説明

非水系二次電池用正極活物質及びそれを用いた非水系二次電池

【課題】200mAh/gを超える高容量を有し、且つ、高い電流密度条件下で高い充放電特性を有するリチウム系二次電池用正極活物質及びこれを用いた非水系二次電池を提供する。
【解決手段】層状構造を有する一般式Li[LiMnMe]O2−d(Meは遷移金属の中から選ばれる少なくとも1種類以上の元素を含む)(0<a<1/3、0<b<2/3、0<c<1、0≦d≦0.2)で表わされる複合酸化物正極活物質であって、粉末X線回折パターンにおける結晶子サイズが2nm以上19nm以下である非水系二次電池用正極活物質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池用正極活物質及びそれを用いた非水系二次電池であり、より詳しくは、高容量を有し、且つ、高い電流密度での充放電特性を兼ね備えた非水系二次電池用正極活物質に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パソコン、デジタルビデオカメラ、デジタルカメラに代表される携帯機器用小型二次電池の分野では、小型化及び高容量化のニーズに応えるべく、1990年代初頭より、ニッケルカドミウム電池に続き、新型電池としてニッケル水素電池、リチウム二次電池の開発が進展し、200Wh/l以上の体積エネルギー密度を有する電池が市販されている。特に、リチウムイオン電池は350Wh/l、形状によっては500Wh/lを超える体積エネルギー密度を有することから、その市場を飛躍的に伸ばしてきた。
【0003】
現行のリチウムイオン電池用正極活物質には、主として4V程度の電池電圧を示すリチウム含有遷移金属酸化物材料が用いられており、具体的には、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどが用いられている。
【0004】
しかし、現状、使用されているリチウム含有遷移金属酸化物材料の利用可能な容量は100〜200mAh/gと小さく、今後、リチウム系二次電池の更なる高エネルギー密度化を実現するためには、より大きな単位重量当たりの容量を有する正極活物質が希求されている。
【0005】
近年、この要求に応えられる可能性を有する正極活物質として、電気化学的に不活性な層状のLiMnOと、電気化学的に活性な層状のLiMO(Mは、Co、Niなどの遷移金属)との固溶体が、200mAh/gを超える高容量、且つ、比較的高い真密度を有することから、次世代高容量正極活物質として検討されている。
【0006】
例えば、特表2004−528691号(特許文献1)では、式Li[M(1−x)Mn]O(0<x<1、MがCr以外の1つ以上の金属元素)を有するリチウムイオン電池用カソード組成物が開示されている。上記組成物の一つとして、上記式中のM(1−x)=Li(1−2y)/3、x=(2−y)/3の場合の式Li[Li(1−2y)/3Mn(2−y)/3]O(0<y<0.5、MがCr以外の1つ以上の金属元素)中のMがNiである材料が実施例で示されており、4.8〜2.0Vで充放電することで200mAh/gの高容量を得ている。その一例として、y=0.333の組成では、Ni−Mn水酸化物と水酸化リチウムとの混合物をペレット状に成形した後、空気中480℃で3時間熱処理し、更に、空気中600〜900℃で3時間熱処理した後、室温まで急冷することで、目的の組成物を得ており、これら組成物をカソードとした電池では、4.8〜2.0Vの範囲で充放電した場合の放電容量が、5mA/g(約40〜50時間率)の低い電流密度ではあるが、600℃で210mAh/g、800℃で230mAh/g、900℃で230mAh/gを示し、熱処理温度が800℃以上の材料で約10%高い放電容量を得ている。
【0007】
また、特開2011−28999号(特許文献2)では、一般式xLi[Li1/32/3]・(1−x)LiM(Mは、平均酸化状態が4+である1つ以上の遷移金属、Mは平均酸化状態が3+である1つ以上の遷移金属)で表わされ、結晶構造を岩塩型六方晶と定義した場合の格子定数のc軸長とa軸長との比(c/a)が4.983≦c/a≦4.995を満たすことで、合成方法や合成条件によらず安定した電池特性(特に、高容量、サイクル特性)を有する正極材料が得られている。上記一般式中のMをMn、MをMn、Ni、Coとした材料が実施例として挙げられており、詳しくは、Ni−Co−Mn複合炭酸塩(Ni、Co、Mnの総モル量が0.8)に対し、水酸化リチウム一水和物を1.2〜1.4のモル量とした混合物を900℃12時間熱処理した後、液体窒素にて急冷することで種々の組成の固溶体正極材料を得ている。得られた固溶体正極材料の中でも実施例1のLi[Li0.20Ni0.18Co0.034Mn0.58](c/a=4.985)を正極とした電池では、30サイクルにおいて、20mA/g(約10〜15時間率)の低い電流密度ではあるが、283mAh/gの高い放電容量を得ている。
【0008】
上述のように、電池の高エネルギー密度化を目的とし、200mAh/gを超える高容量を有する正極活物質の開発が進められているが、これら正極活物質は高い電流密度下での充放電特性が劣るため、リチウム系二次電池用正極活物質として実用化するには、より高い電流密度での充放電特性を向上させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2004−528691号
【特許文献2】特開2011−28999号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
背景技術に記載したように、リチウム系二次電池用正極活物質については、エネルギー密度向上を目的とした高容量化が求められている。正極活物質の高容量化については、結晶構造、化学組成の観点から、活物質重量当たりの容量を増加させる検討がなされており、上述のように、LiMnO・LiMO系固溶体で200mAh/g以上の高容量を示すことが確認されている。
【0011】
しかしながら、LiMnO・LiMO系固溶体で高容量を得るには、結晶性を高める必要があるため、800〜1000℃の比較的高い温度で熱処理して作製されることが通常である。しかし、このような通常の熱処理温度で作製される固溶体は、結晶子サイズが大きくなり(本発明の比較例2で示すように、800℃で作製した場合100nm程度まで大きくなる)、低い電流密度においては高容量が得られるが、電流密度を高くした場合、放電容量が大きく低下するという課題があった。
【0012】
本発明は、結晶子サイズが小さい(微結晶構造を有する)LiMnO・LiMO系固溶体に関するものあり、高い電流密度条件においても高容量を示す非水系二次電池用正極活物質を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記のような従来技術の問題点に留意しつつ研究を進めた結果、層状構造を有する一般式Li[LiMnMe]O2−d(Meは遷移金属の中から選ばれる少なくとも1種類以上の元素を含む)(0<a<1/3、0<b<2/3、0<c<1、0≦d≦0.2)で表わされる複合酸化物正極活物質において、粉末X線回折パターンにおける結晶子サイズが2nm以上19nm以下である微結晶構造を有する場合、電流密度を高くした場合でも、200mAh/g以上の高容量を有することを見出した。すなわち、上記微結晶構造を有する複合酸化物正極活物質を用いることで、高い電流密度条件においても、高い放電容量を示す非水系二次電池の構築が可能となり、上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0014】
すなわち本発明は、以下の構成からなることを特徴とし、上記課題を解決するものである。
【0015】
[1]層状構造を有する一般式Li[LiMnMe]O2−d(Meは遷移金属の中から選ばれる少なくとも1種類以上の元素を含む)(0<a<1/3、0<b<2/3、0<c<1、0≦d≦0.2)で表わされる複合酸化物正極活物質であって、粉末X線回折パターンにおける結晶子サイズが2nm以上19nm以下であることを特徴とする非水系二次電池用正極活物質。
【0016】
[2]前記[1]に記載の非水系二次電池用正極活物質において、その形状が、5nm以上50nm未満の平均直径を有する針状粒子であることを特徴とする前記[1]に記載の非水系二次電池用正極活物質。
【0017】
[3]前記[1]又は[2]に記載の非水系二次電池用正極活物質を正極に用いた非水系二次電池。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、結晶子サイズが2nm以上19nm以下である微結晶構造を有するLiMnO・LiMO系固溶体を非水系二次電池用正極に用いることで、高い電流密度条件においても高容量を示す次世代の高エネルギー密度非水系二次電池の構築が可能であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1、2、比較例1、2の非水系二次電池用正極活物質の粉末X線回折パターンである。
【図2】実施例1、2、比較例1、2の非水系二次電池用正極活物質を用いた評価セルの電流密度48mA/gにおける放電曲線である。
【図3】実施例1、2、比較例1、2の非水系二次電池用正極活物質を用いた評価セルの電流密度240mA/gにおける放電曲線である。
【図4】実施例1、2、比較例1、2の非水系二次電池用正極活物質を用いた評価セルの電流密度480mA/gにおける放電曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態について、説明すれば以下のとおりである。本発明における非水系二次電池用正極活物質は、層状構造を有する一般式Li[LiMnMe]O2−d(Meは遷移金属の中から選ばれる少なくとも1種類以上の元素を含む)(0<a<1/3、0<b<2/3、0<c<1、0≦d≦0.2)で表わさる複合酸化物であり、その結晶子サイズが2nm以上19nm以下である。
【0021】
前記非水系二次電池用正極活物質は、Li[Li1/3Mn2/3]Oを含む固溶体に代表されるリチウム過剰型遷移金属複合酸化物であり、この複合酸化物の一般式としては上述のように、Li[LiMnMe]O2−dで表わされる。この複合酸化物は、金属元素Meの種類により、作動電圧及び容量が異なるため、Me部分を占める金属元素種やその比率により、電池電圧を任意に選定することが可能であり、且つ、理論容量も300mAh/g以上と高いことが知られている。
【0022】
上記一般式Li[LiMnMe]O2−dの組成範囲としては、0<a<1/3、0<b<2/3、0<c<1、0≦d≦0.2であり、この組成範囲においてLi[Li1/3Mn2/3]Oをベースとした固溶体が得られ、例えば、Meが複数となる場合の組成式は、Li[LiMnMec1Mec2・・・]O2−d(c=c1+c2+・・・)である。
【0023】
上記一般式Li[LiMnMe]O2−dのMeは、Mn、Ni、Co、Zr、Zn、Cr、Fe、Ti、Vなどの遷移金属の中から選ばれる少なくとも1種類以上の元素を含み、好ましくは、Mn、Ni、Coの中から選ばれる1種類以上の遷移金属元素を選択することで、高容量を有する正極活物質が得られる。また、MeにAl、Mgなどの金属を含ませることも可能である。
【0024】
上記組成の層状構造を有する複合酸化物とすることで、高容量を示す正極活物質を得ることが可能となるが、本発明においては、その結晶子サイズを2nm以上19nm以下とすることで、従来知られている低い電流密度での高容量特性に加え、高い電流密度においても高容量を示す新規な正極活物質を提供する。
【0025】
本発明の正極活物質は、層状構造を有する一般式Li[LiMnMe]O2−d(Meは遷移金属の中から選ばれる少なくとも1種類以上の元素を含む)(0<a<1/3、0<b<2/3、0<c<1、0≦d≦0.2)で表わされる複合酸化物において、その粉末X線回折パターンにおける結晶子サイズが2nm以上19nm以下であることを特徴とする。結晶子サイズとは、X線回折ピークの半価幅からHallの方法に従って求めることができる。Hallの方法とは、Scherrerの式(D=Kλ/βcosθ:式中Dは結晶子サイズ、Kは定数、λはX線波長、βは半価幅、θは反射角を表す)をもとに、X線回折ピークの積分幅の拡がりに、結晶子サイズと不均一歪みの両方の影響がある場合、結晶子サイズと不均一歪みを分離して算出する方法である。以下にHallの方法の式を記載する。
結晶子の平均のサイズε(Å)とプロファイルの積分幅β(ラジアン)との間ではK=1となり、式(1)が示される。
ε=λ/βcosθ −式(1)
また、不均一歪みηと積分幅β´(ラジアン)の間に式(2)の関係があることが示されている。
β´=2ηtanθ −式(2)
X線回折ピークに、結晶子の大きさと不均一歪みの両方による積分幅の拡がりがある場合、式(1)と(2)より
β=β+β´=βcosθ/λ+2ηtanθ −式(3−1)
βcosθ/λ=2ηsinθ/λ+1/ε −式(3−2)
となる。上記式(3−2)に、2本以上の回折データを代入し、βcosθ/λをY軸、sinθ/λをX軸にプロットして得られた直線の勾配とY軸との交点より、不均一歪ηと結晶子サイズεを分離して算出することができる。本発明における結晶子サイズとは、Rigaku社製統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL2を用いて上記Hallの方法より算出した値である。
【0026】
上記結晶子サイズが19nm以下、好ましくは17nm以下、更に好ましくは16nm以下の場合、高い電流密度(240mA/g以上)においても200mAh/g以上の高容量が得られる。しかし、結晶子サイズが小さ過ぎる場合、十分な容量が得られない、あるいは、放電電圧が低下するなど、好ましくない現象が生じやすく、結晶子サイズは2nm以上、好ましくは5nm以上、更に好ましくは10nm以上である。一方、結晶子サイズが19nmを越える場合、低い電流密度(48mA/g以下)では200mAh/g以上の容量が得られるが、高い電流密度(240mA/g以上)では、容量が大幅に低下してしまう。また、例えば、結晶子サイズが100nm程度の板状粒子の場合、48mA/gの低い電流密度でも200mAh/g以下の容量となり、この形態で高容量を得るには、更に低い電流密度(5〜20mA/g)で充放電する必要がある。すなわち、本発明では層状構造を有する一般式Li[LiMnMe]O2−dの正極活物質の結晶構造を、従来の結晶子サイズに対し、1桁以上小さい19nm以下とした微結晶構造とすることにより、広い充放電範囲でLiの拡散性が向上し、高い電流密度においても高容量を示すと考えられる。また、本発明の正極活物質の微結晶構造は、X線回折パターンから考察すると、比較的大きい歪みを有することから、その微結晶構造は乱れていると考えられる。
【0027】
また、層状構造を有する一般式Li[LiMnMe]O2−d(Meは遷移金属の中から選ばれる少なくとも1種類以上の元素を含む)(0<a<1/3、0<b<2/3、0<c<1、0≦d≦0.2)で表わされる複合酸化物は、上記範囲の結晶子サイズを有するとともに、平均直径が5nm以上50nm未満の針状粒子であることが、更に好ましい。ここでいう針状粒子とは、例えば、L/D(直径に対する長さの比率)が2以上を有する粒子のことである(L:長さ、D:直径)。L/Dが2以下となると、粒子がより等方的な形状に近づくことになる。粒子形状が等方的である場合、粒子直径が小さければ、活物質粒子自体の反応性は高くなるが、活物質同士の集電が取りにくい形態となり、導電材が多く必要となる。そのため、電極製造の観点からも、活物質粒子の反応性が高く、且つ、活物質同士の集電が取りやすい形態としては、L/Dが2以上であり、製造可能性として、L/Dは50以下が好ましく、更に好ましくは20以下である。
【0028】
以下、具体的な本発明の非水系二次電池用正極活物質の製造法の一例について記載するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
本発明の非水系二次電池用正極活物質は、原料であるマンガン化合物に遷移金属塩及びリチウム塩を混合し、且つ、融剤をマンガンと遷移金属の総量に対し、モル比で1.5〜20倍量加えた混合物を、融剤の分解温度以下の温度で、熱処理することにより製造することができる。また、上記MeにAl、Mgなどの金属を含ませる場合、遷移金属塩及びリチウム塩に加え、Al、Mgなどの金属塩を混合することもできる。ここで結晶子サイズが2nm以上19nm以下の本発明の複合酸化物を得るには、原料の1つであるマンガン化合物の結晶子サイズを小さくし、且つ、熱処理時に融剤を加えるとともに、融剤の分解温度以下の温度で製造することが好ましい。また、原料のマンガン化合物が平均直径50nm未満の針状粒子とすることにより、得られる複合酸化物の形状を、平均直径が50nm未満の針状粒子とすることができる。この針状粒子(原料あるいは正極活物質)の平均直径とは、SEM 観察で確認することができる平均的な直径であり、80%以上が直径5nm以上50nm未満の範囲にあることが好ましい。
【0030】
前記製造方法により、従来、固相法で700〜1000℃の比較的高温で製造されていた正極活物質を、融剤を用い、600℃以下の比較的低温で熱処理することにより、上記微結晶構造を有する複合酸化物正極活物質を製造することができ、低温で製造した場合においても高容量を有し、且つ、高い電流密度においても高容量を発現することが可能となる。具体的な製造条件は、原料であるマンガン化合物、融剤の種類等に合わせ適宜決定されるものであるが、その条件は得られた複合酸化物のX線回折により結晶子サイズを確認することにより決定することが可能となる。
【0031】
本発明の正極活物質の原料の1つであるマンガン化合物は、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物などを用いることが可能であり、例えば、γ−MnOOH、β−MnO、α−MnOなどが挙げられる。上記微結晶構造を有する複合酸化物を得るには、マンガン化合物の結晶子サイズは小さい方が好ましく、平均直径が50nm未満のマンガン化合物を用いることが好ましい。更に、原料の1つであるマンガン化合物が平均直径50nm未満の針状粒子である場合、得られる複合酸化物の平均直径を50nm未満の針状粒子とすることも可能である。この場合、針状マンガン化合物の平均直径は50nm未満、好ましくは30nm以下であり、製造上の扱いを考えた場合1nm以上、好ましくは、5nm以上である。
【0032】
上記、β−MnOを製造する方法は、例えば、硝酸マンガンを熱分解して得る方法や、γ−MnOOHと硝酸マンガンとを混合し、150℃で熱処理して得る方法がある。また、α−MnOは、過マンガン酸カリウム溶液に有機還元剤を加えゲル化させた後、400〜700℃の温度で熱処理する方法で得ることができる。しかし、本発明の複合酸化物の製造に適した、β−MnO、α−MnOを得るには、製造工程が多段階であり、目的の材料を得るまでに長時間を有する。また、上記手法で得られる粒子は、凝集しやすく、粉砕、解砕などの処理が必要となる場合があるため、更に製造工程が繁雑となる。
【0033】
本発明の好ましい形態であるγ−MnOOHの製造方法としては、硫酸マンガン水溶液に対し、必要量のアンモニア水と過酸化水素水を混合することによりγ−MnOOHを得ることが可能となる。
【0034】
上記手法において、例えば、本発明の複合酸化物の製造に適したγ−MnOOHを得る場合、硫酸マンガン水溶液の濃度は、0.001〜0.2mol/lの希薄溶液で製造するのが好ましい。γ−MnOOH製造時の硫酸マンガン水溶液の濃度は、より低濃度の条件下で製造する方が、γ−MnOOHの生成速度が緩やかとなり、平均直径が50nm未満の針状粒子を分散した状態で得やすくなり好ましいが、濃度が0.001mol/l以下になると、収率が低く生産効率が低下してしまう。一方、0.2mol/l以上の高い濃度で製造した場合、生成速度が速くなるため、粒子同士が凝集しやすくなり、粒子を分散した状態で得にくくなる。また、生成速度が速いため、例えば、針状粒子を得ようとする場合、長さ方向への成長が起こる前に新たな粒子が生成してしまい、前記L/D(直径に対する長さの比率)が2以下の粒子が混在しやすくなる。従って、γ−MnOOHを製造する場合の硫酸マンガン水溶液の濃度は、0.2mol/l以下が望ましく、より好ましくは0.05mol/l以下であり、製造上の収率を考えた場合、0.001mol/l以上、より好ましくは0.01mol/l以上である。
【0035】
また、本発明の微結晶構造を得るために、好ましい原料である平均直径50nm以下のγ−MnOOHを製造する場合の、硫酸マンガンに加えるアンモニア水溶液の濃度は、上記硫酸マンガン水溶液と同濃度もしくは、それ以下の希薄な溶液を滴下することが、平均直径50nm未満の粒子を分散して得るためには好ましい。硫酸マンガン水溶液よりも高い濃度で行うと、滴下時に溶液内で濃度の偏りが大きくなりやすく、γ−MnOOHの生成速度を速めることとなり、粒子が凝集しやすくなる。また、硫酸マンガン水溶液に加える過酸化水素水は、室温条件下での酸化反応を促進する上では、水溶液中のマンガンに対し、過剰に加えるのが好ましい。加える過酸化水素水の量が、水溶液中のマンガン量以下である場合、未反応のマンガンが水溶液中に残存することとなり、γ−MnOOHの収率を低下させることになる。一方、10倍以上では、酸化反応を促進する上では好ましいが、試薬を大量に使用するため、生産時のコストが高くなるという問題が生じる。上記硫酸マンガン水溶液に加える過酸化水素水は、水溶液中のマンガンに対し、モル比で1倍以上10倍以下が好ましく、より好ましくは、5倍以上10倍以下である。
【0036】
本発明の正極活物質の製造に用いる遷移金属塩としては、Ni、Co、Mn、Zr、Zn、Cr、Fe、Ti、Vなどの硝酸塩、酢酸塩、蓚酸塩、炭酸塩、水酸化物、オキシ水酸化物、硫酸塩、酸化物、過酸化物や、塩化物などのハロゲン化物などが挙げられ、これら遷移金属塩は目的とする組成に応じて選択するが、2種類以上の遷移金属塩を混合して用いることも可能である。
【0037】
本発明の正極活物質の製造に用いるリチウム塩としては、硝酸リチウム、酢酸リチウム、蓚酸リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、過酸化リチウム、硫酸リチウム、フッ化リチウム、塩化リチウム、ヨウ化リチウムなどが挙げられ、この中から選ばれる少なくとも1種類以上の塩を用いることが可能であり、単独で用いることも、2種類以上を混合して用いることも可能である。
【0038】
本発明の正極活物質は、原料である上記マンガン化合物、遷移金属塩、リチウム塩の他に、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物などの固体の塩(融剤)を加え、この融剤の融点以上の温度で溶融させた融液の中で目的の結晶を得ることが可能な溶融塩法で製造している。この手法は、目的の結晶成長が起こる温度よりも低い融点を有する融剤を選択することで、目的の結晶成長の速度を速めることが可能となる。
【0039】
上記融剤としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウムなどをカチオンとする、硝酸塩、亜硝酸塩、酢酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩、水酸化物、炭酸塩などの酸素酸塩、塩化物などの各種ハロゲン化物、過酸化物、酸化物などが挙げられ、目的とする結晶の成長が起こる温度などに応じ、この中から選ばれる少なくとも1種類以上の塩を用いることが可能である。
【0040】
本発明で用いる融剤としては、比較的融点が低い材料が好ましく、更には、溶融状態で酸化性を有する材料を用いることで、低温で結晶の成長を速めることが可能となり、低温で合成した場合においても高容量を有する、結晶子サイズが2nm以上19nm以下の本発明の複合酸化物が得やすくなる。このことから、融剤としては、例えば、溶融状態で酸化作用のある硝酸塩、過酸化物などを用いることが好ましい。上述の酸化性を有する融剤は単独、あるいは、2種類以上の混合物又は酸化性を有しない融剤、例えば、水酸化物と混合して用いることも可能である。また、用いる融剤は、熱処理工程後において、得られた複合酸化物から容易に除去できる、水に溶解可能な材料であることが好ましい。
【0041】
上記融剤は、上記Li[LiMnMe]O2−dの原料であるマンガン化合物及び遷移金属塩(Mn+Me)に対し、モル比で1.5〜20倍量、好ましくは、5〜20倍量加えることで、本発明の複合酸化物が得られる。融剤の量が少ない場合、溶融した状態においても融剤が原料全体に行き渡らず、局所的に粒子間の成長が進み、粒子サイズが大きくなる場合が多い。一方、融剤の量が20倍を超える場合、試薬を大量に使用することとなるため、生産時のコストが高くなる問題が生じる。
【0042】
上記原料及び融剤の混合は、目的とするLi[LiMnMe]O2−dの化学組成に応じた比率で、γ−MnOOH、遷移金属塩、リチウム塩、及び、融剤を乾式混合又は水溶液中で分散させる湿式混合のどちらで行うことも可能である。
【0043】
得られた原料及び融剤の混合物を、加えた融剤の融点以上、分解温度以下の範囲で熱処理し、融剤が溶融した状態で上記原料を反応させることで、結晶子サイズが2nm以上19nm以下の本発明の複合酸化物の正極活物質を得ることが可能となる。また、熱処理の雰囲気は、大気中又は酸素中のどちらで行っても良い。
【0044】
上記融剤の一例としては、融剤として機能し、且つ、リチウム塩としても用いることが可能な硝酸リチウム(融点:260℃、分解温度:600℃)が挙げられる。
【0045】
硝酸リチウムを融剤として用いる場合、熱処理温度は260℃(融点)以上600℃(分解温度)以下であれば良いが、結晶成長の速度、あるいは、原料粒子形状維持(平均直径50nm未満の針状粒子等を用いる場合)の観点から、結晶子サイズ2nm以上19nm以下の本発明の正極活物質を得るのに好ましい熱処理温度は、400℃以上600℃以下の範囲であり、より好ましくは450℃以上600℃以下、更に好ましくは500℃以上600℃以下である。一方、熱処理温度が400℃未満であると結晶の成長速度が遅く、反応が充分に進行せず、目的の200mAh/g以上の高容量が得られない可能性がある。また、融剤の分解温度である600℃以上で熱処理すると、結晶成長の速度が速くなり、結晶子サイズを19nm以下に制御することが難しくなる。熱処理は、必要に応じ多段階で行っても良い。熱処理時間は、目的の結晶が形成されるのに充分な時間であれば良く、熱処理温度により、5〜100時間の間で行えば良い。
【0046】
本発明の複合酸化物正極活物質は、少なくとも、正極、負極、及び、リチウム塩を含有する非水系電解質から成るリチウム系二次電池の正極活物質として用いることが可能である。
【0047】
本発明に用いる負極活物質としては、リチウム系の負極材料であれば、特に限定されず、リチウムドープ及び脱ドープ可能な材料であることが、安全性、サイクル寿命などの信頼性が向上するため好ましい。リチウムドープ及び脱ドープ可能な材料としては、公知のリチウム系二次電池用負極材料として使用されている黒鉛系物質、炭素系物質、錫酸化物系、ケイ素系酸化物などの金属酸化物、ケイ素、錫系合金などが挙げられる。
【0048】
本発明の正極活物質及び負極活物質を電極に成形する方法は、所望の非水系二次電池の特性などに応じて公知の手法から適宜選択することができる。例えば、正極活物質(又は負極活物質)とバインダー、必要に応じてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの溶媒とを混合し、スラリーを得た後、これを集電体に塗布し、乾燥後、圧縮して成形される塗布法や、活物質、ポリ四フッ化エチレンの混合物を混練し、圧延ロールを用いてシート化するシート法などが挙げられる。
【0049】
本発明の非水系二次電池に用いる正極及び負極を成形する場合、必要に応じ、導電材、バインダーを用いる。バインダーの種類は、特に限定されるものではないが、ポリフッ化ビニリデン、ポリ四フッ化エチレンなどのフッ素系樹脂類、フッ素系ゴム、SBR、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類などが例示される。バインダー量はバインダーの種類、目的とする電極強度を勘案し、適宜決定することができる。
【0050】
また、導電材の種類は、特に限定されるものではないが、カーボンブラック、アセチレンブラック、気相成長炭素繊維などが例示される。導電材量は、電極において、充分な電子伝導性を確保できれば、特に限定されるものではない。
【0051】
正極、負極を集電体上に形成する場合、集電体の材質は材質の耐電圧性を考慮した上で選択することができ、銅箔、ステンレス鋼箔、チタン箔、アルミニウム箔などが例示される。
【0052】
上記セルにおいて、正極、負極の間に絶縁、電解液保持の目的でセパレータが配置される場合、このセパレータは、特に限定されるものではなく、ポリエチレン微多孔膜、ポリプロピレン微多孔膜、あるいはポリエチレンとポリプロピレンの積層膜、セルロース抄紙、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリアクリルニトリル繊維などからなる織布、あるいは不織布などがあり、その目的と状況に応じ、適宜決定することが可能である。
【0053】
本発明の非水系二次電池は、例えば、電解質として非水系電解液、ゲル電解質、固体電解質を用いることができる。非水系電解液としては、リチウム塩を含む非水系電解液を用いることが可能であり、正極材料の種類、負極材料の性状、充電電圧などの使用条件などに対応して、適宜決定される。リチウム塩を含む非水系電解液としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClOなどのリチウム塩をプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、酢酸メチル、蟻酸メチルなどの1種又は2種以上からなる有機溶媒に溶解したものを用いることができる。また、電解液の濃度は、特に限定されるものではないが、一般的に0.5〜2mol/l程度が実用的である。電解液は、当然のことながら、水分が100ppm以下のものを用いることが好ましい。
【0054】
本発明の非水系二次電池は、上記で説明した層状構造を有する一般式Li[LiMnMe]O2−dで表わされ、粉末X線回折パターンにおける結晶子サイズが2nm以上19nm以下である複合酸化物正極活物質を用いた正極、負極、セパレータ、電解質などを電池容器内に収容した構成となる。
【0055】
本発明の非水系二次電池の形状は、特に限定されるものではなく、コイン型、円筒型、角型、フィルム型など、その目的に応じ、適宜決定することが可能である。
【0056】
以下に、実施例を示し、本発明の特徴とするところを更に明確にするが、本発明は、実施例により何ら限定されるものではない。
【0057】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて更に具体的に説明する。
【0058】
[リチウム含有遷移金属酸化物の作製]
(実施例)
本発明の正極活物質を以下の方法により作製した。
(針状マンガン化合物の作製)
針状オキシ水酸化マンガン(γ−MnOOH)は、以下のように作製した。硫酸マンガン五水和物(ナカライテスク社製、一級試薬、純度98%)12.301gを1000mlの蒸留水に溶解し、濃度0.05mol/lの硫酸マンガン水溶液を作製した。次に、アンモニア水(ナカライテスク社製、特級試薬、28%溶液)6.071gを2000mlの蒸留水で希釈した溶液(濃度0.05mol/l)と過酸化水素水(ナカライテスク社製、一級試薬、30%溶液)28.333g(水溶液中のマンガンに対してモル比で5倍量)とを混合した溶液を作製した。上記作製した硫酸マンガン水溶液を攪拌しながら、アンモニア水と過酸化水素水の混合溶液を4時間かけて少量ずつ滴下し、黒褐色の沈殿物を得た。黒褐色の粒子が沈降した後、デカンテーションを3回行ない、吸引濾過し、60℃で乾燥することで目的の試料を得た。得られた試料をSEM観察した結果、直径が10nm以上30nm未満であり、平均直径が19nm、長さが200nm以上600nm未満であり、平均の長さが424nmの針状粒子であった。
【0059】
(実施例1)
出発原料として、硝酸リチウム(ナカライテスク社製、特級試薬、純度98.0%)5.628g、上記作製した針状オキシ水酸化マンガン0.492g、硝酸コバルト六水和物(ナカライテスク社製、一級試薬、純度97.0%)0.210g、硝酸ニッケル六水和物(ナカライテスク社製、一級試薬、純度97.0%)0.596gを秤量し、瑪瑙乳鉢を用いて乾式混合した後、50mlのアルミナ坩堝に入れ、直径80mmの環状炉内で熱処理を行った。熱処理条件は、昇温速度2℃/minで260℃まで昇温、10時間熱処理し、その後昇温速度2℃/minで580℃まで昇温、60時間熱処理した後、室温まで降温した。上記熱処理工程は、いずれも大気中で実施した。得られた固形物に蒸留水を加え、充分に撹拌し、蒸留水で洗浄を5回繰り返した後、吸引濾過し、70℃で乾燥することで目的の試料を得た。得られた試料をSEM観察した結果、直径が20nm以上50nm未満、長さ100nm以上400nm未満の針状粒子であった。
【0060】
(実施例2)
実施例2として、実施例1と同様の原料、混合比で熱処理条件のみを変え、比較正極活物質を作製した。熱処理は昇温速度2℃/minで260℃まで昇温し、10時間熱処理し、その後昇温速度2℃/minで500℃(融剤である硝酸リチウムの分解温度以上)まで昇温し、60時間熱処理した後、室温まで降温した。得られた試料をSEM観察した結果、直径が10nm以上40nm未満、長さが200nm以上の針状粒子であった。
【0061】
(比較例1)
比較例1として、実施例1と同様の原料、混合比で熱処理条件のみを変え、比較正極活物質を作製した。熱処理は昇温速度2℃/minで260℃まで昇温し、10時間熱処理し、その後昇温速度2℃/minで650℃(融剤である硝酸リチウムの分解温度以上)まで昇温し、60時間熱処理した後、室温まで降温した。得られた試料をSEM観察した結果、直径が40nm以上200nm未満、長さが100nm以上400nm未満の針状粒子であった。
【0062】
(比較例2)
比較例2として、実施例1と同様の組成を有する正極活物質を、一般的な固相法により作製した。出発原料に、蓚酸マンガン二水和物(関東化学社製、一級試薬、純度95.0%)1.047g、蓚酸コバルト二水和物(アルドリッチ社製、純度98.0%)0.130g、蓚酸ニッケル二水和物(アルドリッチ社製、純度99.9%)0.309g、水酸化リチウム一水和物(ナカライテスク社製、特級試薬、純度99%)0.514gを秤量し、瑪瑙乳鉢を用いて乾式混合した後、50mlのアルミナ坩堝に入れ、直径80mmの環状炉内で熱処理を行った。熱処理条件は、昇温速度2℃/minで500℃まで昇温し、10時間熱処理し、その後2℃/minで800℃まで昇温し、20時間熱処理した後、室温まで降温した。得られた試料をSEM観察した結果、直径が100nm以上400nm未満の粒子(板状)であった。
【0063】
上記実施例1、2、比較例1、2で得られた正極活物質のCuKα線を用いた粉末X線回折測定(Rigaku社製 Ultima IV)を実施し、その回折パターンから結晶子サイズを算出した。結晶子サイズの算出は、統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL2を用い、前項記載のHallの方法を用いて算出した。測定したX線回折測定パターンを図1に示す。回折パターンは実施例1、2、比較例1、2同様であり、層状結晶構造を有することが判る。X線回折測定パターンにおける各ピーク(2θ)におけるd(Å)、強度(高さ)、半価幅を表1にまとめる。また、前項記載のHallの方法で算出した各正極活物質の結晶子サイズを表2に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
上記実施例1、2、比較例1、2で得られた正極活物質の直径、長さを50000倍のSEM画像により確認し、その平均値を算出した。また、正極活物質の直径及び長さの平均値は、上記SEM画像中の1/4の面積部分に存在する粒子の個数及び計測したそれら粒子の直径あるいは長さより算出した。算出した直径、長さの活物質の存在比率を表3、直径及び長さの平均値を表4に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
【表4】

【0069】
実施例1の正極活物質は、確認したSEM画像において、直径が20nm以上30nm未満:20%、30nm以上40nm未満:53%、40nm以上50nm未満:27%、長さが100nm以上200nm未満:47%、200nm以上300nm未満:50%、300nm以上が3%の比率で存在しており、正極活物質の平均直径が35nm、平均の長さが205nmであった。
【0070】
実施例2の正極活物質は、確認したSEM画像において、直径が10nm以上20nm未満:7%、20nm以上30nm未満:73%、30nm以上40nm未満:20%、長さが200nm以上300nm未満:23%、300nm以上400nm未満:63%、400nm以上500nm未満:10%、500nm以上が3%の比率で存在しており、正極活物質の平均直径が24nm、平均の長さが312nmであった。
【0071】
比較例1の正極活物質は、直径40nm以上50nm未満:7%、60nm以上70nm未満:47%、70nm以上80nm未満:23%、80nm以上90nm未満:13%、90nm以上100nm未満:7%、100nm以上200nm未満:3%、長さが100nm以上200nm未満:60%、200nm以上300nm未満:37%、300nm以上:3%の比率で存在しており、平均直径が73nm、平均の長さが195nmであった。
【0072】
比較例2の正極活物質の直径は、100nm以上200nm未満:43%、200nm以上300nm未満:54%、300nm以上400nm未満:3%の比率で存在しており、平均直径が210nmであった。
【0073】
上記作製した実施例1、2、比較例1、2の試料につき組成を確認するため、化学分析により、Li、Ni、Co、Mn比率を測定した。化学分析はICP発光光度分析により実施し、エスアイアイナノテクノロジー社製、SPS3100HV UVを用いた。分析結果から得られた元素比率を表5に示す。
【0074】
【表5】

【0075】
前記表の分析結果より、得られた試料の組成は、実施例1の試料がLi[Li0.206Co0.064Ni0.162Mn0.568]O、実施例2の試料がLi[Li0.204Co0.064Ni0.168Mn0.564]O、比較例1の試料がLi[Li0.204Co0.064Ni0.166Mn0.566]O、比較例2の試料がLi[Li0.206Co0.063Ni0.164Mn0.567]Oであり、同組成の試料であることが確認できた。
【0076】
[リチウム二次電池用正極活物質の電気化学的評価]
上記実施例及び比較例のリチウム二次電池用正極活物質を用いて以下の手順で評価セルを作製し、初期充放電特性及び高い電流密度条件での放電特性を評価した。
【0077】
実施例及び比較例で作製した正極活物質を用い、導電材にアセチレンブラック、バインダーにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を使用し、活物質:75重量部、導電材:20重量部、バインダー:5重量部で混合し、活物質重量が7.0mg/cm±3%となるように電極シートを作製した。作製した電極シートを直径17mmの円形に打ち抜いた後、導電性ペーストを用いて20μmのAl箔に接着し、170℃10時間真空乾燥し、電池特性評価用の正極電極とした。作製した電極物性を表6に示す。
【0078】
【表6】

【0079】
上記作製電極を正極とし、負極には厚さ200μmの金属リチウム箔、電解液には、1mol/lでLiPFをエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネート(体積比30:70)に溶解したもの、セパレータにはガラス不織布(厚さ400μm)とポリエチレン製微孔膜(厚さ20μm)とを重ね合わせたものを用いて評価セルを作製した。
【0080】
作製したセルは、以下に示す試験条件にて25℃における初期充放電特性を評価した。初期充放電容量の測定は、実用的な速度である、48mA/g(約5時間率)の定電流で4.8Vまで充電し、続いて48mA/gの定電流で2.0Vまで放電した。実施例1、2、比較例1、2の正極活物質に対する初期放電曲線を図2に示す。
【0081】
上記セルを用いて、SOC100%、25℃条件下における高い電流密度での放電特性を確認した。充電は48mA/gの一定電流で行い、放電については、240mA/g(約1時間率)、480mA/g(約0.5時間率)の電流密度で行った。実施例、比較例1、2の正極活物質に対する電流値240mA/g条件での放電曲線を図3に、480mA/g条件での放電曲線を図4に示す。また、各電流密度に対する放電容量を表7に示す。
【0082】
【表7】

【0083】
表7の充放電結果より、48mA/gの条件における放電容量は、実施例1の正極活物質(結晶子サイズ15.6nm)が240mAh/g、実施例2の正極活物質(結晶子サイズ14.2nm)が242mAh/gであり、実施例1の値は、比較例1の正極活物質(結晶子サイズ19.6nm)の109%、比較例2の正極活物質(結晶子サイズ100.7nm)の143%、実施例2の値は、比較例1の正極活物質の110%、比較例2の正極活物質の144%の放電容量であった。また、実施例1、2の正極活物質の放電曲線は、比較例1、2の正極活物質と比べ熱処理温度が低いにもかかわらず、放電作動電圧が高いことが判る。
【0084】
電流密度240mA/gの条件で、実施例1の正極活物質の放電容量が212mAh/g、実施例2の正極活物質の放電容量が213mAh/gに対し、比較例1の正極活物質が174mAh/g、比較例2の正極活物質が161mAh/gの放電容量を示した。電流密度480mA/g条件下においては、実施例1、2の正極活物質の放電容量が200mAh/gに対し、比較例1、2の正極活物質が150mAh/gの放電容量であった。
【0085】
結晶子サイズが19nmを超える場合(比較例1、2)に対し、結晶子サイズが19nm以下である本発明の正極活物質(実施例1、2)を用いることにより、48mA/gの電流密度においても240mAh/gの高容量が得られ、240mA/g、480mA/gの高い電流密度においても200mAh/g以上(比較に対し133%の容量)の高容量を得ることが可能となることが判る。
【0086】
本発明により、粉末X線回折パターンにおける結晶子サイズを2nm以上19nm以下とすることで、5時間率程度の実用的な充放電においても高容量が得られるとともに、高い電流密度(1時間率以上)においても、その高容量を維持することが可能であり、この正極活物質を用いることで、高エネルギー密度な非水系二次電池の提供が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
層状構造を有する一般式Li[LiMnMe]O2−dで表わされ、その粉末X線回折パターンにおける結晶子サイズが2nm以上19nm以下である本発明の非水系二次電池用正極活物質は、200mAh/gを超える高容量を有し、且つ、高い電流密度において、高容量を有するという効果を奏する。更に、5nm以上50nm未満の平均直径を有する針状粒子である場合、活物質粒子の反応性が高く、且つ、活物質同士の集電が取りやすいことから、より優れた効果を奏する。すなわち、本発明の正極活物質を正極に用いることにより、携帯機器、電気自動車などに用いることが可能な次世代高エネルギー密度非水系二次電池を得ることができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造を有する一般式Li[LiMnMe]O2−d(Meは遷移金属の中から選ばれる少なくとも1種類以上の元素を含む)(0<a<1/3、0<b<2/3、0<c<1、0≦d≦0.2)で表わされる複合酸化物正極活物質であって、粉末X線回折パターンにおける結晶子サイズが2nm以上19nm以下であることを特徴とする非水系二次電池用正極活物質。
【請求項2】
請求項1に記載の非水系二次電池用正極活物質において、その形状が、5nm以上50nm未満の平均直径を有する針状粒子であることを特徴とする請求項1に記載の非水系二次電池用正極活物質。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の非水系二次電池用正極活物質を正極に用いた非水系二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−73826(P2013−73826A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212803(P2011−212803)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】