説明

非木材パルプの製造方法および紙

【課題】リグニン以外の樹脂不純物を含む非木材の植物繊維を用いた非木材パルプの製造方法であって、当該樹脂不純物が十分に除去される製造方法を提供する。
【解決手段】リグニン以外の樹脂不純物を含む非木材の植物繊維を用いた非木材パルプの製造方法であって、煮熟および叩解した前記植物繊維を、無機酸塩、有機酸塩および水酸化物からなる群から選択される少なくとも一つを含み、かつpHが4.8以上の第1浸漬液に浸漬させた状態で、当該第1浸漬液に周波数20〜50kHzの超音波を伝導させる第1洗浄工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非木材の植物繊維を用いた非木材パルプの製造方法、および当該製造方法により製造された非木材パルプを用いた紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、非木材パルプは和紙などの原料として使用されている。このような非木材パルプの原料となる植物繊維として、コウゾ、ミツマタ、ガンピなどの樹皮から得られる靭皮繊維や、わら、バガスなどの茎稈繊維や、マニラ麻等の葉脈から得られる維管束繊維などが知られている。
【0003】
非木材繊維は、木材繊維と同様にアルカリ法(AP法)やクラフト法(KP法)によりパルプ化することができる。しかしながら、非木材繊維は木材繊維と比較して、一般にリグニンが少ない、繊維が粗く柔らかいなどの特徴を有するため、非木材繊維に適した過酸化水素とアルカリとを含む溶液を蒸解薬液とするパルプ化の方法が提案されている(たとえば、特許文献1、2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−104788号公報
【特許文献2】特開平11−286884号公報
【特許文献3】特開2000−290885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、和紙等の原料である非木材繊維は、日本国内での生産不足から、種々の外国産原料が輸入され使用されるようになってきた。その中でも、タイ産およびフィリピン産のコウゾが原料として多量に使用されているが、これらのコウゾは原料中に樹脂分を多く含む。これは、南方産ということもあってか、植物自身が害虫や疫病から身を守るために備えていると考えられる。したがって、このようなコウゾから得られた非木材パルプを用いて、たとえば和紙を製造する場合、ところどころにこの樹脂分が確認され、和紙としての品質を低下させる。特に書道用紙にこの樹脂分が残ると、墨をはじいてしまうなどの問題が生じる。
【0006】
従来の非木材繊維のパルプ化方法では、この樹脂分を十分に取り除くことは難しかった。また、この樹脂分は木材繊維に多く含まれるリグニンとは異なる樹脂不純物であるため、従来の木材原料のパルプ化方法によってもこの樹脂分を十分に取り除くことは難しかった。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、リグニン以外の樹脂不純物を含む非木材の植物繊維を用いた非木材パルプの製造方法であって、当該樹脂不純物が十分に除去される製造方法を提供することを目的とする。また、リグニン以外の樹脂不純物を含む非木材の植物繊維を用いた非木材パルプからなる紙であって、紙の品質低下を招くような樹脂不純物の残存がない紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、リグニン以外の樹脂不純物を含む非木材の植物繊維を用いた非木材パルプの製造方法であって、煮熟、および打解または叩解した前記植物繊維を、無機酸塩、有機酸塩および水酸化物からなる群から選択される少なくとも一つを含み、かつpHが4.8以上の第1浸漬液に浸漬させた状態で、当該第1浸漬液に周波数20〜50kHzの超音波を伝導させる第1洗浄工程を有する。
【0009】
上記製造方法において、第1浸漬液は、好ましくは、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸ニカリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも一つを含む。
【0010】
上記製造方法において、非木材の植物繊維として、たとえば、東アジア産または東南アジア産のコウゾが用いられる。
【0011】
上記製造方法において、第1洗浄工程の後に、第2洗浄工程を有することが好ましい。第2洗浄工程は、植物繊維を、無機酸塩、有機酸塩および水酸化物からなる群から選択される少なくとも一つと、酸化剤とを含む第2浸漬液に浸漬させた状態で、当該第2浸漬液に周波数20〜50kHzの超音波を伝導させる。
【0012】
上記製造方法において、第2洗浄工程に添加される酸化剤は、好ましくは、過酸化水素、過酸化物およびオゾンからなる群より選択される少なくとも一つを含む。
【0013】
上記製造方法において、第2浸漬液は、好ましくは、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸ニカリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも一つを含む。
【0014】
また、本発明は、上記製造方法により製造された非木材パルプを抄紙して得られた紙である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によると、リグニン以外の樹脂不純物を含む非木材の植物繊維、たとえば外国産のコウゾを用いて、当該不純物が十分に除去された非木材パルプを得ることができる。また、リグニン以外の樹脂不純物を含む非木材の植物繊維を用いた非木材パルプからなる紙であって、紙の品質低下を招くような樹脂不純物の残存がない紙を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の方法により処理を行なっていない植物繊維A1の透過光顕微鏡写真である。
【図2】本発明の方法により処理を行なった植物繊維B1の透過光顕微鏡写真である。
【図3】タイ産のコウゾに含まれる樹脂不純物に関して、フーリエ変換赤外分光光度計により得られた波形グラフである。
【図4】タイ産のコウゾに含まれる樹脂不純物をC染色液で染色した顕微鏡写真である。
【図5】新聞紙をフロログルシンにより染色して得られた顕微鏡写真である。
【図6】タイ産のコウゾに含まれる樹脂不純物に関して、フロログルシンにより染色して得られた顕微鏡写真である。
【図7】比較例1の手すき紙の40倍の蛍光顕微鏡写真である。
【図8】比較例1の手すき紙の100倍の蛍光顕微鏡写真である。
【図9】実施例1の手すき紙の40倍の蛍光顕微鏡写真である。
【図10】比較例1と同じ原料を用いて作製した機械すき和紙を染色した際に生じる染色ムラの様子を示す40倍の顕微鏡写真である。
【図11】比較例1と同じ原料を用いて作製した機械すき和紙を染色した際に生じる蛍光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[非木材パルプの製造方法]
本発明は、リグニン以外の樹脂不純物(以下、単に「樹脂不純物」ともいう)を含む非木材の植物繊維を用いた非木材パルプの製造方法であって、煮熟、および打解または叩解が施された当該植物繊維を無機酸塩、有機酸塩および水酸化物からなる群から選択される少なくとも一つを含み、かつpHが4.8以上である第1浸漬液に浸漬させた状態で、第1浸漬液に周波数20〜50kHzの超音波を伝導させる第1洗浄工程を有する。好ましくは、第1洗浄工程の後に、前記植物繊維を酸化剤を含む第2浸漬液に浸漬させた状態で第2浸漬液に周波数20〜50kHzの超音波を伝導させる第2洗浄工程を有する。本発明により製造される非木材パルプは、紙の原料として、単独あるいは他の原料と組み合わせて用いることができる。
【0018】
<非木材の植物繊維>
本発明に使用する非木材の植物繊維は、植物の皮、茎、葉、葉鞘から採取した繊維であり、たとえば、大麻、亜麻、苧麻(チョマ)、黄麻(ジュート)、楮(コウゾ)、雁皮(ガンピ)、三椏(ミツマタ)、稲藁(わら)、麦わら、竹(たけ)、エスパルト、バガス、葦(アシ)、トウモロコシの茎、ララン草、ダンチク、アバカ(マニラ麻)、サイザル麻、ニュージーランド麻、サンセビリア麻、パイナップル、バナナ、芭蕉(ばしょう)、カルナバヤシ、棕櫚(しゅろ)、クワン草、月桃(げっとう)、ユッカ、木綿、リンター、カポック、ヤシ、ビンロウ樹、その他にい草、七島い、サラゴ(フィリピン雁皮)、オクラ、クララ、ケナフ、モロチ草、パピルス、サバイ草、イチビ、ガマなどから得られる繊維があるが、これらに限定されることはなく種々の原料を使用することができる。
【0019】
本発明に使用する非木材の植物繊維は、リグニン以外の樹脂不純物を含むものを用いる。本発明の製造方法によると、このような樹脂不純物を有効に除去することができるからである。樹脂不純物としてリグニンを除外しているのは、リグニンであれば通常の木材原料等にも多く含まれ、公知の除去方法により除去することができるからである。リグニン以外の樹脂不純物を含む植物繊維として、タイ、ラオス、ベトナム、中国南部、フィリピン等の東アジア産または東南アジア産のコウゾ、フィリピン産のコウゾから得られた植物繊維が例示される。後述のフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)による分析、蛍光観察、染色法により、タイ産のコウゾ中にリグニン以外の樹脂不純物が含まれることを確認した。
【0020】
<製造方法>
以下、本発明に係る非木材パルプの製造方法の好ましい一例を説明する。非木材パルプは、たとえばコウゾを用いる場合、コウゾの枝を刈り取り、これを蒸して皮を剥き、外側の黒皮を削り取り、内側の白皮を原料にする。そして、原料の植物繊維を煮熟し、その後打解または叩解する。煮熟、打解、および叩解以外に他の処理を行なってもよく、たとえば必要に応じて漂白および塵取りを行なってもよい。煮熟、および打解または叩解を行なった植物繊維を第1洗浄工程、好ましくはさらに第2洗浄工程に供する。
【0021】
(煮熟)
原料の植物繊維をアルカリ性溶液で煮るまたは蒸して、柔らかな繊維にする。アルカリ性溶液は特に限定されることはなく、たとえば、炭酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ性薬品を水に添加して調整することができる。植物繊維の乾燥質量に対してたとえば10〜30質量%となるようにアルカリ性薬品を添加することが好ましい。たとえば、植物繊維の乾燥質量に対して10倍量以上のアルカリ性溶液中で、2時間程度の煮沸処理を行なうことができる。煮熟を終えた後、植物繊維を流水中に放置するか、または水洗してアルカリ成分を除く。
【0022】
(漂白)
漂白は、天然漂白(たとえば、川晒しや雪晒し)や、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウムなどの公知の漂白剤を用いて漂白することができる。
【0023】
(塵取り)
植物繊維を水中に浸漬させた状態で、繊維中の塵(非繊維物質)を取り除く。
【0024】
(打解・叩解)
植物繊維を打解または叩解によりさらなる原料処理を行なう。「打解」とは、植物繊維をこん棒、ハンマー、またはその他の打解機で打ち込み、水中で1本の単繊維に分散しやすいように植物繊維をほぐす処理を意味する。「叩解」とは、植物繊維を構成している単繊維を、水を介してビーターやリファイナーなどの叩解機で刃同士(リファイナーの場合は回転刃同士、ビーターは回転刃と固定刃の組み合わせ)の間で磨り潰す処理を意味する。なお、叩解機により単繊維を細かく毛羽立たせ(「フィブリル化」ともいう)、紙を製造する際に単繊維同士の結合力を強め紙の強度を向上させることもできる。また、叩解機により磨り潰しを行なわずに解繊のみを行なうことも可能である。叩解機の刃の間隔を広げ、水を介したゆるやかな接触と摩擦で植物繊維をほぐすことにより解繊を行なう。本明細書において、「叩解」とは叩解機による解繊処理も含むものとする。
【0025】
(第1洗浄工程)
第1洗浄工程は、蒸解および叩解した植物繊維を第1浸漬液に浸漬させた状態で、第1浸漬液に超音波を伝導させて、樹脂不純物を除去する。第1浸漬液は、無機酸塩、有機酸塩および水酸化物からなる群から選択される少なくとも一つを含む。無機酸塩、有機酸塩および水酸化物からなる群から選択される少なくとも一つは、好ましくは、ナトリウム塩またはカリウム塩である。無機酸塩、有機酸塩および水酸化物から選択される少なくとも一つは、好ましくは、炭酸塩、リン酸塩、クエン酸塩または水酸化物である。第1浸漬液は、さらに好ましくは、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸ニカリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも一つを含み、最も好ましくは、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、リン酸ニナトリウムおよびリン酸ニカリウムからなる群より選択される一つを含む。
【0026】
第1浸漬液の無機酸塩、有機酸塩および水酸化物の合計濃度は限定されないが、好ましくは10〜200(g/L)の水溶液である。10(g/L)未満であると、樹脂不純物を効果的に除去することができない場合がある。第1浸漬液のpHは、4.8以上であり、好ましくは7.5以上、より好ましくは8.0〜12.0である。第1浸漬液のpHが7.5以上であることにより、効果的に繊維内の樹脂不純物を除去することができる。第1浸漬液は、さらに界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤としては、陰イオン系界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム等)、理化学用液体洗浄剤(特殊アニオン系、非イオン系界面活性剤等)、製紙用消泡剤(ポリエーテル誘導体、脂肪酸誘導体等)などが例示される。たとえば、ドデシル硫酸ナトリウムを0.01〜0.1(g/L)添加することにより、第1浸漬液と植物繊維との親和性を向上させることができ、樹脂不純物が除去されやすいようにすることができる。
【0027】
第1洗浄工程は、第1浸漬液中、植物繊維の濃度をたとえば1〜10質量%、好ましくは3〜5質量%となるように調整する。浸漬と同時に超音波伝導を開始してもよいが、好ましくは浸漬させた状態で放置し、その後超音波伝導を開始する。放置時間は、たとえば24時間以上放置してもよい。放置時の第1浸漬液の温度は、室温でもよいし、加温装置により加温し、たとえば40〜50℃としてもよい。放置により、植物繊維が第1浸漬液に十分に浸漬され、樹脂不純物がより除去されやすくなる。
【0028】
超音波伝導は、植物繊維を浸漬させた第1浸漬液に周波数20〜50kHzの低周波の超音波を加えることにより行なう。周波数が50kHzを超える超音波伝導の場合、第1浸漬液の振動が確認できないほど小さなキャビテーションが発生することになり、この程度のキャビテーションでは樹脂嚢からの樹脂不純物の押出しへの寄与が充分でない場合がある。また、周波数が20kHzより小さい場合、非常に大きなキャビテーションが発生して樹脂不純物だけでなく繊維自身の破壊につながる可能性がある。このような低周波数の超音波とともに、50kHzを超える高周波の超音波を組み合わせてもよい。超音波の伝導時間は継続して30分以上が好ましい。超音波の伝導を複数回繰り返してもよい。なお、超音波を伝導すると発生するキャビテーションの消滅によるエネルギーで第1浸漬液の液温が上昇する。たとえば、開始時に室温であった第1浸漬液の温度が、超音波の伝導を30分継続することにより50℃位まで上昇する場合がある。このような第1浸漬液の温度上昇は、樹脂不純物除去効果を活性化させる。したがって、超音波を伝導させることとは別に、加温装置を用いて第1浸漬液を加熱してもよい。
【0029】
超音波伝導後は、植物繊維を第1浸漬液に浸漬させた状態で放置してもよいし、そのまま次の工程に移ってもよい。次の工程として、好ましくは第2洗浄工程を行なう。
【0030】
(第2洗浄工程)
第2洗浄工程は、第1洗浄工程を行なった植物繊維を第2浸漬液に浸漬させた状態で、第2浸漬液に超音波を伝導する。第2浸漬液は酸化剤を含む。酸化剤は、好ましくは、過酸化水素、過酸化物およびオゾンからなる群より選択される。第2浸漬液は、無機酸塩、有機酸塩および水酸化物からなる群から選択される少なくとも一つを含む。無機酸塩、有機酸塩および水酸化物からなる群から選択される少なくとも一つは、好ましくは、ナトリウム塩またはカリウム塩である。無機酸塩、有機酸塩および水酸化物から選択される少なくとも一つは、好ましくは、炭酸塩、リン酸塩、クエン酸塩または水酸化物である。第2浸漬液は、さらに好ましくは、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸ニカリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも一つを含み、最も好ましくは、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、リン酸ニナトリウムおよびリン酸ニカリウムからなる群より選択される一つを含む。第2浸漬液は、処理の簡便性の観点から、好ましくは植物繊維を浸漬させた状態の第1浸漬液に酸化剤を添加して第2浸漬液とする。
【0031】
第2浸漬液の無機酸塩、有機酸塩および水酸化物の合計濃度は限定されないが、好ましくは10〜200(g/L)の水溶液である。10(g/L)未満であると、樹脂不純物を効果的に除去することが難しい場合がある。また、酸化剤濃度が10質量%以上の水溶液が好ましく、10〜50質量%の水溶液がさらに好ましい。第2浸漬液は、さらに界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤としては、陰イオン系界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム等)、理化学用液体洗浄剤(特殊アニオン系、非イオン系界面活性剤等)、製紙用消泡剤(ポリエーテル誘導体、脂肪酸誘導体等)などが例示される。
【0032】
第2洗浄工程は、第2浸漬液中、植物繊維の濃度をたとえば1〜10質量%となるように調整する。浸漬と同時に超音波伝導を開始してもよいが、浸漬させた状態で放置し、その後超音波伝導を開始してもよい。放置時間は、たとえば24時間以上とすることができる。放置時の第2浸漬液の温度は、室温でもよいし、加温装置により加温し、たとえば40〜50℃としてもよい。
【0033】
超音波伝導は、植物繊維を浸漬させた第2浸漬液に周波数20〜50kHzの低周波の超音波を加えることにより行なう。この周波数の範囲が適している理由は、第1洗浄工程において述べた通りである。このような低周波の超音波とともに、50kHzを超える高周波の超音波を組み合わせてもよい。超音波の伝導時間は継続して30分以上が好ましい。超音波の伝導を複数回繰り返してもよい。なお、超音波を伝導すると発生するキャビテーションの消滅によるエネルギーで第2浸漬液の液温が上昇する。このような第2浸漬液の温度上昇は、樹脂不純物除去効果を活性化させる。したがって、超音波を伝導させることとは別に、加温装置を用いて第2浸漬液を加熱してもよい。
【0034】
超音波伝導後は、植物繊維を第2浸漬液に浸漬させた状態で放置してもよいし、そのまま次の工程に移ってもよい。次の工程として、好ましくは植物繊維の水洗、脱水工程である。
【0035】
第1洗浄工程、または第1洗浄工程および第2洗浄工程を経て、非木材パルプが製造される。
【0036】
[紙の製造方法]
上記の非木材パルプに、必要に応じて、他の非木材パルプあるいや木材パルプを組み合わせ、さらに、凝結剤、凝集剤、填料、内添サイズ剤、定着剤、歩留まり向上剤、嵩高剤、カチオン化剤、紙力増強剤、消泡剤、着色剤、染料等の各種製紙助剤等が添加され、抄紙工程に供される。
【0037】
(抄紙工程)
抄紙工程は、公知の手すきまたは抄紙機によりなされる。手すきは、たとえば日本古来からの伝統技術である流し漉き法や溜め漉き法により行なうことができる。抄紙機を用いる場合、抄紙機の種類は特に限定されないが、円網、長網、傾斜型短網、懸垂型短網等からなるワイヤーパート、プレスロールを装備したプレスパート、ヤンキー式ドライヤー等からなるドライヤーパートを組み合わせることが好ましい。
【0038】
以上のようにして得られた得られた紙は、非木材パルプを含有するため、和紙の風合いを有する。また、リグニン以外の樹脂不純物を含有する非木材パルプを原料として用いているにもかかわらず、上記製造方法により製造された非木材パルプを用いることにより、製紙製品に樹脂不純物の固まりが低減された製品を製造することができる。
【0039】
[紙]
本発明の製造方法により製造された紙は、書道用紙、障子紙、葉書、名刺、便箋、封筒、短冊、賞状用紙、案内状、襖紙、版画用紙、屏風用紙、包装用紙、ちぎり絵用紙、画仙紙、提灯用紙、凧用紙、傘用紙、扇用紙、文化財修復用紙、鳥の子紙、奉書紙、団扇用紙、衝立用紙、染め和紙、写経用紙、日本画用紙、雲竜紙、手提げ袋、表具用紙、揉み紙、カード、和綴じ帳、下張り紙、粕入り紙、灯籠用紙などとして用いることができる。書道用紙に用いても、墨をはじく部分が形成されにくい。
【実施例】
【0040】
次に、実施例および比較例を示して、本発明の非木材パルプ製造方法、本発明の紙をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0041】
[原料の加工1]
(煮熟)
タイ産のコウゾの白皮をアルカリ性溶液で2時間煮て、柔らかな繊維にした。アルカリ性溶液は、4質量%の水酸化ナトリウム水溶液(pH14以上)を、原料のコウゾの10倍量用いた。
【0042】
(打解)
煮熟後、コウゾを取り出して十分に水洗・脱水を行なった後、陶製のスタンプ式のハンマーを使って原料に衝撃力を与え、単繊維に離解する処理を行ない、植物繊維A1を得た。
【0043】
[原料の加工2]
(第1洗浄工程)
上述の原料の加工1が終了した30gの植物繊維A1を、100gのクエン酸三ナトリウムと、5mLの界面活性剤(スキャット20−X、第一工業製薬(株)製、特殊アニオン系および非イオン系界面活性剤が主成分)を添加して1Lに調製した水溶液(第1浸漬液)に浸漬させた状態で、室温で24時間放置した。その後、第1浸漬液と原料繊維を超音波洗浄器(VS−100III、アズワン(株)製)に移して、周波数28kHzの超音波を30分間伝導した。なお、植物繊維A1を浸漬させる前の第1浸漬液のpHを測定した。表1にpHの測定結果を示す。
【0044】
(第2洗浄工程)
第1洗浄工程終了後に第1浸漬液に30質量%過酸化水素水を原料質量の50質量%(15ml)添加して第2浸漬液とし、第1洗浄工程と同様の条件、すなわち周波数28kHzで30分間超音波処理を行なった。その後、そのままの状態で室温で24時間放置して植物繊維B1を得た。
【0045】
<染色法>
原料の加工1が終了した植物繊維A1と、原料の加工2が終了した植物繊維B1とをJIS P 8120に準じた繊維組成試験方法によりC染色液で染色し、透過光顕微鏡により200倍で観察した。図1はこのとき得られた植物繊維A1の顕微鏡写真を示す。図2はこのとき得られた植物繊維B1の顕微鏡写真を示す。植物繊維A1においては、赤茶色に染色された繊維の間に、繊維と同等の長さや幅の透明な袋(薄い青色に染色)が観察され、その袋内において鮮やかな黄色から薄い黄土色の呈色が観察された(図1中に矢印で示す)。このような呈色は、樹脂不純物の存在を示している。図2に示されるように、植物繊維B1においては、黄色から薄い黄土色の呈色は観察されなかった。この結果は、植物繊維B1には、染色法により観察される樹脂不純物が存在しないことを示している。
【0046】
<FTIRによる分析>
原料の加工1の煮熟工程で発生した浮遊する固形物を、分析用ろ紙(アドバンテック東洋(株)製 No.2)でろ過分離した後、ろ紙ごと105℃に設定した乾燥機内で乾燥させた。その後、ろ紙に付着残留している、内部に白点を含む濁った褐色の固形物に関して、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR−8700、(株)島津製作所製)を用いて1回反射ATR分析法により得られた波形グラフを図3に示す。この固形物について、JIS P 8120に準じた繊維組成試験方法によるC染色液で染色すると、黄色から薄い黄土色の呈色が確認された。図4は、この固形物についてC染色液で染色したときの拡大倍率200倍の顕微鏡写真を示す。したがって、この固形物は、繊維中に観察された樹脂不純物と同じものを含むと推測される。
【0047】
図3の波形のピークを解析すると、原料の加工1で用いた原料のコウゾ中に含まれる固形物は、オレフィン系炭化水素(グラフの約719cm−1、約1379cm−1、約1456cm−1、約1465cm−1、約2848cm−1、約2918cm−1が主に該当する)及び脂肪族炭化水素(グラフの約1539cm−1〜約1645cm−1の4つのピークが主に該当する)並びにセルロース成分を含む多糖類(グラフの約1010cm−1及び約1033cm−1が主に該当する)で構成されていると判断される。
【0048】
<フロログルシンによる識別法>
原料の加工1の煮熟工程で発生した不純物のろ紙付着残留物がリグニン以外の樹脂不純物であることの確認を、JIS P 8120−1976に準じたフロログルシンによる識別法により行なった。この識別法は、フロログルシンを滴下した際の呈色の程度でGP(機械パルプ)の割合を推定するものである。GPとは、木材をそのまま機械的にすり潰して取り出した繊維のことで、化学的な蒸解法を用いないことから木質成分(リグニン)をそのまま残存している。フロログルシンによる識別法は、このリグニンに反応し赤紫色に呈色する性質を利用しているので、この識別法により赤紫色を呈色すればリグニンを含んでいると解釈することができる。対照として、GPを多く含むことが既知の新聞紙を用いた。
【0049】
図5は、新聞紙をフロログルシンにより染色した際に得られた顕微鏡写真を表す。図6は、原料の加工1の煮熟工程で発生した不純物のろ紙付着残留物をフロログルシンにより染色した際に得られた顕微鏡写真を表す。新聞紙は、全体にわたって赤紫色に呈色したのに対して、原料の加工1の煮熟工程で発生した不純物のろ紙付着残留物は、赤紫色の呈色は全く観察されなかった。以上の結果より、原料の加工1の煮熟工程で発生した不純物のろ紙付着残留物は、リグニンを含まず、リグニン以外の樹脂不純物であることが明らかである。
【0050】
[実施例1]
植物繊維B1を原料として、JIS P 8222「パルプ−試験用手すき紙の調整方法」に規定の方法により実施例1の手すき紙を作製した。
【0051】
[比較例1]
植物繊維A1を原料として、JIS P 8222「パルプ−試験用手すき紙の調整方法」に規定の方法により比較例1の手すき紙を作製した。
【0052】
<蛍光観察>
実施例1および比較例1の手すき紙を光学顕微鏡に付属させた蛍光装置(ニコン(株)製、UV1Aフィルタブロック使用)を用いて励起波長365nmにおける蛍光波長400nm以上の蛍光を拡大倍率40倍及び100倍で観察した。図7は、拡大倍率40倍の比較例1の顕微鏡写真を示す。図8に拡大倍率100倍の比較例1の顕微鏡写真を示す。また、図9に拡大倍率40倍の実施例1の顕微鏡写真を示す。図7においては、繊維状の青白い蛍光(図7中に矢印で示す)および円形状の青白い蛍光(図7中に矢印で示す)が観察された。また、図8においては、円形状の青白い蛍光(図8中に矢印で示す)が観察された。図9においては、これらの蛍光は観察されなかった。
【0053】
以上より、比較例1の手すき紙中には、円形状、繊維状に青白い蛍光を発している物質が存在していることがわかった。この蛍光物質は樹脂不純物であることを染色法により確認した。すなわち、比較例1では円形状樹脂の存在、および繊維状樹脂の存在が確認された。一方、実施例1の手すき紙中には、円形状樹脂の存在、繊維状樹脂の存在が確認されなかった。
【0054】
[実施例2〜9]
植物繊維B2〜B9をそれぞれ原料として、JIS P 8222規定の方法により実施例2〜9の手すき紙を作製した。植物繊維B2〜B9は、植物繊維B1とは、第1洗浄工程において第1浸漬液中、100gのクエン酸三ナトリウムの代わりに表1に記載の100gのナトリウム塩またはカリウム塩を用いた点のみ異なる。各実施例について、実施例1および比較例1と同様に蛍光観察および染色法により繊維状樹脂の有無、円形状樹脂の有無を確認した。表1に結果を示す。
【0055】
[比較例2,3]
植物繊維B10,B11を原料として、JIS P 8222規定の方法により比較例2,3の手すき紙を作製した。植物繊維B10,11は、植物繊維B1とは、第1洗浄工程において第1浸漬液中、100gのクエン酸三ナトリウムの代わりに表1に記載の100gのナトリウム塩またはカリウム塩を用いた点のみ異なる。各比較例について、実施例1と同様に蛍光観察および染色法により繊維状樹脂の有無、円形状樹脂の有無を確認した。表1に結果を示す。
【0056】
[実施例10〜12]
植物繊維B12〜B14をそれぞれ原料として、JIS P 8222規定の方法により実施例10〜12の手すき紙を作製した。植物繊維B12〜B14は、植物繊維B1とは、第1洗浄工程および第2洗浄工程において行なう超音波処理の超音波周波数が異なるのみである。各実施例の植物繊維を調整するために用いた超音波の周波数を表1に示す。なお、表1には第1洗浄工程における超音波の周波数のみを示すが、第2洗浄工程における超音波周波数も同様とする。各実施例について、実施例1と同様に蛍光観察および染色法により繊維状樹脂の有無、円形状樹脂の有無を確認した。表1に結果を示す。
【0057】
[比較例4〜6]
植物繊維B15〜B17をそれぞれ原料として、JIS P 8222規定の方法により比較例4〜6の手すき紙を作製した。植物繊維B15〜B17は、植物繊維B1とは、第1洗浄工程および第2洗浄工程において行なう超音波処理の超音波周波数が異なるのみである。各比較例の植物繊維を調整するために用いた超音波の周波数を表1に示す。なお、表1には第1洗浄工程における超音波の周波数のみを示すが、第2洗浄工程における超音波周波数も同様とする。各比較例について、実施例1と同様に蛍光観察および染色法により繊維状樹脂の有無、円形状樹脂の有無を確認した。表1に結果を示す。
【0058】
[比較例7]
繊維B18を原料として、JIS P 8222規定の方法により比較例7の手すき紙を作製した。植物繊維B18は、植物繊維B1とは、第1洗浄工程において第1洗浄液として水を用いた点が異なるのみである。第2洗浄工程においては、植物繊維B1と同様に、第1浸漬液に30質量%過酸化水素水を原料質量の50質量%(15ml)添加して第2浸漬液とした。比較例7について、実施例1と同様に蛍光観察および染色法により繊維状樹脂の有無、円形状樹脂の有無を確認した。表1に結果を示す。
【0059】
[実施例13]
植物繊維B19を原料として、JIS P 8222規定の方法により実施例13の手すき紙を作製した。植物繊維B19は、植物繊維B1とは、第1洗浄工程のみを行ない、第2洗浄工程を行なわない点が異なるのみである。実施例14について、実施例1と同様に蛍光観察および染色法により繊維状樹脂の有無、円形状樹脂の有無を確認した。表1に結果を示す。
【0060】
[実施例14]
植物繊維B20を原料として、JIS P 8222規定の方法により実施例15の手すき紙を作製した。植物繊維B20は、植物繊維B1とは、第1洗浄工程および第2洗浄工程において超音波処理を28kHzで30分、45kHzで30分行なった点が異なるのみである。実施例14について、実施例1と同様に蛍光観察および染色法により繊維状樹脂の有無、円形状樹脂の有無を確認した。表1に結果を示す。
【0061】
[実施例15]
植物繊維B21を原料として、JIS P 8222規定の方法により実施例15の手すき紙を作製した。植物繊維B21は、植物繊維B1とは、第1洗浄工程および第2洗浄工程において超音波処理を28kHzで5分、45kHzで5分を繰り返し、合計30分の超音波処理を行なった点が異なるのみである。実施例15について、実施例1と同様に蛍光観察および染色法により繊維状樹脂の有無、円形状樹脂の有無を確認した。表1に結果を示す。
【0062】
[実施例16]
植物繊維B22を原料として、JIS P 8222規定の方法により実施例16の手すき紙を作製した。植物繊維B22は、植物繊維B1とは、第1洗浄工程および第2洗浄工程において超音波処理を28kHzで60分行なった点が異なるのみである。実施例16について、実施例1と同様に蛍光観察および染色法により繊維状樹脂の有無、円形状樹脂の有無を確認した。表1に結果を示す。
【0063】
[実施例17〜19]
植物繊維B23〜B25をそれぞれ原料として、JIS P 8222規定の方法により実施例17〜19の手すき紙を作製した。植物繊維B23〜B25は、植物繊維B1とは、第1洗浄工程における第1浸漬液のクエン酸三ナトリウムの濃度が異なるのみであり、それぞれ200(g/L)、50(g/L)、10(g/L)である。実施例17〜19について、実施例1と同様に蛍光観察および染色法により繊維状樹脂の有無、円形状樹脂の有無を確認した。表1に結果を示す。
【0064】
[実施例20]
植物繊維B26を原料として、JIS P 8222規定の方法により実施例20の手すき紙を作製した。植物繊維B26は、植物繊維B1とは、第1洗浄工程における第1浸漬液の界面活性剤(スキャット20−X、第一工業製薬(株)製)の濃度が0.5(mL/L)である点が異なるのみである。実施例20について、実施例1と同様に蛍光観察および染色法により繊維状樹脂の有無、円形状樹脂の有無を確認した。表1に結果を示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1に示す結果より、煮熟および打解した植物繊維を、無機酸塩、有機酸塩および水酸化物からなる群から選択される少なくとも一つを含み、かつpHが4.8以上の第1浸漬液に浸漬させた状態で、第1浸漬液に周波数20〜50kHzの超音波を伝導させる第1洗浄工程を有する実施例1〜20で用いられる繊維(非木材パルプ)を用いて製造した紙は、円形状樹脂が確認されなかった。実施例1〜20の一部について、繊維状樹脂が確認されたものもあったが、繊維状樹脂は、目視(蛍光観察および染色法を用いない)では観察されず、また和紙の品質低下への影響は円形状樹脂と比較すると小さい。
【0067】
図10は、比較例1と同じ原料(植物繊維A1)を用いて作製した機械すき和紙を染色した際に生じる染色ムラの様子を示す拡大倍率40倍の顕微鏡写真である。図11は、比較例1と同じ原料(植物繊維A1)を用いて作製した機械すき和紙を染色した際に生じる蛍光顕微鏡写真である。観察の際に用いた蛍光装置は、図6〜8の蛍光顕微鏡写真取得時と同様である。かかる顕微鏡写真からは、円形状樹脂の部分は染色ムラを生じさせ和紙の品質低下の原因となることがわかる。
【0068】
<強度評価試験>
実施例1、実施例18、比較例1、比較例8の手すき紙について、JIS P8111に基づいた試験環境(室温23℃、湿度50%)に24時間以上放置して調湿した後、坪量、厚さ、密度、引張強さおよび比引張強さを測定した。坪量はJIS P8124に準じて測定し、密度はJIS P8118に準じて測定し、引張強さおよび比引張強さはJIS P8113に準じて測定した。表2に測定結果を示す。坪量が大きいと引張強さが大きくなるが、比引張強さは坪量による強度への影響の大きさを打ち消した値となるため、坪量が異なる紙の強度比較に有用である。引張強さおよび比引張強さはいずれも数値が大きいほど強度が強いことを示す。比較例8の紙は典具帖紙であり、国内産のコウゾ(土佐コウゾ)を原料として不純物を丁寧に取り除いている点以外は、比較例1と同様の製造方法により製造されている。
【0069】
【表2】

【0070】
表2からわかるように、実施例1,18の手すき紙は、比較例1の手すき紙と比較して強度が小さくなっており、さらに第1洗浄工程におけるクエン酸三ナトリウム濃度が高いほど(実施例18より実施例1の方がクエン酸三ナトリウム濃度が高い)、強度が小さくなっている傾向が観察された。これらの結果、および原料中の樹脂が繊維同士の交点に多く見られることから、樹脂の存在は紙の強度向上には有用であると解される。なお、実施例18の手すき紙は、比較例8の手すき紙と比較して比引張強度が大きいことから、比較例8の手すき紙と比較すると樹脂が残存する可能性があるが、低価格のタイ産のコウゾを原料として用いているにも係わらず、少なくとも蛍光観察および染色法において繊維状樹脂および円形樹脂が確認されず、種々の製品において十分な強度も確保されることがわかった。また、比較例1と比較例8の結果を対比すると、比較例8の方が比引張強度が顕著に小さく、したがって同じ原料加工方法でありながら樹脂不純物がほとんど含まれていないことが容易に推測される。
【0071】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニン以外の樹脂不純物を含む非木材の植物繊維を用いた非木材パルプの製造方法であって、
煮熟、および打解または叩解した前記植物繊維を、無機酸塩、有機酸塩および水酸化物からなる群から選択される少なくとも一つを含み、かつpHが4.8以上の第1浸漬液に浸漬させた状態で、前記第1浸漬液に周波数20〜50kHzの超音波を伝導させる第1洗浄工程を有する、非木材パルプの製造方法。
【請求項2】
前記第1浸漬液は、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸ニカリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも一つを含む、請求項1に記載の非木材パルプの製造方法。
【請求項3】
前記非木材の植物繊維は、東アジア産または東南アジア産のコウゾである、請求項1または2に記載の非木材パルプの製造方法。
【請求項4】
第1洗浄工程の後に、前記植物繊維を、無機酸塩、有機酸塩および水酸化物からなる群から選択される少なくとも一つと、酸化剤とを含む第2浸漬液に浸漬させた状態で、前記第2浸漬液に周波数20〜50kHzの超音波を伝導させる第2洗浄工程を有する、請求項1〜3いずれかに記載の非木材パルプの製造方法。
【請求項5】
前記酸化剤は、過酸化水素、過酸化物およびオゾンからなる群より選択される少なくとも一つを含む、請求項4に記載の非木材パルプの製造方法。
【請求項6】
前記第2浸漬液は、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸ニカリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも一つを含む、請求項1に記載の非木材パルプの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により製造された非木材パルプを抄紙して得られた紙。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−162836(P2012−162836A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26203(P2011−26203)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(591039425)高知県 (51)
【出願人】(511036060)ひだか和紙有限会社 (1)
【Fターム(参考)】