説明

非接触型情報媒体及び非接触型情報媒体付属冊子

【課題】アンテナコイルの耐腐食性を向上させるとともに、水分や各種イオンの浸入を抑制する接着剤層の流動を防止可能な構造を備えた非接触型情報媒体を提供する。
【解決手段】シート状または平板状の基材12と、基材12の面上に形成されたアンテナコイル14と、アンテナコイル14に接続されたICチップ16と、基材12の両面に形成された接着剤層18と、接着剤層18上に積層された多孔質熱可塑性シート20を備える非接触型情報媒体6であって、接着剤層18は、水分及び各種イオンの透過を抑制する性質を有し、基材12のアンテナコイル14を形成した面上に、アンテナコイル14と同一または略同一の厚みを有する第一アンテナ保護層22が形成され、第一アンテナ保護層22は、平面視でアンテナコイル14の外周側及び内周側に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナコイルとICチップを備え、非接触でICチップに情報を記録させることが可能な非接触型情報媒体に関するものである。
そして、本発明の非接触型情報媒体によれば、水分や各種イオンによるアンテナコイルの劣化を防止することが可能となる。さらに、本発明の非接触型情報媒体は、例えば、冊子状のパスポートや預貯金通帳等、冊子の表紙に内蔵させることが可能である。
【背景技術】
【0002】
近年、非接触ICカードや非接触ICタグを用いたシステムが普及する中、例えば、パスポートや預貯金通帳等の冊子に対して非接触型情報媒体を内蔵した、非接触型情報媒体付属冊子が開発されている。
上記のような非接触型情報媒体は、アンテナと、アンテナに接続された非接触ICチップからなるICインレットを、外装基材で挟み込んで形成されている。
そして、上記のような非接触型情報媒体を、表紙用の部材(カバークロス)に貼り合わせた上で、内貼り用紙や本文用紙からなる冊子に貼り付けて装丁することにより、非接触型情報媒体を内蔵した非接触型情報媒体付属冊子を形成することが可能となっている。
【0003】
上記のような非接触型情報媒体付属冊子は、通常の冊子のように、データの印字やスタンプ(VISAスタンプ等)の付与が可能であるとともに、電子データの記録も可能であるという特徴を有している。
上記のような非接触型情報媒体付属冊子としては、例えば、特許文献1に記載されているものがある。
特許文献1に記載されている非接触型情報媒体付属冊子は、裏表紙の内部に非接触型情報媒体を内蔵しており、第一基材と、第二基材と、アンテナコイルと、ICチップと、接着剤層を備えている。
【0004】
そして、第二基材には、所定の広さの開口部が設けられており、この第二基材を第一基材に接着することにより、開口部を凹部としている。さらに、この凹部内に、アンテナコイルと、アンテナコイルに接続されたICチップを配置して、第一基材に接着剤層を設けることにより、非接触型情報媒体を形成している。
このように形成された非接触型情報媒体は、接着剤層によって、冊子の裏表紙の内面に貼付して使用することが可能である。
【0005】
また、特許文献1に記載されているような非接触型情報媒体付属冊子以外にも、例えば、一般に流通しているクレジットカードやICカードのように、熱可塑性の基材、例えば、PVCやPET‐G等のシートの間にICチップ及びアンテナ等を挟みこみ、強い熱圧をかけることで基材を流動させて平滑にした非接触型情報媒体を、冊子の表または裏の表紙と内貼り用紙との間に接着することによって形成した、非接触型情報媒体付属冊子もある。
【0006】
このような非接触型情報媒体付属冊子では、基材として、PVCやPET‐G等のシートを使用している。このため、剛性が高くなって表紙が開きにくくなるという問題や、基材と内貼り用紙との接着が困難となるという問題がある。
これらの問題を解決する手法の一つとして、基材として、PVCやPET‐G等のシートの代わりに、熱可塑性で基材中に空隙を有する多孔質のシートを用いる手法がある。
【0007】
上記のような多孔質シートは、樹脂を発泡させることで得られるため、一般に、材料が柔らかく剛性が低くなる。また、基材中にある空隙の為に、接着剤の浸透も容易であるため、基材と内貼り用紙との接着性が高くなる。さらに、適度な圧力をかけることによって、凹凸も吸収する事が可能である。
また、上記のように、多孔質の熱可塑性シートを基材として用いる場合、シート自体を熱融着によって接着することや、熱可塑性の接着剤を塗布した後で、熱ラミネート方式により接着することが可能である。
【0008】
しかしながら、上述したような多孔質の熱可塑性シートは、通気性が高く、水分や酸素、塩素等の、各種イオンを容易に透過させてしまうため、非接触型情報媒体のアンテナに用いられる金属が腐食しやすいという問題があった。
例えば、非接触型情報媒体のアンテナに用いられる金属が銅の場合は、酸素との接触による酸化の可能性がある。また、非接触型情報媒体のアンテナに用いられる金属がアルミニウムの場合には、塩化物イオンによる腐食の可能性がある。
【0009】
また、酸素や塩化物イオン等と直接反応しない場合でも、アンテナに異種金属が混入していた場合等には、電解質溶液が浸入するだけで、電池効果による金属の溶解が生じやすく、最悪の場合には断線に至るという問題があった。これに加え、エッチング方式や印刷方式により形成したアンテナの場合には、アンテナの厚みが薄いため、使用材料が少なく製造コストが安いという利点があったが、逆に、厚みが薄いことにより、わずかな損傷であっても、致命的な問題になる可能性があった。
【0010】
上記の問題に対して、多孔質基材上に、水分及び各種イオンの透過を抑制するバリア層を設ける対策をとることが可能である。これは、例えば、多孔質基材上にバリア層と熱溶融性の接着剤層を設け、アンテナを挟み込んで熱圧をかけることにより、水分やイオンに対して耐久性の高い非接触型情報媒体を作成するものである。
また、上述した熱溶融性の接着剤層が、バリア効果を持つことが可能であれば、より単純な構成によって、非接触型情報媒体を製造することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−42068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述したように、バリア効果を持った接着剤層を用いた場合、アンテナを挟み込んで熱圧をかける工程において接着剤層の樹脂が流動し、特に、アンテナコイルの最外周部や最内周部において、アンテナと多孔質基材の間にある接着剤層の厚みが薄くなることで、本来のバリア効果を発揮できないという問題があった。
本発明では、多孔質基材を備える非接触型情報媒体において、アンテナの耐腐食性を向上させるために、水分や各種イオンの浸入を抑制する接着剤層を設けるとともに、この接着剤層の流動を防ぐことが可能な構造を備えた、非接触型情報媒体及び非接触型情報媒体付属冊子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のうち、請求項1に記載した発明は、シート状または平板状の基材と、当該基材の少なくとも一方の面上に形成されたアンテナコイルと、当該アンテナコイルに接続されたICチップと、前記基材の両面に形成された接着剤層と、当該接着剤層上に積層された多孔質熱可塑性シートと、を備える非接触型情報媒体であって、
前記接着剤層は、水分及び各種イオンの透過を抑制する性質を有し、
前記基材の前記アンテナコイルを形成した面上に、前記アンテナコイルと同一または略同一の厚みを有する第一アンテナ保護層が形成され、
前記第一アンテナ保護層は、平面視で前記アンテナコイルの外周側及び内周側に形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
次に、本発明のうち、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した発明であって、前記第一アンテナ保護層は、樹脂をパターン印刷することにより形成され且つ前記接着剤層よりも高い融点を持つことを特徴とするものである。
次に、本発明のうち、請求項3に記載した発明は、請求項1に記載した発明であって、前記アンテナコイル及び前記第一アンテナ保護層は、エッチング方式により形成され且つ互いに接触していないことを特徴とするものである。
【0015】
次に、本発明のうち、請求項4に記載した発明は、請求項3に記載した発明であって、前記アンテナコイルは、前記基材の一方のみの面上に形成され、
前記基材の前記アンテナコイルを形成した面と反対側の面に形成され且つアンテナコイルの両端と前記ICチップとを接続するジャンパ線を備え、
前記基材の前記ジャンパ線を形成した面上に、前記アンテナコイルと同一または略同一の厚みを有する第二アンテナ保護層が形成され、
前記第二アンテナ保護層は、平面視で前記ジャンパ線の外周側及び内周側に形成されていることを特徴とするものである。
次に、本発明のうち、請求項5に記載した発明は、請求項1から4のいずれか1項に記載した非接触型情報媒体を内蔵した表紙及び裏表紙のうち少なくとも一方を備えたことを特徴とする非接触型情報媒体付属冊子である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水分や各種イオンの透過を抑制する性質を有する接着剤層と、平面視でアンテナコイルの外周側及び内周側に形成されている第一アンテナ保護層によって、接着剤層がアンテナコイルの周辺で部分的に薄くなることを防止することが可能となり、アンテナコイルの腐食を防止することが可能となる。
これにより、アンテナコイルの耐腐食性を向上させるとともに、水分や各種イオンの浸入を抑制する接着剤層の流動を防止することが可能な構造を備えた非接触型情報媒体を提供することが可能となる。
【0017】
また、請求項2に記載した発明によれば、第一アンテナ保護層を、樹脂のパターン印刷によって形成することにより、簡便な方法で非接触型情報媒体を製造することが可能となる。
また、請求項3に記載した発明によれば、エッチングアンテナを形成する際に、同時に第一アンテナ保護層を形成することによって、非接触型情報媒体の製造工程を増加させることなく、非接触型情報媒体の性能を向上させることが可能となる。
【0018】
また、請求項4に記載した発明によれば、多孔質熱可塑性シートを接着剤層上に、平面視でジャンパ線の外周側及び内周側に形成されている第二アンテナ保護層によって、非接触型情報媒体の性能を、より向上させることが可能となる。
また、請求項5に記載した発明によれば、請求項1から4に記載したように、柔軟性に優れた多孔質熱可塑性シートを備える非接触型情報媒体を、表紙や裏表紙に接着する等して内蔵した冊子を構成することが可能となるため、表紙や裏表紙が柔軟で扱いが容易な、水分等によって劣化することのない非接触型情報媒体付属冊子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第一実施形態における非接触型情報媒体付属冊子の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の第一実施形態における非接触型情報媒体の概略構成を示す平面図である。
【図3】図2のIII‐III線断面図である。
【図4】図3中に円IVで囲んだ範囲及びその周辺の拡大図である。
【図5】従来のICインレットの概略構成を示す平面図である。
【図6】非接触型情報媒体の形成工程を示す図である。
【図7】従来の非接触型情報媒体の概略構成を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態(以下、「本実施形態」と記載する)について、図面を参照しつつ説明する。
(構成)
以下、本実施形態に係る非接触型情報媒体について、この非接触型情報媒体を備えた非接触型情報媒体付属冊子と共に説明する。
(非接触型情報媒体付属冊子の構成)
まず、図1を用いて、本実施形態の非接触型情報媒体付属冊子1の構成を説明する。
図1は、本実施形態における非接触型情報媒体付属冊子1の概略構成を示す図である。
図1中に示すように、非接触型情報媒体付属冊子1は、表紙用部材2と、内貼り用紙4と、非接触型情報媒体6と、複数の本文用紙8を備えている。なお、図1中において、非接触型情報媒体付属冊子1と非接触型情報媒体6の、互いの大きさの対比は、実際とは一致しない場合がある。
【0021】
非接触型情報媒体付属冊子1は、具体的には、その表紙を、表紙用部材2と、表紙用部材2の内面に貼着する内貼り用紙4で構成している。
そして、表紙用部材2と内貼り用紙4との間に非接触型情報媒体6を挟み込んで、非接触型情報媒体6と、表紙用部材2及び内貼り用紙4を接着する。さらに、表紙と裏表紙10との間に複数の本文用紙8を配置することにより、非接触型情報媒体6を表紙に内蔵した冊子として形成されている。
すなわち、本実施形態の非接触型情報媒体付属冊子1は、非接触型情報媒体6を内蔵した表紙(表紙用部材2)を備えている。
【0022】
ここで、非接触型情報媒体6と表紙用部材2とを接着する接着剤としては、例えば、体積変化の無い反応硬化型の接着剤を、好適に用いることが可能である。
仮に、非接触型情報媒体6と表紙用部材2とを接着する接着剤として、体積変化のある乾燥硬化型の接着剤を使用した場合、非接触型情報媒体6の一部が凹んでいる(凹部が存在している)と、接着剤の使用量が多くなるために、乾燥時の体積減少が大きくなり、表紙用部材2の外側に凹みが生じてしまうため、外観上の問題となる。
【0023】
したがって、上記のような問題を解決するために、体積変化の無い接着剤を使用することが好適であり、体積変化の無い接着剤としては、例えば、二液混合型エポキシ系接着剤、湿気硬化型シリコン系接着剤、一液硬化型ウレタン系接着剤等を用いることが可能である。
また、体積変化の無い接着剤としては、例えば、エチレン‐酢酸ビニル共重合体系、エチレン−メタクリル酸共重合体、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリウレタン系、ポリオレフィン系等、各種のホットメルト接着剤等も用いることが可能である。
【0024】
また、非接触型情報媒体6と内貼り用紙4とを接着する接着剤としては、例えば、水系のエマルジョン接着剤を用いることが可能である。水系のエマルジョン接着剤は、従来から、表紙用部材2と内貼り用紙4との接着に用いられているため、従来から冊子の製造に使用されている設備を、そのまま使用することが可能である。
そして、非接触型情報媒体6を、表紙用部材2及び内貼り用紙4に接着する際には、まず、複数の本文用紙8と共に内貼り用紙4を製本して、中間冊子(図示せず)を製造する。
【0025】
このとき、内貼り用紙4は、中間冊子の外表面に位置するように製本する必要がある。
そして、非接触型情報媒体6の片面に表紙用部材2を接着した後、この表紙用部材2を接着した付非接触型情報媒体6を中間冊子の外表面に接着して、非接触型情報媒体6を、表紙用部材2及び内貼り用紙4に接着する。
なお、非接触型情報媒体6の構成は、後述する。
【0026】
(非接触型情報媒体6の構成)
次に、図1を参照しつつ、図2から図7を用いて、非接触型情報媒体6の構成を説明する。
図2は、本実施形態における非接触型情報媒体6の概略構成を示す平面図である。また、図3は、図2のIII‐III線断面図である。また、図4は、図3中に円IVで囲んだ範囲及びその周辺の拡大図である。
図2から図4中に示すように、非接触型情報媒体6は、基材12と、アンテナコイル14と、ICチップ16と、接着剤層18と、多孔質熱可塑性シート20と、第一アンテナ保護層22を備えている。
【0027】
基材12は、シート状または平板状に形成されている。
アンテナコイル14は、基材12の少なくとも一方の面上に形成されている。なお、本実施形態では、アンテナコイル14を、基材12の一方のみの面(図3及び図4中では、上側の面)上に形成した場合について説明する。
アンテナコイル14の形成方法としては、大きく分けて、巻き線方式と、エッチング方式がある。ここで、巻き線方式の場合には、もともとの巻き線自体に、バリア層がコーティングされていることが多い。このため、本実施形態では、エッチング方式により形成したアンテナコイル14について説明する。
【0028】
ICチップ16は、アンテナコイル14に接続されており、例えば、非接触型情報媒体6の取り付け対象である非接触型情報媒体付属冊子1に関する情報を、記憶可能に形成されている。ここで、本実施形態では、非接触型情報媒体付属冊子1に関する情報を、非接触型情報媒体付属冊子1の商品名や価格等とする。
接着剤層18は、基材12の両面に形成されており、水分及び各種イオンの透過を抑制する性質を有している。すなわち、接着剤層18は、水分及び各種イオンに対するバリア性能を有している。
【0029】
ここで、基材12のうち、アンテナコイル14を形成した面に形成されている接着剤層18は、基材12、アンテナコイル14及びICチップ16上に形成されている。
接着剤層18の材料としては、水分及び各種イオンの透過を抑制する性質を得ることが可能な材料を用いる。これに加え、接着剤層18の材料としては、熱や湿度による劣化や、接着部分に生じる剥がれ抑制可能なものを用いることが好適である。
【0030】
したがって、接着剤層18の材料としては、例えば、エチレン‐酢酸ビニル共重合体系、エチレン‐メタクリル酸共重合体系、ポリエステル系、アクリル系樹脂、ナイロン系、ポリアミド系、ポリウレタン系、ポリオレフィン系等の合成樹脂塗料を用いることが可能である。
さらに、接着剤層18の材料としては、例えば、上記の材料に対して、架橋剤を添加して硬化させたり、ポリエチレンやパラフィン等のワックス成分を添加することによって、耐水性を向上させたりすることも可能である。
【0031】
ここで、接着剤層18に、水分や各種イオンのバリア性を持たせることは、特に、エッチングアンテナや印刷アンテナに対して効果があるが、それに限定するものではない。
すなわち、ワイヤボンディングによるアンテナ(アンテナコイル)は、もともと、導線を樹脂でコーティングしてあるため、腐食には強いが、ICモジュールとの溶接部等が腐食する可能性があるため、バリア性を必要とする場合もある。
また、接着剤層18の厚みには、特に制限は無いが、熱圧をかけて接着することを考慮すると、あまり厚すぎる場合には、はみ出し等の不具合の可能性があるため、これらの不具合を抑制可能な厚さとすることが好適である。
【0032】
上記のような性能を有する接着剤層18を設けるためには、二種類以上の樹脂を混合したり、二層に塗工したりすることも可能である。
また、後工程や作業性の面から、塗工が容易で、乾燥後のブロッキングが生じにくく、耐久性の高いものが使用に適する。これは、例えば、エチレン‐メタクリル酸共重合体系の水系エマルジョン接着剤にエポキシ系架橋剤を添加したものや、ポリオレフィン系、アクリル系の接着剤等をグラビアコーターで塗工する等で、好適な性能を得ることができる。
【0033】
一方、一般的に、ポリエステル系の接着剤は湿度による加水分解が生じる可能性があり、エチレン‐酢酸ビニル共重合体系接着剤は経時劣化し易いため、注意が必要である。
また、上記の樹脂を使用して、エマルジョンやディスパージョンにした水系のヒートシール剤を用いる場合には、それらのヒートシール剤自体がアンテナ等に悪影響を与えないかについても注意が必要である。
多孔質熱可塑性シート20は、接着剤層18上に積層されている。
ここで、多孔質熱可塑性シート20としては、インクジェットやオフセット等に対する印刷適性を付与した樹脂シートや合成紙として市販されている基材を用いることが可能である。
【0034】
多孔質熱可塑性シート20として、上記のような基材を使用することにより、柔軟性を有する非接触型情報媒体6を形成することが可能となり、また、多孔質熱可塑性シート20が、接着剤層18と良好な密着性を得ることが可能となるため、加工性に優るといった利点を有する。
第一アンテナ保護層22は、基材12のアンテナコイル14を形成した面上に形成されており、アンテナコイル14と同一または略同一の厚みを有している。
また、第一アンテナ保護層22は、図2中に示すように、多孔質熱可塑性シート20を接着剤層18上に積層した方向、すなわち、平面視で、アンテナコイル14の外周側及び内周側に形成されている。
【0035】
ここで、第一アンテナ保護層22は、例えば、基材12上にアンテナコイル14をエッチング方式によって形成した後、第一アンテナ保護層22を、基材12上に樹脂を印刷(パターン印刷)することにより形成する。
上記の印刷(パターン印刷)は、例えば、スクリーン印刷等が適しており、樹脂としては、各種樹脂を用いることが可能である。
上記のように、樹脂を用いて第一アンテナ保護層22を形成した場合には、この樹脂の融点が、接着剤層18よりも高い必要がある。これは、仮に、第一アンテナ保護層22の融点が接着剤層18と同じ、または、低かった場合には、熱圧をかけて接着加工した際に、第一アンテナ保護層22が流動してしまい、保護層としての効果が得られなくなるためである。
【0036】
したがって、本実施形態では、第一アンテナ保護層22は、樹脂をパターン印刷することにより形成されており、さらに、接着剤層18よりも高い融点を持つように形成する。
なお、基材12と、アンテナコイル14と、ICチップ16と、第一アンテナ保護層22は、ICインレットを形成している。
上記の構成を有するICインレットは、例えば、図5中に示す構成のような、従来のICインレットと比較して、第一アンテナ保護層22が、多孔質熱可塑性シート20を接着剤層18上に積層した方向、すなわち、平面視で、アンテナコイル14の外周側及び内周側に形成されている点を特徴としている。なお、図5は、従来のICインレットの概略構成を示す平面図である。
【0037】
ここで、従来のICインレットは、図5中に示すように、基材12上に、アンテナコイル14と、アンテナコイル14に接続されたICチップ16とを配置したものである。なお、従来のICインレットでは、外装基材の接着性を向上させるために、基材12に貫通孔を設けることもある。
そして、上述した従来のICインレットを、接着剤層18を設けた多孔質熱可塑性シート20により上下方向から挟み、両側(上下方向)から熱圧をかけることで接着形成したものが、従来の非接触型情報媒体6である。
【0038】
これに対し、本実施形態の非接触型情報媒体6は、図6中に示すように、このICインレットを、接着剤層18を設けた多孔質熱可塑性シート20によって上下方向から挟み、両側(上下方向)から熱圧をかけることで接着形成することにより形成する(図3参照)。なお、図6は、非接触型情報媒体6の形成工程を示す図である。
上記のように形成された本実施形態の非接触型情報媒体6は、ICインレットの基材12上において、アンテナコイル14や第一アンテナ保護層22が形成された部分は、厚みがあるため圧力がかかりやすく、特に、第一アンテナ保護層22の最も外側の部分においては、圧力によって接着剤層18が流動し、薄くなっている。なお、以下の説明及び図中では、接着剤層18が薄くなっている部分を、薄膜部24と示す。
【0039】
これに対し、例えば、図7中に示す構成のような、従来の非接触型情報媒体6では、本実施形態の非接触型情報媒体6と異なり、第一アンテナ保護層22が無いために、薄膜部24が、直接、アンテナコイル14に接している。なお、図7は、従来の非接触型情報媒体6の概略構成を示す拡大図である。
ここで、多孔質熱可塑性シート20は、もともと、水分やイオンを通しやすいため、特に、薄膜部24においては、水分やイオンが、直接、ICインレットに影響を与えことになる。
【0040】
このため、図7中に示すような従来の非接触型情報媒体6では、透過した水分やイオンが、アンテナコイル14を腐食させる可能性が高いが、本実施形態の非接触型情報媒体6であれば、第一アンテナ保護層22に水分やイオンが影響することはあっても、アンテナコイル14自体には影響しないため、ICインレットが本来有する性能を、保持することが可能となる。
なお、一般的に、ICインレットは、ICチップ16の厚み、アンテナコイル14の厚み、ジャンパ線とアンテナコイル14との接合部の厚み、基材12の厚み等により、凹凸のあるシートとなっている。このため、多孔質熱可塑性シート20を接着する際に熱圧をかけることによって、この凹凸を無くすことが可能となるという効果もある。
【0041】
(本実施形態の効果)
以下、第一実施形態の効果を列挙する。
(1)第一実施形態の非接触型情報媒体6では、水分や各種イオンの透過を抑制する性質を有する接着剤層18と、平面視でアンテナコイル14の外周側及び内周側に形成されている第一アンテナ保護層22によって、接着剤層18がアンテナコイル14の周辺で部分的に薄くなることを防止することが可能となり、アンテナコイル14の腐食を防止することが可能となる。
その結果、アンテナコイル14の耐腐食性を向上させるとともに、水分や各種イオンの浸入を抑制する接着剤層18の流動を防止することが可能な構造を備えた非接触型情報媒体6を提供することが可能となる。
【0042】
(2)第一実施形態の非接触型情報媒体6では、第一アンテナ保護層22を、樹脂のパターン印刷によって形成することにより、簡便な方法で非接触型情報媒体6を製造することが可能となる。
(3)第一実施形態の非接触型情報媒体付属冊子1では、柔軟性に優れた多孔質熱可塑性シート20を備える非接触型情報媒体6を、表紙や裏表紙に接着する等して内蔵した冊子を構成することが可能となるため、表紙や裏表紙が柔軟で扱いが容易な、水分等によって劣化することのない非接触型情報媒体付属冊子1を提供することが可能となる。
【0043】
(変形例)
以下、第一実施形態の変形例を記載する。
第一実施形態の非接触型情報媒体6では、第一アンテナ保護層22を、樹脂をパターン印刷することにより形成し、さらに、接着剤層18よりも高い融点を持つように形成したが、これに限定するものではない。
すなわち、第一アンテナ保護層22を、例えば、エッチング方式によってアンテナコイル14を形成する際に、同時に、エッチング方式によって第一アンテナ保護層22を形成してもよい。このとき、アンテナコイル14と第一アンテナ保護層22は、互いに接触しないように形成する。
【0044】
この場合、アンテナコイル14のアンテナパターンのマスクを設ける際に、第一アンテナ保護層22のパターンも設けておくことで、大きな工程の変更を必要とせずに、第一アンテナ保護層22を形成することが可能となり、さらに、第一アンテナ保護層22の厚みが、アンテナコイル14と全く同じになるため、性能に関しても優位性を得ることが可能となる。
【0045】
ここで、上記のように、エッチング方式によってアンテナコイル14を形成する場合には、アンテナコイル14の両端とICチップ16とを接続するために、基材12の裏面、具体的には、基材12の、アンテナコイル14を形成した面と反対側の面に、ジャンパ線(図示せず)を設けてもよい。そして、このジャンパ線に対しても、アンテナコイル14と同様に、第一アンテナ保護層22と同様の構成、すなわち、アンテナコイル14と同一または略同一の厚みを有する第二アンテナ保護層(図示せず)を設けることが好適である。なお、第二アンテナ保護層の形成方法は、第一アンテナ保護層22の場合と同様の方法を用いることが可能である。
また、第二アンテナ保護層は、アンテナコイル14と第一アンテナ保護層22との関係と同様、平面視でジャンパ線の外周側及び内周側に形成されていることが好適である。
【0046】
(実施例)
図1から図7を参照して、上述した第一実施形態において説明した非接触型情報媒体6及び非接触型情報媒体付属冊子1を製造し、その物性の評価を行った結果について説明する。
(ICインレットの作成)
まず、ICインレットの作成について説明する。
38[μm]のポリエチレンテレフタレート(PET)シートを基材12とし、両面に35[μm]のアルミニウム箔を貼り合せた上からマスク層の印刷を行い、パターンエッチングによって、基材12の表面にアンテナコイル14と第一アンテナ保護層22を形成し、基材12の裏面にジャンパ線を形成した。ここで、第一アンテナ保護層22とアンテナコイル14との間隔を1[mm]とし、第一アンテナ保護層22の線幅を3[mm]とした。
【0047】
さらに、レーザー溶接により、アンテナコイル14とジャンパ線とを接合して、アンテナコイル14の接続端子部にICチップ16を溶接した。ここで、アンテナコイル14の外周は80[mm]×48[mm]とし、アンテナコイル14の内周は67[mm]×37[mm]とした。
また、第一アンテナ保護層22の内周側の基材12を打ち抜いて、貫通孔を形成し、第一アンテナ保護層22の外周及びICチップ16から2[mm]離れた輪郭を取って、その外側の基材12を打ち抜いて除去することにより、ICインレットを作成した。また、比較用に、第一アンテナ保護層22を設けないICインレットも作成し、後述する工程に使用した。
【0048】
(非接触型情報媒体6の作製)
多孔質熱可塑性シート20として、厚さが380[μm]の「TESLINシート」(PPG Industry社製)を準備し、この多孔質熱可塑性シート20の片面に、ポリエステル樹脂を10[μm]塗布して接着剤層18を形成した。そして、接着剤層18を形成した多孔質熱可塑性シート20を、面積150[mm]×200[mm]の二枚に断裁した。
上記のように準備した片方の多孔質熱可塑性シート20に、上述したICインレットを配置し、スポット加熱により固定した。さらに、もう一枚の多孔質熱可塑性シート20を積層し、スポット加熱により固定した。
上記のように積層した多孔質熱可塑性シート20を、二枚のSUS板に挟み込んで加熱加圧することで接着して、非接触型情報媒体6を作製した。ここで、加熱加圧条件は、加熱部温度を、110[℃]以上160[℃]以下とし、圧力を、5[Kgf/cm2]以上30[Kgf/cm2]以下とし、処理時間を、15秒以上120秒以下の間で調整し、最適なものを選択した。
【0049】
(非接触型情報媒体6と表紙用部材2との貼り合せ)
冊子表紙用クロスカバーとして、「Enviromate」(ICG/Holliston社製)を非接触型情報媒体6のサイズに断裁し、表紙用部材2を形成した。
そして、湿気硬化型ホットメルト接着剤「エスダイン」(積水フーラー社製)を、ヒートロールコータで溶融させ、20[g/m2]の厚みで表紙用部材2に塗工した。
さらに、ホットメルト接着剤が塗工された表紙用部材2に非接触型情報媒体6を接着させてローラで加圧し、その後エージングして、非接触型情報媒体6と表紙用部材2とを貼り合せた。
【0050】
(非接触型情報媒体付属冊子1の作製)
複数枚の本文用紙8と一枚の内貼り用紙4を丁合いし、中央をミシンで縫うことで、内貼り用紙4が最外部に取り付けられた本文用紙8を作成した。
そして、上記のように得られた、表紙用部材2が接着された非接触型情報媒体6に、水系エマルジョン接着剤「SP−2850」(コニシ社製)を、20[g/m2]の厚みで塗工し、内貼り用紙4の裏側と接着した。
さらに、上記のように得られた冊子を、広げた状態で125[mm]×180[mm]の大きさで断裁し、偽変造防止機能層を付与した非接触型情報媒体付属冊子1を作製した。
また、同様の工程によって、バリア層の無い比較用の非接触型情報媒体付属冊子1も作製した。
【0051】
(効果の確認)
上記のように作製した二種類の非接触型情報媒体付属冊子1に対して、JIS X 6305‐1に記載の塩水噴霧試験を実施し、その後、アンテナコイル14を取り出して、目視で確認したところ、第一アンテナ保護層22の無い比較用の非接触型情報媒体付属冊子1のアンテナコイル14は、外周部に沿って腐食が生じていたが、本発明の第一アンテナ保護層22を備えた本発明の非接触型情報媒体付属冊子1の場合、第一アンテナ保護層22には腐食が生じていたものの、アンテナコイル14自体には腐食は生じていなかった。
【符号の説明】
【0052】
1 非接触型情報媒体付属冊子
2 表紙用部材
4 内貼り用紙
6 非接触型情報媒体
8 本文用紙
10 裏表紙
12 基材
14 アンテナコイル
16 ICチップ
18 接着剤層
20 多孔質熱可塑性シート
22 第一アンテナ保護層
24 薄膜部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状または平板状の基材と、当該基材の少なくとも一方の面上に形成されたアンテナコイルと、当該アンテナコイルに接続されたICチップと、前記基材の両面に形成された接着剤層と、当該接着剤層上に積層された多孔質熱可塑性シートと、を備える非接触型情報媒体であって、
前記接着剤層は、水分及び各種イオンの透過を抑制する性質を有し、
前記基材の前記アンテナコイルを形成した面上に、前記アンテナコイルと同一または略同一の厚みを有する第一アンテナ保護層が形成され、
前記第一アンテナ保護層は、平面視で前記アンテナコイルの外周側及び内周側に形成されていることを特徴とする非接触型情報媒体。
【請求項2】
前記第一アンテナ保護層は、樹脂をパターン印刷することにより形成され且つ前記接着剤層よりも高い融点を持つことを特徴とする請求項1に記載した非接触型情報媒体。
【請求項3】
前記アンテナコイル及び前記第一アンテナ保護層は、エッチング方式により形成され且つ互いに接触していないことを特徴とする請求項1に記載した非接触型情報媒体。
【請求項4】
前記アンテナコイルは、前記基材の一方のみの面上に形成され、
前記基材の前記アンテナコイルを形成した面と反対側の面に形成され且つアンテナコイルの両端と前記ICチップとを接続するジャンパ線を備え、
前記基材の前記ジャンパ線を形成した面上に、前記アンテナコイルと同一または略同一の厚みを有する第二アンテナ保護層が形成され、
前記第二アンテナ保護層は、平面視で前記ジャンパ線の外周側及び内周側に形成されていることを特徴とする請求項3に記載した非接触型情報媒体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載した非接触型情報媒体を内蔵した表紙及び裏表紙のうち少なくとも一方を備えたことを特徴とする非接触型情報媒体付属冊子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−83820(P2012−83820A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227235(P2010−227235)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】