説明

非接触電力伝送フィルム

【課題】製造時の環境負荷が小さく、フレキシブルである上、電力を非接触方式で非常に効率的に伝送することが可能な非接触電力伝送用フィルムを提供する。
【解決手段】非接触電力伝送用フィルム1は、ベースフィルム2の表面(外面)に、導電性インクをスクリーン印刷してなるアンテナパターン層3a、および、絶縁パターン層4a、配線パターン層5が積層されている。さらに、それらのアンテナパターン層3a、絶縁パターン層4a、配線パターン層5の上には、磁性体を含有した磁性体含有層6が積層されている。一方、ベースフィルム2の裏面(内面)には、アンテナパターン層3b、絶縁パターン層4bが積層されている。そして、アンテナパターン層3aとアンテナパターン層3bとが、ベースフィルム2に穿設されたスルーホールによって接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁誘導作用を用いて非接触方式で電力を伝送することが可能な電力伝送フィルムに属するものである。
【背景技術】
【0002】
コードレスホン、シェーバー、電動歯ブラシ等の電源ケーブルを搭載せずに電力を供給するための方法として、電源に接続された送電コイルと電気機器等の負荷に接続された受電コイルとを対向させて両コイル間での電磁誘導を利用して給電する方法(所謂、非接触給電システム)が開発されている。従来の非接触給電システムは、電力の需要側の受電コイル、蓄電池等からなる受電装置と、電力の供給側の給電コイル等からなる給電装置とを対向させた大型のものであったが、近年では、合成樹脂製のベースフィルム上に銅からなる回路を形成した電力伝送用フィルムが開発されている。
【0003】
ところが、銅からなる回路を形成した電力伝送用フィルムは、フレキシブルでコンパクトに設計することができるものの、製造時に、ベースフィルム上に積層させた銅をエッチングする必要があるため、環境負荷が大きい、という不具合を有している。
【0004】
それゆえ、出願人らは、先に、ベースフィルム上に導電性インクによってコイルを印刷した電力伝送フィルムについて提案した(特許文献1)。かかる電力伝送フィルムによれば、製造時に、銅のエッチング等の処理を施す必要がなくなるため、製造時の環境負荷を小さくすることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−88178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の非接触電力伝送フィルムは、製造時の環境負荷が小さく、フレキシブルであるものの、銅からなる回路を形成した電力伝送フィルムに比べて、コイルの抵抗が高いため、高い効率で電力を伝送することができない、という不具合があった。
【0007】
本発明の目的は、上記従来の非接触電力伝送フィルムが有する問題点を解消し、製造時の環境負荷が小さく、フレキシブルである上、電力を非接触方式で非常に効率的に伝送することが可能な非接触式の電力伝送用フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる本発明の内、請求項1に記載された発明は、フレキシブルな基材上に導電性材料によって形成されたコイルを積層してなる非接触電力伝送用フィルムであって、前記コイルが、前記基材の片面(内面あるいは外面)または両面に積層されているとともに、前記基材の最外位置に、磁性体を含有した磁性体含有層が積層されていることを特徴とするものである。
【0009】
なお、本発明に係る非接触電力伝送用フィルムの基材は、フレキシブルで、アンテナパターン形成用材料(銀ペースト等)の乾燥温度に耐え得る耐熱性を有するものであれば特に限定されず、ポリエチレンテレフタート、ポリエチレンナフタレート、もしくはポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、液晶ポリマー、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等の樹脂およびその他の材質からなるフィルム、シート等を好適に用いることができる。
【0010】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記磁性体が、鉄、純鉄、ケイ素鉄、パーマロイ、スーパーマロイ、パーメンジュール、センダスト、MnZnフェライトの内のいずれかであることを特徴とするものである。本発明において、磁性体含有層に含有させる磁性体としては、比透磁率の大きな(すなわち、低度の磁場で高度に磁化させることが可能な)軟磁性体を好適に用いることができ、より具体的には、鉄、純鉄、ケイ素鉄、パーマロイ、スーパーマロイ、パーメンジュール、センダスト、MnZnフェライト、アモルファス金属等を用いることが可能である。なお、それらの中でも、センダスト、MnZnフェライト、アモルファス、パーマロイは、電気抵抗が大きく、インク化する際に粉末にし易く、ハンドリング性も良好であるので、特に好適に用いることができる。
【0011】
請求項3に記載された発明は、請求項1、または請求項2に記載された発明において、磁性体含有層が、磁性体および樹脂を含有したインクを塗布したものであることを特徴とするものである。
【0012】
請求項4に記載された発明は、請求項1〜3のいずれかに記載された発明において、磁性体含有層が、所定の温度で加熱しながら所定の圧力でプレスしたものであることを特徴とするものである。
【0013】
上記の如く、磁性体および樹脂を含有したインクを塗布することにより、基材の特性を損なうことなく良好なフレキシブル性を発現させることができる。当該インクを調製する方法としては、磁性体の粉末を樹脂と混練する方法を好適に用いることができる。また、インクの調製に用いる樹脂は、硬化させたときにフレキシブル性を発現させるものであれば良く、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれをも用いることができるが、熱硬化性樹脂を用いると、インクによって形成される磁性体含有層の耐熱性が良好なものとなるので好ましい。加えて、インクによって形成される磁性体含有層の厚みは、特に限定されないが、20〜1000μmであると、磁束を閉じ込める効果(受電コイルを通過する磁束を増加させる効果)が良好なものとなるので好ましい。
【0014】
また、上記の如く、インクを塗布した後に当該磁性体含有層を所定の温度で加熱しながら所定の圧力でプレスすることにより、磁性体粉末が高密度化するため、磁束を閉じ込める効果を高めて受電コイルを通過する磁束を増加させることが可能となる。なお、加熱する温度は、90℃〜300℃が好ましく、プレスする圧力は、20kg/cm〜約150kg/cmが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る非接触電力伝送用フィルムは、コイルを、導電性粒子もしくは導電性粒子と樹脂バインダーとを含有した導電性インクからなるアンテナパターンとすると、銅等をエッチングする必要がないので製造時の環境負荷が小さくなり、アンテナパターンを薄くかつフレキシブルに形成できるので好ましい。なお、導電性材料としては、銀、金、銅、もしくはカーボン等の導電性物質を使用した導電性粒子を含有した導電性インクを好適に用いることができ、その中でも、数nm〜数十nmの粒子径(平均粒子径)を有する銀のナノ粒子からなるペースト(所謂、ナノ銀ペースト)を用いると特に好ましい。
【0016】
さらに、上記したアンテナパターンや、磁性体含有層は、各種の方法によって基材上に塗布、積層することが可能であるが、スクリーン印刷、グラビア印刷、もしくはインクジェット等の印刷工法により形成すると、均一なアンテナパターンや磁性体含有層を非常に容易に形成することができるので好ましい。
【0017】
また、本発明に係る非接触電力伝送用フィルムは、基材上に、導電性材料による実装回路パターン(すなわち、抵抗、トランジスタ、IC等の部品をハンダや導電性接着剤によって実装する目的で形成されるもの)を形成したものとするのが好ましい。さらに、そのように基材上に実装回路パターンを形成する場合には、当該実装回路パターンによる発振、電力増幅、および波形整形等を行い、所定の交流電力を送信用アンテナパターンに供給するとともに、アンテナパターンより空間へ所定の電力放射を行なう機能を備えたものや、当該実装回路パターンによる共振、波形整形、平滑化等を行い、受信用アンテナパターンから交流電力を直流や交流等の所定の電力波形へ整形するとともに、発光ダイオード、エレクトロルミネッセンス、モーター等の電力消費負荷へ電力を供給する機能を備えたものとするとより好ましい。加えて、それらの機能を付加する場合には、当該電力放射を行う機能を発揮する部分や当該電力を供給する機能を発揮する部分とアンテナパターンとを、同一フィルム上へ形成することも可能であるし、別々のフィルム上へ形成することも可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る非接触電力伝送用フィルムは、最も外側に位置した磁性体含有層がコイルからの磁束を遮廠するため(すなわち、送電側のコイルと受電側のコイルとの間で発生した磁束を、それらのコイル同士の空間に閉じ込めるため)、受電コイルを通過する磁束を増加させることができるので、電力を非接触方式で非常に効率的に伝送することができる。すなわち、本発明に係る非接触電力伝送用フィルムは、高い透磁率を有する磁性体含有層により、同じインダクタンスを得るためのコイルの巻き数を低減してコイルの抵抗を低減させることによって、送電に伴う熱エネルギーの損失を低く抑えることができるため、電力を非接触方式で非常に効率的に伝送することができる。
【0019】
また、電力を非接触で送電するための条件は、一般的に、ωL≫R(ω:2π×周波数、L:インダクタンス、R:抵抗)で求められるので、本発明に係る非接触電力伝送用フィルムによれば、インダクタンスの増加によって低い周波数での電力の伝送を実現することができる。
【0020】
さらに、本発明に係る非接触電力伝送用フィルムは、銅のエッチング等を行うことなく製造することができるので、製造時の環境負荷が小さい。加えて、本発明に係る非接触電力伝送用フィルムは、薄くかつフレキシブルであるので、非接触電力伝送装置(非接触電力伝送システム)をコンパクトに設計することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】非接触電力伝送用フィルムを用いた電力伝送の様子を示す説明図である。
【図2】ベースフィルムの上に設けるアンテナパターンの平面図(概略図)である。
【図3】非接触電力伝送用フィルムの断面の様子を示す説明図である。
【図4】非接触電力伝送用フィルムの断面の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施例によって本発明の非接触電力伝送用フィルムを詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更することができる。実施例、比較例で使用したアンテナパターン形成用インク、実装回路パターン形成用インク、磁性体含有層形成用インクの性状、組成等は以下の通りである。
【0023】
<アンテナパターン形成用インク>
スクリーン印刷によりアンテナパターンを形成するためのインクとしては、ナノサイズの銀粒子を含む熱反応型高導電性インク(体積抵抗率:数〜数十μΩ・cm)や低抵抗の熱硬化型ポリマー銀インク(体積抵抗率:〜数十μΩ・cm)(藤倉化成社製)を使用した。
【0024】
<磁性体含有層形成用インク>
スクリーン印刷により磁性体含有層を形成するためのインクとして、ウレタン系の熱硬化性樹脂の溶液中に、高透磁率を有する軟磁性体(センダストの扁平粉末)を40体積%充填することによって、ペースト状のインクを調製した。
【0025】
また、実施例、比較例で作成された非接触電力伝送用フィルムの評価方法は下記の通りである。
【0026】
<インダクタンス>
コイル(アンテナパターン)を印刷した後に、LCRメータにより、周波数1KHz〜1MHzにおいて、当該コイルのインダクタンスLと抵抗Rとを測定した。
【0027】
<電力伝送効率>
図1の如く、実施例、比較例で得られた非接触電力伝送用フィルムのアンテナパターン層(コイル)22と接続された配線パターン層に、全波整流回路23と平滑化回路とからなるAC−DC変換/出力部を介して駆動負荷24を接続することによって電力受信部21を形成した。一方、電力受信部21と同様な非接触電力伝送用フィルムのアンテナパターン層(コイル)32と接続された配線パターン層に、電力増幅回路33を介して発振回路を有する高周波電源部34を接続することによって電力発信部31を形成した。そして、電力送信部31の非接触電力伝送用フィルムの内面のアンテナパターン層32と、電力受信部21の非接触電力伝送用フィルムの内面のアンテナパターン層22とを向かい合わせ、電力送信部31のアンテナパターン層32へ、所定電圧(Vpp=13[V])の電力を矩形波(10kHz〜1MHz、±2.5V〜±15V)で供給し、その際の受電電力をオシロスコープとデジタルマルチメータによって測定し、下式2によって電力伝送効率を算出した。
電力伝送効率=受電電力/送電電力×100(%)・・・2
【0028】
<フレキシブル性>
実施例、比較例で得られた非接触電力伝送用フィルムを手で撓ませた場合の柔軟性を下記の3段階で官能評価した。
○・・軽く力を加えることによって容易に撓ませることができる。
△・・強い力を加えた場合に撓ませることができる。
×・・軽く力を加えただけでは撓らない。あるいは、力を加えて撓ませると破損する。
【0029】
[実施例1]
PEN(ポリエチレンナフタレート)からなる厚さ100μmのベースフィルム(基材)を180℃の雰囲気下でアニーリングした。しかる後、そのベースフィルムに、レーザー加工によって回路接続用のスルーホールを形成した。さらに、スルーホールを形成したフィルムの片面の表層に、アンテナパターン形成用インク(ナノ銀粒子配合インク)によって、図2の如き略正方形状のアンテナパターン(一辺の長さ=約60mm、導体の線幅=約0.86mm、導体線間=約0.46mm、巻き数=34回(17回×2層))をスクリーン印刷した。そして、印刷後のフィルムを180℃で熱処理することによって、ベースフィルムの表面上にアンテナパターン層を形成した。さらに、そのアンテナパターン層上に、ポリエステル系の熱硬化型インクをスクリーン印刷し、印刷後のフィルムを170℃で熱処理することによって、アンテナパターン層上に絶縁パターン層を形成した(以下、このアンテナパターン層および絶縁パターン層の形成面をフィルムの内面という)。
【0030】
一方、ベースフィルムの内面と反対側の表層に、上記したアンテナパターン形成用インク(ナノ銀粒子配合インク)によって、内面側と同様なアンテナパターンをスクリーン印刷し、印刷後のベースフィルムを180℃で熱処理することによって、アンテナパターン層を形成した。さらに、そのアンテナパターン層上に、上記した熱硬化型インクをスクリーン印刷することによって絶縁パターン層を形成した後、印刷後のフィルムを170℃で熱処理した(以下、このアンテナパターン層および絶縁パターン層の形成面をフィルムの外面という)。
【0031】
しかる後、アンテナパターン層および絶縁パターン層を形成したベースフィルムの外面に、上記した磁性体含有層形成用インク(センダスト含有インク)を塗布し、さらに、塗布後のベースフィルムを125℃で熱処理し、アンテナパターン層および絶縁パターン層上に磁性体含有層を形成することによって、非接触電力伝送用フィルム(送電用フィルムおよび受電用フィルム)を得た。
【0032】
図3は、得られた非接触電力伝送用フィルムの断面の様子を示す説明図であり、非接触電力伝送用フィルム(送電用フィルムおよび受電用フィルム)1は、ベースフィルム(基材)2の外面に、約30μmの厚さのアンテナパターン層3aが積層されており、そのアンテナパターン層3aの上に、絶縁パターン層4aが積層されており、それらのアンテナパターン層3aおよび絶縁パターン層4aの上に磁性体含有層6が積層されている。一方、ベースフィルム(基材)2の内面に、約30μmの厚さのアンテナパターン層3bが積層されており、そのアンテナパターン層3bの上に、絶縁パターン層4bが積層されている。また、外面側のアンテナパターン層3aと内面側のアンテナパターン層3bとはスルーホールH,H・・によって接続されている。
【0033】
そして、上記の如く得られた非接触電力伝送用フィルム1のインダクタンス、電力伝送効率、フレキシブル性を上記した方法によって評価した。結果を表1に示す。
【0034】
[実施例2]
実施例1と同様なベースフィルムを、180℃の雰囲気下でアニーリングした後、そのフィルムの片面の表層に、実施例1と同様な方法により、アンテナパターンをスクリーン印刷し、熱処理することによって、第一アンテナパターン層を形成した。さらに、その第一アンテナパターン層上に、実施例1と同様な方法によって、第一絶縁パターン層を形成した。さらに、その第一絶縁パターン層上に、上記した第一アンテナパターン層形成時と同様な方法によって、第二アンテナパターン層を形成し、その第二アンテナパターン層上に、上記した第一絶縁パターン層形成時と同様な方法によって、第二絶縁パターン層を形成した(以下、この第一アンテナパターン層、第一絶縁パターン層、第二アンテナパターン層、第二絶縁パターン層の形成面をフィルムの内面という)。
【0035】
一方、ベースフィルムの内面と反対側の表層に、上記した磁性体含有層形成用インクを塗布することよって磁性体含有層を形成した後、ベースフィルムを60kg/cm で加圧しながら120℃で熱処理することによって、実施例2の非接触電力伝送用フィルム(送電用フィルムおよび受電用フィルム)を得た。
【0036】
図4は、得られた非接触電力伝送用フィルムの断面の様子を示す説明図であり、非接触電力伝送用フィルム(送電用フィルムおよび受電用フィルム)11は、ベースフィルム(基材)12の内面に、約30μmの厚さの第一アンテナパターン層13、第一絶縁パターン層14、第二アンテナパターン層15、第二絶縁パターン層16が積層されており、ベースフィルム(基材)2の外面に磁性体含有層18が積層されている。
【0037】
[実施例3]
ベースフィルムの外面に磁性体含有層を形成した後にベースフィルムに加圧、加熱処理を施さなかった以外は、実施例2と同様にして、実施例3の非接触電力伝送用フィルム(送電用フィルムおよび受電用フィルム)を得た。そして、実施例1と同様な方法によって、得られた非接触電力伝送用フィルムのインダクタンス、電力伝送効率、フレキシブル性を評価した。結果を表1に示す。
【0038】
[比較例1]
ベースフィルムの外面のアンテナパターン層、絶縁パターン層、および配線パターン層上に磁性体含有層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして比較例1の非接触電力伝送用フィルムを得た。そして、実施例1と同様な方法によって、得られた非接触電力伝送用フィルムのインダクタンス、電力伝送効率、フレキシブル性を評価した。結果を表1に示す。
【0039】
[比較例2]
ベースフィルムの外面に磁性体含有層を形成しなかった以外は、実施例2と同様にして比較例2の非接触電力伝送用フィルムを得た。そして、実施例1と同様な方法によって、得られた非接触電力伝送用フィルムのインダクタンス、電力伝送効率、フレキシブル性を評価した。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
<実施例の電力伝送用フィルムの効果>
表1から、各実施例の非接触電力伝送用フィルムは、抵抗値が同一である場合には、各比較例の非接触電力伝送用フィルムに比べて、インダクタンスの数値が高い(すなわち、実施例1の非接触電力伝送用フィルムの方が、比較例1の非接触電力伝送用フィルムより、インダクタンスの数値が高く、実施例2,3の非接触電力伝送用フィルムの方が、比較例2の非接触電力伝送用フィルムより、インダクタンスの数値が高い)ことが分かる。さらに、各実施例の非接触電力伝送用フィルムは、抵抗値が同一である場合には、各比較例の非接触電力伝送用フィルムに比べて、電力伝送効率が良好である(すなわち、100KHz,200KHz,500KHzとも、実施例1の非接触電力伝送用フィルムの方が、比較例1の非接触電力伝送用フィルムより、送受電効率が高く、実施例2,3の非接触電力伝送用フィルムの方が、比較例2の非接触電力伝送用フィルムより、送受電効率が高い)ことが分かる。加えて、磁性体含有層の加熱・加圧処理を施した場合(実施例2)には、当該処理を施さなかった場合(実施例3)に比べて、インダクタンスの数値が高く、200KHzにおける電力伝送効率が一層良好なものとなっていることが分かる。また、各実施例の非接触電力伝送用フィルムは、磁性体含有層が積層されているにも拘わらず、磁性体含有層が積層されていない各比較例の非接触電力伝送用フィルムと同様に、適度なフレキシブル性を有していることが分かる。
【0042】
<非接触電力伝送用フィルムの変更例>
本発明の非接触電力伝送用フィルムの構成は、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、基材(ベースフィルム)、コイル(アンテナパターン層)、磁性体含有層等の形状、構造等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。また、本発明の非接触電力伝送用フィルムを製造する際の製造条件も、上記実施形態の態様に何ら限定されず、アンテナパターン層、絶縁パターン層、配線パターン層、磁性体含有層の形成方法や、それらの層を形成した後のアニーリング処理や加圧処理の条件等を、必要に応じて適宜変更することができる。
【0043】
たとえば、基材上に形成されるコイル(アンテナパターン)は、上記実施形態の如く、ナノサイズの銀粒子を含む熱反応型高導電性インクや低抵抗の熱硬化型ポリマー銀インクによって形成されたものに限定されず、要求特性に応じて、その他の金属粒子やカーボン粒子等導電性物質を含有したインクを使用してコイルを形成することも可能である。
【0044】
一方、基材上に形成される実装回路パターンも、上記実施形態の如く、銅粒子を含む熱硬化型ポリマー銅インクによって形成されたものに限定されず、要求特性やその後に実装される部品に応じて、熱硬化型ポリマー銀インク等その他の導電性インクを使用して実装回路パターンを形成することも可能である。
【0045】
また、磁性体含有層の塗布厚みは、上記実施形態の如き厚みに限定されず、20〜1000μmの範囲内で、必要に応じて適宜変更することができる。なお、磁性体含有層の塗布厚みが、上記範囲を外れて小さくなると、十分な磁束遮蔽効果が得られなくなるので好ましくなく、反対に、磁性体含有層の塗布厚みが、上記範囲を外れて大きくなると、非接触電力伝送用フィルムのフレキシブル性が損なわれるので好ましくない。
【0046】
加えて、非接触電力伝送用フィルムは、上記実施形態の如く、導電パターン表面の酸化防止や傷つき防止等のために、二液熱硬化型のレジストインクやオーバーコートインクを塗布したものに限定されず、フィルムが設置される状況に応じて、エポキシ系樹脂やその他のレジストコートを塗布することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の非接触電力伝送用フィルムは、上記の如く優れた効果を奏するものであるから、非接触電力伝送装置用の回路部材として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0048】
1,11・・非接触電力伝送用フィルム
2,12・・ベースフィルム(基材)
3a,3b,13,15・・アンテナパターン層(コイル)
6,18・・磁性体含有層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレキシブルな基材上に導電性材料によって形成されたコイルを積層してなる非接触電力伝送用フィルムであって、
前記コイルが、前記基材の片面または両面に積層されているとともに、
前記基材の最外位置に、磁性体を含有した磁性体含有層が積層されていることを特徴とする非接触電力伝送用フィルム。
【請求項2】
前記磁性体が、鉄、純鉄、ケイ素鉄、パーマロイ、スーパーマロイ、パーメンジュール、センダスト、MnZnフェライトの内のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の非接触電力伝送用フィルム。
【請求項3】
磁性体含有層が、磁性体および樹脂を含有したインクを塗布したものであることを特徴とする請求項1、または請求項2に記載の非接触電力伝送用フィルム。
【請求項4】
磁性体含有層が、所定の温度で加熱しながら所定の圧力でプレスしたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非接触電力伝送用フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−187559(P2011−187559A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49454(P2010−49454)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年9月8日 (社)応用物理学会主催の「平成21年 秋季 第70回応用物理学会学術講演会」のシンポジウムにおけるスライドおよび講演予稿集において文章をもって発表
【出願人】(000150774)株式会社槌屋 (56)
【Fターム(参考)】