説明

非水電解液二次電池

【課題】 レート特性に優れ、且つ体積容量効率の高い非水電解液二次電池を提供すること。
【解決手段】 負極および正極をセパレータを介して積層または巻回し外装体に収納した非水電解液二次電池において、負極集電体に炭素繊維31、33とCu繊維32、34からなる織布を用いる。この織布による負極集電体に黒鉛を主体としてなる電極スラリー35を塗布・含浸する。また、織布に含まれるCu繊維の比率が織布全体の5質量%以上50質量%以下とする。さらに、炭素繊維は、(002)面内に繊維の長さ方向があるように配向し、且つ(110)面が前記繊維の側部表面に露出するものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池に関し、特に炭素を負極活物質として用いる非水電解液二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非水電解液二次電池は様々なものが実用化されており、その一つとしてリチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池は、小型軽量で且つ高容量であることから携帯電子機器や、携帯通信機器、電動アシスト自転車、電動工具などに用いられるようになってきている。
【0003】
非水電解液二次電池は正極活物質、正極結着剤、導電助剤を含む正極層を正極集電体上に形成した正極と、負極活物質、負極結着剤を含む負極層を負極集電体上に形成した負極とをセパレータを介して積層あるいは巻回した積層体を金属ケースあるいはラミネート外装体に収納した構造となっている。
【0004】
炭素繊維織布はシート形状を有し、また半金属的な導電性を有する。そのため金属箔集電体の代わりに使用することが出来る(特許文献1、特許文献2など)。また活物質として炭素を用いる二次電池用電極においては活物質としても作用するので容量密度の点で有利である。しかし金属集電体を用いた電極と比べて集電性能が劣るため、レート特性の面では不利である。また、特許文献3には炭素繊維織布に電極スラリーを塗布したものを金属箔集電体に摺接させる電極構造が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平7−65862号公報
【特許文献2】特開平8−213049号公報
【特許文献3】特開2002−63938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
すでに一部説明したように、炭素繊維織布はシート形状を有し、また半金属的な導電性を有する。そのため金属箔集電体の代用として使用することが出来るだけでなく、リチウムイオン二次電池において炭素繊維織布の集電体は活物質としても作用するため容量密度の点で有利である。しかし炭素繊維織布は金属集電体と比較すると電気伝導性が低く集電体性能が劣るため、レート特性の面で不利である。
【0007】
そこで、本発明の課題は、体積エネルギー密度が高く、且つレート特性に優れた非水電解液二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するため、炭素繊維織布にCu繊維を織り込んだ織布を用いることで、集電性能を向上させた。このとき電極層の内部に立体的に張り巡らされたCu繊維が効率的に集電しレート特性の優れた負極が得られることを見出した。
【0009】
本発明の非水電解液二次電池は、負極および正極をセパレータを介して積層または巻回し外装体に収納した非水電解液二次電池において、負極集電体に炭素繊維とCu繊維からなる織布を用いたことを特徴とする。
【0010】
前記織布に含まれるCu繊維の比率が織布全体の5質量%以上50質量%以下であるとよい。
【0011】
前記織布を用いた負極集電体に黒鉛を主体としてなる電極スラリーを塗布・含浸するとよい。
【0012】
前記炭素繊維は、(002)面内に繊維の長さ方向があるように配向し、且つ(110)面が前記繊維の側部表面に露出するとよい。
【0013】
本発明においては、炭素繊維を用いた負極においてCu繊維を共に織り込み、織布の間隙に導電助剤、黒鉛粉末、結着剤からなる混合物を充填することにより、レート特性、体積容量密度に優れた二次電池が得られる。具体的には電極シート内に三次元的に張り巡らされた炭素繊維とCu繊維が効率的に集電し、また織布に織り込まれたCu繊維と導電助剤など、結着剤以外の全てが負極の容量に寄与するため非常に高い体積容量密度の負極が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、負極活物質に炭素を用いた非水電解液二次電池において、負極集電体にはCu繊維を共に織り込んだ炭素繊維織布を用いることで優れたレート特性を実現することができる。また集電体織布を構成する炭素自身が容量に寄与するため体積容量効率の高い負極を有する非水電解液二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の非水電解液二次電池は、負極活物質と負極結着剤を含む負極層を炭素繊維・Cu繊維織布(炭素繊維織布にCu繊維を織り込んだ織布)に塗布、充填した負極と、正極活物質、正極結着剤、導電助剤を含む正極層を正極集電体上に形成した正極とをセパレータを介して積層あるいは巻回した積層体を外装体に収納して非水電解液あるいはポリマー電解質を注入したのち封止して製造する。上記負極において織布を覆う負極層(織布の外側にある負極層)の厚みは60μm以下であることが望ましい。本発明において織布を覆う電極層の厚みが60μmを超える場合、Cu金属から電極表面の活物質までの距離が従来の負極での値を超えレート特性における優位性が失われる。なぜなら、負極層の体積抵抗率が2〜3Ω/cmであるのに対してCuは1.7×10−8Ω/cmと圧倒的に低いため、Cu金属から負極層表面までの距離が電極抵抗に対して支配的となるからである。
【0016】
本発明の非水電解液二次電池において織布を構成する炭素繊維について、図1と図2を参照して説明する。図1は本発明に用いる炭素繊維の例を示す模式図であり、11は繊維の長さ方向ベクトルである。また、12は(002)面内の直交ベクトルであり、繊維の長さ方向を含むように広がる(002)面を、その面内にある2つのベクトルで示している。さらに、13は(110)面内の直交ベクトルであり、繊維の側部表面に(110)面が露出する様子を表している。他方、図2は本発明で使用できない炭素繊維の例を示す模式図であり、21は(110)面内の直交ベクトルであり、繊維長さ方向の端面に(110)面が露出する様子を示している。また、22は(002)面内の直交ベクトルであり、繊維の側部表面を覆う(002)面を示している。
【0017】
本発明では、図1のように、繊維の長さ方向に(002)面の広がった炭素繊維を用いることが出来る。その理由は次のとおりである。炭素は結晶の(002)面の面内方向に半金属的な電気伝導性を示し、これと垂直な方向については半導体である。(002)面を繊維の長さ方向に配向させることで織布の面方向における導電性を確保することが出来る。さらに繊維の側部表面には(110)面を露出している炭素繊維を用いることが出来る。そうすると、(110)面からLiの挿入が起こる。
【0018】
しかし、図2のように、繊維側部表面を(002)面が完全に覆い長さ方向の端面のみに(110)面を露出した炭素繊維は望ましくない。その理由は次のとおりである。リチウムイオン二次電池において炭素へのLiの挿入反応を負極反応として利用している。炭素へのLiの挿入は(002)面と垂直な(110)面から起こるため織布を構成する炭素繊維が容量に寄与するには繊維表面に(110)面を露出していることが望ましいからである。
【0019】
繊維径は5〜50μmの炭素繊維を用いることが出来る。Cu繊維としては径が5〜50μmのものを用いることが出来る。Cu繊維の比率は5質量%以上、50質量%以下であるとよい。その理由は次のとおりである。5質量%未満であると従来の金属箔集電体上に電極層を形成してなるものと比較してレート特性が劣る。また50質量%を超える場合、従来の金属箔集電体上に電極層を形成してなるものと比較して体積容量効率が劣るからである。
【0020】
負極活物質としては人造黒鉛、天然黒鉛を用いることが出来る。たとえば負極活物質、結着剤、カーボンブラックのような導電助剤をNMP(N−メチル−2−ピロリドン)のような溶剤中に分散させ、スラリーを調製し、負極集電体上に直接塗布、乾燥し圧縮することにより負極層を形成する。
【0021】
本発明の非水電解液二次電池で用いることのできる正極活物質として、LiMO(ただしMは、少なくとも一つの遷移金属を表す。)を単独あるいは複数種を混合したものを用いることができる。たとえば結着剤、正極活物質、カーボンブラックのような導電助剤をNMPのような溶剤中に分散させ、スラリーを調製し、集電体上に直接塗布、乾燥し圧縮することにより正極層を形成する。
【0022】
セパレータとしてはポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂等の多孔性フィルムなどが使用できる。
【0023】
電解液としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エーテル等の脂肪カルボン酸エステル類、γ−ブチロラクトン等のγ−ラクトン類、1,2−ジエトキシエタン、エトキシメトキシエタン等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキシラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾノジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、ジエチルエーテル等の非プロトン性溶媒一種、あるいは二種以上を混合して使用し、これらの有機溶媒に溶解するリチウム塩を溶解させる。リチウム塩としては、たとえばLiPF、LiAsF、LiAlCl、LiClO、LiBF、LiSbF、Li(CFSO、LiBr、LiCl、低脂肪酸カルボン酸リチウム、イミド類が挙げられる。また、電解液に代えてポリマー電解質を用いてもよい。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明する。
【0025】
(実施例1)
本発明の電極断面を模式的に示す図3を参照しながら説明する。負極活物質として人造黒鉛を93重量部、導電助剤としてカーボンブラックを2重量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(以下PVDFとする)を5重量部となるように、結着剤を溶解したNMP溶液に混合してスラリーを調製し、このスラリー(電極スラリー35)を、厚さ120μmの炭素繊維・Cu繊維織布(炭素繊維31、33とCu繊維32、34の織布)の両面から均一に塗布、含浸して負極層を得た。このとき電極の厚みが130μmとなるようにスラリーの塗布量を調整した。ところで、上記織布におけるCu繊維32、34の割合、すなわち、炭素繊維とCu繊維の全質量に対するCu繊維の質量の割合は5質量%とした。
【0026】
正極活物質としてはLiCoOを用いた。正極活物質を95重量部、導電助剤としてカーボンブラックを2重量部、結着剤としてPVDFを3重量部となるように、結着剤を溶解したNMP溶液に混合してスラリーを調製し、このスラリーを厚さ15μmのアルミ製の集電体の両面に均一に塗布して正極層を形成した。
【0027】
電解液は1モル/lの濃度にLiPFを溶解させたエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒(混合容積比:EC/DEC=30/70)を用いた。また、セパレータとしては厚さ20μmの多孔性ポリエチレンフィルムを用いた。
【0028】
上述した正極層、負極層、およびセパレータを積層した積層体をラミネート外装体に収納して電解液を注液したのち封止して非水電解液二次電池を組み立てた。
【0029】
また、Li金属を対極として上述した負極、セパレータ、電解液を用いて、コイン型電池(CR2032)を組み立てた。
【0030】
(実施例2)
炭素繊維・Cu繊維織布におけるCu繊維の比率を10質量%としたほかは実施例1と同様に非水電解液二次電池、コイン型電池を組み立てた。
【0031】
(実施例3)
炭素繊維・Cu繊維織布におけるCu繊維の比率を20質量%としたほかは実施例1と同様に非水電解液二次電池、コイン型電池を組み立てた。
【0032】
(実施例4)
炭素繊維・Cu繊維織布におけるCu繊維の比率を50質量%としたほかは実施例1と同様に非水電解液二次電池、コイン型電池を組み立てた。
【0033】
(比較例1)
炭素繊維・Cu繊維織布におけるCu繊維の比率を0質量%としたほかは実施例1と同様に非水電解液二次電池、コイン型電池を組み立てた。
【0034】
(比較例2)
負極活物質として人造黒鉛を93重量部、導電助剤としてカーボンブラックを2重量部、結着剤を5重量部となるように、結着剤を溶解したNMP溶液に混合してスラリーを調製し、このスラリーを厚さ10μmの銅製の集電体の両面にドクターブレード法により塗布して負極層を得た。このとき電極の厚みが130μmとなるようにスラリーの塗布量を調整した。そのほかは実施例1と同様に非水電解液二次電池、コイン型電池を組み立てた。
【0035】
実施例1〜4、比較例1、2で組み立てた非水電解液二次電池について0.2C、2.0Cの放電容量を測定しその比からそれぞれのレート特性を比較した。容量測定は充電電圧4.2V(充電条件:電流1.0C、2.5時間、20℃)、放電電圧3.0V(放電条件:電流0.2C、1.0C、20℃)にて実施した。また実施例1〜4、比較例1、2で組み立てたコイン型電池については1/40C放電容量を測定した。容量測定は充電電圧4.3V(充電条件:電流1/40C、20℃)、放電電圧0V(放電条件:電流1/40C、20℃)にて実施した。
【0036】
表1に実施例1〜4、比較例1、2で組み立てた非水電解液二次電池について0.2C放電容量に対する2.0C放電容量の比率、およびコイン型電池の放電容量から算出した負極の体積容量密度を示す。
【0037】
図4に炭素繊維・Cu繊維織布におけるCu繊維の比率(質量%)を横軸に、レート特性を縦軸にしたグラフを示す。また図5に炭素繊維・Cu繊維織布におけるCu繊維の比率(質量%)を横軸に、負極の体積容量密度(mAh/cm)を縦軸にしたグラフを示す。
【0038】
【表1】

【0039】
図4から分かるように、織布全体に対するCu繊維の比率が5質量%以上50質量%以下のときに、比較例1(Cu繊維を含まないもの)および比較例2(銅製の集電体を用いたもの)を超えるレート特性が得られた。また、図5から分かるように、織布全体に対するCu繊維の比率が5質量%以上50質量%以下のときに、比較例2を超える体積容量密度が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に用いる炭素繊維の例を示す模式図。
【図2】本発明では使用できない炭素繊維の例を示す模式図。
【図3】本発明の電極を示す模式的断面図。
【図4】レート特性と炭素繊維・Cu繊維織布におけるCu繊維の割合との関係を示す図。
【図5】負極の体積容量密度と炭素繊維・Cu繊維織布におけるCu繊維の割合との関係を示す図。
【符号の説明】
【0041】
11 繊維の長さ方向ベクトル
12、22 (002)面内の直交ベクトル
13 (110)面内の直交ベクトル
21 (110)面内の直交ベクトル
31、33 炭素繊維
32、34 Cu繊維
35 電極スラリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極および正極をセパレータを介して積層または巻回し外装体に収納した非水電解液二次電池において、負極集電体に炭素繊維とCu繊維からなる織布を用いたことを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記織布に含まれるCu繊維の比率が織布全体の5質量%以上50質量%以下であることを特徴とする請求項1記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記織布を用いた負極集電体に黒鉛を主体としてなる電極スラリーを塗布・含浸したことを特徴とする請求項1または2記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記炭素繊維は、(002)面内に繊維の長さ方向があるように配向し、且つ(110)面が前記繊維の側部表面に露出することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−59654(P2009−59654A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227721(P2007−227721)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】