非水二次電池を内蔵した電子機器
【課題】非水二次電池を内蔵した電子機器の安全性を改善する。
【解決手段】正極1と、負極2と、セパレータ3と、非水電解液とを備え、角形形状またはラミネート形状に形成された非水二次電池を内蔵し、前記非水二次電池は、その厚さ方向に押圧されている電子機器とする。また、前記非水二次電池おいて、前記非水電解液は電解液の全質量に対して2〜15質量%の芳香族化合物を含有し、セパレータ3はMD方向とTD方向とを有し、そのTD方向の150℃での熱収縮率が30%以下であり、かつ、その厚さが5〜20μm、その透気度が500秒/100ml以下であることが好ましい。
【解決手段】正極1と、負極2と、セパレータ3と、非水電解液とを備え、角形形状またはラミネート形状に形成された非水二次電池を内蔵し、前記非水二次電池は、その厚さ方向に押圧されている電子機器とする。また、前記非水二次電池おいて、前記非水電解液は電解液の全質量に対して2〜15質量%の芳香族化合物を含有し、セパレータ3はMD方向とTD方向とを有し、そのTD方向の150℃での熱収縮率が30%以下であり、かつ、その厚さが5〜20μm、その透気度が500秒/100ml以下であることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性に優れた非水二次電池を内蔵した電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水二次電池は、容量が大きく、かつ高電圧、高エネルギー密度、高出力であることから、ますます需要が増える傾向にある。そして、非水二次電池のさらなる高容量化や充電電圧の高電圧化も検討されており、電池の充電量を増加させることにより、さらなる放電容量の増加が見込まれている。
【0003】
ところで、非水二次電池を高容量化する場合、過充電時に電池の発熱量が大きくなり、電池が熱暴走しやすくなり、電池の安全性の低下が問題となる。この問題を解決する手段としては、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4などに開示されているように、電解液に芳香族化合物を含有させることが有効である。
【特許文献1】特開平5−36439号公報
【特許文献2】特開平7−302614号公報
【特許文献3】特開平9−50822号公報
【特許文献4】特開平10−275632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、電解液に芳香族化合物を含有させた場合は、正極または負極の活物質表面に電解液との反応を抑制する被膜が形成されるため、安全性は向上するものの、電池の負荷特性が低下し、大電流での放電などにおいて、芳香族化合物を含まない電解液を用いた電池に比べて放電容量などの電池特性が低下するという問題があった。特に、過充電時の安全性を一定以上向上させるために、電解液の全質量に対して芳香族化合物を2質量%以上含有させた場合は、上記電池特性の低下が顕著となる場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の電子機器は、正極と、負極と、セパレータと、非水電解液とを備え、角形形状またはラミネート形状に形成された非水二次電池を内蔵した電子機器であって、前記非水二次電池は、その厚さ方向に押圧されていることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明者らは、前述の問題を解決するため、電解液に芳香族化合物を含有させた非水二次電池の構成について種々の検討を行った結果、セパレータとして、その厚さが5〜20μmで、その透気度が500秒/100ml以下のものを用いることにより、過充電された場合の電池の安全性と負荷特性とを両立できることを見出した。
【0007】
さらに、上記構成を満たす種々のセパレータを用い、正極および負極をセパレータを介して積層した電極積層体と、非水電解液とを備えた非水二次電池を作製し、高温での貯蔵特性を検討した。その結果、高温環境下に電池を保持した場合に、内部短絡を生じて発熱する電池があることが明らかとなった。すなわち、150℃程度の温度環境下に電池が放置された場合に、セパレータの収縮により電極の端部において正極と負極とが直接接触して短絡を生じ、電池の温度が大幅に上昇するという問題を生じる可能性があることがわかった。これは、セパレータの厚さが20μm以下に薄くなると、正極と負極の間に挟まれていてもセパレータの熱収縮が生じやすくなるためであり、上記構成の電池においては、用いるセパレータの特性がこれまで以上に厳しく制限されることが判明した。特に、電池が電子機器に内蔵されて使用されるような状況においては、充電時に電池内部で発生した熱が外部に放出され難く、予想外に電池の温度が上昇してしまうことから、本発明者らは、150℃程度の温度環境下での電池の安定性が重要であることを見出し、本発明に至ったものである。
【0008】
また、本発明者らは、電解液の添加剤以外にも、非水二次電池を用いた電子機器における、電池のより有効な装着形態についても検討した。
【0009】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明に用いる非水二次電池の一形態は、正極と、負極と、セパレータと、非水電解液とを備えた非水二次電池であって、正極と負極とはセパレータを介して積層されて電極積層体を構成し、その非水電解液は電解液の全質量に対して2〜15質量%の芳香族化合物を含有し、そのセパレータはMD方向とTD方向とを有し、そのTD方向の150℃での熱収縮率が30%以下であり、かつ、その厚さが5〜20μm、その透気度が500秒/100ml以下である。
【0010】
この構成とすることにより、安全性と負荷特性に優れ、かつ、高温貯蔵性に優れた非水二次電池を提供できる。
【0011】
上記非水電解液に含有させる芳香族化合物としては、電池内において正極または負極の活物質表面に被膜を形成することのできる化合物を用いることができ、具体的には例えば、シクロヘキシルベンゼン、イソプロピルベンゼン、t−ブチルベンゼン、オクチルベンゼン、トルエン、キシレンなどのように芳香環にアルキル基が結合した化合物、またはフルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、トリフルオロベンゼン、クロロベンゼンなどのように芳香環にハロゲン基が結合した化合物、またはアニソール、フルオロアニソール、ジメトキシベンゼン、ジエトキシベンゼンなどのように芳香環にアルコキシ基が結合した化合物のほか、ジブチルフタレート、ジ2−エチルヘキシルフタレートなどのフタル酸エステルや安息香酸エステルなどの芳香族カルボン酸エステル、メチルフェニルカーボネート、ブチルフェニルカーボネート、ジフェニルカーボネートなどのフェニル基を有する炭酸エステル、またはプロピオン酸フェニル、ビフェニルなどが挙げられる。また、この芳香族化合物としては電解液に溶解するものが望ましく、LiB(C6H5)4などのようにイオン性の化合物では安定性に劣るため、非イオン性であることが望ましい。中でも、芳香環にアルキル基が結合した化合物が好ましく、シクロヘキシルベンゼンが特に好ましく用いられる。
【0012】
さらに、上記芳香族化合物は、1種のみを単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いることにより優れた効果が発揮され、特に、芳香環にアルキル基が結合した化合物と、芳香環にハロゲン基が結合した化合物とを併用することにより、安全性向上において特に好ましい結果が得られる。
【0013】
非水電解液に芳香族化合物を含有させる方法としては、特に限定はされないが、電池を組み立てる前にあらかじめ電解液に添加しておく方法が一般的である。芳香族化合物の非水電解液中での含有量が多いほど電池の安全性は向上するものの、添加量が芳香族化合物を含む非水電解液全体の質量に対して15質量%を超えた場合は、厚さが20μm以下で透気度が500秒/100ml以下のセパレータを用いたとしても負荷特性の低下が大きくなってしまう。また、芳香族化合物の含有量が2質量%未満の場合は、負荷特性の低下がほとんど問題とならないため、セパレータの特性は特には限定されない。従って、非水電解液に芳香族化合物が2〜15質量%の範囲で含有されている電池に対し、厚さが20μm以下で透気度が500秒/100ml以下のセパレータを用いることが効果的である。
【0014】
ここで、芳香族化合物の含有量のより好ましい範囲は、安全性の点からは4質量%以上であり、負荷特性の点からは10質量%以下である。2種以上の芳香族化合物を混合して用いる場合、その総量が上記範囲内であればよく、特に、芳香環にアルキル基が結合した化合物と、芳香環にハロゲン基が結合した化合物とを併用する場合は、芳香環にアルキル基が結合した化合物は、0.5質量%以上であることが望ましく、2質量%以上であることがより望ましく、8質量%以下であることが望ましく、5質量%以下であることがより望ましい。一方、芳香環にハロゲン基が結合した化合物は、1質量%以上であることが望ましく、2質量%以上であることがより望ましく、また、12質量%以下であることが望ましく、4質量%以下であることがより望ましい。
【0015】
上記非水電解液に用いられる有機溶媒としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピオン酸メチルなどの鎖状エステル、リン酸トリメチルなどの鎖状リン酸トリエステル、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチル−テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどが挙げられる。そのほか、アミンイミド系有機溶媒やスルホランなどのイオウ系有機溶媒なども用いることができる。この中でジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの鎖状カーボネートを用いることが望ましい。これらの有機溶媒の量としては、電解液の全体積に対して90体積%未満が望ましく、80体積%以下がより望ましい。また、負荷特性の点からは40体積%以上が望ましく、50体積%以上がより望ましく、60体積%以上が最も望ましい。
【0016】
さらに、その他の電解液の成分として、誘電率が高いエステル(誘電率30以上)を混合して用いることが望ましい。誘電率が高いエステルとしては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトンなどと共に、エチレングリコールサルファイトなどのイオウ系エステルが挙げられる。また、誘電率が高いエステルは環状構造のものが好ましく、特にエチレンカーボネートのような環状カーボネートが好ましい。上記高誘電率のエステルは電解液の全体積に対して80体積%未満が望ましく、50体積%以下がより望ましく、さらに35体積%以下が最も望ましい。また、負荷特性の点からは1体積%以上が望ましく、10体積%以上がより望ましく、25体積%以上が最も望ましい。
【0017】
また、本発明の効果をより一層高めるために、−SO2−結合を有する溶媒、特に−O−SO2−結合を有する溶媒を上記電解液に溶解させておくことが好ましい。そのような−O−SO2−結合を有する溶媒としては、例えば、1,3−プロパンスルトン、メチルエチルスルフォネート、ジエチルサルフェートなどが挙げられる。その含有量は、電解液の全質量に対して0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、また10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0018】
上記非水電解液には、ポリエチレンオキシドやポリメタクリル酸メチルなどのポリマー成分を含んでいてもよく、ゲル状電解質として用いてもよい。
【0019】
電解液の電解質としては、例えば、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiCF3CO2、Li2C2F4(SO3)2、LiN(RfSO2)(Rf’SO2)、LiN(RfOSO2)(Rf’OSO2)、LiC(RfSO2)3、LiCnF2n+1SO3(n≧2)、LiN(RfOSO2)2[ここで、Rf、Rf’は、同じかまたは異なるフルオロアルキル基]、ポリマーイミドリチウム塩などが単独でまたは2種以上混合して用いられる。これらが電極表面の被膜中に取り込まれると、被膜に良好なイオン伝導性を付与することができ、特にLiPF6を用いた場合にその効果が高くなるため望ましい。電解液中における電解質の濃度は特に限定されるものではないが、1mol/l以上にすると安全性が良くなるので望ましく、1.2mol/l以上がさらに望ましい。また、1.7mol/lより少ないと負荷特性が良くなるので望ましく、1.5mol/lより少ないとさらに望ましい。
【0020】
上記セパレータとしては、MD方向とTD方向とを有し、そのTD方向の150℃での熱収縮率が30%以下であり、かつ、その厚さが5〜20μm、その透気度が500秒/100ml以下であるセパレータが用いられる。芳香族化合物を2〜15質量%の範囲で含有する非水電解液を用いた非水二次電池において、良好な負荷特性を得るためには、セパレータの厚さが20μm以下で、その透気度が500秒/100ml以下であることが必要とされる。また、電池の高温状態での内部短絡を防ぐため、セパレータはMD方向とTD方向とを有し、そのTD方向の150℃での熱収縮率が30%以下であることを必要とする。ここで、MD方向とは、特開2000−172420号公報などに示されているように、セパレータの製造時におけるフィルム樹脂の引き取り方向をいい、TD方向とはこのMD方向と直交する方向をいう。本発明においては、このような方向性を有するセパレータが用いられる。なお、上記TD方向の熱収縮率は、表面が平滑な厚さ5mm、縦50mm、横80mm(質量:47g)の2枚のガラス板の間に縦45mm、横60mmのセパレータを挟み、150℃に保たれた恒温槽中に水平に静置して2時間保持した後、室温(20℃)に戻し、TD方向における収縮分の長さを収縮前のセパレータの長さと比較して求めた。
【0021】
セパレータの厚さは、負荷特性や高容量化のためには20μm以下である必要があり、薄いほど好ましいが、絶縁性を良好に保ち、また、熱収縮を小さくするためには、5μm以上の厚さにする必要があり、10μm以上とするのがより好ましい。また、セパレータの透気度は負荷特性を向上させるためには500秒/100ml以下にする必要があり、400秒/100ml以下がより好ましく、350秒/100ml以下が最も好ましい。また、小さすぎると内部短絡を生じやすくなることから50秒/100ml以上とすることが好ましく、100秒/100ml以上がより好ましく、200秒/100ml以上が最も好ましい。
【0022】
セパレータの強度は、MD方向の引っ張り強度として6.8×107N/m2以上が望ましく、9.8×107N/m2以上がより望ましい。ただし、このMD方向の引っ張り強度は、通常は材料によって上限値が制約を受け、ポリエチレンセパレータの場合は108N/m2程度が上限値となる。
【0023】
また、TD方向の引っ張り強度はMD方向の引っ張り強度に比べて小さいほうが望ましく、MD方向の引っ張り強度S1に対するTD方向の引っ張り強度S2の比S2/S1は、0.95以下であることが望ましく、0.9以下がより望ましく、また、0.5以上が望ましく、0.7以上がより望ましい。この範囲内であれば、以下に述べる突き刺し強度を維持しながらTD方向の150℃での熱収縮を抑えられるからである。
【0024】
セパレータの突き刺し強度は、2.9N以上が望ましく、3.9N以上がより望ましい。この突き刺し強度は高いほど電池が短絡しにくくなるが、通常は材料によって上限値が制約を受け、ポリエチレンセパレータの場合は10N程度が上限値となる。なお、セパレータの突き刺し強度は、直径1mm、先端形状が半径0.5mmの半円形のピンを2mm/sでセパレータに突き刺して貫通するまでの最大荷重を読み取って測定した。
【0025】
セパレータの熱収縮率は小さいほど内部短絡が発生しにくくなるため、できるだけ熱収縮率の小さいセパレータを用いるのが望ましく、10%以下であるものがより望ましく、5%以下であるものが特に好適に用いられる。このようなセパレータとしては、例えば、東燃化学社製の微孔性ポリエチレンフィルム“F20DHI”(商品名)などが挙げられる。
【0026】
また、セパレータの熱収縮を抑えるため、あらかじめ120℃程度の温度でセパレータを熱処理しておいてもよい。
【0027】
また、正極に用いる正極活物質としては、充電時の開路電圧がLi基準で4V以上を示すLiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2などのリチウム複合酸化物が好ましく用いられる。これらの活物質は、Co、Ni、Mnの一部がそれぞれ別の元素で置換されていてもよい。その置換元素としてGe、Ti、Ta、Nb、Ybを含む場合、その置換元素の含有量は、0.001原子%以上が望ましく、0.003原子%以上がより望ましく、また、3原子%以下が望ましく、1原子%以下がより望ましい。
【0028】
正極活物質の比表面積が大きい場合、負荷特性は良くなるが安全性が低下する。本発明においては、ある程度比表面積が大きい活物質でもより安全に使用することができ、比表面積が1m2/g程度までの活物質であれば特に問題なく用いることができる。なお、比表面積の下限値は、0.2m2/g以上が好ましい。
【0029】
また、正極活物質中にあらかじめリチウム塩を存在させておくことがさらに望ましい。これは、芳香族化合物とリチウム塩とを併存させることで正極がイオン伝導性を有するようになり、電極の均一反応性が向上し、安全性がより改善されるためである。このリチウム塩としては、LiBF4、LiClO4などの無機リチウム塩や、C4F9SO3Li、C8F17SO3Li、(C2F5SO2)2NLi、(CF3SO2)(C4F9SO2)NLi、(CF3SO2)3CLi、C6H5SO3Li、C17H35COOLiなどの有機リチウム塩を用いることができる。熱安定性、安全性からは有機リチウム塩が望ましく、イオン解離性を考慮した場合には含フッ素有機リチウム塩が望ましい。
【0030】
これらの正極活物質に導電助剤やポリフッ化ビニリデンなどの結着剤などを適宜添加して正極合剤とする。この正極合剤を用いて、金属箔などの集電材料を芯材として成形体に仕上げて正極とする。正極の導電助剤としては炭素材料が望ましく、この使用量は正極材料の全質量に対して5質量%以下が望ましく、3%質量以下がより好ましい。また、導電性確保の点からは1.5質量%以上が望ましい。
【0031】
一方、負極に用いる負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的にドープ、脱ドープできるものであればよく、例えば、天然黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭、などの炭素質材料を用いることができる。また、Si、Sn、Inなどの合金、あるいはLiに近い低電位で充放電できる酸化物あるいは窒化物などの化合物を用いてもよい。また、正極と同様に、安定な保護被膜を電極表面に形成し、電極と電解液の反応を抑えるために、負極活物質中にあらかじめリチウム塩を存在させておくとより望ましい。
【0032】
次に、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。図1は、本発明に用いる非水二次電池の一例を模式的に示す平面図であり、図2は、図1に示した非水二次電池のA−A部の縦断面図である。図1、図2においては角形形状の電池を示しており、Tを厚さ、Wを幅、Hを高さとする。なお、ラミネート形状の電池でも同様である。
【0033】
図2において、正極1と負極2はセパレータ3を介して渦巻状に巻回した後、扁平状になるように加圧して扁平状巻回構造の電極積層体6として、角形の電池ケース4に電解液とともに収容されている。ただし、図2では、煩雑化を避けるため、正極1や負極2の作製にあたって使用した集電体としての金属箔や電解液等は図示していない。
【0034】
電池ケース4はアルミニウム合金などで形成され、電池の外装材となるものであり、この電池ケース4は正極端子を兼ねている。また、電池ケース4の底部にはポリテトラフルオロエチレンシートなどからなる絶縁体5が配置され、正極1、負極2およびセパレータ3からなる扁平状巻回構造の電極積層体6からは正極1および負極2のそれぞれ一端に接続された正極リード体7と負極リード体8が引き出されている。また、電池ケース4の開口部を封口するアルミニウム合金などからなる蓋板9には、ポリプロピレンなどからなる絶縁パッキング10を介してステンレス鋼などからなる端子11が取り付けられ、この端子11には絶縁体12を介してステンレス鋼などからなるリード板13が取り付けられている。さらに、この蓋板9は上記電池ケース4の開口部に挿入され、両者の接合部を溶接することによって、電池ケース4の開口部が封口され、電池内部が密閉されている。
【0035】
なお、上記実施形態では、正極リード体7を蓋板9に直接溶接することによって電池ケース4と蓋板9とが正極端子として機能し、負極リード体8をリード板13に溶接し、そのリード板13を介して負極リード体8と端子11とを導通させることによって端子11が負極端子として機能するようになっているが、電池ケース4の材質などによっては、その正極、負極が逆になる場合もある。
【0036】
次に、本発明の電子機器の実施形態を説明する。本実施形態の電子機器は、上記非水二次電池を内蔵して用いることにより、充電制御機構がうまく作動しなかった場合でも、電池の発熱が少ないため、電子機器が破損して機器の信頼性を損なうことを防ぐことができる。すなわち、薄いセパレータを用いることにより高容量化された従来の電池では、電池の温度が上昇した際に生じる内部短絡により電池自身が発熱し、電池の温度がさらに上昇する。このため、このような電池を内蔵した電子機器では電池の発熱のダメージを受けやすく、特に、充電電流が0.6A以上と大きな電子機器ではその影響が顕著であった。しかし、本発明の非水二次電池は高温での内部短絡の発生が抑制されているため、上記問題が生じにくく、電子機器の信頼性を向上させることができる。
【0037】
さらに、非水二次電池の電子機器への装着形態については、角形形状またはラミネート形状の非水二次電池を、その厚さ方向に押圧した状態で電子機器に内蔵させることにより、安全性を改善できる。通常は、電池が機器などの故障により過充電された場合に、電池が膨れ、電池内部の電極体が変形し、電流が集中して通電されて電池は局部的に発熱しやすくなる。本発明の装着形態であれば電池が膨れにくく、電極の変形も抑制され、電流集中も緩和されることから、電池の発熱も抑制することができる。電子機器の中での電池の押圧は、電池側面より小さい面で押圧されることが望ましく、押圧される面積としては、電池側面の95%以下が望ましく、80%以下がより望ましく、50%以下が最も望ましい。また、電池の押圧を電池側面中央部付近を中心に行うとより効果が高く望ましく、初期状態で5g以上で押圧されることが望ましい。また、この押圧は100g以上がさらに望ましく、500g以上が最も望ましいが、あまり大きすぎると電極体にダメージを与える恐れがあるので5kg以下が望ましい。電池側面中央部付近とは、電池側面の幅をW、高さをHとし、幅W/2、高さH/2の小さい長方形を側面中央部に、電池側面の対角線とその小さい長方形の対角線とが一致するように配置した場合、その小さい長方形の中心側をいう。
【0038】
また、上記形態で非水二次電池を内蔵した電子機器においては、その非水二次電池の非水電解液として、芳香族化合物を含有する電解液を用いることがさらに望ましく、また、そのセパレータとして、その厚さが5〜20μm、その透気度が500秒/100ml以下のセパレータを用いることがさらに望ましい。さらに、前述の本発明の非水二次電池を上記形態で電子機器に内蔵することが最も望ましい。これは、電子機器の中で電池が過充電された場合に非水電解液中の芳香族化合物が反応し、緩やかな短絡が起きやすくなるため実質的な過充電電流が低下して、過充電時の最高電池表面温度が低下するからである。セパレータが薄いと電極間が近くなり、緩やかな短絡がさらに起きやすくなり望ましい。
【0039】
上記非水二次電池を内蔵することのできる電子機器は、特に限定されるものではなく、携帯電話、ノート型パソコン、PDA、小型医療機器などの持ち運び可能な携帯電子機器や、バッテリーバックアップ機能付き事務機器、医療機器など種々の電子機器を挙げることができる。
【実施例】
【0040】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとの体積比1:2の混合溶媒を準備し、この混合溶媒にLiPF6を1.2mol/lの濃度で溶解させ、これに芳香族化合物であるシクロヘキシルベンゼンとフルオロベンゼン、および1,3−プロパンスルトンを、電解質の全質量に対してシクロヘキシルベンゼン4質量%、フルオロベンゼン3質量%、1,3−プロパンスルトン2質量%の含有量となるよう添加して非水電解液を調製した。
【0042】
これとは別に、正極活物質として比表面積が0.5m2/gのLiCo0.995Ge0.005O2と、導電助剤としてのカーボンと、リチウム塩として(C2F5SO2)2NLiとを、それぞれ質量比97.9:2:0.1の比率で混合し、この混合物と、結着剤であるポリフッ化ビニリデンをN−メチルピロリドンに溶解させた溶液とを混合して正極合剤スラリーを作製した。この正極合剤スラリーをフィルターに通過させて大きな粒子を取り除いた後、厚さ15μmの帯状のアルミニウム箔からなる正極集電材の両面に均一に塗付して乾燥し、その後、ローラプレス機により圧縮成形した後、切断し、リード体を溶接して、帯状の正極を作製した。なお、負極と対向しない部分には正極合剤の塗布を行わなかった。ここで用いた正極集電材は、Feを1質量%、Siを0.15質量%含んでおり、アルミニウムの純度は98質量%以上のものであり、引っ張り強度は185N/mm2であった。
【0043】
次に、以下のようにして負極を作製した。d002=0.335nmで平均粒径15μmの黒鉛と(C2F5SO2)2NLiとを負極活物質として用い、結着剤であるフッ化ビニリデンをN−メチルピロリドンに溶解させた溶液とこの負極活物質とを混合して負極合剤スラリーを作製した。ここで、(C2F5SO2)2NLiの割合は黒鉛の質量に対し0.1質量%とした。この負極合剤スラリーをフィルターに通過させて大きな粒子を取り除いた後、厚さ10μmの帯状の銅箔からなる負極集電材の両面に均一に塗付して乾燥し、その後、ローラプレス機により圧縮成形した後、切断し、リード体を溶接して、帯状の負極を作製した。なお、負極の負極合剤塗布部は正極の正極合剤塗布部より幅方向で1mm大きくなるようにし、かつ長手方向でも5mm程度大きくなるようにしたが、それ以外の捲回時に正極と対向しない部分は負極合剤の塗布を行わなかった。正極合剤塗布部の大きさを負極合剤塗布部の大きさ以下にすることによっても電池の安全性は向上するからである。ここで、負極の負極合剤部分の密度は1.55g/cm3であった。
【0044】
上記帯状正極と上記帯状負極とを、厚さ20μmの東燃化学社製の微孔性ポリエチレンフィルム“F20DHI”(透気度:344秒/100ml、突き刺し強度:4.5N、空孔率:39.4%、MD方向の引っ張り強度:1.3×108N/m2、TD方向の引っ張り強度:1.1×108N/m2、TD方向の150℃での熱収縮率:5%)を介して積層し、扁平状に捲回して電極積層体とした。その後、電極積層体の周囲をテープで止め、外形寸法として、厚さ4mm、幅30mm、高さ48mmの電池用アルミニウム合金缶にこの電極積層体を挿入し、リード体の溶接、封口用蓋板のレーザー溶接を行った。
【0045】
次に、準備した電解液を電池ケース内に注入口から注入し、電解液がセパレータなどに充分に浸透した後、注入口を封止し、予備充電、エイジングを行い、図1に示すような構造の角形の非水二次電池を作製した。なお、本実施例の非水二次電池の容量は、600mAhである。
【0046】
(実施例2)
フルオロベンゼンを電解液に添加しなかった以外は実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。
【0047】
(比較例1)
シクロヘキシルベンゼンを電解液に添加しなかった以外は実施例2と同様にして非水二次電池を作製した。
【0048】
(比較例2)
セパレータとして、厚さが20μmで、TD方向の150℃での熱収縮率が34%の微孔性ポリエチレンフィルム(透気度:240秒/100ml、MD方向の引っ張り強度:1.4×108N/m2、TD方向の引っ張り強度:1.3×108N/m2)を用いた以外は、実施例2と同様にして非水二次電池を作製した。
【0049】
(比較例3)
セパレータとして、厚さが20μmで、透気度が590秒/100mlの微孔性ポリエチレンフィルム(MD方向の引っ張り強度:1.3×108N/m2、TD方向の引っ張り強度:9.3×107N/m2、TD方向の150℃での熱収縮率:10%)を用いた以外は、実施例2と同様にして非水二次電池を作製した。
【0050】
(比較例4)
セパレータとして、厚さが25μmの微孔性ポリエチレンフィルム(透気度:650秒/100ml、MD方向の引っ張り強度:1.1×108N/m2、TD方向の引っ張り強度:1.0×108N/m2、TD方向の150℃での熱収縮率:20%)を用いた以外は、実施例2と同様にして非水二次電池を作製した。
【0051】
上記実施例1〜2および比較例1〜4の電池を0.12A(0.2C)の電流値で電池電圧が4.2Vに達するまで室温(20℃)で定電流充電し、さらに4.2Vの定電圧充電を行い、充電開始後7時間経過時点で充電を終了した。次いで、0.12A(0.2C)で3Vまで放電した。充電時の正極電位はリチウム基準でおよそ4.3Vであった。さらに、上記充電条件で充電を行った後、1.2A(2C)で3Vまで放電して放電容量を測定し、0.2Cでの放電容量に対する2Cでの放電容量の割合により負荷特性を評価した。その結果を表1に示した。なお、表1では、負荷特性(%)は、(2Cでの放電容量/0.2Cでの放電容量)×100で表示してある。
【0052】
また、上記測定に用いた電池とは別に、実施例1〜2および比較例1〜4の電池各5個を0.2Cで4.25Vまで充電し、その後は4.25Vで定電圧充電を行い、充電開始後7時間で充電を終了した。充電完了後、防爆型恒温槽に入れ、室温(20℃)から5℃/分の昇温速度で150℃まで昇温させ、150℃で60分間電池を保持する試験を行い、試験中の電池の表面温度を測定して、各々の電池の表面温度について最高到達温度を測定した。各電池の最高到達温度の中で、最高値を最高電池温度として表1に示した。
【0053】
【表1】
【0054】
実施例1および実施例2の電池は、非水電解液として、芳香族化合物を2〜15質量%の範囲で含有する電解液を用い、セパレータとして、MD方向とTD方向を有し、TD方向の150℃での熱収縮率が30%以下であり、かつ、その厚さが5〜20μm、その透気度が500秒/100ml以下であるセパレータを用いたことにより、負荷特性に優れるのみならず、電池が高温にさらされた場合の電池の内部短絡を抑制することができ、電池自身の温度上昇を抑制することができた。特に、芳香環にアルキル基が結合した化合物と、芳香環にハロゲン基が結合した化合物とを併用した実施例1の電池が優れた特性を示した。
【0055】
一方、芳香族化合物を電解液中に含有させなかった比較例1、およびTD方向の150℃での熱収縮率が30%より大きいセパレータを用いた比較例2の電池は、150℃の加熱試験での最高電池温度が実施例1、実施例2より高くなり、高温での安定性が低下した。特に、セパレータの熱収縮率が大きい比較例2の電池は、測定限界である180℃を超えて電池の温度が上昇し、高温での使用には適さないものとなった。また、透気度が500秒/100mlより大きいセパレータを用いた比較例3、および厚さが20μmより厚いセパレータを用いた比較例4の電池は、負荷特性が大幅に低下した。
【0056】
次に、日立社製の携帯電話“C451H”(商品名)に実施例1および比較例1の電池をそれぞれ電源として内蔵させ、以下の試験を行った。保護回路や充電回路が破損した場合を想定し、保護回路、PTC、電圧制御回路を機能しなくしてから、1Aの電流値で電圧12Vまで充電し、その後12Vでの定電圧充電を行った(試験A)。その結果、本発明の実施例1の電池を用いた携帯電話では、試験終了後も携帯電話に外観上の変形、破損等は見られなかった。
【0057】
次に、同様に作製した実施例1の電池を上記携帯電話に装着し、その携帯電話の裏の電池カバーの上から厚さ1mm、横15mm、縦24mmのプラスチック板を電池の側面中央部中心に対応する位置に当て、その部分に500gの押圧を電池の厚さ方向に加え、上記と同様に過充電を行った(試験B)。その結果、試験Bでは、試験Aの場合よりも電池は発熱しにくく、過充電時の最高電池温度は18℃低下した。
【0058】
一方、比較例1の電池を用いて上記と同様に試験A、試験Bを行ったところ、ともに携帯電話が破損し正常に機能しなくなった。
【0059】
上記試験では、保護回路、PTC、電圧制御回路を機能しなくして行ったが、それぞれの保護機能を付加することで電子機器の信頼性がさらに向上することは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上説明したように、本発明は、角形形状またはラミネート形状の非水二次電池を、その厚さ方向に押圧した状態で電子機器に内蔵することにより、電子機器の安全性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に用いる非水二次電池の一例を模式的に示す平面図である。
【図2】図1に示した非水二次電池のA−A部の縦断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 正極
2 負極
3 セパレータ
4 電池ケース
5 絶縁体
6 電極積層体
7 正極リード体
8 負極リード体
9 蓋板
10 絶縁パッキング
11 端子
12 絶縁体
13 リード体
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性に優れた非水二次電池を内蔵した電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水二次電池は、容量が大きく、かつ高電圧、高エネルギー密度、高出力であることから、ますます需要が増える傾向にある。そして、非水二次電池のさらなる高容量化や充電電圧の高電圧化も検討されており、電池の充電量を増加させることにより、さらなる放電容量の増加が見込まれている。
【0003】
ところで、非水二次電池を高容量化する場合、過充電時に電池の発熱量が大きくなり、電池が熱暴走しやすくなり、電池の安全性の低下が問題となる。この問題を解決する手段としては、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4などに開示されているように、電解液に芳香族化合物を含有させることが有効である。
【特許文献1】特開平5−36439号公報
【特許文献2】特開平7−302614号公報
【特許文献3】特開平9−50822号公報
【特許文献4】特開平10−275632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、電解液に芳香族化合物を含有させた場合は、正極または負極の活物質表面に電解液との反応を抑制する被膜が形成されるため、安全性は向上するものの、電池の負荷特性が低下し、大電流での放電などにおいて、芳香族化合物を含まない電解液を用いた電池に比べて放電容量などの電池特性が低下するという問題があった。特に、過充電時の安全性を一定以上向上させるために、電解液の全質量に対して芳香族化合物を2質量%以上含有させた場合は、上記電池特性の低下が顕著となる場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の電子機器は、正極と、負極と、セパレータと、非水電解液とを備え、角形形状またはラミネート形状に形成された非水二次電池を内蔵した電子機器であって、前記非水二次電池は、その厚さ方向に押圧されていることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明者らは、前述の問題を解決するため、電解液に芳香族化合物を含有させた非水二次電池の構成について種々の検討を行った結果、セパレータとして、その厚さが5〜20μmで、その透気度が500秒/100ml以下のものを用いることにより、過充電された場合の電池の安全性と負荷特性とを両立できることを見出した。
【0007】
さらに、上記構成を満たす種々のセパレータを用い、正極および負極をセパレータを介して積層した電極積層体と、非水電解液とを備えた非水二次電池を作製し、高温での貯蔵特性を検討した。その結果、高温環境下に電池を保持した場合に、内部短絡を生じて発熱する電池があることが明らかとなった。すなわち、150℃程度の温度環境下に電池が放置された場合に、セパレータの収縮により電極の端部において正極と負極とが直接接触して短絡を生じ、電池の温度が大幅に上昇するという問題を生じる可能性があることがわかった。これは、セパレータの厚さが20μm以下に薄くなると、正極と負極の間に挟まれていてもセパレータの熱収縮が生じやすくなるためであり、上記構成の電池においては、用いるセパレータの特性がこれまで以上に厳しく制限されることが判明した。特に、電池が電子機器に内蔵されて使用されるような状況においては、充電時に電池内部で発生した熱が外部に放出され難く、予想外に電池の温度が上昇してしまうことから、本発明者らは、150℃程度の温度環境下での電池の安定性が重要であることを見出し、本発明に至ったものである。
【0008】
また、本発明者らは、電解液の添加剤以外にも、非水二次電池を用いた電子機器における、電池のより有効な装着形態についても検討した。
【0009】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明に用いる非水二次電池の一形態は、正極と、負極と、セパレータと、非水電解液とを備えた非水二次電池であって、正極と負極とはセパレータを介して積層されて電極積層体を構成し、その非水電解液は電解液の全質量に対して2〜15質量%の芳香族化合物を含有し、そのセパレータはMD方向とTD方向とを有し、そのTD方向の150℃での熱収縮率が30%以下であり、かつ、その厚さが5〜20μm、その透気度が500秒/100ml以下である。
【0010】
この構成とすることにより、安全性と負荷特性に優れ、かつ、高温貯蔵性に優れた非水二次電池を提供できる。
【0011】
上記非水電解液に含有させる芳香族化合物としては、電池内において正極または負極の活物質表面に被膜を形成することのできる化合物を用いることができ、具体的には例えば、シクロヘキシルベンゼン、イソプロピルベンゼン、t−ブチルベンゼン、オクチルベンゼン、トルエン、キシレンなどのように芳香環にアルキル基が結合した化合物、またはフルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、トリフルオロベンゼン、クロロベンゼンなどのように芳香環にハロゲン基が結合した化合物、またはアニソール、フルオロアニソール、ジメトキシベンゼン、ジエトキシベンゼンなどのように芳香環にアルコキシ基が結合した化合物のほか、ジブチルフタレート、ジ2−エチルヘキシルフタレートなどのフタル酸エステルや安息香酸エステルなどの芳香族カルボン酸エステル、メチルフェニルカーボネート、ブチルフェニルカーボネート、ジフェニルカーボネートなどのフェニル基を有する炭酸エステル、またはプロピオン酸フェニル、ビフェニルなどが挙げられる。また、この芳香族化合物としては電解液に溶解するものが望ましく、LiB(C6H5)4などのようにイオン性の化合物では安定性に劣るため、非イオン性であることが望ましい。中でも、芳香環にアルキル基が結合した化合物が好ましく、シクロヘキシルベンゼンが特に好ましく用いられる。
【0012】
さらに、上記芳香族化合物は、1種のみを単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いることにより優れた効果が発揮され、特に、芳香環にアルキル基が結合した化合物と、芳香環にハロゲン基が結合した化合物とを併用することにより、安全性向上において特に好ましい結果が得られる。
【0013】
非水電解液に芳香族化合物を含有させる方法としては、特に限定はされないが、電池を組み立てる前にあらかじめ電解液に添加しておく方法が一般的である。芳香族化合物の非水電解液中での含有量が多いほど電池の安全性は向上するものの、添加量が芳香族化合物を含む非水電解液全体の質量に対して15質量%を超えた場合は、厚さが20μm以下で透気度が500秒/100ml以下のセパレータを用いたとしても負荷特性の低下が大きくなってしまう。また、芳香族化合物の含有量が2質量%未満の場合は、負荷特性の低下がほとんど問題とならないため、セパレータの特性は特には限定されない。従って、非水電解液に芳香族化合物が2〜15質量%の範囲で含有されている電池に対し、厚さが20μm以下で透気度が500秒/100ml以下のセパレータを用いることが効果的である。
【0014】
ここで、芳香族化合物の含有量のより好ましい範囲は、安全性の点からは4質量%以上であり、負荷特性の点からは10質量%以下である。2種以上の芳香族化合物を混合して用いる場合、その総量が上記範囲内であればよく、特に、芳香環にアルキル基が結合した化合物と、芳香環にハロゲン基が結合した化合物とを併用する場合は、芳香環にアルキル基が結合した化合物は、0.5質量%以上であることが望ましく、2質量%以上であることがより望ましく、8質量%以下であることが望ましく、5質量%以下であることがより望ましい。一方、芳香環にハロゲン基が結合した化合物は、1質量%以上であることが望ましく、2質量%以上であることがより望ましく、また、12質量%以下であることが望ましく、4質量%以下であることがより望ましい。
【0015】
上記非水電解液に用いられる有機溶媒としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピオン酸メチルなどの鎖状エステル、リン酸トリメチルなどの鎖状リン酸トリエステル、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチル−テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどが挙げられる。そのほか、アミンイミド系有機溶媒やスルホランなどのイオウ系有機溶媒なども用いることができる。この中でジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの鎖状カーボネートを用いることが望ましい。これらの有機溶媒の量としては、電解液の全体積に対して90体積%未満が望ましく、80体積%以下がより望ましい。また、負荷特性の点からは40体積%以上が望ましく、50体積%以上がより望ましく、60体積%以上が最も望ましい。
【0016】
さらに、その他の電解液の成分として、誘電率が高いエステル(誘電率30以上)を混合して用いることが望ましい。誘電率が高いエステルとしては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトンなどと共に、エチレングリコールサルファイトなどのイオウ系エステルが挙げられる。また、誘電率が高いエステルは環状構造のものが好ましく、特にエチレンカーボネートのような環状カーボネートが好ましい。上記高誘電率のエステルは電解液の全体積に対して80体積%未満が望ましく、50体積%以下がより望ましく、さらに35体積%以下が最も望ましい。また、負荷特性の点からは1体積%以上が望ましく、10体積%以上がより望ましく、25体積%以上が最も望ましい。
【0017】
また、本発明の効果をより一層高めるために、−SO2−結合を有する溶媒、特に−O−SO2−結合を有する溶媒を上記電解液に溶解させておくことが好ましい。そのような−O−SO2−結合を有する溶媒としては、例えば、1,3−プロパンスルトン、メチルエチルスルフォネート、ジエチルサルフェートなどが挙げられる。その含有量は、電解液の全質量に対して0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、また10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0018】
上記非水電解液には、ポリエチレンオキシドやポリメタクリル酸メチルなどのポリマー成分を含んでいてもよく、ゲル状電解質として用いてもよい。
【0019】
電解液の電解質としては、例えば、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiCF3CO2、Li2C2F4(SO3)2、LiN(RfSO2)(Rf’SO2)、LiN(RfOSO2)(Rf’OSO2)、LiC(RfSO2)3、LiCnF2n+1SO3(n≧2)、LiN(RfOSO2)2[ここで、Rf、Rf’は、同じかまたは異なるフルオロアルキル基]、ポリマーイミドリチウム塩などが単独でまたは2種以上混合して用いられる。これらが電極表面の被膜中に取り込まれると、被膜に良好なイオン伝導性を付与することができ、特にLiPF6を用いた場合にその効果が高くなるため望ましい。電解液中における電解質の濃度は特に限定されるものではないが、1mol/l以上にすると安全性が良くなるので望ましく、1.2mol/l以上がさらに望ましい。また、1.7mol/lより少ないと負荷特性が良くなるので望ましく、1.5mol/lより少ないとさらに望ましい。
【0020】
上記セパレータとしては、MD方向とTD方向とを有し、そのTD方向の150℃での熱収縮率が30%以下であり、かつ、その厚さが5〜20μm、その透気度が500秒/100ml以下であるセパレータが用いられる。芳香族化合物を2〜15質量%の範囲で含有する非水電解液を用いた非水二次電池において、良好な負荷特性を得るためには、セパレータの厚さが20μm以下で、その透気度が500秒/100ml以下であることが必要とされる。また、電池の高温状態での内部短絡を防ぐため、セパレータはMD方向とTD方向とを有し、そのTD方向の150℃での熱収縮率が30%以下であることを必要とする。ここで、MD方向とは、特開2000−172420号公報などに示されているように、セパレータの製造時におけるフィルム樹脂の引き取り方向をいい、TD方向とはこのMD方向と直交する方向をいう。本発明においては、このような方向性を有するセパレータが用いられる。なお、上記TD方向の熱収縮率は、表面が平滑な厚さ5mm、縦50mm、横80mm(質量:47g)の2枚のガラス板の間に縦45mm、横60mmのセパレータを挟み、150℃に保たれた恒温槽中に水平に静置して2時間保持した後、室温(20℃)に戻し、TD方向における収縮分の長さを収縮前のセパレータの長さと比較して求めた。
【0021】
セパレータの厚さは、負荷特性や高容量化のためには20μm以下である必要があり、薄いほど好ましいが、絶縁性を良好に保ち、また、熱収縮を小さくするためには、5μm以上の厚さにする必要があり、10μm以上とするのがより好ましい。また、セパレータの透気度は負荷特性を向上させるためには500秒/100ml以下にする必要があり、400秒/100ml以下がより好ましく、350秒/100ml以下が最も好ましい。また、小さすぎると内部短絡を生じやすくなることから50秒/100ml以上とすることが好ましく、100秒/100ml以上がより好ましく、200秒/100ml以上が最も好ましい。
【0022】
セパレータの強度は、MD方向の引っ張り強度として6.8×107N/m2以上が望ましく、9.8×107N/m2以上がより望ましい。ただし、このMD方向の引っ張り強度は、通常は材料によって上限値が制約を受け、ポリエチレンセパレータの場合は108N/m2程度が上限値となる。
【0023】
また、TD方向の引っ張り強度はMD方向の引っ張り強度に比べて小さいほうが望ましく、MD方向の引っ張り強度S1に対するTD方向の引っ張り強度S2の比S2/S1は、0.95以下であることが望ましく、0.9以下がより望ましく、また、0.5以上が望ましく、0.7以上がより望ましい。この範囲内であれば、以下に述べる突き刺し強度を維持しながらTD方向の150℃での熱収縮を抑えられるからである。
【0024】
セパレータの突き刺し強度は、2.9N以上が望ましく、3.9N以上がより望ましい。この突き刺し強度は高いほど電池が短絡しにくくなるが、通常は材料によって上限値が制約を受け、ポリエチレンセパレータの場合は10N程度が上限値となる。なお、セパレータの突き刺し強度は、直径1mm、先端形状が半径0.5mmの半円形のピンを2mm/sでセパレータに突き刺して貫通するまでの最大荷重を読み取って測定した。
【0025】
セパレータの熱収縮率は小さいほど内部短絡が発生しにくくなるため、できるだけ熱収縮率の小さいセパレータを用いるのが望ましく、10%以下であるものがより望ましく、5%以下であるものが特に好適に用いられる。このようなセパレータとしては、例えば、東燃化学社製の微孔性ポリエチレンフィルム“F20DHI”(商品名)などが挙げられる。
【0026】
また、セパレータの熱収縮を抑えるため、あらかじめ120℃程度の温度でセパレータを熱処理しておいてもよい。
【0027】
また、正極に用いる正極活物質としては、充電時の開路電圧がLi基準で4V以上を示すLiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2などのリチウム複合酸化物が好ましく用いられる。これらの活物質は、Co、Ni、Mnの一部がそれぞれ別の元素で置換されていてもよい。その置換元素としてGe、Ti、Ta、Nb、Ybを含む場合、その置換元素の含有量は、0.001原子%以上が望ましく、0.003原子%以上がより望ましく、また、3原子%以下が望ましく、1原子%以下がより望ましい。
【0028】
正極活物質の比表面積が大きい場合、負荷特性は良くなるが安全性が低下する。本発明においては、ある程度比表面積が大きい活物質でもより安全に使用することができ、比表面積が1m2/g程度までの活物質であれば特に問題なく用いることができる。なお、比表面積の下限値は、0.2m2/g以上が好ましい。
【0029】
また、正極活物質中にあらかじめリチウム塩を存在させておくことがさらに望ましい。これは、芳香族化合物とリチウム塩とを併存させることで正極がイオン伝導性を有するようになり、電極の均一反応性が向上し、安全性がより改善されるためである。このリチウム塩としては、LiBF4、LiClO4などの無機リチウム塩や、C4F9SO3Li、C8F17SO3Li、(C2F5SO2)2NLi、(CF3SO2)(C4F9SO2)NLi、(CF3SO2)3CLi、C6H5SO3Li、C17H35COOLiなどの有機リチウム塩を用いることができる。熱安定性、安全性からは有機リチウム塩が望ましく、イオン解離性を考慮した場合には含フッ素有機リチウム塩が望ましい。
【0030】
これらの正極活物質に導電助剤やポリフッ化ビニリデンなどの結着剤などを適宜添加して正極合剤とする。この正極合剤を用いて、金属箔などの集電材料を芯材として成形体に仕上げて正極とする。正極の導電助剤としては炭素材料が望ましく、この使用量は正極材料の全質量に対して5質量%以下が望ましく、3%質量以下がより好ましい。また、導電性確保の点からは1.5質量%以上が望ましい。
【0031】
一方、負極に用いる負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的にドープ、脱ドープできるものであればよく、例えば、天然黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭、などの炭素質材料を用いることができる。また、Si、Sn、Inなどの合金、あるいはLiに近い低電位で充放電できる酸化物あるいは窒化物などの化合物を用いてもよい。また、正極と同様に、安定な保護被膜を電極表面に形成し、電極と電解液の反応を抑えるために、負極活物質中にあらかじめリチウム塩を存在させておくとより望ましい。
【0032】
次に、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。図1は、本発明に用いる非水二次電池の一例を模式的に示す平面図であり、図2は、図1に示した非水二次電池のA−A部の縦断面図である。図1、図2においては角形形状の電池を示しており、Tを厚さ、Wを幅、Hを高さとする。なお、ラミネート形状の電池でも同様である。
【0033】
図2において、正極1と負極2はセパレータ3を介して渦巻状に巻回した後、扁平状になるように加圧して扁平状巻回構造の電極積層体6として、角形の電池ケース4に電解液とともに収容されている。ただし、図2では、煩雑化を避けるため、正極1や負極2の作製にあたって使用した集電体としての金属箔や電解液等は図示していない。
【0034】
電池ケース4はアルミニウム合金などで形成され、電池の外装材となるものであり、この電池ケース4は正極端子を兼ねている。また、電池ケース4の底部にはポリテトラフルオロエチレンシートなどからなる絶縁体5が配置され、正極1、負極2およびセパレータ3からなる扁平状巻回構造の電極積層体6からは正極1および負極2のそれぞれ一端に接続された正極リード体7と負極リード体8が引き出されている。また、電池ケース4の開口部を封口するアルミニウム合金などからなる蓋板9には、ポリプロピレンなどからなる絶縁パッキング10を介してステンレス鋼などからなる端子11が取り付けられ、この端子11には絶縁体12を介してステンレス鋼などからなるリード板13が取り付けられている。さらに、この蓋板9は上記電池ケース4の開口部に挿入され、両者の接合部を溶接することによって、電池ケース4の開口部が封口され、電池内部が密閉されている。
【0035】
なお、上記実施形態では、正極リード体7を蓋板9に直接溶接することによって電池ケース4と蓋板9とが正極端子として機能し、負極リード体8をリード板13に溶接し、そのリード板13を介して負極リード体8と端子11とを導通させることによって端子11が負極端子として機能するようになっているが、電池ケース4の材質などによっては、その正極、負極が逆になる場合もある。
【0036】
次に、本発明の電子機器の実施形態を説明する。本実施形態の電子機器は、上記非水二次電池を内蔵して用いることにより、充電制御機構がうまく作動しなかった場合でも、電池の発熱が少ないため、電子機器が破損して機器の信頼性を損なうことを防ぐことができる。すなわち、薄いセパレータを用いることにより高容量化された従来の電池では、電池の温度が上昇した際に生じる内部短絡により電池自身が発熱し、電池の温度がさらに上昇する。このため、このような電池を内蔵した電子機器では電池の発熱のダメージを受けやすく、特に、充電電流が0.6A以上と大きな電子機器ではその影響が顕著であった。しかし、本発明の非水二次電池は高温での内部短絡の発生が抑制されているため、上記問題が生じにくく、電子機器の信頼性を向上させることができる。
【0037】
さらに、非水二次電池の電子機器への装着形態については、角形形状またはラミネート形状の非水二次電池を、その厚さ方向に押圧した状態で電子機器に内蔵させることにより、安全性を改善できる。通常は、電池が機器などの故障により過充電された場合に、電池が膨れ、電池内部の電極体が変形し、電流が集中して通電されて電池は局部的に発熱しやすくなる。本発明の装着形態であれば電池が膨れにくく、電極の変形も抑制され、電流集中も緩和されることから、電池の発熱も抑制することができる。電子機器の中での電池の押圧は、電池側面より小さい面で押圧されることが望ましく、押圧される面積としては、電池側面の95%以下が望ましく、80%以下がより望ましく、50%以下が最も望ましい。また、電池の押圧を電池側面中央部付近を中心に行うとより効果が高く望ましく、初期状態で5g以上で押圧されることが望ましい。また、この押圧は100g以上がさらに望ましく、500g以上が最も望ましいが、あまり大きすぎると電極体にダメージを与える恐れがあるので5kg以下が望ましい。電池側面中央部付近とは、電池側面の幅をW、高さをHとし、幅W/2、高さH/2の小さい長方形を側面中央部に、電池側面の対角線とその小さい長方形の対角線とが一致するように配置した場合、その小さい長方形の中心側をいう。
【0038】
また、上記形態で非水二次電池を内蔵した電子機器においては、その非水二次電池の非水電解液として、芳香族化合物を含有する電解液を用いることがさらに望ましく、また、そのセパレータとして、その厚さが5〜20μm、その透気度が500秒/100ml以下のセパレータを用いることがさらに望ましい。さらに、前述の本発明の非水二次電池を上記形態で電子機器に内蔵することが最も望ましい。これは、電子機器の中で電池が過充電された場合に非水電解液中の芳香族化合物が反応し、緩やかな短絡が起きやすくなるため実質的な過充電電流が低下して、過充電時の最高電池表面温度が低下するからである。セパレータが薄いと電極間が近くなり、緩やかな短絡がさらに起きやすくなり望ましい。
【0039】
上記非水二次電池を内蔵することのできる電子機器は、特に限定されるものではなく、携帯電話、ノート型パソコン、PDA、小型医療機器などの持ち運び可能な携帯電子機器や、バッテリーバックアップ機能付き事務機器、医療機器など種々の電子機器を挙げることができる。
【実施例】
【0040】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとの体積比1:2の混合溶媒を準備し、この混合溶媒にLiPF6を1.2mol/lの濃度で溶解させ、これに芳香族化合物であるシクロヘキシルベンゼンとフルオロベンゼン、および1,3−プロパンスルトンを、電解質の全質量に対してシクロヘキシルベンゼン4質量%、フルオロベンゼン3質量%、1,3−プロパンスルトン2質量%の含有量となるよう添加して非水電解液を調製した。
【0042】
これとは別に、正極活物質として比表面積が0.5m2/gのLiCo0.995Ge0.005O2と、導電助剤としてのカーボンと、リチウム塩として(C2F5SO2)2NLiとを、それぞれ質量比97.9:2:0.1の比率で混合し、この混合物と、結着剤であるポリフッ化ビニリデンをN−メチルピロリドンに溶解させた溶液とを混合して正極合剤スラリーを作製した。この正極合剤スラリーをフィルターに通過させて大きな粒子を取り除いた後、厚さ15μmの帯状のアルミニウム箔からなる正極集電材の両面に均一に塗付して乾燥し、その後、ローラプレス機により圧縮成形した後、切断し、リード体を溶接して、帯状の正極を作製した。なお、負極と対向しない部分には正極合剤の塗布を行わなかった。ここで用いた正極集電材は、Feを1質量%、Siを0.15質量%含んでおり、アルミニウムの純度は98質量%以上のものであり、引っ張り強度は185N/mm2であった。
【0043】
次に、以下のようにして負極を作製した。d002=0.335nmで平均粒径15μmの黒鉛と(C2F5SO2)2NLiとを負極活物質として用い、結着剤であるフッ化ビニリデンをN−メチルピロリドンに溶解させた溶液とこの負極活物質とを混合して負極合剤スラリーを作製した。ここで、(C2F5SO2)2NLiの割合は黒鉛の質量に対し0.1質量%とした。この負極合剤スラリーをフィルターに通過させて大きな粒子を取り除いた後、厚さ10μmの帯状の銅箔からなる負極集電材の両面に均一に塗付して乾燥し、その後、ローラプレス機により圧縮成形した後、切断し、リード体を溶接して、帯状の負極を作製した。なお、負極の負極合剤塗布部は正極の正極合剤塗布部より幅方向で1mm大きくなるようにし、かつ長手方向でも5mm程度大きくなるようにしたが、それ以外の捲回時に正極と対向しない部分は負極合剤の塗布を行わなかった。正極合剤塗布部の大きさを負極合剤塗布部の大きさ以下にすることによっても電池の安全性は向上するからである。ここで、負極の負極合剤部分の密度は1.55g/cm3であった。
【0044】
上記帯状正極と上記帯状負極とを、厚さ20μmの東燃化学社製の微孔性ポリエチレンフィルム“F20DHI”(透気度:344秒/100ml、突き刺し強度:4.5N、空孔率:39.4%、MD方向の引っ張り強度:1.3×108N/m2、TD方向の引っ張り強度:1.1×108N/m2、TD方向の150℃での熱収縮率:5%)を介して積層し、扁平状に捲回して電極積層体とした。その後、電極積層体の周囲をテープで止め、外形寸法として、厚さ4mm、幅30mm、高さ48mmの電池用アルミニウム合金缶にこの電極積層体を挿入し、リード体の溶接、封口用蓋板のレーザー溶接を行った。
【0045】
次に、準備した電解液を電池ケース内に注入口から注入し、電解液がセパレータなどに充分に浸透した後、注入口を封止し、予備充電、エイジングを行い、図1に示すような構造の角形の非水二次電池を作製した。なお、本実施例の非水二次電池の容量は、600mAhである。
【0046】
(実施例2)
フルオロベンゼンを電解液に添加しなかった以外は実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。
【0047】
(比較例1)
シクロヘキシルベンゼンを電解液に添加しなかった以外は実施例2と同様にして非水二次電池を作製した。
【0048】
(比較例2)
セパレータとして、厚さが20μmで、TD方向の150℃での熱収縮率が34%の微孔性ポリエチレンフィルム(透気度:240秒/100ml、MD方向の引っ張り強度:1.4×108N/m2、TD方向の引っ張り強度:1.3×108N/m2)を用いた以外は、実施例2と同様にして非水二次電池を作製した。
【0049】
(比較例3)
セパレータとして、厚さが20μmで、透気度が590秒/100mlの微孔性ポリエチレンフィルム(MD方向の引っ張り強度:1.3×108N/m2、TD方向の引っ張り強度:9.3×107N/m2、TD方向の150℃での熱収縮率:10%)を用いた以外は、実施例2と同様にして非水二次電池を作製した。
【0050】
(比較例4)
セパレータとして、厚さが25μmの微孔性ポリエチレンフィルム(透気度:650秒/100ml、MD方向の引っ張り強度:1.1×108N/m2、TD方向の引っ張り強度:1.0×108N/m2、TD方向の150℃での熱収縮率:20%)を用いた以外は、実施例2と同様にして非水二次電池を作製した。
【0051】
上記実施例1〜2および比較例1〜4の電池を0.12A(0.2C)の電流値で電池電圧が4.2Vに達するまで室温(20℃)で定電流充電し、さらに4.2Vの定電圧充電を行い、充電開始後7時間経過時点で充電を終了した。次いで、0.12A(0.2C)で3Vまで放電した。充電時の正極電位はリチウム基準でおよそ4.3Vであった。さらに、上記充電条件で充電を行った後、1.2A(2C)で3Vまで放電して放電容量を測定し、0.2Cでの放電容量に対する2Cでの放電容量の割合により負荷特性を評価した。その結果を表1に示した。なお、表1では、負荷特性(%)は、(2Cでの放電容量/0.2Cでの放電容量)×100で表示してある。
【0052】
また、上記測定に用いた電池とは別に、実施例1〜2および比較例1〜4の電池各5個を0.2Cで4.25Vまで充電し、その後は4.25Vで定電圧充電を行い、充電開始後7時間で充電を終了した。充電完了後、防爆型恒温槽に入れ、室温(20℃)から5℃/分の昇温速度で150℃まで昇温させ、150℃で60分間電池を保持する試験を行い、試験中の電池の表面温度を測定して、各々の電池の表面温度について最高到達温度を測定した。各電池の最高到達温度の中で、最高値を最高電池温度として表1に示した。
【0053】
【表1】
【0054】
実施例1および実施例2の電池は、非水電解液として、芳香族化合物を2〜15質量%の範囲で含有する電解液を用い、セパレータとして、MD方向とTD方向を有し、TD方向の150℃での熱収縮率が30%以下であり、かつ、その厚さが5〜20μm、その透気度が500秒/100ml以下であるセパレータを用いたことにより、負荷特性に優れるのみならず、電池が高温にさらされた場合の電池の内部短絡を抑制することができ、電池自身の温度上昇を抑制することができた。特に、芳香環にアルキル基が結合した化合物と、芳香環にハロゲン基が結合した化合物とを併用した実施例1の電池が優れた特性を示した。
【0055】
一方、芳香族化合物を電解液中に含有させなかった比較例1、およびTD方向の150℃での熱収縮率が30%より大きいセパレータを用いた比較例2の電池は、150℃の加熱試験での最高電池温度が実施例1、実施例2より高くなり、高温での安定性が低下した。特に、セパレータの熱収縮率が大きい比較例2の電池は、測定限界である180℃を超えて電池の温度が上昇し、高温での使用には適さないものとなった。また、透気度が500秒/100mlより大きいセパレータを用いた比較例3、および厚さが20μmより厚いセパレータを用いた比較例4の電池は、負荷特性が大幅に低下した。
【0056】
次に、日立社製の携帯電話“C451H”(商品名)に実施例1および比較例1の電池をそれぞれ電源として内蔵させ、以下の試験を行った。保護回路や充電回路が破損した場合を想定し、保護回路、PTC、電圧制御回路を機能しなくしてから、1Aの電流値で電圧12Vまで充電し、その後12Vでの定電圧充電を行った(試験A)。その結果、本発明の実施例1の電池を用いた携帯電話では、試験終了後も携帯電話に外観上の変形、破損等は見られなかった。
【0057】
次に、同様に作製した実施例1の電池を上記携帯電話に装着し、その携帯電話の裏の電池カバーの上から厚さ1mm、横15mm、縦24mmのプラスチック板を電池の側面中央部中心に対応する位置に当て、その部分に500gの押圧を電池の厚さ方向に加え、上記と同様に過充電を行った(試験B)。その結果、試験Bでは、試験Aの場合よりも電池は発熱しにくく、過充電時の最高電池温度は18℃低下した。
【0058】
一方、比較例1の電池を用いて上記と同様に試験A、試験Bを行ったところ、ともに携帯電話が破損し正常に機能しなくなった。
【0059】
上記試験では、保護回路、PTC、電圧制御回路を機能しなくして行ったが、それぞれの保護機能を付加することで電子機器の信頼性がさらに向上することは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上説明したように、本発明は、角形形状またはラミネート形状の非水二次電池を、その厚さ方向に押圧した状態で電子機器に内蔵することにより、電子機器の安全性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に用いる非水二次電池の一例を模式的に示す平面図である。
【図2】図1に示した非水二次電池のA−A部の縦断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 正極
2 負極
3 セパレータ
4 電池ケース
5 絶縁体
6 電極積層体
7 正極リード体
8 負極リード体
9 蓋板
10 絶縁パッキング
11 端子
12 絶縁体
13 リード体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、セパレータと、非水電解液とを備え、角形形状またはラミネート形状に形成された非水二次電池を内蔵した電子機器であって、
前記非水二次電池は、その厚さ方向に押圧されていることを特徴とする電子機器。
【請求項2】
前記非水電解液は、芳香族化合物を含有している請求項1に記載の電子機器。
【請求項3】
前記芳香族化合物の含有量が、電解液の全質量に対して2〜15質量%である請求項2に記載の電子機器。
【請求項4】
前記芳香族化合物は、芳香環にアルキル基が結合した化合物と、芳香環にハロゲン基が結合した化合物である請求項2に記載の電子機器。
【請求項5】
前記非水電解液は、芳香環にアルキル基が結合した化合物を電解液の全質量に対して0.5〜8質量%含有し、芳香環にハロゲン基が結合した化合物を電解液の全質量に対して1〜12質量%含有している請求項1に記載の電子機器。
【請求項6】
前記非水電解液は、−SO2−結合を有する溶媒を含む請求項1に記載の電子機器。
【請求項7】
前記非水電解液は、電解液の全体積に対して、90体積%未満40体積%以上の鎖状カーボネートを含み、かつ、80体積%未満1体積%以上の環状カーボネートを含む請求項1に記載の電子機器。
【請求項8】
前記セパレータの厚さが5〜20μm、その透気度が500秒/100ml以下である請求項1に記載の電子機器。
【請求項9】
前記セパレータは、MD方向とTD方向とを有し、前記TD方向の150℃での熱収縮率が30%以下である請求項1に記載の電子機器。
【請求項10】
前記セパレータのMD方向の引っ張り強度が、6.8×107N/m2以上である請求項1に記載の電子機器。
【請求項11】
前記セパレータのMD方向の引っ張り強度S1に対する、TD方向の引っ張り強度S2の比S2/S1が、0.5〜0.95である請求項1に記載の電子機器。
【請求項12】
前記セパレータの突き刺し強度が、2.9N以上である請求項1に記載の電子機器。
【請求項13】
前記正極は、リチウム複合酸化物を正極活物質として含む請求項1に記載の電子機器。
【請求項14】
前記正極活物質の比表面積が、1m2/g以下である請求項13に記載の電子機器。
【請求項15】
前記正極は導電助剤として炭素材料を含み、前記炭素材料の使用量が正極材料の全質量に対して5質量%以下である請求項1に記載の電子機器。
【請求項16】
前記負極は、リチウムイオンを可逆的にドープ、脱ドープできる材料を負極活物質として含む請求項1に記載の電子機器。
【請求項17】
前記正極および前記負極から選ばれる少なくとも一つが、リチウム塩をあらかじめ含む請求項1に記載の電子機器。
【請求項18】
前記正極と前記負極とは前記セパレータを介して積層されて電極積層体を構成し、
前記非水電解液は、電解液の全質量に対して2〜15質量%の芳香族化合物を含有し、
前記セパレータは、MD方向とTD方向とを有し、前記TD方向の150℃での熱収縮率が30%以下であり、
前記セパレータの厚さが5〜20μm、その透気度が500秒/100ml以下である請求項1に記載の電子機器。
【請求項19】
前記非水電解液は、芳香環にアルキル基が結合した化合物を電解液の全質量に対して0.5〜8質量%含有し、芳香環にハロゲン基が結合した化合物を電解液の全質量に対して1〜12質量%含有している請求項18に記載の電子機器。
【請求項1】
正極と、負極と、セパレータと、非水電解液とを備え、角形形状またはラミネート形状に形成された非水二次電池を内蔵した電子機器であって、
前記非水二次電池は、その厚さ方向に押圧されていることを特徴とする電子機器。
【請求項2】
前記非水電解液は、芳香族化合物を含有している請求項1に記載の電子機器。
【請求項3】
前記芳香族化合物の含有量が、電解液の全質量に対して2〜15質量%である請求項2に記載の電子機器。
【請求項4】
前記芳香族化合物は、芳香環にアルキル基が結合した化合物と、芳香環にハロゲン基が結合した化合物である請求項2に記載の電子機器。
【請求項5】
前記非水電解液は、芳香環にアルキル基が結合した化合物を電解液の全質量に対して0.5〜8質量%含有し、芳香環にハロゲン基が結合した化合物を電解液の全質量に対して1〜12質量%含有している請求項1に記載の電子機器。
【請求項6】
前記非水電解液は、−SO2−結合を有する溶媒を含む請求項1に記載の電子機器。
【請求項7】
前記非水電解液は、電解液の全体積に対して、90体積%未満40体積%以上の鎖状カーボネートを含み、かつ、80体積%未満1体積%以上の環状カーボネートを含む請求項1に記載の電子機器。
【請求項8】
前記セパレータの厚さが5〜20μm、その透気度が500秒/100ml以下である請求項1に記載の電子機器。
【請求項9】
前記セパレータは、MD方向とTD方向とを有し、前記TD方向の150℃での熱収縮率が30%以下である請求項1に記載の電子機器。
【請求項10】
前記セパレータのMD方向の引っ張り強度が、6.8×107N/m2以上である請求項1に記載の電子機器。
【請求項11】
前記セパレータのMD方向の引っ張り強度S1に対する、TD方向の引っ張り強度S2の比S2/S1が、0.5〜0.95である請求項1に記載の電子機器。
【請求項12】
前記セパレータの突き刺し強度が、2.9N以上である請求項1に記載の電子機器。
【請求項13】
前記正極は、リチウム複合酸化物を正極活物質として含む請求項1に記載の電子機器。
【請求項14】
前記正極活物質の比表面積が、1m2/g以下である請求項13に記載の電子機器。
【請求項15】
前記正極は導電助剤として炭素材料を含み、前記炭素材料の使用量が正極材料の全質量に対して5質量%以下である請求項1に記載の電子機器。
【請求項16】
前記負極は、リチウムイオンを可逆的にドープ、脱ドープできる材料を負極活物質として含む請求項1に記載の電子機器。
【請求項17】
前記正極および前記負極から選ばれる少なくとも一つが、リチウム塩をあらかじめ含む請求項1に記載の電子機器。
【請求項18】
前記正極と前記負極とは前記セパレータを介して積層されて電極積層体を構成し、
前記非水電解液は、電解液の全質量に対して2〜15質量%の芳香族化合物を含有し、
前記セパレータは、MD方向とTD方向とを有し、前記TD方向の150℃での熱収縮率が30%以下であり、
前記セパレータの厚さが5〜20μm、その透気度が500秒/100ml以下である請求項1に記載の電子機器。
【請求項19】
前記非水電解液は、芳香環にアルキル基が結合した化合物を電解液の全質量に対して0.5〜8質量%含有し、芳香環にハロゲン基が結合した化合物を電解液の全質量に対して1〜12質量%含有している請求項18に記載の電子機器。
【図1】
【図2】
【図2】
【公開番号】特開2006−156412(P2006−156412A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20828(P2006−20828)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【分割の表示】特願2003−563024(P2003−563024)の分割
【原出願日】平成15年1月22日(2003.1.22)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【分割の表示】特願2003−563024(P2003−563024)の分割
【原出願日】平成15年1月22日(2003.1.22)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】
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