説明

非接触で充電される電子装置及び高周波整流器

【課題】高周波帯且つ大電力の交流電力を高効率に整流することができる高周波整流器を提供する。
【解決手段】伝送線路Lを伝送する高周波の交流電力を非同期整流する接合型のFET101と、このFET101により整流された電力を後段回路へ導くチョークコイル102と、FET101の出力側とチョークコイル102の入力側との間に接続され、整流後の電力に含まれる交流成分に対するインピーダンスを高めるオープンスタブ104とを備えた高周波整流器とする。FET101は、そのゲート端子Gが寄生容量成分を相殺するための誘導性素子107を介して接地されており、そのソース端子S及びドレイン端子Dの少なくとも一方が伝送線路Lに接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触で充電される電子装置及び高周波の交流電力を大容量で高効率に整流するための高周波整流器に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話や携帯情報端末等の電子装置を非接触で充電する方式として、電磁誘導方式がある。電磁誘導方式では、給電する側の電子装置(以下、「給電元装置」という。)のコイルから、給電を受ける電子装置(以下、「給電先装置」という。)が備えるコイルへ交流電力が非接触で伝達される。
給電先装置では、受電した交流電力を整流器で直流電力に変換し、内蔵の充電池に充電する。このような電磁誘導方式では、互いのコイルの位置ずれにより、電力効率が低下したり、異物の進入により加熱されたり、電磁波やノイズの影響が出たりするという問題がある。
【0003】
このような電磁誘導方式の問題に対しては、電磁界共鳴方式や電波受信方式による非接触充電が有効となる。特許文献1には、電磁界共鳴方式による非接触充電の技術が開示されており、特許文献2には、電波受信方式による非接触充電の技術が開示されている。電磁界共鳴方式や電波受信方式では、電磁誘導方式のように数[kHz]〜数十[MHz]の低周波による磁界を利用した給電とは異なり、数百[MHz]〜数[GHz]の高周波の電磁界を利用して給電を行う。高周波による充電では、無線通信でよく使用される高周波帯の周波数を扱うため、比較的容易に小型化が可能となる。
【0004】
高周波の交流電力による充電では、交流電力を整流するための整流素子に、順方向の電圧降下が小さく、逆回復時間の短いショットキー・バリア・ダイオード(以下、「SBD」という)が多用されている。例えば、特許文献3には、整流回路にSBDを用いていることが示されている。
但し、SBDは、高周波帯において高耐電圧、高電流定格のものが殆ど無いために、使用周波数がギガヘルツ帯のような高周波になると、整流効率が低下する。複数のSBDを並列に接続することで高周波帯に対応させることができるが、複数のSBDの特性にバラツキ等があると電力分配が均一でなくなり、入力された交流電力が1つのSBDに集中して整流効率の低下や素子の破損が起きるという問題がある。また、電流定格の大きい高周波帯対応のSBDを特別に製作することもで高周波帯に対応することもできるが、コスト面で現実的ではない。
【0005】
非特許文献1には、SBDよりも高周波での整流効果が期待できる電界効果トランジスタ(以下、「FET」(Field Effect Transistor)という。)を用いた整流回路が開示されている。この非特許文献1では、FETにHEMT(High Electron Mobility Transistor)を用いている。非特許文献1に示された整流回路は、高周波で小電力,例えば数十mW程度の小電力に対しては所定の効率で整流を行う。しかし、1[W]以上の大電力の交流電力に対しては、FETの内部リアクタンス負荷の影響を受けて整流効率が低下してしまう。また、直流電力が接地に対して負電位になっており、この整流回路に接続される回路の使い勝手が悪い。
また、非特許文献1では、伝送線路とFETのゲート端子との間に出力フィルタが挿入されているために、回路の小型化が困難であり、携帯電話等のような小型の電子装置への採用には不適であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−050140号公報
【特許文献2】特開2009−253763号公報
【特許文献3】特開2006−345637号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】2006 年 電子情報通信学会総合大会. S-12. CBS-1-7.「マイクロ波電力伝送におけるHEMTを用いた整流回路に関する検討」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように整流素子にSBDを用いた場合には、高周波の交流電力に対する整流効率が低下するという問題があり、他方、整流素子にFETを用いた場合には、大電力に対する整流効率が低下する問題があった。
そのため、電磁界共鳴方式や電波受信方式による非接触充電は、容量の小さい充電池を小電力(数十[mW])で充電する用途に限られていた。
しかし、スマートフォン等のような携帯型の電子装置で必要とされる中電力(1〜4[W]程度)による急速充電を非接触充電で行うことへの要望は大きい。
【0009】
本発明の課題は、高周波の大電力を高効率に整流することができる高周波整流器、及び、非接触による急速充電が可能な電子装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の高周波整流器は、伝送線路上の高周波の交流電力を非同期整流する接合型のFETと、このFETで整流された電力を後段回路へ導くチョークコイルと、前記FETの出力側と前記チョークコイルの入力側との間に接続され、整流後の電力に含まれる交流成分に対するインピーダンスを高める第1オープンスタブとを備え、前記FETは、そのゲート端子が寄生容量成分を相殺するための誘導性素子を介して接地されており、そのソース端子及びドレイン端子の少なくとも一方が前記伝送線路に接続されている、高周波整流器である。
【0011】
このように構成される高周波整流器は、接合型のFETを非同期整流用の素子として用いたので、大電力の受電を行うことが可能となる。また、FETのゲート端子に接続される誘導性素子が当該FETの寄生容量成分を相殺し、高周波抵抗による内部損失を低下させるので、整流素子にFETを用いた場合の整流効率の低下が防止される。また、チョークコイルが電流変化を妨げる向きに誘導電流を流し、第1オープンスタブが、整流後の電力における交流成分、例えば高調波成分に対してチョークコイルの負荷を高インピーダンスにするので、例えばリップルのような振幅変動の少ない直流電力を得ることができる。
【0012】
ある実施の態様では、前記チョークコイルの出力側に、交流電力を全反射させる第2オープンスタブが接続されている。この第2オープンスタブにより、交流電力がチョークコイルの出力側、すなわち後段回路側に流れ込むことを防止し、当該交流電力をチョークコイルに再入力させるので、大電力入力時の整流効率の低下が抑制される。
【0013】
他の実施の態様では、前記FETのソース端子に、当該ソース端子のリアクタンス負荷を大きくするための第3オープンスタブが接続されている。この第3オープンスタブにより、FETの寄生リアクタンスによる負荷の影響が低減するので、当該第3オープンスタブが存在しない場合よりも高調波の整流効率が高まる。
【0014】
他の実施の態様では、前記FETの入力側に、容量性素子で構成された入力インピーダンス整合回路が設けられている。容量性素子は高周波の交流電力に対する損失が小さいため、整流効率を低下させることなく、また、回路構成の増大を抑えつつ、FETの入力側のインピーダンス整合をとることができる。
【0015】
本発明の電子装置は、上記のいずれかの態様の高周波整流器と、この高周波整流器で整流された電力を充電池に充電するための制御を行う充電制御器と、を備えて成る装置である。高周波整流器によって高周波帯での整流効率を高めることができるので、大電力を受電して充電池への急速充電を行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の高周波整流器によれば、整流素子として接合型のFET(その内部ダイオード)を用い、そのゲート端子に接続される誘導性素子により当該FETの寄生容量成分を相殺するとともに、チョークコイルにより電流の振幅変化を抑制し、さらに、第1オープンスタブで整流後の電力における交流成分に対してチョークコイルの負荷を高インピーダンスにするので、入力される交流電力の増大時の効率低下や整流された電力の振幅変動が防止され、大電力給電に対応することが容易となるという特有の効果が得られる。
これにより、携帯電話等のような小形の電子装置への非接触充電を大電力で安定的に行うことができ、急速充電や大容量の充電池への充電が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】電磁界共鳴方式の充電システムの構成図である。
【図1B】電波受信方式の充電システムの構成図である。
【図2】本実施形態の高周波整流器の詳細な構成図である。
【図3】高周波整流器の変形例の詳細な構成図である。
【図4A】高周波整流器の実装例を示した図である。
【図4B】高周波整流器の実装例を示した図である。
【図4C】高周波整流器の実装例を示した図である。
【図5】本実施形態の高周波整流器と従来の整流回路との整流効率の特性を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1Aは電磁界共鳴方式による充電システムの構成図である。給電元装置2から給電先装置1へは、コイル21、14を介して電力が給電される。また、図1Bは、電波受信方式による充電システムの構成図である。給電元装置2から給電先装置1へは、電波により電力が給電される。そのために図1Bでは、給電元装置2が電波を空間へ放射するための送信部22を有し、給電先装置1が給電元装置2から放射された電波を受信するための受信部15を有している。このように、図1A、Bの例では電力の受け渡し方式が異なるが、他の構成は、ほぼ同じである。
【0019】
本実施形態例において、給電元装置2は、給電先装置1に高周波の交流電力を電磁界共鳴方式或いは電波受信方式により給電する。交流電力の周波数は、例えば数百[MHz]〜数[GHz]である。
【0020】
給電先装置1は、例えばスマートフォンのような携帯情報端末あるいはその構成装置であって、高周波整流器10、充電制御器11、充電池12、及び報知部13を備えている。
高周波整流器10は、給電元装置2から給電された高周波の交流電力を直流電力に整流する。高周波整流器10から出力される直流電力は、充電制御器11の制御により充電池12に充電される。充電制御器11は、充電池12の充電量等の充電状態の監視と、報知部13の制御をも行う。具体的には、充電池12の充電状態に見合った報知信号を生成し、この報知信号により、所定の色のライトの点灯、文字表示或いは音により外部へ報知する。
【0021】
高周波整流器10の詳細な構成例を図2に示す。この高周波整流器10は、高周波整流器10の入力インピーダンス整合を行う整合回路100と、整合回路100の出力側の伝送線路Lを伝送する交流電力を非同期整流するFET101と、このFET101の後段側に伝送線路Lと並列に設けられたコンデンサ103と、FET101の出力側とチョークコイル102の入力側との間に設けられたオープンスタブ(第1オープンスタブ)104と、チョークコイル102の出力側とコンデンサ103との間に設けられたオープンスタブ(第2オープンスタブ)105とを有しており、これらの部品により整流された電力を充電制御器11に伝達する。
なお、伝送線路Lとは、入力された交流電力を整流した後、後段回路へ直流電力として伝達するための伝送線路である。
【0022】
整合回路100はリアクタンス素子、好適には容量性素子で構成される。これは、誘導性素子では純抵抗成分があり、この純抵抗成分の影響を受けて損失が生じ、整流効率が悪化してしまうためである。
【0023】
FET101は、電圧駆動型でバイポーラトランジスタよりも入力インピーダンスが高く、ゲート端子に大電力が生じず、高周波回路や大電力の回路に適しているHEMTやMESFET(Metal-Semiconductor Field Effect Transistor)のような、接合型のFETである。接合型のFETは、順方向降下電圧が小さいダイオードとして動作可能であり、交流電力の振幅が正極性のときに内部ダイオードが非導通(オフ))になり、また、振幅が負極性のときに内部ダイオードが導通(オン)になるように動作して、FET101として非同期整流動作を行う。
なお、接合型ではないMOS(Metal Oxide Semiconductor )型のFETでは、一般に高周波帯に対応し且つ電流定格の大きい寄生ダイオードを備えたものが殆ど無く、また大きな逆回復時間が生じるため、SBD同様に高周波の整流には不向きである。
【0024】
FETの組成は、SiC(炭化ケイ素)、GaAs(ガリウム砒素)、GaN(窒化ガリウム)等の化合物であるものが望ましい。特に、GaAsは、SiCに比べて高速に動作して浮遊容量も少ないので高周波特性が良好であり、集積化が可能なので、大電力に対応することができて便利である。GaNは、耐電圧、電流定格を非常に大きくとることができるために特性的には充分であるが、現状では高価である。そのため、本実施形態では、安価でプロセス技術も確立されており、開発が容易なGaAsを用いたFETを用いている。
【0025】
FET101は、ゲート端子Gが誘導性素子107を介して接地され、ドレイン端子D及びソース端子Sが伝送線路Lに接続される。このように接続することで、FET101は、ゲート端子G−ドレイン端子D間及びゲート端子G−ソース端子S間の2つの内部ダイオードを利用した非同期整流が可能である。
【0026】
誘導性素子107は、例えばチップインダクタや導体パターンで構成され、そのリアクタンスは、FET101のゲート端子G−ソース端子S間及びゲート端子G−ドレイン端子D間のキャパシタによるリアクタンスを、使用周波数において打ち消すように設定する。
FETのゲート端子G−ソース端子S間及びゲート端子G−ドレイン端子D間のキャパシタには、FET内に構成される真性キャパシタと、パッケージ、リード等のFETの使用環境によって生ずるキャパシタである寄生キャパシタとがある。ゲート端子G−ソース端子S間の真性キャパシタをCgs、寄生キャパシタをCgs’、ゲート端子G−ドレイン端子D間の真性キャパシタをCgd、寄生キャパシタをCgd’、ゲート端子GのボンディングワイヤやリードフレームのインダクタンスをLg、誘導性素子107のインダクタンスをL1とすると、使用周波数Fは、下記の式で与えられる。
F=1/[2π√{(Cgs+Cgs’)
+(Cgd+Cgd’)}
*(L1+Lg)]
【0027】
誘導性素子107は、例えばこの式においてインダクタンスL1が適切になるように設定する。このようにそのリアクタンスが設定された誘導性素子107により、FET101の寄生キャパシタンスの影響が消されてリアクタンス負荷が低減し、FET101の高周波抵抗による内部損失を低下させて整流効率の低下を防止する。また、接地に対してもFET101のドレイン端子D及びソース端子S側が正電位となるため、FETを整流素子として用いている従来の高周波整流器に比べて使い勝手が良くなる。
【0028】
通常、高周波に対応して耐電圧の大きいFETは、ソース接地での使用が想定されている。そのために、このようなFETの実装品には、一般的に、ゲート端子Gが1端子、ドレイン端子Dが1端子、ソース端子Sが2端子を有する4端子が設けられる。本実施形態のFET101は、ソース端子Sを伝送線路Lに接続するが、この場合、ソース端子Sを対称に伝送線路Lに接続すると、ゲート端子Gが1端子、ソース端子Sが2端子の3端子入力となり、端子構造も異なるものが多いため、電力分配が難しくなる。そのため、本実施形態では、2つのソース端子Sの一方を伝送線路Lに接続し、他方を開放し、或いは、ソース端子S同士を導体パターンで短絡させることで、電力分配を容易にしている。
【0029】
FET101の2つのソース端子Sの一方を伝送線路Lに接続し、他方を開放にした場合、開放にしたソース端子Sのリアクタンス負荷が、導体パターン等から生じる寄生キャパシタによる影響で低下する場合がある。このリアクタンス負荷の低下は、伝送線路Lに接続されたソース端子Sからの入力に影響を与え、整流効率を低下させる一因となる。そこで、本実施形態では、オープンスタブ(第3のオープンスタブ)106をソース端子Sに接続している。このオープンスタブ106は、ソース端子Sのリアクタンス負荷が使用周波数で大きくなる(使用周波数近傍で共振しない)ように設定され、ソース端子Sからの影響を抑制することで、整流効果の低減を改善するように動作する。
【0030】
一般的にFETは、ゲート端子G−ドレイン端子D間と、ゲート端子G−ソース端子S間とが対称構造になっているので、2つの内部ダイオードは同じ特性となる。しかし、FETの中には、特性改善のために意図的に対称構造を崩しているものがある。
このようなFETの場合、2つの内部ダイオードの特性が異なるために、整流効率の低下や電力配分が不均一になり、電流に偏りが生じて、半導体が破損することがある。このようなFETを用いる場合は、図3に示す高周波整流器10の変形例ように、2つのソース端子Sの両方を開放にするとともに、開放によるリアクタンス負荷の影響を低減するようにオープンスタブ106を付加することで、電流定格が低下するが整流効率の低下やFETの破損の可能性を低減させることができる。
ここで、ソース端子Sに代えてドレイン端子Dを開放することも可能である。しかし、前述の通り、一般にソース端子Sが2端子で構成されているために、高周波においてはインピーダンスの整合をとることが難しくなり、また、ドレイン端子Dと比べて耐電圧が低いものが多いため、ドレイン端子Dの開放は好適ではない。
【0031】
また、FET101を伝送線路Lと並列に用いる本実施形態と異なり、FETのソース端子Sとドレイン端子Dを出力側、ゲート端子Gを入力側の伝送線路Lにそれぞれ接続して直列に用いる方式も可能である。しかし、ゲート端子G−ソース端子S間及びゲート端子G−ドレイン端子D間のインピーダンスと入出力インピーダンスとの整合をとるのが難しく、また、FETの内部抵抗による電力消費が生じるため、本実施形態の場合よりも整流効率は低下する。
【0032】
チョークコイル102は、伝送線路Lに直列に接続され、コンデンサ103は、伝送線路Lに並列に接続される。チョークコイル102は、チップコイル等で構成でき、定数は使用する交流電力の周波数や電流値、抵抗成分(直流抵抗)に応じて設定される。コンデンサ103の容量は、使用する交流電力の周波数や出力負荷に応じて設定される。チョークコイル102の定数及びコンデンサ103の容量は、損失と平滑度の度合いに応じてトレードオフとなる。
【0033】
チョークコイル102は、FET101が非導通(FETの内部ダイオードがオフ)のときに電流が流れ込んでエネルギーを蓄え、FET101が導通(FETの内部ダイオードがオン)のときに蓄えたエネルギーを放出することで、電流変化を妨げる向きに誘導電流を流す。つまり、チョークコイル102は、電流が流れようとすると電流を妨げるように動作し、電流が減ると電流を流し続けるように動作する。このようなチョークコイル102による高周波電流の変化を阻止する動作、及びコンデンサ103による充放電や不要な高周波抵抗を下げて高調波信号を短絡させてFET101による整流で生じるリップルを抑える動作により、振幅変動が抑制された直流電力が安定的に得られる。
【0034】
オープンスタブ104,105は、例えば導体パターンで形成される。
オープンスタブ104は、整流された電力に含まれる交流成分、例えばFET101の歪みにより発生する高調波成分に対して、伝送線路Lの負荷が高インピーダンス負荷になるように形成する。これにより高調波電流の通電が抑えられる。スタブ長は、例えば二次高調波波長(λ)に対して1/4とする。
オープンスタブ105は、入力された電力の交流成分を全反射させ、整流後の電力の交流成分が出力側に流れこむのを防いで、チョークコイル102に再入力させる。スタブ長は、例えば整流前の交流電力の波長に対して略1/4とする。
【0035】
オープンスタブ105をチョークコイル102の入力側に接続することも可能であるが、用途の異なるオープンスタブを複数付加すると調整や構成が難しくなり、また、交流電力をチュークコイル102に再入力することにより、チョークコイル102により大電力を蓄えることができなくなる。よって、オープンスタブ104をチョークコイル102の入力側に、オープンスタブ105をチョークコイル102の出力側に設けることが好ましい。
【0036】
高周波整流器10の具体的な実装例を図4A〜4Cに示す。
図4Aは、厚さ1.0[mm]、縦横2[cm]×2[cm]のPPE(ポリフェニレンエーテル)製の基板108上に上記部品を形成した、いわゆる片面直付型の高周波整流器10の例である。この高周波整流器10は、整合回路100に入力される交流電力の周波数をF=1[GHz]に設定し、FET101にはGaAs製のものを用い、2つのソース端子Sの一方を伝送線路Lに接続し、他方を開放し、オープンスタブ106を接続している。すなわち、図2に対応したものとなっている。
【0037】
整合回路100は、伝送線路Lにチップコンデンサ110を挿入接続するとともに、もう一つのチップコンデンサ111を、チップコンデンサの出力側に並列に接続して構成される。この実装例では、入力インピーダンスが1[GHz]で整合するように、チップコンデンサ110を270[pF]、チップコンデンサ111を8[pF]としている。出力側のコンデンサ103は1000[pF]である。容量性素子で構成されるため、高周波抵抗による損失を防止することができる。また、スタブを用いて構成する場合よりも回路を小型化することができる。
【0038】
FET101のゲート端子Gに接続される誘導性素子107及びチョークコイル102には、巻線型チップインダクタを用いている。FET101は、内部合成容量が約7[pF]、ゲートインダクタが約[2nH]のものである。そのために、誘導性素子107のインダクタを1.5[nH]、チョークコイル102のインダクタを390[nH]に設定している。また、オープンスタブ104のスタブ長l1を高調波電流を抑制するために26[mm]とし、オープンスタブ105のスタブ長l2を高周波成分反射用に52[mm]に設定し、オープンスタブ106のスタブ長l3を寄生容量成分の相殺用に6[mm]に設定している。
【0039】
図4Bは、図4Aの例からオープンスタブ105,106を除いた構成である。図4Cは、図4Aの例からオープンスタブ106を除いた構成である。
【0040】
図5は、例えば非特許文献1に示される従来のFET使用の高周波整流器、従来のSBD使用の高周波整流器、及び図4A〜4Cに示す本実施形態の高周波整流器10の各々の整流効率を比較するための図である。図5に示されるように、入力される交流電力が1〜4[W]の場合、従来のFET使用の高周波整流器の整流効率(図中、2点破線で表される)は10〜20%である。また、従来のSBD使用の高周波整流器の整流効率(図中、1点破線で表される)は、2W以下の小電力では50%前後の効率が得られるものの、2W以上で急激に効率が下がり、3W付近で効率が0%、即ちSBDに破壊が生じる。なお、ここでは、伝送線路に対して15個のSBDを並列に接続した構成の高周波整流器を用いている。
これらに対して、本実施形態による高周波整流器10の整流効率(図中、図4Aに対応する特性が実線(A)で表され、図4Bに対応する特性が破線(B)で表され、図4Cに対応する特性が点線(C)で表される)は、最も効率が悪化する4[W]時でも50%程度あり、整流効率が格段に改善されている。本実施形態の高周波整流器10では、図4Aの例が最も高効率で整流を行っており、次いで、図4C、図4Bの順で、整流効率が高い。
【0041】
このように、本実施形態の高周波整流器10は、整流素子として、耐電圧、電流定格の大きい汎用の高周波用で、GaAsで構成された接合型のFET101の内部ダイオードを使用し、FET101の各端子において生じる寄生容量成分については誘導性素子107で相殺し、チョークコイル102の入力側に例えば高調波電流を抑制するためのオープンスタブ104、チョークコイル102の出力側に高周波成分の反射用のオープンスタブ105を接続することにより、数百[MHz]以上の高周波における整流効率の低下を防止し、1[W]以上の大電力の給電時においても、高効率に交流電力を整流することができる。
また、伝送線路Lに、FET101のドレイン端子D及びソース端子S、あるいはドレイン端子Dが直接接続されるため、出力フィルタがゲート端子と伝送線路との間に挿入される従来のこの種の高周波整流器に比べて、回路全体の小型化を図ることができる。
そのため、給電先装置1の充電制御器11で、高周波整流器10で整流された電力を充電池に充電するための制御を行うことにより、携帯電話等のような小形の電子装置への非接触充電を高周波且つ大電力で行うことができ、急速充電や大容量の充電池への充電が容易になる。
【符号の説明】
【0042】
1…給電先装置、10…高周波整流器、100…整合回路、101…FET、102…チョークコイル、103…コンデンサ、104、105,106…オープンスタブ、107…誘導性素子、108…基板、110,111…チップコンデンサ、11…充電制御器、12充電池、13…報知部、14…コイル、15…受信部、2…給電元装置、21…コイル、22…送信部、L…伝送線路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝送線路上の高周波の交流電力を非同期整流する接合型の電界効果トランジスタと、
この電界効果トランジスタで整流された電力を後段回路へ導くチョークコイルと、
前記電界効果トランジスタの出力側と前記チョークコイルの入力側との間に接続され、整流後の電力に含まれる交流成分に対するインピーダンスを高める第1オープンスタブとを備え、
前記電界効果トランジスタは、そのゲート端子が寄生容量成分を相殺するための誘導性素子を介して接地されており、そのソース端子及びドレイン端子の少なくとも一方が前記伝送線路に接続されている、
高周波整流器。
【請求項2】
前記チョークコイルの出力側に、交流電力を全反射させる第2オープンスタブが接続されている、
請求項1記載の高周波整流器。
【請求項3】
前記電界効果トランジスタのソース端子に、当該ソース端子のリアクタンス負荷を大きくするための第3オープンスタブが接続されている、
請求項1または2記載の高周波整流器。
【請求項4】
前記電界効果トランジスタの入力側に、容量性素子で構成された入力インピーダンス整合回路が設けられている、
請求項1乃至3のいずれか1項記載の高周波整流器。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の高周波整流器と、
この高周波整流器で整流された電力を充電池に充電するための制御を行う充電制御器と、を備えて成る、
非接触充電による給電を受ける電子装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−5529(P2013−5529A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132457(P2011−132457)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000006758)株式会社ヨコオ (158)
【Fターム(参考)】