説明

非水電解液二次電池

【課題】優れたシャットダウン機能を有すると共に、反応抵抗の増加が抑制された非水電解液二次電池を提供すること。
【解決手段】本発明によって提供される非水電解液二次電池は、少なくとも正極活物質を含む正極合材層を有する正極と、少なくとも負極活物質を含む負極合材層を有する負極と、正極と負極との間に介在するセパレータと、非水電解液とを備えている。ここで、負極合材層は、105℃〜140℃の温度範囲に融点を有するポリマーAを含んでおり、該負極合材層の単位面積当たりのポリマーAの質量は0.015mg/cm〜0.22mg/cmである。また、セパレータは、105℃〜140℃の温度範囲に融点を有するポリマーBを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池は、例えば、電気を駆動源として利用する車両に搭載される電源、或いはパソコンや携帯端末その他の電気製品等に用いられる電源として重要性が高まっている。特に軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン二次電池は、車両搭載用高出力電源として好ましい。
【0003】
かかる非水電解液二次電池において、正極と負極との間に介在されるセパレータは、該二次電池自体および該二次電池が搭載された機器(例えば自動車等の車両)の安全性を確保する目的から、正極および負極の接触による短絡を防止する役割(短絡防止機能)を備えている。また、この短絡防止機能に加えて、該二次電池内が一定の温度域(典型的には該セパレータの融点または軟化点)に達した際に、イオン伝導パスを遮断することで抵抗を増大させる。そしてこの抵抗増大により充放電を停止し、二次電池に不具合が発生することを防ぐ機能(シャットダウン機能)も備えている。一般的なセパレータは、構成材料であるポリオレフィン等のポリマー(樹脂)の融点がシャットダウン温度となっており、この温度に到達すると、セパレータの微細な空孔が溶融または軟化によって閉塞し、抵抗が増大されるものである。
このような非水電解液二次電池に関する従来技術として、特許文献1〜4が挙げられる。例えば、特許文献1には、融点が90℃〜130℃であって融解熱が30J/g以上の高分子化合物を負極中に含むことにより、電池が短絡してジュール熱が発生した際に電池内部の温度が上昇することを抑制しようとする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−064548号公報
【特許文献2】特開2009−238705号公報
【特許文献3】特開2008−159385号公報
【特許文献4】特開2006−286285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、過充電等によって電池内部の温度が上昇するような異常時にシャットダウン機能は向上し得るものの、車載搭載用電源のように低温度下(例えば−30℃程度)におけるハイレート(例えば5C以上の高出力)での使用(充放電)では、反応抵抗が上昇してしまい高出力が得られない虞がある。
そこで、本発明は、上述した従来の課題を解決すべく創出されたものであり、その目的は、優れたシャットダウン機能を有すると共に、反応抵抗の増加が抑制された非水電解液二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を実現すべく、本発明により、少なくとも正極活物質を含む正極合材層を有する正極と、少なくとも負極活物質を含む負極合材層を有する負極と、上記正極と上記負極との間に介在するセパレータと、非水電解液と、を備える非水電解液二次電池が提供される。即ちここで開示される非水電解液二次電池において、上記負極合材層は、105℃〜140℃の温度範囲に融点を有するポリマーAを含んでおり、上記負極合材層の単位面積当たりの上記ポリマーAの質量は0.015mg/cm〜0.22mg/cmである。そして、上記セパレータは、105℃〜140℃の温度範囲に融点を有するポリマーBを含んでいることを特徴とする。
なお、本明細書において「非水電解液二次電池」とは、非水電解液(典型的には、非水溶媒中に支持塩(支持電解質)を含む電解液)を備えた電池をいう。また、「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な電池一般をいい、リチウムイオン二次電池等のいわゆる化学電池ならびに電気二重層キャパシタ等の物理電池を包含する用語である。
【0007】
本発明によって提供される非水電解液二次電池では、負極合材層中のポリマーAの融点がセパレータに含まれるポリマーBの融点と同程度であり、且つ負極合材層中に適切な量のポリマーAが含まれている。かかる構成によると、非水電解液二次電池の充放電時の反応抵抗(特に−30℃程度の低温時)を低く抑えられる。さらに、過充電等によって電池内部の温度が大きく上昇するような異常時には、ポリマーBが溶融してセパレータの微細な空孔が閉塞されるため正負極間での電荷担体(カチオン)の移動が抑制されると共に、負極合材層中のポリマーAも溶融して負極活物質の表面を覆うので負極におけるカチオン(例えばリチウムイオン)の放出及び吸蔵が阻止されて電流の流れがシャットダウンされる。これにより、更なる電池内部の温度上昇が抑制されて不具合の発生を未然に防止することができる。
従って、本発明によると、充放電時の反応抵抗を低く抑えられると共に、優れたシャットダウン機能を備える非水電解液二次電池を提供することができる。
【0008】
ここで開示される非水電解液二次電池の好適な一態様では、上記負極合材層の厚さは、片面で20μm〜100μm(両面で40μm〜200μm)であることを特徴とする。
かかる構成によると、負極合材層中に適切な量のポリマーAが含有されるため、低い反応抵抗と優れたシャットダウン機能とを両立した非水電解液二次電池となり得る。
【0009】
ここで開示される非水電解液二次電池の好適な他の一態様では、上記ポリマーA及び上記ポリマーBは、相互に平均分子量(典型的には、数平均分子量又は重量平均分子量。)が同じ若しくは異なるポリエチレンであることを特徴とする。ポリエチレンは、平均分子量や分子構造、密度などの違いにより、融点を例えば105℃〜140℃の温度範囲内で所望の値に容易に調整される。従って、ここで開示されるポリマーA及びBとして好ましく用いることができる。
【0010】
ここで開示される非水電解液二次電池の好適な他の一態様では、上記セパレータは、相互に融点が異なるか若しくは同じポリマーを主体に構成された少なくとも3つの多孔質層が積層された積層構造を有しており、上記ポリマーBは、上記積層構造における内部層を形成していることを特徴とする。
好ましくは、上記内部層を構成している上記ポリマーBの融点は、該内部層の両面にそれぞれ積層された外部層を構成しているポリマーCの融点よりも低いことである。
かかる構成によると、過充電等によって電池内部の温度が大きく上昇するような異常の際に、セパレータのうち上記ポリマーBからなる内部層が先に溶融しシャットダウン機能が働く。このとき、外部層のポリマーCは溶融せずにセパレータの形態を保ち続けため、シャットダウン時においても、正極と負極との間で短絡が生じることを防止することができる。
また、好ましくは、上記正極活物質は、リチウム元素と一種又は二種以上の遷移金属元素とを含むリチウム含有化合物である。リチウム含有化合物は高エネルギー密度を有している一方、過充電等の電池異常の際には電池反応が進み内部温度が上昇しやすいという性質を有する。従って、負極合材層中に所定の融点を有するポリマーAを適切な量含み且つセパレータにポリマーAと同程度の融点を有するポリマーBを含むという本発明の構成を採用することによる効果が特に発揮され得る。
【0011】
上述のように、ここで開示されるいずれかの非水電解液二次電池は、充放電時(特に低温(例えば−30℃程度)ハイレート(例えば5C〜50C)充放電時)の反応抵抗が低減されて高出力を発揮し得ると共に、シャットダウン機能に優れる非水電解液二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)となり得る。このため、車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)の駆動電源として用いることができる。また、本発明の他の側面として、ここで開示されるいずれかの非水電解液二次電池(複数個の電池が典型的には直列に接続された組電池の形態であり得る。)を駆動電源として備える車両を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池の外形を模式的に示す斜視図である。
【図2】図2は、図1中のII‐II線に沿う断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池の捲回電極体を模式的に示す図である。
【図4】Cole−Coleプロット(ナイキスト・プロット)の典型的な図である。
【図5】例1〜例4に係るリチウムイオン二次電池の直流抵抗を示すグラフである。
【図6】例5〜例25に係るリチウムイオン二次電池の負極合材層中のPE量と高温暴露後の直流抵抗との関係を示すグラフである。
【図7】例5〜例25に係るリチウムイオン二次電池の負極合材層中のPE量と低温時の反応抵抗との関係を示すグラフである。
【図8】本発明に係る非水電解液二次電池を備えた車両(自動車)を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事項は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識に基づいて実施することができる。
【0014】
ここで開示される非水電解液二次電池の好適な実施形態の一つとして、リチウムイオン二次電池を例にして詳細に説明するが、本発明の適用対象をかかる種類の二次電池に限定することを意図したものではない。例えば、他の金属イオン(例えばマグネシウムイオン)を電荷担体とする非水電解液二次電池にも適用することができる。
【0015】
≪リチウムイオン二次電池の構造≫
図1は、リチウムイオン二次電池100の外観を示す斜視図である。図2は、図1におけるリチウムイオン二次電池100のII−II線に沿う断面図である。図3は、捲回電極体200の構成を説明するための模式図である。
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100は、図2に示すように、捲回電極体200と電池ケース300とを備えている。また、本実施形態に係る捲回電極体200は、図3に示すように、正極シート220、負極シート240および2枚のセパレータ262、264を有している。正極シート220、負極シート240およびセパレータ262、264は、それぞれ帯状に形成されたシート材である。
【0016】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100において、正極(正極シート220)は、帯状の正極集電体221の表面に少なくとも正極活物質(図示せず)を含む正極合材層223を備えている。また、負極(負極シート240)は、帯状の負極集電体241の表面に少なくとも負極活物質(図示せず)を含む負極合材層243を備えている。そして上記正極と上記負極との間には、セパレータ262、264が介在する。ここで、上記負極合材層243は、105℃〜140℃の温度範囲に融点を有するポリマーAを含んでおり、該負極合材層243の単位面積当たりの該ポリマーAの質量は0.015mg/cm〜0.22mg/cmである。上記負極合材層243の厚さは、片面で20μm〜100μm(両面で40μm〜200μm)であることが好ましい。
また、セパレータ262、264は105℃〜140℃の範囲に融点を有するポリマーBを有している。以下、かかるリチウムイオン二次電池100をより詳しく説明する。
【0017】
≪正極(正極シート)≫
正極シート220の正極集電体221としては、従来のリチウムイオン二次電池の正極に用いられている集電体と同様、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、アルミニウム又はアルミニウムを主体とする合金を用いることができる。正極集電体の形状は、リチウムイオン二次電池の形状等に応じて異なり得るため、特に制限はなく、棒状、板状、帯状(シート状)、箔状等の種々の形態であり得る。この例において、具体的には、正極集電体221には、厚さが凡そ15μmの帯状のアルミニウム箔が用いられている。この正極集電体221には、図3に示すように、幅方向の片側縁端部に沿って未塗工部222が設定されている。正極合材層223は、正極集電体221に設定された未塗工部222を除いて、正極集電体221の両面に形成されている。
【0018】
≪正極合材層≫
正極合材層223は、少なくとも正極活物質を含むペースト状の正極合材層形成用組成物(ペースト状の組成物には、スラリー状組成物及びインク状組成物が包含される。)を正極集電体221の表面に塗布(塗工)して乾燥することによって形成することができる。即ち、例えば正極活物質と導電材と結着材(バインダ)とを適切な溶媒に分散させてなる正極合材層形成用組成物を調製する。調製した該組成物を正極集電体221に塗布し、乾燥させた後、必要に応じて圧延(プレス)することによって正極合材層223を形成し得る。特に限定するものではないが、正極活物質100質量部に対する導電材の使用量は、例えば1〜20質量部(好ましくは5〜15質量部)とすることができる。また、正極活物質100質量部に対する結着材の使用量は、例えば0.5〜10質量部とすることができる。なお、正極合材層223の形成方法は、公知の方法を適用でき、ここでは、本発明を特徴付けるものではないため、より詳細な説明は省略する。
【0019】
≪正極活物質≫
上記正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な材料であって、リチウム元素と一種または二種以上の遷移金属元素とを含むリチウム含有化合物(例えばリチウム遷移金属酸化物)が挙げられる。例えば、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLiNiO)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLiCoO)、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLiMn)、或いは、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3)のような三元系リチウム含有複合酸化物が挙げられる。
また、一般式がLiMPO或いはLiMVO或いはLiMSiO(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種以上の元素)等で表記されるようなポリアニオン系化合物(例えばLiFePO、LiMnPO、LiFeVO、LiMnVO、LiFeSiO、LiMnSiO、LiCoSiO)を上記正極活物質として用いてもよい。これらの材料の粒径や、カーボン膜で被覆する等といった付加的な態様は、所望の特性に応じて適宜に選択することができる。
【0020】
≪導電材≫
上記導電材としては、一般的なリチウムイオン二次電池の正極に使用される導電材と同様のものを適宜採用することができる。例えば、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック等)、グラファイト粉末等のカーボン粉末を用いることができる。これらのうち一種又は二種以上を併用してもよい。
【0021】
≪結着材≫
上記結着材(バインダ)としては、一般的なリチウムイオン二次電池の正極に使用される結着材と同様のものを適宜採用することができる。例えば、溶剤系の溶媒(有機溶媒)を用いて正極合材層形成用組成物を調製する場合には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)等の有機溶媒(非水溶媒)に溶解するポリマー材料を用いることができる。有機溶媒としては、例えばN‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)等が挙げられる。
【0022】
正極合材層全体に占める正極活物質の質量割合は、凡そ50質量%以上(典型的には50〜95質量%)であることが好ましく、通常は凡そ70〜95質量%(例えば75〜90質量%)であることがより好ましい。また、正極合材層全体に占める導電材の割合は、例えば凡そ2〜20質量%とすることができ、通常は凡そ2〜15質量%とすることが好ましい。また、正極合材層全体に占める結着材の割合は、例えば凡そ1〜10質量%とすることができ、通常は凡そ2〜5質量%とすることが好ましい。
【0023】
≪負極(負極シート)≫
負極シート240の負極集電体241としては、従来のリチウムイオン二次電池の負極に用いられている集電体と同様、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、銅又はニッケル或いはこれらを主成分とする合金を用いることができる。負極集電体241の形状は、上記正極集電体221と同様であり得る。この例において、具体的には、負極集電体241には、厚さが凡そ10μmの帯状の銅箔が用いられている。この負極集電体241には、図3に示すように、幅方向の片側縁端部に沿って未塗工部242が設定されている。負極合材層243は、負極集電体241に設定された未塗工部242を除いて、負極集電体241の両面に形成されている。
【0024】
≪負極合材層≫
本実施形態に係る負極合材層243は、少なくとも負極活物質を含むとともに、105℃〜140℃の温度範囲に融点を有するポリマーAを含んでいる。この実施形態では、負極合材層243には、負極活物質と、上記ポリマーA、結着材及び増粘材等が含まれている。また、負極合材層243の厚さは、例えば負極集電体241の片面当たり20μm〜100μm(負極集電体241の両面で40μm〜200μm)であることが好ましい。より好ましくは負極集電体241の片面当たりで25μm〜80μm(負極集電体241の両面で50μm〜160μm)である。
【0025】
≪負極活物質≫
上記負極活物質としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる材料の一種または二種以上を特に限定なく使用することができる。例えば、少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料、リチウム遷移金属複合酸化物((例えば、LiTi12等のリチウムチタン複合酸化物)、リチウム遷移金属複合窒化物等が挙げられる。炭素材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛(人工黒鉛)、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)等が挙げられる。また、上記負極活物質の表面を非晶質炭素膜で被覆してもよい。例えば、負極活物質にピッチを混ぜて焼くことによって、少なくとも一部が非晶質炭素膜で被覆された負極活物質を得ることができる。
【0026】
≪結着材≫
上記結着材としては、一般的なリチウムイオン二次電池の負極に使用される結着材と同様のものを適宜採用することができる。例えば、負極合材層を形成するために水系のペースト状組成物を用いる場合には、水に溶解または分散するポリマー材料を好ましく採用し得る。水に分散する(水分散性の)ポリマー材料としては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム類;ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂;酢酸ビニル共重合体等が例示される。また、溶剤系の溶媒を用いる場合には、上記正極の結着材として例示した結着材等を用いることができる。
ここで、「水系のペースト状組成物」とは、上記所定の溶媒(分散媒)として水または水を主体とする混合溶媒(水系溶媒)を用いた組成物を指す概念である。該混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコール、低級ケトン等)の一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。
【0027】
≪増粘材≫
また、上記増粘材としては、水若しくは溶剤(有機溶媒)に溶解又は分散するポリマー材料を採用し得る。水に溶解する(水溶性の)ポリマー材料としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等のセルロース系ポリマー;ポリビニルアルコール(PVA);等が挙げられる。
【0028】
≪負極合材層に含まれるポリマーA≫
上述したように負極合材層243には、融点が105℃〜140℃のポリマー(樹脂)Aが含まれている。ポリマーAとしては、その融点が105℃〜140℃のものであればその組成等は特に制限されることなく用いることができる。当該ポリマーAは、過充電等によって電池内部の温度が大きく上昇するような異常の際に溶融し、負極合材層243中の負極活物質の表面を覆う。これにより、負極における直流抵抗を増大させると共に負極活物質におけるリチウムイオンの吸蔵及び放出が抑制され、電池反応を制限する(負極合材層243におけるシャットダウン)。
なお、当該ポリマーAの融点が105℃よりも低すぎる場合には、負極合材層243を形成する際の乾燥工程において、ポリマーAが溶融して負極活物質の表面を覆ってしまう結果、通常使用時におけるリチウムイオン二次電池の直流抵抗(IV抵抗)が高くなる場合がある。一方、ポリマーAの融点が140℃よりも高すぎる場合には、電池内部の温度が異常に高くなった際に溶融が遅れるため、負極合材層243におけるシャットダウンの機能が低下する虞がある。
【0029】
かかるポリマーAとしては、例えば、ポリオレフィン系樹脂のなかから所望の融点および諸特性を有する樹脂を適宜選択して用いることができる。このようなポリマーAとしては、融点の調整が比較的容易で入手しやすいポリエチレン(PE)を用いることが好ましい。例えば、ポリエチレンは、平均分子量や分子構造により密度が変化し、この密度を調整することによって、融点を所望の温度に制御することができる。また、負極合材層243の単位面積当たりの上記ポリマーAの質量は0.015mg/cm〜0.22mg/cmとなるよう配合するとよい。
【0030】
負極合材層243中の上記ポリマーAが0.015mg/cmよりも小さい場合であっても電池内部の温度が大きく上昇するような異常時において、抵抗(典型的には直流抵抗)を高められるものの、凡そ0.015mg/cm以上とすることでその効果(シャットダウン機能)は飛躍的に向上する。一方、負極合材層243においてポリマーAが0.22mg/cmよりも大きすぎる場合には、リチウムイオン電池100の反応抵抗(例えば、−30℃程度の低温環境下)が高くなる虞がある。自動車の車載用のリチウムイオン電池100では、このような低温環境での反応抵抗を低く抑えることが望ましいため、負極合材層243中のポリマーAは、0.015mg/cm〜0.22mg/cmであることが好ましい。
また、負極合材層243の単位面積当たりの上記ポリマーAの質量が0.015mg/cm〜0.11mg/cmの場合には、リチウムイオン電池100の反応抵抗をより低く抑えることができる。
また、負極合材層243の単位面積当たりの上記ポリマーAの質量が0.11mg/cm〜0.22mg/cmの場合には、リチウムイオン電池100の反応抵抗を低く抑えると共に、電池内部の温度が大きく上昇するような異常時において抵抗(典型的には直流抵抗)をより高めることで優れたシャットダウン機能を実現することができる。
なお、上記ポリマーAは、負極活物質層243の全固形分を100質量%としたときに該負極合材層243中に、例えば凡そ0.15質量%〜2.0質量%となるよう配合するとよい。
【0031】
≪セパレータ262、264≫
セパレータ262、264は、図2または図3に示すように、正極シート220と負極シート240との直接接触を防止するとともに、電荷担体(例えばリチウムイオン)の移動を許容する部材である。したがって、代表的には、セパレータは、リチウムイオンが移動できる程度の微細な細孔を有する多孔質体、不織布状体、布状体等とすることができる。また、この要件を満たすものであれば、本質的にはセパレータを構成する材料は特に限定されない。このような材料としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂から所望の特性を有するものを選択して用いることができる。具体的には、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等のポリマー(樹脂)を例示することができる。
【0032】
図2に示す例では、セパレータ262、264は、帯状(シート状)の部材であり、負極合材層243の幅b1は、正極合材層223の幅a1よりも少し広い。さらにセパレータ262、264の幅c1、c2は、負極合材層243の幅b1よりも少し広い(c1、c2>b1>a1)。そして、負極合材層243が正極合材層223を覆うように対向しており、セパレータ262、264は、負極合材層243と正極合材層223との間に介在しており、負極合材層243を覆うように重ねられている。
【0033】
セパレータ262、264は、105℃〜140℃の範囲に融点を有するポリマーBを含んでいる。ポリマーBを除くセパレータを構成する材料(ポリマーC)の融点は、ポリマーBと比較して高く設定されていることが好ましい。したがって、過充電等によって電池内部の温度が大きく上昇するような異常時には、セパレータ262、264に含まれているポリマーBの融点に達すると、セパレータ262、264に含まれたポリマーBが溶融する。溶融したポリマーBは、セパレータ262、264の微細な細孔を塞ぎ、電荷担体であるリチウムイオンのイオン伝導パスを遮断(シャットダウン)するため、電流の流れがシャットダウンされる。
【0034】
なお、セパレータ262、264に含まれるポリマーBの融点と、上記の負極合材層243に含まれるポリマーAの融点とは、概ね同じ温度範囲に設定されている。かかるポリマーAとポリマーBの融点は、それぞれ独立して決定することができる。例えば、負極合材層243に含まれるポリマーAの融点とセパレータ262、264に含まれるポリマーBの融点とは同じでも良い。また、負極合材層243に含まれるポリマーAの融点を、セパレータ262、264に含まれるポリマーBの融点よりも高くしてもよい。また、その逆に、負極合材層243に含まれるポリマーAの融点を、セパレータ262、264に含まれるポリマーBの融点よりも低くしてもよい。
【0035】
セパレータ262、264に含まれるポリマーBには、負極合材層243に含まれるポリマーAと同じ種類のポリマー(例えば相互に平均分子量が同じ若しくは異なるポリエチレン)を用いることができる。また、負極合材層243に含まれる当該ポリマーAと、セパレータ262、264に含まれるポリマーBは、異なる種類のポリマーを用いても良い。例えば、ポリマーA及びポリマーBは、融点の調整や、入手および取り扱いが容易な点などから、いずれもポリエチレンであることが好ましい。
【0036】
また、本実施形態では、図示は省略するが、セパレータ262、264は、相互に融点が異なるか若しくは同じポリマーを主体に構成された少なくとも3つの多孔質層が積層された積層構造を有しており、上記ポリマーBは、該積層構造における内部層を形成している。セパレータ262、264としては、例えば、微細な細孔を多数有するポリマーC(多孔質ポリオレフィン系樹脂。例えば、ポリプロピレン(PP))からなるシート材を外部層(多孔質層)とし、融点が外部層を構成する上記ポリマーCよりも低い温度範囲である105℃〜140℃のポリマーB(例えば、ポリエチレン(PE))からなる層を内部層とするセパレータ(PP/PE/PPの3層多孔質セパレータ)を用いることができる。(PP/PE/PP)。なお、セパレータ262、264は、2層構造としてもよく、例えば、ポリプロピレンの多孔質のシートを基材とし、ポリエチレンの多孔質のシートを重ねてもよい。
【0037】
この場合、過充電等によりリチウムイオン電池100内の温度が大きく上昇した場合には、セパレータ262、264は、低融点のポリマーBからなる内部層(例えば、ポリエチレン(PE))が溶融する。かかる内部層が溶融しても、ポリマーBよりも高融点なポリマーCからなる外部層(例えば、ポリプロピレン(PP))は溶融せずに残るので、セパレータ262、264は形状を維持し得る。そして、内部層が溶融することによって、セパレータ262、264によるシャットダウンが進行するので、電池反応に伴うリチウムイオン電池100の温度上昇を抑制することができる。
【0038】
≪電池ケース300≫
図1及び図2に示すように、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100は、金属製(樹脂製又はラミネートフィルム製も好適である。)の電池ケース300を備える。このケース(外容器)300は、上端が開放された扁平な直方体状のケース本体320と、その開口部330を塞ぐ蓋体340とを備える。溶接等により蓋体340は、ケース本体320の開口部330を封止している。ケース300の上面(すなわち蓋体340)には、捲回電極体200の正極シート(正極)220と電気的に接続する正極端子420および該電極体の負極シート240と電気的に接続する負極端子440が設けられている。また、蓋体340には、従来のリチウムイオン二次電池のケースと同様に、電池異常の際にケース300内部で発生したガスをケース300の外部に排出するための安全弁(図示せず)が設けられている。ケース300の内部には、正極シート220および負極シート240を計二枚のセパレータシート262、264とともに積層して捲回軸WL(図3参照)を中心にして捲回し、次いで得られた捲回体を軸に直交する位置の方向からから押しつぶして拉げさせることによって作製される扁平形状の捲回電極体200及び電解液(例えば非水電解液)が収容されている。
【0039】
上記積層の際には、図3に示すように、正極シート220の未塗工部(即ち正極合材層223が形成されずに正極集電体221が露出した部分)222と負極シート240の未塗工部(即ち負極合材層243が形成されずに負極集電体241が露出した部分)242とがセパレータシート262、264の幅方向の両側からそれぞれはみ出すように、正極シート220と負極シート240とを幅方向にややずらして重ね合わせる。その結果、捲回電極体200の捲回軸WL方向に対する横方向において、正極シート220および負極シート240の未塗工部222、242がそれぞれ捲回コア部分(すなわち正極シート220の正極合材層形成部分と負極シート240の負極合材層形成部分と二枚のセパレータシート262,264とが密に捲回された部分)から外方にはみ出ている。かかる正極側はみ出し部分(未塗工部222)に正極端子420を接合して、上記扁平形状に形成された捲回電極体200の正極シート220と正極端子420とを電気的に接続する。同様に負極側はみ出し部分(未塗工部242)に負極端子440を接合して、負極シート240と負極端子440とを電気的に接続する。なお、正負極端子420,440と正負極集電体221,242とは、例えば、超音波溶接、抵抗溶接等によりそれぞれ接合することができる。
【0040】
≪電解液≫
上記電解液としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。かかる非水電解液は、典型的には、適当な非水溶媒(有機溶媒)に支持塩を含有させた組成を有する。上記非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等から選択される一種又は二種以上を用いることができる。また、上記支持塩(支持電解質)としては、例えば、LiPF,LiBF等のリチウム塩を用いることができる。さらに上記非水電解液に、ジフルオロリン酸塩(LiPO)やリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)を溶解させてもよい。
【0041】
以上の構成のリチウムイオン二次電池100においては、過充電等によって電池内部の温度が大きく上昇してポリマーAの融点に達した際には、負極合材層243中に上記所定の量だけ含まれているポリマーAが溶融して該溶融したポリマーAが負極活物質の表面を覆う。これにより、負極活物質におけるリチウムイオンの吸蔵及び放出を抑制すると共に抵抗を増大させて電池反応をシャットダウンすることができる。また、リチウムイオン二次電池100のセパレータ262、264は、上記ポリマーAと概ね同じ温度の融点を有するポリマーBを含んでいるため、ポリマーAの溶融時にはポリマーBも同様に溶融してセパレータ262、264の微細な細孔を塞ぐ。これにより、正負極間のリチウムイオンの移動が抑制すると共に抵抗を増大させて電池反応をシャットダウンすることができる。
さらに、シャットダウン機能を向上させるために負極合材層243中に上記所定の量のポリマーAを含んでいるにも関わらず、該ポリマーAを含まない場合のリチウムイオン二次電池と同程度の低い反応抵抗を示す。
【0042】
なお、これら負極(負極シート240)とセパレータ262、264における抵抗(例えば直流抵抗)の増大は、それぞれが単独でシャットダウンした場合の抵抗の増大幅を合わせたものよりも大きくなる。すなわち、負極合材層243、あるいは、セパレータ262、264のいずれか一方に、105℃〜140℃の温度範囲に融点を有するポリマーBが含まれている場合に比べて、より高いシャットダウン効果が得られるのはもちろんのこと、負極合材層243およびセパレータ262、264の両者でシャットダウンを行うことにより、その効果は相乗的に高められる。したがって、より安全性および信頼性が向上されたリチウムイオン電池100が実現される。
【0043】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0044】
[負極合材層形成用組成物の調製]
試験用のリチウムイオン二次電池の負極を作製するため負極合材層形成用組成物を調製した。この組成物としては、上述したポリマーAとしてのポリエチレン樹脂(PE)が入っていない組成物Aと、上述したポリマーAとしてのポリエチレン樹脂が入った組成物Bの二通りの組成物を用意した。
即ち、組成物Aとして、負極活物質としての天然黒鉛粒子と、結着材としてのSBRと、増粘材としてのCMCとの質量比が98:1:1となるように秤量し、これら材料をイオン交換水に分散させてペースト状の負極合材層形成用組成物Aを調製したものを用いた。
一方、組成物Bとして、天然黒鉛粒子と、SBRと、CMCと、ポリマーAとしての融点が130℃のポリエチレン樹脂粒子(PE)との質量比が98:1:1:1となるように秤量し、これら材料をイオン交換水に分散させてペースト状の負極合材層形成用組成物Bを調製したものを用いた。
【0045】
[負極の作製]
上記調製した組成物A及び組成物Bを、各々負極集電体としての銅箔(厚さ10μm)の両面に塗布し乾燥させた。乾燥後、ローラプレス機にてシート状に引き伸ばすことにより厚さ100μmに成形し、負極合材層が約5.0cm×5.0cmの正方形となるように打ち抜き、負極シート(負極)Aおよび負極シートBを作製した。この際、負極集電体への組成物A及び組成物Bの塗布量は、組成物A及び組成物Bが乾燥した後において、負極集電体の単位面積あたりに、(ポリマーAを除く)負極合材層が13mg/cmになるように設定されている。なお、負極シートBの負極合材層の単位面積当たりのポリマーAの質量は0.13mg/cmであった。
【0046】
[正極の作製]
一方、正極活物質としてのLiNi1/3Mn1/3Co1/3と、導電材としてのアセチレンブラックと、結着材としてのPVDFとの質量比が91:6:3となるように秤量し、これら材料をNMPに分散させてペースト状の正極合材層形成用組成物を調製した。該組成物を厚さ15μmのアルミニウム箔(正極集電体)の両面に塗布し乾燥させた。乾燥後、ローラプレス機にてシート状に引き伸ばすことにより厚さ110μmに成形し、正極合材層が約4.8cm×4.8cmの正方形となるように打ち抜き、正極シートを作製した。この際、正極集電体への上記正極合材層形成用組成物の塗布量は、該組成物が乾燥した後において、正極集電体の単位面積あたりに、正極合材層が25mg/cmになるように設定されている。
【0047】
[セパレータの準備]
セパレータとしては、ポリプロピレン(PP)の単層構造のセパレータCと、PP/PE/PPの三層構造のセパレータDの二通りを用意した。すなわち、セパレータCは、融点が170℃のポリプロピレン(PP)からなり、厚さ25μmの多孔質のシートを用いた。セパレータDは、全体の厚さが25μmで、融点が170℃のポリプロピレン(PP)と、融点が130℃のポリエチレン(PE)との3層構造(PP/PE/PP)の多孔質のシートを用いた。なお、セパレータD中のPE量は0.33mg/cmであった。
【0048】
[リチウムイオン二次電池(非水電解液二次電池)の作製]
<例1>
上記作製した負極シートAと、正極シートと、セパレータCとを用いて、例1に係る試験用のリチウムイオン二次電池(ラミネート型セル)を作製した。すなわち、セパレータを間に介して、正極シートと負極シートとを積層して電極体を作製した。そして、電極体を電解液とともにラミネート製の袋状電池容器に収容し、封口してリチウムイオン二次電池を作製した。電解液としては、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)およびエチルメチルカーボネート(EMC)の3:4:3(体積比)混合溶媒に、リチウム塩としての1mol/LのLiPF(LPFO)を溶解させたものを用いた。なお、負極シート及びセパレータについては130℃の高温雰囲気下に1分間さらすことにより、電池内部の温度が大きく上昇した電池異常時の状態を模したものを用いた。以下の例2〜例4についても同様である。
<例2>
セパレータCの代わりにセパレータDを用いた他は例1と同様にして、例2に係る試験用のリチウムイオン二次電池を作製した。
<例3>
負極シートAの代わりに負極シートBを用いた他は例1と同様にして、例3に係る試験用のリチウムイオン二次電池を作製した。
<例4>
負極シートAの代わりに負極シートBを用い、セパレータCの代わりにセパレータDを用いた他は例1と同様にして、例4に係る試験用のリチウムイオン二次電池を作製した。例1〜例4に係るリチウムイオン二次電池の構成を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
[高温暴露後の直流抵抗]
上記例1〜例4に係るリチウムイオン二次電池に対して、高温暴露後の直流抵抗を測定した。即ち、130℃の高温雰囲気下に1分間さらされた負極シート及びセパレータを用いることにより、電池内部の温度が大きく上昇した電池異常時の状態を模したリチウムイオン二次電池の直流抵抗[mΩ]を、交流インピーダンス測定法に基づいて測定した。図4は、交流インピーダンス測定法における、Cole−Coleプロット(ナイキスト・プロット)の典型例を示す図である。図4に示すように、交流インピーダンス測定法における等価回路フィッティングによって得られるCole−Coleプロットを基に、直流抵抗(Rsol)と、反応抵抗(Rct)を算出することができる。ここで、反応抵抗(Rct)は、下記の式で求めることができる。
Rct=(Rsol+Rct)−Rsol
【0051】
このような測定、および、直流抵抗(Rsol)と反応抵抗(Rct)の算出は、予めプログラムされた市販の装置を用いて実施できる。かかる装置としては、例えば、Solartron社製の電気化学インピーダンス測定装置がある。ここでは、25℃の温度環境下で、SOC40%(定格容量の凡そ40%の充電状態)に調整された上記例1〜例4に係るリチウムイオン二次電池を基に、10−3Hz〜10Hzの周波数範囲で複素インピーダンス測定を行なった。そして、図4で示すように、ナイキスト・プロットの等価回路フィッティングによって得られる直流抵抗(Rsol)を「直流抵抗[mΩ]」とした。測定結果を表1及び図4に示す。
【0052】
[低温時(−30℃)の反応抵抗]
また、後述するように、低温時(−30℃)の反応抵抗についても評価している。この場合、−30℃の温度環境下で、SOC40%に調整されたリチウムイオン二次電池(後述する例5〜例25)に、10−3Hz〜10Hzの周波数範囲で複素インピーダンス測定を行なった。そして、図4で示すように、ナイキスト・プロットの等価回路フィッティングによって得られる反応抵抗(Rct)を「−30℃における反応抵抗」とした。
【0053】
表1及び図5に示すように、例1及び例3に係る二次電池を比較すると、負極合材層中に所定量のポリエチレンを含むことにより直流抵抗[mΩ]が増加していることが確認された。また、例1及び例2に係る二次電池を比較すると、130℃の高温下にさらした場合には、セパレータにポリエチレンを含む二次電池では該ポリエチレンが溶融するため直流抵抗が増加することが確認された。さらに、例4に係る二次電池は、例1〜例3に係る二次電池と比較して、直流抵抗が増大していることが確認された。例4に係る二次電池では、負極合材層にポリマーAが含まれており、かつ、セパレータにポリマーBが含まれているので、かかるポリマーA及びポリマーBの作用によって直流抵抗が飛躍的に増加したものと考えられる。
【0054】
<例5〜例25>
次に、例5〜例25に係るリチウムイオン二次電池を作製した。例5〜例25に係る二次電池は、それぞれ負極シートBにおける負極合材層中のポリマーA(PE)の量(mg/cm)と、セパレータD中のポリマーB(PE)の量(mg/cm)を変えたリチウムイオン二次電池である。例5〜例25にかかるリチウムイオン二次電池に対して、高温暴露後の直流抵抗と、低温時(−30℃)の反応抵抗を測定した。
なお、高温暴露後の直流抵抗は、130℃の高温雰囲気下に1分間さらされた負極シート及びセパレータを用いて作製された例5〜例25に係るリチウムイオン二次電池について、上記例1〜例4に係るリチウムイオン二次電池の場合と同様にして測定した。測定結果を表2及び図6に示す。
また、低温時(−30℃)の反応抵抗は、上記のように高温雰囲気下にさらしていない負極シート及びセパレータを用いて作製された例5〜例25に係るリチウムイオン二次電池について測定した。測定結果を表2及び図7に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
表2及び図6に示すように、セパレータ中のPE量が同じ場合には、負極合材層中のPE量[mg/cm]が大きくなるほど、直流抵抗[mΩ]が大きくなっていることが確認された。特に、負極合材層中のPE量(即ち負極合材層の単位面積当たりのポリマーAの質量)が0.015mg/cm以上の場合(例えば0.016mg/cm)に、直流抵抗が増大していることが確認された。
また、表2及び図7に示すように、セパレータに含まれるPE量が同じ場合には、負極合材層中のPE量[mg/cm]が0.22mg/cm以下(例えば0.212mg/cm以下)のときに、反応抵抗が650mΩ程度未満に抑えられていることが確認された。特に、負極合材層中のPE量[mg/cm]が0.01mg/cm〜0.11mg/cm(例えば0.011mg/cm〜0.106mg/cm)のときには、反応抵抗がより低く抑えられていることが確認された。
以上の結果から、負極合材層243の単位面積当たりのポリマーA(PE)の質量は0.015mg/cm〜0.22mg/cm(例えば0.015mg/cm〜0.11mg/cm又は0.11mg/cm〜0.22mg/cm)が好ましいことが確認された。
【0057】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、上記実施形態及び実施例は例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係る非水電解液二次電池は、充放電時(特に低温(例えば−30℃)ハイレート充放電時)の反応抵抗が低く抑えられており、シャットダウン性能に優れることから、各種用途向けの非水電解液二次電池として利用可能である。例えば、図8に示すように、自動車等の車両1に搭載される車両駆動用モーターの電源(駆動電源)として好適に利用することができる。車両1に使用される非水電解液二次電池(リチウムイオン二次電池)100は、単独で使用されてもよく、直列及び/又は並列に複数接続されてなる組電池1000の形態で使用されてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 車両
100 リチウムイオン二次電池(非水電解液二次電池)
200 捲回電極体
220 正極シート
221 正極集電体
222 未塗工部
223 正極合材層
240 負極シート
241 負極集電体
242 未塗工部
243 負極合材層
262、264 セパレータ
300 電池ケース
320 ケース本体
330 開口部
340 蓋体
420 正極端子
440 負極端子
1000 組電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも正極活物質を含む正極合材層を有する正極と、少なくとも負極活物質を含む負極合材層を有する負極と、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータと、非水電解液と、を備える非水電解液二次電池であって、
前記負極合材層は、105℃〜140℃の温度範囲に融点を有するポリマーAを含んでおり、
前記負極合材層の単位面積当たりの前記ポリマーAの質量は0.015mg/cm〜0.22mg/cmであり、
前記セパレータは、105℃〜140℃の温度範囲に融点を有するポリマーBを含んでいることを特徴とする、非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記負極合材層の厚さは、20μm〜100μmであることを特徴とする、請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記ポリマーA及び前記ポリマーBは、相互に平均分子量が同じ若しくは異なるポリエチレンであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記セパレータは、相互に融点が異なるか若しくは同じポリマーを主体に構成された少なくとも3つの多孔質層が積層された積層構造を有しており、前記ポリマーBは、前記積層構造における内部層を形成していることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池。
【請求項5】
前記内部層を構成している前記ポリマーBの融点は、該内部層の両面にそれぞれ積層された外部層を構成しているポリマーCの融点よりも低いことを特徴とする、請求項4に記載の非水電解液二次電池。
【請求項6】
前記正極活物質は、リチウム元素と一種又は二種以上の遷移金属元素とを含むリチウム含有化合物であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池。
【請求項7】
車両の駆動電源として用いられることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−93136(P2013−93136A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233124(P2011−233124)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】