説明

非接触通信媒体の製造方法及びその製造装置

【課題】接着層の残留応力を低減し、ICチップの補強機能を確保できる非接触通信媒体の製造方法及びその製造装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る非接触通信媒体の製造方法は、基材11上の構造体100A、100Bを隔壁40A、40Bの内部にそれぞれ収容することで周囲と区画し、この状態で隔壁40A、40Bを加熱することで接着剤14A、14Bを熱硬化させる。これにより、基材11の全体が高熱に曝されることはないため、基材11が受ける熱的負荷を最小限に抑えることができる。また、硬化後の接着層の残留応力が軽減され、補強板15A、15BによるICチップ13の補強機能が確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触通信用のアンテナパターンとICチップとを有する非接触通信媒体の製造方法及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非接触ICカードに代表される非接触通信媒体は、鉄道の出改札などの交通系の用途を中心に、プリペイドカード、セキュリティシステム、電子決済など多様な分野で使用されている。この種の非接触ICカードは、非接触通信用のアンテナパターンが形成された樹脂製の基板と、当該基板の上に実装されたICチップとを含むICモジュールを有する。ICモジュールは、一対の外装シートで挟み込まれることで、カード化される。非接触ICカードにおいては、信頼性の観点から、ICチップの実装領域の強度向上が求められている。
【0003】
例えば特許文献1には、基板上のICチップの上に熱硬化性の接着フィルムを介して補強板を接着したICカードが記載されている。このICカードの製造方法は、上記接着フィルムを介してICチップの上面に補強板を貼り合わせる工程と、加熱ツールを用いた補強板の熱圧着により接着フィルムを加熱硬化させる工程とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−272748号公報(段落[0027]〜[0029]、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、熱圧着によって接着フィルムを加熱硬化させる方法では、硬化後における接着層の残留応力が大きいという問題がある。この場合、上記接着層の残留応力の影響によりICチップの強度が低下し、補強板によるICチップの補強効果が減殺されるおそれがある。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、接着層の残留応力を低減し、ICチップの補強機能を確保できる非接触通信媒体の製造方法及びその製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る非接触通信媒体の製造方法は、非接触通信用のアンテナパターンが形成された基材の第1の表面上の第1の領域に、第1の構造体を形成する工程を含む。上記第1の構造体は、上記第1の領域に実装されたICチップと、上記ICチップの上に塗布された未硬化の熱硬化性樹脂からなる第1の接着剤と、上記第1の接着剤の上に載置された第1の板部材とを含む。
上記第1の表面と対向する上記基材の第2の表面上の、上記第1の領域と対向する第2の領域に、第2の構造体が形成される。上記第2の構造体は、上記第2の領域に塗布された未硬化の熱硬化性樹脂からなる第2の接着剤と、上記第2の接着剤の上に載置された第2の板部材とを含む。
上記第1の領域を区画し上記第1の構造体を収容可能な第1の隔壁と、上記第2の領域を区画し上記第2の構造体を収容可能な第2の隔壁とによって、上記第1及び第2の領域が挟持される。
上記第1及び第2の隔壁を加熱することで、上記第1の接着剤と上記第2の接着剤とがそれぞれ熱硬化させられる。
【0008】
上記非接触通信媒体の製造方法は、第1及び第2の構造体を第1及び第2の隔壁の内部にそれぞれ収容することで周囲と区画し、この状態で第1及び第2の隔壁を加熱することで第1及び第2の接着剤を熱硬化させる。上記製造方法においては、基材の第1及び第2の領域を局所的に加熱することで第1及び第2の接着剤を硬化させるため、基材全体が高熱に曝されることはない。これにより、基材が受ける熱的負荷を最小限に抑えることができる。また、上記製造方法によれば、基材全体を加熱する場合と比較して、加熱に必要なエネルギ及び処理時間の低減を図ることができる。さらに、熱圧着方式に比べて、硬化処理時に接着剤に加わる応力が軽減されるため、硬化後の接着層の残留応力も軽減される。これにより、当該残留応力によるICチップへの機械的負荷が軽減され、第1及び第2の板部材によるICチップの補強機能が確保される。
【0009】
上記非接触通信媒体の製造方法は、上記第1の構造体を形成した後、上記第1の隔壁と上記第2の隔壁とによって上記第1及び第2の領域を挟持し、上記第1の隔壁を加熱することで、上記第1の接着剤を予備硬化させる工程をさらに有してもよい。
第1の接着剤の予備硬化処理を追加することにより、本硬化処理時における第1の接着剤の突沸による発泡が抑えられ、適正な熱硬化処理を安定して行うことができる。
【0010】
同様に、上記非接触通信媒体の製造方法は、上記第2の構造体を形成した後、上記第1の隔壁と上記第2の隔壁とによって上記第1及び第2の領域を挟持し、上記第2の隔壁を加熱することで、上記第2の接着剤を予備硬化させる工程をさらに有してもよい。
第2の接着剤の予備硬化処理を追加することにより、本硬化処理時における第2の接着剤の突沸による発泡が抑えられ、適正な熱硬化処理を安定して行うことができる。
【0011】
本発明の一形態に係る非接触通信媒体の製造装置は、第1の処理部と、第2の処理部と、加熱部とを具備する。
上記第1の処理部は、非接触通信用のアンテナパターンが形成された基材の第1の表面上の第1の領域に、第1の構造体を形成する。上記第1の構造体は、上記第1の領域に実装されたICチップと、上記ICチップの上に塗布された未硬化の熱硬化性樹脂からなる第1の接着剤と、上記第1の接着剤の上に載置された第1の板部材とを含む。
上記第2の処理部は、上記第1の表面と対向する上記基材の第2の表面上の、上記第1の領域と対向する第2の領域に、第2の構造体を形成する。上記第2の構造体は、上記第2の領域に塗布された未硬化の熱硬化性樹脂からなる第2の接着剤と、上記第2の接着剤の上に載置された第2の板部材とを含む。
上記加熱部は、金属製の第1の隔壁と、金属製の第2の隔壁と、移動機構と、加熱源とを含む。上記第1の隔壁は、上記第1の表面と接触可能な環状の第1の接触面と、上記第1の領域を区画し上記第1の構造体を収容可能な第1の凹部とを有する。上記第2の隔壁は、上記第2の表面と接触可能な環状の第2の接触面と、上記第2の領域を区画し上記第2の構造体を収容可能な第2の凹部とを有する。上記第2の隔壁は、上記第1の隔壁と対向配置される。上記移動機構は、上記第1及び第2の隔壁を、相互に近接する第1の位置と相互に離間する第2の位置との間にわたって移動させることが可能である。上記加熱源は、上記第1及び第2の隔壁を各々加熱可能である。
【0012】
上記製造装置において、第1の処理部は、基材の第1の領域に対して、ICチップの実装、第1の接着剤の塗布、及び、第1の板部材の載置を順に行うことで、第1の構造体を形成する。第2の処理部は、基材の第2の領域に対して、第2の接着剤の塗布、及び、第2の板部材の載置を順に行うことで、第2の構造体を形成する。加熱部において、移動機構は、第1及び第2の隔壁を第2の位置から第1の位置へ移動させることで、基材の第1及び第2の領域を第1及び第2の隔壁で挟み込む。その結果、第1及び第2の隔壁によって、基材上の第1及び第2の領域は周囲から区画され、第1及び第2の構造体は第1及び第2の凹部内にそれぞれ収容される。加熱源は、第1及び第2の隔壁をそれぞれ加熱することで、第1及び第2の接着剤を熱硬化させる。
【0013】
上記製造装置によれば、基材の第1及び第2の領域を局所的に加熱することで第1及び第2の接着剤を硬化させるため、基材全体が高熱に曝されることはない。これにより、基材が受ける熱的負荷を最小限に抑えることができる。また、上記製造装置によれば、基材全体を加熱する場合と比較して、加熱に必要なエネルギ及び処理時間の低減を図ることができる。さらに、熱圧着方式に比べて、硬化処理時に接着剤に加わる応力が軽減されるため、硬化後の接着層の残留応力も軽減される。これにより、当該残留応力によるICチップへの機械的負荷が軽減され、第1及び第2の板部材によるICチップの補強機能が確保される。
【0014】
上記第1及び第2の隔壁は、セラミックコーティング層をそれぞれ有してもよい。上記セラミックコーティング層は、上記第1及び第2の凹部の内面に形成されており、加熱されることで遠赤外線を放射する。
これにより、第1及び第2の接着剤の加熱効率を高めて、硬化処理の促進を図ることができる。
【0015】
上記製造装置は、巻出しローラと、巻取りローラとを有する搬送部をさらに具備してもよい。上記巻出しローラは、複数の上記アンテナパターンが面付けされた帯状の上記基材を、上記第1の処理部、上記第2の処理部及び加熱部に向けて巻き出す。上記巻取りローラは、上記帯状の巻き取る。
このようなロール・ツー・ロール方式の製造装置を採用することで、非接触通信媒体の生産性の向上を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、基材全体を高熱に曝すことなく板部材の加熱接着が可能となる。また、接着層の残留応力を軽減できるため、板部材によるICチップの補強機能を確保することできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る非接触通信媒体を示す概略断面図である。
【図2】上記非接触通信媒体を構成するICモジュールの概略平面図である。
【図3】上記ICモジュールの要部平面図であり、(A)はICチップの実装前の状態を示し、(B)はICチップの実装後の状態を示し、(C)はICチップの封止後の状態を示す。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る非接触通信媒体の製造方法を説明する概略工程図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る非接触通信媒体の製造装置の要部の概略断面図である。
【図6】上記製造装置の構成の変形例を示す概略断面図である。
【図7】上記製造装置の全体構成を説明する概略図である。
【図8】上記製造装置に用いられる基材の平面図である。
【図9】上記製造装置における加熱部の装置構成を示す要部の側面図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る非接触通信媒体の製造方法を説明する概略工程図である。
【図11】ICチップの応力変化に関する実験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0019】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の一実施形態に係る非接触通信媒体の構成を示す概略断面図である。以下、本実施形態の非接触通信媒体の全体構成について説明する。
【0020】
[非接触通信媒体の構成]
非接触通信媒体1は、例えば、非接触ICカード、非接触ICタグ、非接触ICトークン等として使用される。非接触通信媒体1は、ICモジュール10と、一対の外装シート20A、20Bと、これら一対の外装シート20A、20Bの間にICモジュール10を埋め込む接着材料層30とを備えている。
【0021】
外装シート20A、20Bは、種々のプラスチックシートが用いられ、例えば、ポリイミド、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、プロピレン、セルロースアセテート、セルロースジアセテート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸メチル、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリル酸エチル、ポリエチルメタクリレート、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、またはこれらの混合物を用いることができる。本実施形態では、ポリエチレンテレフタレートシートが用いられる。
【0022】
接着材料層30は、熱硬化性樹脂からなり、本実施形態では、2液性のエポキシ系接着剤を硬化させて形成される。2液性のエポキシ系接着剤は、一般的に、エポキシ基を含有する化合物(主剤)と、アミン類や酸無水物を含有する硬化剤を混ぜ合わせ、硬化反応によって接着する接着剤をいう。エポキシ基を含有する化合物には、ビスフェノールA型、水素添加ビスフェノールA型、ノボラック型、ビスフェノールF型、ブロム化エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルアミン系樹脂、グリシジルエステル系樹脂などがある。一方、アミン類や酸無水物を含有する硬化剤には、脂肪族第1・第2アミン(トリエチレンテトラミン、ジプロピルトリアミン等)、脂肪族第3アミン(トリエタノールアミン、脂肪族第1・第2アミンとエポキシの反応生成物等)、脂肪族ポリアミン(ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン等)、芳香族アミン(メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン等)、アミンアダクト(ポリアミンとエポキシ基との反応生成物等)、芳香族酸無水物(無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等)、ジシアンジアミド及びその誘導体、イミダゾール類等が挙げられる。
【0023】
[ICモジュール]
次に、ICモジュール10の構成について説明する。図2は、ICモジュール10の概略平面図である。
【0024】
ICモジュール10は、絶縁性の基材11と、基材11に形成されたアンテナパターン12と、アンテナパターン12と電気的に接続されたICチップ13と、ICチップ13を補強するための補強板15A、15B(板部材)とを有する。
【0025】
基材11は、種々の絶縁性プラスチックフィルムを用いることができる。具体的には、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂などの中から適宜選択される。
【0026】
アンテナパターン12は、基材11の面内にループ状に巻回されている。アンテナパターン12は、上記プラスチックフィルムとアルミニウム箔、銅箔等の導体箔とのラミネート基材をパターンエッチングして形成される。なお、アンテナパターン12は、基材11上に形成された導電性ペーストの印刷体であってもよい。
【0027】
図3は、基材11の表面11Aに形成されたチップ実装領域(第1の領域)の平面図である。なお、(A)はICチップ13の実装前の状態、(B)はICチップ13の実装後の状態、(C)は補強板15Aの接着後の状態をそれぞれ示している。
【0028】
図3(A)に示すように、基材11のチップ実装領域は、基材11にラミネートされた導体箔11mで被覆されている。理解を容易にするため、図3では導体箔11mをハッチングで示す。アンテナパターン12に接続される2つの端子パターン121、122及びダミー端子パターン123は、導体箔11mをエッチング加工することによって、それぞれ形成される。ダミー端子パターン123は、ICチップ13を基材11に3点で安定に支持するためのもので、ICチップ13に形成されたダミーバンプを支持する。
【0029】
導体箔11mは、図示せずとも、基材11の裏面11Bの、上記チップ実装領域と対向する領域(第2の領域)をも同様に被覆している。導体箔11mは、基材11に対して封止用の接着剤14A、14Bを高い密着性をもって接着させるための密着層として機能する。したがって、基材11及び接着剤14A、14B各々の材料の組み合わせによっては、導体箔11mによる被覆が不要とされる場合がある。
【0030】
図3(B)に示すように、ICチップ13は、上記チップ実装領域に実装される。本実施形態では、2つの端子パターン121、122とダミー端子パターン123とを覆う異方性導電フィルム(ACF)13fを介して、ICチップ13がフリップチップ方式により実装される。異方性導電フィルム13fは、導電性粒子を含有する熱硬化性の樹脂材料で構成されており、加圧方向にのみ導電性を得ることができる機能性材料である。なお、例えばはんだ付けによってICチップ13を実装することも可能である。
【0031】
補強板15A、15Bは、例えばステンレス製の金属板で構成されている。補強板15A、15Bは、接着剤14A、14Bを介してICチップ13の上面及び、基材11の裏面11B側のチップ実装領域にそれぞれ接着される。補強板15A、15Bの大きさは特に限定されないが、図1及び3(C)に示すように、ICチップ13よりも大きな面積で構成されることで、ICチップ13の補強機能を高めることができる。例えば、ICチップ13が一辺2.3mm〜5.5mmの正方形状である場合、補強板15A、15Bとしては、直径4.5mm〜8.0mmの円形の板材を用いることができる。
【0032】
補強板15A、15Bの平面形状も特に限定されず、図示する円形のほか、四角形などの多角形状が採用可能である。補強板15A、15Bの厚みもまた限定されない。補強板15A、15Bの厚みが大きいほどICチップ13の補強機能を高めることができるが、厚みが大きすぎると、外装シート20A、20Bを貼り合わせたときのシート表面の平坦性が損なわれ易くなる。
【0033】
接着剤14A、14Bには、絶縁性の熱硬化性樹脂が用いられている。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、水酸基含有ポリエステル樹脂、水酸基含有アクリル樹脂のような縮合型の熱硬化性樹脂のほかに、単官能および多官能のビニル系モノマーを用いるラジカル重合型、あるいはこれらの混合型など、任意の樹脂を用いることができる。また、リン酸アクリレートのようなリン酸含有樹脂を用いてもよい。さらに、強度向上のため、シリカ微粒子やガラス繊維等のフィラーが混入されてもよい。本実施形態では、接着剤14A、14Bにエポキシ樹脂が用いられる。
【0034】
ICモジュール10は、以上のように構成される。なお図示せずとも、ICモジュール10は、同調用のコンデンサユニットを有してもよい。
【0035】
[ICモジュールの製造方法]
次に、以上のように構成されるICモジュール10の製造方法について説明する。図4は、ICモジュール10の製造方法の一例を示す概略工程図である。
【0036】
最初に、基材11は、その表面11Aを上向きに、裏面11Bを下向きにセットされる。そして、図4(A)に示すように、基材11の表面11Aのチップ実装領域にICチップ13が実装される。ICチップ13の実装には、例えば、一般的なマウンタ(図示略)を用いることができる。その後、図4(B)に示すように、ICチップ13の上に未硬化の第1の接着剤14Aが所定量塗布される。接着剤14Aの塗布には、例えば、一般的なディスペンサノズル(図示略)を用いることができる。その後さらに、図4(C)に示すように、接着剤14Aを押し潰すように補強板15AがICチップ13の上に載置される。このとき、接着剤14Aは補強板15Aの周囲に押し流されてICチップ13の周囲を取り囲む。以上のようにして、基材11の表面11Aに、ICチップ13、接着剤14A及び補強板15Aを含む第1の構造体100Aが形成される。
【0037】
次に、図4(D)に示すように、基材11の表裏が上下に反転され、その表面11Aが下向きに、裏面11Bが上向きにセットされる。そして、基材11の裏面11Bのチップ実装領域に第2の接着剤14Bが所定量塗布される。その後、図4(E)に示すように、接着剤14Bを押し潰すように補強板15Bが載置される。以上のようにして、基材11の裏面12Bに、接着剤14B及び補強板15Bを含む第2の構造体100Bが形成される。
【0038】
続いて、図4(F)に示すように、基材11の表面11A側のチップ実装領域に第1の隔壁40Aが配置されるとともに、基材11の裏面11B側のチップ実装領域に第2の隔壁40Bが配置される。隔壁40A、40Bは、第1の構造体100A及び第2の構造体100Bを収容可能な空間部をそれぞれ有する。これにより、基材11上のチップ実装領域が隔壁40A、40Bによって区画される。この状態で隔壁40A、40Bはそれぞれ所定温度(例えば、100℃以上250℃以下)に加熱され、これにより各構造体100A、100Bの接着剤14A、14Bをそれぞれ熱硬化させる。
【0039】
上記製造方法においては、基材11上のチップ実装領域を局所的に加熱することで接着剤14A、14Bを硬化させるため、基材11の全体が高熱に曝されることはない。これにより、基材11が受ける熱的負荷を最小限に抑えることができる。また、上記製造方法によれば、基材11の全体を加熱する場合と比較して、加熱に必要なエネルギ及び処理時間の低減を図ることができる。さらに、硬化処理時に接着剤14A、14Bに機械的な応力はほとんど加わらないため、硬化後の接着層の残留応力も軽減される。これにより、当該残留応力によるICチップ13への機械的負荷が軽減され、接着剤14A、14BによるICチップの封止機能と、補強板15A、15BによるICチップ13の補強機能が確保される。
【0040】
接着剤14A、14Bに適用される樹脂として、硬化反応率が80%以上、硬度(ショアD(HSD)が80以上、ガラス転移点(Tg)が100℃以上であり、100℃以下で少なくとも一つ以上の発熱ピークが存在するエポキシ系樹脂を用いることができる。このような樹脂を用いることで、130℃以上170℃以下の温度で反応率90%以上の熱硬化処理を20秒以下で実現することが可能である。
【0041】
ICモジュール10の作製後、ICモジュール10を挟み込むように接着材料層30を介して一対の外装シート20A、20Bがそれぞれ貼り合わされる。接着材料層30はその後、熱硬化処理が施され、さらに所定サイズに裁断されることで、図1に示したような非接触通信媒体1が作製される。
【0042】
[ICモジュールの製造装置]
図5は、隔壁40A、40Bの構成を示す概略断面図である。隔壁40Aは、ステンレスや銅、アルミニウム等の金属材料、あるいは、窒化アルミニウム、窒化珪素等のセラミック材料のような熱伝導性を有する材料で構成された本体41と、本体41に形成された凹部42と、凹部42の周囲を囲み、基材11の表面11Aに対して接触可能に平坦な形状で形成された環状の接触面41aとを有する。凹部42は、第1の構造体100Aを収容可能な容積(高さ又は深さ、幅)を有する空間部を形成する。隔壁40Aには加熱源45Aが取り付けられており、加熱源45Aによる加熱作用で発熱する。これにより上記空間部が加熱される。
【0043】
隔壁40Bもまた隔壁40Aと同様な構成を有しており、本体41と、第2の構造体100Bを収容可能な空間部を形成する凹部42と、基材11の裏面11Bと接触可能な接触面41bとを有する。隔壁40Bには加熱源45Bが取り付けられており、加熱源45Bによる加熱作用で発熱し、凹部42内の空間部を加熱する。
【0044】
隔壁40A、40Bの本体41の平面形状は円形であり、凹部42は円筒形状を有する。これにより、凹部42内を均一に加熱することができる。本体41及び凹部42の形状は上記の例に限られない。例えば、凹部42は半球形状であってもよい。また、凹部42の内容積が小さいほど、加熱効率の向上が図れるようになる。
【0045】
凹部42の内面には、加熱されることで遠赤外線を放射するセラミックコーティング層43が形成されている。これにより、接着剤14A、14Bの加熱効率を高めて、硬化処理の促進を図ることができる。セラミックコーティング層43は、例えば、酸化チタンを主成分とするセラミック材料層で構成される。
【0046】
一方、図6は、隔壁40A、40Bの他の構成例を示す概略断面図である。図6に示す隔壁40A、40Bは、基材11との接触面41a、41bを構成する部位に取り付けられた、弾性シート部材44を有する。弾性シート部材44は、耐熱性を有する樹脂材料等で構成され、隔壁40A、40Bと基材11との密着性を高め、隔壁内部の気密性を向上させる。また、隔壁40A、40Bによる基材11の挟持作用によって、チップ実装領域を囲むように環状の圧痕が基材11に発生するおそれがある。弾性シート部材44は、当該圧痕の発生を軽減する効果を有する。
【0047】
図7は、ICモジュール10の製造装置の概略側面図である。図示する製造装置50を用いたICモジュール10の製造においては、図8に示すように、複数のアンテナパターン12が面付けされた帯状の基材110が用いられる。製造装置50は、基材110の表面及び裏面の各々のチップ実装領域Mに対して第1及び第2の構造体100A、100Bを形成する第1及び第2の処理部T1、T2と、第1及び第2の構造体100A、100Bを熱硬化させる加熱部Cとを有する。製造装置50はまた、帯状の基材を連続的に巻き出す巻出しローラ56と、基材110を巻き取る巻取りローラ57とを有する。
【0048】
第1の処理部T1は、基材110の表面のチップ実装領域MにICチップ13を実装する第1のユニット51と、ICチップ13の上に接着剤14Aを塗布する第2のユニット52と、接着剤14Aの上に補強板15Aを載置する第3のユニット53とを有する。第1の処理部T1は、巻出しローラ56から繰り出された基材110の表面に、ICチップ13の実装、接着剤14Aの塗布及び補強板15Aの載置を順に処理して、第1の構造体100Aを形成する。
【0049】
第2の処理部T2は、基材110の裏面のチップ実装領域Mに接着剤14Bを塗布する第4のユニット54と、接着剤14Bの上に補強板15Bを載置する第5のユニット55とを有する。第2の処理部T2は、表裏面が上下に反転された基材110の裏面に、接着剤14Bの塗布及び補強板15Bの載置を順に処理して、第2の構造体100Bを形成する。
【0050】
加熱部Cは、例えば図5を参照して説明した一対の隔壁40A、40Bを用いて構造体100A、100Bを加熱し、接着剤14A、14Bを熱硬化させる。加熱部Cは、隔壁40A、40Bを有する上下一組の加熱装置400A、400Bを複数組備え、隣接する複数のアンテナパターン12上に形成された構造体100A、100Bを一括して熱処理する。
【0051】
図9は加熱装置400A、400Bを示す要部の側面図である。加熱装置400A、400Bは、基材110を上下方向から挟むように隔壁42A、42B及び加熱源45A、45Bを支持する支持体46A、46Bをそれぞれ有する。支持体46A、46Bは、駆動部47A、47Bの駆動により、ガイドレール48A、48Bに沿って上下方向にそれぞれ移動可能に構成される。駆動部47A、47Bは、シリンダ装置、モータ等で構成され、静止系に固定された架台に設置される。
【0052】
上記支持体、駆動部及びガイドレールは、隔壁40A、40Bを、相互に近接する第1の位置と相互に離間する第2の位置との間にわたって移動させることが可能な移動機構を構成する。上記第1の位置では、隔壁40A、40Bは基材110を挟持し、各々の凹部42内に構造体100A、100Bを収容し、チップ実装領域Mを区画する。そして、加熱源45A、45Bにより隔壁40A、40Bをそれぞれ所定温度に所定時間加熱する。
【0053】
巻出し部56は、基材110の移動及び停止を所定周期で交互に繰り返すことで、第1の処理部T1、第2の処理部T2及び加熱部Cにおける所定の処理をそれぞれ実行可能とする。各処理部T1、T2、Cは相互に同期して動作するが、これに限られない。
【0054】
接着剤14A、14Bの硬化処理が完了した後、基材110は巻取りローラ57に順に巻き取られる。所定長さの基材110が巻き取られた後、基材110は図示しない裁断工程へ搬送され、製品サイズに裁断される。以上のようにして、ICモジュール10が製造される。
【0055】
本実施形態によれば、いわゆるロール・ツー・ロール方式でICモジュール10を製造するようにしているので、ICモジュール10の生産効率の向上を図ることができる。また、各処理部において複数のアンテナパターン12に対する各種処理を一括して行うことで、生産効率のさらなる向上を図ることが可能となる。
【0056】
<第2の実施形態>
図10は、本発明の第2の実施形態に係る非接触通信媒体の製造方法を説明する概略工程図である。なお、図において上述の第1の実施形態と対応する部分については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略するものとする。
【0057】
本実施形態のICモジュール10の製造方法は、接着剤14Aを予備硬化させる第1の予備加熱処理と、接着剤14Bを予備硬化させる第2の予備加熱処理とを有する。
【0058】
第1の予備加熱処理においては、図10(A)〜(D)に示すように、基材11の表面11Aに第1の構造体100Aが形成された後、基材11が一対の隔壁40A、40Bで挟持されて、第1の構造体100Aは隔壁40A内に収容される。この状態で、隔壁40Aは所定の予備加熱温度(例えば、100℃以上200℃以下)に加熱され、その結果、接着剤14Aは予備硬化する。
【0059】
同様に、第2の予備加熱処理においては、図10(E)〜(G)に示すように、基材11の裏面11Bに第2の構造体100Bが形成された後、基材11が一対の隔壁40A、40Bで挟持されて、第2の構造体100Bが隔壁40B内に収容される。この状態で、隔壁40Bは所定の予備加熱温度(例えば、100℃以上200℃以下)に加熱され、その結果、接着剤14Bは予備硬化する。続いて図10(H)に示すように、隔壁40A、40Bが所定の加熱温度(例えば、100℃以上250℃以下)に昇温されることで、接着剤14A、14Bを本硬化させる。
【0060】
接着剤14A、14Bの予備硬化率は特に限定されず、例えば50%である。接着剤14A、14Bの予備硬化のための処理時間も特に限定されず、接着剤の種類等に応じて適宜設定される。
【0061】
本実施形態においても、上述の第1の実施形態と同様な作用効果を得ることができる。特に本実施形態によれば、接着剤14A、14Bの予備硬化処理を追加することにより、接着剤14A、14Bの本硬化時の突沸による発泡を防止でき、接着剤14A、14Bの硬化処理を安定して実施することが可能となる。また、予備硬化処理を追加することで、接着材14A、14Bの急激な硬化反応を抑制でき、残留応力の軽減効果を高めることができる。
【0062】
本発明者らは、ICチップの封止方法(補強板15Aの接着方法)が異なる複数の構造体サンプル1、2及び3を作製し、各々のサンプルについてICチップの実装前後におけるICチップの応力変化を比較した。ICチップの応力の測定は、日立超LSIシステムズ社製の応力測定用IC「TEGチップ(JTEG PHASE5GB)」を用い、応力によるピエゾ素子の形状変化を抵抗値の変化として測定し、これを応力に換算した。そして、実装前後における応力変化量を、ICチップの残留応力の大きさとみなした。
【0063】
サンプル1は、上述の第2の実施形態で説明したように、隔壁40A、40Bを用いて接着剤14Aを加熱硬化させたものに相当する。サンプル2は、エポキシ樹脂製の接着フィルムを介して補強板を測定用チップに熱圧着して作製したものに相当する(特開2007−272748号公報参照)。サンプル3は、接着剤に紫外線硬化樹脂を用いて作製し、基材全体を加熱炉へ装填して作製したものに相当する(特許第4215886号公報参照)。
【0064】
実験の結果を図11に示す。測定用ICのセンタ部とコーナ部の各々について応力変化量を測定した。図11に示すように、サンプル1〜3のうち、熱圧着方式により補強板を作製したサンプル2が最も残留応力が高い。これは、接着フィルムの硬化時に作用する加圧力、接着フィルムの硬化収縮、ICチップと補強板の熱膨張差などが残留応力の主要因と考えられる。一方、サンプル1とサンプル3については、サンプル2に比べて残留応力が大幅に緩和されたことが確認された。
【0065】
以上、本発明の実施形態について説明したが、勿論、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0066】
例えば以上の実施形態では、ICモジュール10が外装シート20A、20Bに接着材料層30を介して接合された非接触通信媒体を例に挙げて説明したが、ICモジュールの内蔵形態は上述の例に限られない。
【0067】
また、以上の実施形態では、非接触通信媒体の製造装置50(図7)として、ICモジュール10の製造装置を例に挙げて説明したが、これに外装シート20A、20Bの接合工程が追加されてもよい。この場合、巻取りローラ57は、ICモジュール10と外装シート20A、20Bとの積層シートを巻き取るように構成されてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1…非接触通信媒体
10…ICモジュール
11…基材
14A、14B…接着剤
15A、15B…補強板
20A、20B…外装シート
30…接着材料層
40A、40B…隔壁
41a、41b…接触面
42…凹部
43…セラミックコーティング層
45A、45B…加熱源
50…製造装置
100A、100B…構造体
C…加熱部
M…チップ実装領域
T1…第1の処理部
T2…第2の処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非接触通信用のアンテナパターンが形成された基材の第1の表面上の第1の領域に、前記第1の領域に実装されたICチップと、前記ICチップの上に塗布された未硬化の熱硬化性樹脂からなる第1の接着剤と、前記第1の接着剤の上に載置された第1の板部材とを含む第1の構造体を形成し、
前記第1の表面と対向する前記基材の第2の表面上の、前記第1の領域に対向する第2の領域に、前記第2の領域に塗布された未硬化の熱硬化性樹脂からなる第2の接着剤と、前記第2の接着剤の上に載置された第2の板部材とを含む第2の構造体を形成し、
前記第1の領域を区画し前記第1の構造体を収容可能な第1の隔壁と、前記第2の領域を区画し前記第2の構造体を収容可能な第2の隔壁とによって、前記第1及び第2の領域を挟持し、
前記第1及び第2の隔壁を加熱することで、前記第1の接着剤と前記第2の接着剤とをそれぞれ熱硬化させる
非接触通信媒体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の非接触通信媒体の製造方法であって、さらに、
前記第1の構造体を形成した後、前記第1の隔壁と前記第2の隔壁とによって前記第1及び第2の領域を挟持し、
前記第1の隔壁を加熱することで、前記第1の接着剤を予備硬化させる
非接触通信媒体の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の非接触通信媒体の製造方法であって、さらに、
前記第2の構造体を形成した後、前記第1の隔壁と前記第2の隔壁とによって前記第1及び第2の領域を挟持し、
前記第2の隔壁を加熱することで、前記第2の接着剤を予備硬化させる
非接触通信媒体の製造方法。
【請求項4】
非接触通信用のアンテナパターンが形成された基材の第1の表面上の第1の領域に、前記第1の領域に実装されたICチップと、前記ICチップの上に塗布された未硬化の熱硬化性樹脂からなる第1の接着剤と、前記第1の接着剤の上に載置された第1の板部材とを含む第1の構造体を形成する第1の処理部と、
前記第1の表面と対向する前記基材の第2の表面上の、前記第1の領域に対向する第2の領域に、前記第2の領域に塗布された未硬化の熱硬化性樹脂からなる第2の接着剤と、前記第2の接着剤の上に載置された第2の板部材とを含む第2の構造体を形成する第2の処理部と、
前記第1の表面と接触可能な環状の第1の接触面と、前記第1の領域を区画し前記第1の構造体を収容可能な第1の凹部とを有する金属製の第1の隔壁と、
前記第2の表面と接触可能な環状の第2の接触面と、前記第2の領域を区画し前記第2の構造体を収容可能な第2の凹部とを有する、前記第1の隔壁と対向配置された金属製の第2の隔壁と、
前記第1及び第2の隔壁を、相互に近接する第1の位置と相互に離間する第2の位置との間にわたって移動させることが可能な移動機構と、
前記第1及び第2の隔壁を各々加熱可能な加熱源と
を含む加熱部と
を具備する非接触通信媒体の製造装置。
【請求項5】
請求項4に記載の非接触通信媒体の製造装置であって、
前記第1及び第2の隔壁は、前記第1及び第2の凹部の内面に形成された、加熱されることで遠赤外線を放射するセラミックコーティング層をそれぞれ有する
非接触通信媒体の製造装置。
【請求項6】
請求項4に記載の非接触通信媒体の製造装置であって、
複数の前記アンテナパターンが面付けされた帯状の前記基材を、前記第1の処理部、前記第2の処理部及び前記加熱部に向けて巻き出す巻出しローラと、前記帯状の基材を巻き取る巻取りローラとを有する搬送部をさらに具備する
非接触通信媒体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−133997(P2011−133997A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291217(P2009−291217)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】