説明

非晶質炭素膜積層部材及びその製造方法

【課題】簡単な構成でしかも安価に製造可能であり、耐摩耗性を損なわずに導電性、除電性の高い非晶質炭素膜積層部材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】導電性基材上に導電性炭素微粒子が分散固定されてなる非連続な微小領域20と、導電性基板上の該領域以外に堆積された非晶質炭素膜からなる連続した領域30とを有し、前記の導電性炭素粒子からなる微小領域20の表面と、前記の非晶質炭素膜からなる連続した領域30の表面とが、同一平面をなしていることを特徴とする非晶質炭素膜積層部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質炭素膜積層部材及びその製造方法に関し、特に、導電性を向上させた非晶質炭素膜を基材への被覆材として用いた非晶質炭素膜積層部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非晶質炭素膜又はシリコン等を含む非晶質炭素膜(以下、これらをまとめて「非晶質炭素膜」という。)は、硬く耐摩耗性に優れ、摩擦係数が小さく、凝着防止性も有しており、基材の表面に高機能を付与することができ、小型部品の搬送用フィーダやキャリア、ハンドリング用のトレイなどを中心に、広い産業分野、用途で利用され始めている。
【0003】
非晶質炭素膜は、膜厚などの成膜条件・原料ガスや後処理にも依存するが、その体積電気抵抗率は10〜1012Ω・cm程度であって、絶縁体より若干低い程度である。このため、非晶質炭素膜を前述の搬送用のフィーダやキャリア、ハンドリング用のトレイなどの被覆材として用いる際に、一般的な方法として基材上に非晶質炭素膜を薄く形成し、基材をアースすることにより、ワークが非晶質炭素膜と接触することで発生する静電気を、薄い非晶質炭素膜、さらには基材を通じてアースに除去し、基材上に被覆した非晶質炭素膜へのワークの静電気付着を防止しできていた。
しかし、非晶質炭素膜に接触し摺動する部品のサイズが、例えば0402型(縦幅0.4mm×横幅0.2mm×厚み0.2mm)のチップ抵抗や積層セラミックコンデンサ等の登場など微小化するに従い、従来の非晶質炭素膜の静電気除去能力では不十分となり、静電気による非晶質炭素膜表面への付着・残留などの現象が確認されるようになってきた。
今日では携帯型電子機器が多くなり、使用される部品もどんどん微小化している現状がある。このような状況において、微小部品の生産過程に於ける部品搬送、部品加工のための整列、保管等の工程で部品の貼り付きによる残留が発生することは、性能の異なる部品の異種性能ロットへの混入や、生産ロット間の混入によるトレサビリティーの消失などの問題を惹起させ、生産工程の品質管理に重大な問題を引き起こすようになってきた。
【0004】
また、非晶質炭素膜自体も、シリコンを含有する非晶質炭素膜など通常の非晶質炭素膜に比べて電気抵抗の若干大きいものが下地密着層として用いられる。或いは、非晶質炭素膜の耐久性を高めるため、より厚く膜を構成するようになってきている現状がある。
【0005】
一方、他の耐磨耗・凝着防止、低摩擦の表面処理として、いわゆる「導電性アルマイト」と称される、アルミニウム、またはアルミニウム合金の素材に陽極酸化処理をより薄めに行い、帯電量を抑制した10Ω・cm程度の体積電気抵抗率を有しているものも存在するが(特許文献1参照)、非晶質炭素膜のような優れた耐磨耗性や低摩擦性などの機能は発現できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−291259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
1990年代以降に登場した携帯電話やデジタルカメラなどの小型電子機器に使用される電子部品は、表面実装タイプ(チップ型)と呼ばれ、非常に小さい部品が用いられている。このようなチップ状電子部品は、チップ抵抗、チップLED、チップコンデンサなどと呼ばれ、大きさにより、分類されるが、現在ではさらに部品の小型化が進み、0603(縦幅0.6mm×横幅0.3mm×厚み0.3mm)、0402(縦幅0.4mm×横幅0.2mm×厚み0.2mm)、といった超小型、軽量部品、すなわち0.4〜0.1mg程度の搬送又は貯蔵ワークが登場してくると、従来に比較し、一層微弱な静電気でもワークの基材付着は発生しやすくなり、より小さな体積電気抵抗率を有する基材が要求されるようになってきた。
このような低い体積電気抵抗率を有する基材の要求は、電子部品に限定される訳ではなく、機械加工部品、粉体、その他多様なワーク、多様な産業分野に及んでいる。
加えて、特に電子部品においては静電気の蓄積によって部品故障が発生してしまうものも多い。さらには、電子部品の絶縁抵抗測定や静電容量測定、その他電気特性検査に供される電気的な接触端子(プローブ等)などは、その元来の用途用法上、低い電気抵抗率が要求されるものが多い。
そこで、各種基材に被覆される非晶質炭素膜の電気伝導性を向上させる工夫がより一層必要である。
【0008】
本発明は、簡単な構成で、しかも安価に製造可能であり、微小電子部品などの搬送・整列・貯蔵において、耐摩耗性を損なわずに導電性、除電性の高い非晶質炭素膜積層部材及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、以下のような手段を確立した。すなわち、導電性基材上の表面に被覆される非晶質炭素膜部分と、基材にアースされた10Ω・cmより低い体積電気抵抗率を有する導電性炭素微粒子が「飛び飛びの部分」の状態で表面に存在する部分とを設けることにより、小型部品などのワークの静電気を帯びる少なくとも一部分が、ワークの移動経路含め、上記導電物質と接点を取ることが可能となり、当該接点を通じて通電、除電が可能となることを見出した。また、この飛び飛びに配置される導電性物質が、非晶質炭素膜と同様に低摩擦係数や、軟質金属凝着防止性を有しており、非晶質炭素膜本来の機能を損なうことがないことも判明した。
【0010】
本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]導電性基材上に導電性炭素微粒子が分散固定されてなる非連続な微小領域と、導電性基板上の該領域以外に堆積された非晶質炭素膜からなる連続した領域とを有し、前記の導電性炭素粒子からなる微小領域の表面と、前記の非晶質炭素膜からなる連続した領域の表面とが、同一平面をなしている非晶質炭素膜積層部材。
[2]前記導電性炭素粒子が、カーボングラファイト又はカーボンブラックからなる上記[1]の非晶質炭素膜積層部材。
[3]前記非晶質炭素膜を最上層とする、部品搬送用部材、部品整列用部材又は部品保管用部材であることを特徴とする上記[1]又は[2]の非晶質炭素膜積層部材。
[4](1)導電性基材上に、導電性炭素微粒子を前記の微小領域のみに分散固定する工程と、(2)該導電性炭素微粒子が固定された基板の表面に非晶質炭素を堆積させる工程と、(3)該非晶質炭素膜の表面と導電性炭素微粒子の表面とが同一平面となるように平坦化する工程をこの順に含むことを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかの非晶質炭素膜積層部材の製造方法。
[5]前記(1)の工程を、導電性基板上に、所定の開口を有するメッシュ又はスクリーン版を配置し、その上から、導電性炭素粒子を含有する塗布剤を噴霧することにより行うことを特徴とする上記[4]の非晶質炭素膜積層部材の製造方法。
[6](1´)導電性基板上の、前記微小領域以外の領域に非晶質炭素を堆積させる工程と、(2´)導電性基板上の、非晶質炭素が堆積されていない前記微小領域に導電性炭素微粒子を固定させる工程と、(3´)該非晶質炭素膜の表面と導電性炭素微粒子の表面とが同一平面となるように平坦化する工程をこの順に含むことを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかの非晶質炭素膜積層部材の製造方法。
[7]前記(1´)の工程を、導電性基板上に所定の開口を有するマスクを配置し、その上から、マスキング材料を塗布、または噴霧して、マスクのネガパターン状にマスキング材料による保護膜を形成した後、マスクを外して、導電性基板表面に非晶質炭素膜を堆積させ、その後、マスキング材料による保護膜部分及び該保護膜上に成膜された非晶質炭素膜を剥離することにより行うことを特徴とする上記[6]の非晶質炭素膜積層部材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、静電気の除電効果を保持し、被搬送・整列・貯蔵等摩擦の生じるワークの接触による静電気による付着を起さず、かつ、硬く耐摩耗性に優れ、摩擦係数の少ない表面状態を形成できる。このため、部品の搬送用フィーダやキャリア、ハンドリング用のトレイなどに帯電防止機能、耐磨耗性、耐凝着性を同時に付与できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1(a)】本発明の非晶質炭素膜積層部材を模式的に記載した断面図
【図1(b)】本発明の非晶質炭素膜積層部材と微小電子部品の電極との関係を模式的に記載した平面図
【図2(a)】グラファイトの微粒子を含有するスプレー塗布剤を噴霧したステンレス鋼SUS304 2B材表面を観察した、倍率30倍の写真(右側のほぼ半分:金属メッシュで被覆されていない部分、左側のほぼ半分:金属メッシュで被覆された部分)。
【図2(b)】図2(a)の、倍率150倍の写真
【図3(a)】ステンレス鋼SUS304 2B材表面を金属メッシュで被覆された表面部分(実施例1用)の状態を観察した、CCD拡大写真(非晶質炭素膜表面を焦点としたもの、倍率2000倍)
【図3(b)】図3(a)の、グラファイトを焦点としたCCD拡大写真(倍率2000倍)
【図4(a)】ステンレス鋼SUS304 2B材表面に金属メッシュで被覆されていない部分にグラファイトを形成し、その表面に非晶質炭素膜を形成した状態を観察した、倍率500倍のCCD拡大写真
【図4(b)】図4(a)の、倍率2000倍の写真
【図5(a)】ステンレス鋼SUS304 2B材表面に金属メッシュで被覆して、グラファイトを形成し、その表面に非晶質炭素膜を形成し、その表面を不織布により表面が覆われたバレンで平面を均すように乾拭きした後の本発明の実施例1の表面状態を確認した倍率500倍のCCD写真
【図5(b)】図5(a)の、倍率2000倍の写真
【図6(a)】非晶質炭素膜のみが形成された比較例の非晶質炭素膜積層部材の摩擦磨耗試験の結果を示す図
【図6(b)】非晶質炭素膜のみが形成された比較例の非晶質炭素膜積層部材の摩擦磨耗試験のボールの軌跡のCCD写真
【図7(a)】本発明の実施例1の摩擦磨耗試験の結果を示す図
【図7(b)】本発明の実施例1の摩擦磨耗試験のボールの軌跡のCCD写真
【図8】本発明の実施例1の摩擦磨耗試験のボールの軌跡上に点在するグラファイト部分のCCD拡大写真
【図9】本発明の実施例3のグラファイトの微粒子を含有するスプレー塗布剤を噴霧した後の表面を観察したCCD拡大写真
【図10】本発明の実施例3の超音波洗浄した後の非晶質炭素膜を形成した表面状態を観察したCCD拡大写真
【図11】実施例における、4端子法による電気抵抗の測定の概要を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の非晶質炭素膜積層部材について、図を用いて説明する。
図1は、本発明の非晶質炭素膜積層部材を模式的に記載した図であり、(a)は、その断面図であり、(b)は、微小電子部品の電極と点在する導電性炭素微粒子との関係が分かるように示した平面図であって、本発明の非晶質炭素膜積層部材における、導電性炭素微粒子が分散固定されてなる非連続な微小領域の露出表面を示している。図中、10は、導電性基材、20は、導電性炭素微粒子が分散固定されてなる非連続な微小領域、30は、非晶質炭素膜からなる連続した領域、40は、積層セラミックコンデンサ、40aは、積層セラミックコンデンサの両端部側に形成された電極、をそれぞれ示している。
【0014】
図1(a)の断面図に示されるように、本発明の非晶質炭素膜積層部材は、導電性基材(10)上に導電性炭素微粒子が分散固定されてなる非連続な微小領域(20)と、導電性基板(10)上の該領域以外に堆積された非晶質炭素膜からなる連続した領域(30)とを有し、前記の導電性炭素微粒子からなる微小領域(20)の表面と、前記の非晶質炭素からなる連続した領域(30)の表面とが、同一平面をなしているものである。
図1(a)に示されているように、本発明の非晶質炭素膜積層部材において、導電性炭素微粒子の微小領域(20)の下側は、導電性基材(10)上に接触している、または電気的導通が確保されていることが重要である。
【0015】
また、導電性炭素微粒子が分散固定されてなる非連続な微小領域(20)の露出表面は、微小電子部品などの搬送・整列・貯蔵において、例えば、微小電子部品の両端部側に形成された電極幅と同等か、それより狭い範囲の間隔で点在していることが最も好ましい。特に、微小領域(20)が電極幅と同等か、それより狭い範囲の間隔で点在していると、徐電アース回路ができる。このことによって、微小電子部品に帯電した静電気がアース側に流れ、微小電子部品に帯電した静電気の徐電が可能になる。
図1(b)では、0402型の積層セラミックコンデンサ(40)を搬送する部材として用いる例を示している。該図に示すとおり、非連続な微小領域(20)の露出表面は、200μmの範囲内で、耐磨耗性が損なわれない範囲の比表面積に収まっていることが好ましい。
このように、本発明の非晶質炭素膜積層部材における非連続な微小領域(20)の露出表面は、扱う微小電子部品などの大きさによって、変化させることができる。また、扱う微小電子部品を共用する場合、最も微小の電子部品の大きさに合わせておけば良い。
【0016】
本発明において、導電性基板(10)は、ステンレス鋼(SUS)、あるいは鉄、銅、アルミニウムなどの金属やそれらの合金等、またはそれらへの金属めっき被覆物、導電性(制電性)のゴムや樹脂(ゴムや樹脂に導電性の材料を混煉するなどしたもの)、炭素素材などの材料が、用いられ、用途に応じて適宜選択して用いられる。
また、導電性基板には、その表面に直接、導電性炭素微粒子が固定され、且つ非晶質炭素膜が堆積されていても良いが、導電性を有するものであれば、接着層などの中間層を有するものであってもよい。
【0017】
本発明の一実施形態にかかる導電性炭素微粒子としては、グラファイトやカーボンブラックなどの微粒子を用いることができる。導電性炭素微粒子は、本発明の趣旨に反しない範囲で任意に選定できる。以下に述べる非晶質炭素膜を堆積した際に、導電性炭素微粒子の一部又はその集合体の一部が、該非晶質炭素膜に埋没せずに、露出し得る程度の大きさのものが用いられ、好ましくは、該微粒子の直径は、100nm〜11μmである。また、導電性炭素微粒子の形状は特に限定されず、必ずしも粒状である必要はなく、例えばカーボンナノチューブのように螺旋状のものなどでも良い。
【0018】
本発明の一実施形態にかかる非晶質炭素膜(a−C:H膜)は、前記基板上に直接、或いは、他の層を介して形成されるものであって、炭素(c)及び水素(H)を主成分とするものである。また、本発明の他の実施形態においては、これに、必要に応じて、ケイ素(Si)、酸素(O)、窒素(N)、の各元素を単独で、或いは組み合わせて含有させることにより、非晶質炭素膜に官能基を付与することもできる。
当該膜中にSiを含有する場合、その含有量は概ね1〜45原子%、好ましくは4〜30原子%であり、当該膜中に酸素を含有する場合、その含有量は概ね0.1〜50原子%、好ましくは4〜40原子%であり、当該膜中に窒素を含有する場合、その含有量は0.1〜20原子%、好ましくは、0.5〜15原子%である。
また、本発明の一実施形態にかかるa−C:H膜の膜厚は特に限定されないが、少なくとも50nm〜10μmであるのが好ましく、更に好ましくは0.5〜3μmである。50nmより薄い膜になると膜の連続性がなくなり、10μmより厚くなると膜の応力剥離が起こるようになるため、この範囲内にするのが好ましい。成膜時間や安定性を考慮すると、0.5〜3μmの範囲にするのが、本発明の適用に最適である。
【0019】
以下、前記の非晶質炭素膜積層部材の製造方法について、代表的な方法を説明する。
第一の方法は、(1)導電性基材上に、導電性炭素微粒子を前記の微小領域のみに分散固定する工程と、(2)該導電性炭素微粒子が固定された基板の表面に非晶質炭素を堆積させる工程と、(3)該非晶質炭素膜の表面と導電性炭素微粒子の表面とが同一平面となるように平坦化する工程とからなる方法である。
【0020】
前記(1)の導電性基材上に、導電性炭素微粒子を前記の微小領域のみに固定する方法は、特に限定されないが、例えば、該基板上に、所定の開口を有するメッシュ又はスクリーン版を配置し、その上から、導電性炭素粒子を含有するスプレー塗布剤などを噴霧する等の方法が挙げられる。
使用されるスクリーン又はメッシュの開口の大きさは、10〜500μmであり、また、用いられるスクリーン又はメッシュの材質は、被接触物である微小部品等の形状に応じた必要間隔で、飛び飛びの開口パターンを有していれば良く、ステンレス鋼(SUS)、あるいはNi、銅、アルミニウムその他の金属やそれらの合金、また、乳剤やポリエステルその他の樹脂、ゴム、紙、セルロースや合成繊維、無機材料等、素材は特に限定されない。スプレー塗布剤などを噴霧し、塗布材が十分乾燥し、初期の導電性炭素粒子と基材の密着が取れた段階で、導電性微粒子と基材の接触をより確実にする為、バレンなどで導電性炭素粒子をその上部から基材方向に軽く圧縮することも可能である。
【0021】
前記(2)の非晶質炭素膜を堆積する方法についても、PVD法やCVD法等、特に限定されないが、反応ガスにより成膜する方法のプラズマCVD法を用いる方法が好ましい。また、本発明のa−C:H膜の製造に用いるプラズマCVD法としては、高周波放電を用いる高周波プラズマCVD法や、直流放電を利用する直流プラズマCVD法、マイクロ波放電を利用するマイクロ波プラズマCVD法などが挙げられるが、ガスを原料とするプラズマ装置であればいずれでもかまわない。なお、成膜する際の基材温度、ガス濃度、圧力、時間などの条件は、作製する非晶質炭素膜の組成、膜厚に応じて、公知の方法で適宜設定される。
【0022】
前記(3)の工程は、工具を用いて行うことも可能であるが、非晶質炭素膜が耐摩耗性に優れているが、導電性炭素微粒子は摩擦に対して脆弱であること、及び非晶質炭素膜と導電性炭素微粒子とは密着性に優れていることから、これらの表面を、不織布などで表面が覆われたバレンを用い、乾拭きするなどの簡単な手法により行うことができる。
【0023】
第二の方法は、(1´)導電性基板上の、前記の微小領域以外の領域に非晶質炭素を堆積させる工程と、(2´)導電性基板上の、非晶質炭素が堆積されていない微小領域に導電性炭素微粒子を固定させる工程と、(3´)該非晶質炭素膜の表面と導電性炭素微粒子の表面とが同一平面となるように平坦化する工程とからなる方法である。
【0024】
前記(1´)の導電性基板上の前記の微小領域以外の領域に非晶質炭素を堆積させる方法は、特に限定されないが、例えば、導電性基板上にマスクやメッシュを配置し、その上から水性の塗料等のスキング材料を噴霧して、マスクやメッシュのネガパターン状にマスキング材料による保護膜を形成した後に、マスクやメッシュを外して、基板表面に非晶質炭素膜を堆積させる方法が挙げられる。この手法によれば、その後、超音波洗浄などによって水性塗料部分及び該塗料上に成膜された非晶質炭素膜を剥離することで、マスクやメッシュと同じ様なパターンを有する非晶質炭素膜を得ることができる。
【0025】
前記(2´)の工程は、このパターン状の非晶質炭素膜が形成された基板に対して、前記の(1)の工程と同様に、上から、導電性炭素粒子を含有するスプレー塗布剤などを噴霧する等の方法により、非晶質炭素膜が形成されていない領域に導電性炭素微粒子を固定することで行われる。
その後の前記(3´)の工程は、前記(3)の工程と同様である。
【0026】
以上の第一の方法及び第二の方法は、いずれも、非晶質炭素膜と導電性炭素微粒子とが密着性に優れている点、及び非晶質炭素膜と導電性炭素微粒子の硬さ(脆さ)の違いを利用したものであって、導電性基板上に、導電性炭素微粒子からなる非連続な微小領域と、非晶質炭素膜からなる連続した領域と、を有し、それらの面が同一平面となる積層部材を製造するのに適した方法である。
【0027】
また、第一の方法及び第二の方法ともにスプレー噴霧等により所望の被覆パターンを形成しており、使用されるスクリーン、マスクやメッシュなどの被覆物が、対象基材上に完全に密着していなくても、被覆物が基材表面から浮いた部分においてもスプレー噴霧材料の回りこみが比較的少ないので、プラズマ成膜プロセス時の被覆のように基材と被覆物との僅かな浮きから生じる隙間にプラズマが回り込んで膜を形成し、被覆物のパターンの転写に欠陥が生じる等の問題を考慮する必要が少ない。基材表面にうねりを伴うもの、浅い溝などを伴うものにも適用が可能である。
また、スプレー噴霧物ではパターン転写時に加熱を伴わないため、被覆物と基材の熱線膨張係数の相違によるパターンの位置ズレを起こすことも無い。
さらに、スプレー塗布は、真空プロセスではなく、開放された常圧の空間で実施されるので、例えば立体形状を有する基材の任意の面、部分を選択的に、該面に最も適切で必要なパターンの被覆で、任意の方向から順次表面処理行うことが可能となる。
【0028】
さらに、本発明の製造方法は、めっきのように溶液の中でパターンニングが行われるものでもないため、溶液中に浸漬できない基材、また、一般的に酸性やアルカリ性を示すめっき液のような溶液に耐性を持たない基材でもパターンニングが容易に可能である。さらに、電解めっきのように基材に電圧を印加することが必要な場合、基材はめっきに要求されるレベルの導電性が必要であるが、スプレー方式では、基材の導電性を選ばない。
【実施例】
【0029】
以下、本発明について、実施例及び比較例を用いて説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1、2)
1)基材上への非晶質炭素膜の形成
試料として、四角形の板状ステンレス鋼(オーステナイト系)SUS304 2B材 幅20mm×長さ80mm 厚さ0.6mmの試料を準備した。
上記試料を平置きした後、試料の縦方向に半分だけ被覆されるように、ステンレス鋼SUS製の#60金属メッシュ(線径0.12mm、目開0.3mm)を、試料面上に配置し、グラファイトの微粒子を含有するスプレー塗布剤(株式会社オーテック製、商品名:ブラックルブ、電気伝導率:10−3Ω・cm)を噴霧した。この試料を15分間、室温で自然乾燥させた後、金属メッシュを除去し、ホットプレート上にて約200℃で10分間加熱した。
【0030】
図2は、得られた試料の表面を観察した写真〔(a):倍率30倍、(b):倍率150倍〕であって、それぞれの写真の右側が、金属メッシュにて被覆されていない部分、左側が、被覆された部分である。
金属メッシュで被覆された部分は、特に、粒径1μm以上のグラファイト微粒子或いは粒子の二次粒子が、試料の表面に点在している状態が観察できた。また、金属メッシュにて被覆されていない部分は、グラファイトが連続面として試料表面を覆い、試料表面が露出していないことが確認できた。
該試料において、金属メッシュを被覆して、表面にグラファイトを点在させた試料部分を実施例1用試料とした。また、金属メッシュにて被覆せず、グラファイトが連続的に試料表面を覆っている部分を比較例1用試料とした。
さらに、別途、表面にグラファイト含有塗布剤を噴霧していない状態の実施例1、比較例1作成に使用したものと同じ試料を準備し、これを比較例2用試料とした。
【0031】
実施例1用試料及び比較例1、2用試料に対して同時に、非晶質炭素膜を下記条件で成膜し、実施例1、比較例1及び比較例2の各試料とした。
・成膜装置:高圧DCパルスプラズマCVD装置
・真空度:7×10−4Pa
・原料ガス:トリメチルシラン 流量:30SCCM ガス圧:2Pa
・印加電圧:−4kVまで
・膜厚:500nm
【0032】
プラズマCVD法の場合、基材に付着した異物により異常放電が多発し、所定の印加電圧の印加に至らない場合や、異常放電により、電源回路に多大な損傷を負わせることが起こるが、今回の非晶質炭素膜の成膜時に、事前に噴霧したグラファイトに起因する異常放電は発生しなかった。これは、グラファイトが電気の良導体であるからと推定できる。
【0033】
以下に成膜した後の各試料のCCD拡大写真を示す。
先ず、図3は、実施例1用試料の金属メッシュにて被覆した部分の状態を観察したCCD拡大写真を示すものである((a)倍率500倍、(b)倍率2000倍)。これらの写真から、特にグラファイトの周辺へ影響を与えること無く、非晶質炭素膜が成膜されていることがわかる。
また、図4に、比較例1用試料の金属メッシュにて被覆しない部分の状態を観察したCCD拡大写真を示す((a)倍率500倍、(b)倍率2000倍)。図4から、基材を覆うように全面にグラファイト膜が存在することが確認でき。その上に非晶質炭素膜が成膜されたと推定できる。
【0034】
2)不織布バレンによる乾拭
非晶質炭素膜形成後、実施例1用試料の表面と比較例1用試料の表面を、不織布にて全面が覆われたバレンを使用して乾拭きし、その表面状態を確認した。拭き取りに使用したバレンの不織布の摩擦面からは黒い粉状のものが観察され、形成した非晶質炭素膜に埋没することなく非晶質炭素膜表層表面(水平面)より上に凸となった部分のグラファイトがバレンにより非晶質炭素膜表層表面と水平面になるまでの部分が摩滅され、平坦化していることが確認された。
図5は、実施例1用試料の金属メッシュにて被覆した部分の状態を観察したCCD拡大写真である〔(a)倍率500倍、(b)倍率2000倍〕。
【0035】
実施例1の試料である図5の写真からわかるように、金属メッシュにて被覆した部分においては、基材表層に固定され、非晶質炭素膜の上部に突出していたグラファイトは、硬度が低いため、不織布バレンの空拭きで簡単に摩滅し、非晶質炭素膜の膜平面の水準までグラファイトが削られている。しかし、それ以上の非晶質炭素膜中に根ざした部分については、物理摩擦からの攻撃を周囲の硬い非晶質炭素膜が保護しているため、写真からはグラファイトが塗布されていた部分の基材が裸で露出した部分は確認できず、グラファイトの少なくとも一部がスプレー塗布した状態で基材上に残っているのが確認できた。
【0036】
以上のことから、基材との導電性を確保する為に塗布された導電性であるグラファイトの突起部を覆うように絶縁性に近い非晶質炭素膜が形成されてしまっても、その基材としてのグラファイト粒子自体が柔らかいため、グラファイト粒子は削り取られ、グラファイトの表面を一時的に成膜時に覆った非晶質炭素膜は前記バレン等による平坦化時に破壊され、再度導電性のグラファイト成分自体が表面に露出できるような状態になり、当該グラファイトは塗布時の基材と接触しているため、非晶質炭素膜表層の接触物は、グラファイトの部分を通じて基材との電気的な導通を取ることが可能になることが判明した。
【0037】
次いで、実施例1と同様に作成した試料(グラファイトを点在させ非晶質炭素膜を形成しバレンで表面を擦ったもの)、幅20mm×長さ20mmサイズのものの電気抵抗を4端子法により測定した。
特に実施例1のような部分的に導電性のグラファイトが点在する試料の電気抵抗を計測するため、また、測定用の金属端子が薄膜である非晶質炭素膜を基材側に貫通しないよう、実施例1の試料表面との電気抵抗測定接触部には本来の被測定物との接触部である金属製端子部分表層に、導電性ゴム((株)JSRマイクロテック製ショートゴム、幅10mm×長さ16mm×厚さ1.35mm)を設けた。図11にその概要を示す。
【0038】
被測定物は前記の実施例1と同様の条件にて作成した試料、幅20mm×長さ20mmサイズのものを、測定機下側に位置する接触部である導電性ゴム上に、実施例1試料の膜の形成されていない「裏面」側を接触させセット(実施例1試料の膜の形成されていない「裏面」側が下側の導電性ゴムに接触する配置)、上側の導電性ゴムを可動ステージにより下降させ、実施例1の試料の膜を形成した被測定物の面を上側の導電性ゴムで挟む形で測定を行った。
本測定では、本来得たい被測定物の電気抵抗以外に、
・導電性ゴムと被測定物の接触抵抗
・導電性ゴムの抵抗
・金属電極と導電性ゴムの接触抵抗
・金属電極の抵抗
・リード線と金属電極の接触抵抗
・リード線の抵抗
といったものが発生し、測定値に影響を及ぼす可能性がある。これらの影響を排除する為電気抵抗は4端子法により測定している。抵抗測定器はAgilent社製34420Aを使用した。
上記方法で実施例1と同様の試料の電気抵抗を5回計測した平均抵抗値は、2.92Ωであり、基材と非晶質炭素膜表面の電気的導通が確保されていることが確認できた。
【0039】
一方、比較例1の金属メッシュにて被覆しない部分においては、基材と非晶質炭素膜の間に、グラファイトの面となった層が介在し、非晶質炭素膜の密着は、当該グラファイト層の基材密着力に依存する関係となり、基材と物理的にのみ密着しており、モース硬度が1〜2と柔らかいグラファイト層は、非晶質炭素膜を通じて加えられる摩擦力によって簡単に基材から剥離してしまっているのが確認できた。
【0040】
以上のことから、基材表面にグラファイト部分が点在し、このグラファイト部分が周囲の非晶質炭素膜に守られるように存在していることが重要であるといえる。
【0041】
3)摩擦摩耗試験
以上の説明において、グラファイト部分が点在し、このグラファイト部分を取り囲む周囲の非晶質炭素膜の構造が工業的に実施できるのかを試すため、新東科学製、摩擦磨耗試験装置トライボギアHHS-2000を用いて、摩擦磨耗試験を実施した。摩擦磨耗試験の実験条件として、荷重は20gと100gとの2点間の傾斜加圧で実施した。また、試験雰囲気は、大気中とし、圧子移動速度は5mm/秒であり、圧子移動距離は、20mm、サンプリンググレートは、25Hzまでとした。試料及びその他の条件は、以下に記述する。
【0042】
摩擦磨耗試験の結果を示す。
試料は、実施例1の試料と、ステンレス鋼SUSの試料に非晶質炭素膜のみ成膜した比較例2の試料の2種とし、それぞれについて上記の条件で摩擦磨耗試験を行った。
【0043】
図6(a)に比較例2の摩擦磨耗試験の結果を示す。
比較例2のステンレス鋼SUS304の試料に非晶質炭素膜のみをコートしたものは、5往復付近から摩擦係数が0.5μ程度まで上昇するが、その後は安定し、右肩にやや低下傾向で100往復が終了している。
また、図6(b)に示す摩擦摩耗試験のボールの軌跡のCCD写真(倍率500倍)の観察によると、ボールの軌跡も変色はあるが、基材であるステンレス鋼SUS表面は露出していない。
【0044】
図7(a)に本発明の実施例1の試料の摩擦摩耗試験の結果を示す。
実施例1の試料は、前述の比較例2の試料の通常の非晶質炭素膜の成膜分と同等の摩擦係数で安定していることが確認できる。
この結果より、基材上に非晶質炭素膜と供に分散させたグラファイトが、摩擦・磨耗用途においても、その導電性の付与と引き換えに非晶質炭素膜固有の特徴である耐磨耗性や低摩擦係数をもつことを犠牲にしていないことが確認できる。
また、図7(b)に示す摩擦摩耗試験のボールの軌跡のCCD写真(倍率500倍)の観察によると、ボールの軌跡も基材であるステンレス鋼SUSの表面等は露出していないことが確認できる。
図8に、実施例1の試料の摩擦摩耗試験のボールの軌跡上に点在するグラファイト部分のCCD拡大写真(倍率5000倍)を示す。ボールの軌跡上に存在するグラファイト部分についても、剥離、特にグラファイト部分のみの抜け、剥離が生じている部分は観察できない。
【0045】
非晶質炭素膜表面上へのグラファイトの添加量は、非晶質炭素膜に行うマスキングの目開きや線径の大きさを制御することで所望のグラファイトの点在性や被膜面積などを変えることが可能である。
【0046】
4)静電気による微小電子部品貼り付き状況の評価
本発明の効果を確認するため、周囲にツバ状の部品搬送ガイド(壁)のある「丸盆」形状で、該ツバの内径80mmΦのステンレス鋼(SUS304)製鏡面仕上げ(Ra:0.05μm)の部品搬送用ボールフィーダーのワークの搬送面(ツバの内側、内径80mmΦ部分)に、下記の方法にてグラファイトの点在構造を持った非晶質炭素膜を作成した。
【0047】
実施例1と同様の試料として、まず、該フィーダーに、ステンレス鋼SUS製の#60金属メッシュ(線径0.12mm、目開0.3mm)を、試料の上部前面に接触した形で金属メッシュを被覆し、グラファイト微粒子を含有するスプレー塗布剤(株式会社オーテック製、商品名:ブラックルブ)を噴霧した。
本試料を15分間、室温で自然乾燥させた後、金属メッシュを除去しホットプレート上にて約170℃で10分間加熱した。これを、実施例2の基材とする。
次に、比較例2と同様の比較用試料として、実施例2と同じ内径80mmΦのステンレス鋼(SUS304)製鏡面仕上げ(Ra:0.05μm)部品搬送用フィーダを準備し、比較例3の基材とする。
【0048】
実施例2及び比較例3の基材に対して同時に非晶質炭素膜を下記条件にて成膜した。
・成膜装置:高圧DCパルスプラズマCVD装置
・真空度:7×10−4Pa
・原料ガス:アセチレン 流量:30SCCM ガス圧:2Pa
・印加電圧:−4kVまで
・膜厚:500nm
【0049】
上記の非晶質炭素膜を形成後、実施例2の基材(グラファイト微粒子を点在させた後に非晶質炭素膜を形成したフィーダ)表面をバレンにて摩擦した後(実施例2)、室温25℃、湿度25%の環境下にて実施例2を、圧電体で振動する振動搬送装置にセットし、0402形状の基板実装用に外部電極端子の周面および端面がSnめっきで仕上げられた積層チップセラミック積層コンデンサ20個を25rpmで10分間回転搬送させた後、取り外して実施例2の非晶質炭素膜の面が90゜の傾斜(垂直)になるよう配設し、フィーダ上に静電気付着する0402形状の積層セラミックコンデンサの付着残留している部品数を数えた。
その結果、実施例2のフィーダ表面に積層セラミックコンデンサ付着は認められなかった。
上記と同様の方法で比較例3(非晶質炭素膜を形成したもの)についても積層セラミックコンデンサ20個を25rpmで10分間回転搬送させた後、取り外して非晶質炭素膜の面が90゜の傾斜(垂直)になるよう配設し、フィーダ上に静電気付着する0402形状の積層セラミックコンデンサの付着残留している部品数を数えた。比較例3の非晶質炭素膜を塗布したのみのフィーダ表面には14個の部品付着が確認できた。
連続して、0402形状の積層セラミックコンデンサ(約0.1mg)20個を25rpmにて回転させ、3万回転時点にてフィーダ表面の状態を観察した。
実施例2には0402形状のコンデンサの静電気付着、および積層セラミックコンデンサ電極からのSnめっき(酸化スズ)による凝着付着は確認されなかった。
上記の評価結果から、基材上に非晶質炭素膜と供に形成される分散したグラファイト部分は、静電気除去、凝着物発生による部品張り付き防止に必要充分な電気伝導性、耐凝着防止性を保持しているのが確認できる。
【0050】
(実施例3)
0402形状の積層セラミックコンデンサ(縦幅0.4mm×横幅0.2mm×厚み0.2mm)の投影面積の一番大きい立体面が完全に収容されない大きさの線径を持つマスクとして、フォトマスクでパターニングされ、エッチングで開口処理させ作成したメシュ格子状のステンレス鋼SUS304製マスク、開口200μm、線径100μm、板厚50μmを準備した。
四角形で縦10cm、横10cm、厚さ5mmのアルミニウム合金(A2017)製で一部に切削加工にて凹状のスリット加工が円弧状に施された部品搬送用フィーダーのスリット含むワークの搬送面に、上記マスクを固定し、水性の塗料スプレー(大日本塗料製 サンデーペイント水性スプレー白)で塗料を噴霧した。
塗料のスプレー噴霧後ステンレス鋼SUSマスクを外すと、マスクのネガパターン状に塗料パターンがフィーダ表面上に確認できた。また、スリット底部にも飛び飛びの塗料パターンが確認できた。
【0051】
充分に塗料を乾燥させた後、得られたフィーダを、比較例用としてのアルミニウム合金A2017のみからなるフィーダー(比較例4の基材)と共に、高圧DCパルスプラズマCVD成膜装置に投入した。
非晶質炭素膜の成膜条件は、真空度、1×10−3Paに減圧し、アルゴンガスプラズマで5分間クリーニングを行った後、シリコンを含む非晶質炭素膜中間層、及び、アセチレンガス原料による非晶質炭素膜を、ガス圧2Pa、ガス流量40SCCM、印加電圧―5Kvにて計40分間成膜を行った。
【0052】
成膜後、パターン状に塗料を塗布した上記のフィーダ表面を確認すると、塗料の付着していないポジパターン部分に非晶質炭素膜が隙間を埋めるように綺麗に成膜されているのが確認できた。
図9に、表面を観察したCCD拡大写真を示す。
【0053】
次いで、実施例3の非晶質炭素膜形成面をIPA(イソプロピルアルコール)を含ませた不織布にて拭き取りを行った後、超音波洗浄器にIPAを投入し、上記のフィーダを15分間超音波洗浄し、塗料部分、および塗料上に成膜された非晶質炭素膜を、フィーダから剥離した。ステンレス鋼SUSマスクと同様の格子状の非晶質炭素膜と、アルミニウム合金A2017フィーダのむき出しの素地が確認できた。通常、金属基材上に成膜した非晶質炭素膜は15分間程度のIPAによる超音波洗浄等では基材から剥離することはないが、スプレーされた塗料膜上に成膜された非晶質炭素膜は金属基材とは直接密着されていないため、拭き取りやIPAによる超音波洗浄で簡単に剥離除去することが可能であり、この方法は、連続した面状の非晶質炭素膜成膜後、その一部を剥離して非晶質炭素膜のない基材が露出した部分を作成する方法に比べて簡便であり、生産性も高い。
図10に、表面を観察したCCD拡大写真を示す。図中、白い部分が基材のアルミニウム合金であり、黒い部分が非晶質炭素膜である。
【0054】
次に、上記のフィーダに、前述のグラファイトを含有するスプレー塗布剤(株式会社オーテック製、商品名:ブラックルブ)を全面塗布し、10分間室温で乾燥させた後、ホットプレート上にて170℃で10分間加熱した。
グラファイトのスプレーが十分固化したのを確認し、その表面を不織布で擦り、ネガパターン(写真の白い部分)に封止したグラファイトのみを残し、非晶質炭素膜上(写真の黒い部分)のグラファイトを除去した非晶質炭素膜とグラファイトの複合体を作成した。これを、実施例3のフィーダーとする。
【0055】
次に、室温25℃、湿度25%の環境下で、実施例3のフィーダーを、圧電体で振動する装置にセットした。このボールフィーダーに0402形状の基板実装用に外部電極端子の周面および端面がSnめっきで仕上げられたチップ状積層セラミックコンデンサ20個を、20rpmで10分間回転搬送させた後、取り外して非晶質炭素膜の面が90゜の傾斜(垂直)になるよう配設し、ボールフィーダー上に0402形状の積層セラミックコンデンサの付着残留している数を数えた。
また、比較用の非晶質炭素膜を塗布しただけの比較例4のフィーダについても、同様にして、ボールフィーダー上に静電気付着する0402の積層セラミックコンデンサの付着残留している数を数えた。
【0056】
その結果、実施例3においても実施例2と同様にフィーダ表面に部品の付着は認められなかった。これに対し、比較用の非晶質炭素膜を塗布したのみの比較例4のフィーダ表面には11個の部品の付着を確認した。
また、連続して、0402形状の積層セラミックコンデンサ20個を20rpmにて回転させ、1万回転時点にてフィーダ表面の状態を観察したが、実施例3のフィーダにおいては、0402形状の積層セラミックコンデンサの静電気付着および、Snめっき(酸化スズ)による凝着付着はなかった。
【0057】
上記の評価結果から、格子状非晶質炭素膜の間のアルミニウム合金の素地部分に形成されるグラファイト部分は、静電気除去、凝着物発生による部品張り付き防止に必要充分な電気伝導性、耐凝着防止性を保持しているのが確認できる。
【符号の説明】
【0058】
10:導電性基材
20:導電性炭素微粒子が分散固定されてなる非連続な微小領域
30:非晶質炭素膜からなる連続した領域
40:積層セラミックコンデンサ
40a:積層セラミックコンデンサの両端部側に形成された電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基材上に導電性炭素微粒子が分散固定されてなる非連続な微小領域と、導電性基板上の該領域以外に堆積された非晶質炭素膜からなる連続した領域とを有し、前記の導電性炭素粒子からなる微小領域の表面と、前記の非晶質炭素膜からなる連続した領域の表面とが、同一平面をなしていることを特徴とする非晶質炭素膜積層部材。
【請求項2】
前記導電性炭素粒子が、カーボングラファイト又はカーボンブラックからなる請求項1に記載の非晶質炭素膜積層部材。
【請求項3】
前記非晶質炭素膜を最上層とする、部品搬送用部材、部品整列用部材又は部品保管用部材であることを特徴とする請求項1又は2に記載の非晶質炭素膜積層部材。
【請求項4】
(1)導電性基材上に、導電性炭素微粒子を前記の微小領域のみに分散固定する工程と、(2)該導電性炭素微粒子が固定された基板の表面に非晶質炭素を堆積させる工程と、(3)該非晶質炭素膜の表面と導電性炭素微粒子の表面とが同一平面となるように平坦化する工程をこの順に含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の非晶質炭素膜積層部材の製造方法。
【請求項5】
前記(1)の工程を、導電性基板上に、所定の開口を有するメッシュ又はスクリーン版を配置し、その上から、導電性炭素粒子を含有する塗布剤を噴霧することにより行うことを特徴とする請求項4に記載の非晶質炭素膜積層部材の製造方法。
【請求項6】
(1´)導電性基板上の、前記微小領域以外の領域に非晶質炭素を堆積させる工程と、(2´)導電性基板上の、非晶質炭素が堆積されていない前記微小領域に導電性炭素微粒子を固定させる工程と、(3´)該非晶質炭素膜の表面と導電性炭素微粒子の表面とが同一平面となるように平坦化する工程をこの順に含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の非晶質炭素膜積層部材の製造方法。
【請求項7】
前記(1´)の工程を、導電性基板上に所定の開口を有するマスクを配置し、その上から、マスキング材料を塗布、または噴霧して、マスクのネガパターン状にマスキング材料による保護膜を形成した後、マスクを外して、導電性基板表面に非晶質炭素膜を堆積させ、その後、マスキング材料による保護膜部分及び該保護膜上に成膜された非晶質炭素膜を剥離することにより行うことを特徴とする請求項6に記載の非晶質炭素膜積層部材の製造方法。


【図1(a)】
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【図6(a)】
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【図7(a)】
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【図11】
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【図1(b)】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図5(a)】
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【図5(b)】
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【図6(b)】
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【図7(b)】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−149345(P2012−149345A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−289599(P2011−289599)
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【出願人】(593135365)太陽化学工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】