説明

非接触信号伝送システムおよび方法

【課題】センサユニットと信号処理ユニットとを着脱可能に接合することができ、容量結合によりセンサユニットから信号処理ユニットへ信号を伝送する、非接触信号伝送システムを提供することを目的とする。
【解決手段】
第1の電極と、前記第1の電極に電気的に接続された少なくとも1つのセンサ素子とを含むセンサユニットと、前記第1の電極と容量結合された第2の電極と、増幅器とを含む信号処理ユニットと、を備え、前記センサユニットと前記信号処理ユニットとは、着脱可能である、非接触信号伝送システムを提供する。
さらに、前記少なくとも1のセンサ素子が複数のセンサ素子である場合に、1または複数種類のセンサからなることを特徴とする非接触信号伝送システムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触信号伝送システムに関するものであり、より詳細には、環境センシングや状態モニタリングにおける非接触信号伝送システムに関するものである。
【0002】
最も一般にセンサは、環境や自然現象の機械的、電磁気的、熱的もしくは化学的状態を、入力として感知して、入力に相応する電気信号を出力するものであるから、しばしば、厳しい環境下で使用されるので、物理的、化学的に耐環境性を備えることのほか、ノイズの検出への影響を最小限に抑えると同時にセンサからの出力信号を適切に処理する回路部が必要である。
【0003】
特に、MEMSセンサにおいては、小型化、複雑化が進む中、センサ素子自身以外の要素、例えば電気系である信号処理系を、MEMS内部に設けるのは得策ではない。また、信号処理ユニットは、センサから隔離して配置すれば、厳しい環境にさらされることもなく、その上電気回路であるから、化学的、機械的要素と異なり、比較的寿命が長い。一方、センサは、前述の通り、その目的から、耐環境性が要求されるが、それでも使用時間に伴い性能の劣化や故障を伴いやすく、比較的寿命が短いと言える。
【0004】
また、センサユニットと信号処理ユニットを同一要素内に構成すると、信号処理ユニットの寿命が来る前にセンサユニットの寿命が来ると、全体として、使用不可能になってしまう。センサユニットと信号処理ユニットを分離して構成した場合、電線等を用いて電気的に直接接続すると、センサから電線をMEMSの外側まで引き出さなければならないこととなり、構造が複雑になってしまうという欠点があった。
【0005】
また、電気的に非接触である信号伝送として光を用いた場合、伝送路が光透過性でなければないことに加え、光源および受光部に、電気・光および光・電気変換機構が必要になるという問題があった。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−307957
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の問題を解決するために、本発明は、センサユニットと信号処理ユニットとを着脱可能に接合することができ、容量結合によりセンサユニットから信号処理ユニットへ信号を伝送する、非接触信号伝送システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に基づき、第1の電極と、前記第1の電極に電気的に接続された少なくとも1つのセンサ素子とを含むセンサユニットと、前記第1の電極と容量結合された第2の電極と、増幅器とを含む信号処理ユニットと、を備え、前記センサユニットと前記信号処理ユニットとは、着脱可能である、非接触信号伝送システムを提供する。
また、本発明に基づき、前記増幅回路は、ブートストラップ回路を含み、高い入力インピーダンスを有する。
さらに、前記少なくとも1のセンサ素子が複数のセンサ素子である場合に、1または複数種類のセンサからなることを特徴とする非接触信号伝送システムを提供する。
さらに、前記信号伝送システムに用いる信号処理ユニットとセンサユニットとを提供する。
またさらには、非接触で信号を伝送する方法であって、少なくとも1つのセンサ素子から出力された信号を、増幅器を備えた信号処理ユニットへ、前記少なくとも1つのセンサ素子に電気的に接続された少なくとも第1の電極と、前記信号部に接続された第2の電極とが絶縁体を挟み着脱可能に配置されることで形成された容量結合を介して、伝送する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態に係わる容量結合を用いた信号伝送システムの断面の模式図。
【図2】本発明の第1実施形態の一変形例に係わる容量結合を用いた信号伝送システムの断面の模式図。
【図3】図1に示した容量結合を用いた信号伝送システムにおいて、センサユットと信号処理ユニットを分離した状態を表す模式図。
【図4】本発明の第2実施形態に係わる容量結合を用いた信号伝送システムの断面の模式図。
【図5】本発明の第2実施形態の一変形例に係わる容量結合を用いた信号伝送システムの断面の模式図。
【図6】本発明の第2実施形態の一変形例に係わる容量結合を用いた信号伝送システムの断面の模式図。
【図7】本発明の第2実施形態のさらなる変形例に係わる容量結合を用いた信号伝送システムの断面の模式図。
【図8】図7に示した容量結合を用いた信号伝送システムにおいて一センサユニットを分離した状態を示す模式図。
【図9】本発明の第2実施形態のまたさらなる変形例に係わる容量結合を用いた信号伝送システムの断面の模式図。
【図10】本発明の一実施例に係わる、容量結合を用いた信号伝送システムの回路図。
【図11】入出力電圧比rと周波数との関係を示すグラフ。
【図12】通常のDCリターンパスの回路図(a)および改良したDCリターンパスの回路図(b)
【図13】本発明に係わる一実施例に係わる、信号処理ユニットの回路図。
【図14】本発明に係わる一実施例に係わる、信号処理ユニットの増幅器の周波数−ゲインのグラフ。
【図15】本発明の一応用実施例に係わる、焦電型赤外線センサを用いた容量結合を用いた信号伝送システムの模式図。
【図16】図15に示した焦電型赤外線センサを用いた容量結合を用いた信号伝送システムにおける信号伝送の説明図。
【図17】本発明の一応用実施例に係わる、流体センサを用いた容量結合を用いた信号伝送システムの模式図。
【図18】本発明の一応用実施例に係わる信号処理ユニットの心電測定のための回路図。
【図19(a)】図18に示した本発明に係わる信号回路ユニットを用いて測定した心電図(肌に直接電極を張った場合)。
【図19(b)】図18に示した本発明に係わる信号回路ユニットを用いて測定した心電図(衣服1枚の上から測定した場合)。
【図19(c)】図18に示した本発明に係わる信号回路ユニットを用いて測定した心電図(衣服2枚の上から心電活動を測定した場合)。
【図20】本発明の第3実施形態に係わる、信号伝送試験に用いた誘電体と電極の構成を表す平面図。
【図21】図20に示した誘電体と電極6dの構成を用いて行った、受信された信号の波形図(図21(a)は、122Hz信号の受信された波形図、図21(b)は233Hz信号の受信された波形図である。)および122Hz信号と233Hz信号とのスペクトル振幅図(図21(c))。
【図22】電極間の最短距離に対するスペクトル振幅の最大値を示すグラフ。
【図23】本発明の第2応用実施例に係わる信号処理ユニットを有する移動体を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明に係わる一実施形態における容量結合を用いた信号伝送システム101の断面の模式図である。
【0011】
ここで、センサユニット1は、センサ素子3と、第1の電極4とを有し、さらに第1の電極4の表面を保護する目的の非導電性の被覆膜7を有している。一方、信号処理ユニット2は、増幅器5と、第2の電極6を有し、さらに第2の電極6の表面を保護する目的の非導電性の被覆膜8を有している。ここで、被覆膜7と8は、例えば、接着剤を被覆膜7および8の双方あるいは一方に塗布することで、着脱可能に接合されており、接合界面9を形成している。接合方法は、接着剤以外の化学的手法でもよく、また機械的に第1の電極4と第2の電極6を被覆膜7および8を介して固定する手法であってもよい。そして、増幅器5は、導線10によりコンピュータ11に接続されている。
【0012】
センサ素子3に刺激20が与えられた場合を説明する。ここで、例えば、センサ素子3が光センサであれば、刺激20は光であり、センサ素子3が圧力センサ、熱センサ、化学センサであれば、それぞれ、刺激20は、圧力、熱、化学物質となる。センサ素子3は、上記の例に限らず、その他、匂いセンサ素子、味センサ素子、光センサ素子、赤外線センサ素子等、どのようなセンサ素子でもよく、刺激20は各々のセンサ素子がセンシングすべき刺激20と解するものである。
【0013】
また、増幅器5には、信号処理の種類、信号処理ユニット内の電気回路の物理的配置などに応じて、増幅目的以外の信号処理回路を組み込んでもよい。
【0014】
刺激20を受けたセンサ3は電気信号を出力し、この電気信号は第1の電極4に電荷を与える。第1の電極4と第2の電極6は、絶縁層である被覆膜7および8を挟み、容量結合を形成しているので、第1の電極4に現れた電荷に対応した反対電荷が、第2の電極6に生じることとなる。この第2の電極6に生じた電荷すなわち電気信号は、信号増幅部5の増幅器9で増幅され、導線10を通して、コンピュータ11に送られる。コンピュータ11では、さらにフィルタリングやノイズ減少などの信号処理が行われこととなる。
【0015】
上記の実施形態では、増幅器5は、第2の電極6と物理的に接触して、あるいはその近傍に配置されているが、図2に示すように、増幅器5の一変形例に係わる増幅器5Aを、第2の電極6とは物理的に分離し導線10で結合し、増幅器5Aから出力された信号をコンピュータ11にさらなる導線10を通して送信するように信号処理ユニット2Aを構成してもよい。図2に示す本変形例において、センサ素子3から増幅器5Aまでの信号伝送は、図1で説明する実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0016】
以下の実施形態および変形例を説明するに当たり、図面において増幅器は図1と同様に第2の電極に物理的に接触しているように示すが、これに限定されず、増幅器は図3のように第2の電極から物理的に分離されている構成をとってもよいものである。
【0017】
本発明に係わるセンサユニット1と信号処理ユニット2とは、各々の電極4と6とで容量結合を形成するように構成されるが、必要に応じて分離することができる。分離するのは、例えばセンサユニット1が故障した場合や、寿命などの一定の使用期限が到来した場合が挙げられるが、その他の理由でもよい。信号処理ユニット2は、主に電気系であり、センサ素子を含み測定対象に物理的に接するセンサユニット1とくらべ、長い寿命を有する場合が多いが、故障により修理のために、未だ取り外す必要のないセンサユニット1から分離する必要も生じる。
【0018】
当該伝送システムは、センサ素子3が上記説明のように、例えば被覆膜7と8とを接着剤を用いて接合してもよい。その他、機械的、化学的等なんらかの手法を用い、第1の電極4と第2の電極6との間に所定の容量結合が維持されればよい。例えば、接着剤を用いた場合に、接合力が適当な接着剤を用いることで、センサユニット1と信号処理ユニット2を、分離することが可能となる。すなわち、接着剤の接着力を、信号伝送をする際には被覆膜7と8を接合した状態に保ち、センサユニットを交換する際には引っ張り力やせん断力を与えて分離することが考えられる。
【0019】
図3は、図1に示した信号伝送システムにおいて、センサユニット1と信号処理ユニット2とを接合界面9で分離したものを示す。当然、容量結合はもはやされていない。
【0020】
図3は、また、図1に示した信号伝送システムを、センサユニット1と信号処理ユニット2とを容量結合するように、組み立てる一段階も示している。例えば、センサユニット1と信号処理ユニット2は、各々独立に製造することができるので、製品の出荷時に、図1に示したような信号伝送システム101として組み立てられている必要はない。例えば、センシングすべき環境が動かせない場合は、そこにセンサユニット1を配置し、その後信号処理ユニット2を容量結合させるように配置してもよい。あるいは、信号処理ユニット2をある箇所に固定しておき、その後センサユニット1を容量結合させてもよい。つまり、その用途に応じ、センサユニット1と信号処理ユニット2とのどちらを先にどこに固定するかは、自由に設計することができる。
【0021】
以上から明らかなように、センサユニット1と信号処理ユニット2が、容量結合された状態(図1)にしたり分離された状態(図3)にしたりできるように、互いに着脱可能に構成されている。以下の実施形態および変形例において、分離された状態が図示または説明されていない場合も、センサユニットと信号処理ユニットとは、互いに着脱可能に構成されており、着脱の方法や態様については説明を省略してある。
【0022】
上記の実施態様および変形例においては、被覆膜を、第1の電極4と第2の電極6との双方の表面に形成したが、この態様に限られない。一変形例として、一方の電極のみに被覆膜を形成してもよい。さらに、被覆膜として、誘電体材料を塗布してもよいし、あるいは電極とは分離した材料として、例えば基板などの板状に形成し、2つの電極の間に挟む態様にしてもよい。すなわち、第1の電極と第2の電極が、直接電気的に接触せず、誘電体を挟んで容量結合を形成すればよいのであって、その他の技術により、接着と分離が可能なように、両電極を容量結合すれば足りるものである。材料も、絶縁体なら、ガラス、プラスチック、樹脂、コンクリート、衣類、書籍、紙類などの固体、さらには空気や真空など気体を含む流体など、各種誘電体材料を用途に応じて選択することができる。
【0023】
図4は、本発明に係わる一実施形態(第2実施形態)における容量結合を用いた伝送システム201の断面を模式的にあらわしたものである。本実施形態では、図1で示した実施形態と異なり、センサユニット21において、複数のセンサ素子23が設けられ、それぞれのセンサ素子23につき一の第1の電極24が形成されている。そして、これら複数の組のセンサ素子23と第1の電極24が、誘電体基板27上に形成されている。一方、信号処理ユニット22は、被覆膜28に覆われた第2の電極26、増幅器25を有し、第1の電極24は第2の電極26と、誘電体基板27と被覆膜28とを介して、着脱可能に容量結合を形成している。本実施形態の信号処理ユニット22の構成および機能は、図1の信号処理ユニット2と同様である。また、図1で示した導線10とコンピュータ11も接続されているが、図1と同様であるので、省略する。
【0024】
これら、センサ素子23として、同一の種類のセンサ素子を形成する場合もあり、また、複数の種類のセンサ素子を形成する場合もありえる。
【0025】
まず、同一の種類のセンサ素子を形成するのは、例えば、一のセンサ素子だけでは十分な出力信号の強度を確保することができずS/N比が比較的小さくなってしまう場合に、複数のセンサ素子を形成することでS/N比の増大が実現できる。また、複数のセンサ素子の内、一部のセンサ素子が故障等により機能しなくなった場合にでも、他のセンサ素子が機能している限り、信号を取り出すことが可能である。
【0026】
さらには、複数のセンサ素子を誘電体基板27上に所定の2次元構成に配置することで、センサリングする対象の状態の2次元的分布を得ることが可能になる。ただし、本実施例のように、信号処理ユニット22の第2の電極26が一つのみである場合、これら複数のセンサ素子が同様の信号の出力形式を有していると、信号処理ユニットにとって、どのセンサ素子からの信号であるかについて特定することが困難である。従って、以下に述べるが、センサ素子ごとに変調方式を変えたりして、信号処理ユニットにおいてどのセンサ素子からの出力信号であるか特定できるような機構を設ける必要がある。
【0027】
本実施形態の一変形例として、上記の複数のセンサ素子として、複数の種類のセンサ素子を形成すれば、複数の種類の状態をセンシングすることが可能になる。そして、上記と同様に、区別可能な変調方式を採用するなどして、信号処理ユニットにおいてどのセンサ素子からの出力信号であるか特定できるような機構を設ければ、同時に複数の種類のセンシングが可能になる。
【0028】
複数のセンサ素子が信号を同様のあるいは類似した電圧レベルあるいは周波数で出力する場合、信号処理ユニットは受信信号がどのセンサ素子からのものか特定できなければならない。そこで、第2実施例の一変形例として、センサごとに、そのセンサに固有の周波数を割り当て、センサからの出力信号を変調する信号伝送システム201Mを、図5に模式的に示す。ここで、図4と同様に、センサユニット21Mにおいては、誘電体基板27M上に複数のセンサ素子23Mと第1の電極24Mが設けられている。ここで、センサユニット21Mにおいては、各センサ素子23Mと第1の電極24Mとの間に変調器212Mが設けられている。一方、信号処理ユニット22Mにおいては、被覆膜28Mが形成された第2の電極26Mと増幅器25Mが設けられており、さらに増幅器25Mの出力側に、復調器213Mが設けられている。ここで、第1の電極24Mと第2の電極26Mとは、誘電体基板27Mと被覆膜28Mとを介して、着脱可能に容量結合を形成している。このように構成することで、各センサに対応した周波数ごとに信号を取り出すことができ、すなわち、一のセンサからの出力は、他のセンサからの出力から、分離、摘出することが可能になる。
【0029】
この変調方法としては、振幅変調(AM)でもよいし、周波数変調(FM)でもよい。また、変調の態様は、上記の振幅、周波数変調に限られず、その他の変調方式を用いることもできる。
【0030】
さらには、本実施例のように複数のセンサ素子を配置し、その上、各センサ素子からの信号出力を信号処理ユニットにおいて区別し特定できる機構を設けている場合は、一のセンサ素子と一の電極からなる容量結合を複数ならべて配置した場合と比べ、隣接するセンサ素子間のクロストークを低減することができる。
【0031】
図6は、第2実施形態のさらなる変形例に係わる、容量結合を用いた信号伝送システム301の断面の模式図である。図4で示した変形例と異なり、センサユニット31において、複数のセンサ33が、誘電体基板27上に形成された1つの第1の電極34に設けられ、それぞれのセンサ素子23につき一の第1の電極24が形成されている。一方、信号処理ユニット32は、被覆膜38に覆われた第2の電極36、増幅器35を有し、第1の電極34と第2の電極36とは、誘電体基板37と被覆膜38とを介して、着脱可能に容量結合を形成している。本実施形態の信号処理ユニット32の構成および機能は、図1の信号処理ユニット2と同様であるので説明を省略する。図6では、変調器および復調器が示されていないが、上記および図5で説明した変調器および復調器を配置することもできる。
【0032】
図7は、第2実施形態のさらなる変形例に係わる、容量結合を用いた信号伝送システム401の断面の模式図である。図4と図6で示した変形例と異なり、センサユニット41において、1つのセンサ43と1つの第1の電極とからなる組が、1つの誘電体基板47上に形成されている。一方、信号処理ユニット42は、被覆膜48に覆われた第2の電極46、増幅器45を有し、第1の電極44と第2の電極46とは、誘電体基板47と被覆膜48とを介して、着脱可能に容量結合を形成している。本実施形態の信号処理ユニット42の構成および機能は、図1の信号処理ユニット2と同様であるので説明を省略する。
【0033】
本変形例の構成により、図8に示すように、例えば1つのセンサ素子43Xのみが故障等により取り外す必要が生じた場合に、そのセンサ素子43Xに関連する部分(センサ素子43X,第1の電極44X,および誘電体基板47X)のみを分離することを可能にするものである。そして分離した箇所には交換用のセンサ素子等を接着などにより容量接合することができるが、明らかであるので、図示はしていない。
【0034】
図9は、第2実施形態のさらなる変形例に係わる、容量結合を用いた信号伝送システム501の断面を模式的に表したものである。図4、6および7で示した変形例と異なり、センサユニット501において、センサ53と第1の電極54とからなる組が複数組、グルーピングされて一つのセンサグループ51Gとして、1つの誘電体基板57上に形成されている。一方、信号処理ユニット52は、被覆膜58に覆われた第2の電極56、増幅器55を有しいる。そして、上記の各センサグループ51Gは、信号処理ユニット52の被覆膜58に覆われた第2の電極56上に接合され、各第1の電極54と第2の電極56とは、誘電体基板57と被覆膜58との接合界面59において着脱可能に、容量結合されている。
【0035】
本変形例の構成によって、モニタすべき環境を、複数の測定方法により測定し、得られた複数の測定値を総合的に換算した指標(「総合指標」とよぶこととする)によって、常に適切に評価することが可能になる。車両内の環境を例にとると、快適さや乗り心地をそれぞれ総合指標とした場合、それぞれの総合指標を評価するために測定しなければならない温度、湿度、音の周波数特性、振動の強さなどを同時に測定する各センサ51をグルーピングし、快適さの評価のためのセンサグループ51Gと、乗り心地の評価のためのセンサグループ51Gとを個別に形成することが可能になる。すなわち、複数の総合指標を同時に得るために、各々の総合指標に適したセンサグループ51Gを作成し、複数のセンサグループ51Gを配置することが可能になる。用途に応じて、これらセンサグループ51Gは、個別に信号処理ユニット52から着脱可能であるから、総合指標の組合せを自由に変更することができる。上記の例は、快適さなどの人間の感覚にうったえる環境の評価をするための総合指標に係わるものだが、その他、自然現象や製造工程の複数の状態を同時に測定し総合評価する場合など、実際の個々の応用に即して、独自の総合指標を定義しセンサグループ51を形成することができる。
【0036】
また、センサグループ51Gのセンサ51のグルーピングの態様として、センサ51の寿命ごとにグルーピングしてもよいし、センサ51が同一の製造ラインで製造できるといった製造簡便性によってグルーピングしてもよい。
【0037】
<信号処理ユニットの回路>
信号処理ユニットのインピーダンスについて考察する。
本発明に係わる信号伝送システムの電気回路は、等価回路として、図10のように表すことができる。ここで、センサユニットの出力電圧をV、出力電流をi、センサユニットの内部抵抗と内部静電容量をそれぞれ、C、R、そして容量結合部の静電容量をC、信号処理ユニットの増幅器の入力抵抗と入力容量をRin、Cin、増幅器からの出力電圧をVとする。
【数1】


ここで、XCmとは、Cのリアクタンスである。そして、増幅器のインピーダンス、Zin
は、
【数2】


となる。ここで、XCinとは、Cのリアクタンスである。
ここで、一実施例として、センサユニットの出力周波数が1Hzで、電極の面積を5cm×5cm、電極間の誘電体の誘電率を3.5、厚さを0.4mmと仮定し、センサユニットの静電容量Cを1μF、抵抗Rを10kΩとし、前置増幅器として用いたオペアンプの入力容量と入力抵抗をそれぞれCinを0.4×10−12F、Rinを10−15Ωとし、上記式(1)および(2)と容量結合部のリアクタンスXCEを計算すると以下のようになる。
=9.4×10Ω
in=7.9×1011Ω
CE=8.2×10Ω
=195pF
以上の計算結果より、この実施例では、Z<<XCEとなり、センサユニットの起電力の電圧損失はXCEに依存すると考えて差し支えない。つまり、信号伝送システム全体のS/N比を高めるためには、出来るだけ入力インピーダンスZinを高くし、容量結合部での電圧損失を小さくすることが必要である。
【0038】
次に、入力インピーダンスを具体例として算出する。
入出力電圧比
r = |Vout/V| = 1
であればセンサ素子と同じ電圧の信号がボルテージフォロア部の出力に現れることとなる。
【0039】
ここで、容量結合部と信号処理ユニットのインピーダンスは、
【数3】


より、
【数4】


また、V=iZ、Vout=iZより、
【数5】


であるから、ω=2πfとして、周波数fと入出力電圧比rとの関係は、各Zinの値に対して、図11のようになる。入力インピーダンスZinが大きいほど、低周波でのrの立ちあがりが急峻になっていくことがわかる。Zin=10Ωまでは、rの立ち上がりが非常に遅いことが分かる。Zin=10Ωにおいて、rの立ち上がりは、向上しているものの、低周波数においても一定し、かつ高い入出力電圧比,すなわちr=1を実現するためには、入力インピーダンスが、Zin=10Ω以上であることが必要であることが分かる。
【0040】
次に、回路設計について説明する。
図10のように、容量結合部と増幅器の間に、DCリターンパスを設けない場合、入力インピーダンスは増幅器の入力インピーダンスとなる。しかし、このままでは容量結合部に入力バイアス電流が流れ込んでコンデンサを充電し、最終的には増幅器の入力回路の同相電圧の定格を越え、あるいは出力が限界値に達してしまうことになる。
【0041】
これを防ぐ方法として、図12(a)のように増幅器の入力とグラウンドの間に抵抗を接続して入力デバイス電流のパスを設けることが考えられる。しかし、この場合の入力インピーダンスは、ほぼRcに決まってしまい、さらにドリフト等の制約からRcの値をそれほど大きくすることができず、結果として入力インピーダンスが著しく低下してしまうことになる。
【0042】
そこで、図12(b)のようにブートストラップという構成を用いることで、入力インピーダンスの低下をある程度防ぎつつ、出力の飽和を避けることができる。
図12(b)の構成の入力インピーダンスは、以下の通りである。
【数6】


そこで信号処理ユニットの増幅器の一実施態様として、初段増幅器でボルテージフォロワ、次段増幅器でゲイン50倍の作動増幅器を配置する構成を採用した(図13)。ここで、R1=10MΩ、C1=3.35μFであり、アンプA1としてTL072を用いた。
【0043】
信号の周波数を1Hzと仮定すると、この回路の入力インピーダンスは、上記の式より、2.1×10Ωとなり、高い入力インピーダンスが得られる。
【0044】
回路シミュレータを用いて得られた、本回路の周波数−ゲイン特性を、図14に示す。本回路によれば、約10Hzから約10kHzの周波数で、ほぼ一定した十分なゲインを維持することができる。よって、信号の周波数を操作して上記の周波数の範囲で信号伝送をすると、低周波数領域におけるゲインの低下が問題とならない。
【0045】
<実施例1>
本発明の第1実施形態の一実施例として、焦電型赤外線センサを用いた、人間の通過に対応する信号を非接触で検出する信号伝送システム601を実際に作成した。図15は、その概要図であり、図16は、信号の伝達を説明するための図である。ここで、例えば第1の電極64と第2の電極66の間にある絶縁体として壁68がある。この壁68を有する家の内側に信号処理ユニット62やコンピュータ611を配置し、壁68の外側に焦電型赤外線センサ63を有するセンサユニット61を配置してある。こうすることで、このセンサ63の箇所に人間620Hが接近したという情報を、壁を介して家の中で検知することができるようにした実施例である。当然、家の壁とした状況設定は一例であり、他のさまざま状況に使用することができる。
【0046】
この信号伝送システム601では、人間620Hが近づいたときに、人間の体温による赤外線620が焦電型赤外線センサ63に入射されると、焦電センサは、通常直流信号63Sを発生させる。直流信号や交流信号であっても周波数1Hzのほぼ直流と考えることのできる信号は、本発明に係わる信号伝送システムでは、容量結合の性質上、そして信号処理ユニットの性質上(図16)、容量結合を介して信号伝送し、かつ信号を検出するのは困難な場合がある。そこで、センサユニット61には、その直流電流をADコンバータ612を焦電センサ63と第1の電極64との間に配置し、信号処理ユニット62には、DAコンバータ613を第2の電極66と増幅器65との間に配置することで、容量結合により伝送される信号が適切な周波数の交流信号となるような構成をとった。そうすることにより、焦電センサ63から出力される信号63SをADコンバータ612がこの直流信号をパルス信号612Sに変換し、絶縁体を介してその信号を伝送させる(68S)。信号処理ユニット62において、信号68Sを第2の電極66を受信し、この受信信号66Sは、DAコンバータ613により再び直流信号613Sに変換される。
【0047】
本実施例により、人体を検知した時には、コンピュータ611が相当する信号を受信する設計にした。壁の外側にセンサを設置し、壁の内側に信号処理ユニットを設置し、簡便な防犯センサとして利用することができる。
【0048】
絶縁体として、壁の他にも、厚さ3cmの書籍や、厚さ2cnのガラスを用いた場合も、信号伝送システムの動作確認したところ、正常な作動が確認された。
【0049】
<実施例2>
本発明の第2実施形態に係わる複数のセンサ素子を含む信号伝送システムとして、流体センサを有する信号伝送システム701の断面の模式図を図17に示す。
【0050】
壁714と715により規定される流路716を流れる流体720Fを、アコースティックエミッションセンサ(振動センサ)である流体センサ素子73によりセンシングするシステムである。本実施例においては、壁715の中に、流体センサ素子73と第1の電極74とからなる対が、複数個、流体720Fの流れる方向に沿って、壁715の中で表面下に埋め込んで形成されている。そして、第1の電極74は、絶縁層77を介して、センサユニットの外部に配置された第2の電極76と容量結合している。さらに、第2の電極76は、増幅器75を介してコンピュータ711へ接続されている。
【0051】
ここで、流体720Fが流路716を流れると、振動が生じ、流体センサ素子73により音波として検知され、電気信号が第2の電極74に電荷として現れ、対応する反対電荷を第2の電極76に生じさせることとなる。この電気信号が、増幅器75により増幅され、コンピュータ711で処理され、流体720Fの流れ720が検出されることとなる。このように、流路716に生じた音波特性により、流体720Fの有無や流量が測定できる。
【0052】
流体センサとして、上記のアコースティックエミッションセンサに限定する必要はなく、電磁誘導式センサや圧力センサなどを用いることもできる。
【0053】
<応用実施例1>
本発明の実施形態に係わる信号処理ユニットは、さまざまなセンサのいわゆるプラットフォームとして提供されうるものである。
【0054】
例えば、MEMSへの応用において、同一の信号処理ユニットに対して、さまざまなセンサユニットを開発用意することで、応用に応じたセンサの選択が出来、さらに信号処理の効率化を図ることができる。
【0055】
また、例えば、人間の居住環境についてセンシングをしたい場合、壁の内側に、信号処理ユニットを設けておき、壁を誘電体して、壁の外側にセンサユニットとして上記の赤外線センサあるいは温度、湿度、匂いセンサ等を設ければ、センサの寿命による取り替え、月や季節に応じたセンサ種類の取り替え、などが可能となる。取り替えはあくまでセンサユニットであり、信号処理ユニットはその寿命まで半永久的に最初の設置場所に設けられるのである。
【0056】
従って、信号処理ユニットの設置箇所として、壁以外にも、電柱やビルなどの建物、あるいは椅子やベッドなどの家具の内部が挙げられる。
【0057】
そして、応用範囲は、上記の温度以外にも、人体の有無や通過の判断をすることで防犯や、通過量の計測から、湿度や匂いといった生活環境の計測などが、挙げられる。
【0058】
<応用実施例2>
本発明に係わる信号処理ユニットは、パルスを発する物体をセンサユニットに対応するものとして、信号処理に使用することができる。そこで、まず心電計への応用例を、図18および19を参照して以下に説明する。
【0059】
図18は、本応用実施例に係わる信号処理ユニット82の構成を示している。上記の実施形態および実施例、特に図13で示した信号処理ユニットを2つ用いて増幅回路85が形成されている。2つの第2の電極86の間の電位差は、増幅回路85の後で差動増幅回路85Dにより増幅される。本応用実施例に係わる増幅回路85は、上記のボルテージフォロワ(ゲインG1=0)とブートストラッピングによる構成され、C1=3.35μF、R1=10MΩであり、アンプA1にはTL072を用いた。そして、差動増幅回路85D(ゲインG2=34dB)においては、R2=1kΩであり、アンプA2はINA121を用いた。そのあとにA/Dコンバータ813が設けられ、コンピュータ811に接続されている。
【0060】
皮膚81に現れた心電信号は、衣服あるいは皮脂87を介して容量結合された第2の電極86へ伝送されて、増幅回路85と85DおよびA/Dコンバータ813を通り、最終的にコンピュータ811で読み取られる。
【0061】
本実施例では、心電図の誘電法としてNASA誘導法を採用した。この誘導法は、筋電図の混入が最も少なく、P波を観察するのに適しており、不整脈の判断等に利用されている。また、信号をPCで取得した後、デジタルフィルタとして、5次のローパスフィルタ(カットオフ周波数fc=40Hz)を設定した。
【0062】
図18に示した本発明に係わる信号回路部による心電計を用いて、肌に直接電極を張った場合の結果を、同図(a)に、衣服1枚の上から測定した結果を同図(b)に、そして衣服2枚の上から心電活動を測定した結果を同図(c)に示す。いずれの場合も、R波が計測できており、心拍計として十分に機能することが分かった。
【0063】
<応用実施例3>
上記の応用実施例に係わる信号処理ユニット82の一応用例として、上記の応用実施例の神経細胞の活動の測定への応用が挙げられる。神経細胞がその機能として情報処理や情報伝達を行う際に、細胞内外の電位差がほぼ一定の振幅で非常に短時間に急速に変化すること、すなわち活動電位の変化がパルスとして生じることが知られている。そこで、本発明における信号処理ユニットの第2の電極上に、例えば測定対象としての神経細胞を載せると、神経細胞を本発明に係わるセンサユニットに見立てることができる。そして、神経細胞の発する活動電位変化を、容量結合を介して、パルス信号として信号処理ユニットが受信することで、検知することが可能となる。
【0064】
次に、上記実施形態および実施例より、さらに自由度が高く、使い勝手のよい実施形態について説明する。
【0065】
本実施形態(第3実施形態)においては、容量結合による信号伝送をするためには、誘電体を介して互いに対向しないように配置された電極(第1の電極と第2の電極)を備えている。すなわち、誘電体の電極と接する面に垂直な方向から見た場合に、第1の電極と第2の電極が、重なり合わなくてもよい。
【0066】
本実施形態の一変形例として、第1の電極と第2の電極とが誘電体を挟んで平行に配置され、第1の電極と第2の電極との間の最短距離が、誘電体の厚さより大きくてもよい。
【0067】
本実施形態の他の変形例として、第1の電極と第2の電極との中心間の距離が、誘電体の厚さの8倍以上でもよい。
【0068】
本実施形態の一実施例として、縦(L)60cm、横(W)30cm、厚さ(h)6mmの市販の透明板ガラスを本願発明の誘電体として使用し、信号処理ユニットとセンサユニットの電極が、相対的に離間して配置される場合の、これら電極間での信号伝送の可能性を試験した。
【0069】
図20は、試験に用いた透明板ガラス8のガラス面に対して垂直な方向から見た、この透明板ガラスに対する信号処理ユニットの電極4とセンサユニットの電極6a、6b、6c、6dの配置を示すものである。図20の透明板ガラス8の右下、表面に、約8cmx8cmの金属電極4を透明板ガラス面に直接設け、この金属電極の上に、122Hzの信号と233Hzの信号を発する信号発生源に接続された電極をそれぞれ設けた。透明板ガラスの裏面には、信号処理ユニットに接続される信号受信電極6a、6b、6c、6d)を設けた。
【0070】
金属電極と電極6a、6b、6c、6dとの、透明板ガラスのガラス面に対して垂直な方向から見た場合の、電極の中心間の距離(d)は、それぞれ、おおよそ0cm、8cm、29cm、52cmであった。透明板ガラスのガラス面に対して垂直な方向から見た場合の、金属電極と各電極6a、6b、6c、6dとの最も近い縁間の距離(d)は、それぞれ、おおよそ、0cm、1.7cm、17.5cm、44.2cmであった。また、金属電極と各電極6a、6b、6c、6dとの空間的な最短距離(dmin=(d+h1/2)は、それぞれ、おおよそ、0.6cm、1.8cm、17.5cm、44.2cmであった。
【0071】
また、透明板ガラスの厚み(h)に対する、金属電極と電極6a、6b、6c、6dの中心間の距離(d)の比率(d/h)は、それぞれ、おおよそ、0、8、29、52であった。そして、透明板ガラスの厚み(h)に対する、金属電極と電極6a、6b、6c、6dの最も近い縁間の距離(d)の比率(d/h)は、それぞれ、おおよそ、0、14、49、86であった。したがって、金属電極と電極6b、6c、6dとを結ぶ線と、ガラス面とが、それぞれなす角度として、arctan(h/d)は、それぞれ、おおよそ、20度、2.0度、0.8度、arctan(h/d)は、それぞれ、おおよそ、4.1度、1.2度、0.7度であった。
【0072】
各電極6aから6dで受信された信号は、中心周波数122Hzおよび233Hzのバンドパスフィルタで処理された。図21(a)、図21(b)は、それぞれ、バンドパスフィルタで処理された後の122Hz、233Hzの信号を示す。図21(c)は、図21(a)、図21(b)で示された信号をFFT(高速フーリエ変換)によりスペクトル信号処理した、いわゆるスペクトル振幅値を、両方の周波数を合わせて表示したものである。図21(a)から(c)の結果から、いずれの周波数においても、明瞭な正弦波が受信されたことを示すともに、二つの周波数の信号が、信号処理ユニットにより分離できることが示された。
【0073】
金属電極と最も遠い電極6dにおいて、信号伝送が確認された。図示しないが、電極6aから6cにおいては、より明瞭な正弦波が受信され、かつ、二つの周波数の信号が、信号処理ユニットにより分離できた。
【0074】
図21(c)において、各周波数での電極6dからのスペクトル振幅の最大値が計算できる。他の電極6aから6cについても、同様に、各周波数での電極6dからの振幅の最大値を計算した。各周波数122Hzと233Hzの各々の周波数について、電極間の最短距離に対するスペクトル振幅の最大値を、それぞれプロットしたものを図22に示す。ただし、スペクトル振幅の最大値は、処理信号ユニットの特性と周波数に依存して変化することがありえる。したがって、図22は、電極間距離と受信信号強度との間の特定の定量的な関係を示していると理解する必要はない。図22は、むしろ、数十cm離れて配置され、容量結合されている電極間で、正確な信号伝送を行うことが可能であることを示している。
【0075】
電極間の離間距離をいかなる値まで大きくして信号伝送ができるかは、入力信号の電圧の大きさや波形の正確さ、あるいは誘電体の特性に依存するほか、信号処理ユニットの回路設計やフィルタリングにも依存する。しかし、図22に示す実験結果は、数十cmよりはるかに大きい離間間隔で容量結合された電極間でも、正確な信号伝送が可能であることを示している。例えば、上記電極間距離の10倍程度に相当する、1mから5mの電極間距離においても、十分に信号伝送が可能であると考えるべきである。しかし、さらに大きい電極間距離において信号伝送ができないことを示唆する事実は見当たらない。したがって、電極間の離間距離は、信号検出限界まで可能であるということができる。
【0076】
上記離間した電極を有する、非接触伝送システムは、様々な用途に応用することができる。例えば、車両やモバイル電子機器などの移動体において、ガラス窓やタッチパネルなどの誘電体板の内側に、信号処理ユニットを内臓させて、様々な移動先にセンサユニットとして情報発信源と接続された電極を配備することができる。移動体は、車両と電子機器に限られず、誘電体とこの誘電体に接続された信号処理ユニットを内臓し、恒常的設置されない装置を含む概念である。
【0077】
図23は、本発明の一応用実施例(応用実施例4)として、タッチパネル908Tに誘電体基板908が使用されているモバイル電子機器901Aであって、信号処理ユニット(図示せず)を内臓し、信号処理ユニットに接続され誘電体基板908に接着された電極906を有するモバイル電子機器の鳥瞰図を示す。このような移動体901Aを携帯することで、各移動先で、最新あるいは移動先固有の情報を簡便に交信して取得することができる。あるいは、他のモバイル機器901Bとの交信も可能となる。この他のモバイル機器901Bは、モバイル電子機器901Aのタッチパネル908Tに接着される電極904を有している。それぞれの電子機器のユーザが信号伝送をするときには、モバイル機器901Bの電極904をモバイル電子機器901Aのタッチパネル908Tに一時的に、あるいは着脱可能に接着して、電極904と電極906間に容量結合を形成することができる。あるいはまた、モバイル電子機器に、信号を受信して処理する信号処理ユニットと信号を発信するセンサユニットとの両方を配備することにより、複数のモバイル電子機器間で、容量結合を用いた信号伝送が可能になる。
【0078】
容量結合による信号伝送は、無線、電磁波、光などによる信号伝送と比較して、消費電力が低く、信号発信装置が簡便であるので、本実施形態の非接触信号伝送システムは簡単にそして安価に配置することができる。そして、電極間で信号を傍受される確率も低いので、信号伝送として安全な方法である。
【0079】
例えば窓ガラスのような透明な板状の誘電体を使用する場合には視覚的に適した位置に、信号処理ユニットとセンサユニットに対応する電極を配置することができる。模様その他窓ガラスの透明性を遮る箇所(非透明領域)に、電極を配置することで、その他の透明領域は窓ガラスの透明性を確保することができる。あるいは、窓ガラスの縁部に、電極を配置してもよい。
【0080】
さらに、電極を互いに離間して配置することができるので、透明な誘電体の視覚性を犠牲にすることなく電極を配置することができ、あるいは誘電体に対する電気機器の配置に自由度が高くなり、高いデザイン性を実現することができる。
【0081】
その他の応用実施例として、非移動体に使用される非接触信号伝送システムがある。例えば、建物などの窓ガラスを誘電体として構成するものが挙げられるが、これに限定されない。また、誘電体は透明でなくてもよい。
【符号の説明】
【0082】
101 信号伝送システム
20 刺激
1 センサユニット
2 信号処理ユニット
3 センサ素子
4 第1の電極
5 増幅器
6 第2の電極
7 被覆膜
8 被覆膜
9 接合界面
10 導線
11 コンピュータ
2A 信号処理ユニット
5A 増幅器
201、301、401、501 信号伝送システム
21、31、41、51 センサユニット
22、32、42、52 信号処理ユニット
23、33、43、53 センサ素子
24、34、44、54 第1の電極
27、37、47、57 誘電体基板
25、35、45、55 増幅器
26、36、46、56 第2の電極
28、38、48、58 被覆膜
201M 信号伝送システム
21M センサユニット
22M 信号処理ユニット
23M センサ素子
24M 第1の電極
27M 誘電体基板
25M 増幅器
26M 第2の電極
28M 被覆膜
212M 変調器
213M 復調期

43X 分離するセンサ素子
44X 分離する第1の電極
47X 分離する分離する誘電体基板

601 焦電型赤外線センサを用いた信号伝送システム
61 センサユニット
62 信号処理ユニット
63 赤外線センサ素子
64 第1の電極
65 増幅器
66 第2の電極
68 壁
611 コンピュータ
620H 人間
620 赤外線
612 ADコンバータ
613 DAコンバータ
63S 赤外センサ素子の出力
612S ADコンバータの出力
68S 容量結合による信号伝送
66S 信号処理ユニットへの入力
613S DAコンバータの出力

701 流体センサを用いた信号伝送システム
73 流体センサ素子
74 第1の電極
75 増幅器
76 第2の電極
77 絶縁層
710 導線
711 コンピュータ
714 壁
715 壁
716 流路
720F 流体
720 流れ

82 信号処理ユニット
81 皮膚
85 増幅器
85D 増幅器
86 第2の電極
87 衣服あるいは皮脂
813 ADコンバータ
811 コンピュータ

901A、901B モバイル電子機器
904、906 電極
908 誘電体基板
908T タッチパネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの第1の電極と、当該第1の電極に電気的に接続された少なくとも1つのセンサ素子とを含むセンサユニットと、
前記第1の電極と容量結合された第2の電極と、増幅器とを含む信号処理ユニットと、
を備え、
前記センサユニットと前記信号処理ユニットとは、着脱可能であることを特徴とする非接触信号伝送システム。
【請求項2】
前記第1の電極と前記第2の電極とが誘電体を挟んで平行に配置され、
前記第1の電極と前記第2の電極との間の最短距離が、前記誘電体の厚さより大きいことを特徴とする請求項1に記載の非接触信号伝送システム。
【請求項3】
前記第1の電極と前記第2の電極との中心間の距離が、前記誘電体の厚さの8倍以上であることを特徴とする請求項2に記載の非接触信号伝送システム。
【請求項4】
前記誘電体は透明であることを特徴とする請求項2または3に記載の非接触信号伝送システム。
【請求項5】
前記誘電体は板状であり、前記第1の電極と前記第2の電極の少なくともいずれか一方が当該板状誘電体の縁部に配置されることを特徴とする請求項4に記載の非接触信号伝送システム。
【請求項6】
前記少なくとも1のセンサ素子が複数のセンサ素子である場合に、1または複数種類のセンサからなることを特徴とする請求項1から5いずれか一項に記載の非接触信号伝送システム。
【請求項7】
前記増幅器は、ブートストラップ回路を含み、10Ω以上の入力インピーダンスを有することを特徴とする請求項1から6いずれか一項に記載の非接触信号伝送システム。
【請求項8】
前記センサユニットは、変調器を含み、
前記信号処理ユニットは、復調器を含むことを特徴とする請求項1ないし7いずれか一項に記載の非接触信号伝送システム。
【請求項9】
請求項1から8いずれか一項に記載の非接触信号伝送システムに使用される信号処理ユニット。
【請求項10】
請求項1から8いずれか一項に記載の非接触信号伝送システムに使用されるセンサユニット。
【請求項11】
請求項9に記載の信号処理ユニットを内蔵した移動体装置。
【請求項12】
請求項10に記載のセンサユニットを内蔵した移動体装置。
【請求項13】
非接触で信号を伝送する方法であって、
少なくとも1つのセンサ素子から出力された信号を、該少なくとも1つのセンサ素子に電気的に接続された少なくとも第1の電極と前記信号部に接続された第2の電極とが絶縁体を挟み着脱可能に配置されることで形成された容量結合を介して、増幅器を備えた信号処理部へ伝送することを特徴とする信号伝送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図20】
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【図22】
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【図23】
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【図19(a)】
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【図19(b)】
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【図19(c)】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−79296(P2012−79296A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195674(P2011−195674)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人科学技術振興機構さきがけ研究「ナノシステムと機能創発」委託研究、平成22年度独立行政法人科学技術振興機構「安全・安心のためのアニマルウォッチセンサの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】