倍率での精度のよいSEM観察を行うための試料前処理法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、非導電性粉末試料を走査電子顕微鏡で観察するにあたり、金属製の試料ステージの表面に所定の粗さを付与し、この試料ステージ表面に粉末試料を懸濁させた溶媒を塗布あるいは滴下した後乾燥することを特徴とする非導電性粉末試料の走査電子顕微鏡観察用試料前処理方法である。
【0007】
【作 用】本発明によれば、非導電性粉末試料をSEM観察する際に、以下の手順に従って試料前処理を行うことにより、粉末試料を試料ステージ上に均一かつ薄く付着させ得ることができるから、チャージアップの発生しない鮮明なSEM観察が可能である。すなわち、■ 金属製の試料ステージの表面にエメリー紙あるいはその他の適切な手段で粗さを付与すること。
■ 粉末を適切な溶媒に懸濁させ、試料ステージに塗布または滴下すること。
■ 乾燥させて粉末のみを試料ステージ表面に付着させること。
【0008】ここで、上記した手順■における試料ステージへの粗さの付与に関しては、粉末試料の寸法により粗さを変える必要がある。試料の直径の2〜10倍の幅および深さの溝が望ましい範囲である。たとえば平均直径2μm 程度の粉末では#180の番手のエメリー紙で研摩粗さを付与すれば上記の溝が形成される。なお、好ましくは互いに90°に交差するように2方向に交互に研磨するのがよい。
【0009】つぎに、手順■に用いる溶媒については、粉末試料を溶解せず表面張力が小さくて、試料ステージに滴下後薄く均一に拡がり蒸気圧が低くはなく乾燥が容易なもの、たとえばエタノールあるいはメタノール,アセトンなどが好ましい。また懸濁密度については、体積で溶質/溶媒比=0.0001〜0.01、好ましくは0.0002〜0.002 が適する。
【0010】さらに、手順■の乾燥法については、自然乾燥, 強制乾燥のいずれを選択してもよい。溶媒にアルコールを使用した場合あるいは恒温槽で50℃に保持した場合は1時間程度で十分に乾燥する。以上の条件で試料前処理を行えば、粉末試料が試料ステージ上に1個ないし数個の粒の重なりの状態で付着し、通常のSEM観察操作において試料がステージから分離することはない。
【0011】
【実施例】以下に、本発明の実施例について、BN粉末材料のSEM観察の場合について図1(a) ,(b) を参照して説明する。図1(a) は、従来の試料前処理法による粒子構造のSEM像を顕微鏡写真に示したものである。すなわち、試料ステージ表面に両面テープを貼り、その上にBN粉末をふりかけて固定し、さらに端部のBN粒子と試料ステージの間を導電性塗料を塗った後のSEM像であるが、チャージアップに起因するノイズにより像の不連続が生じていることがわかる。
【0012】図1(b) は、本発明の試料前処理法による粒子構造のSEM像である。すなわち、試料ステージ表面に#180 の番手のエメリー紙で研摩粗さを付与して、エタノールに懸濁したBN粉末を試料ステージ表面に滴下,乾燥した場合のものであるが、ノイズはまったく認められず鮮明な像が得られていることが明らかで、高倍率でのSEM観察が極めて効果的であることがわかる。
【0013】
【発明の効果】以上説明したように本発明の試料前処理法によれば、非導電性の粉末試料をSEM観察する際に、金属製の試料ステージの表面に所定の粗さを付与し、この試料ステージ表面に粉末試料を懸濁させた溶媒を塗布あるいは滴下した後乾燥することにより、チャージアップのない鮮明な像が得られ、精密な形態観察が可能となり、これにより粉末材料の研究開発や品質管理に有効に活用することが可能である。
【0014】なお、上記した実施例においては、SEMにおけるチャージアップ防止の効果のみを例示したが、本発明はこれに限るものではなく、たとえば電子線,イオンなどの荷電粒子を利用したオージェ電子分析装置や2次イオン質量分析装置あるいはFIB(Focussed Ion Beam)装置などにおける試料の前処理に適用し得ることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】図面に代わる粒子構造を示す顕微鏡写真であり、(a) は従来法によるSEM像、(b) は本発明法によるSEM像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 非導電性粉末試料を走査電子顕微鏡で観察するにあたり、金属製の試料ステージの表面に所定の粗さを付与し、この試料ステージ表面に粉末試料を懸濁させた溶媒を塗布あるいは滴下した後乾燥することを特徴とする非導電性粉末試料の走査電子顕微鏡観察用試料前処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開平5−60666
【公開日】平成5年(1993)3月12日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−252827
【出願日】平成3年(1991)9月5日
【出願人】(000001258)川崎製鉄株式会社 (8,589)