説明

非晶質下塗り層及び半結晶性貯蔵層を含むコーティング

本発明は、半結晶性ポリマーを含む貯蔵層及び非晶質ポリマーを含む下塗り層を含んだ、埋め込み型用具上のコーティング、並びにその製造及び使用方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、埋め込み型用具をコーティングするための半結晶性組成物に関する。
【0002】
[発明の背景]
経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は、心疾患を治療するための処置である。バルーン部を有するカテーテルアセンブリは、上腕動脈又は大腿動脈を通じて経皮的に患者の心臓血管系に導入される。カテーテルアセンブリは、バルーン部が閉塞性病変全体に亘る位置に来るまで冠血管系の中を進められる。病変全体に亘る位置に来ると、バルーンを所定の大きさに膨らませて病変の動脈硬化巣を放射状に圧迫し、内腔壁の形を変える。その後バルーンの空気を抜いて外形が小さくなると、患者の血管系からカテーテルを引き抜くことができるようになる。
【0003】
上記の処置に付随する問題として挙げられるのは、剥離内膜や損傷動脈内壁が形成され、バルーンの空気を抜いた後にこれらが崩壊し血液導管を閉塞させる可能性があるということである。更には、動脈の血栓症及び再狭窄が処置後数カ月かけて発症し、別の血管形成処置又は外科的バイパス手術が必要になる可能性がある。動脈内壁の崩壊による動脈の部分閉塞又は完全閉塞の減少、及び血栓症や再狭窄の可能性の減少のために、ステントを動脈内に埋め込んで動脈を開いた状態を保つ。
【0004】
薬物送達ステントによって、10年余りの間介入的心臓学における悩みであったPCI後のステント内再狭窄(ISR)の発生率が減少した(例えば、Serruys、P.W.、ら、J.Am.Coll.Cardiol.39:393〜399(2002)参照)。しかしながら、薬物送達ステントの技術分野には問題が少し残っている。例えば、ステントのコーティング用に非晶質の生体吸収性ポリマーを用いた場合にコーティングの完全性が損なわれること、これはエチレンオキシド(ETO)滅菌の条件又は送達バルーン上へのステントのクリンプの条件が原因で起こり得る。高温、高相対湿度、及びETO滅菌プロセス中のETOの高い濃度等の条件が原因で、可塑化並びにポリマーの変形及び流動によるバルーンへのコーティングの付着が起こり得る。同様に、完全に非晶質の生体吸収性ポリマーは高温で送達バルーン上にクリンプされると流動する場合がある。
【0005】
本発明の実施形態は、上記で特定されたニーズ及び問題に取り組んでいる。
【0006】
[発明の概要]
本発明は、半結晶性ポリマーを含む層及び非晶質ポリマーを含む下塗り層を含んだコーティングを備える医療用具を提供する。半結晶性ポリマーは、1つ又は複数の結晶ドメイン及び1つ又は複数の非晶質ドメインを含んでいる。更に結晶ドメインは、半結晶性ポリマーから形成されたコーティングが、コーティングの形成又は処理プロセス、例えば、薬物含有ポリマーのガラス転移温度より上か、その付近の温度でのETO滅菌において、及び/又は薬物含有ポリマーのガラス転移温度より上か、その付近の温度でのステントクリンピングプロセスにおいて、流動するか、又は医療用具と一緒に用いられるバルーンに付着するのを防止するような融解温度(Ts)及び非晶質ドメインに対する質量比(10〜30%)を有する。非晶質ポリエステルポリマーを含む下塗り層は、通常埋め込み型用具の金属基材によく付着し、半結晶性ポリエステルポリマーより分解が速い。
【0007】
したがって、これらの層を含むコーティングは、コーティングの改善された完全性を有すると同時に、EtO滅菌後の機械的完全性も維持する。加えて、非晶質ポリマーの吸収がより速いため、非晶質下塗り層と半結晶性層の吸収速度の差によって、半結晶性ポリマーを含む層及び非晶質層を含む下塗り層を含んだコーティングの生体吸収の時間の長さを調整することができる。更に、本明細書に記載のコーティングは、半結晶性ポリマーを含む層の特性により保存寿命の安定性及び放出速度の再現性が改良されている。
【0008】
本明細書に記載のコーティングは、通常は分解性又は生体吸収性である。いくつかの実施形態において、コーティングは、コーティングを備える医療用具の埋め込み後約1カ月、2カ月、3カ月、4カ月、6カ月、12カ月、18カ月又は24カ月以内に分解され得る。本明細書における完全分解とは、質量が完全に失われることを意味する。いくつかの実施形態において、コーティングは、コーティングを備える医療用具の埋め込み後24カ月以内に完全に分解又は吸収され得る。
【0009】
いくつかの実施形態において、コーティングは1種又は複数の生理活性剤、例えば薬物を含んでいてもよい。上記の吸湿層を有するコーティングに含まれ得るいくつかの代表的な生理活性剤としては、パクリタキセル、ドセタキセル、エストラジオール、17−β−エストラジオール、一酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、ビオリムス、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、ラパマイシン誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(エベロリムス)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン及び40−O−テトラゾール−ラパマイシン、40−エピ−(N1−テトラゾリル)−ラパマイシン(ABT−578)、テムシロリムス、デフォロリムス、γ−ヒリダン、クロベタゾール、ピメクロリムス、メシル酸イマチニブ、ミドスタウリン、フェノフィブラート、それらのプロドラッグ、それらのコドラッグ(co−drug)、並びにそれらの組合せが挙げられる。生理活性剤のいくつかのその他の例としては、siRNA及び/又は内皮細胞遊走を阻害するその他のオリゴヌクレオチドが挙げられる。生理活性剤の更なるいくつかの例としてはリゾホスファチジン酸(LPA)又はスフィンゴシン−1−リン酸(SIP)も挙げられる。LPAは、多種多様の正常及び悪性細胞型において成長因子様活性を生じることができる「生理活性」リン脂質である。LPAは、創傷治癒等の通常の生理的過程、及び血管緊張、血管の完全性又は再生において重要な役割を果たしている。
【0010】
本明細書に記載の埋め込み型用具は、ステント等の埋め込み型用具上に形成され得る。ステントは、患者に埋め込んで血管の病状を治療、予防、緩和、若しくは軽減できるか、又は治癒促進効果をもたらすことができる。いくつかの実施形態において、血管の病状又は血管の症状は冠動脈疾患(CAD)及び/又は末梢血管疾患(PVD)である。かかる血管の病状のいくつかの例としては、再狭窄及び/又はアテローム性動脈硬化が挙げられる。これらの症状のいくつかのその他の例としては、血栓症、出血、血管の解離若しくは穿孔、血管の動脈瘤、不安定プラーク、慢性完全閉塞、跛行、(静脈及び人工移植片に対する)吻合部増殖、胆管閉塞、尿管閉塞、腫瘍閉塞、又はこれらの組合せが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】結晶ドメイン(濃い固まり)及び非晶質ドメイン(波線)を有する半結晶性ポリマーを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、半結晶性ポリマーを含む層及び非晶質ポリマーを含む下塗り層を含んだコーティングを備える医療用具を提供する。半結晶性ポリマーは、1つ又は複数の結晶ドメイン及び1つ又は複数の非晶質ドメインを含んでいる。更に結晶ドメインは、半結晶性ポリマーから形成されたコーティングが、薬物含有ポリマーのガラス転移温度より上か又はその付近の温度でのETO滅菌、及び/又は薬物含有ポリマーのガラス転移温度より上か又はその付近の温度でのステントクリンピングプロセス等のコーティングの形成又は処理プロセスにおいて、流動又は医療用具と一緒に用いられるバルーンに付着するのを防止するための融解温度(Ts)及び非晶質ドメインに対する質量比(10〜30%)を有する。非晶質ポリエステルポリマーを含む下塗り層は、通常埋め込み型用具の金属基材によく付着し、半結晶性ポリエステルポリマーよりも分解が速い。
【0013】
非晶質ポリエステルポリマーは、貯蔵層と下塗り層とが良好な相容性を持ち得るように、貯蔵層と部分的に又は完全に混和するように選択してもよい。いくつかの実施形態において、少なくとも5%、l0%、20%、30%、40%、50%、70%、90%又は95%の、貯蔵ポリマー中における下塗りポリマーの混和性が選択される。
【0014】
いくつかの実施形態において、下塗り層を形成するための非晶質ポリマーは、貯蔵ポリマーよりも低いガラス転移温度(T)を有するように選択してもよい。
【0015】
これらの層を含むコーティングは、EtO滅菌後の機械的完全性も維持しながらコーティングの完全性を改善した。加えて、非晶質ポリマーが貯蔵層よりも速いか又は遅い分解速度又は吸収速度を有し得るために、非晶質下塗り層と半結晶性層の吸収速度の差によって、半結晶性ポリマーを含む層及び非晶質層を含む下塗り層を含んだコーティングの生体吸収の時間の長さを調整することができる。更に、本明細書に記載のコーティングは、半結晶性ポリマーを含む層の特性により保存寿命の安定性及び放出速度の再現性がよりよい。
【0016】
通常、本明細書に記載のコーティングは、(例えば患者の血管中に埋め込む等の)配備後6カ月間以内にコーティングの質量損失が約80%以上となる速度で分解又は吸収され得る。いくつかの実施形態において、同じ期間内でのコーティングの質量損失は、約90%以上、95%以上又は約99%以上であり得る。
【0017】
本明細書で用いる「半結晶性ポリマーを含む層」という用語は、用語「半結晶性層」と交換可能に用いられ、用語「非晶質ポリマーを含む下塗り層」は用語「非晶質下塗り層」又は「非晶質層」と交換可能に用いられる。いくつかの実施形態において、用語「半結晶性層」は「貯蔵層」を指し、用語「非晶質下塗り層」は「下塗り層」を指す。
【0018】
いくつかの実施形態において、用語「ドメイン」は「相」を指す場合がある。したがって、用語「結晶性ドメイン」は「結晶相」を指す場合がある。同様に、用語「非晶質ドメイン」は「非晶質相」を指す場合がある。
【0019】
本明細書で用いる「半結晶性コポリマー」という用語は、用語「半結晶性ポリマー」と交換可能に用いられる。いくつかの実施形態において、半結晶性ポリマーは、2つ以上のモノマーから形成されるコポリマーであってもよい。いくつかの実施形態において、半結晶性ポリマーは、1つのモノマーから形成されるホモポリマーであってもよい。
【0020】
本明細書に記載のコーティングは、通常は分解性又は生体吸収性である。いくつかの実施形態において、コーティングは、コーティングを備える医療用具の埋め込み後約1カ月、2カ月、3カ月、4カ月、6カ月、12カ月、18カ月又は24カ月以内に分解され得る。いくつかの実施形態において、コーティングは、コーティングを備える医療用具の埋め込み後24カ月以内に完全に分解又は吸収され得る。
【0021】
いくつかの実施形態において、コーティングは、以下に記載する1つ又は複数のその他の生体適合性ポリマーを含んでいてもよい。
【0022】
いくつかの実施形態において、コーティングは1種又は複数の生理活性剤、例えば薬物を含んでいてもよい。上記の吸湿層を有するコーティングに含まれ得るいくつかの代表的な生理活性剤としては、パクリタキセル、ドセタキセル、エストラジオール、17−β−エストラジオール、一酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、ビオリムス、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、ラパマイシン誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(エベロリムス)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン及び40−O−テトラゾール−ラパマイシン、40−エピ−(N1−テトラゾリル)−ラパマイシン(ABT−578)、テムシロリムス、γ−ヒリダン、クロベタゾール、ピメクロリムス、メシル酸イマチニブ、ミドスタウリン、フェノフィブラート、それらのプロドラッグ、それらのコドラッグ、並びにそれらの組合せが挙げられる。生理活性剤のいくつかのその他の例としては、siRNA及び/又は内皮細胞遊走を阻害するその他のオリゴヌクレオチドが挙げられる。生理活性剤の更なるいくつかの例としてはリゾホスファチジン酸(LPA)又はスフィンゴシン−1−リン酸(SIP)も挙げられる。LPAは、多種多様の正常及び悪性細胞型において成長因子様活性を生じることができる「生理活性」リン脂質である。LPAは、創傷治癒等の通常の生理的過程、及び血管緊張、血管の完全性又は再生において重要な役割を果たしている。
【0023】
本明細書に記載の埋め込み型用具は、ステント等の埋め込み型用具上に形成され得る。ステントは、患者に埋め込んで血管の病状を治療、予防、緩和、若しくは軽減できるか、又は治癒促進効果をもたらすことができる。いくつかの実施形態において、血管の病状又は血管の症状は冠動脈疾患(CAD)及び/又は末梢血管疾患(PVD)である。かかる血管の病状のいくつかの例としては、再狭窄及び/又はアテローム性動脈硬化が挙げられる。これらの症状のいくつかのその他の例としては、血栓症、出血、血管の解離若しくは穿孔、血管の動脈瘤、不安定プラーク、慢性完全閉塞、跛行、(静脈及び人工移植片に対する)吻合部増殖、胆管閉塞、尿管閉塞、腫瘍閉塞、又はこれらの組合せが挙げられる。
【0024】
定義
適用可能な場合はどこでも、以下に提供する本発明の説明全体に亘って用いられるいくつかの用語の定義が適用されるものとする。
【0025】
用語「生物学的分解性の」(又は「生物分解性の」)、「生物学的腐食性の」(又は「生体被腐食性の」)、「生物学的吸収性の」(又は「生体吸収性の」)及び「生物学的再吸収性の」(又は「生体再吸収性の」)は、ポリマー及びコーティングに関連して、交換可能に用いられ、生理的条件下にさらされると時間をかけて完全に又は実質的に完全に、分解、溶解及び/又は腐食されることが可能であって、身体によりゆっくりと再吸収、吸収、及び/又は排出され得るか、又は動物(例えば、ヒト)の腎臓膜を通過できる断片、例えば、分子量が約40,000ダルトン(40kDa)以下の断片に分解され得るポリマー及びコーティングを指す。ポリマー又はコーティングの、分解及び最終的な吸収並びに排出のプロセスは、例えば、加水分解、代謝過程、酸化、酵素過程、バルク腐食又は表面腐食等により引き起こされ得る。逆に、「生体安定性の」ポリマー又はコーティングは、生物分解性ではないポリマー又はコーティングを指す。
【0026】
かかるステントコーティングを形成している「生物学的分解性の」、「生物学的腐食性の」、「生物学的吸収性の」及び「生物学的再吸収性の」ステントコーティング又はポリマーに言及する場合、分解、腐食、吸収及び/又は再吸収のプロセスが完了又は実質的に完了した後には、コーティングは、全く又は実質的にほとんどステント上に残らないことが理解される。本出願で「分解性の」、「生物分解性の」又は「生物学的分解性の」という用語が用いられる場合はいつでも、生物学的分解性、生物学的腐食性、生物学的吸収性及び生物学的再吸収性のポリマー又はコーティングが広く含まれることが意図される。
【0027】
「生理的条件」とは、インプラントが動物(例えば、ヒト)の体内でさらされる条件を指す。生理的条件としては、限定するものではないが、その動物種にとっての「正常」な体温(ヒトの場合約37℃)並びに生理的イオン強度、pH及び酵素の水性環境が挙げられる。場合によっては、ある特定の動物の体温は、その動物種にとっての「正常」な体温と見なされるものより上又は下の場合がある。例えば、ヒトの体温はある場合には約37℃より上又は下の場合がある。本発明の範囲には、動物の生理的条件(例えば、体温)が「正常」とは見なされないような場合が包含される。血液接触性埋め込み型用具に関する文脈においては、「治癒促進」薬又は「治癒促進」剤は、動脈内腔の再内皮化を促進又は増進させて血管組織の治癒を促進させる特性を有する薬物又は薬剤を指す。
【0028】
本明細書で用いる「コドラッグ」とは、他の薬物と同時に又は順次に投与されて、特定の薬理効果を達成する薬物である。効果は全身性又は特異的であり得る。コドラッグは他の薬物とは異なる効果を発揮し得るか、又は他の薬物の効果を促進、増進又は増強し得る。
【0029】
本明細書で用いる「プロドラッグ」という用語は、代謝されるか又はin vivo加水分解を受けて薬物又はその有効成分を形成する、化学的又は生物学的部分によって活性がより低くなっている薬剤を指す。用語「プロドラッグ」は、「プロ薬剤」、「潜伏化薬物」、「生体可逆性誘導体」及び「同族体」等の用語と交換可能に用いることができる。N.J.Harper、Drug latentiation、Prog Drug Res.、4:221〜294(1962);E.B.Roche、Design of Biopharmaceutical Properties through Prodrugs and Analogs、Washington、DC:American Pharmaceutical Association(1977);A.A.Sinkula and S.H.Yalkowsky、Rationale for design of biologically reversible drug derivatives:prodrugs、J.Pharm.Sci.、64:181〜210(1975)。用語「プロドラッグ」を用いる場合、著者によっては活性の薬物分子の塩のいくつかの形態を特徴付けるためにも用いているが、通常は薬物と化学的部分の間の共有結合を意味している。プロドラッグ自体の厳密な普遍的な定義はなく、著者によって定義は変わり得るが、プロドラッグは通常、治療、予防又は診断効果を発揮する、活性の又はより活性の薬物分子に、酵素的に又は非酵素的にin vivoで変換され得る、より薬理活性の低い化学的誘導体と定義することができる。Sinkula and Yalkowsky、同上;V.J.Stellaら、Prodrugs:Do they have advantages in clinical practice?、Drugs、29:455〜473(1985)。
【0030】
用語「ポリマー」及び「ポリマーの」は、重合反応の生成物である化合物について指す。これらの用語には、ホモポリマー(すなわち、1つの種類のモノマーを重合することにより得られるポリマー)、コポリマー(すなわち、2種類以上の異なるモノマーを重合することにより得られるポリマー)、ターポリマー等が含まれ、ランダム、交互、ブロック、グラフト、樹状、架橋、及びそれらのいずれかのその他の変形体等が挙げられる。
【0031】
本明細書で用いる「埋め込み型」という用語は、本用具が示すように用具が安全且つ効果的に使用されるように行政機関(例えば、U.S.FDA)の法及び規則で定められている、用具の機械的、物理的、化学的、生物学的及び薬理学的要件を満たす、哺乳動物(例えば、ヒト又は患者)に埋め込むことができるという属性を指す。本明細書で用いる「埋め込み型用具」は、ヒト又は非ヒト動物に埋め込むことができるいずれの好適な基材であってもよい。埋め込み型用具の例としては、限定するものではないが、自己拡張型ステント、バルーン拡張型ステント、冠動脈ステント、末梢血管用ステント、ステント移植片、カテーテル、種々の体内管腔又は開口部用のその他の拡張型管状用具、移植片、血管移植片、動静脈移植片、バイパス移植片、ペースメーカー及び除細動器、前述の用具用のリード及び電極、人工心臓弁、吻合クリップ、動脈閉鎖用具、卵円孔開存閉鎖用具、脳脊髄液シャント、並びに粒子(例えば、薬剤溶出粒子、微小粒子及びナノ粒子)が挙げられる。ステントは、神経、頸動脈、静脈移植片、冠状動脈、大動脈、腎臓、腸骨、大腿骨、膝窩の血管系、及び尿道を含む、体内のいずれの管を対象にしたものであってもよい。埋め込み型用具は治療剤の局所送達用に設計してもよい。薬剤付加埋め込み型用具は、一部は、例えば、治療剤を含有するコーティング材料で用具をコーティングすることにより作製してもよい。用具の本体もまた治療剤を含有していてもよい。
【0032】
埋め込み型用具は、部分的に又は完全に、生物分解性/生体吸収性/生体被腐食性のポリマー、生体安定性のポリマー、又はそれらの組合せを含有するコーティングで製造してもよい。埋め込み型用具自体も、部分的に又は完全に、生物分解性/生体吸収性/生体被腐食性のポリマー、生体安定性のポリマー、又はそれらの組合せから製造してもよい。
【0033】
本明細書で用いる、示された基材(例えば、埋め込み型用具)の「上に配置された」層又は膜(例えば、コーティング)として記載されている材料は、例えば、基材の表面の少なくとも一部の上に直接的又は間接的に堆積した材料のコーティングを指す。直接堆積とは、露出している基材の表面にコーティングを直接塗布することを意味する。間接堆積とは、基材上に直接又は間接的に堆積させた中間層にコーティングを塗布することを意味する。いくつかの実施形態において、用語「層」又は「膜」は、非埋め込み型用具上に形成された膜又は層を除外する。
【0034】
ステントに関する文脈において、「送達」は、体内管腔を通じて、病変等の治療が必要な管の中の部位にステントを導入及び運搬することを指す。「配備」は、治療部位の内腔内のステントを拡張することに相当する。ステントの送達及び配備は、カテーテルの一端の周りにステントを配置すること、カテーテルの端部を皮膚を通じて体内管腔に挿入すること、体内管腔内のカテーテルを所望の治療位置まで進ませること、ステントを治療位置で拡張させること、及びカテーテルを内腔から取り除くことによって達成される。
【0035】
半結晶性ポリマー
本明細書に記載の半結晶性コポリマーは、結晶ドメイン及び非晶質ドメインを有していてもよく、図1で表すことができる。通常、半結晶性ポリマーがある特定の温度で流動するか否かは、ポリマーが流動を開始する温度と定義されるガラス転移開始温度(T)、又はポリマーの融解転移(T)温度によって評価することができる。T及びTが両方とも所定の温度(例えば、ETO滅菌又はクリンプの温度)より低い半結晶性ポリマーを含むコーティングを所定の温度で加熱した場合、コーティングが流動し、コーティングの完全性が損なわれる。したがって、コーティングの流動、又はコーティングを有する医療用具と一緒に用いられるバルーンへのコーティングの付着を防止するためには、コーティングの開始T又は/及びTが所定の温度より高い必要がある。議論の便宜上、所定の温度はコーティング処理プロセス(T)の温度と定義する。
【0036】
開始TがTよりも低い半結晶性ポリマーを含むコーティングを形成するためには、半結晶性ポリマーは、以下の式で示す定義を満たす、結晶ドメインのモル比合計を(x、例えば、結晶化度10〜30%)とする1つ又は複数の結晶ポリマー構造体を有する1つ又は複数の結晶ドメイン(Tsを有する)、及び非晶質ドメインのモル比合計を(y)とする1つ又は複数の非晶質ポリマー構造体を有する1つ又は複数の非晶質ドメイン(ガラス転移温度Tを有する)を有さなければならない。
x+y=1 (式1)
【0037】
いくつかの実施形態において、半結晶性ポリマーは、Tが約60℃以上である結晶性ドメインを有する。これらの実施形態において、非晶質ドメインのガラス転移温度はTより下であってもよい。
【0038】
式1において、x及びyはそれぞれ約0.01〜約0.99の範囲であってもよい。x及びyの代表的ないくつかの値は、互いに独立に、約0.02、約0.05、約0.1、約0.2、約0.3、約0.4、約0.5、約0.6、約0.7、約0.8、約0.9、約0.95又は約0.98である。
【0039】
用語「T」は、任意のコーティング処置の作業プロセス、又はある任意の時点の処理プロセスの温度であってもよい。例えばTは、焼成処置、クリンピング処置又はETO滅菌処置の温度であってもよい。したがってTは、周囲温度より上(例えば、25℃より上)であるが約150℃より下の温度であってもよい。いくつかの実施形態において、Tは約50℃、約80℃、約100℃又は約120℃であってもよい。
【0040】
いくつかの実施形態において、半結晶性コポリマーは、例えば、ポリ(L−乳酸−co−カプロラクトン)(PLLA−CL)、ポリ(D−乳酸−co−カプロラクトン)(PDLA−CL)、ポリ(DL−乳酸−co−カプロラクトン)(PDLLA−CL)、ポリ(D−乳酸−グリコール酸(PDLA−GA)、ポリ(L−乳酸−グリコール酸(PLLA−GA)、ポリ(DL−乳酸−グリコール酸(PDLLA−GA)、ポリ(D−乳酸−co−グリコリド−co−カプロラクトン)(PDLA−GA−CL)、ポリ(L−乳酸−co−グリコリド−co−カプロラクトン)(PLLA−GA−CL)、ポリ(DL−乳酸−co−グリコリド−co−カプロラクトン)(PDLLA−GA−CL)、ポリ(L−乳酸−co−カプロラクトン)(PLLA−CL)、ポリ(D−乳酸−co−カプロラクトン)(PDLA−CL)、ポリ(DL−乳酸−co−カプロラクトン)(PDLLA−CL)、ポリ(グリコリド−co−カプロラクトン)(PGA−CL)、又は脂肪族ポリエステルからできた他のいずれかの半結晶性コポリマーであってもよい。D−ラクチド及びL−ラクチドの両方を含む全てのポリマーにおいては、この2つのジアステレオマーの比は0〜100の間で変化してもよく、例えば0.10、0.50、1、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、99、99.5、99.9、又はその他のいずれかの比である。コポリマーの命名においてL−乳酸又はグリコール酸を用いる場合、これはL−ラクチド及びグリコリドと同等でもあることが想定される。これまでに言及したいずれのポリマーにおいても、D−又はL−ラクチドは、代わりにメソ−ラクチドで置き換えることができる。
【0041】
これらの半結晶性ポリマーは、上記で定義した、結晶ドメインのモル比、x、及び非晶質ドメインのモル比、y、を有し、ランダムな構造であってもよく、若しくはよりブロック性の構造を有していてもよく、又は真のブロックコポリマーの設計を有していてもよい。ブロックコポリマーは、ジブロック、トリブロック、テトラブロック又はペンタブロックコポリマーであってもよい。
【0042】
いくつかの実施形態において、半結晶性コポリマーは半結晶性ターポリマーであってもよい。かかるターポリマーは異なる3つのモノマーからの繰り返し単位を含んでおり、結晶性ドメインを形成するための1つのモノマー又は異なる2つのモノマー、及び非晶質ドメインを形成するための1つのモノマー又は異なる2つのモノマーを含んでいてもよい。モノマーの具体的な比率(1つ又は複数)は変わることもあるが、ターポリマーは異なる3つのモノマーからの繰り返し単位を有し、ターポリマーは、上記で定義したような、1つ又は異なる2つのモノマーからの繰り返し単位を含んでいてもよい結晶性ドメインのモル比、x、及び1つ又は異なる2つのモノマーからの繰り返し単位を含んでいてもよいターポリマー中の非晶質ドメインのモル比、y、を含むことになる。いくつかの実施形態において、ターポリマーに結晶性ドメインをもたらす1つのモノマー又は異なる2つのモノマーは、例えば、L−乳酸、D−乳酸、グリコール酸、カプロラクトン、ジオキサノンであってもよい。ターポリマーに非晶質ドメインをもたらす1つのモノマー又は異なる2つのモノマーは、例えば、カプロラクトン、置換カプロラクトン、グリコール酸、D,L−乳酸、L−乳酸、D−乳酸、メソ−乳酸、トリメチレンカーボネート、又は置換トリメチレンカーボネートであってもよい。
【0043】
いくつかの実施形態において、半結晶性ポリマーは半結晶性ブロックコポリマーであってもよい。かかるコポリマーは、結晶ドメイン(結晶性ブロック)を形成するための1つ又は複数のモノマー、及び非晶質ドメイン(非晶質ブロック)を形成するための1つ又は複数のモノマーの繰り返し単位を含む。結晶性ブロックが非晶質ドメインをも形成し、更に結晶性ドメイン若しくはブロック及び/又は非晶質ドメイン若しくはブロックが1つ又は複数の異なるモノマーからの繰り返し単位を含む場合、結晶性ドメイン又はブロックを形成しているかかるモノマー、例えばモノマーA、B、C...は、互いに独立に、例えば0〜約100の範囲でモル比が異なっていてもよく、非晶質ドメイン又はブロックを形成しているかかるモノマー、例えば、モノマーA’、B’、C’...は、互いに独立に、例えば0〜約100の範囲でモル比が異なっていてもよい。しかしながら、半結晶性ブロックコポリマーは、上記で定義したような、結晶性ドメイン又はブロックのモル比、x、及び非晶質ドメイン又はブロックのモル比、y、を有していなければならない。いくつかの実施形態において、半結晶性ブロックコポリマーに結晶性ドメインをもたらしているモノマー(1つ又は複数)は、例えば、L−乳酸、D−乳酸、グリコール酸、カプロラクトン、ジオキサノンであってもよい。半結晶性ブロックコポリマーに非晶質ドメインをもたらしているモノマー(1つ又は複数)は、例えば、カプロラクトン、置換カプロラクトン、グリコール酸、D,L−乳酸、L−乳酸、D−乳酸、メソ−乳酸、トリメチレンカーボネート若しくは置換トリメチレンカーボネート、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)、アミド、又はその他のいずれかの生体吸収性セグメントであってもよい。
【0044】
いくつかの実施形態において、半結晶性ポリマーは半結晶性ポリ(エステルアミド)(PEA)であってもよい。かかるPEAポリマーは結晶性ドメイン及び非晶質ドメインを含んでいてもよい。結晶性ドメイン及び非晶質ドメインはそれぞれ、上記で定義したモル比、x及びyを有する。半結晶性PEAポリマーのいくつかの例としては、限定するものではないが、L−フェニルアラニン、D−フェニルアラニン、又は脂肪族長鎖若しくは芳香族基等のポリマーを結晶化させるその他の単位を含むポリマーが挙げられる。
【0045】
更にいくつかの実施形態において、半結晶性ポリマーは以下のポリマーのいずれかであってもよい。
L−ラクチドの含有量が約65モル%〜約100モル%の範囲である半結晶性PLLGA、
L−ラクチドの含有量が約65モル%以上の範囲である半結晶性PLLA−GA−CLターポリマー、及び
半結晶性PLLA−CL(L−ラクチド/CL=75/25又は70/30モル比)。
【0046】
上記のポリマーの分子量は変わることがある。いくつかの実施形態において、これらのポリマーの平均分子量(Mw)は約75Kダルトン〜約250Kダルトンの範囲であり得る。いくつかの実施形態において、これらのポリマーのMwは約100Kダルトン〜約200Kダルトンの範囲である。
【0047】
いくつかの実施形態において、用語「結晶性ドメイン(1つ又は複数)」又は「非晶質ドメイン(1つ又は複数)」は、「結晶性単位(1つ又は複数)」又は「非晶質単位(1つ又は複数)」を指す場合がある。いくつかの実施形態において、用語「繰り返し単位(1つ又は複数)」は「結晶性単位(1つ又は複数)」又は「非晶質単位(1つ又は複数)」を指す場合もある。
【0048】
非晶質ポリマー
非晶質下塗り層は1つ又は複数のいずれの非晶質ポリマーから形成されてもよい。いくつかの実施形態において、非晶質ポリマーは非晶質ポリエステルポリマーである。非晶質ポリエステルのいくつかの例としては、限定するものではないが以下のものが挙げられる。
非晶質ポリ(D,L−ラクチド)(PDLA)、
D,L−ラクチドの含有量が約30モル%以上である非晶質ポリ(L−ラクチド−co−D,L−ラクチド)(PLLLA)、
グリコリドの含有量が約10〜約50モル%である非晶質ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)(PDLGA)、
L−ラクチドの含有量が約70モル%以下である非晶質ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)(PLLGA)、
グリコリドの含有量が約70モル%以下である非晶質ポリ(グリコリド−co−カプロラクトン)(PGACL)、
カプロラクトンの含有量が約70モル%以下である非晶質ポリ(D,L−ラクチド−co−カプロラクトン)(PDLACL)、
L−ラクチドの含有量が70モル%未満であるが30モル%よりは高い非晶質ポリ(L−ラクチド−co−カプロラクトン)(PLLACL)、
グリコリド、D,L−ラクチド及び/又はL−ラクチドを有するトリメチレンカーボネートの非晶質コポリマー、及び
L−ラクチドの含有量が約65モル%以下である非晶質のPDLGA−CL及びPLLA−GA−CLターポリマー。
【0049】
非晶質ポリマーの分子量は異なっていてもよい。いくつかの実施形態において、上記で列挙した非晶質ポリマーの重量平均分子量(Mw)は約75Kダルトン〜約200Kダルトンの間であってもよい。
【0050】
下塗り層は、貯蔵層よりもゆっくりと分解されるように選択してもよい。いくつかの実施形態において、下塗り層は、貯蔵層よりも速く分解又は吸収されるように選択してもよい。いくつかの実施形態において、下塗り層は、配備後約6カ月以内に完全に又は実質的に完全に分解又は吸収され得る。
【0051】
いくつかの実施形態において、非晶質ポリマーに分解調節を施し、全体的なコーティングの分解又は吸収速度を所望の範囲内に導くことができる。非晶質ポリマーの分解又は吸収速度のこのような調節の一例は、ポリマーに電子ビーム又はγ線照射処理を施すことであるが、これは当業者には周知の処置である。
【0052】
本明細書で用いる「実質的に完全に」という用語は、ポリマー残渣の約20重量%又は20重量%未満を意味するものとする。いくつかの実施形態において、この用語は、ポリマー残渣の約10重量%未満を意味するものとする。更にいくつかの実施形態において、この用語は、ポリマー残渣の5重量%未満又は1重量%未満を意味するものとする。
【0053】
生物活性剤
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の埋め込み型用具は、場合により少なくとも1種の生物活性(「生理活性」)剤を含んでいてもよい。少なくとも1種の生理活性剤は、患者に対して治療、予防又は診断効果を発揮することができるいずれかの物質を含んでいてもよい。
【0054】
好適な生理活性剤の例としては、限定するものではないが、合成無機及び有機化合物、タンパク質及びペプチド、多糖類及びその他の糖類、脂質、並びに治療、予防又は診断作用を有するDNA及びRNA核酸配列が挙げられる。核酸配列としては、遺伝子、相補DNAに結合し転写を阻害するアンチセンス分子、及びリボザイムが挙げられる。その他の生理活性剤のいくつかのその他の例としては、抗体、受容体リガンド、酵素、接着ペプチド、血液凝固因子、ストレプトキナーゼや組織プラスミノーゲン活性化因子等の阻害剤又は血栓溶解剤、免疫用抗原、ホルモン及び成長因子、アンチセンスオリゴヌクレオチド及びリボザイム等のオリゴヌクレオチド、並びに遺伝子治療に用いるためのレトロウイルスベクターが挙げられる。生理活性剤は、例えば、血管平滑筋細胞の活性を阻害するように設計してもよい。生理活性剤は、平滑筋細胞の異常な又は不適切な遊走及び/又は増殖を阻害して再狭窄を抑制することに向けられてもよい。
【0055】
ある特定の実施形態において、場合によっては本明細書に記載する1つ又は複数の他の実施形態との組合せにおいて、埋め込み型用具は、抗増殖性、抗腫瘍性、抗有糸分裂性、抗炎症性、抗血小板性、抗凝血性、抗フィブリン性、抗トロンビン性、抗生性、抗アレルギー性、及び抗酸化性の物質より選択される少なくとも1種の生物活性剤を含んでいてもよい。
【0056】
抗増殖剤は、細胞毒又は合成分子等の天然のタンパク質剤であってもよい。抗増殖性物質の例としては、限定するものではないが、アクチノマイシンD又はそれらの誘導体及び類似体(Sigma−Aldrich製、又はMerckより入手可能なコスメゲン(COSMEGEN))(アクチノマイシンDの別名としては、ダクチノマイシン、アクチノマイシンIV、アクチノマイシンI、アクチノマイシンX、及びアクチノマイシンCが挙げられる);タキソール、ドセタキセル、並びにパクリタキセル及びその誘導体等の全てのタキソイド;マクロライド系抗生物質、ラパマイシン、エベロリムス、ラパマイシンの構造誘導体及び機能性類似体、エベロリムスの構造誘導体及び機能性類似体、FKBP−12介在性mTOR阻害剤、ビオリムス、パーフェニドン等の全てのオリムス(olimus)薬、それらのプロドラッグ、それらのコドラッグ、及びそれらの組合せが挙げられる。ラパマイシン誘導体の例としては、限定するものではないが、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(Novartis製の商標名エベロリムス)、40−O−(2−エトキシ)エチル−ラパマイシン(ビオリムス)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン、40−O−テトラゾール−ラパマイシン、40−エピ−(N1−テトラゾリル)−ラパマイシン(ゾタロリムス、Abbott Labs.製)、デフォロリムス、テムシロリムス、それらのプロドラッグ、それらのコドラッグ、及びそれらの組合せが挙げられる。抗炎症薬は、ステロイド性抗炎症薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、又はそれらの組合せであってもよい。抗炎症薬の例としては、限定するものではないが、アルクロフェナク、ジプロピオン酸アルクロメタゾン、アルゲストンアセトニド、αアミラーゼ、アムシナファル、アムシナフィド、アンフェナクナトリウム、塩酸アミプリロース、アナキンラ、アニロラク、アニトラザフェン、アパゾン、バルサラジド二ナトリウム、ベンダザック、ベノキサプロフェン、塩酸ベンジダミン、ブロメライン、ブロペラモール、ブデソニド、カルプロフェン、シクロプロフェン、シンタゾン、クリプロフェン、クロベタゾール、プロピオン酸クロベタゾール、ブチレートクロベタゾン、クロピラク、プロピオン酸クロチカゾン、酢酸コルメタゾン、コルトドキソン、デフラザコート、デソニド、デスオキシメタゾン、デキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、ジプロピオン酸デキサメタゾン、ジクロフェナクカリウム、ジクロフェナクナトリウム、酢酸ジフロラゾン、ジフルミドンナトリウム、ジフルニサル、ジフルプレドナート、ジフタロン、ジメチルスルホキシド、ドロシノニド、エンドリソン、エンリモマブ、エノリカムナトリウム、エピリゾール、エトドラク、エトフェナマート、フェルビナク、フェナモール、フェンブフェン、フェンクロフェナク、フェンクロラク、フェンドサル、フェンピパロン、フェンチアザク、フラザロン、フルアザコート、フルフェナム酸、フルミゾール、酢酸フルニソリド、フルニキシン、フルニキシンメグルミン、フルオコルチンブチル、酢酸フルオロメトロン、フルクアゾン、フルルビプロフェン、フルレトフェン、プロピオン酸フルチカゾン、フラプロフェン、フロブフェン、ハルシノニド、プロピオン酸ハロベタゾール、酢酸ハロプレドン、イブフェナク、イブプロフェン、イブプロフェンアルミニウム、イブプロフェンピコノール、イロニダップ、インドメタシン、インドメタシンナトリウム、インドプロフェン、インドキソール、イントラゾール、酢酸イソフルプレドン、イソキセパク、イソキシカム、ケトプロフェン、塩酸ロフェミゾール、ロモキシカム、エタボン酸ロテプレドノール、メクロフェナメートナトリウム、メクロフェナム酸、メクロリソンジブチレート、メフェナム酸、メサラミン、メセクラゾン、メチルプレドニゾロンスレプタネート、モミフルメート、ナブメトン、ナプロキセン、ナプロキセンナトリウム、ナプロキソール、ニマゾン、オルサラジンナトリウム、オルゴテイン、オルパノキシン、オキサプロジン、オキシフェンブタゾン、塩酸パラニリン、ペントサン多硫酸ナトリウム、フェンブタゾンナトリウムグリセレート、ピルフェニドン、ピロキシカム、ケイ皮酸ピロキシカム、ピロキシカムオラミン、ピルプロフェン、プレドナゼート、プリフェロン、プロドール酸、プロカゾン、プロキサゾール、クエン酸プロキサゾール、リメキソロン、ロマザリット、サルコレックス、サルナセジン、サルサレート、塩化サンギナリウム、セクラゾン、セルメタシン、スドキシカム、スリンダク、スプロフェン、タルメタシン、タルニフルメート、タロサレート、テブフェロン、テニダップ、テニダップナトリウム、テノキシカム、テシカム、テシミド、テトリダミン、チオピナク、ピバル酸チキソコルトール、トルメチン、トルメチンナトリウム、トリクロニド、トリフルミデート、ジドメタシン、ゾメピラックナトリウム、アスピリン(アセチルサリチル酸)、サリチル酸、コルチコステロイド、グルココルチコイド、タクロリムス、ピメコルリムス(pimecorlimus)、それらのプロドラッグ、それらのコドラッグ、及びそれらの組合せが挙げられる。
【0057】
或いは、抗炎症剤は炎症促進性シグナリング分子の生物学的阻害剤であってもよい。抗炎症性生物剤はかかる生物学的炎症性シグナリング分子に対する抗体を含む。
【0058】
更に、生理活性剤は抗増殖剤又は抗炎症剤以外であってもよい。生理活性剤は、治療剤、予防剤又は診断剤であるいずれの薬剤であってもよい。いくつかの実施形態において、かかる薬剤は抗増殖剤又は抗炎症剤との組合せで用いてもよい。これらの生理活性剤はまた、抗増殖性及び/又は抗炎症性を有していてもよく、又は抗腫瘍性、抗有糸分裂性、細胞増殖抑制性、抗血小板性、抗凝血性、抗フィブリン性、抗トロンビン性、抗生物質、抗アレルギー性、及び/又は抗酸化性等のその他の特性を有していてもよい。
【0059】
抗腫瘍薬及び/又は抗有糸分裂薬の例としては、限定するものではないが、パクリタキセル(例えば、タキソール(TAXOL)(登録商標)Bristol−Myers Squibbより入手可能)、ドセタキセル(例えば、Aventis製のタキソテール(Taxotere)(登録商標))、メトトレキサート、アザチオプリン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、フルオロウラシル、塩酸ドキソルビシン(例えば、Pfizer製のアドリアマイシン(Adriamycin)(登録商標))、及びマイトマイシン(例えば、Bristol−Myers Squibb製のムタマイシン(Mutamycin(登録商標))が挙げられる。
【0060】
細胞増殖抑制性又は抗増殖性もまた有していてもよい抗血小板性、抗凝血性、抗フィブリン性及び抗トロンビン性の薬剤の例としては、限定するものではないが、ヘパリンナトリウム、低分子量のヘパリン、ヘパリン類似物質、ヒルジン、アルガトロバン、ホルスコリン、バピプロスト、プロスタサイクリン及びプロスタサイクリン類似体、デキストラン、D−phe−pro−arg−クロロメチルケトン(合成抗トロンビン)、ジピリダモール、糖タンパク質IIb/IIIa血小板膜受容体アンタゴニスト抗体、組換えヒルジン、アンジオマックス(ANGIOMAX)(Biogen製)等のトロンビン阻害剤、カルシウムチャネル遮断薬(例えば、ニフェジピン)、コルヒチン、線維芽細胞成長因子(FGF)アンタゴニスト、魚油(例えば、ω3−脂肪酸)、ヒスタミンアンタゴニスト、ロバスタチン(HMG−CoA還元酵素を阻害するコレステロール降下剤、Merck製の商標名メバコール(Mevacor)(登録商標))、モノクローナル抗体(例えば、血小板由来成長因子(PDGF)受容体に特異的な抗体)、ニトロプルシド、ホスホジエステラーゼ阻害剤、プロスタグランジン阻害剤、スラミン、セロトニン遮断薬、ステロイド、チオプロテアーゼ阻害剤、トリアゾロピリミジン(PDGFアンタゴニスト)、一酸化窒素又は一酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣物、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、エストラジオール、抗がん剤、種々のビタミン等の栄養補助食品、並びにそれらの組合せが挙げられる。
【0061】
細胞増殖抑制物質の例としては、限定するものではないが、アンジオペプチン、カプトプリル(例えば、Bristol−Myers Squibb製のカポテン(Capoten)(登録商標)及びカポジド(Capozide)(登録商標))、シラザプリル及びリシノプリル(例えば、Merck製のプリニビル(Prinivil)(登録商標)及びプリンザイド(Prinzide)(登録商標))等のアンジオテンシン変換酵素阻害剤が挙げられる。
【0062】
抗アレルギー剤の例としては、限定するものではないが、ペルミロラストカリウムが挙げられる。抗酸化性物質の例としては、限定するものではないが、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)が挙げられる。その他の生理活性剤としては、抗ウイルス剤等の抗感染剤;鎮痛剤及び鎮痛剤の組合せ;食欲抑制剤;抗蠕虫剤;抗関節炎剤、抗喘息剤;抗痙攣剤;抗うつ剤;抗利尿剤;止痢剤;抗ヒスタミン剤;抗片頭痛製剤;抗嘔吐剤;抗パーキンソン病剤;止痒剤;抗精神病剤;解熱剤;鎮痙剤;抗コリン剤;交感神経刺激剤;キサンチン誘導体;カルシウムチャネル遮断薬及びピンドロール等のβ遮断薬を含む心血管作動製剤、及び抗不整脈剤;降圧剤;利尿剤;一般的な冠血管拡張剤を含む血管拡張剤;末梢血管及び脳血管拡張剤;中枢神経刺激剤;充血除去剤を含む鎮咳及び感冒製剤;催眠剤;免疫抑制剤;筋弛緩剤;副交感神経遮断剤;精神刺激剤;鎮静剤;精神安定剤;天然由来又は遺伝子組み換えのリポタンパク質;並びに再狭窄低減剤が挙げられる。
【0063】
その他の生物活性剤としては、αインターフェロン、遺伝子組み換え上皮細胞、タクロリムス及びデキサメタゾンを用いることができる。
【0064】
「治癒促進」薬又は「治癒促進」剤は、血液接触性埋め込み型用具に関する文脈においては、動脈内腔の再内皮化を促進又は増進させて血管組織の治癒を促進させる特性を有する薬物又は薬剤を指す。治癒促進薬又は治療促進剤を含有する埋め込み型用具(例えば、ステント)の一部分(複数可)は、内皮細胞(例えば、内皮前駆細胞)を誘引、結合し、最終的には内皮細胞に被包されることがある。細胞の誘引、結合及び被包によって、ステントの被包が不十分な場合に起こり得る機械的特性の喪失による、塞栓又は血栓の形成が減少又は防止されることになる。再内皮化が増進されると、ステントの機械的特性が喪失されるよりも速い速度で内皮化が促進され得る。
【0065】
治癒促進薬又は治癒促進剤は、生体吸収性ポリマー基材又は足場の本体内に分散させることができる。治癒促進薬又は治癒促進剤は、埋め込み型用具(例えば、ステント)の表面上の生体吸収性ポリマーコーティング内に分散させることもできる。
【0066】
「内皮前駆細胞」は、血流に入り血管損傷領域まで進んで損傷の修復を助けることができる、骨髄内で作られる初期細胞を指す。内皮前駆細胞は成人ヒト末梢血内を循環し、サイトカイン、成長因子及び虚血状態によって骨髄から動員される。血管損傷は、血管形成及び脈管形成の両方の機構によって修復される。循環している内皮前駆細胞は、主に脈管形成機構を通じて損傷血管の修復に寄与する。
【0067】
いくつかの実施形態において、治癒促進薬又は治癒促進剤は内皮細胞(EDC)結合剤であってもよい。ある特定の実施形態において、EDC結合剤は、タンパク質、ペプチド又は抗体であってもよく、それらは、例えば、1型コラーゲンの1種であり一本鎖Fv断片(scFv A5)として知られているペプチド23個の断片、ジャンクション膜タンパク質血管内皮(VE)−カドヘリン、及びそれらの組合せであってもよい。1型コラーゲンは、オステオポンチンと結合すると、内皮細胞の接着を促進し、アポトーシス経路の下方制御によってその生存率を調節することがわかっている。S.M.Martin、ら、J.Biomed.Mater.Res.、70A:10〜19(2004)。内皮細胞は、(免疫リポゾームの標的化送達用に)scFv A5を用いて選択的に標的化され得る。T.Volkel、ら、Biochimica et Biophysica Acta、1663:158〜166(2004)。ジャンクション膜タンパク質血管内皮(VE)−カドヘリンは、内皮細胞に結合して内皮細胞のアポトーシスを下方制御することがわかっている。R.Spagnuolo、ら、Blood、103:3005〜3012(2004)。
【0068】
特定の実施形態において、EDC結合剤はオステオポンチンの活性断片であってもよい(Asp−Val−Asp−Val−Pro−Asp−Gly−Asp−Ser−Leu−Ala−Try−Gly)。その他のEDC結合剤としては、限定するものではないが、EPC(上皮細胞)抗体、RGDペプチド配列、RGD模倣物、及びそれらの組合せが挙げられる。
【0069】
更なる実施形態において、治癒促進薬又は治癒促進剤は、内皮前駆細胞を誘引且つ結合する物質又は薬剤であってもよい。内皮前駆細胞を誘引且つ結合する代表的な物質又は薬剤としては、CD−34、CD−133、及びvegf2型受容体等の抗体が挙げられる。内皮前駆細胞を誘引且つ結合する薬剤は、一酸化窒素供与基を有するポリマーを含んでいてもよい。
【0070】
上述の生物活性剤は一例として列挙するものであって、限定することを意味するものではない。現在利用可能、又は将来開発される可能性のあるその他の生物活性剤も同様に適用可能である。
【0071】
より具体的な実施形態において、場合によっては本明細書に記載する1つ又は複数の他の実施形態との組合せにおいて、本発明の埋め込み型用具は、パクリタキセル、ドセタキセル、エストラジオール、一酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、ラパマイシン誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(エベロリムス)、40−O−(2−エトキシ)エチル−ラパマイシン(ビオリムス)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン、40−O−テトラゾール−ラパマイシン、40−エピ−(N1−テトラゾリル)−ラパマイシン(ゾタロリムス)、テムシロリムス、デフォロリムス、ピメクロリムス、メシル酸イマチニブ、ミドスタウリン、クロベタゾール、前駆細胞捕捉抗体、治癒促進薬、それらのプロドラッグ、それらのコドラッグ、及びそれらの組合せより選択される少なくとも1種の生物活性剤を含む。特定の実施形態において、生理活性剤はエベロリムスである。別の具体的な実施形態において、生理活性剤はクロベタゾールである。
【0072】
代わりとなる薬物クラスとしては、脂質輸送増加のためのp−para−α−アゴニストがあり、例としてはフェノフィブラートが挙げられる。
【0073】
いくつかの実施形態において、場合によっては本明細書に記載する1つ又は複数の他の実施形態との組合せにおいて、少なくとも1種の生物活性剤は、特に、本明細書に記載する生理活性薬又は生理活性剤のいずれかのうちの1種又は複数ではあり得ない。
【0074】
コーティング構造
本発明のいくつかの実施形態によると、場合によっては本明細書に記載する1つ又は複数の他の実施形態との組合せにおいて、埋め込み型用具(例えば、ステント)上に配置されたコーティングは、いずれかのデザインのコーティングの層の中に、本明細書に記載の、貯蔵層中の半結晶性ポリマー及び下塗り層中の非晶質ポリマーを含んでいてもよい。コーティングは、少なくとも1つの下塗り層(下記の層(1))及び少なくとも1つの貯蔵層(下記の層(2))を含み、且つ以下の層(3)、(4)及び(5)のいずれか、又はその組合せを含んでいてもよい、多層構造であってもよい。
(1)下塗り層、
(2)貯蔵層(「マトリックス層」又は「薬剤マトリックス」とも呼ぶ)、これは少なくとも1つのポリマー(薬物−ポリマー層)を含む薬物−ポリマー層、又はその代わりに、ポリマー非含有薬物層であってもよい、
(3)放出制御層(「律速層」とも呼ぶ)、
(4)上塗り層、及び/又は
(5)仕上げ被覆層。
【0075】
いくつかの実施形態において、本発明のコーティングは上記の2つ以上の貯蔵層を含んでいてもよく、各層は本明細書に記載の生理活性剤を含んでいてもよい。
【0076】
コーティングの各層は、半結晶性ポリマーを、場合により1つ又は複数の他のポリマーとともに、溶媒、又は溶媒の混合物中に溶解させること、及び生じたコーティング溶液を、噴霧するか又はステントを溶液中に浸漬させることによってステント上に配置させることにより、埋め込み型用具(例えば、ステント)上に配置することができる。溶液をステント上に配置した後、溶媒を蒸発させることによりコーティングを乾燥させる。乾燥を高温で行うと乾燥のプロセスは加速できる。所望に応じて、ポリマーコーティングの結晶化を可能にするため、及び/又はコーティングの熱力学的安定性を向上させるため、完成したステントコーティングは、場合により約40℃〜150℃の温度にて約5分〜約60分間焼きなますことができる。
【0077】
生理活性剤(例えば、薬物)を貯蔵層中に組み込むためには、薬物を、上記のように埋め込み型用具上に配置されたポリマー溶液と組み合わせてもよい。或いは、所望であればポリマー非含有貯蔵層を作ってもよい。ポリマー非含有貯蔵層を作製するためには、薬物を好適な溶媒又は溶媒の混合物中に溶解させてもよく、また生じた薬物溶液を、噴霧するか又はステントを薬物含有溶液中に浸漬させることによって、埋め込み型用具(例えば、ステント)上に配置してもよい。
【0078】
溶液を介して薬物を導入する代わりに、適切な溶媒相中の懸濁液等のコロイド系として薬物を導入してもよい。懸濁液を作るために、コロイド化学で用いられる従来の手法を用いて薬物を溶媒相中に分散させてもよい。種々の要因、例えば薬物の性質に応じて、当業者は、懸濁液の溶媒相を形成させるための溶媒、及び溶媒相中に分散させる薬物の量を選択することができる。場合により、懸濁液を安定化させるために界面活性剤を加えてもよい。懸濁液はポリマー溶液と混合させてもよく、この混合物を上記のようにステント上に配置させてもよい。或いは、薬物懸濁液をポリマー溶液と混合させずにステント上に配置させてもよい。
【0079】
薬物−ポリマー層は、ステント表面の少なくとも一部分の上に間接的に塗布することにより、下塗り層の少なくとも一部分の上で貯蔵層の中に組み込まれる少なくとも1種の生理活性剤(例えば、薬物)のために、その貯蔵部として機能することができる。下塗り層をステントと貯蔵部の間に塗布し、薬物−ポリマー層のステントへの付着を向上させることができる。任意の上塗り層は、貯蔵層の少なくとも一部分の上に塗布してもよく、薬物の放出速度を制御するのに役立つ律速膜として機能する。一実施形態において、上塗り層はあらゆる生理活性剤や薬物を実質的に含まなくてもよい。上塗り層を用いる場合、薬物放出速度の更なる制御、及びコーティングの生体適合性の向上のために、任意の仕上げ被覆層を上塗り層の少なくとも一部分の上に塗布してもよい。上塗り層がない場合は、仕上げ被覆層を貯蔵層の上に直接堆積させてもよい。
【0080】
コーティングされた医療用具の滅菌には、微小病原体を不活性化するためのプロセスが通常伴う。このようなプロセスは当該技術分野においては周知である。少し例を挙げると、電子ビーム、ETO滅菌、高圧蒸気殺菌法及びγ線照射がある。全てとは言わないまでもこれらのプロセスのほとんどには、高温が伴い得る。例えば、コーティングされたステントのETO滅菌には、最大100%まで達する湿度レベルにて2〜3時間から最大24時間50℃より高く熱することが通常伴う。典型的なEtOサイクルでは、密閉されたチャンバー内の温度は最初の3〜4時間の間に50℃より高い温度にまで達し、次いで17〜18時間40℃〜50℃の間で変動し、同時に湿度は100%のピークに達し、サイクルの変動時間の間は80%を超えて維持される。
【0081】
上塗り層及び仕上げ被覆層の両方を有するコーティングからの薬物放出のプロセスには、少なくとも3つのステップが含まれる。まず、薬物が、薬物−ポリマー層/上塗り層界面で上塗り層のポリマーによって吸収される。次に、薬物が、上塗り層ポリマーの巨大分子間の空隙容量を移動用の経路として用いて上塗り層を通じて拡散する。次に、薬物が上塗り層/仕上げ層界面に達する。最後に、同様の方法で薬物が仕上げ被覆層を通じて拡散し、仕上げ被覆層の外表面に達し、この外表面から脱着する。この時点で、薬物が血管又は周囲組織の中に放出される。したがって、上塗り層及び仕上げ被覆層の組合せを用いる場合は、律速バリアとして機能することができる。薬物は、コーティングを形成している層(1つ又は複数)の分解、溶解及び/又は腐食によって、又は半結晶性ポリマー層(1つ又は複数)を通しての血管又は組織中への薬物の移動を介して放出され得る。
【0082】
一実施形態において、下塗り層を除き、ステントコーティングの他のいずれか又は全ての層は、生物学的分解性/腐食性/吸収性/再吸収性、非−分解性/生体安定性のポリマー、又はそれらの組合せであるという特性を場合によっては有する、本明細書に記載の半結晶性ポリマーでできていてもよい。
【0083】
別の実施形態において、貯蔵層を除き、ステントコーティングの他のいずれか又は全ての層は、生物学的分解性/腐食性/吸収性/再吸収性、非−分解性/生体安定性のポリマー、又はそれらの組合せであるという特性を場合によっては有する、本明細書に記載の非晶質ポリマーでできていてもよい。
【0084】
仕上げ被覆層を使用しない場合は上塗り層が最外層であってもよく、上塗り層は、本明細書に記載の、生物分解性又は生体安定性であるという特性、又は非晶質ポリマーと混合されるという特性を場合によっては有する半結晶性ポリマー及び/又は非晶質ポリマーでできていてもよい。この場合、残りの層(すなわち、下塗り層及び貯蔵層)もまた、場合により、本明細書に記載の、生物分解性又は生体安定性であるという特性、又は非晶質ポリマーと混合されるという特性を場合によっては有する半結晶性ポリマーで作製されてもよい。ある特定の層の中のポリマー(1つ又は複数)は、その他のいずれの層の中のポリマーと同じであっても異なっていてもよいが、ただし、生体吸収性であるもう1つの方のポリマーの外側も好ましくはやはり生体吸収性であるべきであり、内側の層に比べて同じか又はより速く分解すべきである。
【0085】
仕上げ被覆層も上塗り層もいずれも使用しない場合、ステントコーティングは2つの層、すなわち下塗り層及び貯蔵層しか有し得ない。このような場合、貯蔵部はステントコーティングの最外層であり、本明細書に記載の、生物分解性又は生体安定性であるという特性、又は非晶質ポリマーと混合されるという特性を場合によっては有する半結晶性ポリマーでできているべきである。下塗り層は、本明細書に記載の非晶質ポリマー、及び場合によっては、1つ又は複数の生物分解性ポリマー、生体安定性のポリマー、又はそれらの組合せで作製される。
【0086】
下塗り層を除いてコーティングのいずれの層も、本明細書に記載の、生物分解性又は生体安定性であるという特性を場合によっては有する、任意の量の半結晶性ポリマーを含有していてもよい。生体吸収性ポリマー及び生体適合性ポリマーの非限定的な例としては、ポリ(N−ビニルピロリドン);ポリジオキサノン;ポリオルトエステル;ポリ酸無水物;ポリ(グリコール酸);ポリ(グリコール酸−co−トリメチレンカーボネート);ポリホスホエステル;ポリホスホエステルウレタン;ポリ(アミノ酸);ポリ(トリメチレンカーボネート);ポリ(イミノカーボネート);コポリ(エーテル−エステル);ポリアルキレンオキサレート;ポリホスファゼン;生体分子、例えば、フィブリン、フィブリノゲン、セルロース、セロファン、デンプン、コラーゲン、ヒアルロン酸、及びそれらの誘導体(例えば、酢酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、プロピオン酸セルロース、セルロースエーテル、及びカルボキシメチルセルロース)、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリ(L−乳酸−co−カプロラクトン)(PLLA−CL)、ポリ(D−乳酸−co−カプロラクトン)(PDLA−CL)、ポリ(DL−乳酸−co−カプロラクトン)(PDLLA−CL)、ポリ(D−乳酸−グリコール酸(PDLA−GA)、ポリ(L−乳酸−グリコール酸(PLLA−GA)、ポリ(DL−乳酸−グリコール酸(PDLLA−GA)、ポリ(D−乳酸−co−グリコリド−co−カプロラクトン)(PDLA−GA−CL)、ポリ(L−乳酸−co−グリコリド−co−カプロラクトン)(PLLA−GA−CL)、ポリ(DL−乳酸−co−グリコリド−co−カプロラクトン)(PDLLA−GA−CL)、ポリ(L−乳酸−co−カプロラクトン)(PLLA−CL)、ポリ(D−乳酸−co−カプロラクトン)(PDLA−CL)、ポリ(DL−乳酸−co−カプロラクトン)(PDLLA−CL)、ポリ(グリコリド−co−カプロラクトン)(PGA−CL)、又はそれらのいずれかのコポリマーが挙げられる。
【0087】
ステントコーティングのいずれの層もまた、任意の量の非分解性ポリマーを含有していてもよく、又は、生体吸収性ポリマーと混合していない限り、又は非分解性層の下のあらゆる層が生体吸収性ポリマーを含む限り、2つ以上のかかるポリマーのブレンドを含有していてもよい。非分解性ポリマーの非限定的な例としては、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(ブチルメタクリレート)、ポリ(2−エチルヘキシルメタクリレート)、ポリ(ラウリルメタクリレート)、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリエチレングリコール(PEG)アクリレート、PEGメタクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)及びポリ(n−ビニルピロリドン)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)、ポリ(3−トリメチルシリルプロピルメタクリレート)、並びにそれらのコポリマーが挙げられる。
【0088】
埋め込み型用具の作製方法
本発明の他の実施形態は、場合によっては本明細書に記載の1つ又は複数の他の実施形態との組合せにおいて、埋め込み型用具の作製方法に関する。一実施形態において、本方法には生物分解性又は生体安定性のポリマー又はコポリマーを含有する材料の埋め込み型用具を形成することが含まれる。
【0089】
本方法の元では、埋め込み型用具の一部分又は用具全体そのものは、生物分解性又は生体安定性のポリマー又はコポリマーを含有する材料から形成され得る。本方法は、ある範囲の厚みを有するコーティングを埋め込み型用具上に堆積させることができる。ある特定の実施形態において、本方法は、埋め込み型用具の少なくとも一部分の上に、厚さが約30ミクロン以下、約20ミクロン以下、約10ミクロン以下又は約5ミクロン以下のコーティングを堆積させる。
【0090】
ある特定の実施形態において、本方法を用いてステント、移植片、ステント移植片、カテーテル、リード及び電極、クリップ、シャント、閉鎖用具、バルブ、並びに粒子より選択される埋め込み型用具が作製される。特定の実施形態においては、本方法を用いてステントが作製される。
【0091】
いくつかの実施形態において、ポリマーから形成される埋め込み型用具を形成するため、本明細書に記載の少なくとも1種の生理活性剤を場合によっては含むポリマー又はコポリマーから、丸めるか又は接着させてチューブ等の構築物を形成することができるチューブ又はシート等の、ポリマー構築物を形成することができる。そしてこの構築物から埋め込み型用具を作製することができる。例えば、パターンをレーザー加工してチューブにすることによって、チューブからステントを作製することができる。別の実施形態において、ポリマー構築物は、射出成形装置を用いて本発明のポリマー材料から形成することができる。
【0092】
上記で定義した半結晶性ポリマーであってもなくてもよく、埋め込み型用具を作製するために用いることができるポリマーの非限定的な例としては、ポリ(N−アセチルグルコサミン)(キチン)、キトサン、ポリ(ヒドロキシバレレート)、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(ヒドロキシブチレート−co−バレレート)、ポリオルトエステル、ポリ酸無水物、ポリ(L−乳酸−co−カプロラクトン)(PLLA−CL)、ポリ(D−乳酸−co−カプロラクトン)(PDLA−CL)、ポリ(DL−乳酸−co−カプロラクトン)(PDLLA−CL)、ポリ(D−乳酸−グリコール酸(PDLA−GA)、ポリ(L−乳酸−グリコール酸(PLLA−GA)、ポリ(DL−乳酸−グリコール酸(PDLLA−GA)、ポリ(D−乳酸−co−グリコリド−co−カプロラクトン)(PDLA−GA−CL)、ポリ(L−乳酸−co−グリコリド−co−カプロラクトン)(PLLA−GA−CL)、ポリ(DL−乳酸−co−グリコリド−co−カプロラクトン)(PDLLA−GA−CL)、ポリ(L−乳酸−co−カプロラクトン)(PLLA−CL)、ポリ(D−乳酸−co−カプロラクトン)(PDLA−CL)、ポリ(DL−乳酸−co−カプロラクトン)(PDLLA−CL)、ポリ(グリコリド−co−カプロラクトン)(PGA−CL)、ポリ(チオエステル)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリエチレンアミド、ポリエチレンアクリレート、ポリ(グリコール酸−co−トリメチレンカーボネート)、コポリ(エーテル−エステル)(例えば、PEO/PLA)、ポリホスファゼン、生体分子(例えば、フィブリン、フィブリノゲン、セルロース、デンプン、コラーゲン及びヒアルロン酸)、ポリウレタン、シリコーン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリイソブチレン及びエチレン−αオレフィンコポリマー、ポリアクリレート以外のアクリルポリマー及びコポリマー、ハロゲン化ビニルポリマー及びコポリマー(例えば、ポリ塩化ビニル)、ポリビニルエーテル(例えば、ポリビニルメチルエーテル)、ポリハロゲン化ビニリデン(例えば、ポリ塩化ビニリデン)、ポリアクリロニトリル、ポリビニルケトン、ポリビニル芳香族化合物(例えば、ポリスチレン)、ポリビニルエステル(例えば、ポリビニルアセテート)、アクリロニトリル−スチレンコポリマー、ABS樹脂、ポリアミド(例えば、ナイロン66及びポリカプロラクタム)、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリイミド、ポリエーテル、ポリウレタン、レーヨン、レーヨン−トリアセテート、セルロース及びそれらの誘導体(例えば、酢酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、セロファン、硝酸セルロース、プロピオン酸セルロース、セルロースエーテル、及びカルボキシメチルセルロース)、並びにそれらのコポリマーが挙げられる。
【0093】
埋め込み型用具の作製に好適であり得るポリマーの更なる代表的な例としては、(一般的には一般名EVOH又は商標名EVALで知られている)エチレンビニルアルコールコポリマー、ポリ(ブチルメタクリレート)、ポリ(ビニリデンフルオライド−co−ヘキサフルオロプロピレン)(例えば、SOLEF21508、Thorofare、New JerseyのSolvay Solexis PVDFより入手可能)、ポリビニリデンフルオライド(別名KYNAR、Philadelphia、PennsylvaniaのATOFINA Chemicalsより入手可能)、ポリ(テトラフルオロエチレン−co−ヘキサフルオロプロピレン−co−ビニリデンフルオライド)、エチレン−ビニルアセテートコポリマー、及びポリエチレングリコールが挙げられる。
【0094】
疾患の治療又は予防方法
本発明の埋め込み型用具を用いて、種々の症状又は疾患を治療、予防又は診断することができる。かかる症状又は疾患の例としては、限定するものではないが、アテローム性動脈硬化、血栓症、再狭窄、出血、血管解離、血管穿孔、血管の動脈瘤、不安定プラーク、慢性完全閉塞、卵円孔開存、跛行、静脈及び人工移植片の吻合部増殖、動静脈吻合、胆管閉塞、尿管閉塞及び腫瘍閉塞が挙げられる。埋め込み型用具の一部分又は用具全体そのものは、本明細書に記載の材料から形成され得る。例えば、材料は、用具の少なくとも一部分の上に配置されたコーティングであってもよい。
【0095】
ある特定の実施形態において、場合によっては本明細書に記載する1つ又は複数の他の実施形態との組合せにおいて、本発明の方法は、アテローム性動脈硬化、血栓症、再狭窄、出血、血管解離、血管穿孔、血管の動脈瘤、不安定プラーク、慢性完全閉塞、卵円孔開存、跛行、静脈及び人工移植片の吻合部増殖、動静脈吻合、胆管閉塞、尿管閉塞及び腫瘍閉塞より選択される症状又は疾患を治療、予防又は診断する。特定の実施形態において、症状又は疾患は、アテローム性動脈硬化、血栓症、再狭窄又は不安定プラークである。
【0096】
本方法の一実施形態において、場合によっては本明細書に記載の1つ又は複数の他の実施形態との組合せにおいて、埋め込み型用具は、パクリタキセル、ドセタキセル、エストラジオール、一酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、ラパマイシン誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(エベロリムス)、40−O−(2−エトキシ)エチル−ラパマイシン(ビオリムス)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン、40−O−テトラゾール−ラパマイシン、40−エピ−(N1−テトラゾリル)−ラパマイシン(ゾタロリムス)、テムシロリムス、デフォロリムス、ピメクロリムス、メシル酸イマチニブ、ミドスタウリン、クロベタゾール、前駆細胞捕捉抗体、治癒促進薬、フェノフィブラート、それらのプロドラッグ、それらのコドラッグ、及びそれらの組合せより選択される少なくとも1種の生物活性剤を含有する、材料から形成されるか、又はコーティングを備える。
【0097】
ある特定の実施形態において、場合によっては本明細書に記載する1つ又は複数の他の実施形態との組合せにおいて、本方法において用いられる埋め込み型用具は、ステント、移植片、ステント移植片、カテーテル、リード及び電極、クリップ、シャント、閉鎖用具、バルブ、並びに粒子より選択される。特定の実施形態において、埋め込み型用具はステントである。
【実施例】
【0098】
以下の非限定的な例によって、上記の種々の実施形態を例証する。
【0099】
PLLA−GA(L−ラクチド−co−グリコリド、82/18、モル比)ポリマー及びエベロリムスを、アセトン/MIBK(メチルイソブチルケトン)(90/10 w/w)の溶媒混合物を用いてステントの上にコーティングした(薬物/ポリマー=1/3)。次いで、コーティングされたステントをバルーンカテーテル上にクリンプし、ETOで滅菌した。コーティングの完全性を、模擬使用試験の後に走査電子顕微鏡法(SEM)によって評価した。この試験には、ETO滅菌した、半結晶性PLLA−GA(L−ラクチド−co−グリコリド、82/18モル比)から作られたコーティングが含まれていたが、これは、非晶質ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)(PDLGA)(ラクチド/グリコリド、75/25、モル比)から作られたコーティングと比較すると優れた完全性を示した。このことは2つのコーティングのSEM比較によって評価された。半結晶性コーティングは、あったとしてもわずかなコーティングの軟化、及び微量のバルーンの付着を示したが、一方で非晶質のコーティングは、コーティングの軟化がより激しく、その結果バルーンの周囲の形が変化している。
【0100】
本発明の特定の実施形態を示し、且つ記載してきたが、そのより広範な態様において本発明から逸脱することなく変更及び修正を行うことができることが、当業者には明らかであろう。したがって、本特許請求の範囲は、本発明の真の精神及び範囲に入るそのような変更及び修正を全てその範囲内に含むものとする。

【図1(a)】

【図1(b)】

【図1(c)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物分解性半結晶性ポリマーを含む貯蔵層、及び
生物分解性非晶質ポリマーを含む下塗り層
を含むコーティングを備える埋め込み型用具であって、
非晶質ポリマーが、半結晶性ポリマー中で少なくとも5%の混和性を有し、且つ
コーティングが、埋め込み型用具の配備後6カ月間以内にコーティングの質量損失が約80%以上となる、分解又は吸収速度を有する、
埋め込み型用具。
【請求項2】
非晶質ポリマーが、半結晶性ポリマーよりも速い分解速度を有するポリエステルを含む、請求項1に記載の埋め込み型用具。
【請求項3】
非晶質ポリマーが、半結晶性ポリマーよりも高いガラス転移温度(T)を有する、請求項1に記載の埋め込み型用具。
【請求項4】
半結晶性ポリマーがポリエステルである、請求項1に記載の埋め込み型用具。
【請求項5】
半結晶性ポリマーが、L−ラクチドの含有量を約65モル%〜約100モル%の範囲とする半結晶性PLLGA、L−ラクチドの含有量を約65モル%以上の範囲とする半結晶性PLLA−GA−CLターポリマー、半結晶性PLLA−CL(L−ラクチド/CL=75/25又は70/30モル比)及びそれらの組合せより選択される、請求項1に記載の埋め込み型用具。
【請求項6】
非晶質ポリマーが、非晶質ポリ(D,L−ラクチド)(PDLA)、D,L−ラクチドの含有量を約30モル%以上とする非晶質ポリ(L−ラクチド−co−D,L−ラクチド)(PLLLA)、グリコリドの含有量を約10〜約50モル%とする非晶質ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)(PDLGA)、L−ラクチドの含有量を約75モル%以下とする非晶質ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)(PLLGA)、グリコリドの含有量を約70モル%以下とする非晶質ポリ(グリコリド−co−カプロラクトン)(PGACL)、カプロラクトンの含有量を約70モル%以下とする非晶質ポリ(D,L−ラクチド−co−カプロラクトン)(PDLACL)、L−ラクチドの含有量を70モル%未満とするが30モル%超とする非晶質ポリ(L−ラクチド−co−カプロラクトン)(PLLACL)、グリコリド、D,L−ラクチド及び/又はL−ラクチドを有するトリメチレンカーボネートの非晶質コポリマー、L−ラクチドの含有量を約65モル%以下とする非晶質のPDLGA−CL及びPLLA−GA−CLターポリマー、並びにそれらの組合せより選択される、請求項1に記載の埋め込み型用具。
【請求項7】
非晶質ポリマーが、その分解速度を上昇させるために、下塗り層の形成に使用する前に電子ビーム又はγ線照射処理に付される、請求項1に記載の埋め込み型用具。
【請求項8】
貯蔵層が生理活性剤を更に含む、請求項1に記載の埋め込み型用具。
【請求項9】
生理活性剤が、パクリタキセル、ドセタキセル、エストラジオール、17−β−エストラジオール、一酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、ビオリムス、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、ラパマイシン誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(エベロリムス)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン及び40−O−テトラゾール−ラパマイシン、40−エピ−(N1−テトラゾリル)−ラパマイシン(ABT−578)、テムシロリムス、デフォロリムス、γ−ヒリダン、クロベタゾール、ピメクロリムス、メシル酸イマチニブ、ミドスタウリン、フェノフィブラート、それらのプロドラッグ、それらのコドラッグ、並びにそれらの組合せより選択される、請求項8に記載の埋め込み型用具。
【請求項10】
ステントである、請求項1に記載の埋め込み型用具。
【請求項11】
ステントである、請求項8に記載の埋め込み型用具。
【請求項12】
生物分解性半結晶性ポリマーを含む半結晶性貯蔵層、及び生物分解性非晶質ポリマーを含む非晶質下塗り層を含むコーティングを形成するステップ
を含む、埋め込み型用具の作製方法であって、
非晶質ポリマーが、半結晶性ポリマー中で少なくとも5%の混和性を有し、且つ
コーティングが、埋め込み型用具の配備後6カ月間以内にコーティングの質量損失が約80%以上となる、分解又は吸収速度を有する、
方法。
【請求項13】
非晶質ポリマーが、半結晶性ポリマーよりも速い分解速度を有するポリエステルを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
非晶質ポリマーが、半結晶性ポリマーよりも高いガラス転移温度(T)を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
半結晶性ポリマーがポリエステルである、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
半結晶性ポリマーが、L−ラクチドの含有量を約65モル%〜約100モル%の範囲とする半結晶性PLLGA、L−ラクチドの含有量を約65モル%以上の範囲とする半結晶性PLLA−GA−CLターポリマー、半結晶性PLLA−CL(L−ラクチド/CL=75/25又は70/30モル比)及びそれらの組合せより選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
非晶質ポリマーが、非晶質ポリ(D,L−ラクチド)(PDLA)、D,L−ラクチドの含有量を約30モル%以上とする非晶質ポリ(L−ラクチド−co−D,L−ラクチド)(PLLLA)、グリコリドの含有量を約10〜約50モル%とする非晶質ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)(PDLGA)、L−ラクチドの含有量を約75モル%以下とする非晶質ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)(PLLGA)、グリコリドの含有量を約70モル%以下とする非晶質ポリ(グリコリド−co−カプロラクトン)(PGACL)、カプロラクトンの含有量を約70モル%以下とする非晶質ポリ(D,L−ラクチド−co−カプロラクトン)(PDLACL)、L−ラクチドの含有量を70モル%未満とするが30モル%超とする非晶質ポリ(L−ラクチド−co−カプロラクトン)(PLLACL)、グリコリド、D,L−ラクチド及び/又はL−ラクチドを有するトリメチレンカーボネートの非晶質コポリマー、L−ラクチドの含有量を約65モル%以下とする非晶質のPDLGA−CL及びPLLA−GA−CLターポリマー、並びにそれらの組合せより選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
非晶質ポリマーが、その分解速度を上昇させるために、下塗り層の形成に使用する前に電子ビーム又はγ線照射処理に付される、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
半結晶性貯蔵層が生理活性剤を更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
生理活性剤が、パクリタキセル、ドセタキセル、エストラジオール、17−β−エストラジオール、一酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、ビオリムス、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、ラパマイシン誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(エベロリムス)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン及び40−O−テトラゾール−ラパマイシン、40−エピ−(N1−テトラゾリル)−ラパマイシン(ABT−578)、テムシロリムス、デフォロリムス、γ−ヒリダン、クロベタゾール、ピメクロリムス、メシル酸イマチニブ、ミドスタウリン、フェノフィブラート、それらのプロドラッグ、それらのコドラッグ、並びにそれらの組合せより選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
埋め込み型用具がステントである、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
埋め込み型用具がステントである、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
血管の病状を治療、予防又は改善する方法であって、
請求項1に記載の埋め込み型用具を患者に埋め込むステップを含み、
前記血管の病状が、再狭窄、アテローム性動脈硬化、血栓症、出血、血管の解離若しくは穿孔、血管の動脈瘤、不安定プラーク、慢性完全閉塞、跛行、(静脈及び人工移植片に対する)吻合部増殖、胆管閉塞、尿管閉塞、腫瘍閉塞、又はこれらの組合せより選択される、
方法。
【請求項24】
血管の病状を治療、予防又は改善する方法であって、
請求項8に記載の埋め込み型用具を患者に埋め込むステップを含み、
前記血管の病状が、再狭窄、アテローム性動脈硬化、血栓症、出血、血管の解離若しくは穿孔、血管の動脈瘤、不安定プラーク、慢性完全閉塞、跛行、(静脈及び人工移植片に対する)吻合部増殖、胆管閉塞、尿管閉塞、腫瘍閉塞、又はこれらの組合せより選択される、
方法。


【公表番号】特表2011−520557(P2011−520557A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−510569(P2011−510569)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【国際出願番号】PCT/US2009/043379
【国際公開番号】WO2009/142934
【国際公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(507135788)アボット カーディオヴァスキュラー システムズ インコーポレイテッド (92)
【Fターム(参考)】