非水電解質およびその利用
【課題】耐酸化性に優れた非水電解質を提供する。
【解決手段】本発明に係る非水電解質は、非水系媒と該溶媒に溶解したイオン性化合物とを含有する。上記非水溶媒は、下記式(1)で表されるマロノニトリル型化合物を含む。
【化1】
ここで、式(1)中のR1は、飽和または不飽和の脂肪族基である。R2は、飽和または不飽和の脂肪族基もしくは水素原子である。R2が水素原子ではない場合、R1とR2とは互いに結合していてもよい。
【解決手段】本発明に係る非水電解質は、非水系媒と該溶媒に溶解したイオン性化合物とを含有する。上記非水溶媒は、下記式(1)で表されるマロノニトリル型化合物を含む。
【化1】
ここで、式(1)中のR1は、飽和または不飽和の脂肪族基である。R2は、飽和または不飽和の脂肪族基もしくは水素原子である。R2が水素原子ではない場合、R1とR2とは互いに結合していてもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)その他の電気化学デバイスの構成要素として有用な非水電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
電池等の電気化学デバイスに具備される電解質(electrolyte)の溶媒として、該電解質が水の分解電圧と同程度以上の電圧を受ける場合には、上記溶媒として水を用いることができないため、非水溶媒(非プロトン性溶媒ともいう。)が用いられる。例えば、従来、リチウムイオン二次電池の電解質としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート系溶媒(非水溶媒)に、電荷担体となる化学種(ここではリチウムイオン)を供給可能なイオン性化合物(支持塩、典型的にはリチウム塩)を溶解させた非水電解質が用いられている。非水電解質に関連する技術文献として、特許文献1および2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−73366号公報
【特許文献2】特開2010−205742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、リチウムイオン二次電池の性能向上の一環として、さらなる高エネルギー密度化が求められている。高エネルギー密度化は、例えば、電池の高電圧化(使用時における上限電圧を高くすること)によって実現され得る。電池の高電圧化を図るための一手法として、従来の一般的なリチウムイオン二次電池の使用態様における上限電圧(典型的には、正極電位が4.1〜4.2V(対Li/Li+)程度)よりも高い電位まで充電される態様で電池を使用すること、および、かかる態様での使用に適した活物質(リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出可能な材料)が検討されている。また、正極の上限電位の上昇に伴い、電解質の耐酸化性向上(酸化分解電位の向上)が求められている。
【0005】
本発明は、かかる状況に鑑みてなされたものであって、耐酸化性に優れた非水電解質を提供することを一つの目的とする。関連する他の目的は、かかる非水電解質を備える非水二次電池(典型的にはリチウムイオン二次電池)の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
特許文献1,2には、シアノ基(CN基)を有する脂肪族化合物を含む非水電解質が記載されており、実施例のいくつかではアジポニトリル(NC(CH2)4CN)、ピメロニトリル(NC(CH2)5CN)等の、アルキル鎖の両末端にシアノ基(CN基)を有する脂肪族シアノ化合物が用いられている。このようにアルキル鎖の両末端にCN基を有する化合物は、一般に、カーボネート系溶媒に比べて高い耐酸化性を示す。しかし、かかる構造のシアノ化合物は、双極子モーメントが小さいため誘電率が低い。一方、これらの特許文献には、二つのCN基が同じ炭素に結合した構造部分を含む化合物、すなわちマロノニトリル型化合物についての具体的開示はない。これは、マロノニトリル((CN)2CH2)は、電子求引性のCN基が同じ炭素に二つ結合していることから、該炭素に結合した水素の酸性度(反応性)が高すぎて、非水電解質の構成成分には不向きだというのが当業者の一般的な認識となっているためと考えられる。
【0007】
本発明者は、二つのCN基が同じ炭素に結合しているという構造上の特徴を維持しつつマロノニトリルの反応性を抑えることにより、非水電解質の構成成分として有用な化合物が得られることを見出して、本発明を完成した。
【0008】
ここに開示される非水電解質は、非水溶媒と、該溶媒に溶解したイオン性化合物とを含有する。前記非水溶媒は、下記式(1)で表されるマロノニトリル型化合物を含む。
【0009】
【化1】
【0010】
ここで、上記式(1)中のR1は、飽和または不飽和の脂肪族基である。R2は、飽和または不飽和の脂肪族基もしくは水素原子である。R2が水素原子ではない場合、R1とR2とは互いに結合していてもよい。
【0011】
かかる化合物は、二つのCN基が同じ炭素に結合し、かつ該炭素上に電子供与性基を有するので、アルキル鎖の両末端にCN基が結合した化合物(アジポニトリル等)に比べて明らかに高い双極子モーメントを有する。また、マロノニトリルにおける水素原子の少なくとも一つが電子供与性基に置き換えられているので、マロノニトリルに比べて反応性が抑えられており、非水電解質(例えば、リチウムイオン二次電池その他の非水二次電池用の電解質)の構成成分として適するものとなっている。
【0012】
前記式(1)におけるR2は、水素原子以外の基(すなわち、R2は、飽和または不飽和の脂肪族基)であることが好ましい。かかる化合物は、マロノニトリルにおける水素原子が二つとも反応性の低い基に置き換えられているので安定性が高く、非水電解質の構成成分としての適性に優れる。また、CN基の結合した炭素上に二つの電子供与性基(それらが環状に繋がった基であり得る。)を有するので、より大きな双極子モーメントが実現され得る。
【0013】
好ましい一態様では、前記式(1)において、R1とR2とが互いに結合して5〜7員環を形成している。このような構造のマロノニトリル化合物は、特に耐酸化性の高いものとなり得る。かかる化合物の好ましい具体例として、1,1−ジシアノシクロペンタン、1,1−ジシアノシクロヘキサン、1,1−ジシアノ−2−メチル−シクロペンタン、1,1−ジシアノ−2−メチル−シクロヘキサン等が挙げられる。これらの化合物を含む電解質(例えば、非水溶媒として上記化合物とカーボネート系溶媒とを含む電解質)は、リチウムイオン二次電池の支持塩として広く用いられているLiPF6の溶解性が良いという点でも好ましい。
【0014】
好ましい他の一態様では、前記式(1)におけるR1およびR2は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜6のアルキル基である。このような構造のマロノニトリル化合物は、特に耐酸化性の高いものとなり得る。かかる化合物の好ましい具体例として、ジメチルマロノニトリル、ジエチルマロノニトリル、ジイソプロピルマロノニトリル、ジプロピルマロノニトリル等が挙げられる。
【0015】
ここに開示される非水電解質における非水溶媒は、式(1)で表されるマロノニトリル型化合物のいずれか一種または任意の二種以上(例えば一種)から実質的に構成された非水溶媒であってもよい。あるいは、式(1)で表されるマロノニトリル型化合物に加えて、それ以外の化合物(以下、「任意溶媒」ともいう。)を含む非水溶媒であってもよい。その場合、非水溶媒全体に占める前記マロノニトリル型化合物の割合は、例えば0.05〜95質量%であり得る。上記任意溶媒としては、例えば、カーボネート系溶媒(カーボネート系化合物)を好ましく採用し得る。
【0016】
ここに開示される非水電解質は、前記イオン性化合物としてリチウム塩(例えばLiPF6)を含有する態様で好ましく実施され得る。かかる組成の非水電解質は、例えば、リチウム二次電池(典型的には、リチウムイオン二次電池)用の非水電解質として好適に利用され得る。
【0017】
ここに開示される非水電解質は、耐酸化性に優れることから、電池やセンサ等のような、各種の電気化学デバイスの電解質として利用され得る。特に、リチウム二次電池その他の非水二次電池用の電解質として好適である。したがって、本発明の他の側面として、ここに開示されるいずれかの非水電解質を備えた非水二次電池が提供される。かかる非水二次電池は、例えば、ここに開示されるいずれかの非水電解質を準備する(例えば、製造する、または購入する)工程と、該非水電解質と正極と負極とを電池容器に収容して非水二次電池を構築する工程と、を包含する方法により好適に製造され得る。
【0018】
なお、本明細書中において「電池」とは、電気エネルギーを取り出し可能な蓄電デバイス一般を指す用語であって、一次電池および二次電池を含む概念である。また、「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイス一般をいい、リチウム二次電池等のいわゆる蓄電池ならびに電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を包含する用語である。「非水二次電池」とは、非水電解質を備えた電池をいう。また、「リチウム二次電池」とは、電解質イオンとしてリチウムイオンを利用し、正負極間のリチウムイオンの移動により充放電する二次電池をいう。一般にリチウムイオン電池と称される二次電池は、本明細書におけるリチウム二次電池に包含される典型例である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】合成例1により得られた化合物A1の1H−NMRスペクトルである。
【図2】合成例1により得られた化合物A1の13C−NMRスペクトルである。
【図3】合成例2により得られた化合物A2の1H−NMRスペクトルである。
【図4】合成例2により得られた化合物A2の13C−NMRスペクトルである。
【図5】合成例3により得られた化合物A3の1H−NMRスペクトルである。
【図6】合成例4により得られた化合物A3の13C−NMRスペクトルである。
【図7】シアノ化合物を含む非水電解質のリニアスイープボルタモグラムである。
【図8】シアノ化合物を含む非水電解質のリニアスイープボルタモグラムである。
【図9】シアノ化合物を含む非水電解質のリニアスイープボルタモグラムである。
【図10】シアノ化合物を含む非水電解質のリニアスイープボルタモグラムである。
【図11】一実施形態に係る非水二次電池の外形を示す斜視図である。
【図12】図11のXII−XII線断面図である。
【図13】一実施形態に係る非水二次電池を備えた車両を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0021】
ここに開示される非水電解質は、上記式(1)で表されるマロノニトリル型化合物を含有することによって特徴づけられる。上記式(1)で表わされる化合物の一種を単独で含む非水電解質であってもよく、該化合物の二種以上を組み合わせて含む非水電解質であってもよい。
【0022】
上記式(1)中のR1は、飽和または不飽和の脂肪族基である。例えば、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルケニル基、かかるアルキル基またはアルケニル基の途中にエーテル結合を含む脂肪族基、等の、エーテル性酸素以外のヘテロ原子を含まない脂肪族基であり得る。通常は、R1として、エーテル結合を含まない脂肪族基(脂肪族炭化水素基)を好ましく採用し得る。また、R1として、不飽和結合を含まない脂肪族基(飽和脂肪族基)を好ましく採用し得る。好ましい一態様では、R1が、エーテル結合を含まず且つ不飽和結合を含まない脂肪族基(典型的にはアルキル基)である。
【0023】
上記式(1)中のR2は、飽和または不飽和の脂肪族基であってもよく、水素原子であってもよい。R2が水素原子である場合、R1は、比較的嵩高い基であることが好ましい。このことによって、R1の立体障害を利用してR2の水素原子の反応性を抑えることができる。上記嵩高いR1の好適例として、イソプロピル基、t−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、1−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、2−メチルブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。R2が水素原子ではない場合、R2は、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルケニル基、かかるアルキル基またはアルケニル基の途中にエーテル結合を含む脂肪族基、等の、エーテル性酸素以外のヘテロ原子を含まない脂肪族基であり得る。通常は、R2として、エーテル結合を含まない脂肪族基(脂肪族炭化水素基)を好ましく採用し得る。また、R2として、不飽和結合を含まない脂肪族基(飽和脂肪族基)を好ましく採用し得る。好ましい一態様では、R2が、エーテル結合を含まず且つ不飽和結合を含まない脂肪族基(典型的にはアルキル基)である。R1とR2とは、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。R1とR2とが同一の基であるマロノニトリル型化合物は、該化合物の合成が容易であるので好ましい。
【0024】
R2が水素原子ではない場合、R1とR2とは互いに結合していてもよい。かかる結合により、二つのCNが共通して結合した炭素原子を含む環(好ましくは5〜7員環、例えば5員環または6員環)が形成される。上記環は、飽和であってもよく、不飽和結合を含んでもよい。また、環構成原子の少なくとも一つ(典型的には一つまたは二つ、好ましくは一つ)が酸素原子であってもよい。換言すれば、エーテル結合を含む環であってもよい。環を構成する炭素原子が、置換基として、飽和または不飽和の脂肪族基(典型的には炭化水素基、例えば、炭素原子数1〜3の、直鎖状または分岐状のアルキル基)を有してもよい。好ましい一態様では、R1とR2とが結合してなる基が、分岐を有してもよい炭素原子数4〜10のアルキレン基である。かかる構造のマロノニトリル化合物は、特に耐酸化性の高いものとなり得る。また、CN基の結合した炭素上に二つのアルキル基(互いに連結してアルキレン基を形成している。)を有するので、双極子モーメントが高く、イオン伝導性の良い電解質を形成するものとなり得る。
【0025】
R1とR2とが互いに結合して環を形成しているタイプのマロノニトリル型化合物は、例えば後述する合成例1〜3のように、マロノニトリルと、目的物の構造に応じたジハロゲン化アルキルとを反応させることにより合成することができる。また、R1およびR2がいずれもアルキル基であるマロノニトリル型化合物は、例えば後述する合成例4、5のように、マロノニトリルと、目的物の構造に応じたハロゲン化アルキルとを反応させることにより合成することができる。また、反応条件を適切に調節することにより、R1がアルキル基でありR2が水素原子であるマロノニトリル型化合物を合成することができる。
【0026】
ここに開示される非水電解質は、式(1)で表されるマロノニトリル型化合物と、他の一種または二種以上の非水溶媒(任意溶媒)とを含有する組成であり得る。かかる任意溶媒としては、一般に非水電解質(例えば、非水二次電池用の電解質)の溶媒として使用し得ることが知られている各種の非プロトン性溶媒を用いることができる。例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類(式(1)で表されるマロノニトリル型化合物を除く。)、スルホン類、ラクトン類等の各種の非プロトン性溶媒を、単独で、あるいは二種以上を適宜組み合わせて用いることができる。具体例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン等の、一般にリチウム二次電池の電解質に使用し得るものとして知られている非水溶媒から選択される一種または二種以上を用いることができる。好ましい一態様に係る非水電解質は、上記任意溶媒として一種または二種以上のカーボネート系溶媒を含む。該任意溶媒がカーボネート系溶媒のみからなる非水電解質であってもよい。
【0027】
非水溶媒として上記マロノニトリル型化合物に加えて任意溶媒を含む非水電解質において、マロノニトリル型化合物の含有量は、非水溶媒全体を100質量%として例えば0.05〜95質量%であり得る。この含有量が少なすぎると、耐酸化性の向上効果が十分に発揮され難くなることがあり得る。上記マロノニトリル型化合物の含有量が5質量%より多い非水電解質が好ましく、15質量%より多いことがより好ましく、20質量より多い(例えば25質量%以上である)ことがさらに好ましい。また、マロノニトリル型化合物の種類によっては、非水溶媒全体に占める該化合物の割合が高すぎると、電池の低温特性が低下しやすくなったり、イオン性化合物(例えばLiPF6)の溶解性が低下傾向となったりすることがあり得る。かかる観点から、マロノニトリル型化合物の含有量は、非水溶媒全体の90質量%以下とすることができ、通常は75質量%以下(好ましくは60質量%以下、例えば50質量%以下)とすることが適当である。好ましい一態様では、非水溶媒全体のうち20質量%を超えて60質量%以下が上記マロノニトリル型化合物の一種または二種以上であり、残部が一種または二種以上のカーボネート系溶媒である。なお、上記非水溶媒は、全体として(複数の化合物を含む場合には、それらの混合物として)、室温(例えば25℃)において液状を呈することが好ましい。
【0028】
ここに開示される非水電解質は、典型的には、その用途に応じて適切なイオン性化合物を更に含有する。例えば、各種のリチウム塩、ナトリウム塩、四級アンモニア塩等を上記イオン性化合物として採用することができる。かかるイオン性化合物の種類および量は、上記非水溶媒に溶解し得るように設定されることが好ましい。好ましい一態様では、イオン性化合物として、非水電解質にリチウムイオンを供給し得るリチウム化合物(典型的にはリチウム塩)を含有する。かかる組成の電解質は、リチウム二次電池(リチウムイオン電池等)の電解質として有用なものであり得る。リチウム二次電池用の非水電解質に含有させ得るイオン性化合物の具体例としては、LiPF6,LiBF4,LiClO4等の無機リチウム塩;LiN(SO2CF3)2,LiN(SO2C2F5)2,LiCF3SO3,LiC4F9SO3,LiC(SO2CF3)3等の有機リチウム塩;等が挙げられる。なかでもLiPF6およびLiBF4が好ましく、LiPF6が特に好ましい。
【0029】
イオン性化合物の濃度は特に限定されないが、通常は、少なくとも25℃において該イオン性化合物が安定して溶解し得る(例えば、該化合物の析出等が認められない)程度の濃度とすることが好ましい。例えば、1kgの非水溶媒に対してイオン性化合物を0.1モル以上含有する電解質が好ましく、0.3モル以上(さらに好ましくは0.5モル以上、例えば0.8モル以上)含有する電解質がより好ましい。また、1kgの非水溶媒に対するイオン性化合物の含有量は、例えば3モル以下とすることができ、通常は2モル以下とすることが適当であり、1.5モル以下としてもよい。イオン性化合物の濃度が低すぎると、非水電解質の用途によっては(例えば、リチウム二次電池用電解質の場合)、該電解質に含まれるリチウムイオンの量が不足して、イオン伝導性が低下しやすくなることがある。イオン性化合物の濃度が高すぎると、非水電解質の粘度が高くなりすぎて、イオン伝導性が低下しやすくなることがある。
【0030】
以下、主として本発明に係る非水電解質をリチウムイオン二次電池に適用する場合を例として説明するが、本発明の適用対象をかかる電池に限定する意図ではない。なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0031】
ここに開示されるいずれかの非水電解質を備えたリチウムイオン二次電池は、例えば図11および図12に示されるように、捲回電極体20が、非水電解質(典型的には非水電解質液)90とともに、該電極体20の形状に対応した扁平な箱状の電池ケース10に収容された構成を有する。ケース10の開口部12は蓋体14により塞がれている。蓋体14には、外部接続用の正極端子38および負極端子48が、それら端子の一部が蓋体14の表面側に突出するように設けられている。かかる構成のリチウムイオン二次電池100は、例えば、ケース10の開口部12から電極体20を内部に収容し、該ケース10の開口部12に蓋体14を取り付けた後、蓋体14に設けられた電解質注入孔(図示せず)から電解質90を注入し、次いで上記注入孔を塞ぐことによって構築することができる。
【0032】
電極体20は、長尺シート状の正極集電体32の表面に正極活物質層34が形成された正極シート30と、長尺シート状の負極集電体42の表面に負極活物質層44が形成された負極シート40とを、2枚の長尺シート状のセパレータ50と共に重ね合わせて捲回し、得られた捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平形状に成形されている。正極シート30は、その長手方向に沿う一方の端部において、正極活物質層34が設けられておらず(あるいは除去されて)、正極集電体32が露出するように形成されている。同様に、負極シート40は、その長手方向に沿う一方の端部において、負極活物質層44が設けられておらず(あるいは除去されて)、負極集電体42が露出するように形成されている。そして、正極集電体32の該露出端部に正極端子38が、負極集電体42の該露出端部に負極端子48がそれぞれ接合され、上記扁平形状に形成された捲回電極体20の正極シート30または負極シート40と電気的に接続されている。正負極端子38,48と正負極集電体32,42とは、例えば超音波溶接、抵抗溶接等によりそれぞれ接合することができる。
【0033】
正極活物質層34は、例えば、正極活物質を、必要に応じて導電材、結着剤(バインダ)等とともに適当な溶媒に分散させたペーストまたはスラリー状の組成物を正極集電体32に付与し、該組成物を乾燥させることにより好ましく作製することができる。上記正極活物質としては、リチウムを可逆的に吸蔵および放出可能な材料が用いられる。従来からリチウムイオン二次電池に用いられる物質(例えば層状構造の酸化物やスピネル構造の酸化物)の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。好適例として、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物等のリチウム含有複合酸化物が挙げられる。
【0034】
ここで、リチウムニッケル系複合酸化物とは、リチウム(Li)とニッケル(Ni)とを構成金属元素とする酸化物のほか、LiおよびNi以外に他の少なくとも一種の金属元素(すなわち、LiとNi以外の遷移金属元素および/または典型金属元素)を、原子数換算でNiと同程度またはNiよりも少ない割合(典型的にはNiよりも少ない割合)で構成金属元素として含む酸化物をも包含する意味である。上記LiおよびNi以外の金属元素は、例えば、Co,Al,Mn,Cr,Fe,V,Mg,Ti,Zr,Nb,Mo,W,Cu,Zn,Ga,In,Sn,LaおよびCeからなる群から選択される一種または二種以上の金属元素であり得る。リチウムコバルト系複合酸化物およびリチウムマンガン系複合酸化物についても同様の意味である。ここに開示される技術における好ましい正極活物質として、少なくともNi,CoおよびMnを構成金属元素として含む(例えば、Ni,CoおよびMnの三元素を原子数換算で概ね同量づつ含む)リチウム遷移金属複合酸化物が例示される。
【0035】
正極活物質として使用し得る材料の他の好適例として、オリビン型リン酸リチウムその他のポリアニオン系材料が挙げられる。上記オリビン酸リチウムは、例えば、一般式LiMPO4(MはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種以上の元素)で表記されるオリビン型リン酸リチウム(LiFePO4、LiMnPO4等)であり得る。
【0036】
好ましく使用され得る正極活物質として、LiMn1/3Co1/3Ni1/3O2、LiNiPMn2−PO4(0.2≦P≦0.6;例えば、LiNi0.5Mn1.5O4)、LiMPO4(MはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種以上の元素、例えばLiCoPO4、LiNiPO4、LiMnPO4、LiFePO4等)、Li2MnO3、Li2MO3とLiM’O2との固溶体(Mは平均酸化状態が4+である1種以上の金属元素であり、M’は1種以上の遷移金属元素である。)、等が例示される。
【0037】
ここに開示される非水電解質を備えた電池の正極活物質としては、上限電圧が4.3V(より好ましくは4.5V、例えば4.7V)よりも高くなる充放電条件での使用に適した正極活物質をも好ましく採用し得る。かかる正極活物質を備える電池では、耐酸化性の高い非水電解質を用いることが特に有意義である。
【0038】
上記導電材としては、カーボン粉末やカーボンファイバー等のカーボン材料、ニッケル粉末等の導電性金属粉末が例示される。カーボン粉末としては、アセチレンブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラックを好ましく採用することができる。このような導電材は、一種を単独で、または二種以上を適宜組み合わせて用いることができる。上記バインダとしては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。このようなバインダは、一種を単独で、または二種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0039】
正極活物質層全体に占める正極活物質の割合は、凡そ50質量%以上(典型的には50〜95質量%)とすることが適当であり、通常は凡そ70〜95質量%であることが好ましい。導電剤を使用する場合、正極活物質層全体に占める導電材の割合は、例えば凡そ2〜20質量%とすることができ、通常は凡そ2〜15質量%とすることが好ましい。バインダを使用する場合には、正極活物質層全体に占めるバインダの割合を例えば凡そ1〜10質量%とすることができ、通常は凡そ2〜5質量%とすることが適当である。
【0040】
正極集電体32には、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金を用いることができる。正極集電体32の形状は、リチウムイオン二次電池の形状等に応じて異なり得るため、特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。本実施形態ではシート状のアルミニウム製の正極集電体32が用いられ、捲回電極体20を備えるリチウムイオン二次電池100に好ましく使用され得る。かかる実施形態では、例えば、厚みが10μm〜30μm程度のアルミニウムシート(アルミニウム箔)が好ましく使用され得る。
【0041】
負極活物質層44は、例えば、負極活物質を、結着剤(バインダ)等ともに適当な溶媒に分散させたペーストまたはスラリー状の組成物を負極集電体42に付与し、該組成物を乾燥させることにより好ましく作製することができる。
【0042】
負極活物質としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定なく使用することができる。例えば、好適な負極活物質としてカーボン粒子が挙げられる。少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)が好ましく用いられる。いわゆる黒鉛質のもの(グラファイト)、難黒鉛化炭素質のもの(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質のもの(ソフトカーボン)、これらを組み合わせた構造を有するもののいずれの炭素材料も好適に使用され得る。なかでも特に、天然黒鉛等の黒鉛粒子を好ましく使用することができる。負極活物質層全体に占める負極活物質の割合は特に限定されないが、通常は凡そ50質量%以上とすることが適当であり、好ましくは凡そ90〜99質量%(例えば凡そ95〜99質量%)である。
【0043】
バインダとしては、上述した正極と同様のものを、単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。バインダの添加量は、負極活物質の種類や量に応じて適宜選択すればよく、例えば、負極活物質層全体の1〜5質量%程度とすることができる。
【0044】
負極集電体42としては、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、銅または銅を主成分とする合金を用いることができる。また、負極集電体42の形状は、正極集電体32と同様に、種々の形態であり得る。本実施形態ではシート状の銅製の負極集電体42が用いられ、捲回電極体20を備えるリチウムイオン二次電池100に好ましく使用され得る。かかる実施形態では、例えば、厚みが5μm〜30μm程度の銅製シート(銅箔)が好ましく使用され得る。
【0045】
正極シート30と負極シート40との間に介在されるセパレータ50としては、当該分野において一般的なセパレータと同様のものを特に限定なく用いることができる。例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂からなる多孔質シート、不織布等を用いることができる。好適例として、一種または二種以上のポリオレフィン樹脂を主体に構成された単層または多層構造の多孔性シート(微多孔質樹脂シート)が挙げられる。例えば、PEシート、PPシート、PE層の両側にPP層が積層された三層構造(PP/PE/PP構造)のシート等を好適に使用し得る。セパレータの厚みは、例えば、凡そ10μm〜40μmの範囲内で設定することが好ましい。
【0046】
ここに開示される非水二次電池(典型的にはリチウムイオン二次電池)は、充放電による劣化が少ないことから、各種用途向けの二次電池として利用可能である。例えば、図13に示すように、自動車等の車両1に搭載される車両駆動用モータ(電動機)の電源として、ここに開示されるいずれかの非水二次電池100を好適に利用することができる。車両1の種類は特に限定されないが、典型的には、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等である。かかる非水二次電池100は、単独で使用されてもよく、直列および/または並列に複数接続されてなる組電池の形態で使用されてもよい。
【0047】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定する意図ではない。
【0048】
<合成例1:1,1−ジシアノシクロヘキサン(化合物A1)>
【化2】
【0049】
以下の合成スキームに従って、1,1−ジシアノシクロヘキサンを合成した。すなわち、窒素気流下、200mlのフラスコに、マロノニトリル(2.0g,30mmol)および溶媒としての脱水DMF(ジメチルホルムアミド,50ml)を加えて均一溶液とした。ここに1,5−ジプロモペンタン(7.59g,33mmol)を加えて数分撹拌した後、さらにDBU(10.2g,67mmol)を加えて撹拌した。次いで、80℃のオイルバスで加温しつつ2時間撹拌し、室温に戻してさらに一昼夜撹拌を継続した。その後、1.2N塩酸(5.0ml)を加えて塩基であるDBUを中和することにより反応を停止させた。反応溶液をジエチルエーテルで6回抽出し、続いてエーテル層を飽和食塩水で3回中和・洗浄し、芒硝で乾燥した。芒硝を濾別した後、ロータリーエバポレータを用いてエーテル層からエーテルを除去した。これにより濃縮された生成物を、ごく少量NMRチューブに取り、ガラスチューブオーブンを用いて減圧乾燥させた後にCDCl3溶液として、各種NMRスペクトルを測定した。
【0050】
1H−NMRスペクトル(図1)より、目的物の生成が確認された。シクロヘキシル環のプロトンの共鳴吸収以外のシグナルはごく小さく、精製前であるにもかかわらずある程度の純度を有しているものと推察される。13C−NMRスペクトル(図2)からも目的物の生成が確認された(3,5位:22ppm,4位:24ppm,1位:33ppm,2,5位:35ppm)。
【0051】
上記で得られた生成物を、昇華管を用いて昇華精製した(昇華条件:管内10Pa、バス温度30〜60℃)。収量は8.24g、収率は68.3%であった。DSC(示差走査熱量測定)により求めた融点は65℃であった。
【0052】
<合成例2:1,1−ジシアノシクロペンタン(化合物A2)>
【化3】
【0053】
上記の合成スキームに従って、合成例1と同様の操作により、1,1−ジシアノシクロペンタンの合成および精製を行った。1H−NMRスペクトル(図3)および13C−NMRスペクトル(図4)により、目的物が合成されたことを確認した。収率は72.8%であった。
【0054】
<合成例3:1,1−ジシアノ−2−メチルシクロペンタン(化合物A3)>
【化4】
【0055】
上記の合成スキームに従って、合成例1と同様の操作により、1,1−ジシアノ−2−メチルシクロペンタンの合成および精製を行った。1H−NMRスペクトル(図5)および13C−NMRスペクトル(図6)により、目的物が合成されたことを確認した。収率は58.1%であった。
【0056】
<合成例4:ジメチルマロノニトリル(化合物B1)>
【化5】
【0057】
200mlのフラスコにDMF(50ml)とマロノニトリル(2.09g,30mmol)とを入れ均一溶液とした。そこにメチルアイオダイド(9.94g,70mmol)を加えて15分間攪拌し、さらにDBU(11.2g,73mmol)をゆっくりと滴下し攪拌した。反応液は薄い透明な緑色になった。フラスコを80℃のオイルバスで温め、加熱しながら2時間攪拌した。その後ゆっくりと室温に戻した。さらに一晩放置した。DBUを加える前とフラスコを室温に戻した後に薄相クロマト分析(SiO2,展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン=2/5)を行い原料の消失と生成物を確認した。1.2N塩酸5mlを加えて反応溶液のpHを弱酸性にし、ジエチルエーテルを抽出溶媒として6回抽出を行った。その後、有機層を飽和重曹水と飽和食塩水で反応液がpH=7になるまで洗浄した。硫酸ナトリウムは電子レンジで1分加熱した後に冷まし、中和した有機層に加え一晩静置して溶液を乾燥した。ウォーターバス60℃のロータリーエバポレーターを用いて濃縮を行った。ここで少量をNMRチューブに取り、ガラスチューブオーブンで溶媒を減圧留去させて、CDCl3を溶媒として用いてNMR測定を行い、目的生成物の生成を確認した。ミニ蒸留装置を用いて減圧蒸留により精製を行った。初留は25Pa、オイルバス温度22℃であり、本留は25Pa、オイルバス温度30℃であった(室温は25℃)。収量は1.41gであり、収率は50.0%であった。蒸留後の1H−NMRおよび13C−NMRの測定結果から、目的物が得られたことが確認された。
【0058】
<合成例5:ジイソプロピルマロノニトリル(化合物B2)>
【化6】
【0059】
200mlのフラスコにDMF(50ml)とマロノニトリル(2.09g,30mmol)とを入れ均一溶液とした。そこにイソプロピルブロマイド(8.23g,70mmol)を加えて15分間攪拌し、さらにDBU(11.2g,73mmol)をゆっくりと滴下し攪拌した。反応液は薄い透明な緑色になった。フラスコを80℃のオイルバスで温め、加熱しながら2時間攪拌した。その後ゆっくりと室温に戻した。さらに一晩放置した。DBUを加える前とフラスコを室温に戻した後に薄相クロマト分析(SiO2,展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン=2/5)を行い原料の消失と生成物を確認した。1.2N塩酸5mlを加えて反応溶液のpHを弱酸性にし、ジエチルエーテルを抽出溶媒として6回抽出を行った。その後、有機層を飽和重曹水と飽和食塩水で反応液がpH=7になるまで洗浄した。硫酸ナトリウムは電子レンジで1分加熱した後に冷まし、中和した有機層に加え一晩静置して溶液を乾燥した。ウォーターバス60℃のロータリーエバポレーターを用いて濃縮を行った。ここで少量をNMRチューブに取り、ガラスチューブオーブンで溶媒を減圧留去させて、CDCl3を溶媒として用いてNMR測定を行い、目的生成物の生成を確認した。ミニ蒸留装置を用いて減圧蒸留により精製を行った。初留は15Pa、オイルバス温度22℃であり、本留は15Pa、オイルバス温度30℃であった(室温は25℃)。収量は1.619gであり、収率は40.3%であった。蒸留後の1H−NMRおよび13C−NMRの測定結果から、目的物が得られたことが確認された。
【0060】
<性能評価>
[非水電解質の調製]
上記で合成した化合物を用いて、表1に示す各組成の電解質サンプルを調製した。例えば、サンプルA1p(33)は、ECとEMCと化合物A1(シアノ化合物)とを1/1/1の質量比で含む非水溶媒(シアノ化合物含量 33質量%)中にLiPF6を1mol/kgの濃度で含む電解質である。また、対照として、非水溶媒としてカーボネート系溶媒のみを用いた(すなわち、シアノ化合物を含まない)電解質サンプルNpを調製した。さらに、市販のアジポニトリル(化合物D1)を用いて電解質サンプルD1b(33)を調製した。
【0061】
なお、EC/EMC/化合物D1の1/1/1混合溶媒は、LiPF6の溶解性が低いため、D1を含む電解質サンプルにおける支持塩としてはLiBF4を使用した。D1に代えてB1を用いた混合溶媒のLiPF6溶解性は、D1を用いたものよりは高かったが、1mol/kg濃度の溶液を調製することは困難であったため、B1を含む電解質サンプルにおける支持塩としてもLiBF4を使用した。その他のサンプルでは支持塩としてLiPF6を使用した。
【0062】
[耐酸化性評価]
各電解質の耐酸化性を評価するため、作用極にグラッシーカーボン、対極および参照極に金属リチウム、セパレータとして多孔質ポリプロピレンシートを用いた密閉二極式セルを使用して、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)法により酸化電位を測定した。測定の際には、作用極の電位を浸漬電位から高電位側に掃引した。測定温度は30℃、掃引速度は0.1mV/秒とし、5μAの電流が流れた電圧を酸化電位とした。得られたリニアスイープボルタモグラムを図7〜図10に示し、酸化電位を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
図7〜図10および表1に示されるように、式(1)で表されるマロノニトリル型化合物を25〜33質量%含む非水溶媒を用いたサンプルは、いずれも、非水溶媒としてカーボネート系溶媒のみを用いたサンプルNpに比べて明らかに酸化電位(耐酸化性)が高く、アルキル基の両末端にCN基を有するシアノ化合物(ここではアジポニトリル)を用いたサンプルに比べても更に良好な耐酸化性を有するものであった。なお、サンプルB1b(33)における化合物B1を同質量のマロノニトリル(H2C(CN)2)に変更して調製した電解質サンプルを用いて上記耐酸化性評価を試みたところ、対極および作用極の金属リチウムに当該サンプルを接触させただけで金属リチウムの表面が黒く変色することが確認された。
【0065】
上記で合成した化合物A1〜A3およびB1、B2は、いずれも、二つのCN基が同じ炭素原子に結合したマロノニトリル構造であって、さらに該炭素原子に電子供与性基(典型的にはアルキル基)が結合した分子構造を有することから、アルキル鎖の両末端にCN基を有する化合物に比べて顕著に高い双極子モーメントを有する。例えば、表2に示すように、アジポニトリルの双極子モーメントは0.0デバイであるのに対し、化合物AおよびA2の双極子モーメントは、それぞれ5.25デバイおよび5.17デバイである。このことが、これらマロノニトリル型化合物を用いてなる非水電解質の耐酸化性の高さに寄与しているものと考えられる。
【0066】
【表2】
【0067】
サンプルNpおよびサンプルA1p(33)について13C−NMRスペクトルを測定したところ、化合物A1を含むサンプルA1p(33)ではサンプルNpに比べてECおよびEMCのピークが低磁場側にシフトしていた。また、EC/EMC/化合物1の1.5/1.5/1.0(質量比)混合溶媒中における各溶媒の拡散係数はほぼ同等であった。これらの事実は、化合物A1とカーボネート系化合物との分子間相互作用の存在を示唆している。かかる相互作用によって(例えば、電子求引性の強いCN基を有する化合物A1が、分子間相互作用を通じてカーボネート系化合物の電子密度を低下させることにより)、化合物A1とともにカーボネート系溶媒を含む非水電解質(ここでは、非水溶媒の50質量%以上、より具体的には25〜33質量%がカーボネート系溶媒である非水電解質)においても、カーボネート系溶媒単独の酸化電位は観測されず、該電解質全体として酸化電位の向上が達成されたものと考えられる。
【0068】
[イオン導電率測定]
表3に示す各電解質のイオン導電率σ[S/cm]を測定した。測定は、ステンレススチール(SUS)電極を備えた密閉二極式セルを使用して交流(AC)インピーダンス法により行った。測定温度を段階的に上げ、各温度においてイオン導電率を測定した。得られた結果を表3に併せて示す。
【0069】
【表3】
【0070】
表3からわかるように、非水溶媒としてカーボネート系溶媒のみを用いたサンプルNpの導電率に対して、カーボネート系溶媒の一部を化合物A1に置き換えた組成のサンプルA1p(33)およびA1p(25)は、より高い導電率を示した。すなわち、これら化合物A1を含有するサンプルは、サンプルNpに比べて酸化電位が大幅に高く、かつ導電率にも優れるものであった。また、上記化合物A1を含有するサンプルは、酸化電位および導電率のいずれの点でも、アジポニトリルを用いた電解質に勝る性能を示すものであった。
【0071】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態および実施例は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0072】
1 車両
20 捲回電極体
30 正極シート(正極)
34 正極活物質層
40 負極シート(負極)
42 負極集電体
44 負極活物質層
50 セパレータ
90 電解質(非水電解質)
100 非水二次電池
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)その他の電気化学デバイスの構成要素として有用な非水電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
電池等の電気化学デバイスに具備される電解質(electrolyte)の溶媒として、該電解質が水の分解電圧と同程度以上の電圧を受ける場合には、上記溶媒として水を用いることができないため、非水溶媒(非プロトン性溶媒ともいう。)が用いられる。例えば、従来、リチウムイオン二次電池の電解質としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート系溶媒(非水溶媒)に、電荷担体となる化学種(ここではリチウムイオン)を供給可能なイオン性化合物(支持塩、典型的にはリチウム塩)を溶解させた非水電解質が用いられている。非水電解質に関連する技術文献として、特許文献1および2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−73366号公報
【特許文献2】特開2010−205742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、リチウムイオン二次電池の性能向上の一環として、さらなる高エネルギー密度化が求められている。高エネルギー密度化は、例えば、電池の高電圧化(使用時における上限電圧を高くすること)によって実現され得る。電池の高電圧化を図るための一手法として、従来の一般的なリチウムイオン二次電池の使用態様における上限電圧(典型的には、正極電位が4.1〜4.2V(対Li/Li+)程度)よりも高い電位まで充電される態様で電池を使用すること、および、かかる態様での使用に適した活物質(リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出可能な材料)が検討されている。また、正極の上限電位の上昇に伴い、電解質の耐酸化性向上(酸化分解電位の向上)が求められている。
【0005】
本発明は、かかる状況に鑑みてなされたものであって、耐酸化性に優れた非水電解質を提供することを一つの目的とする。関連する他の目的は、かかる非水電解質を備える非水二次電池(典型的にはリチウムイオン二次電池)の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
特許文献1,2には、シアノ基(CN基)を有する脂肪族化合物を含む非水電解質が記載されており、実施例のいくつかではアジポニトリル(NC(CH2)4CN)、ピメロニトリル(NC(CH2)5CN)等の、アルキル鎖の両末端にシアノ基(CN基)を有する脂肪族シアノ化合物が用いられている。このようにアルキル鎖の両末端にCN基を有する化合物は、一般に、カーボネート系溶媒に比べて高い耐酸化性を示す。しかし、かかる構造のシアノ化合物は、双極子モーメントが小さいため誘電率が低い。一方、これらの特許文献には、二つのCN基が同じ炭素に結合した構造部分を含む化合物、すなわちマロノニトリル型化合物についての具体的開示はない。これは、マロノニトリル((CN)2CH2)は、電子求引性のCN基が同じ炭素に二つ結合していることから、該炭素に結合した水素の酸性度(反応性)が高すぎて、非水電解質の構成成分には不向きだというのが当業者の一般的な認識となっているためと考えられる。
【0007】
本発明者は、二つのCN基が同じ炭素に結合しているという構造上の特徴を維持しつつマロノニトリルの反応性を抑えることにより、非水電解質の構成成分として有用な化合物が得られることを見出して、本発明を完成した。
【0008】
ここに開示される非水電解質は、非水溶媒と、該溶媒に溶解したイオン性化合物とを含有する。前記非水溶媒は、下記式(1)で表されるマロノニトリル型化合物を含む。
【0009】
【化1】
【0010】
ここで、上記式(1)中のR1は、飽和または不飽和の脂肪族基である。R2は、飽和または不飽和の脂肪族基もしくは水素原子である。R2が水素原子ではない場合、R1とR2とは互いに結合していてもよい。
【0011】
かかる化合物は、二つのCN基が同じ炭素に結合し、かつ該炭素上に電子供与性基を有するので、アルキル鎖の両末端にCN基が結合した化合物(アジポニトリル等)に比べて明らかに高い双極子モーメントを有する。また、マロノニトリルにおける水素原子の少なくとも一つが電子供与性基に置き換えられているので、マロノニトリルに比べて反応性が抑えられており、非水電解質(例えば、リチウムイオン二次電池その他の非水二次電池用の電解質)の構成成分として適するものとなっている。
【0012】
前記式(1)におけるR2は、水素原子以外の基(すなわち、R2は、飽和または不飽和の脂肪族基)であることが好ましい。かかる化合物は、マロノニトリルにおける水素原子が二つとも反応性の低い基に置き換えられているので安定性が高く、非水電解質の構成成分としての適性に優れる。また、CN基の結合した炭素上に二つの電子供与性基(それらが環状に繋がった基であり得る。)を有するので、より大きな双極子モーメントが実現され得る。
【0013】
好ましい一態様では、前記式(1)において、R1とR2とが互いに結合して5〜7員環を形成している。このような構造のマロノニトリル化合物は、特に耐酸化性の高いものとなり得る。かかる化合物の好ましい具体例として、1,1−ジシアノシクロペンタン、1,1−ジシアノシクロヘキサン、1,1−ジシアノ−2−メチル−シクロペンタン、1,1−ジシアノ−2−メチル−シクロヘキサン等が挙げられる。これらの化合物を含む電解質(例えば、非水溶媒として上記化合物とカーボネート系溶媒とを含む電解質)は、リチウムイオン二次電池の支持塩として広く用いられているLiPF6の溶解性が良いという点でも好ましい。
【0014】
好ましい他の一態様では、前記式(1)におけるR1およびR2は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜6のアルキル基である。このような構造のマロノニトリル化合物は、特に耐酸化性の高いものとなり得る。かかる化合物の好ましい具体例として、ジメチルマロノニトリル、ジエチルマロノニトリル、ジイソプロピルマロノニトリル、ジプロピルマロノニトリル等が挙げられる。
【0015】
ここに開示される非水電解質における非水溶媒は、式(1)で表されるマロノニトリル型化合物のいずれか一種または任意の二種以上(例えば一種)から実質的に構成された非水溶媒であってもよい。あるいは、式(1)で表されるマロノニトリル型化合物に加えて、それ以外の化合物(以下、「任意溶媒」ともいう。)を含む非水溶媒であってもよい。その場合、非水溶媒全体に占める前記マロノニトリル型化合物の割合は、例えば0.05〜95質量%であり得る。上記任意溶媒としては、例えば、カーボネート系溶媒(カーボネート系化合物)を好ましく採用し得る。
【0016】
ここに開示される非水電解質は、前記イオン性化合物としてリチウム塩(例えばLiPF6)を含有する態様で好ましく実施され得る。かかる組成の非水電解質は、例えば、リチウム二次電池(典型的には、リチウムイオン二次電池)用の非水電解質として好適に利用され得る。
【0017】
ここに開示される非水電解質は、耐酸化性に優れることから、電池やセンサ等のような、各種の電気化学デバイスの電解質として利用され得る。特に、リチウム二次電池その他の非水二次電池用の電解質として好適である。したがって、本発明の他の側面として、ここに開示されるいずれかの非水電解質を備えた非水二次電池が提供される。かかる非水二次電池は、例えば、ここに開示されるいずれかの非水電解質を準備する(例えば、製造する、または購入する)工程と、該非水電解質と正極と負極とを電池容器に収容して非水二次電池を構築する工程と、を包含する方法により好適に製造され得る。
【0018】
なお、本明細書中において「電池」とは、電気エネルギーを取り出し可能な蓄電デバイス一般を指す用語であって、一次電池および二次電池を含む概念である。また、「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイス一般をいい、リチウム二次電池等のいわゆる蓄電池ならびに電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を包含する用語である。「非水二次電池」とは、非水電解質を備えた電池をいう。また、「リチウム二次電池」とは、電解質イオンとしてリチウムイオンを利用し、正負極間のリチウムイオンの移動により充放電する二次電池をいう。一般にリチウムイオン電池と称される二次電池は、本明細書におけるリチウム二次電池に包含される典型例である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】合成例1により得られた化合物A1の1H−NMRスペクトルである。
【図2】合成例1により得られた化合物A1の13C−NMRスペクトルである。
【図3】合成例2により得られた化合物A2の1H−NMRスペクトルである。
【図4】合成例2により得られた化合物A2の13C−NMRスペクトルである。
【図5】合成例3により得られた化合物A3の1H−NMRスペクトルである。
【図6】合成例4により得られた化合物A3の13C−NMRスペクトルである。
【図7】シアノ化合物を含む非水電解質のリニアスイープボルタモグラムである。
【図8】シアノ化合物を含む非水電解質のリニアスイープボルタモグラムである。
【図9】シアノ化合物を含む非水電解質のリニアスイープボルタモグラムである。
【図10】シアノ化合物を含む非水電解質のリニアスイープボルタモグラムである。
【図11】一実施形態に係る非水二次電池の外形を示す斜視図である。
【図12】図11のXII−XII線断面図である。
【図13】一実施形態に係る非水二次電池を備えた車両を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0021】
ここに開示される非水電解質は、上記式(1)で表されるマロノニトリル型化合物を含有することによって特徴づけられる。上記式(1)で表わされる化合物の一種を単独で含む非水電解質であってもよく、該化合物の二種以上を組み合わせて含む非水電解質であってもよい。
【0022】
上記式(1)中のR1は、飽和または不飽和の脂肪族基である。例えば、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルケニル基、かかるアルキル基またはアルケニル基の途中にエーテル結合を含む脂肪族基、等の、エーテル性酸素以外のヘテロ原子を含まない脂肪族基であり得る。通常は、R1として、エーテル結合を含まない脂肪族基(脂肪族炭化水素基)を好ましく採用し得る。また、R1として、不飽和結合を含まない脂肪族基(飽和脂肪族基)を好ましく採用し得る。好ましい一態様では、R1が、エーテル結合を含まず且つ不飽和結合を含まない脂肪族基(典型的にはアルキル基)である。
【0023】
上記式(1)中のR2は、飽和または不飽和の脂肪族基であってもよく、水素原子であってもよい。R2が水素原子である場合、R1は、比較的嵩高い基であることが好ましい。このことによって、R1の立体障害を利用してR2の水素原子の反応性を抑えることができる。上記嵩高いR1の好適例として、イソプロピル基、t−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、1−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、2−メチルブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。R2が水素原子ではない場合、R2は、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルケニル基、かかるアルキル基またはアルケニル基の途中にエーテル結合を含む脂肪族基、等の、エーテル性酸素以外のヘテロ原子を含まない脂肪族基であり得る。通常は、R2として、エーテル結合を含まない脂肪族基(脂肪族炭化水素基)を好ましく採用し得る。また、R2として、不飽和結合を含まない脂肪族基(飽和脂肪族基)を好ましく採用し得る。好ましい一態様では、R2が、エーテル結合を含まず且つ不飽和結合を含まない脂肪族基(典型的にはアルキル基)である。R1とR2とは、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。R1とR2とが同一の基であるマロノニトリル型化合物は、該化合物の合成が容易であるので好ましい。
【0024】
R2が水素原子ではない場合、R1とR2とは互いに結合していてもよい。かかる結合により、二つのCNが共通して結合した炭素原子を含む環(好ましくは5〜7員環、例えば5員環または6員環)が形成される。上記環は、飽和であってもよく、不飽和結合を含んでもよい。また、環構成原子の少なくとも一つ(典型的には一つまたは二つ、好ましくは一つ)が酸素原子であってもよい。換言すれば、エーテル結合を含む環であってもよい。環を構成する炭素原子が、置換基として、飽和または不飽和の脂肪族基(典型的には炭化水素基、例えば、炭素原子数1〜3の、直鎖状または分岐状のアルキル基)を有してもよい。好ましい一態様では、R1とR2とが結合してなる基が、分岐を有してもよい炭素原子数4〜10のアルキレン基である。かかる構造のマロノニトリル化合物は、特に耐酸化性の高いものとなり得る。また、CN基の結合した炭素上に二つのアルキル基(互いに連結してアルキレン基を形成している。)を有するので、双極子モーメントが高く、イオン伝導性の良い電解質を形成するものとなり得る。
【0025】
R1とR2とが互いに結合して環を形成しているタイプのマロノニトリル型化合物は、例えば後述する合成例1〜3のように、マロノニトリルと、目的物の構造に応じたジハロゲン化アルキルとを反応させることにより合成することができる。また、R1およびR2がいずれもアルキル基であるマロノニトリル型化合物は、例えば後述する合成例4、5のように、マロノニトリルと、目的物の構造に応じたハロゲン化アルキルとを反応させることにより合成することができる。また、反応条件を適切に調節することにより、R1がアルキル基でありR2が水素原子であるマロノニトリル型化合物を合成することができる。
【0026】
ここに開示される非水電解質は、式(1)で表されるマロノニトリル型化合物と、他の一種または二種以上の非水溶媒(任意溶媒)とを含有する組成であり得る。かかる任意溶媒としては、一般に非水電解質(例えば、非水二次電池用の電解質)の溶媒として使用し得ることが知られている各種の非プロトン性溶媒を用いることができる。例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類(式(1)で表されるマロノニトリル型化合物を除く。)、スルホン類、ラクトン類等の各種の非プロトン性溶媒を、単独で、あるいは二種以上を適宜組み合わせて用いることができる。具体例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン等の、一般にリチウム二次電池の電解質に使用し得るものとして知られている非水溶媒から選択される一種または二種以上を用いることができる。好ましい一態様に係る非水電解質は、上記任意溶媒として一種または二種以上のカーボネート系溶媒を含む。該任意溶媒がカーボネート系溶媒のみからなる非水電解質であってもよい。
【0027】
非水溶媒として上記マロノニトリル型化合物に加えて任意溶媒を含む非水電解質において、マロノニトリル型化合物の含有量は、非水溶媒全体を100質量%として例えば0.05〜95質量%であり得る。この含有量が少なすぎると、耐酸化性の向上効果が十分に発揮され難くなることがあり得る。上記マロノニトリル型化合物の含有量が5質量%より多い非水電解質が好ましく、15質量%より多いことがより好ましく、20質量より多い(例えば25質量%以上である)ことがさらに好ましい。また、マロノニトリル型化合物の種類によっては、非水溶媒全体に占める該化合物の割合が高すぎると、電池の低温特性が低下しやすくなったり、イオン性化合物(例えばLiPF6)の溶解性が低下傾向となったりすることがあり得る。かかる観点から、マロノニトリル型化合物の含有量は、非水溶媒全体の90質量%以下とすることができ、通常は75質量%以下(好ましくは60質量%以下、例えば50質量%以下)とすることが適当である。好ましい一態様では、非水溶媒全体のうち20質量%を超えて60質量%以下が上記マロノニトリル型化合物の一種または二種以上であり、残部が一種または二種以上のカーボネート系溶媒である。なお、上記非水溶媒は、全体として(複数の化合物を含む場合には、それらの混合物として)、室温(例えば25℃)において液状を呈することが好ましい。
【0028】
ここに開示される非水電解質は、典型的には、その用途に応じて適切なイオン性化合物を更に含有する。例えば、各種のリチウム塩、ナトリウム塩、四級アンモニア塩等を上記イオン性化合物として採用することができる。かかるイオン性化合物の種類および量は、上記非水溶媒に溶解し得るように設定されることが好ましい。好ましい一態様では、イオン性化合物として、非水電解質にリチウムイオンを供給し得るリチウム化合物(典型的にはリチウム塩)を含有する。かかる組成の電解質は、リチウム二次電池(リチウムイオン電池等)の電解質として有用なものであり得る。リチウム二次電池用の非水電解質に含有させ得るイオン性化合物の具体例としては、LiPF6,LiBF4,LiClO4等の無機リチウム塩;LiN(SO2CF3)2,LiN(SO2C2F5)2,LiCF3SO3,LiC4F9SO3,LiC(SO2CF3)3等の有機リチウム塩;等が挙げられる。なかでもLiPF6およびLiBF4が好ましく、LiPF6が特に好ましい。
【0029】
イオン性化合物の濃度は特に限定されないが、通常は、少なくとも25℃において該イオン性化合物が安定して溶解し得る(例えば、該化合物の析出等が認められない)程度の濃度とすることが好ましい。例えば、1kgの非水溶媒に対してイオン性化合物を0.1モル以上含有する電解質が好ましく、0.3モル以上(さらに好ましくは0.5モル以上、例えば0.8モル以上)含有する電解質がより好ましい。また、1kgの非水溶媒に対するイオン性化合物の含有量は、例えば3モル以下とすることができ、通常は2モル以下とすることが適当であり、1.5モル以下としてもよい。イオン性化合物の濃度が低すぎると、非水電解質の用途によっては(例えば、リチウム二次電池用電解質の場合)、該電解質に含まれるリチウムイオンの量が不足して、イオン伝導性が低下しやすくなることがある。イオン性化合物の濃度が高すぎると、非水電解質の粘度が高くなりすぎて、イオン伝導性が低下しやすくなることがある。
【0030】
以下、主として本発明に係る非水電解質をリチウムイオン二次電池に適用する場合を例として説明するが、本発明の適用対象をかかる電池に限定する意図ではない。なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0031】
ここに開示されるいずれかの非水電解質を備えたリチウムイオン二次電池は、例えば図11および図12に示されるように、捲回電極体20が、非水電解質(典型的には非水電解質液)90とともに、該電極体20の形状に対応した扁平な箱状の電池ケース10に収容された構成を有する。ケース10の開口部12は蓋体14により塞がれている。蓋体14には、外部接続用の正極端子38および負極端子48が、それら端子の一部が蓋体14の表面側に突出するように設けられている。かかる構成のリチウムイオン二次電池100は、例えば、ケース10の開口部12から電極体20を内部に収容し、該ケース10の開口部12に蓋体14を取り付けた後、蓋体14に設けられた電解質注入孔(図示せず)から電解質90を注入し、次いで上記注入孔を塞ぐことによって構築することができる。
【0032】
電極体20は、長尺シート状の正極集電体32の表面に正極活物質層34が形成された正極シート30と、長尺シート状の負極集電体42の表面に負極活物質層44が形成された負極シート40とを、2枚の長尺シート状のセパレータ50と共に重ね合わせて捲回し、得られた捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平形状に成形されている。正極シート30は、その長手方向に沿う一方の端部において、正極活物質層34が設けられておらず(あるいは除去されて)、正極集電体32が露出するように形成されている。同様に、負極シート40は、その長手方向に沿う一方の端部において、負極活物質層44が設けられておらず(あるいは除去されて)、負極集電体42が露出するように形成されている。そして、正極集電体32の該露出端部に正極端子38が、負極集電体42の該露出端部に負極端子48がそれぞれ接合され、上記扁平形状に形成された捲回電極体20の正極シート30または負極シート40と電気的に接続されている。正負極端子38,48と正負極集電体32,42とは、例えば超音波溶接、抵抗溶接等によりそれぞれ接合することができる。
【0033】
正極活物質層34は、例えば、正極活物質を、必要に応じて導電材、結着剤(バインダ)等とともに適当な溶媒に分散させたペーストまたはスラリー状の組成物を正極集電体32に付与し、該組成物を乾燥させることにより好ましく作製することができる。上記正極活物質としては、リチウムを可逆的に吸蔵および放出可能な材料が用いられる。従来からリチウムイオン二次電池に用いられる物質(例えば層状構造の酸化物やスピネル構造の酸化物)の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。好適例として、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物等のリチウム含有複合酸化物が挙げられる。
【0034】
ここで、リチウムニッケル系複合酸化物とは、リチウム(Li)とニッケル(Ni)とを構成金属元素とする酸化物のほか、LiおよびNi以外に他の少なくとも一種の金属元素(すなわち、LiとNi以外の遷移金属元素および/または典型金属元素)を、原子数換算でNiと同程度またはNiよりも少ない割合(典型的にはNiよりも少ない割合)で構成金属元素として含む酸化物をも包含する意味である。上記LiおよびNi以外の金属元素は、例えば、Co,Al,Mn,Cr,Fe,V,Mg,Ti,Zr,Nb,Mo,W,Cu,Zn,Ga,In,Sn,LaおよびCeからなる群から選択される一種または二種以上の金属元素であり得る。リチウムコバルト系複合酸化物およびリチウムマンガン系複合酸化物についても同様の意味である。ここに開示される技術における好ましい正極活物質として、少なくともNi,CoおよびMnを構成金属元素として含む(例えば、Ni,CoおよびMnの三元素を原子数換算で概ね同量づつ含む)リチウム遷移金属複合酸化物が例示される。
【0035】
正極活物質として使用し得る材料の他の好適例として、オリビン型リン酸リチウムその他のポリアニオン系材料が挙げられる。上記オリビン酸リチウムは、例えば、一般式LiMPO4(MはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種以上の元素)で表記されるオリビン型リン酸リチウム(LiFePO4、LiMnPO4等)であり得る。
【0036】
好ましく使用され得る正極活物質として、LiMn1/3Co1/3Ni1/3O2、LiNiPMn2−PO4(0.2≦P≦0.6;例えば、LiNi0.5Mn1.5O4)、LiMPO4(MはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種以上の元素、例えばLiCoPO4、LiNiPO4、LiMnPO4、LiFePO4等)、Li2MnO3、Li2MO3とLiM’O2との固溶体(Mは平均酸化状態が4+である1種以上の金属元素であり、M’は1種以上の遷移金属元素である。)、等が例示される。
【0037】
ここに開示される非水電解質を備えた電池の正極活物質としては、上限電圧が4.3V(より好ましくは4.5V、例えば4.7V)よりも高くなる充放電条件での使用に適した正極活物質をも好ましく採用し得る。かかる正極活物質を備える電池では、耐酸化性の高い非水電解質を用いることが特に有意義である。
【0038】
上記導電材としては、カーボン粉末やカーボンファイバー等のカーボン材料、ニッケル粉末等の導電性金属粉末が例示される。カーボン粉末としては、アセチレンブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラックを好ましく採用することができる。このような導電材は、一種を単独で、または二種以上を適宜組み合わせて用いることができる。上記バインダとしては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。このようなバインダは、一種を単独で、または二種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0039】
正極活物質層全体に占める正極活物質の割合は、凡そ50質量%以上(典型的には50〜95質量%)とすることが適当であり、通常は凡そ70〜95質量%であることが好ましい。導電剤を使用する場合、正極活物質層全体に占める導電材の割合は、例えば凡そ2〜20質量%とすることができ、通常は凡そ2〜15質量%とすることが好ましい。バインダを使用する場合には、正極活物質層全体に占めるバインダの割合を例えば凡そ1〜10質量%とすることができ、通常は凡そ2〜5質量%とすることが適当である。
【0040】
正極集電体32には、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金を用いることができる。正極集電体32の形状は、リチウムイオン二次電池の形状等に応じて異なり得るため、特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。本実施形態ではシート状のアルミニウム製の正極集電体32が用いられ、捲回電極体20を備えるリチウムイオン二次電池100に好ましく使用され得る。かかる実施形態では、例えば、厚みが10μm〜30μm程度のアルミニウムシート(アルミニウム箔)が好ましく使用され得る。
【0041】
負極活物質層44は、例えば、負極活物質を、結着剤(バインダ)等ともに適当な溶媒に分散させたペーストまたはスラリー状の組成物を負極集電体42に付与し、該組成物を乾燥させることにより好ましく作製することができる。
【0042】
負極活物質としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定なく使用することができる。例えば、好適な負極活物質としてカーボン粒子が挙げられる。少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)が好ましく用いられる。いわゆる黒鉛質のもの(グラファイト)、難黒鉛化炭素質のもの(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質のもの(ソフトカーボン)、これらを組み合わせた構造を有するもののいずれの炭素材料も好適に使用され得る。なかでも特に、天然黒鉛等の黒鉛粒子を好ましく使用することができる。負極活物質層全体に占める負極活物質の割合は特に限定されないが、通常は凡そ50質量%以上とすることが適当であり、好ましくは凡そ90〜99質量%(例えば凡そ95〜99質量%)である。
【0043】
バインダとしては、上述した正極と同様のものを、単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。バインダの添加量は、負極活物質の種類や量に応じて適宜選択すればよく、例えば、負極活物質層全体の1〜5質量%程度とすることができる。
【0044】
負極集電体42としては、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、銅または銅を主成分とする合金を用いることができる。また、負極集電体42の形状は、正極集電体32と同様に、種々の形態であり得る。本実施形態ではシート状の銅製の負極集電体42が用いられ、捲回電極体20を備えるリチウムイオン二次電池100に好ましく使用され得る。かかる実施形態では、例えば、厚みが5μm〜30μm程度の銅製シート(銅箔)が好ましく使用され得る。
【0045】
正極シート30と負極シート40との間に介在されるセパレータ50としては、当該分野において一般的なセパレータと同様のものを特に限定なく用いることができる。例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂からなる多孔質シート、不織布等を用いることができる。好適例として、一種または二種以上のポリオレフィン樹脂を主体に構成された単層または多層構造の多孔性シート(微多孔質樹脂シート)が挙げられる。例えば、PEシート、PPシート、PE層の両側にPP層が積層された三層構造(PP/PE/PP構造)のシート等を好適に使用し得る。セパレータの厚みは、例えば、凡そ10μm〜40μmの範囲内で設定することが好ましい。
【0046】
ここに開示される非水二次電池(典型的にはリチウムイオン二次電池)は、充放電による劣化が少ないことから、各種用途向けの二次電池として利用可能である。例えば、図13に示すように、自動車等の車両1に搭載される車両駆動用モータ(電動機)の電源として、ここに開示されるいずれかの非水二次電池100を好適に利用することができる。車両1の種類は特に限定されないが、典型的には、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等である。かかる非水二次電池100は、単独で使用されてもよく、直列および/または並列に複数接続されてなる組電池の形態で使用されてもよい。
【0047】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定する意図ではない。
【0048】
<合成例1:1,1−ジシアノシクロヘキサン(化合物A1)>
【化2】
【0049】
以下の合成スキームに従って、1,1−ジシアノシクロヘキサンを合成した。すなわち、窒素気流下、200mlのフラスコに、マロノニトリル(2.0g,30mmol)および溶媒としての脱水DMF(ジメチルホルムアミド,50ml)を加えて均一溶液とした。ここに1,5−ジプロモペンタン(7.59g,33mmol)を加えて数分撹拌した後、さらにDBU(10.2g,67mmol)を加えて撹拌した。次いで、80℃のオイルバスで加温しつつ2時間撹拌し、室温に戻してさらに一昼夜撹拌を継続した。その後、1.2N塩酸(5.0ml)を加えて塩基であるDBUを中和することにより反応を停止させた。反応溶液をジエチルエーテルで6回抽出し、続いてエーテル層を飽和食塩水で3回中和・洗浄し、芒硝で乾燥した。芒硝を濾別した後、ロータリーエバポレータを用いてエーテル層からエーテルを除去した。これにより濃縮された生成物を、ごく少量NMRチューブに取り、ガラスチューブオーブンを用いて減圧乾燥させた後にCDCl3溶液として、各種NMRスペクトルを測定した。
【0050】
1H−NMRスペクトル(図1)より、目的物の生成が確認された。シクロヘキシル環のプロトンの共鳴吸収以外のシグナルはごく小さく、精製前であるにもかかわらずある程度の純度を有しているものと推察される。13C−NMRスペクトル(図2)からも目的物の生成が確認された(3,5位:22ppm,4位:24ppm,1位:33ppm,2,5位:35ppm)。
【0051】
上記で得られた生成物を、昇華管を用いて昇華精製した(昇華条件:管内10Pa、バス温度30〜60℃)。収量は8.24g、収率は68.3%であった。DSC(示差走査熱量測定)により求めた融点は65℃であった。
【0052】
<合成例2:1,1−ジシアノシクロペンタン(化合物A2)>
【化3】
【0053】
上記の合成スキームに従って、合成例1と同様の操作により、1,1−ジシアノシクロペンタンの合成および精製を行った。1H−NMRスペクトル(図3)および13C−NMRスペクトル(図4)により、目的物が合成されたことを確認した。収率は72.8%であった。
【0054】
<合成例3:1,1−ジシアノ−2−メチルシクロペンタン(化合物A3)>
【化4】
【0055】
上記の合成スキームに従って、合成例1と同様の操作により、1,1−ジシアノ−2−メチルシクロペンタンの合成および精製を行った。1H−NMRスペクトル(図5)および13C−NMRスペクトル(図6)により、目的物が合成されたことを確認した。収率は58.1%であった。
【0056】
<合成例4:ジメチルマロノニトリル(化合物B1)>
【化5】
【0057】
200mlのフラスコにDMF(50ml)とマロノニトリル(2.09g,30mmol)とを入れ均一溶液とした。そこにメチルアイオダイド(9.94g,70mmol)を加えて15分間攪拌し、さらにDBU(11.2g,73mmol)をゆっくりと滴下し攪拌した。反応液は薄い透明な緑色になった。フラスコを80℃のオイルバスで温め、加熱しながら2時間攪拌した。その後ゆっくりと室温に戻した。さらに一晩放置した。DBUを加える前とフラスコを室温に戻した後に薄相クロマト分析(SiO2,展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン=2/5)を行い原料の消失と生成物を確認した。1.2N塩酸5mlを加えて反応溶液のpHを弱酸性にし、ジエチルエーテルを抽出溶媒として6回抽出を行った。その後、有機層を飽和重曹水と飽和食塩水で反応液がpH=7になるまで洗浄した。硫酸ナトリウムは電子レンジで1分加熱した後に冷まし、中和した有機層に加え一晩静置して溶液を乾燥した。ウォーターバス60℃のロータリーエバポレーターを用いて濃縮を行った。ここで少量をNMRチューブに取り、ガラスチューブオーブンで溶媒を減圧留去させて、CDCl3を溶媒として用いてNMR測定を行い、目的生成物の生成を確認した。ミニ蒸留装置を用いて減圧蒸留により精製を行った。初留は25Pa、オイルバス温度22℃であり、本留は25Pa、オイルバス温度30℃であった(室温は25℃)。収量は1.41gであり、収率は50.0%であった。蒸留後の1H−NMRおよび13C−NMRの測定結果から、目的物が得られたことが確認された。
【0058】
<合成例5:ジイソプロピルマロノニトリル(化合物B2)>
【化6】
【0059】
200mlのフラスコにDMF(50ml)とマロノニトリル(2.09g,30mmol)とを入れ均一溶液とした。そこにイソプロピルブロマイド(8.23g,70mmol)を加えて15分間攪拌し、さらにDBU(11.2g,73mmol)をゆっくりと滴下し攪拌した。反応液は薄い透明な緑色になった。フラスコを80℃のオイルバスで温め、加熱しながら2時間攪拌した。その後ゆっくりと室温に戻した。さらに一晩放置した。DBUを加える前とフラスコを室温に戻した後に薄相クロマト分析(SiO2,展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン=2/5)を行い原料の消失と生成物を確認した。1.2N塩酸5mlを加えて反応溶液のpHを弱酸性にし、ジエチルエーテルを抽出溶媒として6回抽出を行った。その後、有機層を飽和重曹水と飽和食塩水で反応液がpH=7になるまで洗浄した。硫酸ナトリウムは電子レンジで1分加熱した後に冷まし、中和した有機層に加え一晩静置して溶液を乾燥した。ウォーターバス60℃のロータリーエバポレーターを用いて濃縮を行った。ここで少量をNMRチューブに取り、ガラスチューブオーブンで溶媒を減圧留去させて、CDCl3を溶媒として用いてNMR測定を行い、目的生成物の生成を確認した。ミニ蒸留装置を用いて減圧蒸留により精製を行った。初留は15Pa、オイルバス温度22℃であり、本留は15Pa、オイルバス温度30℃であった(室温は25℃)。収量は1.619gであり、収率は40.3%であった。蒸留後の1H−NMRおよび13C−NMRの測定結果から、目的物が得られたことが確認された。
【0060】
<性能評価>
[非水電解質の調製]
上記で合成した化合物を用いて、表1に示す各組成の電解質サンプルを調製した。例えば、サンプルA1p(33)は、ECとEMCと化合物A1(シアノ化合物)とを1/1/1の質量比で含む非水溶媒(シアノ化合物含量 33質量%)中にLiPF6を1mol/kgの濃度で含む電解質である。また、対照として、非水溶媒としてカーボネート系溶媒のみを用いた(すなわち、シアノ化合物を含まない)電解質サンプルNpを調製した。さらに、市販のアジポニトリル(化合物D1)を用いて電解質サンプルD1b(33)を調製した。
【0061】
なお、EC/EMC/化合物D1の1/1/1混合溶媒は、LiPF6の溶解性が低いため、D1を含む電解質サンプルにおける支持塩としてはLiBF4を使用した。D1に代えてB1を用いた混合溶媒のLiPF6溶解性は、D1を用いたものよりは高かったが、1mol/kg濃度の溶液を調製することは困難であったため、B1を含む電解質サンプルにおける支持塩としてもLiBF4を使用した。その他のサンプルでは支持塩としてLiPF6を使用した。
【0062】
[耐酸化性評価]
各電解質の耐酸化性を評価するため、作用極にグラッシーカーボン、対極および参照極に金属リチウム、セパレータとして多孔質ポリプロピレンシートを用いた密閉二極式セルを使用して、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)法により酸化電位を測定した。測定の際には、作用極の電位を浸漬電位から高電位側に掃引した。測定温度は30℃、掃引速度は0.1mV/秒とし、5μAの電流が流れた電圧を酸化電位とした。得られたリニアスイープボルタモグラムを図7〜図10に示し、酸化電位を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
図7〜図10および表1に示されるように、式(1)で表されるマロノニトリル型化合物を25〜33質量%含む非水溶媒を用いたサンプルは、いずれも、非水溶媒としてカーボネート系溶媒のみを用いたサンプルNpに比べて明らかに酸化電位(耐酸化性)が高く、アルキル基の両末端にCN基を有するシアノ化合物(ここではアジポニトリル)を用いたサンプルに比べても更に良好な耐酸化性を有するものであった。なお、サンプルB1b(33)における化合物B1を同質量のマロノニトリル(H2C(CN)2)に変更して調製した電解質サンプルを用いて上記耐酸化性評価を試みたところ、対極および作用極の金属リチウムに当該サンプルを接触させただけで金属リチウムの表面が黒く変色することが確認された。
【0065】
上記で合成した化合物A1〜A3およびB1、B2は、いずれも、二つのCN基が同じ炭素原子に結合したマロノニトリル構造であって、さらに該炭素原子に電子供与性基(典型的にはアルキル基)が結合した分子構造を有することから、アルキル鎖の両末端にCN基を有する化合物に比べて顕著に高い双極子モーメントを有する。例えば、表2に示すように、アジポニトリルの双極子モーメントは0.0デバイであるのに対し、化合物AおよびA2の双極子モーメントは、それぞれ5.25デバイおよび5.17デバイである。このことが、これらマロノニトリル型化合物を用いてなる非水電解質の耐酸化性の高さに寄与しているものと考えられる。
【0066】
【表2】
【0067】
サンプルNpおよびサンプルA1p(33)について13C−NMRスペクトルを測定したところ、化合物A1を含むサンプルA1p(33)ではサンプルNpに比べてECおよびEMCのピークが低磁場側にシフトしていた。また、EC/EMC/化合物1の1.5/1.5/1.0(質量比)混合溶媒中における各溶媒の拡散係数はほぼ同等であった。これらの事実は、化合物A1とカーボネート系化合物との分子間相互作用の存在を示唆している。かかる相互作用によって(例えば、電子求引性の強いCN基を有する化合物A1が、分子間相互作用を通じてカーボネート系化合物の電子密度を低下させることにより)、化合物A1とともにカーボネート系溶媒を含む非水電解質(ここでは、非水溶媒の50質量%以上、より具体的には25〜33質量%がカーボネート系溶媒である非水電解質)においても、カーボネート系溶媒単独の酸化電位は観測されず、該電解質全体として酸化電位の向上が達成されたものと考えられる。
【0068】
[イオン導電率測定]
表3に示す各電解質のイオン導電率σ[S/cm]を測定した。測定は、ステンレススチール(SUS)電極を備えた密閉二極式セルを使用して交流(AC)インピーダンス法により行った。測定温度を段階的に上げ、各温度においてイオン導電率を測定した。得られた結果を表3に併せて示す。
【0069】
【表3】
【0070】
表3からわかるように、非水溶媒としてカーボネート系溶媒のみを用いたサンプルNpの導電率に対して、カーボネート系溶媒の一部を化合物A1に置き換えた組成のサンプルA1p(33)およびA1p(25)は、より高い導電率を示した。すなわち、これら化合物A1を含有するサンプルは、サンプルNpに比べて酸化電位が大幅に高く、かつ導電率にも優れるものであった。また、上記化合物A1を含有するサンプルは、酸化電位および導電率のいずれの点でも、アジポニトリルを用いた電解質に勝る性能を示すものであった。
【0071】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態および実施例は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0072】
1 車両
20 捲回電極体
30 正極シート(正極)
34 正極活物質層
40 負極シート(負極)
42 負極集電体
44 負極活物質層
50 セパレータ
90 電解質(非水電解質)
100 非水二次電池
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶媒と、該溶媒に溶解したイオン性化合物とを含有し、
前記非水溶媒は、下記式(1):
【化1】
(式中、R1は、飽和または不飽和の脂肪族基であり、R2は、飽和または不飽和の脂肪族基もしくは水素原子であり、R2が水素原子ではない場合、R1とR2とは互いに結合していてもよい。);
で表されるマロノニトリル型化合物を含む、非水電解質。
【請求項2】
前記式(1)において、R1とR2とは互いに結合して5〜7員環を形成している、請求項1に記載の非水電解質。
【請求項3】
前記式(1)におけるR1およびR2は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜6のアルキル基である、請求項1に記載の非水電解質。
【請求項4】
前記非水溶媒は、前記マロノニトリル型化合物と、カーボネート系溶媒とを含み、
前記非水溶媒のうち0.05〜95質量%が前記マロノニトリル型化合物である、請求項1から3のいずれか一項に記載の非水電解質。
【請求項5】
前記イオン性化合物としてリチウム塩を含有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の非水電解質。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の非水電解質を備える、非水二次電池。
【請求項1】
非水溶媒と、該溶媒に溶解したイオン性化合物とを含有し、
前記非水溶媒は、下記式(1):
【化1】
(式中、R1は、飽和または不飽和の脂肪族基であり、R2は、飽和または不飽和の脂肪族基もしくは水素原子であり、R2が水素原子ではない場合、R1とR2とは互いに結合していてもよい。);
で表されるマロノニトリル型化合物を含む、非水電解質。
【請求項2】
前記式(1)において、R1とR2とは互いに結合して5〜7員環を形成している、請求項1に記載の非水電解質。
【請求項3】
前記式(1)におけるR1およびR2は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜6のアルキル基である、請求項1に記載の非水電解質。
【請求項4】
前記非水溶媒は、前記マロノニトリル型化合物と、カーボネート系溶媒とを含み、
前記非水溶媒のうち0.05〜95質量%が前記マロノニトリル型化合物である、請求項1から3のいずれか一項に記載の非水電解質。
【請求項5】
前記イオン性化合物としてリチウム塩を含有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の非水電解質。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の非水電解質を備える、非水二次電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−38029(P2013−38029A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175437(P2011−175437)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】
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