説明

非接触情報媒体およびその製造方法

【課題】耐塩水非接触IC冊子及び非接触ICカードの開発
【解決手段】基材としてのPETでなる絶縁樹脂シート基材10にAl等の金属アンテナとしての導電性金属11を埋め込み表面に凹凸をなくすことで、カバー層としての多孔質樹脂シート16との水密性を高めることができ塩水等の浸入を防ぎ、耐塩水性能の高い非接触IC冊子および非接触ICカードなどの非接触情報媒体を製造することが可能となり、ひいてはより信頼性の高い非接触情報媒体を製造することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非接触情報媒体およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、非接触IC冊子および非接触ICカードなどのICチップを内蔵する非接触情報媒体およびその製造方法に関する。なお、本発明では、非接触情報媒体とは、誘導電磁界または電波によって、非接触で、半導体メモリデータを読み出し、書込みのために近距離通信を行うタイプの情報媒体と定義し、非接触IC冊子および非接触ICカードを含むものとする。
【背景技術】
【0002】
従来、非接触情報媒体としての非接触IC冊子や非接触ICカードは、固有の識別情報を格納したICチップと、この識別情報を送受信するアンテナからなる非接触型のICインレットを内蔵し、これを外装基材で挟み込んだ構成を有し冊子化やカード化したものである(例えば、特許文献1参照)。
これらの非接触情報媒体としての非接触IC冊子および非接触ICカードは、パスポートや銀行のカードなどで使用されることから、長期間使用される製品では10年程度の使用が見込まれる。そのため、高い信頼性かつ長い耐用年数が定められている。
【0003】
これらの長期信頼性評価のためにICAO(international civil aviation organization)では、塩水噴霧試験の規格が定められており(例えば、非特許文献1参照)、非接触IC冊子および非接触ICカードにおける耐塩水性は非常に重要な要素となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−92120号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Durability of Machine Readable Passports Version: 3.2, TF4 Doc: N0232:ICAO(international civil aviation organization)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、非接触IC冊子や非接触ICカードにおける新規材料や工程条件の最適化に伴う信頼性評価としては、上記非特許文献1に則った塩水試験が実施される。この評価において、塩水浸入後にモジュールやアンテナ等との異種金属と電解質である塩水との接触による腐食、断線の発生や、モジュールやアンテナおよび多孔質樹脂やカバー層等の隙間に塩水が入り込み通気差の影響による腐食、断線の発生が確認されている。
【0007】
非接触IC冊子や非接触ICカードでは、基材を形成するPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂の上にAlアンテナが存在するため、Al(アルミニウム)アンテナを挟んでカバーを貼り付けた際にAlアンテナの段差に起因して隙間が生じる。この隙間に空気(酸素)が存在することで、通気差電池効果による腐食が生じる。さらに、これら非接触IC冊子および非接触ICカードでは、AlアンテナのAlの純度や異種金属の存在によっては塩水等の電解質が入り込むことで、腐食が生じる。
【0008】
これらの腐食、断線の発生は、非接触IC冊子や非接触ICカードに深刻な影響を及ぼすことから、耐塩水性能の強化が、非接触IC冊子および非接触ICカードの長寿命化に大きな影響を及ぼすことが知られている。
そこで、本発明では、上記の課題に鑑みてなされたものであって、金属アンテナの近傍に隙間をなくすことで、塩水性能の向上した非接触情報媒体としてのIC冊子および非接触ICカードを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る非接触情報媒体の一態様は、基材の表面に金属アンテナが面一になるように埋設され、カバー層がこの基材の表面と金属アンテナに密着して設けられていることを特徴とする。
上記態様としては、金属アンテナが、エッチングされた金属層、または金属ワイヤーで構成することができる。
【0010】
上記態様としては、金属アンテナが、基材の溶融温度以上の条件下で形成された構成としてもよい。
上記態様としては、基材の融解温度が、金属アンテナの融解温度よりも低いことが好ましい。
上記態様としては、基材が、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、アクリル樹脂、シリコン樹脂、ウレタン樹脂から選択される材料でなることが好ましい。
【0011】
上記態様としては、金属アンテナが、Al、Cu、Fe、Ni、Cr、Mo、Ag、Au,Ptのいずれか又はこれらを組み合わせた合金であることが好ましい。
本発明に係る非接触情報媒体の製造方法の一態様は、基材上に金属アンテナを、この基材の表面に面一になるように形成する金属アンテナ形成工程と、この基材および金属アンテナの表面にカバー層を密着させるカバー層形成工程と、を備えることを特徴とする。
【0012】
上記非接触情報媒体の製造方法の態様としては、金属アンテナが、基材の表面に形成された後、基材の融解温度以上の条件でこの基材の表面に金属アンテナが面一になるまで押圧されるようにしてもよい。
上記非接触情報媒体の製造方法の態様としては、金属アンテナが、エッチングされた金属層、または金属ワイヤーであってもよい。
上記非接触情報媒体の製造方法の態様としては、金属アンテナがエッチングで製造される際に、基材の表面に金属アンテナが面一となるように埋まるように制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、金属アンテナに異種金属、酸素、電解質が付着しにくい構造を実現でき、非接触情報媒体の長寿命化を達成し、非接触情報媒体の信頼性を高める効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1(a)はIC冊子アンテナ部の模式断面図、図1(b)は、IC冊子アンテナ部の変形例を示す模式断面図である。
【図2】図2は、IC冊子モジュール部の模式断面図である。
【図3】図3は、比較例のIC冊子アンテナ部の模式断面図である。
【図4】図4は、実施例(サンプルA)と比較例(サンプルB)の塩水噴霧サイクル試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る非接触情報媒体は、基材の表面に金属アンテナが面一になるように埋設され、カバー層が前記基材の表面と前記金属アンテナに密着して設けられているという特徴とすることに加えて以下のような変更が可能である。
すなわち、本発明では、金属アンテナとして、エッチングされた金属層、または金属ワイヤーを用いることができる。また、この金属アンテナは、基材の溶融温度以上の条件下で形成されることが好ましい。基材の融解温度は、金属アンテナの融解温度よりも低いことが好ましい。
【0016】
基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、アクリル樹脂、シリコン樹脂、ウレタン樹脂から選択される材料で形成することが好ましい。
金属アンテナは、Al、Cu、Fe、Ni、Cr、Mo、Ag、Au,Ptのいずれか又はこれらを組み合わせた合金であってもよい。
【0017】
本発明に係る非接触情報媒体の製造方法の態様は、基材上に金属アンテナを、基材の表面に面一になるように形成する金属アンテナ形成工程と、基材および前記金属アンテナの表面にカバー層を密着させるカバー層形成工程と、を備えることを特徴とするが、以下のような態様も可能である。
すなわち、本発明では、金属アンテナが、基材の表面に形成された後、基材の融解温度以上の条件で基材の表面に金属アンテナが面一になるまで押圧されるようにしてもよい。
【0018】
また、本発明では、金属アンテナが、エッチングされた金属層、または金属ワイヤーであってもよい。そして、金属アンテナがエッチングで製造される際には、基材の表面が溶融して金属アンテナが面一となるように埋まるように制御することが好ましい。
以下に、本発明の実施の形態に係る非接触情報媒体およびその製造方法の詳細を図面に基づいて説明する。但し、図面は模式的なものであり、各部材の寸法や寸法の比率などは現実のものと異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
なお、本実施の形態に記された条件はあくまでも一例であり、本発明は基材中に金属アンテナを埋め込むことで、金属アンテナに接触する異種金属および、イオン化傾向が異なる物質、酸素、電解質の接触を妨げることを特徴としたものであり、以下に記された条件等により、本発明が限定されるものではない。
【0019】
図1(a)および(b)は、本実施の形態の一態様を模式的に示す断面図である。図1(a)に示すように、PETなどの材料でなる基材としての絶縁樹脂シート基材10は、金属アンテナとしての導電性金属11と共に金属アンテナシートを形成する。ここで、導電性金属11において異種金属や電解質の接触や、隙間空間を作らせないことが耐塩水性能の向上につながることから、図示するように、金属アンテナである導電性金属11を基材である絶縁樹脂シート基材10に面一になるように埋め込まれている。
【0020】
図1(a)に示す実施の形態では、絶縁樹脂シート基材10に導電性金属11を直接埋め込む構造としたが、図1(b)に示すように、絶縁樹脂シート基材10に、絶縁樹脂シート基材10よりも融点の低い中間層12を積層し、この中間層12に導電性金属11を面一になるように埋め込んでもよい。
このように、金属アンテナである導電性金属11を絶縁樹脂シート基材10もしくは中間層12に埋め込むために、以下のような方法を用いることができる。すなわち、絶縁樹脂シート基材10の上に、導電性金属11をエッチングアンテナまたはワイヤーアンテナとして形成し、絶縁樹脂シート基材10もしくは中間層12の融解温度200℃以上の温度により30秒から90秒以内でプレスする。温度条件は基材としての絶縁樹脂シート基材10や中間層12の融点以上であればよく、金属アンテナとしての導電性金属11の融点以下であればよい。
上述のように、絶縁樹脂シート基材10よりも融点の低い樹脂を中間層12として用いることにより、溶融温度を下げることが可能である。
【0021】
図1(a)および(b)に示すように、絶縁樹脂シート基材10と導電性金属11、または絶縁樹脂シート基材10と中間層12と導電性金属11でなるシートの両面に、カバー層としての多孔質樹脂シート16が貼り付けられている。この多孔質樹脂シート16は、絶縁樹脂シート基材10と導電性金属11、または中間層12と導電性金属11が面一に形成された表面に貼り付けられるため、内部に隙間が生じることなく、絶縁樹脂シート基材10と導電性金属11、または中間層12と導電性金属11に密着させることができる。
【0022】
そして、図1(a)および(b)に示すように、導電性金属11を覆った側の多孔質樹脂シート16には、接着剤19を介して外側カバー材18が貼り付けられている。
図2は、IC冊子モジュール部の断面図である。図2に示すように、Cu等からなるリードフレーム13に、ICチップ14がモールド樹脂でモールドされてなるICモジュールが溶接又は加締めにより接合され、ICインレットを形成している。
【0023】
ICインレットは、モジュール上部に保護PET15が貼られ、多孔質膜樹脂シート16が両側から貼られる。この際に耐塩水層を有する接着剤17がICインレットと多孔質樹脂シート16間に塗布されている。つまり、ICインレットは外装基材である多孔質膜樹脂シート16に挟み込まれるようにして形成されている。
さらに、外側カバー材18がICインレットのリードフレーム13側に接着剤19で貼られている。
【0024】
以下、実施例について説明する。なお、以下の実施例1と比較例1を比較した結果は、図4に示す。
(実施例1)
評価サンプルとして図1(a)のようなアンテナ構造の非接触情報媒体としての非接触IC冊子を6枚準備し、サンプルAとした。サンプルAはPET樹脂でなる絶縁樹脂シート基材10中にAlからなる金属アンテナとしての導電性金属11を温度200℃で30秒の条件で一定の圧力を掛けて埋め込んだ。このとき、基材としての絶縁樹脂シート基材10に加わる圧力は一定とした。
【0025】
評価は塩水噴霧サイクル試験機(スガ試験機株式会社製CYP90A)を用い、塩水濃度を5%とした。16時間の塩水噴霧及び8時間の35℃湿度35%乾燥を繰り返し行い、乾燥工程が終了後に非接触ICカードリーダライタ(株式会社デンソーウエーブ製 PR−450UDM)による通信試験を実施した。
このサイクル試験を10サイクル実施した結果、図4に示すように、サイクル試験中の腐食による膨れは一切確認されず、通信不良についても6枚中6枚発生しなかった。
【0026】
(比較例1)
評価サンプルとして図3のように導電性金属11を絶縁樹脂シート基材10に埋め込まない構造の非接触IC冊子を6枚準備し、サンプルBとした。サンプルBはPET基材である絶縁樹脂シート基材10の上にAlアンテナをエッチング法にてパターニングした。
評価は塩水噴霧サイクル試験機(スガ試験機株式会社製CYP90A)を用い、塩水濃度を5%とした。16時間の塩水噴霧及び8時間の35℃湿度35%乾燥を繰り返し行い、乾燥工程が終了後に非接触ICカードリーダライタによる通信試験(株式会社デンソーウエーブ製 PR−450UDM)を実施した。
このサイクル試験を10サイクル実施した結果、図4に示すように、サイクル試験中の腐食による膨れは5、−7サイクル目で発生し、通信不良はそれぞれ6−10サイクルで発生した。その結果、10サイクル目が終了した時点で6枚中3枚がNGとなった。
【0027】
図4から判るように、実施例1で行ったPET基材内に金属アンテナを埋め込んだサンプルについて通信NGは全く発生しなかった。
上述のように、本実施の形態によれば、金属アンテナに異種金属、酸素、電解質が付着しにくい構造を実現でき、非接触情報媒体の長寿命化を達成し、非接触情報媒体の信頼性を高める効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明では、耐塩水性能を上げるため、基材内に金属アンテナを面一に埋め込むことで、異種金属や酸素と電解質の接触を防ぐことが可能となる。このため、より耐塩水性能能が高い非接触IC冊子や非接触ICカードなどの非接触情報媒体を製造することが可能となり、より信頼性の高い、非接触IC冊子および非接触ICカードを製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0029】
10 絶縁樹脂シート基材(基材)
11 導電性金属(金属アンテナ)
12 中間層
13 リードフレーム
14 ICチップ
15 保護PET
16 多孔質樹脂シート(カバー層)
17 耐塩水層
18 外側カバー材
19 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に金属アンテナが面一になるように埋設され、カバー層が前記基材の表面と前記金属アンテナに密着して設けられていることを特徴とする非接触情報媒体。
【請求項2】
前記金属アンテナは、エッチングされた金属層、または金属ワイヤーであることを特徴とする請求項1に記載の非接触情報媒体。
【請求項3】
前記金属アンテナは、前記基材の溶融温度以上の条件下で形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の非接触情報媒体。
【請求項4】
前記基材の融解温度は、前記金属アンテナの融解温度よりも低いことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の非接触情報媒体。
【請求項5】
前記基材が、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、アクリル樹脂、シリコン樹脂、ウレタン樹脂から選択される材料でなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の非接触情報媒体。
【請求項6】
前記金属アンテナは、Al、Cu、Fe、Ni、Cr、Mo、Ag、Au,Ptのいずれか又はこれらを組み合わせた合金であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の非接触情報媒体。
【請求項7】
基材上に金属アンテナを、前記基材の表面に面一になるように形成する金属アンテナ形成工程と、
前記基材および前記金属アンテナの表面にカバー層を密着させるカバー層形成工程と、
を備えることを特徴とする非接触情報媒体の製造方法。
【請求項8】
前記金属アンテナは、前記基材の表面に形成された後、前記基材の融解温度以上の条件で前記基材の表面に前記金属アンテナが面一になるまで押圧されることを特徴とする請求項7に記載の非接触情報媒体の製造方法。
【請求項9】
前記金属アンテナは、エッチングされた金属層、または金属ワイヤーであることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の非接触情報媒体の製造方法。
【請求項10】
前記金属アンテナがエッチングで製造される際に、前記基材の表面に前記金属アンテナが面一となるように埋まるように制御することを特徴とする請求項9に記載の非接触情報媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−77060(P2013−77060A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215249(P2011−215249)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】