説明

非晶質薬物の吸着物および親油性ミクロ相形成物質の医薬組成物

医薬組成物は、基質上に吸着された薬物を含む固体吸着物および親油性ミクロ相形成物質を含む。固体吸着物はまた、親油性ミクロ相形成物質と共にインビボ使用環境に同時投与されることもできる。本発明の組成物は、使用環境における薬物濃度を増大させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(1)基質上に吸着された低溶解性薬物を含む固体吸着物、および(2)使用環境における薬物濃度を増大させる親油性ミクロ相形成物質、を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
低溶解性薬物は、しばしば、低い生物学的利用率または不規則な吸収を示し、不規則さの程度は、投与量レベル、患者の摂食状態、および薬物の形態などの因子により影響を受ける。低溶解性薬物の生物学的利用率を改善させることは、多くの研究が目的とするところであった。生物学的利用率の改善は、吸収を改善させるために溶液中の溶解薬物濃度を改善させることに依存する。
【0003】
結晶形または非晶質形のいずれかで存在できる低溶解性薬物の非晶質形は、使用環境における薬物の溶解により得られる平衡濃度と比較して大きな薬物水溶液濃度を一時的に提供することができることは公知である。かかる非晶質形は、単独の非晶質薬物、マトリックス物質中の薬物の分散物、または基質上に吸着された薬物からなることができる。かかる薬物の非晶質形は、薬物が溶液から沈殿できる速度よりも速く溶解することが多いので、結晶形よりも速く溶解することができると考えられている。結果として、非晶質形は薬物の平衡濃度よりも大きな濃度を一時的に提供することができる。
【0004】
かかる非晶質形は、最初に使用環境における薬物濃度の増大を示すことができるが、増大された濃度は、長続きしないことが多い。一般的に、最初に増大した薬物濃度は、単に一時的であり、低い平衡濃度に急速に復帰する。
【0005】
薬物の非晶質形を用いることに伴う問題のひとつは、固体薬物が非晶質形において物理的に安定ではない場合があることである。薬物の結晶形は、多くの場合低い自由エネルギーを有し、従って時間の経過と共に非晶質薬物は結晶化する傾向がある。結晶化速度は、温度および湿度と共に、組成物の成分などの保存条件に影響されうる。
【0006】
本願と同一の譲受人に譲渡された米国特許出願第10/173,987号(US2003/0054037として公開)(本明細書に引用して援用する)において、Babcockらは、基質上に吸着された低溶解性薬物を含む固体吸着物であって、基質が少なくとも20m/gの表面積を有し、吸着物中の薬物の少なくとも大部分が非晶質である該吸着物を開示している。この組成物は、水性使用環境に投与した場合、薬物濃度の増大を提供する。他の実施形態において、この組成物は、濃度増大ポリマーと混合した、基質上に吸着された低溶解性薬物の固体吸着物を含む。さらに他の実施形態において、この組成物は、基質上に吸着された、固体吸着物および濃度増大ポリマーを含む。
【0007】
Babcockらは、薬物の湿潤を容易にし、ミセル形成を容易にし、または結晶化もしくは沈殿を阻害することにより溶出速度を高めるために、吸着物を界面活性剤または表面活性剤と混合できることを開示している。かかる物質は、組成物の最大5重量%までを含むことができる。
【0008】
Takeuchi, Chem. Pharm. Bull. 35(9) 3800-3806 (1987)は、薬物であるトルブタミドおよび微細親水性シリカ粒子であるエアロジル(登録商標)200のスプレードライ組成物を開示している。1:1の重量比のトルブタミドおよびエアロジル(登録商標)200の溶液が、2%アンモニア水からスプレーされた。著者らは、薬物の少なくとも一部が非晶質であったことを示唆している。
【0009】
Reuterらは、米国特許第4,835,186号で、イブプロフェンおよびセルロースアセテートフタレートの低級アルカノール溶液中のコロイダルシリカのスプレードライサスペンジョンを開示している。実施例は、酢酸エチルおよびイソプロピルアルコールの溶液からスプレードライされる、イブプロフェン、CAP、コロイダルシリカおよび少量のひまし油を含むスプレードライ組成物を開示している。
【0010】
国際特許公開WO01/00180A1は、o−(クロロアセチルカルバモイル)フミギロール、油性成分および少なくとも1つ界面活性剤を含む薬学的に許容できる担体、ならびに安定化成分を含む自己乳化性薬物(SED)組成物であって、該安定化成分が、水、酸、および吸着剤コアコンプレックス形成剤を含む該組成物を開示している。薬物を含有する薬学的に許容できる担体は、充填し、混合し、吸着し、濾過し、あるいはまた他の方法で吸着剤またはコンプレックス形成剤と混合することができる。典型的な吸着剤は、活性炭およびシリカゲルを含む。
【0011】
Monkhouseら(J.
Pharm. Sci.、Vol. 61、No. 9、1972)は、ヒュームド二酸化ケイ素または沈降性ケイ酸などの水不溶性吸着剤と薬物を混合し、十分な量の有機溶媒を加え、薬物を溶解し、ついでろ過空気の気流により溶媒を留去することにより吸着剤を製造することを開示している。
【0012】
Yamamotoら、"Adsorption
of Pharmaceutical Organic Compounds onto Porous Materials, (in Surfaces of Nanoparticles
and Porous Materials, Scwarz and Contescu eds, 1999)は、とりわけ、多孔性材料を用いて非晶質状態の薬物を製造することによる薬物の溶解性改善を概説している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
それにもかかわらず、低溶解性薬物の溶解性および/または生物学的利用率を増大させる組成物が、いまだに所望されている。当業者には明らかなかかる必要性などは、本発明によって満たされ、以下に詳細に説明される。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(発明の概要)
本発明は、(1)基質上に吸着された低溶解性の薬物を含む固体吸着物(absobate)であって、薬物の少なくとも大部分が非晶質である前記吸着物、および(2)親油性ミクロ相形成物質、を含む組成物を提供することにより、従来の技術の欠点を克服する。固体吸着物および親油性ミクロ相形成物質の組み合わせにより、水性使用環境における溶解薬物濃度の改善がもたらされ、一部の実施形態において、驚くべき相乗効果がもたらされる。濃度増大ポリマーは、所望により、固体吸着物に組み込むかまたは本発明の組成物と混合することができる。
【0015】
本発明の他の態様において、基質上に吸着された低溶解性薬物を含む固体吸着物であって、薬物の少なくとも大部分が非晶質である該吸着物が、インビボ使用環境に、親油性ミクロ相形成物質と共に同時投与される。固体吸着物は、所望により濃度増大ポリマーを含有することができ、あるいは濃度増大ポリマーは、所望により固体吸着物および親油性ミクロ相形成物質と共に同時投与されることができる。本発明の他の態様は、基質上に吸着された低溶解性薬物および親油性ミクロ相形成物質を含む固体吸着物を含むキットを含む。
【0016】
本発明者らは、使用環境における薬物濃度を増大させる薬物/基質吸着物の能力が、特定の親油性ミクロ相形成物質の添加により著しく増大されうることを見出した。これらの親油性ミクロ相形成物質は、消化管などの水性使用環境に投与される場合、多数の微小ミクロ相(あるいはいわゆる“親油性ミクロ相”)を形成する。親油性ミクロ相形成物質は、(1)これらは水不混和性である、(2)薬物が親油性ミクロ相形成物質および水性使用環境間の高い分配係数を有する、そして(3)これらは水性使用環境中で微小親油性ミクロ相を形成する、というように選択される。
【0017】
特定の理論に拘束されることを意図しないが、本発明者らは、低溶解性薬物および高表面積基質を含む吸着物であって、該薬物の少なくとも大部分が非晶質である該吸着物ならびに親油性ミクロ相形成物質を含む本発明の組成物が消化管などの使用環境に導入される場合、該薬物はいくつかの異なる種類で存在できると考える。水性使用環境が動物の消化管、または動物の消化管をシミュレートするインビトロ使用環境のいずれかである場合、少なくとも5つの異なる薬物種が形成されると考えられる:(1)遊離薬物;(2)消化管中に生来存在する胆汁塩ミセル内に存在する薬物;(3)高表面積基質の微小粒子に吸着した薬物;(4)沈殿物;および(5)親油性ミクロ相中の薬物。
【0018】
本明細書においては、“遊離薬物”という用語は、水溶液中に溶解しており、かつ一般的にモノマーまたは約100分子以下のクラスターのいずれかである薬物分子を指す。“沈殿物”は、析出し、自然に、あるいは遠心分離により溶液から脱落する、任意の比較的大きな粒子に対する一般用語である。かかる沈殿物は、以下の形態の1以上または全てを含むことができる:(1)結晶性薬物;(2)非晶質薬物;および/または(3)溶液から脱落するために十分な密度およびサイズを有する粒子(一般的に平均直径で約5〜10ミクロンより大きい)として存在する、基質に吸着した薬物。本明細書においては、“総溶解薬物”という用語は、沈殿物として存在しない、使用環境における総薬物濃度を指す。従って、“総溶解薬物”は、沈殿物を除く全ての薬物種の合計を指す。これらの種類は、限定するものではないが、遊離薬物、胆汁塩ミセル中の薬物、微小粒子に吸着した薬物、および親油性ミクロ相中の薬物を含む。
【0019】
一般的に、消化管における遊離薬物濃度を増加させることが望ましい。特定の理論または作用メカニズムに拘束されることを意図しないが、おもに、遊離薬物は消化管から血中へ直接に吸収されると考えられる。従って、消化管から血中への薬物の吸収速度は、一般的に腸管膜表面における遊離薬物濃度に比例する。他の種類で存在する薬物は、一般的に、吸収されるためには、最初に遊離薬物形に変換される必要がある。加えて、多くの親油性薬物に対する吸収の律速段階は、腸壁の脂質膜を覆う、ムチンまたは粘液層を横切る拡散である可能性がある。この層は、しばしば“非撹拌水層”と呼ばれる。この層を横切る拡散が律速段階である場合、薬物の吸収速度は、それぞれの拡散係数に対して正規化された非撹拌水層を横切って撹拌できる遊離薬物および胆汁塩ミセルまたは親油性ミクロ相などの種の薬物の合計に比例する。
【0020】
本発明は、低溶解性薬物の濃度および生物学的利用率を増大するための従来法よりも優れた以下の利点の1つ以上を提供する。親油性ミクロ相は、生物学的利用率を増大するために、使用環境において薬物を十分に可溶化することができる。場合によっては、親油性ミクロ相は、(1)高移動性である、すなわち、使用環境を通じて、そして特に腸壁の非撹拌水層を通過して、沈殿物よりもより速く拡散でき;そして(2)不安定である、すなわち、薬物が親油性ミクロ相および遊離薬物間を急速に行ったりきたり変化できる;と考えられる。親油性ミクロ相は薬物を可溶化するので、親油性ミクロ相は薬物沈殿物の形成を減少させ、総溶解薬物の量を増加させることができる。親油性ミクロ相の不安定性はまた、使用環境における遊離薬物の再供給速度を増加させることもできる。遊離薬物が吸収されるに従って、親油性ミクロ相中に存在する薬物は、遊離薬物に急速に変換されることができ、これにより持続した遊離薬物濃度が維持される。親油性ミクロ相が小さい場合、その高移動性はまた、腸壁の非撹拌水層を介する薬物の輸送速度を増加させることにより、腸壁を介する薬物吸収速度を増加させることもできる。相まって、これらの性質は、薬物吸収の速度と程度(例えば、生物学的利用率)を著しく高めることができる。
【0021】
加えて、本組成物はまた、一連の患者の摂食状態および絶食状態間でのより類似した吸収レベルと共に、患者間の吸収レベルにおいて変動を少なくするという利点を有することもできる。低溶解性薬物を投与する場合の問題のひとつは、患者の摂食状態および絶食状態間で、薬物の吸収が大きく変動しうることである。吸収におけるこの差異は、摂食状態および絶食状態間で胆汁塩ミセルレベルの変動に一部起因する。本発明の親油性ミクロ相形成物質は、胆汁塩ミセルと同様に機能しうる。
【0022】
前記のように、摂食状態における消化管に存在する胆汁塩ミセルの濃度は、絶食状態において存在する濃度よりも大きいことは当業界に公知である。本発明者らは、絶食状態に対する摂食状態の、消化管における胆汁塩ミセルの濃度におけるこの差異は、多くの医薬組成物に対して観察された生物学的利用率における摂食状態/絶食状態の差異を、少なくとも部分的に説明できると考える。薬物/基質吸着物および親油性ミクロ相形成物質を含む本発明の組成物は、生物学的利用率におけるこの摂食状態/絶食状態の差異を最小化しうる。本組成物は、摂食状態および絶食状態間で、高度に不安定で高移動性の種で存在する薬物の量を均等化する傾向があり、それにより摂食状態および絶食状態間でより均一な生物学的利用率を提供する。この均等化は、1μgA/mLの水溶性および200の胆汁酸水溶液分配係数を有する親油性薬物が、親油性ミクロ相形成物質の存在下および非存在下で摂食状態および絶食状態において投与される仮説例で説明できる(“μgA”は活性薬物のマイクログラム量を指す)。絶食状態において100mLの消化管容量、そして摂食状態において200mLの消化管容量に、100mgの親油性ミクロ相形成物質を投与する。親油性ミクロ相形成物質および水溶液間の薬物の分配係数は4000である。これらの条件下で過剰の薬物が投与される場合、平衡時に溶解する薬物の総量は、以下の表のように算出される:
【表1】


このように、親油性ミクロ相形成物質の使用により、かかる物質が用いられない場合と比較して、より1に近い摂食状態/絶食状態比がもたらされる。摂食状態および絶食状態間で高度に不安定で高移動性の種で存在する薬物の量のかかる均等化により、摂食状態および絶食状態間で、より均一な生物学的利用率をもたらすことができる。
【0023】
本発明の、前述およびその他の目的、特徴、および利点は、以下の発明の詳細な説明を考慮すれば容易に理解されるであろう。
(発明の詳細な説明)
【0024】
1つの態様において、本発明は、(1)高表面積基質に吸着した低溶解性薬物を含む固体吸着物、および(2)親油性ミクロ相形成物質、を含む組成物を提供する。親油性ミクロ相形成物質は、吸着物上に存在するか、固体吸着物と混合されているか、あるいは、個別に吸着物と共に同時投与されるかのいずれかであることができる。組成物は、所望により濃度増大ポリマーを含むことができる。適切な薬物、親油性ミクロ相形成物質、吸着物、適切な濃度増大ポリマー、および組成物の製造方法を、以下にさらに詳細に説明する。
本薬物
【0025】
“薬物”は、慣用的な用語であり、動物(特にヒト)に投与する場合、有益な予防および/または治療効果を有する化合物を意味する。好ましくは、本薬物は“低溶解性薬物”であり、これは生理学的に関連のあるpH(例えば、pH1〜8)で本薬物が約0.5mg/mL以下の最小の溶解性を有することを意味する。本発明は、本薬物の水溶性が減少するに従って有用性が増す。従って、本発明の組成物には、約0.1mg/mL未満の水溶性を有する低溶解性薬物が好ましく、約0.05mg/mL未満の水溶性を有する低溶解性薬物がさらに好ましく、0.01mg/mL未満の水溶性を有する低溶解性薬物がさらにより好ましい。一般的に、本薬物は約10mLより大きい投与量対水溶性比を有し、そしてさらに一般的に約100mLより大きい投与量対水溶性比を有するということができるが、ここで水溶性(mg/mL)は、USPの人口胃および腸緩衝液を含む任意の生理学的に関連のある水溶液(例えば、1〜8のpH値を有する水溶液)において見られる最小値であり、投与量はmgで示してある。従って、投与量対水溶性比は、投与量(mg)を水溶性(mg/mL)で割ることにより算出できる。
【0026】
本発明から利益を得るためには、本薬物は低溶解性薬物である必要はないが、低溶解性薬物は、本発明の使用のための好ましいクラスを代表している。とはいえ、所望される使用環境においてかなりの水溶性を示す薬物であっても、本発明が治療効果に必要な投与量を減少させ、あるいは薬物の有効性の急速な作用開始が所望される場合において薬物吸収速度を増加させるならば、本発明により可能になった溶解性/生物学的利用率の増加から利益を得ることができる。かかる場合において、本薬物は、約1〜2mg/mLまでの水溶性、あるいはさらに約20〜40mg/mLまでの高い水溶性を有していてもよい。
【0027】
加えて、本発明は、本薬物が比較的高い吸収速度定数を有する場合、有用性がある。“吸収速度定数”は、本薬物が投与部位(例えば、動物の消化管)から身体の細胞外区画に移動する速度を表す定数を意味する。吸収速度定数は、一般に、ゼロ次または一次モデルにより記述される。例えば、Remingtonの、The Science and Practice of Practice of Pharmacy, 20th Ed
(2000)を参照されたい。本発明は、本薬物が少なくとも0.005min−1の吸収速度定数を有する場合特に有用性を有し、本薬物が少なくとも0.01min−1の吸収速度定数を有する場合さらに有用性を有し、そして本薬物が少なくとも0.03min−1以上の吸収速度定数を有する場合によりさらに有用性を有する。
【0028】
好ましい本薬物のクラスは、限定するものではないが、降圧剤、抗不安薬、抗凝固剤、抗痙攣薬、血糖降下剤、うつ血除去剤、抗ヒスタミン剤、鎮咳剤、抗腫瘍剤、β遮断薬、抗炎症剤、抗精神病薬、認知促進剤、コレステロール−低下剤、抗アテローム性動脈硬化薬、抗肥満薬、自己免疫疾患治療薬、性的不全治療薬、抗菌剤および抗真菌剤、睡眠剤、抗パーキンソン症候群薬、抗アルツハイマー病薬、抗生物質、抗うつ薬、抗ウイルス剤、グリコーゲンホスホリラーゼ阻害剤、およびコレステリルエステル転移タンパク質阻害剤を含む。
【0029】
名前を挙げたそれぞれの薬物は、薬物の薬学的に許容できる形態のいずれをも含むと理解されなければならない。“薬学的に許容できる形態”は、立体異性体、立体異性体混合物、エナンチオマー、溶媒和物、水和物、同形体、多形体、中性形、塩形態およびプロドラッグを含む、薬学的に許容できる誘導体または変形物のいずれをも意味する。降圧剤の具体例は、プラゾシン、ニフェジピン、ベシル酸アムロジピン、トリマゾシンおよびドキサゾシンを含み;血糖降下剤の具体例は、グリピジドおよびクロロプロパミドであり;性的不全治療薬の具体例は、シルデナフィルおよびクエン酸シルデナフィルであり;抗腫瘍剤の具体例は、クロラムブシル、ロムスチンおよびエチノマイシンを含み;イミダゾール系抗腫剤の具体例は、ツブラゾール(tubulazole)であり;抗コレステロール血症の具体例は、アトルバスタチンカルシウムであり;抗不安薬の具体例は、ヒドロキシジン塩酸塩およびドキセピン塩酸塩を含み;抗炎症剤の具体例は、ベタメタゾン、プレドニゾロン、アスピリン、ピロキシカム、バルデコキシブ、カルプロフェン、セレコキシブ、フルルビプロフェンおよび(+)−N−{4−[3−(4−フルオロフェノキシ)フェノキシ]−2−シクロペンテン−1−イル}−N−ヒドロキシウレアを含み;バルビツレートの具体例はフェノバルビタールであり:抗ウイルス剤の具体例はアシクロビル、ネルフィナビル、およびビラゾールを含み;ビタミン剤/栄養剤の具体例はレチノールおよびビタミンEを含み;β遮断薬の具体例は、チモロールおよびナドロールを含み;催吐剤の具体例はアポモルヒネであり;利尿薬の具体例は、クロルタリドンおよびスピロノラクトンを含み;抗血液凝固剤の具体例は、ジクマロールであり;強心剤の具体例は、ジゴキシンおよびジギトキシンを含み;アンドロゲンの具体例は、17−メチルテストステロンおよびテストステロンを含み;鉱質コルチコイドの具体例は、デスオキシコルチコステロンであり;ステロイド性の睡眠剤/麻酔剤の具体例は、アルファキサロンであり;タンパク同化剤の具体例は、フルオキシメステロンおよびメタンステノロンを含み;抗うつ薬の具体例は、スルピリド、[3,6−ジメチル−2−(2,4,6−トリメチル−フェノキシ)−ピリジン−4−イル]−(1−エチルプロピル)−アミン、3,5−ジメチル−4−(3’−ペントキシ)−2−(2’,4’,6’−トリメトキシフェノキシ)ピリジン、ピロキシジン、フルオキセチン、パロキセチン、ベンラファキシンおよびセルトラリンを含み;抗生物質の具体例は、カルベニシリンインダニルナトリウム、バカンピシリン塩酸塩、トロレアンドマイシン、塩酸ドキシクリン、アンピシリンおよびペニシリンGを含み;;抗感染薬の具体例は、塩化ベンザルコニウムおよびクロルヘキシジンを含み;冠血管拡張剤の具体例は、ニトログリセリンおよびミオフラジンを含み;睡眠薬の具体例は、エトミデートであり;炭酸脱水酵素阻害剤の具体例は、アセタゾラミドおよびクロルゾラミドを含み;抗真菌剤の具体例は、エコナゾール、テルコナゾール、フルコナゾール、ボリコナゾール、およびグリセオフルビンを含み;抗原虫薬の具体例はメトロニダゾールを含み;駆虫薬の具体例は、チアベンダゾールおよびオキシフェンダゾールおよびモランテルを含み;抗ヒスタミン剤の具体例は、アステミゾール、レボカバスチン、セチリジン、デカルボエトキシロラタジンおよびシンナリジンを含み;抗精神病薬の具体例は、ジプラシドン、オランザピン、チオチキセン塩酸塩、フルスピリレン、リスペリドンおよびペンフルリドールを含み;胃腸薬の具体例は、ロペラミドおよびシサプリドを含み;セロトニンアンタゴニストの具体例は、ケタンセリンおよびミアンセリンを含み;麻酔剤の具体例はリドカインであり;血糖降下剤の具体例は、アセトヘキサミドであり;制吐剤の具体例は、ジメンヒドリナートであり;抗菌剤の具体例は、コトリモキサゾールであり;ドーパミン作動薬の具体例は、L−ドーパであり;抗アルツハイマー病薬の具体例は、THAおよびドネペジルであり;抗潰瘍薬/H2アンタゴニストの具体例は、ファモチジンであり;鎮静剤/睡眠剤の具体例は、クロロジアゼポキシドおよびトリアゾラムを含み;血管拡張剤の具体例は、アルプロスタジルであり;血小板阻害剤の具体例はプロスタサイクリンであり;ACE阻害剤/降圧剤の具体例は、エナラプリル酸およびリシノプリルを含み;テトラサイクリン抗生物質の具体例は、オキシテトラサイクリンおよびミノサイクリンを含み;マクロライド抗生物質の具体例は、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、およびスピラマイシンを含み;アザリド抗生物質の具体例は、アジスロマイシンであり;グリコーゲンホスホリラーゼ阻害剤の具体例は、[R−(R*)]−5−クロロ−N−[2−ヒドロキシ−3−{メトキシメチルアミノ}−3−オキソ−1−(フェニルメチル)プロピル−1H−インドール−2−カルボキサミドおよび5−クロロ−1H−インドール−2−カルボン酸[(1S)−ベンジル−(2R)−ヒドロキシ−3−((3R,4S)−ジヒドロキシ−ピロリジン−1−イル−)−3−オキシプロピル]アミドを含み;コレステリルエステル転移タンパク質(CETP)阻害剤の具体例は、[2R,4S]4−[(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−メトキシカルボニル−アミノ]−2−エチル−6−トリフルオロメチル−3,4−ジヒドロ−2H−キノリン−1−カルボン酸エチルエステル、[2R,4S]4−[アセチル−(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−アミノ]−2−エチル−6−トリフルオロメチル−3,4−ジヒドロ−2H−キノリン−1−カルボン酸イソプロピルエステル、[2R、4S]4−[(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−メトキシカルボニル−アミノ]−2−エチル−6−トリフルオロメチル−3,4−ジヒドロ−2H−キノリン−1−カルボン酸イソプロピルエステル、(2R)−3−[[3−(4−クロロ−3−エチルフェノキシ)フェニル][[3−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)フェニル]メチル]アミノ]−1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノール、本願と同一の譲受人に譲渡された米国特許出願09/918,127号および第10/066,091号(その両方を本願に引用して援用する)に開示されている薬物、ならびに以下の特許および公開公報に記載の薬物:DE19741400A1;DE19741399A1;WO9914215A1;WO9914174;DE19709125A1;DE19704244A1;DE19704243A1;EP818448A1;WO9804528A2;DE19627431A1;DE19627430A1;DE19627419A1;EP796846A1;DE19832159;DE818197;DE19741051;WO9941237A1;WO9914204A1;WO9835937A1;JP11049743;WO200018721;WO200018723;WO200018724;WO200017164;WO200017165;WO200017166;EP992496;およびEP987251(全てを本願に引用して援用する)を含む。
【0030】
1つの好ましい実施形態において、本薬物は親油性薬物である。本発明者らは、本質的に非水溶性であり、疎水性が高く、かつ一連の物理的特性により特徴づけられる、このサブクラスの薬物を見出した。このサブクラスは、本発明の組成物として製剤化される場合、水溶液濃度および生物学的利用率における飛躍的な増加を示す。
【0031】
本質的に不溶性で疎水性の薬物であるこのサブクラスの第1の特性は、きわめて低い水溶性である。“きわめて低い水溶性”は、生理学的に関連のあるpH(pH1〜8)で最小の水溶性が約10μg/mL未満であり、好ましくは約1μg/mL未満であることを意味する。
【0032】
第2の特性は、きわめて高い投与量対水溶性比である。本薬物が従来の方法で経口投与される場合、きわめて低い水溶性は、しばしば、消化管液からの本薬物の吸収を低下または遅延させる原因となる。きわめて低溶解性の薬物に関して、投与量(経口投与される薬物の質量)が増加するにつれ、低い吸収性は、徐々にますます扱いづらいものとなる。従って、本質的に不溶性で、疎水性の薬物であるこのサブクラスの第2の特性は、きわめて高い、投与量(mg)対水溶性(mg/mL)比(mL)である。“きわめて高い投与量対水溶性比”は、投与量対水溶性比の値が少なくとも1000mLであり、好ましくは少なくとも5,000mLであり、そしてさらに好ましくは少なくとも10,000mLであることを意味する。
【0033】
本質的に不溶性で疎水性の薬物であるこのサブクラスの第3の特性は、本薬物が極めて疎水性であることである。きわめて疎水性であるとは、本薬物のLogP値が、少なくとも4.0であり、好ましくは少なくとも5.0であり、さらに好ましくは少なくとも5.5であることを意味する。オクタノールに対する薬物の溶解性と水に対する薬物の溶解性の比の10を底とする対数として定義されるLogPは、疎水性の尺度として広く受け入れられている。LogPは、実験的に測定でき、あるいは当該技術分野で公知の方法を用いて算出できる。算出されたLogP値は、しばしば、算出法に基づいてClogP、AlogPおよびMlogPなどとして表される。
【0034】
そもそも、これらの特性の一部または全部の結果として、このサブクラスの薬物は、一般的に、非常に低い絶対生物学的利用率を示す。特に、分散されない状態で経口投与されたこのサブクラスの薬物の絶対生物学的利用率は、一般的に約10%未満であり、多くの場合約5%未満である。
親油性ミクロ相形成物質
【0035】
本親油性ミクロ相形成物質は、界面活性剤および/または親油性物質を含むことができる。従って、本明細書においては、本“親油性ミクロ相形成物質”は、単一の物質と共に2以上の物質を含むことを意味する。本親油性ミクロ相形成物質は、(1)水不混和性であり、(2)使用環境において多数の微小親油性ミクロ相を形成することができ、そして(3)使用環境において本薬物に対して比較的高い分配係数を示す必要がある。
【0036】
本親油性ミクロ相形成物質は、“水不混和性”でなければならず、これは、本明細書に記載のようにインビボ水性使用環境に投与される場合、本物質が溶媒和分子としての溶解性を上回り、従って第2の相の形成を必要とすることを意味する。理想的には、かかる第2の相は、ミセルまたはマイクロエマルジョンなどの多くの小さな相の形態をとる。多くの場合、本親油性ミクロ相形成物質は、その濃度以上でミセルが形成する水溶液濃度として定義される、臨界ミセル濃度(“CMC”)を有する。かかる場合において、本親油性ミクロ相形成物質はCMC以上の濃度で存在し、これによりミセルの形成が引き起こされる。本親油性ミクロ相は、水性使用環境中で分離相であり;該分離相は、ミセルなどのきわめて微小な集合体から最大数ミクロンサイズの大きな液滴などの範囲に亘る。本親油性ミクロ相形成物質はまた、撹拌、振盪または他の機械的エネルギーを必要とせずに、インビボ水性使用環境において多数の微小親油性ミクロ相を形成することができる。本物質は、自己乳化性である必要はない。しかしながら、好ましくは、本親油性ミクロ相形成物質は、使用環境において単一相に凝集すべきではなく、少なくとも1時間、そして好ましくはそれ以上の間多数のミクロ相として維持されるべきである。本組成物がインビトロ水性使用環境に投与される場合、本親油性ミクロ相形成物質は、最大限でもわずかな使用環境の撹拌を用いて多数のミクロ相が形成されるべきである。本ミクロ相は、使用環境に投与された後、少なくとも1時間、そしてさらに好ましくは少なくとも4時間小さいままで維持される。
【0037】
単独で投与された場合多数のミクロ相を形成しない一部の親油性物質は、薬物/基質吸着物および所望による濃度増大ポリマーと共に投与された場合、しばしばかかる相を形成できることに留意すべきである。
【0038】
結果として水性使用環境中に形成される親油性ミクロ相は、好ましくは微小である。“微小の”とは、一般に約100μm未満の特性直径である親油性ミクロ相を本親油性ミクロ相形成物質が形成することを意味する。“特性直径”とは、使用環境における本ミクロ相の体積平均径を意味する。本特性直径は、動的光散乱および静的光散乱検出などの標準的な測定技術、または光学顕微鏡検査もしくは走査顕微鏡検査、透過型電子顕微鏡検査、コールターカウンター法、ならびにサイズ排除フィールドフローフラクショネーションによる検査により測定できる。得られる粒子は、微小であってもよく、例えば、特性直径が約10μm未満、特性直径が約1μm未満、特性直径が約100nm未満、そして特性直径が約50nm未満である。場合によっては、本親油性ミクロ相形成物質の一部が微小ミクロ相を形成し、残りの物質が大きなミクロ相として存在することもできる。かかるサイズにおける分布が存在する場合、本親油性ミクロ相形成物質の少なくともかなりの部分が微小ミクロ相として存在することが好ましい。“かなりの部分”とは、本物質の約10容量%以上が微小ミクロ相中に存在することを意味する。好ましくは本物質の約15容量%以上、さらに好ましくは約20容量%以上が微小ミクロ相中に存在する。
【0039】
本ミクロ相のサイズは、本組成物の他の成分(本薬物およびポリマーなど)、本組成物の成分が混合されている方法(例えば、本薬物/基質吸着物に吸着した本親油性ミクロ相形成物質を有する)、と共に使用環境の成分に応じて決まる。インビトロ試験において微小親油性ミクロ相を形成しないにもかかわらず、タンパク質、胆汁酸塩、および他の表面活性剤の存在により、一部の組成物が適切に微小親油性ミクロ相の形成をもたらすことができる、インビボ使用環境において、このことはとりわけ現実となる。加えて、インビボ環境において、モノ−、ジ−、およびトリ−グリセリドなどの多くの親油性ミクロ相形成物質は、やがては本ミクロ相を形成する他の種に化学変換することができることは公知である。従って、適切な親油性ミクロ相形成物質および組成物の最終試験は、インビボ使用環境において行われるのが最も良い。
【0040】
本親油性ミクロ相に出入りする、遊離薬物相からの薬物の不安定性は、一般的に、本ミクロ相サイズの関数である。“不安定性”とは、速度定数、すなわち本ミクロ相への薬物放出速度または本ミクロ相からの薬物放出速度またはおよび薬物分配率を意味する。一般的に、所定量の親油性ミクロ相形成物質に対しては、本ミクロ相のサイズが減少するに従って不安定性は増加する。本薬物の水溶性が減少するに従って、本ミクロ相の特性サイズは小さくなることが好ましい。従って、本薬物の水溶性がきわめて低い場合(例えば約1μg/mL以下)、インビボ使用環境に投与されるとき、一般的に、約1μm未満の特性直径のミクロ相を形成する組成物が好ましい。
【0041】
本ミクロ相はまた、消化管における薬物吸収速度を増加させることもできる。特定の理論または作用メカニズムに拘束されることを意図しないが、本ミクロ相は、腸壁に隣接する非撹拌水層を介する本薬物の輸送速度を増加させることができると考えられる。下記のように、本薬物は本親油性ミクロ相形成物質中に高い分配係数を有し、これにより本ミクロ相中の高い薬物濃度がもたらされる。従って、本ミクロ相が非撹拌水層を横切って輸送される場合、大量の薬物もまた輸送される。一般的に、本ミクロ相のサイズが小さければ小さいほど、非撹拌水層を横切る輸送速度もまた高くなる。非撹拌水層を介して輸送された後は、本親油性ミクロ相形成物質中の薬物の高い不安定性により、本親油性ミクロ相形成物質が存在しない場合よりも、腸壁における遊離薬物の濃度が高く維持されることが可能となる。結果として吸収が促進される。
【0042】
本薬物もまた、本親油性ミクロ相形成物質中で比較的高い分配係数を有する必要がある。分配係数は、以下のように、本親油性ミクロ相中に存在する薬物濃度と遊離薬物濃度との比を意味する:
【化1】

(式中、Kは分配係数であり、[Drug]lipophileは本親油性ミクロ相中の薬物濃度であり、そして[Drug]freeは、遊離薬物濃度である)。
【0043】
所定量の水性使用環境において、本親油性ミクロ相中の薬物の総量もまた、存在する親油性ミクロ相の量に応じて決まる。従って、水性使用環境の単位量あたりの本親油性ミクロ相中の薬物濃度([Drug]aqueous,lipophile)は、以下によって得られる:
【化2】

(式中、Xlipophileは、使用環境における本親油性ミクロ相の体積分率である)。
【0044】
本薬物が、遊離薬物および本親油性ミクロ相中の薬物としてのみ存在する場合、総溶解薬物濃度([Drug]aqueous,total)は以下によって得られる:
【化3】

【0045】
親油性物質の存在が、組成物の生物学的利用率に大きな影響を与えるためには、一般的に、本親油性ミクロ相内にかなりの割合の総投与薬物が存在する必要がある。かなりの割合とは、一般的に、総投与薬物の少なくとも約0.1%、そして好ましくは少なくとも約1%が、使用環境において本親油性ミクロ相形成物質内に存在することを意味する。上記の方程式によれば、本親油性ミクロ相内に存在する総薬物の割合は、一般的に:(1)Kの増加、(2)Xlipophileの増加、および(3)[Drug]freeの増加、と共に増加する。
【0046】
投与できる経口製剤のサイズには実際的な限界があるため、大きなXlipophile値を有することは一般的に望ましくない。例えば、本発明の組成物が経口投与用錠剤またはカプセルに製剤化される場合、錠剤またはカプセルの重量は、一般的に、約1000mg未満であり、好ましくは約700mg未満である。製剤のかなりの部分も同様に、活性薬物および他の賦形剤を含まねばならず、単一の経口製剤中の親油性ミクロ相形成物質の最大量は、約500mgである。ヒトの消化管に経口投与する場合、本親油性ミクロ相形成物質組成物が分散する水溶液量は、被験者の摂食状態の応じて、一般に約50mL〜約500mLである。従って、Xlipophileの実際的な最大値は約0.001〜0.01である。従って、例えば、本薬物の投与量が100mgである場合、本薬物の少なくとも0.1重量%(0.1mg)、そして好ましくは少なくとも1重量%(1mg)を本親油性ミクロ相形成物質中に存在させることが望ましい。このことは、一般に、本組成物をヒトに経口投与する場合の、本親油性ミクロ相形成物質(重量%)中の薬物濃度が、少なくとも約0.1mg/500mgまたは0.02重量%であり、好ましくは少なくとも約0.2重量%(1mg/500mg)であることを意味する。
【0047】
本薬物は、本親油性ミクロ相形成物質中で比較的高い分配係数を有する必要がある。好ましくは、分配係数は約10以上であり、さらに好ましくは約50以上であり、よりさらに好ましくは約100以上であり、そして最も好ましくは約500以上である。一般に、生物学的利用率に大きな影響を及ぼすためには、薬物の水溶性が低ければ低いほど、分配係数は大きい必要がある。従って、分配係数は、約1000より大きく、約5000より大きく、約10,000より大きく、そして場合によっては約50,000以上に大きいものであってもよい。大変低い水溶性を有する薬物に対しては、分配係数は約100,000より大きいものであってもよく、さらに約1,000,000以上であってもよい。
【0048】
1つの態様において、最小のKは、本親油性ミクロ相形成物質中の所望される薬物濃度を得るために必要なKを決定することにより決定できる。平衡状態にある本親油性ミクロ相形成物質中の薬物濃度は、下記式により得られるので:
【化4】

最小のKは、、遊離薬物濃度([Drug]free)を薬物の水溶性(Sxtal)に設定することにより決定できる。水溶性(Sxtal)は、pH6〜8の範囲における薬物の熱力学的に最も安定な結晶形、または結晶形が知られていない場合の非吸着非晶質形の水溶性である。前記の本親油性ミクロ相形成物質中の所望の薬物濃度を用いる場合、最小のKは、一般に、少なくとも約0.02/Sxtalである(Sxtalは重量%表示である)。好ましくはKは、約0.2/Sxtalより大きく、さらに好ましくは約0.5/Sxtalより大きく、よりさらに好ましくは約1/Sxtalより大きく、そして最も好ましくは約2/Sxtalより大きい。従って、pH6〜8の範囲の本薬物の水溶性が約10μg/mLまたは約0.001重量%の場合、Kは約20(0.02重量%/0.001重量%)より大きく、好ましくは約200(0.2重量%/0.001重量%)より大きく、さらに好ましくは約500(0.5重量%/0.001重量%)より大きく、よりさらに好ましくは1000(1重量%/0.001重量%)より大きく、そして最も好ましくは2000(2重量%/0.001重量%)より大きい。
【0049】
一般に、生物学的利用率に大きな影響を与えるためには、本組成物中の親油性ミクロ相形成物質の質量が少なければ少ないほど、分配係数は大きいことが好ましい。1つの態様において、本組成物が以下の方程式を満足することが好ましい:
【化5】

(式中、Mlipophileはグラムで表した本組成物中の親油性物質の質量である)。好ましくは、Mlipophile*K≧10であり、さらに好ましくは、Mlipophile*K≧50であり、そして最も好ましくは、Mlipophile*K≧100である。例えば、前記のように、単一の経口製剤中の親油性ミクロ相形成物質の最大量は、約500mg、すなわち0.5gmである。従って、0.5gmの親油性ミクロ相形成物質を含有する組成物は、10以上の分配係数を有する必要があり、好ましくは20以上、さらに好ましくは100以上、そして最も好ましくは200以上の分配係数を有する必要がある。
【0050】
特定の親油性ミクロ相形成物質中の薬物の分配係数Kは、遊離薬物として存在する薬物濃度および親油性ミクロ相中に存在する薬物が決定できる任意の方法または一連の実験により決定できる。典型的な方法の1つを以下に示す。リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)(下記)などの適切な緩衝液に、結晶性薬物(または薬物の結晶形が知られていない場合は非晶質薬物)を、全ての薬物が溶解した場合、その薬物が平衡状態の薬物の水溶性より大きいような量で加える。ついで、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)または核磁気共鳴(NMR)分光法などの、溶液中の溶解薬物量を定量的に測定できる任意の方法によって、溶液中の遊離薬物濃度が決定される。一般的に、本薬物を含有する溶液サンプルを回収し、サンプルのろ過または遠心分離のいずれかにより溶解していない薬物種を除き、ついで残った溶解薬物濃度を分析することにより、このことは達成される。この方法により方程式I中の[Drug]free値が得られる。ついで、1容量%、2容量%および3容量%などの、この場合も薬物の全てが溶解された場合、遊離薬物として、あるいは本親油性ミクロ相中のいずれかで存在する薬物濃度が、存在する本親油性ミクロ相形成物質と平衡している薬物の水溶性よりも大きいような量で、種々の量の本親油性ミクロ相形成物質を加えておいた適切な緩衝液中に結晶性薬物を加える。遊離薬物として存在する薬物に親油性ミクロ相中に存在する薬物の総量である、総溶解薬物の総濃度(式IIで与えられる)は、前述と同様な方法を用いて決定される。ついで、総溶解薬物濃度[Drug]aqueous,totalが、溶液中の親油性ミクロ相形成物質の容量%に対してプロットされる。このグラフの直線の傾斜は、遊離薬物濃度(本親油性ミクロ相形成物質が存在しない場合の本薬物の水溶性(すなわち、Sxtal)と等しいと通常仮定される)およびKの積と等しい。従って、K=傾斜/Sxtalである。上記の実験に用いられる親油性ミクロ相形成物質の量と比較して、本親油性ミクロ相形成物質の水溶性または本親油性ミクロ相形成物質の”臨界ミセル濃度”(CMC)が大変小さい場合、データポイントを通る直線のy切片は、結晶性薬物の水溶性(Sxtal)とおおよそ等しい。使用する親油性ミクロ相形成物質の量が、CMCまたは本親油性ミクロ相形成物質の水溶性よりも少しだけ大きい場合、Xlipophileの値は、溶液に加えられた親油性ミクロ相形成物質の総体積分率からCMCまたは溶解性を差し引くことにより補正する必要がある。
【0051】
本発明の1つの実施形態において、本親油性ミクロ相形成物質は薬物/基質吸着物の一部である。かかる場合において、吸着物が親油性ミクロ相形成物質の50重量%以下、好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下を含むことが好ましい。
【0052】
本発明の他の実施形態は、新規組成物を含む固形経口製剤である。固形製剤は、1以上の錠剤もしくはカプセルまたは多数の粒子もしくは顆粒の形態をとることができる。固体製剤が1以上の錠剤またはカプセルである場合、該製剤は、全部を飲み込むかあるいは噛んだ後飲み込むことにより経口摂取でき、あるいは該製剤は、口中で崩壊させ、所望により溶解した後、飲み込むこともできる。固形製剤が多数の微小粒子または顆粒である場合、該粉末または顆粒は、最初に水性ビヒクル中に分散し次いで飲み込むか、または食品に混合し、ついで食品と共に摂取することを含めて、任意の公知の方法により摂取できる。
【0053】
本発明の組成物が固形製剤に効果的に形成されるためには、一般に、本親油性ミクロ相形成物質が比較的高い融点および比較的高いT値を有することが所望される。しかしながら、室温で液体の親油性ミクロ相形成物質であっても、製剤に組み込む量が多すぎない限り、固形製剤を形成することができる。
【0054】
本親油性ミクロ相形成物質が室温で液体であるか、または約50℃以下の温度で液体であるかのいずれかである場合、好ましい実施形態は、固体賦形剤中に本親油性ミクロ相形成物質を分散することである。本親油性ミクロ相形成物質は、微結晶セルロース;シリカ;リン酸水素カルシウム;ケイ酸カルシウム(Zeodor(登録商標));カオリン(含水ケイ酸アルミニウム)、ベントナイト(含水ケイ酸アルミニウム)、ヘクトライトおよびビーガム(登録商標)などの粘土;Na−、Al−、およびFe−モンモリロナイト;二酸化ケイ素(Cab−O−Sil(登録商標)またはエアロジル(登録商標));珪酸マグネシウム;水酸化アルミニウム;水酸化マグネシウム、酸化マグネシウムまたはタルク;などの固形物の表面に吸着したものであることができる。ケイ酸カルシウムなどの超多孔性物質が好ましい。本実施形態は、薬物/基質吸着物から本親油性ミクロ相形成物質を分離することにより、吸着物の安定性に対する本親油性ミクロ相形成物質の影響を最小化する利点を有する。
【0055】
あるいはまた、本親油性ミクロ相形成物質は、分離相またはポリマーに均一に分布した層のいずれかとして、水溶性または水分散性ポリマー中に分散できる。1つの好ましい実施形態において、本親油性ミクロ相形成物質は濃度増大ポリマー中に分散される。かかる親油性ミクロ相形成物質分散剤は、(1)本親油性ミクロ相形成物質固体を固体製剤中に混合するのを補助し、(2)本親油性ミクロ相形成物質をミクロ相として分散するのを補助し、そして(3)溶解した薬物の高い濃度を生成させ維持するための濃度増大ポリマーを提供するのに役立つ。多くの特に好ましい実施形態において、本親油性ミクロ相形成物質は、本薬物と共に高表面積基質に吸着される。かかる親油性ミクロ相形成物質吸着物は、本親油性ミクロ相形成物質が約50℃未満で固体である場合も多くの場合好ましい。
【0056】
本親油性ミクロ相形成物質は、疎水性物質、両親媒性物質、または疎水性物質および両親媒性物質の混合物のいずれかであることができる。“両親媒性”物質は、疎水性および親水性部分の両方を有する物質を意味する。疎水性物質単独では、水性使用環境において微小ミクロ相をほとんど形成しないので、両親媒性物質ならびに両親媒性物質および疎水性物質の混合物が好ましい。しかしながら、一部のかかる疎水性物質は、(1)濃度増大ポリマーなどの他の賦形剤、(2)本薬物自体、または(3)消化管の天然成分、の影響によりミクロ相を形成することが知られている。従って、疎水性物質単独でも、本組成物または製剤が使用環境に投与された場合、微小ミクロ相を適切に形成する限りにおいて、本発明の一部を形成する。疎水性物質は高い分配係数を与えることが多いのに対して、両親媒性物質は、使用環境において本親油性ミクロ相のサイズを制限または減少させることができるので、疎水性物質および両親媒性物質の混合物の使用は、好ましい。従って、かかる混合物は高い不安定性および高い分配係数を有することができる。
【0057】
一般に、本親油性ミクロ相形成物質は、約20,000ダルトン未満の分子量を有する。しかしながら、大部分の親油性ミクロ相形成物質は、約2,000ダルトン未満の分子量を有する。加えて、本親油性ミクロ相形成物質は水不混和性であり、親油性ミクロ相を形成する。従って、本親油性ミクロ相形成物質は、濃度増大ポリマーとは異なる。一般に、濃度増大ポリマーは約10,000ダルトンより大きい分子量を有し、使用環境において溶解性または分散性がさらに高く、そして一般に疎水性がさらに低い。
【0058】
本親油性ミクロ相形成物質としての使用に適する両親媒性物質の例は以下を含む:ドキュセートナトリウム(CROPOL)およびラウリル硫酸ナトリウム(SLS)としても知られる、1,4−ビス(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウムなどのスルホン化炭化水素およびその塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテル(クレモフォールA、BRIJ);ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリソルベート、TWEEN);短鎖グリセリルモノ−アルキレート(HODAG、IMWITOR、MYRJ);ポリグリコール化グリセリド(GELUCIREs);グリセロールなどのポリオールのモノ−およびジ−アルキレートエステル;ポリオキシエチレン20ソルビタンモノオレエート、(ポリソルベート80、ツイーン80の商標でICIより市販)などの非イオン性界面活性剤;ポリオキシエチレン20ソルビタンモノラウレート(ポリソルベート20、ツイーン20);ポリエチレン(40または60)硬化ひまし油(クレモフォール(登録商標)RH40およびRH60としてBASFより利用可能);ポリオキシエチレン(35)ひまし油(クレモフォール(登録商標)EL);ポリエチレン(60)硬化ひまし油(Nikkol HCO−60);αトコフェリルポリエチレングリコール1000(ビタミンE TPGS)スクシネート;グリセリルPEG8カプリレート/カプレート(ラブラゾール(登録商標)としてGattefosseから市販);PEG32グリセリルラウレート(GELUCIRE(登録商標)44/14、Gattefosse)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル(MYRJ(登録商標)、ICIから市販)、ポリオキシエチレン脂肪酸エーテル(BRIJ(登録商標)、ICIから市販)。ポリオールのアルキレートエステルは、1分子あたりのアルキレート数およびアルキレート中の炭素数によって、両親媒性または疎水性と考えることができる。ポリオールがグリセロールの場合、モノ−およびジ−アルキレートは、しばしば両親媒性と考えられ、これに対してグリセロールのトリアルキレートは、一般に疎水性と考えられる。しかしながら、科学者の一部は、中鎖モノ−およびジ−グリセリドでさえも疎水性と分類している。例えばPatelらの米国特許第6,294,192(B1)号を参照されたい(その全体を本願に引用して援用する)。分類法に関係なく、モノ−およびジ−グリセリドを含む組成物は、本発明の好ましい組成物である。他の適切な両親媒性物質は、Patelらの米国特許第6,294,192号において見出すことができ、“疎水性非イオン性界面活性剤および親水性イオン性界面活性剤”として記載されている。
【0059】
一部の両親媒性物質は、それ自体水不混和性ではなく、少なくとも少しは水溶性であってもよいことに留意すべきである。それにもかかわらず、かかる両親媒性物質は本親油性ミクロ相を形成するために混合物で使用することができ、とりわけ疎水性物質と混合して使用する時は親油性ミクロ相を形成する。
【0060】
本親油性ミクロ相形成物質としての使用に適する疎水性物質の例は:中鎖グリセリルモノ−、ジ−、およびトリ−アルキレート(CAPMUL MCM、MIGLYOL810、MYVEROL18−92、ARLACEL186、分留ココナッツ油、軽植物油);ソルビタンエステル(ARLACEL
20、ARLACEL40);長鎖脂肪アルコール(ステアリルアルコール、セチルアルコール、セトステアリルアルコール);長鎖脂肪酸(ステアリン酸);およびリン脂質(卵黄レシチン、大豆レシチン、植物レシチン、ならびに1−パルミトイル−2−オレイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、1−パルミトイル−2−ステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、および他の天然または合成ホスファチジルコリンなどの1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン);カプリン酸およびカプリル酸のモノおよびジグリセリド:Capmul(登録商標)MCM、MCM8、およびMCM10(Abitecより市販)、ならびにImwitor(登録商標)988、742または308、(Condea Vistaより市販);ポリオキシエチレン6アプリコットカーネル油(Labrafil(登録商標)M1944CSとしてGattefosseより市販);ポリオキシエチレンコーンオイル(Labrafil(登録商標)M2125として市販);プロピレングリコールモノラウレート(ラウログリコールとしてGattefosseより市販);プロピレングリコールジカプリレート/カプレート(Captex(登録商標)200としてAbitecより、またはMiglyol(登録商標)840としてCondea Vistaより市販)、オレイン酸ポリグリセリル(Plurol oleiqueとしてGattefosseより市販)、脂肪酸のソルビタンエステル(例えば、Span(登録商標)20、Crill(登録商標)1、Crill(登録商標)4、ICIおよびCrodaより市販)、およびグリセリルモノオレエート(Maisine、Peceol);中鎖トリグリセリド(MCT、C6−C12)および長鎖トリグリセリド(LCT、C14−C20)ならびにモノ−、ジ−、およびトリグリセリドの混合物、またはアルキルアルコールとのエステルなどの脂肪酸の親油性誘導体;Miglyol(登録商標)812(56%カプリル酸(C8)および36%カプリン酸(C10)トリグリセリド)、Miglyol(登録商標)810(68%C8および28%C10)、Neobee(登録商標) M5、Captex(登録商標)300、Captex(登録商標)355、ならびにCrodamol(登録商標)GTCCなどの分留ココナッツ油;(MiglyolはCondea Vista Inc.(Huls)より市販、Neobee(登録商標)はStepan Europe、Voreppe、Franceより市販、CaptexはAbitec Corpより市販、そしてCrodamolはCroda Corpより市販);大豆油、ベニバナ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、落花生油、ヒマワリ油、パーム油、または菜種油などの植物油;オレイン酸エチルおよびグリセリルモノオレエートなどのアルキルアルコールの脂肪酸エステルを含む。本親油性ミクロ相形成物質としての使用に適する他の疎水性物質は、米国特許第6,294,192号(Patel)に“疎水性界面活性剤”として記載されているものを含む。典型的な疎水性物質のクラスは:脂肪アルコール;ポリオキシエチレンアルキルエーテル;脂肪酸;グリセロール脂肪酸モノエステル;グリセロール脂肪酸ジエステル;アセチル化グリセロール脂肪酸モノエステル;アセチル化グリセロール脂肪酸ジエステル、低級アルコール脂肪酸エステル;ポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールグリセロール脂肪酸エステル;ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリド;モノグリセリドの乳酸誘導体;ジグリセリドの乳酸誘導体;プロピレングリコールジグリセリド;ソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー;エステル交換植物油;ステロール;ステロール誘導体;糖エステル;糖エーテル;スクログリセリド;ポリオキシエチレン植物油;ポリオキシエチレン硬化植物油;ポリオールと脂肪酸、グリセリド、植物油、硬化植物油、およびステロールからなるグループのメンバーの少なくとも1つとの反応生成物;およびそれらの混合物を含む。本明細書において“両親媒性”と呼ばれる物質またはPatelにおいて“親水性界面活性剤”と呼ばれる物質などの比較的親水性の物質と上記の疎水性物質との混合物はとりわけ適切である。特に、Patelにより開示されている疎水性界面活性剤および親水性界面活性剤の混合物は適切であり、多くの組成物にとって好ましい。しかしながら、Patelとは異なって、疎水性成分としてトリグリセリドを含む混合物もまた適切である。
【0061】
1つの実施形態において、本親油性ミクロ相形成物質は、ポリグリコール化グリセリド(GELUCIREs);ポリエチレン(40または60)硬化ひまし油(クレモフォール(登録商標)RH40およびRH60としてBASFから市販);ポリオキシエチレン(35)ひまし油(クレモフォール(登録商標)EL);ポリエチレン(60)硬化ひまし油(Nikkol HCO−60);αトコフェリルポリエチレングリコール1000スクシネート(ビタミンE TPGS);グリセリルPEG8カプリレート/カプレート(ラブラゾール(登録商標)としてGattefosseから市販);PEG32グリセリルラウレート(GELUCIRE(登録商標)44/14としてGattefosseから市販);ポリオキシエチレン脂肪酸エステル(MYRJ(登録商標)としてICIから市販);ポリオキシエチレン脂肪酸エーテル(BRIJ(登録商標)としてICIから市販);ポリオキシエチレンアルキルエーテル(クレモフォールA、BRIJ);長鎖脂肪アルコール(ステアリルアルコール、セチルアルコール、セトステアリルアルコール);長鎖脂肪酸(ステアリン酸);ポリオキシエチレン6アプリコットカーネル油(Labrafil(登録商標)M1944CSとしてGattefosseから市販);ポリオキシエチレンコーンオイル(Labrafil(登録商標)M2125として市販);プロピレングリコールモノラウレート(ラウログリコールとしてGattefosseから市販);オレイン酸ポリグリセリル(Plurol
oleiqueとしてGattefosseから市販);中鎖トリグリセリド(MCT、C−C12)および長鎖トリグリセリド(LCT、C14−C20)を含むトリグリセリド;Miglyol(登録商標)812(56%カプリル酸(C)および36%カプリン酸(C10)トリグリセリド)、Miglyol(登録商標)810(68%Cおよび28%C10)、Neobee(登録商標)M5、Captex(登録商標)300、Captex(登録商標)355、およびCrodamol(登録商標)GTCCなどの分留ココナッツ油;(MiglyolsはCondea
Vista Inc.(Huls)より供給され、Neobee(登録商標)はStepan Europe、Voreppe、Franceより供給され、CaptexはAbitec Corpより市販、そしてCrodamolはCroda Corpより供給される);大豆油、ベニバナ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、落花生油、ヒマワリ油、パーム油、または菜種油などの植物油;ポリオキシエチレンアルキルエーテル;脂肪酸;低級アルコール脂肪酸エステル;ポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールグリセロール脂肪酸エステル;ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリド;モノグリセリドの乳酸誘導体;ジグリセリドの乳酸誘導体;プロピレングリコールジグリセリド;エステル交換植物油;ステロール;ステロール誘導体;糖エステル;糖エーテル;スクログリセリド;ポリオキシエチレン植物油;ポリオキシエチレン硬化植物油;ポリオールと脂肪酸、グリセリド、植物油、硬化植物油、およびステロールからなるグループのメンバーの少なくとも1つとの反応生成物;およびそれらの混合物からなるグループから選択される。
【0062】
特に好ましい親油性ミクロ相形成物質は、ポリエトキシル化ひまし油および中鎖グリセリルモノ−、ジ−、および/またはトリ−アルキレートの混合物((クレモフォールRH40およびCAPMUL MCMの混合物など)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルおよび中鎖グリセリルモノ−、ジ−、および/またはトリ−アルキレートの混合物(ツイーン80およびCAPMUL MCMの混合物など)、ポリエトキシル化ひまし油および中鎖グリセリルモノ−、ジ−、および/またはトリ−アルキレートの混合物(クレモフォールRH40およびARLACEL20の混合物など)、タウロコール酸ナトリウムおよびパルミトイル−2−オレイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンおよび他の天然または合成ホスファチジルコリンの混合物、ならびにポリグリコール化グリセリドおよび中鎖グリセリルモノ−、ジ−、および/またはトリ−アルキレートの混合物(Gelucire44/14およびCAPMUL MCMの混合物など)を含む。
【0063】
以下にさらに詳細に説明されるように、本親油性ミクロ相形成物質は、薬物/基質吸着物および親油性ミクロ相形成物質の組み合わせが濃度増大を提供するために十分な量で存在する。一般に、本親油性ミクロ相形成物質は、本親油性ミクロ相形成物質と薬物との重量比(以後、親油性物質:薬物比と呼ぶ)が約0.05〜約500(wt/wt)の範囲であるように本組成物中に存在するか、あるいは薬物/基質吸着物と同時投与される。固形製剤のためには、親油性物質:薬物比は、一般的には、約0.1〜約100であり、さらに一般的には0.2〜50である。
【0064】
本親油性ミクロ相形成物質の最適量は、本薬物の投与量、分配係数、および本薬物の水溶性に依存する。本親油性ミクロ相形成物質の最適量は、投与量の増加に従って増加する。本親油性ミクロ相形成物質の最適量は、分配係数が増加するに従って減少し、水溶性が増加するに従って減少する。
【0065】
しかしながら、一般に、本組成物中に存在する親油性ミクロ相形成物質の量は、使用環境において得られる遊離薬物濃度が、親油性のより低いミクロ相形成物質を薬物/基質吸着物と混合し、使用環境に導入した場合に得られる遊離薬物濃度よりもずっと低くなるほど多くを用いるべきではない。一般に、本組成物に加えられる親油性ミクロ相形成物質の量が、使用環境に導入される本薬物の全部が遊離薬物として存在するか、あるいは本親油性ミクロ相中に存在するような量よりも大きい場合、薬物吸収を改善する能力は、本親油性ミクロ相形成物質の低いレベルと比較して減少すると思われる。従って、この“最も好ましいレベル”よりも低いレベルを組成物が含むことが好ましい。それにもかかわらず、このレベルよりも少し上の親油性ミクロ相形成物質のレベルは、吸着物単独と比較して薬物吸収を改善することができる。この最も好ましいレベルは、遊離薬物濃度([Drug]free、一般的にmg/mLで表される)、本親油性ミクロ相形成物質の密度(ρlipophile、一般的にmg/mLで表される)、および分配係数(K)に依存する。最も好ましい親油性物質:薬物比は、以下の方程式によって得られる:
【化6】

および[Drug]freeの一部の値に対して、最も好ましい親油性物質:薬物比が非常に大きい値になることに留意すべきである。例えば、ρlipophile=1000mg/mL、K=100、および[Drug]free=0.001mg/mLである場合、最も好ましい親油性物質:薬物比は10,000と算出される。薬物投与量が例えば100mgの場合、最も好ましい親油性物質投与量は1000gという結果が得られる。かかる高用量の親油性物質は、実用的ではない。従って、Kおよび/または[Drug]freeの値が低い場合、最も好ましい親油性物質:薬物比は、被験者によって耐えられうる最大投与量または製剤の実際的な最大サイズなどの実際的な配慮により限定されうる。
吸着物
【0066】
本薬物は、薬物および基質を含む吸着物の形で本組成物中に存在する。吸着物中の薬物の少なくとも大部分は、非晶質である。“非晶質”という用語は、粉末X線回折(PXRD)分析において、本薬物の結晶形に関連するシャープな散乱線が存在しないかあるいは強度が減少している、または熱分析にかけた場合、結晶性薬物の融点で吸熱転移を示さないなどの任意の慣用法により、前述のとおり、本薬物が結晶性ではないことを単に示す。本薬物の“大部分”という用語は、少なくとも60%の本薬物が結晶形ではなく、非晶質形であることを意味する。好ましくは、吸着物中の本薬物は、実質的に非晶質である。本明細書においては、“実質的に非晶質”は、非晶質形の本薬物の量が少なくとも80%であることを意味する。さらに好ましくは、吸着物中の本薬物は“ほぼ完全に非晶質”であり、これは非晶質形の薬物の量が、粉末X線回折または示差走査熱量計(“DSC”)または任意の他の標準的な定量測定により測定するとき、少なくとも90%であることを意味する。最も好ましくは、吸着物中の本薬物は、評価に用いる技術の検出限界内で完全に非晶質形である。
【0067】
吸着物はまた高表面積基質を含む。基質は不活性である任意の物質であることができ、これは基質が許容されない程度には薬物に悪影響を与えず、かつ薬学的に許容できることを意味する。基質はまた高表面積を有し、これは基質が、少なくとも20m/g、好ましくは少なくとも50m/g、さらに好ましくは少なくとも100m/g、そして最も好ましくは少なくとも180m/gの表面積を有することを意味する。基質の表面積は、標準手順を用いて測定できる。典型的な方法のひとつは、当業界に公知のBrunauer、Emmett、およびTeller(BET)の方法に基づく、低温窒素吸着によるものである。下記のように、基質の表面積が大きければ大きいほど、実現可能な薬物対基質比が高くなり、かつ高い濃度増大が維持され、物理的安定性が改善される。従って、有効な基質は、最大200m/g、最大400 m/g、そして最大600m/gあるいはそれ以上の表面積を有することができる。基質はまた、約5nm〜約1μmのサイズ、好ましくは約5nm〜約100nmのサイズの微小粒子の形である必要がある。これらの粒子はまた、10nm〜100μmのサイズの凝集体を形成することができる。基質はまた、吸着物を形成するために使用するプロセス環境において不溶である。すなわち、溶媒プロセスにより吸着物が形成される場合、基質は溶媒に溶解しない。吸着物が溶融または熱プロセスにより形成される場合は、基質は溶融しない十分高い融点を有する。
【0068】
基質に適する典型的な物質は、SiO、TiO、ZnO、ZnO、Al、ケイ酸MgAl、ケイ酸Ca、AlOH、ゼオライト、および他の無機モレキュラーシーブ;架橋セルロースアセテートフタレート、架橋ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート、架橋ポリビニルピロリジノン(クロスポビドンとしても知られる)、微結晶セルロース、ポリエチレン/ポリビニルアルコールコポリマー、ポリエチレンポリビニルピロリドンコポリマー、架橋カルボキシメチルセルロース、デンプングリコール酸ナトリウム、架橋ポリスチレンジビニルベンゼンなどの水不溶性ポリマー;ならびにポリイミド、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、セルロースアセテート、再生セルロース、およびレーヨンなどの、ポリマーの炭化により製造される活性炭を含む活性炭を含む。
【0069】
薬物と基質の特別な相互作用を達成するために、種々の置換基を用いて基質の表面を修飾できる。例えば、基質は、疎水性または親水性表面を有することができる。基質に結合している置換基の末端基を変化させることにより、薬物および基質間の相互作用に影響を与えることができる。例えば、本薬物が疎水性の場合、薬物と基質の結合を改善するために疎水性置換基を有する基質を選択することが所望される場合がある。
【0070】
一般に、薬物と基質の相互作用は、下記のように、本組成物が一層安定するために、薬物/基質吸着物中の本薬物の移動性が十分低いように、十分強い必要がある。しかしながら、本薬物/基質相互作用は、本薬物が使用環境に導入されたときに本薬物が吸着物から容易に脱着し、溶液中で高い薬物濃度をもたらすように、十分弱い必要がある。
【0071】
基質の表面上に非晶質薬物の薄層が形成されるように吸着物が形成される。“薄層”は、1分子未満から10分子までの範囲の薬物分子の平均厚みの層を意味する。薬物/基質相互作用が強く、薬物重量と基質表面積との比に基づく平均薬物層厚が約1分子の寸法である場合、薬物層は、一般に、“単層”と呼ばれる。
【0072】
基質に対する薬物の吸着は、本薬物と基質の相互作用を示す、本薬物の赤外(IR)スペクトルのシフトにより特徴づけることができる。かかる相互作用は、一般に、London分散力、双極子間相互作用、水素結合、電子供与基−電子受容基間相互作用、またはイオン相互作用による。例えば、薬物であるトルセトラピブが二酸化シリコン基質(Cab−O−Sil M−5P)に単層で吸着している場合、約1700cm−1におけるC=Oピークは、20cm−1低波数にシフトする。さらに高い薬物負荷(すなわち、単層の薬物より多い)において、第2のピークは、非晶質薬物に対する元のC=O位置(すなわち、基質に吸着していない非晶質薬物)に観測される。2つのガウス型吸収ピークを有するFTIRスペクトルをフィッティングすることにより、単層として吸着されている薬物と多層で吸着されている薬物の相対的割合を定量化することができる。
【0073】
加えて、吸着物が2または3層以上の薬物分子を含有する場合、基質からさらに離れた薬物分子の移動性は比較的高いため、吸着物の物理的安定性は阻害される。従って、厚く吸着した層上の薬物分子の結晶化は、薄く吸着された層に関して観察される結晶化よりもより速く起こりうる。
【0074】
本発明の吸着物を形成するための1つの典型的な方法は、“溶媒プロセス”である。溶媒プロセスは、基質を含む溶媒中に本薬物を溶解し、ついで溶媒を急速に除去することからなる。“溶媒”という用語は、広い意味で用い、溶媒の混合物を含む。一般に、基質は溶媒中に顕著には溶解せず、プロセスを通して固体のままである。
【0075】
最初に、本薬物を溶解できる溶媒に基質を加える。一般に、微小(好ましくは約1〜10μm未満)な吸着物粒子を形成することが所望されるので、溶媒中に懸濁された基質の微小粒子の懸濁液を形成するために溶液を撹拌する。溶液の撹拌は、基質粒子の塊を壊すために十分なエネルギーを溶液に与えることができる任意の方法を用いて実施できる。好ましい方法は、超音波処理である。溶媒中の基質の懸濁液を形成するために、粒子を壊すことに用いることができる他の方法は、高速撹拌および高せん断機械撹拌を含む。少なくとも数分間基質が溶液中に懸濁してとどまるように、十分な長さの時間、溶液を撹拌する。多くの場合、プロセスを容易にするために、少なくとも60分間、基質が凝集することなく懸濁してとどまっていることが所望される。しかしながら、このことは、本発明の実施のためには必須ではない。基質が溶媒中で懸濁してとどまることを確実にするために、溶媒/基質懸濁液を、プロセス中に継続的に撹拌することができる。
【0076】
本薬物を溶媒に加え、溶解する。溶液中に存在する薬物および基質の量は、薬物と基質との所望の比率を有する吸着物を与えるように選択される。一般に、溶液が0.1〜2重量%の薬物および0.1〜5重量%の基質を含む場合、よい結果を得ることができる。一般に、基質が高濃度で存在する場合、吸着物を形成させるために使用する装置の表面に詰まったりくっついたりする可能性があるので、溶液中の固体量は約10重量%未満に維持することが所望される。薬物の基質に対する重量比は、所望の薬物層厚が得られるように選択される。一般に、薬物の基質に対する比率が低いほうがよい溶解結果が得られる。しかしながら、薬物の基質に対する重量比が高いほうが、基質表面積が高い場合、よい結果を与える。一般的に、薬物の基質に対する重量比は、好ましい溶解結果を得るためには、1.0未満であり、多くの場合、0.25未満である。
【0077】
基質を撹拌し、本薬物を溶解した後、蒸留により、または非溶媒と混合することにより、溶媒を急速に除去する。典型的なプロセスは噴霧乾燥、スプレーコーティング(パンコーティング、流動層コーティングなど)、および溶液とCO、ヘキサン、ヘプタン、適切なpHの水、または他の非溶媒とを急速に混合することによる沈殿である。好ましくは、溶媒を除去して固体吸着物を得る。この目的を達成するためには、一般に、溶液を噴霧して本薬物を基質上に急速に固化させるプロセスのように、溶液から溶媒を急速に除去することが所望される。
【0078】
本物質を急速に“クエンチする”(すなわち、大変急速に本物質を溶解状態から固体状態にする)方法により形成される吸着物は、一般に、このことにより、優れた物理的構造および性能を有する物質が得られるので好ましい。
【0079】
1つの実施形態において、溶媒は、噴霧乾燥のプロセスにより除去される。噴霧乾燥という用語は、通常、一般的に、液体混合物を微小小滴に細分(噴霧)し、容器(噴霧乾燥装置)中の混合物から急速に溶媒を除去することを含むプロセスを指すために用いられ、ここで小滴から溶媒を留去するために強力な推進力が存在する。溶媒留去のための強力な推進力は、一般に、小滴を乾燥する温度で、噴霧乾燥装置中の溶媒の分圧を、溶媒の蒸気圧よりずっと下に維持することにより得られる。このことは、(1)噴霧乾燥装置を部分的減圧(例えば、0.01〜0.50atm)に維持するか;(2)または暖かい乾燥ガスと液滴を混合するかのいずれか;または(3)その両方により達成できる。加えて、溶媒の留去に必要とされる熱の少なくともの一部は、スプレー液を加熱することにより提供できる。
【0080】
噴霧乾燥に適する溶媒は、本薬物が溶解性で基質が不溶性の水、または任意の有機化合物であることができる。好ましくはまた、溶媒は揮発性で、約150°C以下の沸点を有する。加えて、溶媒は比較的低毒性で、The International Committee on Harmonization(ICH)のガイドラインを満たすレベルまで吸着物から除去される必要がある。このレベルまでの溶媒の除去は、噴霧乾燥またはスプレーコーティングプロセスの後に、棚乾燥などのプロセスステップを必要となる可能性がある。好ましい溶媒は、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、およびブタノールなどのアルコール;アセトン、メチルエチルケトンおよびメチルiso−ブチルケトンなどのケトン;酢酸エチルおよび酢酸プロピルなどのエステル;ならびにアセトニトリル、塩化メチレン、トルエン、および1,1,1−トリクロロエタンなどの種々の他の溶媒を含む。混合物、とりわけメタノール、エタノールまたはアセトンなどの有機溶媒および水の混合物が多くの場合所望される。ジメチルアセトアミドまたはジメチルスルホキシドなどの低揮発性溶媒もまた使用できる。本薬物が噴霧乾燥プロセスを実施できる程度に十分に溶解性がある限り、水との混合物として、50%メタノールおよび50%アセトンなどの溶媒の混合物もまた使用できる。
【0081】
一般に、吸着物を含有する液滴は、それが装置の壁に到達する時間までに十分乾燥しているので、これらは本質的に固体であり、微細粉末を形成し、装置壁に付着しないように、温度および乾燥ガスの流速が選択される。このレベルの乾燥度に達するまでの実際の時間の長さは、液滴のサイズによって決まる。液滴のサイズは、一般に、直径で1μm〜500μmであり、5〜150μmがさらに典型的である。液滴の大きな面積と容量との比および溶媒留去のための大きな推進力により、数秒以下の実際の乾燥時間が得られ、そしてさらに一般的には、0.1秒未満の乾燥時間が得られる。固化時間は、100秒未満であるべきであり、好ましくは数秒未満であるべきであり、さらに好ましくは1秒未満であるべきである。一般に、溶液の急速な固化を達成するためには、噴霧乾燥プロセス中に形成される小滴のサイズは、直径で約150μm未満であることが好ましい。このようにして得られる固体粒子は、一般に、直径で約150μm未満である。
【0082】
固化に続いて、一般的に、固体粉末を噴霧乾燥チャンバー中に約5〜60秒おき、固体粉末から溶媒をさらに蒸発させる。乾燥機から出るの固体吸着物の最終溶媒含有量は、低く抑えられるべきであり、これにより、吸着物中の薬物分子の移動性が減少し、その結果その安定性が改善される。一般に、噴霧乾燥チャンバーから出るときの、吸着物の溶媒含有量は、10重量%未満であるべきであり、好ましくは2重量%未満であるべきである。噴霧乾燥に続いて、吸着物は、残留溶媒を除去するために、棚乾燥機または流動層乾燥機などの溶媒乾燥機中で乾燥することができる。
【0083】
噴霧乾燥プロセスおよび噴霧乾燥装置については、一般にPerry's Chemical Engineers' Handbook, Sixth Edition (R.H. Perry、D.W.
Green, J.O. Maloney, eds.) McGraw-Hill Book Co. 1984,pages 20-54 to 20-57.に記載されている。噴霧乾燥プロセスおよび装置に関するさらなる詳細については、Marshall
"Atomization
and Spray-Drying,"
50 Chem. Eng. Prog. Monogr. Series 2
(1954)に記載されている。
【0084】
前記のように、本発明の好ましい吸着物は、本薬物を溶解状態から固体吸着状態に急速に変化させる噴霧乾燥などのプロセスにより製造できる。かかる吸着物は、ゆっくり溶媒を除去することにより製造されるものと比較して、独特の物理的構造を有し、優れた物理的安定性と溶解性能を有する。
【0085】
基質に吸着した非晶質薬物を含む吸着物を製造するための他の方法には、熱プロセスがある。この場合、本薬物を融解し、ついで2軸押出機などを用いて基質の表面にコーティングする。ひとつの典型的な技術において、本薬物を、最初に基質と均一に混合させる。高い含量均一性を有する粉末混合物を得るために当技術分野で公知の方法を用いて混合物を製造できる。例えば、本薬物および基質を、最初に単独で粉砕して微小粒子径(例えば、約100μm未満)を得、ついでV型混合機に加え、20分間混合することができる。ついでこの混合物を、任意の凝集体を壊すために粉砕し、ついでV型混合機中でさらに時間をかけて混合し、薬物および基質の予混合物を得ることができる。
【0086】
この薬物および基質の予混合物を押出機に供給する。“押出機”は、熱および/またはせん断力による溶融押出物を製造および/または均一に混合した均一に混合した押出物の製造のための装置または装置の集合を意味する。かかる装置は、限定するものではないが、単軸押出機;同方向回転2軸押出機、異方向回転2軸押出機、噛みあい型2軸押出機、および非噛みあい型2軸押出機などを含む2軸押出機;多軸押出機;溶融押出物を押出すための加熱シリンダーおよびピストンからなるram押出機;一般に異方向回転の、溶融フィードを同時に加熱し押し出す加熱ギヤポンプからなるギヤポンプ押出機;およびコンベヤー押出機を含む。コンベヤー押出機は、スクリューコンベヤーまたは空気式コンベヤーなどの固体および/または粉末フィードを輸送するコンベヤーおよびポンプを含む。コンベヤーの少なくとも一部は、押出物を製造するために十分に高い温度に加熱される。押出物が実質的に均一になるのを確実にするために、所望により、ポンプの前後に、インライン型ミキサーを使用することができる。これらの押出機のそれぞれにおいて、均一に混合した押出物を形成するために本組成物が混合される。かかる混合は、混合要素、混錬要素、および逆流によるせん断混合を含む、種々の機械的およびプロセシング手段により達成できる。
【0087】
2軸押出機の場合において、バレルからの効率的な熱伝達のためのスクリュー部分の高度の充填および過度の流動制限を防ぐようにスクリュー形態および混合パドルを設定する。スクリュー形態はまた、予混合工程後に残っている凝集した基質を壊して、本薬物および基質を均一に混合するために十分な機械力(すなわち、せん断力)があるように選択される。バレル温度は、フィード領域における、おおよそ室温から、最終のバレル領域(押出末端)における、本薬物の融点より少し上の温度まで、傾斜をつける必要がある。この技術は、押出機(<400℃)中で解けるのに十分低い融点を有する任意の薬物および高温で許容できる化学的安定性を有する薬物に適用できる。溶融押出などの熱プロセスおよび装置は、一般に、Encyclopedia of Chemical Technology、4th Edition (John Wiley &
Sons、1991)に記載されている。
【0088】
押出機に供給される三成分(またはそれ以上)予混合物を形成するために、所望により、プロセシング補助剤を薬物/基質混合物と混合することができる。かかる添加剤の目的のひとつは、本薬物の液化のために必要な温度を低下させることである。従って、一般的に、添加剤は、本薬物の融点よりも低い融点を有し、本薬物は一般に溶融添加剤に可溶である。添加剤は、本組成物から留去される水などの揮発物であることができ、あるいは添加剤は、それがプロセシング後にの本組成物の一部分に留まるように、モノ−またはジ−グリセリドなどのように、高沸点を有することができる。
【0089】
前述の溶媒プロセスと同様に、押出機から出す(排出する)時に、溶融物質を急速に“クエンチする”ことが好ましい。基質上に固体吸着層として本薬物の急速な固化をもたらすいずれの方法も適切である。典型的な方法は、低温のガスまたは液体などの冷却液と接触させることである。あるいはまた、本物質は、約100nm〜100μmの顆粒サイズの微細粉末に粉砕すると同時に、熱が本物質から移動される冷却された粉砕機に入れることができる。
【0090】
あるいはまた、水などの溶媒を、2軸押出機に供給される予混合物に添加できる。本薬物を溶融するために必要な温度で溶媒の蒸発を防ぐために、押出機中で十分な圧力がかかるようにスクリュー形状が設計される。押出機から押出品が押出されるとき、圧力の急激な減少により溶媒が急激に蒸発し、吸着物物質の急激な冷却と凝結がもたらされる。本組成物中に残存するいずれの溶媒も、トレー乾燥機または流動層乾燥機などの通常の乾燥技術を用いて除去できる。
【0091】
従って、本発明の好ましい吸着物は、溶媒除去、非溶媒または冷却による沈殿により、本物質を急速に固化する(すなわち、クエンチする)任意の溶媒プロセスまたは熱プロセスにより製造できる。“急速にクエンチした吸着物”と呼ぶかかる物質は、他の方法により製造される吸着物よりも優れた特性を有する。
【0092】
特に、かかる“急速にクエンチした吸着物”が水性使用環境に送達された場合、かかる吸着物は薬物濃度の増大を提供できる。特に、かかる急速にクエンチした吸着物は、薬物の溶液中の同一基質の懸濁液から30分以上にわたって溶媒を留去して形成する、”ゆっくり留去した対照組成物”と呼ぶ対照により提供されるものよりも高い最大遊離薬物濃度または高い最大総溶解薬物濃度を提供する。
【0093】
加えて、ゆっくり留去した対照組成物と比較して、かかる急速にクエンチした吸着物は、改善された物理的安定性、遅い結晶化速度および優れた熱特性を示すこともできる。
【0094】
種々の製造技術により得られる薬物/基質吸着物は、約5重量%〜90重量%の薬物を含む固形物である。本物質は、一般的に粒子の凝集体であり、この凝集体は、10nm〜100μmの平均径を有する。凝集体は、一般的に出発基質の微細微粒子の性質を保持している。高表面積二酸化ケイ素の場合は、凝集体は、平均径約10〜30nmの多くの粒子または非常に微小なスフェア(<10μm)の凝集体からなる分枝鎖からなる。
【0095】
基質がおおよそ200m/gの表面積を有する吸着物に関しては、少ない薬物付加量(約12重量%未満)に対して、本薬物は主に基質表面上に薬物分子が直接吸着した状態で存在すると考えられる。かかる高表面積基質に対して、薬物と基質の重量比が最大約8まで、全ての薬物が基質に直接に吸着するために十分な表面積がある。かかる基質上に吸着した薬物は、単層と考えることができる。このように吸着した薬物は、非結晶性であり、従って非晶質と考えることができる。しかしながら、本薬物と基質表面との相互作用は、バルクの非晶質薬物単独と比較して実質的に異なる物理的特性を本薬物に与える。吸着物におけるより大きな薬物付加量では、本薬物は最初の単層の表面上に非晶質薬物の追加の層を形成すると考えられる。特定の理論に拘束されることを意図しないが、バルクの非晶質物質の薬物の移動性と比較して基質上の本薬物の移動性を減少させることにより、薬物の薄層(単数または複数)と基質との相互作用は、本薬物の物理的安定性を改善すると考えられる。このことは、薬物の拡散を阻害することにより物理的安定性を改善し、これにより結晶生成を阻害することができる。
【0096】
基質の表面積が増加するに従って、薬物の単層(以下)を維持しながら吸着物に組み込むことができる薬物の量もまた増加する。例えば、基質が400m/gの表面積を有する場合、単層を形成する本薬物添着量はおおよそ21重量%であり、一方基質が600m/gの表面積を有する場合、基質上の薬物の単層を維持しながらの本薬物添着量は、約29%であることができる。従って、高い薬物添着量を得るためには、できるだけ高い表面積を有する基質を使用することが所望される。“薬物添着量”と基質表面積との関係に関するかかる値は概算に過ぎず、それぞれの特定の薬物の特定のサイズ、形、および配向性に依存する。
【0097】
基質に吸着した非晶質薬物は、水性使用環境に投与された場合、比較的高いエネルギー状態にある。特定の理論または作用メカニズムに拘束されることを意図しないが、この高いエネルギー状態は、一般に、非晶質または結晶性薬物単独と比較して、基質に吸着した本薬物の薬物−薬物相互作用の低減によると考えられる。基質は、この薬物の高いエネルギーの薬物の非晶質形を安定化する。従って、水性使用環境に導入される場合、薬物/基質吸着物は、薬物水溶液濃度の増大を提供することができる。
【0098】
非晶質薬物のこの安定化された高いエネルギー状態の物理的性質は、IR分光法を用いて特徴づけることができる。一般に、本薬物と基質との相互作用は、IRスペクトルにおける低波数へのシフトにより特徴づけられ、これは本薬物と基質との水素結合を示している。加えて、吸着薬物の物理的性質は、蒸気吸収、示差走査熱量計(DSC)などの熱量計または粉末X線回折などの技術により評価できる。
【0099】
吸着物は、前述のプロセシング補助剤に加えて、界面活性剤、pH調節剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤などの、所望による追加の成分も含むことができる。これらの物質により、下記のように、プロセシング、性能、または吸着物を含有する製剤の製造における補助に役立つことができる。
【0100】
特に好ましい、所望による追加の成分の1つは濃度増大ポリマーである。薬物/基質吸着物が非晶質薬物単独と比較して、使用環境における薬物濃度の増大を提供する一方で、吸着物における濃度増大ポリマーの含有により、観察された増大を改善することを可能にし、および/または長期間濃度増大を維持することを可能にする。
【0101】
濃度増大ポリマーを含有する本発明の組成物は、種々の方法により製造できる。基質上に吸着させた薬物およびポリマーの非晶質分散剤を形成させるために、濃度増大ポリマーを本薬物と共に基質上に同時吸着させることができる。あるいはまた、濃度増大ポリマーは、薬物/基質吸着物と混合して混合物とすることができる。
【0102】
吸着物および濃度増大ポリマーを混合するための1つの好ましい方法において、濃度増大ポリマーは、基質上に本薬物と共に同時吸着される。これにより、基質の表面上に吸着された薬物およびポリマーの非晶質分散剤が得られる。基質の表面上に吸着された非晶質薬物およびポリマーの薄層が得られる任意の方法により、基質上に、本薬物と共に濃度増大ポリマーを同時吸着させることができる。この層は、基質表面に直接結合した薬物およびポリマー分子の完全または不連続な層から薬物およびポリマーの層まで、最大約5〜10ポリマーまたは薬物分子のサイズの厚さまでの範囲の厚さであることができる。吸着物中に存在する本薬物の少なくとも大部分は非晶質である。好ましくは、吸着物中の本薬物は実質的に非晶質であり、さらに好ましくは、本薬物は、ほぼ完全に非晶質である。基質上に吸着した薬物およびポリマーの分散剤は、薬物に富む領域およびポリマーに富む領域を有しうるが、1つの実施形態において、分散剤は実質的に均一であり、これは分散剤内の薬物に富む非晶質領域中に存在する本薬物の量が20%未満であることを意味する。多くの場合、かかる物質に関して分散剤は”完全に均一”であるが、これは薬物に富む領域中の薬物の量が10%未満であることを意味する。
【0103】
本薬物と共に基質上に濃度増大ポリマーを吸着させるための1つの方法は、前述の溶媒プロセスを用いて吸着物を形成させることである。その場合、基質を加えておいた共通の溶媒に濃度増大ポリマーおよび薬物を溶解する。“共通の溶媒”は、本薬物および濃度増大ポリマーの両方を溶解できる溶媒を意味する。
【0104】
ひとつの典型的な方法において、基質を共通の溶媒に最初に加え、超音波処理する。ついで濃度増大ポリマーを溶液に加え、溶解する。ついで本薬物を溶媒に加え、溶解する。ついで得られた溶解薬物、溶解ポリマーおよび懸濁基質の溶液から溶媒を急速に除去する。ついで得られた吸着物の粒子を回収し、乾燥する。
【0105】
基質上に薬物およびポリマーを同時吸着させる代替法には、前述の熱プロセスを用いるものがある。ひとつの典型的な方法において、薬物、濃度増大ポリマー、および基質がプレブレンドされ、押出機に供給される。押出機は、本薬物およびポリマーを融解させ、ついで基質上に吸着させるように設計される。ついで本組成物を急速に冷却し、前述の急速にクエンチした吸着物を形成させる。水、溶媒、低融点の固体、または可塑剤などの添加剤を予混合物に加え、ポリマーの融点を低下させ、プロセシング温度を低下させることを可能にすることができる。
【0106】
得られた薬物/ポリマー/基質吸着物は、2重量%〜90重量%の薬物、2〜90重量%の基質、および5重量%〜95重量%の濃度増大ポリマーを含むことができる。薬物/ポリマー/基質吸着物の平均径は、約5nm〜約100μmであり、吸着物は、一般的に約5nm〜50nmの平均径を有する粒子の凝集体である。
濃度増大ポリマー
【0107】
本発明の種々の態様における使用に適した濃度増大ポリマーは、薬学的に許容できることを必要とし、そして生理学的に関連のあるpH(例えば1〜8)において、水溶液中で少なくとも若干の溶解性を必要とする。pH1〜8の少なくとも一部の範囲において、少なくとも0.1mg/mLの水溶性を有するほとんど全ての中性またはイオン性ポリマーが適切でありうる。
【0108】
濃度増大ポリマーは、“両親媒性”の性質を有することが好ましく、これはこのポリマーが疎水性および親水性部分を有することを意味する。両親媒性ポリマーは本薬物と比較的強い相互作用を有する傾向があり、溶液中で種々のタイプのポリマー/薬物集合の形成を促進することができると考えられるので、両親媒性ポリマーが好ましい。特に好ましい両親媒性ポリマーのクラスは、イオン性のクラスであり、かかるポリマーのイオン性部分は、イオン化された場合、ポリマーの親水性部分の少なくとも一部を構成する。例えば、特定の理論に拘束されることを意図しないが、かかるポリマー/薬物集合は、ポリマーの疎水性領域が本薬物方向である内側に向かい、ポリマーの親水性領域が水性環境である外側に向かっている濃度増大ポリマーにより取り囲まれている疎水性薬物クラスターを含むことができる。あるいはまた、本薬物の特定の化学的性質に応じて、このポリマーのイオン化官能基は、例えば、イオン対形成または水素結合により、本薬物のイオン性または極性基と会合することができる。イオン性ポリマーの場合、ポリマーの親水性領域はイオン化官能基を含むと考えられる。加えて、かかるポリマー(ポリマーがイオン性の場合)のイオン化基の同一電荷の反発力は、ポリマー/薬物集合のサイズをナノメートルまたは1μ未満のスケールに限定するのに役立つ。溶液中のかかる薬物/濃度増大ポリマー集合は、荷電ポリマーミセル様構造とよく類似させることができる。いずれにせよ、作用メカニズムにかかわらず、本発明者らは、かかる両親媒性ポリマー、とりわけ下記のイオン性セルロースポリマーなどが、水性使用環境においてより高い薬物濃度を維持するように薬物と相互作用することが示されたことを見出した。
【0109】
本発明と共に使用するのに適したポリマーの1つのクラスは、中性非セルロース系ポリマーを含む。典型的なポリマーは:ヒドロキシル、アルキルアシルオキシ、およびサイクリックアミドを含むグループから選択される少なくとも1つの置換基を有するビニルポリマーおよびコポリマー;少なくとも1つの親水性の、ヒドロキシル−含有繰り返し単位および少なくとも1つの疎水性のアルキル−またはアリール−含有繰り返し単位のビニルコポリマー;その繰り返し単位の少なくとも一部を非加水分解(ビニルアセテート)型で有するポリビニルアルコール;ポリビニルアルコールポリビニルアセテートコポリマー;ポリビニルピロリドン;ポリエチレンポリビニルアルコールコポリマー、およびポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー(ポロキサマーとも呼ぶ)を含む。
【0110】
本発明と共に使用するのに適したポリマーの他のクラスは、イオン性非セルロース系ポリマーを含む。典型的なポリマーは:EUDRAGITS(登録商標)(Rohm Tech Inc.,Malden,Massachusetts)などのカルボン酸機能化ポリメタクリレートおよびカルボン酸機能化ポリアクリレートなどのカルボン酸−機能化ビニルポリマー;アミン−機能化ポリアクリレートおよびポリメタクリレート;ゼラチンおよびアルブミンなどの高分子量タンパク質;およびデンプングリコール酸などのカルボン酸機能化デンプンを含む。
【0111】
両親媒性である非セルロース系ポリマーは、比較的親水性および比較的疎水性のモノマーのコポリマーである。例は、アクリレートおよびメタクリレートコポリマーを含む。かかるコポリマーの典型的な商用銘柄は、メタクリレートおよびアクリレートのコポリマーである、オイドラギット(EUDRAGITS)を含む。
【0112】
ポリマーの好ましいクラスは、それぞれの置換基に関して少なくとも0.05の置換度をポリマーが有する、少なくとも1つのエステルおよび/またはエーテル結合した置換基を有するイオン性および中性(すなわち非イオン性)セルロースポリマーを含む。本明細書で用いるポリマー命名法において、エーテル基に結合している部分として、“セルロース”の前にエーテル結合した置換基が列挙されることに留意すべきである。例えば、“エチル安息香酸セルロース”は、エトキシ安息香酸置換基を有する。同様に、エステル結合した置換基は、カルボン酸として“セルロース”の後に列挙される。例えば、“セルロースフタレート”は、それぞれのフタレート部分の1つのカルボン酸はポリマーにエステル結合し、もう1つのカルボン酸は未反応のままである。
【0113】
同様に、“セルロースアセテートフタレート”(CAP)などのポリマー名は、セルロースポリマーのヒドロキシル基のかなりの割合に、エステル結合を介して結合しているアセテートおよびフタレート置換基を有するセルロースポリマーのファミリーのいずれをも指すことに留意すべきである。一般に、各置換基の置換度は、ポリマーの他の基準が満たされている限り、0.05〜2.9の範囲であることができる。“置換度”は、セルロース鎖上の糖質繰り返し単位あたり3つのヒドロキシルの、置換された平均数を指す。例えば、セルロース鎖上の全てのヒドロキシルがフタレートで置換されている場合、フタレートの置換度は3である。実質的にポリマーの性能を変化させない比較的少量で加えられた追加の置換基を有するセルロースポリマーもまた、各ポリマーファミリータイプに含まれる。
【0114】
両親媒性セルロース誘導体は、元のセルロースポリマーが各糖質繰り返し単位上に存在する3つのヒドロキシル基のいずれかまたは全てを、少なくとも1つの比較的疎水性の置換基で置換したポリマーを含む。疎水性置換基は、本質的に、十分高いレベルまたは置換度で置換されている場合、セルロースポリマーを本質的に非水溶性にすることができるいずれの置換基をいうこともできる。疎水性置換基の例は、メチル、エチル、プロピル、ブチルなどのエーテル結合したアルキル基;またはアセテート、プロピオネート、ブチレートなどのエステル結合したアルキル基;フェニル、ベンゾエート、またはフェニレートなどのエーテルおよび/またはエステル結合したアリールを含む。ポリマーの親水性領域は、比較的置換されていない部分(置換されていないヒドロキシルは、それ自体比較的親水性であるので)、または親水性置換基で置換された領域のいずれかの部分であることができる。親水性置換基は、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピルなどのヒドロキシアルキル置換基およびエトキシエトキシまたはメトキシエトキシなどのアルキルエーテル基などのエーテルまたはエステル結合した非イオン性基を含む。特に好ましい親水性置換基は、カルボン酸、チオカルボン酸、置換フェノキシ基、アミン、リン酸塩またはスルホン酸塩などのイオン性基にエーテルまたはエステル結合したものである。
【0115】
セルロースポリマーの1つのクラスは中性ポリマーを含み、これはポリマーが水溶液中で実質的に非イオン性であることを意味する。かかるポリマーは非イオン性置換基を含み、これらはエーテル結合しているかまたはエステル結合していてもよい。典型的なエーテル結合した非イオン性置換基は:メチル、エチル、プロピル、ブチルなどのアルキル基;ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピルなどのヒドロキシアルキル基;およびフェニルなどのアリール基を含む。典型的なエステル結合した非イオン性置換基は:アセテート、プロピオネート、ブチレートなどのアルキル基;およびフェニレートなどのアリール基を含む。しかしながら、アリール基を含む場合、生理学的に関連のあるpH1〜8のいずれにおいても、ポリマーが少なくとも少しの水溶性を有するように、ポリマーが十分な量の親水性置換基を含む必要性がありうる。
【0116】
ポリマーとして使用できる典型的な非イオン性セルロースポリマーは:ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースアセテート、およびヒドロキシエチルエチルセルロースを含む。
【0117】
非イオン性(中性)セルロースポリマーの好ましいセットは、両親媒性のものである。典型的なポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースアセテートを含み、ここで非置換のヒドロキシルまたはヒドロキシプロピル置換基と比較して、比較的多数のメチルまたはアセテート置換基を有するセルロース繰り返し単位はポリマー上の他の繰り返し単位と比較して疎水性領域を構成する。
【0118】
セルロースポリマーの好ましいクラスは、生理学的に関連のあるpHで少なくとも部分的にイオン性であって、エーテル結合またはエステル結合していてもよい少なくとも1つのイオン性置換基を含むポリマーを含む。典型的なエーテル結合したイオン性置換基は:酢酸、プロピオン酸、安息香酸、サリチル酸、エトキシ安息香酸またはプロポキシ安息香酸などのアルコキシ安息香酸、エトキシフタル酸、エトキシイソフタル酸などのアルコキシフタル酸の種々の異性体、エトキシニコチン酸などのアルコキシニコチン酸の種々の異性体、エトキシピコリン酸などのピコリン酸の種々の異性体などのカルボン酸;チオ酢酸などのチオカルボン酸;ヒドロキシフェノキシなどの置換フェノキシ基;アミノエトキシ、ジエチルアミノエトキシ、トリメチルアミノエトキシなどのアミン;リン酸エトキシなどのリン酸塩;およびスルホン酸エトキシなどのスルホン酸塩を含む。典型的なエステル結合したイオン性置換基は:スクシネート、シトレート、フタレート、テレフタレート、イソフタレート、トリメリテートなどのカルボン酸、およびピリジンジカルボン酸などの種々の異性体;チオスクシネートなどのチオカルボン酸;アミノサリチル酸などの置換フェノキシ基;アラニンまたはフェニルアラニンなどのなどの天然または合成アミノ酸などのアミン;アセチルリン酸などのリン酸塩;およびアセチルスルホン酸などのスルホン酸塩を含む。芳香族置換ポリマーが必要な水溶性を有するためには、少なくとも任意のイオン性基がイオン化するpH値でポリマーに水溶性を与えるために、ヒドロキシプロピルまたはカルボン酸官能基などの十分に親水性の基がポリマーに結合していることが所望される。場合によっては、芳香族置換基は、フタレートまたはトリメリテート置換基などのように、それ自体がイオン性であることができる。
【0119】
生理学的に関連のあるpHで少なくとも部分的にイオン化された典型的なセルロースポリマーは:ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)、ヒドロキシプロピルメチルセルローススクシネート、ヒドロキシプロピルセルロースアセテートスクシネート、ヒドロキシエチルメチルセルローススクシネート、ヒドロキシエチルセルロースアセテートスクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、ヒドロキシエチルメチルセルロースアセテートスクシネート、ヒドロキシエチルメチルセルロースアセテートフタレート、カルボキシエチルセルロース、エチルカルボキシメチルセルロース(カルボキシメチルエチルセルロースまたはCMECとも呼ぶ)、カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテートフタレート(CAP)、メチルセルロースアセテートフタレート、エチルセルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルセルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルセルロースアセテートフタレートスクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルローススクシネートフタレート、セルロースプロピオネートフタレート、ヒドロキシプロピルセルロースブチレートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート(CAT)、メチルセルロースアセテートトリメリテート、エチルセルロースアセテートトリメリテート、ヒドロキシプロピルセルロースアセテートトリメリテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートトリメリテート、ヒドロキシプロピルセルロースアセテートトリメリテートスクシネート、セルロースプロピオネートトリメリテート、セルロースブチレートトリメリテート、セルロースアセテートテレフタレート、セルロースアセテートイソフタレート、セルロースアセテートピリジンジカルボキシレート、サリチル酸セルロースアセテート、ヒドロキシプロピルサリチル酸セルロースアセテート、エチル安息香酸セルロースアセテート、ヒドロキシプロピルエチル安息香酸セルロースアセテート、エチルフタル酸セルロースアセテート、エチルニコチン酸セルロースアセテート、およびエチルピコリン酸セルロースアセテートを含む。生理学的に関連のあるpHで少なくとも部分的にイオン化されたこれらのセルロースポリマーの中で、本発明者らが見出した最も好ましいものは、HPMCAS、HPMCP、CAP、CAT、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、およびエチルカルボキシメチルセルロースである。
【0120】
ポリマーの他の好ましいクラスは、中和された酸性ポリマーからなる。“中和された酸性ポリマー”は、“酸性部分”すなわち“酸性置換基”のかなりの割合が“中和された”(すなわち、その脱プロトン化体で存在する)任意の酸性ポリマーである。“酸性ポリマー”は、かなりの数の酸性部分を有する任意のポリマーを意味する。一般に、かなりの数の酸性部分というのは、ポリマーの1グラム当たりの酸性部分の約0.1ミリ当量以上と考えられる。“酸性部分”は、水に接触または溶解した場合、少なくとも部分的に水に水素カチオンを供与し、これにより水素イオン濃度を増加させることができるように十分な酸性を有する任意の官能基を含む。この定義は、約10未満のpKaを有する官能基がポリマーに共有結合している場合の任意の官能基または“置換基”を含む。上記の説明に含まれる官能基の典型的なクラスは、カルボン酸、チオカルボン酸、リン酸塩、フェノール基、およびスルホン酸塩を含む。かかる官能基は、ポリアクリル酸などのポリマーの一次構造を構成することができるが、より一般的には、元のポリマーの骨格に共有結合しているので、“置換基”と呼ばれる。中和された酸性ポリマーは、2001年6月22日に出願された、本願と同一の譲受人に譲渡された米国特許出願第60/300,256号(発明の名称:"Pharmaceutical Compositions of Drugs and Neutralized Acidic
Polymers")にさらに詳細に記載されている(その関連する開示を本願に引用して援用する)。
【0121】
本発明の混合物における使用に適しているとして、特定のポリマーを説明してきたが、かかるポリマーの混合物もまた適切であることができる。従って、“濃度増大ポリマー”という用語は、単一のポリマー種に加えて、ポリマーの混合物を含むことを意味する。
組成物の製造
【0122】
本発明の組成物は、(1)低溶解性薬物および高表面積基質を含む吸着物であって、該薬物の少なくとも大部分が非晶質である該吸着物ならびに(2)親油性ミクロ相形成物質、を含む混合物を得る任意の技術により製造できる。1つの方法において、本親油性ミクロ相形成物質を本薬物および所望による濃度増大ポリマーと共に、基質に同時吸着させるために、本薬物、基質、所望による濃度増大ポリマー、および親油性ミクロ相形成物質を含む吸着物が形成される。あるいはまた、本親油性ミクロ相形成物質を吸着物と混合するために、所望による濃度増大ポリマーを含有する薬物/基質吸着物が形成され、ついで本親油性ミクロ相形成物質と混合されることができる。あるいはまた、吸着物および親油性ミクロ相形成物質を使用環境において共に存在させるために、所望による濃度増大ポリマーを含有する薬物/基質吸着物を製造し、ついで親油性ミクロ相形成物質と共に使用環境に同時投与することができる。
【0123】
多くの場合、使用環境における本親油性ミクロ相形成物質の分散を助けるために、混合物を形成する前に、水溶性または水分散性マトリックス中に本親油性ミクロ相形成物質を分散させることが望ましい場合がしばしばある。あるいはまた、リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、微結晶セルロース、二酸化ケイ素ケイ酸カルシウム;カオリン(含水ケイ酸アルミニウム)、ベントナイト(含水ケイ酸アルミニウム)、ヘクトライトおよびビーガム(登録商標)などの粘土;二酸化ケイ素(Cab−O−Sil(登録商標)またはエアロジル(登録商標));珪酸マグネシウム;水酸化アルミニウム;水酸化マグネシウム、酸化マグネシウムまたはタルクを含む、薬物吸着物の形成に関して上記した高表面積基質などの水不溶性基質に本親油性ミクロ相形成物質を吸着させることができる。ケイ酸カルシウムなどの超多孔性物質が好ましい。1つの実施形態において、前記のような濃度増大ポリマーに本親油性ミクロ相形成物質が吸着される。本親油性ミクロ相形成物質が水分散性マトリックス中に分散される場合、押出などの熱プロセス、噴霧乾燥などの溶媒プロセス、ならびに通常の湿式および乾式造粒法プロセスを含む、薬物/基質吸着物の形成に関して前記したいずれのプロセスによっても分散剤を形成できる。吸着物分散剤または親油性ミクロ相形成物質の顆粒の形成後に、本親油性ミクロ相形成物質を含む分散剤または顆粒を薬物/基質吸着物と混合することができる。
【0124】
本親油性ミクロ相形成物質を固体基質に吸着(または吸収)することが所望される場合、いずれの慣用法を用いても、固体基質上に本親油性ミクロ相形成物質を吸着できる。1つの典型的な方法において、基質を最初に乾燥して水を除去する。ついで本親油性ミクロ相形成物質を基質と混合する。プラネタリーミキサー、Zブレードミキサー、ロトグラニュレーターまたは類似の装置の使用により、本親油性ミクロ相形成物質を基質と混合することができる。好ましくは、親油性ミクロ相形成物質の量は、親油性ミクロ相形成物質および固体基質の混合物が移動性の粉末を形成するように十分低く抑えられる。親油性ミクロ相形成物質と固体基質との比率は、好ましくは約4:1(wt:wt)(親油性ミクロ相形成物質:固体基質)未満である。親油性ミクロ相形成物質と基質との重量比が増加するに従って、本物質はケーキ状、ついで油状またはスラリー状になる。具体的な比率は、基質の多孔性および本親油性ミクロ相形成物質の性質によって決まる。本親油性ミクロ相形成物質は、本親油性ミクロ相形成物質を固体基質に吸着させる前に、メタノールなどの溶媒で希釈することができる。得られたスラリーを例えば真空デシケーター中で乾燥して、本親油性ミクロ相形成物質および基質を含む固形物を得る。ついでこの固形物を薬物/基質吸着物と混合して、本発明の組成物を得ることができる。
【0125】
混合法は、対流混合、せん断混合、または拡散混合を含む。対流混合は、ブレードもしくはパドル、回転スクリューまたは粉末床の反転による、粉末床の1つの部分から他の部分に比較的大量の物質を移動することを含む。せん断混合は、混合される本物質において滑り面が形成される場合に起こる。拡散混合は、単一粒子による位置の交換を含む。これらの混合プロセスは、バッチモードまたは連続モードで、装置を用いて実行できる。タンブルミキサー(例えば、ツインシェル)は、バッチプロセシングに一般的に用いられる装置である。組成物の均一性を改善するために連続撹拌を使用できる。連続ミキサーは、“インライン型”ミキサーおよび押出機を含む。押出機は単軸または2軸を含むことができる。2軸押出機は、同一または反対方向に向きを変えることができる。
【0126】
粉砕はまた、吸着物および本親油性ミクロ相形成物質を混合するために使用することができる。粉砕は、固体の粒子径を小さくするための機械的プロセスである(粉砕)。よく知られた粉砕装置のタイプは、ロータリーカッター、ハンマー、ローラーおよび流体エネルギーミルである。装置の選択は、本組成物中の成分の特性によって決まる(例えば、やわらかい、あらい、もろいなど)。湿式または乾式粉砕技術も、同様に成分の特性(例えば溶媒中の吸着物の安定性)に応じて、これらのプロセスのいくつかのために選択できる。粉砕プロセスは、供給物質が不均一である場合、同時に混合プロセスとしても役に立つ。本発明における使用に適した通常の混合および粉砕プロセスは、Lachmanら、The Theory and Practice of Industrial Pharmacy (3d Ed.
1986)にさらに詳細に説明されている。
【0127】
吸着物および親油性ミクロ相形成物質はまた、乾式または湿式プロセスによっても混合できる。
【0128】
他の実施形態において、吸着物および親油性ミクロ相形成物質は、使用環境に同時投与されることができる。“同時投与される”は、吸着物および親油性ミクロ相形成物質が使用環境にそれぞれ別々に投与されることを意味する。1つの実施形態において、吸着物および親油性ミクロ相形成物質が、それぞれ同一の一般的な時間枠内(例えば、それぞれ60分以内、好ましくは30分以内、さらに好ましくは15分以内)で同時投与される。
濃度増大
【0129】
本発明の組成物は、1以上の対照組成物と比較して使用環境における濃度増大を提供する。本発明の組成物は、親油性ミクロ相形成物質を少しも含まず本質的に薬物/基質吸着物からなる第1の対照組成物と比較して濃度増大を提供する。従って、親油性ミクロ相形成物質を含まないで、本質的に等しい量の薬物/基質吸着物からなる第1の対照と比較して濃度増大(下記にさらに詳しく説明する)を提供するために十分な量で、本親油性ミクロ相形成物質が本組成物中に存在するかあるいは同時投与される。すなわち、第1の対照組成物は、本親油性ミクロ相形成物質が存在しないこと以外は、薬物/基質吸着物および本親油性ミクロ相形成物質を含む本組成物と等しい。
【0130】
あるいはまた、本質的に、薬物が高表面積基質に結合しておらず、試験組成物中の薬物の量と等しい量で結晶性薬物と混合した同一の親油性ミクロ相形成物質からなる第2の対照組成物と比較して、本発明の組成物は濃度増大を提供する。従って、第2の対照組成物は、本薬物が高表面積基質に吸着した非晶質薬物ではなく結晶性薬物であるという以外は、本発明の本組成物と同じである。本薬物の2以上の結晶形が知られている場合、対照組成物は、周囲条件(25℃および50%の相対湿度)で熱力学的に最も安定な結晶形からなる。薬物の結晶形が何も知られていない場合、結晶性薬物の代わりに非吸着非晶質薬物を用いることができる。
【0131】
最低でも、本発明の組成物は、上記の2つ対照の少なくとも1つと比較して、使用環境における濃度増大を提供する。好ましくは、本発明の組成物は、上記の2つの対照の両方と比較して、使用環境における濃度増大を提供する。
【0132】
薬物/基質吸着物および親油性ミクロ相形成物質を含む組成物は、インビボまたはインビトロ使用環境のいずれかで濃度増大を提供する。インビボ使用環境において、濃度増大により、相対的生物学的利用率の増大および/またはより通常の摂食/絶食生物学的利用率比(すなわち、1により近い摂食/絶食生物学的利用率比)をもたらすことができる。インビトロ使用環境において、濃度増大は高移動性薬物種における薬物濃度増大、沈殿物の減少、最大薬物濃度増大、または濃度対時間曲線下面積(AUC)の増大であることができる。
【0133】
本明細書においては、“使用環境”は、哺乳動物、そして特にヒトなどの動物の消化管のインビボ環境であるか、またはリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)などの試験溶液のインビトロ環境のいずれかであることができる。濃度増大は、インビボ試験またはインビトロ溶出試験のいずれかにより測定できる。本発明の組成物は、上記の試験環境の少なくとも1つにおける濃度増大基準を満たす。
【0134】
1つの態様において、吸着物および親油性ミクロ相形成物質を含む本組成物は、第1の対照組成物、および第2の対照組成物のいずれか、または好ましくはその両方と比較して、相対的生物学的利用率の改善を提供する。相対的生物学的利用率は、動物またはヒトにおいて、かかる測定をするための慣用法を用いて、インビボで試験することができる。クロスオーバー試験などのインビボ試験は、1つまたは両方の対照組成物と比較して試験組成物が相対的生物学的利用率の増大を提供するかどうかを測定するために使用できる。かかるインビボ試験は絶食条件で実施される必要があることが、当業者には理解されるべきである。インビボクロスオーバー試験において、吸着物および親油性ミクロ相形成物質の“試験組成物”を被験者の半分のグループに投与し、適切なウォッシュアウト期間(例えば、1週間)後に、同一被験者に対照組成物を投与する。前述のように、対照組成物は、親油性ミクロ相形成物質が存在しない吸着物からなる第1の対照組成物か、あるいは等しい量の結晶形の本薬物および等しい量の本親油性ミクロ相形成物質からなる第2の対照組成物のいずれかであることができる。グループのもう片半分を、最初に対照組成物を投与し、ついで試験組成物を投与する。相対的生物学的利用率は、試験グループについて測定した血中(血清または血漿)濃度対時間曲線下面積(AUC)を対照組成物により提供される血液におけるAUCにより割ったものとして測定される。好ましくは、この試験/対照比は、各被験者に関して測定され、ついで試験における全被験者について比を平均化する。AUCのインビボ測定は、縦座標(y軸)に薬物の血清または血漿中濃度、横座標(x軸)に時間をプロットすることにより行うことができる。
【0135】
第1の対照組成物および第2の対照組成物と比較した生物学的利用率の改善を明らかにするために、3つの組成物が試験組成物、第1の対照組成物および第2の対照組成物である、“3期インビボクロスオーバー”試験を行うことができる。
【0136】
1つの好ましい実施形態は、試験組成物の相対的生物学的利用率が、絶食条件で試験した場合、第1の対照組成物または第2の対照組成物のいずれかと比較して少なくとも1.25であるものである(すなわち、試験組成物により提供される血液におけるAUCが、対照組成物により提供されるAUCの少なくとも1.25倍である)。相対的生物学的利用率は、いずれかの対照組成物と比較して、少なくとも2.0、そしてさらに好ましくは少なくとも3.0であることができる。AUCの測定は公知の手順であり、例えば、Welling, "Pharmacokinetics Processes and Mathematics," ACS
Monograph 185 (1986)に記載されている。本発明のよりさらに好ましい1つの実施形態は、試験組成物の相対的生物学的利用率が第1の対照組成物および第2の対照組成物の両方と比較して少なくとも1.25倍のものである。
【0137】
あるいはまた、他の別の態様において、吸着物および親油性ミクロ相形成物質を含む本組成物は、さらに通常の吸収を提供する。この態様において、本組成物は1.0に近い摂食/絶食生物学的利用率比を提供する。“摂食/絶食生物学的利用率比”は、摂食状態の被験者に投与した組成物により提供される血液におけるAUCを絶食状態の被験者に投与した同一の組成物により提供される血液におけるAUCにより割ったものを意味する。“摂食状態の被験者”は、米国食品・医薬品局(FDA)が推奨する高脂肪の朝食を20分以内に摂食し、ついで本質的にその後直ちに試験製剤を摂取した(すなわち飲み込んだ)被験者を意味する。標準的な高脂肪の朝食は、例えば、大さじ一杯のバターで焼いた卵2個、ベーコン2切れ、ハッシュトポテト6オンス、バター小さじ2とゼリー2個をつけたトースト2切れ、および全乳8オンスからなる。この標準的な高脂肪の朝食は、"Nutritive Value of Foods", U.S. Department of Agriculture
Home and Garden Bulletin Number 72 というモノグラフによって計算して、おおよそ964カロリー(54%を脂肪(58gm)として、そして12%をタンパク質として供給)を含む。20分以内に追加の食料を摂取することもでき、この被験者は依然として”摂食”として適格とする。定義の目的のためには、“絶食状態の被験者”は、製剤の摂取前に少なくとも8時間、一般的には終夜摂食をしていない被験者をいう。
【0138】
従って、吸着物および親油性ミクロ相形成物質を含む好ましい本発明の組成物は、約0.5〜約2.0の摂食/絶食生物学的利用率比を提供する。好ましくは、本組成物は、約0.67〜約1.5の摂食/絶食生物学的利用率比を提供し、さらに好ましくは約0.8〜約1.25の摂食/絶食生物学的利用率比を提供する。好ましくは、本発明の組成物は、第1の対照組成物および第2の対照組成物の少なくとも1つ、さらに好ましくは両方の組成物よりも、1により近い摂食/絶食生物学的利用率比を提供する。
【0139】
あるいはまた、本発明の組成物により提供される濃度増大は、適切な使用環境中のインビトロ溶出試験により測定できる。緩衝液中のインビトロ溶出試験における薬物濃度の増大は、インビボ性能および生物学的利用率のよい指標であることが明らかにされている。適切な緩衝液の1つはPBS溶液であり、これは20mMリン酸ナトリウム(NaHPO)、47mMリン酸カリウム(KHPO)、87mM NaCl、および0.2mM KCl(NaOHでpH6.5に調節)からなる。他の適切な緩衝液はMOPS溶液であり、これは50mM4−モルホリンプロパンスルホン酸(MOPS)および150mM NaCl(NaOHでpH7.4に調節)からなる。特に、本発明の組成物を、PBS溶液またはMOPS溶液のいずれかに加え、撹拌して溶解を促進することにより、溶解試験をすることができる。本発明の組成物は、いずれかの溶液に添加する場合、下記の基準を満たすものである。
【0140】
あるいはまた、吸着物および親油性ミクロ相形成物質を含む本組成物は、対照組成物と比較して、使用環境において生成する沈殿物の重量を減らすことにより濃度増大を提供する。沈殿物の重量を減らすことにより、より不安定で移動性のある薬物形に存在する薬物の量が増加し、結果として相対的生物学的利用率が増加する。本明細書においては、第1の対照組成物(例えば、吸着物単独)を水性使用環境に添加した場合得られる沈殿物中に存在する薬物の重量を、吸着物および親油性ミクロ相形成物質を含む試験組成物を等しい量の同一の使用環境に添加した場合得られる沈殿物中に存在する薬物の重量で割ったものとして、“沈殿物比”が定義される。従って、試験媒体に対照組成物を添加した場合生成する沈殿物中に30mgの薬物が存在し、試験組成物が同一の試験媒体に添加された場合生成する沈殿物中に20mgの薬物が存在する場合、沈殿物比は1.5(30/20)に相当する。吸着物および親油性ミクロ相形成物質を含む本組成物は、水性使用環境に導入後に、前記の第1の対照組成物と比較して少なくとも1.25である沈殿物比を提供する。好ましくは、本発明の組成物は、対照組成物と比較して、少なくとも2倍、さらに好ましくは少なくとも3倍の沈殿物比を提供する。
【0141】
沈殿物中に存在する薬物の量は、定量的に測定できるいずれの分析技術によっても測定できる。1つの方法において、沈殿物中に存在する薬物の量は、試験媒体に添加した本薬物が全て溶解した場合の理論薬物濃度から総溶解薬物濃度を引くことにより測定される。本明細書においては、“総溶解薬物”という用語は、水溶液中に溶解した薬物の総量を指し、遊離薬物、ミセル、および親油性ミクロ相の形で存在する薬物を含む。具体的には、これは、遠心分離またはろ過により溶解していない薬物をすべて分離し、ついで上澄みまたは濾液中に残っている薬物の量を測定することにより、総溶解薬物が測定できることを意味する。一般的に、総溶解薬物は、0.45μmのシリンジフィルターを通過するか、あるいは遠心分離後に上澄み中に残っている物質と考えられる物質である。ポリビニリデンジフルオリドシリンジフィルター(13mm,0.45μm)(Scientific ResourcesからTITAN(登録商標)という名称で販売されている)を用いてろ過を行うことができる。一般的に、13,000Gで60秒間遠心分離機にかけることにより、ポリプロピレンミクロ遠心管中で遠心分離が行われる。他のろ過または遠心分離法も用いることができ、有用な結果を得ることができる。例えば、他のタイプのミクロフィルターを用いれば、前記のフィルターで得られる値よりも多少上下(ほぼ10〜40%)の値が得られる可能性があるが、それでも好ましい組成物の特定ができると思われる。
【0142】
あるいはまた、沈殿物中の薬物は、水溶液の遠心分離またはろ過により固体を回収し、メタノール、ジメチルスルホキシド、またはジメチルアセトアミドなどの適切な溶媒中に固体を溶解し、ついでHPLCまたはNMRなどの任意の定量分析技術を用いて本薬物を分析することにより測定できる。
【0143】
他の代替的な態様において、吸着物および親油性ミクロ相形成物質を含む本組成物は、第1の対照組成物または第2の対照組成物のいずれかのMDCの少なくとも1.25倍である最大総溶解薬物濃度(MDC)を提供できる。すなわち、いずれかの対照組成物により提供されるMDCが100μg/mLの場合、吸着物および親油性ミクロ相形成物質を含む組成物は、少なくとも125μg/mLのMDCを提供する。さらに好ましくは、本発明の組成物により得られる薬物のMDCは、対照組成物のいずれかのMDCの少なくとも2倍、そしてよりさらに好ましくは少なくとも3倍である。試験を簡便にするために、最大薬物濃度を本薬物の添加後90〜180分以内に達した最高濃度とすることができる。好ましい組成物は、第1の対照組成物及び第2の対照組成物の両方に対してこれらの基準を満たす。
【0144】
あるいはまた、吸着物および親油性ミクロ相形成物質を含む本組成物は、組成物の使用環境への導入時から使用環境への導入後の約270分における少なくとも90分の任意の期間について、第1の対照組成物または第2の対照組成物のいずれかの少なくとも1.25倍である、水性使用環境における総溶解薬物の濃度対時間曲線下面積(AUC)を提供する。さらに好ましくは、本発明の組成物により得られるAUCは、対照組成物のいずれかの少なくとも2倍、さらに好ましくは少なくとも3倍である。好ましい組成物は、第1の対照組成物および第2の対照組成物の両方のこれらの基準を満たす。
【0145】
本発明の特に好ましい実施形態において、前述の種々の濃度および生物学的利用率基準において、特定の組成物が驚くべきことに“相乗的増大”を提供することを本発明者らは見出した。“相乗的増大”は、”第3の対照組成物”に対する吸着物および親油性ミクロ相形成物質の試験組成物の性能を比較することにより測定される。第3の対照組成物は、本質的に、熱力学的に最も低いエネルギー状態(一般的に最も安定的な結晶形)である分散していない薬物、または結晶形が知られていない場合の非晶質形からなる。薬物/基質吸着物および親油性ミクロ相形成物質の好ましい組成物は、吸着物により提供される増大と本親油性ミクロ相形成物質により提供される増大をと単純に足すことにより期待される性能より優れた性能を示すことにより相乗的増大を示す。
【0146】
相乗効果を測定するためには、インビボまたはインビトロ溶出試験のいずれかで第1の対照組成物、第2の対照組成物、および第3の対照組成物の性能を測定する必要がある。第1の対照組成物(例えば、親油性ミクロ相形成物質を含まない吸着物)の相対的増大は、第3の対照組成物に対して測定される。例えば、第1の対照組成物が20,000minμg/mLのAUC90(すなわち、本組成物を使用環境に導入後最初の90分間で得られるAUC)を提供し、第3の対照組成物が1,000minμg/mLのAUC90を提供する場合、第1の対照組成物は20倍の相対的増大を有する。
【0147】
同様に、第2の対照組成物(例えば、結晶性薬物だけと親油性ミクロ相形成物質)の相対的増大は、第3の対照組成物に対して測定される。例えば、第2の対照組成物が40,000minμg/mLのAUC90を提供し、第3の対照組成物が1,000minμg/mLのAUC90を提供する場合、第2の対照組成物は40倍の相対的増大を有する。
【0148】
本発明の組成物は、第3の対照組成物と比較した試験組成物による相対的増大が、第1の対照組成物により提供される相対的増大および第2の対照組成物により提供される相対的増大の合計より大きい場合、相乗的増大が提供される。前述の例に戻って、第1の対照組成物が20倍の相対的増大を提供し、第2の対照組成物が40倍の相対的増大を提供する場合、それらの相対的増大の合計は60倍となるであろう。従って、試験組成物が第3の対照組成物と比較して60倍より大きい相対的増大を提供する場合、試験組成物は相乗的増大を提供する。
【0149】
相乗的増大はまた、第3の対照組成物と比較した、試験組成物、第1の対照組成物、および第2の対照組成物の相対的生物学的利用率を比較することにより測定できる。試験組成物の相対的生物学的利用率が、第1の対照組成物の相対的生物学的利用率および第2の対照組成物の相対的生物学的利用率の合計より大きい場合、相乗的増大が示されることになる。例えば、第1の対照組成物が第3の対照組成物に対して1.5の相対的生物学的利用率を提供し、第2の対照組成物が第3の対照組成物に対して2.0の相対的生物学的利用率を提供する場合、第3の対照組成物と比較して3.5より大きい相対的生物学的利用率を有する場合に、試験組成物は相乗的増大を示す。
賦形剤および製剤
【0150】
本組成物中に存在する重要な成分は、単純に(1)薬物/基質吸着物、(2)本親油性ミクロ相形成物質、(3)所望による濃度増大ポリマーであるが、本組成物における他の賦形剤の含有も有用であることができる。これらの賦形剤は、本組成物を錠剤、カプセル、坐剤、サスペンジョン、懸濁液のための粉末剤、クリーム剤、経皮パッチ、デポ剤などに製剤化するために使用することができる。
【0151】
通常のマトリックス物質、複合剤、充填剤、崩壊剤(崩壊物質)、または結合剤は、本組成物自身の部分として、あるいは湿式もしくは機械式または他の手段で造粒により加えることができる。これらの物質は、本組成物の90重量%までを含む事ができる。
【0152】
マトリックス物質、充填剤、または希釈剤の例は、ラクトース、マンニトール、キシリトール、微結晶セルロース、リン酸水素カルシウム(二水和物および無水物)、およびデンプンを含む。
【0153】
崩壊剤の例は、デンプングリコール酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ならびにクロスカルメロースナトリウム、および商品名クロスポビドン(BASF Corporationより市販)で売られているものなどのポリビニルピロリドンの架橋体を含む。
【0154】
結合剤の例は、メチルセルロース、微結晶セルロース、デンプン、ならびにグアールガム、およびトラガカントなどの増粘剤を含む。
【0155】
滑沢剤の例は、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、およびステアリン酸を含む。
【0156】
防腐剤の例は、亜硫酸塩(酸化防止剤)、塩化ベンザルコニウム、メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジルアルコールおよび安息香酸ナトリウムを含む。
【0157】
縣濁化剤または増粘剤の例は、キサンタンガム、デンプン、グアールガム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリアクリル酸、シリカゲル、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、および二酸化チタンを含む。
【0158】
固化防止剤または充填剤の例は、酸化ケイ素およびラクトースを含む。
【0159】
当該技術分野で公知の賦形剤を含む、他の通常の賦形剤を本発明の組成物に使用できる。一般に、色素、滑沢剤、香料などの賦形剤は、通常の目的に、本組成物の特性に悪影響を与えない典型的な量で、使用することができる。これらの賦形剤は、本組成物を錠剤、カプセル、サスペンジョン、懸濁液のための粉末剤、クリーム剤、経皮パッチなどに製剤化するために使用することができる。
【0160】
特に、即時放出錠剤、放出制御錠剤、遅延放出錠剤、チュアブル錠および固形物を含む類似のカプセルなどの固形製剤は、本発明の好ましい実施形態である。このタイプの好ましい製剤は、一般に、他の所望による賦形剤とともに、10重量%親油性ミクロ相形成物質〜80重量%親油性ミクロ相形成物質および薬物/基質吸着物を含む。
【0161】
親油性ミクロ相形成物質は、一般的に低融点もしくは低Tの固体であるかまたは室温で液体である場合もあり、一般的に錠剤を湿潤および溶解を促進する、約5重量%以下の低レベルを除いて、かかる固形製剤のための適切な添加剤とみなさないのが通常の考えである。しかしながら、本発明者らは、かかる通常の見識に反して、比較的高レベルの親油性ミクロ相形成物質を含有する、優れた特性を有する固形製剤を製造できることを見出した。かかる固形製剤に用いられるかかる高い親油性ミクロ相形成物質レベルのために、本発明者らは、本親油性ミクロ相形成物質の少なくとも一部を固体基質上に吸着させるか、または本親油性ミクロ相形成物質を水溶性または水分散性マトリックス中に分散させることが所望されることを見出した。前述のように、適切な吸着基質は、酸化ケイ素、リン酸水素カルシウム、微結晶セルロース、およびケイ酸カルシウムなどの物質を含む。適切な水溶性または水分散性分散マトリックス物質は、ショ糖およびキシリトールなどの糖、クエン酸または乳酸などの有機酸、ポリデキストロース、ポリエチレンオキシド、またはデキストリンなどの水溶性ポリマーを含む。特に好ましい分散マトリックス物質は、前記の濃度増大ポリマーである。特に好ましい実施形態において、本親油性ミクロ相形成物質は、薬物と共に高表面積基質上に同時吸着される。この実施形態のさらなる利点は、特に本親油性ミクロ相形成物質が約50℃未満の温度で液体の場合、比較的高レベルの親油性ミクロ相形成物質(最大約50重量%または場合によってはそれ以上)が、多くの場合、得られた物質を周囲条件で固体粉末または顆粒状態のままにしておきながら、使用できることである。
【0162】
本発明の組成物は、薬物の投与のためのさまざまな製剤に使用することができる。典型的な製剤は、乾燥状態で、または水もしくは他の液体を加えてペースト、スラリー、懸濁液または溶液に再構成して経口摂取できる粉末剤または顆粒剤;錠剤;カプセル;複合顆粒剤;およびピルである。本発明の組成物と種々の添加剤を混合、粉末化、または造粒して、上記製剤のために適切な物質を形成する。1つの好ましい実施形態において、薬物/基質吸着物は、本親油性ミクロ相形成物質を含有するビヒクル中に分散される。
【0163】
本発明の組成物は、液体ビヒクル中の粒子の懸濁液として送達されるように、種々の形態に製剤化できる。かかる懸濁液は、製造時に液体またはペーストとして製剤化できるが、後になって経口投与の前に液体(一般的に水)を加える、乾燥粉末として製剤化することもできる。懸濁液に再構成されるかかる粉末剤は、多くの場合、分包剤または再構成用経口粉末(OPC)製剤と呼ばれる。かかる製剤は、任意の公知の手順で製剤化または再構成できる。最も簡単なアプローチは、単に水を加えて撹拌することにより再構成する乾燥粉末として製剤を製造することである。あるいはまた、本製剤は混合し、撹拌して経口懸濁液を作る液体および乾燥粉末として、製剤を製造できる。さらに他の実施形態において、本製剤は、最初1つの粉末に水を加えて溶液を作り、これに第2の粉末を混合して懸濁液を作ることにより再構成される2つの粉末剤として製造できる。
【0164】
一般に、乾燥状態が本薬物の化学的および物理的安定性を促進するので、乾燥状態で長期保存するために本組成物を製剤化することが好ましい。従って、好ましい実施形態は、吸着物および親油性ミクロ相形成物質を含む固形製剤である。
【0165】
吸着物および親油性ミクロ相形成物質を送達するためのさらに他の方法は、吸着物および親油性ミクロ相形成物質をインビボ使用環境に同時投与することである。吸着物および親油性ミクロ相形成物質は、それぞれ別々にインビボ使用環境に添加することができる。従って、経口投与の場合、本親油性ミクロ相形成物質の経口摂取の前に、同時に、または本親油性ミクロ相形成物質の経口摂取後に吸着物を摂取することができる。一般に、インビボ使用環境に別々に投与する場合、吸着物および本親油性ミクロ相形成物質は、それぞれ約60分以内に、好ましくはそれぞれ約30分以内に、さらに好ましくはそれぞれ約15分以内に投与する必要がある。
【0166】
個別で同時投与できる薬物/基質吸着物および親油性ミクロ相形成物質の組み合わせを用いる治療による症状または障害の治療に関する態様を本発明を有するため、本発明はまた個別医薬組成物をキット形態に組み合わせることにも関する。本キットは、2つの個別医薬組成物:(1)薬物/基質吸着物を含む組成物および、(2)親油性ミクロ相形成物質を含む組成物を含む。(1)および(2)の量は、個別に同時投与される場合、症状または障害が治療および/または改善されるような量である。本キットは、(1)または(2)を含む多数の製剤(例えば、錠剤)を各コンパートメントが含む、分割ボトルまたは分割ホイルパケットなどの個別組成物を含有する容器を含む。あるいはまた、活性成分−含有製剤を個別にするよりも、本キットは、個別製剤を代わりに含む全投与量をそれぞれが含む個別コンパートメントを含むことができる。このタイプのキットの例は、2(以上)の錠剤(医薬組成物(1)を含む1(以上)の錠剤、および医薬組成物(2)を含む第2(以上)の錠剤を各ブリスターが含むブリスターパックである。一般的に、本キットは個別成分の投与のための説明書を含む。本キット形は、個別成分が、好ましくは異なる製剤(例えば、経口および非経口)で投与される場合、異なる投与間隔で投与されるか、あるいは組み合わせの個別成分の増量が処方医師により所望される場合、とりわけ好都合である。したがって、本発明の場合において、キットは、
(1)第1の製剤における、低溶解性薬物および高表面積基質の固体吸着物を含む組成物の治療的有効量;
(2)第2の製剤における、親油性ミクロ相形成物質を含む組成物の治療的有効量;および
(3)前記第1および第2の製剤を含有する容器;
を含む。
【0167】
上記で指摘したかかるキットの例は、いわゆるブリスターパックである。ブリスターパックは包装産業において公知であり、錠剤、カプセルなどの医薬単位製剤の包装に広く使用されている。ブリスターパックは、一般に、好ましくは透明なプラスチック物質のホイルで覆われた比較的硬い物質のシートからなる。包装プロセスの間に、プラスチックホイル中にくぼみを作る。くぼみは包装される錠剤またはカプセルのサイズと形を有する。ついで、錠剤またはカプセルをくぼみに入れ、比較的硬い物質のシートを、作られたくぼみの反対方向のホイルの面で、プラスチックホイルに対してシールする。結果として、錠剤またはカプセルは、プラスチックホイルおよびシートの間のくぼみ中にシールされる。好ましくは、シートの強度は、くぼみ上に手で圧力をかけ、くぼみの位置でシートに穴ができることにより、錠剤またはカプセルをブリスターパックから取り出すことができるようなものである。ついで、錠剤(単数もしくは複数)またはカプセル(単数または複数)は、前記の穴から取り出すことができる。
【0168】
例えば、指定された錠剤またはカプセルが、摂取されなければならない投与計画の日数に数字が対応する、錠剤またはカプセルに隣接する数字の形で、キット上に記憶補助を提供することが所望される場合がある。かかる記憶補助の他の例は、例えば、以下のようなカード上に印刷されたカレンダーである「第一週、月曜、火曜、・・・など、第二週、月曜、火曜、・・・など」。記憶補助の他の変形は、容易に推察されるであろう。“1日量”は、任意の日付に摂取される必要のある単一の錠剤もしくはカプセルまたはいくつかのピルもしくはカプセルであることができる。同様に、第1の化合物の1日量は1つの錠剤またはカプセルからなることができ、一方で第2の化合物の1日量はいくつかの錠剤またはカプセルからなることができ、逆もまた同様である。記憶補助はこれを反映する必要がある。
【0169】
本発明の組成物は、薬物の投与による治療の対象となる、任意の状態の治療に使用できる。
【0170】
本発明の他の特徴および実施形態は、本発明の例示のためであって、その意図する範囲を限定するものではない、以下の実施例により明らかになるであろう。
【実施例】
【0171】
(吸着物1)
50重量%の[2R,4S]4−[(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−メトキシカルボニル−アミノ]−2−エチル−6−トリフルオロメチル−3,4−ジヒドロ−2H−キノリン−1−カルボン酸エチルエステル(薬物1)、および50重量%のCAB−O−SIL M−5P(乾式シリカ、Cabot Corporation,Midland,Michigan)を基質(約200m/gmの表面積)としてを含む薬物/基質吸着物を形成するために以下のプロセスを使用した。まず、以下のように10gの薬物1、10gのCAB−O−SIL、および380gのアセトンを含むスプレー液を形成した。アセトンにCAB−O−SILを加え、完全な懸濁液と均一性を確実にするためにFisher Scientific SF15超音波処理装置を用いて30分間、混合物を超音波処理した。ついで、15分間撹拌することにより、薬物1をこの懸濁液に溶解した。圧力ノズル(Spraying Systems Pressure Nozzle and Body)(SK80―16)を備えたスプレードライヤー(Niro type XP Portable Spray−Dryer with a Liquid−Feed Process Vessel (“PSD−1”))に、Bran+Luebbe少量高圧ポンプを用いてスプレー液を注入した。PSD−1は9インチのチャンバーエクステンションを備えているものを用いた。ドライヤーの垂直長を増すために、9インチのチャンバーエクステンションをスプレードライヤーに追加した。付け加えた長さによりドライヤー内の滞留時間が増し、これによりスプレードライヤーの山形断面に達する前に製品が乾燥することが可能になった。スプレードライヤーはまた、1%の空きスペースを有する1/16インチドリル穴のついた316SS円形ディフューザープレートもまた装備していた。スプレードライヤー内の製品の再循環を最小にするために、この小さな空きスペースにより、乾燥ガスの流れを方向付けた。ノズルは、操作中、ディフューザープレートに対して平らに位置させた。ノズルでのパルセーションを最小にするために、高圧ポンプにはパルセーションダンプナーを付けた。スプレー液を350psigの圧力でスプレードライヤーに注入した。乾燥ガス(窒素)を、100℃の導入温度でディフューザープレートに循環させた。蒸発した溶媒および湿った乾燥ガスを、34.5℃の温度でスプレードライヤーから排出させた。このプロセスにより形成される薬物/基質吸着物をサイクロンに回収し、Gruenbergシングルパス対流トレー乾燥機を用い、30℃で16時間操作して、後の乾燥を行った。
(実施例1)
インビトロ溶出試験
【0172】
この試験により、インビトロにおける本発明を明らかにする。実施例1は、親油性ミクロ相形成物質を含有する溶液に添加した吸着物1からなった。時間0において、本親油性ミクロ相形成物質であるCremaphor RH40 (BASF of Mount Olive,New Jersey)を1mg/mL含む40mLのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)に、pH6.5、290mOsm/kgで吸着物1の4mgのサンプルを加えた。本薬物が全て溶解した場合、薬物濃度が50μg/mLとなるものであった。Gelman Acrodisc 13 CR 0.45μm PTFEフィルターを備えたシリンジ中、試験溶液を室温で撹拌した。各サンプル時間において、1〜2mLの試験溶液をフィルターを通して押出し、UVを用いて分析し、溶液中の薬物1濃度を測定した。0.5、1、2、3、5、10、15、20、30、45、60、90、120、150、250および1200分において、サンプルを回収した。表1にその結果を示す。
対照1
【0173】
対照1は、本親油性ミクロ相形成物質を含有しないPBS中に添加した吸着物1からなり、本薬物が完全に溶解した場合、薬物濃度が50μg/mLとなるような量の吸着物を加えた。対照1を用い、実施例1に概説した方法を用いてインビトロ溶出試験を行った。表1にその結果を示す。
対照2
【0174】
対照2は、本親油性ミクロ相形成物質であるクレモフォール RH40を1mg/mL含有するPBS中に添加した結晶性薬物1からなり、本薬物が全て溶解した場合、濃度が50μg/mLとなるような量で薬物1を加えた。対照2を用い、実施例1に概説した方法を用いて、インビトロ溶出試験を行った。結果を表1に示す。
対照3
【0175】
対照3は、本親油性ミクロ相形成物質を含有しないPBS中に添加した結晶性薬物1からなり、本薬物が全て溶解した場合、薬物濃度が50μg/mLとなるような量で結晶性薬物1を加えた。対照3を用い、実施例1に概説した方法を用いて、インビトロ溶出試験を行った。結果を表1に示す。
【表2】

【表3】

【0176】
これらの試験の結果を表2に要約する。この表は、試験の最初の90分における溶液中の薬物1の最高濃度(MDC90)、および90分後の水溶液濃度対時間曲線下面積(AUC90)を示す。
【表4】

【0177】
これらの結果は、対照1、2、および3の組成物よりも本発明の組成物のほうが増大を提供したことを示している。実施例1は、対照1のものと比較して少なくとも34.0倍より大きいMDC90、対照2のものと比較して17.0倍大きいMDC90、および対照3のものと比較して少なくとも34.0倍より大きいMDC90を提供した。実施例1はまた、対照1のものと比較して少なくとも18.7倍より大きいAUC90、対照2のものと比較して15.0倍大きいAUC90、および対照3のものと比較して少なくとも18.7倍より大きいAUC90を提供した。
(実施例2)
インビトロ溶出試験
【0178】
実施例2は、異なる親油性ミクロ相形成物質を含有する溶液中に添加した吸着物1からなった。時間0において、5/2(wt/wt)Cremaphor RH40/Capmul MCM(Abitec of Janesville,WI)を1mg/mL含む40mLのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)に、pH6.5、290mOsm/kgで吸着物1の4mgのサンプルを加えた。本薬物が全て溶解した場合、薬物濃度が50μg/mLとなるものであった。実施例1に記載したように、Gelman Acrodisc 13 CR 0.45μm PTFEフィルターを備えたシリンジ中、試験溶液を室温で撹拌した。サンプルを回収し、UVを用いて分析し、溶液中の薬物1濃度を測定した。結果を表3に示す。
対照4
【0179】
対照4は、5/2(wt/wt)クレモフォールRH40/Capmul MCMを含むPBS中に添加した結晶性薬物1からなり、本薬物が全て溶解した場合、濃度が50μg/mLになるような十分な量で薬物1を加えた。結果を表3に示す。
【表5】

【0180】
これらの試験の結果を表4に要約する。この表は、試験の最初の90分における溶液中の薬物1の最高濃度(MDC90)、および90分後の水溶液濃度対時間曲線下面積(AUC90)を示す。この場合も対照1および3を比較のために示す。
【表6】

【0181】
これらの結果は、本発明により提供された濃度は、対照により提供された濃度よりずっと大きかったことを示している。実施例2は、対照4のものと比較して17.0倍のMDC90、対照1と比較して少なくとも30.6倍より大きいMDC90、および対照3のものと比較して少なくとも30.6倍より大きいMDC90を提供した。実施例2はまた、対照4のものと比較して11.2倍のAUC90、対照1のものと比較して少なくとも16.9倍より大きいAUC90、および対照3のものと比較して少なくとも16.9倍より大きいAUC90を提供した。
吸着物2
【0182】
30重量%の[2R,4S]4−[(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−メトキシカルボニル−アミノ]−2−エチル−6−トリフルオロメチル−3,4−ジヒドロ−2H−キノリン−1−カルボン酸イソプロピルエステル(薬物2)、および70重量%のCAB−O−SIL M−5P(基質)を含む薬物/基質吸着物を形成するために、以下のプロセスを用いた。まず、122.0mgの薬物2、200.7mgのCAB−O−SIL M−5P、および20gアセトンを含むスプレー液を以下のように形成した。アセトンにCAB−O−SILを加え、完全な懸濁液と均一性を確かにするためにFisher Scientific SF15超音波処理装置を用いて、混合物を30分間超音波処理した。ついで、15分間撹拌することにより、薬物2をこの懸濁液に溶解した。ついでこの懸濁液を、コールパーマー74900シリーズ速度調節シリンジポンプにより、1.0mL/minの速度で“ミニ”噴霧乾燥装置中に注入した。噴霧乾燥装置には、窒素を噴霧ガスに用いる、Spraying Systems Co.の二流体ノズルを有する型番SU1Aを用いた。窒素は加圧し、55℃の温度に加熱し、約1標準立法フィート/min(SCFM)の流速を有した。11−cmの直径のステンレススチールチャンバーの上部から懸濁液をスプレーした。得られた薬物/基質吸着物を、Whatman1濾紙上に回収し、減圧下で乾燥し、デシケーター中に保存した。
実施例3
インビトロ溶出試験
【0183】
実施例3は、親油性ミクロ相形成物質を含有する溶液中に添加した吸着物2からなった。時間0において、1mg/mLのPEG6000ジステアレート(本薬物が全て溶解した場合、薬物濃度は50μg/mLとなる)を含有する40mLのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)に、pH6.5および290mOsm/kgで、吸着物2のサンプルを6.656mg添加した。実施例1に記載したように、Gelman Acrodisc 13 CR 0.45μm PTFEフィルターを備えたシリンジ中、室温で試験溶液を撹拌した。サンプルを回収し、UVを用いて分析して、溶液中の薬物2濃度を測定した。結果を表5に示す。
対照5
【0184】
対照5は、本親油性ミクロ相形成物質を含有しないPBS中に添加された吸着物2からなり、本薬物が全て溶解した場合、薬物濃度が50μg/mLとなるような十分な量でサンプルを加えた。
対照6
【0185】
対照6はPEG6000ジステアレートを含有するPBS中に添加した結晶性薬物2からなり、本薬物が全て溶解した場合、薬物濃度が50μg/mLとなるような十分な量で薬物2を加えた。
対照7
【0186】
対照7は本親油性ミクロ相形成物質を含有しないPBS中に添加した結晶性薬物2からなり、本薬物が全て溶解した場合、薬物濃度が50μg/mLとなるような十分な量で薬物2を加えた。
【表7】

【0187】
これらの試験の結果を表6に要約する。この表は、試験の最初の90分における溶液中の薬物2の最高濃度(MDC90)、および90分後の水溶液濃度対時間曲線下面積(AUC90)を示す。
【表8】

【0188】
これらの結果は、本発明により提供された濃度が、対照により提供された濃度よりずっと大きかったことを示している。実施例3は、対照5のMDC90と比較して少なくとも6.4倍より大きいMDC90、対照6のMDC90と比較して少なくとも6.4倍より大きいMDC90、および対照7のMDC90と比較して少なくとも6.4倍より大きいMDC90を提供した。実施例3はまた、対照5のAUC90と比較して少なくとも5.3倍より大きいAUC90、対照6のAUC90と比較して少なくとも5.3倍より大きいAUC90、および対照7のAUC90と比較して少なくとも5.3倍より大きいAUC90を提供した。
吸着物3
【0189】
25重量%の5−(2−(4−(3−ベンゾイソチアゾリル)−ピペラジニル)エチル−6−クロロオキシインドール(薬物3)、および75重量%のCAB−O−SIL M−5P(基質)を含有する薬物/基質吸着物を形成するために、以下のプロセスを用いた。62.5mgの薬物3、187.5mgのCAB−O−SIL M−5P、および40gのアセトン/水(9/1)を含有するスプレー液を形成し、吸着物2に関して記載した“ミニ”噴霧乾燥装置を用いてスプレードライした。1.3mL/minの速度で懸濁液を“ミニ”スプレードライヤーに注入し、窒素噴霧ガスを70℃の温度に加熱した。
実施例4
インビトロ溶出試験
【0190】
実施例4は、親油性ミクロ相形成物質を含有する溶液中に添加した吸着物3からなった。時間0において、吸着物3のサンプル8.02mgを5mg/mLのツイーン80(ICI Americas Inc)を含有する40mLの50mM 3−(4−モルホリノプロパンスルホン酸)ナトリウム塩(MOPS)緩衝液(pH7.4)に加えた。本薬物が全て溶解した場合、薬物濃度は50μg/mLになるものであった。実施例1に関して記載したように、Gelman Acrodisc 13 CR 0.45μm PTFEフィルターを備えたシリンジ中、室温で試験溶液を撹拌した。サンプルを回収し、UVを用いて分析して、溶液中の薬物3濃度を測定した。結果を表7に示す。
対照8
【0191】
対照8は、本親油性ミクロ相形成物質を含有しないPBS中に添加した吸着物3からなり、本薬物が全て溶解した場合、薬物濃度が50μg/mLとなるような十分な量でサンプルを加えた。
対照9
【0192】
対照9は、ツイーン80を含有するPBS中に添加した結晶性薬物3からなり、本薬物が全て溶解した場合、濃度が50μg/mLとなるような十分な量で薬物3を加えた。
対照10
【0193】
対照10は、本親油性ミクロ相形成物質を含有しないPBS中に添加した結晶性薬物3からなり、本薬物が全て溶解した場合、薬物濃度が50μg/mLとなるような十分な量でサンプルを加えた。
【表9】

【0194】
これらの試験の結果を表8に要約する。この表は、試験の最初の90分における溶液中の薬物3の最高濃度(MDC90)、および90分後の水溶液濃度対時間曲線下面積(AUC90)を示す。
【表10】

【0195】
これらの結果は、本発明により提供された濃度が、対照により提供された濃度よりずっと大きかったことを示している。実施例4は、対照8のMDC90と比較して少なくとも17.0倍より大きいMDC90、対照9のMDC90と比較して8.5倍のMDC90、および対照10のMDC90と比較して少なくとも17.0倍より大きいMDC90を提供した。実施例4はまた、対照8のAUC90と比較して少なくとも6.1倍より大きいAUC90、対照9のAUC90と比較して4.5倍のAUC90、および対照10のAUC90と比較して少なくとも6.1倍より大きいAUC90を提供した。
【0196】
前述の明細書中に用いてきた用語および表現は、説明のために用いたものであって、限定のために用いたものではない。かかる用語および表現の使用において、記載された特徴の均等物またはその部分を排除することを意図するものではなく、本発明の範囲は、本出願に記載の請求項によってのみ定義され、限定を受けるものであると認識されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)および(b)を含む組成物であって、
(a)基質上に吸着された薬物を含んでなる固体吸着物であって、前記吸着物中の前記薬物の少なくとも大部分が非晶質である前記吸着物;
(b)親油性ミクロ相形成物質であって、0.1〜500の、前記薬物に対する前記親油性ミクロ相形成物質の重量比を前記組成物が有する前記ミクロ相形成物質;
を含み、ここで、前記親油性ミクロ相形成物質が水不混和性であり、前記薬物が約10または、それ以上の、使用環境および親油性ミクロ相形成物質間の分配係数Kを有する前記組成物。
【請求項2】
前記組成物が濃度増大ポリマーをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記固体吸着物が前記濃度増大ポリマーをさらに含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
第1の対照組成物および第2の対照組成物の少なくとも1つと比較して、前記組成物が使用環境における前記薬剤の濃度増大を提供することができるような十分な量で前記親油性ミクロ相形成物質が存在する、請求項1および2に記載のいずれか1項の組成物であって;
(i)前記第1の対照組成物は、親油性ミクロ相形成物質が存在しない、等しい量の前記固体吸着物から本質的になり;
(ii)前記第2の対照組成物は、等しい量の前記親油性、ミクロ相形成物質を有する、等しい量の非吸着形前記薬剤から本質的になる;前記組成物。
【請求項5】
前記分配係数Kが約50または、それ以上である、請求項1および2に記載のいずれか1項の組成物。
【請求項6】
前記親油性ミクロ相形成物質が、前記組成物中にMlipophileの質量で存在し、グラムで測定され、そして前記組成物が式:
【化1】

を満たす、請求項1および2に記載のいずれか1項の組成物。
【請求項7】
前記親油性ミクロ相形成物質が、前記使用環境中で、約100μm未満の特性直径を有する親油性ミクロ相を形成する、請求項1および2に記載のいずれか1項の組成物。
【請求項8】
前記親油性ミクロ相形成物質が、中鎖グリセリルモノ−、ジ−、およびトリ−アルキレート、ソルビタンエステル、長鎖脂肪アルコール、長鎖脂肪酸、リン脂質、カプリン酸およびカプリル酸のモノおよびジグリセリド、ポリオキシエチレン6アプリコットカーネル油、ポリオキシエチレンコーンオイル、プロピレングリコールモノラウレート、プロピレングリコールジカプリレート/カプレート、ポリグリセリル、脂肪酸のソルビタンエステル、グリセリルモノオレエート、中鎖トリグリセリドおよび長鎖トリグリセリド、ならびにモノ−、ジ−、およびトリグリセリドの混合物、またはアルキルアルコールとのエステルなどの脂肪酸の親油性誘導体、分留ココナッツ油、植物油、アルキルアルコールの脂肪酸エステル、アルコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸、グリセロール脂肪酸モノエステル、グリセロール脂肪酸ジエステル、アセチル化グリセロール脂肪酸モノエステル、アセチル化グリセロール脂肪酸ジエステル、低級アルコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールグリセロール脂肪酸エステル、ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリド、モノグリセリドの乳酸誘導体、ジグリセリドの乳酸誘導体、プロピレングリコールジグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、エステル交換植物油、ステロール、ステロール誘導体、糖エステル、糖エーテル、スクログリセリド、ポリオキシエチレン植物油、ポリオキシエチレン硬化植物油、ポリオールと脂肪酸、グリセリド、植物油、硬化植物油、およびステロールからなるグループのメンバーの少なくとも1つとの反応生成物;およびそれらの混合物からなるグループから選択される、請求項1および2に記載のいずれか1項の組成物。
【請求項9】
前記親油性ミクロ相形成物質が、スルホン化炭化水素およびその塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、短鎖グリセリルモノ−アルキレート、ポリグリコール化グリセリド、ポリオールのモノ−およびジ−アルキレートエステル、ポリオキシエチレン20ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン20ソルビタンモノラウレート、ポリエチレン(40または60)硬化ひまし油、ポリオキシエチレン(35)ひまし油、ポリエチレン(60)硬化ひまし油、αトコフェリルポリエチレングリコール1000スクシネート、グリセリルPEG8カプリレート/カプレート、PEG32グリセリルラウレート、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、およびポリオキシエチレン脂肪酸エーテル、ならびにそれらの混合物からなるグループから選択される、請求項1および2に記載のいずれか1項の組成物。
【請求項10】
前記親油性ミクロ相形成物質が疎水性物質および両親媒性物質の混合物である、請求項1および2に記載のいずれか1項の組成物。
【請求項11】
前記親油性ミクロ相形成物質が、ポリエトキシル化ひまし油および中鎖グリセリルモノ−、ジ−、および/またはトリ−アルキレートの混合物、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルおよび中鎖グリセリルモノ−、ジ−、および/またはトリ−アルキレートの混合物、ポリエトキシル化ひまし油および中鎖グリセリルモノ−、ジ−、および/またはトリ−アルキレートの混合物、タウロコール酸ナトリウムならびにパルミトイル−2−オレイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンおよび他の天然または合成ホスファチジルコリンの混合物、ならびにポリグリコール化グリセリドおよび中鎖グリセリルモノ−、ジ−、および/またはトリ−アルキレートの混合物からなるグループから選択される、請求項1および2に記載のいずれか1項の組成物。
【請求項12】
前記薬物に対する前記親油性ミクロ相形成物質の前記質量比が0.1〜100である、請求項1および2に記載のいずれか1項の組成物。
【請求項13】
前記親油性ミクロ相形成物質が、前記第1の対照組成物および前記第2の対照組成物の少なくとも1つにより提供される高移動性薬物の濃度よりも少なくとも2倍の高移動性薬物の濃度を提供するために十分な量存在する、請求項4に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物が、前記第1の対照組成物および前記第2の対照組成物の少なくとも1つにより提供される最大総溶解薬物濃度の少なくとも1.25倍の最大総溶解薬物濃度を前記使用環境において提供する、請求項4に記載の組成物。
【請求項15】
前記薬物が、降圧剤、抗不安薬、抗凝固剤、抗痙攣薬、血糖降下剤、うつ血除去剤、抗ヒスタミン剤、鎮咳剤、抗腫瘍剤、β遮断薬、抗炎症剤、抗精神病薬、認知促進剤、抗アテローム性動脈硬化薬、コレステロール低下剤、抗肥満薬、自己免疫疾患治療薬、性的不全治療薬、抗菌剤および抗真菌剤、睡眠剤、抗パーキンソン症候群薬、抗アルツハイマー病薬、抗生物質、抗うつ薬、および抗ウイルス剤、グリコーゲンホスホリラーゼ阻害剤、およびコレステリルエステル転移タンパク質阻害剤からなるグループから選択される、請求項1および2に記載のいずれか1項の組成物。
【請求項16】
前記濃度増大ポリマーが、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポロキサマー、ポリビニルピロリドン、少なくともその繰り返し単位の一部が加水分解された形であるポリビニルアルコール、およびそれらの混合物からなるグループから選択される、請求項2および3に記載のいずれか1項組成物。

【公表番号】特表2007−501218(P2007−501218A)
【公表日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522429(P2006−522429)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【国際出願番号】PCT/IB2004/002498
【国際公開番号】WO2005/011635
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(397067152)ファイザー・プロダクツ・インク (504)
【Fターム(参考)】