説明

非水電解質二次電池用の電極、及び非水電解質二次電池

【課題】電流遮断機構(CID機構)を備えた非水電解質二次電池に好適なものであり、活物質の比表面積を大きくしなくても過充電時のガス発生量を効果的に増加させることが可能な非水電解質二次電池用の電極を提供する。
【解決手段】本発明の非水電解質二次電池用の電極は、過充電時に酸化分解されてプロトンを発生する添加剤が添加された非水電解質と、電池内圧が所定値以上になると電流を遮断する電流遮断機構とを備えた非水電解質二次電池用であり、集電体上に粒子状の活物質と導電剤とポリマー結着剤とを含む電極層が形成された非水電解質二次電池用の電極であって、ポリマー結着剤の重量平均分子量を20万〜40万としたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用の電極、及びこれを用いた非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池においては、過充電時の安全対策として、電池内圧が所定値以上になると電流を遮断する電流遮断機構(Current Interrupt Device(CID)機構)が搭載されることがある(例えば、特許文献1の請求項6等)。
上記CID機構を備えた非水電解質二次電池においては、非水電界質に過充電時に酸化分解されてプロトンを発生する過充電防止剤が添加される。かかる構成では、過充電時には過充電防止剤が分解されてプロトンが発生して内圧上昇がし、これを検知して電流が遮断される。
過充電防止剤としては例えば、シクロヘキシルベンゼン(CHB)、及びビフェニル(BP)等が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-257479号公報
【特許文献2】特開2011-014457号公報
【特許文献3】特開2009-134970号公報
【特許文献4】特開2010-118216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CHB及びBP等の過充電防止剤は、反応効率が高くなく、過充電時に充分な内圧上昇を実現するには、過充電防止剤の分解反応及びプロトン生成反応の反応面積を増加させる、あるいは過充電防止剤の添加量を増加させるなど、反応量を多くする必要がある。しかしながら、過充電防止剤の反応量の増加は、過充電時以外の正常時においては電池の抵抗増加を招く要因となり、限界がある。
【0005】
過充電時のガス発生量を増加する手段としては、電極層の活物質の比表面積を増加させることが考えられる。
【0006】
CID機構を備えた非水電解質電池に関するものではないが、特許文献2には、正極活物質の平均粒子径が1μm以下であり、分散剤として分子量1000以下の窒素原子含有非イオン性界面活性剤を用いた正極が開示されている(請求項1)。
【0007】
特許文献2に記載の構成では、正極活物質の平均粒子径を小さくしても、正極活物質の分散性が改善されることが記載されている(段落0029等)。正極活物質の平均粒子径を小さくすれば、正極活物質の比表面積を増加できる。
しかしながら、正極活物質の比表面積を増加させると、正極活物質と非水電解質との接触面積が大きくなり、充放電を繰り返した際にSEI(Solid Electrolyte Interphase)皮膜が形成されやすく、その結果、抵抗が増し、容量維持率等の電池耐久性が低下する。また、仮にかかる構成をCID機構を備えた二次電池に適用した場合、過充電時のガス発生量も低減してしまう。
【0008】
本発明の関連技術としては、特許文献3、4がある。
【0009】
特許文献3には、オリビン構造を有する正極材料を用いた場合でも、充分なサイクル特性を得ることができる非水電解質電池を提供することを目的として、非水電解質電池の負極において、炭素材料からなる負極活物質の比表面積を0.5〜2m2/gとし、結着剤として重量平均分子量25万〜35万のポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いた非水電解質電池が開示されている(請求項1)。
【0010】
特許文献4には、高比表面積の炭素材料を活物質に用いた非水電解質電池において、高強度を保ちつつ、高エネルギー密度及び高出力密度の両者を実現することを目的として、非水電解質電池の負極において、炭素材料からなる負極活物質のBET比表面積を20〜3000m/gとし、結着剤として重量平均分子量28万〜200万のPVdFを用いた非水電解質電池が開示されている(請求項1)。
【0011】
特許文献3、4はCID機構を備えた非水電解質電池に関するものではなく、CID機構を備えた非水電解質電池における課題の解決を目的とする本発明とは、目的が異なっている。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、電流遮断機構(CID機構)を備えた非水電解質二次電池に好適なものであり、活物質の比表面積を大きくしなくても過充電時のガス発生量を効果的に増加させることができる非水電解質二次電池用の電極、及びこれを用いた非水電解質二次電池を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の非水電解質二次電池用の電極は、
過充電時に酸化分解されてプロトンを発生する添加剤が添加された非水電解質と、電池内圧が所定値以上になると電流を遮断する電流遮断機構とを備えた非水電解質二次電池用であり、集電体上に粒子状の活物質と導電剤とポリマー結着剤とを含む電極層が形成された非水電解質二次電池用の電極であって、
前記ポリマー結着剤の重量平均分子量を20万〜40万としたものである。
【0014】
ポリマー結着剤の「重量平均分子量Mw」は、メーカーの公称値とする。
メーカーのポリマー結着剤の重量平均分子量Mwの公称値には通常、「約」が付されている。したがって、メーカーのポリマー結着剤の重量平均分子量Mwの公称値が「約20万〜約40万」の範囲内のとき、ポリマー結着剤の重量平均分子量Mwが20万〜40万を充足しているものとする。
【0015】
本明細書において、特に明記しない限り、ポリマー結着剤の「分子量」は、重量平均分子量Mwを意味するものとする。
【0016】
本発明によれば、電極層の窒素吸着法によるBET比表面積が4.3m/g以上である正極を提供できる。
本明細書において、特に明記しない限り、「BET比表面積」は窒素吸着法によるものとする。
【0017】
非水電解質二次電池用の電極において、電極層中のポリマー結着剤の濃度が3.5質量%以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の非水電解質二次電池用の電極は、正極に好ましく適用できる。
【0019】
本発明の非水電解質二次電池は、上記の本発明の非水電解質二次電池用の電極を備えたものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、電流遮断機構(CID機構)を備えた非水電解質二次電池に好適なものであり、活物質の比表面積を大きくしなくても過充電時のガス発生量を効果的に増加させることができる非水電解質二次電池用の電極、及びこれを用いた非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る非水電解質二次電池の構成例を模式的に示す全体図である。
【図2】図1の非水電解質二次電池の部分断面図である。
【図3】[実施例]において、PVdF分子量と正極の電極層中のPVdF濃度と正極の電極層用スラリーのNVとの関係を示すグラフである。
【図4】[実施例]において、正極の電極層用スラリーの動粘度の測定結果を示すグラフである。
【図5】[実施例]において、正極の電極層形成用の塗膜を乾燥する際の乾燥時間と塗膜の剥離強度との関係を示すグラフである。
【図6】[実施例]において、正極の電極層の貫通抵抗の測定結果を示すグラフである。
【図7】[実施例]において、正極の電極層のBET比表面積と過充電時のガス発生量との関係を示すグラフである。
【図8】[実施例]において、サイクル充放電試験における容量維持率の変化を示すグラフである。
【図9】[実施例]において、サイクル充放電試験におけるIV抵抗の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳述する。
本発明は、過充電時に酸化分解されてプロトンを発生する添加剤が添加された非水電解質と、電池内圧が所定値以上になると電流を遮断する電流遮断(CID)機構とを備えた非水電解質二次電池用の電極、及びこれを備えた非水電解質二次電池に関するものである。
以降、過充電時に酸化分解されてプロトンを発生する添加剤は、「過充電防止剤」と称す。
【0023】
[非水電解質二次電池の全体構成]
図1及び図2に、本発明に係る非水電解質二次電池の全体構成例を模式的に示す。図1は全体図、図2は部分断面図である。いずれも模式図である。
【0024】
図1に示す非水電解質二次電池1は、外装体11内に、図2に示す積層体20と、過充電防止剤が添加された非水電解質(符号略)とが収容されたものである。
積層体20は、正極21と負極22とセパレータ23とが積層されたものである。
【0025】
非水電解質二次電池1には、外装体11内に、電池内圧が所定値以上になると電流を遮断する電流遮断機構13が設けられている。電流遮断機構13の設置箇所は、電流遮断作用に応じて設計される。
【0026】
内圧上昇を検知するために、非水電解質には、過充電時に分解されてプロトンを発生する過充電防止剤が添加される。かかる構成では、過充電時には非水電解質中の過充電防止剤が酸化分解されてプロトンが発生し、このプロトンが負極で還元されて水素ガスが発生する。このガス発生によって電池内圧が上昇し、電流遮断機構13によって電流が遮断される。
【0027】
電流遮断機構13としては公知の機構を採用することができる。
電流遮断機構13としては、電池内圧が上昇することによって変形して充電電流の接点を切る構造体、電池内圧をセンサで検知して充電を停止する外部回路、電池内圧による電池の変形をセンサで検知して充電を停止する外部回路、及び、電池内圧が上昇することによって変形して正極と負極とを短絡させる構造体などを例示することができる。
例えば、電池内圧が上昇することによって変形して充電電流の接点を切る構造体等は、シンプルな構造でかつ電流遮断効果が高いので好ましい。
【0028】
外装体11の外面に、外部接続用の2個の端子(プラス端子及びマイナス端子)12が設けられている。
【0029】
[電極]
本発明の非水電解質二次電池用の電極は、
過充電時に酸化分解されてプロトンを発生する添加剤(過充電防止剤)が添加された非水電解質と、電池内圧が所定値以上になると電流を遮断する電流遮断(CID)機構とを備えた非水電解質二次電池用であり、集電体上に粒子状の活物質と導電剤とポリマー結着剤とを含む電極層が形成された非水電解質二次電池用の電極であって、
ポリマー結着剤の重量平均分子量を20万〜40万としたものである。
【0030】
本発明の非水電解質二次電池用の電極は、正極と負極のいずれにも適用可能である。
本発明の非水電解質二次電池用の電極は、特に正極に好ましく適用できる。
【0031】
ポリマー結着剤としては特に制限なく、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等が好ましく用いられる。
【0032】
従来、非水電解質二次電池用の電極のポリマー結着剤としては重量平均分子量Mwが約100万のものが広く用いられている。
本発明の非水電解質二次電池用の電極では、ポリマー結着剤として、上記より低分子量のものを用いる。
ポリマー結着剤の低分子量化により、活物質の表面におけるポリマー結着剤の被覆率を低減できる。その結果、活物質の比表面積を大きくしなくても、電極層の比表面積を大きくできる。
本発明では、電極層の比表面積を大きくできるので、貫通抵抗が低く、活性点の多い電極構造が得られる。かかる構造の電極では、貫通抵抗が低減され、活性点が増し、電子の受渡し場所が増し、電界質の浸透性が増すので、電池性能が向上し、過充電防止剤の添加による抵抗増加を補償することができる。また、活性点が増し、電子の受渡し場所が増すので、過充電防止剤の酸化反応が促進され、過充電防止剤の単位添加量当たりの過充電時のガス発生量が増す。
【0033】
電極層の窒素吸着法によるBET比表面積は例えば、4.3m/g以上とすることができる。
【0034】
本発明者の実際の測定例では、電極のポリマー結着剤の重量平均分子量Mw以外は同条件とした場合、重量平均分子量Mwが約100万のポリマー結着剤を用いた比較例1に対して、重量平均分子量Mwが約35万、あるいは約28万のポリマー結着剤を用いた実施例1、2では、電極の貫通抵抗は約1/3に低減され、電極層のBET比表面積は4.3m/g以上に増大され、過充電時のガス発生量は約2倍に増大されるデータが得られている(図6及び図7を参照)。
【0035】
電極層中のポリマー結着剤の濃度は特に制限されない。
電極層中のポリマー結着剤の濃度が過大では、活物質の被覆率が高くなり、ポリマー結着剤の低分子量化による活物質の被覆率の低減効果が充分に得られなくなる恐れがある。
電極層中のポリマー結着剤の濃度が過小では、電極層の剥離強度が低下する恐れがある。電極層は例えば、集電体上に電極層材料を含むスラリーを塗布し、乾燥することによって形成されるが、電極層の剥離強度が不充分であると、塗膜の乾燥中にひび割れが生じる恐れがある。また、電極層の剥離強度が不充分であると、電池耐久性が不充分となる恐れがある。
同じ濃度であれば、ポリマー結着剤の重量平均分子量Mwが低い程、剥離強度は低下する傾向がある。
【0036】
本発明者の実際の測定例では、重量平均分子量Mwが約100万のPVdFを用いた場合、電極層中のPVdF濃度が2.0質量%以下で充分な剥離強度が得られず、電極層材料を含むスラリーを塗布し、乾燥する過程で、塗膜にひび割れが生じる恐れがあり、2.5質量%以上で充分な剥離強度が得られるというデータが得られている(図5を参照)。
【0037】
また、本発明者の実際の測定例では、重量平均分子量Mwが約35万、あるいは約28万のPVdFを用いた場合、電極層中のPVdF濃度が3.0質量%では、重量平均分子量Mwが約100万のPVdFを用い、電極層中のPVdF濃度を2.5〜3.0質量%とした場合よりも剥離強度は劣るものの、重量平均分子量Mwが約100万のPVdFを用い、電極層中のPVdF濃度を2.0質量%とした場合よりは剥離強度が高く、電極層材料を含むスラリーを塗布し、乾燥する過程で、塗膜にひび割れが生じる恐れがなく、充分な剥離強度が得られるというデータが得られている(図5を参照)。
【0038】
活物質の被覆率の低減効果と電極層の剥離強度の観点から、本発明の電極において、電極層中のポリマー結着剤の濃度は3.5質量%以下が好ましく、2.5〜3.5質量%が特に好ましい。
【0039】
活物質の比表面積は特に制限されない。
活物質の比表面積が大きくなる程、活物質と非水電解質との接触面積が大きくなり、充放電を繰り返した際にSEI(Solid Electrolyte Interphase)皮膜が形成されやすく、その結果、抵抗が増し、容量維持率等の電池耐久性が低下し、過充電時のガス発生量が低減する傾向がある。したがって、活物質の比表面積はある程度小さいことが好ましい。
ただし、活物質の比表面積が過小では、電極層全体のBET比表面積が過小になり、過充電時のガス発生量が不充分となる恐れがある。
活物質の窒素吸着法によるBET比表面積は1.40m/g以下が好ましく、0.80〜1.40m/gが特に好ましい。
上記したように、本発明では、従来よりも低分子量のポリマー結着剤を用いることで、活物質の比表面積を大きくしなくても、過充電時のガス発生量を大きくすることができる。
【0040】
電極層における導電剤の濃度は特に制限されない。
電極層の抵抗、電池容量、及び過充電時のガス発生量等を考慮すれば、電極層における導電剤の濃度は例えば4.0〜6.0質量%が好ましい。
【0041】
非水電解質二次電池としては、リチウムイオン二次電池等が挙げられる。
以下、リチウムイオン二次電池を例として、非水電解質二次電池の主な構成要素について説明する。
【0042】
<正極>
正極は、公知の方法により、アルミニウム箔などの集電体に電極層材料を塗布し、塗膜を加熱乾燥することで、製造することができる。
【0043】
公知の正極活物質としては特に制限なく、例えば、LiCoO、LiMnO、LiMn、LiNiO、LiNiCo(1−x)、及びLiNiCoMn(1−x−y)等のリチウム含有複合酸化物等が挙げられる(式中、0<x<1、0<y<1)。
正極活物質としては、Ni、Co、及びMnを含む3元系のリチウム含有複合酸化物等が好ましい。
【0044】
例えば、N−メチル−2−ピロリドン等の分散媒を用い、上記の正極活物質と、炭素粉末等の導電剤と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のポリマー結着剤と、必要に応じて微量の分散剤とを混合して、スラリーを得、このスラリーをアルミニウム箔等の集電体上に塗布し、乾燥し、プレス加工して、正極を得ることができる。
【0045】
正極電極層の目付は特に制限されず、電池容量等の電池性能、電極層の均一塗布、及び電極層の剥離強度等を考慮すれば、例えば1.5〜35mg/cmが好ましい。
正極電極層の密度は特に制限されず、電池容量等の電池性能、電極層の均一塗布、及び電極層の剥離強度等を考慮すれば、例えば2.0〜3.0mg/cmが好ましい。
【0046】
<負極>
負極活物質としては特に制限なく、Li/Li+基準で2.0V以下にリチウム吸蔵能力を持つものが好ましく用いられる。負極活物質としては、黒鉛等の炭素、金属リチウム、リチウム合金、リチウムイオンのド−プ・脱ド−プが可能な遷移金属酸化物/遷移金属窒化物/遷移金属硫化物、及び、これらの組合わせ等が挙げられる。
【0047】
負極は例えば、公知の方法により、銅箔などの負極集電体に負極活物質を塗布して、製造することができる。
例えば、水等の分散媒を用い、負極活物質と、変性スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス等の結着剤と、必要に応じてカルボキシメチルセルロースNa塩(CMC)等の増粘剤とを混合して、スラリーを得、このスラリーを銅箔等の負極集電体上に塗布し、乾燥し、プレス加工して、負極を得ることができる。
負極電極層の目付は特に制限なく、電池容量等の電池性能、電極層の均一塗布、及び電極層の剥離強度等を考慮すれば、例えば1.5〜20mg/cmが好ましい。
負極電極層の密度は特に制限されず、電池容量等の電池性能、電極層の均一塗布、及び電極層の剥離強度等を考慮すれば、例えば2.0〜3.0mg/cmが好ましい。
【0048】
負極活物質として金属リチウム等を用いる場合、金属リチウム等をそのまま負極として用いることができる。
【0049】
<非水電解質>
非水電解質としては公知のものが使用でき、液状、ゲル状もしくは固体状の非水電解質が使用できる。
例えば、プロピレンカーボネ−トあるいはエチレンカーボネ−ト等の高誘電率カーボネート溶媒と、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジメチルカーボネート等の低粘度カーボネート溶媒との混合溶媒に、リチウム含有電解質を溶解した非水電界液が好ましく用いられる。
【0050】
混合溶媒としては例えば、エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)/エチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒が好ましく用いられる。
リチウム含有電解質としては例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiSiF、LiOSO(2k+1)(k=1〜8の整数)、LiPF{C(2k+1)(6−n)(n=1〜5の整数、k=1〜8の整数)等のリチウム塩、及びこれらの組合わせが挙げられる。
【0051】
過充電時に分解されてプロトンを発生する過充電防止剤としては公知のものが使用でき、例えば、シクロヘキシルベンゼン(CHB)、及びビフェニル(BP)などを1種又は複数種使用できる。
【0052】
<セパレータ>
セパレータは、正極と負極とを電気的に絶縁し、かつリチウムイオンが透過可能な膜であればよく、多孔質高分子フィルムが好ましく使用される。
セパレータとしては例えば、PP(ポリプロピレン)製多孔質フィルム、PE(ポリエチレン)製多孔質フィルム、あるいは、PP(ポリプロピレン)−PE(ポリエチレン)の積層型多孔質フィルム等のポリオレフィン製多孔質フィルムが好ましく用いられる。
【0053】
<外装体>
外装体としては公知のものが使用できる。
二次電池の型としては、円筒型、コイン型、角型、あるいはフィルム型(ラミネート型)等があり、所望の型に合わせて外装体を選定することができる。
【0054】
以上説明したように、本発明によれば、電流遮断機構(CID機構)を備えた非水電解質二次電池に好適なものであり、活物質の比表面積を大きくしなくても過充電時のガス発生量を効果的に増加させることができる非水電解質二次電池用の電極、及びこれを用いた非水電解質二次電池を提供することができる。
【実施例】
【0055】
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
【0056】
<正極の製造>
正極活物質として、下記式で表される3元系のリチウム複合酸化物を用いた。用いた正極活物質の比表面積は、1.3m/gであった。
LiMn1/3Co1/3Ni1/3
【0057】
導電剤であるアセチレンブラック及び黒鉛と、ポリマー結着剤であるPVdFと、分散媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)と、分散剤である微量のアゾ化合物とを配合した導電ペーストを用意した。導電ペーストにおいて、分散剤である微量のアゾ化合物の濃度は、0.2質量%程度であった。
【0058】
PVdFとしては、重量平均分子量Mwの異なる以下の3種類を用意した。
高分子量PVdF♯7300:(株)クレハ社製W♯7300、重量平均分子量Mw約100万、
低分子量PVdF♯1300:(株)クレハ社製W♯1300、重量平均分子量Mw約35万、
低分子量PVdF♯1100:(株)クレハ社製W♯1100、重量平均分子量Mw約28万
【0059】
上記の正極活物質と上記の導電ペーストとを、プラネタリー/ディスパーを用いて混練して、スラリーを得た。
【0060】
上記スラリーを集電体であるアルミニウム箔(厚み12〜15μm)上にドクターブレード法で塗布し、150℃風速5m/secの熱風を用いて30分間乾燥し、プレス機械を用いてプレス加工して、電極層を形成し、正極を得た。正極電極層は、目付31〜33mg/cm、密度2.8g/cm、厚み110〜118μmとした。
【0061】
各例における正極の電極層組成を表1に示す。
【0062】
<負極>
負極活物質として、黒鉛を用いた。
分散媒として水を用い、上記の負極活物質と、結着剤である変性スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(SBR)と、増粘剤であるカルボキシメチルセルロースNa塩(CMC)とを98/1/1(質量比)で混合して、スラリーを得た。
上記スラリーを集電体である銅箔上にドクターブレード法で塗布し、150℃風速5m/secの熱風を用いて30分間乾燥し、プレス機械を用いてプレス加工して、電極層を形成し、負極を得た。負極電極層は、目付16〜18mg/cm、密度1.4g/cm、厚み114〜129μmとした。負極電極層は、集電体の両面に形成した。
【0063】
<セパレータ>
PE(ポリエチレン)製多孔質フィルムからなる市販のセパレータを用意した。
【0064】
<非水電解質>
エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)/エチルメチルカーボネート=3/3/4(体積比)の混合溶液を溶媒とし、電解質としてリチウム塩であるLiPFを1mol/Lの濃度で溶解し、さらに過充電防止剤として2質量%のシクロヘキシルベンゼン(CHB)と2質量%のビフェニル(BP)とを溶解して、非水電界液を調製した。
【0065】
<リチウムイオン二次電池の製造>
上記の正極と負極とセパレータと非水電解液とフィルム外装体を用い、公知方法により、フィルム型(ラミネート型)のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0066】
<正極の電極層用スラリーの固形分率NV>
PVdF分子量と正極の電極層中のPVdF濃度と正極の電極層用スラリーの固形分率NVとの関係を図3に示す。
このデータは、PVdF分子量と正極電極層中のPVdF濃度以外の条件は同一とし、正極電極層用スラリーの粘度を下記条件としたときのデータである。
粘度条件:2s−1のときに10000mPa・s、かつ、40s−1のときに5000mPa・s。
PVdF分子量以外の条件が同一のとき、PVdF分子量を下げると、正極の電極層用スラリーの粘度が下がるので、同粘度条件とするのに、正極の電極層用スラリーの固形分率NVを増加させることができる。
正極の電極層中のPVdF濃度が3質量%のとき、高分子量PVdF♯7300を用いた場合に比較して、低分子量PVdF♯1300を用いた場合、NVを8%向上することができた。
正極の電極層用スラリーのNVの向上は、製造コストの削減等に繋がり、好ましい。
【0067】
上記結果から、比較例1〜3、及び実施例1、2では、正極の電極層用スラリーのNVを68%に決定した。
【0068】
<正極の電極層用スラリーの動粘度>
比較例1及び実施例1において、Anton Paar社製 レオメーターMCR301を用いて、正極の電極層用スラリーの動粘度を測定した。いずれも、正極の電極層用スラリーの固形分率NVは68%とした。
結果を図4に示す。
低分子量PVdF♯1300を用いることで、測定範囲のせん断速度の全領域で、正極の電極層用スラリーの動粘度が低下することが明らかとなった。
正極の電極層用スラリーの粘度低下によって、正極活物質のポリマー結着剤による被覆率が低減すると考えられる。
【0069】
<剥離強度>
各例で得られた正極の電極層について、(株)今田製作所製の引張圧縮試験機SV−201NA−50SLを用いて、塗膜を熱風乾燥する際の乾燥時間と塗膜の剥離強度との関係を測定した。
いずれの例においても、乾燥時間0〜540secの範囲で試験を実施した。
【0070】
いずれの例においても、乾燥初期において剥離強度が大きく増し、その後剥離強度は乾燥時間と共に緩やかに上昇した。
目標乾燥時間は40secとし、乾燥時間40secにおける剥離強度が実用上問題のないレベルである1.5N/m以上であり、かつ、試験中に塗膜に肉眼で見えるひび割れが生じないサンプルを「合格品」と判定した。
【0071】
結果を表2及び図5に示す。図5には、合格品に「○」、不合格品に「×」を表記してある。
高分子量PVdF♯7300を用い、その電極層中の濃度を2.5〜3.0質量%とした比較例1、2に対して、高分子量PVdF♯7300を用い、その電極層中の濃度を2.0質量%に低減した比較例3では、塗膜の剥離強度が小さく、乾燥時間40sec後に塗膜に肉眼でひび割れが見られた。
低分子量PVdF♯1300、あるいは低分子量PVdF♯1100を用い、その電極層中の濃度を3.0質量%とした実施例1、2では、塗膜の剥離強度は高分子量PVdFを用いた比較例1、2よりは小さいものの、乾燥時間40sec後に、1.5N/m以上の剥離強度が実現され、かつ塗膜に肉眼でひび割れも見られず、実用上問題のないレベルであった。
【0072】
<BET比表面積>
各例で得られた正極の電極層について、MOUNTECH社製Macsorb(HM model−1208)を用いて、窒素吸着法によりBET比表面積を求めた。結果を表2及び図7に示す。
高分子量PVdF♯7300を用い、その電極層中の濃度を3.0質量%とした比較例1、高分子量PVdF♯7300を用い、比較例1より電極層中のPVdF濃度を低減した比較例2、3、低分子量PVdF♯1300を用い、比較例1と電極層中のPVdF濃度を同一とした実施例1の順に、BET比表面積が大きくなった。実施例1のBET比表面積は、比較例1の約2倍であった。
高分子量PVdFの濃度を下げるよりも、同じ濃度でも分子量を下げる方が、正極活物質の表面におけるPVdFの被覆率を効果的に低減でき、BET比表面積の増大に有効であると考えられる。
【0073】
<貫通抵抗>
各例で得られた正極の電極層について、水野精密工業(株)社製の膜抵抗測定機を用いて、貫通抵抗を測定した。結果を表2及び図6に示す。
高分子量PVdF♯7300を用い、その電極層中の濃度を3.0質量%とした比較例1、高分子量PVdF♯7300を用い、比較例1より電極層中のPVdF濃度を低減した比較例2、3、低分子量PVdF♯1300あるいは低分子量PVdF♯1100を用い、比較例1と電極層中のPVdF濃度を同一とした実施例1、2の順に、貫通抵抗が小さくなった。実施例1、2の正極の電極層の貫通抵抗は、比較例1の1/4以下であった。
高分子量PVdFの電極層中の濃度を下げるよりも、同じ濃度でも分子量を下げる方が、正極活物質の表面におけるPVdFの被覆率を効果的に低減でき、貫通抵抗の低減に有効であると考えられる。
【0074】
<過充電試験>
得られたリチウムイオン二次電池について、過充電試験を実施した。
25℃、SOC150%、4Cの条件で1回過充電したときのガス発生量を、浮力法(アルキメデス法)で求めた。過充電前後にそれぞれ、フィルム型(ラミネート型)のリチウムイオン二次電池を水中に浸漬させて、浮力から体積を求め、過充電前後の体積変化分をガス発生量として求めた。このガス発生量は、水素ガス発生量とみなせる。
【0075】
結果を表3及び図7に示す。
高分子量PVdF♯7300を用い、その電極層中の濃度を3.0質量%とした比較例1、高分子量PVdF♯7300を用い、比較例1より電極層中のPVdF濃度を低減した比較例2、3、低分子量PVdF♯1300を用い、比較例1と電極層中のPVdF濃度を同一とした実施例1の順に、過充電時のガス発生量が大きくなった。実施例1のガス発生量は、比較例1の約2倍であった。
正極の電極層のBET比表面積と過充電時のガス発生量との間には相関があり、高分子量PVdFの電極層中の濃度を下げるよりも、同じ濃度でも分子量を下げる方が、BET比表面積を効果的に増大でき、過充電時のガス発生量を効果的に増大できた。
【0076】
<サイクル充放電試験>
各例において得られたリチウムイオン二次電池について、60℃、2C、SOC0−100%の条件で、サイクル充放電を1000サイクル実施した。
0〜1000サイクルの間で、随時、容量維持率とIV抵抗(10secIV抵抗)を測定した。
容量維持率は、測定サイクルの放電容量/初期の放電容量から求めた。
IV抵抗は、10secIV抵抗を測定した。具体的には、2Cの放電レートで10秒間放電させ、このときの電圧降下から抵抗値を算出した。
【0077】
実施例1と比較例1におけるサイクル充放電試験における容量維持率の変化を図8に示す。
高分子量PVdF♯7300を用いた比較例1と低分子量PVdF♯1300を用いた実施例1とは、サイクル充放電試験における容量維持率の変化はほぼ同等レベルであった。
低分子量PVdF♯1300を用いた場合、貫通抵抗の低減、及び過充電時のガス発生量の増大等の良い効果が得られ、かつ、サイクル充放電試験における容量維持率の低下は招かず、サイクル充放電試験における電池耐久性の低下は招かないことが示された。
【0078】
サイクル充放電試験におけるIV抵抗の変化を図9に示す。
高分子量PVdF♯7300を用いた比較例1に比較して、低分子量PVdF♯1300を用いた実施例1では、サイクル充放電試験において、0〜1000サイクルの全試験サイクル範囲において、IV抵抗が大きく低減することが示された。
【0079】
高分子量PVdF♯7300を用いた比較例1では、充放電を繰り返すことで、IV抵抗が大きく増大したのに対し、低分子量PVdF♯1300を用いた実施例1では、充放電を繰り返しても、IV抵抗の増加は小さく抑えられた。
【0080】
高分子量PVdF♯7300を用いた比較例1では、初期状態において、正極活物質の表面におけるPVdFの被覆率が大きく、導電剤同士、あるいは導電剤と正極活物質との間にPVdFが多く介在するため、導電パスが少なく、貫通抵抗が高く、IV抵抗が高くなると考えられる。さらに、初期状態のIV抵抗が大きい比較例1では、充放電を繰り返した際の導電パス切れの影響がより大きく現れ、充放電を繰り返すことでIV抵抗が大きく増大したと考えられる。
【0081】
低分子量PVdF♯1300を用いた実施例1では、初期状態において、正極活物質の表面におけるPVdFの被覆率が小さく、導電剤同士、あるいは導電剤と正極活物質との間に介在するPVdFが少ないため、導電パスが多く、貫通抵抗が低く、IV抵抗が低くなると考えられる。さらに、初期状態のIV抵抗が小さい実施例1では、充放電を繰り返した際の導電パス切れの影響がより小さく現れ、充放電を繰り返してもIV抵抗の増加が抑えられたと考えられる。
【0082】
各例における100サイクル後及び1000サイクル後の容量維持率を表3に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の電極は、プラグインハイブリッド車(PHV)あるいは電気自動車(EV)に搭載されるリチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池に好ましく適用できる。
【符号の説明】
【0087】
1 非水電解質二次電池
11 外装体
12 端子
13 電流遮断機構
20 積層体
21 正極
22 負極
23 セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過充電時に酸化分解されてプロトンを発生する添加剤が添加された非水電解質と、電池内圧が所定値以上になると電流を遮断する電流遮断機構とを備えた非水電解質二次電池用であり、集電体上に粒子状の活物質と導電剤とポリマー結着剤とを含む電極層が形成された非水電解質二次電池用の電極であって、
前記ポリマー結着剤の重量平均分子量が20万〜40万である非水電解質二次電池用の電極。
【請求項2】
前記電極層の窒素吸着法によるBET比表面積が4.3m/g以上である請求項1に記載の非水電解質二次電池用の電極。
【請求項3】
前記電極層中の前記ポリマー結着剤の濃度が3.5質量%以下である請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用の電極。
【請求項4】
前記電極層中の前記ポリマー結着剤の濃度が2.5〜3.5質量%である請求項3に記載の非水電解質二次電池用の電極。
【請求項5】
前記ポリマー結着剤がポリフッ化ビニリデンである請求項1〜4のいずれかに記載の非水電解質二次電池用の電極。
【請求項6】
前記活物質の窒素吸着法によるBET比表面積が1.40m/g以下である請求項1〜5のいずれかに記載の非水電解質二次電池用の電極。
【請求項7】
前記活物質の比表面積が0.80〜1.40m/gである請求項6に記載の非水電解質二次電池用の電極。
【請求項8】
正極である請求項1〜7のいずれかに記載の非水電解質二次電池用の電極。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の非水電解質二次電池用の電極を備えた非水電解質二次電池。
【請求項10】
リチウムイオン二次電池である請求項9に記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−109931(P2013−109931A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253232(P2011−253232)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】