説明

非常に低密度のポリマームースおよびこの製造の方法

本発明は、高度に濃縮された内相を有するエマルション中での重合化により得られる新規ムースに関し、これは、スチレン性モノマー主体の炭化水素主体の架橋ポリマーから形成され、6mg/cmに少なくとも等しく、20mg/cmに多くとも等しい密度を有し、20ミクロンに多くとも等しい平均直径のセルも有する。本発明は同時に、このムースの製造の方法に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非常に低密度のポリマームース、ならびに、これの製造の方法に関する。
【0002】
本発明によるムースは<<ポリHIPE>>、つまり、高度に濃縮された内相を有するエマルションの重合化により得られるムースであり、これは、特に低い密度(体積当たりの質量)によるだけでなく、同時に、非常に小さなセルの平均直径および非常に高い純度により、特徴付けられる。
【0003】
これはこれゆえ、特にプラズマ物理分野の実験の実施において使用されるものであり、特に内相封じ込み融合現象の研究対象としてであるが、エネルギー吸収材料(熱、音、もしくは機械的絶縁等)またはエネルギー吸収液体、物質の濾過および分離材料、物質の含浸および/または物質のコントロール・リリース用支持体(触媒担体、医薬品ビヒクル等)、あるいは軽量化の望まれる構造物用フィルターとしてでもある。
【背景技術】
【0004】
重合化された「高」内相エマルション(ポリHIPE)ムースはポリマームースであり、一方では、溶媒中の重合化可能なモノマーおよび界面活性剤溶液を含む分散有機相から構成されるエマルションの重合化により得られ、もう一方では、エマルション全体積の少なくとも74%を占め該モノマーの重合化用イニシエーターを包含する分散水相の重合化により得られる。
【0005】
この重合化から得られてくる生成物中に存在する水を除去した後、開口セルムースが得られ、これらセルは、その調製の間にエマルション中で形成されている水泡の痕に対応し、ムース自体よりもサイズの小さな開口部を介して相互に繋がり、よく<<孔(pores)>>という用語で呼称される。
【0006】
このムースは大きな空隙体積/固形分体積比、これゆえ低い密度を呈し、同時に、等方性であり、球状で一様なセル構造を呈し、ブローもしくは押し出しにより得られ、非等方性であり方向性のある非一様なセル構造により特徴付けられる従来のポリマームースとは、非常に異なるものとなっている。
【0007】
これらの特性により、「ポリHIPE」ムースは益々興味を持たれる主題となり、その使用が数多くの分野において提案されており、特に、使い捨て吸収製品(US−A−5,331,015[1])、絶縁製品(US−A−5,770,634[2])、ならびに濾過膜および濾過装置(WO−A−97/37745[3])の製造も包含している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
更にその適応潜在性を拡げるために、本発明者らは、可能な最低密度を持ち、この密度に対して可能な最小平均直径のセルを持っている一方、満足な機械強度を呈し、このことにより、機械処理(例えば回転)もしくはレーザーにより形成され得る「ポリHIPE」ムースを提供することを、目標に設定する。
【0009】
更に本発明者らは、上記特性に加え、非常に高純度であり、計画が簡単で工業スケールでの製造に経済的に見合っている方法により調製され得る「ポリHIPE」ムースを提供することを、目標に設定する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの目標および他の目標も本発明により達成され、スチレン性モノマー主体の炭化水素基主体の架橋ポリマーから形成される<<ポリHIPE>>ムースを提案し、これは、6mg/cmに少なくとも等しく、20mg/cmに多くとも等しい密度を有し、20ミクロンに多くとも等しい平均直径のセルも有する。
【0011】
本発明の第1の有利な状況では、本ポリマーは、スチレンおよびジビニルベンゼンのコポリマーである。
【0012】
このコポリマーはつまり、市販のスチレンおよびジビニルベンゼンのモノマーから出発して得られ、この場合、該ジビニルベンゼンは3つの異性体、オルト、メタ、およびパラの混合物から構成され、該メタ体優位である。
【0013】
有利には、このコポリマー中、該ジビニルベンゼンに対する該スチレンの質量比が、4〜1、より良くは1に等しい。
【0014】
本発明に従えば、本ムースは、好ましくは2〜10ミクロンのセル平均直径を有する。
【0015】
本発明のもう1つ別の有利な状況では、本ムースは、3質量%未満の不純物レベルを有し、つまり、このムース中に存在する本ポリマーを構成している炭素および水素以外の元素が、本ムースの質量の3質量%未満を占める。
【0016】
本発明によるムースはつまり、高度に濃縮された内相を有するエマルション中での重合化プロセスにおいて:
孔形成物質(この場合、エチルベンゼン。これは同時に、本スチレン性モノマーのための溶媒である。結果として得られてくるポリマーのための溶媒ではない)
モノオレイン酸ソルビタン(界面活性剤として。4.3の親水性/疎水性バランスを呈する)
過硫酸ナトリウム(該モノマーの重合化のためのイニシエーターとして)
を利用して得られ、これは、これら3種の試薬の同時使用が、非常に濃縮されたエマルションを調製することを可能にすると判明しているからであり、つまりこのエマルション中では、その分散された水相が、このエマルション全体積の少なくとも96%を占める。
【0017】
また、本発明は同時に、上に定義したような「polyHIPE」ムースの製造の方法を目的とし、以下:
a)前記エチルベンゼン中に炭化水素主体のスチレン性モノマーおよびモノオレイン酸ソルビタンを含んでいる有機相と、1種の電解質および過硫酸ナトリウムを含んでいる水相との間でのエマルションを生成させ、これら2相の合計体積の少なくとも96%を該水相の体積が占め;
b)固形ムースを得るまで、これらモノマーを重合化させ;
c)ステップb)にて得られたムースを洗浄し、これを超臨界COによる乾燥に付す
ステップを含む。
【0018】
この方法のある1つの有利な状況では、該有機相中に存在しているスチレン性モノマーは、スチレンのモノマーおよびジビニルベンゼンのモノマーであり、4〜1、より良好には1に等しい質量比中にある。
【0019】
これらのモノマーは有利には、該有機相の質量の40〜60質量%を占め、一方、モノオレイン酸ソルビタンが、この有機相の質量の20〜30質量%を占める。
【0020】
該水相中に存在している電解質は、その役割がモノオレイン酸ソルビタンの特性を修飾しつつ本エマルションを安定化させることであるが、好ましくは硫酸アルミニウムであり、有利には、この水相の質量の0.1〜2質量%を占める。全ての場合において、この電解質も、例えば、アルミニウム、銅、もしくはナトリウムの他の異なる塩から選択され得る。
【0021】
該過硫酸ナトリウム自体は、好ましくは、該水相の質量の0.1〜2質量%を占める。
【0022】
更に、好ましくは、該水相中で、超純水、つまり、18.2メガオーム(MΩ)に近いかもしくは等しい抵抗の水が利用され、これは例えば、ナノ濾過、超濾過、イオン交換、もしくは蒸留により得られ、利用されるこの水の純度レベルが、得られるムースの純度に影響を持っているからである。
【0023】
本発明に従って、該有機相と該水相との間での本エマルションが、例えば攪拌子を備えた反応容器中で、加えて行きながら程良い攪拌下に生成され、該有機相を有する該水相は該反応容器中に既に存在し、安定エマルションを得るまで、例えば300回転/分の該攪拌子の回転速度に対応する、より激しい攪拌に付されてよい。安定なエマルションは一般的には、このような攪拌を60〜90分間維持し続けると得られる。
【0024】
前記モノマーの重合化は、好ましくは高温、つまり30〜70℃程度の温度にて実施され、例えばオーブン中で実施される。任意に、この段階におけるこのエマルションの考えられ得る混入を避けるために、気密にされた容器中に該エマルションを入れた後に、実施され得る。結果として固形ムースを与える該モノマーの重合化に必要な時間は一般的には、12〜48時間程度である。
【0025】
本発明のもう1つ別の有利な状況では、本ムースの洗浄は、水、好ましくは、超純水による単回もしくは複数回の洗浄、次いで、該水/アルコール混合物によるアルコール含量を上昇させて行きながらの複数回の洗浄、次いで、該アルコールによる単回もしくは複数回の洗浄を含む。これらの洗浄の過程で利用されるアルコールは、好ましくは、エタノールである。
【0026】
本発明に従えば、本ムースは一旦洗浄され、超臨界COによる乾燥に付され、乾燥のこの手法は実際、このムースの固形分の構造を壊すことなく、本ムースの溶媒を全体的に取り除くことを可能にする。
【0027】
本発明の他の特徴および利点は、以下の残りの記載を読めば、より良く明らかとなり、これは勿論例示的に与えられ、意図される限定はなく、添付の図面を参照する。
【実施例】
【0028】
以下の操作プロトコールに従い、本発明によるポリマームースのサンプルロットを生成させる。
【0029】
まず、4.28gのエチルベンゼン中、2.25gのスチレン、2.25gのジビニルベンゼン、および2.33gのモノオレイン酸ソルビタンを含有している有機相を調製し、これら全成分が、Aldrichからのものである。
【0030】
この有機相を、2重に保護されたガラス製化学用反応容器中へと導入し、この中では熱交換液、この場合サーモスタット浴により20℃に維持された水が、循環している。該反応容器は、4つの磨りガラスの頸が突き出た、リークに対してタイトな栓で蓋をされ、これらのうちの中央の磨りガラスの頸から、攪拌子のシャフトが通され、これらのうちの脇の2つの磨りガラスの頸がそれぞれ、該反応容器を、等圧滴下漏斗末端および真空ポンプに接続するようになっている。
【0031】
平行して、18.2MΩに等しい抵抗の超純水290mL中に、0.102gの硫酸アルミニウム(Aldrich)および2.5gの過硫酸ナトリウム(Aldrich)を含有している水相を調製する。
【0032】
この水相が、該当圧滴下漏斗から該反応容器中へと導入され、攪拌子の回転速度が、30秒以内に300回転/分まで高められる。この攪拌が70分間維持され、次いで、真空ポンプの補助により、該反応容器が部分的な真空下(109ミルバール)に置かれる。この攪拌が再び5分間実施され、次いで停止され、この真空が4分の放置後に破られる。
【0033】
該反応容器中でこうして形成されたエマルションは、スパーテルにより、一連のガラスチューブ中に分配される。
【0034】
これらのチューブが、1cmの超純水を含有しているプラスチックバッグ中へと導入される。これらのバッグは溶融により閉じられ、17時間の間、60℃のオーブン中に入れられ、その終わりには、これらのチューブは該オーブンから取り出され、これらの温度が常温に等しくなるまで再放冷される。
【0035】
これらのガラスチューブ中に含有されるムースのサンプルはマニュアルで取り出され、次いで、超純水で満たされたビーカー中に入れられる。この水は、24時間に3回取り替えられる。
【0036】
これらが次いで、エタノール25%および超純水75%を含有しているビーカー中へと
移される。エタノール含量が引き続き、4日間の期間中、25%の段階から100%まで
引き上げられる。
【0037】
該ビーカーからの抽出後、ムースのサンプルが、CO超臨界乾燥機中で乾燥される。
【0038】
こうして生成されるムースのサンプルは:
平均密度17.2mg/cm±1.7mg/cm
走査電子顕微鏡により撮影された3枚の写真を提示する図1が示すような、非常に均一な構造[ムースのサンプル上でそれぞれ、×30.4(部分A)、×126(部分B)、および×1940(部分C)の拡大率]
セルの平均直径6.30μm±1.81μm
孔の平均直径1.35μm±0.88μm
不純物(炭素および水素以外の元素)の質量でのレベル3%未満(質量%:C=92.3±0.5%;H=7.90±0.3%;O=1.10±0.3%;ppm:S=50ppm;Na=3ppm;Al=336ppm)
により、特徴付けられる。
【0039】
アットランダムに採取された2サンプルを、一方ではデジタルカリパーを使用したサイズ測定に(測定誤差:±10μm)、他方では重量計測に(測定誤差:±10μg)付すことにより、密度が求められた。
【0040】
これらのセルおよびこれらの孔の平均直径がそれぞれ、82のセルおよび837の孔に基づき、画像解析ソフトウェアにより、走査電子顕微鏡により得られた画像から求められた。
【0041】
不純物の質量でのレベル自体が、元素分析により求められた。
【0042】
図2は、ヒストグラムの形で、これらのセル直径(D)の関数としての頻度(F)(μm表記)を例示し、一方、図3も、ヒストグラムの形で、これらの孔の直径(D)の関数としての頻度(F)(やはりμm表記)を例示する。
【0043】
書誌的事項
[1]US−A−5,331,015
[2]US−A−5,770,634
[3]WO−A−97/37745
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は3枚の写真を示し、これらは本発明によるムースのサンプル上を走査電子顕微鏡で撮影し、部分Aが×30.4の拡大率に、部分Bが×126の拡大率に、部分Cが×1940の拡大率に対応している。
【図2】図2はヒストグラムの形で、本発明によるムースのサンプルのセルの頻度(F)を、それらの直径(D)の関数として示す。ミクロン表記。
【図3】図3はヒストグラムの形で、本発明によるムースのサンプルの孔の頻度(F)を、それらの直径(D)の関数として示す。ミクロン表記。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高度に濃縮された内相を有するエマルション中での重合化により得られるポリマームースであって、スチレン性モノマー主体の炭化水素基主体の架橋ポリマーから形成され、6mg/cmに少なくとも等しく、20mg/cmに多くとも等しい密度を有し、20ミクロンに多くとも等しい平均直径のセルも有する、ポリマームース。
【請求項2】
前記ポリマーが、スチレンとジビニルベンゼンとのコポリマーである、請求項1に記載のポリマームース。
【請求項3】
前記コポリマー中の前記ジビニルベンゼンに対する前記スチレンの質量比が、4〜1、好ましくは1に等しい、請求項2に記載のポリマームース。
【請求項4】
2〜10ミクロンのセルの平均直径を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマームース。
【請求項5】
前記ポリマーを構成している炭素および水素以外の元素が、前記ムースの質量の3質量%未満である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリマームース。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリマームースの製造の方法であって、以下の:
a)エチルベンゼン中に、スチレン性モノマーおよびモノオレイン酸ソルビタンを含んでいる炭化水素主体の有機相と、1種の電解質および過硫酸ナトリウムを含んでいる水相との間でのエマルションを生成させ、これら2相の合計体積の少なくとも96%を該水相の体積が占め;
b)固形ムースを得るまで、これらモノマーを重合化させ;
c)ステップb)にて得られたムースを洗浄し、これを超臨界COによる乾燥に付す
ステップを含む、方法。
【請求項7】
前記有機相中に存在する前記スチレン性モノマーが、スチレンのモノマーおよびジビニルベンゼンのモノマーである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ジビニルベンゼンの前記モノマーに対する前記スチレンの前記モノマーの重量比が、4〜1、好ましくは1に等しい、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記スチレン性モノマーが、前記有機相の質量の40〜60質量%を占める、請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記モノオレイン酸ソルビタンが、前記有機相の質量の20〜30質量%を占める、請求項6〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記電解質が硫酸アルミニウムである、請求項6〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記電解質が、前記水相の質量の0.1〜2質量%を占める、請求項6〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記過硫酸ナトリウムが、前記水相の質量の0.1〜2質量%を占める、請求項6〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記水相中に存在する水が超純水である、請求項6〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記水相中に存在する前記超純水が、約16.2メガオームの抵抗を持つ、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記モノマーの前記重合化が、30℃から70℃へと上昇していく温度にて実施される、請求項6〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記ムースの前記洗浄が、前記水での単回もしくは複数回の洗浄、次いで、該水/アルコール混合物でのアルコール含量を上昇させて行きながらの複数回の洗浄、次いで、該アルコールでの単回もしくは複数回の洗浄を含む、請求項6〜16のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−512404(P2007−512404A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540562(P2006−540562)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【国際出願番号】PCT/FR2004/050616
【国際公開番号】WO2005/052047
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(500348697)コミッサリア ア レネルジー アトミーク (21)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L´ENERGIE ATOMIQUE
【Fターム(参考)】