説明

非水系二次電池

【課題】充放電サイクル後の抵抗上昇率(%)を低く抑えることができる非水系二次電池の提供
【解決手段】
非水系二次電池100Aは、正極活物質粒子610AのDBP吸油量を、正極活物質層223Aの多孔度と正極活物質層223Aの厚さ(La1+La2)とで除した値Aと、負極活物質粒子710Aの亜麻仁油の吸油量を、負極活物質層243Aの多孔度と負極活物質層243Aの厚さ(Lb1+Lb2)とで除した値Bとの比A/Bが、0.78≦(A/B)≦1.22である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水系二次電池に関する。
【0002】
本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充電可能な電池一般をいい、リチウム二次電池(典型的にはリチウムイオン二次電池)、ニッケル水素電池等のいわゆる蓄電池を包含する。また、本明細書において「活物質」は、二次電池において電荷担体となる化学種(例えば、リチウムイオン二次電池ではリチウムイオン)を可逆的に吸蔵および放出(典型的には挿入および離脱)可能な物質をいう。また、「非水系二次電池」は、非水電解質(例えば、非水電解液)が電解質として用いられた二次電池をいう。
【背景技術】
【0003】
非水系二次電池には、リチウムイオン二次電池が含まれる。特許4584351号には、高容量、低抵抗などの車載用途に適したリチウムイオン二次電池用の正極活物質が提案されている。すなわち、同特許には、リチウムイオン電池用正極活物質について、NMP(N−メチルピロリドン)に対する吸油量が、粉末100g当たり30mL以上50mL以下であり、スピネル構造又は層状構造を有するLiFeNiMnCo(1.0<{a/(w+x+y+z)}<1.3、0.8<(w+x+y+z)<1.1)で表され、かつFe,Ni,Mn,Coの成分の内、少なくとも3成分以上を含有することが提案されている。同公報では、正極活物質層を形成する際に、正極活物質を含む合剤を塗布するがその際の塗布性(塗布した後の接着性、密着性)を良好なものにできるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4584351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、いわゆるハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)や電気自動車(EV)では、加速時に高い出力が求められ、減速時には、回生エネルギで充電を行なう。このため、ハイレートで充放電が繰り返される。リチウムイオン二次電池は、このようなハイレートで充放電が繰り返される用途において、充放電サイクル後に抵抗が著しく上昇する場合がある。特に、低温環境においては、かかる充放電サイクル後の抵抗上昇が顕著になる。
【0006】
特許4584351号には、正極活物質粒子の吸油量を工夫する発明が開示されている。本発明者の知見によれば、ハイレートで充放電が繰り返される用途においてリチウムイオン二次電池(非水系二次電池)の抵抗が上昇する現象は、活物質粒子の吸油量を工夫するのみでは改善しない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここで、本発明の一実施形態に係る非水系二次電池は、正極集電体と、正極集電体に保持された正極活物質層と、負極集電体と、負極集電体に保持された負極活物質層と、正極活物質層と負極活物質層との間に介在したセパレータとを備えている。ここで、正極活物質粒子のDBP吸油量を、正極活物質層の多孔度と正極活物質層の厚さとで除した値を「A」とする。また、負極活物質粒子の亜麻仁油の吸油量を、負極活物質層の多孔度と負極活物質層の厚さとで除した値を「B」とする。この非水系二次電池は、正極活物質層の値Aと負極活物質層の値Bとの比A/Bが、0.78≦(A/B)≦1.22である。
【0008】
本発明の一実施形態に係る非水系二次電池によれば、上述したように正極活物質層の上記値Aと負極活物質層の上記値Bとの比A/Bが、0.78≦(A/B)≦1.22である。この非水系二次電池では、正極活物質層と負極活物質層とで電解質(電解液)の保持力の特性が概ねバランスよく調整されている。このため、ハイレートで充放電が繰り返される用途において、非水系二次電池の正極と負極において電解質(電解液)の出入りが激しく繰り返される場合でも、非水系二次電池の抵抗上昇を低く抑えることができる。
【0009】
この場合、比A/Bは0.80≦(A/B)であってもよい。また、比A/Bは(A/B)≦1.20であってもよい。これにより、非水系二次電池の充放電サイクル後の抵抗上昇率(%)は、より低く抑えられる。
【0010】
また、正極集電体と負極集電体とは、それぞれ帯状の部材であり、正極活物質層と負極活物質層とが互いに対向するように配置され、かつ、捲回されて捲回電極体を構成されていてもよい。また、当該捲回電極体を収容した電池ケースと、電池ケースに注入された電解液とを備えていてもよい。
【0011】
捲回電極体では、特に、中央部分で電解質の量が少なくなる傾向があり、上述した充放電サイクル後の抵抗が上昇し易い。上述したように正極活物質層と負極活物質層とで比A/Bを所定の範囲内とすることによって、かかる捲回電極体の構造を有する場合において、充放電サイクル後の抵抗上昇を小さく抑えることができる。
【0012】
また、この場合、捲回電極体は、捲回軸に直行する方向に沿って扁平に曲げられており、電池ケースは、扁平な収容空間を備えた角型のケースであり、かつ、捲回電極体が扁平に曲げられた状態で電池ケースに収容されていてもよい。すなわち、かかる扁平な核型の電池が構成される場合には、捲回電極体の中央部分で電解質の量が少なくなる傾向がある。このため、上述したように正極活物質層と負極活物質層とで比A/Bを所定の範囲内とすることが特に有効であり、かかる捲回電極体の構造を有する場合において、充放電サイクル後の抵抗上昇を小さく抑えることができる。
【0013】
また、捲回電極体は、例えば、正極集電体の片側の長辺に沿って正極活物質層が形成されていない部分を有しており、かつ、負極集電体の片側の長辺に沿って負極活物質層が形成されていない部分を有していてもよい。この場合、正極活物質層と負極活物質層とが対向した部分の片側に、正極集電体のうち正極活物質層が形成されていない部分がはみ出ており、正極集電体のうち正極活物質層が形成されていない部分がはみ出た側とは反対側に、負極集電体のうち負極活物質層が形成されていない部分がはみ出ていてもよい。本発明にかかる非水系二次電池によれば、かかる捲回電極体が用いられる場合でも、充放電サイクル後の抵抗上昇を小さく抑えることができる。
【0014】
さらに、正極集電体のうち正極活物質層が形成されていない部分と、負極集電体のうち負極活物質層が形成されていない部分とは、それぞれ中間部分が纏められて電極端子が取り付けられていてもよい。かかる形態では、充放電サイクルにおいて捲回電極体の中央部分で、特に、電解質が少なくなり易く、充放電サイクル後に抵抗が上昇し易い。このため、本発明の一実施形態に係る非水系二次電池は、かかる構造に記載された好適に用いられうる。
【0015】
また、本発明の一実施形態に係る非水系二次電池は、リチウムイオン二次電池として構成されうる。また、本発明の一実施形態に係る非水系二次電池は、複数組み合わせて組電池を構成することができる。また、本発明の一実施形態に係る非水系二次電池、又は、本発明の一実施形態に係る組電池は、充放電サイクル後の抵抗上昇率(%)を小さく抑えることができ、車両駆動用電池として特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、リチウムイオン二次電池の構造の一例を示す図である。
【図2】図2は、リチウムイオン二次電池の捲回電極体を示す図である。
【図3】図3は、図2中のIII−III断面を示す断面図である。
【図4】図4は、正極合剤層の構造を示す断面図である。
【図5】図5は、負極合剤層の構造を示す断面図である。
【図6】図6は、捲回電極体の未塗工部と電極端子との溶接箇所を示す側面図である。
【図7】図7は、リチウムイオン二次電池の充電時の状態を模式的に示す図である。
【図8】図8は、リチウムイオン二次電池の放電時の状態を模式的に示す図である。
【図9】図9は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池100Aの構造を示す図である。
【図10】図10は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池100Aの捲回電極体200Aを示す図である。
【図11】図11は、図10中のXI−XI断面を示す断面図である。
【図12】図12は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池100Aの正極活物質層の構造を模式的に示す断面図である。
【図13】図13は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池100Aの負極活物質層の構造を模式的に示す断面図である。
【図14】図14は、評価用セルについて比A/Bと充放電サイクル後の抵抗上昇率(%)との関係を示すグラフである。
【図15】図15は、サンプル1〜9について、比A/Bと充放電サイクル後の抵抗上昇率(%)との関係を示すグラフである。
【図16】図16は、サンプル10〜18について、比A/Bと充放電サイクル後の抵抗上昇率(%)との関係を示すグラフである。
【図17】図17は、本発明の一実施形態に係る非水系二次電池(車両駆動用電池)を備えた車両(自動車)を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係る非水系二次電池を図面に基づいて説明する。ここではまず、リチウムイオン二次電池を例に挙げて非水系二次電池の一構造例を説明する。その後、かかる構造例を適宜に参照しつつ、本発明の一実施形態に係る非水系二次電池を説明する。なお、同じ作用を奏する部材、部位には適宜に同じ符号を付している。また、各図面は模式的に描かれており、必ずしも実物を反映していない。各図面は、一例を示すのみであり、特に言及されない限りにおいて本発明を限定しない。
【0018】
≪リチウムイオン二次電池100≫
図1は、リチウムイオン二次電池100を示している。このリチウムイオン二次電池100は、図1に示すように、捲回電極体200と電池ケース300とを備えている。図2は、捲回電極体200を示す図である。図3は、図2中のIII−III断面を示している。
【0019】
捲回電極体200は、図2に示すように、正極シート220、負極シート240およびセパレータ262、264を有している。正極シート220、負極シート240およびセパレータ262、264は、それぞれ帯状のシート材である。
【0020】
≪正極シート220≫
正極シート220は、帯状の正極集電体221と正極活物質層223とを備えている。正極集電体221には、正極に適する金属箔が好適に使用され得る。正極集電体221には、例えば、所定の幅を有し、厚さが凡そ15μmの帯状のアルミニウム箔を用いることができる。正極集電体221の幅方向片側の縁部に沿って未塗工部222が設定されている。図示例では、正極活物質層223は、図3に示すように、正極集電体221に設定された未塗工部222を除いて、正極集電体221の両面に保持されている。正極活物質層223には、正極活物質が含まれている。正極活物質層223は、正極活物質を含む正極合剤を正極集電体221に塗工することによって形成されている。
【0021】
≪正極活物質層223および正極活物質粒子610≫
ここで、図4は、正極シート220の断面図である。なお、図4において、正極活物質層223の構造が明確になるように、正極活物質層223中の正極活物質粒子610と導電材620とバインダ630とを大きく模式的に表している。正極活物質層223には、図4に示すように、正極活物質粒子610と導電材620とバインダ630が含まれている。
【0022】
正極活物質粒子610には、リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いることができる物質を使用することができる。正極活物質粒子610の例を挙げると、LiNiCoMnO(リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物)、LiNiO(ニッケル酸リチウム)、LiCoO(コバルト酸リチウム)、LiMn(マンガン酸リチウム)、LiFePO(リン酸鉄リチウム)などのリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。ここで、LiMnは、例えば、スピネル構造を有している。また、LiNiO或いはLiCoOは層状の岩塩構造を有している。また、LiFePOは、例えば、オリビン構造を有している。オリビン構造のLiFePOには、例えば、ナノメートルオーダーの粒子がある。また、オリビン構造のLiFePOは、さらにカーボン膜で被覆することができる。
【0023】
≪導電材620≫
導電材620としては、例えば、カーボン粉末、カーボンファイバーなどのカーボン材料が例示される。導電材620としては、このような導電材から選択される一種を単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。カーボン粉末としては、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、黒鉛化カーボンブラック、カーボンブラック、黒鉛、ケッチェンブラック)、グラファイト粉末などのカーボン粉末を用いることができる。
【0024】
≪バインダ630≫
また、バインダ630は、正極活物質層223に含まれる正極活物質粒子610と導電材620の各粒子を結着させたり、これらの粒子と正極集電体221とを結着させたりする。かかるバインダ630としては、使用する溶媒に溶解または分散可能なポリマーを用いることができる。例えば、水性溶媒を用いた正極合剤組成物においては、セルロース系ポリマー(カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)など)、フッ素系樹脂(例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)など)、ゴム類(酢酸ビニル共重合体、スチレンブタジエン共重合体(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)など)などの水溶性または水分散性ポリマーを好ましく採用することができる。また、非水溶媒を用いた正極合剤組成物においては、ポリマー(ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリルニトリル(PAN)など)を好ましく採用することができる。
【0025】
≪増粘剤、溶媒≫
正極活物質層223は、例えば、上述した正極活物質粒子610と導電材620を溶媒にペースト状(スラリ状)に混ぜ合わせた正極合剤を作製し、正極集電体221に塗布し、乾燥させ、圧延することによって形成されている。この際、正極合剤の溶媒としては、水性溶媒および非水溶媒の何れも使用可能である。非水溶媒の好適な例としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)が挙げられる。上記バインダ630として例示したポリマー材料は、バインダとしての機能の他に、正極合剤の増粘剤その他の添加剤としての機能を発揮する目的で使用されることもあり得る。
【0026】
正極合剤全体に占める正極活物質の質量割合は、凡そ50wt%以上(典型的には50〜95wt%)であることが好ましく、通常は凡そ70〜95wt%(例えば75〜90wt%)であることがより好ましい。また、正極合剤全体に占める導電材の割合は、例えば凡そ2〜20wt%とすることができ、通常は凡そ2〜15wt%とすることが好ましい。バインダを使用する組成では、正極合剤全体に占めるバインダの割合を例えば凡そ1〜10wt%とすることができ、通常は凡そ2〜5wt%とすることが好ましい。
【0027】
≪負極シート240≫
負極シート240は、図2に示すように、帯状の負極集電体241と、負極活物質層243とを備えている。負極集電体241には、負極に適する金属箔が好適に使用され得る。この負極集電体241には、所定の幅を有し、厚さが凡そ10μmの帯状の銅箔が用いられている。負極集電体241の幅方向片側には、縁部に沿って未塗工部242が設定されている。負極活物質層243は、負極集電体241に設定された未塗工部242を除いて、負極集電体241の両面に形成されている。負極活物質層243は、負極集電体241に保持され、少なくとも負極活物質が含まれている。負極活物質層243は、負極活物質を含む負極合剤が負極集電体241に塗工されている。
【0028】
≪負極活物質層243≫
図5は、リチウムイオン二次電池100の負極シート240の断面図である。負極活物質層243には、図5に示すように、負極活物質粒子710、増粘剤(図示省略)、バインダ730などが含まれている。図5では、負極活物質層243の構造が明確になるように、負極活物質層243中の負極活物質粒子710とバインダ730とを大きく模式的に表している。
【0029】
≪負極活物質粒子710≫
負極活物質粒子710としては、負極活物質として従来からリチウムイオン二次電池に用いられる材料の一種または二種以上を特に限定なく使用することができる。例えば、少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)が挙げられる。より具体的には、負極活物質は、例えば、天然黒鉛、非晶質の炭素材料でコートした天然黒鉛、黒鉛質(グラファイト)、難黒鉛化炭素質(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質(ソフトカーボン)、または、これらを組み合わせた炭素材料でもよい。なお、ここでは、負極活物質粒子710は、いわゆる鱗片状黒鉛が用いられた場合を図示しているが、負極活物質粒子710は、図示例に限定されない。
【0030】
≪増粘剤、溶媒≫
負極活物質層243は、例えば、上述した負極活物質粒子710とバインダ730を溶媒にペースト状(スラリ状)に混ぜ合わせた負極合剤を作製し、負極集電体241に塗布し、乾燥させ、圧延することによって形成されている。この際、負極合剤の溶媒としては、水性溶媒および非水溶媒の何れも使用可能である。非水溶媒の好適な例としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)が挙げられる。バインダ730には、上記正極活物質層223(図4参照)のバインダ630として例示したポリマー材料を用いることができる。また、上記正極活物質層223のバインダ630として例示したポリマー材料は、バインダとしての機能の他に、正極合剤の増粘剤その他の添加剤としての機能を発揮する目的で使用されることもあり得る。
【0031】
≪セパレータ262、264≫
セパレータ262、264は、図1または図2に示すように、正極シート220と負極シート240とを隔てる部材である。この例では、セパレータ262、264は、微小な孔を複数有する所定幅の帯状のシート材で構成されている。セパレータ262、264には、例えば、多孔質ポリオレフィン系樹脂で構成された単層構造のセパレータ或いは積層構造のセパレータを用いることができる。この例では、図2および図3に示すように、負極活物質層243の幅b1は、正極活物質層223の幅a1よりも少し広い。さらにセパレータ262、264の幅c1、c2は、負極活物質層243の幅b1よりも少し広い(c1、c2>b1>a1)。
【0032】
なお、図1および図2に示す例では、セパレータ262、264は、シート状の部材で構成されている。セパレータ262、264は、正極活物質層223と負極活物質層243とを絶縁するとともに、電解質の移動を許容する部材であればよい。したがって、シート状の部材に限定されない。セパレータ262、264は、シート状の部材に代えて、例えば、正極活物質層223または負極活物質層243の表面に形成された絶縁性を有する粒子の層で構成してもよい。ここで、絶縁性を有する粒子としては、絶縁性を有する無機フィラー(例えば、金属酸化物、金属水酸化物などのフィラー)、或いは、絶縁性を有する樹脂粒子(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの粒子)で構成してもよい。
【0033】
この捲回電極体200では、図2および図3に示すように、正極シート220と負極シート240とは、セパレータ262、264を介在させた状態で、正極活物質層223と負極活物質層243とが対向するように重ねられている。より具体的には、捲回電極体200では、正極シート220と負極シート240とセパレータ262、264とは、正極シート220、セパレータ262、負極シート240、セパレータ264の順に重ねられている。
【0034】
また、この際、正極活物質層223と負極活物質層243とは、セパレータ262、264が介在した状態で対向している。そして、正極活物質層223と負極活物質層243とが対向した部分の片側に、正極集電体221のうち正極活物質層223が形成されていない部分(未塗工部222)がはみ出ている。当該未塗工部222がはみ出た側とは反対側には、負極集電体241のうち負極活物質層243が形成されていない部分(未塗工部242)がはみ出ている。また、正極シート220と負極シート240とセパレータ262、264とは、このように重ねられた状態で、正極シート220の幅方向に設定した捲回軸WLに沿って捲回されている。
【0035】
≪電池ケース300≫
また、この例では、電池ケース300は、図1に示すように、いわゆる角型の電池ケースであり、容器本体320と、蓋体340とを備えている。容器本体320は、有底四角筒状を有しており、一側面(上面)が開口した扁平な箱型の容器である。蓋体340は、当該容器本体320の開口(上面の開口)に取り付けられて当該開口を塞ぐ部材である。
【0036】
車載用の二次電池では、車両の燃費を向上させるため、重量エネルギ効率(単位重量当りの電池の容量)を向上させることが望まれる。この実施形態では、電池ケース300を構成する容器本体320と蓋体340は、アルミニウム、アルミニウム合金などの軽量金属が採用されている。これにより重量エネルギ効率を向上させることができる。
【0037】
電池ケース300は、捲回電極体200を収容する空間として、扁平な矩形の内部空間を有している。また、図1に示すように、電池ケース300の扁平な内部空間は、捲回電極体200よりも横幅が少し広い。この実施形態では、電池ケース300は、有底四角筒状の容器本体320と、容器本体320の開口を塞ぐ蓋体340とを備えている。また、電池ケース300の蓋体340には、電極端子420、440が取り付けられている。電極端子420、440は、電池ケース300(蓋体340)を貫通して電池ケース300の外部に出ている。また、蓋体340には注液孔350と安全弁360とが設けられている。
【0038】
捲回電極体200は、図2に示すように、捲回軸WLに直交する一の方向において扁平に押し曲げられている。図2に示す例では、正極集電体221の未塗工部222と負極集電体241の未塗工部242は、それぞれセパレータ262、264の両側において、らせん状に露出している。図6に示すように、この実施形態では、未塗工部222、242の中間部分224、244を寄せ集め、電極端子420、440の先端部420a、440aに溶接している。この際、それぞれの材質の違いから、電極端子420と正極集電体221の溶接には、例えば、超音波溶接が用いられる。また、電極端子440と負極集電体241の溶接には、例えば、抵抗溶接が用いられる。ここで、図6は、捲回電極体200の未塗工部222(242)の中間部分224(244)と電極端子420(440)との溶接箇所を示す側面図であり、図1のVI−VI断面図である。
【0039】
捲回電極体200は、扁平に押し曲げられた状態で、蓋体340に固定された電極端子420、440に取り付けられる。かかる捲回電極体200は、図1に示すように、容器本体320の扁平な内部空間に収容される。容器本体320は、捲回電極体200が収容された後、蓋体340によって塞がれる。蓋体340と容器本体320の合わせ目322(図1参照)は、例えば、レーザ溶接によって溶接されて封止されている。このように、この例では、捲回電極体200は、蓋体340(電池ケース300)に固定された電極端子420、440によって、電池ケース300内に位置決めされている。
【0040】
≪電解液≫
その後、蓋体340に設けられた注液孔350から電池ケース300内に電解液が注入される。電解液は、水を溶媒としていない、いわゆる非水電解液が用いられている。この例では、電解液は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒(例えば、体積比1:1程度の混合溶媒)にLiPFを約1mol/リットルの濃度で含有させた電解液が用いられている。その後、注液孔350に金属製の封止キャップ352を取り付けて(例えば溶接して)電池ケース300を封止する。なお、電解液は、ここで例示された電解液に限定されない。例えば、従来からリチウムイオン二次電池に用いられている非水電解液は適宜に使用することができる。
【0041】
≪空孔≫
ここで、正極活物質層223は、例えば、正極活物質粒子610と導電材620の粒子間などに、空洞とも称すべき微小な隙間225を有している(図4参照)。かかる正極活物質層223の微小な隙間には電解液(図示省略)が浸み込み得る。また、負極活物質層243は、例えば、負極活物質粒子710の粒子間などに、空洞とも称すべき微小な隙間245を有している(図5参照)。ここでは、かかる隙間225、245(空洞)を適宜に「空孔」と称する。また、捲回電極体200は、図2に示すように、捲回軸WLに沿った両側において、未塗工部222、242が螺旋状に巻かれている。かかる捲回軸WLに沿った両側252、254において、未塗工部222、242の隙間から、電解液が浸み込みうる。このため、リチウムイオン二次電池100の内部では、正極活物質層223と負極活物質層243に電解液が浸み渡っている。
【0042】
≪ガス抜け経路≫
また、この例では、当該電池ケース300の扁平な内部空間は、扁平に変形した捲回電極体200よりも少し広い。捲回電極体200の両側には、捲回電極体200と電池ケース300との間に隙間310、312が設けられている。当該隙間310、312は、ガス抜け経路になる。例えば、過充電が生じた場合などにおいて、リチウムイオン二次電池100の温度が異常に高くなると、電解液が分解されてガスが異常に発生する場合がある。この実施形態では、異常に発生したガスは、捲回電極体200の両側における捲回電極体200と電池ケース300との隙間310、312を通して安全弁360の方へ移動し、安全弁360から電池ケース300の外に排気される。
【0043】
かかるリチウムイオン二次電池100では、正極集電体221と負極集電体241は、電池ケース300を貫通した電極端子420、440を通じて外部の装置に電気的に接続される。以下、充電時と放電時のリチウムイオン二次電池100の動作を説明する。
【0044】
≪充電時の動作≫
図7は、かかるリチウムイオン二次電池100の充電時の状態を模式的に示している。充電時においては、図7に示すように、リチウムイオン二次電池100の電極端子420、440(図1参照)は、充電器290に接続される。充電器290の作用によって、充電時には、正極活物質層223中の正極活物質からリチウムイオン(Li)が電解液280に放出される。また、正極活物質層223からは電荷が放出される。放出された電荷は、導電材(図示省略)を通じて正極集電体221に送られ、さらに、充電器290を通じて負極シート240へ送られる。また、負極シート240では電荷が蓄えられるとともに、電解液280中のリチウムイオン(Li)が、負極活物質層243中の負極活物質に吸収され、かつ、貯蔵される。
【0045】
≪放電時の動作≫
図8は、かかるリチウムイオン二次電池100の放電時の状態を模式的に示している。放電時には、図8に示すように、負極シート240から正極シート220に電荷が送られるとともに、負極活物質層243に貯蔵されたリチウムイオンが、電解液280に放出される。また、正極では、正極活物質層223中の正極活物質に電解液280中のリチウムイオンが取り込まれる。
【0046】
このようにリチウムイオン二次電池100の充放電において、電解液280を介して、正極活物質層223と負極活物質層243との間でリチウムイオンが行き来する。また、充電時においては、正極活物質から導電材を通じて正極集電体221に電荷が送られる。これに対して、放電時においては、正極集電体221から導電材を通じて正極活物質に電荷が戻される。
【0047】
充電時においては、リチウムイオンの移動および電子の移動がスムーズなほど、効率的で急速な充電が可能になると考えられる。放電時においては、リチウムイオンの移動および電子の移動がスムーズなほど、電池の抵抗が低下し、放電量が増加し、電池の出力が向上すると考えられる。
【0048】
≪他の電池形態≫
なお、上記はリチウムイオン二次電池の一例を示すものである。リチウムイオン二次電池は上記形態に限定されない。また、同様に金属箔に電極合剤が塗工された電極シートは、他にも種々の電池形態に用いられる。例えば、他の電池形態として、円筒型電池或いはラミネート型電池などが知られている。円筒型電池は、円筒型の電池ケースに捲回電極体を収容した電池である。また、ラミネート型電池は、正極シートと負極シートとをセパレータを介在させて積層した電池である。
【0049】
以下、本発明の一実施形態に係る非水系二次電池としてのリチウムイオン二次電池を説明する。なお、ここで、上述したリチウムイオン二次電池100と同じ作用を奏する部材または部位には、適宜に同じ符号を用い、必要に応じて上述したリチウムイオン二次電池100の図を参照して説明する。
【0050】
上述したようなリチウムイオン二次電池100は、例えば、ハイブリッド車(プラグインハイブリッド車を含む)や電気自動車などにおいて、駆動輪を駆動させる電動モータの電源(車両駆動用電池)として用いられうる。かかる用途においては、加速時には高出力での放電することが求められ、減速時において回生されるエネルギを急速に充電することが求められる。リチウムイオン二次電池は、かかるハイレートで充放電が繰り返される用途において、抵抗が上昇する傾向が見られ、かかる抵抗上昇は小さく抑えたい。本発明者は、正極と負極でリチウムイオンの入出力の差が大きいことが、ハイレートで充放電が繰り返される用途において抵抗を大きく上昇させる原因の1つになると考えている。
【0051】
上述したリチウムイオン二次電池100は、図1に示すように、正極活物質粒子610を含む正極活物質層223が正極集電体221に形成されている。また、負極活物質粒子710を含む負極活物質層243が負極集電体241に形成されている。そして、正極活物質層223と負極活物質層243とがセパレータ262、264を介して対向している。この場合、正極活物質層223と負極活物質層243とは、それぞれ空孔225、245を有しており、電解液が含浸している。本発明者は、正極と負極でリチウムイオンの入出力の差が大きいのは、それぞれ活物質層223、243が含浸した電解液を保持する力(活物質層223、243の単位体積当りの電解液の保持力)のバランスが大きく関係すると考えている。
【0052】
すなわち、正極活物質層223と負極活物質層243は、図4および図5に示すように、それぞれ単位体積当りに電解液を多く含んでいるほど、電池反応においてリチウムイオンが欠乏することがない。このため、正極活物質層223と負極活物質層243のリチウムイオンの入出力の特性は、単位体積当りに電解液を多く含んでいるほど良くなると考えられる。
【0053】
本発明者の知見によれば、活物質層223、243に含まれる活物質粒子610、710の吸油量が高いほど、活物質層223、243は多くの電解液を保持できる。また、活物質層223、243の多孔度が高いほど、電解液の動きが速くなるため、活物質層223、243は電解液を放出し易い傾向がある。さらに活物質層223、243が厚いほど、活物質層223、243の側面において電解液が出ていく面積が大きくなり、活物質層223、243は電解液を放出し易い傾向がある。
【0054】
本発明者は、このような知見を基に、正極活物質粒子610の吸油量を、正極活物質層223の多孔度と正極活物質層223の厚さとで除した値Aと、負極活物質粒子710の吸油量を、負極活物質層243の多孔度と負極活物質層243の厚さとで除した値Bと、さらに、これらの比A/Bに着目した。
A=(正極活物質粒子610の吸油量)/{(正極活物質層223の多孔度)×(正極活物質層223の厚さ)};
B=(負極活物質粒子710の吸油量)/{(負極活物質層243の多孔度)×(負極活物質層243の厚さ)};
【0055】
上記値Aが大きいほど、正極活物質層223は電解液を多く保持できる。また、上記値Bが大きいほど、負極活物質層243は電解液を多く保持できる。本発明者は、かかる値Aと値Bの比である比A/Bが所定の範囲内にあることによって、それぞれ活物質層223、243が含浸した電解液を保持する力(活物質層223、243の単位体積当りの電解液の保持力)のバランスが良くなり、充放電サイクル後の抵抗上昇率(%)を小さく抑えることができると考えた。以下、本発明の一実施形態に係る非水系二次電池として、リチウムイオン二次電池100Aを説明する。
【0056】
≪リチウムイオン二次電池100A≫
図9は、ここで提案される非水系二次電池としてリチウムイオン二次電池100Aを示している。図10は、捲回電極体200Aを示す図である。図11は、捲回電極体200Aの正極シート220Aと負極シート240Aとの積層構造を示す断面図である。さらに、図12は、かかるリチウムイオン二次電池100Aの正極活物質層223Aの構造を模式的に示す断面図である。また、図13は、かかるリチウムイオン二次電池100Aの負極活物質層243Aの構造を模式的に示す断面図である。
【0057】
このリチウムイオン二次電池100Aは、図9から図11に示すように、正極集電体221Aと、正極活物質層223Aと、負極集電体241Aと、負極活物質層243Aとを備えている。正極活物質層223Aは、図12に示すように、正極集電体221Aに保持され、正極活物質粒子610Aを含んでいる。負極活物質層243Aは、図13に示すように、負極集電体241Aに保持され、負極活物質粒子710Aを含んでいる。正極活物質層223Aと負極活物質層243Aとは、図10および図11に示すように、セパレータ262、264が介在した状態で対向している。
【0058】
この実施形態では、正極活物質粒子610AのDBP吸油量を、正極活物質層223Aの多孔度と正極活物質層223Aの厚さとで除した値Aと、負極活物質粒子710Aの亜麻仁油の吸油量を、負極活物質層243Aの多孔度と負極活物質層243Aの厚さとで除した値Bとの比A/Bが、0.78≦(A/B)≦1.22である。かかる正極活物質層223Aと負極活物質層243Aは、上記比A/Bが、0.78≦(A/B)≦1.22であるから電解液の保持力のバランスがよい。このため、ハイレートで充放電が繰り返される用途においても、正極活物質層223Aと負極活物質層243Aのどちらも電解液が保たれる。このため、ハイレートで充放電が繰り返される用途において抵抗上昇を小さく抑えることができる。
【0059】
≪DBP吸油量≫
ここで、DBP吸油量は、JIS K6217−4「ゴム用カーボンブラック‐基本特性‐第4部:DBP吸油量の求め方」に準拠して求める。ここでは、試薬液体としてDBP(ジブチルフタレート)を用い、検査対象粉末(正極活物質610の二次粒子の粉末)に定速度ビュレットで滴定し、粘度特性の変化をトルク検出器によって測定する。そして、発生した最大トルクの70%のトルクに対応する、検査対象粉末の単位重量当りの試薬液体の添加量をDBP吸油量(mL/100g)とする。DBP吸油量の測定器としては、例えば、株式会社あさひ総研の吸油量測定装置S410を使用するとよい。ここでは、正極活物質粒子610Aの吸油量を評価するのに、かかるDBP吸油量(mL/100g)を用いた。正極活物質粒子610AのDBP吸油量(mL/100g)の測定は60gの活物質を測定器にセットして行なった。
【0060】
≪亜麻仁油の吸油量≫
ここで、亜麻仁油の吸油量(mL/100g)は、JIS K6217−4「ゴム用カーボンブラック‐基本特性‐第4部:DBP吸油量の求め方」に準拠して求める。ここでは、試薬液体としてDBP(ジブチルフタレート)に変えて亜麻仁油を用い、検査対象粉末に定速度ビュレットで滴定し、粘度特性の変化をトルク検出器によって測定する。そして、発生した最大トルクの70%のトルクに対応する、検査対象粉末の単位重量当りの試薬液体の添加量を亜麻仁油の吸油量とする。亜麻仁油の吸油量の測定器としては、例えば、株式会社あさひ総研の吸油量測定装置S410を使用するとよい。ここでは、負極活物質粒子710Aの吸油量を評価するのに、かかる亜麻仁油の吸油量(mL/100g)を用いた。負極活物質粒子710Aの亜麻仁油の吸油量(mL/100g)の測定は60gの活物質を測定器にセットして行なった。
【0061】
≪正極活物質層223Aおよび負極活物質層243Aの多孔度≫
ここで「多孔度」は、正極活物質層223Aや負極活物質層243Aにおける空孔の割合である。
【0062】
≪多孔度の測定方法≫
多孔度の測定方法は、例えば、図12に示すように、正極活物質層223Aの見かけの体積から正極活物質層223Aの実体積を引き、正極活物質層223Aの空孔の容積を算出する。そして、正極活物質層223Aの空孔の容積を、正極活物質層223Aの見かけの体積で除した値を多孔度とする。
(正極活物質層223Aの多孔度)=
(正極活物質層223Aの空孔の容積)/(正極活物質層223Aの見かけの体積);
(正極活物質層223Aの空孔の容積)=
(正極活物質層223Aの見かけの体積)−(正極活物質層223Aの実体積);
【0063】
ここで、正極活物質層223Aの多孔度は、例えば、正極シート220Aを所定の面積を切り取って測定するとよい。この場合、正極活物質層223Aの見かけの体積は、切り取った正極シート220Aの面積と、正極活物質層223Aの厚さとの積により求められる。また、正極活物質層223Aの厚さは、正極シート220Aの厚さha1から、正極集電体221Aの厚さha2を引くことによって求められる。なお、正極活物質層223Aの厚さは、例えば、両面の正極活物質層223Aの厚さLa1、La2の和として求めてもよい(La1+La2)。なお、正極集電体の正極活物質層が片面のみに形成されている場合には、正極活物質層の厚さは単に片面に形成された正極活物質層の厚さとなる。
(正極活物質層223Aの見かけの体積)=
(正極シート220Aの面積)×(正極活物質層223Aの厚さ);
(正極活物質層223Aの厚さ(La1+La2))=
(正極シート220Aの厚さha1)−(正極集電体221Aの厚さha2);
【0064】
ここでは、正極活物質層223Aの構成材料、および、構成材料の配合比(質量比)が既知であるとする。この場合、「正極活物質層223Aの実体積」は、切り取った正極シート220Aの重量から正極集電体221Aの重量を引き、正極活物質層223Aの重量を得る。次に、正極活物質層223Aの構成材料の配合比(質量比)から、各構成材料の重量を導く。さらに、各構成材料の重量をそれぞれ構成材料の比重で割り、各構成材料の体積を得る。これにより、正極活物質層223Aの実体積を得ることができる。
(正極活物質層223Aの実体積)=各構成材料の体積の総和;
【0065】
負極活物質層243Aについても、負極活物質層243Aの構成材料、および、構成材料の配合比(質量比)が既知である場合には、同様の方法によって算出することができる。
【0066】
すなわち、負極活物質層243Aの多孔度は、例えば、図13に示すように、負極活物質層243Aの空孔の容積を、負極活物質層243Aの見かけの体積で除した値で求められる。また、負極活物質層243Aの空孔の容積は、負極活物質層243Aの見かけの体積を、負極活物質層243Aの実体積で引いた値で求められる。
(負極活物質層243Aの多孔度)=
(負極活物質層243Aの空孔の容積)/(負極活物質層243Aの見かけの体積);
(負極活物質層243Aの空孔の容積)=
(負極活物質層243Aの見かけの体積)−(負極活物質層243Aの実体積);
(負極活物質層243Aの実体積)=各構成材料の体積の総和;
【0067】
ここで、負極活物質層243Aの多孔度は、例えば、負極シート240Aを所定の面積を切り取って測定するとよい。この場合、負極活物質層243Aの見かけの体積は、切り取った負極シート240Aの面積と、負極活物質層243Aの厚さとの積により求められる。また、負極活物質層243Aの厚さは、負極シート240Aの厚さhb1から、負極集電体241Aの厚さhb2を引くことによって求められる。なお、負極活物質層243Aの厚さは、例えば、両面の負極活物質層243Aの厚さLb1、Lb2の和として求めてもよい(Lb1+Lb2)。なお、負極集電体の負極活物質層が片面のみに形成されている場合には、負極活物質層の厚さは単に片面に形成された負極活物質層の厚さとなる。
(負極活物質層243Aの見かけの体積)=
(負極シート240Aの面積)×(負極活物質層243Aの厚さ);
(負極活物質層243Aの厚さ(Lb1+Lb2))=
(負極シート240Aの厚さhb1)−(負極集電体241Aの厚さhb2);
【0068】
≪多孔度の他の測定方法(1)≫
正極活物質層223Aの内部に形成された空孔225の容積や負極活物質層243Aの内部に形成された空孔245の容積は、例えば、水銀ポロシメータ(mercury porosimeter)を用いることによって測定することができる。なお、この測定方法において、「空孔」は、外部に開かれた空孔を意味している。正極活物質層223Aや負極活物質層243A内の閉じられた空間は、この方法では「空孔」に含まれない。水銀ポロシメータは、水銀圧入法より多孔体の細孔分布を測定する装置である。水銀ポロシメータには、例えば、株式会社島津製作所製のオートポアIII9410を用いることができる。この水銀ポロシメータを用いた場合、例えば、4psi〜60,000psiにて測定することによって、50μm〜0.003μmの細孔範囲に相当する空孔の容積分布を把握することができる。
【0069】
例えば、正極シート220から複数のサンプルを切り取る。次に、当該サンプルについて、水銀ポロシメータを用いて正極活物質層223Aに含まれる空孔225の容積を測る。水銀ポロシメータは、水銀圧入法よって多孔体の細孔分布を測定する装置である。水銀圧入法では、まず、正極シート220のサンプルは真空引きされた状態で水銀に浸けられる。この状態で、水銀にかけられる圧力が高くなると、水銀はより小さい空間へと徐々に浸入していく。このため、正極活物質層223Aに浸入した水銀の量と水銀にかけられる圧力との関係に基づいて、正極活物質層223A中の空孔225の大きさとその容積分布を求めることができる。かかる水銀圧入法によって、正極活物質層223Aに含まれる空孔225の容積Vbを求めることができる。負極活物質層243Aに含まれる空孔245の容積Vdについても、同様に水銀圧入法によって測定することができる。
【0070】
≪多孔度の他の測定方法(2)≫
なお、正極活物質層223Aと負極活物質層243Aの構成材料、および、構成材料の配合比(質量比)が不明である場合には、多孔度は、さらに以下の方法によって近似できる。
【0071】
例えば、活物質層の断面サンプルは、断面SEM画像によって得ることができる。断面SEM画像は、電子顕微鏡によって得られる断面写真である。例えば、CP処理(Cross Section Polisher処理)にて正極シート220の任意の断面を得る。電子顕微鏡としては、例えば、株式会社日立ハイテクノロジーズ(Hitachi High-Technologies Corporation)製の走査型電子顕微鏡(FE-SEM) HITACHI S-4500を用いることができる。かかる正極活物質層223Aの断面SEM画像によれば、色調や濃淡の違いに基づいて、正極活物質層223Aの構成物質の断面や正極活物質層223Aの内部に形成された空孔225を判別することができる。かかる判別は、画像処理技術によって行なうとよい。
【0072】
正極活物質層223Aの多孔度は、例えば、正極活物質層223Aの断面サンプルにおいて、正極活物質層223Aの単位断面積当たりに含まれる空孔225Aが占める面積(Sb)と、正極活物質層223Aの見かけの断面積(Sa)との比(Sb/Sa)によって近似できる。この場合、正極活物質層223Aの複数の断面サンプルから比(Sb/Sa)を求めるとよい。さらに、かかる比(Sb/Sa)は、例えば、断面SEM画像において、正極活物質層223Aの空孔225と判別された領域に含まれる画素数(Db)と、正極活物質層223Aの領域の画素数(Da)との比(Db/Da)で近似される。
【0073】
この場合、正極活物質層223Aの断面サンプルが多くなればなるほど、上記の比(Sb/Sa)は多孔度を正確に近似できるようになる。この場合、例えば、正極シート220の任意の一方向に沿って、当該一方向に直交する複数の断面から断面サンプルをとるとよい。ここでは、正極活物質層223Aの多孔度の測定方法を説明したが、負極活物質層243Aの多孔度についても、同様に、断面SEM画像に基づいて測定することができる。
【0074】
≪比A/B≫
上述したように、正極活物質粒子610AのDBP吸油量を、正極活物質層223Aの多孔度と正極活物質層223Aの厚さとで除した値Aは、正極活物質層223Aにおける電解液の保持力の特性を示している。負極活物質粒子710Aの亜麻仁油の吸油量を、負極活物質層243Aの多孔度と負極活物質層243Aの厚さとで除した値Bは、負極活物質層243Aにおける電解液の保持力の特性を示している。そして、比A/Bは、正極活物質層223Aと負極活物質層243Aにおいて電解液の保持力のバランスを示している。本発明者は、比A/Bが1.00に近いほど、正極活物質層223Aと負極活物質層243Aにおいて電解液の保持力のバランスが良いと推察している。
【0075】
このリチウムイオン二次電池100Aは、上記比A/Bが、0.78≦(A/B)≦1.22である。このため、正極活物質層223Aと負極活物質層243Aにおいて電解液の保持力のバランスが良い。本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池100Aによれば、特にハイレートで充放電が繰り返される用途においても抵抗上昇が小さく抑えられる傾向がある。
【0076】
≪捲回電極体200A≫
この実施形態では、図9に示すように、正極集電体221Aと負極集電体241Aとは、それぞれ帯状の部材であり、捲回されて捲回電極体200Aを構成している。捲回電極体200Aは、電池ケース300Aに収容されており、電池ケース300Aには、電解液(図示省略)が注入されている。
【0077】
かかる捲回電極体200Aの構造では、さらに捲回電極体200Aの中央部分で電解液が少なくなる傾向がある。特に、ハイレートで充放電が繰り返される用途においては、充放電に伴って正極活物質層223Aと、負極活物質層243Aが膨張と収縮を繰り返す。正極活物質層223Aと負極活物質層243Aが膨張と収縮を繰り返すことによって、捲回電極体200Aは、内部の電解液を押し出すポンプのように作用する。このため、特に捲回電極体200Aの中央部分において電解液が少なくなる傾向がある。
【0078】
本発明の一実施形態に係る非水系二次電池は、正極活物質層223Aと負極活物質層243Aとに関し、上記比A/Bが、0.78≦(A/B)≦1.22である。この場合、正極活物質層223Aと負極活物質層243Aとで電解液の保持力の特性が概ね調整されている。このため捲回電極体200Aの中央部分において電解液が少なくなった場合でも、当該中央部分において、電解液が、正極活物質層223Aと負極活物質層243Aの何れか一方に大きく偏ることない。換言すれば、当該中央部分では、電解液は少なくなるが、正極活物質層223Aと負極活物質層243Aとの間で偏ることがない。このため、正極活物質層223Aと負極活物質層243Aは、電解液が欠乏する部分がほとんどなく、必要量が満遍なく確保し易い。このため捲回電極体200Aの中央部分において電解液が少なくなった場合でも、当該中央部分を効率よく機能させることができ、リチウムイオン二次電池100A(非水系二次電池)の抵抗上昇を小さく抑えることができる。
【0079】
さらに、この実施形態では、捲回電極体200Aは、捲回軸WLに直行する方向に沿って扁平に曲げられている。電池ケース300Aは、扁平な収容空間を備えた角型のケースである。捲回電極体200Aは、扁平に曲げられた状態で、電池ケース300Aに収容されている。この場合、特に、捲回電極体200Aの平らな部位は、電池ケース300Aによって拘束される。このため、捲回電極体200Aの中央部において保持される電解液が少なくなる傾向が強い。
【0080】
このように捲回電極体200Aを扁平に曲げられた状態で電池ケース300Aに収容する構造では中央部において保持される電解液が少なくなりやすい。これに対して、本発明の一実施形態に係る非水系二次電池は、上述したように正極活物質層223Aと負極活物質層243Aとで電解液の保持力の特性が概ねバランスよく調整されている。この場合、ハイレートで充放電が繰り返された場合でも、正極活物質層223Aと負極活物質層243Aとの間で電解液が大きく偏らない。このため、捲回電極体200Aの中央部分において電解液が少なくなった場合でも、当該中央部分を効率よく機能させることができ、リチウムイオン二次電池100A(非水系二次電池)の抵抗上昇を小さく抑えることができる。したがって、本発明の一実施形態に係る非水系二次電池は、捲回電極体200Aを扁平に曲げられた状態で電池ケース300Aに収容する構造に特に好適である。
【0081】
さらに、この実施形態では、捲回電極体200Aは、図10に示すように、正極集電体221Aの片側の長辺に沿って正極活物質層223Aが形成されていない部分を有している。また、負極集電体241Aの片側の長辺に沿って負極活物質層243Aが形成されていない部分を有している。正極活物質層223Aと負極活物質層243Aとが対向した部分の片側に、正極集電体221Aのうち正極活物質層223Aが形成されていない部分がはみ出ており、正極集電体221Aのうち正極活物質層223Aが形成されていない部分がはみ出た側とは反対側に、負極集電体241Aのうち負極活物質層243Aが形成されていない部分がはみ出ている。この場合、捲回電極体200Aの捲回軸WLに沿った両側は、捲回電極体200Aにとって電解液の入り口になる。
【0082】
さらに、この実施形態では、正極集電体221Aのうち正極活物質層223Aが形成されていない部分と、負極集電体241Aのうち負極活物質層243Aが形成されていない部分とは、それぞれ中間部分が纏められて電極端子が取り付けられている。この場合、捲回軸WLに沿った両側において、捲回電極体200Aの中間部分が纏められているので、捲回電極体200Aにとって電解液の入り口が狭くなっている。
【0083】
上述したように、ハイレートで充放電が繰り返される用途では、捲回電極体200Aは、捲回電極体200Aから電解液が押し出されるポンプのように作用する。この場合、捲回電極体200Aから押し出された電解液が、捲回電極体200Aに戻りにくい。このため、特に活物質層223、243の中央部分において電解液が少なくなる傾向が高く、充放電サイクル後に抵抗が特に上昇し易い。本発明の一実施形態に係る非水系二次電池は、充放電サイクル後に抵抗上昇を小さく抑えることができ、かかる構造に対しても特に好適である。
【0084】
≪評価用セル≫
ここで、本発明者は、上記比A/Bが異なる評価用セルを用意し、ハイレートで充放電が繰り返される充放電サイクル後の抵抗上昇率を評価する試験を行なった。詳しくは、ここで用意された評価用セルは、正極活物質粒子610AのDBP吸油量(mL/100g)、正極活物質層223Aの多孔度、正極活物質層223Aの厚さ、負極活物質粒子710AのDBP吸油量(mL/100g)、負極活物質層243Aの多孔度および負極活物質層243Aの厚さがそれぞれ異なっている。本発明者は、かかる評価用セルを基に、上記比A/Bと、抵抗上昇率(%)との関係を調べた。
【0085】
ここで、評価用セルは、いわゆる18650型の電池(図示省略)で構成した。なお、ここでは、評価用セルとして、18650型の電池を例示しているが、他のサイズの円筒型電池、角型やラミネート型などの他の形状の電池においても、上記比A/Bと、抵抗上昇率(%)との関係は、同じような傾向が得られうる。
【0086】
≪評価用セルの正極≫
正極における正極活物質層を形成するのに正極合剤を調製した。ここで、正極合剤は、正極活物質として三元系のリチウム遷移金属酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)、導電材としてアセチレンブラック(AB)、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)をそれぞれ用いた。ここでは、正極活物質と、導電材と、バインダの質量比を、正極活物質:導電材:バインダ=91:6:3とした。これら正極活物質と、導電材と、バインダとを、NMPと混合することによって正極合剤を調製した。次いで、正極合剤を正極集電体に塗布して乾燥させた。ここでは、正極集電体としてのアルミニウム箔(厚さ15μm)を用いた。正極活物質層は、正極集電体の両面に形成した。正極シートは、正極集電体への正極合剤の塗布量や、乾燥後、ローラプレス機にて圧延する際の圧延量などを調整することによって、正極活物質層の多孔度や正極活物質層の厚さを調整した。
【0087】
≪評価用セルの負極≫
ここではまず、負極合剤は、負極活物質粒子としては、グラファイト(例えば、少なくとも一部が非晶質炭素膜で覆われた天然黒鉛の粒子)を用いた。また、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を用い、バインダとしてスチレン・ブタジエンゴム(SBR)を用いた。ここで、負極活物質粒子と、増粘剤(CMC)と、バインダ(SBR)の質量比を、負極活物質粒子:CMC:SBR=98:1:1とした。これら負極活物質粒子と、CMCと、SBRとを、イオン交換水と混合することによって負極合剤を調製した。次いで、負極合剤を負極集電体に塗布して乾燥させた。ここでは、負極集電体としての銅箔(厚さ10μm)を用いた。また、負極活物質層は、負極集電体の両面に形成した。負極シートは、負極集電体への負極合剤の塗布量や、乾燥後、ローラプレス機にて圧延する際の圧延量などを調整することによって、負極活物質層の多孔度や負極活物質層の厚さを調整した。
【0088】
ここでは、各評価用セルについて、正極活物質粒子のDBP吸油量(mL/100g)、負極活物質粒子のDBP吸油量(mL/100g)を測定した。さらに、作成された正極シートと負極シートからサンプルを取り、正極活物質層の多孔度、正極活物質層の厚さ、負極活物質層の多孔度および負極活物質層の厚さをそれぞれ測定した。
【0089】
≪評価用セルのセパレータ≫
セパレータとしては、ポリプロピレン(PP)と、ポリエチレン(PE)の三層構造(PP/PE/PP)の多孔質シートからなるセパレータを用いた。ここでは、ポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)の質量比を、PP:PE:PP=3:4:3とした。
【0090】
≪評価用セルの組み立て≫
上記で作製した負極と、正極と、セパレータとを用いて、試験用の18650型セル(リチウムイオン二次電池)を構築した。ここでは、セパレータを介在させた状態で、正極シートと負極シートとを積層して捲回した捲回電極体を作製した。そして、捲回電極体を円筒型の電池ケースに収容し、非水電解液を注液して封口し、評価用セルを構築した。ここで、非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを、所定の体積比(EC:DMC:EMC=3:4:3)で混合溶媒に、リチウム塩としての1mol/LのLiPFを溶解させた電解液を用いた。
【0091】
これにより、上記比A/Bが異なる評価用セルを得る。なお、各評価用セルは上記比A/Bが異なる点を除き、概ね同じ構成とした。ここでは、かかる評価用セルについて、所定のコンディショニングを施した後で、−15℃の低温環境において充放電サイクル後の抵抗増加率を評価した。
【0092】
≪コンディショニング≫
ここでコンディショニングは、次の手順1、2によって行なわれる。
手順1:1Cの定電流充電にて4.1Vに到達した後、5分間休止する。
手順2:手順1の後、定電圧充電にて1.5時間充電し、5分間休止する。
かかるコンディショニングでは、初期充電によって所要の反応が生じてガスが発生する。また、負極活物質層などに所要の被膜形成が形成される。
【0093】
≪定格容量の測定≫
上記コンディショニングの後、評価用セルについて定格容量が測定される。定格容量の測定は、次の手順1〜3によって測定されている。なお、ここでは温度による影響を一定にするため、定格容量は25℃の温度環境において測定されている。
手順1:1Cの定電流放電によって3.0Vに到達後、定電圧放電にて2時間放電し、その後、10秒間休止する。
手順2:1Cの定電流充電によって4.1Vに到達後、定電圧充電にて2.5時間充電し、その後、10秒間休止する。
手順3:0.5Cの定電流放電によって3.0Vに到達後、定電圧放電にて2時間放電し、その後、10秒間停止する。
ここで、手順3における定電流放電から定電圧放電に至る放電における放電容量(CCCV放電容量)を「定格容量」とする。
【0094】
≪SOC調整≫
SOC調整は、次の1、2の手順によって調整される。ここで、SOC調整は、上記コンディショニング工程および定格容量の測定の後に行なうとよい。また、ここでは、温度による影響を一定にするため、25℃の温度環境下でSOC調整を行なっている。
手順1:3Vから1Cの定電流で充電し、定格容量の凡そ60%の充電状態(SOC60%)にする。
手順2:手順1の後、2.5時間、定電圧充電する。
これにより、評価用セルは、所定の充電状態に調整することができる。なお、ここでは、SOCを60%に調整する場合を記載しているが、手順1で充電状態を変更することによって、任意の充電状態に調整できる。例えば、SOC90%に調整する場合には、手順1において、評価用セルを定格容量の90%の充電状態(SOC90%)にするとよい。
【0095】
次に、かかる評価用セルについて、所定の充放電サイクル後の抵抗上昇率を評価した。ここでは、評価用セルについて、上記コンディショニング後、25℃の温度環境においてIV抵抗を測定し、これを「初期抵抗」とする。次に、−15℃の温度環境において、所定の充放電サイクルを実施し、初期抵抗と同様に25℃の温度環境においてIV抵抗を測定し、これを「サイクル後抵抗」とする。「充放電サイクル後の抵抗上昇率」は、「サイクル後抵抗」が「初期抵抗」に比べてどの程度上昇したかを評価する評価値であり、「サイクル後抵抗」/「初期抵抗」で求められる値である。
【0096】
≪充放電サイクル≫
ここでは、まず評価用セルをSOC60%に調整する。そして、充放電サイクルは、30Cの定電流で10秒間の放電、10分間の休止、5Cの定電流で1分間(60秒)の充電、10分間の休止を1サイクルとしている。ここでは、充放電サイクルは、かかる1サイクルを500サイクルごとに評価用セルをSOC60%に調整しつつ、1500サイクル行なう。
【0097】
≪IV抵抗測定≫
ここで、充放電サイクル前の初期抵抗と、充放電サイクル後のサイクル後抵抗を測定する。抵抗は、IV抵抗で評価した。かかるIV抵抗の測定は、25℃の温度環境で、それぞれ評価用セルをSOC60%に調整する。そして、10分間休止させた後で、評価用セルを30Cの定電流で10秒間放電した(CC放電)。ここで、放電時の下限電圧は、3.0Vとした。この際、V=IRの傾き(R=V/I)をIV抵抗とした。
【0098】
ここで、上記比A/Bと抵抗上昇率(%)との関係を図14および表1に示す。
【0099】
【表1】

【0100】
また、図14は、各サンプル1〜18の評価用セルについて、上述した比A/Bと、充放電サイクル後の抵抗上昇率(%)との関係を示している。ここで、比A/Bは、棒グラフで示し、充放電サイクル後の抵抗上昇率(%)は、「◆」でプロットしている。
【0101】
ここで、図14および表1に示すように、上記比A/Bが、0.78≦(A/B)≦1.22である場合には、充放電サイクル後の抵抗上昇率(%)が110%未満に収められている(例えば、サンプル1,2,4,7,8,10,12,13,16,17)。これに対して、比A/Bが、0.78>(A/B)である場合、または、(A/B)>1.22である場合には、充放電サイクル後の抵抗上昇率(%)が110%以上となる傾向が高い。
【0102】
さらに、上記比A/Bが、0.80≦(A/B)、さらには(A/B)≦1.20である場合には、充放電サイクル後の抵抗上昇率(%)をより確実に低く抑えられる。さらに、サンプル1やサンプル10に示されているように、上記比A/Bが1.00に近くなればなるほど、充放電サイクル後の抵抗上昇率(%)が低く抑えられる傾向にある。このため、より好ましくは0.85≦(A/B)、さらに好ましくは0.90≦(A/B)であるとよい。また、より好ましくは(A/B)≦1.15、さらに好ましくは(A/B)≦1.10であるとよい。これにより、充放電サイクル後の抵抗上昇率(%)を格段に低く抑えられる。
【0103】
さらに、表1で示すように、サンプル1〜9では、正極活物質粒子のDBP吸油量が30(mL/100g)、負極活物質粒子の亜麻仁油の吸油量が41(mL/100g)である。また、サンプル10〜18では、正極活物質粒子のDBP吸油量が40(mL/100g)、負極活物質粒子の亜麻仁油の吸油量が55(mL/100g)である。
【0104】
そこで、サンプル1〜9について、比A/Bと充放電サイクル後の抵抗上昇率(%)との関係を図15に示す。また、サンプル10〜18について、比A/Bと充放電サイクル後の抵抗上昇率(%)との関係を図16に示す。図15、16に示すように、比A/Bと充放電サイクル後の抵抗上昇率(%)とには、一定の相関関係が認められ、比A/Bが1.00に近い領域において、充放電サイクル後の抵抗上昇率(%)が低く抑えられる。特に、比A/Bが凡そ0.78よりも小さくなると、また比A/Bが凡そ1.22よりも大きくなると、充放電サイクル後の抵抗上昇率(%)が顕著に高くなる傾向がある。
【0105】
このため、かかる非水系二次電池では、正極活物質粒子のDBP吸油量を、正極活物質層の多孔度と正極活物質層の厚さとで除した値Aと、負極活物質粒子の亜麻仁油の吸油量を、負極活物質層の多孔度と負極活物質層の厚さとで除した値Bとの比A/Bが、0.78≦(A/B)≦1.22であるとよい。また、より好ましくは比A/Bが、0.80≦(A/B)≦1.20であるとよい。これにより、充放電サイクル後の抵抗上昇率(%)が低く抑えられる非水系二次電池を提供することができる。
【0106】
ここでは、評価用セルとして18650型の電池を例示している。本発明者の研究によれば、上述した値Aは正極活物質層について電解液の保持力の特性に相関し、上述した値Bは負極活物質層について電解液の保持力の特性に相関している。そして、比A/Bは、正極活物質層と負極活物質層とで電解液の保持力の特性のバランスを示している。リチウムイオン二次電池100Aは、かかる比A/Bが、0.78≦(A/B)≦1.22である。このため、正極活物質層223Aと負極活物質層243Aとで電解液の保持力の特性が概ねバランスよく調整されている。このため、正極活物質層223Aと負極活物質層243Aとで電解液の出入りがスムーズである。
【0107】
かかる傾向は、上述した18650型の評価用セルに限定されず、他のサイズの円筒型電池、角型やラミネート型などの他の形状の電池においても、同じような傾向が得られうる。したがって、18650型の評価用セルに限定されず、広く他のサイズの円筒型電池、角型やラミネート型などの他の形状の電池において、リチウムイオン二次電池100A(非水系二次電池)は、上述した比A/Bが0.78≦(A/B)≦1.22であるとよい。
【0108】
以上、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を説明したが、本発明に係る非水系二次電池は、特に言及されない限りにおいて、上述したリチウムイオン二次電池に限定されない。
【0109】
ここで開示される非水系二次電池は、特に、低温環境における抵抗上昇率を低く抑えることができる。特にハイレートでの充放電が繰り返される用途、例えば、ハイブリッド車(プラグインハイブリッド車を含む)や電気自動車などにおいて、駆動輪を電動モータで駆動させる車両駆動用電池として好適である。かかる車両駆動用電池の用途においては、加速時には、高出力で放電することが求められ、減速時には回生されるエネルギを急速に充電することが求められる。ここで開示される非水系二次電池は、かかるハイレートで充放電が繰り返される用途において抵抗上昇を低く抑えることができる。したがって、図17に示されるように、かかる非水系二次電池10(当該非水系二次電池10を複数個直列に接続して形成される組電池の形態であり得る。)を電源(車両駆動用電池)として備える車両1000(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車のような電動機を備える自動車)を提供することができる。
【符号の説明】
【0110】
100、100A リチウムイオン二次電池(非水系二次電池)
200、200A 捲回電極体
220、220A 正極シート
221、221A 正極集電体
222、222A 未塗工部
223、223A 正極活物質層
224 中間部分
225、225A 空孔
240、240A 負極シート
241、241A 負極集電体
242、242A 未塗工部
243、243A 負極活物質層
244 中間部分
245、245A 空孔
262、264 セパレータ
280 電解液
290 充電器
300、300A 電池ケース
310 隙間
320 容器本体
340 蓋体
350 注液孔
352 封止キャップ
360 安全弁
420 電極端子
440 電極端子
610、610A 正極活物質粒子
620、620A 導電材
630、630A バインダ
710、710A 負極活物質粒子
730、730A バインダ
1000 車両
La1、La2 正極活物質層の厚さ
Lb1、Lb2 負極活物質層の厚さ
ha1 正極シートの厚さ
ha2 正極集電体の厚さ
hb1 負極シートの厚さ
hb2 負極集電体の厚さ
WL 捲回軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と、
前記正極集電体に保持された正極活物質層と、
負極集電体と、
前記負極集電体に保持された負極活物質層と、
前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に介在したセパレータと、
を備え、
前記正極活物質粒子のDBP吸油量を、前記正極活物質層の多孔度と前記正極活物質層の厚さとで除した値Aと、前記負極活物質粒子の亜麻仁油の吸油量を、前記負極活物質層の多孔度と前記負極活物質層の厚さとで除した値Bとの比A/Bが、0.78≦(A/B)≦1.22である、非水系二次電池。
【請求項2】
前記比A/Bが、0.80≦(A/B)である、請求項1に記載された非水系二次電池。
【請求項3】
前記比A/Bが、(A/B)≦1.20である、請求項1または2に記載された非水系二次電池。
【請求項4】
前記正極集電体と前記負極集電体とは、それぞれ帯状の部材であり、前記正極活物質層と前記負極活物質層とが互いに対向するように配置され、かつ、捲回されて捲回電極体を構成しており、
当該捲回電極体を収容した電池ケースと、
前記電池ケースに注入された電解液と
を備えた、請求項1から3までの何れか一項に記載された非水系二次電池。
【請求項5】
前記捲回電極体は、捲回軸に直行する方向に沿って扁平に曲げられており、
前記電池ケースは、扁平な収容空間を備えた角型のケースであり、
前記捲回電極体は、前記扁平に曲げられた状態で、前記電池ケースに収容されている、請求項4に記載された非水系二次電池。
【請求項6】
前記捲回電極体は、
前記正極集電体の片側の長辺に沿って前記正極活物質層が形成されていない部分を有しており、
前記負極集電体の片側の長辺に沿って前記負極活物質層が形成されていない部分を有しており、
前記正極活物質層と前記負極活物質層とが対向した部分の片側に、前記正極集電体のうち前記正極活物質層が形成されていない部分がはみ出ており、前記正極集電体のうち前記正極活物質層が形成されていない部分がはみ出た側とは反対側に、前記負極集電体のうち前記負極活物質層が形成されていない部分がはみ出ている、請求項4または5に記載された非水系二次電池。
【請求項7】
前記正極集電体のうち前記正極活物質層が形成されていない部分と、前記負極集電体のうち前記負極活物質層が形成されていない部分とは、それぞれ中間部分が纏められて電極端子が取り付けられている、請求項6に記載された非水系二次電池。
【請求項8】
リチウムイオン二次電池として構成された、請求項1から7までの何れか一項に記載された非水系二次電池。
【請求項9】
請求項1から8までの何れか一項に記載された非水系二次電池を複数組み合わせた組電池。
【請求項10】
請求項1から8までの何れか一項に記載された非水系二次電池、又は、請求項9に記載された組電池を備えた車両駆動用電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−109929(P2013−109929A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253210(P2011−253210)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】