説明

非晶質セフジニル、その製造方法およびこれを含有する経口投与用医薬組成物

【課題】 従来の結晶セフジニルが水に対して難溶解性であるという問題点を解決し、その水に対する溶解性をより高めたセフジニルを提供すること。
【解決手段】 本発明は、結晶セフジニルを含まず、実質的に非結晶質である非晶質セフジニル、その製造方法およびこれを含有する医薬組成物である。本発明の非晶質セフジニルは、臭化カリウム錠剤法による赤外吸収スペクトルにおいて1765cm-1、1530cm-1および1350cm-1付近に強いピークを有し、25℃の酢酸塩緩衝液(pH2.0〜6.0)に対し125〜285μg/mLの溶解量を示す。本発明の非晶質セフジニルは、セフジニル溶液の低溶解性溶媒による沈殿、噴霧乾燥、凍結乾燥、または粉砕によって製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた抗菌活性を有し、高い溶解性を有する非晶質セフジニル、その製造方法、およびこれを含有する経口投与用の医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セフェム系化合物であるセフジニルは、毒性が低く、かつ極めて広範囲な抗菌スペクトラムを有する経口剤として、グラム陽性菌あるいはグラム陰性菌によって引き起こされる疾病の治療ならびに予防に極めて優れていることが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
また、結晶セフジニルは熱安定性が高く、また高い湿度の条件で保存しても充分に安定である利点を有している(例えば、特許文献2,3を参照)。しかしながら、この結晶セフジニルは水に対する溶解度が低いので、セフジニルの必要な濃度の溶液を得ることが困難であり、結晶セフジニルを経口投与に用いるのはあまり適当ではなかった。
【0004】
一般的に、水に難溶性の医薬化合物の場合は、その水に対する溶解度または溶解速度が生体内での該化合物の吸収に大きく影響することが知られている。そのため、難水溶性の医薬化合物の溶解性を改善する方法が多く報告されているが、これらの方法の一つとしてこのような医薬化合物を非晶性物質に変えて溶解性を向上させることが提案されている。非晶性物質は、対応する結晶性物質よりも溶解に必要なエネルギーが小さいため溶解性が大きいことが知られている。それ故、難水溶性であるセフジニルの結晶性物質を、より水溶性の高い非晶性物質に転換すると、治療上の有効性を充分に発揮できることが期待される。
【0005】
【特許文献1】特公平1−49273号公報
【特許文献2】特公平6−74276号公報
【特許文献3】WO04/85443号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、抗菌剤として優れた性質を有するセフジニルについて、結晶セフジニルの水に対して難溶解性であるという問題点を解決し、その水に対する溶解性をより高めた非晶質セフジニル、その製造方法およびこれを含有する経口投与用の医薬組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、結晶セフジニルが難溶解性であるという課題を解決し、より水溶性の高いセフジニルを得るため鋭意研究を重ねた。その結果、実質的に非晶質のセフジニルを得る方法とこの方法によって得られる非晶質セフジニルを見出し、得られた非晶質セフジニルを用いて吸収性の高い経口投与用の医薬組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は以下の内容をその要旨とするものである。
(1)結晶質セフジニルを含まず、実質的に非結晶質である非晶質セフジニル。
(2)非晶質セフジニルが、臭化カリウム錠剤法による赤外吸収スペクトルにおいて、1765cm-1、1530cm-1および1350cm-1付近に強いピークを有するものであることを特徴とする、前記(1)に記載の非晶質セフジニル。
(3)非晶質セフジニルが、pHが2.0〜6.0の範囲の酢酸塩緩衝液に対し、25℃で30〜50μg/mLの溶解量を示すものであることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の非晶質セフジニル。
(4)非晶質セフジニルが、昇温速度10℃/分における示差走査熱量曲線において、190および255℃付近に発熱ピークを有するものであることを特徴とする、前記(1)乃至(3)のいずれかに記載の非晶質セフジニル。
(5)非晶質セフジニルが、セフジニルのメタノール溶液に低溶解性有機溶媒を加えて沈殿させることにより得られたものであることを特徴とする、前記(1)ないし(4)のいずれかに記載の非晶質セフジニル。
(6)低溶解性有機溶媒が、イソプロピルエーテルであることを特徴とする、前記(5)に記載の非晶質セフジニル。
(7)非晶質セフジニルが、有機溶媒に溶解したセフジニル溶液を噴霧乾燥することにより得られたものであることを特徴とする、前記(1)ないし(4)のいずれかに記載の非晶質セフジニル。
(8)非晶質セフジニルが、有機溶媒に溶解したセフジニル溶液を凍結乾燥することにより得られたものであることを特徴とする、前記(1)ないし(4)のいずれかに記載の非晶質セフジニル。
(9)非晶質セフジニルが、結晶質セフジニルを機械的手段により粉砕することにより得られたものであることを特徴とする、前記(1)ないし(4)のいずれかに記載の非晶質セフジニル。
(10)セフジニルのメタノール溶液に低溶解性有機溶媒を加えてセフジニルを沈殿させることを特徴とする、前記(1)乃至(4)のいずれかによって規定される非晶質セフジニルの製造方法。
(11)有機溶媒に溶解したセフジニル溶液を噴霧乾燥することを特徴とする、前記(1)乃至(4)のいずれかによって規定される非晶質セフジニルの製造方法。
(12)有機溶媒に溶解したセフジニル溶液を凍結乾燥することを特徴とする、前記(1)乃至(4)のいずれかによって規定される非晶質セフジニルの製造方法。
(13)結晶質セフジニルを機械的手段により粉砕することを特徴とする、前記(1)乃至(4)のいずれかによって規定される非晶質セフジニルの製造方法。
(14)前記(1)乃至(9)のいずれかに記載の非晶質セフジニルを含有することを特徴とする経口投与用の医薬組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の非晶質セフジニルは、結晶質セフジニルを含有せず非結晶質であり、水に対して難溶性である結晶セフジニルに比べて水に対する溶解性が優れており、医薬組成物、特に経口投与用の医薬組成物とした場合に体内での吸収性が大きくなり、より優れた抗菌性治療剤としての作用を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、結晶セフジニルを含まず、実質的に非結晶質のセフジニルのみからなる非晶質セフジニルである。
【0011】
本発明に使用するセフジニル(Cefdinir)は、化学名:7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸であり、次の化学式によって表わされるセフェム化合物である。
【0012】
【化1】

【0013】
この物質は、一般に白色〜淡黄色の結晶性粉末として得られるが、この結晶セフジニルは水やエタノール、ジエチルエーテルにはほとんど溶解せず、pH7.0のリン酸塩緩衝液に溶解するという性質を有する。本発明は、このような結晶セフジニルとは異なり、セフジニル溶液から特定の方法によって得た非晶質セフジニルである。そして、本発明の非晶質セフジニルは、X線回折チャートにおいて結晶構造に起因する回折ピークを有しない非晶質の化合物であり、具体的には、有機溶媒沈殿法、噴霧乾燥法、凍結乾燥法、および粉砕法のいずれかによって製造することができる。
【0014】
従来公知の結晶セフジニルは、例えば特公平1−49273号公報や特開平1−250384号公報に記載された方法によって製造することができる。このうちで前者の公報の一部の実施例に記載された方法によって得られたセフジニルが無晶形の化合物であったという記載が見られるが、これらはいずれも追試の結果、完全な非晶質の化合物ではなく、結晶質と非晶質の混じりあった結晶性を示す粉末であった。
【0015】
本発明において、「セフジニル溶液」とは、セフジニルが溶媒に溶解している状態のものを言う。ここで用いる溶媒としては、セフジニルを温時溶解することができる溶媒であれば特に制限はなく、例えばメタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、酢酸エチル、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロメタンなどから選ばれる一種または二種以上の混合溶媒が挙げられるが、特にメタノールが好ましい。
【0016】
まず、有機溶媒沈殿法は、上述の溶媒にセフジニルを溶解したセフジニル溶液を用いて、これを低溶解性有機溶媒中に添加して非晶質セフジニルを沈殿させて得る方法である。具体的には、上述のような溶媒にセフジニルを溶解したセフジニル溶液を5〜30質量%になるまで濃縮し、その濃縮液を低溶解性有機溶媒中に添加して非晶質セフジニルを沈殿せしめる方法である。ここで「低溶解性有機溶媒」とは、上述のセフジニルを溶解する溶媒よりも溶解性が低い有機溶媒であれば特に制限はなく、例えば、トルエン、ベンゼン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、イソプロピルエーテルなどが挙げられるが、特にイソプロピルエーテルが好ましい。このようにして得た沈殿物を、常法により濾過、洗浄、乾燥後、必要に応じて再沈殿、濾過、乾燥を行い、非晶質セフジニルを得ることができる。
【0017】
噴霧乾燥法は、上述のような溶媒にセフジニルを溶解した5〜30質量%程度の濃度のセフジニル溶液を、70〜120℃程度の温風中に噴霧して短時間に溶媒を蒸発させて乾燥することにより非晶質セフジニルを得る方法である。凍結乾燥法は、上述のような溶媒にセフジニルを溶解した5〜30質量%程度の濃度のセフジニル溶液を−10〜−50℃程度の温度に急速に冷却し、急速凍結した後、減圧下で乾燥することにより非晶質セフジニルを得る方法である。
【0018】
次に粉砕法について述べる。粉砕法は、機械的手段によって結晶セフジニルを非晶質になるまで粉砕することにより非晶質セフジニルを得る方法である。結晶セフジニルが非晶質となるには、粉砕物の平均粒子径として1〜5μm程度の大きさとなるまで粉砕する必要がある。尚、使用するセフジニルの結晶はいずれの結晶多形でも使用できる。本発明で用いる粉砕機としては、機械的に圧壊、摩砕して微粒子化する機能を有するものであれば特に制限はなく、例えば振動ボールミル、回転型ボールミル、振動ロッドミル、ハンマーミル、ピンミル、マイクロス等が挙げられる。また、凍結粉砕法や、エクストルーダーを利用した粉砕なども利用可能である。結晶セフジニルを非晶質になるまで粉砕するのに要する時間は、使用する粉砕機種、粉砕動力の大きさ、対象物の全重量、添加剤の種類と添加割合等により変動するが、数十分から数時間の範囲にある。結晶セフジニルを上記粉砕機などで粉砕すると、容易に非晶質セフジニルが得られる。この方法によれば、結晶セフジニルを原料として用いるので、高純度の非晶質セフジニルを得ることが可能である。
【0019】
本発明の非晶質セフジニルは、上記のような方法によって得ることができるが、この非晶質セフジニルはつぎのような性質を有するものである。すなわち、粉末X線回折によると、結晶セフジニルは鋭い回折ピークを有しているのに対し、本発明の非晶質セフジニルはこのような回折ピークを有さず、全体が非晶質であることが示された。また、赤外スペクトルを用いた分析によれば、結晶セフジニルは1770cm-1、1180cm-1付近にピークを有するのに対し、本発明の非晶質セフジニルは1765cm-1のほか、1660cm-1、1530cm-1、1350cm-1付近に特徴的なピークを有する。本発明の非晶質セフジニルの溶解性は、結晶セフジニルに比べて著しく改善されている。具体的には、25℃の酢酸緩衝液(pH2.0〜6.0)に対し、結晶セフジニルは20μg/mL程度しか溶解しないのに対し、本発明の非晶質セフジニルは100〜300μg/mLの良好な溶解性を示す。
【0020】
なお、結晶セフジニルの熱に対する安定性を示差走査熱量計(DSC)により調べた結果、昇温速度10℃/分におけるDSC曲線において220℃付近に分解を伴う融解発熱ピークが認められる。一方、溶媒沈殿法により得られた非晶質セフジニルは、昇温速度10℃/分におけるDSC曲線において、190℃および255℃付近に弱い発熱ピークを有し、融解する。
【0021】
本発明の非晶質セフジニルは、そのまま薬剤として用いることもできるが、本発明の非晶質セフジニルは添加剤を含有しないので、所望する量と種類の賦形剤、結合剤、崩壊剤、着色剤などを用いて、粉末、顆粒、錠剤、丸剤、カプセル剤などの製剤として使用することが可能である。前記賦形剤、結合剤、崩壊剤、着色剤などは、製剤の形態と用途に応じて一種または二種以上使用できる。
【0022】
賦形剤としては、例えば、乳糖、コーンスターチ、ショ糖、ブドウ糖、カオリン、タルク、結晶セルロース、マンニトール、軽質無水ケイ酸、塩化ナトリウム、炭酸カルシウム、L−システィンなどが挙げられる。また、結合剤としては、例えば、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリビニルピロリドン、プルラン、デキストリン、アラビアゴムなどが挙げられる。
【0023】
崩壊剤としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、寒天末、カルボキシメチルセルロースカルシウム、デンプン類、クロスリンクドカルボキシメチルセルロースナトリウム、クロスリンクドインソルブルポリビニルピロリドン、ポリオキシソルビタン脂肪酸エステル類などが挙げられる。着色剤としては、例えば、酸化チタン、ベンガラ、タール色素などが挙げられる。
【0024】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。以下の実施例において、特に注記しない限り「%」は質量基準である。
【実施例】
【0025】
製造例1:粉砕法によるセフジニルの製造
平均粒子径が50μmのA型結晶セフジニル粉末3.0gを酸化アルミニウム製の粉砕容器に入れ、ボールミル(CMTモデルTI-200、フリッチュ製)で30分間粉砕し、平均粒子径が3μmのセフジニル粉末2.8gを得た。
【0026】
製造例2:噴霧乾燥法によるセフジニルの製造
100.0gのセフジニルを6Lのジクロロメタンに溶解し、セフジニル溶液を調製した。このセフジニル溶液を、スプレードライヤー(大川原化工機製)を用いて、熱風入口温度100℃にて噴霧乾燥し、セフジニル粉末75.2gを得た。スプレードライヤーのセフジニル溶液の供給速度は50mL/min、アトマイザーの回転速度は10000rpmとした。
【0027】
製造例3:凍結乾燥法によるセフジニルの製造
凍結乾燥機(ラブコンコ製)を用い、10%のセフジニルを含有するジオキサン溶液を−40℃で急速凍結した後、真空度5×10−2mmHgに減圧して溶媒を昇華させ、セフジニル45.1gを得た。
【0028】
製造例4:有機溶媒沈殿法によるセフジニルの製造
35.0gのセフジニルを400mLの熱メタノールに溶解し、セフジニル溶液を調製した。この溶液を210mLに濃縮した後、800mLのイソプロピルエーテル中に攪拌しながら加え、5℃で10時間ゆっくり撹拌した。次いで析出した粉末を濾取してイソプロピルエーテルにて洗浄し、2mmHgの減圧下に乾燥した。得られた乾燥物をイソプロピルエーテル溶媒に添加し、沈殿物を濾過乾燥することによりセフジニル粉末28.0gを得た。
【0029】
試験例1:セフジニル粉末のX線回折
特開平1−250384号公報に記載の方法によって得られたA型結晶セフジニルの粉末、及び上記製造例4で得られたセフジニル粉末について、X線回折装置(ミニフレックス、リガク製)を用いてセフジニルのX線回折を測定した。その結果のセフジニル粉末のX線回折図を、製造例4で得たセフジニル粉末の場合を図1に、A型結晶セフジニル粉末の場合を図2に示す。図2からわかるように結晶セフジニルの場合には鋭い回折ピークを有しているが、上記製造例4で得られたセフジニル粉末の場合には、図1からわかるように回折ピークを有さず、このセフジニル粉末が非晶質であることがわかった。
【0030】
試験例2:赤外線吸収スペクトル
試験例1のものと同一の結晶セフジニル粉末、及び上記製造例4で得られたセフジニル粉末について、IRスペクトロメーター(モデルFT/IR−500、JASCO製)を用い、臭化カリウム錠剤法により赤外線吸収スペクトルを測定した。その結果の赤外線吸収スペクトルを、製造例4で得たセフジニル粉末の場合を図3に、A型結晶セフジニル粉末の場合を図4に示す。A型結晶セフジニルは1770cm-1、1520cm-1、1180cm-1付近にピークを有するが、上記製造例4で得られた本発明の非晶質セフジニル粉末は1765cm-1の他に、1660cm-1、1530cm-1および1350cm-1付近にピークを有することが判明した。
【0031】
試験例3:溶解試験
試験例1のものと同一のA型結晶セフジニルの粉末、及び上記製造例1〜4で得られた非晶質セフジニル粉末について、溶解試験を行った。すなわち、日局14通則66記載の方法に従い、各試料を酢酸塩緩衝液(pH2.0、3.0、4.0、5.0、および6.0)に25℃で懸濁させた。この懸濁液をろ過した後、ろ液の一定量を量り、アセトニトリルで希釈し、液体クロマトグラフ法によりセフジニルの溶解量を測定した。pHと溶解量との関係を示すグラフを表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
A型結晶セフジニルの溶解量は、pH2.0で7μg/mL、pH3.0で5μg/mLなのに対し、上記製造例1〜4で得られた非晶質セフジニルは、いずれもpH2.0で125〜135μg/mL、pH3.0で132〜150μg/mLと良好な溶解性を示した。
また、pH4.0〜6.0の領域においても、結晶セフジニルの溶解量が僅か7〜18μg/mLであるのに対し、上記製造例1〜4で得られた非晶質セフジニルは152〜285μg/mLと著しく改善されていることが判明した。
【0034】
試験例4:熱分析
試験例1のものと同一のA型結晶セフジニルの粉末、製造例1で得られた粉砕法による非晶質セフジニル粉末について、熱に対する安定性を示差走査熱量計(モデルTAS−200、リガク製)により調べた。その結果のDSC曲線を、製造例1で得たセフジニル粉末の場合を図5に、A型結晶セフジニル粉末の場合を図6に示す。結晶セフジニルの場合には昇温速度10℃/分におけるDSC曲線において、220℃に分解を伴う融解発熱ピークを認めた。一方、製造例1で得られた粉砕法による非晶質セフジニルは、昇温速度10℃/分におけるDSC曲線において、190℃および255℃付近に弱い発熱ピークを有し、融解することが示された。
【0035】
製剤例1:
製造例1で粉砕法によって得られた粉砕物である非晶質セフジニル粉末100g、及びヒドロキシプロピルセルロース(タイプL)40gを混合し、散剤を製造した。
【0036】
製剤例2:
製造例2で噴霧乾燥法によって得られた噴霧乾燥物である非晶質セフジニル粉末100g、ヒドロキシプロピルセルロース(タイプL)50g、クロスカルメロースナトリウム25g及びステアリン酸マグネシウム2gを加えて混合し、カプセル充填してカプセル剤1000個を製造した。
【0037】
製剤例3:
製造例3で凍結乾燥法によって得られた凍結乾燥物である非晶質セフジニル粉末100g、β−シクロデキストリン50g、ヒドロキシプロピルセルロース2g、D−マンニトール20g、リンゴ酸20g及びポリエチレングリコール脂肪酸エステル2gを均一に混合した粉末を常法により湿式造粒して細粒化し、細粒剤を製造した。
【0038】
製剤例4:
製造例4で有機溶媒沈殿によって得られた沈殿物である非晶質セフジニル粉末100g、カゼインナトリウム50g、D−マンニトール10g、およびクロスカルメロースナトリウム20gを混合して均一な粉末混合物を得た。この粉末混合物に適量の水を加えて常法で造粒した。得られた顆粒を次に滑沢剤としてステアリン酸マグネシウムを加え常法で圧縮成形し、錠剤1000錠を製造した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の非晶質セフジニルは、結晶セフジニルに比べて水に対する溶解性が良好で、従ってこれを含有する医薬組成物とした場合によりすぐれた抗菌作用を示す。従って、本発明の非晶質セフジニルおよびこれを含有する医薬組成物は、このような抗菌性治療剤をはじめ種々の医薬品への利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、製造例4で得られた本発明の非晶質セフジニルのX線回折チャートである。
【図2】図2は、先行技術の方法で得られたA型晶質セフジニルのX線回折チャートである。
【図3】図3は、製造例4で得られた本発明の非晶質セフジニルの赤外吸収スペクトルのチャートである。
【図4】図4は、先行技術の方法で得られたA型晶質セフジニルの赤外吸収スペクトルのチャートである。
【図5】図5は、製造例4で得られた本発明の非晶質セフジニルのDSCのチャートである。
【図6】図6は、先行技術の方法で得られたA型晶質セフジニルのDSCのチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶質セフジニルを含まず、実質的に非結晶質である非晶質セフジニル。
【請求項2】
非晶質セフジニルが、臭化カリウム錠剤法による赤外吸収スペクトルにおいて、1765cm-1、1530cm-1および1350cm-1付近に強いピークを有するものであることを特徴とする、請求項1に記載の非晶質セフジニル。
【請求項3】
非晶質セフジニルが、pHが2.0〜6.0の範囲の酢酸塩緩衝液に対し、25℃で125〜258μg/mLの溶解量を示すものであることを特徴とする、請求項1または2に記載の非晶質セフジニル。
【請求項4】
非晶質セフジニルが、昇温速度10℃/分における示差走査熱量曲線において、190および255℃付近に発熱ピークを有するものであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の非晶質セフジニル。
【請求項5】
非晶質セフジニルが、セフジニルのメタノール溶液に低溶解性有機溶媒を加えて沈殿させることにより得られたものであることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の非晶質セフジニル。
【請求項6】
低溶解性有機溶媒が、イソプロピルエーテルであることを特徴とする、請求項5に記載の非晶質セフジニル。
【請求項7】
非晶質セフジニルが、有機溶媒に溶解したセフジニル溶液を噴霧乾燥することにより得られたものであることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の非晶質セフジニル。
【請求項8】
非晶質セフジニルが、有機溶媒に溶解したセフジニル溶液を凍結乾燥することにより得られたものであることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の非晶質セフジニル。
【請求項9】
非晶質セフジニルが、結晶質セフジニルを機械的手段により粉砕することにより得られたものであることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の非晶質セフジニル。
【請求項10】
セフジニルのメタノール溶液に低溶解性有機溶媒を加えてセフジニルを沈殿させることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかの項にて規定される非晶質セフジニルの製造方法。
【請求項11】
有機溶媒に溶解したセフジニル溶液を噴霧乾燥することを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかの項にて規定される非晶質セフジニルの製造方法。
【請求項12】
有機溶媒に溶解したセフジニル溶液を凍結乾燥することを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかの項にて規定される非晶質セフジニルの製造方法。
【請求項13】
結晶質セフジニルを機械的手段により粉砕することを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかの項にて規定される非晶質セフジニルの製造方法。
【請求項14】
請求項1ないし9のいずれかに記載の非晶質セフジニルを含有することを特徴とする経口投与用の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−77123(P2007−77123A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−270778(P2005−270778)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(390028509)シオノケミカル株式会社 (6)
【Fターム(参考)】