説明

非水電解液およびそれを用いたリチウム電池

【課題】電池のサイクル特性、電池容量、保存特性などの電池特性に優れたリチウム二次電池を提供することができる。
【解決手段】非水溶媒に電解質が溶解されている非水電解液において、該非水電解液中に、少量のジニトリル化合物とビニレンカーボネートとを含有させた非水電解液、及びその非水電解液を使用するリチウム電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池のサイクル特性や電気容量、保存特性などの電池特性にも優れたリチウム二次電池、あるいは高エネルギー密度で、且つ自己放電率が低い一次電池を提供することができる非水電解液、およびそれを用いたリチウム電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池は小型電子機器などの駆動用電源として広く使用されている。リチウム二次電池は、主に正極、非水電解液及び負極から構成されており、特に、LiCoO2などのリチウム複合酸化物を正極とし、炭素材料又はリチウム金属を負極としたリ
チウム二次電池が好適に使用されている。そして、そのリチウム二次電池用の非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)などのカーボネート類が好適に使用されている。また、リチウム一次電池として、例えば二酸化マンガンを正極とし、負極がリチウム金属を負極とするようなリチウム一次電池が使用されており、高いエネルギー密度であることから広く使用されている。
【0003】
しかしながら、電池のサイクル特性および電気容量などの電池特性について、さらに優れた特性を有する二次電池が求められている。
正極として、例えばLiCoO2、LiMn24、LiNiO2などを用いたリチウム二次電池は、非水電解液中の溶媒が充電時に局部的に一部酸化分解することにより、該分解物が電池の望ましい電気化学的反応を阻害するために電池性能の低下を生じる。これは正極材料と非水電解液との界面における溶媒の電気化学的酸化に起因するものと思われる。
また、負極として例えば天然黒鉛や人造黒鉛などの高結晶化した炭素材料を用いたリチウム二次電池は、非水電解液中の溶媒が充電時に負極表面で還元分解し、非水電解液溶媒として一般に広く使用されているECにおいても充放電を繰り返す間に一部還元分解が起こり、電池性能の低下が起こる。
【0004】
例えば、従来、EC、PC等の高誘電率溶媒とテトラヒドロフラン(THF)等の低誘電率溶媒とからなる非水溶媒に、1,4−ジメトキシベンゼン系化合物を0.2〜10容積%含有させて、サイクル特性を向上させることが提案されている(特許文献1参照)。また、ECとジエチルカーボネート(DEC)とにプロピオン酸エチルを含有させてサイクル特性を向上させることについて提案されている(特許文献2参照)。しかし、いずれの特許文献の場合でも、サイクル特性、電気容量、保存特性などの電池特性の面では未だ十分ではなく、更なる開発が行われているのが現状である。
【0005】
さらに、ドナー数が14〜20の高活性溶媒とドナー数が10以下の低活性溶媒とを使用するリチウム二次電池について提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、特許文献3に記載されているように、高容量化のために高結晶化黒鉛を用いた場合には、サイクル特性の劣化が認められるため、負極材料として格子面(002)の面間隔(d002
)が0.3365nm(ナノメータ)以上の炭素質材料からなる負極を使用する必要があり、高容量化のための課題となっている。また、特許文献3には、ドナー数が14〜20の高活性溶媒として、環状炭酸エステル、環状エステル、鎖状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル、ニトリル類を用いたとき良好な結果が得られる旨記載され、高活性溶媒として種々の化合物が例示されている。その中にグルタロニトリルを使用することが開示されているが、使用量が多く、本発明者らの検討ではグルタロニトリルの使用量が多く高結晶化黒鉛を負極に用いた場合にはサイクル特性が低下する。
【0006】
このため、種々の検討が行われているが、電池のサイクル特性および電気容量などの電
池特性は必ずしも満足ではないというのが現状である。
さらに、一次電池についても、高温保存時の自己放電を抑制し、保存特性を向上させることが求められており、また、伝導度を向上させ、高エネルギー密度の非水電解液を用いたリチウム電池の提供が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−289062号公報
【特許文献2】特開平5−74487号公報
【特許文献3】特開平9−161845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記のようなリチウム二次電池又はリチウム一次電池用非水電解液に関する課題を解決し、電池のサイクル特性に優れ、さらに電気容量や充電状態での保存特性、伝導度などの電池特性にも優れたリチウム電池を構成することができるリチウム電池用の非水電解液、およびそれを用いたリチウム電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、非水溶媒に電解質が溶解されている非水電解液であって、該非水電解液中がさらにニトリル化合物とS=O基含有化合物とを含有していることを特徴とするリチウム電池用非水電解液(発明イ)にある。
本発明はまた、非水溶媒に電解質が溶解されている非水電解液であって、該非水電解液中が、さらにジニトリル化合物を0.001乃至10重量%含有していることを特徴とするリチウム電池用非水電解液(発明ロ)にもある。
本発明はさらに、正極、格子面(002)の面間隔(d002)が0.34nm以下であ
る黒鉛型結晶構造を有する炭素質材料からなる負極、そして上記の本発明の非水電解液からなるリチウム電池(発明ハ)にもある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電池のサイクル特性、電池容量、保存特性などの電池特性に優れたリチウム二次電池を提供することができ、また、放電容量、自己放電率に優れたリチウム一次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の好ましい態様を次に列記する。
(1)発明イにおいて、該ニトリル化合物がモノニトリル化合物である。
(2)発明イにおいて、該モノニトリル化合物が、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、ヘキサンニトリル、オクタンニトリル、ウンデカンニトリル、デカンニトリル、シクロヘキサンカルボニトリル、ベンゾニトリル、もしくはフェニルアセトニトリルである。
(3)発明イにおいて、該ニトリル化合物がジニトリル化合物である。
【0012】
(4)発明イおよび発明ロにおいて、該ジニトリル化合物が、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,5−ジシアノペンタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,7−ジシアノヘプタン、1,8−ジシアノオクタン、1,9−ジシアノノナン、1,10−ジシアノデカン、1,12−ジシアノドデカン、テトラメチルスクシノニトリル、2−メチルグルタロニトリル、2,4−ジメチルグルタロニトリル、2,2,4,4−テトラメチルグルタロニトリル、1,4−ジシアノペンタン、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジカルボニトリル、2,6−ジシアノヘプタン、2,7−ジシアノオクタン、2
,8−ジシアノノナン、1,6−ジシアノデカン、1,2−ジシアノベンゼン、1,3−ジシアノベンゼン、もしくは1,4−ジシアノベンゼンである。
【0013】
(5)発明イにおいて、該S=O基含有化合物が、ジメチルサルファイト、ジエチルサルファイト、エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、ビニレンサルファイト、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、メチルエチルスルホン、ジビニルスルホン、スルフォラン、スルフォレン、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、メタンスルホン酸プロパルギル、ベンゼンスルホン酸メチル、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、エチレングリコール硫酸エステル、1,2−プロパンジオール硫酸エステルである。
(6)発明イにおいて、該ニトリル化合物が非水電解液に0.001乃至10重量%、好ましくは0.01乃至5重量%、更に好ましくは0.01乃至3重量%、特に好ましくは0.01乃至2重量%含まれている。
【0014】
(7)発明イにおいて、該S=O基含有化合物が非水電解液に4重量%以下の量にて含まれている。
(8)発明イにおいて、該ニトリル化合物と該S=O基含有化合物とが、1:99乃至99:1の重量比にて含まれている。
(9)発明イおよび発明ロにおいて、非水溶媒が、環状カーボネート、環状エステル、鎖状カーボネートおよびエーテルからなる群より選ばれる化合物を少なくとも一種含んでいる。
(10)発明イおよび発明ロにおいて、非水溶媒が、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを1:9乃至9:1の体積比にて含んでいる。
(11)発明イおよび発明ロにおいて、非水溶媒が、環状カーボネートとエーテルとを1:9乃至9:1の体積比にて含んでいる。
(12)発明イおよび発明ロにおいて、非水溶媒が、環状カーボネートと環状エステルとを1:99乃至99:1(好ましくは、1:9〜9:1、さらに好ましくは1:4〜1:1)の体積比にて含んでいる。
【0015】
本発明イは、非水溶媒に電解質が溶解されている非水電解液であって、該非水電解液中にさらにニトリル化合物とS=O基含有化合物とを含有していることを特徴とするリチウム電池用非水電解液にある。
非水溶媒は、環状カーボネートと鎖状カーボネートを主成分とすることが好ましい。その場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの容積比が1:9〜9:1であることが好ましい。
また、非水溶媒が環状カーボネートおよび/または環状エステルとを主成分とすることも好ましい。その場合、環状カーボネートだけ、環状エステルだけの単一の場合はそれぞれ100%であるが、環状カーボネートおよび環状エステルとを組み合わせる場合の容積比は、1:99〜99:1であることが好ましく、更に好ましくは1:9〜9:1、最も好ましくは1:4〜1:1である。
また、非水溶媒が環状カーボネートとエーテル類とを主成分とするリチウム一次電池も好ましい。その場合、環状カーボネートとエーテル類との容積比が1:9〜9:1であることが好ましく、更に好ましくは1:4〜1:1である。
【0016】
本発明の非水電解液は、リチウム二次電池またはリチウム一次電池の構成部材として使用される。リチウム二次電池またはリチウム一次電池を構成する非水電解液以外の構成部材については特に限定されず、従来使用されている種々の構成部材を使用できる。
【0017】
本発明イでは、非水電解液に、ニトリル化合物とS=O基含有化合物とを添加することを特徴とする。ニトリル化合物は、モノニトリル化合物であっても、ジニトリル化合物で
あってもよい。
【0018】
モノニトリル化合物の例としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、ヘキサンニトリル、オクタンニトリル、ウンデカンニトリル、デカンニトリル、シクロヘキサンカルボニトリル、ベンゾニトリル、もしくはフェニルアセトニトリルを挙げることができ、これらは、一種で、もしくは2種以上併用して用いることができる。
【0019】
ジニトリル化合物において、ジニトリル化合物のメチレン鎖は1〜12であることが好ましく、直鎖状、分枝状のいずれであっても良い。ジニトリル化合物の具体例としては、例えば、直鎖状のジニトリル化合物として、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,5−ジシアノペンタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,7−ジシアノヘプタン、1,8−ジシアノオクタン、1,9−ジシアノノナン、1,10−ジシアノデカン、1,12−ジシアノドデカンなどが挙げられる。また、分枝状のジニトリル化合物として、テトラメチルスクシノニトリル、2−メチルグルタロニトリル、2,4−ジメチルグルタロニトリル、2,2,4,4−テトラメチルグルタロニトリル、1,4−ジシアノペンタン、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジカルボニトリル、2,6−ジシアノヘプタン、2,7−ジシアノオクタン、2,8−ジシアノノナン、1,6−ジシアノデカンなどが挙げられる。ジニトリル化合物は、芳香族系であっても良い。芳香族系のジニトリル化合物として、例えば、1,2−ジシアノベンゼン、1,3−ジシアノベンゼン、1,4−ジシアノベンゼンなどが挙げられる。これらは、一種で、もしくは2種以上併用して用いることができる。また、モノニトリル化合物とジニトリル化合物を併用してもよい。
【0020】
なお、ニトリル化合物として、ジニトリル化合物を用いる場合には、その添加量を10重量%以下として用いて、S=O基含有化合物と併用せずに使用することも好ましい(発明ロ)。
すなわち、S=O基含有化合物と併用しない場合には、非水電解液中に含有されるジニトリル化合物の含有量は、過度に多いと電池性能が低下することがあり、また、過度に少ないと期待した十分な電池性能が得られない。したがって、そのジニトリル化合物の含有量は、0.001〜10重量%、好ましくは0.01〜5重量%、更に好ましくは0.01〜3重量%、特に好ましくは0.01〜2重量%とするのがよい。
ジニトリル化合物の添加は、従来の電池缶や電極などの金属部分の腐食を低減する効果がある。
【0021】
腐食の低減された金属部分の表面には、電解液へのジニトリル化合物の添加により、金属表面に腐食を抑制する保護被膜が形成されたと推察される。ただし、ニトリル化合物(モノニトリル化合物及び/又はジニトリル化合物)の添加とともに、S=O結合を含有する化合物(S=O基含有化合物、好ましくは、4重量%以下)を添加すると、腐食防止効果は特に顕著となる。
【0022】
非水溶媒に電解質が溶解されている非水電解液に含有される前記S=O結合を有する化合物としては、環状であっても鎖状であってもよく、例えば、ジメチルサルファイト、ジエチルサルファイト、エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、ビニレンサルファイトなどのようなサルファイト類;ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、メチルエチルスルホン、ジビニルスルホン、スルフォラン、スルフォレンなどのようなスルホン類;メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、メタンスルホン酸プロパルギル、ベンゼンスルホン酸メチル、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトンなどのスルホン酸エステル類;硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、エチレングリコール硫酸エステル、1,2−プロパンジオール硫酸エステルなどの硫酸エステル類が挙げられる。
【0023】
非水電解液中に含有されるS=O結合を有する化合物の含有量は、過度に多いとサイクル特性が低下する。したがって、S=O結合を有する化合物の含有量は、4重量%以下が好ましく、特に0.2〜3重量%とするとサイクル特性が良好であり好ましい。
【0024】
本発明では、非水溶媒が環状カーボネート、環状エステル、鎖状カーボネートおよびエーテル類のうちの少なくとも一種を主成分とすることが好ましい。
【0025】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)などが好適に挙げられる。環状エステルとしては、例えばγ−ブチロラクトン(GBL)などのラクトン類が好適に挙げられる。鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、ジブチルカーボネート(DBC)が好適に挙げられる。また、エーテル類としては、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン(2−MeTHF)、1,4−ジオキサン(1,4−DOX)等の環状エーテル類、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,2−ジエトキシエタン(DEE)、1,2−ジブトキシエタン(DBE)等の鎖状エーテル類が好適に挙げられる。これらの非水溶媒の組み合わせについては、特に限定されず、1種類で使用してもよく、また2種類以上組み合わせて使用してもよい。さらに前記以外の非水溶媒として、プロピオン酸メチル、ピバリン酸エチル、ピバリン酸ブチル、ピバリン酸ヘキシル、ピバリン酸オクチル、ピバリン酸ドデシルなどのエステル類を適宜含有させることができる。
【0026】
リチウム二次電池やリチウム一次電池として、非水溶媒が使用される場合、種々の具体例を挙げることができる。例えば、前記EC、PC、γ−ブチロラクトン等を単独で、また、EC、PC、VC等の環状カーボネートと、DMC、MEC、DEC、DPC、DBC等の鎖状カーボネート、γ−ブチロラクトンのような環状エステル、あるいはDME、DEEのようなエーテル類とを組み合わせて使用することも好ましい。
【0027】
非水溶媒が環状カーボネートと鎖状カーボネートとを主成分とする場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの容積比(環状カーボネート:鎖状カーボネート)が1:9〜9:1であることが好ましく、更に好ましくは1:4〜1:1である。
また、本発明において、非水溶媒が環状カーボネートと環状エステルとを主成分とする場合、環状カーボネートと環状エステルとの容積比(環状カーボネート類:環状エステル)が1:99〜99:1であることが好ましく、更に好ましくは1:9〜9:1、最も好ましくは1:4〜1:1である。
また、本発明において、非水溶媒が環状カーボネートとエーテル類とを主成分とする場合、環状カーボネートとエーテル類との容積比(環状カーボネート:エーテル類)が1:9〜9:1であることが好ましく、更に好ましくは1:4〜1:1である。
【0028】
本発明で使用される電解質塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4
、LiOSO2CF3、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiC(SO2CF33、LiPF4(CF32、LiPF3(C253、LiPF3(CF33、LiPF3(iso−C373、LiPF5(iso−C37)、LiBF3(C25)などが挙げられる。これらの電解質塩は、1種類で使用してもよく、2種類以上組み合わせて使用してもよい。これら電解質塩は、前記の非水溶媒に通常0.1〜3M、好ましくは0.5〜1.5Mの濃度で溶解されて使用される。
【0029】
本発明の非水電解液は、例えば、前記の環状カーボネート類や鎖状カーボネート類を混合し、これに前記の電解質塩を溶解し、ジニトリル化合物を溶解することにより得られる

【0030】
リチウム二次電池用正極としては、リチウム複合酸化物を含む材料が使用される。例えば、正極材料(正極活物質)としてはコバルト、マンガン、ニッケル、クロム、鉄およびバナジウムからなる群より選ばれる少なくとも一種類の金属とリチウムとの複合金属酸化物が使用される。このような複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO2、LiMn24、LiNiO2などが挙げられ、コバルトとマンガンを混合したリチウムとの複合金属酸化物、コバルトとニッケルを混合したリチウムとの複合金属酸化物、マンガンとニッケルを混合したリチウムとの複合金属酸化物でも良い。
【0031】
また、リチウム一次電池用正極としては、CuO、Cu2O、Ag2O、Ag2CrO4、CuS、CuSO4、TiO2、TiS2、SiO2、SnO、V25、V612、VOx、Nb25、Bi23、Bi2Pb25,Sb23、CrO3、Cr23、MoO3、WO3、SeO2、MnO2、Mn23、Fe23、FeO、Fe34、Ni23、NiO、CoO3
、CoOなどの、一種もしくは二種以上の金属元素の酸化物あるいはカルコゲン化合物、SO2、SOCl2などの硫黄化合物、一般式(CFxnで表されるフッ化炭素などが挙げられる。中でも、MnO2、V25、フッ化炭素などが好ましい。
【0032】
リチウム二次電池用正極は、前記の正極材料をアセチレンブラック、カーボンブラックなどの導電剤およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)などの結着剤と混練して正極合剤とした後、この正極材料を集電体としてのアルミニウムやステンレス製の箔やラス板に塗布して、乾燥、加圧成型後、50℃〜250℃程度の温度で2時間程度真空下に加熱処理することにより作製される。
【0033】
リチウム二次電池用負極活物質としては、リチウムを吸蔵、放出可能な黒鉛型結晶構造を有する炭素材料〔熱分解炭素類、コークス類、グラファイト類(人造黒鉛、天然黒鉛など)、有機高分子化合物燃焼体、炭素繊維〕が使用される。特に、高容量を有するリチウム二次電池を実現するためには、高結晶化度の黒鉛を使用するのが良く、特に格子面(002)の面間隔(d002)が0.34nm(ナノメータ)以下、特に0.336nm(ナ
ノメータ)以下である黒鉛型結晶構造を有する炭素材料を使用するのが良い。なお、炭素材料のような粉末材料はエチレンプロピレンジエンターポリマー(EPDM)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)などの結着剤と混練して負極合剤として使用される。また、リチウム一次電池用負極用活物質としては、リチウム金属、あるいはリチウム合金が使用される。
【0034】
リチウム二次電池の構造は特に限定されるものではなく、正極、負極および単層又は複層のセパレータを有するコイン型電池、さらに、正極、負極およびロール状のセパレータを有する円筒型電池や角型電池などが一例として挙げられる。なお、セパレータとしては公知のポリオレフィンの微多孔膜、織布、不織布などが使用される。また、リチウム一次電池の構造は特に限定されず、前記正極、負極が使用でき、セパレータとしては公知のポリオレフィンの微多孔膜、織布、不織布などが使用される。
【実施例】
【0035】
次に、実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0036】
[実施例A−1]
〔非水電解液の調製〕
エチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(MEC)とを容積比3:7で混合した非水溶媒に、LiPF6を1Mの濃度になるように溶解して非水電解液を調
製した後、さらにアジポニトリルを非水電解液に対して0.01重量%添加した。
【0037】
〔リチウム二次電池の作製および電池特性の測定〕
LiCoO2(正極活物質)を90重量%、アセチレンブラック(導電剤)を5重量%
、ポリフッ化ビニリデン(結着剤)を5重量%の割合で混合し、これに1−メチル−2−ピロリドン溶剤を適量加えて混合したものをアルミニウム箔上に塗布し、乾燥、加圧成型、加熱処理して正極を調製した。
次に、天然黒鉛(負極活物質;d002=0.3354nm)を90重量%、ポリフッ化
ビニリデン(結着剤)を10重量%の割合で混合し、これに1−メチル−2−ピロリドン溶剤を適量加え、混合したものを銅箔上に塗布し、乾燥、加圧成型、加熱処理して負極を調製した。
そして、ポリプロピレン微多孔性フィルムのセパレータを用い、上記の非水電解液を注入してコイン電池(直径20mm、厚さ3.2mm)を作製した。
【0038】
このコイン電池を用いて、室温(20℃)にて、電極面積に対して0.8mAの定電流及び定電圧で終止電圧4.2Vまで5時間充電し、ついで0.8mAの定電流にて、終止電圧2.7Vまで放電し、この充放電サイクルを繰り返した。初期放電容量は、アジポニトリル無添加の1M LiPF6−EC/MEC(容積比3/7)を非水電解液として用
いた場合(比較例A−1)を1とすると1.00であり、100サイクル後の電池特性を測定したところ、初期放電容量を100%としたときの放電容量維持率は86.2%であった。コイン電池の作製条件および電池特性を表1に示す。
【0039】
[実施例A−2]
添加剤として、アジポニトリルを非水電解液に対して0.05重量%使用したほかは、実施例A−1と同様に非水電解液を調製してコイン電池を作製し、充放電サイクルを行った。初期放電容量は無添加サンプル(比較例A−1)比0.99であり、100サイクル後の放電容量維持率は87.9%であった。コイン電池の作製条件および電池特性を表1に示す。
【0040】
[実施例A−3]
添加剤として、アジポニトリルを非水電解液に対して0.1重量%使用したほかは、実施例A−1と同様に非水電解液を調整してコイン電池を作製し、充放電サイクルを行った。初期放電容量は無添加サンプル(比較例A−1)比1.01であり、100サイクル後の放電容量維持率は89.0%であった。コイン電池の作製条件および電池特性を表1に示す。
【0041】
[実施例A−4]
添加剤として、アジポニトリルを非水電解液に対して0.2重量%使用したほかは、実施例A−1と同様に非水電解液を調整してコイン電池を作製し、充放電サイクルを行った。初期放電容量は無添加サンプル(比較例A−1)比1.02であり、100サイクル後の放電容量維持率は89.2%であった。コイン電池の作製条件および電池特性を表1に示す。
【0042】
[実施例A−5]
添加剤として、アジポニトリルを非水電解液に対して0.5重量%使用したほかは、実施例A−1と同様に非水電解液を調整してコイン電池を作製し、充放電サイクルを行った
。初期放電容量は無添加サンプル(比較例A−1)比0.99であり、100サイクル後の放電容量維持率は88.8%であった。コイン電池の作製条件および電池特性を表1に示す。
【0043】
[実施例A−6]
添加剤として、アジポニトリルを非水電解液に対して1重量%使用したほかは、実施例A−1と同様に非水電解液を調整してコイン電池を作製し、充放電サイクルを行った。初期放電容量は無添加サンプル(比較例A−1)比0.98であり、100サイクル後の放電容量維持率は85.6%であった。コイン電池の作製条件および電池特性を表1に示す。
【0044】
[比較例A−1]
エチレンカーボネート(EC)、メチルエチルカーボネート(MEC)を容積比3:7で混合した溶媒に、LiPF6を1Mの濃度になるように溶解して非水電解液を調製した
。このときジニトリル化合物は全く添加しなかった。この非水電解液を使用して実施例A−1と同様にコイン電池を作製し、電池特性を測定した。初期放電容量に対し、100サイクル後の放電容量維持率は82.6%であった。コイン電池の電池特性を表1に示す。
【0045】
[比較例A−2]
添加剤として、アジポニトリルを非水電解液に対して13重量%使用したほかは、実施例A−1と同様に非水電解液を調整してコイン電池を作製し、充放電サイクルを行った。初期放電容量は無添加サンプル(比較例A−1)比0.95であり、100サイクル後の放電容量維持率は72.3%であった。コイン電池の作製条件および電池特性を表1に示す。
【0046】
[実施例A−7]
添加剤として、グルタロニトリルを非水電解液に対して0.2重量%使用したほかは、実施例A−1と同様に非水電解液を調整してコイン電池を作製し、充放電サイクルを行った。初期放電容量は無添加サンプル(比較例A−1)比1.00であり、100サイクル後の放電容量維持率は88.9%であった。コイン電池の作製条件および電池特性を表1に示す。
【0047】
[比較例A−3]
特開平9−161845号の実施例6の記載に基づき非水電解液を調製した。すなわちグルタロニトリルとジメチルカーボネートとを容積比19:81で混合した溶媒に、LiPF6を1Mの濃度になるように溶解して非水電解液を調製した。この非水電解液を用い
たほかは、実施例A−1と同様にコイン電池を作製し、充放電サイクルを行った。初期放電容量は無添加サンプル(比較例A−1)比1.01であり、100サイクル後の放電容量維持率は64.7%であった。コイン電池の作製条件および電池特性を表1に示す。
【0048】
[比較例A−4]
添加剤として、プロピオニトリルを非水電解液に対して0.2重量%使用したほかは、実施例A−1と同様に非水電解液を調整してコイン電池を作製し、充放電サイクルを行った。初期放電容量は無添加サンプル(比較例A−1)比0.96であり、100サイクル後の放電容量維持率は82.4%であった。コイン電池の作製条件および電池特性を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
[実施例A−8]
エチレンカーボネート(EC)、γ−ブチロラクトン(GBL)を容積比3:7で混合した溶媒に、LiBF4を1.5Mの濃度になるように溶解し、更にセパレータの濡れ性
改善材としてピバリン酸−n−ブチルを5重量%加えて非水電解液を調製した。添加剤として、アジポニトリルを非水電解液に対して0.2重量%添加した非水電解液を用いて、実施例A−1と同様にコイン電池を作製し、充放電サイクルを行った。初期放電容量は無添加サンプル(比較例A−1)比0.96であり、100サイクル後の放電容量維持率は70.1%であった。コイン電池の作製条件および電池特性を表2に示す。
【0051】
[実施例A−9]
γ−ブチロラクトン(GBL)に、LiBF4を1.5Mの濃度になるように溶解し、
更にセパレータの濡れ性改善材としてピバリン酸−n−ブチルを5重量%加えて非水電解液を調製した。添加剤として、アジポニトリルを非水電解液に対して0.2重量%添加した非水電解液を用いて、実施例A−1と同様にコイン電池を作製し、充放電サイクルを行った。初期放電容量は無添加サンプル(比較例A−1)比0.98であり、100サイクル後の放電容量維持率は67.3%であった。コイン電池の作製条件および電池特性を表2に示す。
【0052】
[比較例A−5]
エチレンカーボネート(EC)、γ−ブチロラクトン(GBL)を容積比3:7で混合した溶媒に、LiBF4を1.5Mの濃度になるように溶解し、更にセパレータの濡れ性
改善材としてピバリン酸−n−ブチルを5重量%加えて非水電解液を調製した。このときジニトリル化合物は全く添加しなかった。この非水電解液を用いて、実施例A−1と同様にコイン電池を作製し、充放電サイクルを行った。初期放電容量は無添加サンプル(比較例A−1)比0.97であり、100サイクル後の放電容量維持率は61.4%であった。コイン電池の作製条件および電池特性を表2に示す。
【0053】
[比較例A−6]
GBLに、LiBF4を1.5Mの濃度になるように溶解し、更にセパレータの濡れ性
改善材としてピバリン酸−n−ブチルを5重量%加えて非水電解液を調製した。このときジニトリル化合物は全く添加しなかった。この非水電解液を用いて、実施例A−1と同様にコイン電池を作製し、充放電サイクルを行った。初期放電容量は無添加サンプル(比較
例A−1)比1.00であり、100サイクル後の放電容量維持率は59.5%であった。コイン電池の作製条件および電池特性を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
測定後の実施例A−4及び比較例A−1のコイン電池を分解して電池ケースの内側表面を観察した。実施例A−4の電池ケースは組み立て前の光沢を保っており、表面の変化は認められなかった。一方比較例A−1の電池ケースは電池組み立て前の光沢が失われていた。顕微鏡観察したところ、表面の侵食痕が観察された。
【0056】
実施例A−1〜6及び比較例A−1,2の結果より、本発明の添加剤を添加した電解液を用いることにより、長期充放電サイクルにおいて無添加と比較して、初期充電を損なわずに容量維持率が向上している。また過剰な添加はかえって電池特性を悪化させる。
【0057】
比較例A−3の結果より、特開平9−161845号公報の実施例6記載のように、d002=0.3365nm以上の結晶性の低いグラファイト負極にはジニトリル化合物を主
溶媒として用いることが出来るが、容量の大きい結晶性の高いグラファイトを用いる場合は、かえって容量維持率を悪化させる。黒鉛化度の高いグラファイトにジニトリル化合物を用いる際には、実施例A−7のように少量添加が好ましいことが分かる。
【0058】
また比較例A−4のようなモノニトリル化合物の添加では、容量維持率の向上には効果がない。
【0059】
一方、実施例A−8と比較例A−5の比較から、本発明のジニトリル化合物が、環状カーボネート溶媒と鎖状カーボネート溶媒の組み合わせからなる非水電解液のみでなく、環状カーボネート溶媒と環状エステル溶媒の組み合わせからなる非水電解液においても、同様に効果を有する事が分かる。
【0060】
また実施例A−9と比較例A−6の比較から、本発明のジニトリル化合物の効果は、環状エステル溶媒単独の非水電解液においても、同様であることが分かる。
【0061】
更にサイクル後電池ケース内側の観察結果から、本発明の添加剤が電池内部金属部品の腐食抑止に効果があることが分かる。この効果は電池ケースのみでなく、正負極集電体金属にも及ぶものと推察される。
【0062】
以上の効果の原因として、本発明の添加剤が正負極集電体金属および電池ケースに保護被膜を形成し、集電体の侵食による正負極活物質、集電体間の導通性の劣化を抑止し、高いサイクル容量維持率を達成したものと推察される。
【0063】
なお、本発明は記載の実施例に限定されず、発明の趣旨から容易に類推可能な様々な組み合わせが可能である。特に、上記実施例の溶媒の組み合わせは限定されるものではない。更には、上記実施例はコイン電池に関するものであるが、本発明は円筒形、角柱形の電池にも適用される。
【0064】
次に、一次電池についての実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。[実施例B−1]
〔非水電解液の調製〕
プロピレンカーボネート(PC)、1,2−ジメトキシエタン(DME)を容積比1:1で混合した非水溶媒に、LiOSO2CF3を1.0Mの濃度になるように溶解して非水電解液を調製した後、さらにアジポニトリルを非水電解液に対して0.2重量%添加した。
【0065】
〔リチウム一次電池の作製および電池特性の測定〕
二酸化マンガン(正極活物質)を85重量%、アセチレンブラック(導電剤)を10重量%、ポリフッ化ビニリデン(結着剤)を5重量%の割合で混合し、これに1−メチル−2−ピロリドンを溶媒として適量加え、正極合剤を作製した。これをアルミニウム箔に塗布し、乾燥、加圧成形、加熱処理して正極を調製した。
【0066】
負極として0.2mm厚のリチウム金属箔を円形に打ち抜き、負極集電体に圧着したものを使用した。ポリプロピレン製微多孔性フィルムのセパレータを使用し、上記非水電解液を注入してコイン型電池(直径20mm、厚さ3.2mm)を作製した。
【0067】
このコイン電池を用いて容量試験及び高温保存試験を行った。容量試験は室温(20℃)にて電極面積に対して0.5mAの定電流で3.5Vまで充電し、ついで1.0mAの定電流にて終始電圧2.4Vまで放電して、放電容量を測定した。
【0068】
高温保存試験は、室温(20℃)にて電極面積に対して0.5mAの定電流で3.5Vまで充電した後、恒温槽にて60℃の温度下で20日間保持した。ついで1.0mAの定電流にて終始電圧2.4Vまで放電して、放電容量を測定した。この放電容量と上記容量試験で求めた放電容量から高温保存中の自己放電率を算出した。
【0069】
容量試験の結果、アジポニトリルを添加しない1.0M LiOSO2CF3 PC/DME(容積比1/1)を非水電解液として用いた場合の放電容量を1とすると放電容量は1.04であった。また高温保存試験における自己放電率は6.2%であった。更に高温保存試験後の電池を分解したところ、電池ケース内側表面は組み立て前の光沢を保っており、表面の変化は認められなかった。コイン電池の作製条件および電池特性を表3に示す。
【0070】
[比較例B−1]
PC、DMEを容積比1:1で混合した溶媒に、1.0M LiOSO2CF3 の濃度になるように溶解して非水電解液とした。このとき添加剤は全く添加しなかった。この非水電解液を使用して実施例B−1と同様にコイン電池を作製し、容量試験及び高温保存試験を行った。高温保存試験における自己放電率は10.5%であった。また高温保存試験後の電池ケース内側表面は電池組み立て前の光沢が失われていた。顕微鏡観察したところ、表面の侵食痕が観察された。コイン電池の作製条件および電池特性を表3に示す。
【0071】
[比較例B−2]
添加剤として、アジポニトリルを非水電解液に対して13重量%使用したほかは、実施例B−1と同様に非水電解液を調整してコイン電池を作製し、容量試験及び高温保存試験
を行った。放電容量は無添加サンプル(比較例B−1)比0.92であり、高温保存試験における自己放電率は22.8%であった。また高温保存試験後の電池ケース内側表面は組み立て前の光沢を保っており、表面の変化は認められなかった。コイン電池の作製条件および電池特性を表3に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
実施例B−1及び比較例B−1,2の結果より、本発明の添加剤を添加した電解液を用いることにより、放電容量、自己放電率ともに無添加と比較して向上している。また過剰な添加はかえって電池特性を悪化させる結果となる。
【0074】
[実施例C−1]
エチレンカーボネート(EC)、ビニレンカーボネート(VC)、メチルエチルカーボネート(MEC)を容積比28:2:70で混合した溶媒に、LiPF6を1Mの濃度に
なるように溶解して非水電解液を調製した後、さらに、1,4−ジシアノベンゼン2重量%、およびエチレンサルファイト2重量%添加した。この非水電解液を使用して実施例A−1と同様にコイン電池を作製し、電池特性を測定した。初期放電容量は、無添加サンプル(比較例C−1)比1.00であり、100サイクル後の放電容量維持率は88.9%であった。コイン電池の電池特性を表4に示す。
さらに100サイクル後のコイン電池を分解して電池ケース内側表面を観察したところ、電池ケースは組み立て前の光沢を保っており、表面の変化は認められなかった。
【0075】
[比較例C−1]
エチレンカーボネート(EC)、ビニレンカーボネート(VC)、メチルエチルカーボネート(MEC)を容積比28:2:70で混合した溶媒に、LiPF6を1Mの濃度に
なるように溶解して非水電解液を調製した。このときニトリル化合物等は全く添加しなかった。この非水電解液を使用して実施例C−1と同様にコイン電池を作製し、電池特性を測定した。初期放電容量に対し、100サイクル後の放電容量維持率は83.7%であった。コイン電池の電池特性を表4に示す。
さらに100サイクル後のコイン電池を分解して電池ケース内側表面を観察したところ、電池ケースは組み立て前の光沢が失われていた。顕微鏡観察したところ、表面の侵食痕が観察された。
【0076】
[実施例C−2]
1,4−ジシアノベンゼンに代えてアジポニトリルを非水電解液に対して2重量%使用したほかは、実施例C−1と同様に非水電解液を調製してコイン電池を作製し、充放電サイクルを行った。初期放電容量は比較例C−1と比較して、1.00であり、100サイクル後の放電容量維持率は90.2%であった。コイン電池の作製条件および電池特性を表4に示す。
さらに100サイクル後のコイン電池を分解して電池ケース内側表面を観察したところ、電池ケースは組み立て前の光沢を保っており、表面の変化は認められなかった。
【0077】
[実施例C−3]
電解質塩として、LiPF6を0.9M、およびLiN(SO2CF32を0.1Mとなるように溶解したほかは、実施例C−2と同様に非水電解液を調整してコイン電池を作製し、充放電サイクルを行った。初期放電容量に対し、100サイクル後の放電容量維持率は89.4%であった。コイン電池の電池特性を表4に示す。
さらに100サイクル後のコイン電池を分解して電池ケース内側表面を観察したところ、電池ケースは組み立て前の光沢を保っており、表面の変化は認められなかった。
【0078】
[実施例C−4]
電解質塩として、LiPF6を0.9M、およびLiBF4を0.1Mとなるように溶解したほかは、実施例C−3と同様に非水電解液を調整してコイン電池を作製し、充放電サイクルを行った。初期放電容量に対し、100サイクル後の放電容量維持率は89.7%であった。コイン電池の電池特性を表4に示す。
さらに100サイクル後のコイン電池を分解して電池ケース内側表面を観察したところ、電池ケースは組み立て前の光沢を保っており、表面の変化は認められなかった。
【0079】
[実施例C−5]
エチレンサルファイトに代えて1,3−プロパンスルトンを非水電解液に対して2重量%使用したほかは、実施例C−2と同様に非水電解液を調整してコイン電池を作製し、充放電サイクルを行った。初期放電容量は比較例C−1と比較して、1.00であり、100サイクル後の放電容量維持率は89.8%であった。コイン電池の作製条件および電池特性を表4に示す。
さらに100サイクル後のコイン電池を分解して電池ケース内側表面を観察したところ、電池ケースは組み立て前の光沢を保っており、表面の変化は認められなかった。
【0080】
[実施例C−6]
エチレンサルファイトに代えてジビニルスルホンを非水電解液に対して0.3重量%使用したほかは、実施例C−2と同様に非水電解液を調整してコイン電池を作製し、充放電サイクルを行った。初期放電容量は比較例C−1と比較して、1.00であり、100サイクル後の放電容量維持率は89.4%であった。コイン電池の作製条件および電池特性を表4に示す。
さらに100サイクル後のコイン電池を分解して電池ケース内側表面を観察したところ、電池ケースは組み立て前の光沢を保っており、表面の変化は認められなかった。
【0081】
[実施例C−7]
エチレンサルファイトに代えてメタンスルホン酸プロパルギルを非水電解液に対して0.5重量%使用したほかは、実施例C−2と同様に非水電解液を調整してコイン電池を作製し、充放電サイクルを行った。初期放電容量は比較例C−1と比較して、1.00であり、100サイクル後の放電容量維持率は89.3%であった。コイン電池の作製条件および電池特性を表4に示す。
さらに100サイクル後のコイン電池を文化して電池ケース内側表面を観察したところ、電池ケースは組み立て前の光沢を保っており、表面の変化は認められなかった。
【0082】
[実施例C−8]
アジポニトリルに代えてプロピオニトリルを非水電解液に対して2重量%使用したほかは、実施例C−2と同様に非水電解液を調整してコイン電池を作製し、充放電サイクルを行った。初期放電容量は比較例C−1と比較して、1.00であり、100サイクル後の放電容量維持率は88.2%であった。コイン電池の作製条件および電池特性を表4に示す。
さらに100サイクル後のコイン電池を文化して電池ケース内側表面を観察したところ
、電池ケースは組み立て前の光沢を保っており、表面の変化は認められなかった。
【0083】
[比較例C−2]
1,4−ジシアノベンゼンを添加せず、エチレンサルファイトを非水電解液に対して2重量%使用したほかは、実施例C−2と同様に非水電解液を調整してコイン電池を作製し、充放電サイクルを行った。初期放電容量は比較例C−1と比較して、1.00であり、100サイクル後の放電容量維持率は84.2%であった。コイン電池の作製条件および電池特性を表4に示す。
さらに100サイクル後のコイン電池を分解して電池ケース内側表面を観察したところ、電池ケースは組み立て前の光沢が失われていた。顕微鏡観察したところ、表面の侵食痕が観察された。
【0084】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶媒に電解質が溶解されている非水電解液であって、該非水電解液中がさらにニトリル化合物とS=O基含有化合物とを含有していることを特徴とするリチウム電池用非水電解液。
【請求項2】
該ニトリル化合物がモノニトリル化合物である請求項1に記載の非水電解液。
【請求項3】
該モノニトリル化合物が、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、ヘキサンニトリル、オクタンニトリル、ウンデカンニトリル、デカンニトリル、シクロヘキサンカルボニトリル、ベンゾニトリル、もしくはフェニルアセトニトリルである請求項2に記載の非水電解液。
【請求項4】
該ニトリル化合物がジニトリル化合物である請求項1に記載の非水電解液。
【請求項5】
該ジニトリル化合物が、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,5−ジシアノペンタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,7−ジシアノヘプタン、1,8−ジシアノオクタン、1,9−ジシアノノナン、1,10−ジシアノデカン、1,12−ジシアノドデカン、テトラメチルスクシノニトリル、2−メチルグルタロニトリル、2,4−ジメチルグルタロニトリル、2,2,4,4−テトラメチルグルタロニトリル、1,4−ジシアノペンタン、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジカルボニトリル、2,6−ジシアノヘプタン、2,7−ジシアノオクタン、2,8−ジシアノノナン、1,6−ジシアノデカン、1,2−ジシアノベンゼン、1,3−ジシアノベンゼン、もしくは1,4−ジシアノベンゼンである請求項4に記載の非水電解液。
【請求項6】
該S=O基含有化合物が、ジメチルサルファイト、ジエチルサルファイト、エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、ビニレンサルファイト、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、メチルエチルスルホン、ジビニルスルホン、スルフォラン、スルフォレン、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、メタンスルホン酸プロパルギル、ベンゼンスルホン酸メチル、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、エチレングリコール硫酸エステル、1,2−プロパンジオール硫酸エステルである請求項1に記載の非水電解液。
【請求項7】
該ニトリル化合物が非水電解液に0.001乃至10重量%含まれている請求項1に記載の非水電解液。
【請求項8】
該S=O基含有化合物が非水電解液に4重量%以下の量にて含まれている請求項1に記載の非水電解液。
【請求項9】
該ニトリル化合物と該S=O基含有化合物とが、1:99乃至99:1の重量比にて含まれている請求項1に記載の非水電解液。
【請求項10】
非水溶媒が、環状カーボネート、環状エステル、鎖状カーボネートおよびエーテルからなる群より選ばれる化合物を少なくとも一種含んでいる請求項1乃至9のうちの何れかの項に記載の非水電解液。
【請求項11】
非水溶媒が、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを1:9乃至9:1の体積比にて含んでいる請求項1乃至9のうちの何れかの項に記載の非水電解液。
【請求項12】
非水溶媒が、環状カーボネートとエーテルとを1:9乃至9:1の体積比にて含んでい
る請求項1乃至9のうちの何れかの項に記載の非水電解液。
【請求項13】
非水溶媒が、環状カーボネートと環状エステルとを1:99乃至99:1の体積比にて含んでいる請求項1乃至9のうちの何れかの項に記載の非水電解液。
【請求項14】
非水溶媒に電解質が溶解されている非水電解液であって、該非水電解液中が、さらにジニトリル化合物を0.001乃至10重量%含有していることを特徴とするリチウム電池用非水電解液。
【請求項15】
該ジニトリル化合物が、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,5−ジシアノペンタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,7−ジシアノヘプタン、1,8−ジシアノオクタン、1,9−ジシアノノナン、1,10−ジシアノデカン、1,12−ジシアノドデカン、テトラメチルスクシノニトリル、2−メチルグルタロニトリル、2,4−ジメチルグルタロニトリル、2,2,4,4−テトラメチルグルタロニトリル、1,4−ジシアノペンタン、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジカルボニトリル、2,6−ジシアノヘプタン、2,7−ジシアノオクタン、2,8−ジシアノノナン、1,6−ジシアノデカン、1,2−ジシアノベンゼン、1,3−ジシアノベンゼン、もしくは1,4−ジシアノベンゼンである請求項14に記載の非水電解液。
【請求項16】
非水溶媒が、環状カーボネート、環状エステル、鎖状カーボネートおよびエーテルからなる群より選ばれる化合物を少なくとも一種含んでいる請求項14に記載の非水電解液。
【請求項17】
非水溶媒が、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを1:9乃至9:1の体積比にて含んでいる請求項14もしくは16に記載の非水電解液。
【請求項18】
非水溶媒が、環状カーボネートとエーテルとを1:9乃至9:1の体積比にて含んでいる請求項14もしくは16に記載の非水電解液。
【請求項19】
非水溶媒が、環状カーボネートと環状エステルとを1:99乃至99:1の体積比にて含んでいる請求項14に記載の非水電解液。
【請求項20】
正極、格子面(002)の面間隔(d002)が0.34nm以下である黒鉛型結晶構造
を有する炭素質材料からなる負極、そして請求項1乃至19のうちの何れか項に記載の非水電解液からなるリチウム電池。

【公開番号】特開2013−80716(P2013−80716A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−282054(P2012−282054)
【出願日】平成24年12月26日(2012.12.26)
【分割の表示】特願2009−140804(P2009−140804)の分割
【原出願日】平成15年7月15日(2003.7.15)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】