説明

非水電解液二次電池及び新規フルオロシラン化合物

【課題】遷移金属とリチウムを含有する正極を使用した非水電解液二次電池において、正極から溶出した遷移金属による非水電解液二次電池の劣化を抑制し、高温保存や高温での充放電を経ても小さな内部抵抗と高い電気容量が維持出来るようにすることにある。
【解決手段】リチウムが脱挿入可能な負極、遷移金属とリチウムを含有する正極、及びリチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液を有する非水電解液二次電池において、上記非水電解液中に、炭素原子数1〜6の炭化水素の水素原子3〜14個をアルキルジフルオロシリル基で置換したフルオロシラン化合物、好ましくは下記一般式(1)で表わされるフルオロシラン化合物を含有させる。


(式中、R1は炭素原子数1〜8のアルキル基を表わし、nは3又は4の数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池に関し、詳しくは、特定のフルオロシラン化合物を含有する非水電解液を有する非水電解液二次電池、及び該非水電解液の添加剤として好適な新規フルオロシラン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯用パソコン、ハンディビデオカメラ、情報端末等の携帯電子機器の普及に伴い、高電圧、高エネルギー密度を有する非水電解液二次電池が電源として広く用いられるようになった。また、環境問題の観点から、電池自動車や電力を動力の一部に利用したハイブリッド車の実用化が行われている。
【0003】
非水電解液二次電池では、非水電解液二次電池の安定性や電気特性の向上のために、非水電解液用の種々の添加剤が提案されている。このような添加剤として、1,3−プロパンスルトン(例えば、特許文献1を参照)、ビニルエチレンカーボネート(例えば、特許文献2を参照)、ビニレンカーボネート(例えば、特許文献3を参照)、1,3−プロパンスルトン、ブタンスルトン(例えば、特許文献4を参照)、ビニレンカーボネート(例えば、特許文献5を参照)、ビニルエチレンカーボネート(例えば、特許文献6を参照)等が提案されており、中でも、ビニレンカーボネートは効果が大きいことから広く使用されている。これらの添加剤は、負極の表面にSEI(Solid Electrolyte Interface:固体電解質膜)と呼ばれる安定な被膜を形成し、この被膜が負極の表面を覆うことにより、非水電解液の還元分解を抑制するものと考えられている。
【0004】
近年では、コバルトやニッケル等の希少金属の価格の高騰と共に、マンガンや鉄等の低価格の金属材料を使用した正極剤の使用及び開発が急速に浸透してきている。このうちマンガンを含有する遷移金属酸化物リチウム含有塩は、リチウム二次電池の容量や出力の面で性能的に優れていることから注目されている正極剤の一つである。しかしながら、マンガンを含有する遷移金属酸化物リチウム含有塩を正極活物質として使用したリチウム二次電池では、正極よりマンガンが溶出しやすく、その溶出したマンガンによって副反応が起こり、電池の劣化が起り、容量や出力の低下が起こることがわかっている。
正極からのマンガンの溶出を抑制する方法として、非水電解液用の種々の添加剤が提案されている。このような添加剤として、ジスルホン酸エステル等が提案されている(例えば、特許文献7)が、さらなる改良が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−102173号公報
【特許文献2】特開平4−87156号公報
【特許文献3】特開平5−74486号公報
【特許文献4】特開平10−50342号公報
【特許文献5】特開平8−045545号公報
【特許文献6】特開2001−6729号公報
【特許文献7】特開2004−281368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、遷移金属とリチウムを含有する正極を使用した非水電解液二次電池において、正極から溶出した遷移金属による非水電解液二次電池の劣化を抑制し、高温保存や高温での充放電を経ても小さな内部抵抗と高い電気容量が維持出来るようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を行なった結果、特定の構造のフルオロシラン化合物を含有する非水電解液を使用することで上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、リチウムが脱挿入可能な負極、遷移金属とリチウムを含有する正極、及びリチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液を有する非水電解液二次電池において、
上記非水電解液中に、炭素原子数1〜6の炭化水素の水素原子3〜14個をアルキルジフルオロシリル基で置換したフルオロシラン化合物を含有することを特徴とする非水電解液二次電池を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、下記一般式(1’)で表される新規フルオロシラン化合物を提供するものである。
【化1】

(式中、R1'は炭素原子数1〜8のアルキル基を表わし、n’は3又は4の数を表す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、遷移金属とリチウムを含有する正極を使用した非水電解液二次電池において、高温保存若しくは高温充放電を経ても小さな内部抵抗と高い電気容量の維持が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の非水電解液二次電池のコイン型電池の構造の一例を概略的に示す縦断面図である。
【図2】図2は、本発明の非水電解液二次電池の円筒型電池の基本構成を示す概略図である。
【図3】図3は、本発明の非水電解液二次電池の円筒型電池の内部構造を断面として示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
本発明は、リチウムが脱挿入可能な負極、遷移金属とリチウムを含有する正極及びリチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液を有する非水電解液二次電池において、該非水電解液中に、炭素原子数1〜6の炭化水素の水素原子3〜14個をアルキルジフルオロシリル基で置換したフルオロシラン化合物を含有する点に特徴を有する。初めに、本発明で使用されるリチウムが脱挿入可能な負極について説明する。
【0013】
本発明で使用されるリチウムが脱挿入可能な負極は、リチウムが脱挿入可能であれば特に限定されないが、好ましくは次の通りである。即ち、本発明では、負極として、負極活物質、結着剤等を有機溶媒又は水でスラリー化したものを集電体に塗布し、乾燥してシート状にしたものが使用される。負極活物質としては、黒鉛粒子が好ましく用いられる。この黒鉛粒子の原料は、天然黒鉛でも人造黒鉛でもよい。天然黒鉛は、天然黒鉛鉱石等の天然から採掘された鉱石であり、例えば、鱗片状黒鉛、鱗上黒鉛、土状黒鉛等が挙げられる。人造黒鉛は、上記天然黒鉛、石炭コークス、難黒鉛化炭素、アセチレンブラック、炭素繊維、石油コークス、炭化水素溶媒、ニードルコークス、フェノール樹脂、フラン樹脂等の炭素含有化合物を焼成処理して得られる黒鉛であり、通常これらを粉砕してから使用される。
【0014】
負極活物質に使用される黒鉛としては、表面を非結晶性炭素で被覆した被覆結晶性炭素材料も挙げられるが、本発明に使用される黒鉛としては、表面に結晶面が露わになっている非被覆結晶性炭素材料が好ましい。非被覆結晶性炭素材料と被覆結晶性炭素材料の判別方法としては、ラマン分光測定による方法が挙げられる。アルゴンレーザーによるラマン分光測定を用いて結晶性炭素材料の物性を測定した場合、波長1580cm-1付近の吸収ピークは黒鉛構造に起因するピークであり、波長1360cm-1付近の吸収ピークは黒鉛構造の乱れから生じるピークである。そして、これらのピーク比は、結晶性炭素材料の表面部分の結晶化(黒鉛化)の程度を表す指標となる。本発明において、表面に結晶面が露わになっている非被覆結晶性炭素材料とは、波長514.5ナノメートルのアルゴンレーザーラマン分光測定における1360cm-1付近のピーク強度(ID)と1580cm-1付近のピーク強度(IG)の比[IG/ID]が0.10以下であるものをいう。尚、一般に負極に使用される被覆結晶性炭素材料のIG/IDは、おおよそ、0.13〜0.23である。
【0015】
負極の結着剤(バインダー)としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、EPDM、SBR、NBR、フッ素ゴム、ポリアクリル酸等が挙げられるが、これらに限定されない。負極の結着剤の使用量は、負極活物質100質量部に対し、0.001〜5質量部が好ましく、0.05〜3質量部が更に好ましく、0.01〜2質量部が最も好ましい。負極のスラリー化する溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、ポリエチレンオキシド、テトラヒドロフラン等が挙げられるが、これらに限定されない。負極の溶媒の使用量は、負極活物質100質量部に対し、30〜300質量部が好ましく、50〜200質量部が更に好ましい。
また、負極の集電体には、通常、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等が使用される。
【0016】
次に、本発明で使用される遷移金属とリチウムを含有する正極について説明する。本発明で使用される正極としては、通常の二次電池と同様に、正極活物質、結着剤、導電材等を有機溶媒又は水でスラリー化したものを集電体に塗布し、乾燥してシート状にしたものが使用される。本発明において、正極活物質は、遷移金属とリチウムを含有するものであり、1種の遷移金属とリチウムを含有する物質が好ましく、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物、リチウム含有遷移金属リン酸化合物等が挙げられ、これらを混合して使用してもよい。上記リチウム遷移金属複合酸化物の遷移金属としてはバナジウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅等が好ましい。リチウム遷移金属複合酸化物の具体例としては、LiCoO2等のリチウムコバルト複合酸化物、LiNiO2等のリチウムニッケル複合酸化物、LiMnO2、LiMn24、Li2MnO3等のリチウムマンガン複合酸化物、これらのリチウム遷移金属複合酸化物の主体となる遷移金属原子の一部をアルミニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、リチウム、ニッケル、銅、亜鉛、マグネシウム、ガリウム、ジルコニウム等の他の金属で置換したもの等が挙げられる。置換されたものの具体例としては、例えば、LiNi0.5Mn0.52、LiNi0.80Co0.17Al0.032、LiNi1/3Co1/3Mn1/32、LiMn1.8Al0.24、LiMn1.5Ni0.54等が挙げられる。上記リチウム含有遷移金属リン酸化合物の遷移金属としては、バナジウム、チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル等が好ましく、具体例としては、例えば、LiFePO4等のリン酸鉄類、LiCoPO4等のリン酸コバルト類、これらのリチウム遷移金属リン酸化合物の主体となる遷移金属原子の一部をアルミニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、リチウム、ニッケル、銅、亜鉛、マグネシウム、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ等の他の金属で置換したもの等が挙げられる。
本発明の非水電解液二次電池の正極に使用される正極活物質としては、後で説明する炭素原子数1〜6の炭化水素の水素原子3〜14個をアルキルジフルオロシリル基で置換したフルオロシラン化合物の添加効果が出やすいことから、マンガンを含有するリチウム含有金属酸化物が好ましい。マンガンを含有するリチウム含有化合物の中では、正極活物質としての性能に優れることから、Li1.1Mn1.8Mg0.14、Li1.1Mn1.85Al0.054、LiNi1/3Co1/3Mn1/52、及びLiNi0.5Co0.2Mn0.32が好ましい。
【0017】
正極の結着剤及びスラリー化する溶媒は、上記負極で使用されるものと同様である。正極の結着剤の使用量は、正極活物質100質量部に対し、0.1〜12質量部が好ましく、0.5〜8質量部が更に好ましく、1.0〜6質量部が最も好ましい。正極の溶媒の使用量は、正極活物質100質量部に対し、30〜300質量部が好ましく、50〜200質量部が更に好ましい。
正極の導電材としては、グラファイトの微粒子、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス等の無定形炭素の微粒子等、カーボンナノファイバー等が使用されるが、これらに限定されない。正極の導電材の使用量は、正極活物質100質量部に対し、0.01〜20質量部が好ましく、0.1〜10質量部が更に好ましい。
正極の集電体としては、通常、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等が使用される。
【0018】
次に、本発明で使用されるリチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液(以下、本発明の非水電解液ともいう)について説明する。本発明の非水電解液は、炭素原子数1〜6の炭化水素の水素原子3〜14個をアルキルジフルオロシリル基で置換したフルオロシラン化合物を含有する。以下、このフルオロシラン化合物について説明する。
炭素原子数1〜6の炭化水素としては、炭素原子数1〜6の炭素原子と水素原子のみからなる脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素が挙げられる。該炭化水素を置換するアルキルジフルオロシリル基の数は、3〜14であり、好ましくは3〜10であり、更に好ましくは3〜6である。また、アルキルジフルオロシリル基としては、特に限定されないが、ジフルオロメチルシリル基、ジフルオロエチルシリル基、ジフルオロプロピルシリル基、ジフルオロブチルシリル基、ジフルオロペンチルシリル基、ジフルオロヘキシルシリル基、ジフルオロヘプチルシリル基、ジフルオロオクチルシリル基等が挙げられる。3〜14個のアルキルジフルオロシリル基は、互いに同一であっても異なっていてもよいが、製造が容易である点から同一であることが好ましい。
【0019】
上記のアルキルジフルオロシリル基を3つ以上有するフルオロシラン化合物の具体例としては、1,1,2,2−テトラキス(ジフルオロメチルシリル)エタン、1,1,1,2−テトラキス(ジフルオロメチルシリル)エタン、1,3,6−トリス(ジフルオロメチルシリル)ヘキサン、1,3,5−トリス(ジフルオロメチルシリル)ベンゼン、1,2,3−トリス(ジフルオロメチルシリル)ベンゼン、1,2,4−トリス(ジフルオロメチルシリル)ベンゼン、1,2,4,5−テトラキス(ジフルオロメチルシリル)ベンゼン、1,2,3,4−テトラキス(ジフルオロメチルシリル)ベンゼン又は下記一般式(1)で表されるフルオロシラン化合物等が挙げられる。
【0020】
上記のアルキルジフルオロシリル基を3つ以上有するフルオロシラン化合物の中でも、下記一般式(1)で表されるフルオロシラン化合物は、原料の入手が容易であるため好ましい。
【0021】
【化2】

(式中、R1は炭素原子数1〜8のアルキル基を表わし、nは3又は4の数を表す。)
【0022】
上記一般式(1)において、R1が表す炭素原子数1〜8のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、2−プロピニル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、イソペンチル、シクロペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、ヘプチル、オクチル等が挙げられる。中でも、リチウムイオンの移動への悪影響が少なく充電特性が良好であることから、メチル及びエチルが好ましく、メチルが最も好ましい。
【0023】
上記一般式(1)で表されるフルオロシラン化合物の具体例としては、例えば、トリス(ジフルオロメチルシリル)メタン、トリス(ジフルオロエチルシリル)メタン、トリス(ジフルオロプロピルシリル)メタン、トリス(ジフルオロブチルシリル)メタン、トリス(ジフルオロペンチルシリル)メタン、トリス(ジフルオロヘキシルシリル)メタン、トリス(ジフルオロヘプチルシリル)メタン、トリス(ジフルオロオクチルシリル)メタン、テトラキス(ジフルオロメチルシリル)メタン、テトラキス(ジフルオロエチルシリル)メタン、テトラキス(ジフルオロプロピルシリル)メタン、テトラキス(ジフルオロブチルシリル)メタン、テトラキス(ジフルオロペンチルシリル)メタン、テトラキス(ジフルオロヘキシルシリル)メタン、テトラキス(ジフルオロヘプチルシリル)メタン、テトラキス(ジフルオロオクチルシリル)メタン等が挙げられる。
【0024】
本発明の非水電解液において、上述の炭素原子数1〜6の炭化水素の水素原子3〜14個をアルキルジフルオロシリル基で置換したフルオロシラン化合物は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の非水電解液において、炭素原子数1〜6の炭化水素の水素原子3〜14個をアルキルジフルオロシリル基で置換したフルオロシラン化合物の含有量が、あまりに少ない場合には十分な効果を発揮できず、またあまりに多い場合は、配合量に見合う増量効果は得られないばかりか、却って非水電解液の特性に悪影響を及ぼすことがあることから、上記フルオロシラン化合物の含有量は、非水電解液中、0.001〜5質量%が好ましく、0.01〜3質量%が更に好ましく、0.03〜1.5質量%が最も好ましい。
【0025】
本発明の非水電解液は、さらに、不飽和基を有する環状カーボネート化合物、鎖状カーボネート化合物、不飽和ジエステル化合物、環状硫酸エステル、環状亜硫酸エステル、スルトン、又はハロゲン化環状カーボネート化合物等の添加剤を含有することが好ましい。
【0026】
上記不飽和基を有する環状カーボネート化合物としては、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、プロピリデンカーボネート、エチレンエチリデンカーボネート、エチレンイソプロピリデンカーボンート等が挙げられ、ビニレンカーボネート及びビニルエチレンカーボネートが好ましく、上記鎖状カーボネート化合物としては、ジプロパルギルカーボネート、プロパルギルメチルカーボネート、エチルプロパルギルカーボネート、ビス(1−メチルプロパルギル)カーボネート、ビス(1−ジメチルプロパルギル)カーボネート等が挙げられる。上記不飽和ジエステル化合物としては、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジプロピル、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジペンチル、マレイン酸ジヘキシル、マレイン酸ジヘプチル、マレイン酸ジオクチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジプロピル、フマル酸ジブチル、フマル酸ジペンチル、フマル酸ジヘキシル、フマル酸ジヘプチル、フマル酸ジオクチル、アセチレンジカルボン酸ジメチル、アセチレンジカルボン酸ジエチル、アセチレンジカルボン酸ジプロピル、アセチレンジカルボン酸ジブチル、アセチレンジカルボン酸ジペンチル、アセチレンジカルボン酸ジヘキシル、アセチレンジカルボン酸ジヘプチル、アセチレンジカルボン酸ジオクチル等が挙げられ、上記環状硫酸エステルとしては、1,3,2-ジオキサチオラン−2,2−ジオキサイド、1,3−プロパンジオールシクリックスルフェート、プロパン−1,2−シクリックスルフェート等が挙げられ、上記環状亜硫酸エステルとしては、亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン等が挙げられ、上記スルトンとしては、プロパンスルトン、ブタンスルトン、1,5,2,4−ジオキサジチオラン−2,2,4,4−テトラオキサイド等が挙げられる。上記ハロゲン化環状カーボネート化合物としては、クロロエチレンカーボネート、ジクロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート等が挙げられる。これら添加剤の中でも、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジプロパルギルカーボネート、アセチレンジカルボン酸ジメチル、アセチレンジカルボン酸ジエチル、プロパンスルトン、ブタンスルトン、クロロエチレンカーボネート、ジクロロエチレンカーボネート、及びフルオロエチレンカーボネートが好ましく、ビニレンカーボネート、ジプロパルギルカーボネート、アセチレンジカルボン酸ジメチル、プロパンスルトン、及びフルオロエチレンカーボネートがさらに好ましく、ビニレンカーボネート、ジプロパルギルカーボネート、プロパンスルトン、及びフルオロエチレンカーボネートが最も好ましい。
【0027】
これらの添加剤は1種のみを使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。本発明の非水電解液において、これらの添加剤の含有量が、あまりに少ない場合には十分な効果を発揮できず、またあまりに多い場合には、配合量に見合う増量効果は得られないばかりか、却って非水電解液の特性に悪影響を及ぼすことがあることから、これらの添加剤の含有量は、合計で非水電解液中、0.005〜10質量%が好ましく、0.02〜5質量%が更に好ましく、0.05〜3質量%が最も好ましい。
【0028】
本発明の非水電解液で使用される有機溶媒としては、非水電解液に通常用いられているものを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。具体的には、飽和環状カーボネート化合物、飽和環状エステル化合物、スルホキシド化合物、スルホン化合物、アマイド化合物、飽和鎖状カーボネート化合物、飽和鎖状エーテル化合物、環状エーテル化合物、飽和鎖状エステル化合物等が挙げられる。
【0029】
上記有機溶媒のうち、飽和環状カーボネート化合物、飽和環状エステル化合物、スルホキシド化合物、スルホン化合物及びアマイド化合物は、比誘電率が高いため、電解液の誘電率を上げる役割を果たし、中でも、飽和環状カーボネート化合物が好ましい。斯かる飽和環状カーボネート化合物としては、例えば、エチレンカーボネート、1,2−プロピレンカーボネート、1,3−プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、1,3−ブチレンカーボネート、1,1,−ジメチルエチレンカーボネート等が挙げられる。上記飽和環状エステル化合物としては、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、δ−ヘキサノラクトン、δ−オクタノラクトン等が挙げられる。上記スルホキシド化合物としては、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジプロピルスルホキシド、ジフェニルスルホキシド、チオフェン等が挙げられる。上記スルホン化合物としては、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジプロピルスルホン、ジフェニルスルホン、スルホラン(テトラメチレンスルホンともいう)、3−メチルスルホラン、3,4−ジメチルスルホラン、3,4−ジフェニメチルスルホラン、スルホレン、3−メチルスルホレン、3−エチルスルホレン、3−ブロモメチルスルホレン等が挙げられ、スルホラン及びテトラメチルスルホランが好ましい。上記アマイド化合物としては、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
上記有機溶媒のうち、飽和鎖状カーボネート化合物、鎖状エーテル化合物、環状エーテル化合物及び飽和鎖状エステル化合物は、非水電解液の粘度を低くすることができ、電解質イオンの移動性を高くすることができる等、出力密度等の電池特性を優れたものにすることができる。また、低粘度であるため、低温での電池用非水電解液の性能を高くすることができ、中でも、飽和鎖状カーボネート化合物が好ましい。斯かる飽和鎖状カーボネート化合物としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルブチルカーボネート、メチル−t−ブチルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、t−ブチルプロピルカーボネート等が挙げられる。上記の鎖状エーテル又は環状エーテル化合物としては、例えば、ジメトキシエタン(DME)、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、ジオキサン、1,2−ビス(メトキシカルボニルオキシ)エタン、1,2−ビス(エトキシカルボニルオキシ)エタン、1,2−ビス(エトキシカルボニルオキシ)プロパン、エチレングリコールビス(トリフルオロエチル)エーテル、プロピレングリコールビス(トリフルオロエチル)エーテル、エチレングリコールビス(トリフルオロメチル)エーテル、ジエチレングリコールビス(トリフルオロエチル)エーテル等が挙げられ、これらの中でも、ジオキソランが好ましい。
上記飽和鎖状エステル化合物としては、分子中の炭素原子数の合計が2〜8であるモノエステル化合物及びジエステル化合物が好ましく、具体的な化合物としては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソブチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、マロン酸メチル、マロン酸エチル、コハク酸メチル、コハク酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、エチレングリコールジアセチル、プロピレングリコールジアセチル等が挙げられ、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソブチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、及びプロピオン酸エチルが好ましい。
【0030】
その他、有機溶媒としてアセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタンやこれらの誘導体を用いることもできる。
【0031】
本発明の非水電解液に使用されるリチウム塩としては、従来公知のリチウム塩が用いられ、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiB(CF3SO34、LiB(C242、LiBF2(C24)、LiSbF6、LiSiF5、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlF4、LiAlCl4、及びこれらの誘導体等が挙げられ、これらの中でも、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、及びLiC(CF3SO23並びにLiCF3SO3の誘導体、及びLiC(CF3SO23の誘導体からなる群から選ばれる1種以上を用いるのが、電気特性に優れるので好ましい。
【0032】
上記リチウム塩は、本発明の非水電解液中の濃度が、0.1〜3.0mol/L、特に0.5〜2.0mol/Lとなるように、上記有機溶媒に溶解することが好ましい。該リチウム塩の濃度が0.1mol/Lより小さいと、充分な電流密度を得られないことがあり、3.0mol/Lより大きいと、非水電解液の安定性を損なう恐れがある。
【0033】
また、本発明の非水電解液には、難燃性を付与するために、ハロゲン系、リン系、その他の難燃剤を適宜添加することができる。難燃剤の添加量が、あまりに少ない場合には十分な難燃化効果を発揮できず、またあまりに多い場合は、配合量に見合う増量効果は得られないばかりか、却って電池用非水電解液の特性に悪影響を及ぼすことがあることから、本発明の非水電解液を構成する有機溶媒に対して、5〜100質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることが更に好ましい。
【0034】
本発明の非水電解液二次電池では、正極と負極との間にセパレータを用いることが好ましく、該セパレータとしては、通常用いられる高分子の微多孔フィルムを特に限定なく使用できる。該フィルムとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレンオキシドやポリプロピレンオキシド等のポリエーテル類、カルボキシメチルセルロースやヒドロキシプロピルセルロース等の種々のセルロース類、ポリ(メタ)アクリル酸及びその種々のエステル類等を主体とする高分子化合物やその誘導体、これらの共重合体や混合物からなるフィルム等が挙げられる。これらのフィルムは、単独で用いてもよいし、これらのフィルムを重ね合わせて複層フィルムとして用いてもよい。さらに、これらのフィルムには、種々の添加剤を用いてもよく、その種類や含有量は特に制限されない。これらのフィルムの中でも、本発明の非水電解液二次電池には、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホンからなるフィルムが好ましく用いられる。
【0035】
これらのフィルムは、電解液がしみ込んでイオンが透過し易いように、微多孔化がなされている。この微多孔化の方法としては、高分子化合物と溶剤の溶液をミクロ相分離させながら製膜し、溶剤を抽出除去して多孔化する「相分離法」と、溶融した高分子化合物を高ドラフトで押し出し製膜した後に熱処理し、結晶を一方向に配列させ、さらに延伸によって結晶間に間隙を形成して多孔化をはかる「延伸法」等が挙げられ、用いられるフィルムによって適宜選択される。
【0036】
本発明の非水電解液二次電池において、電極材料、非水電解液及びセパレータには、より安全性を向上する目的で、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、ヒンダードアミン化合物等を添加してもよい。
【0037】
上記構成からなる本発明の非水電解液二次電池は、その形状には特に制限を受けず、コイン型、円筒型、角型等、種々の形状とすることができる。図1は、本発明の非水電解液二次電池のコイン型電池の一例を、図2及び図3は円筒型電池の一例をそれぞれ示したものである。
【0038】
図1に示すコイン型の非水電解液二次電池10において、1はリチウムイオンを放出できる正極、1aは正極集電体、2は正極から放出されたリチウムイオンを吸蔵、放出できる炭素質材料よりなる負極、2aは負極集電体、3は本発明の非水電解液、4はステンレス製の正極ケース、5はステンレス製の負極ケース、6はポリプロピレン製のガスケット、7はポリエチレン製のセパレータである。
【0039】
また、図2及び図3に示す円筒型の非水電解液二次電池10'において、11は負極、12は負極集電体、13は正極、14は正極集電体、15は本発明の非水電解液、16はセパレータ、17は正極端子、18は負極端子、19は負極板、20は負極リード、21は正極板、22は正極リード、23はケース、24は絶縁板、25はガスケット、26は安全弁、27はPTC素子である。
【0040】
次に、本発明の新規化合物について説明する。尚、特に説明しない点については、上記一般式(1)で表わされるフルオロシラン化合物における説明が適宜適用される。
本発明の新規化合物は、上記一般式(1’)で表わされる。
上記一般式(1’)中のR1'が表す基としては、上記一般式(1)中のR1と同様の基が挙げられる。
【0041】
本発明の新規化合物の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、Journal of American Chemical Society, 85, 2243 (1963)に記載されているハロゲン化炭化水素とクロロシランのマグネシウムによるカップリング反応によって製造したクロロシラン化合物をフッ素化することにより、製造することができる。
【0042】
本発明の新規化合物は、上述したように、非水電解液二次電池に用いられる非水電解液の添加剤として使用される他、有機・無機化合物の保護基原料、CVD(化学気相成長法)の原料ガス等にも使用される。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、以下の実施例等により本発明はなんら制限されるものではない。尚、実施例中の「部」や「%」は、特にことわらないかぎり質量によるものである。
【0044】
下記製造例1及び2は、本発明の上記一般式(1’)で表されるフルオロシラン化合物の合成例であり、下記製造例3は、負極で増粘剤として使用するVEMALiの合成例であり、下記実施例1〜10及び比較例1〜8は、本発明の非水電解液二次電池の実施例並びにその比較例である。
【0045】
〔製造例1〕トリス(ジフルオロメチルシリル)メタン(化合物A1)の合成
還流器を付けた200mlの3口フラスコに、マグネシウム9.0gを仕込み、窒素を流しながら攪拌して、マグネシウムを活性化した。メチルジクロロシラン50.0g及びテトラヒドロフラン100mlを加えてから、水冷下でブロロホルム25gを30分かけて滴下した。滴下終了後、発熱が落ち着いてから50℃のオイルバスで3時間加熱を続けた。室温に戻してヘキサン50mlを加えてから発生したマグネシウム塩を濾過で除去し、濾液を蒸留することでトリス(クロロメチルシリル)メタン16.5gを得た。
トリス(クロロメチルシリル)メタン12.0gとシクロペンタン18.0gを100mlのPFA製三角フラスコに仕込み、氷冷下で23%フッ化水素水27.1gを20分かけて滴下した。氷冷下でさらに10時間攪拌を続けた後、発生した結晶を濾別した。得られた結晶を熱したヘキサンに溶解させ、ヘキサン溶液をデカンテーションすることで、結晶に付着していた水分を除去した。ヘキサン溶液を冷却することで、結晶を析出させ、発生した結晶を濾別・乾燥することで、目的物であるトリス(ジフルオロメチルシリル)メタン(化合物A1)の針状結晶5.2gを得た。以下、化合物A1のスペクトルデータ(1H−NMR及びGC−MS)を示す。
1H−NMR:0.48−0.58ppm(多重度:m、プロトン数:10H、測定溶媒:CDCl3
GC−MS(m/z):256、241、137、91、47
【0046】
〔製造例2〕テトラキス(ジフルオロメチルシリル)メタン(化合物A2)の合成
還流器を付けた200mlの3口フラスコに、マグネシウム8.5gを仕込み、窒素を流しながら攪拌して、マグネシウムを活性化した。メチルジクロロシラン50.0g、及びテトラヒドロフラン50mlを加えてから、水冷下でテトラブロモメタン25gとテトラヒドロフラン50mlの溶液を30分かけて滴下した。滴下終了後、発熱が落ち着いてから50℃のオイルバスで4時間加熱を続けた。室温に戻してヘキサン50mlを加えてから発生したマグネシウム塩を濾過で除去し、濾液を蒸留することでテトラキス(クロロメチルシリル)メタン12.4gを得た。
テトラキス(クロロメチルシリル)メタン12.0gとシクロペンタン18.0gを100mlのPFA製三角フラスコに仕込み、氷冷下で23%フッ化水素水32.4gを20分かけて滴下した。氷冷下でさらに10時間攪拌を続けた後、発生した結晶を濾別した。得られた結晶を熱したヘキサンに溶解させ、ヘキサン溶液をデカンテーションすることで、結晶に付着していた水分を除去した。ヘキサン溶液を冷却することで、結晶を析出させ、発生した結晶を濾別・乾燥することで、目的物であるテトラキス(ジフルオロメチルシリル)メタン(化合物A2)の針状結晶4.8gを得た。以下、化合物A2のスペクトルデータ(1H−NMR及びGC−MS)を示す。
1H−NMR:0.55ppm(プロトン数:12H、測定溶媒:CDCl3
GC−MS(m/z):336、321、217、91、47
【0047】
〔製造例3〕VEMALi(増粘剤)の合成
重量平均分子量240万のメチルビニルエーテルと無水マレイン酸の共重合体(VEMA)80.0g、水酸化リチウムの1水和物38.7g、及びイオン交換水562gをビーカー中でマグネチックスターラーを用いて攪拌した。均一の水溶液になった時点で、グラスフィルターでろ過を行い、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸の共重合体の水溶性重合体中和塩(VEMALi)の水溶液を得た。
【0048】
〔実施例1〜10及び比較例1〜8〕非水電解液二次電池の作製及び評価
実施例及び比較例において、非水電解液二次電池(リチウム二次電池)は、以下の作製手順に従って作製された。
【0049】
<作製手順>
〔正極Aの作製〕
正極活物質としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3290質量部、導電材としてアセチレンブラック5質量部、及びバインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)5質量部を混合した後、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)140質量部に分散させてスラリー状とした。このスラリーをアルミニウム製の集電体に塗布し、乾燥後、プレス成型した。その後、この正極を所定の大きさにカットして円盤状正極Aを作製した。
【0050】
〔正極Bの作製〕
正極活物質としてLiMn2472質量部、及びLiNi1/3Co1/3Mn1/3218質量部、導電材としてアセチレンブラック5質量部、並びにバインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)5質量部を混合した後、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)140質量部に分散させてスラリー状とした。このスラリーをアルミニウム製の集電体に塗布し、乾燥後、プレス成型した。その後、この正極を所定の大きさにカットして円盤状正極Bを作製した。
【0051】
〔負極の作製〕
負極活物質として結晶の層間距離0.3364ナノメートル、比表面積3.5m2/g、IC/IDが0.06の表面処理を行っていない人造黒鉛96.0質量部、及びアセチレンブラック1.0重量部、バインダーとしてスチレンブタジエンゴム 1.5質量部、並びに増粘剤としてVEMALi 1.5質量部を混合し、水120質量部に分散させてスラリー状とした。このスラリーを銅製の負極集電体に塗布し、乾燥後、プレス成型した。その後、この負極を所定の大きさにカットし、円盤状負極を作製した。
【0052】
〔電解質溶液Aの調製〕
エチレンカーボネート30体積%、エチルメチルカーボネート40体積%、ジメチルカーボネート25体積%及び酢酸プロピル5体積%からなる混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で溶解し電解質溶液Aを調製した。
【0053】
〔電解質溶液Bの調製〕
エチレンカーボネート30体積%、エチルメチルカーボネート40体積%、及びジメチルカーボネート30体積%からなる混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で溶解し電解質溶液Bを調製した。
【0054】
〔非水電解液の調製〕
電解液添加剤として、製造例1又は2で得られた本発明の化合物A1〜A2、下記に示す本発明の化合物A3、下記に示す化合物B1〜B2、比較の化合物A’1〜A’3を、〔表1〕又は〔表2〕に示す割合で電解質溶液A又はBに溶解し、本発明の非水電解液及び比較の非水電解液を調製した。尚、〔表1〕及び〔表2〕中の( )内の数字は、非水電解液における濃度(質量%)を表す。
【0055】
〔化合物A3〕
トリス(ジフルオロエチルシリル)メタン
〔化合物B1〕
ビニレンカーボネート
〔化合物B2〕
プロパンスルトン
〔化合物A1’〕
ジフルオロジヘキシルシラン
〔化合物A2’〕
ジフルオロジフェニルシラン
〔化合物A3’〕
1,2−ビス(フルオロジメチルシリル)エタン
【0056】
〔電池の組み立て〕
得られた円盤状正極A又は正極Bと円盤状負極を、厚さ25μmのポリエチレン製の微多孔フィルムを挟んでケース内に保持した。その後、本発明の非水電解液又は比較の非水電解液と正極との組合せが〔表1〕又は〔表2〕となるように、それぞれの非水電解液をケース内に注入し、ケースを密閉、封止して、実施例1〜10及び比較例1〜8のリチウム二次電池(φ20mm、厚さ3.2mmのコイン型)を製作した。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
実施例1〜10及び比較例1〜8のリチウム二次電池を用いて、下記試験法により、初期特性試験及びサイクル特性試験を行った。初期特性試験では、放電容量比及び内部抵抗比を求めた。またサイクル特性試験では、放電容量維持率及び内部抵抗増加率を求めた。これらの試験結果を下記〔表2〕に示す。尚、放電容量比が高いほど、内部抵抗比の数値が低いほど初期特性に優れる非水電解液二次電池である。また、放電容量維持率が高いほど、内部増加率が低いほどサイクル特性に優れる非水電解液二次電池である。
【0060】
<正極Aの場合の初期特性試験方法>
a.放電容量比の測定方法
リチウム二次電池を、20℃の恒温槽内に入れ、充電電流0.3mA/cm2(0.2C相当の電流値)で4.3Vまで定電流定電圧充電し、放電電流0.3mA/cm2(0.2C相当の電流値)で3.0Vまで定電流放電する操作を5回行った。その後、充電電流0.3mA/cm2で4.3Vまで定電流定電圧充電し、放電電流0.3mA/cm2で3.0Vまで定電流放電した。この6回目に測定した放電容量を、電池の初期放電容量とし、下記式に示すように、放電容量比(%)を、実施例1の初期放電容量を100とした場合の初期放電容量の割合として求めた。
放電容量比(%)=[(初期放電容量)/(実施例1における初期放電容量)]×100
【0061】
b.内部抵抗比の測定方法
上記6回目の放電容量を測定後のリチウム二次電池について、先ず、充電電流1.5mA/cm2(1C相当の電流値)でSOC60%になるように定電流充電し、交流インピーダンス測定装置(IVIUM TECHNOLOGIES製、商品名:モバイル型ポテンショスタットCompactStat)を用いて、周波数100kHz〜0.02Hzまで走査し、縦軸に虚数部、横軸に実数部を示すコール−コールプロットを作成した。続いて、このコール−コールプロットにおいて、円弧部分を円でフィッティングして、この円の実数部分と交差する二点のうち、大きい方の値を、電池の初期内部抵抗とし、下記式に示すように、内部抵抗比(%)を、実施例1の初期内部抵抗を100とした場合の初期内部抵抗の割合として求めた。
内部抵抗比(%)=[(初期内部抵抗)/(実施例1における初期内部抵抗)]×100
【0062】
<正極Bの場合の初期特性試験方法>
リチウム二次電池を、20℃の恒温槽内に入れ、充電電流0.3mA/cm2(0.2C相当の電流値)で4.2Vまで定電流定電圧充電し、放電電流0.3mA/cm2(0.2C相当の電流値)で3.0Vまで定電流放電する操作を5回行った。その後、充電電流0.3mA/cm2で4.2Vまで定電流定電圧充電し、放電電流0.3mA/cm2で3.0Vまで定電流放電した。この6回目に測定した放電容量を、電池の初期放電容量とし、正極Aの場合の初期特性試験方法と同様にして、放電容量比(%)を求めた。また、6回目の放電容量を測定後のリチウム二次電池について、正極Aの場合の初期特性試験方法と同様にして、内部抵抗比(%)を求めた。
【0063】
<正極Aの場合のサイクル特性試験方法>
a.放電容量維持率の測定方法
初期特性試験後のリチウム二次電池を、60℃の恒温槽内に入れ、充電電流1.5mA/cm2(1C相当の電流値、1Cは電池容量を1時間で放電する電流値)で4.3Vまで定電流充電し、放電電流1.5mA/cm2で3.0Vまで定電流放電を行うサイクルを200回繰り返して行った。この200回目の放電容量をサイクル試験後の放電容量とし、下記式に示すように、放電容量維持率(%)を、初期放電容量を100とした場合のサイクル試験後の放電容量の割合として求めた。
放電容量維持率(%)=[(サイクル試験後の放電容量)/(初期放電容量)]×100
【0064】
b.内部抵抗増加率の測定方法
サイクル試験後、雰囲気温度を20℃に戻して、20℃における内部抵抗を、上記内部抵抗比の測定方法と同様にして測定し、この時の内部抵抗を、サイクル試験後の内部抵抗とし、下記式に示すように、内部抵抗増加率(%)を、各電池の初期内部抵抗を100とした場合のサイクル試験後の内部抵抗の増加の割合として求めた。
内部抵抗増加率(%)=[(サイクル試験後の内部抵抗−初期内部抵抗)/(初期内部抵抗)]×100
【0065】
<正極Bの場合のサイクル特性試験方法>
初期特性試験後のリチウム二次電池を、60℃の恒温槽内に入れ、充電電流1.5mA/cm2(1C相当の電流値、1Cは電池容量を1時間で放電する電流値)で4.2Vまで定電流充電し、放電電流1.5mA/cm2で3.0Vまで定電流放電を行うサイクルを200回繰り返して行った。この200回目の放電容量をサイクル試験後の放電容量とし、正極Aの場合のサイクル特性試験方法と同様にして、放電容量維持率(%)を求めた。また、サイクル試験後のリチウム二次電池について、正極Aの場合のサイクル特性試験方法と同様にして、内部抵抗増加率(%)を求めた。
【0066】
【表3】

【0067】
【表4】

【0068】
〔表3〕及び〔表4〕の結果から明らかなように、分子内にアルキルジフルオロシリル基が3つ以上結合したフルオロシラン化合物を非水電解液に含有することを特徴とする本発明の非水電解液二次電池は、60℃でのサイクル試験後において、上記フルオロシラン化合物を少量添加した場合であっても、内部抵抗及び放電容量の面で優れており、優れた電池特性を維持できることが確認できた。
【0069】
本発明の非水電解液二次電池は、小さな内部抵抗と高い放電容量を長期使用及び温度変化の大きい場合においても維持することが出来るため有用なものである。
【符号の説明】
【0070】
1 正極
1a 正極集電体
2 負極
2a 負極集電体
3 電解液
4 正極ケース
5 負極ケース
6 ガスケット
7 セパレータ
10 コイン型の非水電解液二次電池
10' 円筒型の非水電解液二次電池
11 負極
12 負極集電体
13 正極
14 正極集電体
15 非水電解液
16 セパレータ
17 正極端子
18 負極端子
19 負極板
20 負極リード
21 正極
22 正極リード
23 ケース
24 絶縁板
25 ガスケット
26 安全弁
27 PTC素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムが脱挿入可能な負極、遷移金属とリチウムを含有する正極、及びリチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液を有する非水電解液二次電池において、
上記非水電解液中に、炭素原子数1〜6の炭化水素の水素原子3〜14個をアルキルジフルオロシリル基で置換したフルオロシラン化合物を含有することを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項2】
上記炭素原子数1〜6の炭化水素の水素原子3〜14個をアルキルジフルオロシリル基で置換したフルオロシラン化合物が、下記の一般式(1)で表されるフルオロシラン化合物である請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【化1】

(式中、R1は炭素原子数1〜8のアルキル基を表わし、nは3又は4の数を表す。)
【請求項3】
上記リチウムが脱挿入可能な負極が、表面に結晶面が露わになっている黒鉛粒子である請求項1又は2に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
上記遷移金属とリチウムを含有する正極が、マンガンを含有するリチウム含有遷移金属酸化物である請求項1〜3の何れか1項に記載の非水電解液二次電池。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の非水電解液二次電池に用いられる非水電解液。
【請求項6】
下記一般式(1’)で表されるフルオロシラン化合物。
【化2】

(式中、R1'は炭素原子数1〜8のアルキル基を表わし、n’は3又は4の数を表す。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−98028(P2013−98028A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240048(P2011−240048)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】