説明

非水系インクセット

【課題】非水系インクセットを、裏抜けを抑制することができ、高い印刷濃度や高い光沢度を実現することが可能なものとする。
【解決手段】少なくとも2種以上のインクからなるインクセットを、少なくとも顔料と有機溶剤にC=O結合を有する五員複素環式化合物を50質量%以上含む第一のインクと、少なくとも顔料と疎水基にポリオキシエチレンアルキルエーテルを有し、かつ親水基に酸またはその塩を有するアニオン性界面活性剤を含む第二のインクとを備えたものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録システムの使用に適した非水系インクセットであって、詳細には裏抜け抑制効果に優れ、印刷濃度や光沢度の高い非水系インクセットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、流動性の高いインクジェットインクを微細なヘッドノズルからインク粒子として噴射し、上記ノズルに対向して置かれた印刷用紙に画像を記録するものであり、低騒音で高速印字が可能であることから、近年急速に普及している。このようなインクジェット記録方式に用いられるインクとして、非水溶性溶剤に顔料を微分散させたいわゆる非水系インクが種々提案されている。
【0003】
例えば、出願人は特許文献1において、顔料と、有機溶剤としてエステル溶剤、高級アルコール溶剤、炭化水素溶剤などを含み、さらに溶解型のポリマー分散剤を含む非水系インクを提案している。このインクは機上安定性に優れ、インクジェット適性を有するとともに、PPC複写機やレーザープリンタで印刷された印刷面と重ね合わせた場合でも貼り付かない印字面を得ることができるという利点を有するものであり、トナー適性に優れたものである。また、特許文献2には、顔料と、有機溶剤としてエステル溶剤、炭化水素溶剤を含み、さらに分散型の高分子分散剤(NAD)を含む非水系インクが開示されている。
【0004】
従来、顔料分散型の非水系インクは、特許文献1や2に記載されているように樹脂やポリマー型分散剤(溶解型やNAD)を用いることにより、あるいは顔料表面に直接的にポリマーによる修飾(グラフト化やマイクロカプセル化)を行うことにより、顔料の分散安定性を確保してきた。これらの方法は、いずれの手法においても、ポリマーによる立体障害によって物理的に顔料の凝集を抑制させるものであり、換言すればインク中にポリマー成分を含有させることによってインクの顔料分散安定性を向上させようとするものである。
【0005】
ところで、インクジェット記録方法に用いられるインクセットとしては、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各インクを備えたものや、これにブラック(K)を加えたもの等がある。一般に、カラー画像の形成は、イエロー、マゼンタ、およびシアンの三色、さらに場合によってブラックインクを加えた四色によって行われている。このようなインクセットの場合、インクセットを構成するそれぞれのインク自体が良好な発色性を有していることに加え、複数のインクと組み合わせた場合において良好な画像濃度を実現できることが要求される。例えば、出願人は、特許文献3において、特定の顔料と顔料分散剤とを組み合わせたインクセットを提案している。このインクセットによれば、印刷物の画像濃度、特に黒色濃度をさらに向上させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−126564号公報
【特許文献2】特開2007−197500号公報
【特許文献3】特開2009−270061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インク中にポリマー成分を含有させると、顔料とポリマー成分の親和性が高いために、あるいは顔料とポリマー成分が結合しているために、インクが印刷用紙に転移した後、顔料がポリマー成分に引きずられて用紙内部へ浸透しやすい。このため、印刷用紙表面の印刷濃度が低下したり裏抜けが生じたりする。これはインクセットにおいても言えることである。特に、混色の黒(いわゆるコンポジットブラック)では、単位面積当たりに吐出されるインク量が多くなり、裏抜けが顕著に悪化する。また、インクセットの場合には、カラー画像品位の向上といった観点から印刷面の光沢度が高い印刷物を得たいという要求もある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、裏抜けを抑制することができ、高い印刷濃度や高い光沢度を実現することが可能な非水系インクセットを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の非水系インクセットは、少なくとも2種以上のインクからなるインクセットであって、少なくとも顔料と有機溶剤にC=O結合を有する五員複素環式化合物を50質量%以上含む第一のインクと、少なくとも顔料と疎水基にポリオキシエチレンアルキルエーテルを有し、かつ親水基に酸またはその塩を有するアニオン性界面活性剤を含む第二のインクとを備えてなることを特徴とするものである。
【0010】
前記アニオン性界面活性剤の親水基は、酢酸塩またはリン酸であることが好ましい。
前記アニオン性界面活性剤のポリオキシエチレンアルキルエーテルの酸化エチレン付加モル数は6以下であることが好ましい。
【0011】
前記五員複素環式化合物は、カーボネート化合物、ラクトン化合物、イミダゾリジノン化合物、ピロリドン化合物から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
インク中のポリマー成分の含有量は前記顔料の20質量%以下であることが好ましく、さらには前記顔料の5質量%以下であることがより好ましく、実質的にポリマー成分を含まないことがさらに好ましい。
ここで、ポリマー成分とは、単量体(モノマー)の繰り返し構造を持つ分子量500以上の重合体を意味する。
【0012】
前記五員複素環式化合物の含有量は、インク全量に対して60〜97質量%であることが好ましい。
第一のインクの前記顔料がカーボンブラックであり、第二のインクの前記顔料が銅フタロシアニンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の非水系インクセットは、第一のインクに含まれる有機溶剤の50質量%以上がC=O結合を有する五員複素環式化合物であるので、顔料分散性の高いポリマー成分が少量であっても、顔料分散安定性と裏抜け抑制の両立を図ることが可能であるとともに、第二のインクに含まれるアニオン性界面活性剤が用紙表面上で第一のインクと接触した場合に、第一のインクの顔料分散状態が崩れ、より多くの顔料が用紙表面上に留まり易くなるので印刷濃度が高く、裏抜けが少なく、また、光沢度の高い印刷物を得ることができる。
本発明の非水系インクセットは、印字濃度が高いため、1パスで画像形成するライン方式のインクジェットシステムに適している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の非水系インクセット(以下、単にインクセットともいう)は、少なくとも2種以上のインクからなるインクセットであって、少なくとも顔料と有機溶剤にC=O結合を有する五員複素環式化合物を50質量%以上含む第一のインクと、少なくとも顔料と疎水基にポリオキシエチレンアルキルエーテルを有し、かつ親水基に酸またはその塩を有するアニオン性界面活性剤を含む第二のインクとを備えてなることを特徴とする。
【0015】
ここでインクセットとは、インクカートリッジが複数一体になっているインクカートリッジ自体はもちろんのこと、単独のインクカートリッジを複数組み合わせて使用する場合も含み、さらに、インクカートリッジと記録ヘッドを一体としたものも含まれる。第一のインクと第二のインクの吐出順序はどちらが先であっても差し支えない。
【0016】
まず本発明の第一のインクについて説明する。第一のインクに含まれる五員複素環式化合物は液体であっても、固体であってもよく、固体の場合には有機溶剤に溶解するものであればよい。溶解させる有機溶剤としては後述する有機溶剤を使用することができる。五員複素環式化合物としては、カーボネート化合物、ラクトン化合物、イミダゾリジノン化合物、ピロリドン化合物を好ましく挙げることができる。
【0017】
カーボネート化合物としてはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネートおよびこれらの誘導体を好ましく挙げることができる。
ラクトン化合物としてはγ−ブチロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、ペンタノ−4−ラクトンおよびこれらの誘導体を好ましく挙げることができる。
【0018】
イミダゾリジノン化合物としては2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジプロピル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジイソプロピル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジブチル−2−イミダゾリジノンおよびこれらの誘導体を好ましく挙げることができる。
ピロリドン化合物としては2−ピロリドン、N−メチル−ピロリドン、1−エチル−2−ピロリドンおよびこれらの誘導体を好ましく挙げることができる。
上記誘導体としては、水素原子がフッ素原子または炭素数が1〜4のアルキル基で置換された化合物を例示することができる。
【0019】
通常のインクは顔料の分散性を図るために、分散剤や樹脂等のポリマー成分をインク全量に対して、0.5〜30質量%程度(顔料に対しては30〜200質量%程度)含有させる必要がある。しかし、本発明の第一のインクは五員複素環式化合物によって顔料分散性を図ることができるため、ポリマー成分の含有量が顔料の20質量%以下であっても十分に顔料分散安定性を確保することが可能である。一方で、五員複素環式化合物はポリマーよりも顔料に対する親和性は弱いため、ポリマーのようにインクが印刷用紙に転移した後、顔料を引きずって用紙内部へ浸透するということがないため裏抜けが殆ど生じず、結果として高濃度の印刷を行うことができる。
【0020】
インク中のポリマー成分の含有量は顔料の20質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは実質的に含まないことが望ましい。ここで、実質的に含まないとはポリマー成分を全く含まない場合の他、例えばポリマー成分を不可避的不純物として含有する場合を意味する。
【0021】
上記ポリマー成分は、高分子分散剤や樹脂などのように意図的に含有させる場合の他、顔料にもともと含まれているポリマー成分も含まれる。ポリマー成分として高分子分散剤を含む場合には、例えば市販品として、日本ルーブリゾール株式会社製のソルスパースシリーズ(ソルスパース20000、27000、41000、41090、43000、44000)、BASFジャパン社製のジョンクリルシリーズ(ジョンクリル57、60、62、63、71、501)、第一工業製薬株式会社製のポリビニルピロリドンK−30、K−90等が挙げられる。
【0022】
ポリマー成分として樹脂を含む場合には、荒川化学工業株式会社製のマルキードNO.31、NO.32、NO.33、マルキードNO.32〜30WS等のマレイン酸樹脂、荒川化学工業株式会社製のタマノリ751、タマノルPA等のフェノール樹脂、BASFジャパン社製のジョンクリル682(商品名)等のスチレンアクリル系樹脂、立化成工業株式会社製のハイラック111、110H等のケトン樹脂、新日鐵化学株式会社製のエスクロンG90、V120等のクマロン樹脂、チッソ株式会社製のビニレックEタイプ、Kタイプ等のポリビニルホルマール樹脂、宇部興産株式会社製のナイロン6等のε−カプロラクタム共重合体、積水化学工業株式会社のエスレックBL−1、BL−2等のポリビニルブチラール樹脂、旭化成工業株式会社のスタイラック−AS767等のポリスチレン、ポリアクリル酸メチル等のポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸プロピル等のポリメタクリル酸エステル、塩素化ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル、無水マレイン酸ポリマー等の付加重合樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン、DFK樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド等の縮重合樹脂等が挙げられる。
【0023】
本発明の第一のインクに含まれる有機溶剤はその全部が五員複素環式化合物であってもよいが、その他の有機溶剤を含んでいてもよい。環状カーボネート以外の有機溶剤としては、水溶性有機溶剤を挙げることができ、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、などのグリコール類、グリセリン、アセチン類、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテルなどのグリコール誘導体、トリエタノールアミン、1−メチル−2−ピロリドン、β−チオグリコール、スルホランなどを用いることができる。これらの水溶性有機溶剤は単独で、または2種類以上組み合わせて使用することができる。
水溶性有機溶剤の含有量は顔料分散安定性と裏抜け抑制の観点から、インク全量中に40質量%以下であることが好ましい。
【0024】
続いて第二のインクについて説明する。第二のインクに含まれるアニオン性界面活性剤は、疎水基にポリオキシエチレンアルキルエーテルを有し、かつ親水基に酸またはその塩を有するものである。疎水基であるポリオキシエチレンアルキルエーテルは、印刷濃度、裏抜け、光沢度の観点から酸価エチレンの付加モル数が多いほどその効果は高いが、有機溶剤への溶解性の観点から6以下であることが好ましい。また、アルキル基については特に制限はないが、炭素数12〜22程度のものが種類が多く容易に入手可能であり、炭素数が少ないもの(炭素数12〜16)は直鎖型、炭素数が多いもの(炭素数17〜22)は分岐鎖型を好ましく用いることができる。親水基である酸またはその塩は、特に制限はないが、印刷濃度、裏抜け、光沢度の観点から酢酸、酢酸塩、リン酸、リン酸塩が好ましい。
【0025】
具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸としてはポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩としてはポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオレイルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩としてはポリオキシエチレンドデシルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸としてはポリオキシエチレンアルキル(C12〜C15)エーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルとリン酸塩としてはポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンセチルエーテルリン酸ナトリウム等が好ましい。とりわけ、印刷濃度、裏抜け、光沢度の観点からは、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸が好ましい。
【0026】
アニオン性界面活性剤の添加量は適宜調整可能であるが、過剰に添加するとインクの浸透作用が大きくなり、印刷濃度、裏抜け、光沢度に対する効果が出にくくなるため、10質量%以下が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。
【0027】
第二のインクに含まれるアニオン性界面活性剤は第一のインクと用紙表面上で接触した場合に、より多くの顔料が用紙表面上に留まり易くなり、印刷濃度が高く、裏抜けが少なく、また、光沢度の高い印刷物を得ることができる。これは、第二のインクに含まれるポリオキシエチレンアルキルエーテルの非共有電子対が第一のインクの顔料分散安定性を崩すとともに、第二のインクに含まれるアニオン性界面活性剤の親水基の酸またはその塩と第一のインクの五員複素環式化合物が接触すると、五員複素環式化合物が分解され開環するからであると考えられる。開環すると、五員複素環式化合物の極性(ダイポールモーメント)が低下し、五員複素環式化合物によって分散されている顔料の分散安定性が低下し、顔料が用紙表面に残り易くなるためと推測される。
【0028】
一方で、ノニオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテルでは、アニオン性界面活性剤と同様にエーテル結合に由来する非共有電子対を有するものの、インクの浸透作用が大きくなって、顔料が用紙内部に引きずられる傾向が高くなり効果が半減する。また、カルボン酸やリン酸単独では、用紙表面上に顔料を留まらせる効果がないばかりか、インクの保存安定性を悪化させる弊害がある。
【0029】
第二のインクに用いられる溶剤としては、特に限定されず、例えば、炭化水素溶剤、エステル溶剤、アルコール溶剤、高級脂肪酸溶剤等の非水溶性有機溶剤を使用することができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。2種以上を混合して使用
する場合には、混合液は単一の連続する相を形成する必要がある。炭化水素溶剤としては、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤等が挙げられる。
【0030】
脂肪族炭化水素溶剤及び脂環式炭化水素系溶剤としては、新日本石油社製「テクリーンN−16、テクリーンN−20、テクリーンN−22、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、AF−4、AF−5、AF−6、AF−7」(いずれも商品名)、新日本石油化学社製「日石アイソゾール、ナフテゾール」(いずれも商品名)、エクソンモービル社製「IsoparG、IsoparH、IsoparL、IsoparM、ExxolD40、ExxolD80、ExxolD100、ExxolD140、ExxolD140」(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0031】
エステル溶剤としては、ラウリル酸メチル、ラウリル酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソステアリル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、リノール酸メチル、リノール酸イソブチル、リノール酸エチル、イソステアリン酸イソプロピル、大豆油メチル、大豆油イソブチル、トール油メチル、トール油イソブチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、モノカプリン酸プロピレングリコール、トリ2エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリ2エチルヘキサン酸グリセリル等が挙げられる。アルコール溶剤としては、イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール等が挙げられる。高級脂肪酸溶剤としては、イソノナン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、オレイン酸、イソステアリン酸等が挙げられる。
【0032】
第一のインクおよび第二のインクに含まれる顔料としては、従来公知の無機顔料および有機顔料を適宜使用することができる。例えば、無機顔料としては、酸化チタン、ベンガラ、コバルトブルー、群青、紺青、カーボンブラック、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、硫酸バリウム、タルク、シリカ等が挙げられる。有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、縮合多環顔料、銅フタロシアニン顔料等が挙げられる。これらの顔料は、単独で用いてもよいし、適宜組み合わせて使用することも可能である。顔料の添加量は、インク全量に対して0.5〜20質量%が好ましい。
【0033】
顔料は好ましくは酸性あるいは塩基性のものが好ましい。換言すれば顔料はその表面にカルボン酸基、スルフォン酸基、水酸基、アミノ基の様な極性官能基を多く持つものが好ましい。このような顔料はより分散安定性を確保しやすい。例えば、カーボンブラックにおいては酸性カーボンブラックあるいは中性カーボンブラックを酸性処理したものであって、顔料洗浄水のpHが6.0以下であるものが好ましい。顔料洗浄水のpHはJIS規格のK5101−17−1に従って測定されるものである。酸性の顔料として具体的には、カーボンブラックMA100、MA11、MA8、MA7(三菱化学)、ラーベン1040、ラーベン1255(コロンビヤン)、リーガル400(キャボット)、シアニンブルーKRG、シアニンブルー4044(山陽色素)、ブリリアントカーミン6B−321、スーパーレッドBN(DIC)、AP22(大日精化)、ファストイエロー4190(DIC)等を好ましく挙げることができる。
【0034】
上記各成分に加えて、本発明のインクセットの第一のインクおよび第二のインクには慣用の添加剤が含まれていてよい。添加剤としては、酸化防止剤、例えばジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、及びノルジヒドログアヤレチック酸等、が挙げられる。
【0035】
本発明のインクセットの第一のインクおよび第二のインクは、例えばビーズミル等の公知の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。
以下に本発明の非水系インクセットの実施例を示す。
【実施例】
【0036】
(カーボンブラック試作品の準備)
カーボンブラック(MA600、粒子径20nm、比表面積140m2/g(JISK6217)、pH=7、三菱化学(株)製)10gと、表面処理剤としてKPS(K228で示される過硫酸カリウム、和光純薬(株)製)1gと、顔料分散剤としてデモールNL(β‐ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩、花王(株)製)2gと、溶媒として水100gを、攪拌装置、温度計、窒素ガス導入装置、及び冷却管を取り付けたフラスコ中に入れた。
【0037】
次いで、上記フラスコにジルコニアビーズ(2.0mmφ、450g/反応混合物100g)を入れた後、攪拌しながら窒素ガスを吹き込み、フラスコ内を置換した。105℃に設定したオイルバスにフラスコをセットし、窒素ガス雰囲気下、100rpmで攪拌しながら6時間反応に付した。得られた反応混合物から、ろ過によりビーズを除去した後、残った反応混合物に等質量のブチセノール(テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、協和発酵ケミカル製)を加えて攪拌した後、フラスコの内容物を遠心分離にかけ、固形物と液状物を分離した。
【0038】
分離した固形物を水中に分散し、70℃で12時間攪拌して、未反応表面処理剤を水中に溶かし出した後、フィルターを用いてろ過してカーボンブラックを単離した。得られたカーボンブラックを100℃で12時間乾燥した。得られたカーボンブラックを、FT−IRを用いて分析したところ、COOH基とSO3K基の存在が確認された。また、JIS規格のK5101−17−1に従い顔料洗浄水のPHを測定したところ、PHは2.3であった。
【0039】
(インクの調製)
下記表1に示す配合(表1に示す数値は質量部である)で原材料をプレミックスした後、滞留時間約12分間で分散させて第一のインク(ブラックインク)A〜G、第二のインク(シアンインク)H〜Nのインクを調製した。第一のインクA〜Gのうち、A〜Eが本発明の第一のインクに相当するものであり、第二のインクH〜Nのうち、H〜Kが本発明の第二のインクに相当するものである。
【0040】
下記表2に示すように第一のインクと第二のインクをセットして、第一のインクを理想用紙薄口にバーコーターで転写したのち、第二のインクで重ねて転写し、印刷濃度、裏抜け、光沢度の観点から評価した。評価は下記の基準で行った。
【0041】
(評価)
(印刷濃度)
第一のインクと第二のインクを重ねて転写した用紙の表側を濃度計(マクベス社製)で測定し、以下の基準で評価した。
◎ OD:1.40以上
○ OD:1.20以上1.40未満
△ OD:1.00以上1.20未満
× OD:1.00未満
【0042】
(裏抜け)
第一のインクと第二のインクを重ねて転写した用紙の裏側を目視で観察して以下の基準で評価した。
◎:裏抜けが殆ど認められない
○:裏抜けが少ない
△:裏抜けが若干認められるが許容できる範囲である
×:裏抜けが非常に多い
【0043】
(光沢度)
第一のインクと第二のインクを重ねて転写した用紙の表側を光沢度計(コニカミノルタ社製測定角度85°)で測定し、以下の基準で評価した。
◎:10.0以上
○:9.0以上10.0未満
△:8.0以上9.0未満
×:8.0未満
評価の結果を表2に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
表2に示すように、本発明のインクセットである実施例1〜9はいずれも印刷濃度が高く、裏抜けが抑制され、光沢度が高かった。この効果は、実施例2および実施例9に示すように、第一のインクを先に転写した後、第二のインクを転写した場合であっても、第二のインクを先に転写した後、第一のインクを転写した場合であっても変化はなかった。第一のインクが同じである実施例1,2,5および6を比較すると、第二のインクのポリオキシエチレンアルキル(C12〜C15)エーテルリン酸の酸化エチレンの付加モル数が4や6と高い方がより効果が高くなっていることがわかる。
【0047】
一方、第一のインクが本発明の処方であっても、第二のインクの界面活性剤がノニオン性界面活性剤である比較例2の場合にはインクの浸透作用が大きくなって、顔料が用紙内部に引きずられる傾向が高くなり裏抜けが多く、結果印刷濃度が低く、光沢度も低かった。一方、界面活性剤を含まない比較例1や3では比較例2に比べれば顔料が用紙内部に引きずられる傾向は低減するものの、実施例に比べると明らかに裏抜けが多く、結果印刷濃度が低く、光沢度も低かった。
【0048】
また、第二のインクが本発明の処方であって、第一のインクが五員複素環式化合物を含んでいても、第一のインクのポリマー成分が40質量%と多い比較例5では、顔料を引きずるポリマー成分の力が強いためか、裏抜けが多く、結果印刷濃度が低く、光沢度も低かった。第一のインクも第二のインクも本発明の処方でない比較例4は極めて裏抜けが多く、結果印刷濃度が低く、光沢度も低かった。
【0049】
以上の実施例から明らかなように、本発明のインクセットは、第一のインクに含まれる有機溶剤の50質量%以上がC=O結合を有する五員複素環式化合物であるので、顔料分散性の高いポリマー成分が少量であっても、顔料分散安定性と裏抜け抑制の両立を図ることが可能であるとともに、第二のインクに含まれるアニオン性界面活性剤が用紙表面上で第一のインクと接触した場合に、第一のインクの顔料分散状態が崩れ、より多くの顔料が用紙表面上に留まり易くなるので印刷濃度が高く、裏抜けが少なく、また、光沢度の高い印刷物を得ることができる。
【0050】
なお、本実施例では第一のインクとしてカーボンブラック、第二のインクとしてシアンインクの場合を示したが、第一のインクに含まれる五員複素環式化合物、第二のインクに含まれるアニオン性界面活性剤の作用機序からずれば、第二のインクがマゼンタやイエローの場合も同様の効果が得られるものと推測される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種以上のインクからなるインクセットであって、
少なくとも顔料と有機溶剤にC=O結合を有する五員複素環式化合物を50質量%以上含む第一のインクと、
少なくとも顔料と疎水基にポリオキシエチレンアルキルエーテルを有し、かつ親水基に酸またはその塩を有するアニオン性界面活性剤を含む第二のインクと
を備えてなることを特徴とする非水系インクセット。
【請求項2】
前記アニオン性界面活性剤の親水基が酢酸塩またはリン酸であることを特徴とする請求項1記載の非水系インクセット。
【請求項3】
前記アニオン性界面活性剤のポリオキシエチレンアルキルエーテルの酸化エチレン付加モル数が6以下であることを特徴とする請求項1または2記載の非水系インクセット。
【請求項4】
前記五員複素環式化合物が、カーボネート化合物、ラクトン化合物、イミダゾリジノン化合物、ピロリドン化合物から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1、2または3記載の非水系インクセット。
【請求項5】
インク中のポリマー成分の含有量が前記顔料の20質量%以下であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の非水系インクセット。
【請求項6】
インク中のポリマー成分の含有量が前記顔料の5質量%以下であることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載の非水系インクセット。
【請求項7】
実質的にポリマー成分を含まないことを特徴とする請求項1〜6いずれか1項記載の非水系インクセット。
【請求項8】
前記五員複素環式化合物の含有量が、インク全量に対して60〜97質量%であることを特徴とする請求項1〜7いずれか1項記載の非水系インクセット。
【請求項9】
第一のインクの前記顔料がカーボンブラックであり、第二のインクの前記顔料が銅フタロシアニンであることを特徴とする請求項1〜8いずれか1項記載の非水系インクセット。
【請求項10】
インクジェット用インクであることを特徴とする請求項1〜9いずれか1項記載の非水系インクセット。

【公開番号】特開2012−211234(P2012−211234A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76990(P2011−76990)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】