説明

非水電解質二次電池用負極および非水電解質二次電池

【課題】電解液の含浸性を良くした非水電解質二次電池用負極および、その負極を備える非水電解質二次電池を提供すること。
【解決手段】黒鉛粒子25及び結着材が溶媒に分散されたペーストが負極集電体21に塗布され、黒鉛粒子25の層面が負極集電体21の面に対して立つような状態になっているものであって、その黒鉛粒子25は、ラマン値を0.5以上とするエッジ面比率の大きいものであり、ラマン値が更に0.5〜0.95の範囲内にあり、且つアスペクト比が1.5〜5.0の範囲内にある非水電解質二次電池用負極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極に対するリチウムイオンの挿入および脱離を良好にするとともに、電解液の含浸性の向上を図った非水電解質二次電池用負極および当該負極を備える非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば非水電解質二次電池であるリチウム二次電池は、負極を構成する負極活物質に難黒鉛化性炭素あるいは黒鉛などの炭素質材料が用いられる。黒鉛は、炭素原子が網目構造を形成し、平面状に広がる層面が多数積層して厚みを増すことで塊状になっている。そうした鱗片状の黒鉛粒子は、黒鉛層状構造の層面と垂直にある結晶端面がエッジ面とわれている。そのエッジ面は反応性が高く、いわゆるリチウム二次電池では充放電時にこのエッジ面からリチウムイオンの挿入と脱離が行われる。
【0003】
ところが黒鉛粒子は、負極形成時に層面が集電体の面と略平行な状態に堆積するため、エッジ面が正極に対して直交方向に配位してしまい、充電時に正極から脱離したリチウムイオンが層間に円滑に挿入できないという問題があった。この点について下記特許文献1には、図6に示すように、黒鉛の磁場配向性を利用して、黒鉛粒子のエッジ面が集電体の面と略平行な状態になる(黒鉛粒子の層面が集電体の面に対して立つ)ようにし、リチウムイオンを負極に対して円滑に挿入および脱離させる方法が記載されている。ここで、図6は、下記特許文献2に記載された、磁場配向を受けた黒鉛粒子の様子を示す模式図である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−197182号公報
【特許文献2】特開2006−083030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非水電解質二次電池は、セパレータを挟んだ正極と負極が捲回されてなる捲回電極体が電池ケース内に収容され、その後に非水系の電解液が注入されて封止される。しかし、電解液は電極に対して極板の直交方向から含浸しやすいが、同方向にはセパレータが重ねられているため、そのセパレータを介した電解液の含浸性が悪くなる。電解液の含浸性が悪い場合には、充放電が繰り返えされることにより電池の容量維持率の低下を招いてしまい、非水系二次電池のサイクル特性が悪くなる。そのため、従来は電極に対して電解液が含浸された状態になるまでに長い時間を要していた。このことは非水電解質二次電池の生産性を損ない、コストアップの一因になっていた。
【0006】
そこで本発明は、かかる課題を解決すべく、特に電解液の含浸性を良くした非水電解質二次電池用負極および、その負極を備える非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る非水電解質二次電池用負極は、黒鉛粒子及び結着材が溶媒に分散されたペーストが負極集電体に塗布され、前記黒鉛粒子の層面が負極集電体の面に対して立つような状態になっているものであり、前記黒鉛粒子は、ラマン値を0.5以上とするエッジ面比率の大きいものであり、ラマン値が更に0.5〜0.95の範囲内にあり、且つアスペクト比が1.5〜5.0の範囲内にあることを特徴とする。
また、本発明に係る非水電解質二次電池用負極は、前記黒鉛粒子が前記負極集電体に塗布したペーストに対して磁場を印加することにより配向されたものであることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る非水電解質二次電池用負極は、前記黒鉛粒子のアスペクト比が2.0〜4.0の範囲内にあることが好ましい。
また、本発明に係る非水電解質二次電池用負極は、前記黒鉛粒子のラマン値が0.7〜0.92の範囲内にあることが好ましい。
更に、本発明に係る非水電解質二次電池用負極は、前記黒鉛粒子のラマン値が0.8〜0.9の範囲内にあることが好ましい。
【0009】
本発明に係る非水電解質二次電池は、前記のいずれかの非水電解質二次電池用負極を使用し、その負極と正極とをセパレータを介して重ねて捲回された捲回電極体が電池ケース内に収容され、密封状態の前記電池ケース内に電解液が注入されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
よって、本発明によれば、所定の初期容量が確保され、負極についてリチウムイオンの受入性のほか、含浸性にも優れたものとなり、特に、これまで電解液を十分に含浸させるのに長時間を要していたが、それよりも短時間で十分に電解液が浸透する水電解質二次電池用負極および、その負極を備える非水電解質二次電池を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】非水電解質二次電池の一つであるリチウムイオン二次電池を示した断面図である。
【図2】リチウムイオン二次電池の捲回電極体を模式的に示した斜視図である。
【図3】磁場配向した黒鉛粒子と負極集電体とを示した概念図であり、実施例の黒鉛粒子をイメージしたものである。
【図4】磁場配向した黒鉛粒子と負極集電体とを示した概念図であり、比較例の黒鉛粒子をイメージしたものである。
【図5】負極板に対する磁場配向の工程を示した図である。
【図6】磁場配向を受けた黒鉛粒子の様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明に係る非水電解質二次電池用負極および非水電解質二次電池について実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図1は、本実施形態の非水電解質二次電池の一例としてリチウムイオン二次電池を示した断面図である。リチウムイオン二次電池1は、電池ケース2の中に捲回電極体10が収容されている。捲回電極体10は、セパレータを挟んだ正極板と負極板が捲回されたものであり、電池ケース2の形状に合わせて扁平形状に押し潰されて変形した状態で入れられている。
【0013】
電池ケース2は、扁平形状をした角型のケース本体3に対して開口部に蓋板4が接合され、内部が密閉状態になっている。リチウムイオン二次電池1は、正極端子5と負極端子6が蓋板4から突設され、その突出部には正極絶縁部材7と負極絶縁部材8がそれぞれ設けられている。正極絶縁部材7および負極絶縁部材8によって蓋板4に対する絶縁が行われる。蓋板4には、電解液を内部に注入するための注液孔4aが形成され、蓋部材9がシーム溶接されている。
【0014】
電池ケース2の内部には、有機溶媒に電解質を溶解させた電解液が注入されている。その有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、1,2−ジメトキシエタン、1,1−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトンなどの非水系溶媒又はこれらを組み合わせた溶媒を用いることができる。
【0015】
また、電解質である塩として、過塩素酸リチウム(LiClO4)やホウフッ化リチウム(LiBF4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、六フッ化砒酸リチウム(LiAsF6)、LiCF3SO3、LiC49SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiIなどのリチウム塩を用いることができる。
【0016】
図2は、リチウムイオン二次電池1の捲回電極体10を模式的に示した斜視図である。捲回電極体10は、前述したように扁平形状に変形されたものであり、図に示すX方向に見た幅方向の一端側に正極端部11が形成され、他端側に負極端部12が形成されている。捲回電極体10は、正極板と負極板およびセパレータを重ね合わせた状態で捲回された際、正極端部11となるように正極板の正極集電体が一端側に露出し、他端側には負極端部12となる負極板の負極集電体が露出している。
【0017】
正極板は、アルミ箔である正極集電体にリチウムイオンを挿入し脱離させることが可能な正極活物質を含む正極用ペーストを塗布したものである。この正極板は、帯状の正極集電体に一端側を除いて正極合剤層が重ねられたものであり、そのため一端側には正極集電体が露出している。正極合剤層は、正極集電体に塗布された正極用ペーストが乾燥して形成されたものであり、正極用ペーストは、正極活物質の他に、導電剤、結着剤、増粘剤を含むものである。正極活物質としては、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn24)、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、LiNi1/3Co1/3Mn1/32などのリチウム複合酸化物などが用いられる。
【0018】
正極用の導電剤としては、カーボン粉末やカーボンファイバーなどのカーボン材料を用いることができる。また、正極用の結着剤は、電解液に不溶性(又は難溶性)であって、正極用ペーストに用いる溶媒に分散するポリマーであると良い。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)などのフッ素系樹脂、酢酸ビニル共重合体、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)、アラビアゴムなどのゴムを用いることができる。または、これらの組み合わせであっても良い。ただし、結着剤は必ずしも上記のポリマーに限定されるものではない。
【0019】
正極用の増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)などのセルロースを用いることができる。但し、増粘剤は、必ずしも上記したセルロースに限定されるものではない。正極用の溶媒としては水が挙げられる。その他に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いても良い。また、その他の低級アルコールや低級ケトンを用いても良い。
【0020】
負極板は、銅箔である負極集電体にリチウムイオンを挿入し脱離させることが可能な負極活物質を含む負極用ペーストを塗布したものである。この負極板も、帯状の負極集電体の一端側を除いて負極合剤層が重ねられたものであり、そのため一端側には負極集電体が露出している。負極合剤層は、負極集電体に塗布された負極用ペーストが乾燥して形成されたものであり、負極用ペーストは、負極活物質の他に、結着剤や増粘剤を含むものである。負極活物質としては、少なくとも一部にグラファイト構造を含む炭素系物質であり、結晶化度の高い黒鉛が用いられる。特に、本実施形態では後述するように黒鉛のアスペクト比とラマン値(R値)に特徴を有する黒鉛粒子が使用される。
【0021】
セパレータは、例えばポリプロピレンあるいはポリエチレンなどのポリオレフィン系の材料からなる多孔質の膜や、セラミック製の不織布などの無機材料よりなる多孔質の膜によって構成されたものである。
【0022】
ところで、負極に関しては、リチウムイオンを円滑に挿入および脱離させるため、本実施形態でも従来と同様に、黒鉛のエッジ面を集電体の面と略平行な状態になる(黒鉛粒子の層面が集電体の面に対して立つ)ように磁場配向が行われる。しかし、前記課題でも示したように、従来の負極ではセパレータとの重なりによって電解液の含浸性が低くかった。そこで、本願発明者は、負極板に対して面内方向からの電解液の浸透を考慮し、黒鉛粒子に着目した負極の構成について検討を行った。特に、黒鉛粒子のアスペクト比とラマン値について様々な値のものを比較し、リチウムイオンの受入性と電解液の含浸性を基に適切な範囲の検討を行った。なお、面内方向とは、負極板の面に平行な方向であり、図2では矢印Xで示す幅方向である。
【0023】
ここで図3及び図4は、磁場配向した黒鉛粒子と負極集電体とを示した概念図であり、いずれも図2のX方向に切断した断面における図である。そして、図3は、実施例の黒鉛粒子をイメージしたものであり、図4は比較例である従来の黒鉛粒子(図6に示すものに相当するもの)をイメージしたものである。
【0024】
リチウム二次電池用の負極は、黒鉛粉末と結着剤が溶媒に分散されたペーストが負極集電体21,201に塗布され、そのペーストに磁場を印加することにより、図3及び図4に示すように黒鉛粒子25,205が配向する。その際、黒鉛粒子25,205は、図6に示すものと同様にエッジ面が上になり正極方向を向いた状態になる。すなわち、エッジ面が負極集電体21,201の面と略平行な状態になるように配位される。
【0025】
ところで、負極活物質として用いる黒鉛粒子25,205の違いはエッジ面比率の大きさにある。本実施形態では、エッジ面比率の大きいものが使用されるのに対し、図4に示す黒鉛粒子205はエッジ面比率が小さい。ラマンスペクトルから得られたラマン値は、黒鉛化度、結晶の配向性に関与するパラメータであり、特に黒鉛粒子のエッジ面の露出度合いを示すパラメータでもある。そのためラマン値が大きいならばエッジ面が多く露出していることになる。そこで、本実施形態で使用する黒鉛粒子25は、前述したようにエッジ面比率が大きいものであるが、それはラマン値が0.5以上のものを指す。
【0026】
本実施形態の負極は、具体的には、負極活物質である黒鉛の他に結着剤と増粘剤の固形分がそれぞれ98:1:1の割合となるように水溶媒で分散されたペーストである。そして、黒鉛粒子には例えばアスペクト比が1.6で、ラマン値が0.87のもの(実施例1)が使用される。なお、黒鉛粒子は表面に低結晶性炭素を被覆するなど、材料表面の改質を行ってもよい。ラマン値は、被覆量を多くすることにより大きくなる一方、被覆量を少なくすることにより小さくなる傾向があるため、こうした性質を利用して値を所定範囲内に設定することができる。また、磁場配向には球形化が小さい方が好ましい。
【0027】
更に、ペーストを作製するための溶媒としては、活物質や結着剤、増粘剤などを溶解又は分散することが可能なものであれば、その種類に制限はなく水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いても良い。例えば、水系溶媒には、水、アルコールなどが用いられる。また、有機系溶媒には、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N−N−ジメチルアミノプロピルアミン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、アセトンなどが用いられる。
【0028】
その他、負極活物質を結着する結着剤としては、電解液や電極製造時に用いる溶媒に対して安定な材料であればよい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、セルロース、ニトロセルロースといった樹脂系高分子や、SBR(スチレン・ブタジエンゴム)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、エチレン・プロピレンゴムといったゴム状高分子のほか、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物などが用いられる。
【0029】
また、増粘剤には、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン及びこれらの塩などが用いられる。
【0030】
続いて、図5は、負極板に対する磁場配向の工程を示した図である。負極板の作製には、黒鉛、結着剤および増粘剤からなるペースト22が不図示のローラを介して銅箔などからなる負極集電体21に塗布される。負極板20は、ペースト22に含まれる溶媒が揮発しない段階で、上下に配置した一対の磁石31,32の間を通過する。例えば、磁石31,32には、磁束密度が0.75Tの磁場を発生させるものが用いられ、その磁石と負極板20との距離を30mmとった状態で磁場配向が行われる。溶媒が揮発していないペースト22内での黒鉛粒子は固化せずに分散しており、層面は不規則な方向を向いている。しかし磁場により、黒鉛粒子25は図3に示すように層面が上下方向の磁力線に沿って配向され、エッジ面が負極集電体21の面と略平行な状態になる。配向の程度は磁場の強さや粘度、或いは黒鉛の結晶性などによって異なる。
【0031】
作製された負極板20は、正極板との間にセパレータを介して重ねられ、更に捲回され扁平形状に変形された捲回電極体10(図2参照)が電池ケースに収容される。そして、封止された電池ケース内に電解液が注入され、捲回電極体10に電解液が浸透する。捲回電極体10に電解液が十分に含浸するにはある程度の時間を要するため、この含浸時間の短縮が電池作製時間の短縮になる。ここで、次の表1は、負極の含浸性について電解液の含浸性のほか、リチウムイオンの受入性について測定結果を示したものである。
【0032】
【表1】

【0033】
含浸性およびリチウムイオンの受入性については、様々なパターンでリチウムイオン二次電池を作製し、その中から代表的なものを表1に示している。表1では、実施例1,2と比較例1〜5の計7タイプのリチウムイオン二次電池について測定結果が示されているが、実施例は、本願発明に属するものを示し、比較例はそうでないものを示している。
【0034】
実施例1は、前述したように、黒鉛粒子がラマン値0.87で、アスペクト比1.6であり、磁場配向を行った負極である。実施例2は、黒鉛粒子がラマン値0.90で、アスペクト比3.2であり、磁場配向を行った負極である。一方、比較例1は、実施例1と同じ黒鉛粒子であり、ラマン値0.87で、アスペクト比1.6であるが、磁場配向を行わずに作製した負極である。
【0035】
比較例2と比較例3は、両者とも黒鉛粒子のラマン測定値が0.25で、アスペクト比が1.1であるが、比較例2は磁場配向を行わずに作製し、比較例3は磁場配向を行って作製した負極である。いずれもラマン測定値が0.5を下回るエッジ面比率が小さいものであり、アスペクト比も実施例1,2に比べて小さい値の黒鉛粒子が使用されている。そして比較例4は、ラマン測定値が0.98のエッジ面比率が非常に大きなものであり、アスペクト比も5.1と実施例1,2に比べて大きな黒鉛粒子が使用されている。更に、比較例5は、ラマン値が0.12とエッジ面比率は小さいが、アスペクト比を5.2と大きくした黒鉛粒子が使用される。
【0036】
こうした条件で作製した各々の負極におけるリチウムイオン二次電池は電池容量が4Ahである。そのリチウムイオン二次電池に対する含浸性の測定は、電解液を注入して8時間静置し、その後に解体して負極の濡れ状態を目視によって確認することで行った。そして、その結果は表1において評価A〜Dで示すように区別した。評価Aは負極の全体が十分濡れている状態であり、評価Bは十分ではないが全体が濡れている状態、評価Cは図2に示す負極板の幅方向(X方向)の中央部分が濡れていない状態、そして、評価Dはほぼ濡れていない状態である。
【0037】
また、リチウムイオンの受入性については容量維持率を求めた。そこでは先ず、初期容量について測定を行った。初期容量測定は、1Cレートの電流値で電圧が4.2Vになるまで充電し(定電流充電)、その後、その電圧を一定に保ちつつ電流値を1Cから0.01Cまで徐々に小さくしながら充電を行った(定電圧充電)。5分間の休止の後、1Cレートの電流値で電圧が2.5Vになるまで放電し(定電流放電)、その後、その電圧を一定に保ちつつ電流値を1Cから0.01Cまで徐々に小さくしながら放電を行った(定電圧放電)。このときの放電容量の測定値を初期容量とした。
【0038】
そして、容量維持率の測定は、初期容量を確認した後、0℃パルスサイクルを行った。すなわち、0℃環境下において、充電状態の電池をSOC(充電状態)50%に調整し、10秒を単位時間として20Cパルスで充放電を50000回行った。その後、前述した初期容量確認と同様の方法で得られた充放電容量の測定値をパルス後容量とした。こうして求めたパルス後容量を初期容量で除し、百分率で表した値を容量維持率として算出した。各リチウムイオン二次電池について、以上のような初期容量および容量維持率の測定結果は表1に示す通りである。
【0039】
表1の結果から見て、先ずエッジ面比率が小さい比較例5は、負極がほぼ濡れていない状態の評価Dであった。従って、図4に示した従来例では含浸性が極めて低く、電解液を注入した後8時間では不十分であり、更に長い時間静置させておかなければならないことが分かる。一方、エッジ面比率が大きい黒鉛粒子であっても、比較例2のようにアスペクト比が小さいものは含浸性が良いとはいえない結果となった。すなわち、電解液を注入した後に比較的長い時間静置する必要があるものであることが分かる。これらに対してエッジ面比率が大きく、且つアスペクト比が大きい黒鉛粒子を使用した実施例1,2や比較例4は含浸性が高かった。
【0040】
以上のことから次のようなことがいえる。すなわち、比較例5の結果からはエッジ面比率が小さい場合には含浸性が低いため、負極活物質にはエッジ面比率が大きい黒鉛粒子を使用することが好ましい。これは、図4に示すエッジ面比率が小さい黒鉛粒子205では、X方向つまり負極板の面内方向からの電解液の浸透が悪いのに対し、図3に示すエッジ面比率が大きい黒鉛粒子25では、X方向からの電解液の浸透が良好であったと考えられる。ただし、エッジ面比率が大きい比較例2であってもアスペクト比が小さい場合、つまり球形化が進んだ黒鉛粒子も含浸性は低い。従って、エッジ面比率が大きいだけでは不十分であり、所定の大きさのアスペクト比であることが求められる。
【0041】
しかしその一方で、エッジ面比率とアスペクト比がともに大きい比較例4は、含浸性の結果は良かったものの初期容量の値が低かった。これは、エッジ面が多くなることによって固定化されるリチウムイオンの量が増え、それに伴い負極の表面に形成される固体電解質被膜(SEI)も増えてしまうからである。従って、エッジ面比率が大きい黒鉛粒子においてアスペクト比が極端に大きい場合には、含浸性を高める一方で初期容量を低下させてしまう。そこで、検討の結果、初期容量を低下させずに含浸性を高めるには、エッジ面比率が大きい黒鉛粒子であり、そのアスペクト比が1.5〜5.0の範囲内のものが効果的であり、更にアスペクト比2.0〜4.0の範囲内のものが特に良かった。
【0042】
次に、ラマン値は、その値が小さい比較例2,3では容量維持率の値が低かった。ラマン値が小さい場合は、黒鉛粒子が結晶化しすぎしまい、エッジ面が少なく充放電に伴ってリチウムイオンが層間に入り込み難くなって受入性が低下してしまう。一方、ラマン値が大きい比較例4の場合は、黒鉛粒子表面の結晶性が低下、すなわち結晶層が乱れてしまい、リチウムイオンが脱挿入し難くなる。そのため、不可逆容量が増加することによりリチウムイオン二次電池の初期容量が低下してしまう。そこで、検討の結果、初期容量を低下させずにリチウムイオンの受入性を高める黒鉛粒子としては、そのラマン値が0.5〜0.95の範囲内のものが効果的であり、またラマン値0.7〜0.92の範囲内のものが好ましく、更にはラマン値0.8〜0.9の範囲内のものが特に良かった。
【0043】
よって、以上のことから、負極活物質に使用する黒鉛粒子は、そのアスペクト比が1.5〜5.0の範囲内、より好ましくは2.0〜4.0の範囲内のものとし、且つエッジ面比率が大きいもの、つまりラマン値が0.5以上であり、更にラマン値の範囲がラマン値0.5〜0.95、好ましくは0.7〜0.92、更に好ましくは0.8〜0.9の範囲内のものとし、こうした黒鉛粒子の負極活物質と結着剤および増粘剤からなるペーストを負極集電体に塗布して磁場配向した負極を作製する。
【0044】
そして、こうした負極を用いたリチウムイオン二次電池によれば、所定の初期容量が確保され、負極についてリチウムイオンの受入性のほか、含浸性にも優れたものとなる。これまでは電解液を十分に含浸させるのに12時間或いは24時間程度を要していたが、それを含浸性に優れた本実施形態の負極では8時間程度で十分に電解液が浸透するため、大幅な時間短縮になり、リチウムイオン二次電池の生産性向上が可能になった。
【0045】
以上、本発明に係る非水電解質二次電池用負極および非水電解質二次電池について実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されることなくその趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 リチウムイオン二次電池
2 電池ケース
5 正極端子
6 負極端子
10 捲回電極体
11 正極端部
12 負極端部
21 負極集電体
22 ペースト
25 黒鉛粒子
31,32 磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛粒子及び結着材が溶媒に分散されたペーストが負極集電体に塗布され、前記黒鉛粒子の層面が負極集電体の面に対して立つような状態になっている非水電解質二次電池用負極において、
前記黒鉛粒子は、ラマン値を0.5以上とするエッジ面比率の大きいものであり、ラマン値が更に0.5〜0.95の範囲内にあり、且つアスペクト比が1.5〜5.0の範囲内にあることを特徴とする非水電解質二次電池用負極。
【請求項2】
請求項1に記載する非水電解質二次電池用負極において、
前記黒鉛粒子は、前記負極集電体に塗布したペーストに対して磁場を印加することにより配向されたものであることを特徴とする非水電解質二次電池用負極。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する非水電解質二次電池用負極において、
前記黒鉛粒子は、そのアスペクト比が2.0〜4.0の範囲内にあることを特徴非水電解質二次電池用負極。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載する非水電解質二次電池用負極において、
前記黒鉛粒子は、そのラマン値が0.7〜0.92の範囲内にあることを特徴非水電解質二次電池用負極。
【請求項5】
請求項4に記載する非水電解質二次電池用負極において、
前記黒鉛粒子は、そのラマン値が0.8〜0.9の範囲内にあることを特徴非水電解質二次電池用負極。
【請求項6】
前記請求項1乃至請求項5のいずれかに記載する非水電解質二次電池用負極を使用し、その負極と正極とをセパレータを介して重ねて捲回された捲回電極体が電池ケース内に収容され、密封状態の前記電池ケース内に電解液が注入されたものであることを特徴とする非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−105666(P2013−105666A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249868(P2011−249868)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】