説明

非放射性リン脂質化合物、組成物、及び使用方法

本発明は、リン脂質エーテル及びアルキルリン脂質化合物、並びにそれらと他の癌治療剤との組合せを提供する。より具体的には、本発明は、ヨウ素の「コールド(cold)」同位体、例えば127I、又はHを有するリン脂質エーテル化合物の、癌の処置のための使用、並びに、放射性(即ち「ホット(hot)」)及び非放射性(即ち「コールド(cold)」)ヨウ素同位体の組合せに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、固形癌の処置のための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨウ素の放射性(即ち「ホット(hot)」)同位体を有するリン脂質エーテル及びアルキルリン脂質化合物(別名「PLE化合物」)並びにその癌の処置及び診断における使用は、当該技術分野で公知である。例えば米国特許No. 6,417,384 B1及びWO 2007/013894 A2を参照されたい。特に、化合物CLR1404 (18-(p-ヨードフェニル)オクタデシルホスホコリン)は公知であり、現在、様々な固形癌の処置について臨床試験が実施されている。
【0003】
しかしながら、ヨウ素の非放射性(即ち「コールド(cold)」)同位体でラベルされたPLE化合物の性能を更に探究する必要性が存在する。加えて、PLE化合物及びAkt阻害剤を含有する相乗的な化合物で癌を処置する新しい方法の必要性が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
一つの態様において、本発明は、固形癌を処置する方法を提供し、当該方法は:
【化1】

[式中、
Xは:a)ヨウ素の非放射性同位体、又はb)Hであり;
nは12〜30の整数であり;そして
Yは、N+H3、HN+(R)2、N+H2R、及びN+(R)3からなる群から選択され、ここでRは、アルキル又はアリールアルキル置換基である]
の化合物並びに
【化2】

[式中、
Xは:a)ヨウ素の非放射性同位体、又はb)Hであり;
nは12〜30の整数であり;
YはH、OH、COOH、COOR及びORからなる群から選択され;そして
Zは、N+H3、HN+(R)2、N+H2R、及びN+(R)3からなる群から選択され、ここでRは、アルキル又はアリールアルキル置換基である]
の化合物から選択される、治療有効量の非放射性リン脂質化合物を、当該方法を必要とする患者に投与する工程を含む。
【0005】
好ましい態様において、本発明の方法に使用される非放射性リン脂質化合物は、18-(p-ヨードフェニル)オクタデシルホスホコリン、1-O-[18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル]-1,3-プロパンジオール-3-ホスホコリン、及び1-O-[18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル]-2-O-メチル-ラク-グリセロ-3-ホスホコリン並びにそれらの医薬として許容される塩からなる群から選択され、ここでヨウ素が非放射性同位体である。
【0006】
尚も更に好ましい態様において、本発明の方法に使用されるリン脂質化合物は、以下の式:
【化3】

[式中、
Iはヨウ素の非放射性同位体である]
の化合物、又はその医薬として許容される塩である。この化合物は、本願中、「CLR1401」とも称される。
【0007】
好ましい態様において、固形癌は、肺癌、乳癌、神経膠腫、扁平上皮癌、前立腺癌、黒色腫、腎臓癌、直腸結腸癌、卵巣癌、膵臓癌、肉腫及び胃癌からなる群から選択される。
【0008】
他の態様において、本発明は、以下:
【化4】

[式中、
XはHであり;
nは12〜30の整数であり;そして
Yは、N+H3、HN+(R)2、N+H2R、及びN+(R)3からなる群から選択され、ここでRは、アルキル又はアリールアルキル置換基である]
の化合物並びに
【化5】

[式中、
XはHであり;
nは12〜30の整数であり;
YはH、OH、COOH、COOR及びORからなる群から選択され;そして
Zは、N+H3、HN+(R)2、N+H2R、及びN+(R)3からなる群から選択され、ここでRは、アルキル又はアリールアルキル置換基である]
の化合物から選択される非放射性リン脂質化合物を提供する。
【0009】
他の態様において、本発明は、本発明の非放射性リン脂質化合物及び他の化学治療剤を含有する、固形癌を処置するための、組合せ医薬剤を提供する。
【0010】
好ましい態様において、前記他の化学治療剤は、以下:
【化6】

[式中、
Xはヨウ素の放射性同位体であり;
nは12〜30の整数であり;そして
Yは、N+H3、HN+(R)2、N+H2R、及びN+(R)3からなる群から選択され、ここでRは、アルキル又はアリールアルキル置換基である]
の化合物、又は
【化7】

[式中、
Xはヨウ素の放射性同位体であり;
nは12〜30の整数であり;
YはH、OH、COOH、COOR及びORからなる群から選択され;そして
Zは、N+H3、HN+(R)2、N+H2R、及びN+(R)3からなる群から選択され、ここでRは、アルキル又はアリールアルキル置換基である]
の化合物から選択される放射性リン脂質化合物を含有する。
【0011】
一つの態様において、本発明は:a)
【化8】

[式中、
Xはヨウ素の放射性同位体であり;
nは12〜30の整数であり;そして
Yは、N+H3、HN+(R)2、N+H2R、及びN+(R)3からなる群から選択され、ここでRは、アルキル又はアリールアルキル置換基である]
の化合物、又は
【化9】

[式中、
Xはヨウ素の放射性同位体であり;
nは12〜30の整数であり;
YはH、OH、COOH、COOR及びORからなる群から選択され;そして
Zは、N+H3、HN+(R)2、N+H2R、及びN+(R)3からなる群から選択され、ここでRは、アルキル又はアリールアルキル置換基である]
の化合物、又はそれらの医薬として許容される塩から選択される放射性リン脂質化合物、並びにb)タンパク質キナーゼB(Akt)阻害剤を含有する、組合せ医薬剤を提供する。
【0012】
好ましい態様において、前記タンパク質キナーゼB(Akt)阻害剤は:
【化10】

[式中、
Xは:a)ヨウ素の非放射性同位体、又はb)Hであり;
nは12〜30の整数であり;そして
Yは、N+H3、HN+(R)2、N+H2R、及びN+(R)3からなる群から選択され、ここでRは、アルキル又はアリールアルキル置換基である]
の化合物並びに
【化11】

[式中、
Xは:a)ヨウ素の非放射性同位体、又はb)Hであり;
nは12〜30の整数であり;
YはH、OH、COOH、COOR及びORからなる群から選択され;そして
Zは、N+H3、HN+(R)2、N+H2R、及びN+(R)3からなる群から選択され、ここでRは、アルキル又はアリールアルキル置換基である]
の化合物から選択される非放射性リン脂質化合物、又はそれらの医薬として許容される塩である。
【0013】
好ましい態様において、前記放射性リン脂質化合物中のヨウ素の放射性同位体は、123I、124I、125I、及び131Iからなる群から選択され;そして尚もより好ましくは、125I、及び131Iからなる群から選択される。
【0014】
より好ましい態様において、前記放射性リン脂質化合物は、18-(p-ヨードフェニル)オクタデシルホスホコリン、1-O-[18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル]-1,3-プロパンジオール-3-ホスホコリン、及び1-O-[18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル]-2-O-メチル-ラク-グリセロ-3-ホスホコリン並びにそれらの医薬として許容される塩から選択され、ここでヨウ素が放射性同位体である。
【0015】
尚もより好ましい態様において、本発明は、以下の式:
【化12】

[式中、
Iはヨウ素の非放射性同位体である]
の非放射性リン脂質化合物、及び
【化13】

[式中、
Iはヨウ素の放射性同位体である]
の放射性リン脂質化合物を含有する、組合せ医薬剤を提供する。
【0016】
また、本発明は、本発明の組合せ剤を含有する医薬組成物を提供する。
【0017】
一つの態様において、本発明の非放射性リン脂質化合物及び他の化学治療剤(例えば放射性リン脂質化合物)は、単一の組成物として製剤化される。
【0018】
好ましい態様において、CLR1401(18-(p-ヨードフェニル)オクタデシルホスホコリンであり、ここでIはヨウ素の非放射性同位体である)及びCLR1404(18-(p-ヨードフェニル)オクタデシルホスホコリンであり、ここでIはヨウ素の放射性同位体である)は、単一の組成物として製剤化され、そしてCLR1401とCLR1404との重量比は、およそ10:1である。
【0019】
他の態様において、本発明のリン脂質化合物及び他の化学治療剤(例えば放射性リン脂質化合物)は、個別の組成物として製剤化される。
【0020】
個別の組成物として製剤化される場合、前記非放射性リン脂質化合物(例えばCLR1401)は、前記放射性リン脂質化合物(例えばCLR1404)の投与の前に、又は同時に投与されてもよい。
【0021】
また、他の態様において、本発明は、固形癌を処置する方法をも提供し、当該方法は、当該方法を必要とする患者に、治療有効量の本発明の組合せ医薬剤を投与する工程を含む。
【0022】
好ましい態様において、前記提供される組合せ医薬剤がヒト患者に投与されたとき、前記非放射性化合物の血清中濃度は、約5μM〜約10μMに到達し得る。
【0023】
また、本発明は、固形癌の処置方法をも提供し、当該方法は、当該方法を必要とする患者に、治療有効量の本発明の組合せ医薬剤を投与する工程を含む。
【0024】
一つの態様において、前記治療有効量の組合せ医薬剤は、約7 mCi〜約700 mCiである。
【0025】
好ましい態様において、前記固形癌は、肺癌、乳癌、神経膠腫、扁平上皮癌、前立腺癌、黒色腫、腎臓癌、直腸結腸癌、卵巣癌、膵臓癌、肉腫及び胃癌からなる群から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、127I-CLR1401の用量の増大に依存する、A549細胞中の活性Akt(pAkt、S473)レベルの減少を示すELISAチャートである。
【0027】
【図2】図2は、127I-CLR1401の用量の増大に依存する、PC-3細胞中の活性Akt(pAkt、S473)レベルの減少を示すELISAチャートである。
【0028】
【図3】図3A及び3Bは、A549及びPC-3のそれぞれにおける、活性Akt(pAkt、S473)の阻害パーセントと127I-CLR1401の濃度の線形性を示す。
【0029】
【図4】図4は、活性Akt(pAkt、S473)の量の減少を引き起こし得る、127I-CLR1401の潜在的標的を示すチャートである。
【0030】
【図5A】図5Aは、A549細胞の増殖に対する低用量の127I-CLR1401の効果を示す。
【0031】
【図5B】図5Bは、A549細胞の増殖に対する中用量の127I-CLR1401の効果を示す。
【0032】
【図5C】図5Cは、A549細胞の増殖に対する高用量の127I-CLR1401の効果を示す。
【0033】
【図5D】図5Dは、127I-CLR1401で処理したA549細胞の増殖の用量依存的な低下を示す。
【0034】
【図6】図6は、処理後24時間時点でのA549細胞による125I-CLR1404の取り込み及び保持に対する125I-CLR1404の用量の増大の効果を示す。
【0035】
【図7】図7は、処理後24時間時点でのA549細胞による固定されたトレーサー量の125I-CLR1404(0.588μM)の取り込み及び保持に対する127I-CLR1401の用量の増大の効果を示す。
【0036】
【図8】図8は、処理後24時間時点でのA549細胞による125I-CLR1404(0.588μM)の取り込み及び保持に対する127I-CLR1401の用量の増大の効果の、対照との比較を示す。
【0037】
【図9A】図9Aは、125I-CLR1404濃度対取り込み及び保持の増大の倍数増大(fold increase)のプロットを示す。
【0038】
【図9B】図9Bは、125I-CLR1404及び127I-CLR1401の組合せの濃度対取り込み及び保持の増大の倍数(fold increase)のプロットを示す。
【0039】
【図10】図10は、131I-CLR1404及び様々な用量の127I-CLR1401の組合せで処理した前立腺癌(PC-3)の増殖応答のプロットを示す。
【0040】
【図11】図11は、PC-3細胞を注射したマウスの生存%のKaplan-Meyerプロットを示す。
【0041】
【図12】図12は、131I-CLR1404、127I-CLR1401、及び131I-CLR1404と127I-CLR1401の組合せで処理した非小細胞肺癌細胞(A549)の増殖応答のプロットを示す。
【0042】
【図13】図13は、131I-CLR1404、127I-CLR1401、及び131I-CLR1404と127I-CLR1401の組合せで処理したヒト乳腺癌細胞(MDA-MB-231)の増殖応答のプロットを示す。
【0043】
【図14】図14は、MDA-MB-231を注射したマウスの生存%のKaplan-Meyerプロットを示す。
【0044】
【図15】図15は、127I-CLR1401又はエルロチニブで処理した非小細胞癌細胞(A549)の増殖応答のプロットを示す。
【0045】
【図16】図16は、A549細胞を注射したマウスの生存%のプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
発明の詳細な説明
定義
「組成物」という用語は、特定の成分(そして示されている場合特定の量)を含有する生産物、及び直接的に又は間接的に特定の量の特定の成分を組み合わせてなる任意の生産物を含む。「医薬として許容される」とは、希釈剤、賦形剤又は担体が、製剤の他の成分と適合し、投与の対象にとって有害でないことを意味する。
【0047】
「投与する」又は「投与」という用語は、本発明のリン脂質化合物や他の治療剤、例えば放射線治療剤及び化学治療剤等を、体内、好ましくは体循環中に導入する任意の手段を含む。例えば、限定されないが、投与手段として、経口、口腔内(buccal)、舌下、肺、経皮、経粘膜、並びに皮下、腹腔内、静脈内、及び筋肉内投与が挙げられる。
【0048】
「治療有効量」という用語は、疾患の処置のために対象に投与されたとき、当該疾患の処置に効果を及ぼすのに充分な化合物の量を意味する。「治療有効量」は、化合物の種類、処置される疾患の状態、処置される疾患の重症度、対象の年齢及び相対的健康、投与の経路及び形態、担当の医師又は獣医師の判断、並びに他の要素に依存して変動し得る。
【0049】
「処置」という用語は、疾患又は症状の発症を有していると疑われ、又は有している患者に医薬を投与することを意味すると通常理解される。本明細書中で使用されるとき、「減少」、「抑制」及び「阻害」という用語は、緩和又は低下を意味すると通常理解される。「進行」という用語は、範囲又は重症度の増大、伸展、増殖又は増悪を意味する。本明細書中で使用されるとき、「再発」という用語は、寛解後に再び疾患に罹患することを意味する。
【0050】
「接触」という用語は、本発明において使用されるリン脂質化合物又は組合せ医薬剤が処置を受ける患者中に導入されて、当該化合物がインビボで接触することを意味する。
【0051】
「リン脂質エーテル化合物」及び「リン脂質化合物」は、本願の目的において、区別されずに使用される。
【0052】
「CLR1401」という用語は、式:
【化14】

の化合物を意味し、式中、Iは、ヨウ素の非放射性同位体又はその医薬として許容される塩である。
【0053】
「CLR1404」という用語は、式:
【化15】

の化合物を意味し、式中、Iは、ヨウ素の放射性同位体又はその医薬として許容される塩である。
【0054】
本明細書中、「結晶形態」という用語及びこれに関連する用語は、ある物質の様々な結晶性変化(crystalline modification)を指し、限定されないが、多形体、溶媒和物、水和物、共結晶、及び他の分子複合体、そして塩、塩の溶媒和物、塩の水和物、塩の他の分子複合体、並びにそれらの多形体が挙げられる。
【0055】
本発明の化合物は、当該化合物のホスホコリン部分の医薬として許容される塩を包含する。また、本発明の化合物は、好ましくは、それ自体が内塩(両性イオン)である。
【0056】
「医薬として許容される塩」という用語は、相対的に非毒性の酸を用いて調製される活性化合物の塩を意味する。酸付加塩は、溶媒無しで(neat)、又は適切な不活性溶媒中で、中性形態の化合物を充分な量の所望の塩と接触させることにより取得出来る。医薬として許容される酸付加塩の例として、無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、硝酸、炭酸、炭酸一水素(monohydrogencarbonic)酸、リン酸、リン酸一水素(monohydrogenphosphoric)酸、リン酸二水素(dihydrogenphosphoric)酸、硫酸、硫酸一水素(monohydrogensulfuric)酸、ヨウ化水素酸または亜リン酸などから誘導される酸付加塩、ならびに比較的非毒性の有機酸、例えば、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、マレイン酸、マロン酸、安息香酸、コハク酸、スベリン酸、フマル酸、マンデル酸、フタル酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、例えばp−トリルスルホン酸、m-トルエンスルホン酸及びo-トルエンスルホン酸等、クエン酸、酒石酸、メタンスルホン酸などから誘導される塩を含む。アミノ酸の塩、例えばアルギニン酸塩(arginate)など、およびグルクロン酸、またはガラクツロン酸などのような有機酸の塩も含まれる(例えば、Berge et al. J. Pharm. Sci. 66:1 19 (1977)を参照されたい)。本発明のある具体的化合物は、該化合物を塩基付加塩または酸付加塩に変換することができる塩基性官能基および酸性官能基の両方を含有する。
【0057】
本明細書中で使用されるとき、「純粋な」即ち他の多形を実質的に有しない塩又は多形は、1つ以上の他の多形の含有率が、約10%未満、好ましくは1つ以上の他の多形の含有率が、約5%未満、より好ましくは1つ以上の他の多形の含有率が、約3%未満、最も好ましくは1つ以上の他の多形の含有率が、約1%未満である。
【0058】
「多形」及び「多形体」という用語、並びにこれらに関連する用語は、分子の結晶形態を指す。異なる多形は、結晶格子中の分子の配列又は立体構造が異なるため、融点、融解熱、溶解度、溶解速度及び/又は振動スペクトル等、異なる物理的性質を有する。多形により生じる物理的性質の差異は、保存安定性、圧縮性及び密度(製剤及び製品の製造で重要)、並びに溶解速度(生体利用効率の重要な要素)等の医薬的パラメーターに影響を及ぼす。分子の多形は、当該技術分野で公知の多くの方法により取得出来る。そのような方法として、限定されないが、融解再結晶、融解冷却、溶媒再結晶、脱溶媒、急速蒸発、急速冷却、緩慢冷却、上記拡散及び昇華が挙げられる。
【0059】
「アルキル」という用語は、本明細書中で使用されるとき、一価飽和油性炭化水素基を指し、好ましくは、最大で約11個の炭素原子を有し、より好ましくは、1〜8個の炭素原子を有する、なおもより好ましくは、1〜6個の炭素原子を有する、低級アルキルである。当該炭化水素鎖は、直鎖又は分岐鎖のいずれであってもよい。この用語の例として、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、iso-ブチル、tert-ブチル、n-ヘキシル、n-オクチル、tert-オクチル等が挙げられる。「低級アルキル」という用語は、1〜6個の炭素原子を有するアルキル基を指す。また、「アルキル」という用語は、下記で定義する「シクロアルキル」をも含む。
【0060】
「ヘテロアルキル」という用語は、単独であるいは別の用語との組合わせで、特に言及しない限り、言及した数の炭素原子及びO、N、Si及びSからなる群から選択される1〜3個のヘテロ原子からなる、安定な直鎖又は分枝鎖、又は環状炭化水素ラジカル、又はそれらの組合わせを意味する。ここで窒素原子及び硫黄原子は任意選択により酸化されてもよく、窒素ヘテロ原子は任意選択により四級化されてもよい。ヘテロ原子O、N及びSは、ヘテロアルキル基内部の任意の位置に配置することができる。ヘテロ原子Siは、ヘテロアルキル基の任意の位置に配置することができ、そこがアルキル基が当該分子の残りの部分と結合している位置であってもよい。ヘテロアルキルの例として、限定されないが、-CH2-CH2-O-CH3、-CH2-CH2-NH-CH3、-CH2-CH2-N(CH3)-CH3、CH2SCH2-CH3、-CH2 CH2-S(O)-CH3、-CH2-CH2-S(O) 2-CH3、-CH=CH-O-CH3、-Si(CH3)3、-CH2-CH=N-OCH3、及び-CH=CH-N(CH3)-CH3が挙げられる。例えば-CH2-NH-OCH3及び-CH2-O-Si(CH33等、最大2個までのヘテロ原子が連続してもよい。また、「ヘテロアルキル」という用語は、下記でより詳細に記載される「ヘテロアルキレン」及び「ヘテロシクロアルキル」をも含む。
【0061】
「アリール」という用語は、元の芳香環系の1つの炭素原子から1つの水素原子を除去することにより得られる一価芳香族炭化水素基を指す。典型的なアリール基として、限定されないが、アセトニトリル、アセナフチレン、アセフェナフチレン、アントラセン、アズレン、ベンゼン、クリセン、コロネン、フルオランテン、フルオレン、ヘキサセン、ヘキサフェン、ヘキサレン、as-インダセン、s-インダセン、インダン、インデン、ナフタレン、オクタセン、オクタフェン、オクタレン、オバレン、ペンタ-2,4-ジエン、ペンタセン、ペンタレン、ペンタフェン、ルビセン、トリフェニレン、トリナフタレン等が挙げられる。好ましくは、アリール基は、6〜14個の炭素原子を有する。
【0062】
「対象」という用語は、本明細書中、哺乳類、限定されないが、霊長類(例えばヒト、猿及び類人猿)、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス等の哺乳類等の動物を含むと定義される。好ましい態様において、対象はヒトである。
【0063】
本明細書中で使用されるとき、「約(about)」又は「約(approximately)」は、当業者により決められる特定の値における許容される誤差を意味し、部分的に、その数値が測定又は決定される方法に依存する。特定の態様において、「約」という用語は、1、2、3又は4標準偏差以内を意味する。特定の態様において、「約」という用語は、所定の数値又は範囲の50%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、又は0.05%以内を意味する。
【0064】
非放射性リン脂質化合物を利用した固形癌の処置方法
一つの態様において、本発明は、固形癌を処置する方法を提供し、当該方法は:
【化16】

[式中、
Xは:a)ヨウ素の非放射性同位体、又はb)Hであり;
nは12〜30の整数であり;そして
Yは、N+H3、HN+(R)2、N+H2R、及びN+(R)3からなる群から選択され、ここでRは、アルキル又はアリールアルキル置換基である]
の化合物並びに
【化17】

[式中、
Xは:a)ヨウ素の非放射性同位体、又はb)Hであり;
nは12〜30の整数であり;
YはH、OH、COOH、COOR及びORからなる群から選択され;そして
Zは、N+H3、HN+(R)2、N+H2R、及びN+(R)3からなる群から選択され、ここでRは、アルキル又はアリールアルキル置換基である]
の化合物、又はこれらの医薬として許容される塩から選択される、治療有効量の非放射性リン脂質化合物を、当該方法を必要とする患者に投与する工程を含む。
【0065】
好ましい態様において、本発明の方法において使用される非放射性リン脂質化合物は、18-(p-ヨードフェニル)オクタデシルホスホコリン、1-O-[18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル]-1,3-プロパンジオール-3-ホスホコリン、及び1-O-[18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル]-2-O-メチル-ラク-グリセロ-3-ホスホコリン及びこれらの医薬として許容される塩からなる群から選択され、ここでヨウ素は、非放射性同位体である。
【0066】
尚もより好ましい態様において、本発明の方法で使用されるリン脂質化合物は:
【化18】

の化合物、又はその医薬として許容される塩であり、ここでIはヨウ素の非放射性同位体である。この化合物は、本願全体で、「CLR1401」とも呼ばれる。
【0067】
前記Iがヨウ素の非放射性同位体である非放射性リン脂質化合物は、これらの化合物の放射性バージョンを作製するのに使用されるのと同様の方法により作製できる。そのような方法は、例えば、Synthesis and Structure-Activity Relationship Effects on the Tumor Avidity of Radioiodinated Phospholipid Ether Analogues, Pinchuk et al, J. Med. Chem. 2006, 49, 2155-2165に記載されている。
【0068】
本発明の化合物で処置できる固形癌として、限定されないが、肺癌、乳癌、神経膠腫、扁平上皮癌、前立腺癌、黒色腫、腎臓癌、直腸結腸癌、卵巣癌、膵臓癌、肉腫及び胃癌が挙げられる。
【0069】
本発明の方法及び化合物は、任意のラセミ体、光学異性体、多形体、又は立体異性体、又はそれらの混合物を包含する。一つの態様において、前記リン脂質化合物は、純粋な(R)-異性体を含み得る。他の態様において、前記リン脂質化合物は、純粋な(S)-異性体を含み得る。他の態様において、前記リン脂質化合物は、(R)および(S)異性体の混合物を含み得る。他の態様において、前記リン脂質化合物は、(R)および(S)異性体の両方を含有するラセミ混合物を含み得る。光学異性体を作製する方法は、当該技術分野で周知である(例えば、再結晶技術によるラセミ体の分離、光学活性出発材料からの合成、キラル合成、又はキラル固定層を使用したクロマトグラフィー分離)。
【0070】
本発明での使用に適した化合物は、無水形態で、又は半水和物(hemi-hydrate)等の水和形態を含む溶媒和形態で存在出来る。一般に、水、エタノールその他の医薬として許容される溶媒の溶媒和形態は、本発明の目的において、非溶媒和形態(unsolvated form)と等価である。
【0071】
また、本発明の幾つかの化合物は、医薬として許容される塩、例えば酸付加塩を形成する。例えば、窒素原子は、酸と塩を形成してもよい。塩の形成に適した酸の例として、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、クエン酸、オキサロ酸、マロン酸、サリチル酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、アスコルビン酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、及び当業者に周知の他の鉱物カルボン酸(mineral carboxylic acid)が挙げられる。前記塩は、遊離塩基形態と、公知の手段で塩を生産するために充分な量の所望の酸とを接触させることにより調製される。当該遊離塩基形態は、前記塩を、適切な水希釈塩基溶液、例えば水希釈水酸化物、炭酸カリウム、アンモニア、及び重炭酸ナトリウム等で処理することにより再生され得る。遊離塩基形態は、極性溶媒への溶解度等の幾つかの物理的性質がそれぞれの塩と若干異なるが、酸性塩は、本発明の目的において、それぞれの遊離塩基形態と等価である(例えばS. M. Berge, et al., “Pharmaceutical Salts,” J. Pharm. Sci., 66: 1-19 (1977)を参照されたい)。
【0072】
本発明の化合物の医薬として許容される塩として適切なものは、酸付加塩、例えば本発明の化合物の溶液を、医薬として許容される酸、例えば塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酢酸、安息香酸、オキサロ酸、クエン酸、酒石酸、炭酸及びリン酸等と混合することにより形成され得るものである。更に、本発明の化合物が酸性部分を有する場合、その適切な医薬として許容される塩として、アルキル金属塩、例えばナトリウム又はカリウム塩、アルカリ土類金属塩、例えばカルシウム又はマグネシウム塩;及び適切な有機リガンドと形成される塩、例えば第四級アンモニウム塩等が上げられる。
【0073】
本発明の化合物は、無機又は有機酸由来の医薬として許容される塩の形態で使用できる。「医薬として許容される塩」という用語は、正当な医学的判断の範囲内で、ヒト及び下等動物の組織との接触に使用される場合に毒性、刺激、アレルギー反応を起こさず、かつ利益/リスクの比率が妥当な塩を意味する。医薬として許容される塩は、当該技術分野で周知である。例えば、S. M. Bergeらは、J. Pharmaceutical Sciences,1977, 66: 1 et seqにおいて、医薬として許容される塩を詳細に記載している。当該塩は、本発明の化合物の最終的な単離及び精製の過程でin situで、又は個別に遊離塩基基と適切な有機酸とを反応させることにより調製出来る。代表的な酸付加塩として、限定されないが、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、クエン酸塩、アスパルギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、カンファー酸塩、カンファースルホン酸塩、ジグルコン酸塩(digluconate)、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、フマル酸塩、塩化水素酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩(イソチオネート)、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、オキサロ酸塩、パルミチン酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピルビン酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、リン酸塩、グルタミン酸塩、重炭酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、及びウンデカン酸塩が挙げられる。また、塩基性窒素接触基(basic nitrogen-containing group)は、例えば塩化、臭化及びヨウ化メチル、エチル、プロピル及びブチル等の低級ハロゲン化アルキル;硫酸ジメチル、ジエチル、ジブチル及びジアミル等の硫酸ジアルキル、塩化、臭化及びヨウ化デシル、ラウリル、ミリスチル及びステアリル等の長鎖ハロゲン化物;臭化ベンジル及びフェネチル等のハロゲン化アリールアルキル等の薬剤を用いて四級化出来る。そうして、水溶性若しくは脂溶性、又は分散性の生産物が取得される。医薬として許容される酸付加塩を形成するのに採用され得る酸の例として、塩酸、臭化水素、及びリン酸等の無機酸、並びにオキサロ酸、マレイン酸、コハク酸及びクエン酸等の有機酸が挙げられる。
【0074】
塩基付加塩は、本発明の化合物の最終的な単離及び精製の過程でin situで、カルボン酸含有部分を、医薬として許容される金属カチオンの水酸化物、炭酸塩、又は重炭酸塩等の適切な塩基、又はアンモニア若しくは有機第一級、第二級又は第三級アミンと反応させることにより調製できる。医薬として許容される塩として、限定されないが、アルカリ金属又はアルカリ土類金属に基づくカチオン、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム及びアルミニウム塩等、並びに非毒性第四級アンモニア及びアミンカチオン、例えばアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、及びエチルアンモニウム等が挙げられる。塩基付加塩の形成に有用な他の代表的な有機アミンとして、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペリジン、ピペラジン等が挙げられる。
【0075】
本発明の化合物が1つ以上の非対称中心を有する場合、それらは結果的に光学異性体として存在し得る。本発明の化合物が2つ以上の非対称中心を有する場合、それらは、更に、ジアステレオ異性体として存在し得る。それらの異性体及び任意の比率での混合物は、本発明の範囲内に包含されることを理解されたい。
【0076】
非放射性リン脂質化合物及び他の化学治療剤の組成物
他の態様において、本発明は:
【化19】

[式中、
XはHであり;
nは12〜30の整数であり;そして
Yは、N+H3、HN+(R)2、N+H2R、及びN+(R)3からなる群から選択され、ここでRは、アルキル又はアリールアルキル置換基である]
の化合物並びに
【化20】

[式中、
XはHであり;
nは12〜30の整数であり;
YはH、OH、COOH、COOR及びORからなる群から選択され;そして
Zは、N+H3、HN+(R)2、N+H2R、及びN+(R)3からなる群から選択され、ここでRは、アルキル又はアリールアルキル置換基である]
の化合物から選択される非放射性リン脂質化合物を提供する。
【0077】
他の態様において、本発明は、非放射性リン脂質化合物及び他の化学治療剤を含有する、固形癌を処置するための組合せ医薬剤を提供する。
【0078】
いかなる特定の理論にも拘束されることは望まないが、現在、実施された実験に基づき、非放射性リン脂質化合物は、中核的なシグナル及び生存酵素の一つであるAkt(別名タンパク質キナーゼB)の活性を阻害又はブロックできると考えられる。従って、当該非放射性リン脂質化合物と他の化学治療剤との組合せは、固形癌の処置において、相乗効果を有し得る。
【0079】
実施例に示すように、CLR1401(本明細書中に記載の非放射性化合物の一つ)の添加とAktの阻害との間に、用量反応関係が存在している。
【0080】
一つの態様において、本発明の組合せにおいて同時に使用できる他の化学治療剤は:
【化21】

[式中、
Xはヨウ素の放射性同位体であり;
nは12〜30の整数であり;そして
Yは、N+H2、HN+(R)2、N+H2R、及びN+(R)3からなる群から選択され、ここでRは、アルキル又はアリールアルキル置換基である]
の化合物又は
【化22】

[式中、
Xはヨウ素の放射性同位体であり;
nは12〜30の整数であり;
YはH、OH、COOH、COOR及びORからなる群から選択され;そして
Zは、N+H2、HN+(R)2、N+H2R、及びN+(R)3からなる群から選択され、ここでRは、アルキル又はアリールアルキル置換基である]
の化合物から選択される放射性リン脂質化合物、又はそれらの医薬として許容される塩である。
【0081】
前記放射性リン脂質化合物は公知であり、例えば米国特許第6417384B1号等に記載されている。
【0082】
好ましい態様において、本発明は:
a):
【化23】

[式中、
Xはヨウ素の放射性同位体であり;
nは12〜30の整数であり;そして
Yは、N+H2、HN+(R)2、N+H2R、及びN+(R)3からなる群から選択され、ここでRは、アルキル又はアリールアルキル置換基である]
の化合物又は
【化24】

[式中、
Xはヨウ素の放射性同位体であり;
nは12〜30の整数であり;
YはH、OH、COOH、COOR及びORからなる群から選択され;そして
Zは、N+H2、HN+(R)2、N+H2R、及びN+(R)3からなる群から選択され、ここでRは、アルキル又はアリールアルキル置換基である]
の化合物から選択される放射性リン脂質化合物、又はそれらの医薬として許容される塩、並びにb)タンパク質キナーゼB(Akt)阻害剤を含有する、組合せ医薬剤を提供する。
【0083】
好ましい態様において、前記タンパク質キナーゼB(Akt)阻害剤は:
【化25】

[式中、
Xは:a)ヨウ素の非放射性同位体、又はb)Hであり;
nは12〜30の整数であり;そして
Yは、N+H3、HN+(R)2、N+H2R、及びN+(R)3からなる群から選択され、ここでRは、アルキル又はアリールアルキル置換基である]
の化合物並びに
【化26】

[式中、
Xは:a)ヨウ素の非放射性同位体、又はb)Hであり;
nは12〜30の整数であり;
YはH、OH、COOH、COOR及びORからなる群から選択され;そして
Zは、N+H3、HN+(R)2、N+H2R、及びN+(R)3からなる群から選択され、ここでRは、アルキル又はアリールアルキル置換基である]
の化合物から選択される非放射性リン脂質化合物、又はそれらの医薬として許容される塩である。
【0084】
好ましい態様において、前記放射性リン脂質化合物中のヨウ素の放射性同位体は、123I、124I、125I、及び131Iからなる群から選択され;なおもより好ましくは、125I、及び131Iからなる群から選択される。
【0085】
より好ましい態様において、前記放射性リン脂質化合物は、18-(p-ヨードフェニル)オクタデシルホスホコリン、1-O-[18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル]-1,3-プロパンジオール-3-ホスホコリン、及び1-O-[18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル]-2-O-メチル-ラク-グリセロ-3-ホスホコリンからなる群から選択され、ここでヨウ素が放射性同位体である。
【0086】
なおもより好ましい態様において、本発明は、a)式:
【化27】

[式中、
Iがヨウ素の非放射性同位体である]
の非放射性リン脂質化合物である、CLR1401、及びb)式:
【化28】

[式中、
Iがヨウ素の放射性同位体である]
の放射性リン脂質化合物を含有する、組合せ医薬剤を提供する。
【0087】
医薬組成物
本発明の組成物は、単発の単位用量として、又は複数の単発単位用量として調製されてもよい。本明細書中で使用されるとき、「単位用量」という用語は、所定の量の活性成分を含有する組成物の個別の量を意味する。活性成分の量は、一般に、患者又はその分画(fraction)に投与される活性成分の用量に等しい。
【0088】
本発明の組成物は、液体であり、又は凍結乾燥若しくはその他乾燥形態であってもよく、様々な緩衝成分(例えばTris-HCl、酢酸塩、リン酸塩等)、pH及びイオン強度調整剤、添加物、例えば表面への吸着を防止するためのアルブミン又はゼラチン等、界面活性剤(例えばTween 20(商標)、Tween 80(商標)、Pluronic F68(商標)、バイル塩等)、可溶化剤(例えばグリセロール、ポリエチレングリセロール)、抗酸化剤(例えばアスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)保存料(例えばThimerosal(商標)、ベンジルアルコール、パラベン)、増量剤(bulking substance)又は浸透圧調整剤(例えばラクトース、マンニトール)、共有結合ポリマー、例えば前記タンパク質に結合したポリエチレングリコール、金属イオン錯体、又はポリマー化合物、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、ヒドロゲル等の粒子調製物の内部又は表面に、又はリポソーム、マイクロエマルジョン、ミセル、単層若しくは複層小胞、赤血球ゴースト又はスフェロプラストの表面の材料の取り込みを含有してもよい。そのような組成物は、物理的状態、溶解性、安定性、インビボ放出の速度、インビボ排出の速度等に影響する。調整放出又は徐放性組成物は、親油性デポー(例えば脂肪酸、ろう、油脂)中に組成物を含有する。
【0089】
好ましい態様において、本発明の組成物は、本発明の化合物、ポリソルベート、エタノール、及び食塩水を含有する。
【0090】
また、本発明は、ポリマー(例えばポリオキサマー又はポリオキサミン)で被覆した粒子組成物を投与する方法も包含する。当該組成物の他の態様は、粒子形態、保護コーティング、プロテアーゼ阻害剤又は浸透促進剤を包含し、局所、非経口、肺、鼻腔及び経口等の様々な経路で投与される。幾つかの態様において、前記医薬組成物は、非経口、傍癌(paracancerally)、経粘膜、経皮、筋肉内、静脈内、皮膚内、皮下、腹腔内、心室内、頭蓋内、及び腫瘍内に投与される。
【0091】
更に、本明細書中で使用されるとき、「医薬として許容される担体」は、当業者に周知であり、限定されないが、0.01〜0.1M、好ましくは0.05Mのリン酸緩衝剤、又は0.9%食塩水である。加えて、そのような医薬として許容される担体は、水性又は非水性溶液、懸濁液及び乳濁液であってもよい。非水性溶媒の例として、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えばオリーブ油、及び注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチル等が挙げられる。水性担体として、水、アルコール/水溶液、乳濁液又は懸濁液、例えば食塩水及び緩衝媒体が挙げられる。
【0092】
非経口ビヒクルとして、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、乳酸リンゲル及び固定油が挙げられる。静脈内ビヒクルとして、流動及び栄養補給剤、電解質補給剤、例えばリンゲルデキストロース等をベースにしたものが挙げられる。保存料及び他の添加物が存在してもよく、例えば、抗微生物剤、抗酸化剤、照合剤(collating agent)、不活性ガス等が挙げられる。
【0093】
本発明の調整又は徐放性組成物は、親油性デポー(例えば脂肪酸、ろう及び油脂)中の製剤を含む。また、本発明は、ポリマー(例えばポリオキサマー又はポリオキサミン)、及び組織特異的受容体、リガンド又は抗原に対する抗体と会合した、又は組織特異的受容体のリガンドと会合した化合物で被覆された粒子組成物も想定される。本発明の組成物の他の態様は、粒子形態、保護コーティング、プロテアーゼ阻害剤又は浸透促進剤を包含し、非経口、肺、鼻腔及び経口等の様々な経路で投与される。
【0094】
ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン又はポリプロリン等の水溶性ポリマーの共有結合で修飾された化合物は、非修飾の化合物と比較して、静脈内注射後の血中半減期が実質的に延長することが知られている。また、そのような修飾は、化合物の水溶液への溶解性を増大させ、凝集を防止し、物理的及び化学的安定性を促進し、そして免疫原性及び反応性を著しく低下させ得る。その結果、所望のインビボでの生物学的活性を、そのようなポリマー-化合物のアブダクト(abduct)を、非修飾の化合物よりも低頻度で、又は低用量で投与することにより、達成できる場合がある。
【0095】
前記医薬調製物は、リン脂質化合物を単独で含有してもよく、又は更に医薬として許容される担体を含有してもよく、かつ液体又は固体の形態、例えば錠剤、粉末、カプセル、ペレット、溶液、懸濁液、エリキシール、乳濁液、ゲル、クリーム又は直腸及び尿道坐薬等の坐薬であってもよい。医薬として許容される担体として、ゴム、澱粉、糖類、セルロース材料、及びそれらの混合物が挙げられる。リン脂質化合物を含有する医薬調製物は、例えばペレットの皮下移植により患者に投与出来る。更なる態様において、ペレットは、腫瘍特異的リン脂質エーテル類似体を一定期間にわたり調整放出するように提供されてもよい。当該調製物は、液体調製物を静脈内、動脈内、又は筋肉内投与により、液体若しくは固体調製物を経口投与により、又は局所適用により投与することも出来る。また、投与は、直腸又は尿道坐薬等の坐薬の使用により達成することも出来る。
【0096】
本発明において投与される医薬組成物は、既知の溶解、混合、顆粒化又は錠剤形成プロセスにより調製出来る。経口投与において、腫瘍特異的リン脂質エーテル類似体又はその薬理的に許容される誘導体、例えば塩、エステル、N-オキシド等は、この目的の公知の添加物、例えばビヒクル、安定化剤、又は不活性希釈剤と混合され、そして公知の方法により投与に適した形態、例えば錠剤、被覆錠剤、硬又は軟ゼラチンカプセル、水性、アルコール性又は油性溶液に変換される。適切なビヒクルの例として、公知の錠剤基材、例えばラクトース、スクロース、又はコーンスターチ等と、接着剤、例えばアカシア、コーンスターチ、ゼラチン等との、崩壊剤、例えばコーンスターチ、ジャガイモ澱粉、アルギン酸との、又は潤滑剤、例えばステアリン酸又はステアリン酸マグネシウム等との組合せが挙げられる。
【0097】
適切な油性ビヒクル又は溶媒は、植物又は鉱物油、例えばヒマワリ油又は魚類肝油等である。調製は、乾燥顆粒又は湿式顆粒のどちらとして達成されてもよい。非経口投与(皮下、静脈内、動脈内、又は筋肉内投与)において、前記腫瘍特異的リン脂質エーテル類似体又はそれらの薬理的に許容される誘導体、例えば塩、エステル、N-オキシド等は、必要に応じて、公知でこの目的に適した物質、例えば可溶化剤又は他の助剤(auxiliaries)を用いて、溶液、懸濁液、又は乳濁液に変換される。例えば、水および油等の滅菌した液体が挙げられ、界面活性剤及び他の医薬として許容される補助剤(adjuvant)が添加されてもされなくてもよい。油の例として、石油、動物、植物又は合成起源の油、例えばラッカセイ油、大豆油又は鉱物油が挙げられる。一般に、水、食塩水、水性デキストロース及び関連する糖類溶液、及びグリコール、例えばプロピレングリコール又はポリエチレングリコールは、注射用溶液として特に好ましい液体担体である。
【0098】
活性成分を含有する医薬組成物の調製は、当該技術分野でよく理解されている。そのような組成物は、注射剤として調製されてもよく、液体又は懸濁液のいずれであってもよいが;注射前に液体に溶解又は懸濁されるのに適した固体の形態が調製されてもよい。当該調製物は乳化してもよい。活性治療成分は、しばしば医薬として許容され、活性成分と適合する賦形剤と混合される。適切な賦形剤として、例えば、水、食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノール等、又はそれらの任意の組合せが挙げられる。
【0099】
加えて、当該組成物は、活性成分の有効性を増大させる、湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝剤等の少量の助剤物質を含有できる。
【0100】
一つの態様において、医薬組成物は、本発明の非放射性リン脂質化合物又はその医薬として許容される塩を含有する。
【0101】
他の態様において、本発明は、固形癌を処置するための医薬組剤の組合せ医薬剤を提供し、当該組合せ医薬剤は、本発明の非放射性リン脂質化合物又はその医薬として許容される塩及び他の化学治療剤を含有し、ここで当該組合せ医薬剤は、単一の組成物として製剤化されてもよい。
【0102】
他の態様において、本発明は、固形癌を処置するための医薬組剤の組合せ医薬剤を提供し、当該組合せ医薬剤は、本発明の非放射性リン脂質化合物又はその医薬として許容される塩及び他の化学治療剤を含有し、ここで当該組合せ医薬剤は、個別の組成物として製剤化されてもよい。
【0103】
好ましい態様において、本発明は、固形癌を処置するための医薬組剤の組合せ医薬剤を提供し、当該組合せ医薬剤は、
a)127I-CLR1401(別名I-127-CLR1401)又はその医薬として許容される塩、及び
b)131I-CLR1404(別名I-131-CLR1404)若しくは125I-CLR1404(別名I-125-CLR1404)
を含有し、当該組合せ医薬剤は、単一の組成物として製剤化される。
【0104】
なおもより好ましい態様において、本発明は、固形癌を処置するための医薬組剤の組合せ医薬剤を提供し、当該組合せ医薬剤は、
a)127I-CLR1401又はその医薬として許容される塩、及び
b)131I-CLR1404若しくは125I-CLR1404
を含有し、当該組合せ医薬剤は、単一の組成物として製剤化され、そして127I-CLR1401と131I-CLR1404又は125I-CLR1404との重量比は、約10:1である。
【0105】
個別の組成物として製剤化される場合、前記非放射性リン脂質化合物(例えばCLR1401)は、前記放射性リン脂質化合物(例えばCLR1404)の投与の前に、又は同時に投与されてもよい。
【0106】
組合せ医薬剤を利用した固形癌の治療方法
他の態様において、本発明は、固形癌を処置するための方法を提供し、処置を必要とする患者に治療有効量の本発明の組合せ医薬剤を投与する工程を含む。
【0107】
好ましい態様において、前記固形癌は、肺癌、乳癌、神経膠腫、扁平上皮癌、前立腺癌、黒色腫、腎臓癌、直腸結腸癌、卵巣癌、膵臓癌、肉腫及び胃癌からなる群から選択される。
【0108】
本発明の化合物及び医薬組成物は、単発投与として、又は日、週、月、又は年単位のタイムコースで投与されてもよい。
【0109】
好ましい態様において、前記組合せ医薬剤は、ヒト患者に投与され、非放射性化合物の血清中濃度は、約5μM〜10μMに達してもよい。
【0110】
前記非放射性リン脂質化合物(例えばCLR1401)は、前記放射リン脂質化合物(例えばCLR1404)の投与の前に、同時に、又は後に投与されてもよい。
【0111】
一般に、ヒトにおける治療有効量の医薬組成物の組合せは、好ましくは0.21〜21mg(全質量線量範囲7〜700mCiに相当する)及び0.03〜0.21mg/kg(重量線量範囲1〜7mCi/kgに相当する)である。
【0112】
好ましくは、効果的な放射線量(即ち全質量線量範囲)は、一般に7〜700mCiであり;好ましくは10〜500mCiであり;そして最も好ましくは80〜100mCiである。
【0113】
本発明のリン脂質化合物及び/又は他の活性成分の具体的な用量及び量の決定は、当該技術分野の範囲内である。
【実施例】
【0114】
実施例1
非小細胞肺癌及び前立腺癌細胞株における127I-CLR1401によるAkt活性化の阻害
American Type Culture Collection (ATCC)から入手したA549細胞は、ヒト非小細胞肺癌細胞腫である。A549細胞は野生型の機能性PTENを有する。
【0115】
American Type Culture Collection (ATCC)から入手したPC-3細胞は、ヒト前立腺癌細胞株である。PC-3細胞は、PTENのホモ欠失を有する。
【0116】
実験方法
A549及びPC-3細胞を、200,000個/ウェルの密度で播種した。全ての処理は三重に実施された。A549及びPC-3細胞は、127I-CLR1401で24時間処理した。
・0,3,5,10μMの127I-CLR1401
・処理された細胞からタンパク質を単離した。
・活性化Aktのレベルを、酵素結合免疫吸着法(ELISA)によりSer473のリン酸化形態を試験することにより決定した。
・PathScan Phospho-Akt1 (Ser473) Sandwich ELISA Kit (Cell Signaling #7160)。
・ELISA対照
・陰性対照:A549及びPC-3を50μMのLY294,002で24時間処理した。LY294,002は、PI3Kにより生産されるホスファチジルイノシトール(3,4,5)三リン酸の量に影響を及ぼすことによりAktの活性化を阻害する、細胞浸透性ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)阻害剤である。
・陽性対照:10μg/mlのインスリンで24時間刺激したA549及びPC-3細胞。
・陰性対照:無血清培地中のA549.
1)ELISAは、説明書に従って実施された。要するに、細胞ライゼートから回収した100μgのタンパク質を、予めコーティングした96ウェルプレート中、4℃で一昼夜インキュベートした。このウェルを1x洗浄緩衝液(付属)で4回洗浄した。そして、一次Akt抗体と、2時間、37℃、5%CO2大気下でインキュベーションした。当該一次インキュベーションの後、プレートを1x洗浄緩衝液で4回洗浄し、そしてHRP結合二次抗体と、1時間、37℃、5%CO2大気下でインキュベーションした。当該プレートを1x洗浄緩衝液で4回洗浄し、そして付属のTMB基質を使用して発色させた。TMB基質(テトラメチルベンジジン)は、ELISAアッセイで使用される比色分析基質(colormetric substrate)である。TMB(3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン)は、過酸化水素により酸化されると(HRPにより触媒される)、主要な吸収スペクトルが370nm〜652nmの青色を発する色素原である。そしてその色は、硫酸又はリン酸の添加で最大の吸収スペクトルが450nmの黄色に変化する。これは、ホースラディッシュペルオキシダーゼタグを有する抗体に結合した標的タンパク質の検出に使用される。
・37℃で10分間インキュベーションした後、停止緩衝液(付属)を添加した反応を停止させた。そして、Synergy HTマイクロプレートリーダー(BioTek)を使用して、450nmの吸光度を測定した。データは450nmの吸光度として出力される。
2.127I-CLR1401による細胞増殖抑制
1) 127I-CLR1401による細胞増殖抑制は、MTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラソディウムブロマイド)アッセイにより判定された。MTTは淡黄色の基質で、生きた細胞により切断されて、暗青色のホルマザン産物(formazan product)が生じる。このプロセスには生きたミトコンドリアを要し、たとえ死んだばかりの細胞であっても、顕著な量のMTTの切断は起こらない。
簡単に説明すると、6ウェルプレートに200,000個/ウェルのA549細胞を播種し、一昼夜置いて接着させた。この細胞を様々な濃度(0.0078, 0.392, 0.784, 1.568, 3.137, 4.705, 7.84, 39.2, 78.4μM)の127I-CLR1401で三重に処理し、その後、所定の時点でMTTアッセイ用に回収した。そして細胞を1xPBS中の0.5mg/ml MTTと、3時間、37℃、5%CO2大気中でインキュベーションした。
Synergy HTマイクロプレートリーダーを使用して、540nmの吸光度を測定した。540nmの吸光度の値は、存在する生存細胞の数に比例する。
【0117】
結果:
図1は、127I-CLR1404が、A549細胞中のAktの活性化を阻害したことを示す。活性Akt(pAkt、S473)の量は、127I-CLR1401の用量の増大に依存して減少している。
【0118】
図2は、127I-CLR1404がPC-3細胞中のAktの活性化を阻害したことを示す。活性Akt(pAkt、S473)の量は、127I-CLR1401の用量の増大に依存して減少している。
【0119】
表1は、S473(セリン473)部位がリン酸化したAktのレベルの減少に基づくAktの阻害パーセントを示す。数字は、図1及び図2で示したELISAデータからとった。
【表1】

【0120】
図3A及び3Bは、A549細胞(図3A)及びPC-3細胞(図3B)の両方における、127I-CLR1401の濃度と阻害パーセント(%)との線形性を示す。Akt阻害と使用された濃度の127I-CLR1401との間に、線形関係が存在する。Akt阻害のIC50は、A549及びPC-3において、それぞれ5.9μM及び5.0μMである。
【0121】
図4は、pAkt(S473)の量の減少を引き起こし得る127I-CLR1401の潜在的な標的のチャートを示す。
【0122】
図5Aは、低用量の127I-CLR1401のA549細胞の増殖に及ぼす影響を示す。顕著な影響は認められなかった。増殖は、所定の日数でのMTTアッセイを使用して判定された。
【0123】
図5Bは、中用量の127I-CLR1401のA549細胞の増殖に及ぼす影響を示す。統計的に有意な用量依存的効果が認められた。増殖は、所定の日数でのMTTアッセイを使用して判定された。
【0124】
図5Cは、高用量の127I-CLR1401のA549細胞の増殖に及ぼす影響を示す。統計的に有意な用量依存的効果が認められた。著しい細胞死が認められ、これは、膜ブレブ形成(membrane blebbing)が観察されたことから、アポトーシスによるものと推察された。増殖は、所定の日数でのMTTアッセイを使用して判定された。
【0125】
図5Dは、127I-CLR1401で処理したA549細胞における用量依存的な増殖の低下を示す。統計的に有意な用量依存的効果が認められた。著しい細胞死が認められ、これは、膜ブレブ形成が観察されたことから、アポトーシスによるものと推察された。増殖は、所定の日数でのMTTアッセイを使用して判定された。全ての実験は、無血清培地中で、三重に実施された。
【0126】
Aktを50%阻害する127I-CLR1401の濃度(5.9μM)が細胞増殖を50%阻害する濃度(4.6μM)に近接していることは、Aktの阻害が観察された細胞死と密接に関連していることの強力な証拠である。本研究において認められたAktの阻害は、活性Aktの基底レベルを基準とする。今後の実験において、127I-CLR1401が、増殖因子による刺激(即ちインスリン刺激)後のAktをも阻害するか否かを決定することも重要である。
【0127】
活性(リン酸化)Aktのレベルを低下させ得る127I-CLR1401の潜在的な標的が多く存在する(図4)。最も有望な候補は、PDK2(mTOR/リクター(rictor)複合体)、PI3K、又はAkt自体である。127I-CLR1401は、A549に加えてPC-3のAktも阻害するので、127I-CLR1401によるAktの阻害は、PTEN非依存的に行われると結論付けられる。PC-3細胞はPTEN遺伝子のホモ欠失を有しており、いかなる形態のPTENタンパク質も発現しないからである。殆どの種類の癌が不活性又は変異PTENを有しているため、この知見は特に重要である。
【0128】
127I-CLR1401がAktを阻害する機能は、放射線を増強するための組合せ処置、又は典型的な化学治療剤として考慮する場合に、極めて重要である。活性Aktは、MDM2に依存して、放射線に対する生存応答を増大させるp53の分解を引き起こす。MDM2(マウスダブルミニット2タンパク質)は、癌遺伝子である。E3ユビキチンリガーゼは、p53にユビキチンタグを付けてp53を核から往復させ、細胞質でプロテアソームによる分解を引き起こすことにより、p53タンパク質のレベルを制御する。また、活性Aktは、多くの既知の細胞サイクル阻害因子(例えばp21及びp27)を阻害するため、典型的な化学治療剤からの細胞サイクル停止シグナルの存在下であっても細胞の増殖を続行させることが可能である。127I-CLR1401でAktを阻害することにより、典型的な放射線及び/又は化学治療計画と組み合わせて使用されるとき、相乗的な効果が生じる可能性が高い。
【0129】
5.7 実施例2
127I-CLR1401の濃度の増大はA549細胞株におけるCLR1404の取り込み及び保持を促進させる
背景
【0130】
A549細胞は、American Type Culture Collection (ATCC)から入手した、ヒト非小細胞肺癌(NSCLC)である。
【0131】
A549細胞を127I-CLR1401で処理すると、5.9μMのIC50で、タンパク質Aktの活性化が阻害される。
【0132】
実験条件:
【0133】
取込み保持アッセイ(Uptake and Retention Assay)は、以前に記載した通りに実施された。簡単に述べると、A549ヒトNSCLC細胞を、6ウェルプレートに、150,000細胞/mlの密度で播種した。
【0134】
そして細胞を一昼夜かけて接着させた。全てのプレートを、実験パラメーターで示したように、127I-CLR140の存在下、又は非存在下、所定の量の125I-CLR1404で処理した。
【0135】
回収の前に、細胞を薬物の存在下24時間インキュベーションした。処理後24時間で、培地を除去し、細胞を1mlの氷冷1xPBS+1%BSAで1回洗浄した。細胞を1xトリプシンの1xPBS溶液1mlで処理してプレートからはがし、それぞれ500μlの試料2つに分けた。試料のセットの両方を、室温、200xg、30秒の遠心分離でペレットにした。上澄は除去して廃棄された。
【0136】
各資料のセットの一方のペレットを1xPBS200μlに再懸濁し(チューブ1、試料1)、そして他方のペレットを、100%EtOHで再懸濁した(チューブ2、試料1)。チューブ1からの100μlの試料を、細胞数を判定するためのDNA量の評価に用いた(データはマイクロプレートリーダー中の260nmの吸光度を用いて得た)。チューブ2からの10μlの試料を、γカウンターを使用した放射線量の評価に用いた。このデータから、細胞あたりの活性は、各処理について三重に判定された。全ての処理は、無血清培地中で実施された。
【0137】
第一の実験は、所定の用量(0.588, 0.980, 1.372, 2.156μM)で125I-CLR1404のみ使用して実施された。処理は三重に行われた。データは上記のように、細胞あたりの活性として得た。
【0138】
全ての処理は、無血清培地中で実施された。
【0139】
第二の実験は、125I-CLR1404及び127I-CLR1401の両方を使用して実施された。
【0140】
処理は三重に実施された。
【0141】
全ての処理群は、同一のトレーサー量の125I-CLR1404 (0.588μM)が与えられ、そして所定の用量(0.588, 0.980, 1.372, 2.156μM)に達するまで増大する用量の127I-CLR1404が与えられた。データは、上記のように、細胞あたりの活性として得た。解析において、125I-CLR1404の量はトレーサーとして扱われ、そして濃度の比率は、この事象を補正するのに使用された。
【0142】
全ての実験は、無血清培地中で実施された。
【0143】
結果:
【0144】
図6は、24時間時点でのA549細胞による125I-CLR1404の取込み及び保持に対する125I-CLR1404の質量用量の増大の効果を示す。各個別の処理群と対照(0.588μM)との間に統計的に有意な差異が認められた(p<0.001)。
【0145】
図7は、処理後24時間時点でのA549細胞中の固定されたトレーサー量の125I-CLR1404 (0.588μM)の取込み及び保持に対する127I-CLR1404の質量用量の増大の効果を示す。1.372μM及び2.156μMと対照(0.588μM)群との間に統計的に有意な差異が認められ、p値はそれぞれ<0.001であった。
【0146】
図8は、処理後24時間時点でのA549細胞中の125I-CLR1401の取込み及び保持に対する全質量用量の増大の効果の比較を示す。データは、対照(0.588μM)を基準とした比率として報告される。127I-CLR1401+125I-CLR1404のデータは、増大する濃度の127I-CLR1401の存在下で添加されたトレーサー量の125I-CLR1404を考慮して補正される。x軸に表示される濃度の値は、125I-CLR1404+127I-CLR1401の組合せとして処理前の全質量線量を表す。
【0147】
図9A及び9Bは、処理後24時間で、全質量線量(125I-CLR1404又は125I-CLR1404+127I-CLR1401)とA549における取込み及び保持の倍数増大との間の線形関係を示す。
【0148】
CRL1404/CLR1401が悪性細胞の内側に侵入し、選択的に保持される機構は興味深い。CLR1404が選択的に保持される理由についてよりよく理解することにより、我々は、関連する細胞の機構を更に利用することが出来る。本報告中に示した実験によると、系の中に存在するCLR1404の量と、処理後24時間時点でA549細胞に取り込まれ保持されるCLR1404の量との間に直接の関連が存在する。A549細胞に与える125I-CLR1404の質量用量を増大させると、化合物の取込み及び保持の量が明らかに増大する(図6)。この傾向は、トレーサー量の125I-CLR1404のみ使用され、のこりの質量は127I-CLR1401で占められているときにも認められる(図7)。当該第二の実験において与えられたトレーサー量の125I-CLR1404の量を補正することにより、両方の実験における倍数増大が顕著に同様であることが分かる(図8)。
【0149】
CLR1404/CLR1401の全質量線量と処理後24時間時点でのA549細胞における取込みの倍数増大との間に、線形の関連性が存在する(図9A及び9B)。125I-CLR1404単独及び127I-CLR1401曲線のR2値は、それぞれ0.9897及び0.9954である(図9A及び9B)。
【0150】
5.8 実施例3
127I-CLR1401は前立腺癌の処置における131I-CLR1404の有効性を増大させる
実験条件
【0151】
PC-3細胞株(ヒト前立腺癌)をAmerican Type Culture Collection (ATCC, Rockville, MD)から入手し、これを10%ウシ胎児血清を加えたF-12K培地中で維持した。25頭の雌無胸腺ヌードマウス(Harlan, Indianapolis, IN)をイソフルオランで麻酔し、右脇腹に、150μLのPBSで懸濁した1.3x106のPC-3腫瘍細胞をs.c.で播種した。キャリパーで毎週測定して腫瘍の成長をモニタリングした。腫瘍体積は、(幅)2x長さ/2で計算した。マウスは、腫瘍体積(150〜300mm3)に基づき4つの群に無作為化された。マウスは試験中を通して餌及び水を自由に摂取することができた。注射の3日前から注射後1週間にかけて、マウスの飲み水に0.1%の濃度のヨウ化カリウムと味の補助のための0.4%の甘味料が加えられ、存在する遊離ヨウ素の甲状腺摂取をブロックした。
【0152】
処置:
【0153】
上記マウスに、側方尾静脈から30G 1/2 in.の針で注射を行った。群1には、食塩水を注射した(動物あたり150μl)。群2には、1xコールド(ビヒクル)I-127-CLR1404、質量25.33μg/mL、体積150μL、及び100μCiのI-131-CLR1404を注射した。群3には、10Xコールド、253.3μg/ml、体積150μL及びI-131-CLR1404、質量25.9 μg/mL、放射線量〜97-120 μCi、体積150μLを注射した。群4には、100Xコールド、I-127-CLR1401、2533.3μg/ml、体積150μL及びI-131-CLR1404、質量25.9μg/mL、放射線量97-120μCi、体積150μLを注射した。非放射性動物は、放射性動物と離れたラック中のケージ内で3〜4頭の群で飼育された。放射性動物はケージ間を鉛遮蔽物で区切って飼育された。
【0154】
結果:
【0155】
Akt/PI3K経路の過剰な活性化は、癌の放射線耐性の既知の媒介要素である。CLR1401が悪性癌細胞株に選択的な顕著な細胞毒性機能を有するが、正常細胞に機能しないことが示され、次に、発明者らは、インビボでのヒト腫瘍異種移植片に対する効果を評価した。Aktの阻害は、癌細胞を放射線に感受性にすることが既に示されている。コールド化合物であるCLR1401が強力なAkt阻害機能を有することから、発明者らは、複数の用量(4)のCLR1401を、治療用量の放射性化合物131I-CLR1404と組み合わせて、前立腺癌(ヒトPC-3異種移植)の動物腫瘍モデルに適用した。当該動物に、1X (3.8μg)、10X (38μg)、又は100X (380μg)CLR1401を週一回4週間静脈内投与し、食塩水を対照として使用した。1回目のCLR1401の投与の1週間後、動物に単発用量の100μCiのI-131-CLR1404を与えた。高用量のCLR1401は、放射性化合物と組み合わせて使用されたとき、腫瘍の成長に強力な効果を有していた(図10)。
【0156】
前記組合せ療法は、腫瘍成長を顕著に阻害するのみならず、高用量(100x)の群の6頭の動物中2頭において完全な寛解を引き起こした。中程度の処理の群の6頭中1頭の動物も、完全な寛解を生じた。これは、皮下異種移植癌モデルにおいて極めて稀な事象である。典型的には、化合物が対照と比較して腫瘍の成長を阻害したときに良好な結果とみなされるのであって、処理後に完全な腫瘍の寛解(肉眼での腫瘍の消滅)が確認されることは滅多にないことであった。
【0157】
腫瘍成長阻害から期待されるように、処理群において、中間生存時間(median survival time)の顕著かつ劇的な増大も認められる(図11)。この中間生存時間は、対照(食塩水)で処理した群では34日で、1x、10x及び100x処理群では、それぞれ65、75、及び149日であった。CLR1401及び131I-CLR1404の組合せ処置による生存時間の増大は、マウスの通常の平均生存期間が僅か500日であることを考慮すると特筆すべきものである。10x及び100xの組合せ処理群の動物がまだ死んでいないため、この試験の生存部分は現在も進行している。これらの動物はもはや腫瘍を有さず、転移性の疾患の兆候を示していないため、現実的に、この生存試験はそれらの動物が自然死するまで続行されることになる。
【0158】
5.9 実施例4
127I-CLR1401及び131I-CLR1404は非小細胞肺癌の処置に有効である
実験条件:
【0159】
A549細胞株(ヒト非症細胞肺癌細胞)をAmerican Type Culture Collection (ATCC, Rockville, MD)から入手し、これを10%ウシ胎児血清を加えたF-12K培地中で維持した。25頭の雌無胸腺ヌードマウス(Harlan, Indianapolis, IN)をイソフルオレンで麻酔し、右脇腹に、150μLのPBSで懸濁した1.0x106のA549腫瘍細胞をs.c.で播種した。キャリパーで毎週測定して腫瘍の成長をモニタリングした。腫瘍体積は、(幅)2x長さ/2で計算した。マウスは、腫瘍体積(150〜300mm3)に基づき4つの群に無作為化された。マウスは試験中を通して餌及び水を自由に摂取することができた。注射の3日前から注射後1週間にかけて、マウスの飲み水に0.1%の濃度のヨウ化カリウムと味の補助のための0.4%の甘味料が加えられ、存在する遊離ヨウ素の甲状腺摂取をブロックした。
【0160】
処置:
【0161】
上記マウスに、側方尾静脈から30G 1/2 in.の針で注射を行った。群1には、食塩水を注射した(動物あたり150μl)。群2には、体積150μL及び100μCiのI-131-CLR1404を注射した。群3には、30Xコールド760μg/ml、体積150μL及びI-131-CLR1404、質量25.9 μg/mL、放射線量〜97-120 μCi、体積150μLを注射した。群4には、100Xコールド、I-127-CLR1401、2533.3μg/ml、体積150μL及びI-131-CLR1404、質量25.9 μg/mL、放射線量〜97-120 μCi、体積150μLを注射した。群5には、100XコールドI-127-CLR1401、2533.3μg/mlのみ、体積150μlを注射した。全ての動物は計5回の注射を受け、週1回の注射が5週間行われた。非放射性動物は、放射性動物と離れたラック中のケージ内で3〜4頭の群で飼育された。放射性動物はケージ間を鉛遮蔽物で区切って飼育された。
【0162】
結果:
【0163】
非小細胞肺癌(NSCLC)モデルのA549において、前記コールド化合物CLR1401は、インビボでの腫瘍増殖を劇的に阻害する。NSCLC(A549)を担持するマウスは、100xCLR1401(注射あたり380μg)で処理後、顕著な腫瘍成長の阻害を示す。この成長阻害は、放射性薬物単独処理の場合に見られる成長増殖と統計的に類似している(図12)。「コールド」+「ホット」の薬物の組合せが前立腺癌細胞株PC-3において相乗的な腫瘍成長の阻害を示したのと異なり、A549モデルにおいて相乗効果は認められなかった。これは恐らく、A549細胞株の遺伝的構成のためである。このNSCLC細胞株は、無傷のPTEN、Akt、PI3K経路を有しているため、過剰なレベルのAkt活性化が起こらない。故に、Akt阻害剤及び細胞選択的放射線治療の組合せは相乗効果を有しないと考えられる。この実験は、生存データがまだ入手出来ないため、目下続行中である。
【0164】
6.0 実施例5
127I-CLR1401及び131I-CLR1404は三重陰性乳癌の処置に効果的である
実験条件:
【0165】
MDA-MB-231細胞株(ヒト乳腺癌)を、American Type Culture Collection (ATCC, Rockville, MD)から入手し、これを10%ウシ胎児血清を加えたLeibovitz's L-15培地中で維持した。15頭の雌無胸腺ヌードマウス(Harlan, Indianapolis, MI)をイソフルオレンで麻酔し、左脇腹に、100μLのPBSで懸濁した3x106のMDA-MB-231細胞を皮下播種した。キャリパーで毎週測定して腫瘍の成長をモニタリングした。腫瘍体積は、(幅)2x長さ/2で計算した。マウスは、腫瘍体積(75〜100mm3)に基づき5つの群に無作為化された。マウスは試験中を通して餌及び水を自由に摂取することができた。
【0166】
処置:
【0167】
上記マウスに、尾静脈から30G 1/2 in.の針で注射を行った。群1(食塩水)には、100μlの食塩水を5週間注射した。群2(ホット)には、100μCiのI-131-CLR1404を2週間目に、そしてその他の週に100μlの食塩を注射した。群3(ホット+100xコールド)には、100μlの100xコールド(0.38mgのI-127-CLR1404)を1,3,4及び5週目に、そして100μCiのI-131-CLR1404を2週目に注射した。群4(100xコールド)には、100μLの100xコールド(0.38mgのI-127-CLR1404)を5週間注射した。群5(ホット+30xコールド)には、100μlの30xコールド(0.126mgのI-127-CLR1404)を1,3,4及び5週目に、そして100μCiのI-131-CLR1404を2週目に注射した。100xコールドを注射した群4を除いて、これらの動物には、ホット注射の3日前及びホット注射の2週間後に、甲状腺をブロックするために、0.0004 mg/mLのKIが与えられた。
【0168】
結果:
【0169】
三重陰性ヒト乳腺癌MDA-MB-231(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体及びヒト上皮増殖因子受容体(HER2)の3つを欠く)において、コールド化合物CLR1401は、図13に見られるように、インビボで腫瘍成長を劇的に阻害した(P<0.001, Two repeated ANOVA, Sigma Plot 11)。成長阻害プロフィールは、A549腫瘍モデルで見られた成長と類似していた。A549とMDA-MB-231では、細胞の特徴が共通している(無傷のPTEN、Akt、PI3K経路を有し、過剰なレベルのAkt活性を有しない)。MDA-MB-231腫瘍を担持するマウスは、100xCLR1401(注射あたり380μg)によるコールド処理後、顕著な腫瘍成長の阻害を示す。この100xCLR1401の腫瘍阻害は、ホット処理(I-131-CLR1404)又はホット及び30XCLR1404、又はホット及び100xCLR1401の組合せと同様の治療効率を有する。Kaplan-Meier生存グラフ及びログランク解析によると、図14に見られるように、全ての処理群(コールド、ホット、又はホット及びコールドの組合せ)が、食塩水(対照)と比較して生存利益を示す(P < 0.001, Log rank, Sigma Plot 11)。
【0170】
処理された全てのマウスは、実験後90日を経過し、本出願時点で尚も生存していた。
【0171】
6.1 実施例6
非小細胞肺癌の処置における127I-CLR1401の有効性のエルロチニブとの比較
実験条件:
【0172】
A549細胞株(ヒト非症細胞肺癌細胞)をAmerican Type Culture Collection (ATCC, Rockville, MD)から入手し、これを10%ウシ胎児血清を加えたF-12K培地中で維持した。15頭の雌無胸腺ヌードマウス(Harlan, Indianapolis, IN)をイソフルオレンで麻酔し、左脇腹に、100μLのPBSで懸濁した1x106のA549腫瘍細胞を皮下播種した。キャリパーで毎週測定して腫瘍の成長をモニタリングした。腫瘍体積は、(幅)2x長さ/2で計算した。マウスは、腫瘍体積(75〜100mm3)に基づき3つの群に無作為化された。マウスは試験中を通して餌及び水を自由に摂取することができた。
【0173】
処置:
【0174】
上記マウスに、尾静脈から30G 1/2 in.の針で、食塩水及びコールド群の注射を毎週行った。エルロチニブ群には、動物あたり0.25mgのエルロチニブを、毎日、3.5週間腹腔内投与した。食塩水群には100μlの食塩水を、そしてコールド群には0.38mgを100μL溶液で、毎週5週間投与した。
【0175】
結果:
【0176】
「コールド」分子の100xCLR1401(動物あたり0.38mg)は、図15に示すように、食塩水(対照)又は0.25mgのエルロチニブと比較して、非小細胞肺癌(NSCLC)モデルの腫瘍成長を顕著に阻害した(P < 0.001, Two Way Repeated ANOVA, Sigma Plot 11)。エルロチニブは、上皮増殖因子受容体(HER1/EGFR)を標的として腫瘍細胞の増殖をブロックするように設計されている。エルロチニブは、進行したNSCLCの患者の単独治療又は組合せ治療用に通常使用される。一方、上記で議論したように、CLR1401は、Akt活性化を阻害することが示された。この実感は、I-127-CLR1404処理が、エルロチニブの単独治療よりも優れていることを実証した。Kaplan Meier生存グラフ及びログランク解析によると、図16に見られるように、コールド化合物が、食塩水又はエルロチニブと比較して生存利益を示す(P = 0.002, Log rank, Sigma Plot 11)。
【0177】
本明細書中に引用された全ての文献及び特許出願は、それぞれの文献又は特許出願が具体的かつ個別に参照により援用されているかのように、本明細書中に参照により援用される。本明細書は、明確な理解を目的として例証及び例示によりある程度詳細な記載がなされているが、本明細書の教示を参考に、本願請求項記載の精神又は範囲から逸脱すること無く、ある程度の変更及び改変が加えられてもよいことは、当業者にとって明白である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形癌を処置する方法であり:
【化1】

[式中、
Xは:a)ヨウ素の非放射性同位体、又はb)Hであり;
nは12〜30の整数であり;そして
Yは、N+H3、HN+(R)2、N+H2R、及びN+(R)3からなる群から選択され、ここでRは、アルキル又はアリールアルキル置換基である]
の化合物並びに
【化2】

[式中、
Xは:a)ヨウ素の非放射性同位体、又はb)Hであり;
nは12〜30の整数であり;
YはH、OH、COOH、COOR及びORからなる群から選択され;そして
Zは、N+H3、HN+(R)2、N+H2R、及びN+(R)3からなる群から選択され、ここでRは、アルキル又はアリールアルキル置換基である]
の化合物、又はこれらの医薬として許容される塩から選択される、治療有効量の非放射性リン脂質化合物を、当該方法を必要とする患者に投与する工程を含む、前記方法。
【請求項2】
前記非放射性リン脂質化合物が、18-(p-ヨードフェニル)オクタデシルホスホコリン、1-O-[18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル]-1,3-プロパンジオール-3-ホスホコリン、及び1-O-[18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル]-2-O-メチル-ラク-グリセロ-3-ホスホコリンからなる群から選択され、ここでヨウ素が非放射性同位体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記非放射性リン脂質化合物が、以下の式:
【化3】

[式中、
Iはヨウ素の非放射性同位体である]
の化合物、又はその医薬として許容される塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記固形癌が、肺癌、乳癌、神経膠腫、扁平上皮癌、前立腺癌、黒色腫、腎臓癌、直腸結腸癌、卵巣癌、膵臓癌、肉腫及び胃癌からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
以下:
【化4】

[式中、
Xはヨウ素の放射性同位体であり;
nは12〜30の整数であり;そして
Yは、N+H3、HN+(R)2、N+H2R、及びN+(R)3からなる群から選択され、ここでRは、アルキル又はアリールアルキル置換基である]
の化合物又は
【化5】

[式中、
Xはヨウ素の放射性同位体であり;
nは12〜30の整数であり;
YはH、OH、COOH、COOR及びORからなる群から選択され;そして
Zは、N+H3、HN+(R)2、N+H2R、及びN+(R)3からなる群から選択され、ここでRは、アルキル又はアリールアルキル置換基である]
の化合物から選択される放射性リン脂質化合物、並びにタンパク質キナーゼB(Akt)阻害剤を含有する、組合せ医薬剤。
【請求項6】
前記Akt阻害剤が:
【化6】

[式中、
Xは:a)ヨウ素の非放射性同位体、又はb)Hであり;
nは12〜30の整数であり;そして
Yは、N+H3、HN+(R)2、N+H2R、及びN+(R)3からなる群から選択され、ここでRは、アルキル又はアリールアルキル置換基である]
の化合物並びに
【化7】

[式中、
Xは:a)ヨウ素の非放射性同位体、又はb)Hであり;
nは12〜30の整数であり;
YはH、OH、COOH、COOR及びORからなる群から選択され;そして
Zは、N+H3、HN+(R)2、N+H2R、及びN+(R)3からなる群から選択され、ここでRは、アルキル又はアリールアルキル置換基である]
の化合物から選択される非放射性リン脂質化合物である、請求項5に記載の組合せ医薬剤。
【請求項7】
前記ヨウ素の放射性同位体が、123I、124I、125I、及び131Iからなる群から選択される、請求項6に記載の組合せ医薬剤。
【請求項8】
前記放射性リン脂質化合物が、18-(p-ヨードフェニル)オクタデシルホスホコリン、1-O-[18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル]-1,3-プロパンジオール-3-ホスホコリン、及び1-O-[18-(p-ヨードフェニル)オクタデシル]-2-O-メチル-ラク-グリセロ-3-ホスホコリンからなる群から選択され、ここでヨウ素が放射性同位体である、請求項6に記載の組合せ医薬剤。
【請求項9】
式:
【化8】

[式中、
Iがヨウ素の非放射性同位体である]
の非放射性リン脂質化合物、又はその医薬として許容される塩、及び
式:
【化9】

[式中、
Iがヨウ素の放射性同位体である]
の放射性リン脂質化合物を含有する、組合せ医薬剤。
【請求項10】
前記ヨウ素の放射性同位体が、125I及び131Iからなる群から選択される、請求項9に記載の組合せ医薬剤。
【請求項11】
前記放射性リン脂質化合物及び前記非放射性化合物が、単一の組成物として製剤化される、請求項6に記載の組合せ医薬剤。
【請求項12】
前記非放射性リン脂質化合物と前記放射性リン脂質化合物との重量比が、およそ10:1である、請求項11に記載の組合せ医薬剤。
【請求項13】
前記放射性リン脂質化合物及び前記非放射性化合物が、個別の組成物として製剤化される、請求項6に記載の組合せ医薬剤。
【請求項14】
ヒト患者に投与されたとき、前記非放射性化合物の血清中濃度を約5μM〜約10μMに到達させることが出来る、請求項6に記載の組合せ医薬剤。
【請求項15】
固形癌を処置する方法であり、治療有効量の請求項5又は9のいずれかに記載の組合せ医薬剤を当該方法を必要とする患者に投与する工程を含む、前記方法。
【請求項16】
前記固形癌が、肺癌、乳癌、神経膠腫、扁平上皮癌、前立腺癌、黒色腫、腎臓癌、直腸結腸癌、卵巣癌、膵臓癌、肉腫及び胃癌からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記治療有効量が、約7 mCi〜約700 mCiである、請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2013−504590(P2013−504590A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528915(P2012−528915)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【国際出願番号】PCT/US2010/048351
【国際公開番号】WO2011/031919
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(506297728)セレクター,インコーポレイティド (7)
【Fターム(参考)】