説明

非水系電解質、これを含む蓄電デバイスおよび非水系電解質の製造方法

【課題】イオン伝導性に優れた固形状の電解液を提供する。
【解決手段】本発明に係る非水系電解質は、蓄電デバイスに用いられる非水系電解質において、上記非水系電解質は、非水系電解液および高分子を含むゲルであり、上記高分子は、キトサンまたはキチンを含むものである。上記非水系電解質は高分子を含むゲルである。したがって、固形状電解質のメリットである薄層化の容易性および揮発性の低減による難燃性を備えている。また、上記非水系電解質は、キトサンまたはキチンを高分子として含んでいるため、電荷の移動に優れている。よって、イオン伝導性の高い非水系電解質を提供することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質、これを含む蓄電デバイスおよび非水系電解質の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機器、電気自動車に搭載される電気二重層キャパシタ、リチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスが開発されている。これらの蓄電デバイスは、充放電可能であり、大電流での充放電が可能である。特に電気二重層キャパシタは、充放電によって電極が劣化し難く、充放電サイクルに優れるため、各種の電源に用いられている。
【0003】
電気二重層キャパシタに含まれる電解質には、水系および非水系の両者があり、電気二重層キャパシタの用途に応じて選択されている。両者を比較すると、非水系電解質の方がエネルギー密度および温度特性(特に低温での温度特性)に優れ、より実用に供されている。
【0004】
非水系電解質の問題点として、揮発し易く、可燃し易い点が挙げられる。したがって電気二重層キャパシタが高温で作動した場合や、ショートが生じた場合には、電解液及び電解液の分解生成物に起因するセルの膨張、引火の問題がある。この問題を緩和する方策として電解質の難燃化がある。難燃化には、難燃性であり、かつ高イオン伝導性を有するイオン液体の使用が挙げられ、一部は実用化されている。例えば、特許文献1に記載の所定の4級アンモニウムを含むイオン液体とを含む高分子電解質用組成物が挙げられる。また、特許文献2に記載のイオン液体として環状の4級アンモニウム塩のみからなる蓄電デバイス用電解液が挙げられる。
【0005】
しかしながら、上記イオン液体は液体であるがゆえに漏液の問題が残る。
【0006】
そこで、上記難燃化に加えるべき方策として、非水系電解質の固形化が挙げられる。非水系電解質の固形化により、電解質の揮発を抑制し、安全性を向上することが可能である。また、蓄電デバイスをシート化し、低温特性を付与することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2004/027789号パンフレット(2004年4月1日公開)
【特許文献2】特許第4420244号(2009年12月11日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の固形の電解質にはイオン伝導性が低いという問題がある。電解質を固形化すると、一般的に電解質中での電荷の移動が妨げられるためである。特に高出力密度を必要とする電気二重層キャパシタ用の電解質の場合には、実用に要する出力密度を達成することができない。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、イオン伝導性に優れた固形状の電解質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の非水系電解質は、上記課題を解決するために、蓄電デバイスに用いられる非水系電解質において、上記非水系電解質は、非水系電解液および高分子を含むゲルであり、上記高分子は、キトサンまたはキチンを含むことを特徴としている。
【0011】
上記非水系電解質は高分子を含むゲルである。したがって、固形状電解質のメリットである薄層化の容易性および揮発性の低減による難燃性を備えている。また、上記非水系電解質は、キトサンまたはキチンを高分子として含んでいるため、電荷の移動に優れている。よって、イオン伝導性の高い非水系電解質を提供することが可能である。
【0012】
また、本発明の非水系電解質では、上記非水系電解液が、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートまたはN,N-ジメチル-N-メチル-N-(メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロボレートであることが好ましい。
【0013】
上記非水系電解質は入手し易く、当該電解質を蓄電デバイスに備えた場合には、電解液の有する電気的特性の低下が蓄電デバイスにおいてより抑制される。
【0014】
また、本発明の非水系電解質では、非水系電解質に対する非水系電解液の含有率が50重量%以上、95重量%以下であることが好ましい。
【0015】
上記非水系電解質は高分子を含んでいるため、非水系電解液の含有率を上記範囲にて低減することができる。非水系電解液は高価であることが通常であるため、本発明の非水系電解質は、低コストでの製造が可能である。
【0016】
また、本発明の蓄電デバイスは、正極、負極および上記非水系電解質を含むものである。
【0017】
上記非水系電解質を含む上記蓄電デバイスは薄層化が容易であり、電解質の難燃性も達成されている。また、イオン伝導性に優れる非水系電解質の適用により、出力特性にも優れるものである。
【0018】
本発明の非水系電解質の製造方法は、上記課題を解決するために、蓄電デバイスに用いられる非水系電解質の製造方法において、キトサンの酢酸水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を添加してキトサンゲルを調製し、上記キトサンゲルを成膜してゲル膜を形成し、上記ゲル膜を洗浄した後、ゲル膜をアルコールに含浸し、アルコールを含浸したゲル膜に非水系電解液を含浸させて、非水系電解液および高分子を含み、ゲル状である非水系電解質を得ることを特徴としている。
【0019】
上記製造方法によれば、高分子を含むゲルである非水系電解質を製造することができる。上記非水系電解質は、固形状電解質のメリットである薄層化の容易性および揮発性の低減による難燃性を備えている。また、上記非水系電解質は、キトサンを高分子として含んでいるため、電荷の移動に優れている。よって、イオン伝導性の高い非水系固体電解質を製造することが可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の非水系電解質は、非水系電解液および高分子を含むゲルであり、上記高分子は、キトサンまたはキチンを含むものである。
【0021】
それゆえ、上記非水系電解質は高分子を含むゲルである。したがって、固形状電解質のメリットである薄層化の容易性および揮発性の低減による難燃性を備えている。また、上記非水系電解質は、キトサンまたはキチンを高分子として含んでいるため、電荷の移動に優れている。よって、イオン伝導性の高い非水系電解質を提供することができるという効果を奏する。
【0022】
また、本発明の非水系電解質は、以上のように、キトサンの酢酸水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を添加してキトサンゲルを調製し、上記キトサンゲルを成膜してゲル膜を形成し、上記ゲル膜を洗浄した後、ゲル膜をアルコールに含浸し、アルコールを含浸したゲル膜に非水系電解液を含浸させて、非水系電解液および高分子を含み、ゲル状である非水系固体電解質を得る方法である。
【0023】
それゆえ、高分子を含むゲルである非水系固体電解質を製造することができる。上記非水系電解質は、固形状電解質のメリットである薄層化の容易性および揮発性の低減による難燃性を備えている。また、上記非水系電解質は、キトサンを高分子として含んでいるため、電荷の移動に優れている。よって、イオン伝導性の高い非水系電解質を製造することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1,2および比較例1の電気二重層キャパシタに関するレート特性を示すグラフである。
【図2】実施例1および比較例1の電気二重層キャパシタに関する初期応答電流を示すグラフである。
【図3】実施例1,2および比較例1の電気二重層キャパシタに関する充放電特性を示すグラフである。
【図4】実施例3および比較例2の電気二重層キャパシタに関する充放電特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明に係る非水系電解質は、非水系電解液および高分子を含むゲルである。上記非水系電解液は、アニオンとカチオンとを含み、常温(20℃)で液体状の塩であり、非水系イオン液体ということもできる。前記非水系電解液としては、特に限定されるものではない。以下、アニオンおよびカチオンを列挙する。
【0026】
非水系電解液のアニオンとしては、例えば、BF、NO、PF、SbF、CHCHOSO、CHCO、(FSO[ビス(フルオロスルフォニル)イミドアニオン]、又はフルオロアルキル基含有アニオン等が挙げられる。
【0027】
また、前記フルオロアルキル基含有アニオンとしては、例えば、CFCO、パーフルオロアルキルスルホニル基含有アニオン等が挙げられる。
【0028】
また、前記パーフルオロアルキルスルホニル基含有アニオンとしては、例えば、CFSO、(CFSO[ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド]、(CFSO等が挙げられる。
【0029】
上記イオン液体のカチオンとしては、例えば、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、テトラアルキルアンモニウム、ピラゾリウム、又はホスホニウム等が挙げられる。
【0030】
前記イミダゾリウムとしては、例えば、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−アリル−3−メチルイミダゾリウム、1−アリル−3−エチルイミダゾリウム、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウム、1,3−ジアリルイミダゾリウム等が挙げられる。
【0031】
また、前記ピリジニウムとしては、例えば、1−プロピルピリジニウム、1−ブチルピリジニウム、1−エチル−3−(ヒドロキシメチル)ピリジニウム、1−エチル−3−メチルピリジニウム等が挙げられる。
【0032】
前記ピロリジニウムとしては、例えば、N−メチル−N−プロピルピロリジニウム、N−メチル−N−ブチルピロリジニウム、N−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウム等が挙げられる。
【0033】
また、前記ピペリジニウムとしては、例えば、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム等が挙げられる。
【0034】
また、前記テトラアルキルアンモニウムとしては、例えば、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウム、メチルトリオクチルアンモニウム等が挙げられる。
【0035】
また、前記ピラゾリウムとしては、例えば、1−エチル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム、1−プロピル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム、1−ブチル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム等が挙げられる。
【0036】
前記非水系電解液としては、これら各種アニオンの少なくとも1種とこれら各種カチオンの少なくとも1種とを組み合わせたものを採用することができる。なかでも、蓄電デバイスにおける電気的特性がより優れたものとなりつつ該電気的特性の低下が抑制されるという点および入手し易く電解液の有する電気的特性の低下が蓄電デバイスにおいてより抑制されるという点では、テトラフルオロボレート(BF)アニオンを含む水系電解液が好ましい。具体的な化合物としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、N,N-ジメチル-N-メチル-N-(メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロボレートなどが挙げられる。
【0037】
また、大気中での取り扱いが容易という点では、パーフルオロアルキルスルホニル基含有アニオンを含むイオン液体が好ましく、(FSO[ビス(フルオロスルフォニル)イミドアニオン]を含むイオン液体がより好ましい。
【0038】
また、前記非水系電解液としては、比較的低粘度であり、イオン伝導性に優れ、電気化学的な安定性に優れるという点で、イミダゾリウムカチオン又はピロリジニウムカチオンを含むイオン液体が好ましい。
【0039】
具体的には、前記非水系電解液としては、アニオンとしてのビス(フルオロスルフォニル)イミドアニオン又はテトラフルオロボレートと、カチオンとしてのイミダゾリウムとの塩が好ましく、より具体的には、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(フルオロスルフォニル)イミド、又は、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレートが好ましい。なお、前記イオン液体は、単独又は2種以上が組み合わされて用いられ得る。
【0040】
前記非水系電解液が非水系電解質に含まれる量としては、特に限定されるものではない。しかしながら、非水系電解質の蓄電デバイスにおける電気的特性をより十分なものにし得るという点で、非水系電解質に対する非水系電解液の含有率は、30重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましい。また、前記非水系電解液が電解質に含まれる量は、通常、電解質中に95重量%以下である。したがって、非水系電解質に対する非水系電解液の含有率は、30重量%以上、95重量%以下とすることができ、より好ましくは、50重量%以上、95重量%以下とすることができる。
【0041】
また、非水系電解液は高価であることが通常であるため、高分子を含み、非水系電解液の含有率を低減できる本発明の非水系電解質は、低コストでの製造が可能である。上記高分子はキトサンまたはキチンを含んでおり、安価な天然高分子である。このため、本発明の非水系電解質を安価で製造可能である。さらに、キトサンまたはキチンはカニ、エビ、イカ、貝などを原料とすることができ、資源が枯渇するおそれもない。
【0042】
上記非水系電解質に含まれる高分子は、キトサンまたはキチンを含んでいる。キトサンはキチンから合成され、N−アミノ−D−グルコサミンがβ(1−4)結合した分子構造およびN−アセチル−D−グルコサミンがβ(1−4)結合した分子構造を含んでいる。本明細書では、キトサンは下記式1で表わされる脱アセチル化度が50%以上であるものとする。また、本発明では、キチンは、式1で表わされる脱アセチル化度が50%未満であるものとする。非水系電解質の製造過程において、上記高分子を溶媒に対して容易に溶解させ、また成形の観点から、上記脱アセチル化度が40%以上50%未満のキチン、または、50%以上100%以下のキトサンを用いることが好ましく、55%以上、100%以下のキトサンを用いることがより好ましい。
【0043】
脱アセチル化度(%)=(高分子中のN−アミノ−D−グルコサミンの割合/高分子中のN−アセチル−D−グルコサミンの割合)×100 ・・・(式1)
キトサンおよびキチンの分子量は特に限定されないが、0.5%酢酸溶液、摂氏20℃におけるB型粘度計が示す粘度が20mP・s以上、200mP・s以下に相当する分子量であることが好ましく、40mP・s以上、90mP・s以下に相当する分子量であることがより好ましい。上記の範囲であることにより、ゲル構造をより容易に形成することができる。
【0044】
キトサンは、アミノ基がイオン化していない遊離の状態(−NH)であってもよいし、窒素に陰イオンを有する塩の状態であってもよい。陰イオンは、非水系電解液に含まれる陰イオンと同じであればかまわない。
【0045】
上記高分子中においてキトサンまたはキチンは主成分として含まれる。「主成分として含まれる」とは、具体的には、高分子中のキトサンまたはキチンの含有率が50%以上、100%以下であることを意味する。また、高分子中のキトサンまたはキチンの含有率は、好ましくは80%以上、100%以下であり、より好ましくは90%以上、100%以下であり、特に好ましくは95%以上、100%以下である。最も好ましくは100%である。なお、キトサンの原料であるキチンの由来は特に限定されず、カニ、エビ、イカ、貝などを原料とすることができる。
【0046】
非水系電解質に対する高分子の含有率は、5重量%以上、70重量%以下であることが好ましく、5重量%以上、50重量%以下であることがより好ましい。5重量%未満であると非水系電解質を形成し難くなり、70重量%を超えると非水系電解液の含有率が低下し、イオン伝導性が低下する。
【0047】
なお、非水系電解液には、上記非水系電解液および高分子以外に添加剤が含まれていてもよい。添加剤が含まれることにより、電気二重層キャパシタの電気的特性をより向上させることが可能である。添加剤としては、例えば、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジメチルエーテル等が挙げられる。
【0048】
次に、高分子としてキトサンを用いた場合の本発明に係る非水系電解質の製造方法を説明する。本製造方法では、始めにキトサンを酢酸水溶液に溶解させてキトサンの酢酸水溶液を調製する。酢酸水溶液にキトサンを好適に溶解する観点から、酢酸水溶液におけるキトサンの濃度は、1重量%以上、2重量%であることが好ましく、酢酸水溶液における酢酸濃度は、0.5重量%以上、5重量%以下であることが好ましい。
【0049】
その後、キトサンの酢酸水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を添加することにより、キトサンゲルを調製する。キトサンの架橋を好適な条件で行う観点から、水酸化ナトリウム水溶液の水酸化ナトリウム濃度は、1重量%以上、10重量%であり、キトサンに対する水酸化ナトリウムの重量比は、1:135〜1:200であることが好ましい。
【0050】
さらに、キトサンゲルを成膜してゲル膜を形成する。成膜はバーコーター、スピンコートなどを用いて行うことができる。続いて、ゲル膜を洗浄する。洗浄には、水、アルコールなどを用いることができる。
【0051】
その後、洗浄したゲル膜をアルコールに含浸することにより、ゲル膜を脱水する。アルコールとしては、メタノール、エタノール等を用いればよい。アルコールへの含浸は常温(例えば、20℃)あるいは常温以上の加熱条件下で行えばよく、減圧条件下で行う必要はない。概して、アルコールへの含浸時間は、30分以上、90分以下である。
【0052】
そして、アルコールを含有したゲル膜を非水系電解液に含浸させて非水系電解質を得る。含浸を効率良く行うため、減圧条件下にて含浸することが好ましい。含浸時の圧力条件は、10−2Pa以上、10ー1Pa以下にて含浸を行うことができる。また、必要に応じて含浸時の温度条件を、常温以上、100℃以下とすればよい。
【0053】
本発明に係る非水系電解質は、ホスト高分子としてキトサンまたはキチンを含むものである。従来、固形化(ゲル化)された電解質では、電荷の移動が妨げられ、イオン伝導性が低下する問題があった。しかし、本発明の非水系電解質はイオン伝導性が低下しないどころか、電解液のみの場合と比較してイオン伝導性が向上するという驚くべき性能を有する。この要因は、N−アセチル−D−グルコサミンの窒素原子のプラスチャージが関連していると推測されるが、明らかとなっていない。
【0054】
本発明の非水系電解質はゲルであり、固形であるため、電解液の揮発を抑制でき、難燃性を向上できる上に、セルの膨張、引火および漏電が生じ難い。そして、非水系電解質をシート化し、低温特性の向上が可能であるというメリットも享受できる。
【0055】
なお、ホスト高分子には、上記のようにイオン伝導性は当然であるが、溶媒への溶解性、成膜性、非水系電解液とのゲル形成性など製造過程での性能も要求される。このような性能を満たす高分子を選定することは非常に困難であり、高分子をキチンまたはキトサンとすることは、本発明者らの鋭意検討により初めて見出されたものである。
【0056】
本発明の非水系電解質は、蓄電デバイス用の非水系電解質として様々な用途において使用することができる。具体的には、上記非水系電解質は、電気二重層キャパシタにおける電解質、リチウムイオン電池や色素増感型太陽電池などの電池における電解質等の用途で使用することができる。なかでも、前記電解質は、イオン伝導性に優れ、炭素材料との親和性に優れるという点で、電気二重層キャパシタ用電解質として好適に使用される。電気二重層キャパシタの構成を以下に説明する。
【0057】
本発明に係る電気二重層キャパシタは、正極、負極および非水系電解質を含むものである。正極および負極に関しては、従来公知のものが使用可能である。例えば、活性炭、カーボンブラック、グラファイト、膨張黒鉛、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン、ケッチェンブラックなどの炭素質材料を導電剤として含む正極および負極を挙げることができる。また、分極性電極、バインダー(結着剤)、導電助剤および集電極を含む正極および負極を用いてもよい。正極および負極の形状は特に限定されるものではなく、繊維状、柱状等を採用できる。正極および負極は比表面積が大きい方が好ましい。
【0058】
従来の電気二重層キャパシタでは、電解質がセパレーターにて区切られている。一方、本発明の非水系電解質はゲルであるため、非水系電解質により正極と負極との短絡を防止することができる。よって、セパレーターが不要あり、構造が簡略化されている点で優れている。
【0059】
また、本発明の非水系電解質はゲルであるため、薄層化された電気二重層キャパシタを容易に構成することができる。例えば、電気二重層キャパシタを薄層のシート型、コイン型、巻回型、積層型、コイン型等として容易に形成することができる。また、薄層化により電気二重層キャパシタ中のセルの積層密度を高めることもできる。
【0060】
電気二重層キャパシタの電気的特性としては、充放電特性、レート特性および電気応答特性が挙げられる。これらの特性を測定することで、電気二重層キャパシタの性能を検証することができる。各特性の測定方法については実施例にて後述する。
【0061】
本発明の蓄電デバイスの用途としては、電気自動車、蓄電池、携帯機器などが挙げられる。特に、携帯電話機器、ノート型パソコンなどの携帯機器では電源の薄層化が特に要求されるため、本発明は有益である。
【0062】
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0063】
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。また、実施例および比較例にて作製した電気二重層キャパシタの各特性は以下のように測定した。
【0064】
〔レート特性〕
電極に活性炭繊維布(ACC‐507‐15・日本カイノール)を用いて、作製した電気二重層キャパシタに0〜100mA cm−2の電流密度を印加した際の、放電容量を測定した。
【0065】
〔初期応答電流(クロノアンペロメトリー)〕
作製した電気二重層キャパシタに対して1Vの電圧を30分間印加した後、電圧を1.5Vに変更し(0秒)、1.5Vの電圧の印加を100秒間、保持した。
【0066】
〔充放電特性〕
電極に活性炭繊維布(ACC‐507‐15・日本カイノール社製)を用いて、作製した電気二重層キャパシタに所定の電流を印加し、印加時間に対する電圧を測定した。
【0067】
(実施例1)
以下の手法により、本発明に係る電気二重層キャパシタを作製した。まず、酢酸濃度が2重量%の酢酸水溶液100mlに、2gのキトサン粉末(FH80・甲陽ケミカル株式会社)を溶解させて、キトサン濃度が2重量%のキトサンの酢酸水溶液を得た。
【0068】
次に、キトサンの酢酸水溶液に10重量%の水酸化ナトリウム(和光純薬工業株式会社)を10ml添加し、キトサンゲルを得た。このキトサンゲルをバーコーターにより成膜してゲル膜とし、このゲル膜を蒸留水により洗浄した後、ゲル膜をエタノールに60分間含浸した。そして、エタノールを含有したゲル膜を1−エチル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート(以下、EMImBFと表記する)に含浸し、10−2Paの減圧条件下、70℃で48時間乾燥することにより、EMImBFを含むゲル状の非水系電解質を得た。
【0069】
正極および負極として活性炭繊維布(直径10φ、ACC‐507‐15、日本カイノール)を用い、両活性炭繊維布で上記非水系電解質を挟み、さらに、集電体(白金板)にて両活性炭繊維布を挟んだ後、フッ素樹脂製フレームで集電体を固定し、電気二重層キャパシタを作製した。
【0070】
(実施例2)
酢酸水溶液に溶解させるキトサン粉末を1.5gとし、キトサン濃度が1.5重量%のキトサンの酢酸水溶液を用いた以外は、実施例1と同様の手法にて電気二重層キャパシタを作製した。
【0071】
(実施例3)
EMImBFをN,N-ジメチル-N-メチル-N-(メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロボレート(以下、DEMEBFと表記する)に変更した以外は、実施例2と同様の手法にて電気二重層キャパシタを作製した。
【0072】
(比較例1)
電解質としてイオン液体であるEMImBFのみを用い、セパレーターとしてグラスファイバー(GB100R、アドバンテック東洋株式会社)を用いた以外は、実施例1と同一の正極、負極、集電体およびフッ素樹脂製フレームを用いて電気二重層キャパシタを作製した。
【0073】
(比較例2)
電解質としてイオン液体であるDEMEBFのみを用い、セパレーターとしてグラスファイバー(GB100R、アドバンテック東洋株式会社)を用いた以外は、実施例1と同一の正極、負極、集電体およびフッ素樹脂製フレームを用いて電気二重層キャパシタを作製した。
【0074】
まず、実施例1,2の電気二重層キャパシタに対してレート特性を測定した。図1は実施例1,2の電気二重層キャパシタに関するレート特性を示すグラフである。図1に示されているように、キトサン濃度が増加するにつれて、放電容量が増加していることが分かる。0〜20mA cm−2の範囲では、各放電容量の差は比較的小さいものの、実施例1,2の放電容量は、比較例1の放電容量よりも傾きが小さい。このため、電流密度が100mA cm−2では、実施例1,2での放電容量は、比較例1の放電容量よりも約36F・g−1大きな値となっている。このように、本発明に係る電気二重層キャパシタは、高い電流密度にてその優位性を発揮する。
【0075】
次に、実施例1および比較例1の電気二重層キャパシタに対して初期応答電流(クロノアンペロメトリー)を測定した。図2は実施例1および比較例1の電気二重層キャパシタに関する初期応答電流を示すグラフである。図2に示すように、電圧を1.5Vに変更した時点(0秒)において、実施例1の電気二重層キャパシタでは電流の応答が観測された。一方、比較例では、0秒の時点では殆ど電流の応答が観測されず、0秒以降、電流の立ち上がりが観測されている。
【0076】
このように、実施例1の電気二重層キャパシタでは、初期応答電流に優れており、急速な充放電が可能である。すなわち、本発明の電気二重層キャパシタはイオン伝導性に優れていることが明白である。
【0077】
さらに、実施例1,2および比較例1の電気二重層キャパシタに対して充放電特性を測定した。図3は、実施例1,2および比較例1の電気二重層キャパシタに関する充放電特性を示すグラフである。電気二重層キャパシタに印加した電流は、図3(a)では10mA cm−2であり、図3(b)では100mA cm−2である。
【0078】
図3(a)では、実施例1,2のグラフがほぼ重なっており、同様の結果が示されている。両結果共、比較例1に比して長時間の充放電が可能であることがわかる。一方、図3(b)でも実施例1,2の結果は、実施例1よりも長時間の充放電が可能であることがわかる。図3(b)では、比較例1の充放電時間よりも実施例1,2の充放電時間の方が、約1.5倍以上となっており、上記結果から、高電流密度である場合に抵抗がより低減されていることがわかる。
【0079】
最後に、実施例3の電気二重層キャパシタに対して、充放電特性を測定した。図4は、実施例3および比較例2の電気二重層キャパシタに関する充放電特性を示すグラフである。非水系電解液としてイミダゾリウム系のEMImBFに代えて、DEMEBFを用いた場合であっても、充放電特性に優れる結果が得られた。このように、本発明に係る電気二重層キャパシタは、非水系電解液を変更した場合であっても同様の効果を奏することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明に係る非水系電解質は、電気二重層キャパシタにおける電解質、リチウムイオン電池や色素増感型太陽電池などの電池における電解質として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスに用いられる非水系電解質において、
上記非水系電解質は、非水系電解液および高分子を含むゲルであり、
上記高分子は、キトサンまたはキチンを含むことを特徴とする非水系電解質。
【請求項2】
上記非水系電解液が、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートまたはN,N-ジメチル-N-メチル-N-(メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロボレートであることを特徴とする請求項1に記載の非水系電解質。
【請求項3】
非水系電解質に対する非水系電解液の含有率が50重量%以上、95重量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の非水系電解質。
【請求項4】
正極、負極および請求項1〜3の何れか1項に記載の非水系電解質を含むことを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項5】
蓄電デバイスに用いられる非水系電解質の製造方法において、
キトサンの酢酸水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を添加してキトサンゲルを調製し、
上記キトサンゲルを成膜してゲル膜を形成し、
上記ゲル膜を洗浄した後、ゲル膜をアルコールに含浸し、
アルコールを含浸したゲル膜に非水系電解液を含浸させて、非水系電解液および高分子を含み、ゲルである非水系電解質を得ることを特徴とする非水系電解質の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−99722(P2012−99722A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247557(P2010−247557)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】