説明

非水系インクジェットインク

【課題】非水系インクジェットインクを画素間距離の大きい低解像度においても印刷時における印刷濃度を向上させることができるものとする。
【解決手段】少なくとも顔料、染料および有機溶剤を含む非水系インクジェットインクであって、顔料と染料の合計量がインク全量に対し3質量%以上で、顔料と染料の含有比が7:3〜4:6の範囲であり、顔料のDBP吸油量を60cm3/100g〜140cm3/100gとし、有機溶剤が少なくとも2種類以上の有機溶剤であって、有機溶剤はα値が10以下の有機溶剤とα値が30以上の有機溶剤を含むものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録システムの使用に適した非水系インクであって、詳細には低解像度に適した非水系インクジェットインクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、流動性の高いインクジェットインクを微細なヘッドノズルからインク粒子として噴射し、上記ノズルに対向して置かれた印刷用紙等に画像を記録するものであり、低騒音で高速印字が可能であることから、近年急速に普及している。インクジェット印刷方式に用いられるインクジェットインクは、水性インクと非水性インクに大別される。非水系インクは、間欠吐出性、長時間放置後の吐出回復性などの機上安定性がよく、印刷用紙のカールがなく、インクの浸透乾燥時間が短いなどの特徴を有しており、広く普及している。例えば、出願人は特許文献1において、顔料と、有機溶剤としてエステル溶剤、高級アルコール溶剤、炭化水素溶剤などを含み、さらに溶解型のポリマー分散剤を含む非水系インクを提案している。
【0003】
ところで、印刷システムにおいては、印刷スピードの向上、ハードコスト低減の側面から低解像度システムが望まれる傾向がある。上記特許文献1に記載されているような顔料インクは色材の粒子径が大きいため、インクが用紙内部で浸透、定着する過程で繊維に目止めされるので滲みにくく、また画像の耐水性、耐久性にも優れるという特徴を有している。しかし、滲みにくいという利点が、低解像度で使用した場合には画素間距離が大きいために画素間が埋まらず画像濃度が低くなるという問題となる。
【0004】
特許文献2に記載されているような染料を使用した染料インクは、溶剤の浸透とともに染料が移動するため、画像は滲んだものとなるので、低解像度で使用した場合でも画素間は埋まるものの染料自体が浸透と共に用紙の奥深くまで沈降してしまうので、表濃度は非常に低く、裏抜けも大きくなる問題がある。一方、顔料と染料を併用した顔料染料併用インク(以下、併用インクともいう)が、例えば特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−126564号公報
【特許文献2】特開昭63−113089号公報
【特許文献3】特開平7−109430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
顔料と染料を併用すれば低解像度で使用した場合でも染料の移動によって画素間が埋まり、画像濃度を高くできるのではないかと考えられる。しかし、特許文献3に記載されているような構成の併用インクを低解像度に用いると、ドットの中心部分に顔料が着色し、その周りに染料に由来する滲みが生じるだけで、画像性が非常に悪いものとなり、適当なドットゲインを有する画像は得られず、従って所望の画像濃度も得られない。
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、画素間距離の大きい低解像度においても印刷時における印刷濃度を向上させることが可能な非水系インクジェットインクを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の非水系インクジェットインクは、少なくとも顔料、染料および有機溶剤を含む非水系インクジェットインクであって、前記顔料と前記染料の合計量がインク全量に対し3質量%以上で、前記顔料と前記染料の含有比が7:3〜4:6の範囲であり、前記顔料のDBP吸油量が60cm3/100g〜140cm3/100gであり、前記有機溶剤が少なくとも2種類以上の有機溶剤であって、該有機溶剤はα値が10以下の有機溶剤とα値が30以上の有機溶剤を含むことを特徴とするものである。
本発明のインクジェット印刷方法は、前記非水系インクジェットインクを300×300dpi以下の印字解像度で画像形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の非水系インクジェットインクは、少なくとも顔料、染料および有機溶剤を含む非水系インクジェットインクであって、顔料と染料の合計量がインク全量に対し3質量%以上で、顔料と染料の含有比が7:3〜4:6の範囲であり、顔料のDBP吸油量が60cm3/100g〜140cm3/100gであり、有機溶剤が少なくとも2種類以上の有機溶剤であって、この有機溶剤はα値が10以下の有機溶剤とα値が30以上の有機溶剤を含むので、300×300dpi以下の低解像度においても、従来のインクと同程度の吐出量で適したドットゲインを実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】インクが用紙へ着弾した状態を示す拡大模式図である。
【図2】低解像度におけるドットゲインの一実施の形態を示す拡大模式図である。
【図3】低解像度におけるドットゲインの別の実施の形態を示す拡大模式図である。
【図4】低解像度におけるドットゲインのさらに別の実施の形態を示す拡大模式図である。
【図5】本発明のインクの低解像度におけるドットゲインを示す拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の非水系インクジェットインクは、少なくとも顔料、染料および有機溶剤を含む非水系インクジェットインク(以下、単にインクともいう)であって、顔料と染料の合計量がインク全量に対し3質量%以上で、顔料と染料の含有比が7:3〜4:6の範囲であり、顔料のDBP吸油量が60cm3/100g〜140cm3/100gであり、有機溶剤が少なくとも2種類以上の有機溶剤であって、この有機溶剤はα値が10以下の有機溶剤とα値が30以上の有機溶剤を含むことを特徴とする。前記α値が10以下の有機溶剤は10未満であることが好ましい。
【0011】
色材は顔料と染料の双法を含み、顔料と染料の合計量がインク全量に対し3質量%以上で、顔料と染料の含有比が7:3〜4:6の範囲である。所望とする画像濃度を出すためには顔料と染料がインク全量に対しそれぞれ3質量%以上含まれていなければならないが、含まれる色材の量が大きくなりすぎるとインク粘度が高くなり、吐出性が悪くなる。上記顔料と染料の含有比を7:3〜4:6の範囲とすることにより、所望とする画像濃度の実現を図りながら、インク粘度の調製を図ることができる。顔料と染料の合計量はインク全量に対し20質量%以下であることが好ましい。20質量%よりも含有量が多くなると顔料と染料の含有比を上記比率範囲内としても良好な吐出性の実現が難しくなる。
【0012】
また、顔料と染料の含有比を上記比率にすることにより、最適なドットゲインを実現することができ良好な画像濃度の実現と、裏抜けの抑制という両立が可能である。図面を用いて説明する。図1は色材として顔料と染料を含むインクが用紙へ着弾した状態を示す拡大模式図、図2〜4は低解像度におけるドットゲインの状態を示す拡大模式図である。
【0013】
図1に示すように、用紙へ着弾したインクは用紙の繊維に目止めされた顔料を中心(図1に示す顔料凝集部)に、その周りに有機溶剤に溶解した染料が広がった部分(図1に示す染料溶解部)を構成している。インク中に含まれる顔料が多い場合、顔料凝集部の濃度は高くなるので1ドットの濃度は高くなるが、溶解している染料が少ないことや顔料が溶剤を吸収することが要因となってドットゲインは小さくなる。このため、低解像度で印刷をした場合、図2に示すようにドット間に隙間があき、画素間がベタで埋まらない状態となって画像濃度は低くなる。一方、インク中に含まれる染料が多い場合には、図3に示すようにドットゲインは大きくなり、結果、画素間をベタで埋めることができる。
【0014】
しかし、図3に示す処方のインクはインク中に含まれる染料が多く、含まれる顔料は少ないので、1ドット当たりの濃度は低くなる。結果、画素間はベタで埋まるものの濃度が低く、また裏抜けの大きい画像となる。この場合、単に顔料の量を多くすれば図2に示すような状態となるだけである。本発明では顔料のDBP吸油量を60cm3/100g〜140cm3/100gとすることによって、画素間をベタで埋めながら同時に濃度の高い画像を得ることが可能となる。
【0015】
顔料のDBP吸油量は、顔料100gが吸収するDBP(ジブチルフタレート)量によって測定できる(JIS K6221)ものである。DBP吸油量が大きいほど多くの溶剤を吸収することを意味する。DBP吸油量が大きい顔料を使用すると溶剤が吸収されて、図4に示すようにドットゲインが小さく、結果画素間がベタで埋まらない濃度の小さい画像となる。一方、DBP吸油量が小さい顔料は顔料自体の発色性は低いが、溶剤を放出するためにドットゲインは大きくなる。上記顔料と染料の含有比において、DBP吸油量を上記所定の範囲とすることにより、図5に示すように、1ドット当たりの濃度を所望の濃度としながら、ドットゲインを大きくすることができ、結果画素間がベタで埋まって、ドットゲインと濃度の両立が可能となる。顔料のDBP吸油量は、好ましくは100cm3/100g〜120cm3/100gの範囲であることが望ましい。
【0016】
インクに含まれる有機溶剤は少なくとも2種類以上の有機溶剤であって、この2種類の有機溶剤はα値が10以下の有機溶剤とα値が30以上の有機溶剤を含むものである。有機溶剤が3種類以上の場合は、α値が10以下の有機溶剤とα値が30以上の有機溶剤を含んでいれば、それ以外の有機溶剤のα値は問わない。ここで、α値とは、tanα=(無機性値/有機性値)で与えられるαの値である。ここで、「有機性値」及び「無機性値」は、藤田穆により提案された「有機概念図」において用いられている概念に基づくものであり、有機化合物をその炭素領域の共有結合連鎖に起因する「有機性」と置換基(官能基)に存在する静電性の影響による「無機性」との2因子に分けてそれぞれを数値化したものであり、個々の化合物の構造等から求められる値である。したがって、α値は、化合物の「有機性」と「無機性」のバランスを定量的に示すものである。なお、「有機概念図」に関連する事項は、藤田穆著「系統的有機定性分析(混合物編)」風間書房(1974)等に詳述されている。
【0017】
インクに含まれる有機溶剤の構成を、α値が10以下の有機溶剤とα値が30以上の有機溶剤とすることにより、インクが着弾後、用紙に浸透していく過程で染料が溶解しているα値が30以上の有機溶剤部分と染料の溶解していないα値が10以下の有機溶剤部分に分離し、染料の溶解していないα値が10以下の有機溶剤部分が先に用紙に浸透して、染料が溶解しているα値が30以上の有機溶剤の広がりを抑える結果、本発明の効果を阻害しない程度に滲みを抑制することが可能となる。その結果、より濃度の高い画像を得ることが可能となる。
【0018】
α値が10以下の有機溶剤としては、日本石油製AF−4(α値=0.0、以下括弧内はα値)、AF−5(0)、AF−6(0)、AF−7(0)、パルミチン酸イソオチクル(7.0)、ジブチルエーテル(7.1)、ラウリン酸ヘキシル(10)、パルミチン酸メチル(10.0)、オレイン酸メチル(9.26)、オレイン酸ブチル(8.0)等を好ましく挙げることができる。α値が30以上の有機溶剤としては、ジオキサン(32.0)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(44.3)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(47.1)、テトラヒドロフルフリルアルコール(50.2)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(53.3)等を好ましく挙げることができる。上記α値が10以下の有機溶剤、α値が30以上の有機溶剤はそれぞれ2種類以上を適宜混合して用いてもよい。これらの溶剤の含有量はインク全量に対し40質量%〜80質量%であることが好ましく、60質量%〜80質量%であることがより好ましい。
【0019】
本発明のインクには、上記以外の有機溶剤を含んでいてもよく、例えば、エチレングリコールジブチルエーテル(11.3)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(14.3)、トリエチレングリコールジブチルエーテル(15.9)、1、2−ジエトキシエタン(18.43)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(26.57)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(26.57)等が挙げられる。
【0020】
本発明のインクは、画素中心部と画素間の両方の濃度を向上させることができるので、比較的低解像度での印刷、すなわち、画素間距離84μm〜169μmでの印刷、より具体的には、解像度300dpi×300dpi以下の低解像度、より好ましく150×150dpi〜225×225dpiの低解像度での印刷に好適に用いることができる。
【0021】
本発明のインクに用いられる顔料は、上記DBP吸油量の範囲の顔料であれば、従来公知の無機顔料および有機顔料を用いることができる。例えば、三菱化学製カーボンブラックMA11、MA220、MA600aが好ましく挙げられる。また、黒色以外の顔料では例えば大日本インキ製 SYMULER Brilliant Carmine 6B、SYMULER Red、FASTOGEN Super Magenta、SYMULER Fast Yellow、FASTOGEN Blue 4RO−2、FASTOGEN Green、FASTOGEN Super Violet等が好ましく挙げられる。
【0022】
インク中における顔料の分散を良好にするために、顔料分散剤を添加することが好ましい。本発明で使用できる顔料分散剤としては、顔料を溶剤中に安定して分散させるものであれば特に限定されないが、例えば、日本ルーブリゾール製ソルスパース11200、ソルスパース21000、V216等を好ましく挙げることができる。これらの顔料は、単独で用いてもよいし、適宜組み合わせて使用することも可能である。
【0023】
本発明のインクに用いられる染料としては従来公知の染料を用いることができ、例えば、オリエント化学製vaLifast Black 3810、elixa Black846、OIL BLACK HBB、OIL BLACK No.5等が好ましく挙げられる。また黒色以外の染料ではOIL BLUE 2N、elixa Orange−240、VALIFAST BLUE 1603 、elixa Green−502、VALIFAST ORANGE 1201、OIL GREEN 530、elixa Green−540、OIL YELLOW GG−S、elixa Yellow−129、VALIFAST YELLOW 1101等が好ましく挙げられる。これらの染料は、単独で用いてもよいし、適宜組み合わせて使用することも可能である。
【0024】
上記各成分に加えて、本発明のインクには慣用の添加剤が含まれていてよい。添加剤としては、界面活性剤、例えばアニオン性、カチオン性、両性、もしくはノニオン性の界面活性剤、酸化防止剤、例えばジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、及びノルジヒドログアヤレチック酸等、が挙げられる。
【0025】
本発明のインクは、例えばビーズミル等の公知の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。
以下に本発明の非水系インクジェットインクを実施例によりさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0026】
(インクの調製)
表1および2に示す配合(表1および2に示す数値は質量部である)で原材料を調合し、ビーズミルにて滞留時間約20分間で分散し、孔径3μmのメンブレンフィルターで濾過し、実施例および比較例のインクを得た。
【0027】
(評価)
<150dpi×150dpiベタOD濃度>
実施例および比較例のインクを、東芝テック社製CB2ヘッドで150dpi×150dpi(1ドットあたり60pl)の条件で理想科学社製理想用紙薄口に印字し、23℃50%の環境で24時間で放置した後、光学濃度計(Macbeth社製 RD918)で表裏OD値を測定した。また、測定したOD値により、ベタ画像、裏抜けを以下の基準により評価した。
表濃度評価基準
◎・・・OD値0.72以上
○・・・OD値0.70以上0.72未満
△・・・OD値0.68以上0.70未満
×・・・OD値0.68未満
裏抜け評価基準
◎・・・OD値0.25未満
○・・・OD値0.25以上0.3未満
△・・・OD値0.3以上0.35未満
×・・・OD値0.35以上
各インクの処方と評価の結果を表1および2に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
表1に示すように本発明のインクは、150dpi×150dpi(1ドットあたり60pl)の低解像度であっても、裏抜けを抑制しながら、高い画像濃度を得ることができた。同じ顔料を使用している実施例と比較例を比較してみると、例えば実施例1と比較例1では、実施例1のほうが比較例1よりも表OD値は0.05上昇、実施例5と比較例5では、実施例5のほうが比較例5よりも表OD値は0.07上昇していることがわかる。
一方、色材が顔料のみである比較例1〜5はドットの滲みが期待できないため低解像度での画像濃度が低くなった。また、染料のみである比較例6は裏ぬけが顕著に悪化した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも顔料、染料および有機溶剤を含む非水系インクジェットインクであって、前記顔料と前記染料の合計量がインク全量に対し3質量%以上で、前記顔料と前記染料の含有比が7:3〜4:6の範囲であり、前記顔料のDBP吸油量が60cm3/100g〜140cm3/100gであり、前記有機溶剤が少なくとも2種類以上の有機溶剤であって、該有機溶剤はα値が10以下の有機溶剤とα値が30以上の有機溶剤を含むことを特徴とする非水系インクジェットインク。
【請求項2】
請求項1記載の非水系インクジェットインクを300×300dpi以下の印字解像度で画像形成することを特徴とするインクジェット印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−95885(P2013−95885A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241805(P2011−241805)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】