説明

非晶性含フッ素樹脂の製造方法

【課題】従来のフッ素ガスで処理する方法に比べ生産性の高い簡便な方法で、紫外線透過性に優れる非晶性含フッ素樹脂を得ることができる非晶性含フッ素樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】非晶性含フッ素樹脂またはその成形体に紫外線を照射する処理を含む非晶性含フッ素樹脂の製造方法によって、紫外線透過性に優れる非晶性含フッ素樹脂またはその成形体を、従来のフッ素ガスで処理する方法に比べ生産性の高い簡便な方法で得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶性含フッ素樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非晶性含フッ素樹脂は、各種樹脂材料の中でも紫外線領域(波長200〜380nm)における光線透過率が特に高く、紫外線領域における透明性が要求される光学用途に適している。非晶性含フッ素樹脂の中でも脂肪族環構造を有する非晶性含フッ素樹脂は、紫外線透過性および紫外線耐久性に優れており、紫外線用レンズ、紫外線光源の封止材として有用である。
【0003】
脂肪族環構造を有する非晶性含フッ素樹脂の製造方法としては、特定の重合開始剤を用い、含フッ素脂肪族環構造を有するモノマーおよび/または2つ以上の重合性二重結合を有する含フッ素モノマーを塊状重合する方法が開示されている(特許文献1)。しかし、該方法で得られた非晶性含フッ素樹脂は、不安定な高分子鎖末端および/または微量の不純物を含んでいる場合があり、紫外線透過性は必ずしも充分ではない。
【0004】
不安定な高分子鎖末端および微量の不純物を除去する方法としては、非晶性含フッ素樹脂をフッ素ガスで処理する方法が開示されている(特許文献2)。しかし、該方法は、非常に煩雑であるため生産性が低い。よって、非晶性含フッ素樹脂に含まれる不安定な高分子鎖末端および微量の不純物をより簡便に除去する方法が要求されている。
【特許文献1】特開2000−1511号公報
【特許文献2】特開平4−189802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、生産性の高い簡便な方法で、紫外線透過性に優れる非晶性含フッ素樹脂を得ることができる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の非晶性含フッ素樹脂の製造方法は、非晶性含フッ素樹脂に紫外線を照射する処理を含むことを特徴とする。
非晶性含フッ素樹脂は、脂肪族環構造を有する非晶性含フッ素樹脂であることが好ましい。
高圧水銀灯または低圧水銀灯を用いて紫外線を照射することが好ましい。
【0007】
照射する紫外線の254nmにおける積算光量は、20J/cm2 以上であることが好ましい。
非晶性含フッ素樹脂は、成形体であってもよい。
波長300nmにおける光線透過率が85%未満である非晶性含フッ素樹脂に紫外線を照射し、紫外線照射後の非晶性含フッ素樹脂の、波長300nmにおける光線透過率を86%以上とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の非晶性含フッ素樹脂の製造方法でよれば、生産性の高い簡便な方法で、紫外線透過性に優れる非晶性含フッ素樹脂を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本明細書においては、式(1)で表される化合物を化合物(1)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
【0010】
本発明の非晶性含フッ素樹脂の製造方法は、非晶性含フッ素樹脂に紫外線を照射する処理を含む製造方法である。「非晶性含フッ素樹脂」とは、熱分析によって明確な融点を示さない含フッ素樹脂を意味する。
【0011】
非晶性フッ素樹脂としては、分子鎖中に炭素−水素結合を有していない非晶性フッ素樹脂が好ましい。また、主鎖に脂肪族環構造を有する非晶性フッ素樹脂(以下、非晶性フッ素樹脂(a)と記す。)が好ましい。「主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する」とは、脂肪族環を構成する炭素原子の1以上が主鎖を構成する炭素連鎖中の炭素原子であり、かつ脂肪族環を構成する炭素原子の少なくとも一部にフッ素原子またはフッ素含有基が結合している構造を有していることを意味する。また、脂肪族環は、エーテル結合を有していてもよい。
【0012】
非晶性フッ素樹脂(a)としては、含フッ素脂肪族環構造を有するモノマーを重合して得られる重合体(a−1)、2つ以上の重合性二重結合を有する含フッ素モノマーを環化重合して得られる重合体(a−2)、含フッ素脂肪族環構造を有するモノマーと、2つ以上の重合性二重結合を有する含フッ素モノマーとを共重合して得られる重合体(a−3)等が挙げられ、含フッ素脂肪族環構造を有するモノマーを重合して得られる重合体(a−1)または重合体(a−3)が好ましい。重合体(a−1)〜(a−3)は、含フッ素脂肪族環構造を有するモノマーおよび/または2つ以上の重合性二重結合を有する含フッ素モノマーと、他のラジカル重合性モノマーとの共重合体であってもよい。
【0013】
重合体(a−1)〜(a−3)としては、具体的には下式(I)〜(VII)から選ばれる構成単位を有する重合体が挙げられる。該重合体のフッ素原子は、一部が塩素原子で置換されていてもよい。
【0014】
【化1】

【0015】
【化2】

【0016】
ただし、hは0〜5の整数であり、iは0〜4の整数であり、jは0または1であり、h+i+jは1〜6であり、sは0〜5の整数であり、tは0〜4の整数であり、uは0または1であり、s+t+uは1〜6であり、p、q、rはそれぞれ独立に0〜5の整数であり、p+q+rは1〜6であり、R1 〜R4 、X1 、X2 はそれぞれ独立にH、D(重水素)F、ClまたはCn2n+1k であり、R5 〜R8 はそれぞれ独立にH、D(重水素)、F、Cl、Cn2n+1、Cn2n+1-mClmk またはCn2n+1-mmk であり、R7 とR8 とが連結して環を形成する場合は、R7 とR8 とからなる連結部分はCx2xy またはCx2x-zClzy であり、Y1 は単結合、O、Cx2xy またはCx2x-zClzy であり、nは1〜5の整数であり、mは0〜5の整数であり、kは0〜2の整数であり、xは1〜10の整数であり、yは0〜2の整数であり、zは0〜5の整数である。また、2n+1≧mであり、2x≧zである。
【0017】
含フッ素脂肪族環構造を有するモノマーとしては、化合物(1)〜(4)が好ましい。
【0018】
【化3】

【0019】
ただし、X3 〜X8 はそれぞれ独立にH、D(重水素)、F、ClまたはCn2n+1k であり、R9 およびR10はそれぞれ独立にH、D(重水素)、F、Cl、Cn2n+1、Cn2n+1-mClmk またはCn2n+1-mmk であり、R9 とR10とが連結して環を形成する場合は、R9 とR10とからなる連結部分はCx2xy またはCx2x-zClzy であり、Y2 は単結合、O、Cx2xy またはCx2x-zClzy であり、nは1〜5の整数であり、mは0〜5の整数であり、kは0〜2の整数であり、xは1〜10の整数であり、yは0〜2の整数であり、zは0〜5の整数である。また、2n+1≧mであり、2x≧zである。
【0020】
化合物(1)〜(4)の具体例としては、化合物(1−1)〜(1−3)、化合物(2−1)〜(2−3)、化合物(3−1)〜(3−2)、化合物(4−1)〜(4−6)等が挙げられる。
【0021】
【化4】

【0022】
2つ以上の重合性二重結合を有する含フッ素モノマーとしては、化合物(5)〜(8)が好ましい。
【0023】
CX910=CX11OCX1213CX1415CX16=CX1718 (5)
CX1920=CX21OCX2223CX24=CX2526 (6)
CX2728=CX29OCX3031OCX32=CX3334 (7)
CX3536=CX37CX3839CX4041CX4243CX44=CX4546 (8)
【0024】
ただし、X9 〜X46は、それぞれ独立にH、D(重水素)、F、ClまたはCF3 である。
化合物(5)〜(8)の具体例としては、以下の化合物等が挙げられる。
【0025】
CF2 =CFOCF2 CF2 CF=CF2
CF2 =CFOCCl2 CF2 CF=CF2
CF2 =CFOCF2 CF2 CCl=CF2
CF2 =CFOCF2 CF2 CF=CF2
CF2 =CFOCF2 CFClCF=CF2
CF2 =CFOCF2 CF2 CF=CFCl、
CF2 =CFOCF2 CF(CF3 )CF=CF2
CF2 =CFOCF2 CF(CF3 )CCl=CF2
CF2 =CFOCF2 CF=CF2
CF2 =CFOCF(CF3 )CF=CF2
CF2 =CFOCF2 OCF=CF2
CF2 =CClOCF2 OCCl=CF2
CF2 =CFOCCl2 OCF=CF2
CF2 =CFOC(CF32 OCF=CF2
CF2 =CFCCl2 CF2 CF2 CF=CF2
CF2 =CFCF2 CF2 CF2 CF=CF2
【0026】
他のラジカル重合性モノマーとしては、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、(パーフルオロブチル)エチレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、メチルパーフルオロ(5−ヘキサ−6−ヘプテノエート)、エチレン、プロピレン等が挙げられ、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)等の含フッ素モノマーが好ましい。
【0027】
非晶性含フッ素樹脂は、たとえば、ラジカル開始剤を用いてモノマーを重合し、非晶性含フッ素樹脂を得る工程(重合工程)、非晶性含フッ素樹脂に紫外線を照射する工程(紫外線照射工程)を経て製造される。
【0028】
重合法としては、懸濁重合、溶液重合、塊状重合等が挙げられ、不純物の混入が少ない塊状重合が好ましい。
ラジカル開始剤としては、パーフルオロ(ジ−tert−ブチルパーオキシド)、パーフルオロ(ジ−tert−ペンチルパーオキシド)等の含フッ素開始剤が好ましい。重合温度は、0〜200℃が好ましく、30〜150℃がより好ましい。
【0029】
紫外線を照射する非晶性含フッ素樹脂の形態は、重合工程で得られた直後の懸濁液、溶液、塊状物であってもよく、これらから得られる粉末、ペレットであってもよく、これらを成形した成形体であってもよい。取扱性の点から、成形体が好ましい。
【0030】
紫外線の光源としては、紫外線透過性の向上効果が高い点から、低圧水銀灯または高圧水銀灯が好ましい。
照射する紫外線の254nmにおける積算光量は、20J/cm2 以上が好ましく、50J/cm2 以上がより好ましく、100J/cm2 以上が特に好ましい。照射する紫外線の積算光量を20J/cm2 以上とすることにより、紫外線透過性の向上効果が充分に発揮される。紫外線の積算光量は、波長254nmにおける積算光量であり、波長254nmにおける照度(mW/cm2 )を積算光量計で測定し、これに照射時間(秒)を積算して求める。
【0031】
紫外線の照射時間は、5分〜50時間が好ましく、10分〜20時間がより好ましく、20分〜10時間が特に好ましい。紫外線の照射時間が短すぎると紫外線透過性が不充分となるおそれがあり、長すぎると生産性が低下する。
紫外線照射を行う際の温度は、20〜200℃が好ましく、30〜180℃がより好ましい。温度が低すぎると紫外線照射の効果が充分に得られないおそれがあり、温度が高すぎると、非晶性含フッ素樹脂が劣化したり、成形体に紫外線照射する場合には成形体が変形したりするおそれがある。
【0032】
非晶性含フッ素樹脂を紫外線透過性が要求される光学用途に用いる場合、紫外線の照射は、波長300nmにおける光線透過率が照射前に比べ1%以上向上するように行うことが好ましく、5%以上向上するように行うことがより好ましい。
また、波長300nmにおける光線透過率が85%未満である非晶性含フッ素樹脂に紫外線を照射し、紫外線照射後の非晶性含フッ素樹脂の、波長300nmにおける光線透過率を86%以上とすることが好ましい。波長300nmにおける光線透過率は、分光光度計を用いて測定する。
【0033】
本発明の製造方法で得られた非晶性含フッ素樹脂の用途としては、紫外線透過性が要求される、紫外線用レンズ、紫外線光源の封止材、紫外線光源の保護カバー、光ファイバ、医療レーザー伝送等が挙げられる。
【0034】
以上説明した本発明の非晶性含フッ素樹脂の製造方法にあっては、非晶性含フッ素樹脂に紫外線を照射することによって、非晶性含フッ素樹脂に含まれる不安定な高分子鎖末端および微量の不純物が除去されると考えられる。従来のフッ素ガスで処理する方法に比べ、生産性の高い簡便な方法で、紫外線透過性に優れる非晶性含フッ素樹脂を得ることができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を示して本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
紫外線透過性の評価は、以下に示す方法によって行った。
(紫外線透過性)
非晶性含フッ素樹脂の成形体について、島津製作所社製UV3100を用い、波長300nmにおける光線透過率を測定した。
【0036】
〔合成例1〕
外径15mm、内径11mmのガラス管に、20gのパーフルオロ(ブテニルビニルエーテル)、0.01gのパーフルオロ(ジ−tert−ブチルパーオキシド)(10時間半減温度99℃)、および、0.2gのクロロホルムを仕込み、液体窒素を用いて凍結脱気を3回繰り返した後に封管した。これを90℃のオーブン中に2日間保持したところ完全に固化した。さらに110℃で1日保持した後、ガラス管を壊して重合体を取り出したところ、無色透明で強靭なロッド状固体が得られた。得られたロッド状固体を長さ15mmに切断し、切断面を研磨してロッド1(非晶性含フッ素樹脂の成形体)を得た。
ロッド1の長さ方向(15mm)について、波長300nmにおける光線透過率を測定したところ、84.5%であった。
【0037】
〔実施例1〕
センエンジニアリング(株)製PhotoDryCleanerPL7−200(波長254nmにおける照度18mW/cm2 )を用いて、ロッド1に紫外線を2時間照射し、ロッド2を得た。このときの紫外線の254nmにおける積算光量は、130J/cm2 であった。
ロッド2の長さ方向(15mm)について、波長300nmにおける光線透過率を測定したところ、90.0%であった。紫外線照射前後の光線透過率の差は5.5%であった。
【0038】
〔合成例2〕
4gの化合物(3−3)、1gの化合物(4−6)、および1mgの(C65 C(O)O)2 を混合し、組成物を調製した。該組成物を60℃で20分加熱して、粘度が100〜200cpsのシロップを得た。
スライドガラスにOリング(内径20mm、厚さ2mm、フッ素ゴム製)をエポキシ接着剤で固定した型を作製した。該型に1gのシロップを流し込み、型の上にさらにスライドガラスを重ねた。型を50℃で3時間、70℃で5時間、100℃で2時間、120℃で2時間、順次、加熱した。型を冷却してからOリングおよびスライドガラスを外して直径20mm、厚さ0.5mmの円盤状の透明な硬化物1(非晶性含フッ素樹脂の成形体)を得た。硬化物1の厚さ方向(0.5mm)について、波長300nmにおける光線透過率を測定したところ、13%であった。
【0039】
〔実施例2〕
1kW高圧水銀灯(波長254nmにおける照度40mW/cm2 )を用い、硬化物1に紫外線を1時間照射し、硬化物2を得た。このときの紫外線の254nmにおける積算光量は、144J/cm2 であった。硬化物2の厚さ方向(0.5mm)について、波長300nmにおける光線透過率を測定したところ、91%であった。また、硬化物2の外観に変化は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の製造方法で得られる非晶性含フッ素樹脂は、紫外線透過性に優れ、紫外線用レンズ、紫外線光源の封止材、紫外線光源の保護カバー等として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性含フッ素樹脂に紫外線を照射する処理を含む、非晶性含フッ素樹脂の製造方法。
【請求項2】
非晶性含フッ素樹脂が、脂肪族環構造を有する非晶性含フッ素樹脂である、請求項1に記載の非晶性含フッ素樹脂の製造方法。
【請求項3】
高圧水銀灯または低圧水銀灯を用いて紫外線を照射する、請求項1または2に記載の非晶性含フッ素樹脂の製造方法。
【請求項4】
照射する紫外線の254nmにおける積算光量が、20J/cm2 以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の非晶性含フッ素樹脂の製造方法。
【請求項5】
非晶性含フッ素樹脂が、成形体である、請求項1〜4のいずれかに記載の非晶性含フッ素樹脂の製造方法。
【請求項6】
波長300nmにおける光線透過率が85%未満である非晶性含フッ素樹脂に紫外線を照射し、紫外線照射後の非晶性含フッ素樹脂の、波長300nmにおける光線透過率を86%以上とする、請求項1〜5のいずれかに記載の非晶性含フッ素樹脂の製造方法。