説明

非水電解質ヨウ素電池

【課題】ヨウ素を含む非水電解質ヨウ素電池において、作動電圧をより高める。
【解決手段】孤立電子対を有する硫黄、孤立電子対を有するリン及び孤立電子対を有する酸素に結合したリンのうちいずれか1以上を含有する少なくとも1以上の化合物14を含む正極13と、負極12と、正極13と負極12との間に介在し、ヨウ素を溶存した非水系のイオン伝導媒体18と、を備える。さらに、化合物14が、イオン伝導媒体18に溶存したヨウ素と分子錯体を形成するものとしてもよい。また、化合物14は、硫黄、多環チオフェン化合物、フェニルホスフィン系化合物、フェニルホスフィンサルファイド系化合物、フェニレンサルファイド系ポリマー、チオフェン系ポリマー、硫化炭素ポリマー、ホスフィンオキシド系化合物のうち1以上としてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質ヨウ素電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機非水系極性溶媒に活性炭正極およびリチウム金属負極を浸漬してなる電池において、有機非水系極性溶媒にハロゲンを添加したものが提案されている(特許文献1参照)。このようにハロゲンを添加することで、端子電圧が3.8V以上の高電圧部分がなくなり、放電電圧を平坦にすることができるとされている。また、リチウムイオンとハロゲンとを含む非水電解液を介して炭素正極とリチウム金属からなる負極とを配置した電池が提案されている(特許文献2参照)。この電池では、高容量且つ高出力のエネルギー蓄電デバイスを実現できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−168973号公報
【特許文献2】特開2009−64584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した特許文献1,2の電池では、放電時に金属リチウム負極からリチウムイオンが溶出し、正極ではハロゲンがハロゲンイオンになり、充電時にはこの逆の反応が生じると考えられる。具体的には、例えばハロゲンがヨウ素である場合、充放電時には、負極では反応式(1)、正極では反応式(2)の反応が生じると考えられる。リチウムの標準電極電位は−3.04Vであり、ヨウ素の標準電極電位は+0.53Vであることから、このような電池では、作動電圧の理論的な最大値は3.57Vとなる。しかしながら、理論電圧では作動電圧が十分でないことがあり、作動電圧をより高めることが望まれていた。
【0005】
【化1】

【0006】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、作動電圧をより高めることができる非水電解質ヨウ素電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、孤立電子対を有する所定の化合物を正極に混合すると、作動電圧をより高めることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の非水電解質ヨウ素電池は、孤立電子対を有する硫黄、孤立電子対を有するリン及び孤立電子対を有する酸素に結合したリンのうちいずれか1以上を含有する少なくとも1以上の化合物を含む正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在し、ヨウ素を溶存した非水系のイオン伝導媒体と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の非水電解質ヨウ素電池は、作動電圧をより高めることができる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推測される。例えば、イオン伝導媒体に溶存するヨウ素が、正極に存在する化合物に存在する特定元素(硫黄やリンなど)の孤立電子対と分子錯体を形成することにより、正極反応が生じる電位が高まるためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の非水電解質ヨウ素電池10の一例を模式的に示す説明図である。
【図2】ビーカーセル20の構成の概略を示す説明図である。
【図3】実施例1,2及び比較例1の放電曲線である。
【図4】実施例3及び比較例2の放電曲線である。
【図5】実施例4及び比較例3の放電曲線である。
【図6】実施例5〜7の放電曲線である。
【図7】実施例8及び比較例3の放電曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の非水電解質ヨウ素電池は、孤立電子対を有する硫黄、孤立電子対を有するリン及び孤立電子対を有する酸素に結合したリンのうちいずれか1以上を含有する少なくとも1以上の化合物を含む正極と、負極と、正極と負極との間に介在しヨウ素を溶存した非水系のイオン伝導媒体と、を備えている。
【0012】
本発明の非水電解質ヨウ素電池において、正極は、孤立電子対を有する硫黄、孤立電子対を有するリン及び孤立電子対を有する酸素に結合したリンのうちいずれか1以上を含有する少なくとも1以上の化合物(以下単に化合物とも称する)を含む。この化合物は、孤立電子対を有する硫黄、孤立電子対を有するリンのいずれか1以上を含有するものであることがより好ましく、孤立電子対を有する硫黄を含有するものであることが更に好ましい。より高い電圧で放電することができるためである。また、この化合物は、例えば、イオン伝導媒体に溶存したヨウ素と分子錯体を形成するものとしてもよい。ここで、分子錯体とは、同種又は2種以上の安定な分子が一定の割合で直接に結合してできる化合物をいい、分子化合物とも称することができる。なお、ヨウ素と分子錯体を形成するか否かは、ラマンスペクトルにおける、所定の結合の伸縮に起因するピークが、ヨウ素を添加した際に移動するか否かにより判断することができる。
【0013】
この化合物は、イオン伝導媒体に対して難溶性であることが好ましく、不溶であることがより好ましい。こうすれば、充放電の際に、ヨウ素との間で正極において電子のやりとりを行いやすい。この化合物としては、硫黄、環状化合物が結合した硫黄化合物及びその重合体、硫黄を含む複素環式化合物及びその重合体、環状化合物が結合したリン化合物、環状化合物及び酸素が結合したリン化合物などが挙げられる。例えば、硫黄、多環チオフェン化合物、フェニルホスフィン系化合物、フェニルホスフィンサルファイド系化合物、フェニレンサルファイド系ポリマー、チオフェン系ポリマー、硫化炭素ポリマー、ホスフィンオキシド系化合物などを挙げることができる。多環チオフェン化合物としては、環状チオフェン誘導体(環状テトラチオフェン,化学式1)、多環状チオフェン化合物(サルフラワー,化学式2)などが挙げられる。フェニルホスフィン系化合物としては、トリフェニルホスフィン(化学式3)などが挙げられる。フェニルホスフィンサルファイド系化合物としては、トリフェニルホスフィンサルファイド(化学式4)などが挙げられる。フェニレンサルファイド系ポリマーとしては、ポリパラフェニレンサルファイド(化学式5)などが挙げられる。チオフェン系ポリマーとしては、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(化学式6)などが挙げられる。硫化炭素ポリマー(化学式7)も挙げられる。ホスフィンオキシド系化合物としては、トリフェニルホスフィンオキシド(化学式8)などが挙げられる。このうち、硫黄、多環チオフェン化合物、フェニレンサルファイド系ポリマー、チオフェン系ポリマー、硫化炭素ポリマーなどが好ましく、取り扱いやすさから硫黄を含むポリマー系の化合物がより好ましい。
【0014】
【化2】

【0015】
本発明の非水電解質ヨウ素電池において、正極は、ヨウ素を正極活物質とする。この正極活物質は、イオン伝導媒体に溶解したヨウ素により供給される。この正極は、例えば、化合物と導電材と結着材とを混合して、正極合材としたものを、集電体の表面に形成し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮してもよい。正極合材の混合方法としては、適当な溶剤を加えて導電材及び結着材とともに湿式混合してもよい。また、乳鉢などを使って乾式混合してもよい。溶剤としては、例えば、N−メチルピロリドンなど、周知の溶剤を用いることができる。化合物の混合量は、特に限定されないが、正極合材全体に対して30質量%以上80質量%以下であることが好ましい。化合物の混合量が30質量%以上では、作動電圧をより高めることができ好ましく、80質量%以下では、相対的に導電材や結着材の量が高まり、導電性や機械的強度をより高めることができる。また、結着材は、例えば、正極合材全体に対して3質量%以上20質量%以下であればよい。導電材は、電池の性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、活性炭、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、正極合材を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0016】
本発明の非水電解質ヨウ素電池の負極は、例えば、リチウムイオンを放出する材料を負極活物質としてもよい。負極活物質は、例えば金属リチウムやリチウム合金のほか、リチウムイオンを吸蔵放出する炭素質物質などが挙げられる。リチウム合金としては、例えば、アルミニウムやシリコン、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウムなどとリチウムとの合金が挙げられる。リチウムイオンを放出する炭素質物質としては、例えば黒鉛、コークス、メソフェーズピッチ系炭素繊維、球状炭素、樹脂焼成炭素などが挙げられる。この負極は、例えば、負極活物質と結着材と必要に応じて導電材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。導電材や結着材は正極で挙げたものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状などについては、正極と同様としてもよい。なお、負極の表面には公知の被膜、例えばビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、CO2、HF、HI、AlI3及びMgI2などとの反応被膜を設けてもよい。
【0017】
本発明の非水電解質ヨウ素電池において、イオン伝導媒体は、正極と負極との間に介在しヨウ素を溶存するものとすればよい。また、アルカリ金属イオン(例えばリチウムイオン)を含み、このアルカリ金属イオンを伝導するものとしてもよい。このイオン伝導媒体は、ヨウ素と支持塩とを溶解した非水系電解液としてもよい。非水系電解液としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、γ−ブチロラクトン(γ−BL)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジオキサン、ヘキサエトキシシクロトリフォスファゼン、3−メトキシプロピオニトリルなど従来の二次電池やキャパシタに使われる有機溶媒、又はそれらの混合溶媒を含むものとしてもよい。また、ジオキサン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、ジメチルスルホキシド、スルホランなども用いることができる。また、イオン伝導媒体は、非水系電解液を公知のゲル化剤でゲル化したものとしてもよい。例えば、ポリフッ化ビニリデンやポリエチレングリコール、ポリアクリロニトリルなどの高分子、アミノ酸誘導体、ソルビトール誘導体などの糖類に、支持塩を含む電解液を含ませてなるゲル電解質が挙げられる。このイオン伝導媒体において、ヨウ素の濃度は、特に限定されないが、飽和濃度(最大で非水系電解液とヨウ素とがモル比で1:1まで)以下であることが好ましく、1.0mol/L以下がより好ましい。飽和濃度以下であれば、ヨウ素がイオン伝導媒体に溶存しているため、リチウムイオンの伝導を阻害しにくいと考えられるからである。このとき、ヨウ素の濃度は0.05mol/L以上0.80mol/L以下が好ましい。
【0018】
本発明のイオン伝導媒体において、支持塩は、特に限定されるものではないが、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。このような支持塩を含むイオン伝導媒体は、リチウムイオンを含むこととなる。支持塩の濃度としては、0.1mol/L以上2.0mol/L以下であることが好ましく、0.8mol/L以上1.2mol/L以下であることがより好ましい。
【0019】
本発明の非水電解質ヨウ素電池は、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、非水電解質ヨウ素電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。
【0020】
本発明の非水電解質ヨウ素電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図1は、本発明の非水電解質ヨウ素電池10の一例を模式的に示す説明図である。この非水電解質ヨウ素電池10は、リチウム金属箔からなる負極12と正極13とをイオン伝導媒体18を介して対向して配置したものである。このうち、正極13は、化合物14や導電材15,バインダ16を混合したあと白金メッシュなどの集電体17にプレス成形して作製されている。また、正極13は、化合物14として、孤立電子対を有する硫黄、孤立電子対を有するリン及び孤立電子対を有する酸素に結合したリンのうちいずれか1以上を含有する化合物を含んでいる。この化合物14は、ヨウ素と分子錯体を形成する化合物である。
【0021】
以上詳述した本発明の非水電解質ヨウ素電池は、孤立電子対を有する硫黄、孤立電子対を有するリン及び孤立電子対を有する酸素に結合したリンのうちいずれか1以上を含有する少なくとも1以上の化合物を正極に含んでおり、作動電圧をより高めることができる。また、本発明の非水電解質ヨウ素電池は、溶存ヨウ素が、孤立電子対を有する元素をもつ化合物と分子錯体を形成することで、電気的な相互作用により、初期の作動電圧を高めるだけでなく、放電時に高電位を維持することができると考えられる。
【0022】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0023】
以下には、本発明の非水電解質ヨウ素電池を具体的に作製した例を実施例として説明する。
【0024】
[実施例1]
正極は次のようにして作製した。導電材としてのケッチェンブラック(三菱化学製ECP−6000)を35mg、結着材としてのポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業製)を15mg、本発明の化合物としての硫黄を50mgを乾式で乳鉢を用いて練り合わせてシート状の正極合材とした。その正極合材(重さ3mg、面積0.29cm2)をPtメッシュ(ニラコ製)に圧着して正極を得た。負極には厚さ0.4mmの金属リチウム(本城金属製)を用いた。電解液には、1mol/Lのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニルイミド)のプロピレンカーボネート溶液(富山薬品工業)12mLに、ヨウ素を190mg溶解させたものを用いた。この正極、負極、電解液を用いて、次のように評価セルを作製した。図2は、ビーカーセル20の構成の概略を示す説明図である。図2に示すように、正極22及び負極24をアルゴン雰囲気下のグローブボックス内でガラス製のビーカー21にセットし、電解液26を注入した。次に、ビーカー21の開放部にプラスチック製の蓋28を取り付け、評価セルとしてのビーカーセル20(F型セル)とした。なお、ビーカーセル20内の空間にはアルゴンが充填されている。また、ビーカーセル20の容量は約30mlである。このようにして得られた評価セルを実施例1とした。
【0025】
[比較例1]
正極合材として本発明の化合物を加えない以外は、実施例1と同じ工程を経て得られたセルを比較例1とした。正極合材は、ケッチェンブラックを190mg、ポリテトラフルオロエチレンを35mg、を乾式で乳鉢を用いて練り合わせて得た。
【0026】
[実施例2]
実施例1において、硫黄の代わりに環状チオフェン誘導体(化学式1の化合物:化合物1)を混合させた以外は、実施例1と同様の工程を経て得られたセルを実施例2とした。なお、化合物1は、以下のように合成した。3,4−ジブロモチオフェンを出発原料とし、まず2量体を作製し、その2量体を反応させて、4量体である化合物1を合成した。2量体の合成は、3,4−ジブロモチオフェン(和光純薬)12.9mLのテトラヒドロフラン(THF)溶液(11.8mL)にイソプロピルマグネシウムクロリド−リチウムクロリド錯体のTHF溶液(1.3M,100mL,アルドリッチ製)を0℃で滴下した。これを1時間攪拌したあとに、室温で30分攪拌した。これを再び0℃に冷却したあと、塩化第2銅(23.7g)のTHF溶液(10mL)に滴下した。その後、室温まで徐々に昇温し、一晩攪拌した。5N塩酸水溶液を加えた後、有機層を分離し、水層はジエチルエーテルを用いて抽出した。有機層は併せて飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ濾過したあと、減圧下で溶媒を留去した。反応混合物は、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、さらに、ヘキサンを用いて再結晶させることにより、2量体を得た。次に、4量体を合成した。1,5−シクロオクタジエン(3.50mL)と2,2’−ビピリジル(4.08g)のジメチルホルムアミド溶液(40mL)にNi(COD)2を7.18gを室温で加えた。これに2量体(7.69g)のTHF溶液(40mL)を滴下したあと、70℃で24時間加熱した。5N塩酸を加えたあと、有機層を分離し、水層はクロロホルムを用いて抽出した。有機層は併せて飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過したあと、減圧下で溶媒を留去した。反応混合物はシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、さらに、ヘキサンを用いて再結晶させることで4量体を得た。
【0027】
(電池性能評価)
得られた実施例1,2及び比較例1のセルを北斗電工製の充放電装置(HJ1001SM8A)に接続し、正極と負極との間で0.02mAの電流を流して放電させた。図3は、実施例1,2及び比較例1の放電曲線である。実施例1では、開放電圧が3.81Vであり、放電量0.3mAh時点での作動電圧が3.59Vであった。実施例2では、開放電圧が3.80Vであり、作動電圧が3.62Vであった。比較例1では、開放電圧が3.58Vであり、作動電圧が3.51Vであった。なお、後述する実施例及び比較例も実施例1と同様に放電特性を測定した。
【0028】
[実施例3]
プロピレンカーボネートの代わりにリン酸トリメチルを用いた以外は実施例1と同様の工程を経て得られたものを実施例3のセルとした。図4は、実施例3及び比較例2の放電曲線である。実施例3では、開放電圧が4.10Vであり、放電量0.3mAh時点での作動電圧が4.015Vであった。
【0029】
[比較例2]
プロピレンカーボネートの代わりにリン酸トリメチルを用いた以外は比較例1と同様の工程を経て得られたものを比較例2のセルとした。比較例2では、開放電圧が4.08Vであり、作動電圧が3.991Vであった。
【0030】
[実施例4]
正極は次のようにして得た。ケッチェンブラック126mg、ポリテトラフルオロエチレン51mg、ポリパラフェニレンサルファイド(化学式5の化合物)226mgを乾式で乳鉢を用いて練り合わせてシート状の正極合材とした。その正極合材(重さ3mg、面積0.29cm2)をPtメッシュに圧着して正極部材を得た。負極には厚さ0.4mmの金属リチウムを用いた。図2に示すビーカーセルに、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で正極と負極をセットした。電解液には、1mol/Lの過塩素酸リチウムのエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート溶液(混合比3:7、富山薬品工業)12mLに、ヨウ素を220mg溶解させたものを用いた。図5は、実施例4及び比較例3の放電曲線である。実施例4では、開放電圧が3.80Vであり、放電量1.0mAh時点での作動電圧が3.54Vであった。
【0031】
[比較例3]
ケッチェンブラック190mg、ポリテトラフルオロエチレン35mgを乾式で乳鉢により練り合わせたものを正極合材として用いた以外は、実施例4と同様の工程を経て得られたものを比較例3のセルとした。比較例3では、開放電圧が3.53Vであり、作動電圧が2.91Vであった。
【0032】
[実施例5]
ケッチェンブラック90mg、ポリテトラフルオロエチレン40mg、トリフェニルホスフィン(化学式3の化合物,アルドリッチ製)210mgを乾式で乳鉢を用いて練り合わせてシート状の正極合材とした。この正極合材(重さ3mg、面積0.29cm2)をPtメッシュに圧着して正極を得た。負極には厚さ0.4mmの金属リチウムを用いた。電解液には、1mol/Lの過塩素酸リチウムのエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート溶液(混合比3:7、富山薬品工業)12mLに、ヨウ素を210mg溶解させたものを用いた。図6は、実施例5〜7の放電曲線である。実施例5では、開放電圧が3.73Vであり、放電量0.5mAh時点での作動電圧が3.49Vであった。
【0033】
[実施例6]
ケッチェンブラック88mg、ポリテトラフルオロエチレン42mg、トリフェニレンホスフィンサルファイド(化学式4の化合物,アルドリッチ製)200mgを乾式で乳鉢を用いて練り合わせてシート状の正極合材とした。この正極合材(重さ3mg、面積0.29cm2)をPtメッシュに圧着して正極を得た。負極には厚さ0.4mmの金属リチウムを用いた。電解液には、1mol/Lの過塩素酸リチウムのエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート溶液(混合比3:7、富山薬品工業)12mLに、ヨウ素を195mg溶解させたものを用いた。実施例6では、開放電圧が3.78Vであり、放電量0.5mAh時点での作動電圧が3.64Vであった。
【0034】
[実施例7]
ケッチェンブラック81mg、ポリテトラフルオロエチレン50mg及びトリフェニレンホスフィンオキシド(化学式8の化合物,アルドリッチ製)175mgを乾式で乳鉢を用いて練り合わせてシート状の正極合材とした。この正極部材(重さ3mg、面積0.29cm2)をPtメッシュに圧着して正極を得た。負極には厚さ0.4mmの金属リチウムを用いた。電解液には、1mol/Lの過塩素酸リチウムのエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート溶液(混合比3:7、富山薬品工業)12mLに、ヨウ素を195mg溶解させたものを用いた。実施例7では、開放電圧が3.73Vであり、放電量0.5mAh時点での作動電圧が3.43Vであった。
【0035】
[実施例8]
ケッチェンブラック35mg、ポリテトラフルオロエチレン15mg及び多環状チオフェン化合物サルフラワー(化学式2の化合物)50mgを乾式で乳鉢を用いて練り合わせてシート状の正極合材とした。その正極合材(重さ3mg、面積0.29cm2)をPtメッシュに圧着して正極を得た。電解液には、1mol/Lの過塩素酸リチウムのエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート溶液(混合比3:7、富山薬品工業)12mLに、ヨウ素を220mg溶解させたものを用いた。開放電圧は3.813Vであった。多環状チオフェン化合物サルフラワーは、以下のように合成した。実施例2で合成した4量体(1.03g)のTHF溶液(15mL)にリチウムジイソプロピルアミドのTHF/エチルベンゼンヘプタン溶液(2M,31.2mL)を−78℃で滴下した。1時間攪拌した後に、硫黄(1.65g)を加え、室温まで徐々に昇温し、一晩攪拌した。ジエチルエーテル200mLを加えて、水層を分離し、有機層は水を用いて抽出した。併せた水層に5N塩酸溶液を滴下した。ここで得られた黄土色固体を濾過し、ジエチルエーテルで洗浄したあと、減圧乾燥した。次に、管状炉を用いて熱分解反応および昇華精製を行った。まず、この固体を常圧下450℃で加熱し、過剰の硫黄および昇華点の低い副反応生成物を除いたあと、減圧下(1.2Pa)480℃で加熱することにより、サルフラワーの淡黄色固体を得た。図7は、実施例8及び比較例3の放電曲線である。実施例8では、開放電圧が3.78Vであり、放電量1.0mAh時点での作動電圧が3.66Vであった。
【0036】
(結果と考察)
負極が金属リチウムであり、イオン伝導媒体にヨウ素を含む場合、負極では上述した反応式(1)、正極では反応式(2)の反応が生じると考えられる。リチウムの標準電極電位は−3.04Vであり、ヨウ素の標準電極電位は+0.53Vであることから、作動電圧の理論的な最大値は3.57Vとなる。これに対して、孤立電子対を有する硫黄、孤立電子対を有するリン及び孤立電子対を有する酸素に結合したリンを含む化合物が正極内に含まれた実施例1〜8では、図3〜7に示すように、理論値よりも高い初期電圧を示した。特に、実施例1,2,4〜6,8では、その高電位を維持して放電することがわかった。これは、溶存ヨウ素が、孤立電子対を有する元素をもつ化合物と分子錯体を形成することで、従来の予想から外れた特異的な挙動、高い電位での放電を実現したものと推察された。
【符号の説明】
【0037】
10 非水電解質ヨウ素電池、12 負極、13 正極、14 化合物、15 導電材、16 バインダ、17 集電体、18 イオン伝導媒体、20 ビーカーセル、21 ビーカー、22 正極、24 負極、26 電解液、28 蓋。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
孤立電子対を有する硫黄、孤立電子対を有するリン及び孤立電子対を有する酸素に結合したリンのうちいずれか1以上を含有する少なくとも1以上の化合物を含む正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、ヨウ素を溶存した非水系のイオン伝導媒体と、
を備えた非水電解質ヨウ素電池。
【請求項2】
前記化合物は、前記イオン伝導媒体に溶存したヨウ素と分子錯体を形成する、請求項1に記載の非水電解質ヨウ素電池。
【請求項3】
前記化合物は、硫黄及び化学式(1)〜(8)の化合物のいずれか1以上である、請求項1又は2に記載の非水電解質ヨウ素電池。
【化1】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−89345(P2013−89345A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226557(P2011−226557)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】