説明

非放射性シリングテスト

本発明は、COBASORB試験と名付けた新規方法に関係し、それは、ヒトにおけるコバラミン吸収不良が原因の試験に使用し得る。COBASORB試験は、別々に、連続的にまたはランダムな順序および数で行い得る3つに別れた試験(第一、第二および第三の試験)を含む。第一の試験は摂取のために非放射性コバラミンを使用し、第二の試験は摂取のために非放射性コバラミンおよび組み換え体内因子を使用し、そして第三の試験は摂取のためにコバラミンで飽和した組み換え体ハプトコリンを使用する。3つすべての試験は、血液中のコバラミン飽和トランスコバラミン(ホロ-TC)およびコバラミン飽和ハプトコリン(ホロ-HC)の濃度における変化の分析を含む。また、これらの方法での使用に適当なキットを開示する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願で引用するすべての特許文献および非特許文献は、引用によりすべて本明細書に含める。
【0002】
本発明の分野
本発明は、ビタミン B12欠乏の原因を診断するための非放射性コバラミンの使用に関係する。コバラミンは、遊離型またはタンパク質、例えば、内因子およびハプトコリン(haptocorrin)との結合型の何れかで使用され得る。それは、経口投与され、次いで、血液サンプルは、血液中に存在するコバラミン、例えばトランスコバラミンおよび/またはハプトコリンに結合した血漿コバラミンの濃度の変化について分析される。
【0003】
発明の背景
ビタミン B12欠乏は、高齢世代において10-15%までの頻度で生ずるよくある病状である。食物からのコバラミン(ビタミン B12)の吸収は哺乳類にとって重要である。哺乳類は2つの重要な酵素、メチオニンシンターゼおよびメチルマロニル-CoA ムターゼの補因子としてメチル-および5'-デオキシアデノシル-コバラミンを必要とするためである。食物から血液へのコバラミンの輸送は内因子を必要とする。内因子は、胃粘膜の壁細胞により胃において分泌されるコバラミン結合タンパク質である。内因子は、腸においてコバラミンに結合し、内因子-コバラミン複合体は、レセプター、キュビリン(cubilin)への結合を介して回腸終端部における上皮細胞により後に吸収される。上皮細胞において、コバラミンは、内因子から分離され、血液に輸送される。血中で、それは、血漿中に存在するトランスコバラミンおよびハプトコリンに結合している。トランスコバラミン-コバラミン複合体およびハプトコリン-コバラミン複合体は、それぞれ、ホロ-TC(holo-TC)およびホロ-HC(holo-HC)と称せられる。多くの患者では、ビタミン B12欠乏は、胃液中への内因子の分泌が全くないか減少することにより生ずる。これら患者による内因子およびコバラミンの両方の摂取は、コバラミンの吸収の顕著な増加を生ずる。
【0004】
シリングテスト(Schilling test)
血液へのコバラミンの吸収が、内因子と共にコバラミンを単に加えることにより内因子を分泌しない患者で回復し得るという事実は、ビタミン B12欠乏の診断を患者において行う常套の試験、シリングテスト(Ward, 2002)に用いられる。その目的は、患者が内因子の分泌を減少するのかまたはビタミン B12の腸の吸収不良であるのか、何れであるかを決定することである。典型的な形式のシリングテストは二工程からなる。第一の部分では、ビタミン B12結合タンパク質を飽和するために多用量の非標識化(非放射性)ビタミン B12の注射を受けた後、遊離放射性コバラミンは患者により摂取される。これは、幾らかの吸収された標識化ビタミン B12が尿に排泄されることを確実とする。次いで、尿は、次の24 時間で回収され、存在する放射性コバラミンの量を測定する。非常に僅かな放射能が尿中に存在する場合、これは、コバラミン吸収の欠陥を示し、それは、内因子分泌の欠損のような内因子欠失または腸の吸収不良により生じ得る。これら2つの病状を識別するために、シリングテストの第二の部分が行われる。該テストのその部分において、患者は、内因子と共に放射性コバラミンを摂取する。再度、尿が、次の24 時間で回収され、放射能が測定される。コバラミン吸収が、内因子とコバラミンの共摂取により回復することから、尿中の放射能の顕著な増加は、患者が内因子を欠乏しているという診断をサポートする。尿中に放射能が全くないのは、患者が、コバラミン吸収の過程における更なる欠陥、例えば、腸の機能不全を有しているということを示している。
【0005】
シリングテストは、幾つかの改良型が上市されている。あるものでは、遊離型ではなく食物中に組み込まれた標識化コバラミンを提供している。これは、患者の吸収不能が、例えば、膵機能不全を患う患者で見られる得る食物からビタミン B12を遊離させる能力の減少と関係するかどうかを試験するために行った。
【0006】
シリングテストの形式がどんなものであろうと、この方法に関連する幾つかの重大な問題および制限がある:
最も重要であるのは、標識化ビタミン B12の使用である。用いる放射能の量は限られているが(量 0.5 x 10-6ci)、患者と、放射性コバラミンを扱いそして試験に必要な生体物質を回収する医療従事者の両者にとって徐々に受け入れられないものになる。
24時間にわたる尿の回収に問題がある。それは時間がかかり、患者からの尿の回収は不完全となり比較的大きな不確実さが障害となる。
シリングテストの他の形式は、便の採取(the Dicopac test)または全身放射能計測を含む。これらの手順は、不快であり、および/または非常に時間がかかると考えられる。
シリング型テストでの使用のための内因子の入手可能性が問題であり、現在、ヒト内因子の入手可能な源はない。
食物コバラミン吸収試験は標準化の欠落が障害となり、このため、この試験の利点が制限される。
ビタミン B12 吸収用の現在のシリング型テストは、患者のビタミン B12の状態に関しては評価し得ない。すなわち、ビタミン B12を吸収できる患者では、現在のテストは、患者がビタミン B12を更に必要とするのかどうか明らかにできない。
【0007】
Henzeら(1988)は、非放射性ビタミン B12が患者に投与され、血漿ビタミン B12を測定する研究を行った。彼らは、正常なシリングテスト結果を有する患者と異常なシリングテスト結果を有する患者との間の重要な相違を発見しなかった。著者らは、非放射性ビタミン B12ではシリングテストはできないと結論づけている。
【0008】
ホロ-TC測定
ホロ-TC測定は、コバラミン欠乏の患者の同定のための方法として考えられている。しかしながら、ホロ-TCの生理学的役割は複雑であるため、どれほど低いホロ-TC濃度が実際に示されるのか不明である(Carmel, 2002)。実際、低ホロ-TCの決定因子として、コバラミン欠乏であるのかまたは吸収が悪くなったのか、説得力のある証明はない(Carmel (2002) Clinical chemistry 48, 407およびその引用文献)。
【0009】
発明の概要
本発明者らは、ホロ-TCの血清レベルが能動的ビタミン B12 吸収を反映することを証明した。これは、非放射性コバラミンを用いる、ビタミン B12 吸収の測定のための改善方法およびキットの開発を可能とする。
【0010】
本発明の方法は、非放射性コバラミン、ヒト内因子およびハプトコリンの経口投与および血液ホロ-TCおよびホロ-HC濃度の変化の測定を用いる。本発明は、シリングテストに関連するすべての上記の問題を解決する。
【0011】
本発明のテストでは、非放射性コバラミンの経口摂取、その遊離型またはヒト内因子もしくはハプトコリンとの複合体型の何れかを用いる。血液サンプルは、ビタミン B12の摂取直前およびその後一定時間の間隔で回収する。サンプル中のホロ-TCは、ビタミン B12の摂取のインディケーターとして測定し、および/またはホロ-HCは、ビタミン B12の保存のインディケーターとして測定する。組み換えタンパク質は、天然ヒトタンパク質を用いる場合に問題となり得るような、疾病伝播および他のビタミン B12結合タンパク質による汚染のリスクを回避するために、用い得る。
【0012】
本発明は、既存の方法を超える多数の利点を提供する。
本発明は、放射性ビタミン B12ではなく非放射性のものを用いる。
手順は、尿の回収とは対照的に、単なる血液検査を含む。
それには、熟練者の手助けがほとんど必要ない。患者は、コバラミン結合タンパク質と共にまたはそれを伴わずにコバラミン錠剤を摂取し、血液サンプルを少し採取する。
例えばトランスジェニック植物で産生した組み換えヒト内因子およびハプトコリンを使用し得る。これにより、ヒトの疾患の伝播および/または他のコバラミン結合タンパク質による汚染を避ける。
食物コバラミンの試験用量のような、コバラミンにより飽和したハプトコリンの使用は、本発明のこの部分を標準化し得る。
ホロ-TC(ビタミン B12 吸収の初期の変化を反映する)およびホロ-HC(ビタミン B12の残存を反映する)の両方の測定は、ビタミン B12欠乏を患うと疑われる患者の診断をより正確にし得る。
【0013】
シリングテストでは、回収した尿中の放射能を測定することによりコバラミン吸収をモニターするため、本発明の試験における非放射性コバラミンの使用では、他の検出システムが必要である。ホロ-TCの血漿濃度およびTCの飽和度は、コバラミン吸収後増加し、ホロ-HCの血漿濃度は、患者が体内にビタミン B12を十分に保存するならば、更なる期間後増加し得る。それ故、ホロ-TCおよび/またはホロ-HCの血漿濃度の測定、および/またはTCおよび/またはHCの飽和度の測定は、尿中の放射性コバラミンの測定と置き換わり得る。
【0014】
本明細書で記載する試験は、好ましくは数回の摂取であって、推奨されるコバラミンの日用量の摂取前および後に血液サンプル採取すること、その後の、ホロ-TCおよびホロ-HC濃度の変化についての血液サンプルの分析を含む。好ましくは、数日後、患者は同じぐらいの量のコバラミンを摂取し得るが、その場合は内因子と共に摂取し得る。新しい血液サンプルを採取し、ホロ-TCおよびホロ-HC濃度の変化について分析する。2セットの血液分析の結果の組合せから、内因子の欠乏または腸の吸収不良のいずれが、ビタミン B12欠乏の原因であるかを診断することが可能となる。血液中の低ホロ-HC濃度は、患者が体の細胞にすべてのビタミン B12を輸送したことを示し、血液には全く戻ってないか僅かしか戻っていないことを示す。ハプトコリン-結合コバラミンの経口投与は、食物から内因子へとコバラミンを輸送する患者の能力を調べることをを可能とする。
【0015】
このため、本発明は、従来のシリングテストと比較して多数の利点がある:
放射性コバラミンの経口投与を含まない。
放射性の尿または便の紛失および環境汚染のリスクを避ける。
回収した尿の代わりに血液サンプルを使用する。血液サンプルの回収は簡単であり、その一方、尿の回収は、尿を紛失する多くの患者で、およびシリングテストのようなコバラミン吸収の算出の不正確さのため、非常に問題となり得る。
コバラミン、またはコバラミン+内因子、またはコバラミン+ハプトコリンの摂取の前および後にホロ-TC濃度および/またはTC飽和度を測定し得る。それ故、該試験は、ビタミン B12の吸収を回復する内因子の能力および食物中のビタミン B12のタンパク質結合の指標となると考えられているタンパク質に対して結合したビタミン B12を処理する患者の能力の両方を試験する標準化アッセイとなる。
血液サンプル中のホロ-HC濃度および/またはHC飽和度の測定を含み得る。これらの結果は、患者内での長期間にわたるコバラミンの状態についての情報を与える。シリングテストではそのような情報は得られない。
該試験は、シリングテストに使用する用量と比較して多用量の遊離型コバラミンまたは内因子に結合したコバラミンを使用し得る。これは、腸吸収能についての情報を与え得る。
【0016】
図面の簡単な説明
図 1: 9μgのビタミン B12を3回摂取した後の31人の健常者における血清ビタミン B12 (黒四角)、全TC (黒三角)、ホロ-TC(黒丸)およびTC飽和度(黒菱形)の変化。
【0017】
ベースラインからの増加率(日0)を示す。平均および平均の標準誤差を示す。ビタミン B12の摂取後、ベースラインの値(日0)から日1(すべてのパラメーターでp <0.0002)または2(すべてのパラメーターでp <0.0005、TC(p=0.002)は除く)までの間にすべてのパラメーターで非常に有意な変化があった。日6において、ビタミン B12の変化のみがベースライン値とは有意に相違した(p=0.0024)。
【0018】
図 2: 31人の健常者におけるビタミン B12の経口摂取後の一定時間間隔におけるベースラインからのTC飽和度(A)、およびビタミン B12 (B)の増加率の各プロット。
【0019】
水平ラインは、日 1 (n=30)の応答者におけるTC飽和度についての最小増加(21%)を示す。
【0020】
図 3: 9 μgのビタミン B12を3回摂取した後の31人の健常者(白丸)および7人の患者(黒三角:クーロン病と診断、黒丸:診断は不明である)における血清ビタミン B12、全TC、ホロ-TCおよびTC飽和度の絶対変化(absolute changes)。7人の患者についてのシリングテスト I (24 時間にわたる放射性ビタミン B12の尿排泄)の結果をそのグラフに示している。投与用量の10-40%の尿排泄が正常であると考える。
各パラメーターについて、ビタミン B12 摂取後に観察される相違(日 1-日 0)は、対応するパラメーターの初期値(日 0)に対してプロットした。細い垂直ラインは、各パラメーターについてのより低い参照値を示す。細い水平ラインは、異常値(n=2)を省いた後の対照患者におけるホロ-TC(15 pmol/L)、およびTC飽和度(0.02)の最小増加示す。全TCについての細い水平ラインは0を示す。ビタミン B12についての細い水平ラインは、ホロ-TC (15 pmol/L)で観察された最小増加を示す。
【0021】
本発明の詳細な説明
本発明の方法
第一の態様では、本発明は、患者におけるビタミン B12欠乏の原因を決定するための方法を提供する。その方法は、非放射性コバラミンまたはその類似体の摂取後の血液または血清中のホロ-TCおよび/またはホロ-HCの濃度を、当該摂取前に採取したサンプル中の濃度と比較することを含む。
【0022】
同様に、本発明は、個体におけるビタミン B12欠乏を診断するための方法であって、以下の工程を含む該方法に関係する:
i)個体から血液サンプルを得る工程、
ii)該個体に、一定用量の非放射性コバラミンまたはその類似体を、結合タンパク質と共にまたは結合タンパク質なしで摂取させる工程、
iii)血流中のコバラミンまたはその類似体の摂取(あるならば)に足る十分な時間後、二番目の血液サンプルを該個体から得る工程、
iv)その2つのサンプルにおいて、ホロ-TCの濃度、ホロ-HCの濃度、TCの飽和度、およびHCの飽和度からなる群から選択される1以上を測定する工程、および
v)その2つのサンプル中の該濃度および/または飽和度の比較に基づき、該コバラミンまたはその類似体が血流中に吸収されたかどうか決定する工程。
【0023】
更に、本発明は、個体におけるビタミン B12の吸収を測定するための方法であって、以下の工程を含む該方法に関係する:
i)該個体由来の2つの血液サンプルを提供する工程、ここで、
第一のサンプルは、該個体による非放射性コバラミンまたはその類似体の摂取(結合タンパク質と共にまたは結合タンパク質なしで)前に採取し、および
第二のサンプルは、該摂取後に採取する、
ii)そのサンプルにおいて、ホロ-TCの濃度、ホロ-HCの濃度、TCの飽和度、およびHCの飽和度からなる群から選択される1以上を測定する工程、および
iii)その2つのサンプル中の該濃度および/または飽和度の比較に基づき、該コバラミンまたはその類似体が血流中に吸収されたかどうか決定する工程。
【0024】
従って、幾つかの実施態様では、測定は、ホロ-TC濃度および/またはTC飽和度の測定からなる。他の実施態様では、それは、ホロ-HC濃度および/またはHC飽和度の測定からなる。また他の実施態様では、その測定は、4つすべてのパラメーター、すなわち、ホロ-TCの濃度、ホロ-HCの濃度、TCの飽和度およびHCの飽和度の測定からなり得る。
【0025】
好ましい実施態様では、能動的な(すなわち、内因子仲介)吸収を測定する。
【0026】
非放射性コバラミンまたはその類似体の摂取からその後の血液サンプルの採取までの経過時間は、血流中の非放射性コバラミンまたはその類似体を摂取(もしあるならば)し得る程度に長くなければならない。.
【0027】
好ましくは、コバラミン摂取用量の吸収前のホロ-TCおよび/またはホロ-HC濃度および/またはTCおよび/またはHCの飽和度を測定するための第一の血液サンプルを摂取前に採取する。しかしながら、「摂取前に採取する」という表現はまた、第一の血液サンプルを、摂取と同時に採取するか、または吸収前であって摂取の直後に採取し得るという状態を包含することを意図する。
【0028】
その方法は、コバラミンと共に内因子またはハプトコリンを摂取することにより修飾し得る。2以上の形態の試験は任意の順序で連続して患者に行い得る。例えば、3形態すべての試験は、第一の試験でコバラミンのみ、第二の試験でコバラミンおよび内因子を、そして第三の試験でコバラミンおよびハプトコリンを患者に摂取させることにより行い得る。
【0029】
コバラミン(ビタミン B12)は、4つのピロール単位を有するコリン環からなる分子であり、それは、重要で中心的なコバルト原子を包み込み、そしてそれらに結合している。コリン面(corrin plane)の下はジメチルベンゾイミダゾール塩基を有するヌクレオチド誘導体であり、それはまた、コバルト原子に連結している。最終的に、コバルト原子は、コリン面の上に位置する6番目の分子(例えば、: -CH3, -OH, -H2O, 5'-デオキシアデノシル, -CN)に結合する。本出願では、我々は、「コバラミン」および「ビタミン B12」なる用語をヒト内においてビタミンの活性型に変換し得る任意の形のビタミンを示すのに用いる。コバラミンは動物または植物によっては合成され得ず、幾つかの微生物、特に、嫌気性細菌によってのみ産生される。本明細書で用いる用語「コバラミン」は、内因子、トランスコバラミン、および/またはハプトコリンに結合するための能力を有するコバラミン、シアノ-コバラミン、メチル-コバラミン、ヒドロキシ-コバラミンまたはその類似体を含む。
【0030】
経口投与に用いるコバラミンは、非放射性型である。コバラミンの投与の目的は、治療であり、または非治療であり得る。1、2、3用量またはそれより多い用量が、一定の間隔で、例えば、6時間ごとに摂取され得る。コバラミンの繰り返しの摂取が、コバラミンの吸収が生ずるならば、血液中のホロ-TCの濃度および場合によってはホロ-HCもまた増加し得る。コバラミンの推奨日用量の数回の投与が、吸収システムが十分に機能するならば、血液中のホロ-TC濃度の顕著な増加を生ずる。シリングテストにおけるような、コバラミンの小用量の使用(0.5ナノモル未満)は、血液中のホロ-TCの顕著な増加を生じない。。好ましくは、用量は、受動的吸収(すなわち、内因子により仲介されない吸収)が最小となるように選択する。このため、好ましくは、コバラミンの全摂取用量は、0.5と500ナノモルの間、より好ましくは、1と250ナノモルとの間、またより好ましくは、2と100ナノモルとの間、最も好ましくは、5と50ナノモルとの間である。特に好ましい実施態様では、3用量のコバラミンが摂取され、それらはそれぞれ、5と15ナノモルとの間である。
【0031】
数時間たった血液サンプル、例えば、コバラミンの摂取後の次の朝のサンプルは、コバラミンが腸から吸収され得そして血液中のTCに輸送され得るならば、血液中のホロ-TC濃度の最大変化に有利に働く。1つの好ましい実施態様では、血液中のホロ-TCおよび/またはホロ-HCおよび/または全-TCおよび/または全-HCの濃度は、コバラミンの最後の摂取後、48 時間、より好ましくは、8-16 時間未満で測定される。2以上の形態の試験で第二の試験(例えば、コバラミンのみの摂取、および/またはハプトコリンとコバラミンの摂取、および/または内因子とコバラミンの摂取後)を同じ患者で行うならば、血液中のホロ-TCおよび/またはホロ-HCおよび/または全-TCおよび/または全-HCの初期濃度は、コバラミンの最後の投与後、48 時間を超え、好ましくは、5-10日後に測定する。
【0032】
コバラミン結合タンパク質は、コバラミンまたはその類似体に結合できるタンパク質である。この発明に使用するコバラミン結合タンパク質は、トランスコバラミン、内因子およびハプトコリンまたはこれらタンパク質のいずれかの機能的同等物である。本明細書の機能的同等物は、コバラミンに結合する能力を保持することを意味する。機能的同等物は、例えば、コバラミン結合タンパク質の機能的に同等のフラグメントまたは機能的に同等の変異体であり得る。コバラミン結合タンパク質の好ましいフラグメントは、対応するタンパク質の全長の少なくとも50%、少なくとも75%など、少なくとも90%などを含む。好ましい変異体は、対応するタンパク質と、少なくとも50%、少なくとも75%など、少なくとも90%などの配列同一性を有する。
【0033】
2つのアミノ酸配列の同一性のパーセンテージは、最適な比較目的(例えば、ギャップは、最良のアライメントのために両配列に導入され得る)のために配列を整列させ、対応する位置においてアミノ酸残基を比較することにより決定される。「最良のアライメント」は、最も高い同一性のパーセンテージを生ずる、2つの配列のアライメントである。同一性のパーセンテージは、比較する配列における同一アミノ酸残基の数により決定される(すなわち、%同一性 = 同一の位置の数 / 位置の総数 x 100)。
【0034】
血漿ホロ-TCおよび血漿ホロ-HC濃度の摂取および分析に使用するコバラミン結合タンパク質は、例えば、ヒト、ブタ由来の天然のものまたは、例えば酵母、植物、植物細胞、昆虫細胞、哺乳類細胞で産生される組み換えコバラミン結合タンパク質であり得る。コバラミン結合タンパク質は、好ましくは、酵母またはトランスジェニック植物により産生される組み換えヒトタンパク質である。これは、他の哺乳類物質を含む内因子およびハプトコリンの源から哺乳類の病原体が伝搬するリスクを排除するためである。
【0035】
コバラミン、内因子およびハプトコリンは、すべて経口投与に適応される。それらは、カプセルまたは錠剤; 粉剤または顆粒剤; 水性または非水性の液体中の溶液または懸濁液; 食用の泡または起泡剤(whips); または水中油型液体エマルジョンもしくは油中水型液体エマルジョンのような個々の単位として提供され得る。
【0036】
本明細書に記載の方法は、すべての型の個体由来のサンプルで行い得る。その個体には、健常の個体、ビタミン B12-関連の欠乏を患うと疑われているがまだそのように診断されていない個体、またはビタミン B12-関連の欠乏を患っていることが判っている患者が含まれる。1つの実施態様では、該個体はAIDSを患ってはいない。
【0037】
血液中のホロ-TCおよびホロ-HC濃度は、幾つかの異なる方法により決定され得る。2、3のそのような方法は以下に記載するが、何れか適当な方法が使用され得る。適当な方法は、例えば、米国特許出願 US20010051346およびUS20030148541に記載のものである。
【0038】
血液サンプル中の全トランスコバラミン(アポ-およびホロ-TCの両方)および全ハプトコリンは、例えば、トランスコバラミンおよびハプトコリンのそれぞれに対する抗体を用いるELISAにより決定され得る。アポ-型(コバラミンで飽和されていない)のトランスコバラミンおよびハプトコリンの部分は、コバラミンで被覆したで被覆したビーズまたは固体物質に対する親和性により分離され得る。次いで、結合TCおよびHCの量は、トランスコバラミンおよびハプトコリンに対する抗体を用いるELISAにより決定され得る。ホロ-TCおよびホロ-HCの濃度は、アポ-およびホロ-型の両方の濃度の和からアポ-型の濃度を差し引くことにより算出され得る。TC飽和度およびHC飽和度は、ホロ-TC/全-TCおよびホロ-HC/全-HCとして、それぞれ算出され得る。
【0039】
更にまた、血液サンプル中のトランスコバラミンまたはハプトコリンのホロ-型濃度は、例えば、ホロ-型のみを認識するが、アポ-型またはコバラミン単独は認識しないモノクローナル抗体を用いるELISAにより決定され得る。
【0040】
更にまた、トランスコバラミンおよびハプトコリンのホロ-型濃度は、Nexo et al. (2002) により記載される方法を用い測定され得る。この方法は、コバラミン結合タンパク質のアポ-型に結合するコバラミン被覆化磁性ビーズによるサンプルからのアポ-TCおよびアポ-HCの除去を含む。ビーズが除かれると、上清は、ホロ-TCおよびホロ-HCと、コバラミンに結合できない他のタンパク質を含むが、もはや、TCおよびHCのアポ-型は含まない。ホロ-TCおよびホロ-HCの濃度は、Nexo et al. (2000)によってTCに関し記載されているようにTCおよびHCのそれぞれに対する抗体を用いるELISAを用いることにより測定される。
【0041】
血液中のホロ-TCの濃度はまた、Axis Shield (Norway)のホロ-TC RIAのような、そしてUleland et al. (2002)により記載されている放射性-結合アッセイを用いることにより測定され得る。
【0042】
コバラミンの摂取後の血液中のホロ-TC濃度および/またはTC飽和度の増加は、試験された人が、摂取したコバラミンに結合できる内因子を分泌することを反映している。それはまた、コバラミン-内因子複合体が腸レセプターに結合でき、血液中でコバラミンからトランスコバラミンへの最終的な輸送が起こったことを示す。更にまた、ホロ-TC濃度および/またはTC飽和度の増加が僅かまたは全くないならば、これは、その人が腸レセプターへのコバラミンの効率的な輸送のための内因子を殆ど分泌しないかまたは全く分泌しないこと、または腸での吸収の能力が、例えば、腸レセプターの問題から制限されていることを示す。コバラミンの推奨日用量を数回使用すると、吸収システムを飽和し、それ故、吸収の能力を明示する。
【0043】
吸収したコバラミンが、血液中でTCとの複合体で最初に現れ、その後、HCに輸送される。このため、ホロ-HC濃度は、血液中のホロ-TC濃度よりも後に増加する。試験した人が、長期間、ビタミン B12欠乏を患うならば、生体中のコバラミンの貯蔵は低くなるかまたは枯渇する。コバラミンの数ナノモルの吸収は、コバラミンが組織細胞に輸送される前にホロ-TCの一時的に増加をもたらす。この状況では、血液中のホロ-HC濃度は顕著に増加しない。
【0044】
内因子またはハプトコリンおよびコバラミンは、同時に、別々にまたは連続して摂取され得る。第一の形態の方法(例えば、コバラミンのみの摂取)の結果と、第二および/または第三の形態の方法(コバラミンおよび内因子および/またはハプトコリンの両方の摂取)の結果との比較を促進するため、使用するコバラミンの用量が、すべての試験で同じであることが好ましい。
【0045】
経口的に投与したコバラミンが、腸で吸収されないとき、ビタミン B12欠乏の原因は、内因子分泌の欠陥または他のタイプの内因子欠乏であり得る。そのため、コバラミンおよび内因子の両方が経口的に患者に投与される。血液中のホロ-TCおよびホロ-HCの増加がコバラミンおよび内因子の両方の摂取後に生ずるならば、患者は、不十分な内因子分泌または他のタイプの内因子欠損を患っている。ホロ-TCの僅かまたは大きな増加は、腸のコバラミン-内因子吸収から、それぞれ僅かおよび大きな能力を反映する。ホロ-HCが増加しないがホロ-TCが増加するのは、患者がビタミン B12欠乏を長期間患い、その結果、ホロ-HCの体内の貯蓄が少なくなるかまたは全くなくなることを反映している。
【0046】
その方法は、ビタミン B12欠乏が、腸におけるハプトコリン(コバラミンに結合したタンパク質を有する食物の代用として)から内因子へのコバラミンの輸送の欠損により生ずるのかどうかの決定に適用され得る。
【0047】
患者が、ビタミン B12欠乏をまだ患っているがコバラミンの摂取後、コバラミンを吸収できるとき、欠乏の原因は、内因子または腸レセプターの欠損ではないが、ひょっとしたら、食物中のコバラミン結合タンパク質から内因子へコバラミンを輸送する能力の欠損である可能性がある。ハプトコリン(または食物中のコバラミン結合タンパク質の代用として役割をし得る他の結合タンパク質)に結合したコバラミンの数回の推奨日用量の摂取後の血液中のホロ-TC濃度が増加しないのは、その人が、膵臓異常を患う患者のように食物からビタミン B12を遊離させることができないことを示す。
【0048】
本発明のキット
更なる態様では、本発明は、ビタミン B12欠乏の診断での使用のためのキットを提供する。それ故、本発明は、ビタミン B12-関連欠損の診断での使用に適当なパーツキット(kit-of-parts)であって、以下を含む該パーツキットに関係する:
i)血液サンプル中のホロ-TCおよび/またはホロ-HC濃度測定に適当な物質、および
ii)本明細書に記載の何れかの方法を行う上での該キットの可能な使用についての記載を含むユーザー用の説明書。
【0049】
更に、本発明は、ビタミン B12欠乏の診断での使用に適当なパーツキットであって、以下を含む該パーツキットに関係する:非放射性コバラミンおよびトランスコバラミンに対する抗体および/またはハプトコリンに対する抗体。
【0050】
これらのキットは、例えば、コバラミン、内因子、ハプトコリン、トランスコバラミンに対する抗体、ハプトコリンに対する抗体、ビーズまたは固体支持体に結合したコバラミン、緩衝液およびカラムのうちの何れか1以上を含む1以上のコンテナーを含み得る。該抗体はまた、ホロ-TCのみを認識し、アポ-TCまたはコバラミンは認識しないモノクローナル抗体であり得る。コバラミン結合タンパク質の標識型がまた存在し得る。その構成要素は、各構成要素または準備のできた(ready prepared)混合物として提供され得る。試薬は、凍結乾燥型(freeze-dried or lyophilised form)でまたはレディーメイドの溶液として提供され得る。そのキットはまた、該キットを用いるための他のコンテナーまたはデバイスを含み得る。
【実施例】
【0051】
実施例
研究は、ホロ-TCおよび/またはTC飽和度の変化がビタミン B12の吸収を反映するかどうかを評価するために行った。
【0052】
材料および方法
研究に関与した対象は、2002年10月に補充された31人の健常者である。彼らのうち、ビタミン B12欠乏に関連する既知疾患を患っているものはいなかった。慢性全身性疾患を有する人、幾つか種類の薬物治療を受けている人(この一週間内にビタミン錠剤の投与を含む)および書面によるインフォームド・コンセントを受けることができない人は除外した。健常者の年齢は、25から57歳(平均40歳)までの範囲であった。男性9人女性22人であった。更に、2003年に内部の医学部の外来にかかった7人の患者(22-39歳、男性5人および女性2人)を含めた。ビタミン B12 吸収不良が疑われたからであった。7人の患者のうち3人が、以前にクローン病と診断されていた。残りの4人の患者の診断は不明であった。書面によるインフォームド・コンセントは対象者全員から得、Research Ethics Committee of Aarhus Countyは本研究のプロトコールを承認した(2002.0224)。
【0053】
研究プロトコール
ビタミン B12の吸収は、ビタミン B12の経口投与の前および後で得られるサンプルにおける血清ビタミン B12、全TC、およびホロ-TCの分析から評価した。
【0054】
健常者において、サンプルは、ビタミン B12 摂取の前日(-1)および日 0、1、2、および6の8:00 a.m.に採取した。血液サンプルを日 0に取り出した後、経口用量9 μgのビタミン B12 (Natur Drogeriet A/S, Hoerning, Denmark)を、投与間隔6 hで3回与えた(8 a.m.、2 p.m.、および8 p.m.(その時間は±45分ずれてもよいこととした)。一人の健常対象者は、日 6に血液サンプルを採取(delivering)したため用いることができなかった。患者7人におけるビタミン B12の吸収は、シリングテスト Iによりおよび上記の設計により評価した。但し、血液サンプルは、日 0および日 1のみで得た。該シリングテスト Iは我々の更なる別のアプローチ後行った。
【0055】
ビタミン B12 錠剤は、水またはオレンジジュースの何れかと共に与えた。対象者は、血液サンプリングの30から60分前に、乳製品を全く含んでいない軽い朝食をとったが、他の者は通常の食事をとった。その血液サンプルは60 分間遠心分離し、更に処理するまで-80℃で保存した。
【0056】
シリングテスト I
シリングテスト Iは、以前に記載のように行った(Chanarin, 1979)。端的には、絶食患者に、1μgの経口用量のビタミン B12を与える。それは、放射性コバルト(Co-57)で標識したものである。次いで、経口投与2時間後、その患者に、1000μgの非-標識化ビタミン B12を筋肉内注射する。24 時間の尿回収を開始する。次いで、24 時間で尿中に排泄される投与用量の割合を測定する。投与用量の10-40%の尿排泄が正常であると考えられる。
【0057】
生物化学的分析
血清ビタミン B12は、Centaur equipmentにおける市販の方法 (Bayer corporation, NY) により測定した(分析的な不正確さ(analytical imprecision) < 10%)。血清の全TCおよびホロ-TCは、最近述べられている(Nexo et al., 2000; 2002)ようなELISAにより測定した。但し、自動化ELISAアナライザー(BEP-2000, Dade Behring, Germany)の使用ができるように修飾した。以下の修飾を行った; インキュベーションはすべて37℃で行った。分析的な不正確さは、全TCで7%(平均=934 pmol/L, n=91)およびホロ-TCで8%(平均=38 pmol/L, n=41)であった。対照は、全TCで12 ヶ月およびホロ-TCで6 ヶ月行った。基準範囲は、健常な血液ドナー(年齢間隔; 21-65)から得た161サンプルを分析することから決定した。基準範囲は、全TCで700-1400 pmol/L、ホロ-TCで>50 pmol/LおよびTC飽和度で>0.05であった。血液学的パラメーターは、Coulter Counter(Beckman Coulter CA)で分析した。血漿クレアチニンはJaffe法およびRoche Cobas integra 700 オートアナライザーを用い測定した(分析的な不正確さ <3%)。
【0058】
統計的分析
個人内変動は、治療前(日 -1 および日 0)に得た2つのサンプルの被分析試料の測定からの、ANOVAによる分散の試算を用い算出した。
【0059】
時間の関数としてのパラメーターの変化(増加または減少)を、ベースライン(日 0) に相対する同一個体で得られた変化と、日 0を「0」とした理論メジアン(theoretical median)とを比較することにより分析した。そのデータは、正規分布を示していなかったため、ノンパラメトリックな試験(Wilcoxon matched pair test)を用いた。P-値 <5%は、統計学的に有意であると見なした。データは、SPSS10.0 (SPSS Inc.)およびGraphPad(Prism2)ソフトウェアを用い分析した。
【0060】
結果
健常者31人すべてが、表 1に要約したように正常な赤血球数、ヘモグロビン、平均細胞体積およびクレアチニンレベルを有していた。
【0061】
表 1:健常者31人におけるビタミン B12、血清ホロ-TC、全-TCおよびTC飽和度のメジアンおよび範囲、および個人内変動 a
【表1】


a 実験パラメーターは 日 -1で得た血液サンプルから測定した。
b ホロ-TC、全-TCおよびTC飽和度の基準範囲は、健常な血液ドナーから得た161のサンプルの分析に基づいた。
c 個人内変動は、B12を受ける前の健常者31人の日 -1および日 0で得た値に基づき算出した。
d ホロ-TC/全-TCとして算出した。
【0062】
個人内変動は、ビタミン B12の摂取の前(日 -1および日 0)に回収されたサンプルで得られたデータから算出すると、すべてのパラメーターで13%未満であった(表 1)。
【0063】
3回の9 μgのビタミン B12の経口摂取後、研究するすべてのパラメーターが図1に示すように変化した。ベースライン(日 0)に対する変化は、日 1(すべてのパラメーターでp <0.0002)および日 2(ホロTC、TC飽和度およびビタミン B12でp <0.0005、全TCでp=0.02)で非常に有意であった。ホロ-TCにおける最大パーセンテージおよび絶対増加(メジアンおよび(範囲))は、それぞれ39(0-+108)%、34(0-149)pmol/Lであり、TC飽和度では、割合として52(-2-+128) %、0.04(0-0.23)であった(n=31)。ホロ-TCおよびTC飽和度で15%以上の最大増加が、日 1に対象者29人で、そして日 2に対象者1人に観察された。健常対象者の一人だけが、ホロ-TCおよびTC飽和度を増加しなかった。
【0064】
血清ビタミン B12のパーセンテージおよび絶対増加が、それほど劇的ではなかった(14(-8-+51))%、36(-27-290) pmol/L。健常者4人では増加せず、健常者14人で15%未満の増加があった。
【0065】
僅かだが、有意な変化が全TCで観察された。最大パーセンテージおよび絶対減少は、5(-16-+9))%および46(-180-+77)pmol/Lであった。健常者31人のうち23人で、日 1に全TC濃度の減少が見られた。
【0066】
1 日後、最も高いレベル(メジアン(範囲))が、ホロ-TC(118 (56-344))pmol/L、TC飽和度(0.13(0.06-0.43))および血清ビタミン B12(279 (176-856))pmol/Lで得られた(表 2)。6日後、ホロ-TC、全TCおよびTC飽和度のレベルはベースラインと顕著に相違しているわけではなかったが、血清ビタミン B12のレベルは、ベースラインよりも有意に高いままであった(p=0.0086)。
【0067】
表 2: 健常者31人におけるビタミン B12の経口摂取前(日 0)におよび経口摂取後一定間隔(timed interval)でのTC飽和度、ホロ-TCおよびビタミン B12で得られた絶対値(メジアンおよび範囲)
【表2】

【0068】
算出したTC飽和度は、ビタミン B12摂取後のホロ-TC濃度の上昇と共に全TCで観察された減少のため、ビタミン B12 吸収の若干良好なマーカーになった。一人の健常対象者を除く全員で、TC飽和度が21%以上増加した。しかし、健常者7人だけが、血清ビタミン B12濃度において、それぐらいの増加またはより大きな増加を示した(図 2)。
【0069】
患者7人のうち4人が基準範囲よりも低い血清ホロ-TCおよびビタミン B12値を示し(図 3)、ビタミン B12 吸収の減少を疑われたが、彼らの血液学的パラメーターは正常であった(データ示さず)。これら患者4人のうち3人が、クローン病を有するとして事前に診断されていた。ビタミン B12摂取後、これらクローン病の患者三人は、ホロ-TC(3、7、14 pmol/L)およびTC飽和度(0.004、0.01、0.01)がごく僅かに増加した(図 3)。
【0070】
患者7人全員について、一人を除く、シリングテスト Iの定量的結果(尿中に排泄されるビタミン B12のパーセンテージ)を、ビタミン B12 摂取後の血清ホロ-TCの変化と概略で比較した(図 3)。クローン病の患者三人のうちの一人で、シリングテスト Iに異常があった(2%)。他の2人は、シリングテスト Iで正常範囲(10-40 %)であったが、その値は、基準範囲の低い位置であった(それぞれ10%、15%)。
【0071】
考察
この研究は、ホロ-TCおよびTC飽和度の血清レベルは能動的ビタミン B12 吸収を反映することを示す。3回の9 μgのビタミン B12の経口投与後1日で、ホロTCおよびTC飽和度のレベルが増加し、約50%のメジアン値となったが、その増加は、健常者の血清ビタミン B12ではたった14%であった。これらの知見が強力に示唆するのは、ビタミン B12の経口投与後のホロ-TCおよび/またはTC飽和度の測定が、ビタミン B12の能動的吸収を評価するというときには血清ビタミン B12の測定よりも多くの情報を保持するということである。
【0072】
今のところ、血液試験の使用による能動的ビタミン B12摂取を研究するために、患者に投与するビタミン B12の用量にほとんど注意は払われなかった。今まで行った殆どの研究は、比較的多量の単一の経口用量のビタミン B12 (1000 μg)を用いた(Henze et al. 1988; Moridani et al. 2002)。ここでの重大な点は、この多用量のビタミン B12により、非-IF仲介吸収が1 %だけで血漿濃度が上昇し、それによって、測定が変造される。この増加は能動的IF仲介吸収を反映しておらず、このため、能動的ビタミン B12 吸収に関する診断効果に限界がある。
【0073】
我々の研究において、我々は、ビタミン B12の摂取を2つの基準に合うように設計した。第一に、我々は、提供されている用量(Chanarin, 1979)のおよそ 1%の割合となるように、受動的吸収を最小化したかった。第二に、我々は、最適なシグナルを得るために、能動的に吸収されるビタミン B12をできる限り多く蓄積させたかった。これら2つの要求を満たすため、我々は、高い生理学的用量(9 μg)を使用することおよびこの用量を6時間の間隔で3回投与することを選択した。一定用量のビタミン B12の摂取後、更にビタミン B12 摂取が関係する限り、ビタミン B12の吸収が減少することにより不応期は約 3 時間となることは既知である(Chanarin, 1979)。最初の投与後に約 4-6 hあるときには、更なる用量のビタミン B12が正常に吸収される(Chanarin, 1979)。用量10μgのビタミン B12を用いれば、最も多い量のIF結合ビタミン B12が得られたことは既に示した。
【0074】
引用文献
Chanarin I. The megaloblastic Anaemias. Oxford: Blackwell Scientific Publications, 1979.

Nexo E, Christensen AL, Petersen TE et al. Measurement of transcobalamin by ELISA. Clin Chem 2000;46:1643-9.

Nexo E, Christensen AL, Hvas AM et al. Quantification of holo-transcobalamin, a marker of vitamin B12 deficiency. Clin Chem 2002;48:561-2.

Henze E, Manner S, Clausen M et al. The Schilling test cannot be replaced by an absorption test with unlabeled vitamin B12. Klin Wochenschr 1988;66:332-6.

Moridani, M. Y., Hoffman, B., Pritzker, K, and Bromberg, I. Vitamin B12 absorption test: (Abstract). Clin Chem 2002; 48: A146.

Uleland M, Eilertsen I, Quadros EV et al. Direct assay for cobalamin bound to transcobalamin (holo-transcobalamin) in serum. Clin Chem 2002;48:526-32.

Nexo E, Hvas AM, Bleie O et al. Holo-transcobalamin is an early marker of changes in cobalamin homeostasis. A randomized placebo-controlled study. Clin Chem 2002;48:1768-71.

Carmel R. (2002) Measuring and interpreting holo-transcobalamin (holo-transcobalamin II) Clin. Chem; 48: 407-409.
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図 1は、9μgのビタミン B12を3回摂取した後の31人の健常者における血清ビタミン B12 (黒四角)、全TC (黒三角)、ホロ-TC(黒丸)およびTC飽和度(黒菱形)の変化を示す。
【図2】図 2は、31人の健常者におけるビタミン B12の経口摂取後の一定時間間隔におけるベースラインからのTC飽和度(A)、およびビタミン B12 (B)の増加率の各プロットを示す。
【図3−1】図 3は、9 μgのビタミン B12を3回摂取した後の31人の健常者(白丸)および7人の患者(黒三角:クーロン病と診断、黒丸:診断は不明である)における血清ビタミン B12、全TC、ホロ-TCおよびTC飽和度の絶対変化を示す。
【図3−2】図 3は、9 μgのビタミン B12を3回摂取した後の31人の健常者(白丸)および7人の患者(黒三角:クーロン病と診断、黒丸:診断は不明である)における血清ビタミン B12、全TC、ホロ-TCおよびTC飽和度の絶対変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体におけるビタミン B12の吸収を測定するための方法であって、以下の工程を含む該方法:
i)該個体由来の2つの血液サンプルを提供する工程、ここで、
第一のサンプルは、該個体による非放射性コバラミンまたはその類似体の、結合タンパク質と共にまたは結合タンパク質なしでの摂取前に採取し、および
第二のサンプルは、該摂取後に採取する、
ii)そのサンプルにおいて、ホロ-TCの濃度、ホロ-HCの濃度、TCの飽和度、およびHCの飽和度からなる群から選択される1以上を測定する工程、および
iii)その2つのサンプル中の該濃度および/または飽和度の比較に基づき、該コバラミンまたはその類似体が血流中に吸収されているかどうか決定する工程。
【請求項2】
非放射性コバラミンまたはその類似体が結合タンパク質を伴わずに摂取される、請求項1の方法。
【請求項3】
非放射性コバラミンまたはその類似体が内因子またはその類似体、フラグメントまたは変異体と共に摂取される、請求項1の方法。
【請求項4】
内因子またはその類似体、フラグメントまたは変異体が組み換え体由来である、請求項3の方法。
【請求項5】
内因子またはその類似体、フラグメントまたは変異体が組み換え植物由来である、請求項3の方法。
【請求項6】
非放射性コバラミンまたはその類似体が以下のものと共に摂取される請求項1の方法
-ハプトコリンまたはその類似体、フラグメントまたは変異体
または
-食物中のコバラミン結合タンパク質の代用としての役割をし得る他の結合タンパク質。
【請求項7】
ハプトコリンまたはその類似体、フラグメントもしくは変異体または他の結合タンパク質が組み換え体由来である、請求項6の方法。
【請求項8】
ハプトコリンまたはその類似体、フラグメントもしくは変異体または他の結合タンパク質が組み換え植物由来である、請求項6の方法。
【請求項9】
事前にまたは事後に、請求項3の方法または請求項6の方法を行うことを更に含む、請求項2の方法。
【請求項10】
2以上の用量のコバラミン(結合タンパク質と共にまたは結合タンパク質は伴わずに)を摂取する、請求項1から9の何れかの方法。
【請求項11】
コバラミンを6時間の間隔で3回摂取する、請求項10の方法。
【請求項12】
コバラミンの全摂取用量が、0.5と500ナノモルとの間、好ましくは、1と250ナノモルとの間、より好ましくは、2と100ナノモルとの間、最も好ましくは、5と50ナノモルとの間である、請求項1から11の何れかの方法。
【請求項13】
3回の摂取用量のそれぞれが5と15ナノモルとの間である、請求項11の方法。
【請求項14】
ホロ-TCの濃度、ホロ-HCの濃度、TCの飽和度、およびHCの飽和度からなる群から選択される1以上の測定が、コバラミンの最後の摂取後48 時間未満で測定される、請求項1から13の何れかの方法。
【請求項15】
ホロ-TCの濃度、ホロ-HCの濃度、TCの飽和度、およびHCの飽和度からなる群から選択される1以上の測定が、コバラミンの最後の摂取後8-16 時間で測定される、請求項14の方法。
【請求項16】
後で行う方法のための、ホロ-TCの濃度、ホロ-HCの濃度、TCの飽和度、およびHCの飽和度からなる群から選択される1以上の最初の測定が、先に行う方法におけるコバラミンの最後の摂取後48 時間より後に測定される、請求項9から15の何れかの方法。
【請求項17】
後で行う方法のための、ホロ-TCの濃度、ホロ-HCの濃度、TCの飽和度、およびHCの飽和度からなる群から選択される1以上の最初の測定が、先に行う方法におけるコバラミンの最後の摂取後5-10日で測定される、請求項16の方法。
【請求項18】
結合タンパク質と共にまたは結合タンパク質を伴わないコバラミンが、各方法における投与間隔の時間数は同じで、同量、同数の用量で摂取される、請求項9から17の何れかの方法。
【請求項19】
結合タンパク質と共に摂取されるコバラミンのモル量が、摂取された結合タンパク質のモル量より少ない、それと同量またはそれよりも多いの何れかである、請求項1または請求項3から18の何れかの方法。
【請求項20】
血液における、ホロ-TCの濃度、ホロ-HCの濃度、TCの飽和度、およびHCの飽和度からなる群から選択される1以上の測定が、各方法において、結合タンパク質と共のまたはそれを伴わない、コバラミンの摂取後同時に測定される、請求項9から19の何れかの方法。
【請求項21】
ホロ-TCおよび/またはホロ-HCの濃度が免疫収着法により測定される、請求項1から20の何れかの方法。
【請求項22】
免疫収着法がELISAまたはRIAである、請求項21の方法。
【請求項23】
ホロ-TCおよび/またはホロ-HC濃度は、TCおよび/またはHCの全濃度からアポ-TCおよび/またはアポ-HCの濃度を差し引くことにより測定される、請求項21または22の方法。
【請求項24】
アポ-TCおよび/またはアポ-HCが、固相支持体に複合体化したコバラミンにサンプルを通すことにより除かれる、請求項21から23の何れかの方法。
【請求項25】
アポ-TCおよび/またはアポ-HCの濃度が、アポ-TCまたはアポ-HCに特異的なモノクローナル抗体を用いることにより測定される、請求項23または24の方法。
【請求項26】
ホロ-TCおよび/またはホロ-HCの濃度が、ホロ-TCまたはホロ-HCに特異的なモノクローナル抗体を用いることにより測定される、請求項21または22の方法。
【請求項27】
ホロ-TCまたはホロHC濃度が、ホロ-TCまたはホロ-HCに結合するビタミン B12の測定により測定される、請求項1から20の何れかの方法。
【請求項28】
測定が以下の工程を含む、請求項27の方法:
-TCまたはHCに対する抗体に結合させることによる、サンプルからの、TCまたはHCのアポ-およびホロ-型の両方の分離工程;
-ホロ-TCまたはホロ-HC部分からのコバラミンの放出およびTCまたはHCの除去または分解工程;
-競合結合アッセイにより放出されるコバラミンの量を測定する工程。
【請求項29】
第二のサンプルにおける、ホロ-TC濃度、ホロ-HC濃度、TC飽和度およびHC 飽和度からなる群から選択される何れか1以上
が、第一のサンプルよりも高くなるかどうかを決定することを最終測定工程が含む、請求項1から28の何れかの方法。
【請求項30】
個体における、可能性あるビタミン B12関連欠損を評価するための方法であって、
請求項1から29の何れかの方法の工程を含み、そしてサンプルにおける該濃度および/または飽和度の比較に基づき、該個体がビタミン B12-関連欠損を患っているかどうかおよび/または該欠乏の原因は何であるかを評価する工程を更に含む、該方法。
【請求項31】
個体におけるビタミン B12-関連欠損の原因を決定するための方法であって、
請求項1から29の何れかの方法の工程を含み、そしてサンプルにおける該濃度および/または飽和度の比較に基づき、該欠損の原因が何であるかを評価する工程を更に含む、該方法。
【請求項32】
ビタミン B12-関連欠損が、内因子分泌の欠損のような内因子欠損、または腸における内因子-結合コバラミンの吸収不良に起因するかどうかを評価するための方法であって、
請求項3の方法を行うことを含み、そしてサンプルにおける濃度および/または飽和度の比較に基づき、ビタミン B12-関連欠損が内因子の分泌の欠損または腸における内因子-結合コバラミンの吸収不良に起因するかどうかを評価する工程を更に含む、該方法。
【請求項33】
ビタミン B12-関連欠損が、食物から内因子へのコバラミンの欠陥輸送に起因するかどうかを評価するための方法であって、
請求項6の方法を行うことを含み、そしてサンプルにおける濃度および/または飽和度の比較に基づき、ビタミン B12-関連欠損が食物から内因子へのコバラミンの欠陥輸送に起因するかどうかを評価する工程を更に含む該方法。
【請求項34】
個体におけるビタミン B12欠乏を診断するための方法であって、以下の工程を含む該方法:
i) 個体から血液サンプルを得る工程、
ii) 該個体に、一定用量の非放射性コバラミンまたはその類似体を、結合タンパク質と共にまたは結合タンパク質なしで摂取させる工程、
iii) 血流中のコバラミンまたはその類似体の摂取(あるならば)に足る十分な時間後、二番目の血液サンプルを該個体から得る工程、
iv) そのサンプルにおいて、ホロ-TCの濃度、ホロ-HCの濃度、TCの飽和度およびHCの飽和度からなる群から選択される1以上を測定する工程、および
v) その2つのサンプル中の該濃度および/または飽和度の比較に基づき、該コバラミンまたはその類似体が血流中に吸収されているかどうか決定する工程。
【請求項35】
ビタミン B12-関連欠損の診断での使用に適当なパーツキットであって、以下を含む該パーツキット:
i) 血液サンプル中のホロTCおよび/またはホロHC濃度の測定に適当な物質、および
ii) 請求項1−34の何れかの方法を行う上での該キットの可能な使用についての記載を含むユーザー用の説明書。
【請求項36】
ホロTCおよび/またはホロHC濃度を測定するための物質が、トランスコバラミンに対する抗体および/またはハプトコリンに対する抗体を含む、請求項35のパーツキット。
【請求項37】
非放射性コバラミンを更に含む、請求項35または36のパーツキット。
【請求項38】
非放射性コバラミンおよびトランスコバラミンに対する抗体および/またはハプトコリンに対する抗体を含む、ビタミン B12欠乏の診断の使用に適当なパーツキット。
【請求項39】
内因子および/またはハプトコリンを更に含む、請求項35から38の何れかのパーツキット。
【請求項40】
固体支持体に結合したコバラミンおよび/またはホロ-TCおよび/またはホロ-HCの濃度の測定に必要な緩衝液、プラスチック物質およびサブストレートを更に含む、請求項35から39の何れかのパーツキット。
【請求項41】
標識化コバラミンを更に含む、請求項35から40のパーツキット。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【公表番号】特表2006−520466(P2006−520466A)
【公表日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504324(P2006−504324)
【出願日】平成16年3月12日(2004.3.12)
【国際出願番号】PCT/DK2004/000163
【国際公開番号】WO2004/081577
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【出願人】(504015023)コベント・バイオテック・アクティーゼルスカブ (1)
【氏名又は名称原語表記】COBENTO BIOTECH A/S