説明

非水電解液及びこれを用いた蓄電デバイス

【課題】低温環境下におけるイオン伝導度の低下が抑制された非水電解液及びこれを用いた蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】本発明の非水電解液は、電解質(1)と、一般式(2);(XSO2)(X’SO2)N-Li+(X、X’は、フッ素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜6のフルオロアルキル基を表し、X、X’の少なくとも一方はフッ素原子である。)で表される化合物と、カーボネート系溶媒、を含み、電解質(1)と、一般式(2)で表される化合物の合計モル濃度が1.2mol/L以上であり、且つ、一般式(2)で表される化合物のモル濃度が0.2mol/L以上であるか、又は、上記一般式(2)で表される化合物と凝固点が−30℃以上の溶媒とを含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解液及びこれを用いた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
充電及び放電機構を有する二次電池や、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタといった各種蓄電デバイスでは、安全性の確保、サイクル特性やエネルギー密度の向上を目的として、さまざまな研究がなされている。
【0003】
特許文献1、2では、非水電解液面から電池特性の向上を試みる提案されており、特許文献1には、高温暴露時にも電池パッケージの膨張や、電解質の加水分解が生じ難い非水電解質として、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドとラクトンからなる非水電解液が開示されている。また、特許文献2には、電池の保存安定性やサイクル特性を向上させ得る非水電解液として、LiN(CF3SO2)2等と、LiPF6、LiBF4、LiCl
4又はLiAsF6の電解質を非水溶媒に溶解した非水電解液が開示されている。しかしながら、これらの特許文献においては、低温環境下(例えば、0℃以下)における非水電解液の性質、さらには、当該非水電解液を備えた電池等の低温環境下における使用については、検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−165151号公報
【特許文献2】特開平8−335465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、低温環境下におけるイオン伝導度の低下が抑制された非水電解液及びこれを用いた蓄電デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成し得た本発明の非水電解液は、電解質(1)と、一般式(2);(XSO2)(X’SO2)N-Li+(X、X’は、フッ素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜6のフルオロアルキル基を表し、X、X’の少なくとも一方はフッ素原子である。)で表される化合物と、カーボネート系溶媒、を含み、電解質(1)と、一般式(2)で表される化合物の合計モル濃度が1.2mol/L以上であり、且つ、一般式(2)で表される化合物のモル濃度が0.2mol/L以上であるところに特徴を有する(非水電解液(I))。
【0007】
上記電解質(1)は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)であるのが好ましい。
【0008】
上記非水電解液(I)の凝固点は、当該非水電解液に含まれる電解質(1)と一般式(2)で表される化合物との合計モル濃度(mol/L)と同一のモル濃度の電解質(1)を含む非水電解液の凝固点よりも低いものであるのが好ましい。また、上記非水電解液(I)の粘度が、当該非水電解液に含まれる電解質(1)と一般式(2)で表される化合物との合計モル濃度(mol/L)と同一のモル濃度(mol/L)の電解質(1)を含む非水電解液の粘度よりも低いものも好ましい。
【0009】
上記非水電解液(I)は、さらに、炭素炭素二重結合を有する環状カーボネートを含むものであるのが好ましい。また、本発明の非水電解液(I)において、一般式(2)で表される化合物が、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドであるのが望ましい。
【0010】
本発明には、上記一般式(2)で表される化合物と、凝固点が−30℃以上の溶媒とを含む非水電解液(非水電解液(II))も含まれる。
【0011】
本発明の非水電解液(II)は、一般式(2)で表される化合物とは異なる電解質を含むものであるのが好ましい。また、上記溶媒は、凝固点が−30℃以上の溶媒100質量%中、エチレンカーボネートの含有量が40質量%以上であるのが好ましい。さらに、非水電解液(II)が、一般式(2)で表される化合物を0.1mol/L以上含む態様、炭素炭素二重結合を有する環状カーボネートを含む態様、加えて、一般式(2)で表される化合物がリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドである態様は、非水電解液(II)の好ましい実施態様である。
【0012】
さらに、本発明には、上記非水電解液(I)又は非水電解液(II)を用いた蓄電デバイスも含まれる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の非水電解液は、低温環境下においても溶液状態を維持し、且つ、粘度の増大、及び、イオン伝導度の低下が抑制されたものである。したがって、本発明の非水電解液を使用した蓄電デバイスは、低温環境下でも作動し得るものになると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実験例4の結果を示すグラフである。
【図2】図2は、実験例6の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の非水電解液とは、
(I)電解質(1)と、一般式(2);(XSO2)(X’SO2)N-Li+(X、X’は、フッ素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜6のフルオロアルキル基を表し、X、X’の少なくとも一方はフッ素原子である。以下、化合物(2)と称する場合がある。)で表される化合物と、カーボネート系溶媒を含み、電解質(1)と、一般式(2)で表される化合物の合計モル濃度が1.2mol/L以上であり、且つ、一般式(2)で表される化合物のモル濃度が0.2mol/L以上であるか(以下、非水電解液(I)と称する)、又は、
(II)上記化合物(2)と、凝固点が−30℃以上の溶媒とを含む(以下、非水電解液(II)と称する)、
ところに特徴を有する。
【0016】
本発明者らは、より高性能な蓄電デバイスを開発すべく検討を重ねていたところ、驚くべきことに、(I)電解質(1)に加えて、化合物(2)を含み、且つ、電解質(1)と化合物(2)とを特定の濃度で含む非水電解液は、低温環境下においても溶液状態を維持でき、また、非水電解液の粘度の増大が抑制される結果、イオン伝導度が化合物(2)を含まない非水電解液と比較して高いこと、また、(II)化合物(2)と溶媒とを混合することで、溶媒単独の凝固点よりも低い凝固点を有する非水電解液となることを見出し、本発明を完成した。以下、本発明について説明する。
【0017】
<非水電解液(I)>
[電解質(1)]
電解質(1)とは、本発明の非水電解液(I)中でイオンに解離して、電荷のキャリアとして機能する物質である。本発明は、電解質(1)に加えて、化合物(2)を使用するところに要旨を有するものであるので、電解質(1)については特に限定されず、各種蓄電デバイスの電解液において電解質として用いられる従来公知の電解質はいずれも使用することができる。電解質(1)としては、電解液中での解離定数が大きく、また、後述する溶媒と溶媒和し難いアニオンを生成するものが好ましい。具体的には、LiPF6、L
iClO4、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6、LiAlO4、LiAlCl4、LiCl及びLiIよりなる群から選択される1種以上の化合物等が本発明に係る電解質(1)として用いられる。これらの中でも、LiPF6、LiBF4が好ましく、より好ましくはLiPF6である。上記電解質(1)は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
電解質(1)の濃度は、0.05mol/L以上、2.5mol/L以下である事が好ましい。より好ましくは0.1mol/L〜2.0mol/Lであり、さらに好ましくは0.15mol/L〜1.8mol/Lである。
【0019】
[化合物(2)]
本発明の非水電解液(I)は、一般式(2);(XSO2)(X’SO2)N-Li+で表される化合物(2)を含む。電解質(1)と同様、化合物(2)も電解液中においてアニオンとカチオンに解離するため、電荷のキャリアの供給源ともなり得るものである。したがって、化合物(2)のみを電解質(1)に代えて用いることも考えられるが、本発明者らは、電解質(1)に加えて、化合物(2)を特定濃度で使用することにより、電荷のキャリアとしての機能以外に、非水電解液の凝固点を低下させ、且つ、非水電解液の粘度上昇を抑制させ得ることを見出した。
【0020】
上記一般式(2)中、X、X’は、フッ素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜6のフルオロアルキル基を表し、X、X’の少なくとも一方はフッ素原子である。炭素数1〜6アルキル基としては、直鎖状又は分枝状のアルキル基であるのが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられる。炭素数1〜6のフルオロアルキル基としては、上記アルキル基が有する水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されたものが挙げられ、例えば、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、フルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基等が挙げられる。上記アルキル基又はフルオロアルキル基の中でも、フッ素原子、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基が好ましい。好ましい化合物(2)としては、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(メチルスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(エチルスルホニル)イミドが挙げられ、より好ましくはリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドであり、更に好ましくはリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドである。
【0021】
化合物(2)は、市販品を使用してもよく、また、従来公知の方法により合成した物を用いてもよい。
【0022】
本発明の非水電解液(I)における化合物(2)の濃度は、0.2mol/L以上、2.5mol/L以下である事が好ましい。より好ましくは0.2mol/L〜2.0mol/Lであり、さらに好ましくは0.2mol/L〜1.8mol/Lである。
【0023】
本発明の非水電解液(I)に含まれる電解質の総濃度(電解質(1)及び化合物(2)の合計は、1.2mol/L以上、2.5mol/L以下であるのが好ましい。より好ましくは1.2mol/L〜2.0mol/Lであり、さらに好ましくは1.2mol/L〜1.8mol/Lである。総電解質量が2.5mol/L以上になると、電解液の粘度が高くなり、リチウムイオンの動きが抑制されて電池としての機能を十分発揮できなくなる場合がある。一方、総電解質量が1.2mol/L未満であると、リチウムイオンが少ない為に電池の容量が低くなってしまい、電池の性能が低いものとなってしまう場合がある。
【0024】
なお、上記電解質(1)と一般式(2)で表される化合物の合計を100mol%としたときに化合物(2)が50mol%以下(0mol%は含まない)である(すなわち、電解質(1)は、50mol%以上)。化合物(2)の配合量は、5mol%以上であるのが好ましく、より好ましくは8mol%以上であり、さらに好ましくは10mol%以上である。LiFSIの配合量が少なすぎると、低温環境下において使用し難い場合がある。
【0025】
[溶媒]
本発明の非水電解液(I)を調製するにあたり、上記電解質を溶解させる溶媒としては、従来、非水電解液に使用されている種々の非水溶媒を使用することができる。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの飽和環状カーボネート類;ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,1−ジメトキシエタン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンなどのエーテル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトンなどのラクトン類;プロピオン酸メチルや酪酸メチルなどの鎖状カルボン酸エステル類などを使用することができる。これらの非水溶媒の中でも飽和環状カーボネート類、鎖状カーボネート類等のカーボネート系溶媒は、電圧印加時に分解しにくく安定であるため好ましく使用できる。
【0026】
なお、上記非水溶媒は単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。2種以上の非水溶媒を使用する場合においては、飽和環状カーボネート類を必須の溶媒として含むものが好ましく、この場合、混合溶媒中の環状カーボネートの含有量は5質量%以上であるのが好ましい。より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは20質量%以上であり、95質量%以下であるのが好ましく、より好ましくは90質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以下である。飽和環状カーボネートとしてはエチレンカーボネートが好ましい。
【0027】
[添加剤]
本発明の非水電解液(I)は添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、炭素炭素二重結合(C=C)を有する環状カーボネートが挙げられる。これらの添加剤が非水電解液に含まれていると、当該非水電解液を蓄電デバイスに使用した場合に、電極表面に皮膜を形成し、電極の劣化、さらには電解液の分解等を抑制することができる。上記炭素炭素二重結合を有する環状カーボネートの中でも、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、メチルビニレンカーボネート(MVC)、エチルビニレンカーボネート(EVC)が好ましい。より好ましくはビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートであり、更に好ましくはビニレンカーボネートである。
【0028】
本発明の非水電解液(I)における添加剤の濃度は0.1質量%〜10質量%であるのが好ましい。より好ましくは0.1質量%〜5質量%である。
【0029】
[凝固点、粘度]
本発明の非水電解液(I)は、
(1)非水電解液(I)の凝固点が、非水電解液(I)に含まれる電解質(1)と化合物(2)との合計モル濃度(mol/L)と同一のモル濃度の電解質(1)を含む非水電解液(I’)の凝固点よりも低いもの、及び/又は、
(2)非水電解液(I)の粘度が、非水電解液(I)に含まれる電解質(1)と化合物(2)との合計モル濃度(mol/L)と同一のモル濃度(mol/L)の電解質(1)を含む非水電解液(I’)の粘度よりも低いもの、
であるのが好ましい。
【0030】
本発明の非水電解液(I)は、電解質(1)と、化合物(2)で表される化合物を電解液中に含むことにより、電解質(1)のみを同じモル濃度で含有する非水電解液と比較して凝固点、粘度が低下するという特徴を有する。このように凝固点や粘度が低下する詳細な理由は不明であるが、化合物(2)の溶媒との高い親和性により、化合物(2)を非水電解液(I)の必須成分とすることで、非水電解液の粘度、凝固点が低下するものと考えられる。
【0031】
非水電解液の凝固点が低ければ、低温環境下においても非水電解液を溶液の状態に維持できる。したがって、本発明の非水電解液(I)を蓄電デバイスに用いることで、温度の低下に由来する蓄電デバイス性能の低下を抑制できる。なお、本発明の非水電解液(I)の凝固点は特に限定されないが、例えば−20℃以下であるのが好ましく、より好ましくは−25℃以下である。
【0032】
非水電解液(I)の凝固点と、非水電解液(I’)の凝固点との差は2℃以上であるのが好ましく、より好ましくは3℃以上であり、さらに好ましくは5℃以上である。また、非水電解液(I)の凝固点と、非水電解液(I’)の凝固点との差の上限は50℃程度であればよい。
【0033】
一方、非水電解液の粘度は、電解液中におけるイオンの伝導性に影響を及ぼす。すなわち、粘度が高すぎる場合にはイオンの移動が停滞するため、十分なイオン伝導度が得られ難くなる傾向がある。また、粘度は、温度が低下するほどその値が増大する傾向があるが、電解質(1)に加えて化合物(2)を併用した本発明の非水電解液(I)は、温度が低下した場合であっても、化合物(2)を併用しない場合に比べて粘度の上昇が抑制されており、低温環境下における使用に適するものと考えられる。
【0034】
なお、本発明において、凝固点は、示差走査熱量計を使用して、所定条件下でDSC測定を行った場合に、降温中のDSC曲線に確認される最初のピークの温度であり、一方、粘度はコーンプレート型粘度計を用いてJISK7117−2で規定される測定方法に準じて測定される値である。これらの測定方法については、実施例において詳述する。
【0035】
<非水電解液(II)>
本発明の非水電解液(II)は、上記化合物(2)と、凝固点が−30℃以上の溶媒とを含むところに要旨を有する。本発明者らは、低温特性に優れる非水電解液について検討を重ねていたところ、上記化合物(2)と凝固点−30℃以上の特定の溶媒との親和性が高いこと、また、当該混合物が、溶媒単独の凝固点よりも低い凝固点を示すことを見出した。
【0036】
[化合物(2)]
化合物(2)としては、非水電解液(I)と同じものが使用できる。非水電解液(II)中の化合物(2)の濃度は0.05mol/L以上、飽和濃度以下とするのが好ましい。より好ましくは0.1mol/L以上、2.5mol/L以下であり、更に好ましくは0.1mol/L以上、2mol/L以下である。
【0037】
[凝固点−30℃以上の溶媒]
非水電解液(II)の溶媒は、電解質等の溶質を含まない状態での凝固点が−30℃以上であれば、1種の溶媒を単独で使用してもよく、2種以上の溶媒を混合して使用してもよい。2種以上の溶媒を混合する場合は、凝固点が−30℃以上の溶媒を2種以上混合してもよく、また、凝固点が−30℃以上の溶媒と、凝固点が−30℃未満の溶媒とを夫々1種以上混合して用いてもよい。
【0038】
非水電解液(II)の溶媒としては、非水電解液(I)の溶媒として例示した非水溶媒を使用することができる。上記非水溶媒の内、凝固点が−30℃以上の溶媒としては、エチレンカーボネート、2,3−ブチレンカーボネートなどの飽和環状カーボネート類;ジメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類;1,4−ジキサンなどのエーテル類;が挙げられる。一方、凝固点が−30℃未満の溶媒としては、プロピレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの飽和環状カーボネート類;エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,1−ジメトキシエタン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンなどのエーテル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトンなどのラクトン類;プロピオン酸メチルや酪酸メチル等の鎖状カルボン酸エステル類;が挙げられる。
【0039】
上記非水溶媒の中でも、常温(25℃)で固体のカーボネート類、もしくは、常温で固体のカーボネート類と上述の非水溶媒を1種以上含み、凝固点が−30℃以上の混合溶媒が、非水電解液(II)の溶媒として好適である。本発明者らは、上記化合物(2)はカーボネート類との親和性が特に高く、化合物(2)と溶媒として用いるカーボネート類とがいずれも固体状態であっても、これらを混合すると、互いに相溶し、液体状態の混合物となることを見出した。
【0040】
上記非水溶媒の中でもカーボネート系の溶媒は、電解液用の溶媒として汎用されている。しかしながら、エチレンカーボネートのように常温で固体のカーボネート類は、融点が高く、流動性が低いため、単独もしくは高含有量では電解液に使用し難いといった問題があり、従来、比較的融点の低い溶媒、例えば、エチルメチルカーボネート(EMC)やジメチルカーボネート(DMC)等の鎖状カーボネート、プロピレンカーボネート等の飽和環状カーボネートとの混合溶媒として電解液に用いられてきた。しかしながら、本発明者らが見出したように、エチレンカーボネートなどの常温固体のカーボネート類と化合物(2)(常温で固体)とは親和性が高く、これらを混合することで液体状態の混合物が得られる。したがって、化合物(2)を必須の電解質とする場合には、常温で固体のカーボネート類を単独もしくは高含有量で非水電解液の溶媒として使用することができる。これにより、電解液が高温環境下で使用される場合においても、低沸点溶媒の気化や分解に起因する電池パッケージの膨張といった問題の発生を防止でき、より安全な蓄電デバイスの提供が可能となる。また、化合物(2)を必須の電解質とする場合には、非水電解液(II)は、溶媒単独、更には、化合物(2)以外の他の電解質を用いた電解液よりも低い凝固点を示すものとなるので、低温環境下での使用にも好適に用いられるものと考えられる。
【0041】
常温で固体の溶媒としては、エチレンカーボネート、2,3−ブチレンカーボネートが挙げられる。これらの中でも、エチレンカーボネートが好ましい。常温で固体の溶媒の使用量は、総溶媒量に対して30体積%以上であるのが好ましい。より好ましくは40体積%以上であり、より一層好ましくは45体積%以上であり、さらに好ましくは50体積%以上であり、さらに一層好ましくは60体積%以上である。
【0042】
常温で固体の溶媒を他の非水溶媒(例えば、常温で液体状態の溶媒)と組み合わせて使用する場合、他の非水溶媒の使用量は、溶媒総量に対して70体積%以下とするのが好ましく、より好ましくは60体積%以下であり、より一層好ましくは55体積%以下であり、さらに好ましくは50体積%以下であり、さらに一層好ましくは40体積%以下である。
【0043】
[その他]
非水電解液(II)は、他に、添加剤や、他の電解質を含んでいてもよい。添加剤としては、上記非水電解液(I)の添加剤や従来公知の添加剤が挙げられる。一方、他の電解質としては、非水電解液(I)の電解質(1)等、従来公知の電解質はいずれも使用できる。非水電解液(II)中の添加剤濃度は、0.1質量%以上、10質量%以下とするのが好ましい(より好ましくは0.1質量%以上、5質量%以下)。一方、他の電解質の濃度は、0mol/L以上、3mol/L以下(より好ましくは0mol/L以上、2.5mol/L以下、更に好ましくは0mol/L以上、2mol/L以下)とすることが推奨される。尚、非水電解液(II)中における電解質濃度(化合物(2)と他の電解質との総量)は、0.1mol/L以上であるのが好ましい。より好ましくは0.1mol/L〜2.5mol/Lであり、更に好ましくは0.5mol/L〜2mol/Lである。
【0044】
[蓄電デバイス]
本発明の非水電解液(I)、(II)は、低温環境下における使用に適したものである。したがって、本発明の非水電解液は、一次電池、リチウム(イオン)二次電池、燃料電池などの充電及び放電機構を有する電池の他、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、太陽電池といった各種蓄電デバイスに好適に用いられる。なお、各種蓄電デバイスの構造は特に限定されず、本発明の電解液は公知の蓄電デバイスに適用可能である。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0046】
実験例1 凝固点測定
実験例1−1
電解質(1)としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6、キシダ化学株式会社製、LBGグレード)1.52g(1mol/L)を10mLのメスフラスコに測り取り、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)(いずれも、キシダ化学株式会社製、LBGグレード)の体積比が1/1((EC/EMC)である混合溶媒でメスアップして電解液を調製した。得られた電解液を10mgアルミパンに入れ、示差走査熱量計(DSC6220、セイコーインスツル株式会社製)を用いて示差走査熱量分析(DSC)を行った。測定条件は2℃/minで−80℃から50℃まで測定試料を降昇温し、それぞれの設定温度(−80℃、50℃)に達した後、同設定温度で3分間保持した。降温中に確認できた最初のピークを凝固点とした。3サイクル測定し、後の2サイクルをデータとして採用し、平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0047】
実験例1−2
電解質(1)としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6、キシダ化学株式会社製、LBGグレード)1.37g(0.9mol/L)、化合物(2)としてリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI、株式会社日本触媒製)0.19g(0.1mol/L)を用いた事以外は実験例1−1と同様にして凝固点の測定を行った。
【0048】
実験例1−3
電解質(1)としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6、キシダ化学株式会社製、LBGグレード)1.14g(0.75mol/L)、化合物(2)としてリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI、株式会社日本触媒製)0.47g(0.25mol/L)を用いた事以外は実験例1−1と同様にして凝固点の測定を行った。
【0049】
実験例1−4
電解質(1)としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6、キシダ化学株式会社製、LBGグレード)0.76g(0.5mol/L)、化合物(2)としてリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI、株式会社日本触媒製)0.94g(0.5mol/L)を用いた事以外は実験例1−1と同様にして凝固点の測定を行った。結果を表1に示す。比較のため、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの混合溶媒(EC/EMC=1/1、体積比)のみを試料溶液としてDSC測定を行った結果を参考例1として示す。
【0050】
実験例1−5〜1−7
電解質濃度を表1に示すように変更したこと以外は、実験例1−1と同様にして凝固点の測定を行った。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1中、LiPF6はヘキサフルオロリン酸リチウム、LiFSIはリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを示す。また、各セルの下段には、10mlの電解液を調製するのに使用した電解質(1)又は化合物(2)の量を括弧書きで示した(以下の表においても同様)。
【0053】
実験例1−8〜1−10
溶媒として、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との体積比が3/7(EC/EMC)である混合溶媒を用いたこと以外は、実験例1−1、1−2及び1−4と同様にして、凝固点の測定を行った。結果を表2に示す。比較のため、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの混合溶媒(EC/EMC=3/7、体積比)のみを試料溶液としてDSC測定を行った結果を参考例2として示す。
【0054】
実験例1−11〜1−13
電解質濃度を表2に示すように変更したこと以外は、実験例1−1と同様にして、凝固点の測定を行った。結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
表2中、「N.D.」は−80℃まで、DSC曲線に発熱ピークが見られなかったことを意味する(表3においても同様)。
【0057】
実験例1−14〜1−15
溶媒としてエチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とプロピレンカーボネート(PC)との体積比が4.5/4.5/1(EC/EMC/PC、各溶媒はキシダ化学株式会社製、LBGグレード)を用いたこと、電解質濃度を表3に示すように変更したこと以外は、実験例1−1と同様にして試料溶液を調製し、凝固点の測定をした。比較のため、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート及びプロピレンカーボネート(EC/EMC/PC=4.5/4.5/1、体積比)のみを試料溶液として凝固点の測定を行った結果を参考例3として示す。
【0058】
【表3】

【0059】
表1〜3より、電解質(1)に加えて化合物(2)(LiFSI)を使用することにより、非水電解液の凝固点が低下することが確認された。この結果より、本発明の非水電解液を使用することで、低温環境下でも電池性能の低下が生じ難い電池が得られるものと考えられる。
【0060】
実験例2 粘度の測定
実験例2−1〜2−6
溶媒としてエチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)(EC/EMC=3/7(体積比)、キシダ化学株式会社製、LBGグレード)を用い、電解質濃度を表4に示すように変更したこと以外は、実験例1−1と同様にして試料溶液を調製した。BROOKFIELD社製コーンプレート型粘度計(コーン:CP10)を用いて、JISK7117−2に準じて、試料溶液の粘度の測定を行った。測定は、サンプルカップに試料溶液を約2ml入れて、徐々に回転数を上げてトルクが50〜80%となるように回転数を調整して行った。50℃〜−30℃における試料溶液の粘度を測定した結果を表4に示す。
【0061】
【表4】

【0062】
表4より、電解質(1)を単独で用いた実験例2−1では、温度の低下にしたがって、粘度が上昇することが確認できるが、電解質(1)に加えて化合物(2)(LiFSI)を用いることで、試料溶液中の電解質の質量分率が増加しても、低温環境下における粘度上昇を抑制できることが分かる。
【0063】
実験例2−7〜2−9
溶媒としてエチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)(EC/EMC=1/1(体積比)、キシダ化学株式会社製、LBGグレード)を用いたこと、電解質濃度を表5に示すように変更したこと以外は、実験例1と同様にして試料溶液を調製した。実験例2−1等と同様に、BROOKFIELD社製コーンプレート型粘度計(コーン:CP10)を使用して、50℃〜−25℃における試料溶液の粘度を測定した。結果を表5に示す。
【0064】
【表5】

【0065】
実験例2−10〜2−12
溶媒としてエチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)/プロピレンカーボネート(PC)(EC/EMC/PC=4.5/4.5/1(体積比)、各溶媒はキシダ化学株式会社製、LBGグレード)の混合溶媒を用いたこと、電解質濃度を表6に示すように変更したこと以外は、実験例1と同様にして試料溶液を調製して凝固点の測定をした。
【0066】
【表6】

【0067】
表4〜6より、溶媒組成が変わっても、実験例2−1、2−2の場合と同様に、電解質(1)に加えて化合物(2)(LiFSI)を用いることで、温度の低下による粘度の上昇を抑制できることが分かる。
【0068】
実験例3 イオン伝導度の測定
実験例3−1〜3−8
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)(いずれも、キシダ化学株式会社製、LBGグレード)の体積比が3/7(EC/EMC)である混合溶媒を使用し、電解質(1)と化合物(2)の濃度を表7に示すように変更したこと以外は、実験例1と同様にして、試料溶液(非水電解液)を調製した。次いで、ソーラトロン社製の「IMPEDANCE ANALYZER SI 1260」を用いて試料溶液のイオン伝導度を測定した。結果を表7に示す。
【0069】
【表7】

【0070】
実験例3−9〜3−11
溶媒としてエチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピレンカーボネート(PC)の体積比が4.5/4.5/1(各溶媒はキシダ化学株式会社製、LBGグレード)である混合溶媒を用いたこと、電解質濃度を表8に示すように変更したこと以外は、実験例1と同様にして試料溶液を調製して凝固点の測定をした。結果を表8に示す。
【0071】
【表8】

【0072】
表7、8より、溶媒組成が変わっても電解質(1)を単独で使用した電解液よりも、総電解質が同じで電解質(1)に加えて化合物(2)(LiFSI)も使用した電解液の方がいずれの温度においても高い伝導度を示す事が分かった。
【0073】
以上、実験例1〜3の結果より、従来のリチウムイオン二次電池の電解質(1)であるLiPF6の一部を化合物(2)(LiFSI)に置き換えることによって、低温下にお
ける電解液の特性を向上できることが確認できた。したがって、上記実験例の結果より本発明の非水電解液を用いることにより、低い温度領域での電池特性が改善される事が示唆される。
【0074】
実験例4 充放電サイクル試験
実験例4−1〜4−5
[電解液の調製]
表9に示す濃度となるように電解質(1)、化合物(2)及び添加剤を、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネートが体積比で3/7(EC/EMC、いずれもキシダ化学株式会社製、LBGグレード)の混合溶媒に溶解させて電解液を調製した。
【0075】
[ラミネートセルの作製と試験前の充放電]
正極活物質層の面積が12cm2(3×4cm)の市販の正極シート(活物質:コバルト酸リチウム、3mAh/cm2)1枚と、負極活物質層の面積が13.44cm2(3.2×4.2cm)の市販の負極シート(活物質:グラファイト、3.2mAh/cm2)1枚とを対向するように積層し、その間に1枚のポリオレフィン系セパレータを挟んだ。2枚のアルミニウムラミネートフィルムで正、負極のシートを挟み込み、アルミニウムラミネートフィルム内を電解液で満たし、真空状態で密閉した。
【0076】
充放電試験装置(ACD−01、アスカ電子株式会社製)を使用して、30℃で充放電速度0.2C(定電流モード)、3.5V〜4.2Vで1度充放電を行った後、ラミネートセルを開封してから、再度真空状態で密閉した。同条件で充放電を5回繰り返してラミネート型リチウム電池を完成させた。
【0077】
[充放電サイクル試験]
得られたラミネート型リチウム電池について、充放電試験装置(ACD−01、アスカ電子株式会社製)を用いて、30℃で充放電速度0.2C(定電流モード)、3.5V〜4.2Vで各充放電時には10分の充放電休止時間を設けて、サイクル試験(210回〜240回)を行った。結果を表9及び図1に示す。
【0078】
【表9】

【0079】
LiPF6:ヘキサフルオロリン酸リチウム(キシダ化学株式会社製、LBGグレード)
LiFSI:リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド (株式会社日本触媒製)
LiTFSI:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(キシダ化学株式
会社製、LBGグレード)
VC:ビニレンカーボネート(キシダ化学株式会社製、LBGグレード)
【0080】
表9より、電解質(1)に加えて、化合物(2)としてLiFSI(実験例4−2)を使用することで、これを使用しない場合(実験例4−1、4−4)に比べて、サイクル特性を向上させられることが分かる。また、LiFSIに加えて添加剤(VC)を使用すれば、サイクル特性を一層向上させられることがわかる(実験例4−3、図1)。なお、実験例4−5に係る電解液には電解質(1)しか含まれていないため、実験例2の結果から、LiFSIを含む実験例4−2、4−3に比べて低温特性に劣るものと考えられる。上記結果より、本発明に係る非水電解液を用いた実験例4−2、4−3のラミネート型リチウム電池は、低温下においても、良好な電池特性を示すものと期待できる。
【0081】
実験例5 凝固点測定、溶解性評価
実験例5−1〜5−11
エチレンカーボネート(EC)単独、又は、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との体積比が1/1(EC/EMC)である混合溶媒を溶媒として用いたこと、LiPF6とLiFSIの濃度を表10、表11に示すように変更したこと以外は、実験例1と同様にして、凝固点の測定及び溶解性の評価を行った。なお、溶解性は、混合物が液体状であるか否か、固体状の成分が残留しているか否かを、目視により評価した。結果を表10、表11に示す。
【0082】
【表10】

【0083】
【表11】

【0084】
表10、11中、「不溶」とは、混合物中に固体状の成分が残留していたことを示す。
【0085】
凝固点が36℃であり、常温(25℃)では固体であるエチレンカーボネート(EC)への、LiPF6とLiFSI(いずれも常温で固体)の溶解性を確認したところ、LiPF6とエチレンカーボネートとは、混合しても、互いに固体状のままで液体にはならなかったのに対して(実験例5−1)、LiFSIはエチレンカーボネートと相溶して液体状態となり、凝固点が−9.9℃となることが判明した。また、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの体積比が1/1である混合溶媒に、LiPF6、LiFSIを夫々混合した場合には、LiFSIを含む混合物の凝固点は−55.5℃にまで低下した(実験例5−5)。実験例5−5の凝固点は、混合溶媒のみ(実験例5−3、凝固点6.2℃)、混合溶媒とLiPF6を含む場合(実験例5−4、凝固点−21.1℃)に比べて、30℃以上も大きく下回るものである。さらに、エチレンカーボネートの含有量を75体積%にまで高めた場合においても同様の傾向が見られた(実験例5−9〜5−11)。
【0086】
この結果より、LiFSIに代表される化合物(2)は、エチレンカーボネート等の環状カーボネート類との親和性が高く、両者を混合することで、凝固点の低い混合物(電解液)が得られることが分かる。したがって、化合物(2)と凝固点が−30℃以上の溶媒とを含む本発明の非水電解液は、低温環境下においても凝固し難く、流動性を有するものであることが分かる。
【0087】
実験例6 低温特性試験
[ラミネートセルの作製と試験前の充放電]
電解液は、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの体積比が3/7の混合溶媒に、表12に示す濃度となるように電解質を溶解させて調製した。
ラミネートセルの作製と試験前の充放電は、正極シート(活物質:LiNi1/3Mn1/3Co1/3、2mAh/cm2)と負極シート(活物質:人造黒鉛、2.2mAh/cm2)を用いたこと以外は、実験例4と同様にしてラミネート型リチウム電池を完成させた。
【0088】
[低温特性試験]
得られたラミネート型リチウム電池について、充放電試験装置(ACD−01、アスカ電子株式会社製)を用いて、充電は25℃、充電速度0.2C(定電流モード)で、4.2Vまで行い、25℃の環境下、放電速度0.2Cで3Vまで放電した時の放電容量を基準とした。低温での特性を測定する時の充電は25℃で同様に行い、−30℃で、放電速度0.2C,0.5C,1.0C,2.0Cで3.0Vまで放電したときの放電特性を測定した。結果を表12と図2に示す。なお、表12中、放電容量維持率とは25℃における放電容量(100%)に対する放電容量の各温度における放電容量の割合を意味する。
【0089】
【表12】

【0090】
表12及び図2より、化合物(2)を所定量含む実験例6−2の電解液は、これを含まない実験例6−1の電解液に比べて、−30℃の低温環境下における放電容量の低下が抑制されていることが分かる。この結果より、本発明の電解液は、低温環境下で使用されるデバイスにも好適に用いられることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質(1)と、一般式(2);(XSO2)(X’SO2)N-Li+(X、X’は、フッ素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜6のフルオロアルキル基を表し、X、X’の少なくとも一方はフッ素原子である。)で表される化合物と、カーボネート系溶媒、を含み、
電解質(1)と、一般式(2)で表される化合物の合計モル濃度が1.2mol/L以上であり、且つ、一般式(2)で表される化合物のモル濃度が0.2mol/L以上であることを特徴とする非水電解液。
【請求項2】
上記電解質(1)がヘキサフルオロリン酸リチウムである請求項1に記載の非水電解液。
【請求項3】
上記非水電解液の凝固点が、当該非水電解液に含まれる電解質(1)と一般式(2)で表される化合物との合計モル濃度(mol/L)と同一のモル濃度の電解質(1)を含む非水電解液の凝固点よりも低いものである請求項1又は2に記載の非水電解液。
【請求項4】
上記非水電解液の粘度が、当該非水電解液に含まれる電解質(1)と一般式(2)で表される化合物との合計モル濃度(mol/L)と同一のモル濃度の電解質(1)を含む非水電解液の粘度よりも低いものである請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解液。
【請求項5】
炭素炭素二重結合を有する環状カーボネートを含む請求項1〜4のいずれかに記載の非水電解液。
【請求項6】
一般式(2)で表される化合物が、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドである請求項1〜5のいずれかに記載の非水電解液。
【請求項7】
一般式(2);(XSO2)(X’SO2)N-Li+(X、X’は、フッ素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜6のフルオロアルキル基を表し、X、X’の少なくとも一方はフッ素原子である。)で表される化合物と、凝固点が−30℃以上の溶媒とを含むことを特徴とする非水電解液。
【請求項8】
上記一般式(2)で表される化合物とは異なる電解質を含む請求項7に記載の非水電解液。
【請求項9】
凝固点が−30℃以上の溶媒100質量%中、エチレンカーボネートの含有量が40質量%以上である請求項7又は8に記載の非水電解液。
【請求項10】
上記一般式(2)で表される化合物を0.1mol/L以上含む請求項7〜9のいずれかに記載の非水電解液。
【請求項11】
炭素炭素二重結合を有する環状カーボネートを含む請求項7〜10のいずれかに記載の非水電解液。
【請求項12】
一般式(2)で表される化合物が、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドである請求項7〜11のいずれかに記載の非水電解液。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれかに記載の非水電解液を用いた蓄電デバイス。
【請求項14】
請求項7〜12のいずれかに記載の非水電解液を用いた蓄電デバイス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−101900(P2013−101900A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−39396(P2012−39396)
【出願日】平成24年2月24日(2012.2.24)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】