説明

非水二次電池用セパレータの製造方法、非水二次電池用セパレータ及びそれを用いた二次電池

【課題】透気度と機械強度を高度にバランスさせ、かつ粉落ちを改善した非水二次電池用セパレータの製造方法、非水二次電池用セパレータ、非水二次電池を提供する。
【解決手段】ポリプロピレン系樹脂と少なくとも一種以上の透気度上昇剤を含有する非水二次電池用セパレータの構成成分を280℃に加熱した時に該透気度上昇剤が相溶状態であり、該非水二次電池用セパレータの構成成分を280℃の相溶状態から−10℃/minで100℃まで降温する間に、該透気度上昇剤が非球状析出する化合物であって、該非水二次電池用セパレータは、フィルム状に押し出し成型する際、そのドロー比が50以上、500以下であり、かつ、製膜方向に少なくとも二回延伸する工程を含み、第一回目の延伸温度よりも第二回目の延伸温度が高い事を特徴とする非水二次電池用セパレータの製造方法、非水二次電池用セパレータ及び非水二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透気度特性が良好でありかつ機械強度とのバランスが改善された非水二次電池用セパレータの製造方法、非水二次電池用セパレータとそれを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車等に搭載されるリチウムイオン二次電池に代表されるように、非水二次電池の研究が活発に行われている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、正極、負極、及びセパレータから構成されており、正極、負極間のリチウムイオン移動により電池としての役割を果たす。
【0004】
セパレータは、ポリエチレン及びポリプロピレンに代表されるポリオレフィン系樹脂を用いた微細孔をもつフィルムであり、リチウムイオンの電極間での移動の通路であると同時に正極負極間の絶縁を行う役割を果たしている。
【0005】
ポリオレフィン樹脂を用いたセパレータの微細孔形成技術としては、例えば、無機フィラー含有させたポリプロピレン系樹脂を用いた手法(例えば、特許文献1、2参照)が挙げられる。前記特許文献1および2に記載の手法は、溶融押し出し時の条件を高度に制御する事によりポリオレフィン樹脂の結晶配向を制御し、さらに続く延伸によりラメラ結晶間の開裂起点の発生と成長による手法(延伸法)と無機フィラーとポリオレフィン系樹脂との開裂(界面剥離法)による孔形成による複合した多孔化技術である。
【0006】
延伸法による多孔形成はその製造手法の制御の限界から非連通孔を形成しやすく、透気度と機械強度とをバランスさせるのが困難であり、また界面開裂法により形成される比較的大きな空孔により独立孔を連結して連通孔率を上昇させる手法を組み合わせても、透気度と機械強度を高度にバランスさせるには十分ではなかった。
【0007】
また、界面剥離法で用いられる無機フィラーに代表される充填材の使用はフィルムの面品質の低下やフィルムからの粉落ちによる工程汚染の根本的な課題を抱えておりこれらを解決する手法が求めらいた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−211943号公報
【特許文献2】特開2008−94911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、透気度と機械強度を高度にバランスさせ、かつ粉落ちを改善した非水二次電池用セパレータの製造方法、非水二次電池用セパレータ及び、それを用いた非水二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成することができる
1.非水二次電池用セパレータとして、ポリプロピレン系樹脂と少なくとも一種以上の透気度上昇剤を含有し、かつ、該非水二次電池用セパレータを280℃に加熱した時に該透気度上昇剤は相溶状態になり、該280℃の相溶状態から−10℃/minで100℃まで降温する間に、該透気度上昇剤が非球状析出する非水二次電池用セパレータであって、かつ、該非水二次電池用セパレータの製造方法が、フィルム状に押し出し成型する際、そのドロー比が50以上、500以下であり、かつ、製膜方向に少なくとも二回延伸する工程を含み、第一回目の延伸温度よりも第二回目の延伸温度が高い製造方法である事を特徴とする非水二次電池用セパレータの製造方法。
【0011】
2.前記1に記載の非水二次電池用セパレータの製造方法により製造された事を特徴とする非水二次電池用セパレータ。
【0012】
3.前記透気度上昇剤の析出形状が、アスペクト比2以上の針状もしくは繊維状である事を特徴とする前記2に記載の非水二次電池用セパレータ。
【0013】
4.前記透気度上昇剤が、アミド化合物、分子内にエステル結合とアミド結合を少なくとも一つ以上持つエステルアマイド類、分子内にウレア結合を持つ置換尿素化合物、ソルビトール系化合物、アミノ酸誘導体、環状ペプチド誘導体、シクロヘキサン誘導体から選ばれる少なくとも1種である事を特徴とする前記2又は3に記載の非水二次電池用セパレータ。
【0014】
5.前記2〜4のいずれか1項に記載の非水二次電池用セパレータを使用する事を特徴とする非水二次電池。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、透気度と機械強度が高度にバランスされた非水二次電池用セパレータ及びそれを用いた二次電池を提供する事出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の透気度上昇剤の析出する際の挙動を示す模式図である。図1(a)はキャスト時の透気度上昇剤の形状を示す。図1(b)はキャスト後の透気度上昇剤の形状を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
[ポリプロピレン樹脂]
本発明のポリプロピレン樹脂としては、具体的には、ホモプロピレン(プロピレン単独重合体)、またはプロピレンとエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、1−へプテン、1−オクテン、1−ノネンもしくは1−デセンなどα−オレフィンとのランダム共重合体またはブロック共重合体などが挙げられる。この中でも、セパレータとしての機械的強度の観点からはホモポリプロピレンがより好適に使用される。
【0019】
また、ポリプロピレン樹脂は、立体規則性を示すアイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)が80〜99%であることが好ましい。より好ましくは83〜98%、更に好ましくは85〜97%である。アイソタクチックペンタッド分率が低すぎるとセパレータとしての機械的強度が低下するおそれがある。一方、アイソタクチックペンタッド分率の上限については現時点において工業的に得られる上限値で規定しているが、将来的に工業レベルで更に規則性の高い樹脂が開発された場合についてはこの限りではない。
【0020】
アイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)とは、任意の連続する5つのプロピレン単位で構成される炭素−炭素結合による主鎖に対して側鎖である5つのメチル基がいずれも同方向に位置する立体構造あるいはその割合を意味する。メチル基領域のシグナルの帰属は、A.Zambelli et al(Macromolecules8,687,(1975))に準拠している。
【0021】
また、ポリプロピレン樹脂は、分子量分布を示すパラメータであるMw/Mnが2.0〜10.0であることが好ましい。より好ましくは2.0〜8.0、更に好ましくは2.0〜6.0である。Mw/Mnが小さいほど分子量分布が狭いことを意味するが、Mw/Mnが2.0未満であると押出成形性が低下する等の問題が生じるほか、工業的に生産することも困難である。一方、Mw/Mnが10.0を超えた場合は低分子量成分が多くなり、セパレータとしての機械的強度が低下しやすい。Mw/MnはGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって得られる。
【0022】
また、ポリプロピレン樹脂のメルトフローレート(MFR)は特に制限されるものではないが、通常、MFRは0.5〜15g/10分であることが好ましく、1.0〜10g/10分であることがより好ましい。MFRが0.5g/10分未満では成形加工時の樹脂の溶融粘度が高く生産性が低下する。一方、15g/10分を超えるとフィルムの機械的強度が不足するため実用上問題が生じやすい。MFRはJIS K7210に従い、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定している。
【0023】
なお、前記ポリプロピレン樹脂の製造方法は特に限定されるものではなく、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えばチーグラー・ナッタ型触媒に代表されるマルチサイト触媒やメタロセン系触媒に代表されるシングルサイト触媒を用いた重合方法等が挙げられる。
【0024】
(透気度上昇剤)
本発明の透気度上昇剤は、非水二次電池用セパレータ(以後、単にセパレータとも言う)に含有される。セパレータを280℃に加熱した時にはセパレータは、相溶状態であり、かつ相溶状態から10℃/minで100℃降温した時に透気度上昇剤は析出する。さらに本発明の透気度上昇剤は、その析出形状が非球状であることが好ましい。
【0025】
通常、延伸法におけるセパレータの製造においては、第一にポリプロピレン樹脂に代表されるポリオレフィン樹脂を高ドラフト比で冷却ロール上に流延し、冷却固化しセパレータ前駆体を作製する。第二に高度に配向したラメラ結晶を有するセパレータ前駆体を、倍率や温度条件等の調整しながら延伸する事により、結晶間の開裂による独立微細孔の形成と、微細孔の拡大から連結孔形成へと導きセパレータフィルムを製造する。
【0026】
前記した特許文献1や特許文献2では、フィラーを含有させる事により連結孔の形成を促進しているが未だ不十分な結果に終わっている。これは、含有するフィラーがキャスト時にフィラーの最大径方向がセパレータ流延方向と一致することにより連結孔の形成孔率が低い事に起因すると考えたため、本発明に至った。
【0027】
本発明の透気度上昇剤は、セパレータ製造の過程において溶融製膜における押し出し時(例えばTダイ内)には相溶しており、冷却によるフィルム形状の固定化の段階で膜内に方向がランダムな状態であり、かつ非球状(より好ましくは繊維状もしくは針状)で析出していると考えられる。
【0028】
延伸によるポリプロピレンのラメラ結晶間の開裂による微細孔起点の形成とそれに続く微細孔連結の過程において、透気度上昇剤とポリプロピレン樹脂間での開裂が起こり微細孔連結をより効率的に行う事が出来ると考えている。
【0029】
本発明の透気度上昇剤は、冷却過程で非球状に析出する機能を持てばその構造に限定はされない。
【0030】
透気度上昇剤の例としては、モノアマイド、ビスアマイド、トリスアマイドに代表されるアミド化合物、分子内にエステル結合とアミド結合を少なくとも一つ以上持つエステルアマイド類、分子内にウレア結合を持つ置換尿素化合物、ソルビトール系化合物、アミノ酸誘導体、環状ペプチド誘導体、シクロヘキサン誘導体、などが挙げられる。
【0031】
これらの化合物は、新日本理化社、日本化成株式会社等から市販品として提供されている。
【0032】
本発明の透気度上昇剤の析出形状が、非球状である事を特徴とする。本発明における非球状とは、析出物の形状の重心を通る直線と析出成分の表面との接点の距離を考慮し、その最大及び最小距離が1.5倍よりも大きい事を意味する。
【0033】
透気度上昇剤は、独立孔を連結する事により透気度を上昇させる観点から、析出成分の形状が針状や繊維状である事がより好ましく、またアスペクト比が2以上である事が好ましい。
【0034】
(非水二次電池)
本発明における非水二次電池は、正極、セパレータ、負極をこの順に積層した単位電極を少なくとも一組、正極及び負極から電気を取り出すリード、正極と負極の間でイオンの伝達物質である電解液、これらの構成物を内包する外装材から構成される。複数組みの単位電極を、セパレータを介して積層し構成された積層型電極群を含んでもよい。
【0035】
〔正極〕
本発明の非水二次電池を構成する正極としては、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、二酸化マンガン、五酸化バナジウムもしくはクロム酸化物などの金属酸化物、二硫化モリブデンなどの金属硫化物などが活物質として用いられ、これらの正極活物質に導電助剤やポリテトラフルオロエチレンなどの結着剤などを適宜添加した合剤を、ステンレス鋼製網などの集電材料を芯材として成形体に仕上げたものが用いられる。
【0036】
正極の形成方法の例としては、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)に導電助剤としてリン状黒鉛を、(リチウムコバルト酸化物:リン状黒鉛)の質量比90:5で加えて混合し、この混合物と、ポリフッ化ビニリデンをN−メチルピロリドンに溶解させた溶液とを混合してスラリーにする。この正極合剤スラリーを70メッシュの網を通過させて大きな粒子を取り除いた後、厚み20μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に均一に塗布して乾燥し、その後、ロールプレス機により圧縮成形した後、切断し、帯状の正極板とする方法が挙げられる。
【0037】
[負極〕
負極の形成材料としては、アルカリ金属またはアルカリ金属を含む化合物をステンレス鋼製網などの集電材料と一体化させたものが用いられる。アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウムまたはカリウムなどが挙げられる。アルカリ金属を含む化合物としては、例えば、アルカリ金属とアルミニウム、鉛、インジウム、カリウム、カドミウム、スズもしくはマグネシウムなどとの合金、さらにはアルカリ金属と炭素材料との化合物、低電位のアルカリ金属と金属酸化物もしくは硫化物との化合物などが活物質として挙げられる。
【0038】
負極に炭素材料を用いる場合、炭素材料としてはリチウムイオンをドープ、脱ドープできるものであればよく、例えば、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭などを用いることができる。
【0039】
負極の形成方法の例として、フッ化ビニリデンをN−メチルピロリドンに溶解させた溶液に、平均粒径が10μmの炭素材料を混合してスラリーとし、この負極合剤のスラリーを70メッシュの網を通過させて大きな粒子を取り除いた後、厚み18μmの帯状の銅箔からなる負極集電体の両面に均一に塗布して乾燥させ、その後、ロールプレス機により圧縮成形した後、切断し、帯状の負極板とする方法を挙げることができる。
【0040】
〔電解液〕
電解液としては、リチウム塩を電解質とし、これを有機溶媒に溶解した電解液が用いられる。有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ジメチルカーボネート、プロピオン酸メチルもしくは酢酸ブチルなどのエステル類、アセトニトリル等のニトリル類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジメトキシメタン、ジメトキシプロパン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランもしくは4−メチル−1,3−ジオキソランなどのエーテル類、またはスルホランなどが挙げられ、これらを単独でまたは二種類以上を混合して用いることができる。
【0041】
電解液の例として、エチレンカーボネート1質量部に対してメチルエチルカーボネートを2質量部混合した溶媒中に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1.4mol/Lの割合で溶解したものを挙げることができる。
【0042】
[非水二次電池用セパレータに用いる多孔質フィルムの製造方法]
非水二次電池用セパレータに用いる多孔質フィルムの製造方法は、(1)熱可塑性樹脂を混合溶融押出し成型して原反フィルムを得る工程、(2)前記原反フィルムを延伸により多孔化して熱処理を行う工程、を含む。
【0043】
[工程(1)]
工程(1)は、上記で列挙したポリプロピレン系樹脂及び前記透気度上昇剤、そして必要に応じて前記以外の添加剤を混合溶融押出し成型して原反フィルムを得る工程である。
【0044】
本工程においては、セパレータの構成成分を事前に混合・分散し、それを押出し機に供給して溶融押出し成型してもよいし、押出し機に直接供給して溶融押出し成型してもかまわない。事前に混合・分散にする方法としては公知の手法を用いることができ、例えば、1軸押出し機、2軸押出し機、ミキシングロール等を用いて溶融混練してペレットを得る方法、ヘンシェルミキサー、タンブラー等でエアブレンドを行う方法等が挙げられる。溶融押出し成型は公知の1軸あるいは2軸の押出し機を用いることができ、ダイスもまたTダイ、サーキュラーダイ等、フィルム作製時に使用する公知のものを用いることができる。
【0045】
Tダイによる溶融成形法により原反フィルムを得る場合、溶融した樹脂組成物の吐出口の厚さに対する押し出し成形後の厚さであるドロー比は、50〜500が好ましく、更に好ましくは200〜300である。
【0046】
ドロー比が50〜500であると、フィルムの流れ方向(MD)への配向が充分となり、延伸による空孔形成が容易で、厚みムラもなく、特殊な設備を用いる必要もない。
【0047】
[工程(2)]
工程(2)は、工程(1)で得られた原反フィルムを延伸により多孔化して熱処理を行う工程である。
【0048】
工程(1)で得られた原反フィルムに、結晶配向性を高めるためにアニール処理を施すことも好ましく行われる。
【0049】
アニール温度は、使用したセパレータ構成成分の融点に対して、−80℃以上融点−5℃以下であることが好ましい。
【0050】
アニール温度が高すぎると原反フィルムが溶解して結晶構造自体を壊してしまうおそれがあり、低すぎると配向性を高める効果が低くなる傾向があるが、アニール温度が上記範囲にあると、特に結晶構造を壊さずに配向性を高めることができる。
【0051】
本発明において、延伸処理は温度条件が異なる二回以上で行い、かつ時系列として先に行われる延伸温度よりも後に行われる延伸温度が高い事を特徴とする。少なくとも2回延伸の際の延伸方法の各々は1軸延伸法でも2軸延伸法でもよく、2軸延伸法では同時2軸延伸法でも逐次2軸延伸法でもかまわない。
【0052】
セパレータの製造が流延によりラメラ結晶がMD方向(フィルム搬送方向)に配向しやすいという観点から上記2回以上の延伸はMD方向へ行う事が好ましい。
【0053】
また延伸温度は、使用する熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上融点以下であるのが好ましく、ガラス転移温度以上融点−10℃以下であるのがより好ましい。この温度範囲で延伸すると原反フィルムが破断等することなく延伸が可能で、かつ孔が高度に連結した多孔質構造になりやすい。
【0054】
(孔径および孔径分布)
本発明のセパレータの多孔質膜の孔径は、最大孔径が0.01〜3μmの範囲内であることが好ましく、0.01〜0.5μmの範囲内であることがより好ましい。最大孔径が0.01μm未満では、電解液の拡散が不十分となる傾向がみられ、電池の内部抵抗が高くなるおそれがある。また、最大孔径が3μmを超えると、例えばリチウムイオン二次電池のセパレータとして用いた場合に、リチウムデンドライド(電池反応時に発生成長するリチウムの針状結晶)の発生を抑制することが困難となり、短絡が生じるおそれがある。
【0055】
平均孔径が好ましくは0.01〜0.1μm、より好ましくは0.03〜0.1μmである。
【0056】
ここで、セパレータに形成されている細孔の平均値(平均孔径)は、例えばバブルポイント法(JIS K 3832、あるいはJIS B 8356−2)によって得られる。バブルポイント法に基づく細孔径(平均細孔径や細孔径分布)の測定は、例えば市販される日本ベル株式会社製のPorometer3G装置を用いて容易に行うことができる。
【0057】
(気孔率)
本発明のセパレータの気孔率は40〜70%が好ましく、より好ましくは40〜65%、更に好ましくは40〜60%である。気孔率が40%以上の場合、透過性能に優れる傾向にあり、70%以下の場合、機械的強度に優れ、スリット時の捲回性が良好となる傾向にある。気孔率の測定には、ASTM D−2873に準じて、例えばヘキサデカン溶媒に試料を浸漬前後の質量の測定と試料の体積から測定する事が出来る。
【0058】
(密度)
本発明のセパレータに使用される素材の密度はJISK−7112に準じて濃度勾配管中で試料の位置により測定する事が出来る。
【0059】
(刺突強度)
本発明のセパレータの膜突刺強度としては、電極間の短絡による電池不良を改善する観点から、好ましくは2〜10N、より好ましくは3〜10Nである。刺突強度は、ASTM D3763に準じて測定する事が出来る。
【0060】
(破断強度、弾性率)
本発明のセパレータの破断強度は、電池の組立の観点からMD方向、TD方向ともに好ましくは500kg/cm以上が好ましい。電池組み立て時のセパレータの裂けや蛇行などの観点から、MD方向とTD方向の破断強度の比は0.1以上8.0以下が好ましい。より好ましくは0.1以上5.0以下、さらに好ましくは0.5以上2.0以下である。
【0061】
また、セパレータの弾性率は、好ましくは10MPa以上600MPa以下、より好ましくは20MPa以上550MPa以下、さらに好ましくは40MPa以上500MPa以下の範囲である。引張弾性率が10MPa以上では電池用セパレータとして使用した際に、電極と共に捲回する際等に破膜等の不具合が起こり難く捲回性に優れ、600MPa以下では、捲回後に巻締まり等の不具合が起こり難いので好ましい。
【0062】
破断強度及び弾性率は、JIS K−7127に準じて例えば、23℃、55%RHの環境下で24時間調湿し、市販の引っ張り試験器オリエンテック(株)社製テンシロンRTA−100を使用し、試験片の形状は1号形試験片で、試験速度は10mm/分の条件で測定する事が出来る。
【0063】
(熱収縮)
本発明のセパレータの熱収縮率は90℃条件において、MD方向、TD方向ともに0%以上5%以下であることが好ましい。近年のリチウムイオン電池の高容量化に伴い、150℃条件において、MD方向、TD方向ともに0%以上15%以下であることがさらに好ましく、より好ましくは0%以上10%以下、さらに好ましくは0%以上5%以下である。熱収縮率がMD方向、TD方向ともに15%以下であると、電池の異常発熱時の多層多孔膜の破膜が抑制され、短絡を防止する観点から好ましい。
【0064】
(ネジレ・直線性)
本発明のセパレータの直線性は0.5mm/mである事が好ましく、0.2mm/mである事が好ましい。例えば、円筒型電池として組み立てを行う際に、電極と共に捲回する際等に蛇行が起こる等の不具合が起こり難いので好ましい。
【0065】
セパレータの直線性の評価としては、25℃50%で調湿した条件下で平面な台の上で測定する事が出来る。
【0066】
(シャットダウン特性、メルトダウン耐性)
本発明のセパレータは、安全性を確保するために、シャットダウン(SD)機能が求められる場合がある。SD機能とは、短絡等を起因として電池内部温度が過度に上昇した場合に、セパレータの電気抵抗を急激に上昇させることにより、電池反応を停止させて、温度上昇を防止する機能である。上記SD機能の発現機構としては、例えば、微多孔性フィルム製のセパレータの場合、所定の温度まで電池内部温度が上昇した場合、その多孔質構造を喪失して無孔化し、イオン透過を遮断することがあげられる。しかし、このように無孔化してイオン透過を遮断しても、温度がさらに上昇してフィルム全体が溶融し破膜してしまった場合は、電気的絶縁性を維持できなくなってしまう。したがって、このフィルムがその形態を保持できなくなりイオン透過を遮断することができなくなる温度をメルトダウン温度といい、この温度が高いほどセパレータの耐熱性が優れているといえる。また上記メルトダウン温度とSD開始温度との差が大きいほど、安全性に優れているといえる。
【0067】
(電解液吸収性)
本発明のセパレータの電解液吸収性は、電池生産性時の電解液工程において迅速に組み立てを行うために迅速吸収性が求められる。電解液の吸収速度は、例えば使用する電解液をセパレータ表面に一滴滴下し、目視により電解液が吸収される時間(透明化する時間)を計測する手法等により測定する事が出来る。
【0068】
毛細管内を浸透する液体と毛細管直径との関係は、Lucas−Washburn式(数1)で表される(l:浸透深さ、d:毛細管直径、γ:表面張力、θ:接触角、η:液体粘度、t:時間)事が知られている。当該数式によれば、浸透深さは毛細管直径の平方根および時間の平方根に比例し、液体粘度の平方根に反比例することとなる。従って、これを微多孔膜に当てはめた場合、大孔径である方が液体浸透に優れることが理論的には推測される。
【0069】
【数1】

【0070】
(保液性)
本発明の非水二次電池の電極は、リチウムの挿入及び脱離に伴い膨張及び収縮するが、電池の高容量化に伴い、膨張率が大きくなる傾向にある。充放電に伴い電極の膨張及び収縮に伴ってパレータは電極により圧迫されるので、セパレータには圧迫による電解液保持量の減少が小さいことが求められている。
【0071】
(化学安定性)
本発明の非水二次電池の高充電電圧化を図ると正極は高い電位となるため、セパレータは強い酸化環境にさらされ、酸化分解を受けやすくなる。酸化分解によって分子量が低下すると、機械的物性が著しく低下し、破膜などが起こりやすくなる。特に、高温環境下ではセパレータの酸化がさらに進行しやすいため、高温保存した場合には破膜などが一層起こりやすくなるため、化学安定性の高いセパレータが求められている。
【0072】
(動摩擦係数)
本発明の非水二次電池の組み立て工程でのしわや折れ等の不具合を起こさずに安定的な生産を行う観点から、セパレータ同士の(セパレータ両面を重ね合わせたときの)静摩擦係数μsが、0.3〜1.8の範囲であることが好ましい。静摩擦係数μsが0.3未満では、セパレータが滑り過ぎて、長尺に巻き取る際に巻きずれやしわが発生することがある。一方、μsが1.8を超えると、フィルム製造(製膜)ならびに二次加工工程で、セパレータ同士あるいはセパレータとロール等との摩擦により、表層のポリマーの脱落やセパレータ破れが起こり、生産性が低下することがある。セパレータの動摩擦係数は0.3〜1.5であることがより好ましく、0.5〜1.5であることが更に好ましい。
【実施例】
【0073】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0074】
実施例1
多孔フィルム製造方法
ポリプロピレン系樹脂として、サンアロマーPL500A(サンアロマー(株)製)(MFR:3.3、Tm:162℃)の100質量%と、表1記載の透気度上昇剤を、表1記載量加え、東芝機械株式会社製の同方向二軸押出機(口径φ40mm、L/D=32)を用いて280℃にて溶融混練してペレット状に加工した樹脂組成物を得た。
【0075】
上記樹脂組成物を押し出し機にてTダイより押出し、90℃のキャスティングロールでドロー比300の条件で引き取り、セパレータ用原反フィルムを得た。
【0076】
得られた、セパレータ用原反フィルムを流延方向に25℃で1.2倍一軸延伸した後、120℃で2.5倍にさらに一軸延伸を行い100℃で4%熱弛緩して非水二次電池用セパレータ1−1〜1−8を作製した。
【0077】
(非水二次電池の作製)
セパレータ1−1〜1−8を介して正極活物質層と負極活物質層とが対向するように、正極板、セパレータおよび負極板を重ね合わせて単位電極を作製した。単位電極と単位電極との間にセパレータを介在させて、単位電極9枚を積層し、積層型電極群を作製した。この積層型電極群にポリプロピレン(PP)樹脂からなるタブを有するアルミニウム製正極リードおよびニッケル製負極リードを接続した後、アルミニウムラミネートシートからなる外装ケースに挿入し、封口部にPPタブが配置されるようにして、熱溶着させた。その後、非水電解質を注液し、外装ケース内部を真空減圧しながら、外装ケースの開口を溶着させて、それぞれセパレータに対応する非水二次電池1−1〜1−8を作製した。
【0078】
(評価手法)
[相溶性・析出温度・形状観察]
セパレータ1−1〜1−8について、偏光顕微鏡(BX51−P(オリンパス株式会社製))と顕微鏡用ホットステージ(形式:10033L(ジャパンハイテック株式会社製))とを用いて、室温から、10℃/分の昇温速度で280℃まで昇温させた後、水平なガラス板上で厚さ5.0μmの条件で、−10℃/分の条件で130℃まで降温させ、偏光顕微鏡により280℃における相溶性、降温析出を確認した。
【0079】
280℃における相溶性は、280℃で5分保持した後の観察で判断を行った。相溶したものを○、相溶しなかったものを×とした。析出の温度は、280℃から100℃へ10℃/minで降温した時に目視にて析出が確認されたものを○、析出しなかったものを×とした。
【0080】
〔透気度・(ガーレー透気度)〕
ガーレー透気度とは、シートの空気透過率の指標の1つであり、JIS P 8117(1998)に示されるものである。ガーレー値(透気度)の測定には、市販の東洋精機製 ガーレーデンソメータを用いて測定を行い、以下の評価をした。
◎:400〜499(秒/100ml)
○:500〜599(秒/100ml)
△:600〜699(秒/100ml)
×:700以上(秒/100ml)
[刺突強度]
刺突強度は、ASTM D3763に準じて測定しい、以下の評価をした。
◎:2.2N以上
○:2.0N以上
△:1.8N以上
×:1.8N未満
[破断点強度]
破断点強度は、JIS K−7127に準拠した方法で測定した。23℃、55%RHの環境下で24時間調湿し、市販の引っ張り試験器、オリエンテック(株)社製のテンシロンRTA−100を使用し、試験片の形状は1号形試験片で、試験速度は10mm/分の条件で測定しい、以下の評価をした。
◎:33MPa以上
○:30MPa以上
△:27MPa以上
×:27MPa未満
[粉落ち]
非水二次電池1−1〜1−8をそれぞれ100個作製し粉落ちの有無を目視で確認し、粉落ちなしのものを○、粉落ちが認められたものに関しては×とした。
【0081】
【表1】

【0082】
表1の結果から、本発明のセパレータ1−1、1−2、1−4、1−5は比較例のセパレータ1−8と比較して透気度、機械物性、工程汚染の低減(粉落ち)が高度にバランスしたセパレータであることが解る。比較例のセパレータ1−3、1−6は溶融時に相分離が起こっているために、冷却の過程で非球状に析出しないために透気度上昇と機械物性のバランスは不十分であったと考えられる。また、セパレータ1−7はセパレータ表面からフィラーが脱落したため粉落ちが起こったと考えられる。
【0083】
実施例2
(非水二次電池用のセパレータ2−1〜2−12の作製)
非水二次電池用のセパレータ1−1〜1−8と同様にして非水二次電池用のセパレータ2−1〜2−12を作製した。但し、透気度上昇剤は表2に記載の種類と量で、表2記載の文献の方法で合成した。
【0084】
得られた非水二次電池用のセパレータ2−1〜2−12について、セパレータ1−1〜1−8と同様に評価し結果を表2に示す。
【0085】
【表2】

【0086】
【化1】

【0087】
表2のから本発明のセパレータ2−1〜2−12は透気度、機械強度、粉落ちの点で良好な結果が得られた事が解る。セパレータ2−1〜2−3および2−4から2−6を比較すると析出形状のアスペクト比が大きくなるほど透気度の上昇率が良好な結果であり、高アスペクト比が効率的に連通孔を形成し透気度を上昇させたと考えられる。
【0088】
セパレータ2−7から2−12を比較すると、析出温度が低い方がより透気度と機械物性が高いレベルでバランスしている。これは、低温で析出する化合物の方が溶融キャスト時にうける配向の影響をより小さく出来るからであると考えている。
【0089】
実施例3
(非水二次電池用のセパレータ3−1〜3−8の作製)
非水二次電池用のセパレータ1−1〜1−8と同様にして非水二次電池用のセパレータ3−1〜3−8を作製した。但し、押し出し時のドロー比と延伸温度は表3記載の条件で行った。
【0090】
【表3】

【0091】
表3から明らかなように、押し出し時のドロー比が50以上、500以下の条件であり、二回延伸する工程を含み、二回目の延伸温度が高い事が良好なセパレータを得る条件である事が解る。
【符号の説明】
【0092】
1 透気度上昇剤
2 開裂孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水二次電池用セパレータとして、ポリプロピレン系樹脂と少なくとも一種以上の透気度上昇剤を含有し、かつ、該非水二次電池用セパレータを280℃に加熱した時に該透気度上昇剤は相溶状態になり、該280℃の相溶状態から−10℃/minで100℃まで降温する間に、該透気度上昇剤が非球状析出する非水二次電池用セパレータであって、かつ、該非水二次電池用セパレータの製造方法が、フィルム状に押し出し成型する際、そのドロー比が50以上、500以下であり、かつ、製膜方向に少なくとも二回延伸する工程を含み、第一回目の延伸温度よりも第二回目の延伸温度が高い製造方法である事を特徴とする非水二次電池用セパレータの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の非水二次電池用セパレータの製造方法により製造された事を特徴とする非水二次電池用セパレータ。
【請求項3】
前記透気度上昇剤の析出形状が、アスペクト比2以上の針状もしくは繊維状である事を特徴とする請求項2に記載の非水二次電池用セパレータ。
【請求項4】
前記透気度上昇剤が、アミド化合物、分子内にエステル結合とアミド結合を少なくとも一つ以上持つエステルアマイド類、分子内にウレア結合を持つ置換尿素化合物、ソルビトール系化合物、アミノ酸誘導体、環状ペプチド誘導体、シクロヘキサン誘導体から選ばれる少なくとも1種である事を特徴とする請求項2又は3に記載の非水二次電池用セパレータ。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項に記載の非水二次電池用セパレータを使用する事を特徴とする非水二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2012−89283(P2012−89283A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233370(P2010−233370)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】