説明

非接触ICカード評価装置及び非接触ICカード評価方法

【課題】磁性シートを配置した非接触ICカードを正確に評価することができる非接触ICカード評価装置及び非接触ICカード評価方法を提供すること。
【解決手段】非接触ICカード評価装置は、非接触ICカードを動作させる磁場を発生する磁場発生手段であるICカード用リーダ/ライタ(R/W)11と、被測定体である非接触ICカードユニット12を支持するポール13と、非接触ICカードユニットの出力を検出するスペクトラムアナライザ14とから主に構成されている。非接触ICカードユニット12のアンテナ123は、シート本体と、このシート本体上にスパイラルコイル状に設けられたアンテナパターンとから構成され、このアンテナパターンは非接触ICカードを利用できる周波数帯以外の周波数で同調するように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性シートを含む非接触ICカードの評価装置及び評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ICチップを搭載したICカードが普及してきており、特に、アンテナコイルを内蔵した非接触ICカードが普及してきている。この非接触ICカードは、その利便性のために、最近では携帯電話のような携帯端末に搭載されている。
【0003】
このような非接触ICカードの評価方法としては、従来から、非接触ICカードがリーダ/ライタ(R/W)が発生する磁界を検出して動作するR/Wからの最大通信距離を測定する方法や、非接触ICカードに磁場を与えて、その磁場によりアンテナコイルに誘起される電圧を検出する方法などが挙げられる。これらの方法においては、アンテナコイルに並列にキャパシタを接続した共振周波数13.56MHz(非接触ICカードシステムが利用できる周波数帯)のLC並列共振回路を構成して評価するので、アンテナコイルの共振周波数を13.56MHz近傍に合せ込む必要がある(特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−263620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図2(a)に示すように、非接触ICカード21を携帯端末内に搭載する場合、金属シールド板23上に配置することがあり、このような構成では、金属シールド板23に発生する渦電流24のために反磁界25が生じてR/W26からの磁束が通過せず、非接触ICの動作を阻害することがある。このため、図2(b)に示すように、非接触ICカード21と金属シールド板23との間に磁性シート27を配置することが行われている。このように磁性シート27を配置することにより、磁性シート27が磁気ヨークとして機能して磁界強度を回復してR/W26からの磁束を通過させることができる。しかしながら、このように磁性シート27を配置することにより、磁性シート27の透磁率誘電率の作用でLC共振回路の共振周波数が変動して正確に非接触ICカードを評価することができないという問題がある。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、磁性シートを配置した非接触ICカードを正確に評価することができる非接触ICカード評価装置及び非接触ICカード評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の非接触ICカード評価装置は、非接触ICカードシステムが利用できる周波数帯以外の周波数を共振周波数とするアンテナと、非接触ICカードシステムが利用できる周波数帯で動作させる磁場発生手段と、前記磁場発生手段から所定の距離だけ離して設置された、前記アンテナ、前記アンテナ上に配置された磁性シート及びこの磁性シート上に配置された金属板で構成された被測定体の出力を検出する検出手段と、を具備することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、非接触ICカードユニットのアンテナコイルは、磁場発生手段の搬送波の周波数と同調しないので、すなわち共振点を持たないので、共振周波数がずれることによるアンテナコイルの誘起電圧が低くなることを防止することができ、正確に非接触ICカードを評価することができる。
【0008】
本発明の非接触ICカード評価装置においては、非接触ICカードシステムが利用できる周波数帯以外の周波数は、非接触ICカードシステムが利用できる周波数帯と少なくとも20MHz離れていることが好ましい。
【0009】
本発明の非接触ICカード評価装置においては、前記磁性シートは、マトリクス材料と、前記マトリクス材料に含まれるFe基非晶質合金と、を含むことが好ましい。
【0010】
本発明の非接触ICカード評価方法は、非接触ICカードシステムが利用できる周波数帯以外の周波数を共振周波数とするアンテナを非接触ICカードシステムが利用できる周波数帯で磁場発生手段で動作させる工程と、前記磁場発生手段から所定の距離だけ離して設置された、前記アンテナ、前記アンテナ上に配置された磁性シート及びこの磁性シート上に配置された金属板で構成された被測定体の出力を検出する工程と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の非接触ICカード評価装置は、非接触ICカードシステムが利用できる周波数帯以外の周波数を共振周波数とするアンテナと、非接触ICカードシステムが利用できる周波数帯で動作させる磁場発生手段と、前記磁場発生手段から所定の距離だけ離して設置された、前記アンテナ、前記アンテナ上に配置された磁性シート及びこの磁性シート上に配置された金属板で構成された被測定体の出力を検出する検出手段と、を具備するので、共振周波数ずれの影響がなく、磁性シートの磁界強度回復効果を正確に評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
磁性シートを配置した非接触ICカードを評価する場合において、磁気シートの透磁率誘電率の作用でLC共振回路の共振周波数が低下する。従来のように、共振周波数を13.56MHzに合せる構成の評価装置では、LC共振回路の共振周波数が低下して、13.56MHzからずれると、アンテナコイルで誘起される電圧が低下してしまい、磁性シートによる誘起電圧の変化を正確に検出することができない。例えば、非接触ICカードと金属シールド板との間に磁性シートを配置した非接触ICカードユニットを評価した場合、磁性シートを配置することにより透磁率の実数部μ’が高くなり、透磁率の虚数部μ’’が低くなって磁界強度が回復したとしても(図2(b))、透磁率の実数部μ’が高くなることによって共振周波数がずれてアンテナコイルの誘起電圧が低くなってしまうことがある。この場合には、磁性シートにより特性が向上したとしても評価結果が悪くなってしまう。
【0013】
本発明者は上記の点に着目し、磁性シートの磁界強度回復効果の評価であるために周波数を同調させて共振させる必要がないので、磁場発生手段であるR/Wと非接触ICカードとの間での共振を積極的に起こさせないようにすることにより、磁性シートを配置したことに起因する共振周波数のずれの影響を回避し、磁性シートによる磁界強度の回復のみを評価できることを見出し本発明をするに至った。
【0014】
すなわち、本発明の骨子は、非接触ICカードシステムが利用できる周波数帯でアンテナを磁場発生手段で動作させ、前記磁場発生手段から所定の距離だけ離して設置された、非接触ICカードシステムが利用できる周波数帯以外の周波数を共振周波数とするアンテナ、このアンテナ上に配置された磁性シート及びこの磁性シート上に配置された金属板で構成された被測定体の出力を検出することにより、共振周波数ずれの影響がなく、磁性シートを配置した非接触ICカードを正確に評価することである。
【0015】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1(a)は、本発明の実施の形態に係る非接触ICカード評価装置を示す図である。図1(a)に示す非接触ICカード評価装置は、非接触ICカードを動作させる磁場を発生する磁場発生手段であるICカード用リーダ/ライタ(R/W)11と、被測定体である非接触ICカードユニット12を支持するポール13と、非接触ICカードユニットの出力を検出するスペクトラムアナライザ14とから主に構成されている。
【0016】
ICカード用R/W11は、非接触ICカードシステムが利用できる周波数帯を搬送波とする電磁波を発生して磁場を生成する。ポール13は、ICカード用R/W11と非接触ICカードユニット12との間の距離を所定値に設定するための支持部材である。スペクトラムアナライザ14は、非接触ICカードユニットにおける誘起電圧(信号強度)を測定する。
【0017】
非接触ICカードユニット12は、図1(b)に示すように、金属シールド板121と、磁性シート122と、アンテナ123とがその順序で積層されて構成されている。アンテナ123は、シート本体と、このシート本体上にスパイラルコイル状に設けられたアンテナパターン(図示せず)とから構成されている。
【0018】
このアンテナパターンはアンテナコイルを構成している。このアンテナコイルは、非接触ICカードを利用できる周波数帯以外の周波数で同調するように設定されている。すなわち、このアンテナコイルは、非接触ICカードを利用できる周波数帯に共振点を有しないように設定されている。この場合、非接触ICカードシステムが利用できる周波数帯と少なくとも20MHz離れていることが好ましい。また、このアンテナパターンは、シート本体上に通常の方法、例えばスクリーン印刷法、エッチング法、メッキ法などの方法で形成することができる。
【0019】
磁性シート122は、マトリクス材料と、このマトリクス材料に含まれるFe基非晶質合金と、を含むことが好ましい。ここで、マトリクスを構成する樹脂材料としては、シリコーン樹脂、ポリ塩化ビニル、シリコーンゴム、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリビニルアルコール、又は各種エラストマーなどを挙げることができる。磁気シートに含まれるFe基非晶質合金は、Fe−Cr−P−C−B−Si系合金であり、過冷却液体領域を持つ非晶質合金である。
【0020】
このような構成の評価装置においては、非接触ICカードシステムが利用できる周波数帯(例えば、13.56MHz帯)以外の周波数を共振周波数とするアンテナ123を非接触ICカードシステムが利用できる周波数帯(例えば、13.56MHz帯)でICカード用R/W11で動作させ、ICカード用R/W11から所定の距離だけ離して設置された非接触ICカードユニット12の出力をスペクトラムアナライザ14で検出する。
【0021】
この場合においては、非接触ICカードユニット12のアンテナコイルは、ICカード用R/W11の搬送波の周波数と同調しないので、すなわち共振点を持たないので、共振周波数がずれることによるアンテナコイルの誘起電圧が低くなることを防止することができ、正確に非接触ICカードを評価することができる。
【0022】
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。
図1(b)に示す構成を有する非接触ICカードユニット、すなわち、金属シールド板121、磁性シート122及びアンテナ123がその順序で積層してなる非接触ICカードユニットについて、図1(a)に示す構成の評価装置でそれぞれの誘起電圧(信号強度)を求めた。なお、金属シールド板121として、寸法52mm×85mm、厚さ2.0mmのアルミニウム板を用い、磁性シート122として、寸法52mm×85mm、厚さ0.1mmで、シリコーン樹脂にFe基非晶質合金を混合してなる磁性シートを用い、アンテナ123として、共振周波数が13.56MHz帯以外の周波数(127MHz)を有するスパイラルコイルを用いた。また、ICカード用R/W11には、RC−S460C(ソニー社製)を用い、スペクトラムアナライザ14には、8595E(アジレントテクノロジ社製)を用いた。また、評価時の非接触ICカードユニット12とICカード用R/W11との間の距離を30mmとした。
【0023】
上記のようにして評価したところ、信号強度は8.54dBmであった。比較のために、共振周波数が13.56MHz帯であるアンテナを用いた非接触ICカードユニットについて、図1(a)に示す構成の評価装置で評価を行ったところ、磁性シートのために磁界強度が回復しているにもかかわらず信号強度は0.94dBmであった。これは、磁性シートがあるために透磁率の実数部μ’が高くなり、共振周波数がずれてアンテナコイルの誘起電圧が低くなったためであると考えられる。このように、本発明に係る評価装置は、非接触ICカードを正確に評価することができることが分かった。
【0024】
本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。例えば、非接触ICカードユニットにおける各構成要素の材質、寸法などについては、上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することができる。その他、本発明の範囲を逸脱しない範囲で種々変更して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)は、本発明の実施の形態に係る非接触ICカード評価装置を示す図であり、(b)は、非接触ICカードユニットの構成を示す図である。
【図2】(a),(b)は、非接触ICカードに対する磁性シートの機能を説明するための図である。
【符号の説明】
【0026】
11 ICカード用リーダ/ライタ(R/W)
12 非接触ICカードユニット
13 ポール
14 スペクトラムアナライザ
121 金属シールド板
122 磁性シート
123 アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非接触ICカードシステムが利用できる周波数帯以外の周波数を共振周波数とするアンテナと、非接触ICカードシステムが利用できる周波数帯で動作させる磁場発生手段と、前記磁場発生手段から所定の距離だけ離して設置された、前記アンテナ、前記アンテナ上に配置された磁性シート及びこの磁性シート上に配置された金属板で構成された被測定体の出力を検出する検出手段と、を具備することを特徴とする非接触ICカード評価装置。
【請求項2】
非接触ICカードシステムが利用できる周波数帯以外の周波数は、非接触ICカードシステムが利用できる周波数帯と少なくとも20MHz離れていることを特徴とする請求項1記載の非接触ICカード評価装置。
【請求項3】
前記磁性シートは、マトリクス材料と、前記マトリクス材料に含まれるFe基非晶質合金と、を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の非接触ICカード評価装置。
【請求項4】
非接触ICカードシステムが利用できる周波数帯以外の周波数を共振周波数とするアンテナを非接触ICカードシステムが利用できる周波数帯で磁場発生手段で動作させる工程と、前記磁場発生手段から所定の距離だけ離して設置された、前記アンテナ、前記アンテナ上に配置された磁性シート及びこの磁性シート上に配置された金属板で構成された被測定体の出力を検出する工程と、を具備することを特徴とする非接触ICカード評価方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate