説明

非水系電気電子部品用セパレータ

【課題】非水系電気電子部品、特に2次電池の安全性について重要な特性である高温時での形状安定性と電解液を保持した状態での電解質・イオン透過性に優れた非水系電気電子部品用セパレータを提供すること。
【解決手段】水溶性ポリマーと300℃以下において融点を有しない粒子よりなる層と、水溶性ポリマーとアラミド薄葉材よりなる層とが接触した状態で存在する薄葉材を、ドライの状態で150℃以上の温度で熱処理してなる非水系電気電子部品用セパレータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電気電子部品、例えば非水系2次電池内において、正極材と負極材を隔離し、電解液中の電解質もしくはイオンを通過させるセパレータに関する。特に、リチウム、ナトリウムなどのアルカリ金属のイオンを電流のキャリアーとして使用する非水系2次電池のセパレータとして有用な、異なる熱特性を有する複数の物質からなるシートによって構成された薄葉材からなる非水系電気電子部品用のセパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
2次電池、キャパシタ、燃料電池、太陽電池は携帯電子機器等の電源として使用され、また、電気自動車、ハイブリッド自動車用の電源としても一部実用化されている。なかでも、小型・軽量、エネルギー密度が高く長期保存にも耐える高性能な2次電池、キャパシタへの期待は大きく、幅広く応用が図られている状況にある。特に、耐電圧が高く、エネルギー密度の高い非水系の電解液を使用した2次電池、キャパシタへの期待は大きい。代表的なリチウム2次電池は、主として、正極活物質としてLiイオンと遷移金属との複合酸化物を利用した正極、負極活物質としてLiイオンを吸蔵・脱離しうるカーボン系材料を用いた負極、正・負極間に介挿されたセパレータ、およびLiPF6またはLiBF4等の電解質と有機溶媒とからなる電解液から構成される。さらに、電池容器内に上記発電要素が収納され、それぞれ正極、負極に接続される正極端子、負極端子およびガスケットにより密封されている。正極および負極に対してそれぞれ所定の金属を用いた集電体が帯状に加圧成形されている。
【0003】
この場合、セパレータに要求される一般的特性として、
(1)電極材を隔離する機能の他に、各部短絡などで大きな電流が流れたときに瞬時の大電流による大きなジュール熱による温度上昇にも溶融しない耐熱性を有すること、
(2)電解液を保持した状態では電解質・イオン透過性が良いこと、
(3)電気的絶縁性を有すること、
(4)電解液に対して化学的に安定であると同時に、電気化学的にも安定であること(長寿命特性)、
(5)機械的強度を有すること、膜厚を薄くできること
等が挙げられる。
特に、長寿命特性は、電気自動車、ハイブリッド自動車用の電源として電池を使用する場合、電池の寿命にかかわることであり、電池の交換回数を減らし、安定走行する意味で極めて重要である。
【0004】
従来、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン系ポリマーを用いて、製膜した多孔質シートが、上記セパレータとして広く使用されている。この多孔質シートは、1)可塑作用を有する溶剤とポリマーを混練し製膜した後、溶剤を抽出洗浄する方法(一般に湿式法と呼称されている)、または2)溶融ポリマーを押し出し成形にてシート化した後に延伸処理を施し、亀裂を生じさせ微細な孔を形成させる方法(一般に乾式法と呼称されている)によって製造される。このようにして製造されるセパレータは、1層または複数層重ねてあるいはロール状に巻いて電池内において用いられる。
セパレータの材質として溶融温度が130℃であるポリエチレンと溶融温度が170℃であるポリプロピレンを採用することにより、上記のように外部短絡で電池内に過大な電流が流れたときに発生する発熱や外部要因による温度上昇によってセパレータが熱収縮/融解し、それにともない微多孔が閉塞する(いわゆるシャットダウン機能)ので電池回路を遮断する役割を果たしている。より低い温度で微多孔が閉塞される方が安全であるとの観点から、セパレータ材質はポリエチレンが主体となっている。
しかし、今後大きく発展することが期待される電気自動車、ハイブリッド自動車用途の2次電池においては、ポリエチレン、ポリプロピレンのような120〜170℃の温度範囲内に融点をもつポリマーをセパレータに採用した場合、シャットダウン後も何らかの要因で温度上昇が継続すると、セパレータ自体が溶融してしまう結果、電流遮断機能がほぼ完全に消滅してしまう問題が指摘されている。あまりに早くセパレータ形状を失うようでは、電極の短絡を招き危険な状態になる。
【0005】
上記問題を解決するために、2次電池のセパレータの材質として、高融点材料を使用し、高温での形状保持機能を持たせた高耐熱材料がいくつか提案されている。
たとえば、特許文献1には、少なくとも200℃以下の融点を有する熱可塑性ポリマーと実質的に安定融点を有しない有機化合物からなる紙料とから混合して成形されたシートである電池セパレータが開示されている。特許文献1において有機化合物として使用されるアラミドは、平衡水分率が少なくとも1.0%以上と非常に高く、アラミドに存在する結合水を除去するためには少なくとも150℃以上の温度での熱処理必要であるが、特許文献1には、水分に除去について何ら記載されていない。水分を除去しないか又は水分の除去が十分でないと、電解液を注入した後、電解液中に抽出された水分が電解液と反応し、長期の使用中に、ガスが発生するなどして、電池の寿命が短くなるという問題が発生する可能性がある。
特許文献2には、シャットダウン層と耐熱多孔質層を有し、パラアラミドをポリエチレン多孔質フィルムに塗布することが記載されている。パラアラミドの平衡水分率は少なくとも2.0%以上と非常に高く、水分を除去する場合、アラミドに存在する結合水を除去するために少なくとも150℃以上の温度が必要であるが、ポリエチレン多孔質フィルムの透気度が700秒/100ccなどと大きいため、150℃以上の温度で熱処理すると、ポリエチレン多孔質フィルムの孔が閉じてしまうので、事実上、60〜100℃の熱処理温度で処理しなければならず、水分を十分に除去することができない。水分の除去が十分でないと、電解液を注入した後、電解液中に抽出された水分が電解液と反応し、長期の使用中に、ガスが発生するなどして、電池の寿命が短くなるという問題が発生する可能性がある。
【0006】
特許文献3には、実質的に安定的融点を有しない有機化合物からなる薄葉材を内包してなる200℃以下の融点を有する熱可塑性ポリマーから成形された多孔シートが開示されており、実質的に安定的融点を有しない有機化合物としてアラミドなどが挙げられている。アラミドの平衡水分率は少なくとも2.0%以上と非常に高いため、内包されているとはいえども、製造工程中に表面に露出する可能性があり、水分を除去する必要があるが、この場合も、透気度が400秒/100ccなどと大きいため、上記特許文献1の場合と同じ問題が発生する可能性がある。
特許文献4には、実質的に安定的融点を有しない有機化合物からなる不織布状シート層と200℃以下の融点を有する熱可塑性ポリマーから成形された多孔質シート層を積層したシートが開示されており、実質的に安定的融点を有しない有機化合物としてアラミドなどが挙げられているが、この場合も、多孔シートの透気度が300秒/100ccなどと大きいため、上記特許文献3の場合と同じ問題が発生する可能性がある。
特許文献5には、少なくとも片面に無機フィラーと水溶性ポリマーを塗布した多孔性樹脂フィルムを80〜100℃で乾燥することが記載されている。水溶性ポリマーの平衡水分率も通常少なくとも3.0%以上と非常に高く、水分含有量が100ppm以下になるまで除去する場合、結合水などを除去するために少なくとも150℃以上の温度が必要であるが、乾燥温度が100℃より高くなると多孔性樹脂フィルムの収縮が大きくなり、透気度が悪くなる場合があるとの記載があり、乾燥温度を高くして、水分を十分に除去することができない。水分の除去が十分でないと、電解液を注入後、電解液中に抽出された水分が電解液と反応し、長期の使用中に、ガスが発生するなどして、電池の寿命が短くなるという問題が発生する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−40131号公報
【特許文献2】特開2002−151044号公報
【特許文献3】特開2006−054127号公報
【特許文献4】特開2006−264029号公報
【特許文献5】特開2010−65088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
高温形状安定性と長寿命特性と高出力を兼ね備えた非水系電気電子部品、例えば電池、キャパシタ、特に2次電池用のセパレータのためのシート状材料はこれまで皆無であるという状況であった。今後リチウム2次電池の産業用途への展開を図る上で、このような安全装置機能と長寿命特性と高出力を有する電池セパレータを開発することが待望されている。
本発明の目的は、非水系電気電子部品、特に2次電池の安全性について重要な特性である高温時での形状安定性と電解液を保持した状態での電解質・イオン透過性に優れたセパレータを導電部材間の隔離板として使用することにより、安全で、寿命の長く、高出力の非水系電気電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らはかかる状況に鑑み、高温形状安定性を備え、さらに高温で熱処理することにより水分含有量を低くすることが可能で、かつ電解液を保持した状態での抵抗の低いセパレータ用材料を開発すべく鋭意検討を進めた結果、今回、熱特性が異なる複数の特定の物質からなるシートによって構成された薄葉材を開発し、本発明を完成するに至った。
かくして、本発明は、水溶性ポリマーと300℃以下において融点を有しない粒子よりなる層と、水溶性ポリマーとアラミド薄葉材よりなる層とが接触した状態で存在する薄葉材を、ドライの状態で150℃以上の温度で熱処理してなる非水系電気電子部品用セパレータを提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る薄葉材は、結着力が大きい水溶性ポリマーと高温形状保持機能において優れた特性を示す300℃以下において融点を有しない粒子とアラミド薄葉材とから構成されているので、高温での形状保持力に優れている。また、本発明に係る薄葉材は、ドライ状態で熱処理することにより、水分が除去され、電気化学的に安定となって、長寿命化が期待できる。また、ドライ状態での熱処理後も孔が小さくなることがなく、電解液を保持した状態で良好な電解質・イオン透過性を示す。
以下、本発明の非水系電気電子部品用セパレータについてさらに詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[融点]
融点は、一般にDSC(Differential Scanning Calorimetry)、DTA(Differential Thermal Analysis)などの熱的分析方法にて定義される。一般に、ポリマーは、単一でない分子量成分を含んでいること及び結晶化の程度の違いなどを反映して幅広い融解挙動を示す。本発明において融点とは、DSC分析による吸熱ピークに対応する温度を以って定義する。
【0012】
[水溶性ポリマー]
本発明において用いられる水溶性ポリマーとしては、ドライの状態で150℃以上の温度で熱処理した後も薄葉材の形状、強度を保ち、電池、キャパシタの機能を害さなければ、特に制限はないが、特にカルボキシメチルセルロースナトリウムが粒子を結着する力、いわゆる結着力が大きく好適である。なかでも、エーテル化度が0.9以上のカルボキシメチルセルロースナトリウムが結着力が大きく好適である。
このような水溶性ポリマーは、水に溶解した状態では流動性が高まるため、毛細管現象により、薄葉材を構成する周辺の300℃以下において実質的に融点を有さない粒子あるいはアラミド薄葉材の間隙に浸透するが、そのとき300℃以下において融点を有しない粒子も同時に移動するので、空隙を保ちつつ、空隙を効率的に充填することができる。また、熱処理後には、水分の蒸発により、薄葉材を構成する周辺の300℃以下において実質的に融点を有さない粒子あるいはアラミド薄葉材の間隙に広く、効率的な接触面積を有しながら、残存するので、この結果、高い結着力を示し、本発明のセパレータの強度が向上する。
【0013】
[300℃以下において融点を有しない粒子]
本発明において用いられる300℃以下において融点を有しない粒子としては、平均一次粒子径が5〜50nm、特に好ましくは10〜35nmの球状、円柱状、角柱状であることが好ましいが、特にこれに限定されるものではない。平均一次粒子径は、一般的には、動的光散乱法により測定される。材質は、電池、キャパシタの機能を害さなければ特に制限はないが、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、ジルコニアなどの無機粒子をあげることができる。これらを単独で使用しても良いし、2種類以上混合して使用することもできる。
【0014】
[アラミド]
本発明において、アラミドとは、全芳香族ポリアミドであって、芳香環、例えばベンゼン環またはナフタレン環を連結する結合の60%以上がアミド結合である線状高分子化合物を意味する。ベンゼン環を有するアラミドの場合、アミド結合の置換位置に応じてメタ系アラミドおよびパラ系アラミドに大きく区分される。メタ系アラミドとしては、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミドおよびその共重合体、パラ系としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミドおよびその共重合体、ポリ(パラフェニレン)−コポリ(3,4ジフェニレンエーテル)テレフタルアミドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。アラミドの製造方法もまた特に限定されないが、一般には、芳香族ジアミンと芳香族酸二塩化物との縮合反応による溶液重合法、2段階界面重合法などが挙げられ、これらの方法によって工業的に製造されている。なお、アラミドの特性を損なわない範囲で、上記アラミドに他成分を共重合することもできる。
本発明において使用されるアラミドは一般に少なくとも0.2%、通常少なくとも1.0%の平衡水分率という高い含有率で水分(結合水など)を含有している場合があり、これらの含有水分は、後述するように、本発明に従い熱処理することにより除去される。
【0015】
[アラミド薄葉材]
本発明に使用されるアラミド薄葉材としては、原材料として上記アラミドを使用して作製された薄い多孔質シート状のものであれば特に制限はないが、孔径の調整が容易であり、また引裂力に対する破れ防止の観点から、特にアラミド短繊維を使用した薄葉材が好適である。
アラミド短繊維は、アラミドを原料とする繊維を切断したものであり、そのような繊維としては、例えば、帝人テクノプロダクツ(株)の「テイジンコーネックス(登録商標)」、「テクノーラ(登録商標)」、デュポン社の「ノーメックス(登録商標)」「ケブラー(登録商標)」、帝人アラミド社の「トワロン(登録商標)」等の商品名で入手することができるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
[平衡水分率]
本発明において、平衡水分率とは、試料を絶乾状態にした後、温度20℃、相対湿度65%の環境に96時間暴露した試料について、JIS L−1015に従って算出した値である。
【0017】
[水溶性ポリマーと300℃以下において融点を有しない粒子よりなる層と、水溶性ポリマーとアラミド薄葉材よりなる層とが接触した状態で存在する薄葉材]
本発明において、水溶性ポリマーと300℃以下において融点を有しない粒子よりなる層と、水溶性ポリマーとアラミド薄葉材よりなる層とが接触した状態で存在する薄葉材としては、上記少なくとも2層からなる薄い多孔質シート状の材料であって、ドライの状態下で150℃以上の温度で加熱しても孔のサイズが小さくならず、またセパレータとしての形状を保持することができるものが使用される。
ここで、「接触した状態」には、上記水溶性ポリマーとアラミド薄葉材よりなる層上に水溶性ポリマーと300℃以下において融点を有しない粒子よりなる層が少なくとも部分的に被覆されている状態などが包含される。
本発明の薄葉材を製造する方法としては、セパレータとして十分な強度、加工性を有するという観点から、上記水溶性ポリマーを水に溶解した溶液に上記粒子を分散したディスパージョンを上記アラミド薄葉材に塗布する方法が好ましく用いられる。
塗布の方法としては、例えば、上記水溶性ポリマーを水に溶解した後、さらに上記粒子を分散し、その分散体を片面に塗布するか、あるいはその分散体中にアラミド薄葉材を含浸した後、一対のロール間などの任意の隙間を通すことにより、表面を均一化しかつ上記分散体の付着量を調整し、水を乾燥により除去する方法などが挙げられ。その際、片面に塗布後、さらに反対側の面に塗布し、付着量を調整し、水を乾燥により除去してもよいし、上記塗布、含浸、均一化を任意の順に複数回繰り返した後、水を乾燥により除去してもよい。また、上記塗布、含浸、均一化、乾燥を任意の順に複数回繰り返した後、水を乾燥により除去してもよい。
中でも上記水溶性ポリマーと上記粒子を水に分散させた分散体を片面に塗布後、一対のロール間を通し、乾燥する方法が経済性の観点から好ましく用いられる。
また、塗布する上記水溶性ポリマーと上記粒子の合計の量は、アラミド薄葉材に対して、重量比で2〜100%、特に10〜50%の範囲内が好ましい。また、上記水溶性ポリマーの上記粒子に対する割合は重量比で(水溶性ポリマー)/(粒子)=0.5〜50%の範囲内が好ましい。合計の量が100%を超えると、上記塗布の際、上記水溶性ポリマーと上記粒子の層がひび割れを発生する可能性がある。また、上記水溶性ポリマーの上記粒子に対する重量比が50%を超えると、薄葉材の電解液保持状態での電解質・イオン透過性を妨げる可能性がある。
本発明の薄葉材は、一般に5〜200μm、特に7〜50μmの範囲内の厚さを有していることが好ましい。5μmよりも厚みが小さい場合、機械特性が低下しセパレータとしての形態保持や製造工程での搬送等取り扱いに問題を生じやすく、逆に200μmを上回る場合、電気伝導度の低下を招きやすいし、なにより小型高性能の電気・電子部品を製造し難くなる。
さらに、薄葉材は、一般に5〜100g/m2、特に5〜25g/m2の範囲内の坪量を有することができる。坪量が5g/m2より小さい場合、機械強度が不足するため、電解質含浸処理や巻き取りなどの部品製造工程での各種取り扱いで破断を引き起こしやすく、逆に100g/m2より大きい坪量の薄葉材では、厚みの増大や、電解質の含浸・浸透の低下が生じる傾向がみられる。
薄葉材の密度は坪量/厚さより算出される値であり、通常0.1〜1.2g/m3、特に0.2〜1.0g/m3の範囲内の値をとることができる。
【0018】
[透気度]
本発明の熱処理前の上記薄葉材は、100秒未満のガーレー透気度を有することが好ましいが、熱処理前の薄葉材の透気度が100秒以上であると、ドライの状態で150℃以上の温度で加熱した場合に、上記水溶性ポリマーが含水状態で流動した場合、膜状に薄葉材の孔を塞ぎ、イオン透過性を妨げる可能性がある。
【0019】
[薄葉材のドライの状態での150℃以上の温度での熱処理]
上記薄葉材をドライの状態で150℃以上の温度で熱処理(乾燥)することにより、高い平衡水分率で水分を含む上記アラミド薄葉材の水分、上記水溶性ポリマーの水分、及び上記粒子に含まれる水分を除去することができる。上記熱処理は、上記薄葉材のみの状態で実施することができ、あるいは電極シートなど他の部材と組み合わせた後に実施することもできるが、熱処理実施後は、有機高分子物質が再び吸水しないように、可能であればドライ状態を維持し、速やかに電解液を注入することが好ましい。
熱処理は、例えば、真空乾燥機を使用し、真空度20mmHg以下、好ましくは10mmHg以下の雰囲気で、又は加熱乾燥炉に絶乾状態の不活性ガス、例えば窒素、アルゴンなどを導入しながら、150℃以上の温度で熱処理することにより行うことができる。
かくして得られる熱処理後の薄葉材は、一般に100ppm以下、特に20ppm以下の水分含有率を有することが望ましい。
その結果、熱処理後の上記薄葉材を導電部材間の隔離板として使用した場合、水分が電解液中に抽出されず、電解液の劣化も抑制され、電気電子部品の長寿命化を期待することができ、例えば、非水電解液電池の寿命を大幅に長くすることが可能である。
かくして、本発明に係る熱処理後の上記薄葉材は、非水系電気電子部品用セパレータとして有利に使用することができる。
【0020】
[ドライ状態]
本発明において、ドライの状態とは、周囲雰囲気中に実質的に水分が存在しない状態、より具体的には気体中の水の体積分率が2%未満の状態でかつ陰圧の状態、例えば、真空度20mmHg以下、好ましくは10mmHg以下の真空状態が挙げられる。
【0021】
[電気電子部品]
本発明の熱処理後の上記薄葉材を導電部材間の隔離板として使用した電気電子部品は、300℃以下において融点を有しない粒子とアラミドに基づく高温形状安定化機能を兼ね備えている。したがって、本発明の熱処理後の上記薄葉材は、例えば、陽極、陰極、電解液及び隔離板から構成される非水系電気化学電池、特にリチウム2次電池の隔離板として好適に使用することができる。このような電池は、従来の携帯電話、パーソナルコンピューターなどの電気機器電池用途のみならず、電気自動車のような大型機器のエネルギー貯蔵/発生装置としても応用することができる。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0022】
[測定方法]
(1)シートの坪量、厚みの測定
JIS C2111に準じて実施した。
(2)ガーレー透気度
JIS P8117に規定されたガーレー透気度測定器を使用し、外径28.6mmの円孔を有する締め付け板により押さえられたシート試料(面積642mm2)を100cc(0.1dm3)の空気が通過する時間(秒)を測定した。
(3)多孔度
空孔容積/薄葉材容積×100(%)
但し、空孔容積=含水重量−絶乾重量
含水重量とは、薄葉材を10分間水に浸した後の重量。
絶乾重量とは、薄葉材を真空度15mmHg以下の真空状態で24時間乾燥した後の重量。
(4)引張強度の測定
テンシロン引張試験機を幅15mm、チャック間隔50mm、引張速度50mm/minで実施した。
(5)薄葉材の水分含有量の測定
ドライ状態で熱処理後、露点−60℃のドライルーム内で重量を測定することにより以下の式より求めた。
(熱処理後のサンプルの重量−サンプルの絶乾重量)/熱処理後のサンプルの重量×1000000(ppm)
(6)電気伝導度の測定
セパレータを直径20mmの円に切り出し、2枚のSUS電極に挟み、60kHzでの交流インピーダンスから算出した。このとき、測定温度は25℃とした。測定には電解液として1M ホウフッ化リチウム エチレンカーボネート/プロピレンカーボネート(1/1重量比)を用いた。
【0023】
[原料調製]
アラミド短繊維として、短繊維繊度0.8のデニールメタアラミド繊維(帝人テクノプロダクツ社製、テイジンコーネックス(登録商標))を、長さ5mmに切断し、また、フィブリル化したアラミドとして、トワロンパルプ(帝人アラミド社製、トワロン(登録商標))を比表面積14m2/g、濾水度85mlに調製し、抄紙用原料とした。
【0024】
(アラミド薄葉材の製造)
調製したアラミド短繊維及びフィブリル化されたアラミドをおのおの水中に分散しスラリーを作製した。このスラリーを、アラミド短繊維及びフィブリル化されたアラミドが表1に示す配合比率となるようにして混合し、タッピー式手抄き機(断面積325cm2)で処理してシート状物を作製した。次いで、これを金属製カレンダーロールにより温度330℃、線圧300kg/cmで熱圧加工し、アラミド薄葉材を得た。その平衡水分率は3.8%であった。
このようにして得られたアラミド薄葉材の主要特性値を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
(実施例1及び2並びに比較例1及び2:水溶性ポリマーと300℃以下において融点を有しない粒子よりなる層と、水溶性ポリマーとアラミド薄葉材よりなる層とが接触した状態で存在する薄葉材の製造)
水溶性ポリマーとして、エーテル化度0.90〜0.96のカルボキシメチルセルロースナトリウム「セロゲン(登録商標)EP」(第一工業製薬(株)製)、エーテル化度0.65〜0.75のカルボキシメチルセルロースナトリウム「セロゲン(登録商標)BSH6」(第一工業製薬(株)製)の固形分濃度をそれぞれ0.2%に調整したものを使用し、それに、平均一次粒子径が30nmの二酸化ケイ素粒子「AEROSIL(登録商標)50」(日本アエロジル(株)製)を混合し、攪拌後、ドクターブレード法にて上記アラミド薄葉材に塗布し、60℃で4時間乾燥した。
このようにして得られた薄葉材(比較例1及び2)の主要特性値及びドライ状態で熱処理した、すなわち、真空乾燥機を使用し、真空度3mmHgの雰囲気で熱処理したとき(実施例1及び2)の主要特性値を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
また、上記実施例1及び2並びに比較例1及び2の薄葉材を300℃で45分間熱処理したが、薄葉材自体の変形、収縮は観測されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ポリマーと300℃以下において融点を有しない粒子よりなる層と、水溶性ポリマーとアラミド薄葉材よりなる層とが接触した状態で存在する薄葉材を、ドライの状態で150℃以上の温度で熱処理してなる非水系電気電子部品用セパレータ。
【請求項2】
該アラミド薄葉材がアラミド短繊維を含む請求項1に記載の非水系電気電子部品用セパレータ。
【請求項3】
150℃以上の温度で熱処理した後の該薄葉材の水分含有量が100ppm以下である請求項1または2に記載の非水系電気電子部品用セパレータ。
【請求項4】
150℃以上の温度で熱処理する前の該薄葉材の透気度が100秒未満である請求項1〜3のいずれかに記載の非水系電気電子部品用セパレータ。
【請求項5】
該水溶性ポリマーがカルボキシメチルセルロースナトリウムである請求項1〜4のいずれかに記載の非水系電気電子部品用セパレータ。
【請求項6】
該カルボキシメチルセルロースナトリウムのエーテル化度が0.9以上である請求項5に記載の非水系電気電子部品用セパレータ。
【請求項7】
陽極、陰極、電解液及び隔離板から構成される非水系電気化学電池であって、該隔離板として、請求項1〜6のいずれかに記載の非水系電気電子部品用セパレータを用いたことを特徴とする非水系電気化学電池。

【公開番号】特開2011−258463(P2011−258463A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133159(P2010−133159)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(596001379)デュポン帝人アドバンスドペーパー株式会社 (26)
【Fターム(参考)】