説明

非水電解液用の高純度含フッ素リン酸エステル

【課題】
非水電解液として用いられる含フッ素リン酸エステルに関して、不純物含量を特定量未満とすることによりサイクル特性を制御可能な高純度の含フッ素リン酸エステル及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
一般式(1)
【化1】


(1)
(式中、Rf、Rf及びRf3は同一または非同一の炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10の含フッ素アルキル基または水素原子であり、Rf1〜Rfの少なくとも一つが含フッ素アルキル基である。)
で表される非水電解液用の含フッ素リン酸エステルであって、
含フッ素リン酸エステル中に含まれるハロゲンイオンの含量が重量比で10ppm未満であり、且つ、含フッ素ホスファイトの含有量が重量比で0.1%未満であることを特徴とする非水電解液用の高純度含フッ素リン酸エステル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液の難燃剤として用いられる含フッ素リン酸エステルに関する。より詳細には、不純物含量の少ない高純度の非水電解液用の含フッ素リン酸エステル、その製造方法、及びこれを含む非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水系二次電池は、高出力密度、高エネルギー密度を有し、携帯電話、パーソナルコンピューター等の電源として汎用されている。また、近年は、二酸化炭素排出量の少ないクリーンなエネルギーとして、電力貯蔵用電源、電気自動車用電源として、盛んに研究されている。
【0003】
非水系二次電池としては、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池、マグネシウムイオン二次電池等が知られている。例えば、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池の場合は、正極にリチウム含有遷移金属酸化物を主要構成成分とする材料が設けられ、負極には金属リチウムまたはリチウム合金が用いられる場合、あるいは、グラファイトに代表される炭素質材料を主要構成成分とする材料が用いられる場合等がある。これらはそれぞれリチウム二次電池、リチウムイオン二次電池と称される。正極、負極は、セパレータを介して設けられ、正極、負極間は、Liイオンが移動する媒体として、非水電解液が満たされる。この非水電解液としては、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等の電解質をエチレンカーボネートやジメチルカーボネート等の高誘電率の有機溶媒に溶解させたものが広く用いられている。ここで、これら有機溶媒は、揮発性、引火性を有しており、引火性物質に分類される溶媒である。このため、特に電力貯蔵用電源や電気自動車用電源等の大型のリチウム二次電池の用途には、引火のおそれがない非水電解液が望まれており、難燃性もしくは自己消火性を有する非水電解液を用いる技術が注目されている。
【0004】
このような非水電解液の難燃化の目的にて、樹脂材料の難燃化剤として知られているリン酸エステル類の添加が検討されている(特許文献1、2)。特に、エステル側鎖にフッ素原子を有する含フッ素リン酸エステル類は、優れた難燃性を有する上(非特許文献1)、高率充放電特性や入出力特性等の電池性能において良好な性能が得られることが知られており(特許文献3、4、5)、有望な材料である。
【0005】
このような、非水系二次電池に用いられる電解液または電解液に添加される成分は、一般的に高い品質を有することが求められる。例えば、特許文献6においては、含フッ素エステルから遊離酸を除去する方法について示されている。この先行技術においては、ポリアルキレンイミンと接触させることにより含フッ素エステル中の遊離酸の含量を低下させている。しかし、その効率は十分でなく、処理後の遊離酸の含量は数十ppmであり、十分に低いとは言えない。このように、高度に含フッ素リン酸エステルの純度を高めることは容易でない。
【0006】
一方、含フッ素リン酸エステルの合成法としては、非特許文献2に示されるようにピリジン等の有機塩基存在下でオキシ塩化リンと含フッ素アルコールを反応させる方法、あるいは、非特許文献3、4に示される無溶媒で触媒の存在下にオキシ塩化リンと含フッ素アルコールを反応させる方法等が知られている。これらのうち、非特許文献2の方法は、含フッ素リン酸エステルに対して少なくとも3倍モル量の有機塩基を必要とし、反応中にこの有機塩基の塩酸塩が生成する。従って、これを分散させるための多量の溶媒を必要とし、効率に劣る。また、含フッ素リン酸エステルに溶解した有機塩基塩酸塩が蒸留中の分解し、塩素イオンが混入し易い。
これに対し、非特許文献3、4の方法は、有機塩基や溶媒を必要としないため、より効率的な方法である。しかし、反応中に構造不明の高沸点化合物が副生し易く、蒸留精製の際に目的物の十分な留出が困難になる場合がある。また、留出した含フッ素リン酸エステル中の塩素イオン含量が高くなり易い。更には、この方法では、反応中に含フッ素ホスファイトが副生する場合があるが、この含フッ素ホスファイトは含フッ素リン酸エステルと沸点が近いため、蒸留分離が困難である。このため、含フッ素リン酸エステル中の不純物として含有され、電解液として使用した場合に電池性能に悪影響を及ぼし易い問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−22839号公報
【特許文献2】特開平11−260401号公報
【特許文献3】特開平8−88023号公報
【特許文献4】特開2007−141760号公報
【特許文献5】特開2007−258067号公報
【特許文献6】特開2005−501891号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J. Electrochem. Soc., 150, A161(2003)
【非特許文献2】J. Org. Chem., 19, 1124(1954)
【非特許文献3】Seriya Khimicheskaya, 1860(1969)
【非特許文献4】Youji Huaxue, 24, 1260(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこれらの課題に鑑みてなされたものである。即ち本発明は、非水系二次電池用の電解液に用いられる含フッ素リン酸エステルに関して、サイクル特性を制御可能な高純度の含フッ素リン酸エステル及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、先の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の不純物の含量を特定量未満とした高純度の含フッ素リン酸エステルを含有する非水電解液を用いた非水系二次電池が高性能な電池性能を有することを見出し、本発明を完成させたものである。即ち、本発明は下記の要旨に係るものである。
【0011】
(1)
一般式(1)
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、Rf、Rf及びRf3は同一または非同一の炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10の含フッ素アルキル基または水素原子であり、Rf1〜Rfの少なくとも一つが含フッ素アルキル基である。)
で表される非水電解液用の含フッ素リン酸エステルであって、
含フッ素リン酸エステル中に含まれるハロゲンイオンの含量が重量比で10ppm未満であり、且つ、下記一般式(2)
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、Rf1及びRf2は、同一または非同一の炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10の含フッ素アルキル基または水素原子であり、少なくとも一つが含フッ素アルキル基である。)
で表される含フッ素ホスファイトの含有量が重量比で0.1%未満であることを特徴とする非水電解液用の高純度含フッ素リン酸エステル。
【0016】
(2)
一般式(1)において、Rf、Rf及びRfが同一の炭素数1〜10の含フッ素アルキル基である(1)に記載の非水電解液用の高純度含フッ素リン酸エステル。
【0017】
(3)
一般式(3)
RfCHOH (3)
(Rfは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10の含フッ素アルキル基または水素原子を表す。)
で表されるアルコールと下記一般式(4)
O=PX(OCHRf(OCHRf(4)
(式中、Xはハロゲン原子、Rf及びRfは、同一または非同一の炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10の含フッ素アルキル基または水素原子である。pは1〜3の整数、q及びrは0〜2の整数であり、p+q+r=3である。ただし、一般式(3)および一般式(4)において、Rf〜Rfのうちの少なくとも一つが含フッ素アルキル基である。)
で表されるオキシハロゲン化リン化合物を金属または金属塩の触媒の存在下に反応させる方法において、反応後に水と接触させ、水層を分離除去した後に蒸留精製することを特徴とする一般式(1)で表される(1)に記載された非水電解液用の高純度含フッ素リン酸エステルの製造方法。
【0018】
(4)
金属塩の触媒が、下記一般式(5)
MX (5)
(式中、Mは1A族、2A族または3A族の金属、Xはハロゲン原子を表す。nは金属の価数に等しい1〜3の整数を表す)。
で表される金属ハロゲン化物であることを特徴とする(3)に記載の高純度含フッ素リン酸エステルの製造方法。
【0019】
(5)
(1)又は(2)に記載の高純度含フッ素リン酸エステルを含有する非水電解液。
【0020】
(6)
(1)又は(2)に記載の高純度含フッ素リン酸エステルとリチウム塩を含有する非水電解液。
【0021】
(7)
(1)又は(2)に記載の高純度含フッ素リン酸エステルを重量比で3〜60%含有する有機溶媒とリチウム塩を含有する非水電解液。
【0022】
(8)
(1)又は(2)に記載の高純度含フッ素リン酸エステルを重量比で5〜40%含有する有機溶媒とリチウム塩を含有する非水電解液。
【0023】
(9)
(5)〜(8)に記載の非水電解液を用いた非水系二次電池。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、非水系二次電池用の電解液として用いられる含フッ素リン酸エステルに関して、不純物として存在するハロゲンイオン、含フッ素ホスファイト含量を特定量とした高純度の含フッ素リン酸エステルが提供され、この高純度含フッ素リン酸エステルを電解液溶媒に含有させることにより、電池性能が改善された非水系二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例4で使用した非水系二次電池の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下にさらに詳細に本発明を説明する。
【0027】
本発明の非水電解液用の含フッ素リン酸エステルは、前記一般式(1)で表される。一般式(1)において、Rf1、Rf2及びRf3は、同一または非同一の炭素数1〜10のアルキル基、含フッ素アルキル基または水素原子であり、少なくとも一つが含フッ素アルキル基である。これらRf1〜Rf3としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基等の炭素数1〜10のアルキル基、モノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、テトラフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、オクタフルオロブチル基、ノナフルオロブチル基、ドデカフルオロヘキシル基、トリデカフルオロヘキシル基、ヘキサデカフルオロオクチル基、ヘプタデカフルオロオクチル基、エイコサフルオロデシル基等の炭素数1〜10の含フッ素アルキル基または水素原子を挙げることができる。
【0028】
このような含フッ素リン酸エステルの例として、リン酸トリス(2−モノフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2−ジフオロエチル)、リン酸トリス(2,2,2−トリフオロエチル)、リン酸トリス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)、リン酸トリス(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル)、リン酸トリス(2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル)、リン酸トリス(2,2,2,3,3,4,4,5,5−ノナフルオロペンチル)、リン酸トリス(ヘキサフルオロイソプロピル)、リン酸トリス(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプチル)、リン酸トリス(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9−ヘキサデカフルオロノニル)、リン酸トリス(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11−エイコサデカフルオロウンデシル)、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル)、リン酸ビス(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル)(2,2,2−トリフルオロエチル)、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)メチル、リン酸(2,2,2−トリフルオロエチル)ジメチル等を挙げることができる。
【0029】
本発明の含フッ素リン酸エステルは、含有される特定の不純物の含量が特定量未満であることを特徴とする。これにより、非水系二次電池のサイクル特性が優れる等の効果が発現される。
【0030】
上記の含フッ素リン酸エステルに含有される第一の不純物は、ハロゲンイオンである。ハロゲンイオンは、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンであり、これらハロゲンイオンの種類は、含フッ素リン酸エステル合成時の原料であるオキシハロゲン化リン原料に由来する。含フッ素リン酸エステル中のハロゲンイオンの含量は、公知の電位差滴定法等により簡便且つ正確に測定することができる。本発明の含フッ素リン酸エステルは、このハロゲンイオンの含有量が10ppm未満である。ハロゲンイオンの含有量が10ppm以上の場合、電池を繰り返し充放電する際に電池性能が低下する等電池性能に悪影響を及ぼす場合がある。この理由は定かでないが、ハロゲンイオンの存在により、電極活物質が溶出したり、電極の集電体として使用されるAl等の腐食が進行する等の現象が関与している可能性がある。
【0031】
含フッ素リン酸エステルに含有される第二の不純物は、前記一般式(2)で表される含フッ素ホスファイトである。一般式(2)において、Rf、Rfは、同一または非同一の炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10の含フッ素アルキル基または水素原子であり、少なくとも一つが含フッ素アルキル基である。このような含フッ素ホスファイトの例としては、ビス(2−フルオロエチル)ホスファイト、ビス(2,2−ジフルオロエチル)ホスファイト、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスファイト、ビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)ホスファイト、ビス(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル)ホスファイト、ビス(ヘキサフルオロイソプロピル)ホスファイト、(2,2,2−トリフルオロエチル)メチルホスファイト等を挙げることができる。
【0032】
本発明の含フッ素リン酸エステルは、この含フッ素ホスファイトの含有量が重量比で0.1%未満である。含フッ素ホスファイトの含有量が0.1%以上の場合、電池を繰り返し充放電する際に電池性能が低下する。
【0033】
次に、本発明の高純度の含フッ素リン酸エステルを製造する方法について説明する。含フッ素リン酸エステルは、前記一般式(3)で表わされるアルコールと前記一般式(4)で表されるオキシハロゲン化リン化合物を触媒の存在下で反応させる。一般式(3)のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、n−デカノール、2−フルオロエタノール、2,2−ジフルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパノール、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンタノール、2,2,2,3,3,4,4,5,5−ノナフルオロペンタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプタノール、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9−ヘキサデカフルオロノナノール、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11−エイコサデカフルオロウンデカノール等が挙げられる。
【0034】
前記一般式(4)のオキシハロゲン化リン化合物としては、オキシフッ化リン、オキシ塩化リン、オキシ臭化リン、オキシヨウ化リン、クロロジメチルホスフェート、ジクロロメチルホスフェート、クロロビス(2−フルオロエチル)ホスフェート、クロロビス(2,2−ジフルオロエチル)ホスフェート、クロロビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスフェート、クロロビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)ホスフェート、ジクロロ(2−フルオロエチル)ホスフェート、ジクロロ(2,2−ジフルオロエチル)ホスフェート、ジクロロ(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスフェート、ジクロロ(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)ホスフェート等を挙げることができる。
【0035】
一般式(3)のアルコールの使用量は、一般式(4)のオキシハロゲン化リン化合物に対し、モル比で1.0〜10倍である。
【0036】
触媒としては、金属または金属塩を用いることができる。ここで、本発明の高純度の含フッ素リン酸エステルが得られ、且つ十分な触媒作用を得るために、金属塩として特に前記一般式(5)の金属ハロゲン化物を用いることが望ましい。一般式(5)の金属ハロゲン化物を使用することにより、前記一般式(2)で表わされる含フッ素ホスファイトの生成が少なく、高純度の含フッ素リン酸エステルを得ることができる。一般式(5)の金属ハロゲン化物の例としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、フッ化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、塩化ホウ素、塩化アルミニウム、塩化ガリウム等を挙げることができる。なお、これら金属ハロゲン化物はそれぞれ無水物を使用することが望ましい。これら金属ハロゲン化物の使用量は、オキシハロゲン化リン化合物に対し、モル比で0.05〜0.5倍である。反応温度は、0〜150℃、反応時間は1〜100時間である。なお、反応に伴い、ハロゲン化水素ガスが発生するため、反応器出口を水またはアルカリ水をあらかじめ充填した容器に接続し、ハロゲン化水素をトラップすることが望ましい。
【0037】
また、本発明の高純度の含フッ素リン酸エステルは、ハロゲンイオンの含有量が10ppm未満である特徴を有する。このような高純度の含フッ素リン酸エステルは、一般式(4)のオキシハロゲン化リン化合物と一般式(3)のアルコールを触媒の存在下で反応させた後、水を添加し、攪拌した後、水層を分離除去後、蒸留精製することにより、驚いたことに、極めて効率的に得ることができる。上記の水処理により、反応混合物から残留するハロゲン化水素を除去するとともに、おそらくは、蒸留を困難化させる高沸点の構造不明のハロゲン化リン化合物等が分解除去され、高度にハロゲンイオン量が除去された含フッ素リン酸エスエルが得られるものと考えられる。なお、水の使用量は反応混合物に対し、重量比で0.1〜10倍であり、反応混合物と水を接触させる際、必要に応じて、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の塩基を存在させてもよい。なお、接触時間は1分〜1時間、温度は0〜50℃である。この水処理を行った後、公知の蒸留法により精製することにより、高純度の含フッ素リン酸エステルを得ることができる。
【0038】
次に上述の高純度の含フッ素リン酸エステルを電解液中に含有する非水系二次電池について説明する。
【0039】
本発明の高純度含フッ素リン酸エステルは、単独で電解液溶媒として使用してもよいし、他の非水溶媒と混合して電解液溶媒として用いてもよい。この際の非水溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート等の環状カーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、プロピオラクトン等の環状エステル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート等の鎖状カーボネート、酢酸メチル、酪酸メチル、トリフルオロ酢酸エチル等の鎖状エステル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、メトキシエトキシエタン、メチルジグライム、パーフルオロブチルメチルエーテル、2,2,2−トリフルオロエチル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルエーテル等のエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類、ジオキソラン又はその誘導体等の単独又はそれら2種以上の混合物等を挙げることができる。これらの非水溶媒に対する高純度含フッ素リン酸エステルの添加量は、通常、重量比で3〜60%、好ましくは5〜40%である。添加量が重量比で3%未満の場合は、電解液の難燃化効果が十分でなく、60%を超える場合は、電池性能の低下をもたらす場合がある。
【0040】
非水電解液を構成する電解質塩としては、非水系二次電池に使用される広電位領域において安定であるリチウム塩やマグネシウム塩等が使用できる。このような電解質塩として、例えば、LiBF、LiPF、LiClO、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiC(CFSO、Mg(ClO、Mg(CFSO、Mg(N(CFSO等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。なお、電池の高率充放電特性を良好なものとするため、非水電解液における電解質塩の濃度は1〜2.5mol/Lの範囲とすることが望ましい。
【0041】
本発明の非水系二次電池は、上記組成の電解液を使用するものであり、少なくとも正極、負極、セパレータから成る電池である。
【0042】
負極材料として、例えばリチウム二次電池の場合は、金属リチウム、リチウム合金等を挙げることができ、リチウムイオン二次電池の場合は、リチウムイオンをドープ・脱ドープが可能な炭素材料を用いることができる。このような炭素材料としてはグラファイトでも非晶質炭素でもよく、活性炭、炭素繊維、カーボンブラック、メソカーボンマイクロビーズなどあらゆる炭素材料を用いることができる。また、マグネシウム二次電池の場合は、金属マグネシウム、マグネシウム合金を挙げることができる。
【0043】
正極材料としては、MoS2、TiS2、MnO2、V25等の遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、ポリアニリン、ポリピロールなどの導電性高分子、ジスルフィド化合物のように可逆的に電解重合、解重合する化合物、あるいはLiCoO2、LiMnO2、LiMn24、LiNiO2、LiFeO、LiFePOなどのリチウムと遷移金属からなる複合酸化物、あるいはマグネシウムと遷移金属からなる複合酸化物等を用いることができる。
【0044】
また、セパレータとしては、微多孔性膜等が用いられ、厚さ10μm〜20μm、空孔率35%〜50%の範囲内であることが好ましい。材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体等のフッ素系樹脂を挙げることができる。
【0045】
なお、本発明の非水系二次電池の形状、形態等は特に限定されるものではなく、円筒型、角型、コイン型、カード型、大型など本発明の範囲内で任意に選択することができる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0047】
実施例1
三つ口フラスコに温度計、環流冷却器を取り付け、オキシ塩化リン 153g、2,2,2−トリフルオロエタノール 340g、無水塩化マグネシウム 7.6gを入れ、段階的に昇温し、140℃まで加熱した。140℃に到達後、2時間加熱を継続した。室温まで冷却した後、水 180g及び炭酸水素ナトリウム 1.8gを加え、15分激しく撹拌した。5分静置後、下層を分取した。
【0048】
下層を蒸留塔にて、1.1kPaの圧力で蒸留精製した。塔頂温度74〜75℃の留分を分取し、299gのリン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)を得た。蒸留終了後、釜液 1.2gが残留した。ガスクロマトグラフにより留分を分析したところ、純度は99.95%であり、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスファイトは非検出であった。また電位差滴定法により、ハロゲンイオンの含量を求めたところ、0.08ppmであった。
【0049】
実施例2
含フッ素アルコールとして、2,2,2−トリフルオロエタノールの代わりに、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール 449gを用いた以外は、実施例1と同様の操作にて反応を行った。室温まで冷却後、水 211g及び炭酸水素ナトリウム 4.2gを加え、15分激しく撹拌した。5分静置後、下層を分取した。
【0050】
下層を蒸留塔にて、0.1kPaの圧力で蒸留精製した。塔頂温度104〜107℃を分取し、377gのリン酸トリス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)を得た。蒸留終了後、釜液3.2gが残留した。ガスクロマトグラフにより留分を分析したところ、純度は99.94%であり、ビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)ホスファイトは非検出であった。また電位差滴定法により、ハロゲンイオンの含量を求めたところ、非検出であった。
【0051】
実施例3
金属ハロゲン化物として、塩化マグネシウムの代わりに塩化カルシウム 8.9gを用いた以外は実施例1と同様の操作にて反応を行い、水洗、蒸留操作を行った。蒸留留分を取得し、295gのリン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)を得た。蒸留終了後、釜液1.8が残留した。ガスクロマトグラフにより留分を分析したところ、純度は99.95%であり、ビス(2,2,2−トリフオロエチル)ホスファイトは非検出であった。また電位差滴定法により、ハロゲンイオンの含量を求めたところ、非検出であった。
【0052】
比較例1
実施例1と同様の操作にて反応を行った。室温まで冷却後、反応液をそのまま蒸留塔に仕込み、1.1kPaの圧力で蒸留精製した。塔頂温度74〜75℃の留分として 286gのリン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)を得た。蒸留終了後、釜液18.7gが残留した。ガスクロマトグラフにより留分を分析したところ、純度は99.93%であり、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスファイトは非検出であった。また電位差滴定法により、ハロゲンイオンの含量を求めたところ、14ppmであった。
【0053】
比較例2
実施例2と同様の操作にて反応を行った。室温まで冷却後、反応液をそのまま蒸留塔にて、0.1kPaの圧力で蒸留精製した。塔頂温度104〜107℃の留分をとして352gのリン酸トリス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)を得た。蒸留終了後、釜液71gが残留した。ガスクロマトグラフにより留分を分析したところ、純度は99.93%であり、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスファイトは非検出であった。また電位差滴定法により、ハロゲンイオンの含量を求めたところ、23ppmであった。
【0054】
比較例3
無水塩化マグネシウムに代えて、マグネシウム 1.9gを用いた以外は、実施例1と同様の操作にて反応を行った。室温まで冷却後、水 180g及び炭酸水素ナトリウム 1.8gを加え、15分激しく撹拌した。5分静置後、下層を分取した。下層を蒸留塔にて、1.1kPaの圧力で蒸留精製した。塔頂温度73〜74℃の留分をとして 295g分取した。蒸留終了後、釜液 3.2gが残留した。ガスクロマトグラフにより留分を分析したところ、純度は 96.30%であり、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスファイトを3.3重量%含有していた。この留分について精密蒸留塔を使用し、再度蒸留精製し、蒸留後半の留分として、53gのリン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)を得た。この留分のビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスファイト含量は0.2重量%であった。
また電位差滴定法により、この留分のハロゲンイオンの含量を求めたところ、非検出であった。
【0055】
実施例4 含フッ素リン酸エステルを含む電池のサイクル特性の評価
図1の断面図に示すような非水系二次電池を作成した。負極1は、グラファイトとポリフッ化ビニリデンのN−メチル−2−ピロリドンの混合物を、銅箔からなる集電体2への塗布、乾燥後、加圧成型により得たものであり(厚さ0.1mm)、正極3はLiCoOとアセチレンブラック及びN−メチル−2−ピロリドンの混合物をアルミ箔からなる集電体4への塗布、乾燥後、加圧成型により得たものである(厚さ0.1mm)。これら負極1、正極3を構成する物質は、ポリエチレンから成る多孔質セパレータ5を介して積層した。このような電池の電解液として、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネートを体積比1:1:1で混合した溶媒に実施例1で得られたリン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)を重量比で20%の割合で混合した溶媒にLiPFを1.25モル/Lの割合で溶解させたものを用い、これを正極、負極間に含浸させ、金属樹脂複合フィルム6を熱溶着させ封止した。
【0056】
このように作成した電池について、25℃において、1.0mAの電流で上限電圧を4.2Vとして2.5時間充電し、続いて1.0mAの電流で3.0Vとなるまで放電した際の充放電効率を測定した。このような充放電サイクルを200回繰り返した。この際、200回目放電容量は、初回の放電容量に対する比(容量維持率)が、92%であった。
【0057】
実施例5 含フッ素リン酸エステルを含む電池のサイクル特性の評価
電解液として、実施例1で得られたリン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)に代えて、実施例2で得られたリン酸トリス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)を重量比で20%用いた以外は実施例4と同様に電池を作成し、サイクル特性を調べた。200回目放電容量の初回の放電容量に対する比(容量維持率)は、91%であった。
【0058】
実施例6 含フッ素リン酸エステルを含む電池のサイクル特性の評価
電解液として、実施例1で得られたリン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)に代えて、実施例3で得られたリン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)を重量比で20%用いた以外は実施例4と同様に電池を作成し、サイクル特性を調べた。200回目放電容量の初回の放電容量に対する比(容量維持率)は、93%であった。
【0059】
実施例7 含フッ素リン酸エステルを含む電池のサイクル特性の評価
電解液として、実施例1で得られたリン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)を重量比で10%用いた以外は実施例4と同様に電池を作成し、サイクル特性を調べた。200回目放電容量の初回の放電容量に対する比(容量維持率)は、93%であった。
【0060】
実施例8 含フッ素リン酸エステルを含む電池のサイクル特性の評価
電解液として、実施例1で得られたリン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)を重量比で30%用いた以外は実施例4と同様に電池を作成し、サイクル特性を調べた。200回目放電容量の初回の放電容量に対する比(容量維持率)は、90%であった。
【0061】
実施例9 含フッ素リン酸エステルを含む電池のサイクル特性の評価
電解液として、実施例1で得られたリン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)を重量比で50%用いた以外は実施例4と同様に電池を作成し、サイクル特性を調べた。200回目放電容量の初回の放電容量に対する比(容量維持率)は、87%であった。
【0062】
比較例4
電解液として、実施例1で得られたリン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)に代えて、比較例1で得られたリン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)を重量比で20%用いた以外は実施例4と同様に電池を作成し、サイクル特性を調べた。200回目放電容量の初回の放電容量に対する比(容量維持率)は、82%であった。
【0063】
比較例5
電解液として、実施例1で得られたリン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)に代えて、比較例2で得られたリン酸トリス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)を重量比で20%用いた以外は実施例4と同様に電池を作成し、サイクル特性を調べた。200回目放電容量の初回の放電容量に対する比(容量維持率)は、83%であった。
【0064】
比較例6
電解液として、実施例1で得られたリン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)に代えて、比較例3で得られたリン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)を重量比で20%用いた以外は実施例4と同様に電池を作成し、サイクル特性を調べた。200回目放電容量の初回の放電容量に対する比(容量維持率)は、83%であった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の高純度含フッ素リン酸エステルを電解液溶媒として用いることにより、電池性能が改善された非水系二次電池が得られ、極めて有用である。
【符号の説明】
【0066】
1:負極
2:集電体
3:正極
4:集電体
5:多孔質セパレータ
6:金属樹脂複合フィルム
7:正極端子
8:負極端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中Rf、Rf及びRf3は同一または非同一の炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10の含フッ素アルキル基または水素原子であり、Rf1〜Rfの少なくとも一つが含フッ素アルキル基である。)
で表される非水電解液用の含フッ素リン酸エステルであって、
含フッ素リン酸エステル中に含まれるハロゲンイオンの含量が重量比で10ppm未満であり、且つ、下記一般式(2)
【化2】

(式中、Rf及びRfは、同一または非同一の炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10の含フッ素アルキル基または水素原子であり、少なくとも一つが含フッ素アルキル基である。)
で表される含フッ素ホスファイトの含有量が重量比で0.1%未満であることを特徴とする非水電解液用の高純度含フッ素リン酸エステル。
【請求項2】
一般式(1)において、Rf、Rf及びRfが同一の炭素数1〜10の含フッ素アルキル基である請求項1に記載の非水電解液用の高純度含フッ素リン酸エステル。
【請求項3】
一般式(3)
Rf1CHOH (3)
(Rf1は炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10の含フッ素アルキル基または水素原子を表す。)
で表されるアルコールと下記一般式(4)
O=PX(OCHRf(OCHRf(4)
(式中、Xはハロゲン原子、Rf及びRfは、同一または非同一の炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10の含フッ素アルキル基または水素原子である。pは1〜3の整数、q及びrは0〜2の整数であり、p+q+r=3である。ただし、一般式(3)および一般式(4)において、Rf〜Rfのうちの少なくとも一つが含フッ素アルキル基である。)
で表されるオキシハロゲン化リン化合物を金属または金属塩の触媒の存在下に反応させる方法において、反応後に水と接触させ、水層を分離除去した後に蒸留精製することを特徴とする一般式(1)で表される請求項1に記載された非水電解液用の高純度含フッ素リン酸エステルの製造方法。
【請求項4】
金属塩の触媒が、下記一般式(5)
MX (5)
(式中、Mは1A族、2A族または3A族の金属、Xはハロゲン原子を表す。nは金属の価数に等しい1〜3の整数を表す)。
で表される金属ハロゲン化物であることを特徴とする請求項3に記載の高純度含フッ素リン酸エステルの製造方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の高純度含フッ素リン酸エステルを含有する非水電解液。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の高純度含フッ素リン酸エステルとリチウム塩を含有する非水電解液。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載の高純度含フッ素リン酸エステルを重量比で3〜60%含有する有機溶媒とリチウム塩を含有する非水電解液。
【請求項8】
請求項1又は請求項2に記載の高純度含フッ素リン酸エステルを重量比で5〜40%含有する有機溶媒とリチウム塩を含有する非水電解液。
【請求項9】
請求項5〜請求項8に記載の非水電解液を用いた非水系二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−49157(P2011−49157A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165873(P2010−165873)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(591180358)東ソ−・エフテック株式会社 (91)
【Fターム(参考)】