説明

非水電解質二次電池の正極合剤層形成用材料および非水電解質二次電池の製造方法

【課題】導電性に優れた正極合剤層を従来と同程度に容易に形成することができる正極合剤層形成用材料を提供し、また、その正極合剤層形成用材料を用いて出力特性に優れた非水電解質二次電池を製造する方法を提供する。
【解決手段】非水電解質二次電池の正極の集電体に塗布されることによって前記集電体上に正極合剤層を形成する材料である。本材料は、正極活物質と導電材と結着剤と分散剤と溶剤とを混練することによって作製される。固形分率をx[wt%]、分散剤の濃度をA[wt%]、導電材の濃度をB[wt%]、導電材のDBP吸収量をC[ml/100g]としたときに、X={A/(B×C)}×100で定義されるXの値が、0.0009x−0.0385≦X≦0.015の関係を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池の正極合剤層形成用材料および非水電解質二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池は、例えば車両の駆動用モータの電源またはノートブック型パソコンや携帯端末等の電源として、その重要性がますます高まっている。非水電解質二次電池の一つの典型的な例では、正極活物質を含む正極合剤層と負極活物質を含む負極合剤層との間をリチウムイオンが行き来することによって、充電および放電が行われる。
【0003】
正極合剤層は、典型的には以下のようにして形成される。まず、正極活物質と、導電材と、それら正極活物質および導電材を結着する結着剤とを、適量の溶剤を加えて混練し、ペーストを調製する。次に、そのペーストを正極集電体の表面に塗布する。次に、塗布されたペーストを乾燥させる。その結果、正極集電体の表面に正極合剤層が形成される。
【0004】
特許文献1には、導電材として、DBP吸収量が10cm/100g以上400cm/100g以下で、かつ、I吸着量が120mg/g以上1500mg/g以下であるカーボンブラックを用いることが提案されている。特許文献1には、上記カーボンブラックは導電性および電解液保持性の両性能に優れており、このようなカーボンブラックを用いることによって、リチウム二次電池のサイクル特性、特に高温下におけるサイクル特性を良好にすることができる旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−110424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
正極合剤層の導電性を向上させるために、上記ペーストにおける導電材の濃度を高くすることが考えられる。しかし、導電材の濃度を高くすると、導電材が凝集しやすくなり、上記ペーストの粘度は大きくなってしまう。粘度が大きすぎると、例えば、上記ペーストを搬送する配管内における上記ペーストの流動特性が低下し、塗工工程において上記ペーストを搬送しにくくなる。また、上記ペーストを正極集電体の表面に良好に塗布することが難しくなるおそれがある。そこで、正極の生産容易性を高めるため、または正極集電体上に良好な正極合剤層を形成するために、分散剤を添加して上記ペーストの粘度を下げることが考えられる。
【0007】
ところが、分散剤の添加量が多いと、添加した分散剤が正極活物質に吸着されてしまい、反応抵抗の増加を招く。正極合剤層の導電性の向上のために導電材の濃度を高くしたとしても、ペーストの粘度の増加を抑えるために単に分散剤を加えただけでは、所望の高出力特性を得ることが難しいという課題があった。
【0008】
本発明は、導電性に優れた正極合剤層を従来と同程度に容易に形成することができる正極合剤層形成用材料を提供すること、および、その正極合剤層形成用材料を用いて、出力特性に優れた非水電解質二次電池を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によると、非水電解質二次電池の正極の集電体に塗布されることによって前記集電体上に正極合剤層を形成する材料が提供される。この材料は、正極活物質と導電材と結着剤と分散剤と溶剤とを混練することによって作製される。固形分率をx[wt%]、分散剤の濃度をA[wt%]、導電材の濃度をB[wt%]、導電材のDBP吸収量をC[ml/100g]としたときに、X={A/(B×C)}×100で定義されるXの値は、0.0009x−0.0385≦X≦0.015の関係を満たす。本発明によれば、導電性に優れた正極合剤層を従来と同程度に容易に形成することができる正極合剤層形成用材料を得ることができる。
【0010】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、x=48〜58である。他の好ましい一態様では、せん断速度が2[s−1]の場合の粘度が1000〜9600mPa・sである。他の好ましい一態様では、前記導電材は、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、およびファーネス系カーボンブラックの一種または二種以上を含んでいる。他の好ましい一態様では、前記分散剤は、疎水性鎖と親水性鎖とを有する高分子化合物、アニオン性化合物、またはカチオン性化合物からなっている。
【0011】
本発明によると、集電体の表面に正極合剤層が形成された正極を有する非水電解質二次電池の製造方法が提供される。この製造方法は、正極活物質と導電材と結着剤と分散剤と溶剤とを混練することにより、正極合剤層形成用材料を作製するステップと、集電体に前記正極合剤層形成用材料を塗布するステップと、塗布された前記正極合剤層形成用材料を乾燥させるステップと、を含む。前記正極合剤層形成用材料を作製するステップにおいて、前記正極合剤層形成用材料の固形分率をx[wt%]、分散剤の濃度をA[wt%]、導電材の濃度をB[wt%]、導電材のDBP吸収量をC[ml/100g]としたときに、X={A/(B×C)}×100で定義されるXの値は、0.0009x−0.0385≦X≦0.015の関係を満たす。本発明によれば、出力特性に優れた非水電解質二次電池を従来と同程度の容易さで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係るリチウムイオン二次電池を破断して示す斜視図である。
【図2】実施形態に係るリチウムイオン二次電池を搭載した車両の側面図である。
【図3】Xの値と反応抵抗との関係を表すグラフである。
【図4】Xの値と粘度との関係を表すグラフである。
【図5】固形分率と粘度との関係を表すグラフである。
【図6】固形分率とXの値との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0014】
本実施形態に係る非水電解質二次電池は、リチウムイオン二次電池である。リチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、これら正極と負極との間に介在するセパレータとを備える。正極、負極、およびセパレータには、非水電解質が含浸される。
【0015】
正極は、正極集電体と、正極集電体上に形成される正極合剤層とを有する。正極集電体には、典型的には、良好な導電性を有する金属が好ましく用いられる。例えば、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金を用いることができる。正極集電体の形状には特に制限はなく、例えば、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等であってもよい。
【0016】
正極合剤層は、正極集電体の表面に塗布された正極合剤層形成用材料が乾燥することによって形成される。正極合剤層形成用材料は、ペースト状の材料であって、正極活物質と導電材と結着剤と分散剤と溶剤とを混練することによって作製される。
【0017】
正極活物質には、リチウムを吸蔵および放出可能な材料が用いられる。正極活物質として、従来からリチウムイオン二次電池に用いられている物質(例えば、層状構造の酸化物やスピネル構造の酸化物)の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。例えば、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムマグネシウム系複合酸化物等のリチウム含有複合酸化物等を用いることができる。
【0018】
ここで、リチウムニッケル系複合酸化物とは、リチウム(Li)とニッケル(Ni)とを構成金属元素とする酸化物の他、リチウムおよびニッケル以外に他の少なくとも一種の金属元素(すなわち、LiとNi以外の遷移金属元素および/または典型金属元素)を、原子数換算でニッケルと同程度またはニッケルよりも少ない割合(典型的にはニッケルよりも少ない割合)で構成金属元素として含む酸化物をも包含する意味である。上記LiおよびNi以外の金属元素は、例えば、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、バナジウム(V)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ランタン(La)、およびセリウム(Ce)からなる群から選択される一種または二種以上の金属元素であり得る。なお、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、およびリチウムマグネシウム系複合酸化物についても同様の意味である。
【0019】
また、一般式がLiMPO(MはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種以上の元素;例えばLiFeO、LiMnPO)で表記されるオリビン型リン酸リチウムを上記正極活物質として用いてもよい。
【0020】
正極合剤層形成用材料に含まれる正極活物質の量は適宜選択することができ、例えば、80質量%〜95質量%とすることができる。
【0021】
導電材としては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネス系カーボンブラックなどを好ましく用いることができる。また、それらの材料の一種または二種以上に黒鉛またはカーボンナノファイバーなどを一部混合させたものであってもよい。特に限定する訳ではないが、後述するX値が所定範囲に収まる限り、正極活物質100重量部に対する導電材の使用量は、例えば1〜20重量部(好ましくは5〜15重量部)とすることができる。
【0022】
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等を用いることができる。正極活物質100重量部に対する結着剤の使用量は、例えば0.5〜10重量部とすることができる。正極活物質100重量部に対して結着剤を1〜4重量部用いるようにしてもよい。
【0023】
分散剤として、例えば疎水性鎖と親水性鎖(基)を有する高分子化合物、例えばポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドンなどを好ましく用いることができる。また、分散剤の他の例として、硫酸塩、スルホン酸塩、燐酸塩などを有するアニオン性化合物、脂肪族アミンなどのカチオン性化合物などが挙げられる。後述するX値が所定範囲に収まる限り、正極活物質100重量部に対する分散剤の使用量は、例えば0.1〜1重量部(好ましくは0.1〜0.3重量部)とすることができる。
【0024】
溶剤としては、例えば、水またはN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を好ましく用いることができる。
【0025】
本実施形態に係る正極合剤層形成用材料は、典型的には以下のようにして作製される。まず、導電材と結着剤と分散剤と溶剤とを混ぜ合わせ、導電材ペーストを作製する。次に、この導電材ペーストに正極活物質を加え、混練する。混練方法は特に限定されず、例えばメディア分散およびメディアレス分散のいずれでも構わない。メディア分散を用いる場合には、典型的には、ビーズミルまたはボールミル等の分散機に、ガラスまたはジルコニアなどのセラミックビーズを投入し、カーボンブラックと共に分散を行う。高圧ホモジナイザー、ジェットミル、超音波分散機、プラネタリーミクサー、ディスパーなどのメディアレス分散機を用いてもよく、メディア分散とメディアレス分散とを組み合わせてもよい。
【0026】
正極合剤層形成用材料の作製に際して、当該材料の固形分率をx[wt%]、分散剤の濃度をA[wt%]、導電材の濃度をB[wt%]、導電材のDBP吸収量をC[ml/100g]としたときに、X={A/(B×C)}×100で定義されるXの値が、0.0009x−0.0385≦X≦0.015の関係を満たすように調製を行う。例えば、x=54とし、0.010≦X≦0.015となるように調製してもよい。DBP吸収量(JIS K6217−4参照)は、導電材の粒子凝集体のストラクチャーの発達度合に関するパラメータであり、導電材のぬれ面積を示す指標となり得る。B×Cは系中の導電材のぬれ面積の総和を示す指標である。よって、Xは分散剤の導電材ぬれ面積に対する割合を示すパラメータと言える。
【0027】
上記のようにして作製された正極合剤層形成用材料は、正極集電体の表面に塗布される。従来からよく用いられている各種の塗布装置(スリットコーター、ダイコーター、コンマコーター、グラビアコーター等)を好適に用いることができる。塗布された正極合剤層形成用材料は、その後乾燥することによって、正極合剤層を形成する。乾燥にあたっては、必要に応じて適当な乾燥促進手段(ヒータ等)を用いてもよい。その後、所望によりプレスを行ってもよい。
【0028】
次に、上記正極合剤層を有する非水電解質二次電池の一例について説明する。図1は、非水電解質二次電池の一例としてのリチウムイオン二次電池10を表す。リチウムイオン二次電池10は、電極体11が非水電解液20と共に電池ケース15に収容された構成を有する。電極体11は、正極12と負極14とセパレータ13とによって構成されている。非水電解液20の少なくとも一部は、電極体11に含浸されている。
【0029】
正極12は、長尺シート状の正極集電体122と、正極活物質を含み且つ正極集電体122上に形成された正極合剤層124とを有している。負極14は、長尺シート状の負極集電体142と、負極活物質を含み且つ負極集電体142上に形成された負極合剤層144とを有している。セパレータ13は、正極12および負極14と同様に、長尺シート状に形成されている。正極12および負極14は、それらの間にセパレータ13が介在するように、二枚のセパレータ13とともに円筒状に巻回されている。なお、巻回後の電極体11の形状は円筒状に限られない。例えば、正極12とセパレータ13と負極14とを巻回した後、側方から力を加えることにより、偏平形状に形成してもよい。
【0030】
電池ケース15は、有底円筒状のケース本体152と、ケース本体152の開口部を塞ぐ蓋体154とを備えている。蓋体154およびケース本体152はいずれも金属製であって、相互に絶縁されている。蓋体154は正極集電体122に電気的に接続され、ケース本体152は負極集電体142に電気的に接続されている。このリチウムイオン二次電池10では、蓋体154が正極端子、ケース本体152が負極端子をそれぞれ兼ねている。
【0031】
正極集電体122の長手方向に沿う一方の縁(図1の上側の縁)には、正極合剤層124が設けられずに集電体122が露出した部分が形成されている。この露出部分には、蓋体154が電気的に接続されている。負極集電体142の長手方向に沿う一方の縁(図1の下側の縁)には、負極合剤層144が設けられずに集電体142が露出した部分が形成されている。この露出部分には、ケース本体152が電気的に接続されている。
【0032】
非水電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒(非水溶媒)中に含んだものである。リチウム塩としては、例えば、従来からリチウムイオン二次電池の非水電解液の支持塩として用いられている公知のリチウム塩を、適宜選択して使用することができる。例えば、かかるリチウム塩として、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、Li(CFSON、LiCFSO等が例示される。上記非水溶媒として、一般的なリチウムイオン二次電池に用いられる有機溶媒を適宜選択して使用することができる。特に好ましい非水溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)等のカーボネート類が例示される。
【0033】
正極集電体122および正極合剤層124の構成は前述の通りである。
【0034】
負極集電体142には、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、銅または銅を主成分とする合金を用いることができる。負極合剤層144は、負極活物質の他、正極合剤層124と同様の導電材、バインダ等を必要に応じて含有し得る。負極活物質としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられている物質の一種または二種以上を特に限定なく使用することができる。例えば、好適な負極活物質としてカーボン粒子が挙げられる。少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)が好ましく用いられる。いわゆる黒鉛質のもの(グラファイト)、難黒鉛化炭素質のもの(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質のもの(ソフトカーボン)、これらを組み合わせた構造を有するもののいずれの炭素材料も、好適に使用することができる。
【0035】
セパレータ13は、長尺のシート状に形成されている。ただし、セパレータ13の形状は、リチウムイオン二次電池の形状等に応じて異なり得るため、特にシート状に限定される訳ではない。セパレータ13としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂からなる多孔質フィルムを好適に使用することができる。多孔質フィルムとして、一軸延伸または二軸延伸された多孔性樹脂フィルムを好適に用いることができる。長手方向に一軸延伸された多孔性樹脂フィルムは、適度な強度を備えつつ幅方向の熱収縮が少ないため、特に好ましい。
【0036】
リチウムイオン二次電池10は、以下のようにして製造される。まず、正極12、負極14、およびセパレータ13をそれぞれ作製する。前述したように、正極12の作製は、正極活物質と導電材と結着剤と分散剤と溶剤とを混練することにより、正極合剤層形成用材料としてのペーストを調製するステップと、正極集電体に上記ペーストを塗布するステップと、塗布された上記ペーストを乾燥させるステップとを含む。次に、それらを重ね合わせて円筒状に巻回することにより、電極体11を組み立てる。次に、電極体11をケース本体152に挿入し、ケース本体152内に非水電解液20を注入する。これにより、電極体11に非水電解液20が含浸する。その後、ケース本体152に蓋体154を被せ、蓋体154およびケース本体152を密封する。
【0037】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10は、各種用途向けの二次電池として利用可能である。例えば、図2に示すように、自動車等の車両1に搭載され、車両1を駆動するモータ等の駆動源用の電源として好適に利用することができる。車両1の種類は特に限定されないが、典型的には、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等である。かかるリチウムイオン二次電池10は、単独で使用されてもよく、直列および/または並列に複数接続されてなる組電池の形態で使用されてもよい。
【0038】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明する。ただし、以下の説明は本発明をかかる実施例に限定することを意図したものではない。
【0039】
<実施例1>
導電材として、AB吸油量(JIS K6217−4参照)が140[ml/100g]のアセチレンブラック(AB)を用いた。このアセチレンブラック9.5重量部と、正極活物質としてのLiNi1/3Co1/3Mn1/388.5重量部と、結着剤としてのPVDF2重量部と、分散剤としてのポリビニルブチラール0.2重量部と、溶剤としてのNMPとを混ぜ合わせ(固形分率は54wt%とした。)、それらを混練することによって正極合剤層形成用のペーストを作製した。X=0.2/(9.5×140)×100=0.0150である。30℃の温度条件の下、E型粘度計を用いて上記ペーストの粘度を測定したところ、6210mPa・s(せん断速度2s−1)であった。
【0040】
正極集電体としてのアルミニウム箔(厚さ15μm)の両面に、単位面積あたりの被覆量が両面で11.1mg/cmとなるように上記ペーストを塗布し、乾燥させた。次いで、ローラプレス機にてシート状に引き延ばすことにより厚さ66μmに成形し、正極合剤層が所定の幅を有するようにスリットして正極シートを作製した。
【0041】
天然黒鉛98重量部とCMC1重量部とSBR1重量部とから、負極合剤層形成用のペーストを作製した。負極集電体としての銅箔(厚さ10μm)の両面に、単位面積あたりの被覆量が両面で7.1mg/cmとなるように上記ペーストを塗布し、乾燥させた。次いで、ローラプレス機にてシート状に引き延ばすことにより厚さ61μmに成形し、負極合剤層が所定の幅を有するようにスリットして負極シートを作製した。
【0042】
上記の正極シートおよび負極シートを用いて、リチウムイオン二次電池を作製した。すなわち、正極シートおよび負極シートを2枚のセパレータと共に積層し、この積層シートを巻回して巻回電極体を作製した。そして、この電極体を電解質とともに容器に収容し、直径18mm、高さ65mm(18650型)の円筒型リチウムイオン二次電池を構築した。電解質としては、プロピレンカーボネート(PC)とジエチルカーボネート(DEC)との1:1(体積比)混合溶媒に1mol/LのLiPFを溶解させた組成の非水電解液を用いた。このようなリチウムイオン二次電池を5つ作製した(実施例1A〜1E)。
【0043】
<実施例2>
正極活物質を90重量部、導電材を8重量部、分散剤を0.16重量部とし、粘度が6994mPa・s(せん断速度2s−1)であること以外は実施例1と同様にして、正極合剤層形成用のペーストを調製した。X=0.16/(8×140)×100=0.0143である。このペーストを用い、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0044】
<実施例3>
正極活物質を90重量部、導電材を8重量部、分散剤を0.14重量部とし、粘度が7624mPa・s(せん断速度2s−1)であること以外は実施例1と同様にして、正極合剤層形成用のペーストを調製した。X=0.14/(8×140)×100=0.0125である。このペーストを用い、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0045】
<実施例4>
正極活物質を90重量部、導電材を8重量部、分散剤を0.12重量部とし、粘度が9520mPa・s(せん断速度2s−1)であること以外は実施例1と同様にして、正極合剤層形成用のペーストを調製した。X=0.12/(8×140)×100=0.0107である。このペーストを用い、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0046】
<比較例1>
導電材としてAB吸油量が175[ml/100g]のアセチレンブラックを用い、正極活物質を88重量部、導電材を10重量部、分散剤を0.9重量部とし、粘度が1540mPa・s(せん断速度2s−1)であること以外は実施例1と同様にして、正極合剤層形成用のペーストを調製した。X=0.9/(10×175)×100=0.0514である。このペーストを用い、実施例1と同様にして複数のリチウムイオン二次電池を作製した(比較例1A〜1F)。
【0047】
<比較例2>
導電材としてAB吸油量が175[ml/100g]のアセチレンブラックを用い、正極活物質を88重量部、導電材を10重量部、分散剤を0.8重量部とし、粘度が2020mPa・s(せん断速度2s−1)であること以外は実施例1と同様にして、正極合剤層形成用のペーストを調製した。X=0.8/(10×175)×100=0.0457である。このペーストを用い、実施例1と同様にして複数のリチウムイオン二次電池を作製した(比較例2A〜2E)。
【0048】
<比較例3>
正極活物質を88.2重量部、導電材を9.8重量部、分散剤を0.5重量部とし、粘度が3965mPa・s(せん断速度2s−1)であること以外は実施例1と同様にして、正極合剤層形成用のペーストを調製した。X=0.5/(9.8×140)×100=0.0364である。このペーストを用い、実施例1と同様にして複数のリチウムイオン二次電池を作製した(比較例3A〜3F)。
【0049】
<比較例4>
導電材としてAB吸油量が175[ml/100g]のアセチレンブラックを用い、正極活物質を90重量部、導電材を8重量部、分散剤を0.5重量部とし、粘度が3668mPa・s(せん断速度2s−1)であること以外は実施例1と同様にして、正極合剤層形成用のペーストを調製した。X=0.5/(8×175)×100=0.0357である。このペーストを用い、実施例1と同様にして複数のリチウムイオン二次電池を作製した(比較例4A〜4F)。
【0050】
<比較例5>
導電材としてAB吸油量が160[ml/100g]のアセチレンブラックを用い、正極活物質を90重量部、導電材を8重量部、分散剤を0.4重量部とし、粘度が3915mPa・s(せん断速度2s−1)であること以外は実施例1と同様にして、正極合剤層形成用のペーストを調製した。X=0.4/(8×160)×100=0.0313である。このペーストを用い、実施例1と同様にして複数のリチウムイオン二次電池を作製した(比較例5A〜5D)。
【0051】
<比較例6>
分散剤を0.3重量部とし、粘度が5013mPa・s(せん断速度2s−1)であること以外は実施例1と同様にして、正極合剤層形成用のペーストを調製した。X=0.3/(9.5×140)×100=0.0226である。このペーストを用い、実施例1と同様にして複数のリチウムイオン二次電池を作製した(比較例6A〜6E)。
【0052】
<比較例7>
正極活物質を90重量部、導電材を8重量部、分散剤を0.1重量部とし、粘度が12654mPa・s(せん断速度2s−1)であること以外は実施例1と同様にして、正極合剤層形成用のペーストを調製した。X=0.1/(8×140)×100=0.0089である。このペーストを用い、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0053】
<比較例8>
分散剤を使用せず、正極活物質を88重量部、導電材を10重量部とし、粘度が35500mPa・s(せん断速度2s−1)であること以外は実施例1と同様にして、正極合剤層形成用のペーストを調製した。分散剤を使用しないため、X=0である。このペーストを用い、実施例1と同様にして複数のリチウムイオン二次電池を作製した(比較例8A〜8B)。
【0054】
各実施例および各比較例の電池の出力特性を評価する指標として、各電池の−30℃における反応抵抗を測定した。詳しくは、SOC30%において交流インピーダンス測定によりcole−coleプロットを得て、半円の直径を反応抵抗とした。
【0055】
測定の結果は表1に示す通りである。
【0056】
【表1】

【0057】
図3はXの値と反応抵抗との関係を表すグラフであり、図4はXの値と粘度との関係を表すグラフである。図3から、Xの値が0.015以下の場合、反応抵抗の上昇を抑制できることが分かる。Xの値が0.015以下である正極合剤層形成用ペーストを用いることにより、出力特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。一方、正極合剤層形成用のペーストの粘度が10000mPa・s以下の場合、生産容易性を損なわずにペーストを正極集電体に良好に塗布することができる。図4から、Xの値が0.010以上の場合、粘度は10000mPa・s以下であることが分かる。Xの値が0.010以上である正極合剤層形成用ペーストを用いることにより、粘度が大きいことに起因して正極の作製が従来以上に困難になることを避けることができる。よって、下記の式(1)を満たす正極合剤層形成用ペーストを用いることによって、導電性に優れた正極合剤層を従来と同程度に容易に作製することが可能であり、生産性を特段損なうことなく、出力特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
0.010≦X≦0.015 ・・・(1)
【0058】
上記実施例および比較例では、ペーストの固形分率は54wt%であった。固形分率が変化すると、それに伴って粘度も変化する。本願発明者は、Xの値が0.01、0.0089、0.006のペーストについて、固形分率と粘度との関係を調べたところ、表2および図5に示すような結果が得られた。
【0059】
【表2】

【0060】
図5に示す結果から、粘度が10000mPa・sのときのXの値(ここではyとする。)と固形分率xとについて、y=0.0009x−0.0385という関係式を導くことができる(図6参照)。前述の式(1)は、固形分率xを用いて下記の式(2)のように一般化することができる。
0.0009x−0.0385≦X≦0.015 ・・・(2)
【0061】
上記の式(2)を満たす正極合剤層形成用ペーストを用いることによって、導電性に優れた正極合剤層を従来と同程度に容易に作製することが可能であり、生産性を特段損なうことなく、出力特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0062】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態および各実施例は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0063】
10 リチウムイオン二次電池(非水電解質二次電池)
11 電極体
12 正極
14 負極
13 セパレータ
122 正極集電体
124 正極合剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質二次電池の正極の集電体に塗布されることによって前記集電体上に正極合剤層を形成する材料であって、
正極活物質と導電材と結着剤と分散剤と溶剤とを混練することによって作製され、固形分率をx[wt%]、分散剤の濃度をA[wt%]、導電材の濃度をB[wt%]、導電材のDBP吸収量をC[ml/100g]としたときに、X={A/(B×C)}×100で定義されるXの値が、
0.0009x−0.0385≦X≦0.015
の関係を満たす、非水電解質二次電池の正極合剤層形成用材料。
【請求項2】
x=48〜58である、請求項1に記載の非水電解質二次電池の正極合剤層形成用材料。
【請求項3】
せん断速度が2[s−1]の場合の粘度が1000〜9600mPa・sである、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池の正極合剤層形成用材料。
【請求項4】
前記導電材は、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、およびファーネス系カーボンブラックの一種または二種以上を含んでいる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池の正極合剤層形成用材料。
【請求項5】
前記分散剤は、疎水性鎖と親水性鎖とを有する高分子化合物、アニオン性化合物、またはカチオン性化合物からなっている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池の正極合剤層形成用材料。
【請求項6】
集電体の表面に正極合剤層が形成された正極を有する非水電解質二次電池の製造方法であって、
正極活物質と導電材と結着剤と分散剤と溶剤とを混練することにより、正極合剤層形成用材料を作製するステップと、
集電体に前記正極合剤層形成用材料を塗布するステップと、
塗布された前記正極合剤層形成用材料を乾燥させるステップと、を含み、
前記正極合剤層形成用材料を作製するステップにおいて、前記正極合剤層形成用材料の固形分率をx[wt%]、分散剤の濃度をA[wt%]、導電材の濃度をB[wt%]、導電材のDBP吸収量をC[ml/100g]としたときに、X={A/(B×C)}×100で定義されるXの値が、
0.0009x−0.0385≦X≦0.015
の関係を満たす、非水電解質二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−243522(P2012−243522A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111698(P2011−111698)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】