説明

非接触型ICカード

【課題】 1枚のカードで様々なシステムに対応可能な非接触型ICカードを提供すること。
【解決手段】 回路配線8を有する配線基板上に搭載したICチップと、電磁誘導アンテナ2とを有し、電磁誘導アンテナ2により、電気的に非接触の状態で外部のリーダライタ17よりその電磁誘導アンテナ18との電磁結合を介して電力の供給を受け、かつ、リーダライタ17との間で情報の授受を行なう。電磁誘導アンテナ2に接続された切換えスイッチ16と、切換えスイッチ16に接続された5つのICチップ11、12、13、14、15とを有し、使用目的により動作させるICチップを利用者が選択可能としている。また、ICチップ11、12、13、14、15と切換えスイッチとの間にそれぞれ電磁誘導アンテナ2のQ値を調整するためのコンデンサー21、22、23、24、25を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はIDカード、会員証、プリペイドカード、キャッシュカード、定期券などに用いられる情報を記録したICチップを有する非接触型ICカードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、身分証明用のIDカード、クレジットカード等の各種カードは、名刺サイズに形成されたプラスチックシートに情報記録用の磁気ストライプを貼り付けた磁気カードと呼ばれるものが一般的であったが、磁気カードは、情報を磁気で記録することから、記録可能な情報量が少ないという欠点や、第三者によって解読され易く、データの改ざんや、偽造カードの作製が容易であるという問題点を有していた。
【0003】
そこで、近年、メモリやCPU等の機能を有する半導体チップ(以下、ICチップと呼ぶ)を搭載したICカードが開発され、暗号化データを記憶させることで個人情報のセキュリティー向上が可能となった。初期のICカードは、ICカードとカードリーダ間のデータの授受を、双方を電気的に接触させて行う、いわゆる接触式が主流であったが、この方式はICカードとカードリーダが機械的且つ電気的に接続することからICチップのIC回路内部の静電気破壊や接続端子の接触不良が生じるという問題があった。このため現在では、ICカードとカードリーダを電気的に接触させずにデータの授受を行う、いわゆる非接触型が普及している。
【0004】
図3は従来の非接触型ICカードとリーダライタの構成を示す回路ブロック図である。図3に示すように、非接触型ICカード1は、回路配線3を有する配線基板上に搭載したCPU5と不揮発性メモリ4を備えたICチップ6と、電磁誘導アンテナ2とを有し、電磁誘導アンテナ2により、電気的に非接触の状態で外部のリーダライタ17よりその電磁誘導アンテナ18との電磁結合を介して電力の供給を受け、かつ、リーダライタ17との間で情報の授受を行なう。また、前記ICチップ6と電磁誘導アンテナ2との間にアンテナのQ値を調整するためのコンデンサー10を有している。
【0005】
この非接触型ICカードの具体的構成は、一般的に次のようになっている。ICチップ6は、例えば配線基板としてガラスエポキシ基板を用い、その上にワイヤボンディング実装法やフリップチップ実装法によって実装される。その後、温度や湿度などの外部環境の変化からの保護、電気的絶縁性の確保、動作中の発熱の放散などを目的に、必要に応じて樹脂で封止を行う。この状態までのものを一般にICモジュールと呼ぶ。
【0006】
更にICモジュールに通信特性が最適化されたアンテナパターンを含むアンテナ回路を配線基板上に形成し、ICモジュールに接続して、非接触型ICカードとしての機能を有する状態にし、このシート状に形成したものを、インレットシートまたはインレイシートと呼ぶ。
【0007】
フリップチップ実装の場合、アンテナ回路が形成された配線基板シート上にICチップとの接合電極部を設けて直接ICチップを実装する。この場合は、ICチップの回路形成面にある電極部にバンプと呼ばれる突起物をはんだや金などで設け、そのバンプを介して接合電極部と融着接続するフェースダウン方式をとっている。
【0008】
アンテナ回路は、配線基板シート上に導体箔を貼りエッチングなどの方法により形成したもの等がある。アンテナ回路とICチップの接続では、フリップチップ実装以外の方式として異方性導電フィルムや異方性導電樹脂のような導電粒子を含んだ樹脂を用いて接続することによりICチップ回路面とモジュール基板の間が埋められる。また、フリップチップ実装の場合も、ICチップの保護、封止のためICチップ回路面とモジュール基板の間はアンダーフィルにより埋められる。
【0009】
上記のような部材から構成されたインレットシートをカード内部に埋め込む様々な方法が開発されているが、カード基材としてプラスチックシート(PVC、PET、PET−G、ポリカ等)を用い、そのシートでインレットシートを挟み込み、熱プレス機により加温、加圧して熱融着により一体化するという熱ラミネート方式が多く用いられている。その他にも、インレットシートを成形体に実装して、インサート成形する方法もある。
【0010】
これまでの非接触型ICカードは、基本的に1つのカードに1つのICチップが搭載されており、その用途に専用に調整されたアンテナを備えて構成されている。また、複合カードとして2つのICチップが搭載されているものもあるが、この場合は各ICチップに対してそれぞれ専用のアンテナを保有し、この結果2つのアンテナを搭載していた。
【0011】
また、使用時のリーダライタとの間の電磁結合等の状態の変化に柔軟に対応できるように、アンテナ回路のコンデンサやインダクタンスを切換えられるスイッチを内蔵してアンテナ特性を変更可能とした非接触型ICカードが特許文献1および2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000−306066号公報
【特許文献2】特開2001−291080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
今日、非接触型ICカードは多方面で活用されており、各システムが専用のカードを発行しているため、個人が保有するカード枚数についてもカードを発行しているシステムの数に比例して増加している。そのため、財布だけでは収納できず、専用のカードケースに収納される場合が増えている。
【0014】
このように所有するカード枚数が増えたことにより、リーダライタにカードケースごとカードを複数枚重ねた状態でかざして使用する場合が多いため、各カードのそれぞれのアンテナが干渉しあい、通信障害を起こしやすくなる。
【0015】
また、個人で保有するカード枚数が増えたため、カードを紛失する危険性も増えている。
【0016】
そこで、本発明の課題は、上述した従来の不都合を克服し、1枚のカードで様々なシステムに対応可能な非接触型ICカードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を達成するために、本発明による非接触型ICカードは、配線基板と、前記配線基板に搭載したICチップと、アンテナとを有し、前記アンテナにより、電気的に非接触の状態で外部のリーダライタより電力の供給を受け、かつ、前記リーダライタとの間で情報の授受を行なう非接触型ICカードにおいて、前記アンテナに接続された切換えスイッチと、前記切換えスイッチに接続された少なくとも2つ以上のICチップとを有し、使用目的により動作させるICチップを選択可能としたことを特徴とする。
【0018】
ここで、前記アンテナは、前記配線基板内に形成された箔状または膜状の銅またはアルミニウムをエッチング加工して形成したアンテナパターンにより構成されていてもよい。
【0019】
また、前記ICチップと前記切換えスイッチとの間に前記アンテナの特性を調整するためのコンデンサーまたは抵抗を少なくとも1つ以上有していてもよい。
【0020】
また、前記切換えスイッチはディップスイッチまたはスライドスイッチであってもよい。
【0021】
上記のように、本発明の非接触型ICカードは、インダクタンスを最適化したアンテナパターンからなるアンテナを有したインレットシート上に切換えスイッチと複数のICチップを搭載し、切換えスイッチにより複数のICチップのうちの1つのICチップの端子にアンテナを電気的に接続することにより、その使用するシステムに対応するICチップを選択可能とした非接触型ICカードである。
【0022】
さらに、上記のインレットシートのアンテナに対し個々のICチップが接続された回路がそれぞれ最適な状態となるように、切換えスイッチと個々のICチップとの間に最適化したコンデンサーや抵抗などを有し、その回路の静電容量などをアンテナに合わせ込むことを可能としている。
【発明の効果】
【0023】
上記のように、本発明の非接触型ICカードでは、動作可能なICチップ及びアンテナは1つとなり、アンテナ間の干渉による通信障害が発生しなくなる。また、1つのカードで複数のシステムに使用することができる。すなわち、1枚のカードで様々なシステムに対応可能な非接触型ICカードが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による非接触型ICカードの一実施の形態とリーダライタの構成を示す回路ブロック図。
【図2】本発明の一実施の形態における非接触型ICカードの内部構成の一例を示す図。
【図3】従来の非接触型ICカードとリーダライタの構成を示す回路ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
【0026】
図1は本発明による非接触型ICカードの一実施の形態とリーダライタの構成を示す回路ブロック図であり、図2は本発明の一実施の形態の非接触型ICカードの内部構成の一例を示す図である。
【0027】
図1において、本実施の形態の非接触型ICカード7は、従来の非接触型ICカードと同様に、回路配線8を有する配線基板上に搭載したICチップと、電磁誘導アンテナ2とを有し、電磁誘導アンテナ2により、電気的に非接触の状態で外部のリーダライタ17よりその電磁誘導アンテナ18との電磁結合を介して電力の供給を受け、かつ、リーダライタ17との間で情報の授受を行なう。
【0028】
但し、本実施の形態の非接触型ICカード7においては、電磁誘導アンテナ2に接続された、1×5の切換えスイッチ16と、この切換えスイッチ16に接続された5つのICチップ11、12、13、14、15とを有し、使用目的により動作させるICチップを利用者が選択可能としている。
【0029】
また、電磁誘導アンテナ2は、図2に示すように配線基板内に形成された箔状または膜状の銅またはアルミニウムをエッチング加工して形成したアンテナパターンにより構成されている。
【0030】
また、ICチップ11、12、13、14、15と切換えスイッチ16との間にそれぞれ電磁誘導アンテナ2のQ値を調整するためのコンデンサー21、22、23、24、25を有している。
【0031】
切換えスイッチ16はディップスイッチまたはスライドスイッチなどを用いることができ、それ以外でも、小型かつカード厚みに影響を及ぼさない程度に薄型で、手動切換えが可能で、外観上切換え状態が認識できれるスイッチであればよい。
【0032】
本実施の形態では5個のICチップが搭載されているが、目的に応じて2〜4個、または6個以上の数でもよい。
【0033】
非接触型ICカードは、一般に、密着型(使用周波数4.91MHz)、近接型・近傍型(使用周波数13.56MHz)、遠隔型(使用周波数125〜500kHz)に分類されるが、本実施の形態では、各ICチップ側の回路に挿入された調整用のコンデンサー21、22、23、24、25の容量の選択により、いずれの場合にも適用できる。また、コンデンサー21、22、23、24、25の代わりに、またはコンデンサーに追加して、抵抗値やインダクタンスを最適化した抵抗やインダクターを挿入してもよい。
【0034】
非接触型ICカード7の本体は、ポリカーボネートやABS等のプラスチック成形体により構成されている。配線基板としてはポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリイミド基板を用い、その一面に、電磁誘導アンテナ2、ICチップ11、12、13、14、15、コンデンサー21、22、23、24、25および切換えスイッチ16が実装され、配線基板上の回路配線8を介して接続されている。
【0035】
各ICチップ11、12、13、14、15には、図3のICチップ6と同様に、不揮発性メモリとCPUが形成されている。
【0036】
不揮発性メモリは、電源供給の有無にかかわらずデータを保持可能な記憶素子、例えばEEPROMやFRAMなどである。CPUは、電磁誘導アンテナ2に生じた誘導起電力が回路配線8を通じて供給されることにより電源を得て、不揮発性メモリに対してデータの読み込み及び書き込みを行う。
【0037】
非接触型ICカード7をICカードのリーダライタ17に近接または当接させることにより、リーダライタの電磁誘導アンテナ18より出力される磁界により電磁誘導アンテナ2に誘導起電力が生じる。
【0038】
また、CPUは、電源が供給されることにより電磁誘導アンテナ2から電波を発信し、不揮発性メモリから読み出したデータをリーダライタ17に送る。
【0039】
切換えスイッチ16は、ICチップ11、12、13、14、15の中の利用者の目的により選択されたICチップを電磁誘導アンテナ2に接続させる。
【0040】
また、本発明の回路構成は、カード形状の非接触型ICカードだけではなく、プラスチックタグ及びキーホルダー、ストラップなどの形態を有する非接触型ICカードにも適用できる。
【0041】
以上のように、本発明では、1つのICカード媒体に対し、複数のICカード機能を保有することができ、異なったシステムに対し、所有者の選定により使用するIC機能を選択できるので、以下のような適用が可能である。
【0042】
第一の適用例として、異なった会社の入退管理システム間での併用が可能である。例えば、これまで、ビルセキュリティーシステムとテナント内の個々の会社で契約しているセキュリティーシステムが統一されていない場合、最低でも2枚のICカードが必要となっていたが、本発明のカードを使用することにより、カードを1枚にまとめることが可能となり、使いたいシステム用のカード機能を切換えスイッチで選択して使用することが出来る。
【0043】
第二の適用例としてクレジットカードと交通系電子乗車券の併用が可能である。上記の適用例と同様に、本発明により、異なったシステムによって運用されているクレジットカードと交通系電子乗車券等のカードの統一が可能となる。これにより、複数のカードを所持する必要がなくなり、さらに紛失する危険性も少なくなる。
【0044】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても本発明に含まれる。すなわち、目的や用途に応じて、配線基板、ICチップ、アンテナ、切換えスイッチなどの形状や材質、配置や構造を変更可能である。例えば、アンテナは銅やアルミニウム以外の金属で形成されていても良く、エッチング加工以外の方法であってもよい。また、切換えスイッチは、非接触型ICカードの形態によっては、タッチパネル式のスイッチ、表示器付きのスイッチ、手動以外のスイッチなど様々な方式が可能である。
【符号の説明】
【0045】
1、7 非接触型ICカード
2、18 電磁誘導アンテナ
3、8 回路配線
4 不揮発性メモリ
5 CPU
6、11、12、13、14、15 ICチップ
10、21、22、23、24、25 コンデンサー
16 切換えスイッチ
17 リーダライタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配線基板と、前記配線基板に搭載したICチップと、アンテナとを有し、前記アンテナにより、電気的に非接触の状態で外部のリーダライタより電力の供給を受け、かつ、前記リーダライタとの間で情報の授受を行なう非接触型ICカードにおいて、前記アンテナに接続された切換えスイッチと、前記切換えスイッチに接続された少なくとも2つ以上のICチップとを有し、使用目的により動作させるICチップを選択可能としたことを特徴とする非接触型ICカード。
【請求項2】
前記アンテナは、前記配線基板内に形成された箔状または膜状の銅またはアルミニウムをエッチング加工して形成したアンテナパターンにより構成されていることを特徴とする請求項1に記載の非接触型ICカード。
【請求項3】
前記ICチップと前記切換えスイッチとの間に前記アンテナの特性を調整するためのコンデンサーまたは抵抗を少なくとも1つ以上有することを特徴とする請求項1または2に記載の非接触型ICカード。
【請求項4】
前記切換えスイッチはディップスイッチまたはスライドスイッチであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の非接触型ICカード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−154414(P2011−154414A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13716(P2010−13716)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.FRAM
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】