説明

非水電解液二次電池、それに用いる炭素材料および該炭素材料の前駆体

本発明は、安価な石油系重質油から得た炭素材料を用いる、高容量で、高温サイクル特性に優れた非水電解液二次電池、および前記炭素材料、ならびに該炭素材料の前駆体を提供する。 特定の石油系重質油を圧力2.0MPa以下、温度400〜600℃で3時間以上保持して炭素材料の前駆体を得、該前駆体を800〜1500℃で熱処理して得られた炭素材料、好ましくは酸化性気体を含む窒素、アルゴンまたはこれらの混合気体中で或いは大気中で、200〜1000℃でさらに酸化処理して得られた炭素材料を負極活物質として用いた非水電解液二次電池、および該非水電解液二次電池に用いるための前記炭素材料およびその前駆体が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池、それに用いる炭素材料およびその前駆体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、移動体用もしくは電力貯蔵用の電源として、エネルギー密度と出力特性の高いリチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池が注目されている。通常、このリチウムイオン二次電池は、正極に用いられる物質としてリチウム含有複合酸化物、負極に用いられる物質として炭素材料、電解液に用いられる物質としてリチウム塩を含有する各種カーボネート系溶媒から主に構成される。
【0003】
負極に用いられる炭素材料としては、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズを炭素源とする黒鉛、ピッチ系炭素繊維や気相成長炭素繊維を炭素源とする黒鉛繊維などの黒鉛材料、および難黒鉛化炭素や易黒鉛化炭素などの低温焼成炭素が例示される。このうち、携帯機器用のリチウムイオン二次電池の負極活物質としては、高容量かつ放電電位の平坦な黒鉛材料が主として使用されている。
【0004】
移動体用もしくは電力貯蔵用の電源としてリチウムイオン二次電池を用いる場合、単電池の容量は数十Ah以上必要であり、負極活物質にはより高容量が得られる材料が求められている。また、単電池の容量検知性の観点から、黒鉛材料とは異なり、負極の容量に対する放電電位の傾斜はある程度大きいほうが望ましい。さらには、特に移動体用の場合には回生充電などの必要から高出力に対応することが要求される。また、サイクル寿命は数千サイクル以上が求められる。しかも、単電池が大型化するために、充放電時にはジュール熱によって電池温度が上昇する。このため、移動体用もしくは電力貯蔵用の電源としてのリチウム二次電池には、高エネルギー密度、高出力特性、そして特に高温サイクル特性に優れることが要求される。
【0005】
これらの要求から、最適な負極活物質として、石油、石炭やエチレン反応槽残渣物等を原料とする低温焼成炭素、特に広い容量の範囲で放電電位の傾斜が大きい易黒鉛化炭素が期待されている。
【0006】
これら原料の中で、石油系重質油は安価かつ大量に入手が可能であり、ディレードコーカーなどでの熱処理により、炭素六角網面(グラフェン)が無限に広がって互いにファンデルワールス力で積層した構造、すなわちグラフェンの層状構造(以下、単にグラフェン構造ともいう)の発達したニードルコークスを安価かつ大量に製造できるメリットを有する。しかし、従来石油系ニードルコークスから得られた炭素材料を負極活物質として用いた二次電池は容量が必ずしも充分ではなかった。さらに、優れた高温サイクル特性を持つ炭素材料は見出されていない。このため、石油系ニードルコークスをリチウムイオン二次電池の負極活物質として使用することができなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明の課題は、安価な石油系重質油から得た炭素材料を、非水電解液二次電池の負極活物質として用いながら、容量が大きい前記非水電解液二次電池、特には高温、例えば45〜60℃でのサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を安定して提供することである。また、本発明は、前記非水電解液二次電池、あるいはリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いる炭素材料および該炭素材料の前駆体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、石油系重質油の種類、熱処理条件などが、得られた炭素材料を負極活物質として用いた二次電池の特性に及ぼす影響を詳細に検討した結果、その特性は石油系重質油の種類と前記炭素材料が経た熱処理条件に依存し、常圧蒸留残渣油および/または流動接触分解残渣油を原料とし、特定の条件下で熱処理した場合に、大きな容量が得られることが分かった。本発明は係る知見に基づいてなされたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、常圧蒸留残渣油および/または流動接触分解残渣油を主成分として含む原料油を、圧力2.0MPa以下、温度400〜600℃で3時間以上保持して炭素材料の前駆体を得、該前駆体を800〜1500℃で熱処理して得られた二次電池用の炭素材料である。
【0010】
さらに、本発明者らは、リチウム二次電池の負極活物質として用いる低温焼成炭素の種々の酸化処理法を系統的に検討し、酸化処理品から作製した負極の充放電後の交流インピーダンス法による界面抵抗を測定した結果、酸化処理品は未処理品に比べて活物質の界面抵抗が減少すること、さらには気相で酸化性気体を酸化剤として用いた場合は未処理品に比べて活物質の界面抵抗がさらに大きく減少することを見出した。
本発明者らは、さらに正極にコバルト酸リチウムを用いた2極式コインセルを用いて、45℃におけるサイクル特性を検討した結果、酸化処理がサイクル特性に大きく影響すること、特に酸化性気体を用いた酸化処理品は未処理品に比べてサイクル特性が優れることを見出した。
【0011】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、すなわち、本発明のリチウム二次電池用負極活物質として用いる炭素材料は、上記前駆体を800〜1500℃で熱処理した後、さらに酸化性気体で酸化処理することが好ましい。かかる酸化処理は、炭素材料を製造する熱処理工程の前および/または後に粉砕された炭素材料を、酸化性気体を含む窒素、アルゴンまたはこれらの混合気体中で或いは大気中で、200〜1000℃で熱処理することが好ましい。
【0012】
通常、石油コークスなどの炭素材料は、酸化処理により、炭素材表面にカルボニル基や水酸基などの酸素含有の官能基が形成され、形成された官能基は充放電の際に負極活物質表面に生成する電解液溶媒を反応物とする高分子化合物(高分子固体表面)と結合し、かつ強固にし、他方、形成した官能基は高抵抗であり、界面抵抗は増加すると言われている。界面抵抗の増加に伴い負極内の電子の流れが阻害され、結果としてサイクル劣化は大きくなると考えられている。ところが、本発明では、酸化処理品、特に酸化性気体による酸化処理品は未処理品に比べて界面抵抗が減少した。したがって、本発明では、実際には表面に官能基はできず、表面の抵抗成分が消失して炭素が表面に現れ、その結果、負極内の電子の流れが未処理品に比べて良好になり、サイクル特性を向上させたと推定される。
【0013】
また、本発明は、前記の炭素材料を負極活物質として用いた非水電解液二次電池である。
さらに、本発明は、常圧蒸留残渣油および/または流動接触分解残渣油を主成分として含む原料油を、圧力2.0MPa以下、温度400〜600℃で3時間以上保持して得た、二次電池用に用いる炭素材料の前駆体である。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、特定の石油系重質油から得られた炭素材料を負極材料として用いるものであるから、高容量の非水電解液二次電池、および該非水電解液二次電池に用いるための前記炭素材料およびその前駆体を安価に提供することができる。
また、本発明の酸化処理された炭素材料は、高温サイクル特性に優れるリチウム二次電池用負極活物質として最適であり、移動体用または電力貯蔵用のリチウム二次電池の高性能化に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明において、常圧蒸留残渣油および/または流動接触分解残渣油を原料として用いる。さらに、これらの水素化脱硫油を用いることが好ましい。常圧蒸留残渣油は、原油を常圧蒸留して得られる残渣油である。常圧蒸留残渣油の水素化脱硫油は、常圧蒸留残渣油を直接、水素化脱硫(直脱)して得られる残渣留分である。流動接触分解残渣油は、通常、重質軽油、減圧軽油、常圧蒸留残渣油を、流動する粉状ゼオライト触媒と430〜550℃で接触させて分解し、ガソリン留分や軽油留分を生成する流動接触分解装置から副生するスラリーオイル或いはデカンテッドオイルを指す。流動接触分解残渣油の水素化脱硫油としては、前記スラリーオイル或いはデカンテッドオイルを水素化脱硫装置で処理して得られた脱硫油が挙げられる。このほか、水素化脱硫を経た原料油、例えば、間接脱硫留出油、直脱留出油などを流動接触分解装置で処理して得られたスラリーオイル或いはデカンテッドオイルなども流動接触分解残渣油の水素化脱硫油に含まれる。
【0016】
さらに、常圧蒸留残渣油および/またはその水素化脱硫油と流動接触分解残渣油および/またはその水素化脱硫油との混合油を用いる場合、常圧蒸留残渣油および/またはその水素化脱硫油の混合比率が60容量%(vol%)以下であることが望ましく、安定したグラフェンの層状構造を得ることができる。さらに好ましくは、常圧蒸留残渣油および/またはその水素化脱硫油の混合比率が40容量%以下である。
以上の比率で混合した原料油の性状としては、芳香族炭化水素成分40〜95wt%、レジン分0.2〜25wt%、残炭0.1〜10wt%であることが望ましい。さらに好ましくは、芳香族炭化水素成分45〜95wt%、レジン分0.5〜20wt%、残炭0.2〜8wt%であることが望ましい。さらにより好ましくは、芳香族炭化水素成分50〜90wt%、レジン分1.0〜15wt%、残炭0.5〜5wt%であることが望ましい。
なお、コーキングプロセスの原料として、減圧残渣油も石油精製の分野で一般的であるが、本発明において、減圧残渣油あるいはその水素化脱硫油では、所望の二次電池用の炭素材料あるいは該炭素材料の前駆体を得ることができない。
【0017】
炭素材料の前駆体を得るために原料油は、圧力2.0MPa以下、温度400〜600℃で3時間以上保持する。この間に原料油は熱分解されて、ガスや分解ナフサおよび分解軽油などの軽質油とともに二次電池用炭素材料の前駆体であるコークスを生成する。前記の圧力、温度および保持時間の範囲を外れると、安定したグラフェンの層状構造の炭素材料を得ることができない。好ましくは、圧力0.4〜1.0MPa、温度420〜550℃で20時間以上である。
【0018】
炭素材料の前駆体を製造する為には、装置として、実験室レベルではいわゆるチューブボム、安定して大量にコークスを製造するにはディレードコーカー、両者の中間スケールとしてはディレードコーカーのベンチリアクターなど、様々な装置を用いることができる。
チューブボムは、実験室レベルでニードルコークスを製造するために用いられる一般的な装置で、例えばMochida et al.,Chemistry and Physics of Carbon,24,111(1994)に記載されている重質油の熱分解装置であり、重質油から分解ガス、分解油と比較的良質なコークス(ここでいう炭素材料の前駆体)を製造する。鉄製の缶に原料油を充填し、頭頂にガス排出ラインをつなげ、缶を熱したサンドバスに挿入して保持することによりコークスを製造する実験装置である。このチューブボムでは、ガス排出ラインの圧力計と制御弁により反応圧力を任意に設定でき、かつ反応圧力を一定に保つことができる。また、反応温度はサンドバスの設定温度、反応時間はサンドバスに挿入してから引き出すまでの時間であり、両者とも任意に設定できる。
反応時間(保持時間)が異なると、得られたコークスの特性も微妙に異なる。そこで本発明における炭素材料前駆体は3時間以上の熱履歴を受けたものを炭素材料前駆体として用いる。
【0019】
ディレードコーカーは、重質油の熱分解装置であり、重質油から分解ガス、分解油と比較的良質なコークス(ここでいう炭素材料の前駆体)を製造する。原料油は連続的に加熱炉に送られ、短時間で急速に加熱されてコークドラムの底部に供給される。断熱されたコークドラム内では適当な温度と圧力のもと、炭素化が進み液相から生成したコークスが蓄積されてドラムを満たしてゆく。分解生成物(ガスと分解油)はドラム頂部から抜き出して精留塔に送られ、分留される。塔底から抜き出された重質油は原料油とともに再び加熱炉に送られ、上記の熱処理が繰り返される。コークドラムは通常2基あり、1基がコークスで満たされると、原料油は空ドラムに切り替えて供給される。コークスで満たされ、切り離されたドラムは冷却後、蓄積したコークスは高圧水などで切り出される。
【0020】
コークドラム内でコークス(炭素材料前駆体)はドラムの底部から頂部に向かって蓄積されてゆくので、下部と上部のコークスでは熱履歴を受ける時間(保持時間)が異なり、それぞれの部位から得られたコークスの特性も微妙に異なる。そこで本発明における炭素材料前駆体は3時間以上の熱履歴を受けたものを用いる。3時間以上の熱履歴を受けた炭素材料前駆体は、コークドラムに蓄積されたコークスの量(ドラム底部からのコークスの高さ)とその量に達するまでに要した時間から特定することができる。具体的には、コークドラムに蓄積したコークスの上面から、ドラムがコークスで満たされて原料油の供給を停止した時より3時間前のコークスの高さまでのもの取り除き、それ以下ドラム底部までのコークスを切り出して炭素材料前駆体として用いる。
このようにチューブボム、あるいはディレードコーカーなどを用いて得られたコークス(炭素材料前駆体)の性状としては、揮発分2〜20wt%、乾燥ベースでの水素含有率1〜6wt%であることが望ましい。
【0021】
得られた前駆体は、雰囲気炉、シャトル炉、ロータリーキルンなどの焼成炉により800〜1500℃で数十分から数時間かけて熱処理して本発明の二次電池用の炭素材料を得ることができる。得られた炭素材料の性状としては、揮発分2wt%以下、c軸方向結晶子径5〜50Åであることが望ましい。なお、前記熱処理温度が800℃未満では、グラフェンの層状構造が微細なためリチウム吸蔵放出反応における効率が低くなり望ましくない。また1500℃を超えると、グラフェンの層状構造は発達するが格子欠陥などのリチウムイオンの吸蔵サイトが減少し、二次電池に用いたとき容量が減少する傾向が認められ好ましくない。好ましくは、800〜1300℃である。
【0022】
以上のようにして得られる炭素材料は、その製造工程において熱処理の前および/または後に粉砕し、さらに公知の方法で酸化処理することが好ましい。酸化処理は、酸化性気体雰囲気で加熱することが望ましい。酸化処理における酸化性気体雰囲気の条件は、窒素、アルゴンあるいはそれらの不活性な混合気体中に、酸化性気体を含むように調整する。酸化性気体としては、酸素、オゾン、窒素酸化物、二酸化炭素、水蒸気など、酸化性を有する気体を用いることができる。酸化性気体の濃度は3容量%以上であることが望ましい。3容量%未満では、炭素材料粉末表面での酸化反応が十分進行しない。
酸化性気体雰囲気は、窒素、アルゴンなどの不活性ガスに、酸素、オゾン、二酸化炭素などの酸化性気体を所望の酸化性気体濃度になるように加えてつくることができる。コストや環境面での配慮から、大気(空気)を窒素ガスなどの不活性ガスまたは酸素ガスなどの酸化性気体の代わりに、あるいは、酸化性気体雰囲気そのものとして用いることも可能である。
酸化処理における温度条件は、200〜1000℃であることが好ましい。処理温度が200℃未満であると、炭素材料粉末表面の酸化反応が十分進行せず、一方、1000℃を超えると炭素材料粉末の比表面積が過大となり、電池特性に悪影響を与えるので好ましくない。
【0023】
このようにして得られた炭素材料は、負極活物質として、リチウム含有複合酸化物などからなる公知の正極活物質、非水電解液と適宜組み合わせて、非水電解液二次電池に用いることができる。非水電解液や正極活物質は、リチウム二次電池に通常用いることのできるものであれば、特に制限するものではない。
また、負極は、公知の方法によって作製すればよい。例えば、上記炭素材料を粉砕して得られる粉体を結着剤と混合し、溶剤を加えてスラリー状ないしペースト状にしたものを、銅箔等の集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮形成して負極を作製することができる。
【0024】
以上のようにして得られた、いわゆる低温焼成した炭素材料を負極活物質として用いたリチウムイオン二次電池の電気化学的挙動を詳細に検討した結果、石油系重質油の種類と熱処理条件に対する容量の依存性は、低温焼成して得られた炭素材料のグラフェン構造を基本とする層状構造内部へのリチウムイオンの拡散に起因すると推定される。石炭を原料とする易黒鉛化炭素、あるいは炭素源を硝酸等の酸化剤と共に熱分解して得た難黒鉛化炭素などに比べて、石油系重質油を原料とする易黒鉛化炭素ではリチウムイオンの吸蔵サイトは少ないが、グラフェンの層状構造の配向性が高い。そのため、炭素表面から負極活物質内部へのリチウムイオンの拡散が起き易くなり、他材料に比べてリチウムイオンの吸蔵サイトに高速にリチウムイオンを吸蔵できると推定される。その結果、難黒鉛化炭素のように負極を満充電とするためにリチウムの還元電位まで負極電位を降下した後も定電圧で充電を続ける必要がなく、負極電位の降下に伴ってリチウムが吸蔵されリチウムの還元電位に達したときに満充電となる。このようなリチウムイオンの拡散を容易にするグラフェンの層状構造は、石油系重質化油のC/H比、重合度などの原料要因と熱処理条件によって支配される。
【0025】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は、係る実施例によってなんら制限されない。
【実施例1】
【0026】
チューブボムを用い、原料油として常圧蒸留残渣油と流動接触分解残渣油を60:40で混合した混合油を用い、圧力約0.5MPa、約500℃で40時間保持することにより炭素材料の前駆体を得た。該前駆体をシャトル炉にて毎分0.6℃の昇温速度で16時間昇温し、さらに毎分1.0℃の昇温速度で昇温して炉内温度を900℃とし、1時間保持したのち、自然放冷で室温まで冷却することにより炭素材料を作製した。該炭素材料をジェットミルで粉砕し、気流分級機で分級することにより、炭素材料粉末を得た。
【0027】
次に、以下の手順で負極を作製した。ポリフッ化ビニリデン粉末0.3gをN−メチル−2−ピロリドン2.7ccに溶解し、前記炭素材料粉末3.0gを加え混合することによりスラリーを得、このスラリーを銅箔上に塗布し乾燥させた(乾燥後塗布重量10mg/cm、塗布厚100μm)。これを直径12.5mmの円盤状に打ち抜き、1T/cmで10秒間プレスすることにより負極とした。
【0028】
この様にして得られた負極を、対極および参照極にリチウム金属を用い、電解液にエチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC)=1:1 1M−LiClOを用いて充放電特性を評価した。充電条件は1mA/cmの定電流で0Vの電位まで、放電条件は1mA/cm定電流で1.5Vの電位までとした。その結果を表1に示す。
【実施例2】
【0029】
原料油として常圧蒸留残渣油と流動接触分解残渣油を30:70で混合した混合油を用いた他は、実施例1と同様にして炭素材料の粉末を得、負極を作製し、充放電特性を評価した。その結果を表1に示す。
【実施例3】
【0030】
原料油として流動接触分解残渣油を用いた他は、実施例1と同様にして炭素材料の粉末を得、負極を作製し、充放電特性を評価した。その結果を表1に示す。
【実施例4】
【0031】
原料油として常圧蒸留残渣油と流動接触分解残渣油を20:80で混合した混合油を用い、炭素材料の前駆体を得る保持時間を60時間とし、その後、該前駆体の熱処理温度を1100℃とした他は、実施例1と同様にして炭素材料の粉末を得、負極を作製し、充放電特性を評価した。その結果を表1に示す。
【実施例5】
【0032】
原料油として常圧蒸留残渣油と流動接触分解残渣油を40:60で混合した混合油を用い、炭素材料前駆体を得る保持時間を20時間とし、その後該前駆体の熱処理温度を800℃とした他は、実施例1と同様にして炭素材料の粉末を得、負極を作製し、充放電特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

比較例1
【0034】
チューブボムを用い、原料油として減圧蒸留残渣油(その水素化脱硫油を含む)を用い、圧力約0.5MPa、約500℃で30時間保持することにより炭素材料の前駆体を得た。該前駆体をシャトル炉にて毎分0.6℃の昇温速度で16時間昇温し、さらに毎分1.0℃の昇温速度で昇温して炉内温度を900℃とし、1時間保持して熱処理したのち、自然放冷で室温まで冷却することにより炭素材料を作製した。該炭素材料をジェットミルで粉砕し、気流分級機で分級することにより、炭素材料粉末を得た。
【0035】
次に、以下の手順で負極を作製した。ポリフッ化ビニリデン粉末0.3gをN−メチル−2−ピロリドン2.7ccに溶解し、該炭素材料粉末3.0gを加え混合することによりスラリーを得、このスラリーを銅箔上に塗布し乾燥させた(乾燥後塗布重量10mg/cm、塗布厚100μm)。これを直径12.5mmの円盤状に打ち抜き、1T/cmで10秒間プレスすることにより負極とした。
【0036】
この様にして得られた負極を、対極および参照極にリチウム金属を用い、電解液にEC:DMC=1:1 1M−LiClOを用いて充放電特性を評価した。充電条件は1mA/cmの定電流で0Vの電位まで、放電条件は1mA/cm定電流で1.5Vの電位までとした。その結果を表1に示す。
比較例2
【0037】
原料油としてタールを用いた他は、実施例1と同様にして炭素材料の粉末を得、負極を作製し、充放電特性を評価した。その結果を表1に示す。
比較例3
【0038】
原料油として常圧蒸留残渣油と流動接触分解残渣油を30:70で混合した混合油を用い、炭素材料前駆体を得る保持時間を30時間とし、その後、該前駆体の熱処理温度を1550℃とした他は、実施例1と同様にして炭素材料の粉末を得、負極を作製し、充放電特性を評価した。その結果を表1に示す。
比較例4
【0039】
原料油として常圧蒸留残渣油と流動接触分解残渣油を30:70で混合した混合油を用い、炭素材料前駆体を得る保持時間を2時間とした他は、実施例1と同様にして炭素材料の粉末を得、負極を作製し、充放電特性を評価した。その結果を表1に示す。
【実施例6】
【0040】
チューブボムを用い、原料油として常圧蒸留残渣油と流動接触分解残渣油を60:40で混合した混合油を用い、圧力約0.5MPa、約500℃で40時間保持することにより炭素材料の前駆体を得た。該前駆体をジェットミルで粉砕し、気流分級機で分級することにより、炭素材料前駆体の粉末を得た。
該前駆体の粉末をシャトル炉にて毎分0.6℃の昇温速度で16時間昇温し、さらに毎分1.0℃の昇温速度で昇温して炉内温度を1100℃とし、1時間保持して熱処理したのち、自然放冷で室温まで冷却することにより炭素材料粉末を作製した。
得られた炭素材料粉末を酸素と窒素の混合気体の気流下(酸素20容量%、流量3L/min)、昇温速度200℃/hrで800℃に昇温し、800℃で1時間酸化処理した。酸化処理後の収率は約90%であった。
【0041】
次に、以下の手順で負極を作製した。ポリフッ化ビニリデン粉末0.3gをN−メチル−2−ピロリドン2.7ccに溶解し、該炭素材料粉末3.0gを加え混合することによりスラリーを得、このスラリーを銅箔上に塗布し乾燥させた(乾燥後塗布重量10mg/cm、塗布厚100μm)。これを直径12.5mmの円盤状に打ち抜き、1T/cmで10秒間プレスすることにより負極とした。作製された負極は、電極厚さ約30μm、電極密度1.2g/cm、活物質重量約3mg/cmであった。
【0042】
他方、コバルト酸リチウムを正極活物質、アセチレンブラックを導電材として、負極と同様な方法で正極を作製した。正極の電極厚さは約35μm、電極密度2.7g/cm、活物質重量約8mg/cmであった。
【0043】
電解液(EC:DMC=1:1 1M−LiPF)を正極と負極に含浸させ、ポリエチレン製の多孔質フィルムを両極間に挟んでコインセル(CR2032)に組み込んだ。
コインセルを25℃で、充電:約0.3mA 4.2V 10時間、放電:約0.3mA 2.5Vの条件で1サイクルさせた。その後、45℃で、充電:約2mA 4.2V 2時間、放電:約2mA 2.5Vの条件で50サイクルさせた。45℃での1サイクル目の放電容量と50サイクル目の放電容量との比(45℃サイクル特性)を求めた。その結果を表2に示す。
【実施例7】
【0044】
炭素材料前駆体粉末のシャトル炉での焼成温度を800℃とした他は、実施例6と同様にして、45℃サイクル特性を評価した。結果を表2に示す。
【実施例8】
【0045】
実施例4で得られた炭素材料粉末を、空気気流下(流量5L/min)、昇温速度200℃/hrで800℃に昇温し、800℃で1時間熱処理した。
酸化処理品を実施例6と同様に45℃サイクル特性を評価した。結果を表2に示す。
【実施例9】
【0046】
酸化処理条件を空気気流下(流量5L/min)、昇温速度200℃/hrで600℃に昇温し、600℃で1時間熱処理した他は、実施例6と同様に45℃サイクル特性を評価した。結果を表2に示す。
【実施例10】
【0047】
実施例4で得られた炭素材料前駆体を、パルベライザーを用いて平均粒径が35μmとなるように粉砕した。窒素気流下(3L/min)、昇温速度200℃/hrで1100℃に昇温し、1100℃で1時間焼成した。焼成後の収率は94%で、凝集物はほとんど認められなかった。焼成品を平均粒径が19μmになるようにジェットミルで2回目の粉砕(再粉砕)を行い、気流分級機で分級を行った。後は実施例6と同様に酸化処理を行い、45℃サイクル特性を評価した。結果を表2に示す。
比較例5
【0048】
実施例6の炭素材料粉末を用い、その酸化処理を行わなかった以外は、実施例6と全く同様な手順で炭素材料粉末を調製し、そしてリチウム二次電池を作製してそのサイクル特性を測定した。その結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、特定の石油系重質油から得られた炭素材料を負極材料として用いるものであるから、高容量の非水電解液二次電池を安価に提供することができる。しかも、特に前記炭素材料を用いたリチウム二次電池は、高温サイクル特性に優れていることから、移動体用もしくは電力貯蔵用の電源として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常圧蒸留残渣油および/または流動接触分解残渣油を主成分として含む原料油を、圧力2.0MPa以下、温度400〜600℃で3時間以上保持して炭素材料の前駆体を得、該前駆体を800〜1500℃で熱処理して得られた二次電池用の炭素材料。
【請求項2】
炭素材料をさらに酸化処理することを特徴とする、請求項1に記載の二次電池用の炭素材料
【請求項3】
酸化処理が、酸化性気体を含む窒素、アルゴンまたはこれらの混合気体中で或いは大気中で、200〜1000℃で熱処理するものである請求項2に記載の二次電池用の炭素材料。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の炭素材料を負極活物質として用いた非水電解液二次電池。
【請求項5】
常圧蒸留残渣油および/または流動接触分解残渣油を主成分として含む原料油を、圧力2.0MPa以下、温度400〜600℃で3時間以上保持して得た、二次電池用に用いる炭素材料の前駆体。

【国際公開番号】WO2005/027242
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【発行日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513822(P2005−513822)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011251
【国際出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】