説明

非揮発性有機ハロゲン化合物の検出方法

【課題】揮発性が低い有機化合物であっても簡便に測定することができる非揮発性有機ハロゲン化合物の検出方法を提供すること。
【解決手段】非揮発性有機ハロゲン化合物を含む検水を弱酸性下〜アルカリ性下で酸化処理して、非揮発性有機ハロゲン化合物を分解して揮発性有機ハロゲン化合物を生成し、その後、パージトラップ法もしくはヘッドスペース法を用いて前記揮発性有機ハロゲン化合物を気相に移行し、該気相中の有機ハロゲン化合物を電子捕獲型検出器(ECD)又は水素炎イオン化検出器(FID)で検出することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCBなどの非揮発性有機ハロゲン化合物についても、簡便に測定することができる非揮発性有機ハロゲン化合物の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
殺虫剤や界面活性剤等が環境に流出し、河川や地下水、排水などに汚染物質が混入する環境汚染の問題がある。
【0003】
汚染物質は、飲料水として人体に接種される他、河川や海洋に生息している魚介類に蓄積し、さらにその魚介類を食した動物に蓄積される。これらの汚染物質は、内分泌かく乱物質として生物への悪影響が懸念されている。
【0004】
近年では、PCB(Polychlorinated biphenyl, ポリ塩化ビフェニル:ビフェニルの塩素化異性体の総称)が強い毒性を有することから、その製造および輸入が禁止されている。このPCBは、1954年頃から国内で製造開始されたものの、1968年カネミ油症事件をきっかけに生体・環境への悪影響が明らかになり、1972年に行政指導により製造中止、回収の指示(保管の義務)が出された経緯がある。
【0005】
ところで、PCBなどの汚染物質の測定には、公定法が定められているが、この方法によるとサンプル採取から測定結果を得るまでの期間が日単位でかかってしまう。
【0006】
例えば、PCBの場合、被検水から溶媒を抽出し、対象のPCBを濃縮し、アセトニトリル及びヘキサン分配を行ったのちに水を添加する。その後、ヘキサン抽出し、硫酸処理を行ったのち、クロマトグラフィーを行ってPCBを分離し、GC分析するという手法をとることが必要となり、1〜2日と時間と手間とを要する。このため、簡易に測定できる方法が求められていた。
【特許文献1】特開2003−185631号公報
【特許文献2】特開2003−344377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、簡易測定においては、定性より、汚染物質が混入しているか否かと、量を測定することが重要と考え、パージトラップあるいはヘッドスペース法によって、被検水に溶解している有機化合物を気相に移し、成分ごとに分離せずに、ECD検出する方法を考えたが、これは完全に揮発する化合物にのみ有効であり、PCBのように揮発性が低い(半揮発性)化合物を検出する場合には測定結果がうまく得られないことがわかった。
【0008】
さらに、簡易にPCBなど物質を測定する方法について研究を重ね、本発明を完成させるに至った。
【0009】
そこで、本発明の課題は、揮発性が低い有機化合物であっても簡便に測定することができる非揮発性有機ハロゲン化合物の検出方法を提供することにある。
【0010】
本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0012】
(請求項1)
非揮発性有機ハロゲン化合物を含む検水を弱酸性下〜アルカリ性下で酸化処理して、非揮発性有機ハロゲン化合物を分解して揮発性有機ハロゲン化合物を生成し、その後、パージトラップ法もしくはヘッドスペース法を用いて前記揮発性有機ハロゲン化合物を気相に移行し、該気相中の有機ハロゲン化合物を電子捕獲型検出器(ECD)又は水素炎イオン化検出器(FID)で検出することを特徴とする非揮発性有機ハロゲン化合物の検出方法。
【0013】
(請求項2)
酸化処理が、過酸化水素水と二価の鉄塩水溶液を含む水溶液を用いたフェントン反応によることを特徴とする請求項1記載の非揮発性有機ハロゲン化合物の検出方法。
【0014】
(請求項3)
酸化処理が、次亜塩素酸塩による酸化処理と電解酸処理を併用することを特徴とする請求項1記載の非揮発性有機ハロゲン化合物の検出方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、揮発性が低い有機化合物であっても簡便に測定することができる非揮発性有機ハロゲン化合物の検出方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は、本発明に係る非揮発性有機ハロゲン化合物の検出方法の一例を説明するフロー図であり、1は非揮発性有機ハロゲン化合物を含む検水を分解して揮発性を持たせるための酸化分解槽である。
【0018】
検水としては、飲用に供する水、工業用水、農業水産用水、河川水、土壌を懸濁して得た水などが挙げられる。
【0019】
本発明において、「非揮発性」とは、ヘッドスペース法などによって検出されない性質を指しており、非揮発性有機ハロゲン化合物としては、PCB、低濃度の2,4−ジクロロフェノール、DXNs(ダイオキシン類)などが挙げられる。
【0020】
酸化分解手法としては、過酸化水素水と二価の鉄塩水溶液を含む水溶液を用いたフェントン反応による方法や、次亜塩素酸塩などの酸化剤と熱エネルギーの併用する方法、あるいは前記酸化剤による酸化処理と電解酸処理を併用する方法などがある。
【0021】
フェントン反応による方法について説明すると、過酸化水素水と二価の鉄塩水溶液を含む水溶液はフェントン試薬として知られているが、このフェントン反応では、・OH(ヒドロキシルラジカル)が生成され(H+Fe2+ → ・OH + OH +Fe3+) 、このヒドロシキラジカルが、2,4−ジクロロフェノール(2,4−DCP)のフェニル基の2重結合を攻撃し、開環し、二酸化炭素、揮発性の低級脂肪族塩素化合物、水などを生成する。この反応を下記化1に示す。
【0022】
【化1】

【0023】
また、別の非揮発性有機ハロゲン化合物の場合には、下記化2に示すようなヒドロキシルラジカルの作用で、クロロフェニル化合物や酸素原子等を官能基の一部として含有する揮発性の低級脂肪族塩素化合物等が生成し、更にクロロフェニル化合物は酸素等を含有する揮発性の低級脂肪族塩素化合物や二酸化炭素、水などに分解される。
【0024】
【化2】

【0025】
非揮発性有機ハロゲン化合物中に存在する炭素の二重結合部分は、ヒドロキシルラジカルのスカベンジャーとして作用する面があり、その消費分は芳香環の切断、フェニル基の開環に寄与する。しかし、共存するBOD成分のためにヒドロキシルラジカルが消費されるので、過酸化水素水と二価の鉄塩水溶液の添加量を決定する際には、考慮されることが好ましい。
【0026】
過酸化水素水の添加量は、検水に対して鉄を添加した後に測定されるCOD値の2倍当量以上、好ましくは10倍当量以上、また二価の鉄塩水溶液の添加量は検水に対して濃度として10mM以上、好ましくは100mM以上である。
【0027】
二価の鉄塩水溶液としては、硫酸第一鉄、硝酸第一鉄などを用いることができるが、好ましくは、硫酸第一鉄等の不揮発の対イオンをもつ化合物である。
【0028】
なお、図1において、2はフェントン反応を起こす試薬の供給タンクであり、図示しないポンプで酸化分解槽1に供給可能に構成されている。
【0029】
本発明では、上記のフェントン反応によって揮散する有機ハロゲン化合物が生成されるので、パージトラップ法もしくはヘッドスペース法を用いて、これらの揮発性有機ハロゲン化合物を気相に移行する。
【0030】
パージトラップ法もしくはヘッドスペース法は、揮散された揮発性有機ハロゲン化合物を気相に移行する手法であり、図1には、パージトラップ法の例が示されている。
【0031】
図1において、3はバイアル、4はガス吸引ポンプ、5は検出器である。バイアル3は、上部に空間が形成される程度に検水を貯留することにより内部に気相と液相とを形成している。
【0032】
ガス吸引ポンプ4で上部のガスを吸引して液体の中に戻すようにすると、ガスパージが実行され、揮発性の有機ハロゲン化合物は、気相に移行し、検出器5に移行され、分析される。
【0033】
分析手法としては、ECD(電子捕獲型検出器)が挙げられる。
【0034】
また対象物質と分解生成物が特定できる系においては、水素炎イオン化検出器(FID)で分析することもでき、例えばガス検知用検出器5はバイアル3内の空間のガス成分中から揮発性有機ハロゲン化合物を検出して電気信号に変換する。ガス検知用検出器5は、これにより検出された検出信号に基づいて揮発性有機ハロゲン化合物濃度を検出する。
【0035】
本発明においては、分離カラムを有するガスクロマトグラフ等によって検水中に溶存する成分を各構成成分に分離することも可能である。なお、分離手段は分離カラムに限定されず、例えば過塩素酸マグネシウムフィルターによって水分を除去する場合などもある。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明の効果を例証する。
【0037】
実施例1
2,4−ジクロロフェノール0.025ppmを添加したCOD3.1ppmの河川水を1Lの容器に採り、その河川水に硫酸第一鉄及び過酸化水素水を添加してフェントン反応を誘起した。揮散した化合物をヘッドスペース法でガスとして捕集した。
【0038】
次いで、ECD(電子捕獲型検出器)を有するガスクロマトグラフで、捕集ガスを分析して、低分子の有機ハロゲン化合物を検出した。
【0039】
その結果、オレフィン系の塩素化合物の他に揮発性の高いモノクロロベンゼン、ジクロロベンゼンのピークが観察された。即ち、2,4−ジクロロフェノールがフェントン反応によって分解され、揮発性の高いモノクロロベンゼン、ジクロロベンゼンが生成し、これらがガス相に移ったので、ECDを検出器とするガスクロマトグラフで確認(測定)することができたものである。
【0040】
比較例1
実施例1において、フェントン反応を行なわない以外は同様に分析した。その結果、2,4−ジクロロフェノールのピークがわずかに検出された他は、空気及び一部の有機酸のピークが観察されたのみであった。
【0041】
実施例2
実施例1と同様の方法で、2,4−ジクロロフェノール0.017ppmを添加したCOD1.5ppmの河川水について分析を行なった。その結果、実施例1と同様に、オレフィン系の塩素化合物の他に揮発性の高いモノクロロベンゼン、ジクロロベンゼンのピーク(濃度として0.1〜0.3ppb)が観察された。
【0042】
実施例3
実施例1と同様の方法で、2,4−ジクロロフェノール0.052ppmを添加したCOD1.5ppmの河川水について分析を行なった。その結果、実施例1と同様に、オレフィン系の塩素化合物の他に揮発性の高いモノクロロベンゼン、ジクロロベンゼンのピーク(濃度として0.05〜0.1ppb)が観察された。
【0043】
図2は、実施例1、実施例2、実施例3で調整した2,4−ジクロロフェノールを添加した河川水で測定されたモノクロロベンゼンのピークの波高(検出ピーク高さ)とジクロロフェノール添加量の関係を示したグラフである。
【0044】
図2より、モノクロロベンゼンはジクロロフェノール添加量にほぼ比例したピーク高を示した。
【0045】
本発明は、非揮発性のジクロロフェノールをフェントン反応で揮発性のモノクロロベンゼンに転換し、そのモノクロロベンゼンの検出量によって、ジクロロフェノールの分析を行うものであるから、モノクロロベンゼンのピークとジクロロフェノール添加量との相関性は重要な意味を有する。
【0046】
なお、実施例1〜3、比較例1において微量に観察される2,4−ジクロロフェノールのピークには定量性は見られず、未検出の場合もあった。
【0047】
実施例4
腐植性土壌水懸濁液の上澄水を1Lの容器に500mlを測り採り、脱気後、次亜塩素酸ナトリウムを5mg/L添加して検水を得た。
【0048】
検水を約10分放置した後、その白金コーティングしたチタン電極(エクスパンドメタル)槽に通して、印加電圧5Vの定電圧電解を行った。
【0049】
この液を図3に示すヘッドスペース法によって、ハロカーボンを含むアルゴンガスを捕集し、ECD検出器に送り、有機塩素系化合物を検出した。具体的には、捕集容器10を検水中に挿入し、容器10の下方からアルゴンガスによって曝気し、ハロカーボンを含むアルゴンガスを容器10の上部に集めた。捕集したガスはガスシリンジ11によって吸引し、ECD検出器に送り、有機塩素系化合物を検出した。
【0050】
比較例2
次亜塩素酸ナトリウムの添加および電解を行なわない以外は、実施例4と同様に、捕集したガスを検査した。
【0051】
比較例2では、ほぼ一定の検出高のピーク高を示した。このピークは主に残留空気(酸素)と考えられる。一方、実施例4では、比較例2のガスのピークの2〜10倍の検出高さを示した。
【0052】
また実施例4のガスをECD検出器を有するガスクロマトグラフ分析計で測定したところ、トリクロロエチレンが検出同定された。このほかにも各種の有機塩素系化合物が存在することがわかった。
【0053】
比較例2のガスも実施例4と同様にECD検出器を有するガスクロマトグラフ分析計で測定したところ、実施例4で検出されたようなトリクロロエチレンや各種の有機塩素系化合物は検出されなかった。
【0054】
実施例5
実施例4に用いたものと同じ腐植性土壌水懸濁液の上澄水に、トリクロロエチレン濃度が1.2ppm、1.9ppm、3.7ppmになるように試薬を添加し、アルゴンガスによってヘッドスペース法で捕集し、ECD検出器を有するガスクロマトグラフ分析計で測定した。
【0055】
トリクロロエチレン濃度と、空気分を差し引いた検出ピーク高さ(相対値)との関係を図4に示す。
【0056】
図4から読みとれるように、低濃度側(2ppm以下)では1対1対応の相関性が見られ、不揮発有機塩素化合物も本発明によって測定できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る非揮発性有機ハロゲン化合物の検出方法の一例を説明するフロー図
【図2】モノクロロベンゼンのピークとジクロロフェノール添加量との相関性を示すグラフ
【図3】実施例5におけるヘッドスペース法を説明する図
【図4】トリクロロエチレン添加濃度と、空気分を差し引いた検出高との相関性を示すグラフ
【符号の説明】
【0058】
1:酸化分解槽
2:フェントン試薬供給タンク
3:バイアル
4:ガス吸引ポンプ
5:検出器
10:捕集容器
11:ガスシリンジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非揮発性有機ハロゲン化合物を含む検水を弱酸性下〜アルカリ性下で酸化処理して、非揮発性有機ハロゲン化合物を分解して揮発性有機ハロゲン化合物を生成し、その後、パージトラップ法もしくはヘッドスペース法を用いて前記揮発性有機ハロゲン化合物を気相に移行し、該気相中の有機ハロゲン化合物を電子捕獲型検出器(ECD)又は水素炎イオン化検出器(FID)で検出することを特徴とする非揮発性有機ハロゲン化合物の検出方法。
【請求項2】
酸化処理が、過酸化水素水と二価の鉄塩水溶液を含む水溶液を用いたフェントン反応によることを特徴とする請求項1記載の非揮発性有機ハロゲン化合物の検出方法。
【請求項3】
酸化処理が、次亜塩素酸塩による酸化処理と電解酸化処理を併用することを特徴とする請求項1記載の非揮発性有機ハロゲン化合物の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−112878(P2010−112878A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286758(P2008−286758)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(504300088)国立大学法人帯広畜産大学 (96)
【Fターム(参考)】