説明

非接触給電装置

【課題】三相給電が可能な非接触給電装置を提供する。
【解決手段】移動体の走行路に沿って平行に配置された三本の給電線24〜26と、給電線にU相、V相、W相の三相交流を出力する三相交流電源11と、三個のコアに巻回された三個のコイル31〜33とを備え、電磁誘導により一次側から二次側に給電する非接触給電装置であって、二次側コイル31〜33には、並列コンデンサCPU、CPV、CPWが接続され、一次側の給電線24〜26は、三相交流電源11の反対側で三本が短絡され、三相交流電源11との間に直列コンデンサCSU、CSV、CSWが挿入され、中央のV相給電線25に挿入されるコンデンサCSV22の値が他のコンデンサCSU、CSWより大きい値に設定されている。CSVの値を大きく設定して、各相間の一次側自己インダクタンスのアンバランスを補償しているため、安定した三相給電が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行路に沿って移動する移動体に非接触で電力を供給する非接触給電装置に関し、三相給電を可能にしたものである。
【背景技術】
【0002】
移動体内の負荷に外部から給電する方式には、移動体の集電装置を給電線に接触させる接触給電方式と、給電線に非接触で給電する非接触給電方式とが存在する。非接触給電方式では、高周波電源に接続する給電線が一次側回路を構成し、移動体側に二次側回路を設けて、一次側回路から二次側回路に電磁誘導を利用して電力が供給される。非接触給電の場合、接触による摩擦粉や火花が発生せず、クリーンで安全であり、保守も容易である。そのため、半導体工場のクリーンルーム内の搬送車や、自動車工場内の搬送車などの給電用に実用化されている。
【0003】
図12は、従来の移動型非接触給電装置の一例を模式的に示している。
この装置は、移動体の移動経路に沿って配設された給電線60と、商用電源64よりも高い周波数の交流電力を生成して給電線60に出力するインバータ63と、一次側電源の力率を上げるために給電線に直列に挿入されたコンデンサ62と、移動体側の受電部61とを備えており、受電部61は、フェライトコア611にリッツ線(絶縁被覆された細線を束ねた線)を巻回して構成された二次側巻線610を有している。なお、コンデンサ62をインバータ63の出力端子間に給電線に並列に挿入する方式も良く用いられる。
移動型非接触給電装置は、電磁誘導を利用し、数mmから数cmのギャップを隔てて数kW〜数百kWの電力を給電することができる。
【0004】
しかし、ギャップ長が大きいため、一次側回路と二次側回路との結合係数が低く、大きな漏れインダクタンスが生じる。その対策として、インバータ63で電源周波数を10kHz〜50kHzに設定して二次誘起電圧を上げ、また、一次側回路及び二次側回路にコンデンサを配置して漏れインダクタンスを補償している。図12のコンデンサ62は、一次側回路に配置された補償用のコンデンサである。
また、高周波電圧を受電する受電部61では、コア611にフェライトを用い、表皮効果による巻線抵抗の増大を防ぐために、二次側巻線610をリッツ線で形成している。
【0005】
漏れインダクタンスを補償するコンデンサの配置には、一次側に並列共振コンデンサを置き、二次側に直列共振コンデンサを置く方式(PS方式)や、一次側及び二次側に並列共振コンデンサを置く方式(PP方式)など、様々な方式が提案されている。
下記非特許文献1には、一次側に直列コンデンサを、二次側に並列コンデンサを配置するSP方式が記載されている。SP方式では、両コンデンサの値を適切に選ぶと理想変圧器特性が成り立ち、この理想変圧器特性を利用して、次のような優れた性能を持つ非接触給電装置が得られる。
(1)電源の小型化が可能である(負荷に依らず電源出力の力率を1にできるため)。
(2)電源の効率向上が可能である(電源出力の電圧と電流が同位相になりゼロ電流スイッチングが可能なため)。
(3)コンデンサの値は負荷に依らず、トランス定数だけで決まる。
(4)電源を定電圧/定電流制御すれば負荷も定電圧/定電流になる。
(5)給電効率の向上が可能である(簡単な効率の理論式を用いて送受電トランスの最適設計や最大効率運転が可能となる)。
図12は、SP方式の移動型非接触給電装置を模式的に示している(但し、二次側の並列コンデンサは不図示)。
【0006】
現在実用化されている移動型非接触給電装置は、図12に示すように、移動体に対して単相給電を実施しているが、単相交流を用いて給電するときの有効電力は、三相交流で給電するときの有効電力に比べて少ない。三相給電の場合、単相給電の√3倍の有効電力を供給することが可能である。
この利点に着目して、移動型非接触給電装置の三相給電化を図るアイデアが、これ迄にも幾つか提案されている。
【0007】
図13、図14は、下記特許文献1に記載された非接触給電装置の回路図と、給電線及び受電部の斜視図を示している。
この装置は、図13に示すように、高周波電源100が、三相インバータ110Mと、同調フィルタ120Mとを備え、移動体300が、受電部310aと、受電部310aで受電した三相交流を全波整流して負荷Rに供給する整流回路とを備えている。この装置では、PS方式のコンデンサ配置を採用しており、高周波電源100の同調フィルタ120Mに並列共振コンデンサC2が配置され、また、移動体300の受電部310aに直列共振コンデンサC4が配置されている。
図14に示すように、三相インバータのU端子に接続する給電線200L1、V端子に接続する給電線200L2、及び、W端子に接続する給電線200L3から成る3系統の給電線は、受電部310aの移動経路上の所定地点で共通接続されており、この共通接続点が三相の中性点を構成している。また、各給電線200L1、200L2、200L3を通じてU相、V相、W相の三相交流電圧を取得する受電部310aは、三本の給電線200L1、200L2、200L3を個別に囲む収容室が一体成形されたフェライトコアと、このコアの各収容室に巻回された巻線とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−320347号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】藤田・金子・阿部:「直列および並列共振コンデンサを用いた非接触給電システム」,電学論 D,Vol.127,No.2 pp.174-180 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、移動型の非接触給電装置に三相給電を適用する場合は、単相給電では起こり得ない次の問題点がある。
(1)実用上、三本の給電線は、等間隔で平面上に置かれるため、各相の一次自己インダクタンスがバランスしない。即ち、給電線のWU間の間隔がUV間、VW間の2倍あり、WU間の自己インダクタンスが他に比べて大きくなる。
(2)各相の受電部間に磁気結合が生じる。図14に示すようなコアを用いた場合は、各相間の磁気結合が避けられない。
これらの問題を解決しなければ、三相のバランスが崩れ、移動体に対し大電力を安定して給電することができない。
【0011】
本発明は、こうした事情を考慮して創案したものであり、安定した三相給電が可能な非接触給電装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、移動体の走行路に沿って略同一平面上に互に平行に配置されたU相、V相、W相の三本の給電線と、給電線のそれぞれにU相、V相、W相の三相交流を出力する三相交流電源と、移動体に設けた三個のコアのそれぞれに巻回されたU相、V相、W相の三個のコイル(巻線)と、を備え、三本の給電線を一次側とし、三個のコイルを二次側として、電磁誘導により一次側から二次側に給電する非接触給電装置であって、二次側のU相、V相、W相のコイルには、それぞれ並列コンデンサCPU、CPV、CPWが接続され、一次側の三本の給電線は、一方で三相交流電源に接続され、その三相交流電源と反対側の他方で三本が短絡され、三相交流電源と三本の給電線との間には、各相に直列コンデンサCSU、CSV、CSWが挿入され、三本の給電線の中で中央にあるV相給電線と三相交流電源との間に挿入されるコンデンサCSVの値が、他のコンデンサCSU、CSWの値より大きい値に設定されていることを特徴とする。
この非接触給電装置は、SP方式のコンデンサ配置を採用し、V相給電線に挿入する直列コンデンサCSVの値を大きく設定して、各相間の一次側自己インダクタンスのアンバランスを補償している。
【0013】
また、本発明の非接触給電装置では、三個のコアのそれぞれの位置を、給電線が延びる給電線延伸方向にずらし、給電線延伸方向の座標上で各コアの存在する範囲が相互に重ならないように配置している。
こうすることで、三個のコアに巻回されたコイル間の磁気的結合(従って、三個のコイル間の相互インダクタンス)が十分小さくなる。
【0014】
また、本発明の非接触給電装置では、三個のコアのそれぞれの外周に電磁遮蔽のための導体板を配置し、この導体板の給電線延伸方向における長さを、コアの同方向の長さより長くするようにしても良い。
こうすることで、三個のコイル間の相互インダクタンスが十分小さくなる。
【0015】
また、本発明の非接触給電装置では、導体板を配置する場合に、コアと、当該コアを囲む導体板の内面との間に電気絶縁体を介在させることが望ましい。
コアを流れる交流磁界によって導体板の表面に渦電流が生じるが、電気絶縁体を介在させて、コアと導体板との距離を取ることにより、導体板に発生する渦電流を減らすことができる。
【0016】
また、本発明の非接触給電装置では、導体板を配置する場合に、三個のコアのそれぞれの外周に配置した導体板を、互いに電気的に絶縁することが望ましい。
各導体板が電気接続していると、一つの導体板に生じた渦電流が他の導体板に流れ、他の導体板に囲まれた二次コイルに誘導電圧を生じさせる可能性があるが、導体板を相互に絶縁することで、そうした事態が防止できる。
【0017】
また、本発明の非接触給電装置では、前記並列コンデンサCPi(i=U,V,W)の値を次のように設定する。
即ち、二次側のコイルの自己インダクタンスをL2i(i=U,V,W)とし、三相交流電源の周波数をf0(角周波数ω0=2πf0)とするとき、
1/(ω0Pi)=ω02i (数1)
を満たすように設定する。
こうすることで、二次側の受電回路が三相交流電源の周波数に共振し、給電効率が向上する。
【0018】
また、本発明の非接触給電装置では、前記直列コンデンサCSi(i=U,V,W)の値を次のように設定する。
即ち、二次側コイルの各々に並列コンデンサCPi(i=U,V,W)と同じ値の負荷抵抗RLを接続した時、三相交流電源のUV出力、VW出力、WU出力から見た直列コンデンサCSi、二次側コイル、並列コンデンサCPi及び負荷抵抗RL側のインピーダンスが、リアクタンス分を含まずに純抵抗になるように設定する。
こうすることで、各相間の一次側自己インダクタンスのアンバランスが補償され、一次側回路の力率が改善して、二次側回路への給電効率が向上する。
【0019】
また、本発明の非接触給電装置では、前記直列コンデンサCSi(i=U,V,W)の値を次のように設定しても良い。
即ち、二つの直列コンデンサCSi、CSj(i=U,V,W、j=U,V,W、i≠j)及び二本の給電線を含む三相交流電源のUV間、VW間またはWU間の回路での二つの直列コンデンサCSi、CSjの合成容量をCSij、一方の給電線の漏れインダクタンスをl1i、他方の給電線の漏れインダクタンスをl1j、一方の給電線とそれを跨ぐコアに巻回された二次コイルとの間の相互インダクタンスをMi、他方の給電線とそれを跨ぐコアに巻回された二次コイルとの間の相互インダクタンスをMj、二次側の各コイルの巻数をn、一方の二次側コイルの漏れインダクタンスをl2i、他方の二次側コイルの漏れインダクタンスをl2jとするとき、
【数2】

からCSijを求め、
【数3】

の連立方程式を解いて、CSi(i=U,V,W)の値を設定する。
こうして求めたCSi(i=U,V,W)の値を用いることで、各相間の一次側自己インダクタンスのアンバランスが補償され、一次側回路の力率が改善して、二次側回路への給電効率が向上する。
なお、給電線が長くなると(数2)の右辺の第二項の値が大きくなり、第一項を省略しても左辺の値がほぼ同じ値になる。このような場合は(数2)を(数5)で近似して用いても良い。
【数5】

【0020】
また、本発明の非接触給電装置では、二次側の各コイルのU相、V相、W相出力をY結線し、さらに三相整流器で直流に整流して出力するようにしても良い。
【発明の効果】
【0021】
本発明の非接触給電装置は、安定した三相給電が可能であり、移動体に対し、電力変動が少ない大電力を非接触で供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る非接触給電装置を示す図
【図2】図1の三相インバータの出力電圧を示す図
【図3】図1の装置の給電線及び受電部の回路構成を示す図
【図4】図1の装置で受電部に三相整流器を接続した回路構成を示す図
【図5】図1の装置におけるUV間の等価回路を示す図
【図6】実験で用いた直列コンデンサ及び並列コンデンサの値を示す図
【図7】実験結果(電流・電圧波形)を示す図
【図8】実験結果(実効値及び力率)を示す図
【図9】実験結果(給電効率)を示す図
【図10】本発明の第2の実施形態に係る非接触給電装置及び受電部を示す図
【図11】図10の受電部の平面図及び側面図
【図12】従来の非接触給電装置を示す図
【図13】従来の三相給電を行う非接触給電装置の回路図
【図14】図13の装置の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る非接触給電装置を模式的に示し、図3は、その回路構成を示している。
この装置は、商用電源10と、商用交流から高周波の三相交流を生成してU、V、W端子から出力する三相インバータ11と、移動体の移動経路に沿って同一平面上に平行に配設された三本の給電線24、25、26と、三相インバータ11及び三本の給電線24、25、26間に挿入された直列コンデンサ21、22、23と、移動体に設けられた移動体受電部30とを備えている。
【0024】
給電線24には、直列コンデンサ21を介して接続する三相インバータ11のU端子からU相の三相交流が出力される。
給電線25には、直列コンデンサ22を介して接続する三相インバータ11のV端子からV相の三相交流が出力される。
また、給電線26には、直列コンデンサ23を介して接続する三相インバータ11のW端子からW相の三相交流が出力される。
三本の給電線24、25、26は、三相インバータ11と反対の側で短絡されており、短絡箇所のNは中性点を表している。
図2には、三相インバータ11から出力される線間電圧(UV間、VW間、WU間電圧)の時間変化を示している。
【0025】
また、移動体受電部30は、U相、V相、W相に対応する三個の受電部31、32、33から成り、各受電部31、32、33は、給電線24、25、26を跨ぐように成形された断面コ字状のフェライトコア311、321、331と、このフェライトコアにリッツ線を巻回して形成された二次側コイル312、322、332と、二次側コイル312、322、332のそれぞれに並列に接続された並列コンデンサ313、323、333とを備えている(図3)。三個の受電部31、32、33は、Y結線されている。
【0026】
このように、この非接触給電装置は、一次側の給電線24、25、26に直列コンデンサ21、22、23を挿入し、二次側のコイル312、322、332に並列コンデンサ313、323、333を接続しており、SP方式(一次直列二次並列コンデンサ方式)を採用している。
図3において、各受電部31、32、33に接続する抵抗314、324、334は、移動体の負荷を等価抵抗RLiで表している(i=U,V,W)。
なお、Y結線した三個の受電部31、32、33に、図4に示すように、三相整流器を接続し、三相整流器で整流された直流を移動体の負荷に出力するようにしても良い。
【0027】
三個の受電部31、32、33は、図1に示すように、給電線24、25、26の延伸方向(給電線延伸方向)にずらし、給電線延伸方向の座標上で各受電部31、32、33のフェライトコア311、321、331の存在する範囲が相互に重ならないように配置している。
このように各受電部31、32、33を物理的にずらして配置することにより、二次側コイル312、322、332の間の磁気的結合が十分小さくなり(各コイル間の相互インダクタンスが十分小さくなり)、「発明が解決しようとする課題」で示した(2)の問題点が解決できる。
【0028】
次に、SP方式で配置した直列コンデンサ21、22、23及び並列コンデンサ313、323、333の値の決め方について説明する。この決め方により、「発明が解決しようとする課題」で示した(1)の問題点が解決できる。
ここでは、直列コンデンサ21、22、23をCSU、CSV、CSWとし、それらを纏めてCSi(i=U,V,W)で表す。また、並列コンデンサ313、323、333をCPU、CPV、CPWとし、それらを纏めてCPi(i=U,V,W)で表す。
Si、CPi(i=U,V,W)の値を決めるために、三相非接触給電回路を、まずUV間、VW間、WU間の3つの単相給電回路に分け、それぞれを三相電圧源で駆動するものとする。
【0029】
図5は、図3の回路図におけるUV間の詳細等価回路を示している。
各相の受電部間に磁気結合が無ければ、CPiは各相で独立に決めることができる。
SP方式では、並列コンデンサCPi(i=U,V,W)の値を、二次側コイル312、322、332の自己インダクタンスと共振するように設定する。従って、二次側コイル312、322、332の自己インダクタンスをL2i(i=U,V,W)とし、三相インバータ11の周波数をf0(角周波数ω0=2πf0)とするとき、CPi(i=U,V,W)は、次式(数1)から求めることができる。
1/(ω0Pi)=ω02i (数1)
【0030】
次に、一次側の直列コンデンサの値を決めるため、図5おいて、一次側直列コンデンサのCSUとCSVとの合成容量CSUVの値を、二次側コイルの各々に並列コンデンサCPU、CPVと同じ値の負荷抵抗RLU、RLVを接続した時に、電源から見たインピーダンスZが純抵抗になるように設定する。
図5の等価回路で電源から見たインピーダンスZが純抵抗になるとき、インピーダンスZのjを含む項が0になる。その関係から次式(数2)が得られ、この(数2)を用いて合成容量CSUVの値を求めることができる。
【数2】

なお、(数2)では、二つの直列コンデンサCSi、CSj(i=U,V,W、j=U,V,W、i≠j)の合成容量をCSij、一方の給電線の漏れインダクタンスをl1i、他方の給電線の漏れインダクタンスをl1j、一方の給電線とそれを跨ぐコアに巻回された二次コイルとの間の相互インダクタンスをMi、他方の給電線とそれを跨ぐコアに巻回された二次コイルとの間の相互インダクタンスをMj、二次側の各コイルの巻数をn、一方の二次側コイルの漏れインダクタンスをl2i、他方の二次側コイルの漏れインダクタンスをl2jとしている。
同様にVW間、WU間の回路を考えることにより、合成容量CSij(i=U,V,W、j=U,V,W、i≠j)の値が決まる。
【0031】
次いで、3つのCSUV、CSVW、CSWUの式から次式(数3)を用いて連立方程式を解くことにより、CPi(i=U,V,W)の値を求めることができる。
【数3】

【0032】
これらの手順で非接触給電装置の直列コンデンサ21、22、23及び並列コンデンサ313、323、333の値を設定することにより、安定的な三相給電が可能になる。それを実験で確かめた。
この実験は、図1及び図3の装置において、三相インバータ11の出力周波数を20kHzとし、給電線24、25、26に、長さ3.9mのリッツ線(φ0.25mm×24×16)を用い、受電部31、32、33には、断面コ字状のフェライトコア(H38×W40×L80mm)にリッツ線(φ0.25mm×24×2)を6ターン巻いたものを用いて行った。負荷抵抗は、20Ωあるいは50Ωとした。
【0033】
並列コンデンサ313、323、333の値は、LCRメータで二次コイルの自己インダクタンスを測定し、(数1)により決定した。また、直列コンデンサ21、22、23の値は、実験装置で図5のインピーダンスZ’を直接測定し、Zが純抵抗になる(電源力率が1となる)合成容量を求めた後、(数3)を用いて決定した。並列コンデンサ313、323、333及び直列コンデンサ21、22、23の決定値を図6に示している。なお、図6のカッコ内の値は、LCRメータで測定した図5のトランス定数から(数1)(数2)(数3)を用いて計算した並列コンデンサ及び直列コンデンサの計算値を示している。
【0034】
図7は、並列コンデンサ313、323、333及び直列コンデンサ21、22、23の値を図6に示した決定値に設定して、三相給電を行ったときのUV間、VW間及びWU間の三相インバータ11の出力電圧(VUV、VVW、VWU)、一次側相電流(IU1、IV1、IW1)、及び、二次側相電圧(VU2、VV2、VW2)を示している。
また、図8は、一次側の各相(U1、V1、W1)及び二次側の各相(U2、V2、W2)における相電圧の実効値(V)、相電流の実効値(I)、及び、力率(pf)を示している。
【0035】
図6から、三本の給電線の中で中央にあるV相給電線に挿入されたコンデンサCSVの値が、CSU、CSWの値より大きいことが分かる。コンデンサCSVの値がCSU、CSWに比べて大きいことにより、給電線のWU間の間隔がUV間及びVW間の間隔より広いために生じている各相の自己インダクタンスのアンバランスが補償されている。
また、図7から、一次側相電流と二次側相電圧との位相が一致していることが分かり、図7及び図8から、各相間のバランスが取れた三相給電を確認できる。図8から、各相の力率が略1であることが分かる。二次側の力率は、負荷抵抗のインダクタンス分のために多少低下している。一次側の力率は、一次側直列コンデンサCS1の値を調整することにより、さらに改善できる。
【0036】
また、図9は、給電効率ηと負荷抵抗RLとの関係を示している。ここで、点線で示す給電効率ηは、次式(数4)により求めた理論値である。
【数4】

黒点で示す実験値の一つは給電効率ηが82.1%と狙い通り最大効率に近く、RL=21.4Ωのときに得られている。
この実験により、本発明方式を用いれば理論通りの特性が得られることが確認できた。
【0037】
このように、SP方式を採る非接触給電装置では、平面上に配置する三本の給電線に挿入する直列コンデンサCSiの中で、中央のV相給電線に挿入するコンデンサCSVの値を他のコンデンサCSU、CSWよりも大きい値に設定することにより、一次側の各相のバランスを取ることができる。そして、二次側の各相の受電部を、相互間の磁気結合が生じないように配置し、各受電部に設ける並列コンデンサCPiを二次側コイルと共振するように設定することで、移動体への安定した三相給電が可能になる。
なお、一次側である給電線はU相、V相、W相とも1本、即ち、1ターンとして説明してきたが、各相をn1ターン(n1>1)とすることも可能である。この場合は、一次と二次の巻数比aをa=n1/nとし、図5の等価回路の定数を修正し、(数2)でnを(n/n1)に変更するだけで良い。
【0038】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態では、第1の実施形態と異なる構造の移動体受電部について説明する。
図10(a)は、この移動体受電部40と三本の給電線24、25、26とを備える非接触給電装置を模式的に示している。図10(b)は、移動体受電部40を拡大して示す斜視図である。また、図11(a)は、移動体受電部40の平面図であり、図11(b)は、縦方向(給電線延伸方向)から見た側面図であり、図11(c)は、横方向から見た側面図である。
この移動体受電部40は、U相、V相、W相に対応する三個の受電部41、42、43から成り、各受電部41、42、43は、給電線延伸方向と直交する方向に一列に整列している。
【0039】
各受電部41、42、43の構造は同一である。そのため、受電部42の構造について詳しく説明する。
図11(a)(b)(c)に示すように、受電部42は、給電線25を跨ぐように成形された断面コ字状のフェライトコア421と、このフェライトコアの壁にリッツ線を巻回して形成された二次側コイル422と、電磁遮蔽用の導体板423とを有している。
導体板423は、フェライトコア421と同様に断面形状が略コ字状であり、二次側コイル422が巻回されたフェライトコア421の外周を囲む大きさを有している。給電線延伸方向の導体板423の長さAは、フェライトコア421の長さBよりも長く、フェライトコア421の給電線延伸方向の各端部は、導体板423の対応する端部から等距離だけ引っ込んでいる。また、図11(b)に示すように、フェライトコア421の下方の端部も導体板423により覆われている。
【0040】
導体板423は、フェライトコア421に直接接触しておらず、導体板423とフェライトコア421との間には、電気絶縁体が介在している。
また、導体板423は、隣接する受電部41、43の導体板にも直接接触しておらず、各相の受電部41、42、43の導体板は、相互に電気的に絶縁されている。
フェライトコア421に交流磁界が流れると、導体板423表面に渦電流が発生するが、この受電部42では、電気絶縁体を介在させて導体板423とフェライトコア421との距離を離し、導体板423表面に発生する渦電流を減らしている。また、導体板423に発生した渦電流は、この導体板423と絶縁されている他の受電部41、43の導体板には流れない。
そのため、この導体板の存在により、各相の受電部41、42、43間の磁気結合が防止できる。
この移動体受電部40は、第1の実施形態の移動体受電部30に比べて小型に構成することができ、移動体への取り付けが容易である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の非接触給電装置は、移動体への安定した三相給電が可能であり、半導体工場内の搬送車や、自動車工場内の搬送車など、各種分野の移動体への給電に利用することができる。
【符号の説明】
【0042】
10 商用電源
11 三相インバータ
21 直列コンデンサ
22 直列コンデンサ
23 直列コンデンサ
24 給電線
25 給電線
26 給電線
30 移動体受電部
31 受電部
32 受電部
33 受電部
40 移動体受電部
41 受電部
42 受電部
43 受電部
60 給電線
61 受電部
62 コンデンサ
63 インバータ
64 商用電源
100 高周波電源
110 三相インバータ
120 同調フィルタ
200 給電線
300 移動体
310 受電部
311 フェライトコア
312 二次側コイル
313 並列コンデンサ
314 抵抗
321 フェライトコア
322 二次側コイル
323 並列コンデンサ
324 抵抗
331 フェライトコア
332 二次側コイル
333 並列コンデンサ
334 抵抗
421 フェライトコア
422 二次側コイル
423 導体板
610 二次側巻線
611 フェライトコア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の走行路に沿って略同一平面上に互に平行に配置されたU相、V相、W相の三本の給電線と、前記給電線のそれぞれにU相、V相、W相の三相交流を出力する三相交流電源と、前記移動体に設けた三個のコアのそれぞれに巻回されたU相、V相、W相の三個のコイルと、を備え、前記三本の給電線を一次側とし、前記三個のコイルを二次側として、電磁誘導により一次側から二次側に給電する非接触給電装置であって、
二次側の前記U相、V相、W相のコイルには、それぞれ並列コンデンサCPU、CPV、CPWが接続され、
一次側の前記三本の給電線は、一方で前記三相交流電源に接続され、前記三相交流電源と反対側の他方で三本が短絡され、
前記三相交流電源と前記三本の給電線との間には、各相に直列コンデンサCSU、CSV、CSWが挿入され、前記三本の給電線の中で中央にあるV相給電線と前記三相交流電源との間に挿入されるコンデンサCSVの値が、他のコンデンサCSU、CSWの値より大きい値に設定されていることを特徴とする非接触給電装置。
【請求項2】
請求項1に記載の非接触給電装置であって、前記三個のコアのそれぞれの位置を、前記給電線が延びる給電線延伸方向にずらし、給電線延伸方向の座標上で各コアの存在する範囲が相互に重ならないように配置したことを特徴とする非接触給電装置。
【請求項3】
請求項1に記載の非接触給電装置であって、前記三個のコアのそれぞれの外周に電磁遮蔽のための導体板を配置し、前記導体板の給電線延伸方向における長さを、前記コアの同方向の長さより長くしたことを特徴とする非接触給電装置。
【請求項4】
請求項3に記載の非接触給電装置であって、前記コアと、当該コアを囲む前記導体板の内面との間に電気絶縁体を介在させたことを特徴とする非接触給電装置。
【請求項5】
請求項4に記載の非接触給電装置であって、前記三個のコアのそれぞれの外周に配置した前記導体板を、互いに電気的に絶縁したことを特徴とする非接触給電装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の非接触給電装置であって、前記並列コンデンサCPi(i=U,V,W)の値が、二次側の前記コイルの自己インダクタンスをL2i(i=U,V,W)とし、前記三相交流電源の周波数をf0(角周波数ω0=2πf0)とするとき、
1/(ω0Pi)=ω02i (数1)
を満たすように設定されていることを特徴とする非接触給電装置。
【請求項7】
請求項6に記載の非接触給電装置であって、前記直列コンデンサCSi(i=U,V,W)の値は、二次側の前記コイルの各々に並列コンデンサCPi(i=U,V,W)と同じ値の負荷抵抗RLを接続した時、前記三相交流電源のUV出力、VW出力、WU出力から見た直列コンデンサCSi、二次側の前記コイル、並列コンデンサCPi及び負荷抵抗RL側のインピーダンスが、リアクタンス分を含まずに純抵抗になるように設定されていることを特徴とする非接触給電装置。
【請求項8】
請求項6に記載の非接触給電装置であって、二つの前記直列コンデンサCSi、CSj(i=U,V,W、j=U,V,W、i≠j)及び二本の前記給電線を含む前記三相交流電源のUV間、VW間またはWU間の回路での前記二つの直列コンデンサの合成容量をCSij、一方の給電線の漏れインダクタンスをl1i、他方の給電線の漏れインダクタンスをl1j、一方の給電線とそれを跨ぐコアに巻回された二次コイルとの間の相互インダクタンスをMi、他方の給電線とそれを跨ぐコアに巻回された二次コイルとの間の相互インダクタンスをMj、二次側の各コイルの巻数をn、一方の二次側コイルの漏れインダクタンスをl2i、他方の二次側コイルの漏れインダクタンスをl2jとするとき、
【数2】

からCSijを求め、
【数3】

の連立方程式を解いて、CSi(i=U,V,W)の値が設定されていることを特徴とする非接触給電装置。
【請求項9】
請求項1から8に記載の非接触給電装置であって、二次側の各コイルのU相、V相、W相出力がY結線され、さらに三相整流器で整流されて直流が出力されることを特徴とする非接触給電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−167020(P2011−167020A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29593(P2010−29593)
【出願日】平成22年2月14日(2010.2.14)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)