説明

非晶質材の内部歪み特定方法

【課題】多結晶材上に非晶質材が積層されてなる積層膜において、積層膜を構成する非晶質材の内部歪みを精緻に特定することができる非晶質材の内部歪み特定方法を提供する。
【解決手段】多結晶材上に非晶質材が積層されてなる積層膜における非晶質材の内部歪みを特定する方法であって、X線回折法を使用して、多結晶材1の第1の内部歪みを測定する第1のステップと、多結晶材1'上に非晶質材2を形成して積層膜5を作製する第2のステップと、X線回折法を使用して、積層膜5を構成する多結晶材1'の第2の内部歪みを測定する第3のステップと、第1の内部歪みと第2の内部歪みの差分から非晶質材2の内部歪みを特定する第4のステップからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非晶質材の内部歪み特定方法に関し、特に多結晶材上に非晶質材が積層されてなる積層膜における非晶質材の内部歪みを特定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体デバイス上に成膜された金属めっき等の多結晶膜や非晶質膜の内部歪みを測定もしくは特定する方法として、歪みセンサや変位センサを用いた測定方法、特定方法が知られている。
【0003】
歪みセンサを用いた測定方法は、たとえば歪みゲージを測定対象の表面に貼り付け、もしくは歪みゲージを測定対象の内部に埋設させ、測定対象に生じる歪みに由来する歪みゲージの電気抵抗の変化を検出することによって、その測定対象となる試料の内部歪みを測定する方法である。
【0004】
また、変位センサを用いた測定方法は、測定対象となる試料の反り量を検出することによって、測定対象となる試料の内部歪みを測定する方法である。
【0005】
ところで、近年、半導体デバイス等の電子機器の分野においては、その体格の小型化・軽量化を目的とする技術開発が進められている。それと同時に、製品表面を耐食性や耐摩耗性に優れた金属めっきで被膜し、製品表面上の金属めっきを薄膜化することで、製品全体の体格のさらなる小型化・軽量化を実現している。
【0006】
一方で、上記する歪みセンサを用いた測定方法においては一般に歪みゲージが数mmの外径寸法を有していることから、極めて小さい体格の測定対象や測定対象の微小領域の内部歪みを測定することができないといった問題が生じている。また、歪みゲージを測定対象の表面に貼り付けたり、歪みゲージを内部に埋設させる必要があり、実際の製造工程内における製品の内部歪みや製造後の製品の内部歪みを非接触で測定することができないといった問題もある。
【0007】
また、変位センサを用いた測定方法においては、たとえば異なる種類の金属から構成される積層体(バイメタル構造体)全体に亘る平均的な反り量を測定することで、そのような測定対象全体の平均的な内部歪みを測定できるものの、局所的な微小領域の内部歪みを精度良く測定することができないといった問題がある。また、一部の層(たとえば下地層)の剛性が高い積層体や複雑な構造を有する積層体においては、測定対象となる試料の反り量が積層体全体に亘って不均一となり、その内部歪みを精緻に測定することができないといった問題がある。
【0008】
上記する問題に対する内部歪みの測定方法の一例として、たとえば可視光を用いた測定方法が知られており、この方法によれば、測定対象となる試料が透明体の場合には、その測定対象に可視光を照射し、その複屈折現象による干渉縞を観測することで、測定対象となる試料の内部歪みを非接触で測定することができる。しかしながら、このような光弾性応力測定法は、主応力方向の応力差のみを測定対象とするものであり、多方向の応力成分を精緻に測定することができないといった問題がある。また、測定対象となる透明体を構成する素材には応力に対する複屈折の感度を低下させるものがあり、この方法を適用できる測定対象が極めて限定されるといった問題もある。
【0009】
そこで、近年、このような半導体デバイス上の金属めっき等の極めて小さな領域の内部歪みを非接触で精度良く測定できる方法として、X線を用いた測定方法が提案されている。
【0010】
上記するX線を用いた内部歪みの測定方法としては特にX線回折法を挙げることができる。このX線回折法によれば、照射されたX線が結晶格子面で回折するX線回折を利用して多結晶材料の内部歪みを特定することができ、そのための有効な方法が特許文献1や特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−325267号公報
【特許文献2】特開2000−275113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、電子機器の分野においては、上記する耐食性や耐摩耗性に優れた金属めっきとして、たとえばリンやクロムを含む非晶質めっきが使用されており、このような非晶質の薄膜状の金属めっきの内部歪みを精度良く測定し、その測定結果を製品設計や工程管理等に適用することによって、薄膜状の金属めっきの剥離や破損等を効果的に抑制し、製品耐久性や製品信頼性を向上させることが要望されている。
【0013】
上記するX線回折法によれば、X線の焦点の大きさ等を調整することで、多結晶材料から構成される測定対象において、たとえば約φ1mm程度の微小領域の内部歪みを非接触で測定することができる。一方で、測定対象となる試料が非晶質(アモルファス)・高分子材料から構成されている場合には、材料を構成する原子や分子が無秩序に配列した構造であることからその材料中をX線が透過してしまい、X線照射によるX線回折を利用することができず、非晶質材料の内部歪みを精緻に測定できないといった課題がある。
【0014】
本発明は上記する課題に鑑みてなされたものであり、多結晶材上に非晶質材が積層されてなる積層膜において、積層膜を構成する非晶質材の内部歪みを精緻に特定することができる非晶質材の内部歪み特定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成すべく、本発明による非晶質材の内部歪み特定方法は、多結晶材上に非晶質材が積層されてなる積層膜における非晶質材の内部歪みを特定する方法であって、X線回折法を使用して、多結晶材の第1の内部歪みを測定する第1のステップと、前記多結晶材上に非晶質材を形成して積層膜を作製する第2のステップと、X線回折法を使用して、前記積層膜を構成する多結晶材の第2の内部歪みを測定する第3のステップと、前記第1の内部歪みと第2の内部歪みの差分から前記非晶質材の内部歪みを特定する第4のステップからなるものである。
【0016】
既述するように、非晶質材はX線を透過する特性を有していることから、X線回折法を使用して非晶質材の内部歪みを直接測定することはできない。
【0017】
しかしながら、上記する内部歪み特定方法によれば、多結晶材上に非晶質材が積層された積層膜において、X線が非晶質材を透過する特性を利用し、X線回折法を複数回実施するだけで、積層膜を構成する非晶質材の内部歪みを精緻に特定することができる。すなわち、多結晶材上に非晶質材を成膜して積層膜を構成した後においても、当該非晶質材へX線を透過させながらX線回折法を使用して積層膜の多結晶材の内部歪みを測定することができるため、予めX線回折法を使用して非晶質材が成膜される前の多結晶材の内部歪みを測定することで、これらの多結晶材の内部歪みの差分から非晶質膜の内部歪みを容易に特定することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上の説明から理解できるように、本発明の非晶質材の内部歪み特定方法によれば、多結晶材上に非晶質材が積層された積層膜を構成する非晶質材の内部歪みを特定するに当たり、X線回折法を複数回実施してそれぞれで得られた内部歪みの差分を求めるという、極めて簡単な改良方法により、積層膜を破壊することなく、当該積層膜を構成する非晶質材の内部歪みを精緻に特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の内部歪み特定方法にて非晶質材の内部歪みを特定する方法を説明した模式図であり、(a)は、X線回折法を使用して多結晶材の内部歪みを測定する第1のステップを説明した図であり、(b)は、多結晶材上に非晶質材を形成して積層膜を作製する第2のステップを説明した図であり、(c)は、X線回折法を使用して積層膜を構成する多結晶材の内部歪みを測定する第3のステップ、および非晶質材の内部歪みを特定する第4のステップを説明した図である。
【図2】図1で示す内部歪み特定方法におけるX線回折パターンを示した模式図であり、(a)は、図1(a)で示す第1のステップでのX線回折法によるX線回折パターンを示した図であり、(b)は、非晶質材のみのX線回折パターンを示した図であり、(c)は、図1(c)で示す第3のステップでのX線回折法によるX線回折パターンを示した図であり、(d)は、図2(a)および図2(c)で示すX線回折パターンに含まれる多結晶材のX線回折パターンの変化を示した図である。
【図3】実施例2の検査用試料の測定部位を模式的に示した縦断面図である。
【図4】実施例1の試料におけるニッケル−リン膜の形成前後のアルミニウム膜の内部歪みの測定結果を示した図である。
【図5】実施例2の試料におけるニッケル−リン膜の形成前後のアルミニウム膜の内部歪みの測定結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
図1は、本発明の内部歪み特定方法にて非晶質材の内部歪みを特定する方法を説明した模式図であり、図1(a)は、X線回折法を使用して多結晶材の内部歪みを測定する第1のステップを説明した図であり、図1(b)は、多結晶材上に非晶質材を形成して積層膜を作製する第2のステップを説明した図であり、図1(c)は、X線回折法を使用して積層膜を構成する多結晶材の内部歪みを測定する第3のステップ、および非晶質材の内部歪みを特定する第4のステップを説明した図である。なお、図示例は、多結晶材が基材K上に形成され、その多結晶材上に非晶質材が形成されたものであるが、基材Kはこれに限定されるものではなく、多結晶材上に非晶質材が形成されたものであれば本実施の形態の内部歪み特定方法を適用することができる。
【0022】
図1(a)で示す検査用試料10は、基材K表面上に多結晶材1が形成されたものである。まず、この検査用試料10に対してX線回折法を使用して内部歪みを測定する(第1のステップ)。具体的には、検査用試料10の多結晶材1に対して、所定強度のX線を所定の積分時間だけ照射し(X1方向)、多結晶材1の結晶格子面で回折した回折X線をX線検出器Sで検出する(Y1方向)。なお、X線検出器Sにて検出された検出信号は、演算部Eに送信されるようになっている。
【0023】
ここで、多結晶材1は、構成する原子や分子が三次元的に規則正しく配列した構造(結晶性(crystalline))であることから、X線検出器Sで検出されるX線回折パターンは、図2(a)で示すように、多結晶材1の格子面に対応したX線強度のピークを有している。なお、図示するX線強度のピーク位置(2θ)は、演算部Eに送信された検出信号に基づいて半価幅中点法によって算出される。
【0024】
上記するX線回折法においては、回折角度θと多結晶材1の格子面間隔dが以下の式(1)で示すブラッグの法則に従うことが実証されている。
【0025】
【数1】

【0026】
ここで、nは回折の次数を表す整数、λはX線波長である。
【0027】
また、測定対象となる多結晶材1に内部応力σが作用し、多結晶材1の結晶格子面の法線方向が検査用試料10の表面の法線方向に対してψだけ傾斜すると共に、応力が作用していない状態の多結晶材1の格子面間隔dがdに変化したとすると、内部応力σ、傾斜角度ψ、および格子面間隔d,dとの間には、以下の式(2)で示す関係が成立することが実証されている。
【0028】
【数2】

【0029】
ここで、υはポアソン比、Eはヤング率である。
【0030】
したがって、図1(a)で示す演算部Eにおいては、応力が作用していない状態における多結晶材1の格子面間隔dが既知の場合、X線検出器Sにて検出されたX線回折パターンに基づいて回折角度θを算出し、式(1)によって格子面間隔dを算出して、その格子面間隔dと傾斜角度ψを用いて式(2)によって内部応力σを算出することができる。
【0031】
また、応力が作用していない状態における多結晶材1の格子面間隔dが未知の場合には、sinψ法を用いて内部応力σを特定することができる。具体的には、回折角度θと傾斜角度ψは以下の式(3)で示す関係を有していることから、複数の傾斜角度ψについて回折角度θを測定し、2θ−sinψ線図を作成して最小二乗法等によって勾配(2θ/sinψ)を算出することで、多結晶材1の内部応力σを特定することができる。なお、傾斜角度ψを変化させる方法としては並傾法と側傾法を使用することができる。
【0032】
【数3】

【0033】
ここで、θは測定対象(多結晶材1)の無応力状態における回折角度である。
【0034】
上記演算方法により、図示する演算部Eでは、X線検出器Sで検出された検出信号に基づいて、非晶質材が成膜される前の多結晶材1の内部応力や内部歪みを特定することができる。
【0035】
なお、X線回折測定では、図2(a)で示すX線強度信号L1において、回折ピークを有する多結晶材1のX線強度信号L11に加えてある程度のバックグラウンド(BG)信号LBが重なって検出されることが知られている。このバックグラウンドの要因としては、たとえば空気による散乱や検出器のノイズ、X線源となるX線管から発生する連続X線などが含まれる。
【0036】
このように基材K上の多結晶材1についてX線回折法によって内部応力や内部歪みを測定した後、図1(b)で示すように、多結晶材1'上に非晶質材2を形成して積層膜5を作製する(第2のステップ)。なお、検査用試料10'の積層膜5を構成する多結晶材1'は、その表面に非晶質材2が形成されたことによって内部歪みが付加され、構成する原子や分子の配列が変化することから、図1(a)で示す検査用試料10の多結晶材1に対して相対的に格子面間隔が変化している。
【0037】
次いで、図1(c)で示すように、上記方法で作製された積層膜5を有する検査用試料10'に対してX線回折法を使用し、積層膜5を構成する多結晶材1'の内部歪みを測定する(第3のステップ)。具体的には、検査用試料10'に対して、非晶質材2の上方から所定強度のX線を所定の積分時間だけ照射し(X2方向)、非晶質膜2を透過して多結晶材1'の結晶格子面で回折した回折X線をX線検出器Sで検出する(Y2方向)。なお、X線検出器Sにて検出された検出信号は演算部Eに送信される。
【0038】
ここで、非晶質材2は、構成する原子や分子が規則正しく配列していない構造、すなわち無秩序に配列した構造(非晶質(amorphous))であることから、仮に非晶質材2のみを検査用試料としてX線回折測定を実施すると、非晶質材2の内部をX線が透過して、図2(b)で示すような連続的でブロードな信号が検出されることとなる。
【0039】
上記する第3のステップにおいては、積層膜5が多結晶材1'と非晶質材2から構成されていることから、X線検出器Sではそれぞれの材料に対応したX線強度信号が合成されて検出されることとなる。すなわち、図2(c)で示すように、X線検出器Sでは、多結晶材1'のX線強度信号L21と非晶質膜2のX線強度信号L22、および上記するバックグラウンドのX線強度信号LBが合成されたX線回折パターンのX線強度信号L2が検出される。
【0040】
ここで、図2(c)で示す検査用試料10'の多結晶材1'のX線強度信号L21のピーク位置(2θ)は、非晶質材2成膜後の回折角度θと格子面間隔dが以下の式(4)で示すブラッグの法則に従って変化すると共に、積層膜5を構成する多結晶材1'の格子面間隔dが非晶質材2の成膜前の多結晶材1の格子面間隔dに対して相対的に変化していることから、図2(a)で示す多結晶材1のX線強度L1のピーク位置(2θ)に対して相対的に変化している(図2(d)参照)。
【0041】
【数4】

【0042】
したがって、図1(c)で示す演算部Eにおいては、上記する第1のステップと同様に、X線検出器Sにて検出された回折角度θと傾斜角度ψから非晶質材2の成膜後の多結晶材1'の内部応力や内部歪みを特定し、第1のステップで得られた多結晶材1の内部歪みと第3のステップで得られた多結晶材1'の内部歪みの差分演算を実施して非晶質材2の内部歪みを得ることで、非晶質材2の内部歪みを特定することが可能となる(第4のステップ)。
【0043】
上記する内部歪み特定方法によれば、X線を透過してしまうために直接内部歪みを測定することができない非晶質材であっても、簡便な方法で非晶質材の内部歪みを非接触でかつ精度良く特定することができる。
【0044】
[検査用試料による非晶質材の内部歪みを測定した実験とその結果]
本発明者等は、半導体デバイス上に多結晶材と非晶質材からなる積層膜を形成した2種類の検査用試料(実施例1,2)を作製し、それぞれの試料に対してX線回折法を使用して非晶質材の内部歪み測定を実施した。なお、実施例1については測定回数を1回とし、実施例2についてはその測定を5回実施してこれらの測定結果を平均した。
【0045】
まず、検査用試料の作製方法とその作製工程における内部歪み測定方法を説明すると、半導体デバイス(IGBTチップ)上にスパッタ法によって多結晶(結晶質)のアルミニウム(Al)膜を形成し、X線回折法を使用してアルミニウム膜の内部歪みを測定した。次いで、そのアルミニウム膜上に無電解めっき法によって非晶質のニッケル−リン(Ni−P)膜を形成して積層膜を作製し、X線回折法を使用して積層膜のアルミニウム膜の内部歪みを測定した。なお、内部歪みの演算方法としてはsinψ法を使用し、傾斜角度ψを変化させる方法としては並傾法を使用した。
【0046】
図3は、上記作製方法により作製した実施例1,2のうち、特に実施例2の検査用試料10Aの測定部位を模式的に示した縦断面図である。
【0047】
図示するように、実施例2の検査用試料10Aは、シリコンから構成される半導体デバイスKA上にアルミニウム電極として使用するアルミニウム膜1Aを形成し、そのアルミニウム膜1Aの略中央部に測定部位となるニッケルめっきとして使用するニッケル−リン膜2Aを形成したものである。なお、この実施例2の検査用試料10Aにおいては、アルミニウム膜1Aおよびニッケル−リン膜2Aの厚みは双方とも5μmであった。
【0048】
図4および表1は、実施例1の試料におけるニッケル−リン膜の形成前後のアルミニウム膜の内部歪みの測定結果を示したものである。なお、図中および表中、正の内部歪みは引張り歪み、負の内部歪みは圧縮歪みを表している。
【0049】
【表1】

【0050】
実施例1においては、ニッケル−リン膜の形成前のアルミニウム膜に約0.09%の圧縮歪みが発生しており、ニッケル−リン膜形成後のアルミニウム膜には、ニッケル−リン膜の形成によって内部歪みがさらに付与された結果、約0.33%の圧縮歪みが発生していることが確認された。
【0051】
上記測定方法によって測定したアルミニウム膜の内部歪みの差分値を演算した結果、アルミニウム膜上に形成されたニッケル−リン膜には約0.24%の引張り歪みが発生していることが実証された。
【0052】
次に、図5および表2は、図3で示す実施例2の試料におけるニッケル−リン膜の形成前後のアルミニウム膜の内部歪みの測定結果を示したものである。なお、上記するように、この実施例2においてはニッケル−リン膜の形成前後のアルミニウム膜の内部歪み測定をそれぞれ5回行い、その測定結果から得られる平均値からニッケル−リン膜の内部歪みを特定した。
【0053】
【表2】

【0054】
実施例2においては、ニッケル−リン膜の形成前のアルミニウム膜に平均して約0.02%の圧縮歪みが発生しており、ニッケル−リン膜形成後のアルミニウム膜には、ニッケル−リン膜の形成によって内部歪みがさらに付与された結果、平均して約0.18%の圧縮歪みが発生していることが確認された。
【0055】
したがって、この実施例2の試料のニッケル−リン膜には約0.16%の引張り歪みが発生していることが実証された。
【0056】
この実験結果より、X線回折法を利用して検査用試料を構成する多結晶材の内部歪みを複数回測定する本発明の内部歪み特定方法を適用することで、X線が非晶質材を透過してしまい、直接その内部歪みを測定することができない状況においても、特定対象の非晶質材の内部歪みを精緻に特定できることが実証された。
【0057】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0058】
1,1'…多結晶材、2…非晶質材、5…積層膜、10,10'…検査用試料、E…演算部、K…基材、S…X線検出器、d,d,d…多結晶材の格子面間隔、2θ,2θ…回折角度、ψ,ψ…傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶材上に非晶質材が積層されてなる積層膜における非晶質材の内部歪みを特定する方法であって、
X線回折法を使用して、多結晶材の第1の内部歪みを測定する第1のステップと、
前記多結晶材上に非晶質材を形成して積層膜を作製する第2のステップと、
X線回折法を使用して、前記積層膜を構成する多結晶材の第2の内部歪みを測定する第3のステップと、
前記第1の内部歪みと第2の内部歪みの差分から前記非晶質材の内部歪みを特定する第4のステップからなる非晶質材の内部歪み特定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−2950(P2013−2950A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134286(P2011−134286)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】