説明

非水亜鉛系フラックス塗料

【課題】フラックスやバインダなどの沈降物の発生が抑制され、かつ優れたろう付性を有する非水亜鉛系フラックス塗料を提供する。
【解決手段】本発明の非水亜鉛系フラックス塗料は、亜鉛フッ化物を含むフラックスと、(メタ)アクリル系樹脂と、アルコール系溶媒と、3〜6個の炭素原子を有する脂肪族ポリオール類;2または3個の炭素原子を有する脂肪族ポリオールのオリゴマー;脂肪族ポリオールと脂肪族カルボン酸とからなる、3〜7個の炭素原子を有するモノエステル;および1000以下の重量平均分子量を有する脂肪族ポリオールの重合体からなる群より選択される少なくとも1種の沈降防止剤とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にアルミニウム部材のろう付に使用する非水亜鉛系フラックス塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用熱交換器などの形成材料には、軽量化の観点から、アルミニウムやアルミニウム合金(以下、これらをまとめて単に「アルミニウム」と記載する場合がある)が用いられている。従来、アルミニウム製の部材をろう付により接合する際には、接合する部材同士を組み立てた後に、部材表面にフラックスを塗布して乾燥させ、ろう付温度に加熱する方法が一般的である。
【0003】
ろう付する際に用いられるろう付用組成物には、例えば、バインダとして(メタ)アクリル酸エステル系重合体、フラックスとして亜鉛系フラックスなどが含まれている。このようなろう付用組成物は、水系のもの(特許文献1〜3)や非水系(特許文献4)のものがある。
【0004】
ところで、バインダとして用いる(メタ)アクリル酸エステル系重合体は、水に溶解しない。そのため、水系の組成物では、(メタ)アクリル酸エステル系重合体が析出しないように対策が講じられているが、例えば、長期間保存していると析出してくる可能性が高くなり、その結果、組成物中に沈降物が生じたり、組成物の粘度が高く(ゲル化)なったりするおそれがある。また、亜鉛系フラックスは、水と接触するとイオン化し、組成物中に亜鉛イオンが発生する。この亜鉛イオンが(メタ)アクリル酸エステル系重合体中のカルボキシル基と反応し、ゲル化するおそれもある。
【0005】
一方、非水系の組成物は実質的に組成物中に水は存在しない。しかし、長期間の保存中に、大気中の水分が混入するなど何らかの要因で水が混入する場合がある。この場合、上記のように、組成物中に沈降物が生じたり、組成物の粘度が高く(ゲル化)なったりするおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−074276号公報
【特許文献2】特開2011−131247号公報
【特許文献3】特開2009−208129号公報
【特許文献4】特開2009−166122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、フラックスやバインダなどの沈降物の発生が抑制され、かつ優れたろう付性を有する非水亜鉛系フラックス塗料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)亜鉛フッ化物を含むフラックスと、
(メタ)アクリル系樹脂と、
アルコール系溶媒と、
3〜6個の炭素原子を有する脂肪族ポリオール類;2または3個の炭素原子を有する脂肪族ポリオールのオリゴマー;脂肪族ポリオールと脂肪族カルボン酸とからなる、3〜7個の炭素原子を有するモノエステル;および1000以下の重量平均分子量を有する脂肪族ポリオールの重合体からなる群より選択される少なくとも1種の沈降防止剤と、
を含む、非水亜鉛系フラックス塗料。
(2)前記フラックスが、フルオロ亜鉛酸カリウムを含む、(1)に記載の非水亜鉛系フラックス塗料。
(3)前記沈降防止剤が、プロピレングリコール、グリセリン、グリセリルモノアセテート、および1000以下の重量平均分子量を有するポリエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種である、(1)または(2)に記載の非水亜鉛系フラックス塗料。
(4)前記(メタ)アクリル系樹脂の酸価が65以下である、(1)〜(3)のいずれかの項に記載の非水亜鉛系フラックス塗料。
(5)前記アルコール系溶媒が、1〜8個の炭素原子を有する脂肪族アルコールである、(1)〜(4)のいずれかの項に記載の非水亜鉛系フラックス塗料。
【発明の効果】
【0009】
本発明の非水亜鉛系フラックス塗料は、フラックスやバインダなどの沈降物の発生が抑制され、かつ優れたろう付性を有するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ろう付性の評価サンプルを示す外観図である。
【図2】ろう付温度に加熱した後の評価用サンプルを模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の非水亜鉛系フラックス塗料は、亜鉛フッ化物を含むフラックスと、(メタ)アクリル系樹脂と、アルコール系溶媒と、特定の沈降防止剤とを含む。
【0012】
本発明に用いられる亜鉛フッ化物を含むフラックスは、アルミニウム部材のろう付に用いた場合、アルミニウム部材の表面に亜鉛拡散層を形成して犠牲腐食作用を発揮させるとともに、アルミニウム表面に形成されている酸化皮膜を還元・除去して、アルミニウムとろう材との共晶合金の生成を促進するために用いられる。
【0013】
亜鉛フッ化物としては、一般的にK−Zn−F系の化合物が用いられる。具体的には、フルオロ亜鉛酸カリウム(KZnF3)などが挙げられ、必要に応じて、カリウムをセシウムやルビジウムなど他のアルカリ金属に代替した化合物を用いてもよい。このような亜鉛フッ化物を用いると、(I)亜鉛金属単体よりも亜鉛イオンの生成が抑制される、(II)フッ化物の働きでフラックス機能が発揮される、(III)金属(アルミニウム部材)が腐食されにくいなどの利点がある。
【0014】
本発明に用いられる(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなど(メタ)アクリル系化合物を重合させて得られる重合体である。なお、本明細書において「(メタ)アクリル」は、アクリルまたはメタクリルを意味する。
【0015】
(メタ)アクリル系化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、およびこれらのアルキルエステルなどが挙げられる。(メタ)アクリル酸のアルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2,2−ジメチルラウリル(メタ)アクリレート、2,3−ジメチルラウリル(メタ)アクリレート、2,2−ジメチルステアリル(メタ)アクリレート、2,3−ジメチルステアリル(メタ)アクリレート、イソラウリル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、イソベヘニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0016】
(メタ)アクリル系樹脂は、これら(メタ)アクリル系化合物の単独重合体や共重合体、あるいは(メタ)アクリル系化合物と共重合可能な他の単量体(例えば、アクリルアミド、スチレンなど)を含む共重合体であってもよい。なお、(メタ)アクリル系樹脂である以上、他の単量体を含む場合、他の単量体は共重合体を構成する単量体成分の50モル%未満となるようにする。
【0017】
(メタ)アクリル系樹脂の酸価は特に限定されない。例えば、得られる塗料のろう付性や沈降防止性をより向上させるために、酸価を好ましくは0〜65程度、より好ましくは15〜40程度にするのがよい。酸価は、例えばアクリル酸やメタクリル酸の含有量によって調整される。
【0018】
(メタ)アクリル系樹脂を合成する方法は特に限定されず、公知の方法が採用される。例えば、(メタ)アクリル系樹脂を構成するモノマー成分を、必要に応じて溶媒、重合開始剤、連鎖移動剤などを用いてラジカル重合に供すればよい。ラジカル重合を行う場合に用いる重合開始剤としては、分解してラジカルを発生する化合物であれば、特に限定されない。例えば、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤などが挙げられる。
【0019】
(メタ)アクリル系樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
本発明に用いられるアルコール系溶媒は、亜鉛フッ化物を含むフラックスに含まれる成分を分散し得るものであれば、特に限定されない。アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール(3MMB)など1〜8個の炭素原子を有する脂肪族アルコールなどが挙げられる。これらの中でも、引火性が低く安全面から、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールが好ましい。アルコール系溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
本発明に用いられる沈降防止剤は、3〜6個の炭素原子を有する脂肪族ポリオール類、2または3個の炭素原子を有する脂肪族ポリオールのオリゴマー、脂肪族ポリオールと脂肪族カルボン酸とからなる、3〜7個の炭素原子を有するモノエステル、および1000以下の重量平均分子量を有する脂肪族ポリオールの重合体からなる群より選択される少なくとも1種である。これらの沈降防止剤は、塗料中の成分の沈降防止だけでなく、吸湿性や反応抑止をも目的として用いられる。
【0022】
3〜6個の炭素原子を有する脂肪族ポリオール類としては、例えば、3〜6個の炭素原子を有する脂肪族ジオールや脂肪族トリオールなどが挙げられる。3〜6個の炭素原子を有する脂肪族ジオールとしては、3〜6個の炭素原子を有するアルカンにおいて2個の水素(H)が2個の水酸基(OH)に置換したものが挙げられ、例えば、プロピレングリコール(HOCH2CH(OH)CH3;炭素数3)、トリメチレングリコール(HO(CH23OH;炭素数3)、1,4−ブタンジオール(HO(CH24OH;炭素数4)、1,3−ブタンジオール(HO(CH22CH(OH)CH3;炭素数4)、2,3−ブタンジオール(CH3CH(OH)CH(OH)CH3;炭素数4)、一般式C5122で示される炭素数5のペンチレンジオール(例えば、1,5−ペンタンジオールなど)、一般式C6142で示される炭素数6のヘキシレンジオール(例えば、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオールなど)などが挙げられる。これらの中でも3または4個の炭素原子を有する脂肪族ジオールが好ましく、プロピレングリコールが特に好ましい。
【0023】
3〜6個の炭素原子を有する脂肪族トリオールとしては、例えば、グリセリン(炭素数3)、1,2,4−ブタントリオール(炭素数4)などが挙げられ、これらの中でもグリセリンが好ましい。
【0024】
2または3個の炭素原子を有する脂肪族ポリオールのオリゴマーとしては、総炭素数が4または6個のオリゴマーが挙げられ、例えば、ジエチレングリコール(HO(CH22O(CH22OH;総炭素数4、ダイマー)、ジプロピレングリコール(CH3CH(OH)CH2OCH2CH(OH)CH3;総炭素数6、ダイマー)、トリエチレングリコール(HO(CH22O(CH22O(CH22OH;総炭素数6、トライマー)などが挙げられる。これらの中でもジエチレングリコールが好ましい。
【0025】
全体として3〜7個の炭素原子を有する、脂肪族ポリオールと脂肪族カルボン酸とのモノエステルとしては、グリセリルモノアセテート(グリセリンと酢酸とのモノエステル;炭素数5)、グリセリルモノブチレート(グリセリンと酪酸とのモノエステル;炭素数7)などが挙げられ、これらの中でもグリセリルモノアセテートが好ましい。
【0026】
1000以下の重量平均分子量を有する脂肪族ポリオールの重合体としては、例えば、1000以下の重量平均分子量を有するポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリンなどが挙げられる。これらの中でも、1000以下の重量平均分子量を有するポリエチレングリコールが好ましい。
【0027】
1000以下の重量平均分子量を有する脂肪族ポリオールの重合体は比較的高粘度であり、少量を添加するだけで、優れた沈降防止性が得られる。一方、脂肪族ポリオールは重合度が高くなるにつれて、吸湿性が低下するため、1000を超える重量平均分子量を有する脂肪族ポリオールは好ましくない。また、吸湿性の低下を補うために、例えば添加量を多くすることも考えられるが、添加量を多くすると塗料の粘度も高くなりすぎるため、実用上問題となる。
【0028】
沈降防止剤は、その炭素原子の数が少ないほど吸湿性に優れ、炭素原子の数が多いほど吸湿性が低くなる傾向がある。また、沈降防止剤には、それ自体の粘度が低いものがある。このような沈降防止剤自体の粘度が元々低いものは、塗料の粘度が低くなりすぎて、沈降防止性自体が乏しくなる傾向がある。したがって、本発明では、上述の特定の脂肪族ポリオール、そのオリゴマー、脂肪族カルボン酸とのモノエステル、およびその重合体が用いられる。
【0029】
特定の沈降防止剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
本発明の非水亜鉛系フラックス塗料は、塗料としての体を成す限り、各成分を任意の割合で含む。例えば、(メタ)アクリル系樹脂100質量部に対して、亜鉛フッ化物を含むフラックスは400〜10000質量部、好ましくは570〜1900質量部含有され、特定の沈降防止剤は10〜6000質量部、好ましくは50〜4000質量部含有される。
【0031】
特に、沈降防止剤の含有割合は各種ポリオール類(またはそのエステル)におけるOH基の数に合わせて適宜設定すればよく、非水亜鉛系フラックス塗料の総量に対して、5〜20質量%となるように添加されるのが好ましい。沈降防止剤のOH基の数が多いほど、その含有割合を少なく設定することができ、逆に、OH基の数が少ないほど、含有割合を多く設定することができる。沈降防止剤の含有割合が5質量%未満の場合、沈降防止性、吸湿性および反応抑止性が乏しくなる傾向にある。一方、含有割合が20質量%を超える場合、特定の沈降防止剤の沸点が比較的高いため、基材表面への塗布後の乾燥工程において、乾燥が不十分となる傾向にある。乾燥が不十分な場合、その後のろう付工程に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0032】
本発明の非水亜鉛系フラックス塗料は、このようなフラックス塗料に一般的に用いられる添加剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で含んでいてもよい。
【0033】
本発明の非水亜鉛系フラックス塗料は、車両に搭載されるエバポレータ、コンデンサなど自動車用熱交換器などの形成材料のろう付の際に用いられる。得られる形成品(自動車用熱交換器など)の外観は、ろう付不良や塗膜にひび割れなどが存在せず、良好である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
(合成例1:(メタ)アクリル系樹脂の合成)
撹拌装置、冷却管、滴下ロートおよび窒素導入管を備えた反応容器に、600質量部のイソプロパノールを入れて、窒素雰囲気下で系内温度が80℃となるまで昇温した。次いで、メタクリル酸メチル100質量部、メタクリル酸イソブチル275質量部、メタクリル酸25質量部および過酸化ベンゾイル4質量部を含むモノマー溶液を調製し、約3時間かけて反応容器内に滴下して80℃で反応を行った。全てのモノマー溶液を滴下した後、さらに80℃で10時間熟成し、乾燥時の酸価が40で不揮発分濃度が40質量%の樹脂溶液を得た。
【0036】
次いで、上記反応容器に上記凝集除去装置を取り付け、反応容器内に1330質量部の3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを入れ、窒素雰囲気下で系内が還流するまで昇温した。凝集除去装置にて反応容器内のイソプロパノールを除去し、不揮発分濃度が約30質量%の(メタ)アクリル系樹脂(有機バインダ1)を得た。
【0037】
(合成例2:(メタ)アクリル系樹脂の合成)
メタクリル酸を40質量部およびメタクリル酸イソブチルを260質量部用いたこと以外は、合成例1と同様の手順で、乾燥時の酸価が65で不揮発分濃度が40質量%の樹脂溶液を得た。次いで、合成例1と同様の手順で、不揮発分濃度が約30質量%の(メタ)アクリル系樹脂(有機バインダ2)を得た。
【0038】
(合成例3:(メタ)アクリル系樹脂の合成)
メタクリル酸を9質量部およびメタクリル酸イソブチルを291質量部用いたこと以外は、合成例1と同様の手順で、乾燥時の酸価が15で不揮発分濃度が40質量%の樹脂溶液を得た。次いで、合成例1と同様の手順で、不揮発分濃度が約30質量%の(メタ)アクリル系樹脂(有機バインダ3)を得た。
【0039】
(合成例4:(メタ)アクリル系樹脂の合成)
メタクリル酸を用いず、メタクリル酸イソブチルを300質量部としたこと以外は、合成例1と同様の手順で、乾燥時の酸価が0で不揮発分濃度が40質量%の樹脂溶液を得た。次いで、合成例1と同様の手順で、不揮発分濃度が約30質量%の(メタ)アクリル系樹脂(有機バインダ4)を得た。
【0040】
(実施例1)
合成例1で得られた有機バインダ1を100質量部、沈降防止剤としてグリセリンを100質量部、およびフラックスとしてKZnF3を900質量部加えて撹拌し、混合物を得た。この混合物の不揮発分濃度が50質量%となるように、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを添加して、非水亜鉛系フラックス塗料を調製した。なお、沈降防止剤(グリセリン)は、塗料全体に対して5質量%であった。
【0041】
(実施例2〜16)
表1に記載の沈降防止剤およびフラックスを、表1に記載の割合で用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で非水亜鉛系フラックス塗料を調製した。なお、実施例16において、KZnF3とSiとの配合比は、KZnF3:Si=2:1(質量比)である。
【0042】
(実施例17〜28)
表2に記載の沈降防止剤およびフラックスを、表2に記載の割合で用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で非水亜鉛系フラックス塗料を調製した。
【0043】
(比較例1〜6)
表2に記載の沈降防止剤およびフラックスを、表2に記載の割合で用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で非水亜鉛系フラックス塗料を調製した。
【0044】
各実施例および各比較例で得られた非水亜鉛系フラックス塗料について、(1)塗料の沈降性、(2)ろう付性、(3)吸湿性、および(4)反応抑止性の評価を行なった。評価方法を以下に示す。
【0045】
(1)塗料の沈降性
調製直後の塗料を容器に入れて、23℃、相対湿度50%の環境下において1週間静置保管した。1週間後、容器内を目視で観察し、以下の基準で評価した。結果を表1および2に示す。
<評価基準>
+:沈殿物が観察されなかった場合。
A:沈殿物が若干生じているものの、手で軽く撹拌すると均一になった場合。
B:沈殿物が生じており、分散装置で機械的に撹拌しないと均一にならなかった場合。
C:容器底部で、沈殿物が固化していた場合。
【0046】
(2)ろう付性
ろう付性の評価サンプルの外観図を図1に示し、ろう付温度に加熱した後の評価サンプルの側面図を図2に示す。
【0047】
<評価サンプルの作製>
まず、図1を参照して、ろう付性の評価サンプル10の作製工程を説明する。ろう付性の評価サンプル10は、幅W1が25mm、長さL1が60mm、厚さが0.3mmである第1のアルミニウム平板11と、幅W2が25mm、長さL1およびL2が55mm、厚さが1.0mmである第2のアルミニウム平板12と、直径1.6mmのステンレス線13とを備える。
【0048】
第1のアルミニウム平板11には、アルミニウム合金板(JIS−A3003)であって、その上面に実施例および比較例で得られた非水亜鉛系フラックス塗料を塗布したものを用いた。第2のアルミニウム平板12には、1.2質量%のマンガンと2.5質量%の亜鉛とを含むアルミニウム合金板であって、その両面にろう材としてのケイ素−アルミニウム合金をクラッドしたものを用いた。
【0049】
なお、第1のアルミニウム平板11の上面に実施例16で得られた非水亜鉛系フラックス塗料を塗布したサンプルにおいては、フラックス塗料自体にろう材が含まれている。このため、このサンプルの場合には、第2のアルミニウム平板12として、1.2質量%のマンガンと2.5質量%の亜鉛とを含むアルミニウム合金板をそのままの状態で、すなわちその両面にろう材としてのケイ素−アルミニウム合金をクラッドせずに用いた。
【0050】
次に、第2のアルミニウム平板12の長辺側における一の端縁E1を、第1のアルミニウム平板11の表面14に対して突き合わせて、端縁E1が第1のアルミニウム平板11の長さ方向L1に沿うように、かつ第1のアルミニウム平板11と第2のアルミニウム平板12とが互いに垂直となるように配置した。この時、第2のアルミニウム平板12における端縁E1の一の角部C1を、第1のアルミニウム平板11の表面14に接触させた。また、端縁E1の他の角部C2側を、第1のアルミニウム平板11の表面14に配置されたステンレス線13と接触させた。このようにステンレス線13を挟むことにより、第1のアルミニウム平板11の表面14と第2のアルミニウム平板12の端縁E1との間には、一の角部C1から他の角部C2にかけて間隔が広がる楔形の隙間が形成された。第2のアルミニウム平板12の角部C1側から、第1のアルミニウム平板11とステンレス線13との接線までの距離Dを45mmに設定し、第1のアルミニウム平板11と第2のアルミニウム平板12とを図示しないワイヤーで固定した。
【0051】
<ろう付性の評価>
上記評価サンプル10をろう付温度である605℃で10分間加熱して、第1のアルミニウム平板11と第2のアルミニウム平板12とをろう付した。ろう付性の評価は、ろう付後におけるろう材の充填長さL3(図2参照)が大きいほど良好である。なお、充填長さL3の最大値は、上述の距離Dに相当する45mmである。
ろう付性の評価基準は下記のとおりである。
+:充填長さL3が40mm以上で、ろう付性が極めて良好な場合。
A:充填長さL3が30mm以上40mm未満で、ろう付性が良好な場合。
B:充填長さL3が20mm以上30mm未満である場合。
C:充填長さL3が20mm未満で、ろう付性が不十分な場合。
【0052】
(3)吸湿性
まず、得られた非水亜鉛系フラックス塗料の粘度を測定した。次いで、得られた非水亜鉛系フラックス塗料100質量部に水を5質量部添加して十分に撹拌した。撹拌終了直後に粘度を測定し、水の添加前後の粘度に基づいて、吸水性を以下の基準で評価した。結果を表1および2に示す。
<評価基準>
+:水を添加する前の粘度を基準として、水を添加した後の粘度の上昇率が2%未満の場合。
A:水を添加する前の粘度を基準として、水を添加した後の粘度の上昇率が2%以上5%未満の場合。
B:水を添加する前の粘度を基準として、水を添加した後の粘度の上昇率が5%以上10%未満の場合。
C:水を添加する前の粘度を基準として、水を添加した後の粘度の上昇率が10%以上の場合。
【0053】
(4)反応抑止性
通常、塗料に水が混入して有機バインダが析出する現象と、塗料に水が混入して亜鉛フラックスから亜鉛イオンが溶出し、有機バインダ中のカルボキシル基とが反応する現象とを比較した場合、後者の方がより長時間を要する。そこで、上記(3)の吸湿性試験において、良好な吸湿性(A+またはA)を有する非水亜鉛系フラックス塗料について、反応抑止性の評価を行った。
【0054】
上記(3)の吸湿性試験において粘度の測定後、23℃、相対湿度50%の環境下において1週間静置保管した。1週間後、容器内を目視で観察し、以下の基準で評価した。結果を表1および2に示す。
<評価基準>
+:沈殿物が観察されなかった場合。
A:沈殿物が若干生じているものの、手で軽く撹拌すると均一になった場合。
B:沈殿物が生じており、分散装置で機械的に撹拌しないと均一にならなかった場合。
C:容器底部で、沈殿物が固化していた場合。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
表1および2に示すように、実施例1〜28で得られた非水亜鉛系フラックス塗料は、いずれも優れた沈降性、ろう付性、吸湿性および反応抑止性を有することがわかった。一方、比較例1〜6で得られた塗料は、沈降性、ろう付性、吸湿性および反応抑止性のうち、少なくとも1つが悪い結果となった。
【符号の説明】
【0058】
10 ろう付性の評価サンプル
11 第1のアルミニウム平板
12 第2のアルミニウム平板
13 ステンレス線
14 第1のアルミニウム平板の表面(ろう材面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛フッ化物を含むフラックスと、
(メタ)アクリル系樹脂と、
アルコール系溶媒と、
3〜6個の炭素原子を有する脂肪族ポリオール類;2または3個の炭素原子を有する脂肪族ポリオールのオリゴマー;脂肪族ポリオールと脂肪族カルボン酸とからなる、3〜7個の炭素原子を有するモノエステル;および1000以下の重量平均分子量を有する脂肪族ポリオールの重合体からなる群より選択される少なくとも1種の沈降防止剤と、
を含む、非水亜鉛系フラックス塗料。
【請求項2】
前記フラックスが、フルオロ亜鉛酸カリウムを含む、請求項1に記載の非水亜鉛系フラックス塗料。
【請求項3】
前記沈降防止剤が、プロピレングリコール、グリセリン、グリセリルモノアセテート、および1000以下の重量平均分子量を有するポリエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の非水亜鉛系フラックス塗料。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル系樹脂の酸価が65以下である、請求項1〜3のいずれかの項に記載の非水亜鉛系フラックス塗料。
【請求項5】
前記アルコール系溶媒が、1〜8個の炭素原子を有する脂肪族アルコールである、請求項1〜4のいずれかの項に記載の非水亜鉛系フラックス塗料。

【図1】
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【図2】
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