説明

非小細胞肺癌およびアジュバント化学療法に関する予後診断的および予測的な遺伝子シグネチャー

本出願は、複数遺伝子シグネチャーを手段として、肺癌患者を生存不良群または生存良好群に予後診断および分類する方法、およびアジュバント化学療法の利得を判定するための方法を提供する。本出願はまた、本出願の方法に用いるためのキットおよびコンピュータ製品も含む。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法119条(e)項の下で、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、2008年5月14日に提出された米国特許仮出願第61/071728号の恩典を主張する。
【0002】
分野
本出願は、非小細胞肺癌の予後診断および分類のため、ならびにアジュバント化学療法の利得(benefit)を判定するための組成物および方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
北米では、肺癌は男性における癌の第1位であり、男性および女性の両者において癌死の原因の第1位である1。非小細胞肺癌(NSCLC)は肺癌全体の80%に相当し、5年全生存率は16%に過ぎない1。腫瘍のステージ(stage)は、NSCLC患者に対する治療選択のために最も重要な決定要因である。最近の臨床試験により、シスプラチンを基盤とするアジュバント化学療法が早期NSCLC患者(ステージIB〜IIIA)に採用されるに至っている。最近の治験でアジュバント化学療法によって付与された5年生存率向上(5-year survival advantage)は、1,867例のステージI〜III患者が参加したInternational Adjuvant Lung Trial(IALT)では4%であり2、483例のステージIB〜II患者が参加したNational Cancer Institute of Canada Clinical Trials Group(NCIC CTG)BR.10 Trialでは15%であり3、840例のステージIB〜IIIA患者が参加したAdjuvant Navelbine International Trialist Association(ANITA)試験では9%である4。後者の2つの試験における事前に計画された層別解析からは、ステージIB患者に対する有意な生存率向上は示されなかった3,4。このことは、カルボプラチンおよびパクリタキセルを投与するか、または観察のみを行った344例のステージIB患者に対する化学療法の利得について検討したCancer and Leukemia Group(CALGB)Trial 9633でも実証された5。当初、2004年には好感触の試験として発表されたものの、最近の生存分析では無病生存(HR=0.80、p=0.065)および全生存(HR=0.83、p=0.12)のいずれに関しても有意な生存率向上は示されなかった5。シスプラチンを基盤とするアジュバント化学療法の有効性に関する総合的な結論を下すための1つの取り組みとして、胸部放射線照射の同時投与を行わなかった、シスプラチンを基盤とする出版掲載された5件の最も大規模な治験による情報を総合した、Lung Adjuvant Cisplatin Evaluation(LACE)メタアナリシス6が実施された[Adjuvant Lung Project Italy(ALPI)7、Big Lung Trial(BLT)8、IALT2、BR.103およびANITA9]。この研究により、5年時点の絶対的生存率向上は5.3%であることが見いだされた(HR=0.89、95%CI 0.82-0.96、p=0.004)。しかし、ステージ別にみた層別分析では、ステージIB患者はシスプラチン治療による有意な利得を受けなかった(HR=0.92、95%CI 0.78-1.10)。その上、ステージIA患者では化学療法の場合に損害が示唆された(HR=1.41、95%CI 0.96-2.09)6。このため、ステージIのNSCLCを有する患者に対する現在の標準的治療は、依然として外科的切除のみである。しかし、これらのステージI患者の30〜40パーセントは最初の手術後に再発すると予想されており10,11、このことはこれらの患者のあるサブグループはアジュバント化学療法による利得を受ける可能性があることを指し示している。
【0004】
早期NSCLC患者に対する一貫性のある予後診断的分子マーカーがないことから、ゲノムワイドのマイクロアレイプラットフォームを用いて新規な遺伝子発現シグネチャー(gene expression signature)を同定しようとする取り組みが促された。そのような複数遺伝子シグネチャー(multi-gene signature)は予後不良の予測に関して個々の遺伝子よりも強力である可能性があり、予後不良患者はアジュバント療法による利得を受ける可能性を秘めていると考えられる。以前のマイクロアレイ研究により、遺伝子セット中でわずかな重複しか示さない予後診断的シグネチャーが同定されている12-20。これらの初期の研究のうち、独立データセットにおける二次的なシグネチャー妥当性検査を伴っていたのは1件のみであったものの12、最近報告されたシグネチャーはすべて妥当性に関して検定されていた13-16,20。しかしながら、シグネチャー間の直接的な重複は依然としてないままである。考えられる交絡因子の1つは、シグネチャーが単一の施設で手術を受けた患者から導き出されたことであり、それがバイアスをもたらした可能性がある。
【発明の概要】
【0005】
背景の項で考察したように、NSCLCに罹患したある種の患者はアジュバント化学療法による利得を受ける。アジュバント療法が生存性の向上を導くか、または患者予後を改善すると考えられる患者部分集団を系統的に同定しようとする取り組みは、概ね失敗に終わっている。予後診断的分子マーカーをまとめようとする取り組みにより、さまざまな非重複性の遺伝子セットが得られたが、NSCLCの型(例えば、腺癌または扁平上皮癌)にもステージにも関係なく予測的である最小限の遺伝子セットを有する遺伝子シグネチャーを確立して、アジュバント療法の利得に関する信頼性のある分類指標(classifier)として役立てるには至らなかった。
【0006】
以下でさらに詳細に考察するように、本出願者らは、過去の(historical)患者データから、その発現レベルが単独で、または1〜3種の補足的遺伝子のものと組み合わせた上で、生存転帰に関して予後診断的であってアジュバント療法の利得に関して診断的である、15種という最小限の遺伝子のセットを同定した。この15種の遺伝子は表4に提示されている。任意の補足的遺伝子は、表3に提示されたものから選択することができる。本出願者らによって同定された遺伝子セットの予後診断値および診断値(prognostic and diagnostic value)を、以下の実施例に示すように、独立データセットに対する妥当性検査によって検証した。本開示は、NSCLCを有する患者に関する予後診断的および診断的な情報を得る目的で、15種の遺伝子および任意で1〜3種の補足的遺伝子に関する発現情報を得て利用するために有用な方法およびキットを提供する。
【0007】
本開示の方法は一般に、患者から15種の遺伝子および任意の補足的遺伝子のそれぞれに関するDNA、mRNAまたはタンパク質のレベルでの相対的発現データを得る段階、データを処理する段階、ならびにその結果得られた情報を1つまたは複数の基準値と比較する段階を伴う。相対的発現レベルとは、当業者に公知の手法に従って正規化された発現データのことである。発現データは、発現が不変な1つまたは複数の遺伝子、例えば「ハウスキーピング」遺伝子などに対して正規化することができる。いくつかの態様において、発現データは、z-スコアへの変換などの標準的な手法、および/またはRMAexpress v0.3などのソフトウエアツールを用いて処理することができる。
【0008】
1つの局面においては、肺癌の患者の予後診断または分類のための複数遺伝子シグネチャーが提供される。いくつかの態様においては、生存良好もしくは生存不良などの転帰、および/またはアジュバント化学療法などの治療内容が既知である過去のデータセットからの各遺伝子に関する相対的発現データに基づく、15種の異なる遺伝子のそれぞれに関する基準値を含む、15遺伝子シグネチャー(fifteen-gene signature)が提供される。1つの態様においては、表4に列記された15種の遺伝子のそれぞれに関して4つの基準値が提供される。1つの態様において、15種の遺伝子のそれぞれに関する基準値は、表10に示された主成分値である。
【0009】
いくつかの態様において、16遺伝子シグネチャー、17遺伝子シグネチャーまたは18遺伝子シグネチャーは、転帰および/または治療内容が既知である過去のデータセットからの各遺伝子に関する相対的発現データに基づく、16種、17種または18種の異なる遺伝子のそれぞれに関する基準値を含む。いくつかの態様において、基準値は、表4に列記されたものに加えて1種、2種または3種の遺伝子に関して提供され、これらの遺伝子は表3に列記されたものから選択される。いくつかの態様においては、各遺伝子に関して単一の基準値が提供される。
【0010】
1つの局面においては、15種の遺伝子および任意の補足的遺伝子のそれぞれに関して、遺伝子毎に、患者からの相対的発現データを遺伝子特異的な基準値と組み合わせて、予後診断または治療法の推奨を可能にする試験値を生成させる。いくつかの態様においては、相対的発現データを、単一の試験値または複合スコアを生じるアルゴリズムにかけ、それを続いて、患者または患者プールに関する過去の発現データから得られた対照値と比較する。いくつかの態様において、対照値は、転帰、例えば転帰良好および転帰不良を予測するため、または、例えば外科的切除に加えてアジュバント療法を行うか、もしくは外科的切除のみを行うといった治療法の推奨を行うための数的閾値のことである。いくつかの態様において、対照値を上回る試験値または複合スコアは、例えば、高リスク(転帰不良)であること、またはアジュバント療法による利得に関して予測的であり、一方、対照値を下回る複合スコアは、例えば、低リスク(転帰良好)であること、またはアジュバント療法による利得がないことに関して予測的である。
【0011】
1つの態様において、複合スコアは、相対的発現データに、各遺伝子に関して過去のデータから決定された基準値を乗算することによって算出される。すなわち、複合スコアは、以下の式Iのアルゴリズムを用いることによって算出しうる:
複合スコア=0.557×PC1+0.328×PC2+0.43×PC3+0.335×PC4
式中、PC1は、複数遺伝子シグネチャー中の各遺伝子に関する相対的発現レベルに複数遺伝子シグネチャー中の各遺伝子に関する第1主成分を乗算したものの合計であり、PC2は、各遺伝子に関する相対的発現レベルに各遺伝子に関する第2主成分を乗算したものの合計であり、PC3は、各遺伝子に関する相対的発現レベルに各遺伝子に関する第3主成分を乗算したものの合計であり、PC4は、各遺伝子に関する相対的発現レベルに各遺伝子に関する第4主成分を乗算したものの合計である。いくつかの態様において、複合スコアはリスクスコアと称される。対象に関するリスクスコアは、対象から得た被験試料からの相対的発現データに対して式Iを適用することによって算出される。
【0012】
いくつかの態様において、PC1は、表4に提示された各遺伝子に関する相対的発現レベルに、表10に示された各遺伝子に関する第1主成分をそれぞれ乗算したものの合計である;PC2は、表4に提示された各遺伝子に関する相対的発現レベルに、表10に示された各遺伝子に関する第2主成分をそれぞれ乗算したものの合計である;PC3は、表4に提示された各遺伝子に関する相対的発現レベルに、表10に示された各遺伝子に関する第3主成分をそれぞれ乗算したものの合計である;かつ、PC4は、表4に提示された各遺伝子に関する相対的発現レベルに、表10に示された各遺伝子に関する第4主成分をそれぞれ乗算したものの合計である。
【0013】
本発明者らは、生存に関して予後診断的であるとともにアジュバント化学療法による利得に対して予測的である遺伝子シグネチャーを同定した。
【0014】
したがって、1つの態様において、本出願は、非小細胞肺癌を有する対象の予後診断または分類の方法であって、以下の段階:
a.対象由来の被験試料における15種のバイオマーカーの発現を決定する段階であって、バイオマーカーが表4における遺伝子に対応する段階、および
b.被験試料における15種のバイオマーカーの発現を、対照試料における15種のバイオマーカーの発現と比較する段階、を含み、
対照試料と被験試料との間の15種のバイオマーカーの発現の差または類似性が、NSCLCを有する対象を生存不良群(poor survival group)もしくは生存良好群(good survival group)に予後診断または分類するために用いられる、方法を提供する。
【0015】
1つの局面において、本出願は、非小細胞肺癌を有する対象における予後を予測する方法であって、以下の段階を含む方法を提供する:
a.対象の試料における対象バイオマーカー発現プロファイルを得る段階;
b.予後と関連のあるバイオマーカー参照発現プロファイルを得る段階であって、対象バイオマーカー発現プロファイルおよびバイオマーカー参照発現プロファイルがそれぞれ、各値がバイオマーカーの発現レベルを表している15個の値を有し、各バイオマーカーが表4における1つの遺伝子に対応する段階;および
c.対象バイオマーカー発現プロファイルに最も類似しているバイオマーカー参照発現プロファイルを選択し、それによって対象に関する予後を予測する段階。
【0016】
もう1つの局面において、本発明の予後診断および分類の方法は、治療を選択するために用いることができる。例えば、本方法は、アジュバント化学療法によって利得を受ける可能性のある対象を選択または同定するために用いることができる。したがって、1つの態様において、本出願は、NSCLCを有する対象に対する治療法を選択する方法であって、以下の段階を含む方法を提供する:
a.NSCLCを有する対象を、本出願の方法に従って生存不良群または生存良好群に分類する段階;および
b.生存不良群に対してアジュバント化学療法を選択する、または生存良好群に対してアジュバント化学療法を行わないことを選択する段階。
【0017】
もう1つの態様において、本出願は、NSCLCを有する対象に対する治療法を選択する方法であって、以下の段階を含む方法を提供する:
a.対象由来の被験試料における15種のバイオマーカーの発現を決定する段階であって、15種のバイオマーカーが表4における15種の遺伝子に対応する段階;
b.被験試料における15種のバイオマーカーの発現を、対照試料における15種のバイオマーカーと比較する段階;
c.対象を生存不良群または生存良好群に分類する段階であって、対照試料と被験試料との間の15種のバイオマーカーの発現の差または類似性が、対象を生存不良群または生存良好群に分類するために用いられる段階;
d.対象が生存不良群に分類されればアジュバント化学療法を選択し、対象が生存良好群に分類されればアジュバント化学療法を行わないことを選択する段階。
【0018】
本出願のもう1つの局面は、本明細書に記載した方法とともに用いるための組成物を提供する。
【0019】
本出願はまた、バイオマーカーの発現産物を検出しうる検出用物質を含む、NSCLCを有する対象を生存良好群もしくは生存不良群に予後診断もしくは分類するため、またはNSCLCを有する対象に対する治療法を選択するために用いられるキットも提供する。
【0020】
1つの局面において、本開示は、本明細書に記載した診断的および予後診断的検査を実施するために有用なキットを提供する。本キットは一般に、15種の遺伝子ならびに表3および4に記載された任意の補足的遺伝子に関する相対的発現データを得るための試薬および組成物を含む。当業者には認識されるであろうが、キットの内容は、相対的発現情報を得るために用いられる手段に応じて異なると考えられる。
【0021】
キットは、試料中のタンパク質産物または核酸配列を検出しうる標識された化合物または作用物質、および試料中のタンパク質またはmRNAの量を決定するための手段(例えば、タンパク質もしくはその断片と結合する抗体、またはタンパク質をコードするDNAもしくはmRNAと結合するオリゴヌクレオチドプローブ)を含みうる。キットはまた、キットを用いて得られた結果を解釈するための説明書も含むことができる。
【0022】
いくつかの態様において、キットは、オリゴヌクレオチドを基盤とするキットであり、それは例えば、以下のものを含みうる:(1)マーカータンパク質をコードする核酸配列とハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、例えば、検出可能なように標識されたオリゴヌクレオチド、または(2)マーカー核酸分子を増幅するために有用なプライマーの対。キットはまた、緩衝剤、保存料またはタンパク質安定化剤などを含んでもよい。キットはさらに、検出可能な標識(例えば、酵素または基質)を検出するために必要な成分を含むことができる。キットがまた、アッセイして被験試料と比較することのできる対照試料または一連の対照試料を含むこともできる。キットの各成分は個別の容器内に封入することができ、さまざまな容器のすべてが、キットを用いて行われたアッセイの結果を解釈するための説明書とともに、単一のパッケージ内にあってよい。
【0023】
いくつかの態様において、キットは、抗体を基盤とするキットであり、それは例えば、以下のものを含みうる:(1)マーカータンパク質と結合する(例えば、固体支持体に結び付けられた)第1の抗体;および、任意で(2)タンパク質または第1の抗体のいずれかと結合する、検出可能な標識とコンジュゲートされた第2の異なる抗体。
【0024】
1つのさらなる局面は、本明細書に記載した方法に有用な、コンピュータ実行製品(computer implemented product)、コンピュータ可読媒体およびコンピュータシステムを提供する。
【0025】
本発明のその他の特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかし、この詳細な説明から当業者には本発明の精神および範囲内にあるさまざまな変更および修正が明らかになると考えられることから、これらの詳細な説明および具体的な例は本発明の好ましい態様を示してはいるものの、単なる実例として示されていることが理解される必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
本発明をここで、図面と関連づけながら説明する:
【図1】予後診断的シグネチャーの導出および検定を示している。
【図2】訓練セットおよび被験セットにおける15遺伝子シグネチャーに基づく生存転帰を示している。
【図3】マイクロアレイデータによる低リスク患者および高リスク患者における化学療法と観察との比較を示している。
【図4】BR.10患者のマイクロアレイ試験のコンソート(consort)ダイアグラムを示している。
【図5】マイクロアレイでプロファイリングを行った患者におけるアジュバント化学療法の効果を示している。
【図6】2つの異なる時点でのマイクロアレイバッチ処理の効果を示している。試料のプロファイリングを、2つのバッチにおいて2つの時点(2004年1月および2005年6月)で行った。教師なしクラスター化により、これらの2つのバッチの発現パターンが有意に異なっていて、2004年1月にアレイ化した試料はクラスター1に集まり(93%)、2005年6月にアレイ化した試料はクラスター2に集まった(73%)ことが示されている。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の詳細な説明
本出願は、15遺伝子シグネチャーを構成する15種のバイオマーカーに関し、非小細胞肺癌(NSCLC)を有する対象の予後診断または分類のための、ならびにアジュバント化学療法の利得を判定するための方法、組成物、コンピュータ実行製品、検出用物質およびキットを提供する。
【0028】
「バイオマーカー」という用語は、本明細書で用いる場合、非小細胞肺癌(NSCLC)を有する個体において予後に応じて差異を伴って発現され、かつ、異なる生存転帰に関して、およびアジュバント化学療法の利得に関して予測的である遺伝子のことを指す。いくつかの態様において、15遺伝子シグネチャーは、表4に列記された15種のバイオマーカー遺伝子を含む。16遺伝子シグネチャー、17遺伝子シグネチャーまたは18遺伝子シグネチャーのための任意の補足的バイオマーカーを、表3に列記された遺伝子から選択することもできる。
【0029】
したがって、本発明の1つの局面は、非小細胞肺癌を有する対象の予後診断または分類の方法であって、以下の段階:
a.対象由来の被験試料における15種のバイオマーカーの発現を決定する段階であって、バイオマーカーが表4における遺伝子に対応する段階、および
b.被験試料における15種のバイオマーカーの発現を、対照試料における15種のバイオマーカーの発現と比較する段階、を含み、
対照試料と被験試料との間の15種のバイオマーカーの発現の差または類似性が、NSCLCを有する対象を生存不良群または生存良好群に予後診断または分類するために用いられる、方法を提供する。
【0030】
もう1つの局面において、本出願は、非小細胞肺癌(NSCLC)を有する対象における予後を予測する方法であって、以下の段階を含む方法を提供する:
a.対象の試料における対象バイオマーカー発現プロファイルを得る段階;
b.予後と関連のあるバイオマーカー参照発現プロファイルを得る段階であって、対象バイオマーカー発現プロファイルおよびバイオマーカー参照発現プロファイルがそれぞれ、各値がバイオマーカーの発現レベルを表している15個の値を有し、各バイオマーカーが表4における1つの遺伝子に対応する段階;および
c.対象バイオマーカー発現プロファイルに最も類似しているバイオマーカー参照発現プロファイルを選択し、それによって対象に関して予後を予測する段階。
【0031】
「参照発現プロファイル」という用語は、本明細書で用いる場合、NSCLC患者における臨床転帰と関連のある、表4に列記された15種のバイオマーカーまたは遺伝子の発現のことを指す。参照発現プロファイルは、各値がバイオマーカーの発現レベルを表している15個の値を含み、各バイオマーカーは表4における1つの遺伝子に対応する。参照発現プロファイルは、発現が生存不良または生存良好といったある転帰クラスまたは転帰群を規定する関連試料との間では類似しており、かつ、異なる転帰クラスを規定する関連のない試料とは異なっていて、その結果、参照発現プロファイルが特定の臨床転帰と関連があるような、腫瘍を含む1つまたは複数の試料を用いて同定される。参照発現プロファイルとは、したがって、臨床転帰の判定または予測のための方法において、患者試料における対応する遺伝子の対象発現レベルと比較される、表4における15種の遺伝子の発現の参照プロファイルのことである。
【0032】
本明細書で用いる場合、「対照」という用語は、値の予後診断または分類のために用いることのできる特定の値またはデータセット、例えば、ある転帰クラスと関連のある被験試料から得られた発現レベルまたは参照発現プロファイルのことを指す。1つの態様において、データセットは、NSCLCおよび良好な生存転帰を有することが既知であるか、またはNSCLCおよび不良な生存転帰を有することが既知であるか、またはNSCLCを有し、かつアジュバント化学療法による利得を受けたことが既知であるか、またはNSCLCを有し、かつアジュバント化学療法による利得を受けなかったことが既知である対象の群からの試料から得ることができる。データセット中のバイオマーカーの発現データを用いて、新たな患者由来の試料の検定に用いられる「対照値」を作成することができる。対照値は、転帰が既知である患者または患者プールに関する過去の発現データから得られる。いくつかの態様において、対照値は、転帰、例えば転帰良好および転帰不良を予測するため、または、例えば外科的切除に加えてアジュバント療法を行うか、もしくは外科的切除のみを行うといった治療法の推奨を行うための数的閾値である。
【0033】
いくつかの態様において、「対照」は、バイオマーカー発現値および生存期間が既知であるNSCLC患者から得られた15種のバイオマーカーのセットに関する既定の値である。または、「対照」は、生存期間が既知であるNSCLC患者から得られた15種のバイオマーカーのセットに関する既定の参照プロファイルである。既知の試料からの値を用いることで、実施例で説明しているように、新たな患者試料を生存良好群および生存不良群に分類するためのアルゴリズムを開発することが可能になる。
【0034】
したがって、1つの態様において、対照は、NSCLCおよび良好な生存転帰を有することが既知である対象由来の試料である。もう1つの態様において、対照は、NSCLCおよび不良な生存転帰を有することが既知である対象由来の試料である。
【0035】
当業者は、被験試料におけるバイオマーカーの発現と対照におけるバイオマーカーの発現との比較が、用いられる対照に応じて異なることを理解しているであろう。例えば、対照がNSCLCおよび生存不良を有することが既知である対象由来であり、かつ対照試料と被験試料との間にバイオマーカーの発現の差があるならば、その対象を生存良好群に予後診断または分類することができる。対照がNSCLCおよび生存良好を有することが既知である対象由来であり、かつ対照試料と被験試料との間にバイオマーカーの発現の差があるならば、その対象を生存不良群に予後診断または分類することができる。例えば、対照がNSCLCおよび生存良好を有することが既知である対象由来であり、かつ対照試料と被験試料との間にバイオマーカーの発現の類似性があるならば、その対象を生存良好群に予後診断または分類することができる。例えば、対照がNSCLCおよび生存不良を有することが既知である対象由来であり、対照試料と被験試料との間にバイオマーカーの発現の類似性があるならば、その対象を生存不良群に予後診断または分類することができる。
【0036】
本明細書で用いる場合、「基準値」とは、過去の発現データから導き出された遺伝子特異的な係数のことを指す。本開示の複数遺伝子シグネチャーは遺伝子特異的な基準値を含む。いくつかの態様において、複数遺伝子シグネチャーは、シグネチャー中の各遺伝子に関して1つの基準値を含む。いくつかの態様において、複数遺伝子シグネチャーは、シグネチャー中の各遺伝子に関して4つの基準値を含む。いくつかの態様において、基準値は、シグネチャー中の各遺伝子に関する主成分分析によって導き出された上位4成分(first four components)である。
【0037】
「差異を伴って発現される」または「差異を伴う発現」という用語は、本明細書で用いる場合、バイオマーカーの産物の発現のレベルを測定することによってアッセイすることのできる、バイオマーカーの発現のレベルの差、例えばバイオマーカーの発現されたメッセンジャーRNA転写物またはタンパク質のレベルの差などのことを指す。1つの好ましい態様において、差は統計学的に有意である。「発現のレベルの差」という用語は、対照における所与のバイオマーカーの測定可能な発現レベルと比較した、試料におけるメッセンジャーRNA転写物の量および/またはタンパク質の量によって計測されるような、所与のバイオマーカーの測定可能な発現レベルの上昇または低下のことを指す。1つの態様において、差異を伴う発現の比較は、対照の所与の1つまたは複数のバイオマーカーの発現レベルと比較した、所与の1つまたは複数のバイオマーカーの発現のレベルの比を用いて行うことができ、ここで比は1.0に等しくない。例えば、RNAまたはタンパク質は、第2の試料と比較した第1の試料における発現のレベルの比が1.0よりも大きければ、または小さければ、差異を伴って発現される。例えば、1、1.2、1.5、1.7、2、3、3、5、10、15、20もしくはそれを上回るものよりも大きい比、または1、0.8、0.6、0.4、0.2、0.1、0.05、0.001もしくはそれを下回るものよりも小さい比である。もう1つの態様において、差異を伴う発現は、p値を用いて計測される。例えば、p値を用いる場合には、p値が0.1未満、好ましくは0.05未満、より好ましくは0.01未満、さらにより好ましくは0.005未満、最も好ましくは0.001未満である場合に、バイオマーカーは、第1の試料と第2の試料との間で差異を伴って発現されると同定される。
【0038】
「発現の類似性」という用語は、本明細書で用いる場合、被験試料と対照または参照プロファイルとの間にバイオマーカーの発現のレベルの差が全くまたはほとんどないことを意味する。例えば、類似性は、対照と比較した差の倍数値(fold difference)を指してもよい。1つの好ましい態様において、バイオマーカーの発現のレベルに統計学的に有意な差はない。
【0039】
参照プロファイルの文脈における「最も類似している」という用語は、対象プロファイルに対して最も多数の同一性および/または最大の変化度を示す、臨床転帰と関連のある参照プロファイルのことを指す。
【0040】
「予後」という用語は、本明細書で用いる場合、バイオマーカー参照発現プロファイルなどの参照プロファイルによって反映されるか、または本明細書で開示した15種のバイオマーカーの発現レベルによって反映される、疾患サブタイプと関連のある生存不良群または生存良好群などの臨床転帰群のことを指す。予後は疾患進行の指標を与え、これは肺癌に起因する死亡の尤度の指標を含む。1つの態様において、臨床転帰クラスは生存良好群および生存不良群を含む。
【0041】
「予後診断または分類を行うこと」という用語は、本明細書で用いる場合、対象の、予後と関連のある参照プロファイルまたはバイオマーカー発現レベルとの類似性に従って、対象が属する臨床転帰群を予測または特定することを意味する。例えば、予後診断または分類を行うことは、NSCLCを有する個体が良好な生存転帰を有するかそれとも不良な生存転帰を有するかを判定する、またはNSCLCを有する個体を生存良好群もしくは生存不良群にグループ分けする、方法または過程を含む。
【0042】
「生存良好」という用語は、本明細書で用いる場合、「生存不良」群における患者と比較して、生存の見込みが大きいことを指す。例えば、本出願のバイオマーカーは、患者を「生存良好群」に予後診断または分類することができる。これらの患者は、手術後の死亡のリスクが相対的に低い。
【0043】
「生存不良」という用語は、本明細書で用いる場合、「生存良好」群における患者と比較して、死亡のリスクが高いことを指す。例えば、本出願のバイオマーカーまたは遺伝子は、患者を「生存不良群」に予後診断または分類することができる。これらの患者は、手術後の死亡のリスクが相対的に高い。
【0044】
したがって、1つの態様において、バイオマーカー参照発現プロファイルは生存不良群を構成する。もう1つの態様において、バイオマーカー参照発現プロファイルは生存良好群を構成する。
【0045】
「対象」という用語は、本明細書で用いる場合、動物界の任意のメンバー、好ましくは、NSCLCを有するヒトまたはNSCLCを有することが疑われるヒトのことを指す。
【0046】
NSCLC患者はステージ別に分類され、それらは治療法を決定するために用いられる。ステージ分類検査には、病歴、身体診察、定型的な臨床検査評価、胸部X線検査、および造影剤の注入を伴う胸部コンピュータ断層撮影またはポジトロン断層撮影のいずれかまたはすべてが含まれうる。例えば、ステージIは、肺の内部にあるが近傍リンパ節にも胸部の外にも広がっていない癌を含む。ステージIは、腫瘍のサイズに基づいて2つのカテゴリーに分けられる(IAおよびIB)。ステージIIは、肺および近位リンパ節に位置する癌を含む。ステージIIは、腫瘍のサイズおよび節の状態に基づいて2つのカテゴリーに分けられる(IIAおよびIIB)。ステージIIIは、肺およびリンパ節に位置する癌を含む。ステージIIIは、腫瘍のサイズおよび節の状態に基づいて2つのカテゴリーに分けられる(IIIAおよびIIIB)。ステージIVは、遠隔部に転移した癌を含む。「早期NSCLC」という用語は、ステージI〜IIIAのNSCLCを有する患者を含む。これらの患者は主として、完全な外科的切除によって治療される。
【0047】
1つの局面において、複数遺伝子シグネチャーは、患者の転帰および/またはアジュバント化学療法に対する反応について予後診断的である。いくつかの態様においては、15種の遺伝子に関する最小シグネチャーが提供される。1つの態様において、本シグネチャーは、表4に列記された15種の遺伝子のそれぞれに関する基準値を含む。いくつかの態様において、15遺伝子シグネチャーは早期のNSCLCと関連がある。したがって、1つの態様において、対象はステージIのNSCLCを有する。もう1つの態様において、対象は、ステージIIのNSCLCを有する。いくつかの態様において、16遺伝子シグネチャー、17遺伝子シグネチャー、18遺伝子シグネチャーは、患者の転帰および/またはアジュバント化学療法に対する反応について予後診断的である。いくつかの態様において、本シグネチャーは、表4に列記された15種の遺伝子のそれぞれに関する基準値に加えて、表3に列記されたものから選択される1つ、2つまたは3つの遺伝子に関する基準値をも含む。いくつかの態様において、補足的な1つ、2つまたは3つの遺伝子は、表3に列記されたRGS4、UGT2B4およびMCF2から選択される。
【0048】
いくつかの態様において、複数遺伝子シグネチャーは、シグネチャー中の各遺伝子に関して4つの係数または基準値を含む。1つの態様において、4つの係数は、以下の実施例1で説明している主成分分析によって導き出される上位4主成分である。1つの態様において、15遺伝子シグネチャーは、以下の表10に列記された主成分値を含む。いくつかの態様において、16遺伝子シグネチャー、17遺伝子シグネチャー、18遺伝子シグネチャーは、以下の実施例1で説明しているような主成分分析によって導き出されるそれぞれ16番目、17番目および18番目の遺伝子に関する係数を含む。いくつかの態様において、それぞれ16番目、17番目および18番目の遺伝子に関する係数は、実施例1に従って導き出される上位4主成分である。いくつかの態様において、補足的な1つ、2つまたは3つの遺伝子は、表3に列記されたRGS4、UGT2B4およびMCF2から選択される。
【0049】
「被験試料」という用語は、本明細書で用いる場合、バイオマーカー発現産物および/または参照発現プロファイル、例えば、NSCLCを有する対象において生存転帰に応じて差異を伴って発現される遺伝子に関してアッセイすることのできる、対象由来の任意の癌罹患性の液体試料、細胞試料または組織試料のことを指す。
【0050】
「バイオマーカーの発現を決定すること」という語句は、本明細書で用いる場合、バイオマーカーによって発現されたRNAまたはタンパク質を測定または定量することを指す。「RNA」という用語は、mRNA転写物、および/またはmRNAの特定のスプライス変異体を含む。「バイオマーカーのRNA産物」「バイオマーカーRNA」または「標的RNA」という用語は、本明細書で用いる場合、バイオマーカーから転写されたRNA転写物、および/または特定のスプライス変異体のことを指す。「タンパク質」の場合、それはバイオマーカーから転写されたRNA転写物から翻訳されたタンパク質のことを指す。「バイオマーカーのタンパク質産物」または「バイオマーカータンパク質」という用語は、バイオマーカーのRNA産物から翻訳されたタンパク質のことを指す。
【0051】
当業者は、試料内部のバイオマーカーのRNA産物のレベルを検出または定量するために、マイクロアレイなどのアレイ、RT-PCR(定量的PCRを含む)、ヌクレアーゼ保護アッセイおよびノーザンブロット分析を含む、さまざまな方法を用いうることを理解しているであろう。15種のバイオマーカーおよび任意で補足的なバイオマーカーの特異的かつ定量可能な(または半定量可能な)検出を可能にすることのできる任意の分析手順を、本明細書で示したマイクロアレイ方法のような本明細書で提示した方法、および当業者に公知の方法に用いることができる。
【0052】
したがって、1つの態様において、バイオマーカー発現レベルは、アレイ、任意でマイクロアレイ、RT-PCR、任意で定量的RT-PCR、ヌクレアーゼ保護アッセイまたはノーザンブロット分析を用いて決定される。
【0053】
いくつかの態様において、バイオマーカー発現レベルはアレイを用いることによって決定される。cDNAマイクロアレイは、顕微鏡用スライドガラスなどの固体支持体上の既知の位置に(通常はロボット式スポッティング装置を用いて)スポッティングされた多数(通常は数千)の異なるcDNAからなる。本明細書に記載した方法に用いるためのマイクロアレイは、その上にプローブが共有結合性または非共有結合性に結び付けられた固体基板を含む。このcDNAは典型的には、プラスミドのベクター骨格部分に対して、または配列が既知である遺伝子については遺伝子自体に対して相補的なプライマーを用いるプラスミドライブラリー挿入物のPCR増幅によって得られる。マイクロアレイの作製に適したPCR産物は、典型的には0.5〜2.5kB長である。典型的なマイクロアレイ実験では、RNA(全RNAまたはポリA RNAのいずれか)を関心対象の細胞または組織から単離し、逆転写させてcDNAを生じさせる。標識は通常、反応混合物に標識ヌクレオチドを混和することにより、逆転写の間に行われる。続いてマイクロアレイを標識RNAとハイブリダイズさせ、マイクロアレイ上に提示されたcDNAとハイブリダイズしたcDNA分子の相対濃度に基づいて相対的発現レベルを算出する。マイクロアレイ分析は、市販の装置によって製造元のプロトコールに従って、例えば、Affymetrix GeneChip技術、Agilent Technologies cDNAマイクロアレイ、Illumina Whole-Genome DASLアレイアッセイまたは任意の他の同等なマイクロアレイ技術などを用いることにより、行うことができる。
【0054】
いくつかの態様においては、1つまたは複数のバイオマーカーRNAまたはcDNAとハイブリダイズしうるプローブを、規定の位置で基板に結び付ける(「アドレス指定可能アレイ」)。当業者には理解されているであろうが、プローブは、非常にさまざまなやり方で基板に結び付けることができる。いくつかの態様においては、プローブをまず合成し、その後で基板に結び付ける。他の態様において、プローブは基板上で合成される。いくつかの態様において、プローブは、光重合およびフォトリソグラフィーなどの手法を用いて基板表面上で合成される。
【0055】
いくつかの態様においては、マイクロアレイを、RNAプライミング型アレイ利用クレノウ酵素(RNA-primed, Array-based Klenow Enzyme)(「RAKE」)アッセイに利用する。Nelson, P.T. et al. (2004) Nature Methods 1(2):1-7;Nelson, P.T. et al. (2006) RNA 12(2):1-5を参照、これらはそれぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられる。これらの態様では、全RNAを試料から単離する。任意で、低分子RNAを全RNA試料からさらに精製することもできる。続いてRNA試料を、アドレス指定可能アレイ上に5'末端で固定化されたDNAプローブとハイブリダイズさせる。DNAプローブは、関心対象の標的RNA、例えば、表4に列記された遺伝子の1つに同一な形で存在する配列を含む核酸と標準的なハイブリダイゼーション条件下で特異的にハイブリダイズしうる1つまたは複数のバイオマーカーRNAなどに対して相補的な塩基配列を含む。
【0056】
いくつかの態様において、アドレス指定可能アレイは、表4に列記された15種の遺伝子の範囲を超えないものに対するDNAプローブを含む。いくつかの態様において、アドレス指定可能アレイは、表4に列記された15種の遺伝子のそれぞれ、および任意で表3に列記されたものから選択される1つ、2つまたは3つの補足的遺伝子の範囲を超えないものに対するDNAプローブを含む。1つの態様において、アドレス指定可能アレイは、表4に列記された15種の遺伝子のそれぞれに対するDNAプローブ、ならびに表3に列記されたRGS4、UGT2B4およびMCF2のうち1つ、2つまたは3つすべてに対するDNAプローブを含む。
【0057】
いくつかの態様において、バイオマーカーRNA発現レベルの定量は、細胞当たりの全RNA、および試料調製の間の試料損失の程度について仮定を行うことを必要とする。いくつかの態様において、アドレス指定可能アレイは、表4に列記された15種の遺伝子のそれぞれ、および任意で1つ、2つ、3つまたは4つのハウスキーピング遺伝子に関するDNAプローブを含む。1つの態様において、アドレス指定可能アレイは、表4に列記された15種の遺伝子のそれぞれ、1つ、2つ、3つまたは4つのハウスキーピング遺伝子、およびさらに、表3に列記されたものから選択される1つ、2つ、3つまたは4つの補足的遺伝子の範囲を超えないものに対するDNAプローブを含む。
【0058】
いくつかの態様においては、発現測定値に影響を及ぼす試料調製におけるばらつきまたは他の非実験的な変数を補正するために、発現データを前処理する。例えば、RMAexpress v0.3などの標準的なソフトウエアプログラムを用い、その後に平均側へのデータのセンタリングおよび標準偏差に対するスケーリングを行うことで、バックグラウンド調整、変位値調整および要約などを行うことができる。
【0059】
試料をアレイとハイブリダイズさせた後に、ハイブリダイズしなかったプローブを消化するために、それをエキソヌクレアーゼIに曝露させる。続いて、DNAポリメラーゼIのクレノウ断片をビオチン化dATPとともに適用し、ハイブリダイズしたバイオマーカーRNAが、テンプレートとしてのDNAプローブを伴ってその酵素に対するプライマーとして作用することを可能にする。続いてスライドを洗浄し、試料由来のハイブリダイズしてクレノウで伸長されたバイオマーカーRNAの検出および定量のために、ストレプトアビジンとコンジュゲートさせたフルオロフォアを適用する。
【0060】
いくつかの態様においては、RNA試料を、ビオチン/ポリdAランダムオクタマープライマーを用いて逆転写させる。RNAテンプレートを消化させ、ビオチン含有cDNAを、バイオマーカーRNAの特異的検出を可能にするプローブが結合したアドレス指定可能マイクロアレイとハイブリダイズさせる。典型的な態様において、マイクロアレイは、表4に列記された遺伝子のそれぞれの中に同一な形で存在する、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも11個、少なくとも12個、少なくとも13個、少なくとも14個、少なくとも15個、少なくとも16個、少なくとも17個、少なくとも18個、少なくとも19個、さらには少なくとも20個、21個、22個、23個または24個の連続したヌクレオチドを含む少なくとも1つのプローブを含む。cDNAとマイクロアレイとのハイブリダイゼーションの後に、マイクロアレイを、ストレプトアビジンと結合させた蛍光色素などの検出可能なマーカーに曝露させ、結合したcDNAを検出する。Liu C.G. et al. (2008) Methods 44:22-30を参照、これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0061】
1つの態様において、アレイはAffymetrixのU133Aチップである。もう1つの態様においては、表4に列記された遺伝子の発現産物に対して相補的な、またはそれとハイブリダイズしうる複数の核酸プローブをアレイ上で用いる。1つの特定の態様において、プローブ標的配列は表9に列記されている。いくつかの態様において、プローブ標的配列は、SEQ ID NO:3、11〜15、22、26、35、49、78、85、130、133および169から選択される。1つの態様においては、SEQ ID NO:3、11〜15、22、26、35、49、78、85、130、133および169から選択される異なる標的配列と各プローブがハイブリダイズしうる、15種のプローブを用いる。いくつかの態様においては、表3に列記された遺伝子のいくつかまたはすべての発現産物に対して相補的な、またはそれとハイブリダイズしうる複数の核酸プローブをアレイ上で用いる。いくつかの態様において、プローブ標的配列は、表11に列記されたものである。いくつかの態様において、プローブ標的配列はSEQ ID NO:1〜172から選択される。
【0062】
「核酸」という用語はDNAおよびRNAを含み、これは二本鎖であっても一本鎖であってもよい。
【0063】
「ハイブリダイズする」または「ハイブリダイズしうる」という用語は、相補的核酸との配列特異的な非共有結合性相互作用のことを指す。1つの好ましい態様において、ハイブリダイゼーションは高ストリンジェンシー条件下にある。ハイブリダイゼーションを促す適切なストリンジェンシー条件は当業者に公知であり、またはCurrent Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y. (1989), 6.3.1 6.3.6に記載がある。例えば、6.0×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)、約45℃に続いて、2.0×SSCによる50℃での洗浄を用いることができる。
【0064】
「プローブ」という用語は、本明細書で用いる場合、核酸標的配列とハイブリダイズすると考えられる核酸配列のことを指す。一例を挙げると、プローブは、バイオマーカーのRNA産物またはその相補的な核酸配列とハイブリダイズする。プローブの長さは、ハイブリダイゼーション条件ならびにプローブの配列および核酸標的配列に依存する。1つの態様において、プローブは少なくとも8、10、15、20、25、50、75、100、150、200、250、400、500ヌクレオチド長またはそれ以上である。
【0065】
いくつかの態様においては、少なくとも1つのバイオマーカーまたは標的RNA特異的プローブを含む組成物が提供される。「標的RNA特異的プローブ」という用語は、(i)表3もしくは4に列記された遺伝子の1つの中に同一な形で存在する配列、または(ii)表3もしくは4に列記された遺伝子の1つの中に見いだされる連続したヌクレオチドの領域の配列に対して相補的な配列、を有する連続したヌクレオチドの領域を有するプローブを範囲に含み、ここで「領域」は、表3もしくは4に列記された遺伝子のいずれか1つの完全長配列、表3もしくは4に列記された遺伝子ののいずれか1つの完全長配列の相補的配列、またはそれらの部分配列を含みうる。
【0066】
いくつかの態様において、標的RNA特異的プローブはデオキシリボヌクレオチドからなる。他の態様において、標的RNA特異的プローブは、デオキシリボヌクレオチドおよびヌクレオチド類似体の両方からなる。いくつかの態様において、バイオマーカーRNA特異的プローブは、ハイブリダイゼーション結合エネルギーを増大させる少なくとも1つのヌクレオチド類似体を含む。いくつかの態様において、本明細書に記載した組成物中の標的RNA特異的プローブは、試料中の1つのバイオマーカーRNAと結合する。
【0067】
いくつかの態様においては、バイオマーカーRNAの重複した領域または空間的に隔たった領域と結合することのできるプローブである、単一のバイオマーカーRNAに対して特異的な複数のプローブが組成物中に存在する。
【0068】
本明細書に記載した組成物がバイオマーカーRNAから逆転写されたcDNAとハイブリダイズするように設計されるいくつかの態様において、組成物が、バイオマーカーRNA(またはその部分配列)の中に同一な形で存在する配列を含む少なくとも1つの標的RNA特異的プローブを含むことは理解されるであろう。
【0069】
いくつかの態様において、バイオマーカーRNAは、表4に列記された遺伝子の1つの中に同一な形で存在する塩基配列を含む少なくとも1つのプローブと特異的にハイブリダイズすることができる。いくつかの態様において、バイオマーカーRNAは、表3に列記された遺伝子の1つの中に同一な形で存在する塩基配列を含む少なくとも1つの核酸プローブと特異的にハイブリダイズすることができる。いくつかの態様において、標的RNAは、少なくとも1つの核酸プローブと特異的にハイブリダイズすることができ、かつ、SEQ ID NO:1〜172から選択される配列と同一な配列、または表11に列記された配列を含む。いくつかの態様において、標的RNAは、表11に列記された配列と特異的にハイブリダイズすることができ、かつ、表9に列記された配列を含む。いくつかの態様において、標的RNAは、少なくとも1つの核酸プローブと特異的にハイブリダイズすることができ、かつ、SEQ ID NO:3、11〜15、22、26、35、49、78、85、130、133および169から選択される配列と同一な配列を含む。いくつかの態様において、バイオマーカーRNAは、表4に列記された遺伝子の1つの中に同一な形で存在する少なくとも1つのプローブと特異的にハイブリダイズすることができる。
【0070】
いくつかの態様において、組成物は、表4に列記された遺伝子の1つもしくは複数の中に、またはそれらの部分配列の中に同一な形で存在する塩基配列を含む連続したヌクレオチドの領域をそれぞれが含む、複数の標的RNA特異的プローブまたはバイオマーカーRNA特異的プローブを含む。いくつかの態様において、組成物は、表9に列記された配列に対して相補的な塩基配列を含む連続したヌクレオチドの領域をそれぞれが含む、複数の標的RNA特異的プローブまたはバイオマーカーRNA特異的プローブを含む。いくつかの態様において、組成物は、SEQ ID NO:3、11〜15、22、26、35、49、78、85、130、133および169から選択される配列に対して相補的な塩基配列を含む連続したヌクレオチドの領域をそれぞれが含む、複数の標的RNA特異的プローブを含む。
【0071】
本明細書で用いる場合、バイオマーカーRNAまたは標的RNA(またはその標的領域)に対して「相補的な」または「部分的に相補的な」という用語、およびプローブ配列のバイオマーカーRNA配列のそれとの「相補性」のパーセンテージは、バイオマーカーRNAの配列の逆相補物との「同一性」パーセンテージのことである。本明細書に記載した組成物中に用いられるプローブ(またはその領域)と、本明細書で開示したもののようなバイオマーカーRNAとの間の「相補性」の度合いの決定において、「相補性」の度合いは、プローブ(またはその領域)の配列と、それと最も良くアラインメントするバイオマーカーRNAの配列の逆相補物との同一性パーセンテージとして表現される。このパーセンテージは、2つの配列間で同一なアラインメントされた塩基の数を算定し、それをプローブ中の連続したヌクレオチドの総数で除算して、100を乗算することによって算出される。
【0072】
いくつかの態様において、マイクロアレイは、バイオマーカーRNAの標的領域に対して完全に相補的な塩基配列を有する領域を含むプローブを含む。他の態様において、マイクロアレイは、バイオマーカーRNAの最も良くアラインメントされた標的領域の配列と比較した場合に1つまたは複数の塩基ミスマッチを含む塩基配列を有する領域を含むプローブを含む。
【0073】
上述したように、プローブまたはバイオマーカーRNAの「領域」は、本明細書で用いる場合、特定の遺伝子またはその相補的配列からの8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個またはそれ以上の連続したヌクレオチドを含むこと、またはそれらからなることができる。いくつかの態様において、その領域はプローブまたはバイオマーカーRNAと同じ長さのものである。他の態様において、その領域はプローブまたはバイオマーカーRNAの長さよりも短い。
【0074】
いくつかの態様において、マイクロアレイは、表4に列記された遺伝子の1つの中に同一な形で存在する塩基配列を有する、少なくとも11個の連続したヌクレオチドなど、少なくとも13個の連続したヌクレオチドなど、少なくとも14個の連続したヌクレオチドなど、少なくとも15個の連続したヌクレオチドなど、少なくとも16個の連続したヌクレオチドなど、少なくとも17個の連続したヌクレオチドなど、少なくとも18個の連続したヌクレオチドなど、少なくとも19個の連続したヌクレオチドなど、少なくとも20個の連続したヌクレオチドなど、少なくとも21個の連続したヌクレオチドなど、少なくとも22個の連続したヌクレオチドなど、少なくとも23個の連続したヌクレオチドなど、少なくとも24個の連続したヌクレオチドなど、少なくとも25個の連続したヌクレオチドなどといった、少なくとも10個の連続したヌクレオチドの領域をそれぞれが含む15種のプローブを含む。
【0075】
いくつかの態様において、マイクロアレイ構成要素は、表4に列記された遺伝子のそれぞれの中に同一な形で存在する塩基配列を有する領域をそれぞれが含む、15種のプローブを含む。いくつかの態様において、マイクロアレイは、表4に列記された遺伝子のそれぞれ、および任意で、表3に列記された遺伝子の1つ、2つまたは3つの中に同一な形で存在する塩基配列を有する領域をそのそれぞれが含む、16種、17種、18種のプローブを含む。1つの態様において、表3からの1つ、2つまたは3つの遺伝子は、RGS4、UGT2B4およびMCF2から選択される。
【0076】
もう1つの態様において、バイオマーカー発現レベルは、定量的RT-PCRを用いることによって決定される。RT-PCRは、発現レベルを測定するための、最も高感度で、柔軟性があり、かつ定量的な方法である。第1の段階は、標的試料からのmRNAの単離である。出発材料は典型的には、ヒト腫瘍または腫瘍細胞系から単離された全RNAである。mRNA抽出のための一般的な方法は当技術分野において周知であり、Ausubel et al., Current Protocols of Molecular Biology, John Wiley and Sons (1997)に開示されている。パラフィン包埋組織からのRNA抽出のための方法は、例えば、Rupp and Locker, Lab Invest. 56:A67 (1987)、およびDe Andres et al., BioTechniques 18:42044 (1995)に開示されている。特に、RNA単離は、Qiagenなどの販売製造元による精製キット、バッファーセットおよびプロテアーゼを製造元の指示に従って用いて行うことができる。例えば、培養下にある細胞からの全RNAを、Qiagen RNeasyミニカラムを用いて単離することができる。数多くのRNA単離キットが市販されている。
【0077】
いくつかの態様において、定量的RT-PCRのために用いられるプライマーは、表4に列記された遺伝子のそれぞれに対する順方向および逆方向プライマーを含む。1つの態様において、定量的RT-PCRのために用いられるプライマーは表7に列記されている。1つの態様においては、SEQ ID NO:173〜202の配列と同一な配列を含むプライマーが定量的RT-PCRのために用いられ、この際、SEQ ID NO:173〜187と同一な配列を有するプライマーは順方向プライマーであり、SEQ ID NO:188〜202と同一な配列を有するプライマーは逆方向プライマーである。
【0078】
いくつかの態様において、本明細書で示された方法で少なくとも1つのバイオマーカーRNAを検出するために用いられる分析方法にはリアルタイム定量的RT-PCRが含まれる。Chen, C. et al. (2005) Nucl. Acids Res. 33:e179を参照、これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。PCRは種々の耐熱性DNA依存性DNAポリメラーゼを用いることができるが、5'-3'ヌクレアーゼ活性を有するが3'-5'プルーフリーディングエンドヌクレアーゼ活性は有しないTaq DNAポリメラーゼを用いることが典型的である。いくつかの態様において、RT-PCRは、Applied Biosystems, Inc.によって販売されているTaqMan(登録商標)アッセイを用いて行われる。第1の段階では、全RNAを試料から単離する。いくつかの態様において、このアッセイは、RNAを含む約10ngの全RNA投入試料、例えば約9ngの投入試料など、約8ngの投入試料など、約7ngの投入試料など、約6ngの投入試料など、約5ngの投入試料など、約4ngの投入試料など、約3ngの投入試料など、約2ngの投入試料など、さらには約1ngという少量の投入試料などを分析するために用いることができる。
【0079】
TaqMan(登録商標)アッセイは、バイオマーカーRNAの3'末端に対して特異的に相補的なステム-ループプライマーを利用する。ステム-ループプライマーをバイオマーカーRNAとハイブリダイズさせる段階に続いて、バイオマーカーRNAテンプレートの逆転写を行い、その結果、プライマーの3'末端の伸長を生じさせる。この逆転写段階の結果は、アンプリコンの5'末端にステム-ループプライマー配列を有し、3'末端にバイオマーカーRNAのcDNAをキメラ性(DNA)アンプリコンである。バイオマーカーRNAの定量は、すべてのステム-ループバイオマーカーRNAプライマーの5'末端の配列に対して相補的な配列を含む汎用逆方向プライマー、バイオマーカーRNA特異的順方向プライマー、およびバイオマーカーRNA配列特異的TaqMan(登録商標)プローブを用いるRT-PCRによって達成される。
【0080】
本アッセイは、蛍光共鳴エネルギー転移(「FRET」)を利用することで、合成されたPCR産物の検出および定量を行う。典型的には、TaqMan(登録商標)プローブは、5'末端にカップリングされた蛍光色素分子を、3'末端にカップリングされたクエンチャー分子を含み、その結果、色素およびクエンチャーが近接し、クエンチャーがFRETを介して色素の蛍光シグナルを抑制することが可能になる。ポリメラーゼが、TaqMan(登録商標)プローブが結合したキメラ性アンプリコンテンプレートを複製すると、ポリメラーゼの5'-ヌクレアーゼがプローブを切断し、色素およびクエンチャーを脱カップリングさせ、その結果、FRETが消失して蛍光シグナルが生成される。蛍光は、各RT-PCRサイクルのたびに、切断されたプローブの量に比例して増加する。
【0081】
いくつかの態様において、RT-PCRアッセイの結果の定量は、既知の濃度の核酸から標準曲線を作成し、続いて、濃度が未知のバイオマーカーRNAに関する量的情報を外挿することによって行われる。いくつかの態様において、標準曲線を作成するために用いられる核酸は、既知の濃度のRNAである。いくつかの態様において、標準曲線を作成するために用いられる核酸は、精製された二本鎖プラスミドDNA、またはインビトロで生成された一本鎖DNAである。
【0082】
バイオマーカー核酸および内因性参照の増幅効率がおよそ等しいいくつかの態様において、定量は、比較Ct(サイクル閾値、例えば、蛍光シグナルがバックグラウンドを超えるために必要なPCRサイクル)法を用いて遂行される。Ct値は、試料中の核酸標的の量と反比例する。いくつかの態様においては、関心対象の標的RNAのCt値を、対照または較正物質、例えば正常組織由来のRNAと比較することができる。いくつかの態様においては、較正物質および関心対象の標的RNA試料のCt値を、適切な内因性ハウスキーピング遺伝子に対して正規化する(上記参照)。
【0083】
TaqMan(登録商標)アッセイのほかに、本明細書で提示した方法におけるPCR産物の検出および定量のために有用な他のRT-PCR化学には、分子ビーコン(Molecular Beacon)、ScorpionプローブおよびSYBR Green検出が非限定的に含まれる。
【0084】
いくつかの態様においては、分子ビーコンを、PCR産物の検出および定量を行うために用いることができる。分子ビーコンは、TaqMan(登録商標)プローブと同様に、FRETを利用することで、プローブの末端に結び付けられた蛍光色素およびクエンチャーを含むプローブを介してPCR産物の検出および定量を行う。TaqMan(登録商標)プローブとは異なり、分子ビーコンはPCRサイクルの間も完全な状態のままである。分子ビーコンプローブは、溶液中に遊離している時はステム-ループ構造を形成し、それにより、色素およびクエンチャーが、蛍光消光を引き起こすのに十分な程度に近接する。分子ビーコンが標的とハイブリダイズすると、ステム-ループ構造が消失し、そのために色素およびクエンチャーが空間内で隔たり、色素が蛍光を発する。分子ビーコンは、例えば、Gene Link(商標)(http://www.genelink.com/newsite/products/mbintro.aspを参照)から入手可能である。
【0085】
いくつかの態様においては、Scorpionプローブを、配列特異的プライマーとして、ならびにPCR産物の検出および定量のためという両方に用いることができる。分子ビーコンと同様に、Scorpionプローブは、標的核酸とハイブリダイズしていない時はステム-ループ構造を形成する。しかし、分子ビーコンとは異なり、Scorpionプローブは、配列特異的プライミングおよびPCR産物検出の両方を達成する。Scorpionプローブの5'末端には蛍光色素分子が結び付けられ、3'末端にはクエンチャーが結び付けられている。プローブの3'部分はPCRプライマーの伸長産物に対して相補的であり、この相補的部分は増幅不可能なモイエティーによってプローブの5'末端と連結されている。Scorpionプライマーが伸長した後に、プローブの標的特異的配列は伸長したアンプリコン内部のその相補物と結合し、それ故にステム-ループ構造が広げられて、5'末端の色素が蛍光を発してシグナルを生じることが可能になる。Scorpionプローブは、例えば、Premier Biosoft International(http://www.premierbiosoft.com/tech_notes/Scorpion.htmlを参照)から入手可能である。
【0086】
いくつかの態様において、RT-PCR検出は、単一のバイオマーカーRNAの発現の検出および定量のために特異的に行われる。バイオマーカーRNAは、典型的な態様において、表4に示された遺伝子の1つの中に同一な形で存在する配列を含む核酸と特異的にハイブリダイズするバイオマーカーRNAから選択される。いくつかの態様において、バイオマーカーRNAは、表3における遺伝子の少なくとも1つの中に同一な形で存在する配列を含む核酸と特異的にハイブリダイズする。
【0087】
さまざまな他の態様においては、RT-PCR検出を、単一の多重反応において、15種のバイオマーカーRNAのそれぞれ、16種のバイオマーカーRNAのそれぞれ、17種のバイオマーカーRNAのそれぞれ、さらには18種のバイオマーカーRNAのそれぞれを検出するために利用する。バイオマーカーRNAは、いくつかの態様において、表4に列記された15種の遺伝子および任意で表3に列記された1つ、2つまたは3つの補足的遺伝子のうち1つの中に同一な形で存在する配列を含む核酸と特異的にハイブリダイズすることができる。
【0088】
いくつかの多重的な態様においては、それぞれが異なるRNA標的に対して特異的な、TaqManプローブなどの複数のプローブを用いる。典型的な態様において、それぞれの標的RNA特異的プローブは、同じ多重反応に用いられる他のプローブと分光的に識別可能である。
【0089】
いくつかの態様においては、RT-PCR産物の定量を、二本鎖DNA産物と結合する色素、例えばSYBR Greenなどを用いて遂行する。いくつかの態様において、アッセイは、QiagenのQuantiTect SYBR Green PCRアッセイである。このアッセイでは、試料からまず全RNAを単離する。その後に全RNAを3'末端でポリアデニル化し、5'末端にポリdTを有する汎用プライマーを用いて逆転写させる。いくつかの態様において、単一の逆転写反応は、複数のバイオマーカーRNAをアッセイするのに十分である。続いてRT-PCRを、バイオマーカーRNA特異的プライマー、および5'末端にポリdT配列を含むmiScript汎用プライマーを用いて遂行する。SYBR Green色素は二本鎖DNAと非特異的に結合し、励起されると光を発する。いくつかの態様においては、SYBR Greenと結合して定量に有害な影響を及ぼすと考えられる非特異的DNA二重鎖およびプライマーダイマーの形成を避けるために、PCRテンプレートに対するプライマーの高度に特異的なアニーリングを促すバッファー条件(例えば、QiagenのQuantiTect SYBR Green PCR Kit中に用意されているもの)を用いることができる。こうすることで、PCR産物が蓄積するのに伴ってSYBR greenによるシグナルが増加し、特定産物の定量が可能になる。
【0090】
RT-PCRは、当技術分野において入手可能な任意のRT-PCR計測装置を用いて行われる。典型的には、リアルタイムRT-PCRデータの収集および解析に用いられる計測装置は、サーマルサイクラー、蛍光励起および発光収集のための光学素子、ならびに任意でコンピュータならびにデータ取得および解析用のソフトウエアを含む。
【0091】
いくつかの態様において、1つまたは複数のバイオマーカーRNAを検出可能なように定量する方法は、以下の段階を含む:(a)全RNAを単離する段階;(b)バイオマーカーRNAを逆転写させて、バイオマーカーRNAに対して相補的なcDNAを生成させる段階;(c)段階(b)によるcDNAを増幅する段階;および(d)バイオマーカーRNAの量をRT-PCRによって検出する段階。
【0092】
上記のように、いくつかの態様において、RT-PCR検出はFRETプローブを用いて行われ、これには、TaqMan(登録商標)プローブ、分子ビーコンプローブおよびScorpionプローブが非限定的に含まれる。いくつかの態様において、RT-PCR検出および定量は、TaqMan(登録商標)プローブ、すなわち、DNAの一方の端に共有結合した蛍光色素およびDNAのもう一方の端に共有結合したクエンチャー分子を典型的には有する線状プローブを用いて行われる。FRETプローブはcDNAの領域に対して相補的な塩基配列を含み、その結果、FRETプローブがcDNAとハイブリダイズすると色素の蛍光が消光し、プローブがcDNAの増幅の間に消化されると色素がプローブから放出されて蛍光シグナルを生成する。そのような態様において、試料中のバイオマーカーRNAの量は、cDNA増幅の間に測定された蛍光の量に比例する。
【0093】
TaqMan(登録商標)プローブは、典型的には、バイオマーカーRNAまたはバイオマーカーRNAテンプレートから逆転写されたその相補的cDNAのある領域に対して相補的な塩基配列を含む、連続したヌクレオチドの領域を含み(すなわち、プローブ領域の配列は、検出しようとするバイオマーカーRNAに対して相補的であるか、または同一な形で存在する)、その結果、プローブは結果的に生じたPCRアンプリコンと特異的にハイブリダイズすることができる。いくつかの態様において、プローブは、バイオマーカーRNAテンプレートから逆転写されたcDNAの領域に対して完全に相補的であるかまたはその中に同一な形で存在する塩基配列を有する少なくとも6個の連続したヌクレオチドの領域を含み、例えば、検出しようとするバイオマーカーRNAから逆転写されたcDNAの領域に対して相補的であるかまたはその中に同一な形で存在する塩基配列を有する、少なくとも8個の連続したヌクレオチドの領域を含む、または少なくとも10個の連続したヌクレオチドの領域を含む、または少なくとも12個の連続したヌクレオチドの領域を含む、または少なくとも14個の連続したヌクレオチドの領域を含む、またはさらには少なくとも16個の連続したヌクレオチドの領域を含む。
【0094】
好ましくは、TaqMan(登録商標)プローブ配列に対して相補的な配列を有するcDNAの領域は、cDNA分子の中央またはその近傍にある。いくつかの態様において、相補性領域の5'末端および3'末端には、独立に少なくとも2ヌクレオチド、例えば少なくとも3ヌクレオチド、少なくとも4ヌクレオチド、少なくとも5ヌクレオチドなどのcDNAが存在する。
【0095】
典型的な態様においては、すべてのバイオマーカーRNAが単一の多重反応で検出される。これらの態様において、一意的なcDNAを標的とする各TaqMan(登録商標)プローブは、プローブから放出された場合に分光的に識別可能である。すなわち、各バイオマーカーRNAは一意的な蛍光シグナルによって検出される。
【0096】
いくつかの態様において、発現レベルは、cDNA 1ナノグラム当たりの遺伝子転写物の数によって表すことができる。cDNAの数量、完全性および個々のプライマーの全体的転写効率のばらつきに関する調整のために、以前に記載された通りに、RT-PCRデータに対して1つまたは複数のハウスキーピング遺伝子に対する標準化および正規化を行うことができる。例えば、Rubie et al., Mol. Cell. Probes 19(2):101-9 (2005)を参照。
【0097】
本明細書に記載した方法における正規化のための適切な遺伝子には、その産物の数量が、異なる細胞種、細胞系、異なる増殖および試料調製の条件下のいずれの間でも変化しないものが含まれる。いくつかの態様において、本明細書に記載した方法における正規化対照として有用な内因性ハウスキーピング遺伝子には、ACTB、BAT1、B2M、TBP、U6 snRNA、RNU44、RNU 48およびU47が非限定的に含まれる。典型的な態様において、測定されたRNAの数量の正規化に用いるための少なくとも1つの内因性ハウスキーピング遺伝子は、ACTB、BAT1、B2M、TBP、U6 snRNA、U6 snRNA、RNU44、RNU 48およびU47から選択される。いくつかの態様においては、2種、3種、4種またはそれ以上のハウスキーピング遺伝子の幾何平均に対して正規化を行う。いくつかの態様においては、1つのハウスキーピング遺伝子を正規化のために用いる。いくつかの態様においては、2種、3種、4種またはそれ以上のハウスキーピング遺伝子を正規化のために用いる。
【0098】
いくつかの態様において、FRETプローブ上で用いることのできる標識には、Alexa Fluor色素、BODIPY色素、例えばBODIPY FLなど;カスケードブルー;カスケードイエロー;クマリンおよびその誘導体、例えば7-アミノ-4-メチルクマリン、アミノクマリンおよびヒドロキシクマリンなど;シアニン色素、例えばCy3およびCy5など;エオシン類およびエリスロシン類;フルオレセインおよびその誘導体、例えばフルオレセインイソチオシアネートなど;ランタニドイオンの大環状キレート、例えばQuantum Dye(商標)など;マリナブルー;オレゴングリーン;ローダミン色素、例えばローダミンレッド、テトラメチルローダミンおよびローダミン6Gなど;テキサスレッド;蛍光エネルギー転移色素、例えばチアゾールオレンジ-エチジウムヘテロダイマー;ならびに、TOTABなどの比色標識および蛍光標識が含まれる。
【0099】
色素の具体的な例には、以上に特定したもの、および以下のものが非限定的に含まれる:Alexa Fluor 350、Alexa Fluor 405、Alexa Fluor 430、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 500. Alexa Fluor 514、Alexa Fluor 532、Alexa Fluor 546、Alexa Fluor 555、Alexa Fluor 568、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 610、Alexa Fluor 633、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 660、Alexa Fluor 680、Alexa Fluor 700、およびAlexa Fluor 750;アミン反応性BODIPY色素、例えばBODIPY 493/503、BODIPY 530/550、BODIPY 558/568、BODIPY 564/570、BODIPY 576/589、BODIPY 581/591、BODIPY 630/650、BODIPY 650/655、BODIPY FL、BODIPY R6G、BODIPY TMR、およびBODIPY-TRなど;Cy3、Cy5、6-FAM、フルオレセインイソチオシアネート、HEX、6-JOE、オレゴングリーン488、オレゴングリーン500、オレゴングリーン514、パシフィックブルー、REG、ローダミングリーン、ローダミンレッド、レノグラフィン、ROX、SYPRO、TAMRA、2',4',5',7'-テトラブロモスルホンフルオレセイン、ならびにTET。
【0100】
本明細書に記載した方法のいくつかの態様に用いるためのRT-PCRプローブの調製において有用な蛍光標識リボヌクレオチドの具体的な例はMolecular Probes(Invitrogen)から入手可能であり、これらには、Alexa Fluor 488-5-UTP、フルオレセイン-12-UTP、BODIPY FL-14-UTP、BODIPY TMR-14-UTP、テトラメチルローダミン-6-UTP、Alexa Fluor 546-14-UTP、テキサスレッド-5-UTP、およびBODIPY TR-14-UTPが含まれる。Cy3-UTPおよびCy5-UTPなどの他の蛍光性リボヌクレオチドは、Amersham Biosciences(GE Healthcare)から入手可能である。
【0101】
本明細書に記載した方法に用いるためのRT-PCRプローブの調製において有用な蛍光標識デオキシリボヌクレオチドの例には、ジニトロフェニル(DNP)-1'-dUTP、カスケードブルー-7-dUTP、Alexa Fluor 488-5-dUTP、フルオレセイン-12-dUTP、オレゴングリーン488-5-dUTP、BODIPY FL-14-dUTP、ローダミングリーン-5-dUTP、Alexa Fluor 532-5-dUTP、BODIPY TMR-14-dUTP、テトラメチルローダミン-6-dUTP、Alexa Fluor 546-14-dUTP、Alexa Fluor 568-5-dUTP、テキサスレッド-12-dUTP、テキサスレッド-5-dUTP、BODIPY TR-14-dUTP、Alexa Fluor 594-5-dUTP、BODIPY 630/650-14-dUTP、BODIPY 650/665-14-dUTP;Alexa Fluor 488-7-OBEA-dCTP、Alexa Fluor 546-16-OBEA-dCTP、Alexa Fluor 594-7-OBEA-dCTP、Alexa Fluor 647-12-OBEA-dCTPが含まれる。蛍光標識ヌクレオチドは市販されており、例えば、Invitrogenから購入することができる。
【0102】
いくつかの態様において、色素および他のモイエティー、例えばクエンチャーなどは、本明細書に記載した方法に用いられる核酸、例えばFRETプローブなどの中に、修飾ヌクレオチドを介して導入される。「修飾ヌクレオチド」とは、化学修飾されているが、依然としてヌクレオチドとして機能するヌクレオチドのことを指す。いくつかの態様において、修飾ヌクレオチドは、共有結合した色素またはクエンチャーなどの化学モイエティーを有し、例えば、オリゴヌクレオチドの固相合成を手段としてオリゴヌクレオチド中に導入することができる。他の態様において、修飾ヌクレオチドは、核酸中への修飾ヌクレオチドの組み入れの前、最中または後に色素またはクエンチャーと反応することのできる1つまたは複数の反応基を含む。特定的な態様において、修飾ヌクレオチドは、アミン修飾ヌクレオチド、すなわち反応性アミン基を有するように修飾されたヌクレオチドである。いくつかの態様において、修飾ヌクレオチドは、ウリジン、アデノシン、グアノシンおよび/またはシトシンなどの修飾塩基モイエティーを含む。特定的な態様において、アミン修飾ヌクレオチドは、5-(3-アミノアリル)-UTP;8-[(4-アミノ)ブチル]-アミノ-ATPおよび8-[(6-アミノ)ブチル]-アミノ-ATP;N6-(4-アミノ)ブチル-ATP、N6-(6-アミノ)ブチル-ATP、N4-[2,2-オキシ-ビス-(エチルアミン)]-CTP;N6-(6-アミノ)ヘキシル-ATP;8-[(6-アミノ)ヘキシル]-アミノ-ATP;5-プロパルギルアミノ-CTP、5-プロパルギルアミノ-UTPから選択される。いくつかの態様においては、例えば、5-(3-アミノアリル)-UTPの代わりに5-(3-アミノアリル)-GTPというように、異なる核酸塩基モイエティーを有するヌクレオチドが同様に修飾される。多くのアミン修飾ヌクレオチドが、例えば、Applied Biosystems、Sigma、Jena BioscienceおよびTriLinkから市販されている。
【0103】
いくつかの態様において、本明細書に記載した少なくとも1つのバイオマーカーRNAを検出する方法は、1つまたは複数の親和性強化(affinity-enhancing)ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドのような、1つまたは複数の修飾オリゴヌクレオチドを使用する。本明細書に記載した方法において有用な修飾オリゴヌクレオチドには、逆転写のためのプライマー、PCR増幅用プライマーおよびプローブが含まれる。いくつかの態様において、親和性強化ヌクレオチドの組み入れは、デオキシリボヌクレオチドのみを含むオリゴヌクレオチドと比較して、オリゴヌクレオチドのその標的核酸に対する結合親和性および特異性を高め、より短いオリゴヌクレオチドの、またはオリゴヌクレオチドと標的核酸との間のより短い相補性領域の使用を可能にする。
【0104】
いくつかの態様において、親和性強化ヌクレオチドは、1つまたは複数の塩基修飾、糖修飾および/または骨格修飾を含むヌクレオチドを含む。
【0105】
いくつかの態様において、親和性強化ヌクレオチド中に用いるための修飾塩基には、5-メチルシトシン、イソシトシン、プソイドイソシトシン、5-ブロモウラシル、5-プロピニルウラシル、6-アミノプリン、2-アミノプリン、イノシン、ジアミノプリン、2-クロロ-6-アミノプリン、キサンチンおよびヒポキサンチンが含まれる。
【0106】
いくつかの態様において、親和性強化修飾には、2'-O-アルキル-リボース糖、2'-アミノ-デオキシリボース糖、2'-フルオロ-デオキシリボース糖、2'-フルオロ-アラビノース糖および2'-O-メトキシエチル-リボース(2'MOE)糖といった2'-置換糖などの修飾糖を有するヌクレオチドが含まれる。いくつかの態様において、修飾糖はアラビノース糖またはd-アラビノ-ヘキシトール糖である。
【0107】
いくつかの態様において、親和性強化修飾には、ペプチド核酸(例えば、アミノ酸骨格によって連結された核酸塩基を含むオリゴマー)の使用などの骨格修飾が含まれる。他の骨格修飾には、ホスホロチオエート結合、ホスホジエステル修飾核酸、ホスホジエステルとホスホロチオエート核酸の組み合わせ、メチルホスホネート、アルキルホスホネート、リン酸エステル、アルキルホスホノチオエート、ホスホルアミデート、カルバメート、カルボネート、リン酸トリエステル、アセトアミデート、カルボキシメチルエステル、メチルホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、p-エトキシ、およびそれらの組み合わせが含まれる。
【0108】
いくつかの態様において、オリゴマーは、修飾塩基を有する少なくとも1つの親和性強化ヌクレオチド、修飾糖を有する少なくともヌクレオチド(これは同じヌクレオチドであってもよい)、および天然に存在しない少なくとも1つのヌクレオチド間結合を含む。
【0109】
いくつかの態様において、親和性強化ヌクレオチドは、二環式糖であるロックト(locked)核酸(「LNA」)糖を含む。いくつかの態様において、本明細書に記載した方法に用いるためのオリゴヌクレオチドは、LNA糖を有する1つまたは複数のヌクレオチドを含む。いくつかの態様において、オリゴヌクレオチドは、LNA糖を有するヌクレオチドからなる1つまたは複数の領域を含む。他の態様において、オリゴヌクレオチドは、LNA糖を有するヌクレオチドを、その間にデオキシリボヌクレオチドが差し挟まれた形で含む。例えば、Frieden, M. et al. (2008) Curr. Pharm. Des. 14(11):1138-1142を参照。
【0110】
「プライマー」という用語は、本明細書で用いる場合、精製された制限消化物として天然に存在するものか、または合成的に生成されたものかにかかわらず、核酸鎖に対して相補的なプライマー伸長産物の合成が誘導される条件下(例えば、ヌクレオチド、およびDNAポリメラーゼなどの誘導剤の存在下、ならびに適した温度およびpHの下)に置かれた時に、合成の開始点(point of synthesis)として作用することのできる核酸配列のことを指す。プライマーは、誘導剤の存在下で所望の伸長産物の合成を開始させるのに十分な長さでなければならない。プライマーの正確な長さは、温度、プライマーの配列および用いる方法を含む諸要因に応じて異なると考えられる。プライマーは典型的には15〜25個またはそれ以上のヌクレオチドを含むが、それがより少数のものを含んでもよい。プライマーの適切な長さの決定にかかわる要因は、当業者には直ちに公知である。1つの態様において、15種の遺伝子に対するプライマーセットは、表7に列記されたものである。
【0111】
加えて、当業者は、本発明のバイオマーカーのタンパク質産物の量を決定するためには、ウエスタンブロット法、ELISAおよび免疫沈降などのイムノアッセイに続いてSDS-PAGEおよび免疫細胞化学検査を行うことを含む、いくつかの方法を用いうることを理解しているであろう。
【0112】
したがって、もう1つの態様においては、表4に列記された15種のバイオマーカーのポリペプチド産物を検出するために、抗体が用いられる。もう1つの態様において、試料は組織試料を含む。1つのさらなる態様において、組織試料は、免疫組織化学検査のために適している。
【0113】
「抗体」という用語は、本明細書で用いる場合、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体およびキメラ抗体を含むことを意図している。抗体は組換え供給源に由来してもよく、および/またはトランスジェニック動物において産生されてもよい。「抗体断片」という用語は、本明細書で用いる場合、Fab、Fab'、F(ab')2、scFv、dsFv、ds-scFv、ダイマー、ミニボディ、ダイアボディ、ならびにそれらのマルチマーおよび二重特異性抗体断片を含むことを意図している。抗体は従来の手法を用いて断片化することができる。例えば、F(ab')2断片は、抗体をペプシンで処理することによって生成させることができる。その結果生じたF(ab')2断片をジスルフィド架橋が減るように処理することで、Fab'断片を作製することができる。パパイン消化はFab断片の形成をもたらす。Fab、Fab'およびF(ab')2、scFv、dsFv、ds-scFv、ダイマー、ミニボディ、ダイアボディ、二重特異性抗体断片ならびに他の断片を、組換え手法によって合成することもできる。
【0114】
分子生物学、微生物学および組換えDNA法の従来の手法は、当技術分野の技能の範囲内にある。そのような手法は、文献中に十分に説明されている。例えば、Sambrook, Fritsch & Maniatis, 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition;Oligonucleotide Synthesis (M.J. Gait, ed., 1984);Nucleic Acid Hybridization (B.D. Harnes & S.J. Higgins, eds., 1984);A Practical Guide to Molecular Cloning (B. Perbal, 1984);およびMethods in Enzymology (Academic Press, Inc.)のシリーズ;Short Protocols In Molecular Biology, (Ausubel et al., ed., 1995)を参照のこと。
【0115】
例えば、バイオマーカーのタンパク質産物などの特定のタンパク質に対する特異性を有する抗体を、従来の方法によって調製することができる。哺乳動物(例えば、マウス、ハムスターまたはウサギ)に対して、その哺乳動物における抗体応答を誘発する免疫原性形態のペプチドによる免疫処置を行うことができる。ペプチドに免疫原性を付与するための手法には、担体とのコンジュゲーション、または当技術分野において周知の他の手法が含まれる。例えば、ペプチドをアジュバントの存在下で投与することができる。免疫処置の進行状況は、血漿または血清における抗体価の検出によってモニターすることができる。標準的なELISAまたは他のイムノアッセイ手順を、抗体のレベルを評価するための抗原としての免疫原とともに用いることができる。免疫処置の後に、抗血清を得ることができ、必要に応じて、その血清からポリクローナル抗体を単離することができる。
【0116】
モノクローナル抗体を産生させるために、免疫処置した動物から抗体産生細胞(リンパ球)を採取し、標準的な体細胞融合手順によって骨髄腫細胞と融合させ、そうすることでこれらの細胞を不死化させてハイブリドーマ細胞を生成させることができる。そのような手法は当技術分野において周知である(例えば、Kohler and Milstein(Nature 256:495-497 (1975))によって最初に開発されたハイブリドーマ法のほか、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Kozbor et al., Immunol. Today 4:72 (1983))、ヒトモノクローナル抗体を産生させるためのEBV-ハイブリドーマ法(Cole et al., Methods Enzymol, 121:140-67 (1986))およびコンビナトリアル抗体ライブラリーのスクリーニング(Huse et al., Science 246:1275 (1989)などの他の手法)。ペプチドと特異的に反応する抗体の産生に関してハイブリドーマ細胞を免疫化学的にスクリーニングして、モノクローナル抗体を単離することができる。
【0117】
いくつかの態様においては、表4に列記された15種の遺伝子のタンパク質産物と、および任意で、表3に列記された1つまたは複数の遺伝子の発現産物と特異的に結合する、組換え抗体が提供される。組換え抗体には、ヒト部分および非ヒト部分の両方を含むキメラ抗体およびヒト化モノクローナル抗体、単鎖抗体および多重特異性抗体が非限定的に含まれる。キメラ抗体とは、マウスモノクローナル抗体(mAb)に由来する可変領域およびヒト免疫グロブリン定常領域を有するもののように、異なる部分が異なる動物種に由来する分子のことである(例えば、Cabilly et al., 米国特許第4,816,567号;およびBoss et al., 米国特許第4,816,397号を参照、これらはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。単鎖抗体は1つの抗原結合部位を有し、単一のポリペプチドからなる。それらは当技術分野において公知の手法によって、例えば、Ladner et. al,米国特許第4,946,778号(これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる);Bird et al., (1988) Science 242:423-426;Whitlow et al., (1991) Methods in Enzymology 2:1-9;Whitlow et al., (1991) Methods in Enzymology 2:97-105;およびHuston et al., (1991) Methods in Enzymology Molecular Design and Modeling: Concepts and Applications 203:46-88に記載された方法を用いて作製することができる。多重特異性抗体とは、異なる抗原と特異的に結合する少なくとも2つの抗原結合部位を有する抗体分子のことである。そのような分子は、当技術分野において公知の手法によって、例えば、Segal、米国特許第4,676,980号(その開示内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる);Holliger et al., (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448;Whitlow et al., (1994) Protein Eng 7:1017-1026、および米国特許第6,121,424号に記載された方法を用いて作製することができる。
【0118】
組換えコンビナトリアル免疫グロブリンライブラリー(例えば、抗体ファージディスプレイライブラリー)を関心対象のポリペプチドによってスクリーニングすることにより、表4に列記された遺伝子の発現産物、および任意で、表3に列記された1つまたは複数の遺伝子の発現産物のいずれかを目標とするモノクローナル抗体を同定して単離することができる。ファージディスプレイライブラリーの作製およびスクリーニングのためのキットは市販されている(例えば、Pharmacia Recombinant Phage Antibody System、カタログ番号27-9400-01;およびStratagene SurEZAP Phage Display Kit、カタログ番号240612)。このほかに、抗体ディスプレイライブラリーの作製およびスクリーニングに用いるために特に適した方法および試薬の例は、例えば、米国特許第5,223,409号;PCT公報WO 92/18619号;PCT公報WO 91/17271号;PCT公報WO 92/20791号;PCT公報WO 92/15679号;PCT公報WO 93/01288号;PCT公報WO 92/01047号;PCT公報WO 92/09690号;PCT公報WO 90/02809号;Fuchs et al. (1991) Bio/Technology 9:1370-1372;Hay et al. (1992) Hum. Antibod. Hybridomas 3:81-85;Huse et al. (1989) Science 246:1275-1281;Griffiths et al. (1993) EMBO J 12:725-734に記載がある。
【0119】
ヒト化抗体とは、非ヒト種由来の1つまたは複数の相補性決定領域(CDR)およびヒト免疫グロブリン分子由来のフレームワーク領域を有する、非ヒト種由来の抗体分子のことである(例えば、Queen、米国特許第5,585,089号を参照、これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる)。ヒト化モノクローナル抗体は、当技術分野で公知の組換えDNA法によって、例えば、PCT公報WO 87/02671号;欧州特許出願第184,187号;欧州特許出願第171,496号;欧州特許出願第173,494号;PCT公報WO 86/01533号;米国特許第4,816,567号;欧州特許出願第125,023号;Better et al. (1988) Science 240:1041-1043;Liu et al. (1987) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:3439-3443;Liu et al. (1987) J. Immunol. 139:3521-3526;Sun et al. (1987) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:214-218;Nishimura et al. (1987) Cancer Res. 47:999-1005;Wood et al. (1985) Nature 314:446-449;およびShaw et al. (1988) J. Natl. Cancer Inst. 80:1553-1559);Morrison (1985) Science 229:1202-1207;Oi et al. (1986) Bio/Techniques 4:214;米国特許第5,225,539号;Jones et al. (1986) Nature 321:552-525;Verhoeyan et al. (1988) Science 239:1534;およびBeidler et al. (1988) J. Immunol. 141:4053-4060に記載された方法を用いて作製することができる。
【0120】
いくつかの態様において、ヒト化抗体は、例えば、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子および軽鎖遺伝子を発現できないが、ヒトの重鎖遺伝子および軽鎖遺伝子は発現することのできるトランスジェニックマウスを用いて産生させることができる。トランスジェニックマウスに対して、選択した抗原、例えばタンパク質産物に対応するポリペプチドの全体または一部分により、通常の方式で免疫処置を行う。その抗原を目標とするモノクローナル抗体は、従来のハイブリドーマ技術を用いて得ることができる。このトランスジェニックマウスが保有するヒト免疫グロブリン導入遺伝子はB細胞分化の際に再配列を生じ、その後にクラス転換および体細胞突然変異を起こす。このため、そのような手法を用いることで、治療的に有用なIgG抗体、IgA抗体およびIgE抗体を作製することが可能である。ヒト抗体を作製するためのこの技術の概要については、Lonberg and Huszar (1995) Int. Rev. Immunol. 13:65-93)を参照のこと。ヒト抗体およびヒトモノクローナル抗体を作製するためのこの技術、ならびにそのような抗体を作製するためのプロトコールに関する詳細な考察については、例えば、米国特許第5,625,126号;米国特許第5,633,425号;米国特許第5,569,825号;米国特許第5,661,016号および米国特許第5,545,806号を参照のこと。さらに、Abgenix, Inc.(Fremont, Calif.)などの企業は、上記のものに類似した技術を用いて、選択した抗原を目標とするヒト抗体を提供する業務を行っている。
【0121】
抗体を産生の後(例えば、対象の血液もしくは血清から)または合成の後に単離し、周知の手法によってさらに精製することもできる。例えば、IgG抗体はプロテインAクロマトグラフィーを用いて精製することができる。タンパク質に対して特異的な抗体は、例えば、アフィニティークロマトグラフィーによって選択すること、または(例えば、部分的に精製すること)もしくは精製することができる。例えば、組換え発現されて精製された(または部分的に精製された)タンパク質を生成させて、例えば、クロマトグラフィーカラムなどの固体支持体と共有結合性または非共有結合性にカップリングさせる。続いてこのカラムを、複数の異なるエピトープを目標とする抗体を含む試料から、表3および4に列記された遺伝子のタンパク質産物に対して特異的な抗体をアフィニティー精製し、それによって、実質的に精製された抗体組成物、すなわち、混入性抗体を実質的に含まないものを作製するために用いることができる。実質的に精製された抗体組成物とは、この文脈において、その抗体試料が表3および4に列記された遺伝子のタンパク質産物のもの以外のエピトープを目標とする混入性抗体を最大でも30%(乾燥重量比)しか含まず、好ましくは試料の最大でも20%、さらにより好ましくは最大でも10%、最も好ましくは最大でも5%(乾燥重量比)が混入性抗体であることを意味する。精製された抗体組成物とは、組成物中の抗体の少なくとも99%が所望のタンパク質を目標とすることを意味する。
【0122】
いくつかの態様において、実質的に精製された抗体は、表3および4に列記された遺伝子のうち1つのタンパク質産物のシグナルペプチド、分泌配列、細胞外ドメイン、膜貫通ドメインもしくは細胞質ドメインまたは細胞質膜と特異的に結合することができる。1つの態様において、実質的に精製された抗体は、表3および4に列記された遺伝子のうち1つのタンパク質産物のアミノ酸配列の分泌配列または細胞外ドメインと特異的に結合する。
【0123】
いくつかの態様において、表3および4に列記された遺伝子のうち1つのタンパク質産物を目標とする抗体は、そのタンパク質の発現のレベルおよびパターンを評価する目的で、(例えば、細胞溶解液または細胞上清中の)タンパク質産物またはその断片を検出するために用いることができる。検出可能な物質とカップリングされた抗体を含む抗体誘導体の使用により、検出を容易にすることができる。検出可能な物質の例には、さまざまな酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質、生物発光物質および放射性物質が含まれる。適した酵素の例には、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼまたはアセチルコリンエステラーゼが含まれ;適した補欠分子族複合体の例には、ストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビオチンが含まれ;適した蛍光物質の例には、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリドまたはフィコトリエンが含まれ;発光物質の例にはルミノールが含まれ;生物発光物質の例には、ルシフェラーゼ、ルシフェリンおよびエクオリンが含まれ、適した放射性物質の例には、125I、131I、35Sまたは3Hが含まれる。
【0124】
所与の抗体と結合するタンパク質産物を含む試料が与えられたとして、15種の遺伝子および任意の補足的遺伝子のそれぞれの発現レベルを測定するためには種々の手法を用いることができる。そのような形式の例には、酵素イムノアッセイ(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ウエスタンブロット分析および固相酵素免疫アッセイ(ELISA)が非限定的に含まれる。当業者は、公知のタンパク質/抗体検出方法を、表4および3に列記された遺伝子の15種の産物および任意の補足的産物のタンパク質発現レベルの決定に用いるために容易に適合させることができる。
【0125】
1つの態様においては、発現されたタンパク質を検出するために、抗体、または抗体断片もしくは誘導体を、ウエスタンブロット法または免疫蛍光法などの方法に用いることができる。いくつかの態様においては、抗体またはタンパク質のいずれかを固体支持体上に固定化する。適した固相支持体または担体には、抗原または抗体と結合することのできる任意の支持体が含まれる。周知の支持体または担体には、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、アミラーゼ、天然セルロースおよび修飾セルロース、ポリアクリルアミド、斑糲岩および磁鉄鉱が含まれる。
【0126】
当業者は、抗体または抗原と結合させるのに適した他の多くの担体を承知していると考えられ、そのような支持体を本開示との使用のために適合させることができると考えられる。続いて、支持体を適したバッファーで洗浄し、その後に検出可能なように標識された抗体で処理することができる。続いて、結合しなかった抗体を除去するために、固相支持体をバッファーで再び洗浄してもよい。続いて、固体支持体上に結合した標識の量を従来の手段によって検出することができる。
【0127】
免疫組織化学検査法も、予後診断的マーカーの発現レベルを検出するのに適している。いくつかの態様においては、各マーカーに対して特異的なポリクローナル抗血清およびモノクローナル抗体を含む抗体または抗血清を、発現を検出するために用いる。抗体は、例えば、放射性標識、蛍光性標識、ビオチンなどのハプテン標識、または西洋ワサビペルオキシダーゼもしくはアルカリホスファターゼなどの酵素による抗体自体の直接標識によって検出することができる。または、標識されていない一次抗体を、一次抗体に対して特異的な抗血清、ポリクローナル抗血清またはモノクローナル抗体を含む、標識された二次抗体とともに用いる。免疫組織化学検査のプロトコールおよびキットは当技術分野において周知であり、市販されている。
【0128】
特異的なポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれかを用いて、複合体の形成をタンパク質発現の指標として検出および測定するための免疫学的方法は、当技術分野において公知である。そのような手法の例には、固相酵素免疫アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光活性化細胞分取法(FACS)および抗体アレイが含まれる。そのようなイムノアッセイは、典型的には、タンパク質とその特異的抗体との間の複合体形成の測定を伴う。精製されて標識された標準物質に対するこれらのアッセイおよびそれらの定量は、当技術分野において周知である(Ausubel、前記、unit 10.1-10.6)。2つの非干渉性エピトープと反応するモノクローナル抗体を利用するモノクローナルベースの2部位イムノアッセイが好ましいが、競合結合アッセイを用いることもできる(Pound (1998) Immunochemical Protocols, Humana Press, Totowa N.J.)。
【0129】
さまざまな標識が利用可能であり、これらは一般に以下のカテゴリーにグループ分けすることができる:
(a)放射性同位体、例えば.sup.36S、.sup.14C、.sup.125I、.sup.3Hおよび.sup.131Iなど。抗体変異体を、例えば、Current Protocols in Immunology, vol 1-2, Coligen et al., Ed., Wiley-Interscience, New York, Pubs. (1991)に記載された手法を用いて標識して、放射能をシンチレーション計数法を用いて測定することができる。
(b)蛍光性標識、例えば希土類キレート(ユーロピウムキレート)またはフルオレセインおよびその誘導体、ローダミンおよびその誘導体、ダンシル、リサミン、フィコエリトリン、テキサスレッドなどが利用可能である。例えば、Current Protocols in Immunology、前記に開示された手法を用いて、蛍光性標識を抗体変異体とコンジュゲートさせることができる。蛍光は蛍光光度計を用いて定量することができる。
(c)さまざまな酵素-基質標識が利用可能であり、米国特許第4,275,149号、第4,318,980号はこれらのいくつかの概説を提示している。酵素は一般に発色性基質の化学的変化を触媒し、それをさまざまな手法を用いて測定することができる。例えば、酵素が基質の呈色変化を触媒し、それを分光光度法で測定することができてもよい。または、酵素が基質の蛍光または化学発光を変化させてもよい。蛍光の変化を定量するための手法は上述されている。化学発光性基質は化学反応によって電子的に励起され、続いて(例えば、化学照度計を用いて)測定しうる光を発するか、または蛍光受容体にエネルギーを供与する。酵素標識の例には、ルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼおよび細菌ルシフェラーゼ;米国特許第4,737,456号)、ルシフェリン、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ウレアーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRPO)などのペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカリドオキシダーゼ(例えば、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼおよびグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ)、複素環オキシダーゼ(ウリカーゼおよびキサンテンオキシダーゼなど)、ラクトペルオキシダーゼ、およびミクロペルオキシダーゼなどが含まれる。抗体に酵素をコンジュゲートさせるための手法は、O'Sullivan et al., Methods for the Preparation of Enzyme-Antibody Conjugates for Use in Enzyme Immunoassay, in Methods in Enzyme. (Ed. J. Langone & H. Van Vunakis), Academic press, New York, 73: 147-166 (1981)に記載されている。
【0130】
いくつかの態様においては、検出用標識を抗体と間接的にコンジュゲートさせる。当業者は、これを達成するためのさまざまな手法を承知しているであろう。例えば、抗体にビオチンをコンジュゲートさせ、上述した3つの広範なカテゴリーの標識のいずれかをアビジンとコンジュゲートさせること、またはその逆を行うことができる。ビオチンはアビジンと選択的に結合するため、この間接的な様式で標識を抗体にコンジュゲートさせることができる。または、抗体と標識との間接的コンジュゲーションを達成するために、抗体に低分子ハプテン(例えば、ジゴキシン)をコンジュゲートさせ、上述した種々のタイプの標識のうち1つを抗ハプテン抗体(例えば、抗ジゴキシン抗体)とコンジュゲートさせる。いくつかの態様において、抗体を標識する必要はなく、その存在は、その抗体と結合する標識抗体を用いて検出することができる。
【0131】
本明細書に記載した15遺伝子シグネチャーは、NCSLC患者に対する治療を選択するために用いることができる。本明細書で説明したように、これらのバイオマーカーは、NSCLCを有する患者を生存不良群または生存良好群に、およびアジュバント化学療法による利得を受ける可能性があると考えられる群またはそうでない群に分類することができる。
【0132】
したがって、1つの態様において、本出願は、NSCLCを有する対象に対する治療法を選択する方法であって、以下の段階を含む方法を提供する:
(a)NSCLCを有する対象を、本明細書に記載した方法に従って生存不良群または生存良好群に分類する段階;および
(b)生存不良群の中にいると分類された対象に対してアジュバント化学療法を選択する、または生存良好群の中にいると分類された対象に対してアジュバント化学療法を行わないことを選択する段階。
【0133】
もう1つの態様において、本出願は、NSCLCを有する対象に対する治療法を選択する方法であって、以下の段階を含む方法を提供する:
(a)対象由来の被験試料における15種のバイオマーカーの発現を決定する段階であって、15種のバイオマーカーが表4における15種の遺伝子に対応する段階;
(b)被験試料における15種のバイオマーカーの発現を、対照試料における15種のバイオマーカーと比較する段階;
(c)対象を生存不良群または生存良好群に分類する段階であって、対照試料と被験試料との間の15種のバイオマーカーの発現の差または類似性が、対象を生存不良群または生存良好群に分類するために用いられる段階;および
(d)対象が生存不良群に分類されればアジュバント化学療法を選択し、対象が生存良好群に分類されればアジュバント化学療法を行わないことを選択する段階。
【0134】
「アジュバント化学療法」という用語は、本明細書で用いる場合、検出可能な病変はすべて除去されたが少量の癌が残存するリスクが依然としてある場合の、手術後の化学療法薬による癌の治療のことを意味する。典型的な化学療法薬には、シスプラチン、カルボプラチン、ビノレルビン、ゲムシタビン、ドセタキセル(doccetaxel)、パクリタキセルおよびナベルビンが含まれる。
【0135】
もう1つの局面において、本出願は、表4に列記された15種の遺伝子の発現レベルの変化の検出において有用な組成物を提供する。したがって、1つの態様において、本出願は、複数の単離された核酸配列を含む組成物であって、単離された各核酸配列が、以下のもの:
(a)表4に列記された15種の遺伝子のうち1つのRNA産物;および/または
(b)a)に対して相補的な核酸、
とハイブリダイズする、15種の遺伝子のRNA発現のレベルを測定するために用いられる組成物を提供する。1つの特定の態様において、複数の単離された核酸配列は、表9に示された15種のプローブ標的配列とハイブリダイズしうる単離された核酸配列を含む。1つの態様において、複数の単離された核酸配列は、SEQ ID NO:3、11〜15、22、26、35、49、78、85、130、133および169とハイブリダイズしうる単離された核酸を含む。
【0136】
もう1つの態様において、本出願は、表4に列記された各遺伝子のある領域を増幅するための15種の順方向プライマーおよび15種の逆方向プライマーを含む組成物を提供する。特定の態様において、この30種のプライマーは表7に示されている。1つの態様において、この30種のプライマーはそれぞれ、SEQ ID NO:173〜202のうち1つの配列と同一な配列を含む。
【0137】
1つのさらなる局面において、本出願はまた、表4に示された15種の遺伝子の発現レベルの検出において有用なアレイも提供する。したがって、1つの態様において、本出願は、表4に示された各遺伝子に関して、遺伝子の発現産物に対して相補的であってそれとハイブリダイズしうる1つまたは複数のポリヌクレオチドプローブを含むアレイを提供する。1つの特定の態様において、このアレイは、表9に列記されたプローブ標的配列とハイブリダイズしうる核酸プローブを含む。1つの態様において、このアレイは、SEQ ID NO:3、11〜15、22、26、35、49、78、85、130、133および169のそれぞれに対して同一な配列とハイブリダイズしうる核酸プローブを含む。
【0138】
さらにもう1つの局面において、本出願はまた、バイオマーカーの発現産物を検出しうる検出用物質を含む、NSCLCを有する対象を生存良好群もしくは生存不良群に予後診断もしくは分類するため、またはNSCLCを有する対象に対する治療法を選択するために用いられるキットも提供する。したがって、1つの態様において、本出願は、15種のバイオマーカーの発現産物を検出しうる検出用物質を含み、15種のバイオマーカーが表4における15種の遺伝子で構成される、早期NSCLCを有する対象の予後診断または分類のためのキットを提供する。もう1つの態様において、対象を分類するためのキットは、16種、17種または18種のバイオマーカーの発現を検出しうる検出用物質を含み、ここで15種のバイオマーカーは表4における15種の遺伝子で構成され、補足的なバイオマーカーは表3に列記された遺伝子から選択される。1つの態様において、補足的な16番目、17番目および18番目のバイオマーカーは、表3に列記されたRGS4、UGT2B4およびMCF2から選択することができる。
【0139】
1つの態様において、本出願は、15種のバイオマーカーの発現産物を検出しうる検出用物質を含み、15種のバイオマーカーが表4における15種の遺伝子で構成される、NSCLCを有する対象に対する治療法を選択するためのキットを提供する。いくつかの態様において、対象に対する治療法を選択するためのキットは、16種、17種または18種のバイオマーカーの発現を検出しうる検出用物質を含み、ここで15種のバイオマーカーは表4における15種の遺伝子で構成され、補足的なバイオマーカーは表3に列記された遺伝子から選択される。1つの態様において、補足的な16番目、17番目および18番目のバイオマーカーは、表3に列記されたRGS4、UGT2B4およびMCF2から選択することができる。
【0140】
本開示の材料および方法は、周知の手順に従って作製されたキットの調製のために理想的に適している。いくつかの態様において、キットは、例えば、SEQ ID NO:3、11〜15、22、26、35、49、78、85、130、133および169、表9に列記された標的配列、または表11に列記された標的配列といった、開示された配列の発現の検出のための作用物質(非限定的な例として本明細書に記載したポリヌクレオチドおよび/または抗体のような)を含む。キットは、例えば、前もって製造されたマイクロアレイ、バッファー、適切なヌクレオチド三リン酸(例えば、dATP、dCTP、dGTPおよびdTTP;またはrATP、rCTP、rGTPおよびUTP)、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、および1つまたは複数のプライマー複合体(例えば、RNAポリメラーゼとの反応性があるプロモーターと連結された適切な長さのポリ(T)またはランダムプライマー)といったさまざまな試薬(濃縮形態のこともある)の1つまたは複数をそれぞれが有する、複数の容器を含むことができる。説明書一式も典型的には含められると考えられる。
【0141】
いくつかの態様において、キットは、そのそれぞれが標的核酸またはタンパク質と特異的に結合することのできる複数の試薬を含みうる。標的タンパク質と結合させるために適した試薬には、抗体、抗体誘導体、抗体断片などが含まれる。標的核酸(例えば、ゲノムDNA、mRNA、スプライシングを受けたmRNA、cDNAなど)と結合させるために適した試薬には、相補的核酸が含まれる。例えば、核酸試薬には、基質に固定されたオリゴヌクレオチド(標識性または非標識性)、基質と結合していない標識オリゴヌクレオチド、PCRプライマーの対、分子ビーコンプローブなどが含まれうる。
【0142】
いくつかの態様において、キットは、遺伝子発現レベルを検出するために有用な補足的な成分を含みうる。一例として、キットは、相補的核酸をアニーリングさせるため、または抗体をそれが特異的に結合するタンパク質と結合させるために適した液体(例えば、SSCバッファー)、1つまたは複数の試料区画、発現レベルの検出のための指示を与える材料などを含むことができる。
【0143】
いくつかの態様において、本明細書に記載したRT-PCR法に用いるためのキットは、1つまたは複数の標的RNA特異的FRETプローブ、および、標的RNAの逆転写のため、またはそれから逆転写されたcDNAの増幅のための1つまたは複数のプライマーを含む。
【0144】
いくつかの態様において、プライマーの1つまたは複数は「線状」である。「線状」プライマーとは、一本鎖分子であって、かつ典型的には、プライマーが内部二重鎖を形成するような、同じオリゴヌクレオチド内部の別の領域に対して相補的な短い領域、例えば、少なくとも3個、4個または5個の連続したヌクレオチドを含まないオリゴヌクレオチドのことを指す。いくつかの態様において、逆転写に用いるためのプライマーは、標的RNAの5'末端の少なくとも4個、例えば少なくとも5個、例えば少なくとも6個、例えば少なくとも7個またはそれ以上といった連続したヌクレオチドの領域に対して相補的な塩基配列を有する、少なくとも4個、例えば少なくとも5個、例えば少なくとも6個、例えば少なくとも7個またはそれ以上といった連続したヌクレオチドの領域を3'末端に含む。
【0145】
いくつかの態様において、キットは、標的RNAから逆転写されたcDNAの増幅のための、線状プライマーの1つまたは複数の対(「順方向プライマー」および「逆プライマー」)をさらに含む。したがって、いくつかの態様において、順方向プライマーは、標的RNAの5'末端の少なくとも4個、例えば少なくとも5個、例えば少なくとも6個、例えば少なくとも7個、例えば少なくとも8個、例えば少なくとも9個、例えば少なくとも10個といった連続したヌクレオチドの領域の塩基配列に対して相補的な塩基配列を有する、少なくとも4個、例えば少なくとも5個、例えば少なくとも6個、例えば少なくとも7個、例えば少なくとも8個、例えば少なくとも9個、例えば少なくとも10個といった連続したヌクレオチドの領域を含む。さらに、いくつかの態様において、逆方向プライマーは、標的RNAの3'末端の少なくとも4個、例えば少なくとも5個、例えば少なくとも6個、例えば少なくとも7個、例えば少なくとも8個、例えば少なくとも9個、例えば少なくとも10個といった連続したヌクレオチドの領域の塩基配列に対して相補的な塩基配列を有する、少なくとも4個、例えば少なくとも5個、例えば少なくとも6個、例えば少なくとも7個、例えば少なくとも8個、例えば少なくとも9個、例えば少なくとも10個といった連続したヌクレオチドの領域を含む。
【0146】
いくつかの態様において、キットは、表4に列記された遺伝子の1つの中に同一な形で存在する配列を含む核酸と特異的にハイブリダイズしうる標的RNAから逆転写されたcDNAの増幅のための、少なくとも第1のセットのプライマーを含む。いくつかの態様において、本キットは、そのそれぞれが、表4に列記された異なる遺伝子の中に同一な形で存在する配列を含む核酸と特異的にハイブリダイズしうる異なる標的RNAの増幅のためのものである、少なくとも15セットのプライマーを含む。1つの態様において、本キットは、SEQ ID NO 173〜202と同一な配列を含む、表7に記載された15種の順方向プライマーおよび15種の逆方向プライマーを含む。いくつかの態様において、本キットは、15セットのプライマーに加えて、補足的セットのそれぞれが、表3に列記された異なる遺伝子の中に同一な形で存在する配列を含む核酸と特異的にハイブリダイズしうる異なる標的RNAの増幅のためのものである、さらに1セット、2セットまたは3セットのプライマーを含む。いくつかの態様において、本キットは、15セットのプライマーに加えて、補足的セットのそれぞれが、表3に列記されたRGS4、UGT2B4またはMCF2の中に同一な形で存在する配列を含む配列と特異的にハイブリダイズしうる異なる標的RNAの増幅のためのものである、さらに1セット、2セットまたは3セットのプライマーを含む。いくつかの態様において、本キットは、試料中の標的RNAから逆転写された複数のcDNAを増幅することのできる、少なくとも1セットのプライマーを含む。
【0147】
いくつかの態様において、本明細書に記載した組成物中に用いるためのプローブおよび/またはプライマーは、デオキシリボヌクレオチドを含む。いくつかの態様において、本明細書に記載した組成物中に用いるためのプローブおよび/またはプライマーは、デオキシリボヌクレオチド、および、上記のLNA類似体または他の二重鎖安定化性ヌクレオチド類似体といった1つまたは複数のヌクレオチド類似体を含む。いくつかの態様において、本明細書に記載した組成物中に用いるためのプローブおよび/またはプライマーは、すべてヌクレオチド類似体で構成される。いくつかの態様において、プローブおよび/またはプライマーは、相補性領域内に、LNA類似体などの1つまたは複数の二重鎖安定化性ヌクレオチド類似体を含む。
【0148】
いくつかの態様において、本明細書に記載した組成物はまた、標的RNAの数量の正規化に用いるための1つまたは複数のハウスキーピング遺伝子に対して特異的な、プローブ、さらにRT-PCRの場合にはプライマーも含む。そのようなプローブ(およびプライマー)には、ACTB、BAT1、B2M、TBP、U6 snRNA、RNU44、RNU 48およびU47から選択されるハウスキーピング遺伝子の1つまたは複数の産物に対して特異的なものが含まれる。
【0149】
いくつかの態様において、本明細書に記載したリアルタイムRT-PCR法に用いるためのキットは、逆転写反応および増幅反応に用いるための試薬をさらに含む。いくつかの態様において、本キットは、逆転写酵素、およびTaqポリメラーゼなどの耐熱性DNAポリメラーゼといった酵素を含む。いくつかの態様において、本キットは、逆転写および増幅に用いるためのデオキシリボヌクレオチド三リン酸(dNTP)をさらに含む。さらなる態様において、本キットは、プローブとプライマーとの特異的ハイブリダイゼーションのために最適化されたバッファーを含む。
【0150】
いくつかの態様においては、検出可能な物質とコンジュゲートされた、表4に列記された遺伝子のタンパク質産物のそれぞれに対する抗体、および使用説明書を含むキットが提供される。いくつかの態様において、本キットは、表4に列記された遺伝子のタンパク質産物のそれぞれに対する抗体に加えて、表3に列記された遺伝子のうち1つ、2つまたは3つのタンパク質産物に対する抗体も含む。いくつかの態様において、本キットは、表4に列記された遺伝子のタンパク質産物のそれぞれに対する抗体に加えて、表3に列記されたRGS4、UGT2B4またはMCF2のうち1つ、2つまたは3つすべてのタンパク質産物に対する抗体も含む。キットは、マーカータンパク質またはタンパク質の断片と特異的に結合する、抗体、抗体誘導体または抗体断片を含みうる。また、そのようなキットが複数の抗体、抗体誘導体または抗体断片を含んでもよく、ここで複数のそのような抗体性作用物質はマーカータンパク質またはタンパク質の断片と特異的に結合する。
【0151】
いくつかの態様において、キットは、生物試料中のタンパク質を検出するための、標識された抗体または標識可能な抗体といった抗体、および化合物または作用物質;試料中のタンパク質の量を決定するための手段;試料中のタンパク質の量を標準物質と比較するための手段;ならびに使用説明書を含みうる。そのようなキットは、単一のタンパク質もしくはエピトープを検出する目的で供給することもでき、または、抗体検出アレイにおけるように、数多くのエピトープの1つを検出するように構成することもできる。本明細書ではアレイを核酸アレイに関して詳述しており、類似の方法が抗体アレイに関しても開発されている。
【0152】
当業者は、さまざまな検出用物質をバイオマーカーの発現の決定のために用いうることを理解しているであろう。例えば、バイオマーカーのRNA産物を検出するためには、そのRNA産物とハイブリダイズするプローブ、プライマー、相補的ヌクレオチド配列またはヌクレオチド配列を用いるとよい。バイオマーカーのタンパク質産物を検出するためには、そのタンパク質産物と特異的に結合するリガンドまたは抗体を用いるとよい。
【0153】
したがって、1つの態様において、検出用物質は、15種のバイオマーカーとハイブリダイズするプローブである。1つの特定の態様において、プローブ標的配列は表9に示された通りである。1つの態様において、プローブ標的配列は、SEQ ID NO:3、11〜15、22、26、35、49、78、85、130、133および169と同一である。もう1つの態様において、検出用物質は、表4に列記された15種の遺伝子のそれぞれのある領域を増幅する順方向プライマーおよび逆方向プライマーである。1つの特定の態様において、プライマーは表7に示された通りである。1つの態様において、プライマーは、SEQ ID NO:173〜202のポリヌクレオチド配列を含む。
【0154】
当業者は、検出用物質が標識可能であることを理解しているであろう。
【0155】
標識は好ましくは、検出可能なシグナルを、直接的または間接的に生成することができる。例えば、標識は、放射線不透体または放射性同位体、例えば3H、14C、32P、35S、123I、125I、131Iなど;蛍光性(フルオロフォア)または化学発光性(クロモフォア)化合物、例えばフルオレセインイソチオシアネート、ローダミンまたはルシフェリンなど;酵素、例えばアルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼまたは西洋ワサビペルオキシダーゼなど;造影剤;または金属イオンであってよい。
【0156】
また、キットが、対照もしくは参照標準物質および/またはその使用説明書を含むこともできる。加えて、キットは、検出用物質の貯蔵もしくは輸送のための器、および/またはバッファーもしくは安定化剤といった補助物質も含むことができる。
【0157】
いくつかの局面においては、肺癌を有する患者の予後診断または分類のための複数遺伝子シグネチャーが提供される。いくつかの態様においては、生存良好もしくは生存不良などの転帰、および/またはアジュバント化学療法などの治療内容が既知である過去のデータセットからの相対的発現データに基づく15種の遺伝子のそれぞれに関する基準値を含む、15遺伝子シグネチャーが提供される。1つの態様においては、表4に列記された15種の遺伝子のそれぞれに関して4つの基準値が提供される。1つの態様において、15種の遺伝子のそれぞれに関する基準値は、表10に示された主成分値である。
【0158】
1つの局面においては、15種の遺伝子および任意で補足的遺伝子のそれぞれに関して、遺伝子毎に、患者からの相対的発現データを遺伝子特異的な基準値と組み合わせて、予後診断または治療法の推奨を可能にする試験値を生成させる。いくつかの態様においては、相対的発現データを、単一の試験値または複合スコアを生じるアルゴリズムにかけ、それを続いて、患者または患者プールに関する過去の発現データから得られた対照値と比較する。
【0159】
いくつかの態様において、対照値は、転帰、例えば転帰良好および転帰不良を予測するため、または、例えば外科的切除に加えてアジュバント療法を行うか、もしくは外科的切除のみを行うといった治療法の推奨を行うための数的閾値のことである。いくつかの態様において、対照値を上回る試験値または複合スコアは、例えば、転帰不良であること、またはアジュバント療法による利得に関して予測的であり、一方、対照値を下回る複合スコアは、例えば、転帰良好であること、またはアジュバント療法による利得がないことに関して予測的である。
【0160】
いくつかの態様において、NSCLCを有する対象の予後診断または分類のための方法は、
(a)被験試料における、表4からの少なくとも15種のバイオマーカー、および任意で、表3からの補足的な1つ、2つまたは3つのバイオマーカーの発現レベルを測定する段階、
(b)それらの発現レベルから、対象に関する複合スコアまたは試験値を算出する段階、および
(c)複合スコアを対照値と比較する段階、を含み、
ここで、対照値を上回る試験値または複合スコアは、対象を高リスク群または生存不良群に分類するために用いられ、対照値を下回る試験値または複合スコアは、対象を低リスク群または生存良好群に分類するために用いられる。
【0161】
1つの態様において、複合スコアは、各遺伝子に関して、相対的発現データに過去のデータから決定された基準値を乗算することによって算出される。すなわち、複合スコアは、以下の式Iのアルゴリズムを用いて算出しうる:
複合スコア=0.557×PC1+0.328×PC2+0.43×PC3+0.335×PC4
式中、PC1は、複数遺伝子シグネチャー中の各遺伝子に関する相対的発現レベルに複数遺伝子シグネチャー中の各遺伝子に関する第1主成分を乗算したものの合計であり、PC2は、各遺伝子に関する相対的発現レベルに各遺伝子に関する第2主成分を乗算したものの合計であり、PC3は、各遺伝子に関する相対的発現レベルに各遺伝子に関する第3主成分を乗算したものの合計であり、PC4は、各遺伝子に関する相対的発現レベルに各遺伝子に関する第4主成分を乗算したものの合計である。いくつかの態様において、複合スコアはリスクスコアと称される。対象に関するリスクスコアは、対象から得た被験試料からの相対的発現データに対して式Iを適用することによって算出しうる。
【0162】
いくつかの態様において、PC1は、表4に提示された各遺伝子に関する相対的発現レベルに、表10に示された各遺伝子に関する第1主成分をそれぞれ乗算したものの合計である;PC2は、表4に提示された各遺伝子に関する相対的発現レベルに、表10に示された各遺伝子に関する第2主成分をそれぞれ乗算したものの合計である;PC3は、表4に提示された各遺伝子に関する相対的発現レベルに、表10に示された各遺伝子に関する第3主成分をそれぞれ乗算したものの合計である;かつ、PC4は、表4に提示された各遺伝子に関する相対的発現レベルに、表10に示された各遺伝子に関する第4主成分をそれぞれ乗算したものの合計である。
【0163】
1つの態様において、対照値は-0.1に等しい。-0.1を上回るリスクスコアを有する対象は高リスク(予後不良)として分類される。-0.1未満のリスクスコアを有する患者は、リスクがより低い(予後良好)と分類される。いくつかの態様において、アジュバント化学療法は、-0.1を上回るリスクスコアを有する対象に対して推奨され、-0.1未満のリスクスコアを有する対象に対しては推奨されない。
【0164】
1つのさらなる局面において、本出願は、本明細書に記載した方法を実行するためのコンピュータプログラムおよびコンピュータ実行製品を提供する。したがって、1つの態様において、本出願は、コンピュータ機構(computer mechanism)がコード化されたコンピュータ可読記憶媒体を含む、プロセッサおよびプロセッサに接続されたメモリを有するコンピュータとともに用いるためのコンピュータプログラム製品であって、コンピュータプログラム機構をコンピュータのメモリにロードして、コンピュータに本明細書に記載した方法を実行させることができる、コンピュータプログラム製品を提供する。
【0165】
もう1つの態様において、本出願は、NSCLCを有する対象の予後を予測するため、または対象を分類するためのコンピュータ実行製品であって、以下のもの:
(a)対象試料における対象発現プロファイルに対応する値を受け取るための手段;および
(b)予後と関連のある参照発現プロファイルを含むデータベースであって、対象バイオマーカー発現プロファイルおよびバイオマーカー参照プロファイルがそれぞれ、各値がバイオマーカーの発現レベルを表している15個の値を有し、各バイオマーカーが表4における1つの遺伝子に対応するデータベース;を含み、
対象バイオマーカー発現プロファイルに最も類似しているバイオマーカー参照発現プロファイルを選択し、それによって予後を予測するか、または対象を分類する、コンピュータ実行製品を提供する。
【0166】
さらにもう1つの態様において、本出願は、NSCLCを有する対象に対する治療法を決定するためのコンピュータ実行製品であって、以下のもの:
(a)対象試料における対象発現プロファイルに対応する値を受け取るための手段;および
(b)治療法と関連のある参照発現プロファイルを含むデータベースであって、対象バイオマーカー発現プロファイルおよびバイオマーカー参照プロファイルがそれぞれ、各値がバイオマーカーの発現レベルを表している15個の値を有し、各バイオマーカーが表4における1つの遺伝子に対応するデータベース;を含み、
対象バイオマーカー発現プロファイルに最も類似しているバイオマーカー参照発現プロファイルを選択し、それによって治療法を予測する、コンピュータ実行製品を提供する。
【0167】
もう1つの局面は、CD-ROMなどのコンピュータ可読媒体に関する。1つの態様において、本出願は、本明細書に記載したコンピュータ実行製品を記憶するためのデータ構造が記憶されているコンピュータ可読媒体を提供する。
【0168】
1つの態様において、データ構造は、そのデータ構造に属する記録に基づいてクエリーに応答するようにコンピュータを設定することができ、記録のそれぞれは以下のものを含む:
(a)表4における15種の遺伝子のバイオマーカー参照発現プロファイルを特定する値;
(b)バイオマーカー参照発現プロファイルと関連のある予後の確率を特定する値。
【0169】
もう1つの局面において、本出願は、以下のものを含むコンピュータシステムを提供する:
(a)予後診断または治療法と関連のある表4における15種の遺伝子のバイオマーカー参照発現プロファイルを含む記録を含むデータベース;
(b)データベース中のバイオマーカー参照発現プロファイルとの比較に用いるための、表4における15種の遺伝子の遺伝子発現レベルの選択を受け取ることのできるユーザーインターフェース;および
(c)15種の遺伝子の発現レベルと最も類似しているバイオマーカー参照発現プロファイルに応じて予後診断または治療法の予測を表示する出力装置。
【0170】
いくつかの態様において、本出願は、以下のものを含むコンピュータ実行製品を提供する:
(a)表4における15種の遺伝子、および任意で、表3に列記された遺伝子から選択される補足的な1つ、2つまたは3つの遺伝子を含む、少なくとも15種のバイオマーカーの、対象試料における相対的発現レベルに対応する値を受け取るための手段;
(b)少なくとも15種のバイオマーカーの相対的発現レベルに基づいて複合スコア(combined scire)を算出するためのアルゴリズム;
(c)複合スコアを表示する出力装置;および任意で、
(d)複合スコアに基づいて予後診断または治療法の推奨を表示する出力装置。
【0171】
以上の開示は、本発明を全般的に説明したものである。以下の具体的な例を参照することにより、より十分な理解を得ることができる。これらの例は例示のみを目的として提供されており、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。状況から得策と示唆されるか、または得策となるであろう場合には、形態の変化および等価物の置き換えが想定される。特定の用語を本明細書では用いているが、そのような用語は説明的な意味であることを意図しており、限定する目的ではない。
【0172】
以下の非限定的な例は、本発明を例示したものである。
【0173】
実施例1
結果:
表1は、マイクロアレイプロファイリングを行った133例の患者の人口統計学的な特徴を、プロファイリングを行わなかった349例と比較したものである。ステージIB患者は観察コホートでより多く表示されているが(55%対42%、p=0.01)、他のすべての要因は同程度に分布していた。遺伝子プロファイリングを行った患者と行わなかった患者の全生存期間に有意差は認められなかった(図2A)。これらの133例の患者の場合、アジュバント化学療法は死亡率を20%低下させた(HR 0.80、95% CI 0.48-1.32、p=0.38;図5)。
【0174】
JBR.10患者における予後診断的遺伝子発現シグネチャー
p>0.005をカットオフとして用いたところ、19,619個のプローブセットのうち172個が、62例の観察患者における予後と有意な関連があった(図1Aおよび表3)。生存転帰が不良な患者と良好な患者の大部分を識別することのできる最小限の発現遺伝子セットを同定するためにデザインした方法を用いて、15遺伝子予後診断的シグネチャーが同定された(図1Aおよび表4)。このシグネチャーは、アジュバント治療を受けていない62例の患者を、死亡に関する低リスク患者31例および高リスク患者31例に区別することができた(HR 15.020、95% CI 5.12-44.04、p<0.0001;図2B)。さらに、層別解析により、このシグネチャーは34例のステージIB患者(HR 13.32、95% CI 2.86-62.11、p<0.0001、図2C)および28例のステージII患者(HR 13.47、95% CI 3.0-60.43、p<0.0001、図2D)において高度に予後診断的でもあることが示された。腫瘍ステージ、年齢、性別および組織像に関して調整した多変量解析により、この予後診断的シグネチャーは独立した予後診断的マーカーであることが示された(HR 18.0、95% CI 5.8-56.1;p<0.0001、表2)。これは、外科手技および腫瘍サイズに関する補足的な調整後も違いがなかった。
【0175】
予後診断的シグネチャーの一般的な利用可能性に関する妥当性検査(概要)
62例のBR.10観察患者から制定したリスクスコアアルゴリズム(数式)を適用することにより、この15遺伝子シグネチャーは、169例のDCC患者全例において独立した予後診断的マーカーであることが実証された(HR 2.9、95% CI 1.5-5.6、p=0.002;表2)。サブグループ解析からも、DCC-UM(HR 1.5、95% CI 0.54-4.31、p=0.4;表2)およびHLM(HR 1.2、95% CI 0.43-3.6、p=0.7;表2)からの患者において有意な結果が示された。このシグネチャーはまた、UM-SQ患者(HR 2.3、95% CI 1.1-4.7、p=0.026;表2)およびDuke患者(HR 1.5、95% CI 0.81-2.89、p=0.19;表2)において予後診断的でもあった。
【0176】
このシグネチャーの予後診断値をDCCのステージI患者(n=141)で検証したところ、生存転帰が有意に異なる患者を同定することができた(表8)。
【0177】
化学療法の利得の予測
アジュバント化学療法を受けた71例のJBR.10患者のマイクロアレイデータに関して検証した場合には、15遺伝子シグネチャーは予後診断的ではなかった(HR 1.5、95% CI 0.7-3.3、p=0.28、表2)。ステージIB患者およびステージII患者に別々に適用した場合にも、このシグネチャーは予後診断的でなかった(表2)。Director's Challenge患者のうち41例が、放射線療法を伴って、または伴わずにアジュバント化学療法を受けたことが特定された。15遺伝子シグネチャーは、これらの41例の患者に関しても予後診断的ではなかった(HR 1.1、95% CI 0.5-2.5、p=0.8)(表2)。
【0178】
層別解析により、マイクロアレイデータのあるJBR.10患者では、高リスク群に分類された患者のみがアジュバント化学療法による利得を受けたことが示された(図3Cおよび3D)。高リスク患者は、アジュバント化学療法によって治療された場合に、観察例と比較して67%の生存率向上を示した(HR=0.33、95% CI 0.17-0.63、p=0.0005、図3D)が、低リスク群に指定された者は利得を受けなかった(図3C)。これらの結果は、ステージIB患者(図3Eおよび3F)およびステージII患者(図3Gおよび3H)の両方に別々に適用した場合にも再現された。
【0179】
多変量解析により、アジュバント化学療法に関連した生存率の低下はステージとは独立していることが示された(HR=2.26、95% CI 1.03-4.96、p=0.04)。受けた化学療法およびリスク群指標ならびにそれらの相互作用項を独立共変量として用いるCox回帰モデルを用いて、マイクロアレイデータのある133例の患者に関して全生存期間データをフィッティングさせた。この解析により、相互作用項が高度に有意(p=0.0003)であり、高リスク群がアジュバント化学療法による有意に大きな利得を得たことが明らかになった。
【0180】
初期試験集団
初期試験集団は、JBR.10治験において無作為化された患者のサブセットで構成した。BR.10 Canadian Centreの1つで手術を受け、試料をRAS突然変異分析に加えて「将来の」研究にも用いることに同意した患者から収集された凍結腫瘍試料は169件であった。試料は、治験プロトコール開発の間に、各参加施設からの指定病理医によって合意に至った標準化されたプロトコールを用いて採取した。腫瘍および対応する正常肺組織はすべて、切除後できるだけ早くまたは30分以内に収集し、液体窒素中で急速凍結させた。それぞれの凍結組織断片について、1mm横断スライスを10%緩衝ホルマリン中で固定し、パラフィン包埋のために浸漬させた。HE染色切片の組織学的評価により、腫瘍細胞率が20%以上であった166件の試料が明らかになった。この後者のうち、133例の患者由来の試料において遺伝子発現プロファイリングが首尾良く完了した。これらには、観察(OBS)群に無作為化された58例の患者およびアジュバント化学療法(ACT)群に無作為化された75例が含まれた。しかし、4例のACT患者は化学療法を拒絶し、この解析では彼らをOBS群に割り付けた。このため、最終的な分布には62例のOBS患者および71例のACT患者が含まれた(図1および4)。
【0181】
マイクロアレイデータ解析
Affymetrix U133A(Affymetrix, Santa Clara, CA)からの生のマイクロアレイデータをRMAexpress v0.32を用いて前処理し、続いてlog2変換を2回行ったが、これはlog2追加変換データがより正規的であるように思われたためである。NetAffx v4.2注釈付けツールを用いてプローブセットに注釈付けを行い、グレードAレベルのプローブセット3(NA24)のみを以降の解析に含めた。Affymetrix U133Aチップは22,215個のプローブセットを含む(19,619個のプローブセットが注釈付けグレードA)。マイクロアレイハイブリダイゼーションは2つのバッチにおいて2つの別々の機会(2004年1月および2005年6月)に行われており、教師なしクラスター化によってバッチの差が有意であることが示されたため(図6)、2つのバッチを均質化するために距離加重識別(DWD)アルゴリズム(https://genome.unc.edu/pubsup/dwd/index.html)を適用した。DWDアルゴリズムは、2つのバッチを区分する超平面をまず見つけ出し、異なるバッチをDWD平面上に投射することによってデータを調整し、バッチ平均を求めた上で、DWD平面を取り除いてこの平均を乗算する。加えて、異なるデータセットにわたっての妥当性検査を可能にするデータのZスコア変換も行った。
【0182】
単変量解析
個々のプローブセットの発現と全生存期間(無作為化の日から最後の経過観察日または死亡日まで)との関連を、Cox比例ハザード回帰法によって評価した。観察群の62例の患者に関する発現データにより、p<0.05で全生存期間との関連性がみられた1312個のプローブセットが明らかになった。p<0.005というより厳格な選択基準を用いたところ、注釈付けがグレードAである172個のプローブセットが予後診断的であった。
【0183】
遺伝子セットシグネチャーの選択
遺伝子発現シグネチャーを生成するために、除外選択手順をまず適用し、その後に組み入れ過程を行った。MAximizing R二乗値 Algorithm(MARSA)は、3つの逐次的段階を含んでいた:a)プローブセットの前選択;b)シグネチャーの最適化;およびc)leave-one-out交差妥当性検査(leave-one-out-cross-validation)。まず、候補プローブセットを、p<0.005レベルでのそれらの生存との関連によって前選択した。プラットフォーム間のばらつきを除去するために、発現データをzスコア変換し、リスクスコア(単変量Cox回帰の係数によって重み付けしたzスコア)を用いて、プローブセットの組み合わせに関する情報を合成した。続いて、候補プローブセットを除外にかけ、その後に組み入れ選択手順を行った。前選択した172個のプローブセットに対して、除外手順は1回に1つずつのプローブを除外し、残りの171個のプローブのリスクスコアを合計して、CoxモデルのR二乗値(R2、適合度)を算出した5,6。リスクスコアを、ログランク統計法に基づくカットオフマクロの成果指向型(outcome-oriented)最適化によって二分し(http://ndc.mayo.edu/mayo/research/biostat/sasmacros.cfm)、その後にCox比例ハザードモデルに導入した。プローブセットは、その除外が最大のR2をもたらしたならば除外した。この手順を1つのプローブセットのみが残るまで繰り返した。その後に、除外手順によって残ったプローブセットを出発プローブセットとして用いて組み入れ手順を行った。これは、1回に1つずつのプローブセットを組み入れ、組み入れられたプローブセットのリスクスコアを合計し、リスクスコアを二分して、R2を算出した。プローブセットは、その組み入れが最大のR2をもたらしたならば組み入れた。除外手順では0.67という最大のR二乗値が7個という最小限のプローブの組み合わせによって生成され、組み入れ手順では0.78という最大のR2が15個という最小限のプローブの組み合わせによって生成されたことから(図1B)、この15種の遺伝子の組み合わせ(表4)を候補シグネチャーとして選択した。最終的に、leave-one-out交差妥当性検査(LOOCV)による内部妥当性検査および他のデータセット(以下に列記)に対する外部妥当性検査に合格した15遺伝子シグネチャー(表4)を制定した。統計学的分析はすべて、SAS v9.1(SAS Institute, CA)を用いて行った。リスクスコアは表4として算出された。
【0184】
シグネチャー遺伝子の主成分分析による予後診断モデル作成
選別した遺伝子プローブセットの全体にわたっての情報を合成するため、および予後診断モデルの構築における共変量の数を減らすために、主成分分析(PCA)(相関行列に基づく)を行った。1よりも大きいかまたは1に等しい固有値を、どれだけの数のプロポネント(proponent)をモデルに組み入れるべきかの決定におけるカットオフ点として用い、疾患特異的生存期間(DSS)と有意に相関したものを最終的な多変量モデルに組み入れた。PCA分析は、マイクロアレイデータのある133例の患者全例に基づいて行った。62例の観察患者に基づいてDSSに対する相関付けを行ったところ、上位4主成分が基準を満たすことが見いだされ、これらを予後診断モデルに組み入れた。表10は、15遺伝子シグネチャー中の15種の遺伝子のそれぞれに関する4つの主成分を列記している。同じ分析を適用することで、表3に列記された172種の遺伝子から選択された補足的遺伝子、例えばRGS4、UGT2B4および/またはMCF2などに関する主成分係数を導き出すことができる。さらに、当業者は、表3に列記された遺伝子の任意のものに関する上位4主成分の係数がどのようにして得られるかも以上の説明から理解したであろう。
【0185】
遺伝子シグネチャー予後診断群を明らかにするために、上位4主成分を用いた多変量Cox回帰モデルを、62例の観察患者の疾患特異的生存期間に対してフィッティングさせた。線形予後診断スコアを、Coxモデルによる係数の評価値と対応する主成分値との積の合計によって算出した。この予後診断スコアを用いて、予後診断スコアの中央値に基づいて患者を低リスク群および高リスク群に分け、すなわち、予後診断スコアが中央値未満である者を低リスク群とし、スコアが中央値を下回らない者を高リスク群とした。マイクロアレイデータのある62例の観察患者について、31例の患者を各群に分類した。73例の化学療法治療患者に対して同じ規則を適用したところ、36例の患者は低リスク群に、37例の患者は高リスク群に分類された。
【0186】
予後診断的シグネチャーの一般的な利用可能性に関する妥当性検査
15遺伝子シグネチャーの妥当性検査を、アジュバント化学療法を受けていないDuke、RaponiおよびDCによるステージI〜II症例に対して行った。BR.10訓練セットから求められたカットオフを用いてリスクスコアを二分したところ、15遺伝子シグネチャーは、DukeデータセットにおけるNSCLCの低リスクの38症例を高リスクの47症例と区別することができた(ログランクp=0.226)。多変量解析(ステージ、組織像ならびに患者の年齢および性別に関して調整)により、15遺伝子シグネチャーは独立した予後因子であることが示された(HR=1.5、95%CI 0.81-2.89、p=0.19、表2)。Raponiは扁平上皮癌のみを含んでおり、症例の生存率は最も低い。しかし、15遺伝子シグネチャーは依然として、低リスクの50症例を高リスクの56症例と区別することができ(ログランクp=0.0447)、この区別はステージならびに患者の年齢および性別とは独立していた(HR=2.3、95%CI 1.1-4.7 p=0.026、表2)。DCデータセットは腺癌症例のみを含んでいた。DCステージIおよびIIに対して15遺伝子シグネチャーを適用したところ、87例の低リスク症例を82例の高リスク症例と区別することができた(ログランクp=0.0002、図2E)。多変量解析(ステージならびに患者の年齢および性別に関して調整)により、15遺伝子シグネチャーの予後診断値は独立した予後因子であることが示された(HR=2.9、95%CI 1.5-5.6、p=0.002、表2)。MIにおいて化学療法を受けなかったステージIB〜II症例は67例であり、15遺伝子シグネチャーは44例の低リスク症例と23例の高リスク症例を区別することができた(ログランクp=0.013)。多変量解析(ステージならびに患者の年齢および性別に関して調整)により、15遺伝子シグネチャーの予後診断値は独立した予後因子であることが示された(HR=1.5、95%CI 0.54-4.31、p=0.4、表2)。MSKCCによる症例は、他のデータセットと比較して5年全生存期間が有意に優れていた。しかし、15遺伝子シグネチャーは、MSKCCにおける低リスクの32症例を高リスクの32症例と区別することができた(ログランクp=0.16)。多変量解析(ステージに関して調整)により、15遺伝子シグネチャーが独立した予後因子であることが明らかになった。HLMに関する15遺伝子シグネチャーの妥当性検査により、15遺伝子シグネチャーが低リスクの26症例を高リスクの24症例と区別しうることが明らかになった(ログランクp=0.0084)。多変量解析(ステージに関して調整)により、15遺伝子シグネチャーによる区別の傾向が認められることが示された(HR=1.2、95%CI 0.43-3.6、p=0.7)。これらの妥当性検査データは、15遺伝子シグネチャーが強力な予後診断的シグネチャーであること、および、NSCLCの転帰を予測するそのパワーがステージとは独立しており、かつステージのそれよりも優れていることを裏づけるものである。
【0187】
化学療法の利得は高リスク患者に限定された
ACTでは合計30件の死亡が観察された。そのうち6例は他の悪性腫瘍に起因するものであった。15遺伝子シグネチャーは、ACTにおける転帰良好/転帰不良患者を区別することができなかった(p=0.83、非提示データ)。しかし、層別解析により、高リスクの患者のみがアジュバント化学療法による利得を得たことが示された(図3D)。アジュバント化学療法を受けると、36例の高リスク患者の生存率は有意に向上した(HR=0.33、95%CI 0.17-0.63、p=0.0005、図3D)。一方、低リスク患者に対する化学療法の適用は生存率の低下をもたらした(HR=3.67、95%CI 1.22-11.06、p=0.0133、図3C)。ACT群において、死亡は低リスク群および高リスク群で均等に分布していた(低リスク群および高リスク群においてそれぞれ15件の死亡)。これらの2群はそれぞれ、肺癌に起因しない3件ずつの死亡を含んでいた。リスク群およびステージ別での層別化により、高リスク患者の生存率はステージIBおよびステージIIの両方とも、化学療法によって有意に向上した(図3FおよびH)。その上、ステージIIの低リスク患者の場合、化学療法は生存期間の有意な低下と関連していた(図3EおよびG)。受けた化学療法およびリスク群指標ならびにそれらの相互作用項を独立共変量として用いるCox回帰モデルを用いて、マイクロアレイデータのある133例の患者に関して全生存期間データをフィッティングさせた。この解析により、相互作用項が高度に有意(p=0.0002)であり、高リスク群がアジュバント化学療法による有意に大きな利得を得たことが明らかになった。
【0188】
考察:
遺伝子発現シグネチャーは発癌における変容した重要経路であり、それ故に患者の転帰を予測しうると考えられている。しかし、これらの変容した重要経路を忠実に表すことができるためには、シグネチャーをゲノムワイドの遺伝子発現データから生成しなければならない。本研究は、無作為化臨床試験によるNSCLC試料に関してAffymetrix U133Aチップによって生成されたすべての情報を用いて、15遺伝子シグネチャーを導き出した。この15遺伝子シグネチャーは、相対的に転帰良好であった50%(31例/62例)のステージIB〜II NSCLC患者を同定することができた。多変量解析により、この15遺伝子シグネチャーが独立した予後因子であることが指し示された。その上、その独立した予後診断効果が、アジュバント化学療法も放射線療法も受けていないDCによる169例の腺癌、ならびにDukeによる85例のNSCLC、およびUniversity of Michiganによる106例の肺扁平上皮癌に対してインシリコで立証された。重要なことに、15遺伝子シグネチャーは、アジュバント化学療法による利得を受ける、全ステージにわたる高リスク患者のアジュバント化学療法に対する反応を予測することができた。この知見はDCデータセットでも立証された。
【0189】
完全切除された早期NSCLCに対するアジュバント化学療法は、BR.103を含む、一連の肯定的な治験2,4の結果が出版掲載されるまでは、研究上の論点であった。しかし、化学療法がステージIBにおいて有益な役割を果たすか否かは未だに明確にされていない2-6。本研究は、15遺伝子シグネチャーを用いて、ステージIB患者を低リスク群(49.3%、36例/73例)および高リスク群(50.7%、37例/73例)に区別しうる可能性があることを示した。ステージIB患者に対してアジュバント化学療法を投与すると、高リスクの患者の生存率は有意に向上した(p=0.0698、図3F)が、一方、低リスクの患者は生存に関する利得を受けなかった(p=0.0758、図3E)。このため、ステージIB NSCLCに対する化学療法の効果は相殺されてしまっており、それ故に、有益な効果は存在しないという不正確な解釈がもたらされた3。本明細書に提示された証拠およびメタアナリシス6による証拠に基づけば、50.7%(37例/73例)のステージIB NSCLC患者はアジュバント化学療法による利得を受ける可能性がある。
【0190】
本研究のもう1つの意義は、このシグネチャーが、アジュバント化学療法による利得を受けなかったステージIIの患者のサブグループ(50%、30例/60例)を同定することができたことである(p=0.1498、図3G)。現行の診療行為では、アジュバント化学療法はすべての患者に対して推奨されている。しかし、15遺伝子シグネチャーは、ステージII患者の約半数はアジュバント化学療法による利得を受けないと考えられることを示唆している。
【0191】
遺伝子オントロジー分析により、15遺伝子シグネチャー中の4つの遺伝子(FOSL2、HEXIM1、IKBKAP、MYT1LおよびZNF236)は、転写の調節に関与していることが示された。EDN3およびSTMN2はシグナル伝達における役割を果たしていた。p53タンパク質を標的として分解させるE3ユビキチンリガーゼの1つである形質転換3T3細胞ダブルマイニュート2(MDM2)は、細胞周期およびアポトーシスにおいて重要な役割を果たしている。Dworakowska D.ら24は、MDM2タンパク質の過剰発現が、生存性がより低いことに関連しているアポトーシス指数の低さと相関したことを報告している。ミオグロビン(MB)は低酸素に対する応答において役割を果たしており、ウリジン一リン酸シンテターゼ(UMPS)は「デノボ」ピリミジン塩基生合成過程にかかわっているが、それらの中で肺癌における調査が行われたものはなかった。L1細胞接着分子(L1CAM)は細胞接着に関与し、その過剰発現は腫瘍転移および予後不良と関連していた25-28。ATPアーゼ、Na+/K+輸送性、β1ポリペプチド(ATP1B1)はイオン輸送に関与しており、これは最近、漿液性で低悪性度の卵巣上皮腫瘍と浸潤性の卵巣上皮腫瘍とを識別しうることが報告されている29。これらの知見により、細胞性転写、細胞周期およびアポトーシス、細胞接着ならびに低酸素に対する応答は、肺癌の進行にとって重要であることが指し示された。
【0192】
15遺伝子シグネチャーのメンバーの発現レベルの範囲は、MDM2およびZNF236のように極めて低い発現レベルから、TRIM14のようにかなり高い発現、またはATP1B1のように極めて高い発現まで幅広いものであった(表4)。UMPS(表4)のように変動が非常に小さい遺伝子(<5%)も、このシグネチャーのメンバーであった。これらのデータは、データ前選択の過程において、低発現性で変動が非常に小さいプローブセットを恣意的に除外することは良い行為ではないという可能性を示唆している。今回の戦略を用いて生成されたシグネチャーは、上位50種の遺伝子を用いるRaponiの方法よりも成績が優れていた。上位50種の遺伝子のうち、生存との関連が有意であったのは3種の遺伝子(IKBKAP、L1CAMおよびFAM64A)のみであった(表4)。
【0193】
材料および方法:
患者および試料
JBR.10プロトコールには、KRAS突然変異分析のため、および将来の実験室研究を目的とする組織バンク作成のための、急速凍結腫瘍試料またはホルマリン固定してパラフィン包埋した腫瘍試料の収集が含まれていた3。482例の無作為化患者のうち445例がバンク作成に同意したものの、急速凍結組織が収集されたのは169例のカナダ人患者からであった(図4)。急速凍結腫瘍試料からのHE切片の組織学的評価により、腫瘍細胞率の評価値が20%を上回っていた166件が明らかになった;U133Aオリゴヌクレオチドマイクロアレイ(Affymetrix, Santa Clara, CA)を用いて、これらの患者試料の133件において遺伝子発現プロファイリングを完了した。プロファイリングは33件の患者試料では完了しなかった。マイクロアレイプロファイルのある133例の患者のうち、62例は術後アジュバント化学療法を受けず、観察患者としてグループ分けされ、一方、71例の患者は化学療法を受けた。University Health Network Research Ethics Boardが試験プロトコールを承認した。
【0194】
RNAの単離およびマイクロアレイプロファイリング
グアニジウムイソチオシアネート溶液中でのホモジネート化および酸性フェノール-クロロホルム抽出の後に、全RNAを凍結腫瘍試料から単離した。単離されたRNAの品質は、まずゲル電気泳動によって評価し、その後にAgilent Bioanalyzerによって評価した。10μgの全RNAを処理し、標識した上で、AffymetrixのHG-U133A GeneChipにハイブリダイズさせた。マイクロアレイのハイブリダイゼーションは、Dana Farber Cancer InstituteのCenter for Cancer Genome Discoveryで実施された。
【0195】
マイクロアレイデータの解析および遺伝子の注釈付け
生のマイクロアレイデータを、RMAexpress v0.322を用いて前処理した。NetAffx v4.2注釈付けツールを用いてプローブセットに注釈付けを行い、グレードAレベルのプローブセット23(NA22)のみを以降の解析に含めた。マイクロアレイハイブリダイゼーションが2つのバッチにおいて2つの別々の時点に行われ、教師なしのヒューリスティックK-meansクラスター化によって2つのバッチ間の系統的な差が同定されたことから(図6)、距離加重識別(DWD)法(https://genome.unc.edu/pubsup/dwd/index.html)を用いてその差を調整した。DWDアルゴリズムは、2つのバッチの間を区分する超平面をまず見つけ出し、異なるバッチをDWD平面上に投射することによってデータを調整し、バッチ平均を見いだした上で、DWD平面を取り除いてこの平均を乗算する。続いてデータを、その平均側へのセンタリングおよび標準偏差に対するスケーリングを行うことによってZスコアに変換した。この変換は、異なる発現範囲が存在する可能性が高い異なるデータセットに対する妥当性検査のため、およびデータ尺度が異なるqPCRのような異なるプラットフォームに対する妥当性検査のために必要であった。
【0196】
シグネチャーの導出
単変量解析によってp<0.005で前選択したプローブセットを、除外手順によって選択した。除外選択では、結果的に得られたCoxモデルのR二乗値(R2、適合度15,16)に基づいて、1回に1つずつのプローブセットを除外した。1つのプローブセットのみが残るまでそれを繰り返し続けた。この手順を1つのプローブセットのみが残るまで繰り返した。その後に、除外手順によって残ったプローブセットを出発プローブセットとして用いて組み入れ手順を行った。これは、結果的に得られたCoxモデルのR2に基づいて、1回に1つずつのプローブセットを組み入れた。最終的に、R2をプローブセットに対してプロットし、最大のR2をなお有している最小数のプローブセットのセットを候補シグネチャーとして選別した。leave-one-out交差妥当性検査(LOOCV)による内部妥当性検査および他のデータセット(以下に列記)に対する外部妥当性検査に合格した15遺伝子シグネチャーを制定した。統計学的分析はすべて、SAS v9.1(SAS Institute, CA)を用いて行った。
【0197】
別々のマイクロアレイデータセットにおける妥当性検査
この15遺伝子シグネチャーの予後診断値を、別々のマイクロアレイデータセットにおいて検討した。3つのものが、NCI Director's Challenge Consortium (DCC) for the Molecular Classification of Lung Adenocarcinomaからのマイクロアレイデータのサブセットを代表した(Nature Medicine, in review/in press)。本Consortiumは、University of Michigan(UM)からの177件、H. L. Moffitt Cancer Centre(HLM)からの79件、Memorial Sloan-Kettering Cancer Centre(MSK)からの104件、および本発明者らのグループからの82件を含む、合計442件の腫瘍のプロファイルを解析した。後者の腫瘍の39件は本研究に用いた試料と重複するため、最初の3つの群からのデータのみを妥当性検査に用いた。加えて、不明、またはアジュバント化学療法および/もしくは放射線療法を受けたと記述されている患者も除外した。このため、この妥当性検査に用いたDCCデータセットは、UMからの67例、HLMからの46例、MSKからの56例という169例の患者のみを含むこととなった。85例の非小細胞肺癌患者を有するDuke's Universityデータセット(Potti, et al, NEJM)および106例の扁平上皮癌患者を有するUniversity of Michiganデータセット(UM-SQ)(Rapponi et al)という、出版掲載されているさらに2つのマイクロアレイデータセットも妥当性検査のために用いた。これらのマイクロアレイ試験の生データをダウンロードして、RMAを前処理した。2回のlog2変換の後に、発現レベルのZスコア変換を行った。リスクスコアは、OBSによるCoxモデルの係数によって重み付けを行ったZスコアとした。DCコホートの人口統計学的データは表5に列記されている。
【0198】
統計学的分析
リスクスコアは、Cox比例モデルによる係数と標準化された発現レベルとの積とした。個々のプローブセットの発現と全生存期間(無作為化の日から最後の経過観察日または死亡日まで)との単変量相関を、Cox比例ハザード回帰法によって評価した。偽陽性の結果の可能性を最小限に抑えるために、厳格なp<0.005を選択基準として設定した。
【0199】
本発明を、現時点で好ましい例と考えられるものを参照しながら説明してきたが、本発明は開示された例には限定されないことが理解される必要がある。その反対に、本発明は、添付される特許請求の範囲の精神および適用範囲に含まれるさまざまな修正および等価物も対象として含むものとする。
【0200】
すべての刊行物、特許および特許出願は、それぞれの個々の刊行物、特許または特許出願の全体が参照により組み入れられるように特定的および個別に示されている場合と同程度に、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0201】
(表1)マイクロアレイプロファイルを有する、または有しないBR.10患者のベースライン要因

*P値:欠けているかまたは不明であるものは含めていない
【0202】
(表2)未治療患者およびアジュバント化学療法を受けた患者における高リスク群および低リスク群の5年生存率(多変量)の比較

n:患者数;HR:ハザード比;CI:信頼区間
*HRは、ステージならびに患者の年齢および性別の調整を行った上で15遺伝子シグネチャーによって判定した、予後不良群の生存と予後良好群のそれを比較している。BR.10およびDukeに関しては、組織像の影響についても調整した。
**イベントはすべて高リスク群および女性患者においてであった。
【0203】
(表3)62例のBR.10観察群患者に関してp<0.005で予後診断的であった172個のU133Aプローブセット




【0204】
(表4)遺伝子シグネチャー中の15個のプローブセットの特徴

*Coxモデルの係数
【0205】
(表5)妥当性検査セットにおける患者の人口統計学的分布


DCC:Directors' Challenge Consortium;UM:University of Michigan;HLM:H. Lee Moffitt Cancer Center;MSK:Memorial Sloan-Kettering Cancer Center;NS:特定されず
【0206】
(表6)Director's Challenge Consortium(DCC)患者におけるアジュバント療法

【0207】
(表7)qPCR妥当性検査のためのプライマー

【0208】
(表8)ステージI患者における15遺伝子シグネチャーに基づくリスク群
n:患者数;HR:ハザード比;CI:信頼区間

*予後良好群では死亡例がないため、HRおよびCIを算出することはできない。p値 スコア検定
【0209】
(表9)15遺伝子シグネチャーのプローブセット標的配列



【0210】
(表10)15遺伝子シグネチャー中の個々の遺伝子の係数:主成分値

リスクスコア=0.557*PC1+0.328*PC2+0.43*PC3+0.335*PC4
式中、PC1=Sum[pc1*(発現データ)]遺伝子1〜15
PC2=Sum[pc2*(発現データ)]遺伝子1〜15
PC3=Sum[pc3*(発現データ)]遺伝子1〜15
PC4=Sum[pc4*(発現データ)]遺伝子1〜15
患者は、リスクスコアが-0.1以上であるかまたは-0.1未満であるかに応じて高リスクまたは相対的な低リスクとして分類した
【0211】
(表11)172種の遺伝子に関するプローブセット標的配列



































【0212】
参考文献




【特許請求の範囲】
【請求項1】
非小細胞肺癌(NSCLC)を有する対象の予後診断または分類の方法であって、以下の段階:
a.対象由来の被験試料における15種のバイオマーカーの発現を決定する段階であって、該バイオマーカーが表4における遺伝子に対応する、段階、および
b.被験試料における15種のバイオマーカーの発現を、対照試料における15種のバイオマーカーの発現と比較する段階、を含み、
対照試料と被験試料との間の15種のバイオマーカーの発現の差または類似性が、NSCLCを有する対象を生存不良群(poor survival group)または生存良好群(good survival group)に予後診断または分類するために用いられる、方法。
【請求項2】
非小細胞肺癌(NSCLC)を有する対象における予後を予測する方法であって、以下の段階を含む方法:
a.対象の試料における対象バイオマーカー発現プロファイルを得る段階;
b.予後と関連のあるバイオマーカー参照発現プロファイルを得る段階であって、対象バイオマーカー発現プロファイルおよびバイオマーカー参照発現プロファイルがそれぞれ、各値がバイオマーカーの発現レベルを表している15個の値を有し、各バイオマーカーが表4における1つの遺伝子に対応する、段階;および
c.対象バイオマーカー発現プロファイルに最も類似しているバイオマーカー参照発現プロファイルを選択し、それによって対象に関する予後を予測する段階。
【請求項3】
バイオマーカー参照発現プロファイルが生存不良群または生存良好群を構成する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
NSCLCがステージIまたはステージIIである、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
バイオマーカー発現レベルの決定が定量的PCRまたはアレイの使用を含む、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
定量的PCRの使用が、表7に示されたプライマーの使用を含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
アレイがU133Aチップである、請求項5記載の方法。
【請求項8】
バイオマーカー発現プロファイルの決定が、バイオマーカーのポリペプチド産物を検出するための抗体の使用を含む、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
試料が組織試料を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
試料が、免疫組織化学検査のために適した組織試料を含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
NSCLCを有する対象に対する治療法を選択する方法であって、以下の段階を含む方法:
a.NSCLCを有する対象を、請求項1〜10のいずれか一項記載の方法に従って生存不良群または生存良好群に分類する段階;および
b.生存不良群に対してアジュバント化学療法を選択する、または生存良好群に対してアジュバント化学療法を行わないことを選択する段階。
【請求項12】
NSCLCを有する対象に対する治療法を選択する方法であって、以下の段階を含む方法:
a.対象由来の被験試料における15種のバイオマーカーの発現を決定する段階であって、15種のバイオマーカーが表4における15種の遺伝子に対応する、段階;
b.被験試料における15種のバイオマーカーの発現を、対照試料における15種のバイオマーカーと比較する段階;
c.対象を生存不良群または生存良好群に分類する段階であって、対照試料と被験試料との間の15種のバイオマーカーの発現の差または類似性が、対象を生存不良群または生存良好群に分類するために用いられる、段階;
d.対象が生存不良群に分類されればアジュバント化学療法を選択し、対象が生存良好群に分類されればアジュバント化学療法を行わないことを選択する段階。
【請求項13】
複数の単離された核酸配列を含む組成物であって、単離された各核酸配列が以下のもの:
a.表4に列記された15種の遺伝子のRNA産物;および/または
b.a)に対して相補的な核酸、とハイブリダイズし、
ここで、該組成物が、15種の遺伝子のRNA発現レベルを測定するために用いられる、組成物。
【請求項14】
複数の単離された核酸配列が、表9に示された15種のプローブ標的配列とハイブリダイズしうる単離された核酸配列を含む、請求項13記載の組成物。
【請求項15】
表7に示された定量的PCR用の30種のプライマーを含む組成物。
【請求項16】
表4に示された各遺伝子に関して、遺伝子の発現産物に対して相補的であってそれとハイブリダイズしうる1つまたは複数のポリヌクレオチドプローブを含むアレイ。
【請求項17】
コンピュータ機構(computer mechanism)がコード化されたコンピュータ可読記憶媒体を含む、プロセッサおよびプロセッサに接続されたメモリを有するコンピュータとともに用いるためのコンピュータプログラム製品であって、該コンピュータプログラム機構をコンピュータのメモリにロードして、コンピュータに請求項1〜12のいずれか一項記載の方法を実行させることができる、コンピュータプログラム製品。
【請求項18】
NSCLCを有する対象の予後を予測するため、または分類するためのコンピュータ実行製品であって、以下のもの:
a.対象試料における対象発現プロファイルに対応する値を受け取るための手段;および
b.予後と関連のある参照発現プロファイルを含むデータベースであって、対象バイオマーカー発現プロファイルおよびバイオマーカー参照プロファイルがそれぞれ、各値がバイオマーカーの発現レベルを表している15個の値を有し、各バイオマーカーが表4における1つの遺伝子に対応するデータベース;を含み、
対象バイオマーカー発現プロファイルに最も類似しているバイオマーカー参照発現プロファイルを選択し、それによって予後を予測するか、または対象を分類する、コンピュータ実行製品。
【請求項19】
請求項1〜12のいずれか一項記載の方法に用いるための、請求項17記載のコンピュータ実行製品。
【請求項20】
NSCLCを有する対象に対する治療法を決定するためのコンピュータ実行製品であって、以下のもの:
a.対象試料における対象発現プロファイルに対応する値を受け取るための手段;および
b.治療法と関連のある参照発現プロファイルを含むデータベースであって、対象バイオマーカー発現プロファイルおよびバイオマーカー参照プロファイルがそれぞれ、各値がバイオマーカーの発現レベルを表している15個の値を有し、各バイオマーカーが表4における1つの遺伝子に対応するデータベース;を含み、
対象バイオマーカー発現プロファイルに最も類似しているバイオマーカー参照発現プロファイルを選択し、それによって治療法を予測する、コンピュータ実行製品。
【請求項21】
請求項11または12記載の方法とともに用いるための、請求項20記載のコンピュータ実行製品。
【請求項22】
請求項18〜21のいずれか一項記載のコンピュータ実行製品を記憶するためのデータ構造が記憶されているコンピュータ可読媒体。
【請求項23】
データ構造が、そのデータ構造に属する記録に基づいてクエリーに応答するようにコンピュータを設定することができる、請求項22記載のコンピュータ可読媒体であって、記録のそれぞれが以下のものを含むコンピュータ可読媒体:
a.表4における15種の遺伝子のバイオマーカー参照発現プロファイルを特定する値;
b.バイオマーカー参照発現プロファイルと関連のある予後の確率を特定する値。
【請求項24】
a.予後診断または治療法と関連のある表4における15種の遺伝子のバイオマーカー参照発現プロファイルを含む記録を含むデータベース;
b.データベース中のバイオマーカー参照発現プロファイルとの比較に用いるための、表4における15種の遺伝子の遺伝子発現レベルの選択を受け取ることのできるユーザーインターフェース;
c.15種の遺伝子の発現レベルと最も類似しているバイオマーカー参照発現プロファイルに応じて予後診断または治療法の予測を表示する出力装置、
を含むコンピュータシステム。
【請求項25】
15種のバイオマーカーの発現産物を検出することができ、15種のバイオマーカーが表4における15種の遺伝子で構成されるような検出用物質、および使用説明書を含む、早期NSCLCを有する対象の予後判定または分類のためのキット。
【請求項26】
15種のバイオマーカーの発現産物を検出することができ、15種のバイオマーカーが表4における15種の遺伝子で構成されるような検出用物質、および使用説明書を含む、NSCLCを有する対象に対する治療法を選択するためのキット。
【請求項27】
検出用物質が、表9に示されたプローブ標的配列とハイブリダイズしうるプローブである、請求項25または26記載のキット。
【請求項28】
検出用物質が、表7に示された定量的PCR用のプライマーである、請求項25または26記載のキット。
【請求項29】
NSCLCを有する対象の予後診断または分類のための方法であって、以下を含む方法:
a.対象における少なくとも15種の異なるバイオマーカーの相対的発現レベルから複合スコアを算出する段階であって、少なくとも15種のバイオマーカーがFAM64A、MB、EDN3、ZNF236、FOSL2、MYT1L、MLANA、L1CAM、TRIM14、STMN2、UMPS、ATP1B1、HEXIM1、IKBKAPおよびMDM2を含む、段階、ならびに
b.対象を複合スコアに基づいて高リスク群または低リスク群に分類する段階。
【請求項30】
複合スコアが、FAM64A、MB、EDN3、ZNF236、FOSL2、MYT1L、MLANA、L1CAM、TRIM14、STMN2、UMPS、ATP1B1、HEXIM1、IKBKAPおよびMDM2の相対的発現レベルから算出される、請求項29記載の方法。
【請求項31】
複合スコアが16種、17種または18種の異なるバイオマーカーの相対的発現レベルから算出され、1つ、2つまたは3つの補足的なバイオマーカーが表3に列記された遺伝子から選択される、請求項29記載の方法。
【請求項32】
補足的な1つ、2つまたは3つのバイオマーカーが、RGS4、UGT2B4およびMCF2からなる群より選択される、請求項31記載の方法。
【請求項33】
NSCLCを有する対象の予後診断または分類のための方法であって、以下を含む方法:
a.少なくとも15種の異なるバイオマーカーの相対的発現レベルを決定する段階であって、バイオマーカーがFAM64A、MB、EDN3、ZNF236、FOSL2、MYT1L、MLANA、L1CAM、TRIM14、STMN2、UMPS、ATP1B1、HEXIM1、IKBKAPおよびMDM2を含む、段階、
b.対象における少なくとも15種の異なるバイオマーカーの相対的発現レベルから複合スコアを算出する段階、および
c.対象を複合スコアに基づいて高リスク群または低リスク群に分類する段階。
【請求項34】
FAM64A、MB、EDN3、ZNF236、FOSL2、MYT1L、MLANA、L1CAM、TRIM14、STMN2、UMPS、ATP1B1、HEXIM1、IKBKAP、MDM2、RGS4、UGT2B4およびMCF2からなる群より選択される15種、16種、17種または18種の異なるバイオマーカーの相対的発現レベルを決定する、請求項33のいずれか一項記載の方法。
【請求項35】
複合スコアが式Iに従って算出される、請求項29〜34のいずれか一項記載の方法。
【請求項36】
対象がヒトである、請求項29〜35のいずれか一項記載の方法。
【請求項37】
請求項29または33記載の段階を含み、高リスク群における対象に対してアジュバント化学療法を選択する、または低リスク群における対象に対してアジュバント化学療法を行わないことを選択する段階をさらに含む、治療法を選択するための方法であって、対象がヒトである、方法。
【請求項38】
少なくとも15種の異なるバイオマーカーの発現産物を検出しうる検出用物質を含み、少なくとも15種の異なるバイオマーカーがFAM64A、MB、EDN3、ZNF236、FOSL2、MYT1L、MLANA、L1CAM、TRIM14、STMN2、UMPS、ATP1B1、HEXIM1、IKBKAPおよびMDM2を含む、NSCLCを有する対象の予後診断または分類のためのキット。
【請求項39】
16種、17種または18種の異なるバイオマーカーの発現産物を検出しうる検出用物質を含み、補足的な1つ、2つまたは3つのバイオマーカーが表3に列記された遺伝子から選択される、請求項38記載のキット。
【請求項40】
FAM64A、MB、EDN3、ZNF236、FOSL2、MYT1L、MLANA、L1CAM、TRIM14、STMN2、UMPS、ATP1B1、HEXIM1、IKBKAP、MDM2、RGS4、UGT2B4およびMCF2からなる群より選択される15種、16種、17種または18種の異なるバイオマーカーの発現産物を検出しうる検出用物質を含む、請求項38記載のキット。
【請求項41】
少なくとも15種のバイオマーカーの発現産物に対するプローブを含むアドレス指定可能アレイをさらに含む、請求項38記載のキット。
【請求項42】
検出用物質が、少なくとも15種のバイオマーカーの発現産物とハイブリダイズしうるプライマーを含む、請求項38記載のキット。
【請求項43】
検出用物質が、16種、17種または18種のバイオマーカーの発現産物とハイブリダイズしうるプライマーを含む、請求項38記載のキット。
【請求項44】
対象に関する複合スコアを算出するためのコンピュータ実行製品をさらに含む、請求項38〜43のいずれか一項記載のキット。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−523549(P2011−523549A)
【公表日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−508777(P2011−508777)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際出願番号】PCT/CA2009/000650
【国際公開番号】WO2009/137921
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(508265055)ユニバーシティー ヘルス ネットワーク (4)
【Fターム(参考)】