説明

非水系インクおよびそれを用いたインクジェット記録システム

【課題】高湿環境に長期間放置しても吐出不良を生じることなく、正常吐出可能な非水系インクおよび、前記インクジェットインクと、インク循環機構および加熱機構を備えたインクジェットプリンタを組み合わせたインクジェット記録システムを提供する。
【解決手段】少なくとも、顔料、高分子顔料分散剤、非水系溶剤を含むインクであって、前記インクは、飽和脂肪酸エステルをインク全量の10質量%以上、及び、炭素数10以上16以下の飽和高級アルコール溶剤をインク全量の5質量%以上含むことを特徴とする非水系インクを用いる。前記非水系インクと、インク循環機構および加温機構をもつインクジェットプリンタを組み合わせたインクジェット記録システムを用いることで、高湿環境に長期間放置した後の吐出不良を更に改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の非水系溶剤を使用したインクジェット用の非水系インク(以下、単にインクともいう)、およびインク循環部およびインク加温部を備えたインクジェットプリンタと前記非水系インクとを組み合わせて印刷を行うインクジェット記録システム、に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷システムにおいては、近年、記録媒体の制約を受けずに高速でフルカラー印刷が行えることが益々要求されている。この要求に応えるためには、カールやコックリングがおきにくい非水系インクを用いたインクジェットプリンタが普及しつつある。
【0003】
非水系インクの色材は、染料と顔料とに大別される。色材に顔料を用いた非水系顔料インクは、色材に染料を用いた非水系染料インクに比べ、普通紙に印字した場合、画像濃度が高く裏抜けが少ない。このため、普通紙用の非水系インクでは顔料が用いられることが多い。
【0004】
色材に顔料を用いる場合、界面活性剤や高分子分散剤を用いて顔料分散を行い、顔料をインク溶媒に均一に分散させる。長期間の貯蔵安定性を確保するためには高分子顔料分散剤を用いることが望ましい。高分子顔料分散剤とは、分子量が5000以上の顔料分散剤を意味する。
【0005】
高分子顔料分散剤を用いて顔料を分散させた非水系インクを、インクジェットプリンタに充填し、高湿環境に長期間放置したところ、放置後の印刷において、吐出不良が発生することがわかった。
【0006】
従来、長期間放置した後の吐出不良は、ヘッドノズルに詰まったインク固化物や顔料の凝集物が原因と考えられていた(例えば特許文献1)。
【0007】
しかし、吐出不良の発生したインクジェットプリンタのインクジェットヘッドノズルを解析したところ、高分子顔料分散剤が塊となって詰まっていることがわかった。この塊が吐出不良の原因になっていることがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−2666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高湿環境に長期間放置した後も吐出不良を生じることなく、正常吐出が可能な非水系インク、および、前記インクとインク循環機構および加熱機構を備えたインクジェットプリンタを組み合わせたインクジェット記録システム、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的の下に鋭意研究した結果、所定の溶剤を使用した非水系インクを用いることにより、より好ましくは所定の溶剤を使用した非水系インクと所定の機構を備えたインクジェットプリンタを組み合わせることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の一局面によれば、少なくとも、顔料、高分子顔料分散剤、非水系溶剤を含むインクであって、前記インクは、飽和脂肪酸エステルをインク全量の10質量%以上含み、炭素数10以上16以下の飽和高級アルコール溶剤をインク全量の10質量%以上、含むことを特徴とする非水系インクが提供される。
【0012】
飽和脂肪酸エステルの含有量はインク全量の20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上が更にいっそう好ましい。前記炭素数10以上16以下の飽和高級アルコール溶剤の含有量はインク全量の20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上が更にいっそう好ましい。
【0013】
前記炭素数10以上16以下の飽和高級アルコール溶剤は炭素数10以上14未満の飽和高級アルコール溶剤であることが好ましく、イソラウリルアルコールであることがより好ましい。
【0014】
本発明の他の局面によれば、前記非水系インクとインク循環機構およびインク加温機構をもつインクジェットプリンタを組み合わせて印刷を行うことを特徴とするインクジェット記録システムが提供される。
【0015】
前記インクジェット記録システムにおいて、インクの循環速度は2ml/sec以上が好ましく、3ml/sec以上がより好ましく、6ml/sec以上が更に一層好ましい。インク循環速度が2ml/secより遅い場合、高分子顔料分散剤の再分散は促進されにくい。
【0016】
前記インクジェット記録システムにおいて、インクジェットヘッドにリフィールされるインクは30℃以上60℃以下に加温されることが好ましく、40℃以上60℃以下に加温されることがより好ましい。30℃より低温の場合、高分子顔料分散剤の再分散が促進されにくく、60℃より高温の場合、インクが変質しやすくなり変質したインクが吐出不良の原因となってしまう。
【発明の効果】
【0017】
高湿環境に長期間放置することで、ノズルに高分子顔料分散剤が詰まるメカニズムについては、以下のように推測する。
【0018】
高湿環境において、インクジェットヘッドのノズルに形成されるメニスカス気液界面には、多くの水蒸気が存在している。このため、インク原材料のうち、水蒸気と親和性良好な物質がメニスカスの気液界面に移動しやすくなっている。高分子顔料分散剤は顔料に吸着する極性基をもつため、非水系インクの原材料の中ではとりわけ極性が高い。このため、高湿環境で長期間放置すると高分子顔料分散剤が徐々に蓄積することで塊となり、正常な吐出を妨げる。
【0019】
本発明のインクによれば、少なくとも、顔料、高分子顔料分散剤、非水系溶剤を含み、飽和脂肪酸エステルをインク全量の10質量%以上含み、炭素数10以上16以下の飽和高級アルコール溶剤をインク全量の10質量%以上含有するので、インクが酸化による変質を生じることもなく、貯蔵安定性を確保することができる。また、インクの極性が程よく高くなっているため、長期間放置による吐出不良の発生を抑制することが可能となる。
【0020】
前期飽和脂肪酸エステルの含有量が多いほどインクの貯蔵安定性が改善され、前記炭素数10以上16以下の飽和高級アルコール溶剤の含有量が多いほど、異物付着や放置後回復性を改善することができる
【0021】
前記炭素数10以上16以下の飽和高級アルコール溶剤は、炭素数が14未満であるほど異物付着や放置後回復性を改善することができ好ましいが、10未満になると揮発しやすくなるため、炭素数は10以上であることが望ましく、12以上であることが好ましい。したがって、イソラウリルアルコールが最も好ましい。
【0022】
飽和脂肪酸エステルをインク全量の10質量%以上含み、炭素数10以上16以下の飽和高級アルコール溶剤をインク全量の10質量%以上含有することで、インク全体の極性が高くなっているため、ノズルに移動してしまった高分子顔料分散剤が再分散されやすく、ノズルに蓄積しにくい。
【0023】
前記非水系インクとインク循環機構および加温機構を備えたインクジェットプリンタを組み合わせることで、再分散をより促進することが可能となる。
【0024】
再分散を促進させるメカニズムについては、定かではないが、前記インクジェットプリンタのインクが40℃以上になると、ノズル部分の高分子顔料分散剤の流動性が急激に上がるので、インクジェットヘッド内部を循環速度2ml/sec以上の速さでインクが流れることにより、高い流動性を得た高分子分散剤がこの流れにそって移動するため、ノズル付近から除去されやすくなるものと推測する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明におけるインクジェットプリンタの概略構成図である。
【図2】インク循環機構とインク加温機構の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を更に詳細に説明するが、本実施の形態における例示が本発明を限定することはない。
【0027】
1.非水系インク
本発明で使用する非水系インクは、顔料、高分子顔料分散剤、非水系溶剤、飽和脂肪酸エステル、炭素数10以上16以下の飽和高級アルコール溶剤から主として構成されるが、必要に応じて、その他の成分を含有してもよい。
【0028】
1−1.顔料
顔料としては、有機顔料、無機顔料を問わず、印刷の技術分野で一般に用いられているものを使用でき、特に限定されない。具体的には、カーボンブラック、カドミウムレッド、クロムイエロー、カドミウムイエロー、酸化クロム、ピリジアン、チタンコバルトグリーン、ウルトラマリンブルー、プルシアンブルー、コバルトブルー、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料、ペリレン系顔料、チオインジゴ系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料などが好適に使用できる。これらの顔料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0029】
顔料は、非水系インク全量に対して0.01〜20質量%の範囲で含有されることが好ましい。
【0030】
1−2.高分子顔料分散剤
本発明で使用できる顔料分散剤としては、顔料を溶剤中に安定して分散させるものであれば特に限定されないが、例えば、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合物、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエステルポリアミン、ステアリルアミンアセテート等が使用される。
【0031】
高分子顔料分散剤の具体例としては、日本ルーブリゾール社製「ソルスパース5000(フタロシアニンアンモニウム塩系)、13940(ポリエステルアミン系)、17000、18000(脂肪酸アミン系)、11200、22000、24000、28000」(いずれも商品名)、楠本化成社製「ディスパロンKS−860、KS−873N4(高分子ポリエステルのアミン塩)」(いずれも商品名)、等が挙げられる。
【0032】
上記高分子顔料分散剤のうち、ポリエステル鎖からなる側鎖を複数備える櫛形構造のポリアミド系分散剤が好ましく使用される。ポリエステル鎖からなる側鎖を複数備える櫛形構造のポリアミド系分散剤とは、ポリエチレンイミンのような主鎖に多数の窒素原子を備え、該窒素原子を介してアミド結合した側鎖を複数備える化合物であって、該側鎖がポリエステル鎖であるものをいい、例えば、特開平5−177123号公報に開示されているような、ポリエチレンイミンなどのポリアルキレンイミンからなる主鎖一分子当り3〜80個のポリ(カルボニル―C3〜C6―アルキレンオキシ)鎖がアミド架橋によって側鎖として結合している構造の分散剤が挙げられる。なお、かかる櫛形構造のポリアミド系分散剤としては、上記日本ルーブリゾール社製ソルスパース11200、ソルスパース28000(何れも商品名)が該当する。
【0033】
高分子顔料分散剤の含有量は、上記顔料を十分に上記有機溶剤中に分散可能な量であれば足り、適宜設定できる。
1−3.非水系溶剤
溶剤は、インクの溶媒すなわちビヒクルとして機構するものであれば特に限定されず、揮発性溶剤及び難揮発性溶剤の何れであってもよい。しかしながら、本発明では環境上の観点から、溶剤は、難揮発性溶剤を主体として含有することが好ましい。難揮発性溶剤の沸点は、180℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく、220℃以上が更に一層好ましい。
【0034】
非水系溶剤としては、非極性有機溶剤及び極性有機溶剤の何れの有機溶剤も使用できる。これらは、単独で使用してもよく、または、単一の相を形成する限り、2種以上組み合わせて使用できる。本発明では、非極性有機溶剤及び極性有機溶剤を組み合わせて使用することが好ましく、10〜80質量%の非極性有機溶剤と90〜20質量%の極性有機溶剤とから溶剤を構成することが好ましく、20〜45質量%の非極性有機溶剤と80〜55質量%の極性有機溶剤とから溶剤を構成することがより好ましい。
【0035】
1−3−1.非極性有機溶剤
非極性有機溶剤としては、ナフテン系、パラフィン系、イソパラフィン系等の石油系炭化水素溶剤を使用でき、具体的には、ドデカンなどの脂肪族飽和炭化水素類、エクソンモービル社製「アイソパー、エクソール」(いずれも商品名)、新日本石油社製「AFソルベント、ノルマルパラフィンH」(いずれも商品名)、サン石油社製「サンセン、サンパー」(いずれも商品名)等が挙げられる。これらは、単独で、または、2種以上組み合わせて用いることができる。
【0036】
1−3−2.極性有機溶剤
極性有機溶剤としては、飽和脂肪酸エステル、炭素数10以上16以下の飽和高級アルコール溶剤も挙げられるが、飽和脂肪酸エステル、炭素数10以上16以下の飽和高級アルコール溶剤以外の極性有機溶剤としては、不飽和エステル系溶剤、脂肪酸系溶剤、エーテル系溶剤などが挙げられる。これらは、単独で、または、2種以上組み合わせて用いることができる。
【0037】
不飽和脂肪酸エステル系溶剤としては、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、オレイン酸ヘキシル、リノール酸メチル、リノール酸イソブチル、リノール酸エチル、大豆油メチル、大豆油イソブチル、などが挙げられる。
【0038】
脂肪酸系溶剤としては、例えば、1分子中の炭素数が4以上、好ましくは9乃至22の脂肪酸類が挙げられ、イソノナン酸、イソミリスチン酸、ヘキサデカン酸、イソパルミチン酸、オレイン酸、イソステアリン酸などが挙げられる、
【0039】
エーテル系溶剤としては、ジエチルグリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテルなどのグリコールエーテル類の他、グリコールエーテル類のアセタートなどが挙げられる。
【0040】
1−4.飽和脂肪酸エステル
飽和脂肪酸エステルとしては、例えば、1分子中の炭素数が5以上、好ましくは9以上、より好ましくは12乃至32の高級脂肪酸エステル類が挙げられ、例えば、イソノナン酸イソデシル、イソノナン酸イソトリデシル、イソノナン酸イソノニル、ラウリル酸メチル、ラウリル酸ヘキシル、ラウリル酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソオクチル、パルミチン酸ヘキシル、パルミチン酸イソステアリル、イソパルミチン酸イソオクチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ヘキシル、ステアリン酸イソオクチル、イソステアリン酸イソプロピルなどが挙げられる。
【0041】
1−5.炭素数10以上16以下の飽和高級アルコール溶剤
炭素数10以上14未満のアルコール系溶剤としては、例えば、デカノール(炭素数10)、ウンデカノール(炭素数11)、イソラウリルアルコール(炭素数12)、テルピオネール(炭素数10)などの高級アルコールが挙げられる。
炭素数14以上16以下のアルコール系溶剤としては、例えば、イソミリスチルアルコール(炭素数14)、イソセチルアルコール(炭素数16)などの高級アルコールが挙げられる。
【0042】
1−6.その他の成分
本発明の非水系インクには、インクの性状に悪影響を与えない限り、上記有機溶剤、顔料、顔料分散剤以外に、例えば、染料、界面活性剤、定着剤、防腐剤等の他の成分を添加できる。
【0043】
2.インク製造方法
本発明の非水系インクは、例えばビーズミル等の公知の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。例えば、予め溶剤の一部と顔料の全量を均一に混合させた混合液を調製して分散機にて分散させた後、この分散液に残りの成分を添加してろ過機を通すことにより調製することができる。
【0044】
3.インクジェットプリンタ
本発明における装置の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明におけるインクジェットプリンタの一実施形態の概略構成図である。図1に示すように、インクジェットプリンタ10は、プリントする用紙を供給し、この用紙にプリントを行い、このプリントされた用紙を排出する用紙搬送機構を有する。インクジェットプリンタ10の筐体左側側面には給紙台101が配設され、筐体内部には複数の給紙トレイ102、103、104及び105が配設されている。また、インクジェットプリンタ10の筐体左側上部には排紙台110が配設されている。
インクジェットプリンタ10は、給紙台101等から供給される用紙の搬送方向に対して直交する方向に多数のノズルが配列されたプリンタユニット2を備えている。
【0045】
図1に示すインクジェットプリンタ10のプリント動作は以下の通りである。印刷前の用紙は、レジスト部121に導かれる。レジスト部121に搬送された用紙はここで一旦停止され後、所定のタイミングにおいてプリンタユニット2(印刷部)の方向に搬送される。プリンタユニット2に給紙系搬送路を介して対向する領域には環状の搬送ベルト120が配設され、この搬送ベルト120を用いて搬送される用紙に対してプリントが行われる。
【0046】
プリント済みの用紙は、駆動機構によって排紙系搬送路に沿って搬送され、片面プリントの場合にはそのまま排紙台110に導かれて排紙される。また、両面プリントの場合には、片面プリント済みの用紙が排紙系搬送路から切換機構122を通してスイッチバック経路111に導かれ、この用紙はプリント面を反転させて再び給紙系搬送路に戻される。片面プリントの場合と同様に、給紙系搬送路に戻された用紙は、レジスト部121からプリンタユニットに搬送され、ここでプリントを行った後、排紙系経路を通して排紙台110に排紙される。
【0047】
図2は、本実施形態におけるインクジェットヘッド130と、インクを加温するための温度調整機構151を含むインクを循環するための循環機構150との構成を示す図である。
【0048】
図2に示すように、インクジェットヘッド130にインクを供給するインク循環機構150は、インクジェットプリンタ10の筐体20の内部に配置され、管状のインク循環経路152、153に加え、着脱可能なインクカートリッジ210、下部タンク220、上部タンク230、ポンプ250、温度調整機構151を備えている。
【0049】
インクカートリッジ210から供給されたインクは、インク供給路153を介して、インクジェットヘッド130の下流側に設けられた下部タンク220に溜められる。下部タンク220に溜められたインクは、ポンプ250の動作により上部タンク230に送られ、上部タンク230から自重によってインクジェットヘッド130に供給される。インクジェットヘッド130で印刷に用いられなかったインクは、再び下部タンク220に戻される。
【0050】
インクジェットヘッド130のインク吐出面は、下部タンク220より高い位置に配置され、上部タンク230は、インクジェットヘッド130のインク吐出面より高い位置に配置されている。この位置関係に基づく水頭差により、上部タンク230からインクジェットヘッド130へのインク供給およびインクジェットヘッド130から下部タンク220へのインク帰還が行われる。
【0051】
下部タンク220および上部タンク230にはそれぞれ大気開放弁221、231が設けられている。
【0052】
また、上部タンク230には、インクジェットヘッド130に供給されるインクの温度として上部タンク230内のインクの温度を計測する温度センサ235が設けられ、インクジェットプリンタ10の筐体20の内部には、インク循環経路152の周辺温度を計測する周辺温度センサ330設けられている。
【0053】
下部タンク220と上部タンク230との間のインク循環経路152上に設けられた温度調整機構151は、加熱器であるヒータ242と、冷却器であるヒートシンク244および冷却ファン246を含んでいる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこの実施例のみに限定されるものではない。
【0055】
実施例1〜8、比較例1〜4
表1〜表3に示す各成分を表1に示す割合でプレミックスし、その後、直径(φ)0.5mmのジルコニアビーズを入れ、ロッキングミル((株)セイワ技研製)にて60分間分散し、得られた分散液をメンブレンフィルター(開口径3μm)でろ過し、インクを調製した。
【0056】
尚、表1〜表3記載の原材料の詳細は下記のとおり。
フタロシアニンブルーKRG(商品名;山陽色素社製)、ソルスパース18000(商品名;ルーブリゾール社製)、ソルスパース28000(商品名;ルーブリゾール社製)、ヘキシルアルコール(和光純薬工業社製)、デカノール(和光純薬工業社製)、イソラウリルアルコール(和光純薬工業社製)、イソミリスチルアルコール(日産化学社製)、イソセチルアルコール(日産化学社製)、イソステアリルアルコール(日産化学社製)、パルミチン酸イソオクチル(日光ケミカルズ社製)、アイソパーM(エクソンモービル社製)
【0057】
表1〜表3に記載の非水系インクを、インクジェットプリンタX9050(商品名;理想科学工業株式会社製)に導入し、解像度300×300dpiにて、36pl(6dropに相当)/dotのインク量の印刷条件で、100枚の連続印刷を行った。得られた印刷物の放置後回復性を下記方法で測定し評価した。結果を表1に示す。
【0058】
<貯蔵安定性>
インクを50mLガラス容器に30mL充填したのち、ガラス容器を密封し、70℃環境に1ヶ月放置し、放置前後の粘度変化率を求め、下記基準で評価した。
粘度は、23℃において、レオーメーター(RS300:Haake社製)を用い、0.1Pa/秒の速度で剪断応力を0Paから増加させたときの10Paにおける粘度(Pa・s)とした。
粘度変化率は放置後粘度から放置前粘度を引いた値に100を掛け、その値を放置前粘度で割って算出した。
A:粘度変化率の絶対値が5%未満
B:粘度変化率の絶対値が10%未満
C:粘度変化率の絶対値が10%以上
【0059】
調製後の上記各インクを、インクジェットプリンタ「オルフィスX9050」(商品名:理想科学工業(株)製)に導入し、45℃80%環境に2日放置し、その後10℃/30%環境に10日放置し、その後23℃環境に1日放置した。
<異物付着>
放置後、インクジェットヘッドのノズルを観察し、次の基準で評価した。
A:異物は付着していない。
B:異物は若干付着している。
C:異物はノズルを閉塞して付着している。
【0060】
<放置後回復性>
放置後、インクジェットプリンタ「オルフィスX9050」を用いて、5drop/dotの液滴量かつ300dpi*300dpiの解像度のベタ画像を、HC用紙マットIJ(商品名:理想科学工業(株)製)に形成し、着弾位置ずれを目視により評価し、全ノズル数に対する着弾位置ズレが生じたノズル数の割合(%)を計測し、次の基準で評価した。
実施例1〜6、比較例1〜4はインク循環速度3mL/secかつインク温度25℃で評価し、実施例7および実施例8はインク循環速度6ml/secかつインク温度40℃で評価した。インクの処方とともに結果を表1〜表3に示す。
A:5%未満。
B:50%未満。
C:50%以上。
ND:評価せず。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
表1および表2の結果から、以下のことがわかる。
本発明のインクである実施例1〜実施例6はいずれも貯蔵安定性、異物付着、放置後回復性が実使用上問題ないレベルであった。
これに対し、炭素数10以上16以下の飽和高級アルコール溶剤をインク全量に対し10質量%以上含まない比較例1および2は、貯蔵安定性が良好であるにも係わらず、異物付着が多く放置後回復に劣っていた。飽和高級アルコール溶剤の炭素数が10未満の比較例3では貯蔵安定性が悪かった。飽和高級アルコール溶剤の炭素数が16よりも多い比較例4では異物付着が多く放置後回復が悪かった。
【0065】
表3の結果から、本発明のインクと循環機構および加温機構をもったインクジェットプリンタを組み合わせることで、異物付着の低減と放置後回復性の改善を促進できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のインクおよびインクジェット記録システムは、インクジェット印刷の分野で広く利用できる。
【符号の説明】
【0067】
2・・・プリンタユニット、10・・・インクジェットプリンタ、101・・・給紙台、102・・・給紙トレイ、103・・・給紙トレイ、104・・・給紙トレイ、105・・・給紙トレイ、110・・・排紙台、111・・・スイッチバック経路、121・・・レジスト部、122・・・切換機構、130・・・インクジェットヘッド、150・・・インク循環機構、151・・・温度調整機構、152・・・インク循環経路、153・・・インク循環経路、210・・・インクカートリッジ、220・・・下部タンク、221・・・大気開放弁、230・・・上部タンク、231・・・大気開放弁、235・・・タンク内インク温度センサ、242・・・ヒータ、244・・・ヒートシンク、246・・・冷却ファン、250・・・ポンプ、330・・・周辺温度センサ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、顔料、高分子顔料分散剤、非水系溶剤を含むインクであって、
前記インクは、飽和脂肪酸エステルをインク全質量の10質量%以上含み、かつ、
炭素数10以上16以下の飽和高級アルコール溶剤をインク全質量の10質量%以上含むことを特徴とする非水系インク。
【請求項2】
前記飽和脂肪酸エステルの含有量がインク全質量の20質量%以上であり、かつ、前記炭素数10以上16以下の飽和高級アルコール溶剤の含有量がインク全質量の20質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の非水系インク。
【請求項3】
前記炭素数10以上16以下の飽和高級アルコール溶剤は炭素数10以上14未満の飽和高級アルコール溶剤であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の非水系インク。
【請求項4】
前記炭素数10以上16以下の飽和高級アルコール溶剤はイソラウリルアルコールであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の非水系インク。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の非水系インクと、インク循環機構およびインク加温機構をもつインクジェットプリンタと、を用いて印刷を行うことを特徴とするインクジェット記録システム。
【請求項6】
前記インクジェットプリンタのインクは40℃以上に加温されており、循環速度2ml/sec以上で循環されていることを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−246405(P2012−246405A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119943(P2011−119943)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】