説明

非水電解液二次電池

【目的】 サイクル特性に優れた非水電解液二次電池の正極活物質を提供することを目的とする。
【構成】 正極の活物質として、一般式LiX1-YY2(ここで、Mは遷移金属、Aは遷移金属Mよりも小さいイオン半径を有し、且つそのカチオンが6配位する金属、X≦1.0、0.1≦Y≦0.4)で表される複合酸化物を用いることにより、リチウムイオンの挿入脱離による結晶格子の歪みを防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、リチウムと遷移金属との複合酸化物を活物質とする正極と、リチウム金属、リチウム合金、或るいはリチウムを吸蔵放出可能な炭素材料からなる負極と、非水電解液とを備えた電池に係り、特に、正極の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】負極として、リチウム金属、或るいはリチウム合金を用い、正極として二酸化マンガンを用い、電解液に非水電解液を用いたリチウム電池は、使用電圧が高い上に自己放電が少なく、保存性に優れた電池であり、特に5〜10年の長期間にわたる使用に信頼できる電池として、各種の小型電子機器のメモリーバックアップ用電源に広く実用化されている。これらリチウム電池は、主に一次電池として使用されており、一回の使用でその寿命が終わってしまうものであった。
【0003】これに対して、近年再充電可能なリチウム二次電池の要望が増え、研究が活発になっている。かかる要求を満足するリチウム二次電池として、負極にリチウム金属、リチウム合金、或るいはリチウムイオンを吸蔵放出可能な層間化合物等を用い、正極に層状構造を有するLiCoO2のようなリチウムと遷移金属との複合酸化物を用い、電解液に非水電解液を用いた非水電解液二次電池が提案されている。
【0004】ところが、正極活物質であるLiCoO2等の結晶構造は、充放電により層状格子へのリチウムの挿入脱離を繰り返すうちに段々と歪められ、最終的には破壊されてしまい、電極としての能力をなくす結果となる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記問題点に着目してなされたものであり、充放電に伴う結晶構造の歪みを抑制した正極活物質を用いることにより、サイクル特性に優れた非水電解液二次電池を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】正極活物質として、一般式LiX1-YY2(ここで、Mは遷移金属、Aは遷移金属Mよりも小さいイオン半径を有し、且つそのカチオンが6配位する金属、X≦1.0、0.1≦Y≦0.4)で表される複合酸化物、即ち、遷移金属Mの一部を、遷移金属Mよりも小さいイオン半径を有し、且つそのカチオンが6配位する金属で置換したものを用いる。
【0007】
【作用】一般式LiMO2(但し、Mは遷移金属)で表される複合酸化物の一例としてのLiCoO2の結晶は、図3に示されるように、中心にコバルトイオン7、八面体頂部に酸素イオン8がある八面体が連なった構造を有しており、連なった八面体の層と層との間にリチウムイオン9が入って層間化合物を形成している。この層の間に入ったリチウムイオン9は充電により脱離し、放電により再び層の中に挿入され、サイクルが繰り返される。
【0008】この時、層間は広い方がリチウムイオンの挿入脱離が容易に行えるが、層間の広さには、八面体を形成している酸素イオンが大きく影響してくる。また、酸素イオンは、八面体中心部にある遷移金属カチオンのイオン半径に依存しているところが大きく、遷移金属カチオンの半径が小さいほど酸素原子の自由度が大きくなり、リチウムイオンの挿入脱離が容易になる。
【0009】そこで、複合酸化物LiMO2(但し、Mは遷移金属)の遷移Mの一部を、Mよりも小さいイオン半径を有し、且つそのカチオンが6配位する金属で置換すると、図2に示すように置換金属10に対応する八面体頂部にある酸素イオンの自由度が大きくなり、八面体内方へ吸収され易くなることにより、層間が広くなり、リチウムイオンの挿入脱離、層中での移動がスムースに進み、充放電の繰り返しに伴う結晶構造の歪みや破壊が抑制できる。
【0010】特に、複合酸化物LiX1-XY2において、MをCo、Ni、Fe及びそれらの混合系として用いることが有望である。そして、MがCoの場合には、置換できる金属Aとして、Fe、Cr、Be、V、Re、Si、Ge、MがNiの場合には、置換できる金属Aとして、Co、Fe、Cr、Be、V、Re、Si、Ge、MがMnの場合には、置換できる金属Aとして、Co、Ni、Fe、Cr、Be、V、Re、Si、Ge、MがFeの場合には、置換できる金属AとしてCo、Cr、Be、V、Re、Si、Geなどが夫々挙げられる。尚、金属Mの置換量10〜40モル%の範囲が好ましい。
【0011】
【実施例】
[実施例1]市販の炭酸コバルト(CoCO3)粉末と三酸化鉄(Fe23)粉末と炭酸リチウム(Li2CO3)粉末を、Co:Fe:Li=0.9:0.1:1.0となるように混合し、空気雰囲気中で900℃で10時間焼成した。得られた焼成物を300メッシュ以下になるまで粉砕し、この粉末とグラファイト粉末、フッ素樹脂粉末を重量比で85:10:5の割合で混合し、正極合剤とした。これを3トン/cm2、直径15mm、厚み0.8mmとなるように加圧成形し、250℃で2時間真空乾燥して正極ペレットとした。負極としては厚さ0.3mmのリチウムホイルを直径16mmに打ち抜いたものを用いた。
【0012】次に、上記正極、負極を用いて図1に示すような扁平形電池を作製した。1は負極であり、負極缶2の内底面に圧着されている。3は正極であり、正極缶4の内底面に固着されている。5はポリプロピレンからなるセパレータであり、6はパッキングである。電解液はプロピレンカーボネートに溶質としてLiPF6を1.0モル/リットル溶解したものを用いた。電池寸法は直径20mm、高さ1.6mmである。この電池をAとする。
【0013】[実施例2]正極活物質として炭酸コバルト(CoCO3)粉末と三酸化鉄(Fe23)粉末と炭酸リチウム(Li2CO3)粉末を、Co:Fe:Li=0.7:0.3:1.0となるように混合する以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。この電池をBとする。
【0014】[実施例3]正極活物質として炭酸コバルト(CoCO3)粉末と三酸化鉄(Fe23)粉末と炭酸リチウム(Li2CO3)粉末を、Co:Fe:Li=0.6:0.4:1.0となるように混合する以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。この電池をCとする。
【0015】[実施例4]正極活物質として炭酸コバルト(CoCO3)粉末と五酸化バナジウム(V25)粉末と炭酸リチウム(Li2CO3)粉末を、Co:V:Li=0.7:0.3:1.0となるように混合する以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。この電池をDとする。
【0016】[比較例1]正極活物質として炭酸コバルト(CoCO3)粉末と水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)粉末と炭酸リチウム(Li2CO3)粉末を、Co:Mg:Li=0.9:0.1:1.0となるように混合する以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。この電池をEとする。
【0017】[比較例2]正極活物質として炭酸コバルト(CoCO3)粉末と炭酸リチウム(Li2CO3)粉末を、Co:Li=1.0:1.0となるように混合する以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。この電池をFとする。
【0018】以上6種類の電池を用いて充電電流2mA、充電終止電圧4.2V、放電電流2mA、放電終止電圧2.0Vの条件でサイクル試験を行った。この結果を図4に示す。図4より、LiCoO2のCoの一部をCoのイオン半径よりも小さいイオンの半径を有する金属で置換した電池A、B、C、及びDは、Coのイオン半径よりも大きいイオン半径を有する金属で置換した電池E、或るいは置換していない電池Fに比べてサイクル特性が優れていることがわかる。反対にCoのイオン半径よりも大きいイオン半径を有するMgで置換した電池Eは、何も置換していない電池Fに比べてサイクル特性が劣化している。
【0019】また、金属の置換量は10〜30モル%の範囲にある場合が効果的であり、これ以上増やすと、電池A、B及びCと比べて分かるように、サイクル特性は劣化していく。
【0020】[実施例5]正極活物質として三酸化鉄(Fe23)粉末と炭酸コバルト(CoCO3)粉末と炭酸リチウム(Li2CO3)粉末を、Fe:Co:Li=0.9:0.1:1.0となるように混合する以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。この電池をGとする。
【0021】[実施例6]正極活物質として三酸化鉄(Fe23)粉末と炭酸コバルト(CoCO3)粉末と炭酸リチウム(Li2CO3)粉末を、Fe:Co:Li=0.7:0.3:1.0となるように混合する以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。この電池をHとする。
【0022】[実施例7]正極活物質として三酸化鉄(Fe23)粉末と炭酸コバルト(CoCO3)粉末と炭酸リチウム(Li2CO3)粉末を、Fe:Co:Li=0.6:0.4:1.0となるように混合する以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。この電池をIとする。
【0023】[実施例8]正極活物質として三酸化鉄(Fe23)粉末と五酸化バナジウム(V25)粉末と炭酸リチウム(Li2CO3)粉末を、Fe:V:Li=0.9:0.1:1.0となるように混合する以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。この電池をJとする。
【0024】[比較例3]正極活物質として三酸化鉄(Fe23)粉末と水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)粉末と炭酸リチウム(Li2CO3)粉末を、Fe:Mg:Li=0.9:0.1:1.0となるように混合する以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。この電池をKとする。
【0025】[比較例4]正極活物質として三酸化鉄(Fe23)粉末と炭酸リチウム(Li2CO3)粉末を、Fe:Li=1.0:1.0となるように混合する以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。この電池をLとする。
【0026】実施例5〜8及び比較例9、10で作製した電池G〜Lを用いて充電電流2mA、充電終止電圧4.2V、放電電流2mA、放電終止電圧2.0Vの条件でサイクル試験を行った。この結果を図5に示す。図5より、LiFeO2のFeの一部をFeのイオン半径よりも小さいイオン半径を有する金属で置換した電池G、H、I、及びJは、Feのイオン半径よりも大きいイオン半径を有する金属で置換した電池K、或るいは置換していない電池Lに比べてサイクル特性が優れていることがわかる。
【0027】
【発明の効果】上述したように、正極活物質として一般式LiX1-YY2(ここで、Mは遷移金属、Aは遷移金属Mよりも小さいイオン半径を有し、且つそのカチオンが6配位する金属、X≦1.0、0.1≦Y≦0.4)で表される複合酸化物を用いることにより、結晶構造において酸素イオンが八面体内方に吸収されやすくなり、層間が広くなるため、リチウムイオンの挿入脱離が容易に進み、層間での移動もスムースに行えるので、充放電の繰り返しに伴う結晶構造の歪みや破壊が抑制でき、サイクル特性の向上に優れた非水電解液二次電池を提供することができ、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による扁平形電池の縦断面図である。
【図2】Lix1-YY結晶中のリチウムイオンの拡散概念図である。
【図3】LiXMO2結晶中のリチウムイオンの拡散概念図である。
【図4】本発明電池と比較電池によるサイクル特性比較図である。
【図5】本発明電池と比較電池によるサイクル特性比較図である。
【符号の説明】
1 負極
2 負極缶
3 正極
4 正極缶
5 セパレータ
6 絶縁パッキング
7 遷移金属イオン
8 酸素イオン
9 リチウムイオン
10 遷移金属よりもイオン半径の小さな金属イオン

【特許請求の範囲】
【請求項1】 一般式LiX1-YY2(ここで、Mは遷移金属、Aは遷移金属Mよりも小さいイオン半径を有し、且つそのカチオンが6配位する金属、X≦1.0、0.1≦Y≦0.4)で表される複合酸化物を活物質とする正極と、リチウム金属、リチウム合金、或るいはリチウムを吸蔵放出可能な炭素材料からなる負極と、非水電解液とを備えることを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項2】 前記遷移金属Mが、Co、Ni、Mn、及びFeからなる群から選択される少なくとも一種である請求項1記載の非水電解液二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開平5−283075
【公開日】平成5年(1993)10月29日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−77086
【出願日】平成4年(1992)3月31日
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)