説明

非接触温度計測装置

【課題】 従来の赤外線温度計測装置では計測することができなかった遮へい物内部の物体または遮へい物に遮られた物体の温度計測を可能にする非接触温度計測装置を提供する。
【解決手段】 計測対象となる物体Xから放射されるマイクロ波またはミリ波帯の信号をアンテナ部11で受信し、受信した信号の成分の振幅値と既知の温度値とから所定の換算式による換算の際に使用される係数値を算定し、この係数値を校正テーブル16に保存する。計測時には、物体Xについて計測した振幅値と校正テーブル16に保存されている係数値とを上記の換算式に代入することによって、物体Xの振幅値を温度値に変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体から放射される電磁波を受信することにより、その物体の温度を非接触に計測する非接触温度計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ある物体の温度を計測する方式は、概して、その物体の表面に感温部を接触させて温度を計測する接触式と、その物体の表面に感温部等を接触させることなく温度を計測する非接触式とに分類することができる。後者の計測方式は、計測対象となる物体の表面に接触させることなく計測することができるので、物体の表面に傷をつけることがなく温度を計測することができる等の利点を有し、広く使用されている。
このような非接触式の温度計測を実現する装置として、従来、赤外線温度計測装置が知られている。
【0003】
この種の赤外線温度計測装置は、すべての物体からは物体の温度に応じた様々な周波数成分を含む信号が放射されており、その物体の温度と放射される周波数成分のエネルギーの強さとの間には一定の関係がある(プランクの法則)、ということに着目して温度計測を行う装置である。すなわち、物体から放射される様々な周波数成分のうち、赤外線領域の信号を利用し、物体の表面から放射される赤外線エネルギーを検出して、温度を計測するものである。
赤外線温度計測装置によれば、例えば、ハム等の練り製品の加工温度、加工ラインにおける完成品の温度、高温のまま食品と共に食客に提供するグリル皿等の温度等を非接触で計測することができ、これらの物体の温度管理をすることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
計測対象となる物体の中には、製品化の際に、ボール紙や樹脂等の容器に封入され、さらに、ボール紙等でパッケージングされるものがある。例えば、バター、マーガリン、チーズ等は、所定形状の樹脂性の容器に封入された後、文字、絵等が印刷されたボール紙でパッケージングされるのが一般的である。また、その製品の運搬、保管に際して、さらに、ダンボール、発泡スチロール等に箱詰されることがある。このような容器、ボール紙、段ボール等は、物体と赤外線温度計測装置との間に介在する遮へい物となる。赤外線エネルギーは、その伝搬経路に遮へい物があると、その遮へい物により著しく減衰される。特に、ボール紙、段ボール等は、赤外線エネルギーを透過させない。そのため、従来の赤外線温度計測装置では、遮へい物内部の物体または遮へい物に遮られた物体の温度を正しく計測することができないという問題があった。
【0005】
本発明は、赤外線温度計測装置では計測することができなかった、上記のような物体の温度計測を可能にする非接触温度計測装置を提供することを、その課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明が提供する非接触温度計測装置は、計測対象となる物体の温度を非接触で計測する非接触温度計測装置であって、計測対象となる物体から放射される赤外線よりも低い周波数の高周波信号のうち前記計測対象となる物体を遮へいする所定の遮へい物を透過可能な周波数の信号を受信する受信アンテナと、前記受信アンテナにより受信された前記信号の成分の振幅値を出力する電子回路と、前記計測対象となる物体の温度値が既知である場合に前記電子回路から出力される振幅値および前記既知の温度値から前記振幅値から前記温度値を示すための所定の換算式による換算の際に使用される係数値を算定する係数算定手段と、前記係数算定手段によって算定された前記係数値と、前記計測対象となる物体の振幅値とを前記所定の換算式に代入することによって前記計測対象となる物体の振幅値を温度値に変換する変換手段と、前記変換手段から出力される前記温度値を表示する表示手段とを有する装置である。
「遮へい物を透過可能な周波数の信号」は、例えば、マイクロ波帯またはミリ波帯の信号である。このような周波数帯の信号は、赤外線領域の信号と比べて、遮へい物(金属を除く)による減衰が小さいので、遮へい物内部の物体または遮へい物に遮られた物体の温度を計測することが可能になる。
【0007】
本発明が提供する他の構成の非接触温度計測装置は、計測対象となる物体の温度を非接触で計測する非接触温度計測装置であって、計測対象となる物体から放射される赤外線よりも低い周波数の高周波信号のうち前記計測対象となる物体を遮へいする所定の遮へい物を透過可能な周波数の信号を受信する受信アンテナと、前記受信アンテナにより受信された前記信号の成分の振幅値を出力する電子回路と、前記既知の温度値および前記既知の温度値において前記電子回路から出力される振幅値を記録する実測値記録手段と、前記実測値記録手段から、前記計測対象となる物体についての前記既知の温度値および前記振幅値を読み出し、読み出したこれらの値から前記振幅値から前記温度値を示すための所定の換算式による換算の際に使用される係数値を算定する係数算定手段と、前記係数算定手段によって算定された係数値を記録する係数記録手段と、前記係数記録手段に記録された前記係数値と前記計測対象となる物体の振幅値とを前記所定の換算式に代入することによって前記計測対象となる物体の振幅値を温度値に変換する変換手段と、前記変換手段から出力される前記温度値を表示する表示手段とを有する装置である。
【0008】
前記係数算定手段は、例えば、前記計測対象となる物体が既知の第1温度値(T1)である場合に前記電子回路から出力された第1電圧値(V1)および前記第1温度値(T1)と、前記計測対象となる物体の温度が既知の第2温度値(T2)である場合に前記電子回路から出力された第2電圧値(V2)および前記第2温度値(T2)とを、それぞれV=αT+βの2次式に代入した2元連立方程式を演算処理することによって前記係数値である係数αおよびβを算定する。
前記受信手段は、例えば、前記計測対象となる物体から放射されるマイクロ波帯またはミリ波帯の信号を受信するように構成される。
【0009】
ある実施の態様では、前記受信アンテナは、所定の計測条件下において、前記所定の遮へい物を透過可能な周波数の信号を受信するものであり、前記係数算定手段は、前記計測対象となる物体の温度値が既知である場合に前記所定の計測条件と同一または略同一の条件下において前記電子回路から出力される振幅値および前記既知の温度値から、前記係数値を算定するものである。
【0010】
ある実施の態様では、前記係数算定手段は、前記計測対象となる物体についての前記所定の計測条件における係数値が前記係数記録手段に記録されていない場合に、前記所定の計測条件における前記振幅値および前記既知の温度値から、前記所定の換算式による換算の際に使用される係数値を算定するものである。
【0011】
前記所定の計測条件は、例えば、前記遮へい物の有無に関する条件と、前記遮へい物が存在する場合における遮へい物の形状、構造または材質に関する条件と、を含むものである。
【0012】
本発明の非接触温度計測装置は、以下のように構成することもできる。
(1)第1構成
計測対象となる物体の温度を非接触で計測する非接触温度計測装置であって;計測対象となる物体から放射される赤外線よりも低い周波数の高周波信号のうち前記計測対象となる物体を遮へいする所定の遮へい物を透過可能な周波数の信号を受信する受信アンテナと;前記受信アンテナにより受信された前記信号の成分の振幅値を出力する電子回路と;前記計測対象となる物体が既知の第1温度値(T1)である場合に所定の計測条件下で前記電子回路から出力された第1電圧値(V1)および前記第1温度値(T1)と、前記計測対象となる物体の温度が既知の第2温度値(T2)である場合に前記所定の計測条件下で前記電子回路から出力された第2電圧値(V2)および前記第2温度値(T2)とを記録する実測値記録テーブルと;前記実測値記録テーブルから前記第1電圧値(V1)および前記第1温度値(T1)と前記第2電圧値(V2)および前記第2温度値(T2)とを読み出し、読み出したこれらの値を、それぞれV=αT+βの2次式に代入した2元連立方程式の演算処理によって係数αおよびβを算出する係数算定手段と;前記算出された係数αおよびβを記録する係数記録テーブルと;前記係数記録テーブルに記録された前記係数値と前記計測対象となる物体の振幅値とを前記2次式に代入することによって、前記所定の計測条件と同一または略同一の条件下における前記計測対象となる物体の振幅値を温度値に変換する変換手段と;前記変換手段から出力される前記温度値を表示する表示手段と;を含み、前記係数算定手段は、前記計測対象となる物体についての前記所定の計測条件における係数値が前記係数記録テーブルに記録されていない場合に、前記所定の計測条件における前記振幅値および前記既知の温度値から前記係数値を算定するものであり、前記所定の計測条件は、前記遮へい物の有無に関する条件と、前記遮へい物が存在する場合における遮へい物の形状、構造または材質に関する条件とを含む装置。
【0013】
(2)第2構成
計測対象となる物体の温度を非接触で計測する非接触温度計測装置であって;計測対象となる物体から放射される赤外線よりも低い周波数の高周波信号のうち前記計測対象となる物体を遮へいする所定の遮へい物を透過可能な周波数の信号を受信する受信アンテナと;基準雑音源と;前記受信アンテナにより受信した前記計測対象となる物体からの信号と前記基準雑音源の信号とが所定の間隔で交互に切り換え入力される第1電子回路と;前記受信アンテナにより受信した前記計測対象となる物体からの信号と前記基準雑音源の信号との切り換えに同期して、前記第1電子回路の出力信号の極性を交互に反転させて出力する第2電子回路と;この第2電子回路の出力信号の成分の振幅値を出力する第3電子回路と;前記計測対象となる物体が既知の第1温度値(T1)である場合に所定の計測条件下で前記電子回路から出力された第1電圧値(V1)および前記第1温度値(T1)と、前記計測対象となる物体の温度が既知の第2温度値(T2)である場合に前記所定の計測条件下で前記電子回路から出力された第2電圧値(V2)および前記第2温度値(T2)とを記録する実測値記録テーブルと;前記実測値記録テーブルから、前記第1電圧値(V1)および前記第1温度値(T1)と、前記第2電圧値(V2)および前記第2温度値(T2)を読み出し、読み出したこれらの値を、それぞれV=αT+βの2次式に代入した2元連立方程式の演算処理によって係数αおよびβを算出する係数算定手段と;前記算出された係数αおよびβを記録する係数記録テーブルと;前記係数記録テーブルに記録された前記係数値と前記第3電子回路から出力される前記計測対象となる物体の振幅値とを前記2次式に代入することによって、前記所定の計測条件と同一または略同一の条件下における前記計測対象となる物体の振幅値を温度値に変換して出力する変換手段と;前記変換手段から出力される前記温度値を表示する表示手段と;を含み、前記係数算定手段は、前記計測対象となる物体についての前記所定の計測条件における係数値が前記係数記録テーブルに記録されていない場合に、前記所定の計測条件における前記振幅値および前記既知の温度値から前記係数値を算定するものであり、前記所定の計測条件は、前記遮へい物の有無に関する条件と、前記遮へい物が存在する場合における遮へい物の形状、構造または材質に関する条件とを含む装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来の赤外線温度計測装置では計測することができなかった遮へい物内部の物体または遮へい物に遮られた物体の温度を正確に計測することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態による非接触型温度計測装置10の構成を示す図である。図1はまた、計測対象となる物体X50と非接触型温度計測装置10との間に物体X50を遮へいする遮へい物52が存在する場合に、非接触型温度計測装置10によって物体X50の温度の計測を行う状態を示している。
物体X50は、本実施形態では、樹脂容器に詰められたバターとして説明するが、これに限られず、どのような物体であっても構わない。
遮へい物52は、本実施形態ではダンボールであるものとして説明するが、これに限られず、マイクロ波帯またはミリ波帯の信号51を透過するような材質のものであればよい。例えば、薄い木等であってもよい。なお、樹脂容器は、マイクロ波帯またはミリ波帯の信号51を、ほぼ無損失で透過させる。
【0016】
以下、本実施形態の非接触型温度計測装置10の構成について説明する。
この非接触型温度計測装置10は、従来の赤外線温度計測装置のように、計測対象となる物体X50から放射される赤外線帯域の信号を利用するのではなく、物体X50から放射されるマイクロ波帯またはミリ波帯の信号51を利用してその温度を計測するものであり、アンテナ部11と、低雑音増幅部12と、検波部13と、増幅部14と、全電力用信号処理部15と、校正テーブル16と、表示部17とを有する。なお、この非接触型温度計測装置10の動作は、図示しない制御コントローラによって制御される。
【0017】
アンテナ部11は、マイクロ波帯またはミリ波帯の信号51を受信するように構成される。
アンテナ部11は、図1に示すように、物体X50と非接触型温度計測装置10との間に遮へい物52が存在する場合には、物体X50から放射されるマイクロ波帯またはミリ波帯の信号51のうち、遮へい物52を透過した信号を受信する。
物体X50から放射されるマイクロ波帯またはミリ波帯の信号51は、赤外線領域の信号と同様に、物体Xの温度に依存する強度(大きさ)を有しているが、極めて微弱な信号であるため、このアンテナ部11により受信された信号は、雑音の発生が少ない低雑音増幅部12に入力されてその信号成分が増幅される。低雑音増幅部12により増幅された信号は、検波部13で検波された後、増幅部14に入力されて増幅され、全電力用信号処理部15に入力される。
【0018】
全電力用信号処理部15は、増幅部14により増幅された信号の振幅値を出力する電子回路を有する。本実施形態では、増幅部14により増幅された信号を積分し、積分した信号を計測対象となる物体X50の振幅値である電圧値として出力する積分器(図示しない)を有する。この積分器から出力される電圧値は、出力端18から取り出せるようになっている。
全電力用信号処理部15はまた、この積分器から出力された電圧値を、後述する校正テーブル16に格納されている係数値に基づいて温度値に変換して出力する変換器(図示しない)を有する。
【0019】
校正テーブル16は、計測対象となる物体X50の温度と、物体X50から遮へい物52を介してアンテナ部11に入力された信号の電圧との相関関係を示す係数値を算定し、これを格納するものである。本実施形態では、校正テーブル16は、実測値記録テーブルと、係数記録テーブルとを備えている。
【0020】
実測値記録テーブルは、図2(a)に示すように、計測対象となる物体X50の温度が既知の第1温度値(Thot)である場合に全電力用信号処理部15の出力端18から出力される第1電圧値(Vhot)およびこの第1温度値(Thot)を記録すると共に、図2(b)に示すように、計測対象となる物体の温度が既知の第2温度値(Tcold)(第1温度より低い)である場合に全電力用信号処理部15の出力端18から出力される第2電圧値(Vcold)およびこの第2温度値(Tcold)を記録するテーブルである。
【0021】
この実測値記録テーブルに記録された、第1電圧値(Vhot)および第1温度値(Thot)と、第2電圧値(Vcold)および第2温度値(Tcold)とから、図示しない制御コントローラによって、計測対象となる物体の温度を示す温度値および全電力用信号処理部15の積分器から出力される電圧値の相関関係が求められる。
この相関関係は、第1電圧値(Vhot)および第1温度値(Thot)と、第2電圧値(Vcold)および第2温度値(Tcold)を、それぞれV=αT+βの2次式に代入し、この2元連立方程式を解くことによって、係数αおよびβを算出することによって求められる。
【0022】
すなわち、図3に示すように、物体の温度と出力電圧とは比例関係にあるため、その係数(傾き)α、係数(切片)βを求めることで、相関を求めることが可能となる。係数α、βは、具体的には以下の式によって求められる。
【0023】
【数1】

【0024】
【数2】

【0025】
なお、図4は、計測対象となる物体と非接触型温度計測装置10との間に、ある遮へい物が存在する場合の温度対出力電圧の関係を示したグラフと、計測対象となる物体と非接触型温度計測装置10との間に、遮へい物が存在しない場合の温度対出力電圧の関係を示したグラフと、を示す図である。
これらのグラフから分かるように、計測対象となる物体と非接触型温度計測装置10との間に遮へい物が存在する場合には、遮へい物が存在しない場合と比較して出力電圧が低下する。しかし、ある遮へい物が存在する場合であっても、物体の温度と出力電圧とは比例関係にあるため、遮へい物が存在しない場合と同様に、その傾きα、切片βを求めることで、相関を求めることが可能となる。
【0026】
係数記録テーブルは、以上のようにして求められた係数α、βを、係数値として記録するためのテーブルである。
【0027】
図5は、実測値記録テーブルの一例を示す図である。
この実測値記録テーブルには、「計測条件1」として、計測対象となる物体の温度,電圧値が(20℃,0.4V)、(0℃,0.2V)が記録されている。また、この他に、「計測条件2」として、物体の温度,電圧値が(30℃,1.1V)、(5℃,0.8V)であるとの計測値が記録されている。
ここで「計測条件」とは、計測対象となる物体に関する条件、遮へい物の有無に関する条件、遮へい物が存在する場合における遮へい物の形状、構造または材質に関する条件等のような条件を示す。
図6は、係数記録テーブルの一例を示す図である。
この係数記録テーブルには、図5の実測値記録テーブルに記録されている「計測条件1」、「計測条件2」に対応する係数値1(α=0.01、β=-2.53)、係数値2(α=0.012、β=-2.53)が、それぞれ格納されている。
【0028】
以上のような校正テーブルは、一つであってもよいが、計測対象となる物体毎に設けられるようにしてもよい。
【0029】
全電力用信号処理部15の変換器は、このような係数値をα、βに当てはめた上述の2次式に、物体Xの電圧値を代入することによって、その電圧値を温度値に変換し、出力する。
具体的には、温度Tは、以下の式によって求められる。
【0030】
【数3】

【0031】
表示部17は、全電力用信号処理部の変換器から出力される温度値等を表示するためのものであり、本実施形態では、図7に示すような、ディスプレイ41とされる。
この図に示すように、ディスプレイ41は、温度等を表示するための表示画面43と、複数のメニューボタン42と、を有する。
いずれかのメニューボタン42を操作することにより、係数値の選択、係数値の算定指示、係数値の記録指示、計測対象となる物体の温度の表示形式の切り換え等が行えるようになっている。
計測対象となる物体の温度の表示形式としては、本実施形態では、絶対温度による表示、摂氏温度による表示、絶対温度および摂氏温度による表示が切り換え可能となっている。
【0032】
なお、本実施形態の非接触型温度計測装置10は、低雑音増幅部12、検波部13、増幅部14および全電力用信号処理部15を有するものとして記載したが、これに限られず、アンテナ部11により受信された信号の成分の振幅値(電圧値)を出力する電子回路を有していればよい。
【0033】
以下、計測対象となる物体X50の温度を、非接触型温度計測装置10を使用して計測する場合の計測手順について、図8を参照して説明する。
計測開始時に、制御コントローラは、ディスプレイ41の表示画面43に、係数記録テーブルに記録されている係数値の一覧を表示する。
ユーザは、表示された係数値の中に、これから計測を開始する計測条件に対応する係数値、すなわち、物体Xと非接触型温度計測装置10との間に遮へい物52が存在する場合における係数値が存在する場合には、メニューボタン42を操作してこの係数値を選択する。なお、係数値が存在しない場合には、メニューボタン42の操作によって、「係数値なし」を選択できるようになっている。
制御コントローラは、ユーザにより一覧中のいずれかの係数値が選択されたことを検知すると(ステップS101:Yes)、該係数値を係数記録テーブルから読み込む(ステップS102)。
【0034】
一方、表示された係数値の中に、該当する係数値が存在しない場合、制御コントローラは、ユーザにより「係数値なし」と選択されたことを検知すると(ステップS101:No)、係数値を算定する処理を行う(ステップS103)。
この処理は、上述のように、第1電圧値(Vhot)と第1温度値(Thot)、第2電圧値(Vcold)と第2温度値(Tcold)の実測値から係数値α、βを算定する作業である。
すなわち、ユーザの指示によって、物体X50が既知の第1温度値(Thot)の物体X50である場合に積分器から出力される第1電圧値(Vhot)および第1温度値(Thot)と、物体X50が既知の第2温度値(Tcold)の物体X50である場合に積分器から出力される第2電圧値(Vcold)および第2温度値(Tcold)の各実測値が実測値記録テーブルに記録され、制御コントローラは、これらの実測値から係数値α、βを算定する。
【0035】
その後、制御コントローラは、今回求めた係数値を係数記録テーブルに記録するか否かの指示画面を、ディスプレイ41に表示する。
制御コントローラは、ユーザのメニューボタン42の操作により、係数記録テーブルに記録するとの選択がされたことを検知すると(ステップS104:Yes)、係数記録テーブルに該係数値を記録する。これに対して、制御コントローラは、ユーザによって、係数記録テーブルに記録しないとの選択がされたことを検知すると(ステップS104:No)、係数記録テーブルに該係数値を記録しない。
係数記録テーブルに係数値を記録した後、または係数記録テーブルに記録しないとの選択がされたことを検知した後、制御コントローラは、全電力用信号処理部15の積分器から出力された電圧値とこの係数値とを上述の2次方程式に代入することによって、電圧値を温度値に変換するように変換器を制御し、物体X50の計測温度をディスプレイ41の表示画面43にリアルタイムで表示する(ステップS106)。
引き続き、これまでと同一条件で計測する場合(ステップS107:No)は、ステップS106に戻り、計測を継続する。
一方、これまでと同一条件における計測を終了する場合(ステップS107:Yes)であって、計測条件を変更して計測をする場合(ステップS108:Yes)は、ステップS101に戻り、制御コントローラは、ディスプレイ41の表示画面43に、係数記録テーブルに記録されている係数値の一覧を表示する。
また、計測条件を変更しない場合(ステップS108:No)は、計測を終了することとなる。
【0036】
このように、この実施形態の非接触型温度計測装置10では、従来の赤外線温度計測装置のように計測対象となる物体から放射される赤外線領域の信号を利用するのではなく、マイクロ波帯またはミリ波帯の信号を利用するので、計測対象となる物体および赤外線温度計測装置の間に紙等の遮へい物が存在する場合であっても、物体の温度計測が可能となる。
【0037】
<第2実施形態>
本実施形態の非接触型温度計測装置20は、さらに、電源電圧の変動や、周囲温度の揺らぎに起因して受信系利得が変動を抑制し、出力電圧への影響を軽減することによって、算出される温度値に誤差が生じることを少なくするための装置である。
図9は、本実施形態による非接触型温度計測装置20の構成を示す図である。図9はまた、計測対象となる物体X50と非接触型温度計測装置20との間に物体X50を遮へいする遮へい物52が存在する場合に、非接触型温度計測装置20によって物体X50の温度の計測を行う状態を示している。
なお、第1実施形態と同一の構成要素については、第1実施形態と同一の符号を付すものとする。
【0038】
本実施形態の非接触温度計測装置20は、図9および図10に示すように、切り換え制御部21、スイッチ21a、21bおよび雑音レベルが既知(例えば黒点)の基準雑音源22をさらに有する点、全電力用信号処理部15の代わりにディッケ型信号処理部23を有する点等で、第1実施形態の非接触温度計測装置10と異なる。
【0039】
切り換え制御部21は、スイッチ21a、21bに対して、各スイッチを切り換える切換制御信号を出力するようになっており、スイッチ21a、21bの双方を同時に切り換えるように構成されている。
スイッチ21aは、切換制御信号に基づいてスイッチを切り換え、低雑音増幅部12に入力される信号を、アンテナ部11により受信された信号または基準雑音源22の信号に交互に切り換えるものである。
よって、本実施形態では、低雑音増幅部12に、アンテナ部11により受信された信号と基準雑音源22の信号とが交互に入力される。低雑音増幅部12に入力されるこれらの信号は、第1実施形態と同様にその信号成分が増幅され、検波部13によって検波され、増幅部14によって増幅される。
この増幅部14によって増幅された信号は、ディッケ型信号処理部23に入力される。
すなわち、ディッケ型信号処理部23には、以上のように処理された、アンテナ部11により受信された物体Xからの信号についての増幅部14の出力信号(Vant)と、基準雑音源22の信号についての増幅部14の出力信号(Vref)とが、交互に入力される。
【0040】
ディッケ型信号処理部23は、図10に示す同期検波部23aと、図示しない積分器と、変換器と、を有する。
同期検波部23aは、スイッチ21bを有しており、このスイッチ21bは、切換制御部21の切換制御信号によって切り替えられる。すなわち、スイッチ21bは、スイッチ21aの切換に同期してスイッチが切り換わるように構成されている。
このスイッチ21bの切り換えによって、出力信号(Vant)と、出力信号(Vref)とが、同期検波部23aから交互に出力される。また、このスイッチ21bの切り換えによって、出力信号の極性が交互に反転されるため、出力信号(Vant)または出力信号(Vref)のいずれかの信号の極性が反転されて出力される。本実施形態では、出力信号(Vref)の信号の極性が反転される。すなわち、同期検波部23aから出力される同期検波出力信号は、図11に示すようになる。
【0041】
この同期検波出力信号は、積分器により積分され、計測対象となる物体X50の電圧値として出力される。
この電圧値は、出力信号(Vant)と出力信号(Vref)の電圧の差に比例した電圧を示す。
よって、本実施形態の非接触型温度計測装置20によれば、電源電圧の変動や周囲温度の変動に起因する、受信系利得変動による出力電圧への影響を低減することができる。
また、スイッチの切り換え周期が利得変動周期よりも短ければ、基準雑音源の信号により、振幅変動分が吸収されたかのように動作するので、利得変動の影響を、より軽減することができる。
なお、このディッケ型信号処理部23の積分器から出力される電圧値は、第1実施形態と同様に、出力端25から取り出せるようになっている。
また、電圧値を温度値に変換する処理は、第1実施形態と同様である。
【0042】
本実施形態の非接触型温度計測装置20によれば、電源電圧の変動や周囲温度の変動に起因する、受信系利得変動による出力電圧への影響を低減することができる。
【0043】
本実施形態の非接触型温度計測装置20は、積分器を有するものとして記載したが、積分器の代わりに、低域通過フィルタを使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1実施形態の非接触型温度計測装置を示す図。
【図2】計測値の計測状態を示す図。
【図3】物体の温度と出力電圧の関係を示す図。
【図4】遮へい物が存在する場合と、遮へい物が存在しない場合における、物体の温度と出力電圧の関係を示す図。
【図5】実測値記録テーブルの一例を示す図。
【図6】係数記録テーブルの一例を示す図。
【図7】ディスプレイを示す図。
【図8】第1実施形態の非接触型温度計測装置を使用して計測する場合の計測手順を示す図。
【図9】本発明の第2実施形態の非接触型温度計測装置を示す図。
【図10】本発明の第2実施形態の非接触型温度計測装置の、同期検波部を示す図。
【図11】同期検波部から出力される同期検波出力信号を示す図。
【符号の説明】
【0045】
10,20 非接触型温度計測装置
11 アンテナ部
12 低雑音増幅部
13 検波部
14 増幅部
15 全電力用信号処理部
16,24 校正テーブル
17 表示部
18 出力端
21 切換制御部
21a,21b スイッチ
22 基準雑音源
23 ディッケ型信号処理部
50 物体X
51 マイクロ波帯またはミリ波帯の信号
52 遮へい物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象となる物体の温度を非接触で計測する非接触温度計測装置であって、
計測対象となる物体から放射される赤外線よりも低い周波数の高周波信号のうち前記計測対象となる物体を遮へいする所定の遮へい物を透過可能な周波数の信号を受信する受信アンテナと、
前記受信アンテナにより受信された前記信号の成分の振幅値を出力する電子回路と、
前記計測対象となる物体の温度値が既知である場合に前記電子回路から出力される振幅値および前記既知の温度値から前記振幅値から前記温度値を示すための所定の換算式による換算の際に使用される係数値を算定する係数算定手段と、
前記係数算定手段によって算定された前記係数値と、前記計測対象となる物体の振幅値とを前記所定の換算式に代入することによって前記計測対象となる物体の振幅値を温度値に変換する変換手段と、
前記変換手段から出力される前記温度値を表示する表示手段とを有する、
非接触温度計測装置。
【請求項2】
計測対象となる物体の温度を非接触で計測する非接触温度計測装置であって、
計測対象となる物体から放射される赤外線よりも低い周波数の高周波信号のうち前記計測対象となる物体を遮へいする所定の遮へい物を透過可能な周波数の信号を受信する受信アンテナと、
前記受信アンテナにより受信された前記信号の成分の振幅値を出力する電子回路と、
前記既知の温度値および前記既知の温度値において前記電子回路から出力される振幅値を記録する実測値記録手段と、
前記実測値記録手段から前記計測対象となる物体についての前記既知の温度値および前記振幅値を読み出し、読み出したこれらの値から前記温度値を示すための所定の換算式による換算の際に使用される係数値を算定する係数算定手段と、
前記係数算定手段によって算定された係数値を記録する係数記録手段と、
前記係数記録手段に記録された前記係数値と前記計測対象となる物体の振幅値とを前記所定の換算式に代入することによって前記計測対象となる物体の振幅値を温度値に変換する変換手段と、
前記変換手段から出力される前記温度値を表示する表示手段とを有する、
非接触温度計測装置。
【請求項3】
前記係数算定手段は、前記計測対象となる物体が既知の第1温度値(T1)である場合に前記電子回路から出力された第1電圧値(V1)および前記第1温度値(T1)と、前記計測対象となる物体の温度が既知の第2温度値(T2)である場合に前記電子回路から出力された第2電圧値(V2)および前記第2温度値(T2)とをそれぞれV=αT+βの2次式に代入した2元連立方程式の演算処理によって前記係数値である係数αおよびβを算定する、
請求項1または2記載の非接触温度計測装置。
【請求項4】
前記受信手段は、前記計測対象となる物体から放射されるマイクロ波帯またはミリ波帯の信号を受信するように構成される、
請求項1ないし3のいずれかの項記載の非接触温度計測装置。
【請求項5】
前記受信アンテナは、所定の計測条件下において前記所定の遮へい物を透過可能な周波数の信号を受信するものであり、
前記係数算定手段は、前記計測対象となる物体の温度値が既知である場合に前記所定の計測条件と同一または略同一の条件下において前記電子回路から出力される振幅値および前記既知の温度値から前記係数値を算定するものである、
請求項1ないし4のいずれかの項記載の非接触温度計測装置。
【請求項6】
前記係数算定手段は、前記計測対象となる物体についての前記所定の計測条件における係数値が前記係数記録手段に記録されていない場合に、前記所定の計測条件における前記振幅値および前記既知の温度値から前記所定の換算式による換算の際に使用される係数値を算定する、
請求項5記載の非接触温度計測装置。
【請求項7】
前記所定の計測条件は、前記遮へい物の有無に関する条件と前記遮へい物が存在する場合における遮へい物の形状、構造または材質に関する条件とを含む、
請求項5または6記載の非接触温度計測装置。
【請求項8】
計測対象となる物体の温度を非接触で計測する非接触温度計測装置であって;
計測対象となる物体から放射される赤外線よりも低い周波数の高周波信号のうち、前記計測対象となる物体を遮へいする所定の遮へい物を透過可能な周波数の信号を受信する受信アンテナと;
前記受信アンテナにより受信された前記信号の成分の振幅値を出力する電子回路と;
前記計測対象となる物体が既知の第1温度値(T1)である場合に所定の計測条件下で前記電子回路から出力された第1電圧値(V1)および前記第1温度値(T1)と、前記計測対象となる物体の温度が既知の第2温度値(T2)である場合に前記所定の計測条件下で前記電子回路から出力された第2電圧値(V2)および前記第2温度値(T2)とを記録する実測値記録テーブルと;
前記実測値記録テーブルから前記第1電圧値(V1)および前記第1温度値(T1)と前記第2電圧値(V2)および前記第2温度値(T2)とを読み出し、読み出したこれらの値を、それぞれV=αT+βの2次式に代入した2元連立方程式の演算処理によって係数αおよびβを算出する係数算定手段と;
前記算出された係数αおよびβを記録する係数記録テーブルと;
前記係数記録テーブルに記録された前記係数値と前記計測対象となる物体の振幅値とを前記2次式に代入することによって、前記所定の計測条件と同一または略同一の条件下における前記計測対象となる物体の振幅値を温度値に変換する変換手段と;
前記変換手段から出力される前記温度値を表示する表示手段と;を含み、
前記係数算定手段は、前記計測対象となる物体についての前記所定の計測条件における係数値が前記係数記録テーブルに記録されていない場合に、前記所定の計測条件における前記振幅値および前記既知の温度値から前記係数値を算定するものであり、
前記所定の計測条件は、前記遮へい物の有無に関する条件と、前記遮へい物が存在する場合における遮へい物の形状、構造または材質に関する条件とを含む、
非接触温度計測装置。
【請求項9】
計測対象となる物体の温度を非接触で計測する非接触温度計測装置であって;
計測対象となる物体から放射される赤外線よりも低い周波数の高周波信号のうち、前記計測対象となる物体を遮へいする所定の遮へい物を透過可能な周波数の信号を受信する受信アンテナと;
基準雑音源と;
前記受信アンテナにより受信した前記計測対象となる物体からの信号と前記基準雑音源の信号とが所定の間隔で交互に切り換え入力される第1電子回路と;
前記受信アンテナにより受信した前記計測対象となる物体からの信号と前記基準雑音源の信号との切り換えに同期して、前記第1電子回路の出力信号の極性を交互に反転させて出力する第2電子回路と;
この第2電子回路の出力信号の成分の振幅値を出力する第3電子回路と;
前記計測対象となる物体が既知の第1温度値(T1)である場合に所定の計測条件下で前記電子回路から出力された第1電圧値(V1)および前記第1温度値(T1)と、前記計測対象となる物体の温度が既知の第2温度値(T2)である場合に前記所定の計測条件下で前記電子回路から出力された第2電圧値(V2)および前記第2温度値(T2)とを記録する実測値記録テーブルと;
前記実測値記録テーブルから、前記第1電圧値(V1)および前記第1温度値(T1)と、前記第2電圧値(V2)および前記第2温度値(T2)を読み出し、読み出したこれらの値を、それぞれV=αT+βの2次式に代入した2元連立方程式の演算処理によって係数αおよびβを算出する係数算定手段と;
前記算出された係数αおよびβを記録する係数記録テーブルと;
前記係数記録テーブルに記録された前記係数値と前記第3電子回路から出力される前記計測対象となる物体の振幅値とを前記2次式に代入することによって、前記所定の計測条件と同一または略同一の条件下における前記計測対象となる物体の振幅値を温度値に変換して出力する変換手段と;
前記変換手段から出力される前記温度値を表示する表示手段と;を含み、
前記係数算定手段は、前記計測対象となる物体についての前記所定の計測条件における係数値が前記係数記録テーブルに記録されていない場合に、前記所定の計測条件における前記振幅値および前記既知の温度値から前記係数値を算定するものであり、
前記所定の計測条件は、前記遮へい物の有無に関する条件と、前記遮へい物が存在する場合における遮へい物の形状、構造または材質に関する条件とを含む、
非接触温度計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−29869(P2006−29869A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−206395(P2004−206395)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000219004)島田理化工業株式会社 (205)
【出願人】(504268755)
【出願人】(597114373)
【Fターム(参考)】