説明

非水電解質二次電池用正極活物質

【課題】高い作動電圧を有する非水電解質二次電池を与え、主にナトリウムとニッケルとが含有されてなる非水電解質二次電池用正極活物質を提供する。
【解決手段】主にナトリウムとニッケルと4価の金属とを含有する複合酸化物であって、六方晶の結晶構造を有する複合酸化物からなることを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質。複合酸化物が、Na[Na(1/3-2x/3)Ni(x-y)(2/3-x/3-y)2y]O2(ただし、Mは1種以上の4価の金属であり、Aは1種以上の3価の金属であり、0<x≦0.5であり、0≦y<1/6であり、x>yである。)で示される化合物からなる前記記載の非水電解質二次電池用正極活物質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
ポータブル電子機器用の二次電池として、非水電解質リチウム二次電池が実用化されており、広く用いられている。しかし、その正極活物質としては、資源としての埋蔵量が少なく高価なLiとCoの化合物であるLiCoO2が用いられており、資源として豊富な元素を主に含有する化合物からなる非水電解質二次電池用正極活物質が求められている。
【0003】
そのような状況の中で、資源として豊富な元素であるナトリウムとニッケルの複合酸化物であるNaNiO2が、非水電解質二次電池用正極活物質として提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、NaNiO2を正極活物質として用いてなる非水電解質二次電池は、作動電圧が2.0V程度と低いという問題点があった(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
【非特許文献1】ソリッド・ステート・イオニクス(Solid State Ionics)、エルセヴィアー・サイエンス(Elsevier Science)、2000年、Vol.132,p.131−141
【特許文献1】特開2003−151549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の目的は、高い作動電圧を有する非水電解質二次電池を与え、主にナトリウムとニッケルとが含有されてなる非水電解質二次電池用正極活物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、主にナトリウムとニッケルとが含有されてなる非水電解質二次電池用正極活物質について鋭意検討した結果、六方晶の結晶構造を有し、ナトリウムとニッケルと4価の金属とを含有する複合酸化物を非水電解質二次電池用正極活物質として用いることにより、作動電圧が高い非水電解質二次電池が得られることを見出した。さらに、本発明者は、そのような正極活物質が、ナトリウム化合物とニッケル化合物と4価の金属化合物とを含有する金属化合物混合物を不活性雰囲気中で焼成することにより得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明は、主にナトリウムとニッケルと4価の金属とを含有する複合酸化物であって、六方晶の結晶構造を有する複合酸化物からなることを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質を提供する。また本発明は、ナトリウム化合物とニッケル化合物と4価の金属化合物とを含有する金属化合物混合物を、不活性雰囲気中で焼成することを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の非水電解質二次電池用正極活物質は、作動電圧が高く、二次電池としての特性に優れた非水電解質二次電池を与え、そして、本発明の製造方法によれば、前記本発明の非水電解質二次電池用正極活物質を製造することができるので、本発明は工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の非水電解質二次電池用正極活物質は、主にナトリウムとニッケルと4価の金属とを含有する複合酸化物からなる。
この複合酸化物としては、具体的には、式(1)
Na[Na(1/3-2x/3)Ni(x-y)(2/3-x/3-y)2y]O2 (1)
(ただし、Mは1種以上の4価の金属であり、Aは1種以上の3価の金属であり、x>yである。)で示される化合物が挙げられる。式(1)におけるNa、Ni、MおよびAのモル比は後述の金属化合物混合物におけるそれぞれの金属のモル比を意味する。
【0011】
ここで、Mとしては、4価の金属でSi、Pb、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Re、Ge、Er、Ti、Mn、Sn、Ce、PrおよびTbからなる群より選ばれる1種以上が挙げられ、これらのうち資源的に埋蔵量が豊富であるTi、MnおよびSnからなる群より選ばれる1種以上が特に好ましい。また、Aとしては、3価の金属でAl、Ga、In、Tl、Co、Rh、Sc、V、Cr、Fe、Y、Nb、Mo、Ru、Sb、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ta、Re、Os、Ir、Au、Bi、AcおよびNpからなる群より選ばれる1種以上が挙げられ、これらのうち、放電電圧が高くなる傾向があるので、Al、Ga、Co、V、YおよびLaからなる群より選ばれる1種以上が特に好ましい。上記においてV、Nb、Ta、Re、Ce、Pr、Tb及びErは3価および/または4価の価数をとり得る。いずれの価数をとるかは、合成した複合酸化物の原子価の状態をXPS(X線光電子分光)またはESR(電子スピン共鳴)などで調べることによって定められる。MまたはAとして2種以上の金属を使用した場合は、それぞれの金属の組成比の合計が上記式(1)を満たす。例えば4価金属としてTiとMnの2種を使用し、それぞれの組成比がa及びbである場合、その合計のa+bが上記の式を満たす。
【0012】
xの値は六方晶の結晶構造が維持される0<x≦0.5の範囲で選ぶことができるが、放電容量が高くなる傾向があるので、0.4≦x≦0.5の範囲が好ましい。また、yの値は、0≦y<1/6の範囲が好ましい。さらに、式(1)において、ナトリウム、ニッケル、および4価の金属原子を、Li、K、Ag、Mg、Ca、Sr、Ba、B、Al、Ga、In、Cr、Fe、Cu、Zn、Sc、Y、Nb、Mo、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Ho、Er、Tm、YbおよびLu等で各サイトの50モル%以内の範囲で置換してもよいが、実質的に含まれていない方が、正極活物質は高い作動電圧を有する非水電解質二次電池を与える傾向があるので好ましい。
【0013】
また、結晶構造が変化せず、X線回折において式(1)で表される化合物と同定される化合物であれば、酸素についても、5モル%以内の範囲でハロゲンや硫黄、窒素で置換してもよいが、実質的に含まれていない方が、正極活物質は高い作動電圧を有する非水電解質二次電池を与える傾向があるので好ましい。
【0014】
そして、本発明における複合酸化物は、六方晶の結晶構造を有する。従って、X線回折分析において、面間隔2.20Åに帰属されるピークと面間隔5.36Åに帰属されるピークを有している。これらの面間隔2.20Åに帰属されるピークと面間隔5.36Åに帰属されるピークは、それぞれα−NaFeO2型構造の(104)面および(003)面からの回折ピークに相当する。ただし、この結晶格子の面間隔には、複合酸化物に含まれるNaとNiと4価の金属元素以外の金属元素により、および製造方法等により、若干の変動があり、2.20Åのピークは±0.02Åの幅で変動があるので面間隔は2.20±0.02Åであり、面間隔5.36Åのピークは±0.04Åの幅で変動があるので、面間隔は5.36±0.04Åである。この、面間隔2.20Åに帰属されるピークの強度を、面間隔5.36Åに帰属されるピークの強度で除した値rが1.3以上となる場合に、本発明の正極活物質がより高い作動電圧を有する非水電解質二次電池を与える傾向があるので好ましい。面間隔2.20Åに帰属されるピークの強度を、面間隔5.36Åに帰属されるピークの強度で除した値rを5.0以下にした場合に、六方晶の層状構造が強固になるので好ましく、3.0以下がさらに好ましい。
また、本発明における複合酸化物は、さらに斜方晶の結晶構造を有する場合がある。この斜方晶は、X線回折分析において、面間隔2.09Åに帰属されるピークを有している。ただし、この結晶格子の面間隔には、複合酸化物に含まれるNaとNiと4価の金属元素以外の金属元素により、および製造方法等により、若干の変動があり、2.09Åのピークは±0.02Åの幅で変動があるので面間隔は2.09±0.02Åである。本発明における複合酸化物において、この面間隔2.09Åに帰属されるピークの強度を、前記の面間隔2.20Åに帰属されるピークの強度で除した値sが1以下となることが好ましく、sは0.3以下となることがより好ましく、0.05以下となることがさらにより好ましい。sを上記の範囲とすることで、非水電解質二次電池の充放電容量をより大きくすることができる。
【0015】
次に、本発明の製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、ナトリウム化合物とニッケル化合物と4価の金属化合物とを含有する金属化合物混合物を、不活性雰囲気中で焼成することを特徴とする。
【0016】
ナトリウム化合物、ニッケル化合物、式(1)のMの化合物としては、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、ハロゲン化物等を用いることができ、ナトリウム化合物としてはNa2CO3、Na22が特に好ましく、ニッケル化合物としてはNi(OH)2が特に好ましく、マンガン化合物としてはMnO2が特に好ましく、チタン化合物としてはTiO2が特に好ましく、スズ化合物としてはSnO、SnO2、H2SnO3が特に好ましい。
【0017】
ナトリウム化合物とニッケル化合物と4価の金属化合物とを含有する金属化合物混合物は、金属化合物を所定のモル比となるように秤量し、乾式または湿式混合により混合して得ることができる。乾式混合が簡便であり好ましく、工業的に通常用いられる乳鉢、回転撹拌機、V型混合機、W型混合機、リボン混合機、ドラムミキサー、ボールミル等の装置により混合を行うことができる。
【0018】
得られた金属化合物混合物を焼成することにより、本発明の正極活物質を得ることができるが、不活性雰囲気中で焼成を行なう必要がある。不活性雰囲気としては、具体的には、アルゴン、ヘリウム、ネオン、窒素、二酸化炭素等が挙げられ、アルゴンと窒素が好ましい。この不活性雰囲気中には、1体積%程度までの酸素や水素は含有されてもよいが、水蒸気が多く混入すると、得られる正極活物質が与える非水電解質二次電池の不可逆容量が大きくなる傾向があり、本発明の製造方法における不活性雰囲気の露点は0℃以下が好ましい。
【0019】
焼成の温度は900℃以上1200℃以下の温度範囲が好ましく、さらに好ましくは950℃以上1150℃以下であり、その温度範囲における保持時間は、通常は1時間から80時間である。なお、混合物は、加熱の前にペレット状に圧縮成形してもよい。
【0020】
本発明の製造方法においては、焼成の前に仮焼成を行ってもよい。仮焼成の温度は600℃以上800℃以下の温度範囲が好ましく、より好ましくは650℃以上750℃以下の温度範囲であり、その温度範囲における保持時間は、通常は1時間から30時間である。仮焼成の雰囲気は、不活性雰囲気が好ましい。
【0021】
加熱に用いる炉は、雰囲気置換が可能であることが必要である。真空置換(炉内の雰囲気を真空ポンプを用いて排気した後、所定のガスを炉内に入れる操作のこと。)ができるものが好ましいが、例えば管状炉のように、雰囲気ガスを効率的に流通させられる形式のものであってもよい。
【0022】
本焼成の後、得られた化合物を、振動ミル、ジェットミル、乾式ボールミル等の工業的に通常行なわれる公知の方法によって、所定の粒度に調整することができる。
【0023】
次に、本発明の正極活物質を有してなる非水電解質ナトリウム二次電池について説明する。
本発明者らが見出した本発明の正極活物質を用いて非水電解質ナトリウム二次電池を製造すると、驚くべきことに、その非水電解質ナトリウム二次電池は、作動電圧が高く、放電電圧が放電とともに急速に低下することのない、高い特性を有する非水電解質ナトリウム二次電池となる。
【0024】
まず、本発明の正極活物質を有してなる本発明の非水電解質ナトリウム二次電池の正極は、本発明の正極活物質の他に、さらに導電材としての炭素質材料、バインダーなどを含む正極合剤を正極集電体に担持させて製造することができる。該炭素質材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラックなどが挙げられる。導電材として、それぞれ単独で用いてもよいし、例えば人造黒鉛とカーボンブラックとを混合して用いてもよい。
【0025】
ここで、バインダーとしては通常は熱可塑性樹脂が用いられ、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などが挙げられる。これらをそれぞれ単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
また、正極集電体としては、Al、Ni、ステンレスなどを用いることができるが、薄膜に加工しやすく、安価であるという点でAlが好ましい。正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、加圧成型する方法、または溶媒などを用いてペースト化し、正極集電体上に塗布し乾燥した後プレスするなどして固着する方法が挙げられる。また、必要に応じ、本発明の非水二次電池用活物質以外の活物質を正極に混合してもよい。
【0027】
次に、本発明の非水電解質ナトリウム二次電池の負極としては、例えばナトリウム金属、ナトリウム合金またはナトリウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料などを用いることができる。ナトリウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料としては、炭素質材料、正極よりも低い電位でナトリウムイオンのドープ・脱ドープが行える酸化物、硫化物等のカルコゲン化合物、ホウ酸塩等が挙げられる。
【0028】
ここで、必要に応じてバインダーとして熱可塑性樹脂を負極に加えることができる。熱可塑性樹脂としては、PVDF、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。
【0029】
また、負極集電体としては、Cu、Ni、ステンレスなどを用いることができるが、特にナトリウムと合金を作り難く、かつ薄膜に加工しやすいという点でCuが好ましい。該負極集電体に負極活物質を含む合剤を担持させる方法としては、加圧成型する方法、または溶媒などを用いてペースト化し、負極集電体上に塗布し、乾燥した後プレスするなどして固着させる方法が挙げられる。
【0030】
次に、本発明の非水電解質ナトリウム二次電池で用いるセパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、ナイロン、芳香族アラミドなどの材質からなる多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する材料を用いることができる。該セパレータの厚みは、通常は10〜200μm程度である。
【0031】
次に、本発明の非水電解質ナトリウム二次電池で用いる非水電解質に用いる溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトン、エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、ジメチルサルファイト、ジエチルサルファイトなどの含硫黄化合物、または上記の有機溶媒にさらにフッ素置換基を導入したものを用いることができるが、通常はこれらのうちの二種以上を混合して用いる。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネート、または環状カーボネートとエーテル類の混合溶媒がさらに好ましい。
【0032】
ここで、環状カーボネートと非環状カーボネートの混合溶媒としては、作動温度範囲が広く、負荷特性に優れるという点で、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒が好ましい。溶質としては、例えばNaClO4、NaPF6、NaBF4、NaCF3SO3、NaN(CF3SO22、NaN(C25SO22、NaC(CF3SO23を用いる。溶媒及び溶質の混合比は特に限定されず、目的に応じて適宜設定される。
【0033】
なお、非水電解質として固体電解質を用いてもよく、固体電解質としては、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖もしくはポリオキシアルキレン鎖の少なくとも一種以上を含む高分子化合物などからなる電解質を用いることができる。また、高分子に非水電解質溶液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。また、無機化合物からなる電解質を用いると、安全性を高めることができることがある。
【0034】
次に、本発明の非水二次電池の形状は特に限定されず、ペーパー型、コイン型、円筒型、角型などのいずれであってもよい。
【0035】
また、外装として負極または正極端子を兼ねる金属製ハードケースを用いずに、アルミニウムを含む積層シート等からなる袋状パッケージを用いてもよい。
【0036】
このようにして、本発明の正極活物質を用いて製造された非水電解質二次電池は、高い作動電圧を有しており、さらに、放電電圧が放電とともに急速に低下することのない、放電平坦部の長い非水電解質二次電池となる。ここで、放電平坦部は、放電曲線において、放電開始後に放電初期の電圧低下を過ぎ、電圧が放電の進行とともに大きくは変化しない部分である。この放電平坦部が長いほど充放電容量がより大きい非水電解質二次電池となる傾向にある。
なお、放電平坦部の放電電圧は、正極の面積を基準として0.1mA/cm2以下の電流密度で放電した際の電圧(電流密度が大き過ぎると低く測定されることがある。)であり、例えば、次のような条件で測定することができる。
電解液:プロピレンカーボネート(以下、PCということがある。)にNaClO4を1モル/リットルとなるように溶かしたもの(以下、1M NaClO4/PCと表すことがある。)
負極:金属ナトリウム
放電電流密度:0.1mA/cm2
この放電平坦部の放電電圧が、本発明の正極活物質を用いて製造された非水電解質ナトリウム二次電池においては、2.5V以上となる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
なお、特に断らない限り、充放電試験用の電極と試験電池の作製、粉末X線回折測定は下記の方法により実施した。
【0038】
(1)充放電試験用の試験電池の作製
正極活物質と導電材のアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、50%プレス品)、バインダーのPTFE(ダイキン工業株式会社製、Polyflon TFE F−201L(商品名))を、活物質:導電材:バインダー=70:25:5(重量比)の組成となるように秤量し、まず活物質と導電材をメノウ乳鉢で十分に混合した後、バインダーを加えて引き続き均一になるように混合したものを均一な厚みの正方形になるように成形し、直径1.5cmのコルクボーラーでくり抜いて円形ペレットとした。該ペレットを正極集電体となるチタンエクスパンドメタルに乗せ、メノウ乳棒で軽く押さえた後、ハンドプレスにて十分に圧着し、正極ペレットを得た。
HSセル(宝泉株式会社製)の下側パーツの窪みに、チタンメッシュを下に向けて正極ペレットを置き、電解液として1M NaClO4/PC(富山薬品工業株式会社製、導電率5.42mS/cm)、2枚のポリプロピレン多孔質膜(セルガード株式会社製、セルガード3501(商品名))の間にグラスフィルター(東洋濾紙株式会社製、GA−100(商品名))をはさんだものをセパレータとし、また金属ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)を負極とし、それらを組み合わせて非水電解質二次電池の試験電池(ナトリウム二次電池)を作製した。なお、試験電池の組み立てはアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
【0039】
(2)粉末X線回折測定
測定は、株式会社リガク製RINT2100HLR/PC型を使用し、以下の条件で行った。
X線 :CuKα
電圧−電流 :50kV−300mA
測定角度範囲:2θ=10〜80°
ステップ :0.01°
スキャンスピード:2°/分
【0040】
実施例1
(1)正極活物質の合成
Na2CO3、Ni(OH)2、TiO2をNa、Ni、TiがNaNi0.5Ti0.52の化学量論比となるように秤取した後、メノウ乳鉢でよく混合した。得られた混合物をアルゴン雰囲気中において700℃で12時間保持して仮焼した後、次いで950℃で36時間保持して焼成を行ない、非水電解質二次電池用正極活物質A1を得た。A1の粉末X線回折測定結果を図1に示した。A1は六方晶の結晶構造を有しており、面間隔2.20Åのピーク強度を面間隔5.36Åのピーク強度で除した値は1.5であった。また、面間隔2.09Åのピーク強度を面間隔2.20Åのピーク強度で除した値は0.03であった。
【0041】
(2)ナトリウム二次電池の正極活物質とした場合の充放電性能評価
A1を用いて試験電池を作製し、以下の条件で定電流充放電試験を実施した。
電流密度:0.2mA/cm2
走査電位範囲:1.5V−3.6V
得られた1サイクル目および2サイクル目の充放電曲線を図2に示した。3V(vs.Na/Na+)の放電平坦部が観察された。
【0042】
実施例2
実施例1で得られたA1を用いて実施例1と同様の試験電池を作製し、以下の条件で定電流充放電試験を実施した。
電流密度:0.2mA/cm2
走査電位範囲:1.5V−4.0V
得られた1サイクル目および2サイクル目の充放電曲線を図3に示した。
【0043】
実施例3
実施例1で得られたA1を用いて実施例1と同様の試験電池を作製し、以下の条件で定電流充放電試験を実施した。
電流密度:0.2mA/cm2
走査電位範囲:1.5V−4.2V
得られた1サイクル目および2サイクル目の充放電曲線を図4に示した。
【0044】
実施例4
実施例1で得られたA1を用いて実施例1と同様の試験電池を作製し、以下の条件で定電流充放電試験を実施した。
電流密度:0.2mA/cm2
走査電位範囲:1.5V−4.5V
得られた1サイクル目の充放電曲線を図5に示した。
【0045】
初回充電終止電圧を3.6,3.7,3.8,4.0,4.2,4.5Vと変化させたときの充放電効率を、X軸に初回充電容量、Y軸に初回放電容量でプロットした結果を図6に示す。この結果、3.8V付近から電解液の酸化分解に起因する充放電効率の低下が顕著になり、この1M NaClO4/PC電解液系では3.8V以下でナトリウム二次電池用正極活物質A1の好適なサイクル特性が得られることが明らかになった。
【0046】
実施例5
(1)正極活物質の合成
Na2CO3、Ni(OH)2、TiO2、MnO2をNa、Ni、Ti、MnがNaNi0.5Ti0.375Mn0.1252の化学量論比となるように秤取した後、メノウ乳鉢でよく混合した。得られた混合物をアルゴン雰囲気中において700℃で12時間保持して仮焼した後、次いで950℃で36時間保持して焼成を行ない、非水電解質二次電池用正極活物質A2を得た。A2の粉末X線回折測定結果を図7に示した。A2は六方晶の結晶構造を有しており、面間隔2.20Åのピーク強度を面間隔5.36Åのピーク強度で除した値は1.4であった。また、面間隔2.09Åのピーク強度を面間隔2.20Åのピーク強度で除した値は0.1であった。
(2)ナトリウム二次電池の正極活物質とした場合の充放電性能評価
A2を用いて試験電池を作製し、以下の条件で定電流充放電試験を実施した。
電流密度:0.2mA/cm2
走査電位範囲:1.5V−3.8V
充放電容量はA1に比べて小さいことがわかった。
【0047】
実施例6
(1)正極活物質の合成
Na2CO3、Ni(OH)2、TiO2、MnO2をNa、Ni、Ti、MnがNaNi0.5Ti0.25Mn0.252の化学量論比となるように秤取した後、メノウ乳鉢でよく混合した。得られた混合物をアルゴン雰囲気中において700℃で12時間保持して仮焼した後、次いで950℃で36時間保持して焼成を行ない、非水電解質二次電池用正極活物質A3を得た。A3の粉末X線回折測定結果を図8に示した。A3は六方晶の結晶構造を有しており、面間隔2.20Åのピーク強度を面間隔5.36Åのピーク強度で除した値は1.3であった。A3は六方晶の結晶構造を有しており、面間隔2.20Åのピーク強度を面間隔5.36Åのピーク強度で除した値は1.3であった。また、面間隔2.09Åのピーク強度を面間隔2.20Åのピーク強度で除した値は0.4であった。
(2)ナトリウム二次電池の正極活物質とした場合の充放電性能評価
A3を用いて試験電池を作製し、以下の条件で定電流充放電試験を実施した。
電流密度:0.2mA/cm2
走査電位範囲:1.5V−3.8V
充放電容量はA2に比べて小さいことがわかった。
【0048】
実施例7
(1)正極活物質の合成
Na2CO3、Ni(OH)2、TiO2、MnO2をNa、Ni、Ti、MnがNaNi0.5Ti0.125Mn0.3752の化学量論比となるように秤取した後、メノウ乳鉢でよく混合した。得られた混合物をアルゴン雰囲気中において700℃で12時間保持して仮焼した後、次いで950℃で36時間保持して焼成を行ない、非水電解質二次電池用正極活物質A4を得た。A4の粉末X線回折測定結果を図9に示した。A4は六方晶の結晶構造を有しており、面間隔2.20Åのピーク強度を面間隔5.36Åのピーク強度で除した値は0.97であった。また、面間隔2.09Åのピーク強度を面間隔2.20Åのピーク強度で除した値は1.5であった。
(2)ナトリウム二次電池の正極活物質とした場合の充放電性能評価
A4を用いて試験電池を作製し、以下の条件で定電流充放電試験を実施した。
電流密度:0.2mA/cm2
走査電位範囲:1.5V−3.8V
充放電容量はA3に比べて小さいことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例1における粉末X線回折測定結果を示す図。
【図2】実施例1における充放電曲線を示す図。
【図3】実施例2における充放電曲線を示す図。
【図4】実施例3における充放電曲線を示す図。
【図5】実施例4における充放電曲線を示す図。
【図6】実施例4における初回充電容量と初回放電容量の関係を示す図。
【図7】実施例5における粉末X線回折測定結果を示す図。
【図8】実施例6における粉末X線回折測定結果を示す図。
【図9】実施例7における粉末X線回折測定結果を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主にナトリウムとニッケルと4価の金属とを含有する複合酸化物であって、六方晶の結晶構造を有する複合酸化物からなることを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
複合酸化物が、X線回折分析において、面間隔2.20Åのピークの強度を面間隔5.36Åのピークの強度で除した値が1.3以上5.0以下となる複合酸化物である請求項1記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
複合酸化物が、X線回折分析において、面間隔2.09Åのピークの強度を面間隔2.20Åのピークの強度で除した値が1以下となる複合酸化物である請求項1または2記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
複合酸化物が、Na[Na(1/3-2x/3)Ni(x-y)(2/3-x/3-y)2y]O2(ただし、Mは1種以上の4価の金属であり、Aは1種以上の3価の金属であり、0<x≦0.5であり、0≦y<1/6であり、x>yである。)で示される化合物からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の正極活物質。
【請求項5】
ナトリウム化合物とニッケル化合物と4価の金属の化合物とを含有する金属化合物混合物を、不活性雰囲気中で焼成することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質を用いてなることを特徴とする非水電解質ナトリウム二次電池用正極。
【請求項7】
請求項6に記載の非水電解質ナトリウム二次電池用正極を用いてなることを特徴とする非水電解質ナトリウム二次電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−179473(P2006−179473A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−336722(P2005−336722)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】