説明

非接触電力伝送システム

【課題】 送電対象の受電装置の数、受電アンテナの形状、受電装置の二次電池の仕様が変化した場合においても、最も送電効率がよくなるようにインピーダンス整合回路を調整して送電することができる非接触電力伝送システムを提供すること。
【解決手段】 送電装置1は、送電アンテナ5と、第1の整合部4を有し、受電装置2は、受電アンテナ8と、第2の整合部9とを有し、受電装置2と送電装置1との間の通信機能を備え、受電装置2は識別情報13を有する。送電装置1は、識別情報13を受電装置から取得し、インピーダンス整合するための第1の整合部4、第2の整合部9が取るべき整合条件を保持した設定テーブル21を不揮発性メモリ14に記憶し、識別情報13に対応した整合条件を読み出し、第1の整合部4を前記整合条件を満たすように調整し、前記整合条件を受電装置2に通知し、受電装置2は、第2の整合部9を前記整合条件を満たすように調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は充電器などの送電装置と携帯電子機器などの受電装置間で電力を非接触で伝送する非接触電力伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、電気剃刀、デジタルカメラ等の携帯可能な電子機器は、携帯中に使用することができるように一般的に二次電池を搭載している。
【0003】
二次電池の充電は、外部の送電装置から電力を供給することにより行うが、その方法として送電装置および電子機器双方の接触端子を介して送電する接触送電方式と送電装置および電子機器が接点を持たずに非接触で送電する非接触送電方式が知られている。電力を受電する電子機器のことを以降は受電装置という。
【0004】
非接触送電方式は、送電装置に送電アンテナを、受電装置に受電アンテナをそれぞれ搭載し、両者のアンテナ間の電磁結合や電磁共鳴等を利用して電力を伝送する方式である。この非接触送電方式は、送電のための外部端子を備える必要がないことから、防水性および防塵性に優れる。そのため非接触送電方式を採用した製品が近年数多く提供されつつある。
【0005】
この非接触送電方式により送電を行う場合、送電装置に搭載する送電アンテナと受電装置に搭載する受電アンテナとが、送電可能な範囲内にあること、すなわち、互いにある程度接近した特定の位置関係を保つ必要がある。
【0006】
一方、この非接触送電方式は、送電装置と受電装置が互いに接点をもたないということが最大の特徴のひとつであるため、受電装置は送電装置に対してある程度自由に配置することができるという利点がある。
【0007】
そのため、非接触送電方式を採用する製品は、送電装置に搭載する送電アンテナと受電装置に搭載する受電アンテナの位置関係が変化した場合においても、送電装置から受電装置に対して一定の電力を送電できることが望ましい。
【0008】
しかし、一般的に送電アンテナと受電アンテナの位置関係が変化した場合、送電アンテナを含む送電回路と受電アンテナを含む受電回路との間の伝送路において、送電側のインピーダンスおよび受電側のインピーダンスが共にずれるため、送電回路および受電回路の整合状態がそれぞれ変化し、送電装置から受電装置に対して十分な電力を送電することができなくなるということが知られている。
【0009】
そのため効率よく一定の電力を送電するために、送電アンテナと受電アンテナの位置関係が変化した場合、送電側のインピーダンスおよび受電側のインピーダンスを再び整合し直す必要がある。
【0010】
インピーダンスを整合させるために高周波回路においては一般的にコイルとコンデンサを組み合わせた整合回路を用いることが多い。その整合回路を用いてインピーダンスを整合させることにより、送電装置から受電装置に対して効率よく電力を供給することができるようになる。
【0011】
非接触電力伝送システムにおけるインピーダンスの整合方法として、送電装置が送電した電力の反射電力を基に整合回路を調整する技術が知られている。この技術は、送電アンテナから送電した電力の反射電力を測定し、反射電力が小さい場合には送電アンテナから受電アンテナに対して効率よく電力が送電できていると判断し、また反射電力が大きい場合には効率よく電力が送電できていないと判断することにより、その反射電力の測定結果を基に整合回路を調整し、反射電力が最小となるように調整して整合させるというものである。この従来技術の一例が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2010−130800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら特許文献1に示されたインピーダンスの整合方法は、一度送電装置から受電装置に対して送電を行った後、送電装置が送電電力の反射電力を計測し、その反射電力から整合回路を最適値に調整するというものであるため、整合回路を調整するための送電が必要となり、また、整合回路を調整するのに時間がかかるという問題がある。
【0014】
また、正常に送電を行うことができる本来想定した受電装置以外の受電装置、あるいは金属等の異物が送電装置の周囲にある場合、反射が大きくなるので、送電した後、送電電力の反射電力を計測したとき、送電装置は一般的にその状態を整合状態がずれているため送電電力の反射電力が大きいと認識する。この場合、送電装置はその反射電力を基にして、ある一定の電力が送電できるように整合回路を調整して送電を継続するため、意図しない受電装置および異物に対して意味の無い送電を継続してしまうという問題がある。
【0015】
また、非接触送電方式の特徴のひとつは、送電装置1台から複数台の受電装置に送電することができること、すなわち複数台送電が可能であることである。すなわち、1台の送電装置に近接して複数台の受電装置を置くことで、同時にあるいは時分割的に送電を行うことができることである。この複数台送電の際に、複数の受電装置は、それぞれ受電アンテナの形状および接続する二次電池の仕様等が異なる場合がある。
【0016】
複数台送電を行う場合、送電装置は送電対象の受電装置の台数、受電アンテナの形状および接続する二次電池の仕様等を認識した上でその条件に適した状態に整合回路を整合させる必要がある。しかしながら特許文献1に示される送電方法では、このような複数台送電時において整合回路を調整して整合させることができないという問題がある。
【0017】
非接触電力伝送システムにおける複数台送電の具体的な用途としては、例えば、1台の送電装置に対して3台の受電装置の二次電池を時分割的に充電する場合を考えることができる。ここで3台の受電装置としては、1台は携帯電話、1台は電気剃刀、1台はデジタルカメラなどの場合がある。このときは3台の受電装置にはそれぞれ異なる電圧および異なる容量の二次電池が搭載されており、また3台の受電装置に搭載する受電アンテナの形状は異なる。
【0018】
複数台送電を行う場合、受電装置に搭載する二次電池および受電アンテナ形状等の組み合わせにより、送電装置から見た受電装置のインピーダンスは1台のみ送電する場合と比べて変化する。インピーダンスが変化すると送電効率の低下や、あるいは送電ができないといった問題が生ずる。また、同じ受電装置の台数であっても、異なる種類の受電装置の場合、例えばデジタルカメラの代わりに、非接触送電方式に対応する電気歯ブラシを送電装置の上に載せた場合、やはり送電装置から見た受電装置のインピーダンスが変化する。送電する受電装置の台数が3台から2台、あるいは3台から4台等と変化する場合も同様に送電装置から見た受電装置のインピーダンスが変化する。これら全ての組み合わせにおいて、送電装置の上に載せた複数の受電装置に対してある一定の電力を時分割的に供給できることが必要である。
【0019】
従って本発明の課題は、送電対象の受電装置の数、受電アンテナの形状、受電装置の二次電池の仕様が変化した場合においても、送電装置および受電装置のそれぞれにおいて、最も送電効率がよくなるようにインピーダンス整合回路を調整して送電することができる非接触電力伝送システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するため、本発明の非接触電力伝送システムは、高周波信号を発生する発振部と、前記発振部から高周波信号の供給を受けて電磁場を発生させ電力を送電する送電アンテナと、前記発振部と前記送電アンテナとの間に接続された第1の整合部と、前記送電アンテナから送電する電力を制御する制御部とを有する送電装置と、前記送電装置に近接して配置された時に前記送電アンテナと電磁的に結合して電力を受電する受電アンテナと、前記受電アンテナから受電した電力から直流電力を生成する電力生成部と、前記受電アンテナに接続された第2の整合部とを有する少なくとも1つの受電装置とを具備する非接触電力伝送システムであって、前記受電装置と前記送電装置との間の通信機能を備え、前記受電装置は識別情報を有し、前記送電装置は、前記識別情報を前記受電装置から取得して、前記送電アンテナと前記発振部とがインピーダンス整合するための前記第1の整合部が取るべき第1の整合条件、および前記受電アンテナと前記電力生成部とがインピーダンス整合するための前記第2の整合部が取るべき第2の整合条件を前記識別情報から生成し、前記第1の整合部を前記第1の整合条件を満たすように調整し、前記第2の整合条件を前記受電装置に通知し、前記受電装置は、前記第2の整合部を前記第2の整合条件を満たすように調整することを特徴とする。
【0021】
ここで、前記第1の整合部および前記第2の整合部をそれぞれ前記第1の整合条件および前記第2の整合条件を満たすように調整した後、前記送電装置より前記受電装置に対して送電を開始することが望ましい。
【0022】
また、前記受電装置は前記送電装置から送電された電力の受電電力により前記識別情報を前記送電装置に通知する機能を備えてもよい。
【0023】
また、前記送電装置は前記識別情報に対応した前記第1の整合条件および前記第2の整合条件を記憶した不揮発性メモリを備え、前記不揮発性メモリから前記第1の整合条件および前記第2の整合条件を読み出すことにより前記第1の整合条件および前記第2の整合条件を生成してもよい。
【0024】
また、前記受電装置は前記送電装置から送電された電力の受電電力を計測する機能と前記受電電力を前記送電装置に通知する機能とを備え、前記送電装置は前記受電電力に基づいて前記第1の整合条件と前記第2の整合条件を新たに生成する機能を備えてもよい。
【0025】
また、前記送電装置は前記識別情報に対応した前記第1の整合条件および前記第2の整合条件を記憶した不揮発性メモリを備え、前記の新たに生成された前記第1の整合条件および前記第2の整合条件を前記不揮発性メモリに記録する機能を備えてもよい。
【0026】
また、前記送電装置は、送電開始後に、前記第1の整合条件および前記第2の整合条件の生成を新たに行うか否かを判断する機能と、前記の新たに生成された前記第1の整合条件を満たすように前記第1の整合部を調整する機能、および前記の新たに生成された前記第2の整合条件を前記受電装置に通知して、前記受電装置に前記第2の整合部を前記の新たに生成された前記第2の整合条件を満たすように調整させる機能とを備えてもよい。
【0027】
また、複数の前記受電装置が前記送電装置に近接配置された時に、前記送電装置は前記の近接配置された複数の前記受電装置から前記識別情報を取得する機能を備えることが望ましい。
【0028】
また、前記送電装置は、複数の前記受電装置の組み合わせに対応した前記第1の整合条件および前記第2の整合条件を記憶した不揮発性メモリを備え、前記送電装置に近接配置された複数の前記受電装置の組み合わせに応じて前記不揮発性メモリから前記第1の整合条件および前記第2の整合条件を読み出すことにより前記第1の整合条件および前記第2の整合条件を生成してもよい。
【0029】
また、前記送電装置は、前記送電装置に近接配置された複数の前記受電装置の中で送電対象である特定の受電装置に対してのみ送電を行う機能を備え、かつ、前記送電装置は、送電対象でない受電装置に対して、前記第2の整合条件を通知して前記受電装置に前記第2の整合部を前記第2の整合条件を満たすように調整させるか否かを選択してもよい。
【発明の効果】
【0030】
上記のように、本発明の非接触電力伝送システムでは、送電装置が受電装置から識別情報を取得することにより、受電アンテナの形状および二次電池の仕様等に対応したインピーダンス整合のための整合回路の条件が把握でき、整合回路の調整が容易になる。また、その条件を受電装置に通知することにより受電装置側でも整合回路の調整が可能となる。さらに、それらの整合条件を不揮発性メモリに記憶しておいた場合、識別情報に対応した整合回路の条件を読み出すことにより得ることができる。さらには、複数の異なる受電装置が配置された場合でも、それらを組み合わせた場合の整合条件を不揮発性メモリに記憶しておくことにより、その組み合わせに対応した整合回路の条件が引き出せるなどの効果が得られる。
【0031】
以上のように、本発明によれば、送電対象の受電装置の数、受電アンテナの形状、受電装置の二次電池の仕様が変化した場合においても、送電装置および受電装置のそれぞれにおいて、最も送電効率がよくなるようにインピーダンス整合回路を調整して送電することができる非接触電力伝送システムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明による非接触電力伝送システムの一つの実施の形態の構成を説明するためのブロック図。
【図2】本発明による非接触電力伝送システムの送電装置の第1の整合部の構成の一例を説明するための簡略化した回路図。
【図3】本発明による非接触電力伝送システムの受電装置の第2の整合部の構成の一例を説明するための簡略化した回路図。
【図4】本発明による非接触電力伝送システムにおける第1の整合部および第2の整合部の調整方法の一例を説明するための図。
【図5】一般的な非接触電力伝送システムの送電装置における整合回路およびアンテナのインピーダンスを説明するスミスチャート図。
【図6】本発明の非接触電力伝送システムの送電装置の不揮発性メモリに備える整合条件を保持した設定テーブルの構成の一例を説明する図。
【図7】本発明による非接触電力伝送システムの動作フローの一例を説明するフローチャート図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について図面に基づいて詳細に説明する。
【0034】
図1は、本発明による非接触電力伝送システムの一つの実施の形態の構成を説明するためのブロック図である。図1において、本実施の形態の非接触電力伝送システムは送電装置1と受電装置2を具備している。
【0035】
送電装置1は、高周波信号を発生する発振部3と、発振部3から高周波信号の供給を受けて電磁場を発生させ電力を送電する送電アンテナ5と、発振部3と送電アンテナ5との間に接続された第1の整合部4と、送電アンテナ5から送電する電力を制御する制御部6とを有している。また受電装置2は、送電装置1に近接して配置された時に送電アンテナ5と電磁的に結合して電力を受電する受電アンテナ8と、受電アンテナ8から受電した電力から直流電力を生成する電力生成部10と、受電アンテナ8に接続された第2の整合部9とを有している。また、送電装置1が通信アンテナ7を、受電装置2が通信アンテナ11をそれぞれ有することにより受電装置2と送電装置1との間の通信機能を備え、受電装置は識別情報13を有している。なお、本実施の形態においては、受電装置2には第2の整合部9や通信機能を制御するための受電制御部12を有している。
【0036】
ここで、送電装置1は、識別情報13を通信アンテナ11および通信アンテナ7を介した通信手段により受電装置から取得する。送電装置1は不揮発性メモリ14を備え、送電アンテナ5と発振部3とがインピーダンス整合するための第1の整合部4が取るべき条件、すなわち第1の整合条件、および受電アンテナ8と電力生成部10とがインピーダンス整合するための前記第2の整合部9が取るべき条件、すなわち第2の整合条件を保持した設定テーブル21を不揮発性メモリ14の中に記憶している。送電装置1は、この設定テーブル21の中から受電装置2の識別情報13に対応した前記第1の整合条件および前記第2の整合条件を読み出すことにより前記第1の整合条件および前記第2の整合条件を生成する。
【0037】
送電装置1は、次に、第1の整合部4を第1の整合条件を満たすように調整し、第2の整合条件を受電装置2に通知し、受電装置2は、第2の整合部9を第2の整合条件を満たすように調整する。
【0038】
また、送電装置1は、複数の受電装置が送電装置1に近接配置された時に、その近接配置された複数の受電装置のすべてから識別情報を取得する機能を備え、近接配置される可能性のある複数の受電装置の組み合わせに対応して、第1の整合部4の第1の整合条件およびそれぞれの受電装置の第2の整合部9の第2の整合条件を不揮発性メモリ14の設定テーブル21に保持している。そして、送電装置1に近接配置された複数の受電装置の組み合わせに応じて、不揮発性メモリ14から第1の整合条件およびそれぞれの受電装置の第2の整合条件を読み出すことにより第1の整合条件および第2の整合条件を生成する。
【0039】
図2は、本発明による非接触電力伝送システムの送電装置の第1の整合部の構成の一例を説明するための簡略化した回路図である。図2において、第1の整合部4は、送電アンテナ5に対して直列にコンデンサ31を備え、また並列にコンデンサ32を備える。コンデンサ31は、その容量を可変できるように構成する。コンデンサ31の構成の一例として、複数のコンデンサを並列に接続し各コンデンサを半導体スイッチによりオンオフ制御できるような構成とする方法がある。
【0040】
図3は、本発明による非接触電力伝送システムの受電装置の第2の整合部の構成の一例を説明するための簡略化した回路図である。図3は2つの異なる受電装置2aおよび受電装置2bのそれぞれの簡略化した回路を示している。受電装置2aおよび受電装置2bにおいては、それぞれの受電アンテナ8aおよび8bは、それぞれ互いに電磁的に結合した2つのコイルアンテナまたはループアンテナから構成されている。その一方が電力生成部10aまたは10bに接続され、他方が第2の整合部9aまたは9bに接続されている。第2の整合部は、受電アンテナ8aおよび8bの一方のコイルアンテナまたはループアンテナに対してそれぞれ直列に挿入されたコンデンサ41aおよび41bを備えている。コンデンサ41aおよび41bは、それぞれその容量を可変できるように構成する。その構成の一例としては、複数のコンデンサを並列に接続し各コンデンサを半導体スイッチによりオンオフ制御できるような構成とする方法がある。
【0041】
図4は、本発明による非接触電力伝送システムにおける第1の整合部および第2の整合部の調整方法の一例を説明するための図である。図4においては図2に示した送電装置1と図3に示したような構成の受電装置2a、2bとの間の調整方法を示している。送電装置1から出力する電力に対して受電装置2aが受電する電力の比率を送電効率として、第1の整合部4のコンデンサ31の容量C1を調整した場合の送電効率の変化を、第2の整合部9aのコンデンサ41aの容量C2aをパラメータとして示している。第1の整合部4のコンデンサ31の容量C1の値に対して送電効率が最大となる点がある。その送電効率の最大値は、さらに第2の整合部9aのコンデンサ41aの容量C2aの値を調整した場合にも変化する。そこで、両者の調整によって最も送電効率が高くなる点が送受電に適した整合条件となる。すなわち、そのときの第1の整合部4のコンデンサ31の容量C1の値C10および第2の整合部9aのコンデンサ41aの容量C2aの値C20が整合条件である。
【0042】
図5は、一般的な非接触電力伝送システムの送電装置における整合回路およびアンテナのインピーダンスを説明するスミスチャート図である。図5において、送電装置の整合回路および受電装置の整合回路は、送電装置1台に対して受電装置が1台近接配置されたときに送電側および受電側のインピーダンスが共に50Ωの状態61となるよう設定する。この状態61において送電装置から受電装置に最も効率よく電力を送電することができる。しかし、送電装置1台に対して受電装置を複数台近接配置した場合、または受電アンテナ形状などが異なる受電装置を近接配置した場合、送電アンテナに電磁結合する受電アンテナの数や形状が変わるため、および受電装置同士の相互の影響によりインピーダンスが変化し、スミスチャート上で状態62または状態63のように移動し、状態61からずれてしまう。この結果、送電装置から出力する電力を受電装置が受電できない状態、または効率よく受電できない状態となる。このため、配置された受電装置の形態やその台数に応じて最適な整合条件が異なることとなる。
【0043】
図6は、本発明の非接触電力伝送システムの送電装置の不揮発性メモリに備える整合条件を保持した設定テーブルの構成の一例を説明する図である。設定テーブル21は、送電装置1台から受電装置1台のみに送電する場合と、送電装置1台から複数の受電装置に送電する場合の両方に対応している。設定テーブル21には、送電対象となる受電装置である機器aの識別情報22と、送電対象でない受電装置である機器bの識別情報23と、当該識別情報を備える受電装置に対して送電する際の第1の整合部4および第2の整合部9の整合条件24とを備えている。なお、設定テーブル21においては、識別情報として0001を有するものが最初の受電対象となる機器a、識別情報として0010を有するものが最初の受電対象でない機器bであり、他の受電装置の識別情報は0020、0030としている。また、以下では、機器aは図3の受電装置2aと、機器bは図3の受電装置2bとそれぞれ同様な構成であるものとする。
【0044】
整合条件24は、第1の整合部における容量C1の初期値25およびその調整範囲26、機器aの第2の整合部における容量C2aの初期値27およびその調整範囲28、機器bの第2の整合部における容量C2bの初期値29およびその調整範囲30を規定している。整合条件24の欄の数値がそれぞれの容量の値である。この設定テーブルに他の受電装置を配置した場合の整合条件を追加することにより、送電装置1台に対して受電装置3台以上を配置した複数台送電に対応することも可能である。
【0045】
図7は、本発明による非接触電力伝送システムの動作フローの一例を説明するフローチャート図であり、送電装置が受電装置に送電を行う際の処理方法を示している。図7に従って、以下に処理方法の一例について説明する。
【0046】
手順S701に示すように、はじめに送電装置から受電装置に対して識別情報の通知を要求する。ここで識別情報とは、受電装置を識別するための情報であって、受電装置固有の番号、または受電装置の受電アンテナ形状等の仕様を示す情報であってもよい。受電装置は受電装置自身で電源をもたなくとも、送電装置が発生する通信の搬送波から識別情報を通知する電力を生成することができるようにしてもよい。
【0047】
続いて、手順S702に示すように、送電装置は複数の受電装置から識別情報を取得するために衝突防止処理を行う。すなわち、複数の受電装置からの識別情報が重ならないようにするための処理である。衝突防止処理は、非接触ICカード等の関連技術として知られており、その方式はタイムスロット方式、ビットコリジョン方式およびスロットマーカ方式等がある。
【0048】
続いて、手順S703に示すように、送電装置は通信領域内に存在する単一または複数の受電装置から識別情報を取得する。ここでは、2台の受電装置から識別情報を取得した場合を説明する。なお、送電装置は受電装置から取得した識別情報が送電対象の受電装置かどうかを判断して送電対象の受電装置である場合にのみ以降の処理を実施する。
【0049】
続いて、手順S704に示すように、送電装置は不揮発性メモリの設定テーブルから当該識別情報を検索し、手順S705に示すように当該識別情報の整合条件を読み出す。なお、送電対象となる可能性のある受電装置の識別情報および整合条件は、送電前に予め設定テーブルに書き込んでおく。なお、設定テーブルに受電装置の識別情報が記憶されていない場合、任意の整合条件を使用して以降の処理を行う。
【0050】
続いて、手順S706に示すように、送電装置は送電対象の受電装置を選択する。ここで受電装置が複数存在する場合、送電対象の受電装置を選択する方法として最も送電を必要としている受電装置、または任意の受電装置を選択してもよい。なお送電装置は選択の結果を受電装置に対して通知し、受電装置は自らが受電するかしないかを選択してもよい。
【0051】
続いて、手順S707に示すように、送電装置は設定テーブルから読み出した整合条件に応じて第1の整合部を整合条件に合わせる。具体的には図2に示す容量C1の値を変化させることで送信側のインピーダンスを図5に示す50Ωの状態61に合わせる。続いて、手順S708に示すように、送電装置は送電対象の受電装置に対して第2の整合部の整合条件を通知する。送電対象の受電装置は送電装置から受信した整合条件を基に第2の整合部を整合条件に合わせる。具体的には図3に示す容量C2aの値を変化させることで受電側のインピーダンスを図5に示す50Ωの状態61とする。さらに、手順S709に示すように、送電装置は送電対象でない受電装置に対して第2の整合部の整合条件を通知する。送電対象でない受電装置は送電装置から受信した整合条件に第2の整合部を合わせる。具体的には図3に示す容量C2bの値を変化させることで受電側のインピーダンスを図5に示す50Ωの状態61からはずれるように変化させる。
【0052】
続いて、手順S710に示すように、送電装置は送電対象の受電装置に対して送電を行う。続いて、手順S711に示すように、一定時間の間送電を継続する。一定時間経過後、送電装置は手順S712に示すように受電装置の受電電力をチェックして整合条件を更新するかどうかを判断する。この判断を行うか否かについては、予め送電装置に設定しておく方法、任意のタイミングで図示しない上位装置から指示を受けて行う方法などがある。
【0053】
手順S712で受電装置の受電電力をチェックして整合条件を更新しないと判断した場合、手順S713に示すように送電装置は送電を終了するかどうかを判断する。この判断を行うタイミングについては、受電装置から送電終了を要求する信号を受信してから判断してもよいし、任意のタイミングで図示しない上位装置から指示を受けて判断してもよい。送電を終了しないと判断した場合、手順S710から処理を再開する。
【0054】
手順S712で受電装置の受電電力をチェックして整合条件を更新すると判断した場合、手順S715に示すように送電装置は第1の整合部を調整する。ここで調整とは、図6の設定テーブル21の整合条件24の調整範囲26に示された範囲内のひとつの値に容量C1の値を設定することをいう。続いて手順S716に示すように送電装置は送電対象の受電装置に対して送電を行うと共に、手順S717に示すように受電装置から受電電力を取得する。続いて手順S718に示すように、送電装置は設定テーブル21の整合条件24に記憶している調整範囲26の中で全ての値を設定したかどうかを判断し、設定していない場合は手順S715から処理を再開する。全ての値を設定した場合、手順S719に示すように送電装置は調整範囲の中で最も受電装置の受電電力が大きい値に第1の整合部の容量C1の値を合わせる。ここで設定テーブル21の整合条件24の調整範囲26の中の全ての値を設定して受電電力を測定すると、図4に示すようにある設定値において送電効率が大きくなることが期待できる。
【0055】
続いて手順S720に示すように送電装置は第2の整合部を調整するための整合条件を受電装置に対して通知して第2の整合部を調整する。ここで調整とは、設定テーブル21の整合条件24の調整範囲28に示された範囲内のひとつの値に容量C2aの値を設定することをいう。続いて手順S721に示すように、送電装置は送電対象の受電装置に対して送電を行うと共に、手順S722に示すように受電装置から受電電力を取得する。続いて手順S723に示すように送電装置は設定テーブル21の整合条件24の調整範囲28の中の全ての値を設定したかどうかを判断し、設定していない場合は手順S720から処理を再開する。全ての値を設定した場合、手順S724に示すように送電装置は調整範囲28の中で最も受電装置の受電電力が大きい値に第2の整合部の容量C2aの値を合わせる。ここで設定テーブル21の整合条件24の調整範囲28の中の全ての値を設定して受電電力を測定すると、図4に示すようにある設定値において送電効率が大きくなることが期待できる。
【0056】
最後に手順S714に示すように送電装置は設定テーブル21における当該識別情報の整合条件24を更新する。ここで整合条件を更新することにより、次に同一の識別情報を備える受電装置に対して送電を行う際に、時間をかけずに送電側および受電側のインピーダンスを整合させることができる。
【0057】
以上の各手順を行うことにより、送電対象の受電装置の数、受電アンテナの形状等の送電条件が変化した場合においても、送電装置および受電装置それぞれのインピーダンスを最も送電効率がよくなるように整合させて送電することができる。
【0058】
なお、本発明は上記の実施の形態や本発明の非接触電力伝送システムの動作方法の例として記載した内容に限定されるものではないことはいうまでもなく、目的や用途に応じて設計変更が可能である。例えば、不揮発性メモリを用いないで受電装置の識別情報に直接的に対応して第1の整合部や第2の整合部のコンデンサなどの値が定まるように制御すること、コンデンサの容量以外に、インダクタンスや抵抗値、またはそれらの組み合わせ、または他の部品のインピーダンスの調整などにより第1の整合部や第2の整合部を調整してインピーダンス整合を図ること、受電装置からの受電電力の通知に基づく整合条件の再設定を行わないで識別情報だけに基づく整合条件を用いること、送電アンテナ、受電アンテナにそれぞれ通信アンテナの機能を兼用させること、など様々な変更が可能である。また、送電アンテナ、受電アンテナ、制御部などの構成、構造、形状なども目的に合わせて設計可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 送電装置
2、2a、2b 受電装置
3 発振部
4 第1の整合部
5 送電アンテナ
6 制御部
7 通信アンテナ
8、8a、8b 受電アンテナ
9、9a、9b 第2の整合部
10、10a、10b 電力生成部
11 通信アンテナ
12 受電制御部
13 識別情報
14 不揮発性メモリ
21 設定テーブル
22 機器aの識別情報
23 機器bの識別情報
24 整合条件
25、27、29 初期値
26、28、30 調整範囲
31、32、41a、41b コンデンサ
61、62、63 状態

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波信号を発生する発振部と、前記発振部から高周波信号の供給を受けて電磁場を発生させ電力を送電する送電アンテナと、前記発振部と前記送電アンテナとの間に接続された第1の整合部と、前記送電アンテナから送電する電力を制御する制御部とを有する送電装置と、前記送電装置に近接して配置された時に前記送電アンテナと電磁的に結合して電力を受電する受電アンテナと、前記受電アンテナから受電した電力から直流電力を生成する電力生成部と、前記受電アンテナに接続された第2の整合部とを有する少なくとも1つの受電装置とを具備する非接触電力伝送システムであって、前記受電装置と前記送電装置との間の通信機能を備え、前記受電装置は識別情報を有し、前記送電装置は、前記識別情報を前記受電装置から取得して、前記送電アンテナと前記発振部とがインピーダンス整合するための前記第1の整合部が取るべき第1の整合条件、および前記受電アンテナと前記電力生成部とがインピーダンス整合するための前記第2の整合部が取るべき第2の整合条件を前記識別情報から生成し、前記第1の整合部を前記第1の整合条件を満たすように調整し、前記第2の整合条件を前記受電装置に通知し、前記受電装置は、前記第2の整合部を前記第2の整合条件を満たすように調整することを特徴とする非接触電力伝送システム。
【請求項2】
前記第1の整合部および前記第2の整合部をそれぞれ前記第1の整合条件および前記第2の整合条件を満たすように調整した後、前記送電装置より前記受電装置に対して送電を開始することを特徴とする請求項1に記載の非接触電力伝送システム。
【請求項3】
前記受電装置は前記送電装置から送電された電力の受電電力により前記識別情報を前記送電装置に通知する機能を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の非接触電力伝送システム。
【請求項4】
前記送電装置は前記識別情報に対応した前記第1の整合条件および前記第2の整合条件を記憶した不揮発性メモリを備え、前記不揮発性メモリから前記第1の整合条件およびおよび前記第2の整合条件を読み出すことにより前記第1の整合条件および前記第2の整合条件を生成することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の非接触電力伝送システム。
【請求項5】
前記受電装置は前記送電装置から送電された電力の受電電力を計測する機能と前記受電電力を前記送電装置に通知する機能とを備え、前記送電装置は前記受電電力に基づいて前記第1の整合条件と前記第2の整合条件を新たに生成する機能を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の非接触電力伝送システム。
【請求項6】
前記送電装置は前記識別情報に対応した前記第1の整合条件および前記第2の整合条件を記憶した不揮発性メモリを備え、前記の新たに生成された前記第1の整合条件および前記第2の整合条件を前記不揮発性メモリに記録する機能を備えることを特徴とする請求項5に記載の非接触電力伝送システム。
【請求項7】
前記送電装置は、送電開始後に、前記第1の整合条件および前記第2の整合条件の生成を新たに行うか否かを判断する機能と、前記の新たに生成された前記第1の整合条件を満たすように前記第1の整合部を調整する機能、および前記の新たに生成された前記第2の整合条件を前記受電装置に通知して前記受電装置に前記第2の整合部を前記の新たに生成された前記第2の整合条件を満たすように調整させる機能とを備えることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の非接触電力伝送システム。
【請求項8】
複数の前記受電装置が前記送電装置に近接配置された時に、前記送電装置は前記の近接配置された複数の前記受電装置から前記識別情報を取得する機能を備えることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の非接触電力伝送システム。
【請求項9】
前記送電装置は、複数の前記受電装置の組み合わせに対応した前記第1の整合条件および前記第2の整合条件を記憶した不揮発性メモリを備え、前記送電装置に近接配置された複数の前記受電装置の組み合わせに応じて前記不揮発性メモリから前記第1の整合条件および前記第2の整合条件を読み出すことにより前記第1の整合条件および前記第2の整合条件を生成することを特徴とする請求項8に記載の非接触電力伝送システム。
【請求項10】
前記送電装置は、前記送電装置に近接配置された複数の前記受電装置の中で送電対象である特定の受電装置に対してのみ送電を行う機能を備え、かつ、前記送電装置は、送電対象でない受電装置に対して前記第2の整合条件を通知して、前記受電装置に前記第2の整合部を前記第2の整合条件を満たすように調整させるか否かを選択することを特徴とする請求項8または請求項9に記載の非接触電力伝送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−139010(P2012−139010A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289053(P2010−289053)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)