説明

非水電解液二次電池

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は、非水電解液二次電池に関するものであり、特にLiMn2O4を正極活物質とする非水電解液電池の正極材の改良に関するものである。
〔発明の概要〕
本発明は、負極にリチウム,リチウム合金あるいは導電性高分子等を用い正極にLiMn2O4を用いた非水電解液二次電池において、前記正極中に導電剤として添加されるグラファイトの添加量を所定の範囲に規定することにより、高容量を有し充放電サイクル特性に優れた非水電解液二次電池を実現しようとするものである。
〔従来の技術〕
負極活物質としてリチウムを使用し電解液に非水電解液を使用した,いわゆる非水電解液電池は、自己放電が少なく保存性に優れた電池として知られており、特に5年〜10年という長期間使用が要求される電子腕時計や種々のメモリーバックアップ用電源として広く利用されるようになっている。
ところで、これら従来使用されている非水電解液電池は通常は一次電池であるが、長時間経済的に使用できる電源として再充電可能な非水電解液二次電池への要望が多く、各方面で研究が進められている。
かかる状況下で、非水電解液二次電池用の正極材についてもこれまで多くの研究,提案がなされてきたが、その代表的なものとして、負極にLi、正極にTiS2,MoS2,NbSe2,V2O5等が組み合わされ検討されてきた。
しかしながら、これらの正極材を使用した二次電池では、充放電を繰り返していくと急激に放電容量が減少してしまうという傾向を示し、サイクル特性の点で問題を残している。
さらに、これらの正極材は入手も困難で、大容量の二次電池を作成しようとすると製造コストが増大し、二次電池の主流となっているアルカリ蓄電池(いわゆるニッケルカドミウム電池)と比べても不利である。
そこで本願出願人は、先に高容量で優れた充放電特性を有する安価な正極材として炭酸リチウムまたはヨウ化リチウムと二酸化マンガンとから合成されるLiMn2O4を見出し、これを使用した二次電池を特願昭61−257479号明細書,特願昭62−107989号明細書等において提案した。
〔発明が解決しようとする問題点〕
本発明は前述のLiMn2O4を正極活物質とする非水電解液電池のより一層の改良の狙ったもので、特に放電容量のさらなる拡大,充放電サイクル特性の向上を目的とするものである。
〔問題点を解決するための手段〕
本発明者等は、先に炭酸リチウムまたはヨウ化リチウムと安価な二酸化マンガンから正極活物質として高容量で優れた充放電特性を有するLiMn2O4を合成することに成功したが、さらに種々の検討を重ねた結果、正極材の導電材としてグラファイトを添加し、さらにその添加量を所定の範囲に規制することでより一層の高容量を有し優れたサイクル特性を有する二次電池を得ることに成功した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであって、LiMn2O4及びグラファイトを主体とする正極と負極と非水電解液よりなり、グラファイトの割合が8〜22重量%であることを特徴とするものである。
本発明にかかる非水電解液二次電池の正極活物質として使用されるLiMn2O4は、例えば炭酸リチウムと二酸化マンガンを空気中や窒素等の不活性ガス雰囲気中等で400℃程度に加熱して反応させるか、またはヨウ化リチウムと二酸化マンガンとを同様の雰囲気中等で300℃程度に加熱し反応させることによって容易に得ることができるものである。
特に、FeKα線を使用してX線回折を行った際に、回折角46.1゜における回折ピークの半値幅が1.1゜〜2.1゜であるようなLiMn2O4を正極活物質として使用すれば、より優れた充放電特性が得られる。
前述の正極活物質には、導電剤としてグラファイトが添加されるが、本発明においてはこのグラファイトの添加量が重要で、正極活物質であるLiMn2O4とグラファイトの合計量中のグラファイトの割合が8〜22重量%となるように設定する。
グラファイトの添加量が8重量%未満であると、正極活物質の放電による体積収縮によって正極活物質粒子とグラファイト粒子の分離が起こり、容量が劣化する。逆にグラファイトの添加量が22重量%を越えると実質的に作用する正極活物質の量が減りやはり容量が劣化する。
グラファイトの添加量としては前述の範囲であるが、特に8.4〜21.1重量%とすることが好ましく、10.5〜15.8重量%とすることがより好ましい。
ところで、LiMn2O4を正極出発材料として用いた場合、充電・放電によるリチウムイオンのデインターカーレーション及びインターカーレーション反応により、正極活物質はLixMn2O4として存在し、xの値は下記の反応式に従って0.05≦x≦2の範囲にて変動する。


ここでxは放電前のxの値を表し、yは反応するリチウムイオン量を表す。
放電によりリチウムイオンのインターカーレーションが起こり、xの値は大きくなり、完全放電状態ではxの値は平均組成でx=2に達する。
また、充電によりリチウムイオンのデインターカーレーションが起こり、xの値は次第に小さくなり、完全充電状態ではxの値は平均組成で0.05に達する。
つまり、LiMn2O4を正極出発材料とする電池は、これを完全放電するとLiMn2O4+Li→2LiMnO2となり、再充電を完全に行うと、LiMnO→Li0.05Mn2O4+1.95Liと進む。
しかしながら、実使用では完全充電または完全放電されることはまれで、一般的には先の(A)式で平均組成を表すことができる。
そこで本発明では、正極活物質の状態にかかわらず、LiMn2O4に換算した時の重さで先のグラファイトの添加量を決めることとする。
一方負極に使用される物質としては、金属リチウム、リチウム合金(例えばLiAl,liPb,LiSn,LiBi,LiCd等)、リチウムイオンを結晶中に混入した層間化合物(例えばTiS2,MoS2等の層間にリチウムをはさんだもの。)、ポリアセチレン,ポリアニリン,ポリチオフェン等の導電性高分子、前述の導電性高分子にリチウムイオンをドーピングしたもの、ピッチ,高分子等を600〜14000℃程度で焼成したもの等のようにリチウムイオンが出入りできる程度に結晶性の悪い炭素等が挙げられる。
また、電解液には、リチウム塩を電解質としこれを有機溶剤に溶解した非水電解液が使用される。ここで有機溶剤としては、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン等の単独または2種以上の混合溶剤が使用できる。
電解質としては、LiClO4,LiAsF6,LiPF6,LiBF4,LiB(C6H5等の1種または2種以上を混合したもの等が使用可能である。
電池の形状としては、円筒型,コイン型,ボタン型等従来公知のものにいずれも適用可能である。
〔作用〕
LiMn2O4を正極活物質とし導電剤としてグラファイトを添加するとともに、LiMn2O4とグラファイトの合計量中のグラファイトの割合が8〜22重量%となるように設定することにより、正極活物質の放電による体積収縮によって生ずる正極活物質粒子とグラファイト粒子の分離が抑制され、実質的な放電容量が拡大されサイクル特性が改善される。
〔実施例〕
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されるものでないことは言うまでもない。
でないことは言うまでもない。
実施例1 本例は負極にリチウムを用いた円筒型(いわゆるジェリーロールタイプ)の電池に適用したものである。
先ず、市販の二酸化マンガン86.9gに18.5gの炭酸リチウムを加え、これを乳鉢にて充分に混合した。次いでこの混合物をアルミナボート上で450℃の温度にて空気中,1時間の焼成を行った。
冷却後、得られた生成物をX線分析したところ、第1図R>図に示すようなX線回折チャートを得た。これをASTMカードにおいて化学式LiMn2O4で示される物質のX線回折チャートと比較したところ、完全に合致した。
そこで次に、得られたLiMn2O4と導電剤であるグラファイトを用い、第2図に示すような円筒型の電池を作成した。
すなわち、前述の手法で得られたLiMn2O4に導電剤としてグラファイト(ロンザ社製KS−15,平均粒子径7μm)を第1表に示す割合で加えて混合し、さらに結合剤としてポリフッ化ビニリデン,分散剤としてN−メチル−2−ピロリドンを加えて湿式混合し、正極ペーストを作製した。
次に、この正極ペーストを長さ470mm,幅26mm,厚さ0.03mmのアルミニウム集電体両面に均一に塗布し、厚さ0.15m,重量5.1gの正極板(1)を作製した。
一方、長さ470mm,幅26mm,厚さ0.07mmのリチウム箔を負極(2)とし、先の正極板(1)とこの負極板(2)とを厚さ0.05mmのポリプロピレン製のセパレータ(3)を介してロール状に巻き取り、両端面に絶縁板(4)を配置して内径15.3mmのニッケルメッキを施した鉄製缶(5)に収納した。ここで、前記鉄製缶(5)の内周面には負極(2)が接することになり、したがって鉄製缶(5)は負極缶に相当することになる。
次いで、LiPF6を1モル/■の割合で溶解した炭酸プロピレンと1,2−ジメトキシエタンの混合電解液を前記鉄製缶(5)内に含浸せしめ、ガスケット(6)を介してやはりニッケルメッキを施した鉄よりなる蓋体(7)で封口した。なお、この蓋体(7)の内面には、正極板(1)と接続されるリード(8)が溶接され、したがってこの蓋体(7)が電池の正極缶となっている。
以上により、外径15.9mm,高さ33mmの円筒型電池A〜電池Hを組み立てた。
これら電池A〜電池Hについて、13Ωの定抵抗による終止電圧2.0Vまでの放電を行った後、3.9V終止電圧で60mA,9時間の充電を行い、これを1サイクルとしてサイクル寿命テストを実施した。
第1表に20サイクル目における容量の劣化率を示す。また、第3図にグラファイトの添加量と放電容量の関係を示す。
なお、容量劣化率は次式に従って求めた。




その結果、まず第1表からは、グラファイトを10.5重量%以上添加した電池D〜電池Hで容量劣化率が5%以下と少なく、優れたサイクル特性を示すことが判明した。これに対して、グラファイトを4.2重量%あるいは6.3重量%添加した電池A,電池Bでは、10%以上の容量劣化率を示している。
この容量劣化が生ずる原因は、LiMn2O4の放電による体積収縮により活物質粒子とグラファイト粒子の分離が生じ集電効果が低下するためであり、グラファイト添加量が少ないとこの影響が大きく現れてくることによるものと考えられる。
一方、前記第1表及び第3図から、グラファイトを8〜22重量%とした電池では20サイクル目でも400mAH以上、特にグラファイトを10.5〜15.8重量%添加した電池D,電池E,電池Fでは450mAH以上と非常に高い放電容量を有していることが確認された。これらサイクル特性や放電容量は、この種の電池の性能としては非常に優れたものであると言える。
なお、グラファイト26.4重量%添加した電池Hについては、容量劣化率は少ないものの、正極板(1)中の活物質含有量が少なくなり、放電容量が減少して実用上好ましくないものとなっている。
実施例2 本例は、第4図に示すような負極にLi−Al合金を用いたコイン型の電池に適用したものである。
先ず、先の実施例1と同様の手法により合成したLiMn2O4に導電剤としてグラファイト(ロンザ社製KS−15,平均粒子径7μm)を第2表に示す割合で加えて混合し、さらに結合剤としてポリフッ化ビニリデン,分散剤としてN−メチル−2−ピロリドンを加えて湿式混合し、正極ペーストを作製した。
次に、この正極ペーストを厚さ0.03mmのアルミニウム集電体両面に均一に塗布し、厚さ0.18mmの正極板を作製した後、直径15.5mmに打抜き重量0.096gの正極(11)とした。
一方、市販の厚さ0.3mmのアルミニウム板を直径15.5mmに打抜き、この打抜いたアルミニウム板をアノードカップ(12)にスポット溶接し、さらにその上に直径15mm,厚さ0.18mmのリチウム箔を打抜き圧着して負極(13)を作製した。
この負極(13)上にセパレータ(14)を置き、プラスチックのガスケット(15)を嵌め込み、電解液として1モル/■の割合でLiPF6と溶解した炭酸プロピレンと1,2−ジメトキシエタンの混合電解液を注入し、さらに先の正極(11)を入れてカソード缶(16)を被せてシールし、外径20mm,厚さ1.2mmのコイン型電池I〜電池Pをそれぞれ組み立てた。
これら電池I〜電池Pについて、1.5kΩの定抵抗による終止電圧2.0Vまでの放電を行った後、3.1V終止電圧で0.5mA,21時間の充電を行い、これを1サイクルとしてサイクル寿命テストを実施した。
第2表に20サイクル目における容量の劣化率を示す。また、第5図にグラファイトの添加量と放電容量の関係を示す。なお、容量劣化率は先の実施例1同様に求めた。


この第2表より、コイン型の電池においてもグラファイトを特に10.5重量%以上添加した電池L〜電池Pでは容量劣化率が少なく優れたサイクル特性を有していることがわかる。
また、第2表及び第5図より、グラファイト添加量を8重量%以上とすることで放電容量を大きくすることができ、特にグラファイト添加量10.5〜15.8重量%とした電池L,電池M,電池Nでは20サイクル目でも8mAH以上の放電容量が確保されることが判明した。
〔発明の効果〕
以上の説明からも明らかなように、本発明の非水電解液二次電池においては、LiMn2O4を正極出発材料とし、さらに導電剤として使用するグラファイトの添加量を所定の値に規制しているので、正極活物質の放電による体積収縮によって生ずる正極活物質粒子とグラファイト粒子の分離に起因する容量劣化を抑えることができ、優れたサイクル特性と高放電容量を有する二次電池とすることができ、その工業的価値は大である。
【図面の簡単な説明】
第1図は合成したLiMn2O4のX線回折結果を示す特性図である。
第2図は円筒型電池の構成例を示す一部破断側面図であり、第3図はかかる構成の円筒型電池におけるグラファイト添加量と放電容量の関係を示す特性図である。
第4図はコイン型電池の構成例を示す概略断面図であり、第5図はかかる構成のコイン型電池におけるグラファイト添加量と放電容量の関係を示す特性図である。
1……正極板
2……負極
11……正極
13……負極
3,14……セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】LiMn2O4及びグラファイトを主体とする正極と負極と非水電解液よりなり、上記LiMn2O4とグラファイトの合計量中のグラファイトの割合が8〜22重量%であることを特徴とする非水電解液二次電池。

【第1図】
image rotate


【第2図】
image rotate


【第3図】
image rotate


【第4図】
image rotate


【第5図】
image rotate


【特許番号】第2611265号
【登録日】平成9年(1997)2月27日
【発行日】平成9年(1997)5月21日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭62−261971
【出願日】昭和62年(1987)10月17日
【公開番号】特開平1−105459
【公開日】平成1年(1989)4月21日
【出願人】(999999999)ソニー株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭63−187569(JP,A)
【文献】特開 昭63−218156(JP,A)
【文献】特開 昭63−221559(JP,A)